JP6012928B2 - 植物栽培方法及び体内時計最適化植物栽培装置 - Google Patents

植物栽培方法及び体内時計最適化植物栽培装置 Download PDF

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Description

本発明は植物栽培方法及び体内時計最適化植物栽培装置に関する。より具体的には栽培光の光源ないし光量制御方法に関する。
光、温度、湿度、水、養分など植物栽培に必要な要素を人工的にコントロールして作物や農産物などの植物を育成する植物栽培装置が知られている。この装置は自然環境の影響を受けることがないので、寒冷地や砂漠等の不毛地での安定した作物生産を可能にする。また、従来農法のように農地を必要とせず、建築物や大型船舶などの施設内での植物生産をも可能にする。
植物栽培装置においては、効率的な作物生産のために前記要素をどのようにコントロールするかは重要な課題である。例えば、特許文献1(特開平10−178899号公報)には、それぞれ波長が異なる光を発する複数の発光素子で構成される光制御手段、温度制御手段、湿度制御手段などを備え、目的とする植物の育成条件を入力することにより、当該植物に適した波長の光を照射するに際し、照射開始時期、照射量、照射時間を制御する植物栽培装置が提案されている。また、特許文献2(特開2009−136155号公報)には、遠赤色光と赤色光の比率が所定値以上となるように、遠赤色光を照射して光周性反応を制御した植物栽培装置が提案されている。これらの植物栽培装置では、照明点灯スケジュールは、例えば、特許文献1に記載されているように慣習上24時間の明暗周期に設定し、あるいは特許文献2に記載されているように、短日栽培として経験的に日照時間を短くした時期を設けている。
ところで、多くの生物は概日リズム(サーカディアンリズム)を有し、光合成を始めとする植物内の物質代謝サイクルは該植物が持つ体内時計によって調節されている。概日リズムは約1日周期の周期を有し、ほぼ24時間で規則正しく物質代謝サイクルを営む。また、概日リズムは光の影響を受け、暗パルス(ダークパルス)や明パルス(ライトパルス)の刺激によって、概日リズムが影響を受けることはよく知られているところである。
例えば、非特許文献1(A. N. Dodd, et al., "Plant Circadian Clocks Increase Photosynthesis, Growth, Survival,and Competitive Advantage", Science 309, p630-633)には、概日リズムの周期が短い変異株(周期20.7時間)と周期が長い変異株(周期27.1〜32.5時間)、野生株(周期約24時間)を,それぞれ周期20時間または24時間、28時間の明暗周期(明暗それぞれ等時間)の下で栽培した結果,それぞれの株が持つリズムの固有周期に相当する周期の明暗周期の条件で、葉緑素生成や植物の生長が最適になることが報告されている。従って、栽培対象となる植物の概日リズムの周期に併せた明暗周期で、照明を制御すれば、該植物に最適な条件で栽培できることが期待される(サーカディアン共鳴法)。
概日リズムのメカニズムは近年次第に明らかにされつつある。例えば、非特許文献2(McClung, C.R. (2006). Plant circadian rhythms. Plant Cell 18, p.792-803)や非特許文献3(Nakamichi, N. et al., The Plant Cell, Vol.22, p.594-605)に記載されたように、概日リズムは個体レベルから遺伝子レベルへとよりミクロな視点で解明されつつある。
このような状況下において、非特許文献4(福田、「安全安心レタスから医薬用レタスまで−遺伝子発現制御植物工場の開発−」、SHITA REPORT No.24、p.82-92(2007))には、明暗周期を変えることによって、時計遺伝子(CCA1)の発現周期、つまり概日リズムを制御し、明暗周期と概日リズムを完全に同期させられることがシミュレーションされている。また、非特許文献5(福田、「植物における概日時計細胞集団の同期制御」、リズム現象の研究会IV プログラム&アブストラクト、p.4-5)には、時計遺伝子の発現レポーターとしてルシフェラーゼ遺伝子を導入したシロイヌナズナを用いて、明暗周期によって概日リズムを制御することが記載されている。また、非特許文献5には、連続照射光の下では概日リズムが消失し、失われた概日リズムがダークパルスによる刺激によって再び概日リズムを取り戻すことがシミュレーションされ、実際に時計遺伝子の発現レポーターとしてルシフェラーゼ遺伝子を導入したシロイヌナズナにおいて、この概日リズムが正しく再構築されることが記載されている。例えば連続照射によって概日リズムを失ったシロイヌナズナに対して、23時間周期で2時間の暗期(ダークパルス)を与えると23時間の概日リズムが観察されている(引き込み効果)。
特開平10−178899号公報 特開2009−136155号公報
A. N. Dodd, et al., "Plant Circadian Clocks Increase Photosynthesis, Growth, Survival,and Competitive Advantage", Science 309, p630-633 McClung, C.R. (2006). Plant circadian rhythms. Plant Cell 18, p.792-803 Nakamichi, N. et al., The Plant Cell, Vol.22, p.594-605 福田、「安全安心レタスから医薬用レタスまで−遺伝子発現制御植物工場の開発−」、SHITA REPORT No.24、p.82-92(2007) 福田、「植物における概日時計細胞集団の同期制御」、リズム現象の研究会IV プログラム&アブストラクト、p.4-5
これまでの栽培方法における点灯制御は特許文献1に記載されたように明暗周期を24時間とし、24時間の中で明期と暗期の期間を調整する方法である。また、特許文献2に記載されたような短日栽培は一時的に日照時間を短くして刺激を与える時期を設ける栽培方法であるが、この栽培方法においても24時間の明暗周期で制御している。また、植物の概日リズムを考慮した栽培方法としてサーカディアン共鳴法が知られているが、この方法は植物固有の概日リズムに明暗周期を一致させる栽培方法であって、この方法でも明期の長さと暗期の長さが等しくなるように明暗周期が定められている。
しかしながら、栽培光を明期の長さと暗期の長さを等しくした明暗周期で制御した場合、光源からの発熱量の変化にともない明期と暗期における温度差が大きくなる場合がある。このため、栽培室内の明暗期の温度差を少なくするように管理しなければならず、温度管理に要する空調機の高い処理能力とそれに伴う余剰の消費電力が発生するという問題がある。
一方、連続照明下で作物を栽培する場合、温度管理が単純化され、照明機器や空調機器の制御に対する負荷が少なくなる。また、作物が行なう光合成の総量は照射した光の総量にほぼ比例することから、連続照明によって栽培開始から収穫までの期間を短縮できる可能性がある。しかしながら、連続照明は概日リズムを減衰させ、生育不良を引き起こす。つまり、連続照明は明暗照明と比べ同じ栽培期間では通常2倍の光量を照射しているので、光合成量は同じ栽培期間であれば連続照明の方が2倍近く多いことになるが、光合成効率や形状や色などの品質が連続照明では低下する。このように、連続照明下においても、作物の品質や投下エネルギーあたりの成長量(コストパフォーマンス)を考慮すると最適であるとは言えない。
上記のように、これまでの点灯制御は、空調機への負荷や投下エネルギーあたりの作物の成長量(コストパフォーマンス)において最適なものであるとは言えず、空調機器を含むシステム全体の消費電力や作物の生理代謝を考慮した効率的かつ最適な栽培方法が求められていた。
本発明は上記の背景技術に基づいてなされたものであって、植物固有の概日リズムの研究に基づき、さらに効率的な栽培を可能にした植物栽培装置を提供することを目的としている。
本願発明者らは、短時間の暗期間によるダークパルスが植物の概日リズムを調整できるという知見に基づきさらに研究を進めたところ、暗期若しくは明期を特定のアルゴリズムに従って設定すると、植物栽培装置におけるコストパフォーマンスを向上させることを見出し、本願発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の植物栽培装置における栽培光制御方法は、人工的に制御された明暗サイクル下で栽培光を照射して植物を栽培するための栽培光制御方法であって、前記明暗サイクルは、栽培光が照射される明期と、当該明期における光量よりも少ない光量の栽培光が照射されるか又は光量のない暗期を有し、前記明暗サイクルの周期は、前記植物が有する固有のフリーラン周期と異なる周期であって、前記暗期が光合成活性の低い時間帯に設定されるか又は前記明期が光合成活性の高い時間帯に設定された栽培光制御方法である。
本発明によれば、光合成活性が低い時間帯に暗期が設定され、または光合成活性が高い時間帯に明期が設定される。例えば、明暗サイクルの周期を連続照明下において観察される植物固有のフリーラン周期よりも短くし、前記暗期の終期を前記植物の概日リズムにおける夜明け時刻から1〜3時間前に設定することによって達成できる。光合成活性が低い時間帯に暗期が設定されることにより、同じ照射時間で栽培した場合に比べて光合成の総量が増大し、これによって出荷可能な大きさになるまでの栽培期間が短くなり、投下エネルギー当たりのコストパフォーマンスをあげることができる。
また、ほぼ連続した照明下では、暗期を光合成活性の低い時期に設定、あるいは、明期を光合成活性の高い時期に設定することができる。暗期を光合成活性の低い時期に設定した場合では、連続した照明下で1日あたりの植物の成長度を高めるだけでなく、光の利用性が悪い時期における無駄な点灯が防止される。この結果、同じ明るさで連続点灯する場合に比べて消費電力が削減される。一方、明期を光合成活性の高い時期に設定した場合であれば、光合成活性が相対的に低くなる時期には光量を抑えることができ、光合成活性が高い時期に光量を高めることで1日当たりの栽培光の利用効率を高めることができる。また、いずれの場合においても、連続照射による概日リズムの消失を防止し、連続した照明下での植物成長が良好に維持される。
図1は本発明の一態様である栽培光制御方法を示す概念図である。 図2は連続照明下において単回のダークパルスを与えた場合における概日リズムの位相シフトを表した図である。 図3は2時間のダークパルスを与えた場合の位相応答曲線の一例を示す図である。 図4は2時間のライトパルスを与えた場合の位相応答曲線の一例を示す図である。 図5は明暗周期調整期間を設けた栽培方法を示す概念図である。 図6は本発明の一実施例である植物栽培装置の模式図である。 図7は本発明の別の実施例である植物栽培装置の模式図である。 図8は概日リズムの光質依存性を示すグラフである。 図9は明暗サイクルの相違が植物の生育に与える影響を示す図であって、成長率r(1日当たりの生重量増加率)と栽培効率q(照明時間当たりの生重量増加率)に対する影響を示す。 図10は明暗サイクルの相違が植物の生育に与える影響を示す図であって、地上部重量(mg)と根の割合(%)に対する影響を示す。 図11は明暗サイクルの相違が植物の生育に与える影響を示す図であって、乾重量(mg)と含水率(%)に対する影響を示す。 図12は明暗サイクルの相違が植物の生育に与える影響を示す図であって、クロロフィル量(μgChl/生重量mg)に対する影響を示す。
本発明の栽培光制御方法は、暗期が光合成活性の低い時間帯に設定されるか又は明期が光合成活性の高い時間帯に設定された明暗サイクルにて栽培光を制御する方法である。
本明細書において「フリーラン周期」とは、連続照明条件または連続暗条件下において観察される概日リズムにおける周期を意味する。「概日リズム」はサーカディアンリズムとも呼ばれ、ほぼ24時間の周期で見られる植物の特定遺伝子(群)の発現量の増減、及びその結果として生起する様々な生理的な現象を意味する。この生理現象は時計遺伝子により制御される植物体内での物質代謝活性(指標)として観察される。植物の代謝活性は糖代謝及び細胞増殖等の代謝活性であって、光合成遺伝子、糖代謝遺伝子又は細胞増殖遺伝子の発現の亢進/抑制の結果である。「概日リズム」はこれらの代謝活性の何れかにおいて観察される1日のリズムである。植物生育最適化の為に利用する概日リズムは、植物の成長の指標となる代謝活性についての概日リズムが好適であり、例えば光合成活性や糖代謝などが挙げられる。概日リズムは1つの代謝活性を指標としてもよく、また、複数の代謝活性を勘案した指標でもよい。ここでの植物生育最適化とは、投下エネルギーあたりの生産量(コストパフォーマンス)、あるいは栽培期間あたりの生産量(生産速度)を最大にすることを意味する。またここでの生産量とは、成長量(生重量や乾重量)あるいは栄養成分や医薬用タンパク質などの有用物質の生産量を意味する。
概日リズムは、例えば、非特許文献4に記載されているように、光合成や成長に関わる遺伝子や有用タンパク質などをコードする遺伝子のプローモーター領域の下流にルシフェラーゼ構造遺伝子を組み込み、育成過程で得られるルシフェラーゼ発光の発光量を連続的に測定することによって求める方法や、非特許文献1に記載されているように、炭酸ガス固定量を測定することによって概日リズムを測定する方法など、公知の方法により求められる。求められた概日リズムは代謝活性の時刻変動として表される。
本明細書において「フリーラン周期」は、概日リズムを示す代謝活性の時刻変動から求められるピークからピーク、又はボトムからボトムまでの時間を意味する。フリーラン周期はほとんどの植物ではほぼ24時間とされているが、より正確には植物が有する固有のフリーラン周期は24時間よりも短い時間であり得るし、24時間よりも長い時間でもあり得る。また、連続照明下においていわゆるダークパルス(DP)と呼ばれる数分〜数時間程度の消灯時間を設けることによってフリーラン周期は一過的に変化する。本発明では、連続照明条件下又は連続暗条件下において求められる植物固有のフリーラン周期が基準とされる。
本明細書において「明期」とは光源がオンとなり栽培光が照射される時間帯を意味する。本明細書において「暗期」とは光源がオフとなり栽培光が照射されない時間帯を意味する場合だけでなく、明期における光量よりも光量が低下した時間帯を含む意味で用いられる。すなわち、本発明において、栽培光の制御は主として光源のオン・オフ制御の意味で用いられるが、光量の増減制御を含む意味でも用いられる。また、本明細書において、明期や暗期は1〜3時間程度の時間帯でもあり得る。従って、本明細書における「明暗サイクル」は、明期と暗期がほぼ等しい場合やいわゆる連続照明下においてパルス状の暗期(DP:ダークパルスとも言う)及びパルス状の明期(LP:ライトパルスとも言う)を周期的に設ける場合を含む。さらに、暗期において光源をオンとする場合、暗期における波長と明期における波長が異なる場合もあり得る。
本発明の栽培光制御方法では、暗期が光合成活性の低い時間帯又は明期が光合成活性の高い時間帯に設定される。ここで光合成活性が低いとは、光合成活性の平均値から約−10%、好ましくは−15%、さらに望ましくは−20%以下となることを意味する。光合成活性が高いとは、光合成活性の平均値から約+10%、好ましくは+15%、さらに望ましくは+20%以上であることを意味する。光合成活性が低い時間帯は植物固有の概日リズムから求められるが、この時間帯は植物の体内時計における夜明け前1〜3時間、つまり午前3時〜午前5時頃に概ね相当する。光合成活性が高い時間帯も植物固有の概日リズムから求められるが、この時間帯は植物の体内時計における夜明け後5〜7時間、つまり午前11時〜午後1時頃に概ね相当する。本発明の方法は、(1)暗期の終期を光合成活性が低い時間帯、すなわち、植物の体内時計における夜明け時刻から1〜3時間前に設定する方法と、(2)暗期を光合成活性の低い時間帯又は明期を光合成活性の高い時間帯に設定する方法を含む。
(1)暗期の終期を光合成活性が低い時間帯に設定する方法
この方法は、明暗サイクルにおける暗期の終期を、これまでの24時間の明暗サイクル(明期12時間、暗期12時間)における暗期の終期を早め、暗期の終期を光合成活性が低い時間帯、すなわち、植物の体内時計における夜明け時刻から約1〜3時間前、位相で言えば0.92±0.04(rad/2π)の時間帯に設定する方法である。図1は当該制御方法の概念図である。光合成活性に代表される植物代謝はほぼ24時間周期で変動することは知られており、図1(a)に示されるように、明期と暗期が等しい時間からなる24時間の明暗サイクルでは、暗期の終期が体内時計における夜明け時刻に一致する。一方、光合成活性が最小となるのは植物の体内時計における夜明け、つまり暗期から明期に移行する時刻の1〜3時間前であると言われている。この夜明け1〜3時間前の時刻は、光に対する応答性が高まっている時間帯であり、光照射によって体内時計の時刻が数時間前進する時間帯となっている。このことを光による位相前進または位相シフトという。(1)の方法は、図1(b)に示されるように、暗期の終期を夜明け1〜3時間前に設けることにより、植物の体内時刻を位相前進により数時間早め、光合成活性が低くなる時間帯、望ましくは最低となる時間帯を消去するものである。
このとき、暗期の終期を早められる時間、つまり、明暗サイクルの周期と植物固有のフリーラン周期の差は、植物の概日リズムの同期が可能な時間の範囲内である。この差が大きいと、明暗サイクルと概日リズムが同期できなくなり、その結果、概日リズムは不規則な挙動を示すようになる。概日リズムが不規則となると、十分な成長を期待できなくなる。明暗サイクルの周期と植物固有のフリーラン周期の差は長くとも4時間であって、1時間であり、2時間であり、3時間であり得る。また、植物あるいは同一植物に於いては品種によっても異なり、最適な時間は実験的に求められる。(1)の方法は、明暗サイクルの長さを植物固有のフリーラン周期よりも短くする方法であるとも言える。
この方法において、明暗サイクルにおける明期の長さと暗期の長さの按分は適宜定められる。明期の長さと暗期の長さが同じである明暗サイクルか、暗期の長さが明期の長さよりも短い明暗サイクルが好ましい。暗期を十分短くすることにより、ほぼ連続照明条件とみなすことができ空調機器等への負担が軽減するからである。なお、明期の長さが短くなると植物の成長が低下するおそれがあるので、明期の長さと暗期の長さが同じである明暗サイクルか、明期の長さが11時間以上である明暗サイクルが望ましい。
明期の長さと暗期の長さは、例えば、明暗サイクルの周期が23時間の場合、明期が約11.5時間、暗期が約11.5時間であり、明期が約12時間、暗期が約11時間であり得る。また、明期が約13時間、暗期が約10時間であり得る。また、明暗サイクルの周期が約22時間の場合、明期が約11時間、暗期が約11時間であり、明期が約12時間、暗期が約10時間、明期が約13時間、暗期が約9時間であり得る。明暗サイクルの周期が約21時間の場合、明期が約10.5時間、暗期が約10.5時間であり、明期が約11時間、暗期が約10時間であり、明期が約12時間、暗期が約9時間であり得る。
この方法は、明期開始の刺激がもたらす位相前進を利用する方法であるので、暗期における光量は明期に比べて少なくする必要がある。暗期における光量は明期における光量の約1/2以下であり、約1/5以下であり、約1/10以下であり、望ましくはゼロ、すなわち光源をオフにすることである。
この方法によると、植物が主観的に夜明けと感じる時刻が数時間早められる程度であるので、植物固有の代謝サイクルに近い状態で栽培できるという利点が維持される。つまり、体内時刻を夜から昼へと反転させるような手法ではないので、植物へのストレスは小さい。仮に、植物へのストレスが大きいものであれば、正常な生理代謝を維持できず、植物生育の最適化は困難になる。また、この方法によると、概日リズムを壊さない範囲内で24時間よりも短い周期を有する明暗サイクルで栽培するにもかかわらず、植物の成長にはそれほど影響がないので、植物栽培装置のランニング・コストが削減される。
(2)暗期を光合成活性が低い時間帯又は明期を光合成活性が高い時間帯に設定する方法
この方法は、ほぼ連続照射下においてダークパルスと呼ばれる暗期を光合成活性が高い時間帯に設定する方法又はライトパルスと呼ばれる明期を光合成活性が高い時間帯に設定する方法である。この方法は、連続照明下において短時間の暗期又は明期を設定した制御方法であり、ダークパルス又はライトパルスによる引き込み現象を利用した制御方法である。連続照明下においては、2時間程度のダークパルスを一定の周期で与えると植物の概日リズムが当該周期に同調し、ある特定の位相関係に収束する現象(位相ロック)が観察されていることが報告されている(例えば、非特許文献5)。この方法によると、植物の概日リズムが維持されるので連続照明による栽培促進が期待されるだけでなく、短時間の消灯による結果、光源が消費する電力が削減され、さらに温度の急激な変化も少ないので空調機器に与える負荷も少なくなる。
暗期を付与する周期は次の方法により求められる。この方法は、(A)連続照明条件下におけるフリーラン周期(τ)と、1度の暗期を設けた連続照射条件下におけるフリーラン周期(τ´)とから位相応答曲線(G(φ))を求める工程と、(B)該植物における概日リズムの位相同期が可能な時刻内において、光合成活性が低い時間帯に相当する暗期の位相と位相応答曲線との交点(位相固定点)から、前記明期の長さを求める位相シフトを求める工程を有する。位相応答曲線G(φ)はダークパルスの時間長さ(「ダークパルスの強度」とも言う)に依存し、暗期の長さはダークパルスの強度と一致する。明暗サイクルの周期(T)は、フリーラン周期(τ)に位相シフト(ΔT)を差し引いた時間(T=τ−ΔT)として示される。また、暗期の長さはダークパルス(Δt)の長さ、明期の長さは明暗サイクルの周期(T)の残余時間(T−Δt)となる。なお、位相シフトの符号は、位相前進の場合がプラス、位相後退の場合がマイナスで表される。
概日リズムの測定方法は上記のように既に公知である。また、位相応答曲線を求める方法も公知である。位相応答曲線は、連続照明下における概日リズムを基準とした位相シフト、すなわち、連続照明下における概日リズムと連続照明下において単回のダークパルスを付与した場合における概日リズムの位相差(フリーラン周期(τ)−フリーラン周期(τ´))と、ダークパルスを与える時刻(位相)との関係を示した図である。図2は、連続照明下において単回のダークパルスを与えた場合における概日リズムの位相シフトを表した図であって、この図では栽培開始後120時間経過後にダークパルスを与えた状態を示している。ダークパルスの付与が概日リズムに位相の遅れを与えていることが分かる。
図3は位相応答曲線G(φ)の一例を示したものであって、フリーラン周期が23時間である植物についてシミュレーションしたものである。位相応答曲線は、縦軸に位相シフト(rad/2π)を、横軸にダークパルス照射時の位相(rad/2π)を示す点を結んだものである。位相応答曲線はダークパルスの強度によって異なる曲線を描く。図3は2時間(Δt=2hrs)のダークパルスを与えた場合の位相応答曲線である。単回のダークパルスの付与により位相がシフトし、ダークパルスを同じ周期で繰り返し与えると、規則正しい概日リズムが得られることは公知である(例えば非特許文献5参照)。すなわち、位相応答曲線は、位相応答曲線が示す位相シフト(rad/2π)の最大値と最小値の間で、フリーラン周期と異なる周期を有する概日リズムが植物に発生し得ることを意味している。つまり、位相シフトの最大値と最小値の間で位相ロックが生じる結果、植物固有の概日リズムとは異なる周期の概日リズムであるにもかかわらず、植物の代謝活性のリズムに則した自然な成長が期待される。
ここで、光合成活性は、上記のように、植物の主観的な夜明け時刻の1〜3時間前、すなわち位相が0.9±0.04(rad/2π)の時間帯に低下する。従って、この時間帯に暗期を設定すると、植物の成長に大きな悪影響を与えることなく、消灯時間を設けることができる。そこで、位相が0.9±0.04(rad/2π)である場合の位相シフト、すなわち、位相応答曲線上における位相が0.9(rad/2π)に相当する位相シフトを求める。この位相シフトが得られる時刻(位相固定点)に、ダークパルスを与えると概日リズムの位相が固定され、規則正しい概日リズムが得られる。
さらに図3に基づいて具体的に説明すると、図3に示す位相応答曲線から、位相シフトが−0.5(rad/2π)以上0.5(rad/2π)以下の範囲、つまり23時間+3.45時間(0.15×23時間)=26.45時間から、23時間−1.15時間(−0.05×23時間)=21.85時間の明暗周期では、位相がロックされ、植物固有の概日リズムとは異なる周期の概日リズムで植物が成長可能であることが理解される。次に、ダークパルスを与える時刻の位相が0.9(rad/2π)になる位相シフトは約−0.1(rad/2π)、つまり、位相固定点は0.1(rad/2π)位相が遅れたところにある。従って、明暗サイクルの周期(T)は、連続照明下におけるフリーラン周期(τ)に位相シフト(ΔT)を差し引いた時間、つまり23時間×(1−(−0.1))=26.22時間の明暗周期となる。従って、24.22時間の明期と2時間(ダークパルスの長さ)の暗期とからなる明暗サイクルで光を制御すればよいことになる。
図3の位相応答曲線はダークパルスの長さが2時間である場合を示す。ダークパルスの強度が弱くなると位相応答曲線のピークは低くなり、ダークパルスの強度が強くなると位相応答曲線の描く高さは高くなる。ダークパルスがある強度より強くなると、位相応答曲線は発散し、図に示すような連続性のある曲線を描かなくなり、同期現象とは異なる不連続点での位相リセット現象が生じる。従って、ダークパルスの強度は同期現象が生じる範囲内の時間であり、その強度、つまり暗期の長さは概ね4時間以下である。この範囲内の時間であればダークパルスの強度は任意であって、例えば4時間であり、3時間であり、2時間であり、1時間であり得る。この強度は実験的に求められる。
また、ダークパルスを与える場合には、位相が遅くなる傾向にあり、ダークパルスを与える周期は植物固有のフリーラン周期よりも長くなる傾向にある。また、上記したようにダークパルスの強度が強くなれば位相が遅れる傾向にあり、強度が強くなりすぎると同期現象が生じなくなるので、ダークパルスを与える周期は24時間より長く、最大約30時間程度である。もっとも、植物あるいは同一植物に於いては品種によっては、ダークパルスを与える周期が24時間となる場合もあり得る。
この明暗サイクルによる点灯制御方法によると、連続照明下における栽培と同様な栽培が可能となり、(1)の方法に比べて栽培開始から収穫までの期間が短くなる。また、暗期が設けられるので連続照明下での栽培方法に比べて、暗期の分だけ消費電力が低減される。
ライトパルスを与える場合も同様である。ライトパルスを与える時刻は、連続照明下においてライトパルスを与えた場合に得られる位相応答曲線から求められる。図4は2時間(Δt=2hrs)のライトパルスを与えた場合の位相応答曲線の一例である。ライトパルスを与える場合は、光合成活性が高い時間帯に明期が設けられる。ライトパルスの時間長さ(「ライトパルスの強度」とも言う)に依存し、明期の長さはライトパルスの強度と一致する。暗期の長さは、ダークパルスを与える場合と同様の手順で求められる。光合成活性は、植物の主観的な夜明け時刻の5〜7時間後、すなわち位相が0.25±0.04(rad/2π)の時間帯に高くなる。従って、この時間帯に光量の多い明期を設けると、光合成活性の高い時間帯において光量の高い光が照射され、光合成活性が低下する他の時間帯における光量を低く設定できる。この結果、栽培光の利用効率が上がるだけでなく、連続照明による高い生産速度が期待される。そこで、位相が0.25±0.04(rad/2π)である場合の位相シフト、例えば、位相応答曲線上における位相が0.25に相当する位相シフトを求める。図4に示す例では、ライトパルスを与える時刻の位相が0.25になる位相シフトは、約0.17(rad/2π)、つまり位相固定点は0.17(rad/2π)位相が早まったところにある。従って、明暗サイクルの周期(T)は、連続照明下におけるフリーラン周期(τ)に位相シフト(ΔT)を差し引いた時間、つまり、植物の有する固有のフリーラン周期が24時間であれば、24時間×(1−0.17)=19.09時間の明暗周期となる。従って、約17.1時間の暗期と2時間(ライトパルスの長さ)の明期の明暗サイクルで光を制御すればよいことになる。


図4の位相応答曲線はライトパルスの長さが2時間である場合を示す。ライトパルスの強度が弱くなると位相応答曲線の描く曲線は互いに近づき、ライトパルスの強度が強くなると位相応答曲線の描く曲線は離れる。ライトパルスがある強度より強くなると、位相応答曲線は単一の応答だけを示すようになり、図に示すような連続応答性のある曲線が描かれない。つまり、位相リセット現象が発生し、位相の同期現象が生じなくなり、本照明法で必要な位相の制御ができなくなる。従って、ライトパルスの強度は位相同期が生じる範囲内の時間であり、その強度、つまり明期の長さは概ね4時間以下である。この範囲内の時間であればライトパルスの長さは任意であって、例えば4時間であり、3時間であり、2時間であり、1時間であり得る。この強度は実験的に求められる。
また、ライトパルスを与える場合には、位相が早まる傾向にあり、ライトパルスを与える周期は植物固有のフリーラン周期よりも短くなる傾向にある。また、上記したようにラウトパルスの強度が強くなれば位相が早まる傾向にあり、強度が強くなりすぎると同期現象が生じなくなるので、ライトパルスを与える周期は24時間より短く、最小約18時間程度である。もっとも、植物あるいは同一植物に於いては品種によっては、ライトパルスを与える周期が24時間となる場合もあり得る。
植物は、上記のようにして設定された明暗サイクルの栽培光の下で栽培される。光は発芽後に必要とされる。従って、発芽と同時に上記明暗サイクルの栽培光の下で栽培を開始できる。また、24時間の昼夜サイクル(12時間の明期と12時間の暗期)の栽培光下又は自然光下で、数日から1〜2週間成長させた後、上記明暗サイクルの光下で栽培を開始してもよい。上記で設定された明暗サイクルで栽培を開始すると、植物の体内時計は設定された明暗サイクル、例えば22時間の明暗サイクルで光を照射すると、植物の概日リズムは次第に同期し、植物の自然な代謝サイクルが形成される。収穫時期は植物の成長に併せて適宜決められる。また、収穫時期に近づいた場合に24時間の昼夜サイクルで栽培することもできる。
本発明の植物栽培方法は、上記の方法で設定された明暗サイクルの栽培光で栽培する第1の栽培期間と当該第1の栽培期間の前後又はその双方に第1の栽培期間における明暗サイクルの周期と24時間の間の周期を有する明暗サイクルの栽培光の下で栽培する明暗周期調整期間を設けた栽培方法である。明暗周期調整期間は、第1の栽培期間における明暗サイクルから24時間周期の明暗サイクルへの移行を行うための調整期間である。
第1の栽培期間における明暗サイクルの周期は、24時間より短い時間であり、24時間よりも長い時間であり、場合によっては24時間でもあり得る。24時間周期の明暗サイクルで栽培する場合には、植物の体内時計は24時間周期となるために、栽培開始時期におけるヒトの生活リズム(24時間社会サイクル)と作物の概日リズムは一致する。例えば、午前10時に明期を開始すると、午前10時が暗期の終了時刻となり、栽培開始時と収穫時においてヒトの生活リズムと植物の概日リズムの間に狂いはない。ところが、第1の栽培期間における明暗サイクルの周期が、22時間などのように24時間でないと、収穫時においてヒトの生活リズムと植物の概日リズムの間に狂いが生じる。このために、植物の概日リズムから考えて最適な収穫時刻、例えば、植物の体内時計における午前6時(明期から暗期に切り替わる時刻)に収穫しようすると、ヒトの生活リズムでは収穫時刻が深夜に該当する場合がある。この場合では収穫に際してヒトに過大な負担を掛ける。一方、ヒトの生活リズムを優先して、24時間リズムで午前10時に収穫を開始しようとすると、植物の体内時計では、例えば、光合成活性が著しく高い午前12時頃に該当し、収穫にとって最良の時刻になるとは限らない。また、22時間周期からいきなり24時間周期に変更すると、過度なストレスが植物に加えられるおそれもある。明暗周期調整期間は、このような問題点を解消するために設けられた栽培期間であって、この期間内において植物の体内時計が24時間サイクルに調整される。
図5は明暗周期調整期間を設けた栽培方法を示す概念図である。この図は、午前10時に栽培を開始し、午前10時から収穫を開始する場合を示している。この場合では、午前10時に光源がオンにされ、栽培開始直後から植物の代謝リズムが優先される。例えば22時間の周期(明期11時間、暗期11時間)の明暗サイクルで光が照射される。栽培開始から収穫時期に近づくまでのしばらくの期間は当該明暗サイクルで栽培が行われ、収穫時期が近づくと、22.5時間の周期を有する明暗サイクル、23時間の周期を有する明暗サイクル、23.5時間の周期を有する明暗サイクルと、周期が漸次増加した明暗サイクルでの栽培が行われる。このように、植物を大きく成長させる時期には植物の代謝リズムを優先し、収穫が近づくと徐々にヒトの生活リズムを優先させることができる。この結果、効率のよい栽培が可能になるだけでなく、植物に負荷されるストレスを軽減しつつ、しかも、ヒトの生活リズムまでを考慮した植物栽培が可能となる。
明暗周期調整期間のおける明暗サイクルの周期は、第1の栽培期間における明暗サイクルの周期と24時間の間であって、1の明暗サイクルの周期であり、2以上の明暗サイクルの周期でもあり得る。調整期間(栽培期間)も適宜定められ、1日であり、2日であり、3日であり、あるいはそれ以上であり得る。明暗サイクルにおける暗期の長さや明期の長さも任意である。ストレス軽減ならびに同期制御の観点からは、明暗周期調整期間における明暗サイクルは、第1の栽培期間における明暗サイクルと近似した明暗サイクルが好ましい。例えば、第1の栽培期間における明暗サイクルが、22時間の周期(明期11時間、暗期11時間)の明暗サイクルであれば、明期が11時間、暗期が11.5時間である明暗サイクル、明期が11.5時間、暗期が11.5時間である明暗サイクル、明期11.5時間、暗期が12時間である明暗サイクルとした明暗周期調整期間が例示される。また、第1の栽培期間における明暗サイクルが、2時間の暗期と22.15時間の明期を有する明暗サイクルであれば、第1の栽培期間終了後に、暗期をなくした連続照射の栽培期間としてもよい。明暗周期調整期間は任意的なものであり、第1の栽培期間の終了後に明暗周期調整期間を設けることなく直ちに収穫をしても差し支えない。
本発明の植物栽培装置は、植物を収容する筐体と、植物を栽培するための光(栽培光)を照射する光源と、前記光源の点灯を制御する光源制御手段を備える。植物を収容する筐体は人工的に制御された栽培環境が維持可能であれば、その構造は問われない。また、植物栽培装置は、植物を収容する空間内の湿度や温度を管理する空調設備、植物栽培用の培地を供給する培養設備を備える。
光源はLEDや蛍光灯などから構成され、植物の生育に必要な波長の光を照射する。光源は固定された波長の光を照射する光源や複数の波長の光を照射する光源であり得る。照射する光の波長を制御可能な光源が好ましく用いられる。植物の成長は照射される光の波長によって影響されることも知られており、光の波長は適宜選択される。例えば、明期には赤色LEDからなる光源をオンにして赤色光を照射し、暗期には青色LEDからなる光源をオンとして青色光を照射する方法であり得る。また、明期には赤色LEDと青色LEDからなる光源をオンにして、赤色光と青色光の混合光を照射し、暗期には青色LEDからなる光源又は赤色LEDからなる光源のみをオンにして、赤色光又は青色光の何れか一方の光を照射する方法もあり得る。特に、ライトパルスを用いる場合、暗期明期を通じて赤色LEDからなる光源をオンとした状態で、明期には青色LEDからなる光源をオンにして、赤色光と青色光の両者を照射することが望まれる。青色光は葉の緑色を濃くして、葉を硬くする効果を有している。このため、赤色光と青色光の同時照射は、赤色光の連続照射による概日リズムの消失を防止するだけでなく、葉の形態形成にも貢献する。
栽培対象となる植物は筐体内で生育可能な植物であればその種類は問われない。その植物は、食用のための植物や観賞用の植物であり得る。その植物は好ましくは食用のための植物であり、生育期間が短い食用のための植物である。食用のための植物として、レタス、小松菜、ホウレンソウ、キュウリ、トマト、ピーマン、サンチュ、水菜、春菊等の野菜類;ルッコラ、バジル等のハーブ類、イチゴ、ミカン、マンゴー、ブドウ、ナシ等の果物類;コメ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、トウモロコシ、モロコシ、アワ、ヒエ、キビ等の穀類が例示される。観賞用の植物として、バラ、カーネーション、洋ラン、ガーベラ、トルコキキョウ等の花卉類、ポトス、セローム、アジアンタム等の観葉植物等が例示される。
光源制御手段は、例えばRAMやハードディスク装置などの記憶装置、タイマー、光源のオンオフや光源の切り替えを行うスイッチ装置、キーボードやタッチセンサーなどの入力装置、これらを制御するためのコンピュータ装置などが適宜組み合わせて構成される。上記栽培光制御方法に従った明暗サイクル(明期の長さや暗期の長さ)、第1の栽培期間、明暗周期調整期間の長さ、当該期間における明暗サイクル(明期の長さや暗期の長さ)、栽培中の管理温度や管理湿度などの栽培に必要な情報(栽培情報)は入力装置から入力され、記憶装置に記憶される。光源制御手段は、入力された明暗サイクルに従って、光源のオンオフないし光量調整を行い、必要により光源を切り替える。明暗周期調整期間が設定された場合には、光源制御手段は第1の栽培期間が終了するまでは、上記栽培光制御方法に従った明暗サイクルで光源を点灯制御し、明暗周期調整期間においては、予め定められた明暗サイクルによって収穫可能な時期まで光源を点灯制御する。
本発明の植物栽培装置には、さらに植物の体内時刻を表示する時計手段が備えられる場合がある。時計手段は、設定された明暗サイクルの周期(T)を24時間表示に換算する換算手段と、換算手段が換算した時刻を表示するディスプレイなどから構成される表示手段を備える。換算手段は、例えばコンピュータ装置から構成され、設定された明暗サイクルの周期を24時間表示に換算する。例えば、明暗サイクルの周期が22時間(明期11時間、暗期11時間)に設定された場合、植物は22時間を1日として主観的に体内時計を進める。換算手段は、当該体内時計をヒトの生活リズム(24時間社会システム)に一致させるために、22時間を24時間として、植物の体内時計における時刻を24時間表示の時刻に換算する。すなわち、換算手段は、光源がオンされた時刻を植物の主観的な夜明け時刻である午前6時とし、光源がオフされる11時間後の時刻が午後6時となるように計算し、植物の体内時計における時刻を、ディスプレイなどから構成される表示手段に表示する。また、2時間のダークパルスと残余時間の明期からなる明暗サイクルの場合であれば、換算手段はダークパルス(Δt=2hrs)を与えた中心時刻を例えば光合成活性が低い時刻である午前4時として、暗期の開始時刻を午前3時、暗期の終了時刻を午後5時となるように計算し、当該時刻を表示手段に表示する。ライトパルスを与える場合も同様である。作業者は、表示手段に表示された時刻を見ることで、ヒトの生活リズムと同様なリズムで植物の生活リズムを感じ取り、植物の体内時計に従って各種の作業、例えば施肥や収穫作業を行う。
図6は、本発明の一実施例である植物栽培装置の模式図である。この植物栽培装置は、植物を収容する栽培空間13を有する筐体11と、筐体11の上部に備えられ、栽培空間13に収容された植物の生育に必要な光を照射する光源12と、光源12の点灯を行う光源制御装置21と光源制御装置21を制御するコンピュータ20と、明暗サイクルを設定するための入力手段であるキーボード30と、キーボード30から設定された明暗サイクルを記憶する記憶手段であるメモリ装置22と、栽培空間13内の温度や湿度を表示する表示手段であるディスプレイ40を備える。
筐体11は植物を栽培するための水耕装置14と、栽培空間13内の温湿度を制御する温湿度制御装置15を有する。水耕装置14は、図示はしないが、植物を保持する保持装置と植物の育成に必要な養分を含む栽培用水を貯留する水槽と、水槽に栽培用水を供給する補給装置と、水温や養分濃度を管理する管理装置を有する。
キーボード30から入力された植物の栽培に必要な栽培情報は、メモリ装置22に記憶される。光源制御手段を構成するコンピュータ20は、メモリ装置22に記憶された明暗サイクルに従って、光源12のオンオフ制御を行う。光源12は例えば赤色光を照射するLEDからなり、光源12はオンにされると赤色光を照射し、光源12はオフにされると照射を停止するか、光量を減らす。
栽培が開始されると、コンピュータ20は光源12をオンにして光を照射する。コンピュータ20はタイマー(図示せず)を備え、時間を計測している。コンピュータ20は設定された明期の時間を計測すると光源12をオフにする。その後、設定された暗期の時間を計測すると光源12を再びオンにして光を照射する。コンピュータ20は光源12のオンオフを繰り返して、設定された明暗サイクルに従って光を照射する。また、コンピュータ20は栽培空間13内の温度・湿度をコントロールする。
図7は、本発明の別な実施例である植物栽培装置の模式図である。この植物栽培装置は、植物の体内時計を表示させる時計手段を備えた装置である。ディスプレイ40は、植物の体内時計41を表示する。コンピュータ20は、明暗サイクルの周期を24時間周期に換算する換算手段を兼ね備え、明期が始まった時刻を午前6時としてディスプレイ40上に表示する。
なお、上記実施例は本発明の具体的態様を例示するものであり、本発明は上記実施例に限定されることがないのは言うまでもない。
〈実験例1〉
(概日リズムの光質依存性)
ルシフェラーゼ遺伝子を導入したレタス(CCA1::LUC)レタスの概日リズムを測定し、概日リズムに対する光質の依存性を調べた。Fukudaらの方法(Hirokazu Fukuda, Yu Uchida, Norihito Nakamichi,"Effect of a Dark Pulse Under Continuous Red Light on the Arabidopsis thaliana Circadian Rhythm", Environment Control in Biology 46 (2), 123-128, (2008))に従ってルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだCisco種、Cos種、Green Wave種の3種のレタスを用いた。
播種後、植物育成装置(YIL−70D:ヤシロ科学社製)を用いて、各種光質の照射光下で、上記レタスを96時間栽培した。蛍光灯、赤色LED、青色LEDの光源を用い、各光源からの照射光を100%とした照射光及び赤色LEDからの照射光と青色LEDからの照射光を50%ずつにした照射光(それぞれPPFD=100μmol/m/s)を連続照射した。その結果を図8に示す。
この結果、Green Wave種では、いずれの照射光においてもフリーラン周期はほぼ24時間であったのに対し、Cos種やCisco種では赤色の照射光を照射した場合に、フリーラン周期が短くなる傾向にあった。
〈実験例2〉
次に、明暗サイクルが異なる照射光を照射してレタスを栽培し、明暗サイクルの相違が植物の生育に与える影響を調べた。
(概日リズムの測定)
ルシフェラーゼ遺伝子を導入したレタス(CCA1::LUC)を栽培し、レタスの概日リズムを測定した。Cos種とGreen Wave種のレタスに、上記Fukudaらの方法に従ってルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだ。
播種後、植物育成装置(YIL−70D:ヤシロ科学社製)を用いて、白色蛍光灯を光源として明期12時間(PPFD=100μmol/m/s、10時点灯)、暗期12時間(PPFD=0μmol/m/s、22時消灯)の明暗周期、温度22℃の環境下(湿度及びCO濃度はコントロールせず)で、13日間栽培した。栽培にはMS培地が使用された。なお、栽培開始後13日目に、発光のためのルシフェリンが培地に添加された。
播種後14日目から概日リズムの測定を開始した。生育試験装置(MIR-553:三洋電機株式会社製)に前記レタスを移植し、赤色LED(波長660nm)を光源として24時間の連続点灯(PPFD=100μmol/m/s)、温度22℃の環境下(湿度及びCO濃度はコントロールせず)で、6日間栽培し、概日リズムの測定を終了した。栽培にはMS培地が使用された。
播種後20日目に簡易水耕栽培装置に移植し、赤色LEDを光源として、種々の明暗周期の条件下(いずれもPPFD=100μmol/m/s)で、温度22℃の環境下(湿度及びCO濃度はコントロールせず)で、7日間栽培し、レタスの成長を観察した。培地には、大塚ハウス社製養液A処方が使用された。また、明暗周期は、(1)明期9時間、暗期9時間の明暗周期(T18)、(2)明期11時間、暗期11時間の明暗周期(T22)、(3)明期12時間、暗期12時間の明暗周期(T24)、(4)明期14時間、暗期14時間の明暗周期(T28)の4条件とした。その結果を図9〜図12に示す。図には成長率r(1日当たりの重量増加率)、栽培効率q(明期時間当たりの重量増加率)、地上部重量(mg)、根の割合(%)、乾重量(mg)、含水率(%)、クロロフィル量(μgChl/生重量mg)が示されている。
上記(1)〜(4)の照射条件で遺伝子改変レタスを栽培したところ、蛍光灯による連続照射光に比べて、22時間の明暗周期の照射光(赤色光)の方が、いずれの項目においても良好な結果が得られた。一方、連続照射光(赤色光)におけるフリーラン周期は23.7時間である。このように、当該フリーラン周期よりも2時間程度短い明暗サイクルの周期で栽培することにより、良好な栽培結果が得られると言える。
本発明の栽培光制御方法は植物固有の概日リズムを基礎としたアルゴリズムに基づいて栽培光の制御を行う方法である。本発明の栽培光制御方法によると、暗期又は明期は光合成の活性を考慮した時期に設定されているので、栽培光の消灯による節電効果が望めるだけでなく、植物の概日リズムを崩すことなく植物の栽培が可能になる。この結果、照明コスト、空調の維持費用、植物の成育度などが考慮されたコストパフォーマンスの高い栽培が可能となる。
11 筐体
12 光源
13 栽培空間
20 光源制御手段を構成するコンピュータ
40 ディスプレイ

Claims (10)

  1. 人工的に制御された明暗サイクル下で栽培光を照射して植物を栽培するための栽培光制御方法であって、
    前記明暗サイクルは、栽培光が照射される明期と、当該明期における光量よりも少ない光量が照射されるか又は光量のない暗期を有し、
    前記明期の長さが次の(A)(B)(C)(D)の工程によって定められた栽培光制御方法。
    (A)連続照明条件下におけるフリーラン周期(τ)と、単回の暗期を設けた連続照射条件下におけるフリーラン周期とから位相応答曲線を求める工程
    (B)光合成活性が低い時間帯に相当する位相と位相応答曲線との交点から、位相シフト(ΔT)を求める工程
    (C)前記連続照明条件下におけるフリーラン周期(τ)と前記求められた位相シフト(ΔT)から前記明暗サイクル長を求める工程、
    (D)前記求められた明暗サイクル長から前記単回の暗期の長さを差し引き、前記明期の長さを求める工程
  2. 前記暗期の長さが4時間以内である請求項1に記載の栽培光制御方法。
  3. 人工的に制御された明暗サイクル下で栽培光を照射して植物を栽培するための栽培光制御方法であって、
    前記明暗サイクルは、栽培光が照射される明期と、当該明期における光量よりも少ない光量が照射されるか又は光量のない暗期を有し、
    前記暗期の長さが次の(A)(B)(C)(D)の工程によって定められた栽培光制御方法。
    (A)連続照明条件下におけるフリーラン周期(τ)と、単回の明期を設けた連続照射条件下におけるフリーラン周期とから位相応答曲線を求める工程
    (B)光合成活性が高い時間帯に相当する位相と位相応答曲線との交点から、位相シフト(ΔT)を求める工程
    (C)前記連続照明条件下におけるフリーラン周期(τ)と前記求められた位相シフト(ΔT)から前記明暗サイクル長を求める工程、
    (D)前記求められた明暗サイクル長から前記単回の明期の長さを差し引き、前記暗期の長さを求める工程
  4. 前記明期の長さが4時間以内である請求項3に記載の栽培光制御方法。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の栽培光制御方法により制御された栽培光下で栽培する第1の栽培期間と、
    第1の栽培期間における明暗サイクルの周期と24時間の間の周期を有する明暗サイクルの栽培光下で栽培する明暗周期調整期間を有する植物栽培方法。
  6. 前記明暗周期調整期間は、明暗周期を漸次短縮若しくは漸次延長した2以上の明暗周期で栽培する栽培期間を有する請求項5に記載の植物栽培方法。
  7. 人工的に制御された栽培光を照射して植物を栽培するための明暗サイクルの決定方法であって、
    前記明暗サイクルは、栽培光が照射される明期と、当該明期における光量よりも少ない光量が照射されるか又は光量のない暗期を有し、
    (A)連続照明条件下におけるフリーラン周期(τ)と、単回の暗期を設けた連続照射条件下におけるフリーラン周期とから位相応答曲線を求める工程と、
    (B)光合成活性が低い時間帯に相当する位相と位相応答曲線との交点から、前記明暗サイクルの長さを求めるための位相シフト(ΔT)を求める工程と、
    を含む方法。
  8. 前記位相シフト(ΔT)から求められた前記明暗サイクルの長さと、前記単回の暗期の長さとから前記明期の長さを求める工程を含む請求項7に記載の方法。
  9. 人工的に制御された栽培光を照射して植物を栽培するための明暗サイクルの決定方法であって、
    前記明暗サイクルは、栽培光が照射される明期と、当該明期における光量よりも少ない光量が照射されるか又は光量のない暗期を有し、
    (A)連続照明条件下におけるフリーラン周期(τ)と、単回の明期を設けた連続照射条件下におけるフリーラン周期とから位相応答曲線を求める工程と、
    (B)光合成活性が低い時間帯に相当する位相と位相応答曲線との交点から、前記明暗サイクルの長さを求めるための位相シフト(ΔT)を求める工程と、
    を含む方法。
  10. 前記位相シフト(ΔT)から求められた前記明暗サイクルの長さと、前記単回の明期の長さとから前記暗記の長さを求める工程を含む請求項9に記載の方法。
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