JP6012190B2 - 柔軟性に優れる長繊維不織布 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリオレフィン系長繊維不織布に関し、柔軟性および肌触りが良好な、使い捨てオムツ等の衛生材料に用いられる吸収性物品に適した長繊維不織布に関する。
近年、使い捨てオムツに対する要求性能が高まっており、特に、肌と触れるトップシート、触り心地の良さが要求されるバックシートおよび皮膚に刺激を与えやすいギャザー部などに、よりソフトなシートが要求されるようになってきた。
衛生材料用シートの柔らかさは、特にシートの曲げ柔らかさに代表される「剛軟度が小さいこと」とすべすべ感に代表される「摩擦係数が小さいこと」で表現される。これら2つの柔らかさの要素を両立させることにより、オムツとしての風合いを柔らかく感じることができる。
長繊維不織布においても、主としてポリプロピレン系樹脂を用いた不織布を柔軟化する検討が行われてきた。不織布を柔軟化する方法としては、後加工による方法や熱エンボスロールでの圧着を弱める方法があるが、前者の方法では生産性や経済性に劣り、後者の方法では柔軟性は得られるが耐毛羽性の低下や強度の低下が起こる。また柔軟性を得るために目付を小さくすることも考えられるが、強度が低下し、オムツ等の製品設計が限定されるおそれがある。
長繊維不織布シートの平均単糸繊度を小さくして柔軟性を得ることも試みられてきた。平均単糸繊度を小さくすることは曲げ柔らかさを向上させるには有効であるが、商業性を保ち、平均単糸繊度を細くしていくには限界がある。
下記特許文献1には、脂肪酸エステル類の滑剤をポリオレフィン樹脂に含有させるスパンボンドを製造する方法が開示されている。この場合、柔軟性のうちすべすべ感に代表される「摩擦係数が小さいこと」は改善するものの、シートの曲げ柔らかさは改善しない。
また、下記特許文献2には、MFRの高いプロピレン系樹脂を用いた繊度が1.5デニール以下の極細繊維からなるスパンボンドを製造する方法が開示されている。しかし、繊度を小さくすることは曲げ柔らかさを向上させるには有効であるが、表面の触感は大きく変化せず、また繊度を細くしていくには生産上限界がある。
特許第4642063号公報 国際公開第WO2007/091444号パンフレット
本発明の目的は、上記の課題を解決して、衛生材料に用いられる吸収性物品の肌と触れるトップシート、触り心地の良さが要求されるバックシートおよび皮膚に刺激を与えやすいギャザー部用等に適した、柔らかさに優れた長繊維不織布を提供することである。
本発明者らは、上記目的課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリオレフィン系長繊維不織布において、繊維径を特定範囲とし、繊維の吸着力を特定範囲とし、更に不織布の摩擦係数を特定範囲とすることで、繊維自体の曲げ柔らかさと滑り性を両立させ、不織布としての柔らかさが非常に良好となることを見出し、本発明を成すにいたった。即ち、本発明は下記のとおりである。
(1)ポリオレフィン系繊維からなる長繊維不織布の製造方法であって、以下の工程:
融点が70℃以上であるエステル化合物を繊維重量に対し0.3重量%以上5.0重量%以下で含有し、かつ、MFRが5g/10分以上60g/10分以下で融点が120℃以下である低融点ポリオレフィン系樹脂を繊維重量に対し5重量%以上30重量%以下で含有するMFRが5g/10分以上100g/10分以下であるポリオレフィン系樹脂を200以上1250以下ドラフト比で、溶融紡糸する工程、
を含み、該ポリオレフィン系繊維の平均単糸繊度が0.5dtex以上3.0dtex以下であり、かつ、吸着力が30nN以上であり、該長繊維不織布のタテ方向とヨコ方向の5%伸長時応力の平均値が7N/3cm以下であり、そして該長繊維不織布の摩擦係数が0.50以下であることを特徴とする前記方法
(2)前記エステル化合物が3〜6価のポリオールとモノカルボン酸とのエステル化合物である、前記(1)に記載の方法
(3)前記モノカルボン酸が炭素数8以上である、前記(2)に記載の方法
(4)前記モノカルボン酸が脂肪族モノカルボン酸である、前記(2)又は(3)に記載の方法
(5)前記低融点ポリオレフィン系樹脂が繊維を構成する樹脂と同じ種類のポリオレフィン系樹脂である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法
(6)前記ポリオレフィン系繊維がポリプロピレン系繊維である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法
(7)前記長繊維不織布の目付が10g/m2以上40g/m2以下である、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法
(8)前記長繊維不織布のタテ方向とヨコ方向の強度の平均値が13N/3cm以上である、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法
(9)前記長繊維不織布に親水化剤付着させる工程をさらに含む、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法
(10)前記長繊維不織布に凹凸の賦型加工を施す工程をさらに含む、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法
本発明の長繊維不織布(以下、単に不織布ともいう)はポリオレフィン系長繊維不織布であり、平均単糸繊度を0.5dtex以上3.0dtex以下の範囲と細くし、ポリオレフィン系繊維の吸着力を20nN以上することで繊維自体が曲げ柔軟性を有し、更に長繊維不織布の摩擦係数を0.50以下とすることで不織布表面のすべすべ感を発現することができる。ポリオレフィン系繊維の吸着力を20nN以上とするために、例えば、120℃以下の融点を有し、80g/10分以下のMFRを有する低融点ポリオレフィン系樹脂を5重量%以上30重量%以下含有させ、ポリオレフィン系繊維と均一に混在させることで本発明の曲げ柔軟性を得ることができる。
更に長繊維不織布の摩擦係数を0.50以下とするためには、例えば70℃以上の融点を有するエステル化合物を0.3重量%以上5.0重量%以下で含有させることで不織布表面のすべすべ感を発現することができる。
これら吸着力と摩擦係数を制御することで、不織布として曲げ柔軟性とすべすべ感を両立した柔軟性の非常に良好な不織布を得ることが可能となる。エステル化合物の融点は、より好ましくは80℃以上150℃以下である。
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の長繊維不織布を構成するポリオレフィン系繊維としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらのモノマーと他のα−オレフィンとの共重合体などの樹脂から成る繊維があげられる。ポリプロピレンは、一般的なチーグラナッタ触媒により合成されるポリマーでも良いし、またメタロセンに代表されるシングルサイト活性触媒により合成されたポリマーであっても良い。他のα−オレフィンとしては、炭素数3〜10のものであり、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキサン、4−メチル−1−ペンテンおよび1−オクテンなどが挙げられる。これらは1種類単独でも2種類以上を組み合わせても良い。また、ポリオレフィン系樹脂を表面層とする芯鞘繊維などが挙げられる。強度が強く使用時において破断しにくく、且つ衛生材料の生産時における寸法安定性に優れることから、ポリプロピレンまたはポリプロピレン共重合体からなるポリプロピレン系繊維を用いることが好ましい。また、その繊維形状も通常の円形繊維のみでなく、捲縮繊維および異形繊維などの特殊形態の繊維も含まれる。
また、本発明のポリオレフィン系繊維のMFRは、5g/10分以上100g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは10g/10分以上85g/10分以下、さらに好ましくは15g/10分以上70g/10分以下、特に好ましくは20g/10分以上65g/10分未満である。MFRがこの範囲にあると樹脂の流動性が良く、繊維の吸着力が大きく、摩擦係数の小さな柔らかい不織布を得ることができる。MFRは、JIS−K7210「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」の表1、試験温度230℃、試験荷重2.16kgに準じて測定を行って求めた。
長繊維を接合して不織布となす場合の接合手段としては、部分熱圧着(ポイントボンディング)法、熱風法、溶融成分での接合(ホットメルト剤)法、その他各種の方法が挙げられるが、部分熱圧着されたものが好ましい。
本発明の長繊維不織布の部分熱圧着における熱圧着面積率は、強度保持および柔軟性の点から、3%以上40%以下が好ましく、さらに好ましくは4%以上25%以下、特に好ましくは4%以上20%以下であり、最も好ましくは5%以上15%以下である。
本発明において、ポリオレフィン系長繊維不織布の柔らかさの効果は、部分熱圧着面積率が少ないほど、その柔軟化効果が発揮されやすい。
本発明において、部分熱圧着は超音波法又は加熱エンボスロール間にウェブを通すことにより行うことができ、これにより、表裏一体化され、例えば、ピンポイント形状、楕円形状、ダイヤ形状、矩形形状、斜め絣形状などの浮沈模様が不織布全面に散点する。生産性の観点から、加熱エンボスロールを用いることが好ましい。
また、本発明の長繊維不織布を構成する繊維の平均単糸繊度は0.5dtex以上3.0dtex以下が好ましく、さらに好ましくは0.7dtex以上2.0dtex以下、特に好ましくは0.7dtex以上1.4dtex以下である。紡糸安定性の観点から0.5dtex以上であることが好ましく、衛生材料に使用される不織布の強力の観点から3.0dtex以下であることが重要である。更に不織布の曲げ柔軟度は、本発明において重要な因子であり、不織布を構成する繊維の平均単糸繊度が細いほど柔軟化する傾向である。
本発明のポリオレフィン系繊維のドラフト比は100以上1250以下であることが好ましく、さらに好ましくは200以上1000以下、特に好ましくは250以上800以下である。ドラフト比が100以上であれば衛生材料に使用する強度を得ることができ、1250以下であれば糸切れなどが発生せず、安定に紡糸し、生産することができる。
本発明の長繊維不織布の目付は10g/m2以上40g/m2以下が好ましく、さらに好ましくは10g/m2以上30g/m2以下、特に好ましくは10g/m2以上25g/m2以下である。10g/m2以上であれば衛生材料に使用される不織布としては強力を満足し、40g/m2以下であれば本願の目的である衛生材料に使用される不織布の柔軟性を満足し、外観的に厚ぼったい印象を与えない。
本発明の長繊維不織布は良好な柔軟性を得るために凹凸の賦型加工をすることができる。賦型加工の形状としては直線、曲線、角、丸、梨地状、その他の連続的あるいは非連続のものが考えられるが、柔軟性効果の点から、凹あるいは凸部の深さは0.1mm以上5.0mm以下が好ましく、さらに好ましくは0.2mm以上3.0mm以下であり、凹凸の深いものほど効果が大である。また、タテ方向(MD方向、本発明ではMD方向をタテ方向と言う)とヨコ方向(CD方向、本発明ではCD方向をヨコ方向と言う)のいずれの方向での曲げ柔軟性を向上させるためには亀甲柄であることが好ましい。
凹凸の押付部の面積率は、良好な柔軟性および繊維触感を得る上で、5%以上40%以下が好ましく、さらに好ましくは5%以上25%以下である。
本発明に使用されるエステル化合物は、3〜6価のポリオールとモノカルボン酸とのエステル化合物が好ましく用いられる。
3〜6価のポリオールとしては例えばグリセリン、トリメチロールプロパン等の3価のポリオール、ペンタエリスリトール、グルコース、ソルビタン、ジグリセリン、エチレングリコールジグリセリルエーテル等の4価のポリオール、トリグリセリン、トリメチロールプロパンジグリセリルエーテル等の5価のポリオール、ソルビトール、テトラグリセリン、ジペンタエリスリトール等の6価のポリオール等が挙げられる。
モノカルボン酸としては例えばオクタン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタデセン酸、ドコセン酸、イソオクタデカン酸等のモノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、メチルベンゼンカルボン酸等の芳香族モノカルボン酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシオクタデセン酸等のヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸、アルキルチオプロピオン酸等の含イオウ脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
炭素数8以上からなるモノカルボン酸を使用することが好ましく、また脂肪族モノカルボン酸を使用することも好ましい。特に、炭素数8以上からなる脂肪族モノカルボン酸を使用すると本発明の長繊維不織布を構成するポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好であり、ポリオレフィン系樹脂の非晶領域へある程度留まることができ、紡糸時にブリードアウトを抑制し、繊維自体を柔軟化することができる。
本発明で使用されるエステル化合物は特に単一成分である必要は無く、2種以上の混合物でもよい。天然物由来の油脂類を使用してもよい。ただし、不飽和脂肪酸を含むエステル化合物は酸化されやすく紡糸時に酸化劣化しやすいため、飽和の脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸が好ましい。天然物由来の油脂類を使用する場合は原料油に比べて、無臭で安定なため、水素添加したエステル化合物が好ましく用いられる。
本発明に使用されるエステル化合物はモノカルボン酸の分子量が比較的大きく、親油性が高いことが重要である。親油性が高いことにより、ポリオレフィン系繊維の非晶部に入り込み結晶化を阻害して非晶領域が増加するため、曲げ柔軟度が小さくなる効果を得ることができる。
この効果を得るためには、エステル化合物の融点は70℃以上であることが好ましい。更に好ましくは、80℃以上150℃以下である。エステル化合物の融点がブロードで、範囲を有する場合は、平均の融点を意味する。また、本発明で用いられるエステル化合物は効果を阻害しない範囲で他の組成物、たとえば融点が70℃未満のエステル化合物やその他の有機化合物が混合されていても良い。
本発明に使用されるエステル化合物の含有率はポリオレフィン系繊維に対し、0.3重量%以上5.0重量%以下が好ましい。本発明に使用されるエステル化合物は比較的少量の添加でも曲げ柔軟度や滑りやすさが著しく向上し、含有量を増やしても含有量に見合った性能向上は見られない。このことから、紡糸性および発煙性を加味し、5.0重量%以下が適切であり、さらに好ましくは0.5重量%以上3.5重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以上2.0重量%以下である。
本発明に使用される低融点ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系繊維の結晶性を抑制するために融点が120℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは50℃以上110℃以下、特に好ましくは60℃以上105℃以下であり、融点がこの範囲であればランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体であっても良い。また相溶性の観点からポリオレフィン系繊維と同素材が主成分であることが好ましい。例えば、ポリオレフィン系繊維がポリプロピレンの場合、低融点ポリオレフィン系樹脂はポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。更に、低融点ポリオレフィン系樹脂はプラストマーであってものエラストマーであっても特に制限されるものではない。
本発明に使用される低融点ポリオレフィン系樹脂のMFRは5g/10分以上80g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは5g/10分以上70g/10分以下、更に好ましくは10g/10分以上60g/10分以下、特に好ましくは10g/10分以上40g/10分以下である。MFRがこの範囲内にあると糸切れなどが非常に少なく紡糸性が優れる。
本発明に使用される低融点ポリオレフィン系樹脂の含有率は5重量%以上30重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10重量%以上20重量%以下である。低融点ポリオレフィン系樹脂の含有率がこの範囲にあると、繊維の吸着力と滑りやすさが著しく向上し柔らかい不織布を得ることができる。
本発明で用いられるエステル化合物および低融点ポリオレフィン系樹脂の付与方法は、ポリオレフィン系繊維に均一に混在させやすいポリマーブレンド法であることが好ましい。
また、本発明において、エステル化合物と低融点ポリオレフィン系樹脂は長繊維不織布の圧着温度を下げる効果もあり、熱圧着に伴うフィルム化により生じる不織布の硬化現象も緩和することができる。
本発明の不織布には、親水化剤を付与してもよい。かかる親水化剤としては、人体への安全性、工程での安全性等を考慮して、高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルフェノール等にエチレンオキサイドを付加した非イオン系活性剤、アルキルフォスフェート塩、アルキル硫酸塩等のアニオン系活性剤等が単独で又は混合物として好ましく用いられる。
親水化剤の付着量は、要求される性能によって異なるが、通常は、繊維に対して0.1重量%以上1.0重量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.15重量%以上0.8重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以上0.6重量%以下である。付着量がこの範囲にあると、衛生材料のトップシートとしての親水性能を満足し、加工性も良好となる。
親水化剤を付与する方法としては、通常、希釈した親水化剤を用いて、浸漬法、噴霧法、コーティング(キスコーター、グラビアコーター)法等の既存の方法を採用することができ、必要により予め混合した親水化剤を、水等の溶媒で希釈して塗布することが好ましい。
親水化剤を水等の溶媒で希釈して塗布すると、乾燥工程を必要とする場合がある。その際の乾燥方法としては、対流伝熱、伝導伝熱、放射伝熱等を利用した既知の方法を採用することができ、熱風や赤外線による乾燥や熱接触による乾燥方法等を用いることができる。
更に、本発明の不織布を構成するポリオレフィン系繊維には、核剤、難燃剤、無機充填剤、顔料、着色剤、耐熱安定剤、帯電防止剤などを配合してもよい。
本発明の長繊維不織布の吸着力は20nN以上であることが好ましく、より好ましくは25nN以上60nN以下、更に好ましくは25nN以上50nN以下、特に好ましくは30nN以上45nN以下である。吸着力がこの範囲であれば、熱圧着性が良く、かつ、吸収性物品として風合いが良く柔軟性が良好となる。吸着力の測定方法については後述する。
本発明の長繊維不織布の摩擦係数は0.50以下であることが好ましく、0.50以下であれば、吸収性物品としてすべすべ感を得ることができ、触り心地の良い風合いを得ることができる。摩擦係数も小さければ小さいほどすべすべ感を得ることができるが、滑り性が良すぎても衛生材料加工工程にてスリップなどが発生し、シワや破断といった問題が生じるため、例えば0.20以上であることが好ましい。摩擦係数の測定方法についても後述する。
本発明の長繊維不織布の強度は、タテ方向とヨコ方向の平均値が13N/3cm以上であることが好ましく、より好ましくは13.5N/3cm以上21N/3cm以下、更に好ましくは14N/3cm以上20N/3cm以下である。強度がこの範囲にあると衛生材料として使用する上で破断することなく、好適に使用することができる。
本発明の長繊維不織布の5%伸長時応力は、タテ方向とヨコ方向の平均値が7N/3cm以下であることが好ましく、より好ましくは3N/3cm以上6.5N/3cm以下であり、更に好ましくは4N/3cm以上6.5N/3cm以下である。7N/3cm以下であれば、吸収性物品として風合いが良く柔軟性の効果を得ることができる。
本発明において吸収性物品とは、漏れた尿や飛散した液体等を吸収させる衛生材料である。本発明の長繊維不織布は、触り心地の良い風合いを有しているので、人体に装着される吸収性物品に好ましく用いられ、これらの例としては使い捨てオムツ、生理用ナプキンおよび失禁パット等が挙げられる。
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性の評価方法は下記のとおりである。
1.平均単糸繊度(dtex)
生産された不織布の両端10cmを除き、幅方向にほぼ5等分して1cm角の試験片をサンプリングし、顕微鏡で繊維の直径を各20点ずつ測定し、その平均値から繊度を算出した。
2.目付(g/m2
JIS−L1906に準じ、タテ20cm×ヨコ5cmの試験片を任意に5枚採取して質量を測定し、その平均値を単位面積あたりの重量に換算して求めた。
3.MFR(g/10分)
メルトインデクサー(東洋精機社製:MELT INDEXER S−101)溶融流量装置を用い、オリフィス径2.095mm、オリフィス長0.8mm、荷重2160g、測定温度230℃の条件で一定体積分を吐出するのに要する時間から10分間当たりの溶融ポリマー吐出量(g)を算出して求めた。
4.ドラフト比
下記式からドラフト比を算出した。
ドラフト比=紡速(m/分)/吐出速度(m/分)
吐出速度(m/分)=単孔吐出量(g/分)/{溶融密度(g/cm3)×[紡口径(cm)/2]2×π}
ポリプロピレンの溶融密度:0.76g/cm3を使用
ポリエチレンの溶融密度 :0.74g/cm3を使用
2成分の場合は成分比率により算出する。
5.強度及び5%伸長時応力(N/3cm)
JIS L−1906に準じ、不織布の布帛試料の両端10cmを除き、幅方向均等になる様に、幅3cm、長さ20cmの試料を5点切り取り、引張試験機で、つかみ間隔10cm、引張速度30cm/分で測定した。タテ・ヨコ方向各5点の試料を測定し、測定値を平均してタテ方向の破断強度とヨコ方向の破断強度を算出し、それらの値を平均して不織布の強度とした。5%伸長時応力もタテ・ヨコ方向の測定値を平均して算出した。
6.吸着力(nN)
走査プローブ顕微鏡(Bruker社製 Dimension Icon)にてフォースカーブ測定を行った。プローブは一般的なSi単結晶プローブ(RTESPA)を用い、測定モードはScanAsystモードとした。
不織布から任意に取り出した繊維試料をエポキシ接着剤に包埋し、クライオミクロトームでマイナス40℃に冷却した後、切削断面を得た。試料をミクロトームから取り出し約25℃となる室温で放置し、室温と同じ温度に戻った直後にAFM測定を実施した。
プローブが試料表面を走査し始めたら直ちにRampモードに入りForce Curveを測定した。Force Curve測定は繊維1本あたり5回測定し、それぞれ1μm以上離れた箇所で測定を行った。得られたForce Curveのベースラインと除荷曲線の最小フォースとの差が吸着力となる。測定は任意に取り出した繊維3本で行い、計15回の測定値を平均し、吸着力(nN)を算出した。
7.摩擦係数
JIS−K7125に準じた。タテ20cm×ヨコ8cmに切り取った試料を準備した。摩擦子に共布を摩擦方向がタテになるようにセットした、接触面積が40cm2(一辺の長さ63mm)の正方形で質量が200gのすべり片を試料に乗せ、速度100mm/分で引っ張ったときの動摩擦力を測定した。タテ方向を3回測定し、下記式から算出した平均値を摩擦係数とした。数値が小さい方が、摩擦抵抗が少ないことを意味する。
摩擦係数=動摩擦力(N)/滑り片の質量によって生じる法線力(1.96N)
〔実施例1〕
MFRが33g/10分のポリプロピレン樹脂に融点が86〜90℃(平均融点88℃)のオクタデカン酸のグリセリド(水添動植物油脂)を純分1.25重量%となる様に混合し、更に融点が104℃でMFRが18g/10分の低融点ポリプロピレン樹脂であるポリプロピレン系エラストマーを20重量%となるように混合し、スパンボンド法により、紡口径0.35mm、単孔吐出量0.56g/分、紡糸温度255℃で、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、長繊維ウェブを得た(紡糸速度5000m/分、平均単糸繊度1.1dtex)。
次いで、得られたウェブを、温度138℃、線圧35kgf/cmでフラットロールとエンボスロール(パターン仕様:直径0.425mm円形、千鳥配列、横ピッチ2.1mm、縦ピッチ1.1mm、圧着率6.3%)で繊維同士を熱接着し、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔実施例2〕
実施例1で得た長繊維不織布を、1辺0.9mm、線幅0.1mmの連続線状ハニカム形状柄(亀甲凹柄)(押付面積率:12.5%、柄ピッチ:縦2.8mm、横3.2mm、深さ:0.7mm)のエンボスロール(80℃)と表面硬度60度(JIA−A硬度)のゴムロールとの間に通し、線圧45kgf/cmで凹凸賦型加工した。亀甲周辺が押し付けられ高密度域を持ち、中央部が盛り上がった目付17g/m2の柔軟な長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔実施例3〕
低融点ポリプロピレン樹脂の含有率を10重量%としたことを除いて、実施例2と同様にして目付15g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔実施例4〕
紡口径を0.20mm、平均単糸繊度を2.0dtexとしたことを除いて、実施例1と同様にして目付25g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔実施例5〕
単孔吐出量を0.88g/分、紡口径を0.60mm、平均単糸繊度を1.8dtexとしたことを除いて、実施例1と同様にして目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔実施例6〕
低融点ポリプロピレン系樹脂として融点が84℃でMFRが25g/10分のポリプロピレン系エラストマーを用い、単孔吐出量を0.88g/分、紡糸速度を3000m/分、平均単糸繊度を2.9dtexとしたことを除いて実施例1と同様にして長繊維ウェブを得た。
次いで、得られたウェブを、実施例1と同様に熱接着し、目付18g/m2の長繊維不織布を得た。得られた不織布を、室温22℃の雰囲気下にて放電量40W・分/m2(放電度4.0W/cm2)の条件でコロナ放電処理機に通し、濡れ張力39mN/mの不織布を得た。得られた不織布にポリエーテル系の親水化剤を噴霧法により付与し、次いで120℃のシリンダーロールで熱風乾燥し、親水化剤付着量が0.3重量%となる長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔実施例7〕
エチレン成分含有率が4.3モル%、MFRが24g/10分(JIS−K7210に準じ、温度230℃、荷重2.16kgで測定)のエチレン・プロピレンランダム共重合体(rPP)を使用し、親水化剤付着量を0.5重量%としたことを除いて、実施例6と同様にして長繊維不織布を作製した。得られた長繊維不織布を実施例2と同様にして凹凸賦型加工し、目付20g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔実施例8〕
オクタデカン酸のグリセリドの含有率を3.5重量%とし、低融点ポリプロピレン系樹脂として融点が84℃でMFRが25g/10分の低融点ポリプロピレン樹脂であるポリプロピレン系エラストマーを20重量%となるように混合したことを除いて、実施例2と同様にして目付13g/m2となる長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔実施例9〕
芯鞘型の紡口を用い、MFRが17g/10分(JIS−K7210に準じ、温度190℃、荷重2.16kgで測定)の線状低密度ポリエチレンを鞘成分とし、低融点ポリプロピレン系エラストマーを10重量%、オクタデカン酸のグリセリドを3.5重量%となるように混合したMFRが60g/10分(JIS−K7210に準じ、温度230℃、荷重2.16kgで測定)のポリプレピレンを芯成分とし芯鞘比9:1となる繊維としたこと、熱圧着温度を132℃としたことを除いて、実施例8と同様にして平均単糸繊度1.1dtex、目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔比較例1〕
単孔吐出量を0.88g/分、平均単糸繊度を4.0dtex、紡速を2200m/分としたことを除いて実施例1と同様にして目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔比較例2〕
低融点ポリプロピレン樹脂を混合しなかったことを除いて実施例1と同様にして目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔比較例3〕
オクタデカン酸のグリセリドを混合しなかったことを除いて実施例1と同様にして目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔比較例4〕
低融点ポリプロピレン樹脂とオクタデカン酸のグリセリドを混合しなかったことを除いて実施例2と同様にして目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
〔比較例5〕
低融点ポリプロピレン系樹脂にエチレン成分含有率が4.3モル%、融点128℃、MFRが24g/10分(JIS−K7210に準じ、温度230℃、荷重2.16kgで測定)のエチレン・プロピレンランダム共重合体を使用したことを除いて実施例2と同様にして目付17g/m2の長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性を表1に示す。
Figure 0006012190
表1から以下のことがわかる。
本発明の長繊維不織布は、繊維径を特定範囲とし、繊維の吸着力を向上させることで繊維自体の柔軟性が向上し、更に繊維の摩擦係数を下げることで繊維表面のすべすべ感を発現させたものである。これら2つの特性を両立することで、得られた不織布は柔らかさと肌触り性に優れ、特に吸収性物品の肌に触れる部分に好適に用いることができる。
本発明は肌触りや風合いが良く、柔軟性に優れた長繊維不織布を提供するもので、本発明の長繊維不織布は衛生材料に用いられる吸収性物品のトップシート、バックシート、サイドギャザーなどに好適に使用することができる。

Claims (10)

  1. ポリオレフィン系繊維からなる長繊維不織布の製造方法であって、以下の工程:
    融点が70℃以上であるエステル化合物を繊維重量に対し0.3重量%以上5.0重量%以下で含有し、かつ、MFRが5g/10分以上60g/10分以下で融点が120℃以下である低融点ポリオレフィン系樹脂を繊維重量に対し5重量%以上30重量%以下で含有するMFRが5g/10分以上100g/10分以下であるポリオレフィン系樹脂を200以上1250以下ドラフト比で、溶融紡糸する工程、
    を含み、該ポリオレフィン系繊維の平均単糸繊度が0.5dtex以上3.0dtex以下であり、かつ、吸着力が30nN以上であり、該長繊維不織布のタテ方向とヨコ方向の5%伸長時応力の平均値が7N/3cm以下であり、そして該長繊維不織布の摩擦係数が0.50以下であることを特徴とする前記方法
  2. 前記エステル化合物が3〜6価のポリオールとモノカルボン酸とのエステル化合物である、請求項1に記載の方法
  3. 前記モノカルボン酸が炭素数8以上である、請求項2に記載の方法
  4. 前記モノカルボン酸が脂肪族モノカルボン酸である、請求項2又は3に記載の方法
  5. 前記低融点ポリオレフィン系樹脂が繊維を構成する樹脂と同じ種類のポリオレフィン系樹脂である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法
  6. 前記ポリオレフィン系繊維がポリプロピレン系繊維である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法
  7. 前記長繊維不織布の目付が10g/m2以上40g/m2以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法
  8. 前記長繊維不織布のタテ方向とヨコ方向の強度の平均値が13N/3cm以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法
  9. 前記長繊維不織布に親水化剤付着させる工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法
  10. 前記長繊維不織布に凹凸の賦型加工を施す工程をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法
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