[第1実施形態]
第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態の画像表示システム1を示す図である。この画像表示システム1は、画像を立体的に視認(視認)可能な3D表示システムであり、プロジェクター2及び分離メガネ3を備える。
プロジェクター2は、例えばDVDプレイヤー、PCなどの信号源から供給される画像データに従って画像を形成し、形成した画像をスクリーンや壁などの投写面SC(表示画面)に投写する。この信号源とスクリーンの一方または双方は、画像表示システム1の一部であってもよいし、画像表示システム1の外部の装置であってもよい。
プロジェクター2は、画像を2次元的に表現する2Dモードと、画像を3次元的に表現する3Dモードとを切り替え可能である。3Dモードにおいて、プロジェクター2は、左右の眼の視差が加味された1対の視差画像の情報を含む画像データを信号源から供給されて、この画像データに従って視差画像を投写する。プロジェクター2は、一対の視差画像のうちの第1視点V1用の第1画像として右眼用画像を形成し、続いて第2視点V2用の第2画像である左眼用画像を形成する。これにより、右眼用画像と左眼用画像は、時間順次で交互に投写される。
本実施形態のプロジェクター2は、いわゆる3板式のプロジェクターである。このプロジェクター2は、各色の画像をライトバルブなどで形成した後に、3色の画像を空間的に重畳すること、あるいは視認者が各色の画像を区別できない程度のリフレッシュレートで3色の画像を時間順次で投写することで、フルカラーの画像を表現可能である。
分離メガネ3は、例えば、各視点用の液晶シャッターが設けられたシャッターメガネである。分離メガネ3は、右眼用画像を視認者(鑑賞者、ユーザー)の右眼(第1視点V1)に振り分け、左眼用画像を視認者の左眼(第2視点V2)に振り分ける。このようにして、視認者は、1対の視差画像のうちほぼ左眼用画像のみを左眼で視認し、1対の視差画像のうちほぼ右眼用画像のみを右眼で視認することになり、プロジェクター2が投写した画像を立体的に感じることができる。
次に、画像表示システム1の各部について、より詳しく説明する。
図1のプロジェクター2は、光源4、照明光学系5、画像形成部6、ダイクロイックプリズム7、複屈折性基材8、投写部9、及び制御部10を備える。プロジェクター2は、光源4からの光(以下、光源光という)を、照明光学系5を介して画像形成部6に照射し、この光を画像形成部6が変調することで画像を形成する。投写部9は、いわゆる投写レンズであり、画像形成部6が形成した画像を投写する。制御部10は、外部からの画像データの入力、ユーザーからの操作を受けて、画像表示システム1の各部を制御する。
光源4は、超高圧水銀ランプ(UHP)などのランプ光源またはLEDなどの固体光源を含み、赤緑青の波長帯を含む光源光(例えば白色光)を発する。赤色光は、例えば、波長が700nmの光を含み、その波長帯が590nm以上780nm未満である。緑色光は、例えば、波長が546.1nmの光を含み、その波長帯が500nm以上590nm未満である。青色光は、例えば波長が435.8nmの光を含み、その波長帯が430nm以上500nm未満である。
照明光学系5は、光源4からの光源光で画像形成部6(照明領域)を照明する。照明光学系5は、照明領域での照度を均一化する均一化光学系11と、光源4からの光から3色の色光(赤色光、緑色光、青色光)を分離する色分離光学系12とを含む。
均一化光学系11は、例えばフライアイレンズで光源光を空間的に分割して、分割された光束ごとに複数の光源像を形成し、複数の光源像からの光束を照明領域(画像形成部6)で重畳する。均一化光学系11は、ロッドインテグレータなどで照度を均一化する構成でもよい。
ここでは、均一化光学系11に、光源4から光の偏光状態を揃える偏光変換素子が設けられており、均一化光学系11から出射する光は、その偏光状態がほぼ直線偏光に揃えられる。以下の説明においては、適宜、投写面SC上の第1方向(例えばZ軸方向)の偏光成分(第1偏光)を垂直偏光成分と称し、投写面SC上で第1方向と直交する第2方向(例えばX軸方向)の偏光成分(第2偏光)を水平偏光成分と称する。均一化光学系11から出射する際の光の偏光状態は、偏光変換素子によって、例えば水平偏光成分に揃えられる。
色分離光学系12は、ダイクロイックミラー13a、ダイクロイックミラー13b、折り曲げミラー14、及びリレー光学系15を備える。ダイクロイックミラー13aは、赤色光が通過し、緑色光及び青色光が反射する特性を有する。ダイクロイックミラー13bは、緑色光が反射し、青色光が通過する特性を有する。
均一化光学系11からの光源光のうちの赤色光は、ダイクロイックミラー13aを通過した後に、折り曲げミラー14で反射して画像形成部6に入射する。なお、上述した水平偏光成分は、ダイクロイックミラー13aに対するP偏光に相当し、垂直偏光成分は、ダイクロイックミラー13aに対するS偏光に相当する。
均一化光学系11からの光源光のうちの緑色光は、ダイクロイックミラー13aで反射した後に、ダイクロイックミラー13bで反射して画像形成部6に入射する。均一化光学系11からの光源光のうちの青色光は、ダイクロイックミラー13aで反射してダイクロイックミラー13bを通過した後に、リレー光学系15を通って画像形成部6に入射する。リレー光学系15とダイクロイックミラー13bとの間の光路には、照度がほぼ均一になる面(赤、緑の照明領域と共役な面)が均一化光学系11によって形成され、リレー光学系15は、この面と青の照明領域とを共役にする。以上のように、色分離光学系12は、各色光を分離する他に、分離した各色光を画像形成部6に導く導光部としても機能する。
画像形成部6は、各色の画像を形成する第1画像形成部6a、第2画像形成部6b、及び第3画像形成部6cを含む。ここでは、説明の便宜上、第1画像形成部6aが第1色画像である赤色画像を形成し、第2画像形成部6bが第2色画像である緑色画像、第3画像形成部6cが第3色画像である青色画像をそれぞれ形成するものとする。
第1画像形成部6aは、例えばノーマリーブラック型の液晶ライトバルブを含み、形成した赤色画像を示す光(画像光)を射出する。本実施形態において、第1画像形成部6aは、透過型の液晶パネル16と、液晶パネル16の入射側に設けられた偏光板17aと、液晶パネル16の出射側に設けられた偏光板17bとを含む。
照明光学系5から第1画像形成部6aに入射する赤色光は、偏光変換素子によって概ね水平偏光成分に揃えられており、入射側の偏光板17aは、水平偏光成分を通すとともに垂直偏光成分を遮光する。液晶パネル16は、光変調器駆動部18(ドライバー)によって駆動され、色分離光学系12から入射した赤色光(水平偏光成分)を画像データに応じて変調する。出射側の偏光板17bは、例えば、その透過軸が入射側の偏光板17aの透過軸と直交して配置され、垂直偏光成分を通すとともに水平偏光成分を遮光する。第1画像形成部6aにおいて、赤色画像を示す赤色光は、垂直偏光成分となって出射側の偏光板17bを通り、ダイクロイックプリズム7に入射する。
第2画像形成部6bは、光変調器駆動部18によって駆動され、色分離光学系12から入射した緑色光を画像データに応じて変調することで、緑色画像を形成する。第2画像形成部6bから射出される緑色の画像光は、第1画像形成部6aから射出される赤色の画像光と偏光状態が異なり、概ね水平偏光成分である。
本実施形態において、第2画像形成部6bは、透過型の液晶パネル19と、液晶パネル19の入射側に設けられた位相板20と、位相板20から液晶パネル19に至る光路に配置された偏光板21a、液晶パネル16の出射側に設けられた偏光板21bとを含む。
照明光学系5から第2画像形成部6bに入射する緑色光は、偏光変換素子によって概ね水平偏光成分に変換されている。位相板20は、いわゆる1/2波長板であり、照明光学系5からの水平偏光成分を垂直偏光成分に変換する。偏光板21aには位相板20から概ね垂直偏光成分の緑色光が入射し、偏光板21aは、垂直偏光成分を通すとともに水平偏光成分を遮光する。
液晶パネル19は、光変調器駆動部18によって駆動され、色分離光学系12から偏光板21aを介して入射した緑色光(概ね垂直偏光成分)を画像データに応じて変調する。出射側の偏光板21bは、例えば、その透過軸が入射側の偏光板21aの透過軸と直交して配置され、水平偏光成分を通すとともに垂直偏光成分を遮光する。第2画像形成部6bにおいて、緑色画像を示す緑色光は、水平偏光成分となって出射側の偏光板21bを通り、ダイクロイックプリズム7に入射する。
第3画像形成部6cは、第1画像形成部6aとほぼ同様の構成である。第3画像形成部6cは、光変調器駆動部18によって駆動され、色分離光学系12から入射した青色光を画像データに応じて変調することで青色画像を形成し、形成した青色画像を示す画像光を射出する。第3画像形成部6cから出射する際の画像光は、第1画像形成部6aと同様にほぼ垂直偏光成分であり、ダイクロイックプリズム7に入射する。
図2は、ダイクロイックプリズム7及び複屈折性基材8を示す図である。ダイクロイックプリズム7は、画像形成部6から出射した画像光を投写部9に導く導光部である。ダイクロイックプリズム7は、入射光の波長に応じて入射光が反射又は透過する特性の波長分離膜22a及び波長分離膜22bを含み、波長分離膜22a及び波長分離膜22bは、互いに直交するように配置されている。波長分離膜22aは、青色光と緑色光とが透過するとともに赤色光が反射する特性である。ダイクロイックプリズム7のもう一つの波長分離膜22bは、緑色光と赤色光とが透過するとともに青色光が反射する特性である。
画像形成部6からダイクロイックプリズム7に入射した各色光は、波長分離膜22a及び波長分離膜22bでの反射又は透過により、進行方向が揃ってダイクロイックプリズム7から出射する。換言すると、ダイクロイックプリズム7は、画像形成部6からの3色の画像光が同じ光路を通るように光路を調整する、光路調整部材である。例えば、画像形成部6において、赤色画像、緑色画像、及び青色画像がほぼ同時に形成される場合に、ダイクロイックプリズム7は、これら3色の画像を合成する色合成部として機能する。
ここで、ダイクロイックプリズム7に入射する際の各色光の偏光状態は、赤色光Lrが概ね垂直偏光成分(図2に符号Pv1で示す)であり、緑色光Lgが概ね水平偏光成分(図2に符号Phで示す)、青色光Lbが概ね垂直偏光成分(図2に符号Pv2で示す)である。ダイクロイックプリズム7は、入射光の偏光状態をほとんど変化させないので、ダイクロイックプリズム7から出射する画像光Liは、垂直偏光成分(赤色光Lr、青色光Lb)及び水平偏光成分(緑色光Lg)を含むことになる。この画像光Liは、複屈折性基材8に入射する。
複屈折性基材8は、複屈折性を有する光学部材であり、例えば水晶、サファイア、及び方解石の少なくとも1つを含む。複屈折性基材8は進相軸8aを含む面内での屈折率n1と、遅相軸8bを含む面内での屈折率n2とが異なる。進相軸8aと遅相軸8bは、互いに直交しており、それぞれ垂直偏光成分の偏光方向と水平偏光成分の偏光方向のいずれとも異なる方向に設定される。
例えば、進相軸8aは、垂直偏光成分の偏光方向に対して第1回転方向(例えば+Y側から見て時計回り)に約45°の角度をなす方向に設定され、水平偏光成分の偏光方向に対して第1回転方向とは逆の第2回転方向(例えば+Y側から見て反時計回り)に約45°の角度をなす方向に設定される。また、遅相軸8bは、垂直偏光成分の偏光方向に対して例えば+Y側から見て反時計回りに約45°の角度をなす方向に設定され、水平偏光成分の偏光方向に対して例えば+Y側から見て時計回りに約45°の角度をなす方向に設定される。
複屈折性基材8は、画像形成部6からの画像光Liに、リタデーション値Rに応じた位相差を付与する。リタデーション値Rは、進相軸8aに対応する屈折率n1、遅相軸8bに対する屈折率n2、進相軸8a及び遅相軸8bのそれぞれに直交する方向(例えばY軸方向)の複屈折性基材8の平均寸法(厚みd)を用いて、下記の式(1)であらわされる。
R=(n1−n2)×d ・・・(1)
また、複屈折性基材8が付与する位相差δは、リタデーション値R、入射光の波長λ、円周率πを用いて下記の式(2)で表される。式(2)に示すように、位相差δは波長の関数であり、複屈折性基材8に入射した画像光Liには、各波長成分ごとに波長に応じた位相差が付与される。
δ=2π×R/λ ・・・(2)
図1の説明に戻り、複屈折性基材8を通った画像光Liは、投写部9を介して投写面SCに投射され、これにより投写面SCに画像が表示される。投写面SC上の各点で反射散乱した光の少なくとも一部(以下、視認光Lvという)は、分離メガネ3に入射する。
分離メガネ3は、第1視点V1(例えば右眼)に向かう視認光Lvが入射する右眼部3aと、第2視点(例えば左眼)に向かう視認光Lvが入射する左眼部3bとを備える。右眼部3aと左眼部3bは、それぞれ、液晶パネルと、この液晶パネルの入射側に配置された入射側偏光板と、この液晶パネルの出射側に配置された出射側偏光板とを備える。この入射側偏光板は、投写部9から投写面SCを経由して視点に向かう光の光路に配置され、第1偏光(垂直偏光成分)を通すとともに第2偏光(水平偏光成分)を遮光する偏光板である。
右眼部3aと左眼部3bのそれぞれは、その液晶パネルが制御部10により制御されることで、入射してくる視認光Lvを通過させる通過状態と視認光Lvを遮光する遮光状態とを時間的に切り替える。例えば、制御部10は、画像形成部6を制御することで右眼用画像を形成させ、右眼用画像が形成されている間に右眼部3aを通過状態、左眼部3bを遮光状態に制御する。また、制御部10は、画像形成部6を制御することで左眼用画像を形成させ、左眼用画像が形成されている間に左眼部3bを通過状態、右眼部3aを遮光状態に制御する。結果として、視認者は、視差画像のうち左眼用画像のみを左眼で視認し、視差画像のうち右眼用画像のみを右眼で視認することができ、画像を立体的に認識することができる。
ところで、投写型の画像表示装置(画像表示システム)にあっては、投写面に入射する際の画像光の偏光状態が色によって異なっていると、視認者が視認する画像(視認画像)のカラーバランスの崩れ(元画像の再現性の低下)、色むらなどの不都合が発生することがありえる。次に、このような不都合が発生する理由について説明する。
図3は、投写面が及ぼす視認光のスペクトルへの影響を説明するための図である。図3において、スペクトルSp1は、投写面に入射する際の画像光のうちの垂直偏光成分のスペクトルを示し、スペクトルSp2は、投写面に入射する際の画像光のうちの水平偏光成分のスペクトルを示す。ここでは、説明の便宜上、赤と青の波長帯の光がほぼ垂直偏光成分であり、緑の波長帯の光がほぼ水平偏光成分であるとする。すなわち、画像データに規定された元画像に相当するスペクトルは、スペクトルSp1とスペクトルSp2の和になり、図3の例において、元画像の色座標は(0.31,0.36)になる。
まず、投写面がマットスクリーンのように散乱性である場合を想定する。説明の便宜上、投写面は、垂直偏光成分と水平偏光成分の散乱の比が1:0.8のスクリーンであるものとし、この投写面で画像光の垂直偏光成分が100%散乱するものとする。この場合に、画像光の水平偏光成分は、その80%が投写面で散乱し、残りの20%が投写面で正反射する。スペクトルSp3は、このような投写面を経由して視点に向かう視認光のうち画像光の水平偏光成分に由来する光のスペクトルを示す。なお、この視点は、プロジェクターからの光が投写面で正反射して向かう位置とは、別の位置であり、スペクトルSp3は、この様な視点から投写面を、偏光板を介することなく視認したときの緑の波長帯のスペクトルに対応する。
図3の例において、視認光のうち緑の波長帯の光に対応するスペクトルSp3は、画像光のうち緑の波長帯の光に対応するスペクトルSp2に対して光強度が80%程度になる。視認者が視認する画像(視認画像)のスペクトルは、スペクトルSp1とスペクトルSp3との和になり、視認画像の色座標は(0.30,033)になる。すなわち、視認画像は、色座標が(0.31,0.36)の元画像に対してマゼンダに近くなり、元画像から色味が変化してしまう。
次に、投写面がシルバースクリーンなどの反射性の(ゲインが高い)投写面である場合を想定する。ここでは、投写面上の画像を、シャッター眼鏡の偏光板(入射側偏光板)を介して視認するものとし、シャッター眼鏡の入射側偏光板の透過軸が垂直偏光成分の偏光方向とほぼ平行、すなわち入射側偏光板の遮光軸が水平偏光成分の偏光方向とほぼ平行であるものとする。このような条件において、例えば図3に示したスペクトルSp1およびスペクトルSp2のような画像光は、そのうちの水平偏光成分(スペクトルSp2)のほとんどがシャッター眼鏡で遮光されることになる。結果として、視認者は、視認光のうちスペクトルSp1の光のみに由来する画像を視認することになり、視認画像の色座標は(0.29,0.13)になる。このような条件においても、視認画像は、元画像から色味が変化してしまう。
上述の色味の変化を抑制するには、投写面に入射する際の画像光を無偏光にすればよく、画像光を無偏光にするには、例えば、複屈折性を有する光学部材(複屈折性基材)を、画像形成部と投写面との間の光路に配置すればよい。
図4は、複屈折性基材のクロスニコル透過率Tcの波長依存性の一例を示す図である。図4の例において、複屈折性基材は、ほぼ平板状の水晶であり、その厚みが約0.5mmである。図4の縦軸に示すクロスニコル透過率Tcは、複屈折性基材の入射側と出射側とに互いに透過軸が直交(クロスニコル)するように偏光板を配置した場合の透過率である。この透過率は、入射側の偏光板を通った際の各波長の光の強度に対する、出射側の偏光板から出射した際の各波長光の強度を規格化した値である。図4の例において、複屈折性基材は、可視光(例えば、可視光のうち最も長波長の赤色光)に付与する位相差δが2πよりも大きいものである。
ここで、クロスニコル配置の入射側の偏光板を通る偏光を第1直線偏光、出射側の偏光板を通る偏光を第2直線偏光とする。クロスニコル透過率Tcが100%の波長(例えば約550nm)においては、クロスニコル配置の出射側の偏光板に第2直線偏光が入射することを示しており、この波長の光には、複屈折性基材によってπ/2の位相差が付与されていることになる。
また、クロスニコル透過率が0%の波長(例えば約450nm)においては、クロスニコル配置の出射側の偏光板に第1直線偏光が入射することを示しており、この波長の光には複屈折性基材によってπの位相差が付与されていることになる。
また、クロスニコル透過率が50%の波長(例えば約500nm)においては、クロスニコル配置の出射側の偏光板に円偏光が入射することを示しており、この波長の光には、複屈折性基材によってπ/4の位相差が付与されていることになる。
図5は、複屈折性基材を通った後に投写面を経由した光のスペクトルの一例を示す図である。ここで、複屈折性基材に入射する際の光(画像光)のスペクトルは、図3に示したスペクトルSp1及びスペクトルSp2の和であり、投写面は、図3と同様の散乱性のスクリーンである。また、複屈折性基材の複屈折性は、図4に示した例とほぼ同じである。図5において、スペクトルSp4は、投写面を経由した視認光のうち垂直偏光成分に対応するスペクトルであり、スペクトルSp5は、投写面を経由した視認光のうち水平偏光成分に対応するスペクトルである。
図5に示すように、画像光のうちの垂直偏光成分(図3のスペクトルSp1)は、複屈折性基材を通ることで各波長における偏光状態が変化し、その少なくとも一部が水平偏光成分に変化する。同様に、画像光のうちの水平偏光成分(図3のスペクトルSp2)は、その少なくとも一部が垂直偏光成分に変化する。結果として、投写面に入射する際の画像光は、各色光の波長帯域において垂直偏光成分および水平偏光成分を含むことになり、投写面で散乱した光(視認光)の光強度が特定の色に偏ることが抑制される。
このように、投写面に入射する際の画像光の偏光状態を調整することで、カラーバランスの崩れや色むらの発生を抑制できる。しかしながら、シャッター方式の3D表示方式などにおいて、画像光が無偏光に近い状態であるほど、シャッター眼鏡(分離メガネ3)の入射側偏光板で遮光される光の光量が50%に近づくことになり、光の利用効率が低下してしまう。結果として、視認画像が暗くなり、視認画像の品質が低下することがありえる。
そこで、本実施形態の画像表示システム1は、複屈折性基材8のリタデーション値が所定の条件を満たすことで、カラーバランスの崩れや色むらの発生を抑制しつつ、明るい画像を表示可能にしたものである。以下、その原理について説明する。
式(1)に示したように、水晶の厚み(d)が増すほど水晶のリタデーション値(R)が増加し、これに伴って、各波長の光に付与される位相差(δ)も増加する。すなわち、水晶の厚み(d)が増すほど、図4に示したクロスニコル透過率Tcが極大となる波長の間隔が狭くなり、クロスニコル透過率Tcが極大となる波長がシフトする。
本願発明者は、画像形成部6から出射する際の画像光のスペクトル(図3参照)において、光強度が極大となる波長、光強度が極小となる波長があることに着目し、画像光のうち光強度が相対的に大きい波長とクロスニコル透過率Tcが極大となる波長とを合わせることで、分離メガネ3での光のロスを低減できることを見出した。本実施形態の画像表示システム1は、複屈折性基材8のリタデーション値(厚み)が所定の条件を満たすことにより、画像光を無偏光にするよりも明るい画像を表現可能にする。
図6は、視点に至る光のスペクトルの一例を示す図である。図6のスペクトルSp6、スペクトルSp7は、それぞれ、複屈折性基材として水晶を用いた場合に分離メガネ3を通る光のスペクトルであり、水晶の厚みが互いに異なっている。スペクトルSp6は水晶の厚みが0.5mmである場合のスペクトルであり、スペクトルSp7は水晶の厚みが1.0mmである場合のスペクトルである。
図6の例において、複屈折性基材に入射する際の画像光のスペクトルは、図3のスペクトルSp1およびスペクトルSp2とほぼ同じであり、投写面は図3で説明した散乱性のスクリーンとほぼ同じである。図6のように、複屈折性基材のリタデーション値の違いによって、視点に到達する光のスペクトルが変化することが確認された。
図7は、視点に至る光のスペクトルの他の例を示す図である。図7のスペクトルSp8は、厚みが0.47mmの水晶を複屈折性基材に用いた場合に、分離メガネ3を通る光(視点に到達する光)のスペクトルである。図7には、水晶の厚み(リタデーション値)の違いによるスペクトルの比較のために、図6のスペクトルSp6(水晶の厚みが0.5mm)についても合わせて図示した。
ここで、分離メガネ3を通る光の光量(視認画像の明るさ)は、例えば各波長における光強度と比視感度との積を可視光の波長帯で積分した値で評価できる。図7において、水晶の厚みが0.47mmであるときのスペクトルSp8に対応する視認画像の明るさを100%とすると、水晶の厚みが0.50mmであるときのスペクトルSp5に対応する視認画像の明るさは93%程度と見積もられる。このように、水晶(複屈折性基材)の厚み(リタデーション値)を調整することで、視認画像の明るさを調整可能であることが確認された。
図8は、複屈折性基材のクロスニコル透過率Tcの波長依存性の他の例を示す図である。画像光のスペクトルは、例えば図3のスペクトルSp1およびスペクトルSp2の和であり、複屈折性基材のリタデーション値は、このような画像光の波長帯にクロスニコル透過率Tcの極小と極大がそれぞれ1つ以上含まれるように、設定される。
例えば、図3のスペクトルSp1は青と赤の波長帯の垂直偏光成分に対応し、スペクトルSp2は緑の波長帯の水平偏光成分に対応しており、このような画像光に対して、複屈折性基材のリタデーション値(図8参照)は、青の波長帯と赤の波長帯のそれぞれにクロスニコル透過率の極大を有し、かつ緑の波長帯にクロスニコル透過率の極小を有するように、設定される。
ここで、画像光の波長帯におけるクロスニコル透過率の極値(極大または極小)の数が少ないことは、複屈折性基材のリタデーション値が小さい(厚みが薄い)ことに対応する。例えば、複屈折性基材として水晶を用いる場合に、赤、緑、青の波長帯のそれぞれにクロスニコル透過率の極値を1づつ有するような厚みは、約0.15mmであり、複屈折性基材8としての水晶の厚みは、0.15mm以上であってもよい。
図9は、複屈折性基材のリタデーション値に対する明るさの関係を示す図である。図9の横軸は、複屈折性基材としての水晶の厚みを示し、図9の縦軸は、分離メガネ3を通る光の光量、すなわち視認画像の明るさを示す。この視認画像の明るさは、投写面に入射する際の画像光が円偏光である場合に分離メガネ3を通る光の光量(以下、基準光量L0という)を1として、基準化した値である。画像光が円偏光である場合には、その光量の半分が分離メガネ3の入射側偏光板で遮光されると見積もられるので、基準光量L0は、複屈折性基材に入射する際の垂直偏光成分(第1偏光)の光量L1、複屈折性基材に入射する際の水平偏光成分(第2偏光)の光量L2、比視感度Vを用いて、下記の式(3)で表される。
L0=V×(L1+L2)/2 ・・・(3)
ここで、複屈折性基材のクロスニコル透過率Tcは、垂直偏光成分の偏光方向を入射側偏光板の透過軸とするクロスニコル配置である場合に、下記の式(4)で表される。
また、分離メガネ3を通る光の光量L4は、複屈折性基材のクロスニコル透過率Tcを用いて、下記の式(5)で表される。
以上のような観点で、本実施形態においては、複屈折性基材8のクロスニコル透過率Tcが下記の式(6)を満たすように設定されており、これにより、画像表示システム1は、カラーバランスの崩れや色むらの発生を抑制しつつ、明るい画像を表示できる。
L1×T+L2(1−Tc)>V×(L1+L2)/2・・・(6)
なお、第1偏光が垂直偏光、第2偏光が水平偏光として説明したが、第1偏光が水平偏光、第2偏光が垂直偏光であってもよい。この場合に、上記の式のL1は水平偏光成分の光量、L2は垂直偏光成分の光量となり、分離メガネ3の入射側偏光板は、水平偏光を通すように設けられる。
また、複屈折性基材8が水晶を含み、その厚みが0.15mm以上1.1mm以下の範囲から選択されていてもよい。この範囲内に水晶の厚みが設定されていると、視認画像を5%以上明るく(図9に破線Xで示す)することができ、格段に明るい画像を表現できる。また、図9において、明るさが極大となる複屈折性基材の厚みは複数存在するが、厚みが0.15mm以上0.57mm以下の範囲においては、厚みが減るほど明るさの極大値が急峻に増加している。そのため、複屈折性基材8が水晶を含み、その厚みが0.15mm以上0.57mm以下の範囲から選択されていると、さらに明るい画像を表現できる。
以上のように、本実施形態の画像表示システム1は、プロジェクター2から出射する際の画像光Liが各色の波長帯に垂直偏光成分および水平偏光成分を含んでいるので、カラーバランスの崩れや色むらの発生を抑制できる。また、画像表示システム1は、複屈折性基材8のクロスニコル透過率Tcが上記の式(6)を満たすので、無偏光の画像光を投射する場合よりも明るい画像を表現できる。このように、本実施形態の画像表示システム1は、高品質な画像を表現できる。
また、本実施形態において、複屈折性基材8は、クロスダイクロイックプリズム7と投写部9との間の光路に配置されている。クロスダイクロイックプリズム7を経由した各色の画像光は同じ光路を通り、この光路に複屈折性基材8が配置されているので、各色の画像光の偏光状態をそれぞれ複屈折性基材8によって調整できる。そのため、各色の画像光ごとに複屈折性基材を設ける構成よりも、部品数を減らすことなどができる。
ところで、画像光の色ごとの偏光状態が異なることによるカラーバランスの崩れの発生を抑制する手法として画像光の偏光状態を狭帯域位相板などで揃える手法が考えられる。狭帯域位相板は、所定の波長帯の光(例えば緑色光)に対して所定の位相を付与するとともに、所定の波長帯以外の光(例えば、赤色光および青色光)に対して位相を付与しない。
狭帯域位相板を用いると、画像光の各色光の投写面での散乱状態を揃えることができるが、下記のような不都合が発生することがありえる。狭帯域位相板は、積層された延伸フィルム等からなり反り等をなくすことが難しいため、投写部の結像性能が低下するおそれがある。また、狭帯域位相板は、有機材料からなるので熱や光で劣化するおそれがあり、プロジェクターの短寿命化を招くおそれがある。
本実施形態の画像表示システム1は、複屈折性基材8によって偏光状態を調整することでカラーバランスの崩れの発生を抑制できるので、狭帯域位相板を省くことができる。結果として、結像性能の低下、短寿命化、高コスト化などを避けることができる。なお、本実施形態の画像表示システム1は、狭帯域位相板を備えていてもよく、この場合にもカラーバランスの崩れの発生等を抑制しつつ明るい画像を表現できる。
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。本実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を簡略化あるいは省略することがある。
図10は、第2実施形態に係るプロジェクター2の概略構成を示す図である。プロジェクター2の投写部9は、複数のレンズ要素を含み、その少なくとも1つが複屈折性を有するレンズ要素である。
図11は、投写部9のレンズ要素9aの複屈折性の一例を示す図である。図11に示すように、レンズ要素9aは、レンズ要素9aを通る光の各波長成分に対して波長に応じた位相差を付与する。各波長成分に付与する位相差は、その波長に応じて変化し、図11の例では波長が短くなるほど大きくなる。
図12は、投写部9の複屈折性による偏光状態への影響を示す説明図である。図13には、符号Sp9で示すスペクトルの直線偏光(垂直偏光成分)が投写部9に入射したときに、投写部9から出射する光の垂直偏光成分のスペクトルSp10および水平偏光成分のスペクトルSp11の例を図示した。
スペクトルSp9は、例えば、複屈折性基材8の代わりに第実施形態で説明した狭帯域位相板が設けられている構成において、投写部に入射する画像光のスペクトルに相当する。このような画像光は、投写部を通ることで各波長成分ごとに位相差が付与され、楕円偏光になる。そのため、投写部から出射する際の画像光の各波長成分は、図12に示すように、垂直偏光成分と水平偏光成分とを含むことになる。
図12に示したように、レンズ要素9aが付与する位相差が波長に応じて異なっているので、投写部から出射した画像光の各波長成分に占める垂直偏光成分と水平偏光成分の比率は、波長ごとに異なることになる。そのため、画像光の投写面での散乱状態は波長によって異なることになり、視認画像のカラーバランスが崩れることがありえる。換言すると、投写部に入射する画像光の偏光状態を狭帯域位相板で揃えた場合であっても、カラーバランスが崩れや色むらが発生する可能性がある。
本実施形態の画像表示システム1は、第1実施形態で説明したような複屈折性基材8によって画像光の偏光状態を調整する。そのため、画像表示システム1は、画像形成部6から投写部9に至る光路(図1参照)に狭帯域位相板が設けられている構成、投写部9のレンズ要素が複屈折性を有している構成のいずれの構成においても、カラーバランスが崩れや色むらの発生を抑制しつつ、明るい画像を表現できる。
また、複屈折性を有するレンズ要素は、例えばプラスチックレンズ等であり、材質が石英などのレンズに比べて一般的に軽量、安価である。そのため、画像表示システム1は、軽量化、低コスト化等が可能である。
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、上記の実施形態で説明した要件の少なくとも1つは、省略されることある。本発明の主旨を逸脱しない範囲内で多様な変形が可能である。
なお、光源は、レーザー素子などを含んでいてもよく、例えば各色用の画像形成部ごとに設けられており、この画像形成部に応じた色の光源光を発するものでもよい。画像形成部は、反射型の液晶ライトバルブ、デジタルミラーデバイスなどで画像を形成する構成でもよい。例えば、シングルモードのレーザー素子は直線偏光を発することが可能であり、緑色用の画像形成部に対応するレーザー素子は、発するレーザー光の偏光状態が、他の色用の画像形成部に対応するレーザー素子と異なっていてもよい。この構成において、ライトバルブとしてデジタルミラーデバイスを用いると、画像光のうち緑色光の偏光状態を他の色光と異ならせることができる。
なお、第2画像形成部6bにおいて、位相板20は、入射側の偏光板21aと液晶パネル16との間の光路に配置されていてもよいし、液晶パネル16とダイクロイックプリズム7との間の光路に配置されていてもよい。第2画像形成部6bにおいて、液晶パネル16の入射側及び出射側に配置される偏光板の透過軸の方向は、第2画像形成部6bから出射する際の緑色光の偏光状態が、第1画像形成部6aから出射する際の赤色光の偏光状態と異なるように、位相板20の位置に応じて設定される。
また、光源4から第2画像形成部6bに至る光路のいずれかの位置に、光源光のうちの緑色光のみの偏光状態を変化させる狭帯域位相板を設けることで、画像光のうち緑色光の偏光状態を他の色光と異ならせることもできる。
また、均一化光学系11において光の偏光状態を垂直偏光成分に揃える構成として、第1画像形成部6a及び第3画像形成部6cから出射される光の偏光状態を垂直偏光成分とし、第2画像形成部6bから出射される光の偏光状態を水平偏光成分とするように、位相板及び液晶パネル16の入射側及び出射側に配置される偏光板の透過軸の方向を適宜配置させることもできる。
また、色分離光学系12のダイクロイックミラー13aを青色光が透過し、緑色光及び赤色光が反射する特性に変更し、ダイクロイックミラー13bを赤色光が透過し、緑色光が反射する特性に変更することができる。その場合、第1画像形成部6aが第1色画像である青色画像を形成し、第2画像形成部6bが第2色画像である緑色画像、第3画像形成部6cが第3色画像である赤色画像をそれぞれ形成する。
なお、複屈折性基材は、画像形成部6から投写面SCに至る光路のいずれの位置に配置されていてもよく、例えば、各色用の画像形成部6ごとに、画像形成部6とダイクロイックプリズム7との間の間に配置されていてもよい。また、複屈折性基材8は、投写部9に含まれていてもよいし、投写部9の出射側に設けられていてもよい。画像形成部6からの画像光が通る複屈折性基材8の数は、1つでもよいし2以上でもよく、画像光が複数の複屈折性基材を通る場合には、クロスニコル透過率Tcは、複数の複屈折性基材での合算値を用いることができる。