上述した特許文献1に記載の空気入りタイヤは、モノフィラメントのスチールコードにスパイラル状または平面波状の癖付けを施したことで、撚線のスチールコードと、モノフィラメントのスチールコードとの欠点を補ってはいるが、撚線のスチールコードと、モノフィラメントのスチールコードとの中間的なものであるため、耐転がり抵抗性および乗り心地性をより高い次元で改善することは難しい。
また、上述した特許文献2に記載の空気入りタイヤは、ビード部補強インサート層が、スチール単線を配置したものであり、特許文献1に示されているように、スチール単線が座屈し易く耐久性に劣るという欠点があり、耐転がり抵抗性および乗り心地性をより高い次元で改善することは難しい。
また、特許文献3に記載の空気入りタイヤは、補強層が、補強コードの半径方向高さを変えて交互に配列したプライからなるが、補強コードの半径方向高さを変えた程度では、近年の車両の高性能化に伴い、耐転がり抵抗性および乗り心地性をより高い次元で改善することは難しい。
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐転がり抵抗性および乗り心地性をより高い次元で改善することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の発明の空気入りタイヤは、タイヤ幅方向両側の各ビード部と、前記各ビード部のタイヤ径方向外側に連なる各サイドウォール部と、前記各サイドウォール部のタイヤ径方向外側に連なる各ショルダー部と、前記各ショルダー部をタイヤ幅方向で連結するトレッド部と、両端が前記各ビード部にて折り返されてタイヤ周方向に掛け回されるカーカス層と、前記トレッド部から前記各ショルダー部にかけて前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、を有する空気入りタイヤにおいて、正規リムにリム組みし正規内圧の5%が充填した無負荷状態で、前記ビード部から前記サイドウォール部にかけてタイヤ径方向に対して交差するスチールコードをタイヤ周方向に沿って配置してコートゴムで被覆されたスチール補強層を備え、前記スチール補強層が、前記ビード部から前記サイドウォール部の範囲内のタイヤ径方向内側領域で厚さが厚く形成され、タイヤ径方向外側領域で厚さが薄く形成されることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、タイヤ径方向内側領域において、スチール補強層の厚さを厚く形成し、タイヤ周剛性を増加させることで、減衰性が向上するため、乗り心地性を向上することができる。一方、タイヤ径方向外側でベルト層が配置されていないフレックスゾーンに近いタイヤ径方向外側領域は、耐転がり抵抗性への寄与が高く、このタイヤ径方向外側領域においてスチール補強層の厚さを薄く形成し、タイヤ径方向内側領域よりも変形を大きくすることで、耐転がり抵抗性を向上することができる。
また、第2の発明の空気入りタイヤは、第1の発明において、前記スチール補強層は、タイヤ径方向内側領域において前記スチールコードが撚線で形成され、タイヤ径方向外側領域において前記スチールコードが単線で形成されることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、タイヤ径方向内側領域において厚さの厚い撚線からなるスチールコードを用いたことで、タイヤ周剛性が増加するため、減衰性が向上し、乗り心地性を向上することができる。一方、タイヤ径方向外側領域において厚さの薄い単線からなるスチールコードを用いたことで、タイヤ径方向内側領域よりも変形が大きくなるため、耐転がり抵抗性を向上することができる。
また、第3の発明の空気入りタイヤは、第2の発明において、前記スチール補強層は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域において撚線と単線との前記スチールコードが連続して形成されることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域において撚線と単線とのスチールコードが連続して形成されているため、スチールコードの量を変えずに各領域で厚さを変えることができる。この結果、タイヤ径方向での剛性が一定となるため、スチール補強層におけるタイヤ径方向での剛性バランスの変化を抑制することができる。しかも、撚線と単線とのスチールコードが連続して形成されているため、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域との境において、スチール補強層の性質が急激に変化する事態を防ぐことができる。
また、第4の発明の空気入りタイヤは、第1または第2の発明において、前記スチール補強層は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域において前記スチールコードが分断され、各分断端部が各前記領域を跨ぐ重合部を有することを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、厚さの異なるスチール補強層を別々に形成することで、製造が容易となり、製造コストを低減することができる。また、重合部を有し、厚さが異なり性質の違うスチール補強層を重なり合わせることで、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域との境において、スチール補強層の性質が急激に変化する事態を防ぐことができる。
また、第5の発明の空気入りタイヤは、第4の発明において、前記重合部の重合幅が5mm以上15mm以下であることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、重合部の重合幅を5mm以上とすることで、分断された各スチール補強層が剥離するなどの故障の発生を抑制することができる。また、重合部の重合幅を15mm以下とすることで、分断された各スチール補強層の間での摩擦などの損失を低減して耐転がり抵抗性が低下する事態を抑えることができる。
また、第6の発明の空気入りタイヤは、第4または第5の発明において、前記スチール補強層は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域において分断された各スチールコードが、0°以上5°以下の範囲の角度差で配置されることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、分断された各スチールコードの角度差を0°以上5°以下の範囲(実質的に同一)とすることで、分断された各スチール補強層の間での摩擦などの損失を低減して耐転がり抵抗性が低下する事態を抑えることができる。
また、第7の発明の空気入りタイヤは、第1〜第6のいずれか1つの発明において、前記スチール補強層が、ビードヒールからタイヤ断面高さの30%以上60%以下の範囲に設けられることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、スチール補強層を配置する30%以上60%以下の範囲は、乗り心地性および耐転がり抵抗性に寄与がより高い範囲であり、このため、乗り心地性を向上する効果、および耐転がり抵抗性を向上する効果を顕著に得ることができる。
また、第8の発明の空気入りタイヤは、第7の発明において、前記ビードヒールからタイヤ断面高さの30%以上60%以下の範囲における前記ビードヒールから50%以上90%以下の位置を、前記タイヤ径方向内側領域と前記タイヤ径方向外側領域との境とすることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、スチール補強層を配置する30%以上60%以下の範囲において、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域との境の位置を規定することで、乗り心地性を向上する効果、および耐転がり抵抗性を向上する効果を顕著に得ることができる。
また、第9の発明の空気入りタイヤは、第1から第6のいずれか1つの発明において、前記タイヤ径方向外側領域が、タイヤ幅方向最大幅の位置を起点としたタイヤ径方向両側にタイヤ断面高さの7.5%以上15%以下の範囲に含まれることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、上述したように、タイヤ径方向外側でベルト層が配置されていないフレックスゾーンに近いタイヤ径方向外側領域は、耐転がり抵抗性への寄与が高い。そして、7.5%以上15%以下の範囲は、耐転がり抵抗性への寄与がより高く、そのため、タイヤ径方向外側領域の範囲を規定することで、タイヤ径方向外側領域における変形を大きくし、タイヤ径方向内側領域におけるタイヤ周剛性を増加させて、耐転がり抵抗性および乗り心地性を向上する効果を顕著に得ることができる。
また、第10の発明の空気入りタイヤは、第1〜第9のいずれか1つの発明において、前記スチール補強層は、タイヤ径方向内側領域における前記スチールコードの断面形状がタイヤ幅方向で厚く形成され、タイヤ径方向外側領域における前記スチールコードの断面形状がタイヤ幅方向で薄く形成されることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、スチールコードの単線自体の変形によりタイヤ幅方向の断面形状を変えることで、タイヤ径方向での剛性が一定となるため、スチール補強層におけるタイヤ径方向での剛性バランスの変化を抑制することができる。
また、第11の発明の空気入りタイヤは、第1〜第10のいずれか1つの発明において、前記スチール補強層は、前記スチールコードの断面積と50mm幅あたりの打ち込み本数との積が5.0mm2以上8.0mm2以下で、前記スチールコードの強度が3200MPa以上であることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、スチールコードの断面積と50mm幅あたりの打ち込み本数との積を5.0mm2以上とし、スチールコードの強度を3200MPa以上とすることで、適した剛性として操縦安定性の向上を図ることが可能になる。一方、スチールコードの断面積と50mm幅あたりの打ち込み本数との積を8.0mm2以下とし、スチールコードの強度を3200MPa以上とすることで、スチールコードの間隔を適度に保ち、タイヤ構造内での接着性を維持して耐久性を確保することができる。
本発明に係る空気入りタイヤは、耐転がり抵抗性および乗り心地性をより高い次元で改善することができる。
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
図1は、本実施の形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施の形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
本実施の形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すようにトレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。また、この空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト層7と、ベルト補強層8と、スチール補強層9とを備えている。
トレッド部2は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。トレッド面21は、タイヤ周方向に沿って延び、タイヤ赤道線CLと平行なストレート主溝である複数(本実施の形態では4本)の主溝22が設けられている。そして、トレッド面21は、これら複数の主溝22により、タイヤ周方向に沿って延び、タイヤ赤道線CLと平行なリブ状の陸部23が複数形成されている。また、図には明示しないが、トレッド面21は、各陸部23において、主溝22に交差するラグ溝が設けられている。陸部23は、ラグ溝によってタイヤ周方向で複数に分割されている。また、ラグ溝は、トレッド部2のタイヤ幅方向最外側でタイヤ幅方向外側に開口して形成されている。なお、ラグ溝は、主溝22に連通している形態、または主溝22に連通していない形態の何れであってもよい。
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、ベルト層7が設けられていない領域(すなわち、ベルト層7のタイヤ幅方向最大幅よりもタイヤ幅方向外側の領域)であって、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で折り返されることにより形成された空間に配置されるゴム材である。
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向にある角度を持って複数並設されたカーカスコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。カーカスコードは、有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。このカーカス層6は、少なくとも1層で設けられている。
ベルト層7は、少なくとも2層のベルト71,72を積層した多層構造をなし、トレッド部2からショルダー部3にかけてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト71,72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20度〜30度)で複数並設されたコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。また、重なり合うベルト71,72は、互いのコードが交差するように配置されている。
ベルト補強層8は、ベルト層7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に略平行(±5度)でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示せず)がコートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。図1で示すベルト補強層8は、ベルト層7のタイヤ幅方向端部を覆うように配置されている。ベルト補強層8の構成は、上記に限らず、図には明示しないが、ベルト層7全体を覆うように配置された構成、または、例えば2層の補強層を有し、タイヤ径方向内側の補強層がベルト層7よりもタイヤ幅方向で大きく形成されてベルト層7全体を覆うように配置され、タイヤ径方向外側の補強層がベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されている構成、あるいは、例えば2層の補強層を有し、各補強層がベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されている構成であってもよい。すなわち、ベルト補強層8は、ベルト層7の少なくともタイヤ幅方向端部に重なるものである。また、ベルト補強層8は、帯状(例えば幅10[mm])のストリップ材をタイヤ周方向に巻き付けて設けられている。
スチール補強層9は、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし正規内圧の5%が充填した無負荷状態で、ビード部5からサイドウォール部4の範囲に設けられている。スチール補強層9は、タイヤ径方向に対して交差するスチールコードを、タイヤ周方向に沿って配置してコートゴムで被覆したものである。また、スチール補強層9は、図1に示すように、ビードコア51のタイヤ径方向外側であって、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側およびカーカス層6の折返し部のタイヤ幅方向内側に配置されることが好ましい。なお、スチール補強層9は、カーカス層6の折返し部のタイヤ幅方向外側や、カーカス層6の折返し前のタイヤ幅方向内側に配置されてよい。また、図1では、カーカス層6を1層で示しているが、カーカス層6が多層である場合、スチール補強層9は、多層のカーカス層6の間に配置されてもよい。また、図1では、スチール補強層9は、カーカス層6の折返し部の範囲内に設けられているが、カーカス層6の折返し部よりもタイヤ径方向外側に配置されていてもよい。
ここで、正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
そして、スチール補強層9は、上記範囲Haにおけるタイヤ径方向内側領域で厚さが厚く形成され、タイヤ径方向外側領域で厚さが薄く形成されている。タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域とは、上記範囲Haをタイヤ径方向で2つに分けた領域である。また、スチール補強層9の厚さとは、スチールコードおよびコートゴムを含む総厚さであり、スチールコードの厚さ(コード径や撚り構造)を変えてコートゴムの厚さを一定としても、スチールコードの厚さを一定としてコートゴムの厚さを変えてもよい。
このように、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、タイヤ幅方向両側の各ビード部5と、各ビード部5のタイヤ径方向外側に連なる各サイドウォール部4と、各サイドウォール部4のタイヤ径方向外側に連なる各ショルダー部3と、各ショルダー部3をタイヤ幅方向で連結するトレッド部2と、両端が各ビード部5にて折り返されてタイヤ周方向に掛け回されるカーカス層6と、トレッド部2から各ショルダー部3にかけてカーカス層6のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層7と、を有する空気入りタイヤ1において、正規リムにリム組みし正規内圧の5%が充填した無負荷状態で、ビード部5からサイドウォール部4にかけてタイヤ径方向に対して交差するスチールコードをタイヤ周方向に沿って配置してコートゴムで被覆されたスチール補強層9を備え、スチール補強層9が、トレッド部2から各ショルダー部3の範囲内でのタイヤ径方向内側領域で厚さが厚く形成され、タイヤ径方向外側領域で厚さが薄く形成されている。
この空気入りタイヤ1によれば、タイヤ径方向内側領域において、スチール補強層9の厚さを厚く形成し、タイヤ周剛性を増加させることで、減衰性が向上するため、乗り心地性を向上することが可能になる。一方、タイヤ径方向外側でベルト層7が配置されていないフレックスゾーンに近いタイヤ径方向外側領域は、耐転がり抵抗性への寄与が高く、このタイヤ径方向外側領域においてスチール補強層9の厚さを薄く形成し、タイヤ径方向内側領域よりも変形を大きくすることで、耐転がり抵抗性を向上することが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1では、スチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域においてスチールコードが撚線で形成され、タイヤ径方向外側領域においてスチールコードが単線で形成されることが好ましい。
具体的な構成を、図2〜図4の本実施の形態に係る空気入りタイヤのスチール補強層の構成図に示す。なお、図2〜図4では、説明の便宜上、スチール補強層9をタイヤ径方向に沿って配置した形態として示している。また、図2〜図4において、一点鎖線は、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域との境Gを示す。
図2に示すスチール補強層9は、スチールコード91がコートゴム92で被覆されており、タイヤ径方向内側領域においてスチールコード91が撚線91aで形成され、タイヤ径方向外側領域においてスチールコード91が単線91bで形成されている。ここでは、スチールコード91は、撚線91aと単線91bとが連続して形成されている。なお、図2に示すスチールコード91は、3本の単線91bを撚ることで撚線91aを形成しているが、撚線91aを形成する単線91bの本数に限定されない。
この図2に示すスチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域においてスチールコード91が連続して形成されている。
図3に示すスチール補強層9は、スチールコード91がコートゴム92で被覆されており、タイヤ径方向内側領域においてスチールコード91が撚線91aで形成され、タイヤ径方向外側領域においてスチールコード91が単線91bで形成されている。ここでは、スチールコード91は、撚線91aと単線91bとが分断して形成されている。なお、図3に示すスチール補強層9は、分断された撚線91aと単線91bとが、各領域の境Gで分断端部を突き合わせて配置されている。また、図3に示すスチール補強層9は、撚線91aと単線91bとが同じコートゴム92で被覆されているが、撚線91aと単線91bとを別々のコートゴム92で被覆してもよい。
この図3に示すスチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域においてスチールコード91が分断して形成されている。
図4に示すスチール補強層9は、スチールコード91がコートゴム92で被覆されており、タイヤ径方向内側領域においてスチールコード91が撚線91aで形成され、タイヤ径方向外側領域においてスチールコード91が単線91bで形成されている。ここでは、スチールコード91は、撚線91aと単線91bとが分断して形成され、かつ撚線91aと単線91bとを別々のコートゴム92で被覆されている。このスチール補強層9は、各分断端部が各領域を跨いでタイヤ幅方向で重なり合う重合部93を有している。そして、重合部93のタイヤ径方向の中央を各領域の境Gとする。なお、重合部93は、撚線91a側と単線91b側とのタイヤ幅方向で重なる配置は、どちらがタイヤ幅方向内側であっても、どちらがタイヤ幅方向外側であってもよい。
この図4に示すスチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域においてスチールコード91が分断され、各分断端部が各領域を跨ぐ重合部93を有する。
従って、図1〜図4に示すように、本実施の形態の空気入りタイヤ1では、スチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域においてスチールコード91が撚線91aで形成され、タイヤ径方向外側領域においてスチールコード91が単線91bで形成される。
例えば、図5の本実施の形態に係る空気入りタイヤのスチール補強層のスチールコードの断面図に示すように、単線91bのコード径αを0.28mmとし、撚線91aを[1×3×0.28HTFC]として構成した場合、撚線91aのコード径βは0.83mmとなる。このコード径α,βの差により、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域とでスチール補強層9の厚さを変える。
この空気入りタイヤ1によれば、タイヤ径方向内側領域において厚さの厚い撚線91aからなるスチールコード91を用いたことで、タイヤ周剛性が増加するため、減衰性が向上し、乗り心地性を向上することが可能になる。一方、タイヤ径方向外側領域において厚さの薄い単線91bからなるスチールコード91を用いたことで、タイヤ径方向内側領域よりも変形が大きくなるため、耐転がり抵抗性を向上することが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、図2に示すように、スチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域において撚線91aと単線91bとのスチールコード91が連続して形成される。
この空気入りタイヤ1によれば、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域において撚線91aと単線91bとのスチールコード91が連続して形成されているため、スチールコード91の量を変えずに各領域で厚さを変えることが可能になる。この結果、タイヤ径方向での剛性が一定となるため、スチール補強層9におけるタイヤ径方向での剛性バランスの変化を抑制することが可能になる。しかも、撚線91aと単線91bとのスチールコード91が連続して形成されているため、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域との境Gにおいて、スチール補強層9の性質が急激に変化する事態を防ぐことが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、図4に示すように、スチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域においてスチールコード91が分断され、各分断端部が各領域を跨ぐ重合部93を有する。
この空気入りタイヤ1によれば、厚さの異なるスチール補強層9を別々に形成することで、製造が容易となり、製造コストを低減することが可能になる。また、重合部93を有し、厚さが異なり性質の違うスチール補強層9を重なり合わせることで、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域との境Gにおいて、スチール補強層9の性質が急激に変化する事態を防ぐことが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、図4に示すように、重合部93の重合幅Wが5mm以上15mm以下であることが好ましい。
この空気入りタイヤ1によれば、重合部93の重合幅Wを5mm以上とすることで、分断された各スチール補強層9が剥離するなどの故障の発生を抑制することが可能になる。また、重合部93の重合幅Wを15mm以下とすることで、分断された各スチール補強層9の間での摩擦などの損失を低減して耐転がり抵抗性が低下する事態を抑えることが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1では、図4に示すように、スチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域およびタイヤ径方向外側領域において分断された各スチールコード91が、0°以上5°以下の範囲の角度差で配置されることが好ましい。
この空気入りタイヤ1によれば、分断された各スチールコード91の角度差を0°以上5°以下の範囲(実質的に同一)とすることで、分断された各スチール補強層9の間での摩擦などの損失を低減して耐転がり抵抗性が低下する事態を抑えることが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すように、スチール補強層9が、ビードヒール5aからタイヤ断面高さHの30%以上60%以下の範囲Haに設けられることが好ましい。なお、図1において、スチール補強層9は、タイヤ断面高さHの60%以下の範囲Haの全域に配置されている形態を示している。
ここで、ビードヒール5aは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みした状態で、ビード部5のタイヤ径方向内側端がリムのリム径を定める部分に接触した部分をいう。また、タイヤ断面高さHは、タイヤ外径とリム径との差の1/2をいう。
この空気入りタイヤ1によれば、スチール補強層9を配置する上記範囲Haは、乗り心地性および耐転がり抵抗性に寄与がより高い範囲であり、このため、乗り心地性を向上する効果、および耐転がり抵抗性を向上する効果を顕著に得ることが可能になる。
なお、範囲Haは、ビードヒール5aからタイヤ断面高さHの40%以上60%以下とすることが好ましい。範囲Haを、ビードヒール5aからタイヤ断面高さHの40%以上60%以下とすることで、タイヤ径方向内側領域において、よりタイヤ周剛性の向上が望めるため、減衰性をより向上することが可能である。また、タイヤ径方向内側領域においてタイヤ周剛性がより向上することで、タイヤ径方向外側領域がタイヤ径方向内側領域よりも変形がより大きくなるため、耐転がり抵抗性をより向上することが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すように、ビードヒール5aからタイヤ断面高さHの30%以上60%以下の範囲Haにおいて、ビードヒール5aから50%以上90%以下の位置を、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域との境Gとすることが好ましい。なお、図1では、ビードヒール5aからタイヤ断面高さHの30%以上60%以下の範囲Haにおけるビードヒール5aから50%の位置を境Gとして示している。
この空気入りタイヤ1によれば、範囲Haにおいて、タイヤ径方向内側領域とタイヤ径方向外側領域との境Gの位置を規定することで、乗り心地性を向上する効果、および耐転がり抵抗性を向上する効果を顕著に得ることが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すように、タイヤ径方向外側領域が、タイヤ幅方向最大幅の位置Aを起点としたタイヤ径方向両側にタイヤ断面高さHの7.5%以上15%以下の範囲Hbに含まれることが好ましい。
この空気入りタイヤ1によれば、上述したように、タイヤ径方向外側でベルト層7が配置されていないフレックスゾーンに近いタイヤ径方向外側領域は、耐転がり抵抗性への寄与が高い。そして、上記範囲Hbは、耐転がり抵抗性への寄与がより高く、そのため、タイヤ径方向外側領域の範囲Hbを規定することで、タイヤ径方向外側領域における変形を大きくし、タイヤ径方向内側領域におけるタイヤ周剛性を増加させて、耐転がり抵抗性および乗り心地性を向上する効果を顕著に得ることが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1では、図6の本実施の形態に係る空気入りタイヤのスチール補強層のスチールコードの断面図に示すように、スチール補強層9は、タイヤ径方向内側領域におけるスチールコード91の断面形状がタイヤ幅方向で厚く形成され、タイヤ径方向外側領域におけるスチールコード91の断面形状がタイヤ幅方向で薄く形成される。
この空気入りタイヤ1によれば、図6に示すように、スチールコード91の単線自体の変形によりタイヤ幅方向の断面形状を変えることで、タイヤ径方向での剛性が一定となるため、スチール補強層9におけるタイヤ径方向での剛性バランスの変化を抑制することが可能になる。
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1では、スチール補強層9は、スチールコード91の断面積と50mm幅あたりの打ち込み本数との積が5.0mm2以上8.0mm2以下で、スチールコード91の強度が3200MPa以上であることが好ましい。
この空気入りタイヤ1によれば、スチールコード91の断面積と50mm幅あたりの打ち込み本数との積を5.0mm2以上とし、スチールコード91の強度を3200MPa以上とすることで、適した剛性として操縦安定性の向上を図ることが可能になる。一方、スチールコード91の断面積と50mm幅あたりの打ち込み本数との積を8.0mm2以下とし、スチールコード91の強度を3200MPa以上とすることで、スチールコード91の間隔を適度に保ち、タイヤ構造内での接着性を維持して耐久性を確保することが可能になる。
本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、耐転がり抵抗性や乗り心地性や操縦安定性に関する性能試験が行われた(図7〜図10参照)。
この性能試験では、タイヤサイズ225/60R18の空気入りタイヤを試験タイヤとし、当該試験タイヤを正規リム(18×7.5JJ)にリム組みし、正規内圧(220kPa)を充填した。
耐転がり抵抗性の評価方法は、上記試験タイヤに、荷重(5.26kN)を加えて、スチールドラム式転がり抵抗試験機にて、速度80km/hで30分の予備走行後の転がり抵抗が測定される。そして、この測定結果に基づいて、従来例1を基準(100)とした指数で示し、この指数が大きいほど転がり抵抗が低く耐転がり抵抗性に優れていることを示している。
乗り心地性の評価方法では、上記試験タイヤを試験車両(排気量2500ccフロントエンジン前輪駆動国産車)に装着し、この試験車両にて、平坦で乾燥したテストコースを速度60[km/h]で走行し、走行振動について、熟練のテストドライバー1名による官能評価によって行う。この官能評価は、走行振動を5段階で評価し、3回の平均を、従来例1の空気入りタイヤを基準(100)とした指数で示し、この指数が大きいほど乗り心地性が優れていることを示している。
操縦安定性の評価方法は、上記試験タイヤを試験車両(排気量2500ccフロントエンジン前輪駆動国産車)に装着し、この試験車両にて、乾燥試験コースを速度60km/hから120km/hで走行し、直進時における直進安定性ならびにレーンチェンジ時およびコーナリング時における旋回安定性、剛性感、操舵性の項目について、熟練のテストドライバー2名による官能評価によって行う。この官能評価は、各項目を1点〜10点の評点をつけ、テストドライバー2名の評点の平均を求め、これにより従来例1を基準(100)とした指数で示し、この指数が大きいほど操縦安定性が優れていることを示している。
図7および図8にかかる従来例1の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが同じ撚線で形成されているとともにコートゴムの厚さが均等である。従来例2の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが同じ単線で形成されているとともにコートゴムの厚さが均等である。
一方、図7および図8にかかる実施例の空気入りタイヤは、重合部を有していない。そして、実施例1の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが同じ撚線で形成されており、タイヤ径方向内側領域のコートゴムの厚さが厚く形成されている。実施例2の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが異なる撚線で形成されており、タイヤ径方向内側領域が厚さを厚く形成され、タイヤ径方向外側領域が厚さを薄く形成されている。実施例3〜実施例17の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが撚線と単線で形成されており、タイヤ径方向内側領域が撚線で厚さを厚く形成され、タイヤ径方向外側領域が単線で厚さを薄く形成されている。
また、図9および図10にかかる従来例1の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが同じ撚線で形成されているとともにコートゴムの厚さが均等である。従来例2の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが同じ単線で形成されているとともにコートゴムの厚さが均等である。
一方、図9および図10にかかる実施例の空気入りタイヤは、重合部を有している。そして、実施例18の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが同じ撚線で形成されており、タイヤ径方向内側領域のコートゴムの厚さが厚く形成されている。実施例19の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが異なる撚線で形成されており、タイヤ径方向内側領域が厚さを厚く形成され、タイヤ径方向外側領域が厚さを薄く形成されている。実施例20〜実施例39の空気入りタイヤでは、タイヤ径方向外側領域およびタイヤ径方向内側領域において、各スチール補強層は、スチールコードが撚線と単線で形成されており、タイヤ径方向内側領域が撚線で厚さが厚く形成され、タイヤ径方向外側領域が単線で厚さが薄く形成されている。
そして、図7〜図10の試験結果に示すように、実施例1〜実施例39の空気入りタイヤは、耐転がり抵抗性や乗り心地性が改善されていることが分かる。