JP6021052B2 - ノリの発育を促進する細菌を添加したノリ培養法 - Google Patents

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本発明は、ノリを養殖する技術に関わる。より具体的には、本発明は、制御された条件下でノリを培養する方法に関わる。
ノリは最もよく食用にされる海藻類の一つである。ノリのライフサイクルは複雑であり、大きく分けると、受精によって生じ2組の染色体を有する複相世代(2n)と、減数分裂によって生じ1組の染色体を有する単相世代(1n)とに分けられる。各世代はさらに、形状や大きさが異なる複数のステージを含んでおり、一般に食用に付されるのは単相世代のうち葉状体と呼ばれるステージである。葉状体において、雌雄生殖細胞にそれぞれ相当する造果器細胞および精細胞が形成され、これらが受精して複相世代に入り、接合胞子、糸状体、殻胞子と呼ばれる各ステージを経た後に、殻胞子発芽体と呼ばれるステージにおいて減数分裂が起こって再び単相世代に入り、単相の細胞から葉状体が生長する。以上で述べた1サイクルが完結するのにおおよそ1年かかる。
ノリを産業的に養殖することは従来から行われてきたが、糸状体を人為的に植えつけて上記のライフサイクルを養殖場において再現するという域を出るものではなかった。従って、従来のノリ養殖には例えば以下のような制限があった。
・葉状体を得るまでに数か月という長い時間がかかり、次のサイクルを開始できるまで1年ほどかかる。
・有用な品種を得るための掛け合わせは可能であるが、受精およびさらなる減数分裂を介するため、世代間の遺伝学的均一性(ひいては品質の均一性)を確保できない。
・殻胞子の放出という自然現象に依存するため、生産量に限りがある。
・糸状体から殻胞子を得るまでの作業は相当の時間と技術が必要である。
ライフサイクルの全てのステージを経由することなく、特に複相世代を経由することなく、葉状体から直接新たな葉状体を産生することができれば、養殖期間を短縮でき、望ましい品種の遺伝学的均一性も保たれる。そこで、本発明者らはプロトプラストに着目した。
プロトプラストとは、一般に、細胞壁を人為的に除去した細胞を意味する。ノリの葉状体組織から調製されたプロトプラストは、葉状体を再生する能力を有する場合もあることが知られている。単一のプロトプラストを成長させて得られる葉状体は、元のプロトプラストと同一の1組の染色体を有している。同様に、単一の葉状体から得られる個々のプロトプラストは、全て同一の1組の染色体を有しており、いわゆるクローンの関係にある遺伝学的に均一な個体を多数産生することができる。この場合、1つの葉状体からいくつの新たな葉状体を産生できるかは、葉状体組織からいくつのプロトプラストを分離して培養するかという人為的作業に依存しており、殻胞子の自然放出に依存する場合のような量的制約がない。また、単相・単細胞の組合せを体現しているプロトプラストは突然変異誘導や有用形質の同定・選別にも適している。その上、異なるプロトプラスト同士を細胞融合して新たな個体を産生することができることも知られている。従って、所望の形質を人為的に作製または選別し維持するという側面において、プロトプラストを介する技術は非常に大きな魅力と可能性を有する。
無菌状態でノリを培養すると、細胞分裂しなかったり、異常な細胞分裂をしたり、カルスを形成したりして、正常な形態形成や生長が進みにくくなることが知られている。これは、無菌化に使用される抗生物質がノリに直接悪影響を与えているという可能性に加え、海水中に生息する細菌類との共生関係がノリの正常な生育にとって重要である可能性も示唆している。従って、従来のノリの培養は雑多な細菌を含んだ天然の海水の使用に依存する部分が大きかった。しかしながら一言で海水と言っても含有微生物が大きく変動することがあり得る。例えば、無作為に採取した海水サンプルには、ノリの生育に必要な細菌が含まれていなかったり、あるいはノリにとってむしろ有害な細菌が含まれていたりする可能性がある。従って、天然海水の使用はノリの培養系に不確定要素をもたらし、安定した生育条件の理解および確保に支障をきたし得る。
従って、ノリの正常な生育を助ける特定の微生物種を同定し、いったん無菌状態にしたノリにその特定の微生物を添加することによってノリの育成を行うことができれば、安定性や再現性に優れた培養系が得られ、さらなる好適培養条件の理解や開発も促進されるため、非常に望ましい。また、無菌化と特定細菌添加とを組み合わせたそのような培養系をプロトプラストに適用できれば、培養条件的要素と遺伝学的要素の双方がコントロールされることになり、一層望ましい。また、天然海水への依存がなくなれば、衛生面の管理も容易になり、海から離れた工場や農場において産業的にノリを製造できる可能性も生まれる。
嵯峨らは、スサビノリの無菌の糸状体(2n)から得られた殻胞子の形態形成と成長を促進する細菌の分離・同定を記述している(非特許文献1、2)。これらの細菌は分類学的にはプロトバクテリア綱アルファ亜綱に属する新種であった(非特許文献3)。いわゆるノリ以外の海藻については、無菌化処理したアオサ目の緑藻の形態形成と成長を助ける、Cytophaga-Flavobacterium-Bacteroidesグループの細菌を分離・同定した松尾らの研究があり(特許文献1)、当該細菌において前記促進効果を担う特定の化合物を同定したことも報告されている(非特許文献4)。なお、これらの文献では、抗生物質の添加をもって無菌化とみなしているが、一般的に個々の抗生物質は必ずしもすべての細菌を抑制するわけではないことはよく知られており、これらの実験が厳密にどれほどの無菌化を達成しているかは不明である。
海藻由来プロトプラストの作製および培養においては、そもそも無菌化を達成することに重点をおいてなされた研究がほとんどなく(非特許文献5)、ましてやプロトプラスト培養にとって有用な細菌があるかどうかは全く知られていない。またプロトプラストを無菌状態で培養したと言う記述があったとしても無菌性が厳密に検証されていないことが多いために培養における細菌の貢献度は不明であった。上述したように、ノリのプロトプラストの培養をよく管理された条件下で行うことは品質管理や生産性の点で非常に有利であると考えられ、プロトプラストの厳密な無菌化を行う方法や、プロトプラストの葉状体への再生を促進する細菌を同定し培養に利用することには大きな産業的価値がある。
特開2003−189845
山崎綾乃、関田諭子、半澤直人、奥田一雄、嵯峨直恆 (2000) 海産紅藻スサビノリ無菌培養株の成長促進・形態形成回復要因、特に馴化培地中の共生細菌の影響について。東海大学海洋研究所研究報告 21:57-76 森俊介、山崎綾乃、芹沢(松山)和世、福田覚、水田浩之、嵯峨直恆 (2004) 無菌培養された海産紅藻スサビノリの成長に対する共生菌2株の効果。水産増殖52:239-244 Hanzawa N, Chiba SN, Miyajima S, Yamazaki A, Saga N (2010) Phylogenetic characterization of marine bacteria that induce morphogenesis in the red alga Porphyra yezoensis. Fish Genetics and Breeding Science 40:29-35 Matsuo Y, Imagawa H, Nishizawa M, Shizuri Y (2005) Isolation of an algal morphogenesis inducer from a marine bacterium. Science 307:1598 藤田雄二 (1991) ラボマニュアル マリンバイオテクノロジー(宮地重遠監修)第3.2章
本発明の目的は、厳密な無菌性を達成したノリのプロトプラストの作製法を確立すること、無菌プロトプラストの発育を促進する特定の細菌を単離・同定すること、前記細菌を用いて無菌プロトプラストからノリ葉状体を育成する方法を提供すること、を含む。
発明者らはまず、酸処理と酵素処理の組合せにより無菌のプロトプラストを分離する方法を確立した。発明者らはさらに、ノリ葉状体の表面や培養液中などから採集された多様な細菌を分離し、それぞれの細菌を無菌プロトプラスの培養に添加してスクリーニングを行うことにより、葉状体形成を促進する特定の細菌を同定した。以上の結果により、プロトプラストを管理された条件下で培養して葉状体を得るという、ノリの新たな養殖法が提供される。
従って、本発明は以下の項目を含む。
(1)ノリの葉状体由来プロトプラストを培養して新たな葉状体を産生する培養方法であって、前記プロトプラストに培地を添加し、さらにHyphomonas科の細菌を添加して培養を行うことを特徴とする方法。
(2)Hyphomonas科の細菌がHyphomonas属である、1に記載の方法。
(3)Hyphomonas属の細菌が、SCM−2株、SNM−14株、LNM−9株、LNM−21株、LNM−24株、SNM10−3株、SNM10−6株、SNM10−12株、SNM10−13株、SNM10−16株、SNM10−19株、LNM10−4株、LNM10−16株からなる群から選択される1種以上である、2に記載の方法。
(4)Hyphomonas科の細菌がAlgimonas属である、1に記載の方法。
(5)Algimonas属の細菌が、14A−8株、14A−2−1株、14A−2−4株からなる群から選択される1種以上である、4に記載の方法。
(6)ノリがスサビノリである、1〜5のいずれかに記載の方法。
(7)培地が無菌培地である、1〜6のいずれかに記載の方法。
(8)プロトプラストが、無菌プロトプラストである、1〜7のいずれかに記載の方法。
(9)ノリの葉状体由来プロトプラストからの葉状体の発育を促進するHyphomonas属細菌である、SCM−2株、SNM−14株、LNM−9株、LNM−21株、LNM−24株、SNM10−3株、SNM10−6株、SNM10−12株、SNM10−13株、SNM10−16株、SNM10−19株、LNM10−4株、およびLNM10−16株。
(10)ノリの葉状体由来プロトプラストからの葉状体の発育を促進するAlgimonas属の細菌である、14A−8株、14A−2−1株、および14A−2−4株。
(11)以下の工程を含む、ノリ無菌プロトプラストの調製方法:
a.ノリの葉状体をクエン酸含有液で洗浄する工程
b.葉状体をプロテアーゼ溶液で処理する工程
c.葉状体をマンニトール含有液で洗浄する工程
d.葉状体を細胞壁溶解酵素溶液で処理する工程
e.細胞壁溶解により生じたプロトプラストを濾過する工程
f.プロトプラストを遠心分離する工程
g.プロトプラストをマンニトール含有液で洗浄する工程
(12)プロテアーゼがパパインである、11に記載の方法。
(13)細胞壁溶解酵素が、アガラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼの混合物である、11または12に記載の方法。
(14)ノリがスサビノリである、11〜13のいずれかに記載の方法。
(15)無菌プロトプラストが、前記11〜14のいずれかの方法により調製された無菌プロトプラストである、8に記載の方法。
(16)以下の工程を含む、ノリ葉状体由来無菌プロトプラストから葉状体への発育を促進する細菌をスクリーニングする方法:
a.複数の培養容器において、前記プロトプラストと、スクリーニングの対象となる個々の細菌株とを分注して、共培養する工程
b.葉状体形成が生じた培養容器を特定し、その容器に適用した細菌株を特定する工程
(17)スクリーニングの対象となる細菌株が、ノリ葉状体培養液またはノリ葉状体試料由来のものを含む、16に記載の方法。
(18)スクリーニングの対象となる細菌株が、抗生物質処理されたノリ葉状体由来のものを含む、17に記載の方法。
(19)ノリがスサビノリである、16〜18のいずれかに記載の方法。
(20)無菌プロトプラストが、11〜14のいずれかの方法により調製された無菌プロトプラストである、16〜19のいずれかに記載の方法。
本発明により、管理された安定な条件下で、複相世代を経ることなく遺伝学的な均一性を維持したまま、単相の葉状体から直接新たな葉状体を効率よく迅速に産生することが可能となる。
本発明にかかる無菌プロトプラストの調製法の好ましい一実施態様を示す。 クエン酸処理しない場合およびした場合における、葉状体懸濁液およびプロトプラスト試料の無菌性の程度を示す。 ノリの培養液に抗生物質を添加した場合における細菌相の変化を示す。 接種した細菌の分類群の違いによるノリプロトプラストの葉状体形成率の違いを示す。 Hyphomonas科の各株による葉状体形成率を、他の科との比較として示す。 図5のグラフにさらにカルス形成細胞、不定形分裂細胞、未分化細胞のデータを加えて示したものである。Hyphomonas科との共培養により、葉状体形成率だけでなく全体的な生残率も上昇していることがわかる。 Hyphomonas sp.LNM10−16株を添加した場合と細菌無添加の場合とのプロトプラスト成長程度の違いを示す。3種類の異なる培地で同様の結果が得られることがわかる。 無菌プロトプラストをHyphomonas sp.LNM10−16株と6週間共培養した後、さらに2週間培養して得られた葉状体を示す。
本発明はあらゆるノリの種類に適用し得るが、用いられるノリの種類としてはアマノリ類、特にスサビノリが好ましい。
本発明の一つの態様においては、ノリ葉状体から無菌プロトプラストを調製する方法が提供される(図1)。従来は、無菌ノリは糸状体等から出発して調製されることが普通であったが、それに対して無菌ノリをプロトプラストという形で得ることの利点としては、単相(1n)であること、商品価値のある葉状体を直接の調製源とすること、簡便な操作で大量に得られること、成長促進細菌のスクリーニングが効率よく行えること、等が挙げられる。
本発明の無菌プロトプラスト調製法は、酸性液による洗浄と酵素処理を組み合わせたものであり、抗生物質の使用を必要としないが、抗生物質添加の可能性を排除するものではない。具体的には、まずノリ葉状体をクエン酸含有液(pH2.0〜2.3が好ましい)、例えばクエン酸含有海水で洗浄し、続いて滅菌液、例えば滅菌海水で洗浄する。なお、以下の無菌化操作において使用する全ての液はフィルター滅菌等で滅菌されたものであることが望ましいことは言うまでもない。クエン酸の濃度は当業者が適正な範囲を決定することができるが、例えば0.1〜5%(w/v)、特に0.5%が好ましい。図2はクエン酸処理の効果を示している。クエン酸含有液で洗浄することにより、葉状体の段階から大部分の細菌を除去することができ、プロトプラストの段階における無菌性をより確実にできることがわかる。洗浄した後の葉状体は、後の処理がしやすいように細断することが好ましい。
続いて葉状体をプロテアーゼで処理する。プロテアーゼの種類としてはパパインが特に好ましいが、同様の活性を有する他の酵素でも代用し得る。複数のプロテアーゼを組み合わせて使用してもよい。プロテアーゼは通常、溶液として使用され、濃度は例えば0.1〜10%(w/v)であり、特に2%が好ましい。続いてマンニトール含有液、例えばマンニトール含有海水で少なくとも1度洗浄する。マンニトール(他の糖や浸透圧調製剤で代用し得る)の濃度は例えば0.1〜2Mの範囲であり、特に0.7Mが好ましい。次に細胞壁溶解酵素で葉状体を処理する。細胞壁を溶解できる酵素は当業者にはよく知られており、例としてはアガラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ等が挙げられ、これらを複数組み合わせて使用することが好ましい。酵素の適切な濃度や処理時間は当業者が適宜決定できる。好ましい態様では、酵素処理液8mlあたりアガラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼを各0.1〜10ユニット(より好ましくは8mlあたり各酵素1ユニット)含ませ、60〜90分間葉状体サンプルに含浸させる。細胞壁の溶解に伴って葉状体組織はバラバラになり単細胞のプロトプラストが得られる。次にメッシュ(例えば20μm)等で濾過して組織片その他の混在物を除去する。濾液を遠心分離処理してプロトプラストを沈殿させ、上記と同様のマンニトール含有海水またはその代替液で洗浄するという操作を、少なくとも1度行い、好ましくはこの遠心と洗浄の操作を数回繰り返し、プロトプラスト分離が完了する。遠心分離の条件は例えば500〜5000rpmで1分〜1時間とすることができ、1000rpm、5分が好ましいが、これらの数値は当業者が適宜変更できる。本発明の無菌プロトプラスト調製法の好ましい一態様を図1に示す。以上の作業は1日以内で完了できるものであり、例えば糸状体から殻胞子を得る作業と比べるとはるかに迅速であることは言うまでもない。
無菌化操作の各段階において無菌化がどの程度達成されているかを調べるためには、適切な固形培地(例えばZoBell2216E培地)上に懸濁液を塗布してインキュベートし、形成する細菌コロニーの数を計測することが好ましい。当業者に知られる他の方法で細菌を検出あるいは測定してもよい。最終的に達成されるプロトプラストの無菌化の程度は、試料1gあたりのCFU(コロニー形成単位)が1×102以下であることが好ましく、1×101以下であることがさらに好ましく、計数限界以下であることが最も好ましい。本明細書では、1gあたりのCFUが1×102以下であるものを無菌プロトプラストと呼ぶ。
本発明の別の態様においては、無菌プロトプラストの葉状体への成長を促進する細菌のスクリーニング方法が提供される。ここで用いられる無菌プロトプラストは、公知または非公知のいかなる調製法を用いて調製したものでもよいが、抗生物質はノリの生育に悪影響を及ぼし得ること、スクリーニング対象である細菌にも作用し得ること、一般に抗生物質の殺菌作用は完全ではなく場合によっては抗生物質の投与が特定の細菌群の繁殖を助長してしまうこと、を考慮すると、抗生物質に依存しない調製法が望ましい。特に、本発明の前記態様にかかる調製法による無菌プロトプラストを用いることが好ましい。
スクリーニングの対象となる細菌群としては、真の共生菌を同定するという観点からはノリ葉状体由来のものが望ましい。例えば、ノリの培養に使用した培養液(馴化培養液)、葉状体の表面、細胞壁試料、プロトプラスト試料等から細菌を採集することができる。しかしながら、本発明にかかるスクリーニング法は原理的にはいかなる採集源から得た細菌に対しても適用し得る。採集した細菌群から個々の細菌を単離する方法は当業者によく知られており、例えば固形培地プレートに細菌群含有液を播いてコロニーを単離することができる。
抗生物質の添加は試料中の菌相(すなわち、どのような細菌の種類がどれほどの割合で存在しているか)を変化させ得るので、スクリーニングのための菌の採集に際してあえて抗生物質を用いることも、より多様な菌コレクションを構築する上で有効である(図3)。その一方で、無菌化を達成するための手段としては抗生物質の添加は十分ではないこともわかる。例えば表1で示す実験例では、抗生物質の添加によって、むしろコントロールよりも細菌数が増えることもあり、プロトプラストにした段階における無菌性の程度もむしろ低下し得ることがわかる。
スクリーニングは以下の手順で行われる。まず、複数の培養容器の各々に、無菌プロトプラスト、スクリーニングの対象となる細菌、および適切な培地を分注する。一般的に細胞培養に利用されるシャーレやウェルプレートがこの用途に適している。以下、ウェルプレートを使用する場合を例にして説明する。スクリーニングに使用されるプロトプラストの個数(細胞数)は、1ウェルあたり1個が最低限必要であり、上限は特に限定されずウェルの大きさにもよるが、比較を公正にするためにはウェル間で個数のばらつきが少ないようにすることが望ましい。例えば1ウェルあたり1〜106のプロトプラストを入れることができる。24ウェルプレートの場合ならば1ウェルあたり約102個のプロトプラストを入れることが特に好ましい。無菌プロトプラストと細菌と培地とを混合してからウェルに入れてもよいし、これらを別々にいずれかの順番でウェルに入れてもよい。なお、本明細書において、「プロトプラストに培地を添加し、さらに細菌を添加する」と言う場合、その意味するところは、プロトプラストと培地と細菌とをいずれか任意の順序で混合した場合およびこれらを同時に混合した場合の両方を含むものとする。つまり、前記表現は添加の順序を限定するものではない。ただし、「細菌をさらに添加する」という表現は、培地およびプロトプラストとは別個に細菌を添加することを意味するものとする。すなわち、もし培地自体(またはプロトプラスト自体)に初めから何らかの細菌が含まれていたとしても、本発明にかかる細菌を外部から「さらに」添加することを意味する。
培養液の容量は、例えば24ウェルプレートならば1ウェルあたり1ml〜1.5mlが適切である。細菌液の濃度は例えば101〜109CFU/mlの範囲で適宜選択でき、1ウェルあたり約105〜106CFUが好ましく、培地1mlにつきこの細菌液を例えば1μl〜1ml加えることができる。比較を公正にするためにはウェル間でCFUのばらつきが少ないようにすることが望ましい。1ウェルにつき1種の細菌を入れるのが通常であるが、スクリーニングの効率を上げる目的や、細菌同士の相乗効果を試験する目的で、1ウェルに複数の細菌種を入れる態様も考えられる。
無菌プロトプラストと細菌との混合物を、適切な培地(培養液)の存在下でウェルの中で培養する。培養に際しては明暗サイクルを設けることが好ましく、例えば12時間明/12時間暗、あるいは10時間明/14時間暗といったサイクルを採用できる。培地(培養液)としては例えばNP培地(滅菌海水にNaNO3(100mg/l)およびNa2HPO4・12H2O(20mg/l)を加えたもの)が好ましいが、ノリの培養に使用される他の培地でもよい。他の好ましい培地の例としては滅菌海水をベースとした1/10SWM−III培地(SWM−III培地(Ogata, E. (1970) Bull Jpn Soc Phycol 18, 171-173)からsoil extract、liver extract、tris、ビタミンを除き滅菌海水で10倍希釈したもの)、f/10培地(f培地(Guillard, R. R. L., Ryther, J. H. (1962) Can. J. Microbiol., 8, 229-239)を滅菌海水で10倍希釈したもの。Sigmaから購入したf/2培地から調製)、1/5NP培地等が挙げられる。これらの培地は液体として使用してもよいし寒天等を加えた固形培地として使用してもよい。まず固体培地で培養して途中から液体培地に移植してもよい。培地の組成や温度にもよるであろうが、例えば上記培地中で17℃で培養した場合は、6週間程度で顕微鏡下で葉状体形成細胞が他の種類の細胞(未分化細胞、不定形分裂細胞、カルス)から区別できるようになる。ここで、「葉状体形成細胞」は、細胞壁を形成した後、1本の仮根および正常な細胞分裂が観察される細胞として定義した。「未分化細胞」は、細胞壁は形成するがそれ以上の形態形成は示さない細胞として定義した。「不定形分裂細胞」は、葉状体への形態形成過程で奇形化した細胞として定義し、「カルス」は未分化の細胞が凝集し細胞塊を形成したものと定義した。葉状体形成が見られたウェルに添加していた細菌が、「無菌プロトプラストの葉状体への発育を促進する細菌」であり、当該スクリーニングが探求していた目的物と言える。
発明者らは、上記の無菌プロトプラスト調製法および細菌スクリーニング法を実施することにより、無菌プロトプラストの葉状体への発育を促進する細菌を同定した。すなわち、Hyphomonas科の細菌と共に無菌プロトプラストを培養すると、他の科の細菌と共培養した場合や細菌無添加で培養した場合よりも有意にプロトプラストの生残率および葉状体形成率が高いことを見出した(図4〜7)。Hyphomonas科の複数の属および複数の種において発育促進効果が確認され、Hyphomonas科細菌全般がこの発育促進効果を有することが示された。Hyphomonas科の細菌は公知であり、また実施例で示すように、ノリの葉状体由来の細菌(葉状体馴化培養液、葉状体表面等の採取源から採取されたもの)を無作為に分離すると、少なくとも数%(実施例では7%)の割合で当該分類に属する細菌が得られ、またこの数%のものはPCR等の手法で容易に識別することができる。そして、無作為に分離されたものでも当該分類に属する菌株ならば全て同様の効果を発揮することが示された(図6)。すなわち、本願発明の方法に有用なHyphomonas科の細菌は公知であり、かつ当業者が容易に入手でき、試行錯誤を経ずとも実施できるものである。
従って、本発明のもう一つの態様においては、Hyphomonas科の細菌を培地に添加することによりノリ葉状体由来のプロトプラストから直接新たな葉状体を培養する方法が提供される。ここで使用されるプロトプラストは、例えば上記の方法により得られた無菌プロトプラストであることが好ましい。しかしながら、無菌化していないプロトプラストに上記細菌を添加した場合でも、混在菌との相互作用で多少の効果程度の変化は起こり得るが、本質的に同様の葉状体形成促進効果が得られると考えられる。培地に関しても、無菌の培地(滅菌培地)、すなわち人為的に添加する上記の細菌以外の細菌は含まないものを使用することが原則であり、それが好ましい。人為的に細菌を加える前の培地の無菌の程度は、1mlあたりのCFUが1×102以下であることが好ましく、1×101以下であることがさらに好ましく、計数限界以下であることが最も好ましい。本明細書では、1mlあたりのCFUが1×102以下であるものを無菌培地または滅菌培地と呼ぶ。無菌でない培地(例えば天然海水)を用いる場合であっても、混在菌との相互作用で多少の効果程度の変化は起こり得るが、Hyphomonas科の細菌を人為的にさらに添加することにより本質的に同様の葉状体形成促進効果が得られると考えられる。
本発明に係るプロトプラストの培養法に使用できるHyphomonas科細菌としては、Hyphomonas属およびAlgimonas属が好ましい。Hyphomonas属の例としては、SCM−2株、SNM−14株、LNM−9株、LNM−21株、LNM−24株、SNM10−3株、SNM10−6株、SNM10−12株、SNM10−13株、SNM10−16株、SNM10−19株、LNM10−4株、LNM10−16株が挙げられる。LNM10−16株は高い葉状体形成率を提供できるため特に好ましい。Algimonas属の例としては、14A−8株、14A−2−1株、14A2−4株が挙げられる。これらの他にも、Hyphomonas科の他の任意の株、あるいは上記のスクリーニング法で同定される別の細菌をプロトプラスト培養に使用することもできる。
培養条件としては、上記スクリーニングにおける培養と本質的に同じものをスケールアップして使用できる。例えば、プロトプラスト懸濁液1ml(104細胞)にHyphomonas LNM10−16株の懸濁液1ml(108〜109CFU)を加え、最初の4週間には1/10SWM−III培地、f/10培地、1/5NP培地のいずれかの寒天培地を使用し、5週目以降から同様のものの液体培地(例えば10〜1000ml)に移植することができる。初めに添加した細菌はノリ組織上で生存するので、液体培地に新たに細菌を加える必要はない。追加の細菌添加を行うことも不可能ではない。当業者にはよく知られているように、振盪培養や通気培養を適宜行ってもよい。培地の組成や温度にもよるが、通常は、プロトプラストの培養を開始してから8週間ほどで少なくとも数センチの大きさのノリ葉状体が得られる(図8)。
[方法]
ノリの培養条件
モデルノリとしてスサビノリを使用した。スサビノリU−51株の葉状体を、滅菌した改変1/2SWM―III培地(希釈率が2倍である以外は上記1/10SWM−III培地と同じ)で培養した。培養条件は17℃、明暗周期:10時間明/14時間暗、光強度50μmol photons m-2-1とし、換水は1週間おきに行った。試料採取1週間前に、培養液に抗生物質を加えない区、アンピシリン添加区(10mg/l)、およびネオマイシン添加区(10mg/l)の3つの試験区を設けた。
ノリプロトプラストの分離
3つの試験区からそれぞれプロトプラストを調製するために、培養5〜6週目の複数の葉状体を用い、湿重量50〜100mgに調整した。葉状体からのプロトプラストの分離は、図1に示す方法によって行った。まず、0.5%クエン酸溶液(pH2.0〜2.3)を用いて葉状体を90〜180秒間浸漬処理し、滅菌90%海水で洗浄した。それから葉状体をカミソリで細断した。2%パパイン(pH7.5)を加え、30分振盪した後、0.7Mマンニトール海水で数回洗浄した。次に、細胞壁溶解酵素液(アガラーゼ、キシラーゼ、マンナナーゼ各1ユニット/8ml)を加え60〜90分振盪した。これらの酵素はヤクルト薬品工業から購入した。酵素処理液を20μmメッシュで濾過し、メッシュ上に残った画分を「細胞壁試料」とした。濾過画分に対して1000rpm、5分間の遠心分離を行い、得られたプロトプラストを0.7Mマンニトール海水で数回洗浄した後、最終的に0.7Mマンニトール海水を加えてプロトプラスト懸濁液(106細胞/ml)を作製した。
ノリ試料由来の細菌の培養
細菌採取のための試料として、葉状体を培養した後の(馴化)培養液、葉状体、細胞壁、およびプロトプラスト懸濁液を用いた。葉状体表面または細胞壁試料に付着した細菌を分離するためには、これらの試料にそれぞれ8mlまたは16mlの滅菌75%天然海水を加え、1分間激しく振盪し、懸濁液原液を得た。それぞれの液試料の10倍希釈液列は、滅菌75%天然海水で希釈することによって作製した。希釈液列から適当な数段階を選び、100μlをMarine agar 2216培地(Difco;Marine broth 2216に寒天を加えたもの)に平板塗抹し、20℃で2週間培養を行った。また、細胞壁およびプロトプラスト懸濁液の試料については、フィルタ捕集による培養とMPN法による増菌培養を行った。
分離細菌株の同定
培養液、葉状体表面、細胞壁、およびプロトプラスト懸濁液由来の細菌を培養した平板から、無作為に細菌集落を釣菌し、3回の純粋分離を行った。それぞれの分離株からゲノムDNAを以下の方法により抽出した。細菌集落を1%(v/v)Triton X−100を加えたTE緩衝液(pH8.0)200μlに懸濁し、100℃、5分間の加熱を行った。その後、クロロホルムとイソアミルアルコールの混合液(24:1 v/v)を等量加え、激しく混合した後、遠心分離(15000rpm、15分、4℃)し、上清をDNA試料とした。16S rRNA遺伝子の前半約700bpの領域の配列を決定するために、真正細菌のユニバーサルプライマー27F(5’−AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’)および1492R(5’−TTACCTTGTTACGACTT−3’)を用いたPCR増幅を行った。鋳型としてのゲノムDNA試料(2μl)、27Fプライマー(0.5μM)、1492Rプライマー(0.5μM)、10×Ex Taqバッファー(1×)、dNTPミックス(各0.2mM)、Takara Ex Taq(0.5ユニット)(Takara)、および滅菌蒸留水が混合された計20μlの反応液でPCRを行った。PCR反応条件は、95℃3分でDNAを熱変性させた後、(熱変性95℃30秒→アニーリング55℃30秒→伸長反応72℃1分)というサイクルを30回繰り返し、最後に伸長反応を72℃で7分間追加する、というものであった。本プライマーセットによる増幅産物の有無は、2.0%アガロースゲルを用いた電気泳動により確認した。この増幅産物を元にして、27Fプライマーを用いたサイクル・シークエンシングにより、DNA sequencer model 3100(Applied Biosystems)にて16S rRNA遺伝子の塩基配列決定を行った。各試料につき、20の細菌の配列のアラインメントをClustal Xで作成し、MEGA5で系統解析を行った。距離行列を作成し、>98%の相同性を基準にグループ化した。さらに、それぞれの試料における代表株については、16S sRNA遺伝子塩基配列のほぼ全長を決定した。
無菌プロトプラストと分離細菌株の混合培養
ノリの培養液、葉状体表面、細胞壁、およびプロトプラストから得られた合計259株から選抜した菌株を、プロトプラストへの添加試験に用いた。それぞれの供試菌株は、Marine broth 2216で培養し、滅菌75%天然海水を用いて10倍希釈した。培地としては、硝酸ナトリウム100mg/lおよびリン酸水素二ナトリウム12水和物20mg/lを添加した滅菌90%海水を使用した。ウェルプレートに、培地を1ml、およびプロトプラスト(103細胞/ml)を0.1ml加え(102細胞/ウェル)、その後、約107〜108CFU/mlの菌液を10μlずつ加えた(約105〜106CFU/ウェル)。対照の細菌未接種区では、前記菌液の代わりに、滅菌75%天然海水で10倍希釈したMarine broth 2216を10μl加えた。培養は、17℃、10時間明/14時間暗という条件で6週間行った。選抜菌株については、上記の細菌接種試験を4回繰り返した。
プロトプラストの形態観察
ウェルプレート内のプロトプラストの生細胞数を倒立顕微鏡で計測し、形態に基づいて生残細胞を葉状体形成細胞、未分化細胞、不定形分裂細胞、およびカルスの4つに分類した。生残率(%)は、生残細胞数を接種細胞数で除して算出し、葉状体形成率(%)は、葉状体形成細胞数を接種細胞数で除して算出した。
接種細菌の再分離
プロトプラストとの6週間の混合培養後、接種細菌が再分離・培養されるかを確認するために、培養系内の細菌の再分離を行った。混合培養試験終了の6週目に、ウェルプレートから培養液をループで採取し、Marine agar 2216上で20℃で2週間、細菌を培養した。4回の再現性試験において、それぞれのウェルから得られた細菌集落のうち3個の集落を釣菌し、純粋分離を繰り返し、保存した。
Hyphomonas属細菌の特異的検出PCR法の開発と再分離株への応用
再分離したHyphomonas属細菌を同定するために、本菌に特異的なPCR検出法を開発した。Hyphomonas属細菌の16S rRNA遺伝子の全長配列を、ノリから分離された他のグループに属する代表株のものと比較した。Hyphomonas属に特異的な配列領域を見出し、本領域に対応するプライマーHyphoF1(5’−TTTCACTACGGAATAGCTCTT−3’)およびHyphoR1(5’−CTCCTGGTCTCTAGACTTCC−3’)を設計した。次に、代表株のゲノムDNA(3μl)を鋳型とし、HyphoF1プライマー(0.5μM)、HyphoR1プライマー(0.5μM)、10×Ex Taqバッファー(1×)、dNTPミックス(各0.2mM)、Takara Ex Taq(0.5ユニット)(Takara)、および滅菌蒸留水が混合された計20μlの反応液でPCRを行った。PCR反応条件は、95℃3分でDNAを熱変性させた後、(熱変性95℃30秒→アニーリング55℃30秒→伸長反応72℃1分)というサイクルを30回繰り返し、最後に伸長反応を72℃で5分間追加する、というものであった。本プライマーセットによる増幅産物(489bp)の有無は、2.0%アガロースゲルを用いた電気泳動により確認した。HyphoF1−HyphoR1のプライマーセットの特異性が確認された後、Hyphomonas属の細菌を接種したウェルから再分離した菌株について、上記の特異的検出PCR法による同定を行った。
プロトプラストから葉状体への成長試験
寒天包埋法において、NP寒天培地、f/2寒天培地、および1/10SWM−III寒天培地の3種類の培地を用いた。90%天然海水および1%低融点アガロース(Nacalai tesque)を基礎培地とし、NP、f/2(Guillard’s(f/2)海水栄養液、Sigma)、1/10SWM−IIIの各成分を加えた後、滅菌し、45℃で保温した。プロトプラスト懸濁液1ml(104細胞)を用い、細菌添加区では滅菌75%天然海水で10倍希釈したHyphomonas sp.LNM10−16株の菌液1ml(3.8×108CFU)を、細菌無添加区では滅菌75%天然海水で10倍希釈したMarine brothを1ml添加した。シャーレ上に加えた後、寒天培地で包埋し、17℃、10時間明/14時間暗の条件で4週間培養した。培養後、シャーレの1/4区画をセルスクレイパーで切り取り、希釈した1/5NP培養液、f/10培養液、および1/10SWM−III培養液75mlで2週間、振盪培養した。その後、10個の葉状体細胞を選抜し、NP培養液、f/2培養液、および1/2SWM−III培養液で、2週間、通気培養し(1週間に1度、全換水)、葉状体の葉長および葉幅を測定した。
[結果]
ノリ由来分離細菌株の同定
ノリ葉状体由来の各試料から採取して分離し、プロトプラストへの添加試験に用いた259の細菌株を16S rRNA遺伝子の部分塩基配列によりグループ化したところ、17のグループに分けられた。さらに、代表株のほぼ全長の配列を決定し、データベース上の既知の標準株と比較した。その結果、Alpha−proteobacteriaの12グループ(グループ1〜12)、Gamma−proteobacteriaの3グループ(グループ13〜15)、Bacteroidetesの2グループ(グループ16〜17)に分けられた。Alpha−proteobacteriaのグループ1および2はMaritalea属(Hyphomicrobium科)、グループ3はHyphomonas属(Hyphomonas科)、グループ4および5はAlgimonas属(Hyphomonas科)、グループ6はAhrensia属(Rhodobacter科)、グループ7はAntarctobacter属(Rhodobacter科)、グループ8はTropicibacter属(Rhodobacter科)、グループ9はRoseovarius属(Rhodobacter科)、グループ10および11はSulfitobacter属(Rhodobacter科)、グループ12はSphingopyxis属(Sphingomonas科)に近縁であった。Gamma−proteobacteriaのグループ13はAlteromonas属(Alteromonas科)、グループ14および15はMarinobacter属(Alteromonas科)、Bacteroidetesのグループ16はKordia属(Flavobacteria科)、グループ17はPolaribacter属(Flavobacteria科)に近縁であった。
分離菌株の各グループによるプロトプラストの葉状体形成率の比較
259株の分離株をプロトプラストに接種し、系統グループごとの平均葉状体形成率を算出した(図4)。細菌を接種しなかったプロトプラストでは、未分化の細胞およびカルスが観察され、葉状体形成率は0%であった。これまでに分離した計259の菌株をプロトプラストにそれぞれ接種したとろ、系統グループにより葉状体形成率が異なることがわかった。グループ2のMaritalea属、グループ13のAlteromonas属、またはグループ14のMarinobacter属を接種した場合、葉状体形成細胞は観察されなかった。これらの細菌は、ノリのプロトプラストの成長を促進しない細菌、あるいは成長促進をむしろ阻害する細菌であると考えられる。それに対して、グループ3のHyphomonas属細菌を接種したとき、葉状体形成率は3.7%であり最も高かった。同じHyphomonas科に分類されるグループ5のAlgimonas属でも比較的高い葉状体形成率1.9%が示された(図4)。
選択菌株を用いたプロトプラストの生残細胞率および葉状体形成率の比較
全259菌株のうち葉状体形成率が高かった株を選択し、計4回の再現性試験を行った(図5、図6)。細菌未接種区のプロトプラストの生残率および葉状体形成率はそれぞれ、3.6%および0.06%であり、最も低かった。それに対して、グループ3のHyphomonas属、グループ5のAlgimonas属の生残率はそれぞれ14.4〜24.3%、および17.4〜21.4%であり、葉状体形成率を含めた全般的な細胞分裂促進作用が高かった。グループ3のHyphomonas属細菌の葉状体形成率は2.9〜7.3%で、グループ5のAlgimonas属細菌の葉状体形成率は2.9〜3.3%で、他の菌群と比較して高い傾向が観察された。これらHyphomonas科の細菌は、葉状体形成率だけでなくプロトプラストの生残率全般を高めるという作用を有することも、例えばプロトプラスト由来細胞の保持や貯蔵や利用という観点から有用となり得る(図6)。
Hyphomonas属細菌の特異的検出PCR法の開発と同定
グループ3のHyphomonas属細菌を、スサビノリからこれまでに分離された他の16グループの菌株から区別するために、本菌の特異的検出用プライマーセットHyphoF1−HyphoR1を設計した。次に本プライマーセットの特異性を調べたところ、Hyphomonas属細菌の13株のみを特異的に増幅することができた。また、本検出法を用いて、Hyphomonas属の13株との混合培養後に再分離された計156菌株を解析したところ、これらの再分離株のほぼ全てがHyphomonas属細菌であることが確認された。
Hyphomonas属細菌を用いたプロトプラストから葉状体への成長試験
Hyphomonas sp.LNM10−16株を添加することによって、プロトプラストから葉状体まで成長させることを、3種類の寒天培地を用いて試験した。その結果、寒天培地で4週間の静置培養後の細菌無添加区では生残細胞が観察されなかったのに対して、Hyphomonas sp.LNM10−16株を添加した3つのいずれの培地においても葉状体形成細胞が観察された。その後、2週間の振盪培養後においても、細菌無添加区では生残細胞が観察されなかった(図7)。一方で、Hyphomonas sp.LNM10−16株を添加したf/10培養液、1/5NP培養液および1/10SWM−III培養液では、多くの正常分裂細胞の塊や多くの葉状体様細胞が観察され、培養液の種類に関わらず細菌添加の効果が認められた(図7)。さらに無作為に10の細胞を選抜し、2週間の通気培養を行ったところ、f/2培養液および1/2SWM−III培養液では、それぞれ、平均葉長12.9cmおよび平均葉幅1.2cm(n=10)、並びに平均葉長15.0cmおよび平均葉幅0.8cm(n=10)に成長した(図8)。すなわち、葉状体からのプロトプラスト調製からわずか8週間で新たな成熟葉状体を産生することができた。
[寄託生物材料への言及]
Hyphomonas属LNM−9株およびSNM10−13株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センターに寄託されている(それぞれ、受託番号NITE P−1321およびNITE P−1322)。
[当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所]
独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE) 特許微生物寄託センター
郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
[上記寄託機関に生物材料を寄託した日付]
平成24年4月18日
[上記寄託機関が寄託について付した受託番号]
NITE P−1321 (LNM−9株について)
NITE P−1322 (SNM10−13株について)

Claims (9)

  1. ノリの葉状体由来プロトプラストを培養して新たな葉状体を産生する培養方法であって、前記プロトプラストに培地を添加し、さらにHyphomonas科の細菌を添加して培養を行うことを特徴とする方法。
  2. Hyphomonas科の細菌がHyphomonas属である、請求項1に記載の方法。
  3. Hyphomonas科の細菌がAlgimonas属である、請求項1に記載の方法。
  4. ノリがスサビノリである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 培地が無菌培地である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. プロトプラストが、無菌プロトプラストである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 無菌プロトプラストが、以下の工程を含む調製法により調製されたものである、請求項6に記載の方法:
    1.ノリの葉状体をクエン酸含有液で洗浄する工程
    2.葉状体をプロテアーゼ溶液で処理する工程
    3.葉状体をマンニトール含有液で洗浄する工程
    4.葉状体を細胞壁溶解酵素溶液で処理する工程
    5.細胞壁溶解により生じたプロトプラストを濾過する工程
    6.プロトプラストを遠心分離する工程
    7.プロトプラストをマンニトール含有液で洗浄する工程
  8. プロテアーゼがパパインである、請求項7に記載の方法。
  9. 細胞壁溶解酵素が、アガラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼの混合物である、請求項7または8に記載の方法。
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