[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る減速機構及びこれを備えたモータ回転力伝達装置につき、図面を参照して詳細に説明する。
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車101は、駆動源をエンジンとする前輪側の動力系、及び駆動源を電動モータとする後輪側の動力系が用いられ、モータ回転力伝達装置1,エンジン102,トランスアクスル103,一対の前輪104及び一対の後輪105を備えている。
モータ回転力伝達装置1は、四輪駆動車101における後輪側の動力系に配置され、かつ四輪駆動車101の車体(図示せず)に支持されている。
そして、モータ回転力伝達装置1は、電動モータ4(後述)のモータ回転力に基づく駆動力を一対の後輪105に伝達する。これにより、電動モータ4のモータ回転力が減速伝達機構5及びリヤディファレンシャル3(共に後述)を介してリヤアクスルシャフト106に出力され、一対の後輪105が駆動される。モータ回転力伝達装置1等の詳細については後述する。
エンジン102は、四輪駆動車101における前輪側の動力系に配置されている。これにより、エンジン102の駆動力がトランスアクスル103を介してフロントアクスルシャフト107に出力され、一対の前輪104が駆動される。
(モータ回転力伝達装置1の全体構成)
図2はモータ回転力伝達装置の全体を示す。図2に示すように、モータ回転力伝達装置1は、リヤアクスルシャフト106(図1に示す)の軸線を軸線O1(第1の軸線)とするハウジング2と、モータ回転力に基づく駆動力を後輪105(図1に示す)に配分するリヤディファレンシャル3と、リヤディファレンシャル3を作動させるためのモータ回転力を発生させる電動モータ4と、電動モータ4のモータ回転力を減速して駆動力をリヤディファレンシャル3に伝達する減速伝達機構5とから大略構成されている。
(ハウジング2の構成)
ハウジング2は、後述する自転力付与部材52の他、リヤディファレンシャル3を収容する第1のハウジングエレメント20、電動モータ4を収容する第2のハウジングエレメント21、及び第2のハウジングエレメント21の片側開口部(第1のハウジングエレメント20側の開口部とは反対側の開口部)を閉塞する第3のハウジングエレメント22を有し、車体に配置されている。
第1のハウジングエレメント20は、ハウジング2の軸線方向一方側(図1の左側)に配置され、全体が第2のハウジングエレメント21側に開口する段状の有底円筒部材によって形成されている。第1のハウジングエレメント20の底部には、リヤアクスルシャフト106(図1に示す)を挿通させるシャフト挿通孔20a、及びシャフト挿通孔20aの内周面でその径方向に突出する内フランジ20bが設けられている。内フランジ20bには、両フランジ端面のうち第2のハウジングエレメント21側のフランジ端面及びシャフト挿通孔20aの内周面に開口する円環状の切り欠き20cが設けられている。第1のハウジングエレメント20の開口端面には、第2のハウジングエレメント21側に突出する円環状の凸部23が一体に設けられている。凸部23の外周面は、第1のハウジングエレメント20の最大外径よりも小さい外径をもち、かつ軸線O4(第4の軸線)を中心軸線とする円周面で形成されている。第1のハウジングエレメント20の内周面は、リヤアクスルシャフト106の外周面との間にシャフト挿通孔20aを封止するシール部材24が介在して配置されている。図2において、軸線O4は軸線O1に一致して描かれている。
第2のハウジングエレメント21は、ハウジング2の軸線方向中間部に配置され、全体が軸線O4の両方向に開口する無底円筒部材によって形成されている。第2のハウジングエレメント21の片側開口部(第1のハウジングエレメント20側の開口部)には、電動モータ4と減速伝達機構5との間に介在する段状の内フランジ21aが一体に設けられている。内フランジ21aの内周面にはレース取付用の円環部材25が取り付けられている。第2のハウジングエレメント21の片側開口端面(第1のハウジングエレメント20側の開口端面)には、第1のハウジングエレメント20側に突出する円環状の凸部27が一体に設けられている。凸部27の外周面は、第2のハウジングエレメント21の最大外径よりも小さく、かつ凸部23の外径と略同一の外径をもち、軸線O4を中心軸線とする円周面で形成されている。
第3のハウジングエレメント22は、ハウジング2の軸線方向他方側に配置され、全体が第2のハウジングエレメント21側に開口する段状の有底円筒部材によって形成されている。第3のハウジングエレメント22の底部には、リヤアクスルシャフト106を挿通させるシャフト挿通孔22aが設けられている。シャフト挿通孔22aの内側開口周縁には、電動モータ4側に突出するステータ取付用の円筒部22bが一体に設けられている。第3のハウジングエレメント22の内周面は、リヤアクスルシャフト106の外周面との間にシャフト挿通孔22aを封止するシール部材28が介在して配置されている。第3のハウジングエレメント22には、玉軸受46(外輪461)の減速伝達機構5と反対側への移動を規制する円環状の段差面22cが設けられている。
(リヤディファレンシャル3の構成)
リヤディファレンシャル3は、デフケース30,ピニオンギヤシャフト31,一対のピニオンギヤ32及び一対のサイドギヤ33を有するベベルギヤ式の差動機構からなり、モータ回転力伝達装置1の一方側(図2では左側)に配置されている。
これにより、デフケース30の回転力がピニオンギヤシャフト31からピニオンギヤ32を介してサイドギヤ33に配分され、さらにサイドギヤ33からリヤアクスルシャフト106(図1に示す)を介して左右の後輪105(図1に示す)に伝達される。
一方、左右の後輪105間に駆動抵抗差が発生すると、デフケース30の回転力がピニオンギヤ32の自転によって左右の後輪105に差動配分される。
デフケース30は、軸線O1上に配置され、かつ第1のハウジングエレメント20に玉軸受34を介して、また電動モータ4のモータ軸42に玉軸受35を介してそれぞれ回転可能に支持されている。そして、デフケース30は、電動モータ4のモータ回転力に基づく駆動力を減速伝達機構5から受けて軸線O1の回りに回転する。
デフケース30には、差動機構部(ピニオンギヤシャフト31,ピニオンギヤ32及びサイドギヤ33)を収容する収容空間30a、及び収容空間30aに連通して左右のリヤアクスルシャフト106をそれぞれ連結する一対のシャフト挿通孔30bが設けられている。
また、デフケース30には、減速伝達機構5に対向する円環状のフランジ30cが一体に設けられている。フランジ30cには、軸線O1の回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン取付孔300cが設けられている。デフケース30の軸線方向一方側端部には玉軸受34(内輪340)のモータ軸42側への移動を規制する円環状の段差面30dが、また軸線方向他方側端部には減速伝達機構5側に開口する円環状の凹孔30eがそれぞれ設けられている。凹孔30e内には、玉軸受35(外輪351)のデフケース30側への移動を規制する円環状の段差面300eが設けられている。
ピニオンギヤシャフト31は、デフケース30の収容空間30aで軸線O1に直交する軸線L上に配置され、かつ軸線L回りの回転及び軸線L方向の移動がピン36によって規制されている。
一対のピニオンギヤ32は、ピニオンギヤシャフト31に回転可能に支持され、かつデフケース30の収容空間30aに収容されている。
一対のサイドギヤ33は、デフケース30の収容空間30aに収容され、かつシャフト挿通孔30bを挿通するリヤアクスルシャフト106(図1に示す)にスプライン嵌合によって連結されている。そして、一対のサイドギヤ33は、そのギヤ軸を一対のピニオンギヤ32のギヤ軸に直交させ、一対のピニオンギヤ32に噛合する。
(電動モータ4の構成)
電動モータ4は、ステータ40,ロータ41及びモータ軸42(偏心部付きのモータ軸)を有し、モータ回転力伝達装置1の他方側(図2では右側)に配置され、軸線O1上でリヤディファレンシャル3に減速伝達機構5を介して連結されている。また、電動モータ4は、ステータ40がECU(Electronic Control Unit:図示せず)に接続されている。そして、電動モータ4は、ステータ40がECUから制御信号を入力してリヤディファレンシャル3を作動させるためのモータ回転力をロータ41との間で発生させ、ロータ41をモータ軸42と共に回転させる。
ステータ40は、電動モータ4の外周側に配置され、かつ第2のハウジングエレメント21における内フランジ21aに取付ボルト43によって取り付けられている。
ロータ41は、電動モータ4の内周側に配置され、かつモータ軸42の外周面に取り付けられている。
モータ軸42は、一方側端部が円環部材25の内周面に玉軸受44及びスリーブ45を介して、また他方側端部が第3のハウジングエレメント22の内周面に玉軸受46を介してそれぞれ回転可能に支持されている。また、モータ軸42は、軸線O1上に配置され、全体がリヤアクスルシャフト106(図1に示す)を挿通させる円筒状の軸部材によって形成されている。
モータ軸42の軸線方向一方側端部には、その軸線(軸線O1)に偏心量δ1をもって平行に偏心する軸線O2(第2の軸線)をもつ平面円形状の偏心部42a、及び軸線O1に偏心量δ2(δ1=δ2=δ)をもって平行に偏心する軸線O2´(第2の軸線)をもつ平面円形状の偏心部42bが一体に設けられている。また、モータ軸42の軸線方向一方側端部には、玉軸受35(内輪350)の減速伝達機構5側への移動を規制する円環状の段差面42cが設けられている。そして、一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとは、軸線O1の回りに等間隔(180°)をもって並列する位置に配置されている。すなわち、一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとは、軸線O2から軸線O1までの距離と軸線O2´から軸線O1までの距離とを等しく、かつ軸線O2と軸線O2´との間の軸線O1回りの距離を等しくするようにモータ軸42の外周面に配置されている。また、偏心部42aと偏心部42bとは、軸線O1の方向に沿って並列する位置に配置されている。
偏心部42aには、玉軸受54の内輪540の電動モータ4側への移動を規制する段差面42e(図5及び図6に示す)が設けられている。また、偏心部42aには、玉軸受54のリヤディファレンシャル3側で外周面に開口する円環状の凹溝42f(図5及び図6に示す)が設けられている。凹溝42fには、玉軸受54(内輪540)のリヤディファレンシャル3側への移動を規制する止め輪(スナップリング)60が取り付けられている。
同様に、偏心部42bには、玉軸受56の内輪560のリヤディファレンシャル3側への移動を規制する段差面42g(図5及び図6に示す)が設けられている。また、偏心部42bには、玉軸受56の電動モータ4側で外周面に開口する円環状の凹溝42h(図5及び図6に示す)が設けられている。凹溝42hには、玉軸受56(内輪560)の電動モータ4側への移動を規制する止め輪(スナップリング)61が取り付けられている。
モータ軸42の軸線方向他方側端部には、その外周面と円筒部22bの内周面との間に介在する回転角度検出器としてのレゾルバ47が配置されている。また、モータ軸42の軸線方向他方側端部には、玉軸受46(内輪460)の減速伝達機構5側への移動を規制する円環状の段差面42dが設けられている。レゾルバ47は、ステータ470及びロータ471を有し、第3のハウジングエレメント22内に収容されている。ステータ470は円筒部22bの内周面に、ロータ471はモータ軸42の外周面にそれぞれ取り付けられている。
(減速伝達機構5の構成)
図3は減速伝達機構を示す。図4は入力機構を示す。本実施の形態において、減速伝達機構は、偏心揺動減速機構であり、偏心揺動減速機構のうちでも少歯数差インボリュート減速機構である。偏心揺動減速機構を用いることにより大きな減速比を得ることができる。図2及び図3に示すように、減速伝達機構5は、入力機構5A(一対の入力部材50・51),自転力付与部材52,出力部材53及び玉軸受54,56を有し、リヤディファレンシャル3と電動モータ4との間に介在して配置されている。そして、減速伝達機構5は、前述したように、電動モータ4のモータ回転力を減速して駆動力をリヤディファレンシャル3に伝達する。
一方の入力部材50は、軸線O3(第3の軸線)を中心軸線とする中心孔50aを有する外歯歯車からなり、他方の入力部材51のリヤディファレンシャル3側に配置され、かつ中心孔50aの内周面と偏心部42aとの間に玉軸受54を介して回転可能に支持されている。一方の入力部材50の外歯歯車は、ねじれ方向を例えば左ねじれ方向とするとともに、ねじれ角θをθ=θ1(図4に示す)とするはすば歯車によって形成されている。そして、一方の入力部材50は、電動モータ4からモータ回転力を受けて偏心量δをもつ矢印m1,m2方向の円運動(軸線O回りの公転運動)を行う。図2及び図3において、軸線O3は軸線O2に一致して描かれている。
一方の入力部材50には、軸線O3(軸線O2)回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン挿通孔(貫通孔)50bが設けられている。ピン挿通孔50bの孔径は、出力部材53の外径に針状ころ軸受55の外径を加えた寸法よりも大きい寸法に設定されている。
一方の入力部材50のリヤディファレンシャル側端部には、中心孔50aの内周面から突出して玉軸受54の外輪541に電動モータ4側へのアキシアル荷重を付与する荷重付与部としての円環状の内フランジ50dが設けられている。
一方の入力部材50のモータ側端面には、電動モータ4側に突出する円環状のリング取付部50e(図5及び図6に示す)が設けられている。リング取付部50eには、その内周面に開口する円環状の凹溝500e(図5及び図6に示す)が設けられている。凹溝500eには、玉軸受54の外輪541にリヤディファレンシャル3側へのアキシアル荷重を付与する荷重付与部としての止め輪(スナップリング)62が取り付けられている。
一方の入力部材50の外周面には、軸線O3を中心軸線とするピッチ円のインボリュート歯形をもつ外歯50cが設けられている。外歯50cの歯数Z1は例えばZ1=195に設定されている。
他方の入力部材51は、軸線O3´を中心軸線とする中心孔51aを有する外歯歯車からなり、一方の入力部材50の電動モータ4側に配置され、かつ中心孔51aの内周面と偏心部42bとの間に玉軸受56を介して回転可能に支持されている。他方の入力部材51の外歯歯車は、一方の入力部材50の外歯歯車とねじれ方向(例えば右ねじれ方向)を異にするとともに、ねじれ角θ(θ=θ2=θ1:図4に示す)を等しくするはすば歯車によって形成されている。そして、他方の入力部材51は、電動モータ4からモータ回転力を受けて偏心量δをもつ矢印m1,m2方向の円運動(軸線O1回りの公転運動)を行う。図2及び図3において、軸線O3´は軸線O2´に一致して描かれている。
他方の入力部材51には、軸線O3´(軸線O2´)回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン挿通孔(貫通孔)51bが設けられている。ピン挿通孔51bの孔径は、出力部材53の外径に針状ころ軸受57の外径を加えた寸法よりも大きい寸法に設定されている。
他方の入力部材51のモータ側端部には、中心孔51aの内周面から突出して玉軸受56の外輪561にリヤディファレンシャル3側へのアキシアル荷重を付与する荷重付与部としての円環状の内フランジ51dが設けられている。
他方の入力部材51のリヤディファレンシャル側端面には、リヤディファレンシャル3側に突出する円環状のリング取付部51e(図5及び図6に示す)が設けられている。リング取付部51eには、その内周面に開口する円環状の凹溝510e(図5及び図6に示す)が設けられている。凹溝510eには、玉軸受56の外輪541に電動モータ4側へのアキシアル荷重を付与する荷重付与部としての止め輪(スナップリング)63が取り付けられている。
他方の入力部材51の外周面には、軸線O3´を中心軸線とするピッチ円のインボリュート歯形をもつ外歯51cが設けられている。外歯51cの歯数Z2は例えばZ2=195に設定されている。
自転力付与部材52は、軸線O4(第4の軸線)を中心軸線とする一対の内歯歯車(第1の内歯歯車52A,第2の内歯歯車52B)からなり、第1のハウジングエレメント20と第2のハウジングエレメント21との間に介在して配置され、全体が軸線O4の両方向に開口してハウジング2の一部を構成する無底円筒部材によって形成されている。そして、自転力付与部材52は、一対の入力部材50,51に噛合し、電動モータ4のモータ回転力を受けて公転する一方の入力部材50に矢印n1,n2方向の自転力を、また他方の入力部材51に矢印l1,l2方向の自転力をそれぞれ付与する。図2及び図3において、軸線O4は軸線O1に一致して描かれている。
第1の内歯歯車52Aは自転力付与部材52のリヤディファレンシャル3側に、また第2の内歯歯車52Bは自転力付与部材52の電動モータ4側にそれぞれ軸線O4方向に互いに並列して配置されている。
第1の内歯歯車52Aは、一方の入力部材50のはすば歯車とねじれ方向(例えば右ねじれ方向)を異にするとともに、ねじれ角を等しくするはすば歯車によって形成されている。第2の内歯歯車52Bは、他方の入力部材51bのはすば歯車とねじれ方向(例えば左ねじれ方向)を異にするとともに、ねじれ角を等しくするはすば歯車によって形成されている。これにより、一方の入力部材50及び他方の入力部材51が一方向への回転によって互いに接近する方向に、また他方向への回転によって互いに離間する方向にそれぞれ移動して玉軸受54,56(外輪541,561)にアキシアル荷重P,−Pを付与する。入力部材50,51の一方向への回転によって図2に実線で示すように玉軸受54にはアキシアル荷重Pが電動モータ4側に、また玉軸受56にはアキシアル荷重−Pがリヤディファレンシャル3側にそれぞれ付与される。入力部材50,51の他方向への回転によって図2に二点鎖線で示すように玉軸受54にはアキシアル荷重−Pがリヤディファレンシャル3側に、また玉軸受56にはアキシアル荷重Pが電動モータ4側にそれぞれ付与される。
第1の内歯歯車52Aには、一方の入力部材50の外歯50cに噛合し、かつ軸線O4(軸線O1)を中心軸線とするピッチ円のインボリュート歯形の内歯520Aが設けられている。内歯520Aの歯数Z3は例えばZ3=208に設定されている。第2の内歯歯車52Bには、他方の入力部材51の外歯51cに噛合し、かつ軸線O4(軸線O1)を中心軸線とするピッチ円のインボリュート歯形の内歯520Bが設けられている。内歯520Aの歯数Z4は例えばZ4=Z3=208に設定されている。減速伝達機構5の減速比αはα=Z2/(Z3−Z2)から算出される。
自転力付与部材52には、凸部23の外周面に嵌合する第1の嵌合部52a、及び凸部27の外周面に嵌合する第2の嵌合部52bが軸線O4の方向に所定の間隔をもって設けられている。
出力部材53は、一方側端部にねじ部53aを有するとともに、他方側端部に頭部53bを有する複数(本実施の形態では6個)のボルトからなり、一方の入力部材50のピン挿通孔50b及び他方の入力部材51のピン挿通孔51bを挿通してデフケース30のピン取付孔300cにねじ部53aが取り付けられている。また、出力部材53は、頭部53bと他方の入力部材51との間に介在する円環状のスペーサ58を挿通し、軸線O1の回りに等間隔をもって配置されている。そして、出力部材53は、自転力付与部材52によって付与された自転力を一対の入力部材50,51から受けてデフケース30にその回転力として出力するように構成されている。
出力部材53の外周面であって、ねじ部53aと頭部53bとの間に介在する部位には、一方の入力部材50におけるピン挿通孔50bの内周面との接触抵抗を低減するための針状ころ軸受55が、また他方の入力部材51におけるピン挿通孔51bとの接触抵抗を低減するための針状ころ軸受57がそれぞれ取り付けられている。針状ころ軸受55はレース550を、また針状ころ軸受57はレース570をそれぞれ有する。針状ころ軸受55のレース550と針状ころ軸受57のレース570との間には、出力部材53を挿通させる無底円筒状のスペーサ59Aが介在して配置されている。針状ころ軸受55とフランジ30cとの間には、出力部材53を挿通させる円環状のスペーサ59Bが介在して配置されている。
図5及び図6はモータ回転力伝達装置の要部を示す。図5及び図6に示すように、玉軸受54は、その内外周部で互いに並列する内外2つの軌道輪540,541(内輪540,外輪541)、及び内輪540と外輪541との間で転動する転動体542を有し、一方の入力部材50における中心孔50aの内周面とモータ軸42における偏心部42aの外周面との間に介在して配置されている。
内輪540は、一方側端面を止め輪60に、また他方側端面を段差面42eにそれぞれ当接させ、偏心部42aの外周面にしまりばめによって取り付けられている。
外輪541は、一方側端面を内フランジ50dのフランジ端面に、また他方側端面を止め輪62に当接させ、中心孔50aの内周面にすきまばめによって取り付けられている。外輪541には、一方の入力部材50の一方向への回転によって内フランジ50dから電動モータ4側にアキシアル荷重Pが、また一方の入力部材50の他方向への回転によって止め輪62からリヤディファレンシャル3側にアキシアル荷重−Pがそれぞれ付与される。
転動体542は、内輪540と外輪541との間に介在して配置され、かつ保持器(図示せず)によって転動可能に保持されている。
同様に、玉軸受56は、その内外周部で互いに並列する内外2つの軌道輪560,561(内輪560,外輪541)、及び内輪560と外輪561との間で転動する転動体562を有し、他方の入力部材51における中心孔51aの内周面とモータ軸42における偏心部42bの外周面との間に介在して配置されている。
内輪560は、一方側端面を段差面42gに、また他方側端面を止め輪61にそれぞれ当接させ、偏心部42bの外周面にしまりばめによって取り付けられている。
外輪561は、一方側端面を止め輪63に、また他方側端面を内フランジ51dのフランジ端面にそれぞれ当接させ、中心孔51aの内周面にすきまばめによって取り付けられている。外輪561には、他方の入力部材51の一方向への回転によって内フランジ51dからリヤディファレンシャル3側にアキシアル荷重−Pが、また他方の入力部材51の他方向への回転によって止め輪63から電動モータ4側にアキシアル荷重Pがそれぞれ付与される。
転動体562は、内輪560と外輪561との間に介在して配置され、かつ保持器(図示せず)によって転動可能に保持されている。
このように構成されたモータ回転力伝達装置においては、一方の入力部材50の軸線O2回りの回転による他方の入力部材51側への移動によって玉軸受54にアキシアル荷重Pが、また他方の入力部材51の軸線O2´回りの回転による一方の入力部材50側への移動によって玉軸受56にアキシアル荷重−P(|−P|=|P|)がそれぞれ予圧として作用する。
上記した予圧を玉軸受54,56に与えるには、電動モータ4のモータ軸42を例えば一方向(図3に示す矢印m1方向)に回転させる。この場合、自転力付与部材52の第1の内歯歯車52Aでは、一方の入力部材50において偏心量δをもって行われる矢印m1(図3に示す)方向の円運動に基づく回転力を受ける。これに対して、一方の入力部材50では、第1の内歯歯車52Aから自転力を矢印l1(図3に示す)方向に受けるとともに、アキシアル荷重Pを電動モータ4側(他方の入力部材51に接近する方向)に受ける。
同様に、自転力付与部材52の第2の内歯歯車52Bでは、他方の入力部材51において偏心量δをもって行われる矢印m1(図3に示す)方向の円運動に基づく回転力を受ける。これに対して、他方の入力部材51では、自転力付与部材52の第2の内歯歯車52Bから自転力を矢印n1(図3に示す)方向に受けるとともに、アキシアル荷重−Pをリヤディファレンシャル3側(一方の入力部材50に接近する方向)に受ける。
このため、一方の入力部材50における内フランジ50dが玉軸受54の外輪541を他方の入力部材51側に、また他方の入力部材51における内フランジ51dが玉軸受56の外輪561を一方の入力部材50側にそれぞれ押し付ける。
これにより、図5に示すように、玉軸受54の外輪541が内フランジ50dからアキシアル荷重Pを他方の入力部材51側に、また玉軸受56の外輪561が内フランジ51dからアキシアル荷重−Pを一方の入力部材50側にそれぞれ受けて移動し、玉軸受54,56のアキシアル内部すきまが低減される。
一方、電動モータ4のモータ軸42を他方向(図3に示す矢印m2方向)に回転させても、電動モータ4のモータ軸42を一方向に回転させた場合と同様に、上記した予圧を玉軸受54,56に与えることができる。この場合、自転力付与部材52の第1の内歯歯車52Aでは、一方の入力部材50において偏心量δをもって行われる矢印m2(図3に示す)方向の円運動に基づく回転力を受ける。これに対して、一方の入力部材50では、第1の内歯歯車52Aから自転力を矢印l2(図3に示す)方向に受けるとともに、アキシアル荷重−Pをリヤディファレンシャル3側(他方の入力部材51から離間する方向)に受ける。
同様に、自転力付与部材52の第2の内歯歯車52Bでは、他方の入力部材51において偏心量δをもって行われる矢印m2(図3に示す)方向の円運動に基づく回転力を受ける。これに対して、他方の入力部材51では、自転力付与部材52の第2の内歯歯車52Bから自転力を矢印n2(図3に示す)方向に受けるとともに、アキシアル荷重Pを電動モータ4側(一方の入力部材50から離間する方向)に受ける。
このため、一方の入力部材50における止め輪62が玉軸受54の外輪541をリヤディファレンシャル3側(他方の入力部材51から離間する方向)に、また他方の入力部材51における止め輪63が玉軸受56の外輪561を電動モータ4側(一方の入力部材50から離間する方向)にそれぞれ押し付ける。
これにより、図6に示すように、玉軸受54の外輪541が止め輪62からアキシアル荷重−Pをリヤディファレンシャル3側に、また玉軸受56の外輪561が止め輪63からアキシアル荷重Pを電動モータ4側にそれぞれ受けて移動し、玉軸受54,56のアキシアル内部すきまが低減される。
また、本実施の形態においては、モータ軸42の偏心部42a,42bを有する偏心部付きのモータ軸であるため、従来のようには電動モータのモータ軸と減速伝達機構の回転軸との間に径方向すきまや軸方向すきまが存在しない。
(モータ回転力伝達装置1の動作)
次に、本実施の形態に示すモータ回転力伝達装置の動作につき、図1〜図3及び図5を用いて説明する。
図2において、モータ回転力伝達装置1の電動モータ4に電力を供給して電動モータ4を駆動すると、この電動モータ4のモータ回転力がモータ軸42を介して減速伝達機構5に付与され、減速伝達機構5が作動する。
このため、減速伝達機構5において、入力部材50,51が例えば図3に示す矢印m1方向に偏心量δをもって円運動を行う。
これに伴い、入力部材50が外歯50cを自転力付与部材52における第1の内歯歯車52A(図5に示す)の内歯520A(図5に示す)に噛合させながら軸線O2の回り(図3に示す矢印n1方向)に、また入力部材51が外歯51cを自転力付与部材52における第2の内歯歯車52B(図5に示す)の内歯520B(図5に示す)に噛合させながら軸線O2´の回り(図3に示す矢印l1方向)にそれぞれ自転する。この場合、入力部材50,51の自転によって図2に示すようにピン挿通孔50bの内周面が針状ころ軸受55のレース550に、またピン挿通孔51bの内周面が針状ころ軸受57のレース570にそれぞれ当接する。
このため、出力部材53には入力部材50,51の公転運動が伝達されず、入力部材50,51の自転運動のみが伝達され、この自転運動による自転力が出力部材53からデフケース30にその回転力として出力される。
これにより、リヤディファレンシャル3が作動し、電動モータ4のモータ回転力に基づく駆動力が図1におけるリヤアクスルシャフト106に配分され、左右の後輪105に伝達される。
なお、上記実施の形態においては、入力部材50,51を矢印m1方向に円運動させてモータ回転力伝達装置1を作動させる場合について説明したが、入力部材50,51を矢印m2方向に円運動させてもモータ回転力伝達装置1を上記実施の形態と同様に作動させることができる。この場合、入力部材50の自転運動は矢印n2方向に、また入力部材51の自転運動は矢印l2方向にそれぞれ行われる。
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
(1)従来のようには電動モータのモータ軸と減速伝達機構の回転軸との間に径方向すきまが存在せず、また玉軸受54,56のアキシアルすきまを低減することができるため、NVの発生を抑制することができる。
(2)自転力付与部材52がハウジング2の一部を構成する円筒部材によって形成されているため、自転力付与部材52をハウジング2内に収容する場合と比べて自転力付与部材52の外径を大きい寸法に設定することができ、自転力付与部材52の機械的強度を高めることができる。また、自転力付与部材52がハウジング2の一部を構成することは、装置全体の径方向寸法を短縮して小型化を図ることができる。
(3)自転力付与部材52の第1の嵌合部52aを凸部23の外周面に、また第2の嵌合部52bを凸部27の外周面にそれぞれ嵌合させて芯合わせを行うことができ、自転力付与部材52の製造加工を簡単に行うことができる。
以上、本発明の減速機構及びこれを備えたモータ回転力伝達装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
(1)上記実施の形態では、軸線O2から軸線O1までの距離と軸線O2´から軸線O1までの距離とを等しく、かつ軸線O2と軸線O2´との軸線O1回りの距離を等しくするように一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとがモータ軸42の外周囲に配置されているとともに、軸線O1回りに互いに等間隔(180°)をもって離間する部位で一対の入力部材50,51が配置されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、入力部材の個数は適宜変更することができる。
すなわち、入力部材がn(n≧3)個の場合には、電動モータ(モータ軸)の軸線に直交する仮想面において、第1の偏心部の軸線,第2の偏心部の軸線,…,第nの偏心部の軸線がモータ軸の軸線回りの一方向に順次配置されているものとすると、各偏心部の軸線からモータ軸の軸線までの距離を等しく、かつ第1の偏心部,第2の偏心部,…,第nの偏心部のうち互いに隣り合う2つの偏心部の軸線とモータ軸の軸線とを結ぶ線分でつくる挟角を360°/nとするように各偏心部がモータ軸の外周囲に配置されるとともに、軸線O1回りに360°/nの間隔をもって離間する部位でn個の入力部材が配置される。
例えば、入力部材が3個の場合には、モータ軸の軸線に直交する仮想面において、第1の偏心部の軸線,第2の偏心部の軸線,第3の偏心部の軸線がモータ軸の軸線回りの一方向に順次配置されているものとすると、各偏心部の軸線からモータ軸の軸線までの距離を等しく、かつ第1の偏心部,第2の偏心部,第3の偏心部のうち互いに隣り合う2つの偏心部の軸線とモータ軸の軸線とを結ぶ線分でつくる挟角を120°とするように各偏心部がモータ軸の外周囲に配置されるとともに、その軸線回りに120°の間隔をもって離間する部位で3個の入力部材が配置される。なお、モータ回転力伝達装置において、減速伝達機構の入力部材を3個以上とする場合、バランスのよい作動状態を得るためには複数対の入力部材とし、各対の入力部材における外歯歯車がねじれ方向を互いに異にするはすば歯車で形成されていることが望ましい。この場合、自転力付与部材は、各対の入力部材のうち一方の入力部材の外歯歯車に噛合するはすば歯車で形成された第1の内歯歯車、及び各対の入力部材のうち他方の入力部材の外歯歯車に噛合するはすば歯車で形成された第2の内歯歯車を有する。
(2)上記実施の形態では、一方の入力部材50の外歯歯車がねじれ方向を左ねじれ方向とするはすば歯車によって、また他方の入力部材51の外歯歯車がねじれ方向を右ねじれ方向とするはすば歯車によってそれぞれ形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ねじれ方向が右ねじれ方向となるはすば歯車によって一方の入力部材の外歯歯車を、またねじれ方向が左ねじれ方向とするはすば歯車によって他方の入力部材の外歯歯車をそれぞれ形成してもよい。この場合、自転力付与部材の内歯歯車において、一方の入力部材に噛合する第1の内歯歯車をねじれ方向が左ねじれ方向となるはすば歯車によって、また他方の入力部材に噛合する第2の内歯歯車をねじれ方向が右ねじれ方向となるはすば歯車によってそれぞれ形成する。
(3)上記実施の形態では、駆動源としてエンジン102及び電動モータ4を併用した四輪駆動車101に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、電動モータのみを駆動源とした四輪駆動車又は二輪駆動車である電気自動車にも適用することができる。また、本発明は、エンジン,電動モータによる第1の駆動軸と電動モータによる第2の駆動軸とを有する四輪駆動車にも上記実施の形態と同様に適用可能である。
(4)上記実施の形態では、入力部材50,51の中心孔50a,51aの内周面と偏心部42a,42bの外周面との間にそれぞれ深溝玉軸受である玉軸受54,56を用い、偏心部42a,42bに対して入力部材50,51が回転可能に支持されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、深溝玉軸受に換えて深溝玉軸受以外の玉軸受やころ軸受を用いてもよい。このような玉軸受やころ軸受は、例えばアンギュラ玉軸受,針状ころ軸受,棒状ころ軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,自動調心ころ軸受などが挙げられる。また、本発明は、転がり軸受に代えて滑り軸受を用いてもよい。
(5)上記実施の形態では、出力部材53の外周面であって、ねじ部53aと頭部53bとの間に介在する部位には、入力部材50のピン挿通孔50bの内周面に接触可能な針状ころ軸受55が、また入力部材51のピン挿通孔51bの内周面に接触可能な針状ころ軸受57がそれぞれ取り付けられている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、針状ころ軸受に代えて針状ころ軸受以外のころ軸受や玉軸受を用いてもよい。このような玉軸受やころ軸受は、例えば深溝玉軸受,アンギュラ玉軸受,円筒ころ軸受,棒状ころ軸受,円すいころ軸受,自動調心ころ軸受などが挙げられる。また、本発明は、転がり軸受に代えて滑り軸受を用いてもよい。
(6)上記実施の形態では、玉軸受34,35,44,46としてそれぞれ深溝玉軸受を用いたが、本発明はこれに限定されず、玉軸受34,35,44,46に代え、これら1個,2個又は3個の軸受が例えばアンギュラ玉軸受,円すいころ軸受,スラストアンギュラ玉軸受,スラスト円すいころ軸受,スラスト玉軸受,スラストころ軸受を用いてもよい。また、これら3個の軸受は、同じ種類の軸受であっても、互いに異なる種類の軸受であってもよい。
(7)上記の実施の形態では、玉軸受54,56の内輪540,560がそれぞれ偏心部42a,42bの外周面にしまりばめで取り付けられ、玉軸受54,56の外輪541,561がそれぞれ入力部材50,51の中心孔50a,51aの内周面にすきまばめで取り付けられている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、いずれの内輪,外輪もこれらが取り付けられる周面に対してしまりばめであっても、すきまばめであっても、あるいはとまりばめであってもよい。