JP6025018B2 - 新規のアルギン酸資化菌、その細菌が産生するアルギン酸を分解する酵素を含む菌抽出液、それらを用いてオリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法 - Google Patents

新規のアルギン酸資化菌、その細菌が産生するアルギン酸を分解する酵素を含む菌抽出液、それらを用いてオリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法 Download PDF

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本発明は、新規のFlavobacterium属細菌、その細菌が産生するアルギン酸を分解する酵素、それらを用いてオリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法、新規のエンド型アルギン酸リアーゼおよびそれをコードする遺伝子に関する。
アルギン酸は、D−マンヌロン酸およびL−グルロン酸が直鎖結合してなる多糖であり、昆布やワカメなどの褐藻類に乾物換算で20〜50%(w/w)と多量に含まれる。アルギン酸は、増粘剤やゲル化剤、安定剤、歯科材料、手術糸、創傷被覆材、止血剤などとして用いられるほか、食物繊維としての機能があり、特にアルギン酸のカリウム塩はK−Na交換能を有し、体内のNaを排泄する作用があると言われている有用な物質である。
しかしながら、アルギン酸は高分子量でかつ粘性の高い多糖であるため、食品に高濃度で添加できないなど、さまざまな作業上および品質管理上の取り扱いに困難性がある。そこで、アルギン酸を分解して粘性を低下させることができる、アルギン酸リアーゼなどの分解酵素の研究開発がなされている。
また、アルギン酸の分解物についても、アルギン酸と同様あるいはアルギン酸とは異なる、様々な機能が期待されている。
これまでに、アルギン酸リアーゼを産生する生物としては、褐藻類や貝類のほか、シュードモナス属やビブリオ属、クレブシェラ属、フラボバクテリウム属などの細菌が知られており、特許文献1にはアルギン酸リアーゼを産生するフラボバクテリウム・スピリチボラム、アルカリゲネス・デニトリフィカンスおよびバチルス・ラテロスポラスが、特許文献2にはアルギン酸リアーゼを産生するフラボバクテリウム・スピーシーズOTC−6株がそれぞれ開示されている。また、特許文献3にはアガリボランス・エスピー・JAM−A1mが産生するアルカリアルギン酸リアーゼが開示されている。
特許第2926249号公報 特開2001−161358号公報 特開2009−195222号公報
しかしながら、アルギン酸を単糖まで分解して、不飽和単糖やα−ケト酸を製造することができるアルギン酸リアーゼを産生する菌株はほとんど知られておらず、アルギン酸を分解して不飽和単糖やα−ケト酸を製造する方法もほとんど知られていなかった。なお、特許文献1に記載のフラボバクテリウム・スピリチボラム、アルカリゲネス・デニトリフィカンスおよびバチルス・ラテロスポラス、ならびに特許文献2に記載のフラボバクテリウム・スピーシーズOTC−6株が産生するアルギン酸リアーゼは、「アルギン酸を分解して最終的に4−デオキシ−5−ケトウロン酸に分解する」と記述されているものの、実際に、アルギン酸を分解して、不飽和単糖やα−ケト酸などの単糖が得られていることは開示されていない。
また、特許文献1に記載されたアルギン酸リアーゼは、分子量52kDaのアルギン酸リアーゼと分子量80kDaのアルギン酸リアーゼとの混合物であること、特許文献2に記載されたアルギン酸リアーゼは、細菌由来アルギン酸に対し活性が高く海藻由来アルギン酸に対し活性が低いものであること、特許文献3に記載されたアルカリアルギン酸リアーゼは、MGブロックおよびGブロックに作用するがMブロックにはわずかにしか作用しないものであることから、いずれも、本発明に係るエンド型アルギン酸リアーゼとは異なっている。
本発明は、新規のFlavobacterium属細菌、その細菌が産生するアルギン酸を分解する酵素およびそれらを用いてオリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法、分子量が約30kDaであってMブロック、Gブロック、MGブロックおよび交互ポリマーのいずれも同様に分解することができるなどの特徴を有する新規のエンド型アルギン酸リアーゼおよびそれをコードする遺伝子を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、腐敗したスギモク(Coccophora langsdorfii、褐藻類の一種)からアルギン酸を資化する新規のFlavobacterium属細菌を単離し、この新規Flavobacterium属細菌が、アルギン酸を分解してオリゴ糖や不飽和単糖、α−ケト酸を製造することができる分解酵素を産生すること、当該分解酵素には分子量が約30kDaである新規のエンド型アルギン酸リアーゼが含まれること、ならびに少なくとも当該分解酵素に含まれる新規のエンド型アルギン酸リアーゼがMブロック、Gブロック、MGブロックおよび交互ポリマーのいずれも分解することができることを見出し、下記の各発明を完成した。
(1)アルギン酸を分解して次式(化1)の不飽和単糖、次式(化2)のα−ケト酸および次式(化3)のウロン酸からなる群から選択される1または2以上の物質を製造することができる分解酵素を産生するFlavobacterium属細菌であって、配列番号1に記載の塩基配列と98%以上の相同性を示す16S rRNA遺伝子(16S rDNA)を有する前記Flavobacterium属細菌;
Figure 0006025018
[化2]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化3]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
(2)以下の(a)、(b)および(c)の少なくともいずれかの特性を有する(1)に記載のFlavobacterium属細菌;(a)グルコースから酸を産生しない、(b)デンプンを加水分解できる、(c)硝酸塩を還元しない。
(3)受託番号NITE P−1076である、アルギン酸を分解して次式(化4)の不飽和単糖、次式(化5)のα−ケト酸および次式(化6)のウロン酸からなる群から選択される1または2以上の物質を製造することができる分解酵素を産生するFlavobacterium属細菌;
Figure 0006025018
[化5]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化6]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
(4)(1)から(3)のいずれかに記載のFlavobacterium属細菌が産生する、アルギン酸を分解して次式(化7)の不飽和単糖、次式(化8)のα−ケト酸および次式(化9)のウロン酸からなる群から選択される1または2以上の物質を製造することができる分解酵素;
Figure 0006025018
[化8]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化9]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
(5)下記(d)および(e)の少なくともいずれかである、(4)に記載の分解酵素;(d)エキソ型アルギン酸リアーゼ、(e)エンド型アルギン酸リアーゼおよび二糖分解酵素。
(6)エンド型アルギン酸リアーゼが以下の(f)〜(l)の少なくともいずれかの特性を有するエンド型アルギン酸リアーゼである、(5)に記載の分解酵素;(f)分子量が約30kDaである、(g)アルギン酸分解反応における至適pHが約8である、(h)最も安定なpHが7<pH<8である、(i)アルギン酸分解反応における至適温度が約54℃である、(j)60℃で30分間アルギン酸分解反応を行った後にアルギン酸分解酵素活性が消失する、(k)アルギン酸分解反応における至適NaCl濃度Cが0.05<C<0.3(mol/L)である、(l)アルギン酸の構造中、D−マンヌロン酸のホモポリマーである部分(Mブロック)、L−グルロン酸のホモポリマーである部分(Gブロック)、MブロックとGブロックとが交互に結合した部分(MGブロック)およびD−マンヌロン酸とL−グルロン酸とが交互に結合した部分(交互ポリマー)のいずれも分解することができる。
(7)エンド型アルギン酸リアーゼが以下の(m)または(n)のアミノ酸配列を有するエンド型アルギン酸リアーゼである、(5)または(6)に記載の分解酵素;(m)配列番号2、配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列、(n)配列番号2、配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列。
(8)アルギン酸を分解してオリゴ糖、ならびに次式(化10)の不飽和単糖、次式(化11)のα−ケト酸および次式(化12)のウロン酸からなる群から選択される1または2以上の物質を製造する方法であって、(1)から(3)のいずれかに記載のFlavobacterium属細菌およびFlavobacterium limicola F31株の少なくともいずれかが産生する分解酵素をアルギン酸に作用させる工程を有する前記方法;
Figure 0006025018
[化11]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化12]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
(9)アルギン酸を分解して次式(化13)の不飽和単糖、次式(化14)のα−ケト酸および次式(化15)のウロン酸からなる群から選択される1または2以上の物質を製造するための、(1)から(3)のいずれかに記載のFlavobacterium属細菌およびFlavobacterium limicola F31株の少なくともいずれかの使用;
Figure 0006025018
[化14]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化15]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
(10)以下の(i)〜(vii)の特性を有するエンド型アルギン酸リアーゼ;(i)分子量が約30kDaである、(ii)アルギン酸分解反応における至適pHが約8である、(iii)最も安定なpHが7<pH<8である、(iv)アルギン酸分解反応における至適温度が約54℃である、(v)60℃で30分間アルギン酸分解反応を行った後にアルギン酸分解酵素活性が消失する、(vi)アルギン酸分解反応における至適NaCl濃度Cが0.05<C<0.3(mol/L)である、(vii)アルギン酸の構造中、D−マンヌロン酸のホモポリマーである部分(Mブロック)、L−グルロン酸のホモポリマーである部分(Gブロック)、MブロックとGブロックとが交互に結合した部分(MGブロック)およびD−マンヌロン酸とL−グルロン酸とが交互に結合した部分(交互ポリマー)のいずれも分解することができる。
(11)以下の(viii)または(ix)のアミノ酸配列を有する、(10)に記載のエンド型アルギン酸リアーゼ;(viii)配列番号2のアミノ酸配列、(ix)配列番号2のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列。
(12)以下の(x)または(xi)のアミノ酸配列を有するエンド型アルギン酸リアーゼ;(x)配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列、(xi)配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列。
(13)以下の(xii)または(xiii)のタンパク質をコードするエンド型アルギン酸リアーゼ遺伝子;(xii)配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列からなるタンパク質、(xiii)配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつエンド型アルギン酸リアーゼ活性を有するタンパク質。
本発明に係る新規Flavobacterium属細菌が産生する分解酵素は、市販のアルギン酸リアーゼと比較して、アルギン酸を分解する活性が高く、また、アルギン酸の部分構造のうち、Mブロック、MGブロック、Gブロックおよび交互ポリマーのいずれも分解することができる。また、本発明に係る分解酵素によれば、市販のアルギン酸リアーゼによっては得ることのできない、アルギン酸由来の単糖(不飽和単糖やα−ケト酸、ウロン酸)を得ることができる。また、本発明に係るアルギン酸を分解してオリゴ糖や不飽和単糖、α−ケト酸を製造する方法によれば、アルギン酸由来のオリゴ糖や不飽和単糖、α−ケト酸を、高純度で、安価に、かつ大量に製造することができる。また、本発明に係る新規のエンド型アルギン酸リアーゼによれば、アルギン酸の部分構造のうち、Mブロック、MGブロック、Gブロックおよび交互ポリマーのいずれも同様に分解することができることから、基質とするアルギン酸の種類や由来は問わずに、効率的に分解してオリゴ糖を得ることができる。また、本発明に係る新規のエンド型アルギン酸リアーゼによれば、本発明に係るFlavobacterium属細菌に産生させて容易に精製することができることから、高純度のエンド型アルギン酸リアーゼを簡便に得ることができる。さらに、本発明に係る新規のエンド型アルギン酸リアーゼをコードする遺伝子によれば、翻訳領域の全長アミノ酸配列が明らかであることから、種々の遺伝子工学的手法を用いたエンド型アルギン酸リアーゼの利用が可能であり、例えば、発現効率の高いプロモーター配列と結合して任意の微生物に導入して培養することなどにより、大量のエンド型アルギン酸リアーゼを容易に得ることができる。一方、本発明によって製造されたオリゴ糖は、アルギン酸と比較して粘性が低下しているため操作性がよく、種々の用途に用いることができる。また、アルギン酸由来の不飽和単糖やα−ケト酸、ウロン酸は、例えば、活性酸素抑制剤や臓器保存剤、制癌剤や血糖降下剤、抗高脂血症剤、抗肥満剤などとしての医薬品原料、プレバイオティクス剤や整腸剤などとしての機能性食品添加剤、化粧品素材、紫外線吸収剤、調味剤、新規α−アミノ酸素材、各種複合有機酸素材、バイオプラスティック素材などとしての機能性ポリマー素材として期待でき、本発明によれば、これらについての研究開発を促進することができる。
アルギン酸ナトリウム、デンプン、カルボキシメチルセルロースおよびローカストビーンガムを加えたMS培地、ならびに多糖類を加えないLB培地にてアルギン酸資化菌を培養し、経時的に600nmにおける吸光度を測定した結果を示す図である。 データベース(アポロンDB−BA 6.0)に対する相同性検索の結果に基づき、アルギン酸資化菌の16S rDNA塩基配列(配列番号1)と相同率が高い上位32位の塩基配列について作成した分子系統樹である。 0.5%(w/v)のアルギン酸ナトリウムを含み、かつ培養中にpHを調整しない培地(A)、1%(w/v)のアルギン酸ナトリウムを含み、かつ培養中にpHを調整しない培地(B)、1%(w/v)のアルギン酸ナトリウムを含み、かつ培養中のpHを7.5に維持した培地(C)、および2%(w/v)のアルギン酸ナトリウムを含み、かつ培養中のpHを7.5に維持した培地(D)にてアルギン酸資化菌を培養し、経時的に600nmにおける吸光度を測定した結果、Bにおける4、22、40、62および89時間時点のpHの測定結果、ならびにDにおいて23.5(d1)、32(d2)、42(d3)、50(d4)、62(d5)、74(d6)および90(d7)時間培養したUMI−01が有するアルギン酸分解酵素活性の算出結果を示す図である。 アルギン酸ナトリウム濃度が1%(w/v)の培地で培養したUMI−01から1回目の抽出操作により得た菌抽出液(AおよびB)、アルギン酸ナトリウム濃度が1%(w/v)の培地で培養したUMI−01から2回目および3回目の抽出操作により得た菌抽出液(A2およびA3)、アルギン酸ナトリウム濃度が2%(w/v)の培地で培養したUMI−01から1回目の抽出操作により得た菌抽出液(C)について、SDS−PAGEを行った結果を示す図(上図)、ならびに、精製菌抽出液C60−90および精製菌抽出液C60−90をイオン交換クロマトグラフィーに供して得た溶出液(イオン交換クロマトグラフィー画分)について、SDS−PAGEを行った結果を示す図(下図)である。 アルギン酸ナトリウムを含む反応液に精製菌抽出液C60−90およびC60−90を加えて(反応液pおよび反応液q)インキュベートし、インキュベートの間、経時的に分取した反応液について薄層クロマトグラフィーを行った結果を示す図である。図中、横軸のmは分を示し、hは時間を示す。 Mブロック、MGブロック、Gブロックおよび交互ポリマーなどがランダムに含まれるアルギン酸(A)、主としてMブロックからなるアルギン酸(B)、主としてMGブロックからなるアルギン酸(C)、ならびに主としてGブロックからなるアルギン酸(D)を含む反応液に精製菌抽出液を加えてインキュベートし、インキュベートの間、経時的に235nmにおける吸光度を測定した結果、およびアルギン酸分解酵素活性を算出した結果を示す図である。 主としてMブロックからなるアルギン酸(B)、および主としてGブロックからなるアルギン酸(D)をそれぞれ含む反応液に精製菌抽出液を加えてインキュベートし、インキュベートの間、経時的に分取した反応液について薄層クロマトグラフィーを行った結果を示す図である。 アルギン酸ナトリウムを含む反応液に、精製菌抽出液および市販のFlavobacterium由来アルギン酸リアーゼを加えて(反応液pおよび反応液q)インキュベートし、インキュベートの間、経時的に分取した反応液について薄層クロマトグラフィーを行った結果を示す図である。 Toyopearl DEAE−650Mカラムクロマトグラフィーにおける溶出画分の吸光度およびアルギン酸分解酵素活性を示す図である。 ピークa〜cに相当する溶出画分および精製菌抽出液について、SDS−PAGEおよび活性染色法を行った結果を示す図である。 Mono Q 5/50 GLカラムクロマトグラフィーにおける溶出画分の吸光度およびアルギン酸分解酵素活性を示す図である。 ピークdおよびeに相当する溶出画分および第一酵素液について、SDS−PAGEおよび活性染色法を行った結果を示す図である。 Superdex 75 10/300 GLカラムクロマトグラフィーにおける吸光度およびアルギン酸分解酵素活性を示す図である。 ピークf〜hに相当する溶出画分および第二酵素液について、SDS−PAGEおよび活性染色法を行った結果を示す図である。 アルギン酸分解反応の進行に伴う相対粘度の変化および235nmにおける吸光度の変化を示す図である。 FlAly−1の、種々のpHでのアルギン酸分解酵素活性(左図)、および種々のpHでアルギン酸分解反応を行った後のアルギン酸分解酵素活性(右図)を相対的活性値で示す図である。 FlAly−1の、種々の温度でのアルギン酸分解酵素活性(左図)、および種々の温度でアルギン酸分解反応を行った後のアルギン酸分解酵素活性(右図)を相対的活性値で示す図である。 FlAly−1の、種々のNaCl濃度でのアルギン酸分解酵素活性を相対的活性値で示す図である。 アルギン酸ナトリウム、M−rich、MG−richまたはG−richを基質としてFlAly−1によりアルギン酸分解反応を行った場合の、235nmでの吸光度を示す図である。 FlAly−1によるアルギン酸分解反応の分解産物を、薄層クロマトグラフィー、硫酸発色法およびチオバルビツール酸発色法により検出した結果を示す図である。 FlAly−1遺伝子の塩基配列およびFlAly−1のアミノ酸配列を示す図である。 FlAly−1のアミノ酸配列について、BLAST検索を行った結果を示す図である。 アルギン酸分解産物をゲル濾過クロマトグラフィーに供し、得られた溶出液について、235nmにおける吸光度を測定した結果および薄層クロマトグラフィーを行った結果を示す図である。 アルギン酸分解産物をイオン交換クロマトグラフィーに供し、得られた溶出液について、235nmにおける吸光度を測定した結果および薄層クロマトグラフィーを行った結果を示す図である。
以下、本発明に係る新規のFlavobacterium属細菌、その細菌が産生するアルギン酸を分解する酵素、それらを用いてオリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法、新規のエンド型アルギン酸リアーゼおよびそれをコードする遺伝子について詳細に説明する。
本発明に係るFlavobacterium属細菌は、アルギン酸を分解して次式(化16)の不飽和単糖、次式(化17)のα−ケト酸および次式(化18)のウロン酸からなる群から選択される1または2以上の物質を製造することができる分解酵素を産生するFlavobacterium属細菌であって、配列番号1に記載の塩基配列と98%以上の相同性を示す16S rRNA遺伝子(16S rDNA)を有する;
Figure 0006025018
[化17]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化18]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
本発明におけるFlavobacterium属細菌は、配列番号1に記載の塩基配列と98%以上の相同性を示す16S rRNA遺伝子(16S rDNA)を有しているが、配列番号1に記載の塩基配列との相同性は、好ましくは97.9%以上、98.0%以上、98.1%以上、98.2%以上、98.3%以上、98.4%以上、98.5%以上であり、より好ましくは98.6%以上、98.7%以上、98.8%以上、98.9%以上、99.0%以上であり、さらに好ましくは99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上であり、よりさらに好ましくは99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上である。
なお、本発明に係るFlavobacterium属細菌の単離源としては、例えば、後述のアルギン酸を有する生物のほか、海水、河川、氷河、土壌、池、湖沼、下水道、水田などを挙げることができる。
アルギン酸は、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸とが直鎖状に1−4結合してなる多糖である。アルギン酸の構造中、D−マンヌロン酸のホモポリマーである部分をMブロック、L−グルロン酸のホモポリマーである部分をGブロック、MブロックとGブロックとが交互に結合した部分をMGブロック、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸とが交互に結合した部分を交互ポリマーという。
D−マンヌロン酸とL−グルロン酸との量比(M/G比)や、Mブロック、Gブロック、MGブロックおよび交互ポリマーの各部分構造の量比は、アルギン酸の柔軟性やゲル強度、溶解性などの性質に影響を及ぼす。このM/G比や各部分構造の量比は、アルギン酸を抽出した生物種や、抽出した生物の部位や生育環境によって異なる。
本発明におけるアルギン酸は、生物から抽出したものでもよく、人工的に合成したものでもよい。アルギン酸を有する生物としては、例えば、コンブやワカメ、ヒジキ、モズク、ホンダワラ、スギモクなどの褐藻類、サンゴモなどの紅藻類、シュードモナス・アエルギノーザ(エルギノーザ)、アゾトバクターなどの細菌を挙げることができる。
また、本発明におけるアルギン酸は、純粋のアルギン酸のほか、アルギン酸の塩やエステルであってもよい。アルギン酸の塩としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウムなどを、アルギン酸のエステルとしては、例えば、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどを挙げることができる。
本発明におけるアルギン酸のM/G比や各部分構造の量比は特に限定されず、例えば、主としてMブロックを含むもの、主としてGブロックを含むもの、主としてMGブロックを含むもの、主として交互ポリマーを含むもの、Mブロック、Gブロック、MGブロックおよび交互ポリマーをランダムに含むものなどのうちのいずれであってもよい。
本発明における次式(化19)の不飽和単糖、次式(化20)のα−ケト酸および次式(化20)のウロン酸;
Figure 0006025018
[化20]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化21]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO
について、本明細書では、上記式(化19)の不飽和単糖、式(化20)のα−ケト酸および式(化21)のウロン酸をまとめて「単糖」という場合があり、式(化20)のα−ケト酸および式(化21)のウロン酸をまとめて「α−ケト酸」という場合がある。さらに、本発明における上記式(化19)、式(化20)および式(化21)の物質の−COOH、−OH、−CHOは、それぞれ、−COOR、−OR、−ORH(R、R、Rは、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよい複素環のいずれかである)であってもよく、すなわち、−COOH、−OH、−CHOとなり得るものであればよい。
本発明において、「オリゴ糖」は、アルギン酸を分解して生成する物質のうち、2以上の単糖が結合した構造を有するものをいい、そのような物質としては、例えば、2糖、3糖、4糖、5糖などを挙げることができる。また、本発明において不飽和単糖は、アルギン酸を単糖まで分解して生成する物質であって、上記式(化19)の構造を有するものをいう。また、本発明においてα−ケト酸は、アルギン酸を単糖まで分解して生成する物質であって、上記式(化20)または上記式(化21)の構造を有するものをいう。
また、本発明に係るFlavobacterium属細菌は、以下の(a)、(b)および(c)の少なくともいずれかの特性を有することが好ましい;
(a)グルコースから酸を産生しない、
(b)デンプンを加水分解できる、
(c)硝酸塩を還元しない。
本発明に係る異なる態様のFlavobacterium属細菌は、受託番号NITE P−1076である、アルギン酸を分解して次式(化22)、次式(化23)および次式(化24)からなる群から選択される1または2以上の物質を製造することができる分解酵素を産生するFlavobacterium属細菌である;
Figure 0006025018
[化23]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化24]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
なお、本態様におけるFlavobacterium属細菌において、上述した本発明に係るFlavobacterium属細菌の構成と同等または相当する構成については再度の説明を省略する。
次に、本発明は、本発明に係るFlavobacterium属細菌が産生する、アルギン酸を分解して次式(化25)、次式(化26)および次式(化27)からなる群から選択される1または2以上の物質を製造することができる分解酵素を提供する;
Figure 0006025018
[化26]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化27]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
本発明における分解酵素としては、例えば、エキソ型アルギン酸リアーゼや、エンド型アルギン酸リアーゼおよび二糖分解酵素などを挙げることができ、1種類からなるものであってもよく、2以上の種類からなるものであってもよい。また、本発明において、「分解酵素」は、Flavobacterium属細菌が産生して菌体内に保持するもの(菌体内酵素)でもよく、菌体外に分泌するもの(菌体外酵素)でもよい。
また、本発明における分解酵素は、定法に従って製造することができるが、そのような方法としては、例えば、アルギン酸を含む培地で、Flavobacterium属細菌を培養した後、遠心分離を行い、上清(菌体外酵素である場合)または沈殿物(菌体内酵素である場合)を回収する方法を挙げることができる。また、菌体外酵素の場合は、回収した上清をそのまま、または精製した後、分解酵素として用いることができ、菌体内酵素の場合は、回収した沈殿物を緩衝液に懸濁した後に破砕し、再度遠心分離を行って上清を得て、これをそのまま、または精製した後、分解酵素として用いることができる。なお、精製方法としては、例えば、硫安分画や透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーなどを挙げることができ、破砕方法としては、例えば、ガラスビーズによる物理的破砕方法、凍結融解法、超音波処理法、フレンチプレスによる破砕方法、液体窒素で凍結した試料を乳鉢と乳棒で破砕する方法などを挙げることができる。
本発明において、分解酵素がアルギン酸を分解する活性(アルギン酸分解酵素活性)の測定は定法に従って行うことができ、例えば、アルギン酸を含む緩衝液に分解酵素を添加してインキュベートし、235nmにおける吸光度を測定することにより行うことができる。これは、アルギン酸が分解されて生成する、C−C間に2重結合を有する糖(不飽和糖)やα−ケト酸が、235nmの光を特異的に吸収することに基づき、235nmにおける吸光度を、不飽和糖やα−ケト酸の生成量の指標、すなわちアルギン酸分解酵素活性の指標とする方法である。
本発明の分解酵素における「エンド型アルギン酸リアーゼ」としては、例えば、以下の(f)〜(l)の少なくともいずれかの特性を有するエンド型アルギン酸リアーゼを挙げることができる;
(f)分子量が約30kDaである、
(g)アルギン酸分解反応における至適pHが約8である、
(h)最も安定なpHが7<pH<8である、
(i)アルギン酸分解反応における至適温度が約54℃である、
(j)60℃で30分間アルギン酸分解反応を行った後にアルギン酸分解酵素活性が消失する、
(k)アルギン酸分解反応における至適NaCl濃度Cが0.05<C<0.3(mol/L)である、
(l)アルギン酸の構造中、D−マンヌロン酸のホモポリマーである部分(Mブロック)、L−グルロン酸のホモポリマーである部分(Gブロック)、MブロックとGブロックとが交互に結合した部分(MGブロック)およびD−マンヌロン酸とL−グルロン酸とが交互に結合した部分(交互ポリマー)のいずれも分解することができる。
ここで、本発明において、エンド型アルギン酸リアーゼのおよその分子量は、定法に従って確認することができ、例えば、SDS−PAGEを行うことにより確認することができる。エンド型アルギン酸リアーゼのアルギン酸分解反応における「至適pH」、「至適温度」および「至適NaCl濃度」もまた、定法に従い確認することができ、例えば、上述したアルギン酸分解酵素活性の測定方法において、分解酵素をエンド型アルギン酸リアーゼに代えて、種々のpH、温度およびNaCl濃度の条件下で測定を行い、アルギン酸分解酵素活性が最も大であるpH、温度およびNaCl濃度をそれぞれ決定することにより行うことができる。
また、本発明において、エンド型アルギン酸リアーゼの「最も安定なpH」とは、そのpHに長時間おいた場合あるいはそのpHで長時間アルギン酸分解反応を行った場合に、アルギン酸分解酵素活性の低下が最も小さいpHを意味する。本発明において、「最も安定なpH」は、例えば、種々のpHでエンド型アルギン酸リアーゼを用いてアルギン酸分解反応を長時間行った後に、これを酵素液として添加して、上述したアルギン酸分解酵素活性の測定方法を行い、アルギン酸分解酵素活性が最も大であるpHを決定することにより、確認することができる。
また、本発明において、エンド型アルギン酸リアーゼの基質特異性は、主としてMブロックを含むアルギン酸のナトリウム塩(M−rich)、主としてMGブロックを含むアルギン酸のナトリウム塩(MG−rich)、主としてGブロックを含むアルギン酸のナトリウム塩(G−rich)ならびにMブロック、MGブロック、Gブロックおよび交互ポリマーがランダムに含まれるアルギン酸のナトリウム塩をそれぞれ基質とし、分解酵素をエンド型アルギン酸リアーゼに代えて、上述したアルギン酸分解酵素活性の測定方法を行い、活性の大小を比較することにより確認することができる。この方法において、いずれを基質とした場合も同程度の活性が確認された場合は、エンド型アルギン酸リアーゼは、Mブロック、Gブロック、MGブロックおよび交互ポリマーのいずれも同様に分解すると判断することができる。
また、本発明の分解酵素における「エンド型アルギン酸リアーゼ」は、以下の(m)または(n)のアミノ酸配列を有するエンド型アルギン酸リアーゼであってもよい;
(m)配列番号2、配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列、
(n)配列番号2、配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列。なお、配列番号2は本発明に係る新規のFlavobacterium属細菌の一態様であるUMI−01が産生する、新規のエンド型アルギン酸リアーゼの一態様であるFlAly−1の成熟型におけるN末端40残基と同一のアミノ酸配列である。また、配列番号12はFlAly−1の翻訳型の全アミノ酸配列288残基と、配列番号13はFlAly−1の成熟型の全アミノ酸配列260残基とそれぞれ同一のアミノ酸配列である。
ここで、本発明において、「1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列」というときの、欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の個数は、当該配列を有するあるいは当該配列からなるタンパク質がエンド型アルギン酸リアーゼ活性を有する限り、特に限定されないが、例えば、配列番号2のアミノ酸配列については1〜5個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個の任意の個数を挙げることができる。また、配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列については1〜25個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、よりさらに好ましくは1〜5個の任意の個数を挙げることができる。なお、同一あるいは性質の似たアミノ酸配列に相当するのであれば、さらに多くのアミノ酸が置換、挿入、および/または付加されてもよい。
すなわち、配列番号2において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、本発明に係る分泌型のエンド型アルギン酸リアーゼのアミノ酸配列のN末端側1〜40番目と高い同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつそれを有するタンパク質がエンド型アルギン酸リアーゼ活性を有するアミノ酸配列が含まれる。また、配列番号12において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、本発明に係る翻訳型のエンド型アルギン酸リアーゼの全長アミノ酸配列1〜289番目と、配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、本発明に係る分泌型のエンド型アルギン酸リアーゼの全長アミノ酸配列1〜261番目と、それぞれ高い同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつエンド型アルギン酸リアーゼ活性を有するアミノ酸配列が含まれる。また、これらにいう「高い同一性」とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
本発明に係る配列番号2において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列には、当該配列を有するタンパク質がエンド型アルギン酸リアーゼ活性を有する限り、これらアミノ酸配列の1または複数の保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列が包含され、また、本発明に係る配列番号12または配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列には、エンド型アルギン酸リアーゼ活性を有する限り、これらアミノ酸配列の1または複数の保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列が包含される。
本発明において、保存的アミノ酸置換とは、生じる分子の生理学的活性を変化させることなく一般的になされ得る範囲、すなわち保存的置換の範囲で認められるもの(Watsonら,Molecular Biology of Geneなど)であり、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸の酸性アミノ酸;リシン、アルギニンおよびヒスチジンの塩基性アミノ酸;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンおよびトリプトファンの非極性アミノ酸;グリシン、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニンおよびチロシンの極性無電荷側鎖アミノ酸;フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンの芳香族アミノ酸といった側鎖に類似性のあるアミノ酸同士(アミノ酸のファミリー内部)で起こる置換を挙げることができる。同様に、アスパラギン酸およびグルタミン酸の酸性アミノ酸;リシン、アルギニンおよびヒスチジンの塩基性アミノ酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリンおよびトレオニンの脂肪族アミノ酸(セリンおよびトレオニンの脂肪族−ヒドロキシアミノ酸と分類することもできる);フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンの芳香族アミノ酸;アスパラギンおよびグルタミンのアミド);システインおよびメチオニンの含硫アミノ酸といった分類をすることができる。
次に、本発明は、Flavobacterium属細菌およびFlavobacterium limicola F31株の少なくともいずれかの使用や、本発明に係る新規のFlavobacterium属細菌や分解酵素を用いて、オリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法を提供する。本発明に係るFlavobacterium属細菌およびFlavobacterium limicola F31株の少なくともいずれかの使用は、次式(化28)、次式(化29)および次式(化30)からなる群から選択される1または2以上の物質を製造するためであり、また、オリゴ糖、単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法は、アルギン酸を分解してオリゴ糖、ならびに次式(化28)、次式(化29)および次式(化30)からなる群から選択される1または2以上の物質を製造する方法であって、本発明に係るFlavobacterium属細菌およびFlavobacterium limicola F31株の少なくともいずれかが産生する分解酵素をアルギン酸に作用させる工程を有する;
Figure 0006025018
[化29]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化30]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。なお、本発明に係るオリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法において、上述した本発明に係るFlavobacterium属細菌または分解酵素の構成と同等または相当する構成については再度の説明を省略する。
本発明に係るオリゴ糖や単糖、α−ケト酸を製造する方法において、本発明に係るFlavobacterium属細菌およびFlavobacterium limicola F31株の少なくともいずれかが産生する分解酵素をアルギン酸に作用させる方法としては、例えば、アルギン酸を含む緩衝液に分解酵素を添加してインキュベートする方法を挙げることができる。この場合、生成して緩衝液中に含まれるオリゴ糖や不飽和単糖、α−ケト酸は適宜、精製、濃縮して用いることができ、例えば、透析やゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーによる精製を行うことにより、高純度のオリゴ糖や不飽和単糖、α−ケト酸を得ることができる。
本発明に係るオリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法において、オリゴ糖や不飽和単糖、α−ケト酸が製造されたか否かやそれらの生成量は、定法に従って確認することができる。そのような方法としては、例えば、上述の235nmにおける吸光度を測定する方法や、薄層クロマトグラフィー法を挙げることができる。薄層クロマトグラフィー法の場合は、例えば、シリカゲルプレートにおいて、1−ブタノール:酢酸:水=2:1:1で混合した展開溶液を用いて展開した後、チオバルビツール酸発色法を行うことにより、本発明に係るオリゴ糖、または本発明に係る不飽和単糖やα−ケト酸を、それぞれ別個のバンドとして検出することができる。なお、チオバルビツール酸発色法は、C−C間に2重結合を有する化合物(不飽和糖など)やケト基を有する化合物(α−ケト酸など)に過ヨウ素酸を作用させて過酸化誘導体(ペルオキシド)とし、これにチオバルビツール酸を作用させて発色させるという原理に基づく方法である。
また、本発明に係るオリゴ糖や不飽和単糖、α−ケト酸の構造は、定法に従って確認することができ、その様な方法としては、例えば、MALDI−TOF/MSを用いた質量分析法や1,2−diamino−4,5−methylenedioxybenzene(DMB)による蛍光誘導化法などを挙げることができる。
次に、本発明は、新規なエンド型アルギン酸リアーゼを提供する。本発明に係る新規のエンド型アルギン酸リアーゼは、以下の(i)〜(vii)の特性を有する;
(i)分子量が約30kDaである、
(ii)アルギン酸分解反応における至適pHが約8である、
(iii)最も安定なpHが7<pH<8である、
(iv)アルギン酸分解反応における至適温度が約54℃である、
(v)60℃で30分間アルギン酸分解反応を行った後にアルギン酸分解酵素活性が消失する、
(vi)アルギン酸分解反応における至適NaCl濃度Cが0.05<C<0.3(mol/L)である、
(vii)アルギン酸の構造中、D−マンヌロン酸のホモポリマーである部分(Mブロック)、L−グルロン酸のホモポリマーである部分(Gブロック)、MブロックとGブロックとが交互に結合した部分(MGブロック)およびD−マンヌロン酸とL−グルロン酸とが交互に結合した部分(交互ポリマー)のいずれも分解することができる。
また、本発明に係る新規のエンド型アルギン酸リアーゼは、以下の(viii)または(ix)のアミノ酸配列を有していてもよい;
(viii)配列番号2のアミノ酸配列、
(ix)配列番号2のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列。
本発明に係る新規のエンド型アルギン酸リアーゼは、定法に従って製造することができ、例えば、本発明に係るFlavobacterium属細菌に産生させて精製することにより、あるいは、本発明に係る分解酵素をさらに精製することにより(すなわち本発明に係るFlavobacterium属細菌から単離することにより)製造することができる。本発明に係る分解酵素をさらに精製する場合の精製方法としては、例えば、Toyopearl DEAE−650Mカラム、Mono Q 5/50 GLカラム、Superdex 75 10/300 GLカラムなどの各種のカラムを用いてクロマトグラフィーを連続して行う方法を挙げることができる。この場合、カラムクロマトグラフィーにおいて分取した溶出液について、SDS−PAGEにより約30kDaの分子量のタンパク質の含有量を確認するとともに、上述したアルギン酸分解酵素活性の測定方法により、活性の有無や大小を確認することにより、エンド型アルギン酸リアーゼが高純度に含まれる溶出液を容易に選択して、精製を行うことができる。
次に、本発明に係る新規なエンド型アルギン酸リアーゼの異なる態様は、以下の(x)または(xi)のアミノ酸配列を有するエンド型アルギン酸リアーゼである;
(x)配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列、
(xi)配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列。
本発明に係る異なる態様の新規エンド型アルギン酸リアーゼは、定法に従って製造することができ、例えば、本発明に係るFlavobacterium属細菌に産生させて精製することにより、あるいは、本発明に係る分解酵素をさらに精製することにより(すなわち本発明に係るFlavobacterium属細菌から単離することにより)製造することができる。本発明に係る分解酵素をさらに精製する場合の精製方法としては、上述した本発明に係る新規エンド型アルギン酸リアーゼについての精製方法と同様の方法を挙げることができる。また、例えば、(x)または(xi)のアミノ酸配列に相当する塩基配列を、遺伝子工学的手法を用いて、任意のベクターに組み込み、この組換えベクターを用いて宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養して、培養液からエンド型アルギン酸リアーゼを抽出、精製することにより製造することもできる。さらに、当該本発明に係る異なる態様の新規エンド型アルギン酸リアーゼは、従来あるいは将来において開発される、いかなる人工合成手法によっても製造することができる。
なお、本発明に係る新規エンド型アルギン酸リアーゼおよび本発明に係る異なる態様の新規エンド型アルギン酸リアーゼにおいて、上述した本発明に係るFlavobacterium属細菌、本発明に係るFlavobacterium属細菌が産生する分解酵素、Flavobacterium属細菌およびFlavobacterium limicola F31株の少なくともいずれかの使用、ならびに本発明に係るFlavobacterium属細菌や分解酵素を用いて、オリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法と同等もしくは相当する構成については、再度の説明を省略する。
最後に、本発明は、本発明に係るエンド型アルギン酸リアーゼをコードする遺伝子を提供する。本発明に係る遺伝子は、以下の(xii)または(xiii)のタンパク質をコードする;
(xii)配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(xiii)配列番号12または配列番号13のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつエンド型アルギン酸リアーゼ活性を有するタンパク質。
本発明に係る遺伝子において、上述した本発明に係るFlavobacterium属細菌、本発明に係るFlavobacterium属細菌が産生する分解酵素、Flavobacterium属細菌およびFlavobacterium limicola F31株の少なくともいずれかの使用、本発明に係るFlavobacterium属細菌や分解酵素を用いて、オリゴ糖、不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法ならびに本発明に係るエンド型アルギン酸リアーゼと同等もしくは相当する構成については、再度の説明を省略する。なお、本発明に係る遺伝子を含有する組換えベクターや当該組み換えベクターにより形質転換された微生物も、本発明に含まれる。
以下、本発明に係る新規のFlavobacterium属細菌、その細菌が産生するアルギン酸を分解する酵素、それらを用いてオリゴ糖や不飽和単糖、ないしα−ケト酸を製造する方法、新規のエンド型アルギン酸リアーゼおよびそれをコードする遺伝子について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
<実施例1>菌の単離および多糖類に対する資化性の検討
(1)アルギン酸資化菌の単離
腐敗したスギモク(Coccophora langsdorfii、褐藻類の一種)を採取して集積培養法を行い、アルギン酸を資化する菌を単離し、これをアルギン酸資化菌とした。
(2)多糖類に対する資化性の比較
下記の試薬を下記の終濃度となるよう蒸留水に溶解し、これをMS培地とした。
NaHPO 3.6 g/L
KHPO0.75g/L
NHCl 0.5 g/L
MgSO0.2 g/L
続いて、下記に示す多糖類を、終濃度1%(w/v)となるよう加えたMS培地および多糖類を加えないLB培地(pH7.0)を用意し、A、B、C、DおよびEとした。
A;アルギン酸ナトリウム+MS培地
B;デンプン+MS培地
C;カルボキシメチルセルロース+MS培地
D;ローカストビーンガム+MS培地
E;多糖類を加えないLB培地
本実施例(1)のアルギン酸資化菌を、A、B、C、DおよびEに植菌して、BioFlo−115型バイオリアクター(New Brunswick社)を用いて、通気大気量1L/分、撹拌回転数150rpm、培養温度30℃の条件下で70時間培養した。培養中、下記に示す培養時間の時点で、10mLの培地を分取して600nmにおける吸光度を測定することにより培地中の菌数を確認した。その結果を図1に示す。
600nmにおける吸光度を測定した時点(時間)
A ;0、5、10、15、20、30、40、60、70
B、C、D;0、5、10、20、30、40、60、70
E ;0、5、10、15、20、30、40、60
図1に示すように、吸光度は、0−10時間ではA≒B≒E>C≒Dであり、15−60時間ではA>B>E>C≒Dであり、70時間ではA>B>C≒Dであった。
これらの結果から、アルギン酸資化菌は、デンプン、カルボキシメチルセルロースおよびローカストビーンガムを加えたMS培地、ならびに多糖類を加えないLB培地と比較して、アルギン酸ナトリウムを加えたMS培地において増殖率が高いことが明らかになった。すなわち、アルギン酸資化菌は、多糖類のうち、アルギン酸に対して特に高い資化性を有することが明らかになった。
<実施例2>菌の同定
実施例1(1)のアルギン酸資化菌について、株式会社テクノスルガ・ラボにおいて16S rDNA塩基配列解析および菌学的性状試験を行った。
(1)16S rDNA塩基配列解析
16S rDNA塩基配列解析は、下記の試薬、装置およびプログラムを用いて、添付の仕様書に従って行った。
DNA抽出;InstaGene Matrix(BIO RAD社)
PCR;PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社)
サイクルシークエンス;BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)
使用プライマー(中川恭好ら、日本放線菌学会、 放線菌の分類と同定、第88−117頁、2001年);PCR増幅:9F、1510R、シークエンス:9F、785F、802R、1510R
シークエンス;ABI PRISM 3130 xl Genetic Analyzar System(Applied Biosystems社)
配列決定;ChromasPro 1.4(Technelysium Pty Ltd.社)
相同性検索および簡易分子系統解析;ソフトウェア:アポロン2.0(テクノスルガ・ラボ社)、データベース:アポロンDB−BA 6.0(テクノスルガ・ラボ社)、国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)
アポロンDB−BA 6.0に対する相同性検索の結果、アルギン酸資化菌の16S rDNA塩基配列(配列番号1)と相同率が高い上位30位を表1に、GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果、アルギン酸資化菌の16S rDNA塩基配列(配列番号1)と相同率が高い上位30位を表2にそれぞれ示す。また、アポロンDB−BA 6.0に対する相同性検索の結果、アルギン酸資化菌の16S rDNA塩基配列(配列番号1)と相同率が高い上位32位の塩基配列を基に作成した分子系統樹を図2に示す。
Figure 0006025018
Figure 0006025018
表1に示すように、アポロンDB−BA6.0に対する相同性検索の結果、アルギン酸資化菌の16S rDNA塩基配列(配列番号1)は、Flavobacterium属の16S rDNA塩基配列に対し高い相同性を示し、F.omnivorum ASI.2747株(アクセッション番号AF433174)の16S rDNA塩基配列に対し、相同率97.0%の最も高い相同性を示した。また、表2に示すように、GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果においても、アルギン酸資化菌の16S rDNA塩基配列は、Flavobacterium属の16S rDNA塩基配列に対し高い相同性を示し、基準株では、F.omnivorum ASI.2747株(アクセッション番号NR_025202)の16S rDNA塩基配列に対し、相同率97.0%の高い相同性を示した。なお、アクセッション番号AF433174の配列とアクセッション番号NR_025202の配列とは、同一である。
また、図2に示すように、簡易分子系統解析の結果、アルギン酸資化菌は、Flavobacterium属の種で形成されるクラスター内に含まれた。また、アルギン酸資化菌はF.algicolaと最小のクラスターを形成したが、両者の間には距離が認められた。
以上の結果から、アルギン酸資化菌は、属レベルではFlavobacterium属に帰属することが示された。
一方、既報(STACKEBRANDTら、Microbiol Today、第33巻、第152−155頁、2006年)によると、16S rDNA塩基配列解析では、その菌株と比較した菌株との相同率が98.7%以上を示す場合、同種である可能性がある。これに対し、アルギン酸資化菌の16S rDNA塩基配列についての相同性検索では、98.7%以上の相同率を示す株は検出されず、簡易分子系統解析においてアルギン酸資化菌と最小クラスターを形成したF.algicolaとの相同率も96.5%と、98.7%と比較して顕著に小さかった。これらのことから、アルギン酸資化菌は、新種(新規)であることが示唆された。
(2)菌学的性状試験
菌学的性状試験は、下記の試薬、機器および方法を用いて行った。
形態観察;光学顕微鏡BX50F4(オリンパス社)
グラム染色;フェイバーG「ニッスイ」(日水製薬社)
カタラーゼ反応、グルコースからの酸/ガス産生、グルコースの酸化/発酵(O/F);既報(BARROWら、Cowan and Steel’s Manual for the dentification of Medical Bacteria.3rd edition、1993年)に記載の方法
生化学試験、資化性試験;API20NE Ver.7(bioMerieux社)
酵素反応試験;APIZYM(bioMerieux社)
生育試験、フレキシルビン色素の産生、カゼインおよびデンプンの加水分解;NCIMB Ltd.社(http://www.ncimb.co.uk/)との技術提携事項および分類・同定の関連文献に従った方法
[2−1]形態的性状
培養温度30℃での形態的性状についての結果を下記に示す。
1.細胞形態 桿菌(0.7−0.8×1.0−1.5μm)
2.運動性 なし
3.グラム染色 陰性
4.胞子の有無 なし
5.コロニー形態(LB寒天培地上、24時間)
直径:1.0mm以下
色調:黄色
形:円形
隆起状態:レンズ状
周縁:全縁
表面の形状:スムーズ
透明度:不透明
粘調度:バター様
[2−2]生理学的性状
生理学的性状についての結果を下記に示す。+は陽性を、−は陰性をそれぞれ示す。
1.グルコースからの酸/ガス産生(酸産生/ガス産生) −/−
2.グルコースの酸化/発酵(酸化/発酵) −/−
3.グルコースの酸性化 −
4.フレキシルビン色素の産生 −
5.インドール産生 −
6.硝酸塩の還元 −
7.MB2216寒天での生育 +
8.生育温度
8−1. 5℃ +(反応弱い)
8−2.15℃ +
8−3.37℃ +
8−4.45℃ −
9.加水分解
9−1.カゼイン −
9−2.デンプン +
9−3.エスクリン +
9−4.ゼラチン −
10.酵素反応
10−1.カタラーゼ +
10−2.オキシダーゼ +
10−3.アルギニンジヒドロラーゼ −
10−4.ウレアーゼ −
10−5.β−ガラクトシダーゼ +
10−6.チトクロームオキシダーゼ +
10−7.アルカリフォスファターゼ +
10−8.エステラーゼ(C4) −
10−9.エステラーゼ リパーゼ(C8) −
10−10.リパーゼ(C14) −
10−11.ロイシン アリルアミダーゼ +
10−12.バリン アリルアミダーゼ −
10−13.シスチン アリルアミダーゼ −
10−14.トリプシン −
10−15.キモトリプシン −
10−16.酸性ホスファターゼ +
10−17.ナフトール−AS−BI−ホスホハイドロラーゼ −
10−18.α−ガラクトシダーゼ −
10−19.β−グルクロニダーゼ −
10−20.α−グルコシダーゼ −
10−21.β−グルコシダーゼ −
10−22.N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ −
10−23.α−マンノシダーゼ −
10−24.α−フコシダーゼ −
11.資化性試験
11−1.グルコース −
11−2.L−アラビノース −
11−3.D−マンノース +
11−4.D−マンニトール +
11−5.N−アセチル−D−グルコサミン −
11−6.マルトース −
11−7.グルコン酸カリウム −
11−8.n−カプリン酸 −
11−9.アジピン酸 −
11−10.dl−リンゴ酸 −
11−11.クエン酸ナトリウム −
11−12.酢酸フェニル −
以上の形態的性状および生理学的性状の結果に示すように、アルギン酸資化菌は、運動性を有さず、グラム陰性であり、LB寒天培地上でコロニーの色は黄色を呈し、グルコースを酸化せず、カタラーゼ反応およびオキシダーゼ反応が陰性を示す点で、Flavobacterium属の一般的性状と一致した(KRIEGら、Bergey’s manual of Systematic Bacteriology、第1巻、第353−360頁、1984年)。
一方で、これら以外の全ての性状について、アルギン酸資化菌と一致する菌種は、既知種の中では見当たらなかった。また、アルギン酸資化菌の形態的性状および生理学的性状は、簡易分子系統解析においてアルギン酸資化菌と最小クラスターを形成したF.algicolaと比較して、多数の相違点を有することが確認された(MIYASHITAら、Int.J.Syst.Evol.Microbiol.、第60巻、第344−348頁、2010年)。
以上の(1)および(2)の結果から、アルギン酸資化菌は、Flavobacterium属の新種であることが明らかになった。そこで、アルギン酸資化菌をUMI−01と命名し、平成23年3月10日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−1076として寄託した。
<実施例3>培地における至適アルギン酸ナトリウム濃度およびアルギン酸分解酵素活性と培養時間との関係の検討
(1)培地における至適アルギン酸ナトリウム濃度の検討
[1−1]UMI−01の培養
実施例1(2)のMS培地に0.5%(w/v)、1%(w/v)、1%(w/v)および2%(w/v)となるようアルギン酸ナトリウムを加え、a、b、cおよびdとした。a、b、cおよびdに、UMI−01を植菌して、600nmにおける吸光度が1.5となるまで、実施例1(2)に記載の条件下で前培養し、前培養菌液を得た。
次に、実施例1(2)のMS培地800mLに0.5%(w/v)、1%(w/v)、1%(w/v)および2%(w/v)となるようアルギン酸ナトリウムを加え、A、B、CおよびDとした。A、B、CおよびDに、前培養菌液a、b、cおよびdをそれぞれ50mLずつ加えた後、実施例1(2)に記載の条件下で90時間本培養した。
[1−2]pHおよび吸光度の測定
本実施例(1)[1−1]のA、B、CおよびDについて、培養中、下記に示す培養時間の時点で、サンプラーを用いて10mLの培地を分取して、pHおよび600nmにおける吸光度を測定した。pHの測定結果に基づき、CおよびDについては、シリンジを用いて5%(v/v)リン酸水溶液を滴下して、培地のpHを7.5に調整することにより、培養中の培地のpHを7.5に維持した。AおよびBについては、pHの調整は行わなかった。
pHおよび600nmにおける吸光度を測定した時点(時間)
A:0、11、20、28.5、40、48.5、58、77.5、89
B:0、4、22、30、40、62、68、74、89
C:0、4、6、14、22、30、40、47、57、66,76、83、90
D:0、4、8.5、14、23.5、28.5、32、35、42、48.5、57、68、77、90
吸光度の測定結果、ならびにBにおける4、22、40、62および89時間時点のpHの測定結果を図3に示す。
図3に示すように、AおよびBの吸光度を比較すると、0〜74時間ではA<Bであり、74〜90時間ではA>Bであった。この結果から、培地のpHを調整せず、かつ培養時間が比較的短い場合は、アルギン酸ナトリウム濃度が0.5%(w/v)と比較して1%(w/v)の方が、UMI−01の増殖率が高いことが明らかになった。一方、培地のpHを調整せず、かつ培養時間が比較的長い場合は、アルギン酸ナトリウム濃度が1%(w/v)と比較して0.5%(w/v)の方が、UMI−01の増殖率が高いことが明らかになった。
また、CおよびDの吸光度を比較すると、0〜35時間ではC>Dであり、40〜90時間ではC≒Dであった。この結果から、培地のpHを7.5に維持し、かつ培養時間が比較的短い場合は、アルギン酸ナトリウム濃度が2%(w/v)と比較して1%(w/v)の方が、UMI−01の増殖率が高いことが明らかになった。これに対し、培地のpHを7.5に維持し、かつ培養時間が比較的長い場合は、アルギン酸ナトリウム濃度が1%(w/v)と2%(w/v)とで増殖率が同等であることが明らかになった。
さらに、BおよびCの吸光度を比較すると、0〜68時間ではB>Cであり、68〜90時間ではB<Cであった。この結果から、培養時間が比較的短い場合は、pHの調整の有無に関わらず、増殖率が低下しないのに対し、培養時間が比較的長い場合は、pHの調整を行うことより増殖率の低下が防止できることが明らかになった。
(2)アルギン酸分解酵素活性と培養時間との関係の検討
[2−1]菌抽出液の調製
本実施例(1)[1−1]のDについて、培養中、培養時間が23.5、32、42、50、62、74および90時間の時点で、サンプラーを用いて10mLの培地を分取し、d1、d2、d3、d4、d5、d6およびd7とした。これを10,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行って、菌体ペレットを回収した。
続いて、菌体ペレットを0.5mLの10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した後、凍結融解操作(−40℃での凍結と氷上での融解)を1回行った。次に、超音波ホモジェナイザー(TAITEC VP−050型、25kHz、25W)を用いて15秒間の超音波処理を10回行うことにより菌体を破砕した後、10,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行い、上清を回収して、これを菌抽出液とした。
[2−2]235nmにおける吸光度の測定およびアルギン酸分解酵素活性の算出
10mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に、終濃度0.15%(w/v)となるようアルギン酸ナトリウムを加え、1/20容量の本実施例(2)[2−1]の菌抽出液を加えた後、30℃にて15分間インキュベートした。その間、記録計により235nmにおける吸光度上昇を記録した。
続いて、235nmにおける吸光度を1分間に0.01上昇させる活性を1Uと定義して、吸光度の測定結果から、アルギン酸分解酵素活性を算出した。その結果を図3に示す。
図3に示すように、アルギン酸分解酵素活性の値は、d1が8U/mL、d2が55U/mL、d3が215U/mL、d4が125U/mL、d5が54U/mL、d6が15U/mLおよびd7が7U/mLであった。
これらの結果から、2%(w/v)のアルギン酸ナトリウムを含み、かつpHを7.5に維持した培地においては、42時間培養したUMI−01が、顕著に高いアルギン酸分解酵素活性を有することが明らかになった。
<実施例4>菌体タンパク質の性状の検討
(1)UMI−01の培養
実施例1(2)のMS培地に、1%(w/v)、1%(w/v)および2%(w/v)となるようアルギン酸ナトリウムを加えた培地を用意し、A、BおよびCとして、実施例3(1)[1−1]に記載の方法により、UMI−01を培養した。ただし、本培養は800mLに代えて100mLのスケールで行い、本培養の時間は90時間に代えて、48時間とした。
(2)菌抽出液の調製
本実施例(1)のA、BおよびCについて、実施例3(2)[2−1]に記載の方法により菌抽出液を得た。
続いて、Aの菌抽出液を回収した後の沈殿物について、実施例3(2)[2−1]に記載の抽出操作を行い、A2を得た。すなわち、Aの菌抽出液を回収した後の沈殿物に0.5mLの10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を加えて懸濁した後、実施例3(2)[2−1]に記載の凍結融解操作、超音波処理および遠心分離を行って上清を回収し、A2とした。
さらに、A2の菌抽出液を回収した後の沈殿物について、実施例3(2)[2−1]に記載の抽出操作を行い、A3を得た。
(3)菌抽出液のSDS−PAGE
本実施例(2)のA、A2、A3、BおよびCについて、既報(Porzioら、Biochim.Biophys. Acta.、第490巻、第27−34頁、1977年)に記載の方法によりSDS−PAGEを行った。なお、ゲルは10%ポリアクリルアミドスラブゲル(1mm厚、10×12cm)を用い、サンプルは1ウェル当たり10μLをアプライした。また、染色には、終濃度0.5%(w/v)のCoomassie Brilliant Blue R−250(ThermoSCIENTIFIC社)を溶解したメタノール/酢酸水溶液{メタノール:酢酸:水=50:10:40(v:v:v)}を、脱色には、メタノール/酢酸水溶液{メタノール:酢酸:水=5:7:88(v:v:v)}をそれぞれ用いた。その結果を図4上図に示す。
図4上図に示すように、A、A2およびA3を比較すると、バンドパターンは同様であった。また、各バンドの発色強度はおおむねA>A2≒A3であり、Aにおける発色強度はA2およびA3における発色強度と比較して、約2倍大きかった。
これらの結果から、実施例3(2)[2−1]に記載の抽出操作を繰り返し行うことにより回収される菌体タンパク質は、ほぼ同じ種類のものであることが明らかになった。また、抽出操作を1回行うことにより、菌体タンパク質の50%程度を回収することができること、および抽出操作を繰り返し行うことにより、菌体タンパク質の回収量を増大させることができることが明らかになった。
また、図4上図に示すように、BおよびCを比較すると、66.4kDa〜97.2kDa付近のバンドパターンにおいてやや違いが見られた。また、Cにおける42.7kDa付近および55.6kDa付近のバンドの発色強度がBと比較して大きいことが確認された。
これらの結果から、培地のアルギン酸ナトリウム濃度を変化させることにより、UMI−01の菌体タンパク質の種類や生成量に違いが生じ得ることが明らかになった。
(4)精製菌抽出液および精製菌抽出液のイオン交換クロマトグラフィー画分に含まれる菌体タンパク質の性状の検討
[4−1]精製菌抽出液の調製
本実施例(2)の菌抽出液Cについて、定法に従って硫安分画を行い、40〜60%飽和硫安画分および60〜90%飽和硫安画分を得た。これを10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解した後、10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を外液として透析し、内液を回収して精製菌抽出液とした。40〜60%飽和硫安画分を透析したものをC40−60、60〜90%飽和硫安画分を透析したものをC60−90とした。
[4−2]精製菌抽出液のイオン交換クロマトグラフィー
本実施例(4)[4−1]のC60−90について、TOYOPEARL CM−650 M(東ソー社)を用いて、添付の仕様書に従ってイオン交換クロマトグラフィーを行い、溶出液を得て、これを精製菌抽出液のイオン交換クロマトグラフィー画分とした。なお、溶出液として、0〜0.3mol/Lの範囲で直線的に濃度を変化させたNaCl水溶液を用いた。
[4−3]精製菌抽出液および精製菌抽出液のイオン交換クロマトグラフィー画分のSDS−PAGE
本実施例(4)[4−1]のC60−90、および本実施例(4)[4−2]のイオン交換クロマトグラフィー画分について、本実施例(3)に記載の方法によりSDS−PAGEを行った。その結果を図4下図に示す。
図4下図に示すように、精製菌抽出液C60−90では、200kDa付近から6.5kDa付近の範囲において、さまざまな分子量を示すバンドが確認された。また、イオン交換クロマトグラフィー画分の溶出液番号7(塩濃度が0.027mol/L)、溶出番号9(塩濃度が0.035mol/L)、溶出番号10(塩濃度が0.039mol/L)、溶出番号11(塩濃度が0.044mol/L)、溶出番号12(塩濃度が0.048mol/L)、溶出番号13(塩濃度が0.052mol/L)、溶出番号14(塩濃度が0.055mol/L)、溶出番号15(塩濃度が0.06mol/L)および溶出番号63(塩濃度が0.25mol/L)において、バンドが確認された。
これらの結果から、精製菌抽出液には200kDa付近から6.5kDa付近に至る、さまざまな分子量のタンパク質が含まれることが明らかになった。また、精製菌抽出液の菌体タンパク質には、イオン交換クロマトグラフィーにおいて、さまざまな塩濃度で溶出するタンパク質が含まれることが明らかになった。
(5)精製菌抽出液のアルギン酸分解酵素活性および分解産物の検討
[5−1]アルギン酸分解酵素活性の算出
10mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に、NaClおよびアルギン酸ナトリウムをそれぞれ、0.1mol/Lおよび0.5%(w/v)となるよう加えたものを2つ用意し、反応液pおよび反応液qとした。反応液pおよび反応液qに、1/20容量の本実施例(4)[4−1]のC60−90およびC40−60をそれぞれ加えた後、30℃にて6時間インキュベートした。その後、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を算出したところ、反応液pは239U/mLであり、反応液qは201U/mLであった。
[5−2]薄層クロマトグラフィーによる分解産物の検討
本実施例(5)[5−1]の反応液pおよび反応液qについて、インキュベート開始から、1分間、5分間、10分間、30分間、1時間、2時間、4時間および6時間経過時に、2μLの反応液を分取した。分取した反応液を1μLずつ、2枚のTLC60シリカゲルプレート(Merck社)にアプライし、1−ブタノール:酢酸:水=2:1:1(v:v:v)で混合した展開溶液を用いて展開した。その後、一方のプレートについてはチオバルビツール酸発色法を行うことにより、不飽和糖やα−ケト酸を検出し、もう一方のプレートについては硫酸発色法を行うことにより、全糖質を検出した。その結果を図5に示す。
図5に示すように、反応液pでは、インキュベート時間が5分間より短い場合には2糖、3糖、4糖および5糖などを示すバンドが確認され、インキュベート時間が10分間の場合には単糖(不飽和単糖やα−ケト酸)、2糖、3糖および4糖を示すバンドが主に確認され、インキュベート時間が30分間より長い場合には単糖を示すバンドが主に確認された。
また、反応液qでは、インキュベート時間が10分間より短い場合には2糖、3糖、4糖、5糖および6糖などを示すバンドが確認され、インキュベート時間が30分間の場合には単糖および2糖を示すバンドが確認され、反応時間が1時間より長い場合には単糖を示すバンドが主に確認された。
また、反応液pおよび反応液qの間で、インキュベート時間が同じ場合における各バンドの発色強度を比較すると、単糖、2糖、3糖、4糖、5糖および6糖のいずれを示すバンドについても、おおむね反応液pにおける発色強度の方が大きかった。
これらの結果から、反応液pおよび反応液qにおいて、精製菌抽出液によりアルギン酸が分解されてオリゴ糖や不飽和単糖、α−ケト酸が生成したことが明らかになった。また、菌抽出液の60〜90%飽和硫安画分からなる精製菌抽出液が、40〜60%飽和硫安画分からなる精製菌抽出液と比較して、より高いアルギン酸分解酵素活性を有することが明らかになった。
すなわち、UMI−01はアルギン酸を分解してオリゴ糖、不飽和単糖およびα−ケト酸を製造することができる分解酵素を産生することが明らかになった。
また、MALDI−TOF/MS(4700 Proteomics Analyzer,ABI社)を用いた質量分析法および1,2−diamino−4,5−methylenedioxybenzene(DMB)による蛍光誘導化法により、不飽和単糖、α−ケト酸の構造を解析したところ、次式(化31)の不飽和単糖、次式(化32)のα−ケト酸または次式(化33)のウロン酸であることが判明した;
Figure 0006025018
[化32]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化33]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
<実施例5>UMI−01が産生する分解酵素の性状の検討
(1)UMI−01の培養
実施例1(2)のMS培地に、1%(w/v)となるようアルギン酸ナトリウムを加えた培地を用意し、実施例3(1)[1−1]に記載の方法により、UMI−01を培養した。ただし、本培養は800mLに代えて1000mLのスケールで行い、本培養の時間は90時間に代えて48時間とし、本培養の培養温度は30℃に代えて25℃とした。
(2)精製菌抽出液の調製
本実施例(1)のUMI−01について、実施例3(2)[2−1]に記載の方法により、約5gの菌体ペレットを得て、約50mLの菌抽出液を得た。ただし、遠心分離の時間は10分間に代えて15分間とした。
続いて、菌抽出液について、実施例4(4)[4−1]に記載の方法により精製菌抽出液を調製し、約20mLの精製菌抽出液を得た。ただし、飽和硫安画分として、40〜60%飽和硫安画分および60〜90%飽和硫安画分に代えて、50〜90%飽和硫安画分を用いた。
(3)アルギン酸分解酵素活性の算出
本実施例(2)の精製菌抽出液について実施例3(2)[2−2]に記載の方法により、アルギン酸分解酵素活性を算出したところ、500U/mLであった。すなわち、500U/mL×20mL=計10,000Uの酵素を得ることができた。
(4)基質特異性の検討
[4−1]吸光度測定
10mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に、下記のアルギン酸塩を終濃度0.15%(w/v)となるよう加えたものを用意し、A、B、
CおよびDとした。
A:アルギン酸ナトリウム
B:主としてMブロックを含むアルギン酸のナトリウム塩(M−rich)
C:主としてMGブロックを含むアルギン酸のナトリウム塩(MG−rich)
D:主としてGブロックを含むアルギン酸のナトリウム塩(G−rich)
なお、アルギン酸ナトリウムには、通常、Mブロック、MGブロック、Gブロックおよび交互ポリマーがランダムに含まれる。
続いて、A、B、CおよびDに、1/20容量の本実施例(2)の精製菌抽出液を加えた後、30℃にて180分間インキュベートした。インキュベート開始から9分間の間、1分間経過毎に235nmにおける吸光度を測定して、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を算出した。吸光度の測定結果およびアルギン酸分解酵素活性の算出結果を図6に示す。
図6に示すように、吸光度はA、B、CおよびDのいずれにおいても時間経過に比例して増大した。また、アルギン酸分解酵素活性の値は、Aでは267U/mL、Bでは425U/mL、Cでは163U/mL、およびDでは80U/mLであった。
これらの結果から、精製菌抽出液により、主としてMブロックを含むアルギン酸、Mブロック、MGブロック、Gブロックおよび交互ポリマーをランダムに含むアルギン酸、主としてMGブロックを含むアルギン酸、および主としてGブロックを含むアルギン酸のいずれも分解されることが明らかになった。
すなわち、UMI−01が産生する分解酵素は、Mブロック、MGブロックおよびGブロックのいずれも分解することができることが明らかになった。また、UMI−01が産生する分解酵素の活性は、Mブロック>MGブロック>Gブロックの順に高いことが明らかになった。
[4−2]分解産物の検討
本実施例(2)[2−1]のBおよびDについて、インキュベート開始から、0分間、5分間、10分間、30分間、60分間、120分間および180分間経過時に、2μLの反応液を分取し、実施例4(5)[5−2]に記載の方法により薄層クロマトグラフィーおよびチオバルビツール酸発色法を行った。その結果を図7に示す。
図7に示すように、Bでは、インキュベート時間が5分間、10分間、30分間、60分間、120分間および180分間において、2糖および単糖を示すバンドが確認された。また、インキュベート時間が長いほど、単糖を示すバンドの発色強度は大きくなることが確認された。一方、Dでは、インキュベート時間が5分間、10分間、30分間、60分間、120分間および180分間において、2糖を示すバンドが確認された。また、インキュベート時間が長いほど、単糖を示すバンドの発色強度は大きくなることが確認された。
これらの結果から、BおよびDにおいて、精製菌抽出液によりアルギン酸が分解されて2糖の他、(化31)、(化32)または(化33)のような不飽和単糖やα−ケト酸、ウロン酸が生成したことが明らかになった。すなわち、UMI−01はMブロックやGブロックを分解して2糖や不飽和単糖、α−ケト酸、ウロン酸を製造することができる分解酵素を産生することが明らかになった。
(3)市販のFlavobacterium由来アルギン酸リアーゼとの比較
10mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に、アルギン酸ナトリウムを1%(w/v)となるよう加えたものを2つ用意し、反応液pおよび反応液qとした。反応液pには、本実施例(2)の精製菌抽出液を50U/mL相当量加え、反応液qには、市販のFlavobacterium由来アルギン酸リアーゼ(Sigma社)を50U/mL相当量加えた後、いずれも30℃にて90分間インキュベートした。
インキュベート開始から、0分間、5分間、10分間、20分間、30分間、60分間および90分間経過時に、2μLを分取し、実施例4(5)[5−2]に記載の方法により薄層クロマトグラフィーおよびチオバルビツール酸発色法を行った。その結果を図8に示す。
図8に示すように、反応液pでは、5分間、10分間、20分間、30分間、60分間および90分間経過時に、主として2糖および単糖を示すバンドが確認された。また、単糖を示すバンドの発色強度がインキュベート時間の経過とともに大きくなった。一方、反応液qでは、5分間、10分間、20分間、30分間、60分間および90分間経過時に、主として3糖、4糖および5糖を示すバンドが確認されたが、単糖を示すバンドは確認されなかった。また、3糖および4糖を示すバンドの発色強度がインキュベート時間の経過とともに大きくなった。また、反応液pと反応液qとを、同じインキュベート時間において比較すると、反応液pにおけるバンドの発色強度が、反応液qと比較して大きかった。
これらの結果から、市販のFlavobacterium由来アルギン酸リアーゼは、アルギン酸を単糖まで分解することができないのに対し、UMI−01が産生する分解酵素はアルギン酸を単糖まで分解することができることが明らかになった。また、UMI−01が産生する分解酵素の活性が、市販のFlavobacterium由来アルギン酸リアーゼと比較して、高いことが明らかになった。
<実施例6>エンド型アルギン酸リアーゼの単離
(1)精製菌抽出液の調製
実施例1(2)のMS培地に、1/10000量のTrace elements溶液 (0.1NのHCl 1LにFeCl9.7g、CaCl7.8g、CoCl6水和物0.218g、CuSO5水和物0.156g、NiCl6水和物0.118gおよびCrCl6水和物0.105gを溶解したもの)および1%(w/v)となるようアルギン酸ナトリウムを加えた培地(アルギン酸ナトリウム入りMS最少培地)を用意し、実施例3(1)[1−1]に記載の方法により、UMI−01を培養した。ただし、前培養は100mL、本培養は1000mLのスケールで行い、本培養の培地に加える前培養菌液は20mLとした。続いて、実施例3(2)[2−1]に記載の方法において、10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に代えて10mmol/LTris−HCl緩衝液(pH7.6;以下「トリス緩衝液」という。)を用いて抽出操作を行い、菌抽出液を得た。
次に、菌抽出液について、実施例4(4)[4−1]に記載の方法において、0〜50%飽和硫安画分および50〜90%飽和硫安画分を用いて硫安分画を行った。すなわち、菌抽出液の体積を測定して、粉末硫安を50%飽和となるように添加して溶解した。その際、0.1NのNHOHを用いてpHを7.6に維持した。続いて、10000×gで20分間遠心分離を行うことにより沈殿物と上清とをそれぞれ回収し、沈殿物をトリス緩衝液に溶解して、これを0〜50%飽和硫安画分とした。一方、上清には、90%飽和となるようにさらに粉末硫安を添加して溶解した。続いて、同様の条件下で遠心分離を行うことにより沈殿物を回収し、トリス緩衝液に溶解して、これを50〜90%飽和硫安画分とした。実施例3(2)[2−2]に記載の方法により、0〜50%飽和硫安画分および50〜90%飽和硫安画分のアルギン酸分解酵素活性を算出して比較したところ、50〜90%飽和硫安画分の方がより高いアルギン酸分解酵素活性を示したことから、この50〜90%飽和硫安画分を精製菌抽出液として、下記の実験に用いた。
(2)Toyopearl DEAE−650Mカラムクロマトグラフィーによる精製
トリス緩衝液で平衡化したToyopearl DEAE−650Mカラム(直径2.5×長さ17.5cm;東ソー社)に本実施例6(1)の精製菌抽出液を供した。その後、0〜0.3mol/Lの直線濃度勾配および0.5mol/LのNaClを含むトリス緩衝液(NaCl/トリス緩衝液)を用いてカラムに吸着させたタンパク質の溶出を行い、溶出液を10mLずつ分取して、分取開始から順に、1〜120番の溶出画分とした。各溶出画分について、含有タンパク質量の指標として280nmにおける吸光度を測定した。また、各溶出画分について、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を測定した。その結果を図9に示す。図9に示すように、アルギン酸分解酵素活性は、5〜7番の溶出画分(トリス緩衝液による溶出液;図9においてピークaで示す)、および、31〜45番の溶出画分(0.05〜0.15mol/L付近のNaCl水溶液による溶出液;図9においてピークbおよびcで示す)にピークが確認された。
そこで、ピークa〜cに相当する溶出画分ならびに精製菌抽出液について、定法に従ってSDS−PAGEを行った。また、ピークa〜cに相当する溶出画分および精製菌抽出液について、実施例4(5)[5−1]および[5−2]に記載の方法により、アルギン酸ナトリウムを加えてインキュベートした後に薄層クロマトグラフィーを行い、チオバルビツール酸発色法により検出した(以下、「活性染色法」という。)。その結果を図10に示す。図10に示すように、活性染色法で、ピークbに相当する溶出画分において顕著に高い発色が確認され、アルギン酸の分解産物が多く生成していることが確認された。また、SDS−PAGEで、ピークbに相当する溶出画分において、分子量約30kDaのタンパク質を示すバンドが確認された。これらの結果から、ピークbに相当する溶出画分(31〜35番の溶出画分)を第一酵素液として、以下のさらなる精製に供することとした。
(3)Mono Q 5/50 GLカラムクロマトグラフィーによる精製
本実施例6(2)の第一酵素液を凍結乾燥した。続いて、これをトリス緩衝液に溶解し、トリス緩衝液を外液として透析して、内液を回収した。次に、遠心濾過フィルターUltrafree MC/CL(Millipore社)を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液をMono Q 5/50 GL陰イオン交換カラム(5×50mm)を装着したAKTA−FPLC (GEヘルスケア社)に供した。その後、0〜0.3mol/Lの直線濃度勾配および0.5mol/LのNaCl/トリス緩衝液を用いて、流速0.8mL/分でカラムに吸着させたタンパク質の溶出を行い、溶出液を1mLずつ分取して、分取開始から順に、1〜35番の溶出画分とした。各溶出画分について、280nmにおける吸光度を測定し、また、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を測定した。その結果を図11に示す。図11に示すように、アルギン酸分解酵素活性は、2および3番の溶出画分(トリス緩衝液による溶出液;図11においてピークdで示す)にピークが確認された。また、吸光度は、2および3番の溶出画分(トリス緩衝液による溶出画分;図11においてピークdで示す)および11〜15番の溶出画分(0.1mol/L付近のNaCl/トリス緩衝液による溶出液;図11においてピークeで示す)にピークが確認された。
そこで、ピークdおよびeに相当する溶出画分および第一酵素液について、定法に従ってSDS−PAGEを、実施例4(5)[5−1]および[5−2]に記載の方法により、活性染色法を、それぞれ行った。その結果を図12に示す。図12に示すように、活性染色法で、ピークdに相当する溶出画分において顕著に高い発色が確認され、アルギン酸の分解産物が多く生成していることが確認された。また、SDS−PAGEで、ピークdに相当する溶出液において、分子量約30kDaのタンパク質を示すバンドが明瞭に確認された。これらの結果から、ピークdに相当する溶出画分(2および3番の溶出画分)を第二酵素液として、以下のさらなる精製に供することとした。
(4)Superdex 75 10/300 GLカラムクロマトグラフィーによる精製
本実施例6(3)の第二酵素液を0.3mol/LのNaCl/トリス緩衝液に溶解し、0.3mol/LのNaCl/トリス緩衝液を外液として透析して、内液を回収した。次に、遠心濾過フィルターUltrafree MC/CL(Millipore社)を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液を、Superdex 75 10/300 GLカラム(0.1×30cm)を装着したAKTA−FPLCゲル濾過カラムクロマトグラフィーに供した。その後、0.3mol/LのNaCl/トリス緩衝液を用いて流速1.0mL/分でカラムに吸着させたタンパク質の溶出を行い、溶出液を1mLずつ分取して、分取開始から順に、1〜35番の溶出画分とした。各溶出画分について、280nmにおける吸光度を測定し、また、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を測定した。その結果を図13に示す。図13に示すように、アルギン酸分解酵素活性は、10〜12番の溶出画分;図13においてピークf〜hで示す)にピークが確認された。
そこで、ピークf〜hに相当する溶出画分および第二酵素液について、定法に従ってSDS−PAGEを、実施例4(5)[5−1]および[5−2]に記載の方法により活性染色法を、それぞれ行った。その結果を図14に示す。図14に示すように、活性染色法で、ピークf〜hに相当する溶出画分のいずれにおいても、高い発色が確認され、アルギン酸ナトリウムの分解産物が多く生成していることが確認された。また、SDS−PAGEで、ピークf〜hに相当する溶出画分のいずれにおいても、分子量約30kDaのタンパク質を示すバンドが確認され、特にピークfおよびgに相当する溶出画分で、そのバンドが明瞭に確認された。これらの結果から、ピークf〜hに相当する溶出画分中に存在する分子量約30kDaのタンパク質を、アルギン酸リアーゼFlAly−1と称することとした。また、ピークf〜hに相当する溶出画分を精製FlAly−1液とした。
また、本実施例6(1)の菌抽出液および精製菌抽出液、本実施例6(2)の第一酵素液、本実施例6(3)の第二酵素液および精製FlAly−1液について、Lowry法によりタンパク質量を測定して、アルギン酸分解酵素活性の測定結果に基づき、比活性(U/mg)および総活性(U)を算出した。また、菌抽出液の総活性を100%として、精製菌抽出液、第一酵素液、第二酵素液および精製FlAly−1液の総活性を百分率に換算し、これを酵素の活性収率(%)とした。また、菌抽出液の比活性を1として、比活性の相対比を算出し、これを精製度(fold)とした。その結果を表3に示す。表3に示すように、精製FlAly−1液の精製度は菌抽出液の3016.4倍であり、酵素の活性収率は1.4%であった。
Figure 0006025018
<実施例7>FlAly−1の酵素特性の検討
(1)アルギン酸の分解様式の検討
10mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に、終濃度0.15%(w/v)となるようアルギン酸ナトリウムを加えて解析用基質液とした。オストワルド粘度計を用いて解析用基質液の30℃における粘度を測定した。続いて、解析用基質液に精製FlAly−1液0.1mL(60U)を加えて反応液とし、30℃にて30分間インキュベートすることによりアルギン酸分解反応を行った。その間、235nmにおける吸光度を測定するとともに、オストワルド粘度計を用いて粘度を測定した。反応液の粘度の測定値について、解析用基質液の測定値を1として、相対値(相対粘度)を算出した。その結果を図15に示す。図15に示すように、相対粘度はアルギン酸分解反応の初期に急激に低下した後、穏やかに低下を続け、30分後には1.08となった。一方、吸光度の増加速度、すなわちアルギン酸の分解産物である不飽和糖の生成速度は、反応時間を通じてほぼ一定であった。これらの結果から、FlAly−1は、アルギン酸の分子内部をランダムに分解する酵素であること、すなわち、エンド型のアルギン酸リアーゼであることが明らかになった。
(2)至適pHの検討
本実施例7(1)の解析用基質液を調製し、8.3Uの精製FlAly−1液を加えて反応液とした。ただし、10mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液のpHを変化させることにより、種々のpHの反応液を調製した。反応液を30℃にて15分間インキュベートすることによりアルギン酸分解反応を行い、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を測定した。その後、測定されたアルギン酸分解酵素活性の最高値を100%として、相対的活性値を算出した。その結果を図16左図に示す。図16左図に示すように、相対的活性値は、反応液のpHが約8の場合に100%となった。この結果から、FlAly−1のアルギン酸分解反応における至適pHは約8であることが明らかになった。
(3)pH安定性の検討
本実施例7(2)に記載の方法において、反応時間を15分間に代えて3時間としてアルギン酸分解反応を行い、これを当初反応液とした。当初反応液を急冷した後、本実施例7(1)の解析用基質液に加えて、30℃で10分間インキュベートすることにより二度目のアルギン酸分解反応を行った。その後、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を測定し、本実施例7(2)に記載の方法により相対的活性値を算出した。その結果を図16右図に示す。図16右図に示すように、相対的活性値は、当初反応液のpHが7.6の場合に100%であり、pH7〜8の場合に80%以上であった。この結果から、pH7〜8でアルギン酸分解反応を行った後に、アルギン酸分解酵素活性が最もよく残存すること、すなわち、FlAly−1はpHが7<pH<8において最も安定であることが明らかになった。
(4)至適温度の検討
本実施例7(1)の解析用基質液に、11.3Uの精製FlAly−1液を加えて反応液とし、種々の温度にて15分間インキュベートすることによりアルギン酸分解反応を行った。その後、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を測定し、本実施例7(2)に記載の方法により相対的活性値を算出した。その結果を図17左図に示す。図17左図に示すように、相対的活性値は、反応液の温度が約54℃の場合に100%であった。この結果から、FlAly−1のアルギン酸分解反応における至適温度は約54℃であることが明らかになった。
(5)温度安定性の検討
本実施例7(5)に記載の方法において、反応時間を15分間に代えて30分間としてアルギン酸分解反応を行い、これを当初反応液とした。当初反応液について、本実施例7(3)に記載の方法により、相対的活性値を求めた。その結果を図17右図に示す。図17右図に示すように、相対的活性値は、当初反応液のアルギン酸分解反応時の温度が、20℃〜47℃の場合に50%以上であり、60℃の場合に0%であった。この結果から、FlAly−1は、47℃で30分間アルギン酸分解反応を行った後ではアルギン酸分解酵素活性が50%以上残存しているのに対し、60℃で30分間アルギン酸分解反応を行った後ではアルギン酸分解酵素活性が消失することが明らかになった。
(6)至適NaCl濃度の検討
本実施例7(1)の解析用基質液に、8.8Uの精製FlAly−1液を加え、種々の終濃度になるようにNaClを添加して反応液とした。反応液を30℃にて10分間インキュベートすることによりアルギン酸分解反応を行った。その後、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を測定し、本実施例7(2)に記載の方法により相対的活性値を算出した。その結果を図18に示す。図18に示すように、相対的活性値は、反応液におけるNaClの終濃度が0.1および0.2mol/Lの場合に100%であり、0.05mol/Lおよび0.4mol/Lの場合に90%以上であった。この結果から、FlAly−1のアルギン酸分解反応における至適NaCl濃度Cは、0.05<C<0.3(mol/L)であることが明らかとなった。
(7)基質特異性の検討
基質を、アルギン酸ナトリウムに代えてアルギン酸ナトリウムならびに実施例5(4)[4−1]のM−rich、MG−richおよびG−richとして、本実施例7(1)の解析用基質液を調製した。解析用基質液に2.1Uの精製FlAly−1液を加えて反応液とし、30℃にて5分間インキュベートすることによりアルギン酸分解反応を行った。その間、235nmにおける吸光度を測定した。その結果を図19に示す。図19に示すように、アルギン酸ナトリウム、M−rich、MG−richおよびG−richのいずれが基質である場合も、同程度の吸光度が測定された。この結果から、FlAly−1は、Mブロック、MGブロック、Gブロックおよび交互ポリマーをランダムに含むアルギン酸(アルギン酸ナトリウム)、主としてMブロックを含むアルギン酸(M−rich)、主としてMGブロックを含むアルギン酸(MG−rich)、および主としてGブロックを含むアルギン酸(G−rich)のいずれも同様に分解することができることが明らかになった。すなわち、FlAly−1は、アルギン酸の構造中、D−マンヌロン酸のホモポリマーである部分(Mブロック)、L−グルロン酸のホモポリマーである部分(Gブロック)、MブロックとGブロックとが交互に結合した部分(MGブロック)およびD−マンヌロン酸とL−グルロン酸とが交互に結合した部分(交互ポリマー)のいずれも同様に分解することができることが示された。
(8)種々の塩および化学物質の影響の検討
pHを7.0に代えて7.2とし、基質をアルギン酸ナトリウムに代えて二価金属イオンが共存した場合にゲル化し難いM−richとして、本実施例7(1)の解析用基質液を調製した。解析用基質液に表4の左欄に示す試薬を表4の中欄に示す終濃度となるよう添加し、8.69Uの精製FlAly−1液を加えて反応液とした。反応液を、30℃にて5分間インキュベートすることによりアルギン酸分解反応を行った。また、コントロールとして、試薬を添加せずに、同様にアルギン酸分解反応を行った。その後、実施例3(2)[2−2]に記載の方法によりアルギン酸分解酵素活性を測定し、コントロールのアルギン酸分解酵素活性の値を100%として、相対的活性値を算出した。その結果を表4右欄に示す。表4右欄に示すように、アルギン酸分解酵素活性は、反応液中にNaやNH4+などが存在した場合に増大する一方で、Co2+やCd2+、Cu2+などが存在した場合に低下する傾向であること、およびDTTなどの還元剤が存在した場合には、ほとんど変化しないことが明らかになった。
Figure 0006025018
(9)アルギン酸分解産物の検討
アルギン酸ナトリウムの終濃度を0.15(w/v)に代えて0.75%(w/v)として、本実施例7(1)の解析用基質液を調製した。解析用基質液に、500Uの精製FlAly−1液を加えて反応液とし、30℃にて0〜24時間インキュベートすることによりアルギン酸分解反応を行った。その後、実施例4(5)[5−2]に記載の方法により、分解産物の検討を行った。その結果を図20に示す。図20に示すように、硫酸発色法およびチオバルビツール酸発色法のいずれにおいても、2〜4糖を示すバンドが主に確認された。その一方で、単糖(不飽和単糖やα−ケト酸)を示すバンドは確認されなかった。これらの結果から、FlAly−1はアルギン酸を分解して2〜4糖のオリゴ糖を生成させること、および、単糖は生成させないことが明らかになった。なお、UMI−01の菌抽出液や精製菌抽出液により単糖(不飽和単糖やα−ケト酸)が生成したのは、アルギン酸オリゴ糖を単糖(不飽和単糖やα−ケト酸)にまで分解する、FlAly−1とは別の二糖分解酵素をUMI−01が有するためと考えられた。
<実施例8>FlAly−1遺伝子の塩基配列解析
(1)FlAly−1のN末端アミノ酸配列
FlAly−1のN末端アミノ酸配列を、プロテインシーケンサー(473A型;アプライドバイオシステムズ社)を用いて分析した。その結果、N末端40残基のアミノ酸配列はSKTAKIDWSHWTVTVPEENPDKPGKPYSLGYPEILNYAED(配列番号2)であることが明らかになった。次に、配列番号2のアミノ酸配列について、BLAST検索を行った。その結果を表5に示す。表5に示すように、配列番号2のアミノ酸配列と、100%の相同性を示す既知のアミノ酸配列は検出されなかった。また、配列番号2のアミノ酸配列と46〜51%の相同性を示す既知のアミノ酸配列が検出された。これらは、多糖リアーゼファミリー7(PL−7)に属する微生物由来アルギン酸リアーゼおよび類似の配列を有するタンパク質であった。この結果から、FlAly−1は新規のアルギン酸リアーゼであることが明らかになった。
Figure 0006025018
(2)UMI−01のゲノムDNAの抽出
UMI−01を、実施例6(1)のアルギン酸ナトリウム入りMS最少培地10mLで培養した後、8000rpmで20分間遠心分離を行い、菌体ペレットを回収した。菌体ペレットをマイクロピペットの先で1μL程度取ってマイクロチューブに入れ、ISOHAIR(NIPPON GENE社)を用いて、添付の使用書に従いゲノムDNAを抽出して、抽出液を得た。抽出液に、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1/v:v:v)200μLを加えて5分間穏やかに転倒混和することによりタンパク質を不溶化させ、11000×gで5分間遠心分離を行った後、ゲノムDNAを含む水相を回収した。その後、エタノール沈殿を行ってゲノムDNAを回収し、TE緩衝液(pH8.0)に溶解した。ゲノムDNAの濃度は、ナノドロップ(NanoDrop 1000)を用いて測定した。
(3)FlAly−1遺伝子のPCRによる増幅
下記条件により一次PCRおよび二次PCRを行って、二次PCR産物を得た。二次PCR産物を、定法に従い、pTaq1プラスミドベクターに挿入した後、大腸菌DH5αにトランスフォーメーションしてクローニングし、クローンプラスミドを得た。
一次PCRの条件
DNAポリメラーゼ;Ex Taq polymerase(TaKaRa社)
プライマー;
配列番号2のアミノ酸配列に基づき設計した縮重プライマーとして1Fおよび2F
1F:GGNAARACNGCNAARATHGA(配列番号3)
2F:CAYWSNCAYTGGACNGTNAC(配列番号4)
PL−7の高度保存領域のアミノ酸配列に基づき設計した縮重プライマーとして1Rおよび2R
1R:TCNGCNGCRTARTTNARDAT(配列番号5)
2R:TANARNCCNGCNGCYTTRAARTA(配列番号6)
[なお、プライマーの塩基配列中、NはA、C、GまたはTを、RはAまたはGを、HはA、TまたはCを、YはCまたはTを、WはAまたはTを、SはCまたはGを、DはA、GまたはTをそれぞれ示す。]
鋳型DNA;本実施例8(2)のゲノムDNA
使用機器;PCR Thermal Cycler DiceR mini(TaKaRa社)
反応条件;96℃で2分間の後、96℃で30秒、45℃で30秒および72℃で1分の反応を1サイクルとして、40サイクル行い、最後に72℃で7分間インキュベートすることにより、一次PCR産物を得た。
二次PCRの条件(下記以外は一次PCRと同条件)
鋳型DNA;一次PCR産物
プライマー;(TA PCR Cloning Kit;ダイナエクスプレス社)
M13 BD−Fw Primer
M13 BD−Rev Primer
反応条件;40サイクルを30サイクルとした他は一次PCRと同条件で行い、二次PCR産物を得た。
また、下記の条件によりインバース一次PCRを行って、インバース一次PCR産物を得た。インバース一次PCR産物を鋳型として、インバース一次PCRと同条件でインバース二次PCRを行い、インバース二次PCR産物を得た。インバース二次PCR産物を、定法に従いpTaq1プラスミドベクターに挿入してクローニングし、クローンプラスミドを得た。
インバース一次PCRの条件(下記以外は一次PCRと同条件)
鋳型DNA;本実施例8(2)のゲノムDNAを各種の制限酵素により消化し、フェノール−クロロホルム処理およびエタノール沈殿を行って精製したものをT4 DNA Ligase(TaKaRa社)により自己ライゲーションさせて得られた環状DNA。
プライマー;
inv−1F:AATGAGAGGTACGTATGCTATTGACGA(配列番号7)
inv−2F:GCCGCGTTATTATTGCGCAAATTCACGG(配列番号8)
inv−1R:CAACAGACTTGTCTTTTGGGTCATCGTA(配列番号9)
inv−2R:GGATGCGATTTTATCCTCAGCATAATTT(配列番号10)
反応条件;96℃で2分間の後、96℃で30秒、60℃で30秒および72℃で5分の反応を1サイクルとして、30サイクル行い、最後に72℃で7分間。
(4)FlAly−1遺伝子の全塩基配列および演繹アミノ酸配列
本実施例8(3)のクローンプラスミドについて、定法に従い塩基配列のシークエンスを行って、FlAly−1遺伝子の翻訳領域の全塩基配列(配列番号11)を決定した。また、配列番号11の塩基配列から、FlAly−1の全アミノ酸配列(配列番号12)を演繹した。その結果を図21に示す。なお、図21において、本実施例8(1)で決定したN末端アミノ酸配列(配列番号2)に相当する部分を下線で示す。図21に示すように、FlAly−1遺伝子の翻訳領域の塩基配列(配列番号11)は867bpであり、FlAly−1のアミノ酸配列(配列番号12)は288残基であった。ここで、本実施例8(1)で決定したN末端アミノ酸配列(配列番号2)よりN末端側の28アミノ酸残基は、FlAly−1には存在していなかったことから、分泌シグナル配列と推定された。このことから、成熟型のFlAly−1は、配列番号12のアミノ酸配列(翻訳型のアミノ酸配列)のうち、配列番号2のアミノ酸配列をN末端として、そこからC末端までの全部で260アミノ酸残基(配列番号13)から成り、その理論分子量は29669.4Daと算定された。この理論分子量は、実施例6で行ったSDS−PAGEにより推定された分子量である約30kDaと一致しており、整合性のある結果が得られたことが明らかになった。
続いて、成熟型のFlAly−1のアミノ酸配列(配列番号13)について、BLAST検索を行った。その結果を図22に示す。図22に示すように、成熟型のFlAly−1のアミノ酸配列(配列番号13と100%の相同性を示す既知のアミノ酸配列は検出されなかった。なお、成熟型のFlAly−1のアミノ酸配列(配列番号13)と98%の同一性を示すアルギン酸リアーゼalg2A(GenBankアクセッション番号;AEB69783.1、UniProt entry;G9CHX6)が検出されたが、alg2Aはゲノム解析によって見いだされた理論上の酵素であり、実際にタンパク質として発現しているかどうかは不明であり、酵素特性などについても知られていない。この結果から、FlAly−1は新規のアルギン酸リアーゼであることが明らかになった。
<実施例9>オリゴ糖、不飽和単糖およびα−ケト酸、ウロン酸の製造
(1)ゲル濾過クロマトグラフィーによる精製
[1−1]アルギン酸の分解およびアルギン酸分解産物の回収
蒸留水50mLに、アルギン酸ナトリウム500mgを溶解した後、実施例5(2)の精製菌抽出液を60U/mL相当量加えて、これを反応液とした。反応液を30℃にて12時間インキュベートした後、透析用セルロースチューブUC36−32(三光純薬)を用いて、蒸留水450mLを外液として透析して、外液を回収した。ロータリーエバポレーターを用いて回収した外液を濃縮乾固し、375mgの濃縮乾固物を得て、これをアルギン酸分解産物とした。
[1−2]ゲル濾過クロマトグラフィー
本実施例(1)[1−1]のアルギン酸分解産物350mgを5mLの50mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解し、バイオゲルP2カラム(4.6×70cm;分画分子量100−1800;BioRad社)を用いて、添付の仕様書に従ってゲル濾過クロマトグラフィーを行い、溶出液を10mLずつ分取した。その後、各溶出液の235nmにおける吸光度を測定した。また、各溶出液から2μLをとり、実施例4(5)[5−2]に記載の方法により薄層クロマトグラフィーおよびチオバルビツール酸発色法を行った。その結果を図23に示す。
図23に示すように、吸光度は、溶出液番号66〜73および溶出液番号77〜90において顕著に大きかった。また、薄層クロマトグラフィーでは、溶出液番号68〜71において2糖を示すバンドのみが、溶出液番号78〜82において単糖を示すバンドのみがそれぞれ確認された。
これらの結果から、UMI−01の精製菌抽出液によりアルギン酸を分解して得たアルギン酸分解産物を透析により回収した後、ゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより、高純度の2糖や不飽和単糖、α−ケト酸、ウロン酸を得ることができることが明らかになった。またこの場合において、アルギン酸500mgから2糖が50mg程度、α−ケト酸ないしウロン酸が325mg程度得ることができることが明らかとなり、いわゆるα−ケト酸の収率はラボレベルでも実に65%と高い値であることが明らかとなった。
(2)イオン交換クロマトグラフィーによる精製
本実施例(1)[1−1]に記載の方法により、アルギン酸の分解およびアルギン酸分解産物の回収を行った。続いて、アルギン酸分解産物350mgを5mLの蒸留水に溶解し、第4級アンモニウム基をイオン交換基とするTOYOPEARL SuperQ−650 M(2×20cm;東ソー社)を用いて、添付の仕様書に従ってイオン交換クロマトグラフィーを行い、溶出液を5mLずつ分取した。なお、溶出液には直線濃度勾配0〜0.15mol/LのNaCl水溶液を用いた。その後、各溶出液の235nmにおける吸光度を測定した。また、各溶出液から2μLをとり、実施例4(5)[5−2]に記載の方法により薄層クロマトグラフィーおよびチオバルビツール酸発色法を行った。その結果を図24に示す。
図24に示すように、吸光度は、溶出液番号50〜62(溶出液のNaCl濃度は0.075〜0.085mol/mL)および溶出液番号81〜89(溶出液のNaCl濃度は0.091〜0.093mol/mL)において大きく、溶出液番号71〜80(溶出液のNaCl濃度は0.095〜0.097mol/mL)において顕著に大きかった。また、薄層クロマトグラフィーでは、溶出液番号58〜61において単糖を示すバンドのみが、溶出液番号73、75、77および79において2糖を示すバンドのみが、溶出液番号86〜88において3糖を示すバンドのみがそれぞれ確認された。
これらの結果から、UMI−01の精製菌抽出液によりアルギン酸を分解して得たアルギン酸分解産物を透析により回収した後、イオン交換クロマトグラフィーに供することにより、高純度の単糖、2糖、3糖を得ることができることが明らかになり、実施例4(5)[5−2]と同様の質量分析および蛍光誘導化法により単糖の構造を解析したところ、実施例4(5)[5−2]と同様、次式(化34)の不飽和単糖、次式(化35)のα−ケト酸または次式(化36)のウロン酸であった;
Figure 0006025018
[化35]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
[化36]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
<実施例10>Flavobacterium limicola F31株による実験
上述の実施例6の実験を、UMI−01に代えてFlavobacterium limicola F31株を用いて行ったところ、UMI−01を用いた場合と同様の結果が得られた。

Claims (6)

  1. 受託番号NITE P−1076であるアルギン酸資化菌。
  2. アルギン酸を分解して次式(化4)、次式(化5)および次式(化6)からなる群から選択される1または2以上の物質を製造することができる分解酵素を産生する請求項1に記載のアルギン酸資化菌;
    Figure 0006025018
    [化5]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
    [化6]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
  3. 請求項1または請求項に記載のアルギン酸資化の菌抽出液であって、アルギン酸を分解して次式(化7)、次式(化8)および次式(化9)からなる群から選択される1または2以上の物質を製造することができる分解酵素を含む前記菌抽出液
    Figure 0006025018
    [化8]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
    [化9]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
  4. 分解酵素として、エンド型アルギン酸リアーゼおよび二糖分解酵素を含む、請求項に記載の菌抽出液
  5. アルギン酸を分解してオリゴ糖、ならびに次式(化10)、次式(化11)および次式(化12)からなる群から選択される1または2以上の物質を製造する方法であって、請求項1または請求項に記載のアルギン酸資化菌が産生する分解酵素をアルギン酸に作用させる工程を有する前記方法;
    Figure 0006025018
    [化11]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
    [化12]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
  6. アルギン酸を分解して次式(化13)、次式(化14)および次式(化15)からなる群から選択される1または2以上の物質を製造するための、請求項1または請求項に記載のアルギン酸資化菌の使用;
    Figure 0006025018
    [化14]HOOC−CO−CH−CHOH−CHOH−CHO、
    [化15]HOOC−COH=CH−CHOH−CHOH−CHO。
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