JP6028834B2 - スピントランスファトルク記憶素子、記憶装置 - Google Patents

スピントランスファトルク記憶素子、記憶装置 Download PDF

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Description

本開示は、強磁性層の磁化状態を情報として記憶する記憶層と、磁化の向きが固定された磁化固定層とを有し、電流を流すことにより記憶層の磁化の向きを変化させる記憶素子及びこの記憶素子を備えた記憶装置に関する。
特開2004−193595号公報 特開2009−081215号公報
Nature Materials., Vol 9, p. 721(2010)
コンピュータなどでの情報機器ではランダム・アクセス・メモリとして、動作が高速で、高密度なDRAMが広く使われている。
しかし、DRAM(Dynamic Random Access Memory)は電源を切ると情報が消えてしまう揮発性メモリであるため、情報が消えない不揮発のメモリが望まれている。
不揮発メモリの候補として、磁性体の磁化で情報を記憶する磁気ランダム・アクセス・メモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)が注目され、開発が進められている。
MRAMの記憶を行う方法としては、例えば上記特許文献1のように、記憶を担う磁性体の磁化を2つの磁性体間を流れるスピントルクで反転させるスピントルク型MRAMが比較的構造が簡単で、書き換え回数が大きいので注目されている。
スピントルク磁化反転の記憶素子は、MRAMと同じくMTJ(Magnetic Tunnel Junction)により構成されている場合が多い。この構成は、ある方向に固定された磁性層を通過するスピン偏極電子が、他の自由な(方向を固定されない)磁性層に進入する際にその磁性層にトルクを与えること(これをスピントランスファトルクとも呼ぶ)を利用したもので、あるしきい値以上の電流を流せば自由磁性層が反転する。0/1の書換えは電流の極性を変えることにより行う。
この反転のための電流の絶対値は0.1μm程度のスケールの素子で1mA以下である。 しかもこの電流値が素子体積に比例して減少するため、スケーリングが可能である。さらに、MRAMで必要であった記憶用電流磁界発生用のワード線が不要であるため、セル構造が単純になるという利点もある。
以下、スピントルク磁化反転を利用したMRAMを、「スピントルク型MRAM」又は「ST−MRAM(Spin Torque-Magnetic Random Access Memory)」と呼ぶ。スピントルク磁化反転は、またスピン注入磁化反転と呼ばれることもある。
ST−MRAMとしては、例えば上記特許文献1のように面内磁化を用いたものと、例えば上記特許文献2のように垂直磁化を用いたものが開発されている。
面内磁化を用いたものは、材料の自由度が高く、磁化を固定する方法も比較的容易である。しかしながら、垂直磁化膜を用いる場合、垂直磁気異方性を有する材料が限られる。
近年、例えば非特許文献1にあるようなFeと酸化物との結晶界面に現れる垂直磁気異方性を利用した界面異方性型の垂直磁化膜が注目されている。界面異方性を用いると磁性体にFeCoB合金、酸化物にMgOを用いて垂直磁化膜を得ることができ、高い磁気抵抗比(MR比)と垂直磁化を両立することができ、記憶層と磁化固定層両方に有望であることから、垂直磁化型のスピントルクMRAMへの応用が期待されている。
ところで、スピントルクMRAMに上記界面異方性型の材料を用いるには、少なくとも磁化固定層の磁性体の保磁力を記憶層の保磁力よりも十分大きくしておかなければならないとされる。磁化固定層の保磁力を大きくするには結晶磁気異方性の大きな高保磁力層を磁化固定層と磁気的に結合して、磁化固定層の保磁力を補強すればよい。また、強い磁気結合を形成する磁気結合層を磁化固定層と高保磁力層との間に適当な厚さで挿入し、磁化固定層と高保磁力層とを反平行に磁気結合させると、磁化固定層および高保磁力層からの漏洩磁場が打ち消しあい、記憶層への磁気的影響が小さくなり好ましい。しかしながら、磁化固定層に高保磁力層と磁気結合層を積層すると磁化固定層のみの場合に比べMR比の低下や耐熱温度の低下などの影響が生じる。
そこで本開示は、このような認識に基づいてなされたもので、スピントルク型MRAMにおいて、安定した動作が可能なように、垂直保磁力が大きく、かつ耐熱性(熱安定性)に優れた垂直磁化固定層を実現することを目的とする。
本開示の記憶素子は、CoFeBを有する記憶層と、CoFeBを有する磁化固定層と、上記記憶層と上記磁化固定層との間に位置し、MgOを有する中間層と、上記磁化固定層に隣接し、上記中間層の反対側に設けられる磁気結合層と、上記磁気結合層に隣接し、上記磁化固定層の反対側に設けられ、Co、Fe、Pd、Ptのうちの少なくとも一つの合金を含む高保磁力層と、を含み、上記磁気結合層が2層の積層構造となっており、上記磁気結合層の2層のうち、高保磁力層側の層がRu、Re、Osの少なくとも一つからなり、上記磁気結合層の2層のうち、磁化固定層側の層がCu、Ag、Auの少なくとも一つからなっている。
本開示の記憶装置は、情報を磁性体の磁化状態により保持するスピントランスファトルク記憶素子と、互いに交差する2種類の配線とを備え、上記スピントランスファトルク記憶素子は、CoFeBを有する記憶層と、CoFeBを有する磁化固定層と、上記記憶層と上記磁化固定層との間に位置し、MgOを有する中間層と、上記磁化固定層に隣接し、上記中間層の反対側に設けられる磁気結合層と、上記磁気結合層に隣接し、上記磁化固定層の反対側に設けられ、Co、Fe、Pd、Ptのうちの少なくとも一つの合金を含む高保磁力層と、を含み、上記磁気結合層が2層の積層構造となっており、上記磁気結合層の2層のうち、高保磁力層側の層がRu、Re、Osの少なくとも一つからなり、上記磁気結合層の2層のうち、磁化固定層側の層がCu、Ag、Auの少なくとも一つからなり、上記2種類の配線の間に上記スピントランスファトルク記憶素子が配置され、上記2種類の配線を通じて、上記スピントランスファトルク記憶素子に積層方向の電流が流れ、これに伴ってスピントルク磁化反転が起こる。
このような本開示では、記憶素子は、磁化固定層に隣接し、中間層の反対側に設けられる磁気結合層と、該磁気結合層に隣接して設けられる高保磁力層とを設ける構造とすることにより、保磁力を高め、熱安定性優れた素子とすることができる。
本開示によれば、垂直磁気異方性を有する記憶素子が簡便に得られるため、情報保持能力である熱安定性を充分に確保して、特性バランスに優れた記憶素子を構成することができる。これにより、動作エラーをなくして、記憶素子の動作マージンを充分に得ることができる。
従って、安定して動作する、信頼性の高いメモリを実現することができる。
また、書き込み電流を低減して、記憶素子に書き込みを行う際の消費電力を低減することが可能になる。
従って、記憶装置全体の消費電力を低減することが可能になる。
実施の形態の記憶装置の概略構成の斜視図である。 実施の形態の記憶装置の断面図である。 実施の形態の記憶素子の層構造を示す断面図である。 実験で用いた試料の層構造の説明図である。 磁気結合層(Ru)の厚みと磁化反転の変化の大きさとの関係を表す図である。 磁気結合層(Ru)と磁気結合層(Ta)の2層として磁気結合層(Ru)の厚みと磁化反転の変化の大きさとの関係を表す図である。 磁気結合層(Ru)の厚みと、磁気結合層(Ta)の厚みとを変化させたときの磁化反転の磁場の大きさとの関係を表す図である。 磁気結合層(Ta)の材料をTa以外の元素、Cr等とし、その厚みと磁気結合層(Ru)の厚みとを変化させたときの300℃熱処理後の磁化反転の磁場の大きさとの関係を表す図である。 磁気結合層(Ta)の材料をTa以外の元素、Cr等とし、その厚みと磁気結合層(Ru)の厚みとを変化させたときの350℃熱処理後の磁化反転の磁場の大きさとの関係を表す図である。 磁気結合層(Ta)の材料をTa以外の元素、Cu等とし、その厚みと磁気結合層(Ru)の厚みとを変化させたときの磁化反転の磁場の大きさとの関係を表す図である。 磁気抵抗比(MR比)の測定用試料の層構造の図である。
以下、本開示の実施の形態を次の順序で説明する。
<1.実施の形態の記憶装置の構成>
<2.実施の形態の記憶素子の概要>
<3.実施の形態の具体的構成>
<4.実施の形態に関する実験>
<1.実施の形態の記憶装置の構成>

まず、本開示の実施の形態となる記憶装置の構成について説明する。
記憶装置(ST−MRAM)の模式図を、図1及び図2に示す。図1は斜視図、図2は断面図である。
図1に示すように、シリコン基板等の半導体基体10の素子分離層2により分離された部分に、各記憶素子3を選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域8、ソース領域7、並びにゲート電極1が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極1は、図1中前後方向に延びるワード線を兼ねている。
ドレイン領域8は、図2中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域8には、配線9が接続されている。
そして、ソース領域7と、上方に配置された、図1中左右方向に延びるビット線6との間に、スピントルク磁化反転により磁化の向きが反転する記憶層を有する記憶素子3が配置されている。この記憶素子3は、例えば磁気トンネル接合素子(MTJ素子)により構成される。
図2に示すように、記憶素子3は2つの磁性層15、17を有する。この2層の磁性層15、17のうち、一方の磁性層を磁化M15の向きが固定された磁化固定層15として、他方の磁性層を磁化M17の向きが変化する磁化自由層即ち記憶層17とする。
また、記憶素子3は、ビット線6と、ソース領域7とに、それぞれ上下のコンタクト層4を介して接続されている。
これにより、記憶素子3に電流を流して、スピン注入により記憶層17の磁化M17の向きを反転させることができる。
このような記憶装置では、選択トランジスタの飽和電流以下の電流で書き込みを行う必要があり、トランジスタの飽和電流は微細化に伴って低下することが知られているため、記憶装置の微細化のためには、スピントランスファの効率を改善して、記憶素子3に流す電流を低減させることが好適である。
また、読み出し信号を大きくするためには、大きな磁気抵抗変化率を確保する必要があり、そのためには上述のようなMTJ構造を採用すること、すなわち2層の磁性層15、17の間に中間層をトンネル絶縁層(トンネルバリア層)とした記憶素子3の構成にすることが効果的である。
このように中間層としてトンネル絶縁層を用いた場合には、トンネル絶縁層が絶縁破壊することを防ぐために、記憶素子3に流す電流量に制限が生じる。すなわち記憶素子3の繰り返し書き込みに対する信頼性の確保の観点からも、スピントルク磁化反転に必要な電流を抑制することが好ましい。なお、スピントルク磁化反転に必要な電流は、反転電流、記録電流などと呼ばれることがある。
また記憶装置は不揮発メモリであるから、電流によって書き込まれた情報を安定に記憶する必要がある。つまり、記憶層の磁化の熱揺らぎに対する安定性(熱安定性)を確保する必要がある。
記憶層の熱安定性が確保されていないと、反転した磁化の向きが、熱(動作環境における温度)により再反転する場合があり、書き込みエラーとなってしまう。
本記憶装置における記憶素子3(ST−MRAM)は、従来のMRAMと比較して、スケーリングにおいて有利、すなわち体積を小さくすることは可能であるが、体積が小さくなることは、他の特性が同一であるならば、熱安定性を低下させる方向にある。
ST−MRAMの大容量化を進めた場合、記憶素子3の体積は一層小さくなるので、熱安定性の確保は重要な課題となる。
そのため、ST−MRAMにおける記憶素子3において、熱安定性は非常に重要な特性であり、体積を減少させてもこの熱安定性が確保されるように設計する必要がある。
<2.実施の形態の記憶素子の概要>

つぎに本開示の実施の形態となる記憶素子の概要について説明する。
本開示の実施の形態は、前述したスピントルク磁化反転により、記憶素子の記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うものである。
記憶層は、強磁性層を含む磁性体により構成され、情報を磁性体の磁化状態(磁化の向き)により保持するものである。
記憶素子3は、例えば図3に一例を示す層構造とされ、少なくとも2つの強磁性体層としての記憶層17、磁化固定層15を備え、またその2つの磁性層の間の中間層16を備える。
記憶層17は、膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される。
磁化固定層15は、記憶層17に記憶された情報の基準となる膜面に垂直な磁化を有する。
中間層16は、例えば非磁性体による絶縁層とされ、記憶層17と磁化固定層15の間に設けられる。
そして記憶層17、中間層16、磁化固定層15を有する層構造の積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、記憶層17の磁化の向きが変化して、記憶層17に対して情報の記録が行われる。
ここでスピントルク磁化反転について簡単に説明する。
電子は2種類のスピン角運動量をもつ。仮にこれを上向き、下向きと定義する。非磁性体内部では両者が同数であり、強磁性体内部では両者の数に差がある。記憶素子3を構成する2層の強磁性体である磁化固定層15及び記憶層17において、互いの磁気モーメントの向きが反方向状態のときに、電子を磁化固定層15から記憶層17への移動させた場合について考える。
磁化固定層15は、高い保磁力のために磁気モーメントの向きが固定された固定磁性層である。
磁化固定層15を通過した電子はスピン偏極、すなわち上向きと下向きの数に差が生じる。非磁性層である中間層16の厚さが充分に薄く構成されていると、磁化固定層15の通過によるスピン偏極が緩和して通常の非磁性体における非偏極(上向きと下向きが同数)状態になる前に他方の磁性体、すなわち記憶層17に電子が達する。
記憶層17では、スピン偏極度の符号が逆になっていることにより、系のエネルギを下げるために一部の電子は反転、すなわちスピン角運動量の向きをかえさせられる。このとき、系の全角運動量は保存されなくてはならないため、向きを変えた電子による角運動量変化の合計と等価な反作用が記憶層17の磁気モーメントにも与えられる。
電流すなわち単位時間に通過する電子の数が少ない場合には、向きを変える電子の総数も少ないために記憶層17の磁気モーメントに発生する角運動量変化も小さいが、電流が増えると多くの角運動量変化を単位時間内に与えることができる。
角運動量の時間変化はトルクであり、トルクがあるしきい値を超えると記憶層17の磁気モーメントは歳差運動を開始し、その一軸異方性により180度回転したところで安定となる。すなわち反方向状態から同方向状態への反転が起こる。
磁化が同方向状態にあるとき、電流を逆に記憶層17から磁化固定層15へ電子を送る向きに流すと、今度は磁化固定層15で反射される際にスピン反転した電子が記憶層17に進入する際にトルクを与え、反方向状態へと磁気モーメントを反転させることができる。ただしこの際、反転を起こすのに必要な電流量は、反方向状態から同方向状態へと反転させる場合よりも多くなる。
磁気モーメントの同方向状態から反方向状態への反転は直感的な理解が困難であるが、磁化固定層15が固定されているために磁気モーメントが反転できず、系全体の角運動量を保存するために記憶層17が反転する、と考えてもよい。このように、0/1の記録は、磁化固定層15から記憶層17の方向またはその逆向きに、それぞれの極性に対応する、あるしきい値以上の電流を流すことによって行われる。
情報の読み出しは、従来型のMRAMと同様、磁気抵抗効果を用いて行われる。すなわち上述の記録の場合と同様に膜面垂直方向に電流を流す。そして、記憶層17の磁気モーメントが、磁化固定層15の磁気モーメントに対して同方向であるか反方向であるかに従い、素子の示す電気抵抗が変化する現象を利用する。
磁化固定層15と記憶層17の間の中間層16として用いる材料は金属でも絶縁体でも構わないが、より高い読み出し信号(抵抗の変化率)が得られ、かつより低い電流によって記録が可能とされるのは、中間層として絶縁体を用いた場合である。このときの素子を強磁性トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)と呼ぶ。
スピントルク磁化反転によって、磁性層の磁化の向きを反転させるときに、必要となる電流の閾値Icは、磁性層の磁化容易軸が面内方向であるか、垂直方向であるかによって異なる。
本実施の形態の記憶素子は垂直磁化型であるが、従前の面内磁化型の記憶素子の場合における磁性層の磁化の向きを反転させる反転電流をIc_paraとすると、
同方向から逆方向(なお、同方向、逆方向とは、磁化固定層の磁化方向を基準としてみた記憶層の磁化方向をいい、また「同方向」「逆方向」は、「平行」「反平行」ともいう)に反転させる場合、
Ic_para=(A・α・Ms・V/g(0)/P)(Hk+2πMs)
となり、逆方向から同方向に反転させる場合、
Ic_para=−(A・α・Ms・V/g(π)/P)(Hk+2πMs)
となる。(以上を式(1)とする)
一方、本例のような垂直磁化型の記憶素子の反転電流をIc_perpとすると、同方向から逆方向に反転させる場合、
Ic_perp=(A・α・Ms・V/g(0)/P)(Hk−4πMs)
となり、逆方向から同方向に反転させる場合、
Ic_perp=−(A・α・Ms・V/g(π)/P)(Hk−4πMs)
となる。(以上を式(2)とする)
ただし、Aは定数、αはダンピング定数、Msは飽和磁化、Vは素子体積、Pはスピン分極率、g(0)、g(π)はそれぞれ同方向時、逆方向時にスピントルクが相手の磁性層に伝達される効率に対応する係数、Hkは磁気異方性である。
上記各式において、垂直磁化型の場合の(Hk−4πMs)と面内磁化型の場合の(Hk+2πMs)とを比較すると、垂直磁化型が低記録電流化により適していることが理解できる。
本実施の形態では、磁化状態により情報を保持することができる磁性層(記憶層17)と、磁化の向きが固定された磁化固定層15とを有する記憶素子3を構成する。
メモリとして存在し得るためには、書き込まれた情報を保持することができなければならない。情報を保持する能力の指標として、熱安定性の指標Δ(=KV/kBT)の値で判断される。このΔは、下記式(3)により表される。
Δ =K・V/kB・T=Ms・V・Hk・(1/2kB・T) 式(3)

ここで、Hk:実効的な異方性磁界、kB:ボルツマン定数、T:温度、Ms:飽和磁化量、V:記憶層17の体積、K:異方性エネルギーである。
実効的な異方性磁界Hkには、形状磁気異方性、誘導磁気異方性、結晶磁気異方性等の影響が取り込まれており、単磁区の一斉回転モデルを仮定した場合、これは保磁力と同等となる。
熱安定性の指標Δと電流の閾値Icとは、トレードオフの関係になることが多い。そのため、メモリ特性を維持するには、これらの両立が課題となることが多い。
記憶層17の磁化状態を変化させる電流の閾値は、実際には、例えば記憶層17の厚さが2nmであり、平面パターンが100nm×150nmの略楕円形のTMR素子において、+側の閾値+Ic=+0.5mAであり、−側の閾値−Ic=−0.3mAであり、その際の電流密度は約3.5×106A/cm2である。これらは、上記の式(1)にほぼ一致する。
これに対して、電流磁場により磁化反転を行う通常のMRAMでは、書き込み電流が数mA以上必要となる。
従って、ST−MRAMの場合には、上述のように書き込み電流の閾値が充分に小さくなるため、集積回路の消費電力を低減させるために有効であることが分かる。
また、通常のMRAMで必要とされる、電流磁界発生用の配線が不要となるため、集積度においても通常のMRAMに比較して有利である。
そして、スピントルク磁化反転を行う場合には、記憶素子3に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行う記憶素子3を選択するために、記憶素子3を選択トランジスタと接続して記憶装置を構成する。
この場合、記憶素子3に流れる電流は、選択トランジスタで流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさによって制限される。
記録電流を低減させるためには、上述のように垂直磁化型を採用することが望ましい。また垂直磁化膜は一般に面内磁化膜よりも高い磁気異方性を持たせることが可能であるため、上述のΔを大きく保つ点でも好ましい。
垂直異方性を有する磁性材料には希土類-遷移金属合金(TbCoFeなど)、金属多層膜(Co/Pd多層膜など)、規則合金(FePtなど)、酸化物と磁性金属の間の界面異方性の利用(Co/MgOなど)等いくつかの種類があるが、希土類-遷移金属合金は加熱により拡散、結晶化すると垂直磁気異方性を失うため、ST−MRAM用材料としては好ましくない。また金属多層膜も加熱により拡散し、垂直磁気異方性が劣化することが知られており、さらに垂直磁気異方性が発現するのは面心立方の(111)配向となっている場合であるため、MgOやそれに隣接して配置するFe、CoFe、CoFeBなどの高分極率層に要求される(001)配向を実現させることが困難となる。L10規則合金は高温でも安定であり、かつ(001)配向時に垂直磁気異方性を示すことから、上述のような問題は起こらないものの、製造時に500℃以上の十分に高い温度で加熱する、あるいは製造後に500℃以上の高温で熱処理を行うことで原子を規則配列させる必要があり、トンネルバリア等積層膜の他の部分における好ましくない拡散や界面粗さの増大を引き起こす可能性がある。
これに対し、界面磁気異方性を利用した材料、すなわちトンネルバリアであるMgO上にCo系あるいはFe系材料を積層させたものは上記いずれの問題も起こり難く、このためST−MRAMの記憶層材料として有望視されている。
さらに、選択トランジスタの飽和電流値を考慮して、記憶層17と磁化固定層15との間の非磁性の中間層16として、絶縁体から成るトンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成する。
トンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成することにより、非磁性導電層を用いて巨大磁気抵抗効果(GMR)素子を構成した場合と比較して、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができ、読み出し信号強度を大きくすることができるためである。
そして、特に、このトンネル絶縁層としての中間層16の材料として、酸化マグネシウム(MgO)を用いることにより、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができる。
また、一般に、スピントランスファの効率はMR比に依存し、MR比が大きいほど、スピントランスファの効率が向上し、磁化反転電流密度を低減することができる。
従って、トンネル絶縁層の材料として酸化マグネシウムを用い、同時に上記の記憶層17を用いることにより、スピントルク磁化反転による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
これにより、MR比(TMR比)を確保して、スピントルク磁化反転による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
このようにトンネル絶縁層を酸化マグネシウム(MgO)膜により形成する場合には、MgO膜が結晶化していて、001方向に結晶配向性を維持していることがより望ましい。
トンネル絶縁層の面積抵抗値は、スピントルク磁化反転により記憶層17の磁化の向きを反転させるために必要な電流密度を得る観点から、数十Ωμm2程度以下に制御する必要がある。
そして、MgO膜から成るトンネル絶縁層では、面積抵抗値を上述の範囲とするために、MgO膜の膜厚を1.5nm以下に設定する必要がある。
また、記憶層17の磁化の向きを、小さい電流で容易に反転できるように、記憶素子3を小さくすることが望ましい。
従って、好ましくは、記憶素子3の面積を0.01μm2以下とする。
<3.実施の形態の具体的構成>

続いて、本開示の実施の形態の具体的構成について説明する。
記憶装置の構成は先に図1で述べたとおり、直交する2種類のアドレス配線1、6(例えばワード線とビット線)の交点付近に、磁化状態で情報を保持することができる記憶素子3が配置されるものである。
そして2種類のアドレス配線1、6を通じて、記憶素子3に上下方向の電流を流して、スピントルク磁化反転により記憶層17の磁化の向きを反転させることができる。
ドレイン領域8は、図中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域8には、配線9が接続されている。
そして、ソース領域7と、上方に配置された、図中左右方向に延びる他方のアドレス配線(例えばビット線)6との間に、記憶素子3が配置されている。この記憶素子3は、スピン注入により磁化の向きが反転する強磁性層から成る記憶層17を有する。
また、この記憶素子3は、2種類のアドレス配線1、6の交点付近に配置されている。
この記憶素子3は、ビット線6と、ソース領域7とに、それぞれ上下のコンタクト層4を介して接続されている。
これにより、2種類のアドレス配線1、6を通じて、記憶素子3に上下方向の電流を流して、スピントルク磁化反転により記憶層17の磁化の向きを反転させることができる。
図3は、本開示の実施の形態に係る記憶素子3の詳細構造を表している。
図3に示すように、記憶素子3は、スピントルク磁化反転により磁化M17の向きが反転する記憶層17に対して、下層に磁化固定層15を設けている。
ST−MRAMにおいては、記憶層17の磁化M17と磁化固定層15の磁化M15の相対的な角度によって情報の0、1を規定している。この場合、面内磁化を用いたものと垂直磁化を用いたものが開発されているが、面内磁化を用いたものは、材料の自由度が高く、磁化を固定する方法も比較的容易とされている。
記憶層17と磁化固定層15との間には、トンネルバリア層(トンネル絶縁層)となる中間層16が設けられ、記憶層17と磁化固定層15とにより、MTJ素子が構成されて
いる。
一方、垂直磁化膜を用いる場合、垂直磁気異方性を有する材料が限られる。近年、Feと酸化物との結晶界面に現れる垂直磁気異方性を利用した界面異方性型の垂直磁化膜が応用されている。界面異方性を用いると磁性体にFeCoB合金、酸化物にMgOを用いて垂直磁化膜を得ることができ、高い磁気抵抗比(MR比)と垂直磁化を両立することができ、記憶層17と磁化固定層15の材料として適用可能である。
また、磁化固定層15および記憶層17としてはFe、Co、Niのうちの少なくとも一つとB、Cのうちの少なくとも一つを含む合金が好ましく、B、Cの含有量は5原子%以上30原子%以下が好ましい。
記憶層17と磁化固定層15との間には、トンネルバリア層(トンネル絶縁層)となる中間層16が設けられ、記憶層17と磁化固定層15とにより、MTJ素子が構成されている。中間層16は、例えばMgOが用いられる。
また、磁化固定層15の下には磁気結合層19、高保磁力層20、下地層14が形成され、記憶層17の上にはキャップ層18が形成されている。
高保磁力層20を設けるのは、磁化固定層15の保磁力を記憶層17の保磁力より大きくするためである。すなわち、磁化固定層15の保磁力を補強するものである。
高保磁力層20と磁化固定層15の間の磁気結合層19は、磁化固定層15と高保磁力層20とを反平行に磁気結合させるもので、これにより磁化固定層15および高保磁力層20からの漏洩磁場が打ち消しあい、記憶層17への磁気的影響が小さくなり好ましい。
この磁気結合層19はRu等の材料で構成される。
さらに、図3の右に示すように、磁気結合層19は磁気結合層22と磁気結合層21の2層としている。
磁気結合層22は、Ru等の材料で構成することができる。磁気結合層21は、Cu、Ag、Au、Ta、Zr、Nb、Hf、W、Mo、Crのいずれかあるいは複数材料で構成してもよい。 これによりMR比や耐熱温度の低下が押さえられ、安定した動作が可能な垂直磁化を用いた記憶素子3を実現できる。
記憶素子3は、適当な下地層14を成膜した上に高保磁力層20を形成し、Ru等の磁気結合層19、Ta等の磁気結合層19、磁気固定層15、中間層16、記憶層17、キャップ層18を順次成膜して積層構造を形成する。下地層14としてはTa等を用いることができる。
本開示に用いる材料を積層する方法としてはスパッタリング方法、真空蒸着法、あるいは化学気相成長法(CVD)等を用いることができる。また、その上に結晶配向等を制御するためにRu、Cr等の金属膜、あるいはTiN等の導電性窒化膜を形成して下地層14としてもよい。
高保磁力層20としてはCoPtやFePt等の合金膜やCoとPtあるいはCoとPdの連続積層膜あるいはTbFeCo等の合金膜などが利用可能であるが、高温の熱処理の必要がなく、かつ優れた耐熱性を有するCoPt合金が適している。
磁気結合層22としてはRu、Re、Os等の強い磁気的結合を媒介する非磁性金属が好ましく、磁気結合層21としてはCu、Ag、Au、Ta、Zr、Nb、Hf、W、Mo、Crのいずれかあるいは複数の組み合わせが好ましい。
磁気結合層21の厚さはTa、Zr、Nb、Hf、W、Mo、Crの場合は0.05nm以上0.3nm以下が好ましく、Cu、Ag、Auの場合は0.1nm以上0.5nm以下が好ましい。磁気結合層21の厚さは規定の厚さ下限未満ではMR比の向上の効果が小さく、規定の厚さの上限を超えると高保磁力層20と磁化固定層15の磁気結合強度が小さくなり好ましくない。
磁気結合層21の厚さは0.5nm以上0.9nm以下で安定した反強磁性結合が得られる。磁化固定層15および記憶層17としてはFe、Co、Niのうちの少なくとも一つとB、Cのうちの少なくとも一つを含む合金が好ましく、B、Cの含有量は5原子%以上30原子%以下が好ましい。
記憶層17および磁化固定層15は中間層16の界面付近で少なくとも30%以上のFeが含まれているのが好ましく、それ以下では十分な垂直磁気異方性が得られない。
中間層16としてはMgO、Al23、TiO2、MgAl24等が利用可能で、MgOを用いるとMR比が大きく好ましい。
キャップ層18としてはTa、Ti等の金属あるいはTiN等の導電性窒化物、あるいは薄いMgO等の絶縁層と金属膜を組み合わせて用いてもよい。
記憶装置として構成するには、シリコンウェハ上にCMOS論理回路を形成し、下部電極上に上記積層膜を構成した後、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンミリング、化学エッチング等の方法で適当な形状に形成し、さらに上部電極を形成し、上部電極と下部電極の間に適当な電圧を印加できるように、CMOS回路と接続して用いるのがよい。素子の形状は任意であるが、円形状が特に作成が容易で、かつ高密度に配置できるので好ましい。
本開示の垂直磁化膜を記憶装置に適応すると耐熱性が高く、半導体プロセスへの適応が容易で、磁気抵抗比が大きくデータの読み出し回路の簡素化や読み出し速度の高速化が可能な不揮発性の記憶装置を実現できる。
このようにMR比を高くすることによって、スピン注入の効率を向上して、記憶層17の磁化M17の向きを反転させるために必要な電流密度を低減することができる。
また、情報保持能力である熱安定性を充分に確保することができるため、特性バランスに優れた記憶素子3を構成することができる。
これにより、動作エラーをなくして、記憶素子3の動作マージンを充分に得ることができ、記憶素子3を安定して動作させることができる。
すなわち、安定して動作する、信頼性の高い記憶装置を実現することができる。
また、書き込み電流を低減して、記憶素子3に書き込みを行う際の消費電力を低減することが可能になる。
以上より、情報保持特性が優れた、安定して動作する信頼性の高いメモリを実現することができ、記憶素子3を備えたメモリにおいて、消費電力を低減することができる。
また、図3に示した記憶素子3を備え、図1に示した構成の記憶装置は、製造する際に、一般の半導体MOS形成プロセスを適用できるという利点を有している。
従って、本実施の形態のメモリを、汎用メモリとして適用することが可能になる。
<4.実施の形態に関する実験>

ここで、本実施の形態に係る記憶素子3の保磁力の向上およびMR比が改善されていることを確かめるために、記憶素子3の構成において磁化固定層15と下地層14の間に磁気結合層19と高保磁力層20とを設け、磁気結合層19を磁気結合層22と磁気結合層21の2層とした場合について、各層の材料を選定することにより、図4、5に示す試料を作製し、実験1〜5を行い、その磁気特性を調べた。
本実験の磁気特性評価用の試料は、酸化被覆付きのシリコン基板上に厚さ5nmのTa、厚さ5nmのRuを下地層14として、高保磁力層20としてCo70Pt30の合金膜、磁気結合層19、磁化固定層15、中間層16として1nmのMgO、保護膜として厚さ1nmのRuと厚さ5nmのTa積層膜を用いた。上記評価用の試料は磁化固定層15側のみの評価を行うためのもので、記憶素子3を形成するためには上記中間層のMgOと保護膜の間に記憶層17を挿入する必要がある。
<実験1>
図4Aには、実験1用試料として磁気結合層が1層のものを示している。
図4Aに示すように、
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚3nmのCo70Pt30の合金膜
・磁気結合層19:Ru膜(膜厚:tRu)
・磁化固定層15:膜厚0.5nmのFe64Co1620合金膜と膜厚0.1nmのTa膜と膜厚0.5nmのFe64Co1620合金膜の積層膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・保護膜:膜厚1nmのRuと膜厚5nmのTa積層膜
である。
この試料の極カー光磁気効果による垂直磁化状態の測定結果を図5に示す。300℃で熱処理した後の結果と350℃で熱処理した後の結果それぞれについて示す。
図5はRuの厚さtRuを変化させた試料の結果を示している。図中HCで示した位置は磁化固定層15と高保磁力層20が反平行に磁気結合したまま磁化反転が起こる磁場で、HSFは磁化固定層15と高保磁力層20との磁気的結合が壊れる磁場である。300℃熱処理においては、HSF点における変化が急峻であるが、これはここで反転している磁化固定層15が有効な垂直磁化膜であることを示す。
これに対し、350℃熱処理後の試料のうち例えばtRuが0.5nmのものでは変化がなだらかになっている。この場合は磁化固定層15の垂直磁化が十分でないため反転の変化が緩やかであるが、磁化固定層15の磁化反転が始まる磁場をHSFとすると、HSF以下では磁化固定層15は垂直磁化となっている。
図4Bには、実験1用試料として磁気結合層が2層のものを示している。
図4Bに示すように、
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚3nmのCo70Pt30の合金膜
・磁気結合層22:Ru膜(膜厚:tRu)
・磁気結合層21:膜厚0.05nmTa膜
・磁化固定層15:膜厚0.5nmのFe64Co1620合金膜と膜厚0.1nmのTa膜と膜厚0.5nmのFe64Co1620合金膜の積層膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・保護膜:膜厚1nmのRuと膜厚5nmのTa積層膜
である。
この試料の極カー光磁気効果による垂直磁化状態の測定結果を図6に示す。300℃で熱処理した後の結果と350℃で熱処理した後の結果それぞれについて示す。
磁気結合層19に対しTaを付加すると、前述の付加しない場合の試料に比べて磁気結合層22のRuの厚さに対するHSFの変化が図6の通り小さくなっており、反平行を維持できる範囲が何れの温度においても拡くなっている。
<実験2>
図4Cには、実験2用試料として磁気結合層が2層のものを示している。
図4Cに示すように、
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚3nmのCo70Pt30の合金膜
・磁気結合層22:Ru膜(膜厚:tRu)
・磁気結合層21:Ta膜(膜厚:tTa)
・磁化固定層15:膜厚0.8nmのFe64Co1620合金膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・保護膜:膜厚1nmのRuと膜厚5nmのTa積層膜
である。
この試料の磁気結合層22のRu厚さに対する結合磁場強度HSFの変化を図7に示す。
300℃と350℃熱処理後の結果を示すが、磁気結合層のRuにTaを付加した場合を磁気結合層がRu単体の試料と比較したときに、300℃の熱処理では結合磁場強度の向上はあまり大きくないが、350℃の熱処理ではTaを付加した場合の結合磁場強度が大きく、Taの付加は耐熱性の改善に効果があることが確認できる。
また、Ruの厚みが0.5nm〜0.9nmにおいて磁気的結合が壊れにくくなっており、Ruの厚みは0.5nm〜0.9nmが好適である。
<実験3>
実験3用の試料は磁気結合層が2層であり、図4Dに示すように、
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚3nmのCo70Pt30の合金膜
・磁気結合層22:膜厚0.6nmRu膜
・磁気結合層21:所定の元素を付加
・磁化固定層15:膜厚0.5nmのFe64Co1620合金膜と膜厚0.1nmのTa膜と膜厚0.5nmのFe64Co1620合金膜の積層膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・保護膜:膜厚1nmのRuと膜厚5nmのTa積層膜
である。
この試料は磁気結合層のRuにTaを付加した場合とTa以外の元素を付加した場合の特性の違いを調査するものである。
図8に本試料を300℃で熱処理した後の結合磁場強度HSFの付加層の厚さ依存を示す。付加する元素としてTa、Cr、Mg、Si、W、Nb、Zr、Hf、Moについて示す。同様に図9に350℃熱処理後の結果を示す。付加元素がTa、Cr、W、Nb、Zr、Hf、Moの場合に、結合磁場強度の向上が見られ、特にTaは350℃熱処理後の改善効果が大きい。
改善の見られる膜厚は0.05nm以上0.3nm以下である。
<実験4>
実験4用試料は磁気結合層が2層であり、図4Eに示すように、
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚3nmのCo70Pt30の合金膜
・磁気結合層22:膜厚0.8nmRu膜
・磁気結合層21:所定の元素を付加
・磁化固定層15:膜厚0.8nmのFe64Co1620合金膜と膜厚0.3nmのTa膜と膜厚0.8nmのFe64Co1620合金膜の積層膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・保護膜:膜厚1nmのRuと膜厚5nmのTa積層膜
である。
この試料は磁気結合層のRuにCu、Ag、Auの元素を付加した場合の特性の違いを調査するものである。
図10に本試料を300℃および350℃で熱処理した試料の結合磁場強度HSFの付加層厚さ依存を示す。実験3の結果と同じように、Cu、Ag、Au何れの場合も結合磁場強度の向上効果が見られる。これらの元素では結合磁場強度の改善が見られる厚さは0.1nm以上0.5nm以下である。
<実験5>
実験5は、記憶層を備えた記憶素子を作成し磁気抵抗比を(MR比)を測定するものである。
実験5用試料を図11に示す。図11に示すように、5種類の試料を用意した。
(1)磁気結合層が1層の試料
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚2nmのCoPtの合金膜
・磁気結合層19:膜厚0.8nmRu膜
・磁化固定層15:膜厚0.8nmのFe64Co1620合金膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・記憶層17:膜厚1.4nmのFe64Co1620合金膜
・保護膜:膜厚5nmのTa膜
(2)磁気結合層が2層の試料1
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚2nmのCoPtの合金膜
・磁気結合層22:膜厚0.6nmRu膜
・磁気結合層21:膜厚0.1nmTa膜
・磁化固定層15:膜厚0.8nmのFe64Co1620合金膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・記憶層17:膜厚1.4nmのFe64Co1620合金膜
・保護膜:膜厚5nmのTa膜
(3)磁気結合層が2層の試料2
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚2nmのCoPtの合金膜
・磁気結合層22:膜厚0.6nmRu膜
・磁気結合層21:膜厚0.1nmTa膜
・磁化固定層15:膜厚1.2nmのFe64Co1620合金膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・記憶層17:膜厚1.4nmのFe64Co1620合金膜
・保護膜:膜厚5nmのTa膜
(4)磁気結合層が2層の試料3
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのRu膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚2nmのCoPtの合金膜
・磁気結合層22:膜厚0.7nmRe膜
・磁気結合層21:膜厚0.1nmTa膜
・磁化固定層15:膜厚0.8nmのFe64Co1620合金膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・記憶層17:膜厚1.2nmのFe60Ni3010合金膜
・保護膜:膜厚5nmのTa膜
(5)磁気結合層が2層の試料4
・下地層14:膜厚5nmのTa膜と膜厚5nmのTiN膜の積層膜
・高保磁力層20:膜厚2nmのFePtの合金膜
・磁気結合層22:膜厚0.8nmOs膜
・磁気結合層21:膜厚0.05nmTa膜
・磁化固定層15:膜厚1.0nmのFe50Co10Cr2020合金膜
・中間層16:膜厚1.0nmの酸化マグネシウム膜
・記憶層17:膜厚1.5nmのFe64Co1620合金膜
・保護膜:膜厚5nmのTa膜
表1に上記試料について300℃と350℃で熱処理を行ったもののMR比の測定結果を示す。本実施の形態に係る記憶素子において、特に350℃熱処理においてMR比の改善が大きく、本開示の技術は、耐熱性とMR比の改善に効果が大きいことが分かる。
Figure 0006028834
以上実施の形態について説明してきたが、本開示では、上述の各実施の形態で示した記憶素子3の膜構成に限らず、様々な膜構成を採用することが可能である。
例えば実施の形態では、磁化固定層15をCoFeBとしたが、実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
また、実施の形態では、単一の下地等しか示していないが、それらに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
また実施の形態では、磁化固定層15は2層の強磁性層と非磁性層から成る積層フェリピン構造を用いているが、積層フェリピン構造膜に反強磁性膜を付与した構造でもよい。
もちろん単層でもよい。
また、記憶素子3の膜構成は、記憶層17が磁化固定層15の上側に配置される構成でも、下側に配置される構成でも全く問題はない。
なお本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層と、
上記記憶層に記憶された情報の基準となる磁化を有する磁化固定層と、
上記記憶層と上記磁化固定層の間に設けられる非磁性体による中間層と、
上記磁化固定層に隣接し、上記中間層の反対側に設けられる磁気結合層と、
上記磁気結合層に隣接して設けられる高保磁力層とを有し、
上記記憶層、上記中間層、上記磁化固定層を有する層構造の積層方向に流れる電流に伴って発生するスピントルク磁化反転を利用して上記記憶層の磁化を反転させることにより情報の記憶を行うとともに、
上記磁気結合層が2層の積層構造となっている記憶素子。
(2)上記記憶層および上記磁化固定層は、Fe、Co、Niのうちの少なくとも一つを主成分とし、5原子%以上30原子%以下のB、Cのうちのいずれか一つを含む上記(1)に記載の記憶素子。
(3)上記磁気結合層の2層のうち、
高保磁力層側の層がRu、Re、Osの少なくとも一つからなる(1)又は(2)に記載の記憶素子。
(4)上記磁気結合層の2層のうち、
磁化固定層側の層がCu、Ag、Au、Ta、Zr、Nb、Hf、W、Mo、Crの少なくとも一つからなる(1)乃至(3)のいずれかに記載の記憶素子。
(5)上記磁気結合層の2層のうち、
磁化固定層側の層がTa、Zr、Nb、Hf、W、Mo、Crの少なくとも一つからなり、該層厚が0.05nm乃至0.3nmである(1)乃至(3)のいずれかに記載の記憶素子。
(6)上記磁気結合層の2層のうち、
磁化固定層側の層がCu、Ag、Auの少なくとも一つからなり、
該層厚が0.1nm乃至0.5nmである(1)乃至(3)いずれかに記載の記憶素子。(7)高保磁力層側の層厚が0.5nm乃至0.9nmである(1)乃至(6)いずれかに記載の記憶素子。
1 ゲート電極、2 素子分離層、3 記憶素子、4 コンタクト層、6 ビット線、7 ソース領域、8 ドレイン領域、9 配線、10 半導体基体、14 下地層、15 磁化固定層、16 中間層、17 記憶層、18 キャップ層、19 21 22 磁気結合層 20 高保磁力層

Claims (2)

  1. CoFeBを有する記憶層と、
    CoFeBを有する磁化固定層と、
    上記記憶層と上記磁化固定層との間に位置し、MgOを有する中間と、
    上記磁化固定層に隣接し、上記中間の反対側に設けられる磁気結合層と、
    上記磁気結合層に隣接し、上記磁化固定層の反対側に設けられ、Co、Fe、Pd、Ptのうちの少なくとも一つの合金を含む高保磁力層と、
    を含み、
    上記磁気結合層が2層の積層構造となっており、
    上記磁気結合層の2層のうち、
    高保磁力層側の層がRu、Re、Osの少なくとも一つからなり、
    上記磁気結合層の2層のうち、
    磁化固定層側の層がCu、Ag、Auの少なくとも一つからなっている
    スピントランスファトルク記憶素子。
  2. 情報を磁性体の磁化状態により保持するスピントランスファトルク記憶素子と、
    互いに交差する2種類の配線とを備え、
    上記スピントランスファトルク記憶素子は、
    CoFeBを有する記憶層と、
    CoFeBを有する磁化固定層と、
    上記記憶層と上記磁化固定層との間に位置し、MgOを有する中間と、
    上記磁化固定層に隣接し、上記中間の反対側に設けられる磁気結合層と、
    上記磁気結合層に隣接し、上記磁化固定層の反対側に設けられ、Co、Fe、Pd、Ptのうちの少なくとも一つの合金を含む高保磁力層と、
    を含み、
    上記磁気結合層が2層の積層構造となっており、
    上記磁気結合層の2層のうち、
    高保磁力層側の層がRu、Re、Osの少なくとも一つからなり、
    上記磁気結合層の2層のうち、
    磁化固定層側の層がCu、Ag、Auの少なくとも一つからなり、
    上記2種類の配線の間に上記スピントランスファトルク記憶素子が配置され、
    上記2種類の配線を通じて、上記スピントランスファトルク記憶素子に積層方向の電流が流れ、これに伴ってスピントルク磁化反転が起こる記憶装置。
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