ここで、上述した従来の技術においては、RC柱部材を巻き立てるための鋼板として、連結用フランジが曲面部に一体に設けられてなる外殻鋼板や(特許文献1、要約書)、曲面部である3つの円弧状柱体aと2つのフランジ10bとが交互に配置されるようにそれらが一体に連結されてなる鋼製セグメント10(特許文献2、段落[0017])が用いられるところ、外殻鋼板の連結用フランジや鋼製セグメント10のフランジ10bといったいわば平板部は、部分円筒状の曲面部に生じる地震時の面内引張力を引張材に伝達する役目を担うものであるため、それらの剛性が低いと地震時に面外変形するとともに、それに伴って曲面部が前方にはらみ出し、その結果、RC柱部材の膨らみを十分に拘束することができない事態を招く。
そのため、外殻鋼板の連結用フランジや鋼製セグメント10のフランジ10bは、面外変形することなく、部分円筒状の曲面部に生じる面内引張力を引張材に伝達できるだけの断面厚でなければならないが、その結果として連結用フランジやフランジ10bと一体に構成されるべき部分円筒状の曲面部も断面厚が大きくなり、該曲面部では過大設計になる場合があるという問題を生じていた。
かかる問題は、座金を用いた補剛によってある程度解消することが可能であるが、連結用フランジやフランジ10bに局部座屈が生じるなどの不測の事態が懸念されるとともに、それを避けるために引張材の本数を増やすと、耐震補強コストの増大を招く。
また、従来の外殻鋼板や鋼製セグメント10は、平板部と曲面部とを一体に構成したものであるため、製作コストが本来的に割高になるほか、製作にあたっては引張材の挿通位置が予め決定される必要があり、施工方針の進捗に遅延が生じると、外殻鋼板や鋼製セグメント10の製作工程にも影響し、結果として製作効率が低下するという問題も生じていた。
さらに、鋼製セグメント10の場合、既存橋脚等の水平幅とほぼ同じになるように形成しなければならないため、耐震補強対象である既存橋脚が大きくなればなるほど、製作に手間がかかるとともに、搬送や組立も大がかりになるという問題も生じていた。
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、RC柱部材の膨らみを十分に拘束できるとともに、効率的な製作が可能で搬送や組立も小規模で足りる耐震補強構造を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る耐震補強構造は請求項1に記載したように、部分円筒状にそれぞれ形成され既存のRC柱部材の表面に対向するようにかつ互いに隣り合うように配置される一対の曲面板と、該一対の曲面板に挟み込まれるように前記RC柱部材に貫通配置される引張材と、該引張材の端部に取り付けられる押さえ部材と、前記押さえ部材と前記一対の曲面板の各側方縁部との間及び該各側方縁部と前記RC柱部材との間にコンクリート又はモルタルが充填されてなるコンクリート連結体とで構成してなり、該コンクリート連結体は、前記一対の曲面板の各側方縁部と前記RC柱部材との間に該各側方縁部の一方から他方に向けて延びる補強材を埋設することで、前記一対の曲面板の並び方向に沿った引張力が相互に伝達するとともに、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が前記押さえ部材を介して前記引張材に伝達するようになっているものである。
また、本発明に係る耐震補強構造は、部分円筒状にそれぞれ形成され既存のRC柱部材の表面に対向するようにかつ互いに隣り合うように配置される一対の曲面板と、該一対の曲面板に挟み込まれるように前記RC柱部材に貫通配置される引張材と、該引張材の端部に取り付けられる押さえ部材と、前記押さえ部材と前記一対の曲面板の各側方縁部との間にコンクリート又はモルタルが充填されてなるコンクリート連結体とで構成してなり、該コンクリート連結体は、前記押さえ部材と前記一対の曲面板の各側方縁部との間に該各側方縁部の一方から他方に向けて延びる補強材を埋設することで、前記一対の曲面板の並び方向に沿った引張力が相互に伝達するとともに、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が前記押さえ部材を介して前記引張材に伝達するようになっているものである。
また、本発明に係る耐震補強構造は、前記一対の曲面板の側方縁部に曲面板側定着部を前記補強材が配置された側にそれぞれ突設して該各曲面板側定着部を前記コンクリート連結体に定着させたものである。
また、本発明に係る耐震補強構造は、前記曲面板側定着部を孔あき鋼板ジベルで構成したものである。
また、本発明に係る耐震補強構造は、部分円筒状にそれぞれ形成され既存のRC柱部材の表面に対向するようにかつ互いに隣り合うように配置される一対の曲面板と、該一対の曲面板に挟み込まれるように前記RC柱部材に貫通配置される引張材と、該引張材の端部に取り付けられる押さえ部材と、前記押さえ部材と前記一対の曲面板の各側方縁部との間にコンクリート又はモルタルが充填されてなるコンクリート連結体とで構成するとともに、前記押さえ部材の背面と前記一対の曲面板の正面に圧縮ストラット形成用の凹凸をそれぞれ設けてなり、前記コンクリート連結体は、該圧縮ストラット形成用の凹凸によって、前記一対の曲面板の並び方向に沿った引張力が相互に伝達するとともに、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が前記押さえ部材を介して前記引張材に伝達するようになっているものである。
また、本発明に係る耐震補強構造は、前記凹凸を前記押さえ部材の背面及び前記各曲面板の正面に鉄筋を溶接して構成したものである。
また、本発明に係る耐震補強構造は、前記押さえ部材を、その背面が前記曲面板の側方縁部とほぼ平行になるように三角形状断面に形成したものである。
第1の発明に係る耐震補強構造のコンクリート連結体は、押さえ部材と一対の曲面板の各側方縁部との間及び該各側方縁部とRC柱部材との間にコンクリート又はモルタルを充填して構成してあるとともに、一対の曲面板の各側方縁部とRC柱部材との間に該各側方縁部の一方から他方に向けて延びる補強材を埋設することで、一対の曲面板の並び方向に沿った引張力が相互に伝達し、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が押さえ部材を介して引張材に伝達するように構成してある。
また、第2の発明に係る耐震補強構造のコンクリート連結体は、押さえ部材と一対の曲面板の各側方縁部との間にコンクリート又はモルタルを充填して構成してあるとともに、押さえ部材と一対の曲面板の各側方縁部との間に該各側方縁部の一方から他方に向けて延びる補強材を埋設することで、一対の曲面板の並び方向に沿った引張力が相互に伝達し、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が押さえ部材を介して引張材に伝達するように構成してある。
また、第3の発明に係る耐震補強構造のコンクリート連結体は、押さえ部材と一対の曲面板の各側方縁部との間にコンクリート又はモルタルを充填して構成してあるとともに、押さえ部材の背面及び一対の曲面板の正面のうち、互いに対向する部位に圧縮ストラット形成用の凹凸をそれぞれ設けることで、一対の曲面板の並び方向に沿った引張力が相互に伝達し、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が押さえ部材を介して引張材に伝達するように構成してある。
そのため、地震時における曲げせん断の繰り返し載荷や過大な軸力の載荷によってRC柱部材が膨らみ、それに伴って一対の曲面板に面内引張力(フープテンション)が生じたとき、一対の曲面板の並び方向に沿った分力については、コンクリート連結体を介して相互に支持されるとともに、該並び方向に直交する方向に沿った分力については、コンクリート連結体及び押さえ部材を介して引張材に伝達され、該引張材で支持される。
したがって、一対の曲面板は、従来の巻立て鋼板と同様、地震時におけるRC柱部材の膨らみをそれらの面内引張力で拘束することが可能となる。
また、各発明に係る耐震補強構造においては、一対の曲面板を現場で相互連結することができるので、曲面板は、従来のようなフランジが一体に構成された外殻鋼板や鋼製セグメントとは異なり、製作コストの低減を図ることが可能となるほか、搬送や組立の際にも、より小型のトラックや重機で足りるため、施工コストの合理化も可能となる。
RC柱部材は、耐震補強の対象となるものであって、道路橋や鉄道橋の橋脚が主として該当するが、これらの部材に限定されるものではなく、通常時に上載荷重を軸力で支持し地震時に水平荷重を曲げせん断で支持する全てのRC部材が包摂される。
また、RC柱部材は、矩形断面であってその長手方向長さが短手方向長さよりも十分に大きい、いわば壁状のRC柱部材が主たる対象となるが、矩形断面の縦横比が小さい部材、すなわち正方形断面あるいはそれに近い矩形断面はもちろん、非矩形断面であっても、本発明の適用が除外されるものではない。
引張材は、RC柱部材を主としてその断面短手方向と平行に貫通配置されるものであって、PC鋼棒がその代表となるが、曲面板に生じた面内引張力のうち、材軸方向に沿った分力を支持できるだけの引張強度を有するロッド材であれば、いかなるものでもかまわない。
曲面板は、例えば鋼材やFRPで構成することができる。また、曲面板は、部分円筒状に形成される限り、その断面形状は任意であって、真円の一部である円弧のように曲率が周方向に一律である必要はなく、相異なる複数の曲率を組み合わせたものでもよいが、いずれにしろRC柱部材の膨らみを面内引張力で支持できるように構成する。
押さえ部材は、板状に構成された部材、すなわち押さえ板が代表的な具体的構成となるが、引張材の配置ピッチが大きいために曲げ剛性を確保する必要がある場合には、例えば溝形鋼で構成することが想定される。
第1の発明及び第2の発明における補強材は、鉄筋、特に各端に定着部がそれぞれ形成されたアンカー付き鉄筋で構成することが可能である。
ここで、一対の曲面板の側方縁部に曲面板側定着部をそれぞれ突設して該各曲面板側定着部をコンクリート連結体に定着させた構成とするならば、補強材による補強作用と相俟って、コンクリート連結体の耐力を大幅に向上させることができる。
なお、曲面板側定着部は、補強材が配置された側に突設するものとし、第1の発明においては、曲面板の背面側、すなわちRC柱部材の側に、第2の発明においては、曲面板の正面側、すなわち押さえ部材の側にそれぞれ突設する。
曲面板側定着部は、例えば孔あき鋼板ジベルで構成することが可能である。
第3の発明における凹凸は、例えば押さえ部材の背面及び各曲面板の正面に鉄筋を溶接して構成することが可能である。
以下、本発明に係る耐震補強構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る耐震補強構造を示した図である。同図でわかるように、本実施形態に係る耐震補強構造1は、高架橋上部工2を支持するRC柱部材としての橋脚3を耐震補強対象としたものであって、該橋脚のうち、地盤4に埋設されたフーチング5からの立ち上がり箇所近傍の側方断面各長手側に橋脚3の水平幅の概ね1/3の幅を持つ曲面板8を横三列縦六段となるように橋脚3の表面に対向配置して構成してある。
曲面板8は、鋼板を部分円筒状に湾曲加工して形成してあるが、これらのうち、互いに隣り合う曲面板8,8の間には図2でよくわかるように、該一対の曲面板に挟み込まれるように引張材としてのPC鋼棒21を橋脚3に貫通配置してあるとともに、PC鋼棒21の端部にはナット23を用いて押さえ部材としての押さえ板22を取り付けてある。
ここで、押さえ板22の中央近傍と橋脚3との間、押さえ板22の端部近傍と曲面板8の側方縁部24との間、及び該側方縁部と橋脚3との間にはコンクリートを充填配置してあり、全体としてコンクリート連結体25を構成する。
コンクリート連結体25は、曲面板8のうち、側方縁部24近傍を除く範囲と橋脚3との間に充填されたコンクリート26と連続かつ一体に形成するのが望ましい。
コンクリート連結体25には、各曲面板8の側方縁部24であってそれらの背面側に突設された曲面板側定着部としての孔あき鋼板ジベル28をそれぞれ定着させてあるとともに、各側方縁部24,24と橋脚3との間において該各側方縁部の一方から他方に向けて延びるように、各端を拡幅形成して定着部とした補強材としてのアンカー付き鉄筋27を埋設してあり、かかる構成により、コンクリート連結体25は、一対の曲面板8,8の並び方向に沿った引張力、図2では左右方向に沿った引張力が相互に伝達するとともに、該並び方向に直交する方向、同図では上下方向に沿った引張力が押さえ板22を介してPC鋼棒21に伝達するようになっている。
本実施形態に係る耐震補強構造1を用いて橋脚3を耐震補強するには、まず、橋脚3のコンクリート面を必要に応じて粗面処理した後、図3に示すように、曲面板8を側方からあてがうようにして、あるいは最下段から順次落とし込むようにして橋脚3の側方に建て込む。
曲面板8は、構築時には捨て型枠として用いるものであり、橋脚3との間で図2(b)に示した相対位置関係となるように該橋脚の表面に対向配置する。
なお、アンカー付き鉄筋27は、曲面板8の配置工程と同時に又はそれと相前後して適宜配置すればよい。また、孔あき鋼板ジベル28に形成された孔に補強筋を別途鉛直に挿通することで、コンクリート連結体25の耐力を高めるようにしてもよい。
次に、押さえ板22が設置される位置に長尺状の型枠31を建て込むとともに、後工程で打設されるフレッシュコンクリートが漏れないよう、型枠31の長手側縁部と曲面板8との取合い部位に防水テープを貼着するなどの措置を適宜施す。
次に、曲面板8の背面側と型枠31の背面側にフレッシュコンクリートを打設し、所定期間養生した後、型枠31を解体撤去する。
このようにすると、曲面板8のうち、側方縁部24近傍を除く範囲と橋脚3との間にはコンクリート26が構築されるとともに、型枠31の建込み位置中央近傍と橋脚3との間、型枠31の建込み位置端部近傍と曲面板8の側方縁部24との間及び曲面板8の側方縁部24と橋脚3との間にコンクリートがそれぞれ連続かつ一体化された形で充填配置されてなるコンクリート連結体25が構築される。
また、コンクリート連結体25には、曲面板8に突設された孔あき鋼板ジベル28が定着されるとともに、アンカー付き鉄筋27が埋設される。
次に、コンクリート連結体25の強度発現後、該コンクリート連結体及び橋脚3にPC鋼棒21を挿通し、その各端部に押さえ板22,22をそれぞれ通した上、ナット23,23を螺合することで該押さえ板をコンクリート連結体25に所定圧で当接配置する。
なお、曲面板8のうち、最外位置の曲面板8であって、隣り合う曲面板8が存在しない側については、図4に示すように、PC鋼棒21が挿通される挿通孔48が形成されたウェブ46、該ウェブの一方の縁部から斜めに延設されたフランジ47及び他方の縁部から背面側に直角に折り曲げてなるフランジ41からなる取付部材40を橋脚3の隅部に取り付けた上、最外位置の曲面板8を取付部材40のフランジ47にボルト接合するとともに、平板状の鋼板43を橋脚3の短手側側面に配置して該鋼板に形成されたボルト孔45に取付部材40のフランジ41から突設されたスタッドボルト42を挿通し、その先端にナット44を螺合することにより、鋼板43を取付部材40のフランジ41にボルト接合するようにすればよい。
本実施形態に係る耐震補強構造1においては、コンクリート連結体25は、押さえ板22の中央近傍と橋脚3との間、押さえ板22の端部近傍と曲面板8の側方縁部24との間、及び該側方縁部と橋脚3との間にコンクリートを充填して構成してあるとともに、一対の曲面板8,8の並び方向に沿った引張力が相互に伝達し、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が押さえ板22を介してPC鋼棒21に伝達するように、孔あき鋼板ジベル28及びアンカー付き鉄筋27を埋設して構成してある。
そのため、地震時における曲げせん断の繰り返し載荷や過大な軸力の載荷によって橋脚3が膨らむとともに、それに伴って一対の曲面板8,8に面内引張力が生じたとき、一対の曲面板8,8の並び方向に沿った分力については、コンクリート連結体25を介して相互に支持されるとともに、該並び方向に直交する方向に沿った分力については、コンクリート連結体25及び押さえ板22を介してPC鋼棒21に伝達され、該PC鋼材で支持される。
以上説明したように、本実施形態に係る耐震補強構造1によれば、一対の曲面板8,8は、従来の巻立て鋼板と同様、地震時における橋脚3の膨らみをそれらの面内引張力で拘束することが可能となる。
また、本実施形態に係る耐震補強構造1によれば、一対の曲面板8,8をコンクリート連結体25を介して相互連結するようにしたので、従来のようなフランジが一体に構成された外殻鋼板や鋼製セグメントとは異なり、曲面板8の製作コストを低減することができるほか、搬送や組立の際にも、より小型のトラックや重機で足りるため、施工コストの合理化も可能となる。
また、本実施形態に係る耐震補強構造1によれば、一対の曲面板8,8の側方縁部24,24をコンクリート連結体25に定着させることで該曲面板を相互に連結するようにしたので、ボルト接合に比べ、構築コストや管理コストを軽減することができるとともに、大きな曲げモーメントが発生する部位がなくなるため、従来のように過剰な断面設計となる懸念がなくなる。
本実施形態では、橋脚3のうち、地盤4に埋設されたフーチング5からの立ち上がり箇所近傍だけを耐震補強範囲としたが、これは説明の便宜であって、耐震補強範囲を橋脚3のどこに設定するかは任意であり、例えば橋脚3の全高にわたって耐震補強する構成が可能である。
また、本実施形態では、押さえ部材として、PC鋼棒21ごとの押さえ板22を採用したが、これに代えて、PC鋼棒21が挿通される複数の孔が穿孔されてなる長尺状の押さえ板で本発明の押さえ部材を構成するようにしてもよい。
また、本実施形態では、曲面板8の側方縁部24に突設される曲面板側定着部を孔あき鋼板ジベル28で構成したが、本発明の曲面板側定着部は、コンクリート連結体25に定着される限り、任意に構成可能であって、例えば曲面板8の側方縁部24に突設されたスタッドボルトで構成することが可能である。
なお、一対の曲面板8,8の並び方向に沿った引張力が確実に相互伝達されるのであれば、曲面板側定着部を省略してもかまわない。
また、本実施形態では、各端を拡幅形成して定着部としたアンカー付き鉄筋27で補強材を構成したが、これに代えて、定着部をフックで構成してもよいし、Tヘッドバー(登録商標)の名称で知られているように、端部をT字状に加工形成して定着部とした鉄筋を用いてもよい。さらには、一対の曲面板8,8の並び方向に沿った引張力が確実に相互伝達されるのであれば、定着部を持たない鉄筋で補強材を構成してもかまわない。
また、本実施形態では、橋脚3の短手側に平板状の鋼板43を建て込んだ上、該鋼板の側方縁部を取付部材40を介して最外位置の曲面板8に連結するようにしたが、最外位置の曲面板8であって、隣り合う曲面板8が存在しない側をどのように処理するかは任意であり、例えば上述の実施形態の構成に代えて、鋼板43を省略するとともに、フランジ41を省略した取付部材を用いることも可能である。
同構成においては、曲面板8に生じた面内引張力は、PC鋼棒21の材軸直交方向に沿った分力についても、該PC鋼棒で支持されることとなる。
これとは逆に、曲面板8に生じた面内引張力を鋼板43だけで支持できるのであれば、PC鋼棒21を省略してもかまわない。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図5は、第2実施形態に係る耐震補強構造50を示した詳細断面図である。耐震補強構造50は、耐震補強構造1と同様、橋脚3のうち、地盤4に埋設されたフーチング5からの立ち上がり箇所近傍の側方断面各長手側に橋脚3の水平幅の概ね1/3の幅を持つ曲面板8bを横三列縦六段となるように橋脚3の表面に対向配置して構成してある。
曲面板8bは、曲面板8と同様、鋼板を部分円筒状に湾曲加工して形成してあり、互いに隣り合う曲面板8b,8bの間には、該一対の曲面板に挟み込まれるようにPC鋼棒21を橋脚3に貫通配置するとともに、PC鋼棒21の端部にはナット23を用いて押さえ板22を取り付けてある。
ここで、押さえ板22の中央近傍と橋脚3との間、及び押さえ板22の端部近傍と曲面板8b,8bの各側方縁部24,24との間、換言すれば、押さえ板22と曲面板8b,8bで囲まれたV字状断面空間にはコンクリートを充填配置してあり、全体としてコンクリート連結体25bを構成する。
コンクリート連結体25bは、曲面板8bと橋脚3との間に充填されるコンクリート26bと連続かつ一体に形成されるのが望ましい。
コンクリート連結体25bには、曲面板8b,8bの側方縁部24,24であってそれらの正面側に突設された曲面板側定着部としての孔あき鋼板ジベル28をそれぞれ定着させてあり、該孔あき鋼板ジベルの孔のうち、奥側(橋脚3に近い側)に形成された孔には補強筋53,53を、手前側(橋脚3に遠い側)に形成された孔には補強筋51,51をそれぞれ鉛直に挿通するとともに、曲面板8b,8bの側方縁部24,24と押さえ板22との間には、補強材としてのアンカー筋54とアンカー筋52を、それらの各端に形成されたフックが補強筋53,53と補強筋51,51に掛けられる形で、側方縁部24,24の一方から他方に向けて延びるように該補強筋にそれぞれ架け渡してあり、これらコンクリート連結体25bに埋設される補強筋53,53、補強筋51,51、アンカー筋54及びアンカー筋52により、該コンクリート連結体は、一対の曲面板8b,8bの並び方向に沿った引張力、図5では左右方向に沿った引張力が相互に伝達するとともに、該並び方向に直交する方向、同図では上下方向に沿った引張力が押さえ板22を介してPC鋼棒21に伝達するようになっている。
本実施形態に係る耐震補強構造50を用いて橋脚3を耐震補強するには、第1実施形態と同様の手順で、曲面板8bを、橋脚3との間で図5に示した相対位置関係となるように該橋脚の表面に対向配置するとともに、曲面板8bの配置工程と同時に又はそれと相前後して補強筋53,53、補強筋51,51、アンカー筋54及びアンカー筋52を配置する。
次に、押さえ板22が設置される位置に長尺状の型枠31を建て込むとともに、後工程で打設されるフレッシュコンクリートが漏れないよう、型枠31の長手側縁部と曲面板8bとの取合い部位に防水テープを貼着するなどの措置を適宜施した後、曲面板8bの背面側と型枠31の背面側にフレッシュコンクリートを打設し、所定期間養生した後、型枠31を解体撤去する。
このようにすると、曲面板8bと橋脚3との間にはコンクリート26bが構築されるとともに、型枠31の建込み位置中央近傍と橋脚3との間、及び型枠31の建込み位置端部近傍と曲面板8bの側方縁部24との間にコンクリートがそれぞれ連続かつ一体化された形で充填配置されてなるコンクリート連結体25bが構築される。
また、コンクリート連結体25bには、曲面板8bに突設された孔あき鋼板ジベル28が定着されるとともに、補強筋53,53、補強筋51,51、アンカー筋54及びアンカー筋52が埋設される。
次に、コンクリート連結体25bの強度発現後、該コンクリート連結体及び橋脚3にPC鋼棒21を挿通し、その各端部に押さえ板22,22をそれぞれ通した上、ナット23,23を螺合することで該押さえ板をコンクリート連結体25bに所定圧で当接配置する。
なお、曲面板8bのうち、最外位置の曲面板8bであって、隣り合う曲面板8bが存在しない側の扱いについては、第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
本実施形態に係る耐震補強構造50においては、コンクリート連結体25bは、押さえ板22の中央近傍と橋脚3との間、及び押さえ板22の端部近傍と曲面板8の側方縁部24との間にコンクリートを充填して構成してあるとともに、一対の曲面板8b,8bの並び方向に沿った引張力が相互に伝達し、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が押さえ板22を介してPC鋼棒21に伝達するように、孔あき鋼板ジベル28と補強筋53,53、補強筋51,51、アンカー筋54及びアンカー筋52とを埋設して構成してある。
そのため、地震時における曲げせん断の繰り返し載荷や過大な軸力の載荷によって橋脚3が膨らむとともに、それに伴って一対の曲面板8b,8bに面内引張力が生じたとき、一対の曲面板8b,8bの並び方向に沿った分力については、コンクリート連結体25bを介して相互に支持されるとともに、該並び方向に直交する方向に沿った分力については、コンクリート連結体25b及び押さえ板22を介してPC鋼棒21に伝達され、該PC鋼材で支持される。
以下、第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果を生じるが、ここではその説明を省略する。
本実施形態では、橋脚3のうち、地盤4に埋設されたフーチング5からの立ち上がり箇所近傍だけを耐震補強範囲としたが、これは説明の便宜であって、耐震補強範囲を橋脚3のどこに設定するかは任意であり、例えば橋脚3の全高にわたって耐震補強する構成が可能である。
また、本実施形態では、押さえ部材として、PC鋼棒21ごとの押さえ板22を採用したが、これに代えて、PC鋼棒21が挿通される複数の孔が穿孔されてなる長尺状の押さえ板で本発明の押さえ部材を構成するようにしてもよい。
また、本実施形態では、曲面板8bの側方縁部24に突設される曲面板側定着部を孔あき鋼板ジベル28で構成したが、本発明の曲面板側定着部は、コンクリート連結体25bに定着される限り、任意に構成可能であって、例えば曲面板8bの側方縁部24に突設されたスタッドボルトで構成することが可能である。
なお、一対の曲面板8b,8bの並び方向に沿った引張力が確実に相互伝達されるのであれば、曲面板側定着部を省略してもかまわない。
また、本実施形態では、定着部をフックとしたアンカー筋52,54で補強材を構成したが、一対の曲面板8b,8bの並び方向に沿った引張力が確実に相互伝達されるのであれば、定着部を持たない鉄筋を補強材としてかまわない。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。なお、第1,2実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図6(a)は、第3実施形態に係る耐震補強構造60を示した詳細断面図である。耐震補強構造60は、耐震補強構造1と同様、橋脚3のうち、地盤4に埋設されたフーチング5からの立ち上がり箇所近傍の側方断面各長手側に橋脚3の水平幅の概ね1/3の幅を持つ曲面板8cを横三列縦六段となるように橋脚3の表面に対向配置して構成してある。
曲面板8cは、曲面板8と同様、鋼板を部分円筒状に湾曲加工して形成してあり、互いに隣り合う曲面板8c,8cの間には、該一対の曲面板に挟み込まれるようにPC鋼棒21を橋脚3に貫通配置するとともに、PC鋼棒21の端部にはナット23を用いて押さえ部材としての押さえ板22cを取り付けてある。
ここで、押さえ板22cの中央近傍と橋脚3との間、及び押さえ板22cの端部近傍と曲面板8c,8cの各側方縁部24,24との間、換言すれば、押さえ板22cと曲面板8c,8cで囲まれたV字状断面空間にはコンクリートを充填配置してあり、全体としてコンクリート連結体25cを構成する。
コンクリート連結体25cは、曲面板8cと橋脚3との間に充填されるコンクリート26cと連続かつ一体に形成されるのが望ましい。
一方、曲面板8cを構成する側方縁部24の正面には鉄筋61を溶接してあるとともに、押さえ板22cの背面のうち、鉄筋61に対向する位置からPC鋼棒21と反対側方向に若干ずれた部位に鉄筋62を溶接してあり、これら鉄筋61,62が圧縮ストラット形成用の凹凸として機能することにより、コンクリート連結体25cは、一対の曲面板8c,8cの並び方向に沿った引張力、図6(a)では左右方向に沿った引張力が相互に伝達するとともに、該並び方向に直交する方向、同図では上下方向に沿った引張力が押さえ板22cを介してPC鋼棒21に伝達するようになっている。
本実施形態に係る耐震補強構造60を用いて橋脚3を耐震補強するには、第1,2実施形態と同様の手順で、曲面板8cを、橋脚3との間で図6(a)に示した相対位置関係となるように該橋脚の表面に対向配置する。
次に、捨て型枠となる押さえ板22cをコンクリート打設に先行して建て込むが、押さえ板22cの周囲については型枠が別途必要となるため、例えば押さえ板22cが嵌り込む開口が形成された型枠(図示せず)を製作しておき、その開口に押さえ板22cが嵌め込まれた状態でそれらを一体に建て込むとともに、後工程で打設されるフレッシュコンクリートが漏れないよう、押さえ板22cと型枠との取合い部位、あるいは型枠と曲面板8cとの取合い部位に防水テープを貼着するなどの措置を適宜施した後、曲面板8cの背面側と押さえ板22c及び該押さえ板が嵌め込まれた型枠の背面側にフレッシュコンクリートを打設し、所定期間養生した後、押さえ板22cが嵌め込まれた型枠を解体撤去する。
このようにすると、曲面板8cと橋脚3との間にはコンクリート26cが構築されるとともに、押さえ板22cの中央近傍と橋脚3との間、及び上述した型枠と曲面板8cの側方縁部24との間にコンクリートがそれぞれ連続かつ一体化された形で充填配置されてなるコンクリート連結体25cが構築される。
次に、橋脚3の両側方に位置するコンクリート連結体25c,25cの強度発現後、該コンクリート連結体、押さえ板22c,22c及び橋脚3にPC鋼棒21を挿通し、その各端部にナット23,23を螺合することで押さえ板22c,22cをコンクリート連結体25cに所定圧で載荷する。
なお、曲面板8cのうち、最外位置の曲面板8cであって、隣り合う曲面板8cが存在しない側の扱いについては、第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
本実施形態に係る耐震補強構造60においては、コンクリート連結体25cは、押さえ板22cの中央近傍と橋脚3との間、及び押さえ板22cの端部近傍と曲面板8cの側方縁部24との間にコンクリートを充填して構成してあるとともに、一対の曲面板8c,8cの並び方向に沿った引張力が相互に伝達し、該並び方向に直交する方向に沿った引張力が押さえ板22を介してPC鋼棒21に伝達するように、鉄筋61,62を圧縮ストラット形成用の凹凸として押さえ板22cの背面と曲面板8cの正面にそれぞれ溶接してある。
そのため、地震時における曲げせん断の繰り返し載荷や過大な軸力の載荷によって橋脚3が膨らむとともに、それに伴って一対の曲面板8c,8cに面内引張力が生じたとき、一対の曲面板8c,8cの並び方向に沿った分力については、コンクリート連結体25cを介して相互に支持されるとともに、該並び方向に直交する方向に沿った分力については、コンクリート連結体25c及び押さえ板22cを介してPC鋼棒21に伝達され、該PC鋼材で支持される。
以下、第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が生じるが、ここではその説明を省略する。
本実施形態では、橋脚3のうち、地盤4に埋設されたフーチング5からの立ち上がり箇所近傍だけを耐震補強範囲としたが、これは説明の便宜であって、耐震補強範囲を橋脚3のどこに設定するかは任意であり、例えば橋脚3の全高にわたって耐震補強する構成が可能である。
また、本実施形態では、押さえ部材として、PC鋼棒21ごとの押さえ板22cを採用したが、これに代えて、PC鋼棒21が挿通される複数の孔が穿孔されてなる長尺状の押さえ板で本発明の押さえ部材を構成するようにしてもよい。
また、本実施形態では、押さえ板22cを平板としたが、これに代えて、図6(b)に示したように、背面が曲面板8cの側方縁部24とほぼ平行になるように形成されてなる三角形状断面の押さえ部材63としたならば、鉄筋61,62間で圧縮ストラットが形成されやすくなり、曲面板8c,8c間の荷重伝達がより確実となる。