JP6011302B2 - 積層コイル部品 - Google Patents

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Description

本発明は、積層コイル部品に関し、より詳細には、少なくともFe、NiおよびZnを含むフェライト材料から構成される磁性体部と、非磁性体部と、コイル状の導体部とを有する積層コイル部品に関する。
一般的に、導体パターンと磁性体層を交互に積層して構成した積層コイル部品は、重畳直流電流を徐々に大きくすると、ある電流値まではインダクタンス値が略一定もしくは穏やかに低下するが、その後は磁性体の磁気飽和が生じて急激にインダクタンス値が低下するという問題がある。この問題点を改善するために、コイルの中央付近に非磁性体層を挿入し、開磁路型の積層コイル部品とすることが知られている。
かかる状況下、特許文献1は、Ni−Zn−Cu系フェライトからなる複数の磁性体層と、該磁性体層を介して積層されることによりコイルを構成する複数の導体層と、前記複数の磁性体層に接するように形成されTi−Ni−Cu−Mn−Zr−Ag系誘電体からなる少なくとも一つの非磁性体層とを備える積層体チップが開示されており、その非磁性体層は、具体的には、TiOを主成分とし、NiO、CuO、Mn、ZrO、およびAgOもしくはAgを含有する誘電体が用いられている。このような構成とすることにより、良好な直流重畳特性を有するとともに温度特性のばらつきを生じることなく、かつ層間剥離の発生を抑制して、安定生産可能な積層インダクタ、積層チョークコイルを提供することができるとしている。
また、特許文献2は、複数の磁性体層を積層して形成される磁性体部を、非磁性体層により形成される非磁性体部の両主面上に配置することにより積層体が形成され、前記磁性体部および前記非磁性体部に形成されたコイル導体をらせん状に接続したコイルが形成され、前記非磁性体部に形成されたコイル導体の巻数が、前記非磁性体部に形成されたコイル導体以外の各層上のコイル導体の巻数よりも多いことを特徴とする積層コイルを開示しており、その磁性体層にはNi−Zn−Cu系フェライト材料が用いられ、非磁性体層にはZn−Cu系フェライト材料が用いられている。このような構成とすることにより、非磁性体部からの磁束の漏れ量を大きくすることができるので、コイル導体に大電流を流してもインダクタンス値が低下しない優れた直流重畳特性を持つ積層コイルを得ることができるとしている。
国際公開第2010/013843号 国際公開第2005/122192号
特許文献1では、磁性部分にスピネル構造を有するフェライト材料を用い、非磁性体部にスピネル構造を有さない誘電体を用いているため、焼結時に層間剥離および熱膨張係数の違いによりクラックが発生するといった懸念がある。
また、特許文献2では、非磁性体部と磁性体部に、同じスピネル構造を有する同系のフェライト材料を用いて開磁路型の積層コイル部品を作製しているので、焼成時における収縮挙動に大きな差がなく、クラックなどの欠陥が生じにくい。しかしながら、特許文献2の積層コイル部品は、非磁性体部がNiを含まないため、Niが磁性体部から非磁性体部へ拡散し易く、Niの拡散によって、積層型コイル部品のインダクタンス値の温度特性が劣化する(インダクタンス値の温度変化率が大きくなる)という問題点がある。
本発明の目的は、焼結時の層間剥離およびクラックの発生を抑制し、かつ、インダクタンス値の温度変化が抑制された積層コイル部品を提供することにある。
本発明者らは、上記問題を解消すべく鋭意検討した結果、積層コイル部品の非磁性体層にMnを含有せしめることにより、焼結時の層間剥離およびクラックの発生を抑制でき、かつ積層コイル部品のインダクタンス値の温度変化を抑制できることを見出し、本発明に至った。
本発明の要旨によれば、少なくともFe、NiおよびZnを含むフェライト材料から構成される磁性体部と、非磁性体部と、それらの内部に埋設されたコイル状の導体部とを有する積層コイル部品であって、
前記非磁性体部が、少なくともZnおよびMnを含み、かつ、スピネル構造を有する材料から構成されていることを特徴とする、積層コイル部品が提供される。
なお、本発明において、非磁性フェライト材料から構成される非磁性体部とは、使用温度で実質的に自発磁化を有さないフェライト材料から構成された部位を意味する。
本発明によれば、積層コイル部品において、非磁性体層にスピネル構造を有する材料を用い、かつMnを含有せしめることにより、焼結時の層間剥離およびクラックの発生が抑制され、かつ積層コイル部品のインダクタンス値の温度変化を抑制された積層コイル部品が提供される。
本発明の1つの実施形態における積層コイル部品の概略斜視図である。 図1の実施形態における積層コイル部品の概略分解斜視図であって、外部電極を省略した図である。 図1の実施形態における積層コイル部品の概略断面図である。 比較例(試料番号1)の直流重畳特性を示すグラフである。 実施例(試料番号5)の直流重畳特性を示すグラフである。
本発明の積層コイル部品およびその製造方法について、以下、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明の積層コイル部品の構成、形状、巻回数および配置等は、図示する例に限定されないことに留意されたい。
図1〜図3に示すように、本実施形態の積層コイル部品1は、概略的には、それぞれ、磁性体層2(および、外層である磁性体層3)と、非磁性体層4と、導体層5とを所定の順番で積層することにより形成された、磁性体部7と、非磁性体部8と、これらの内部に埋設されたコイル状の導体部9とを有する積層体20を含んで成る。積層体20の外周両端面を覆うように外部電極21および22が設けられ得、外部電極21および22は、それぞれ、コイル状の導体部5の両端に位置する引出し部6bおよび6aに接続され得る。
より詳細には、本実施形態においては、磁性体層2および非磁性体層4は、それらを貫通するビアホール10を有し、それぞれ積層されて磁性体部7および非磁性体部8を形成する。また、磁性体層2と非磁性体層4との各間に、それぞれ導体層5が配置され、これらの導体層5は上記ビアホール10を通ってコイル状に相互接続され、導体部9を形成する。磁性体部7は、上記導体部9により生じる磁路を切るように積層体20の略中央部に配置される。
磁性体層2は、少なくとも、Fe、Ni、ZnおよびCuを含む焼結フェライトから構成される。非磁性体層4は、Zn、CuおよびMn(場合により、さらにFe)を含むスピネル構造を有する材料から構成される。導体部5は、導電性であれば特に限定されないが、銀を主成分として含む導体、すなわち実質的に銀から成る導体、例えば銀の含有量が98.0〜99.5wt%である導体が好ましい。外部電極21および22は、特に限定されないが、通常、銀を主成分として含む導体から成り、必要に応じてニッケルおよび/またはスズなどがメッキされ得る。
上記した本実施形態の積層コイル部品1は、以下のようにして製造される。
まず、磁性体シートを準備する。磁性体シートは、例えば、Fe、Ni、ZnおよびCuを含むNi−Cu−Zn系フェライト材料から作製される。
Ni−Cu−Zn系フェライト材料は、Fe、Ni、ZnおよびCuを主成分として含み、必要に応じて添加成分を更に含んでいてもよい。通常、Ni−Cu−Zn系フェライト材料は、素原料として、Fe、NiO、ZnOおよびCuOの粉末を所望の割合で混合および仮焼して調製され得るが、これに限定されるものではない。
Ni−Cu−Zn系フェライト材料におけるFe含有量(Fe換算)は、44〜49.8mol%(主成分合計基準)とすることが好ましい。Fe含有量(Fe換算)を44mol%以上とすることによって、高い透磁率を得ることができ、大きなインダクタンスを取得できる。また、Fe含有量(Fe換算)を49.8mol%以下とすることによって、高い焼結性を得ることができる。
Ni−Cu−Zn系フェライト材料におけるZn含有量(ZnO換算)は、6〜33mol%(主成分合計基準)とすることが好ましい。Zn含有量(ZnO換算)を6mol%以上とすることによって、高い透磁率を得ることができ、大きなインダクタンスを取得できる。また、Zn含有量(ZnO換算)を33mol%以下とすることによって、キュリー点の低下を回避でき、積層コイル部品の動作温度の低下を回避できる。
本実施形態において、Ni−Cu−Zn系フェライト材料におけるCu含有量(CuO換算)は、0.1〜4.0mol%(主成分合計基準)とし得る。Cu含有量(CuO換算)を0.1〜4.0mol%とすることによって、飽和磁束密度を高めることができ、良好な直流重畳特性を得ることができる。また、酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気で焼成する場合の焼結性を向上させることができる。
Ni−Cu−Zn系フェライト材料におけるNi含有量(NiO換算)は、特に限定されず、上述した他の主成分であるCu、FeおよびZnの残部とし得る。
また、上記フェライト材料は、さらにMnを含んでいてもよい。上記フェライト材料にMnを含有させることにより、透磁率を向上させることができる。
上記フェライト材料における添加成分としては、例えばBi、Sn、Coなどが挙げられるが、これに限定されない。Bi含有量(添加量)は、主成分Fe(Fe換算)、Mn(Mn換算)、Zn(ZnO換算)、Ni(NiO換算)、Cu(CuO換算))の合計100重量部に対して、Biに換算して0.1〜1重量部とすることが好ましい。Bi(Bi換算)含有量を0.1〜1重量部とすることによって、低温焼成がより促進されると共に、異常粒成長を回避することができる。Bi(Bi換算)含有量が高すぎると、異常粒成長が起こり易く、異常粒成長部位にて比抵抗が低下し、外部電極形成時のめっき処理の際に、異常粒成長部位にめっきが付着するので好ましくない。また、Sn含有量(添加量)は主成分100重量部に対して、SnOに換算して0.3〜1.0重量部が好ましい。この範囲でSnを含有させることで、直流重畳特性を一層向上させることができる。また、Co含有量は、Coに換算して0.1〜0.8重量部が好ましい。この範囲でCoを含有させることで、高周波でのQを高めることができる。
上記のようにして調製したフェライト材料を用いて磁性体シートを準備する。例えば、フェライト材料を、バインダ樹脂および有機溶剤を含む有機ビヒクルと混合/混練し、シート状に成形することにより磁性体シートを得てよいが、これに限定されるものではない。
次に、非磁性体シートを準備する。非磁性体シートは、Zn、CuおよびMn、場合によりさらにFeを含むスピネル構造を有する材料(以下、「非磁性スピネル材料」ともいう)から作製される。なお、該非磁性スピネル材料は、実質的にスピネル層から成ることが好ましいが、多少のスピネル層以外の異相を含んでいてもよい。また、該非磁性スピネル材料には、NiOは含まれない。なお、本実施形態においてはCuを含めているが、本発明において必須ではないことに注意されたい。
非磁性スピネル材料は、Zn、CuおよびMn、場合によりさらにFeを主成分として含み、必要に応じて添加成分を更に含んでいてもよい。通常、非磁性スピネル材料は、素原料として、ZnO、CuOおよびMn、場合によりFeの粉末を所望の割合で混合および仮焼して調製され得るが、これに限定されるものではない。
非磁性スピネル材料におけるFe含有量(Fe換算)は、特に限定されないが、0〜49.8mol%(主成分合計基準)とすることが好ましい。
非磁性スピネル材料におけるMn含有量(Mn換算)は、49mol%以下(ゼロmol%を除く)(主成分合計基準)、好ましくは0.5〜49mol%、より好ましくは2.0〜30mol%とし得る。非磁性スピネル材料にMnを含有させることにより、非磁性体層のキュリー点を低下させることができ、積層コイル部品のインダクタンス値の温度変化を抑制することができる。さらに、Mn含有量(Mn換算)を0.5mol%以上とすることにより、非磁性体層のキュリー点を十分に低下させることができ、温度特性をより改善できるので好ましい。また、Mn含有量(Mn換算)を49mol%より多くすると、スピネル相以外の異相の割合が多くなり、クラック等の発生の懸念がある。
また、上記した磁性体シートのフェライト材料におけるFe含有量(Fe換算)とMn含有量(Mn換算)の和と、非磁性スピネル材料におけるFe含有量(Fe換算)とMn含有量(Mn換算)の和を同程度にすることが好ましい。フェライト材料と非磁性スピネル材料におけるFe含有量(Fe換算)とMn含有量(Mn換算)の和を同じにすることにより、磁性体シートと非磁性体シートの焼結挙動の差を小さくすることができ、クラック等の欠陥を抑制することができる。
非磁性スピネル材料におけるCu含有量(CuO換算)は、0.1〜4.0mol%(主成分合計基準)とし得る。Cu含有量(CuO換算)を0.1〜4.0mol%とすることによって、また、酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気で焼成する場合の焼結性を向上させることができる。
非磁性スピネル材料におけるZn含有量(ZnO換算)は、特に限定されず、上述した他の主成分であるFe、MnおよびCuの残部とし得る。
上記のようにして調製した非磁性スピネル材料を用いて非磁性体シートを準備する。例えば、非磁性スピネル材料を、バインダ樹脂および有機溶剤を含む有機ビヒクルと混合/混練し、シート状に成形することにより非磁性体シートを得てよいが、これに限定されるものではない。
別途、導体ペーストを準備する。市販で入手可能な、金属導体を粉末の形態で含む一般的な金属ペーストを使用できるが、これに限定されない。金属導体としては、限定するものではないが、好ましくは銀が用いられる。
そして、図2に示されるように、上記磁性体シート(磁性体層2に対応する)および非磁性体シート(非磁性体層4に対応する)を、金属導体を含む導体ペースト層(導体層5に対応する)を介して積層し、導体ペースト層が磁性体シートおよび非磁性体シートに貫通して設けられたビアホール(ビアホール10に対応する)を通ってコイル状に相互接続されている積層体(積層体20に対応するが、未焼成積層体である)を得る。
上記積層体(未焼成積層体)の形成方法は、特に限定されず、シート積層法および印刷積層法などを利用して積層体を形成してよい。シート積層法による場合、磁性体シートおよび非磁性体シートに、適宜ビアホールを設けて、導体ペーストを所定のパターンで(ビアホールが設けられている場合には、ビアホールに充填しつつ)印刷して導体ペースト層を形成し、導体ペースト層が適宜形成された磁性体シートおよび非磁性体シートを積層および圧着し、所定の寸法に切断して、積層体を得ることができる。印刷積層法による場合、フェライト材料からなる磁性体ペーストを印刷して磁性体層を形成する工程(または非磁性スピネル材料からなる非磁性体ペーストを印刷して非磁性体層を形成する工程)、導体ペーストを所定のパターンで印刷して導体層を形成する工程を適宜繰り返すことで積層体を作製する。磁性体層および非磁性体層を形成する時は所定の箇所にビアホールを設け、上下の導体層が導通するようにし、最後に磁性体ペーストを印刷して磁性体層3(外層に対応する)を形成し、これを所定の寸法に切断して、積層体を得ることができる。この積層体は、複数個をマトリクス状に一度に作製した後に、ダイシング等により個々に切断して(素子分離して)個片化したものであってよいが、予め個々に作製したものであってもよい。
次に、上記で得られた積層体(未焼成積層体)を熱処理することにより、磁性体シート、非磁性体シートおよび導体ペースト層を焼成して、それぞれ磁性体部7、非磁性体部8および導体部9とし、積層体20を形成する。焼成の条件(温度、酸素濃度等)は、磁性体シート、非磁性体シートおよび導体ペーストの組成に応じて変化し得、限定するものではないが、例えば、酸素濃度が0.001〜0.1体積%の雰囲気、850〜935℃とし得る。酸素濃度を0.1体積%以下とすることで、結晶構造中に酸素欠陥が形成され、各元素の相互拡散が促進され、焼結性を高めることができる。しかし、酸素濃度が0.001体積%未満になると、必要以上に酸素欠陥が形成され、磁性体、非磁性体の比抵抗を低下させるおそれがあり、0.001体積%以上が好ましい。
次に、上記で得られた積層体20の両端面を覆うように、外部電極21および22を形成する。外部電極21および22の形成は、例えば、銀の粉末をガラスなどと一緒にペースト状にしたものを所定の領域に塗布し、得られた構造体を、例えば約750℃で熱処理して銀を焼き付けることによって実施し得る。外部電極21および22は、それぞれ、導体部5の両端に位置する引出し部6bおよび6aに接続されている。
以上のようにして、本実施形態の積層コイル部品1が製造される。
上記積層コイル部品は、磁性体層および非磁性体層ともにスピネル構造を有するので、層間剥離および、熱膨張係数の差異による焼成時のクラックの発生が抑制される。
上記積層コイル部品における非磁性体層にはMnが含まれ、好ましくは、Mnに換算して、0.5〜49mol%、より好ましくは2〜30mol%含まれる。このような非磁性体層とすることにより、積層コイル部品のインダクタンス値の温度変化が抑制される。
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、積層コイル部品のインダクタンス値の温度変化が抑制される理由は以下のように考えられる。従来のフェライト系非磁性体層は、特許文献2のように、Ni−Cu−Zn系フェライト材料のNiをすべてZnに置換してCu−Zn系フェライト材料とすることでキュリー点を使用温度範囲以下にして非磁性材料として利用している。しかしながら、磁性体層(Ni−Cu−Zn系フェライト材料)と非磁性体層(Cu−Zn系フェライト材料)を積層し、共焼結すると、その境界面で相互拡散が起こり、磁性体層から非磁性体層へNiが拡散し、非磁性体層の一部がNi拡散層となる。その結果、Ni拡散層のキュリー点が上昇し、使用温度範囲で磁性を有し得る領域が発生する。詳細には、このNi拡散層のNi濃度は勾配を持っており、Ni拡散層において、磁性体層側がよりNi濃度が高く、非磁性体層の内部に向かうにつれNi濃度は低くなる。したがって、この濃度勾配に応じてキュリー点の上昇度も勾配を持つ。すなわち、Ni拡散層において、Ni濃度の高い磁性体層側がよりキュリー点が高く、Ni濃度が低い非磁性体層の内部に向かうにつれキュリー点は低くなる。この勾配のため、使用温度の変化によりNi拡散層の磁性を持つ領域(磁性体層からの距離)が変化し、インダクタンスが変動する。
そこで、非磁性体材料にMnを含有させる。これにより非磁性体材料のキュリー点が低下する。Mnを含む非磁性体材料はキュリー点が低いので、焼成時にNiが非磁性体層に拡散してキュリー点が上昇しても、使用温度範囲以上にまでキュリー点が上昇する領域は、従来のMn不含の場合よりも狭くなる。その結果、Ni拡散層による温度特性の悪化を抑制することができ、インダクタンス変化を抑制することができる。
非磁性体層におけるMn含有量(Mn換算)およびFe含有量(Fe)などの各成分の含有量は、次のようにして求める。すなわち、複数(例えば、10個以上)の積層コイル部品を、端面が立つように樹脂固めし、試料の長さ方向に沿って研磨し、長さ方向の約1/2の時点における研磨断面を得る。研磨断面を洗浄した後、非磁性体層の略中央部を、波長分散型X線分析法(WDX法)を用いて各成分を定量分析し、複数の試料の測定結果の平均を算出することにより求められる。測定面積は、使用する分析機器によって異なり得、例えば、測定ビーム径で数十nm〜1μmであるが、これに限定されない。
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本実施形態は種々の改変が可能である。
特に、上記実施形態では、非磁性体部は積層体の略中央部に1層設置されているのみであるが、これに限定されない。非磁性体部は、コイルが生じる磁路を切るように設置されていればいずれの箇所に設置されていてもよく、また、1層以上設置されていてもよい。例えば、上記実施形態では、外層が磁性体層であるが、これを非磁性体層とすることもできる。また、磁性体層と非磁性体層とを交互に積層し、その間に導体層を設置してもよい。
(実施例)
・磁性体シートの作製
磁性体層を形成するフェライト材料を得るため、Fe:44.0mol%、ZnO:26.0mol%、CuO:1.0mol%、Mn:5.0mol%、NiO:24.0mol%の割合となるように秤量し、さらにこれら主成分100重量部に対しBiを0.25重量部になるように秤量し、これらの秤量物を純水およびPSZ(Partial Stabilized Zirconia;部分安定化ジルコニア)ボールと共に塩化ビニル製のポットミルに入れ、湿式で48時間混合粉砕し、蒸発乾燥させた後、750℃の温度で2時間仮焼した。
これにより得られた仮焼粉を、エタノール(有機溶剤)およびPSZボールと共に、再び塩化ビニル製のポットミルに投入し、24時間混合粉砕し、さらにポリビニルブチラール系バインダ(有機バインダ)を加えて混合し、セラミックスラリーを得た。
次に、ドクターブレード法を使用し、厚さが25μmとなるようにセラミックスラリーをシート状に成形し、これを縦50mm、横50mmの大きさに打ち抜き、磁性体シートを作製した。
・非磁性体シートの作製
Fe、ZnO、CuOおよびMn粉末を、表1の試料番号1〜9に示す組成になるように秤量した。なお、なお、試料番号2〜9が本発明の実施例であり、試料番号1(表中、記号「*」を付して示す)は比較例である。
Figure 0006011302
ついで、試料番号1〜9の各秤量物を、上記と同様に、純水およびPSZボールと共に塩化ビニル製のポットミルに入れ、湿式で48時間混合粉砕し、蒸発乾燥させた後、750℃の温度で2時間仮焼した。
これにより得られた仮焼粉を、エタノール(有機溶剤)およびPSZボールと共に、再び塩化ビニル製のポットミルに投入し、24時間混合粉砕し、さらにポリビニルブチラール系バインダ(有機バインダ)を加えて混合し、セラミックスラリーを得た。
次に、ドクターブレード法を使用し、厚さが25μmとなるようにセラミックスラリーをシート状に成形し、これを縦50mm、横50mmの大きさに打ち抜き、非磁性体シートを作製した。
得られた試料番号1〜9の仮焼物のX線回折パターンをX線回折装置(リガク社製MiniflexIICo管球仕様)、およびX線検出装置(リガク社製D/teX Ultra)を用いて測定した。得られた回折パターンから、全ての仮焼物においてスピネル結晶相が形成されていることが確認された。
・積層コイル部品の作製
レーザー加工機を使用し、得られた磁性体シート、非磁性体シートの所定位置にビアホールを形成した後、Ag粉末、ワニス、および有機溶剤を含有したAgペーストを、磁性体シートの表面にスクリーン印刷し、かつ前記Agペーストをビアホールに充填し、コイルパターンを形成した。
次いで、コイルパターンの形成された磁性体シートおよび非磁性体シートを図2の配置になるよう積層した後、これらをコイルパターンの形成されていない磁性体シートで挟持し、60℃の温度で100MPaの圧力で1分間圧着し、圧着ブロックを作製した。そして、この圧着ブロックを所定のサイズに切断し、セラミック積層体を作製した。
次に、得られたセラミック積層体を、大気中で400℃に加熱して十分に脱脂した。次いで、窒素及び酸素の混合ガスを導入して酸素濃度を0.1体積%に調整した焼成炉に入れ、900〜935℃に昇温し、2時間保持して、部品素体(積層体)を作製した。
次に、Ag粉、ガラスフリット、ワニス、および有機溶剤を含有した外部電極用導電ペーストを用意し、この外部電極用導電ペーストを、上記部品素体の両端に塗布して乾燥させた後、大気中で750℃、10分間焼き付けて、さらに電解めっきでNi、Snめっきを順に行い、外部電極を形成して、図1に示されるような試料(積層コイル部品)を得た。なお、試料番号1〜9の試料は、それぞれ非磁性体層に表1の試料番号1〜9の非磁性材料、磁性体層に上記の磁性材料を用いた試料である。
以上により、試料(積層コイル部品)を、試料番号1〜9について作製した。なお、各試料の外径寸法は長さL:2.5mm、幅W:2.0mm、厚みT:1.0mmであり、コイルのターン数は、1MHzでのインダクタンスが約4.7μHになるように調整した。
・評価
(インダクタンス変化率)
作製した試料番号1〜9の試料各10個について、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー社製4291A)および恒温槽(エスペック社製SU240型)を使用し、周囲温度が−30℃、+20℃、および+85℃におけるインダクタンスL(測定周波数1MHz)を求め、下記式:
ΔL−30℃={(L−30℃−L+20℃)/L+20℃}×100
ΔL+85℃={(L+85℃−L+20℃)/L+20℃}×100
から、−30℃でのインダクタンス変化率(ΔL−30℃)、および+85℃でのインダクタンス変化率(ΔL+85℃)を求めた。結果(試料10個の平均値)を表2に示す。なお、L−30℃は−30℃でのインダクタンス、L+20℃は+20℃でのインダクタンス、L+85℃は+85℃でのインダクタンスである。
Figure 0006011302
(直流重畳特性)
次に、試料番号1(比較例)、試料番号5(実施例)の試料各1個について、試料を恒温槽(エスペック社製SU240型)に入れ、周囲温度を−30、+20、+85℃に変化させて、JIS規格(C2560−2)に準拠し、0〜0.6Aの直流電流を試料に重畳し、インダクタンスLを周波数1MHzで測定した。結果を、それぞれ、図4および5に示した。
表2から明らかなように、試料番号1ではインダクタンス変化率が約±20%となり、温度変化率が大きくなることが確認された。これは、非磁性体層へNiが拡散し、Niが拡散した領域のキュリー点が上昇し、使用温度範囲で磁性を持つ領域が発生したことによると考えられる。
一方、Mnを含有させた試料番号2〜9ではインダクタンスの温度変化率が小さくなる(約±7%以下)ことが確認された。これはMnを含有させることで非磁性体層のキュリー点が低下するので、Niが拡散しても、キュリー点がコイルの使用温度範囲にある拡散領域が狭くなることによると考えられる。
また、図4および図5に示されるように、試料番号5(実施例)は、試料番号1(比較例)よりも、温度による特性の変化が抑制され、かつ、良好な直流重畳特性を示すことが確認された。
(層剥離およびクラックの有無)
作製した試料番号1〜9の試料各100個について、端面が立つように樹脂固めし、試料の長さ方向に沿って研磨し、長さ方向の約1/2の時点における研磨断面を得、研磨断面を洗浄した後、光学顕微鏡で観察を行った。試料番号1〜9の試料において、層剥離やクラックは観察されなかった。
本発明によって得られる積層コイル部品は、例えば高周波回路および電源回路のインダクタやトランスなどとして、幅広く様々な用途に使用され得る。
1…積層コイル部品
2…磁性体層
3…磁性体層(外層)
4…非磁性体層
5…導体層
6a,6b…引出し部
7…磁性体部
8…非磁性体部
9…導体部
10…ビアホール
20…積層体
21…外部電極
22…外部電極

Claims (3)

  1. 少なくともFe、Ni、ZnおよびCuを含むフェライト材料から構成される磁性体部と、非磁性体部と、それらの内部に埋設されたコイル状の導体部とを有する積層コイル部品であって、
    前記非磁性体部が、少なくともZnおよびMnを含み、かつ、スピネル構造を有する材料から構成されていることを特徴とする、積層コイル部品。
  2. 前記非磁性体部のMn含有量が、Mnに換算して、0.5〜49mol%であることを特徴とする、請求項1に記載の積層コイル部品。
  3. 前記非磁性体部のMn含有量が、Mnに換算して、2〜30mol%であることを特徴とする、請求項1に記載の積層コイル部品。
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