JP6007360B2 - 青枯病抵抗性誘導剤及び青枯病防除方法 - Google Patents

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Description

本発明は、青枯病防除作用を有する化合物を有効成分として含有してなる青枯病抵抗性誘導剤及び該化合物を利用した青枯病防除方法に関する。
土壌細菌である青枯病菌(Ralstonia solanacearum)は植物の根や茎等の組織から侵入し、主に導管内で増殖する植物病原菌である。本菌に感染した植物では、導管内における菌増殖により全身への水分等の供給が阻害される結果、植物体は萎れてしまうとともに、菌が放出する毒素等により植物細胞が死んでしまい、最終的に、感染植物は枯死する。青枯病菌はトマトやナスなどのナス科植物を初めとする200種以上の植物に感染する宿主範囲の広い病原菌であり、農作物に甚大な被害をもたらす。青枯病菌によって引き起こされる青枯病の被害は世界規模で起こり、その経済的損失は1年あたり数千億円(国内では数百億円)と極めて大きい。青枯病は、その原因菌である青枯病菌が地中深くでも長期間生生存可能であること、適当な宿主植物が植えられると再び発生することから、いったん青枯病が発生した土地では、根絶することが難しい難防除病害である。
一方、水耕栽培においては、土壌を用いないことから青枯病が発病することはないと一般に思われがちであるが、青枯病菌の系統によっては水中でもその病原性を長期間維持する能力を示すことがあるため、人為的な持ち込みによって栽培システムに混入すると水耕栽培液が汚染してしまい、結果として栽培中の植物が感染するケースがある。実際、トマトの水耕栽培において、青枯病の発病は問題となっている。水耕栽培の場合、水耕液が常に循環・還流しているために、栽培システムの作物全体への菌の蔓延は土壌栽培に比べると極めて早く起きてしまい、土壌栽培での防除以上に防除が困難となる。
青枯病を防除する試みとして、臭化メチル等による土壌薫蒸、シュードモナス菌等を用いた生物的防除、抵抗性品種の利用、抗生物質であるバリダマイシンAを有効成分とするバリダシン液剤5の利用などあるが、いずれの方法も防除効果やコスト、環境に与える影響などの面で解消すべき問題が多く残されているのが現状である。このような背景の下、環境への影響が少なく効果的な防除法の開発が求められている。
そのような環境低負荷・保全型防除法の開発の試みのひとつとして、アミノ酸による作物の病害防除方法の研究が行われている。
例えば、特許文献1には、メチオニンやシステイン等の含硫アミノ酸とD−グルコースの混合物がイネいもち病、ジャガイモ疫病、キュウリ苗立枯病等の複数の病害に効果を示すことが開示されている。そして、同文献では、D−グルコースとの混合に用いるアミノ酸は、D体及びL体の構造の違いに関係なく防除効果を示すこと、アミノ酸単独ではほとんど防除効果がないことが記載されている。なお、青枯病菌(Ralstonia solanacearum)によって引き起こされる青枯病に対する防除効果についてはなんら記載されていない。
また、アミノ酸と青枯病防除との関係について、特許文献2には、D−セリン、D−システイン、D−アラニンが土壌中の青枯病菌(Ralstonia solanacearum)に対する増殖抑制効果を示すことが開示されている。なお、同文献においては、上記D体のアミノ酸は青枯病菌の増殖抑制効果を示すことが記載されており、また、その増殖抑制効果はL体のアミノ酸では認められないことが記載されている。
一方、環境保全型防除法の資材のひとつとして近年注目を集めているのが、病害抵抗性誘導剤である。病害抵抗性誘導剤は、植物活性剤とも呼ばれ、植物が本来有する病気に対する抵抗力を高めて耐病性を誘導して、病害防除効果を示す薬剤であり、環境負荷も小さい特徴を有する。また、病原体を直接殺す作用はないことから、殺菌剤使用の際に問題となる耐性菌出現のリスクが低いメリットがある。このように、病害抵抗性誘導剤は環境保全型病害防除の有望素材として近年着目されている。
青枯病に対する抵抗性誘導剤としては、例えば、酵母抽出液を原料とする植物活力剤アグリボEX((株)アグリボ)が開示されている(非特許文献1参照)。一方で、非特許文献1で開示された青枯病抵抗性誘導剤における青枯病防除活性の有効成分は特定されていない。
特開2000−95609号公報 特許3531610号公報
日植病報73:94−101(2007)
青枯病に対して有効な抵抗性誘導剤を開発するためには、その素材となる化合物を探索することが重要である。
しかしながら、青枯病に対する抵抗性誘導物質についての知見は極めて少なく、植物の生理活性を向上させ、さらに病害の防止効果を得るため、さらなる改良が必要である。そのためには、青枯病に対する抵抗性誘導剤として有効な作用を有する化合物を探索することが重要である。
かかる状況下、本発明の目的は、青枯病に対する抵抗性誘導活性を示す化合物を有効成分として含有してなる青枯病抵抗性誘導剤及び該化合物を利用した青枯病防除方法を提供することである。
本発明者らは、種々の天然化合物から青枯病抵抗性誘導物質の探索を試み、鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> L体のアミノ酸を有効成分として含有し、前記L体のアミノ酸が、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−アラニン、及びL−グルタミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする青枯病抵抗性誘導剤(但し、対象植物からウリ科を除く)
<2> 対象植物が、ナス科及びアブラナ科である前記<1>に記載の青枯病抵抗性誘導剤。
<3> 対象植物(但し、ウリ科を除く)にL体のアミノ酸を吸収させる青枯病防除方法であって、
前記L体のアミノ酸が、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−アラニン及び、L−グルタミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である青枯病防除方法。
<4> 対象植物が、ナス科及びアブラナ科である前記<3>に記載の青枯病防除方法。
<5> L体のアミノ酸を有効成分として含有し、前記L体のアミノ酸が、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−フェニルアラニン及びL−アラニンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする青枯病抵抗性誘導剤。
<6> 対象植物にL体のアミノ酸を吸収させる青枯病防除方法であって、前記L体のアミノ酸が、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−フェニルアラニン及びL−アラニンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする青枯病防除方法。
本発明により、植物の生命力を高めて耐病性を誘導した青枯病防除効果を示す薬剤及び青枯病防除方法が提供される。また、該薬剤の有効成分であるL体のアミノ酸は、環境への負荷も小さい。
実施例1における、L−ヒスチジン処理後のトマトにおける青枯病菌接種後の日数と病微指数の関係を示す図である。 実施例1における、青枯病菌接種7日後の土壌栽培したトマト(L−ヒスチジン処理及び対照)の様子を示す写真である。 D−ヒスチジンとL−ヒスチジンの青枯病防除効果の違いを示す図である。 L−ヒスチジンとバリダマイシンの青枯病抑制効果の差を示す図である。 青枯病菌の増殖に対するL−ヒスチジンの効果を示す図である。 様々なL−アミノ酸処理後のトマトにおける、青枯病菌接種後の病微指数の関係を示す図である。 D−ヒスチジン又はL−ヒスチジン処理後のシロイヌナズナにおける青枯病菌接種後の日数と病微指数の関係を示す図である。
本発明の青枯病抵抗性誘導剤は、L体のアミノ酸を有効成分として含有する。
L体のアミノ酸は、それ自体には全く、又は、ほとんど青枯病菌(Ralstonia solanacearum)に対する増殖抑制作用を有さないのにもかかわらず、対象植物に処理すると青枯病防除効果を有する。なお、同じアミノ酸でもD体にはこのような効果は認められない。
なお、「青枯病防除効果」とは、青枯病菌の代謝等に直接作用することで菌の生育を阻害する効果を意味する。
また、本発明において、青枯病とは、土壌病原細菌であるRalstonia solanacearumの感染によって引き起こされる病気を指す。なお、本細菌がタバコにかかる場合、それによって起こる病気は立枯病という。
L体のアミノ酸として、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン等の塩基性アミノ酸;L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸等の酸性アミノ酸;L−グリシン、L−システイン、L−フェニルアラニン、L−グルタミン、L−チロシン等の非電荷アミノ酸;L−プロリン、L−アラニン、L−メチオニン、ロイシン等の疎水性アミノ酸のいずれもが該当し、それぞれが青枯病防除作用を有する。
なお、これらのL体のアミノ酸は、単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
この中でも、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−システイン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−アラニン、L−グルタミン及びL−メチオニンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、これらのL体のアミノ酸は、天然物由来のものを使用できるため、環境負荷が小さいという利点もある。
対象となる植物としては、青枯病菌が感染する植物であれば特に限定はないが、例えば、ナス科、アブラナ科、イネ科、マメ科、ウリ科、ヒルガオ科、ユリ科、シソ科、キク科、バラ科、ミカン科、シソ科、フトモモ科、ヤナギ科、アカザ科、リンドウ科、バショウ科、ショウガ科、フトモモ科、ゴマ科、クワ科、ゴクラクチョウカ科、トウダイグサ科、イソマツ科及びナデシコ科等に属する植物が挙げられる。この中でも特にナス科及びアブラナ科の植物が好適な対象となる。
本発明の青枯病抵抗性誘導剤において、上記L体のアミノ酸は、塩として含有されていてもよく、その塩の形態としては、特に制限はなく、対イオンは陽イオンでも陰イオンでもよい。例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、金属塩(アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩など)、ハロゲン塩(フッ化物塩、塩化物塩など)、無機塩(アンモニウム塩など)、カルボン酸塩(酢酸塩など)、有機アミン塩(ジベンジルアミン塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニア塩など)などが挙げられる。
本発明の青枯病抵抗性誘導剤は、その目的に応じて有効成分である上記L体のアミノ酸を適当な剤型で用いることができる。市販の食品添加用或いは工業用の上記L体アミノ酸精製物を枯病抵抗性誘導剤として使用できる。また、有効成分である上記L体のアミノ酸を液体または固体の担体で希釈し、必要に応じてその他の成分を加え、粉剤、粒剤等の固形物や、乳剤及び水和剤等の液状物として用いられる。前記各剤の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
本発明の青枯病抵抗性誘導剤を、上記L体のアミノ酸を含む液状物として用いる場合、溶媒としては、L体のアミノ酸の溶解、分散を阻害せず、対象となる植物に悪影響を及ぼさない溶媒である水やメタノールやエタノールなどが適宜使用され、通常、水が用いられる。なお、これらの溶媒は混合して使用してもよい。
有効成分である上記L体のアミノ酸の配合割合は、L体のアミノ酸の種類や剤型等を考慮して適宜選ばれ、固形物とする場合は30重量%以上が好ましく、液状物の場合には該液状物中の全不揮発成分に対して30重量%以上が好ましい。前記液状物中の全不揮発成分は、前記液状物を減圧下、37℃で蒸発乾固することにより得ることができる。
また、上述したその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、肥料成分や他の公知の植物活性剤、成長促進剤、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤、懸濁化剤、安定化剤等が挙げられる。本発明の青枯病抵抗性誘導剤中のその他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明の青枯病防除方法は、対象植物に上記L体のアミノ酸を吸収させることを特徴する。すなわち、上記L体のアミノ酸を含む青枯病抵抗性誘導剤を対象植物に吸収させればよい。
青枯病抵抗性誘導剤を対象植物に吸収させる方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。例えば、粉剤、粒剤等の固形状の青枯病抵抗性誘導剤をそのまま、土壌に散布したり、混入する方法、液剤、乳剤、水和剤などの液状物として土壌に散布する方法、液状物中に根を浸漬する方法、還流状態の液状物に根を常に接触させる方法などが挙げられる。
青枯病抵抗性誘導剤の使用量としては、青枯病抵抗性誘導剤中の有効成分であるL体のアミノ酸の濃度、製剤の形態、対象作物の種類、対象作物の成長段階、病害の程度、使用方法、使用時期、併用する肥料などの種類や使用量など条件に応じて、適宜選択することができる。そのため、通常の土壌栽培や水耕栽培、岩綿栽培などに対して適用することができる。
例えば、水耕栽培及び岩綿栽培として、液状物もしくは固形物の青枯病抵抗性誘導剤を、対象植物の根から吸収させる場合、例えば、対象植物トマトの場合には、十分な青枯病防除効果を得るためのL体のアミノ酸の濃度は1mM以上であり、好適には5mM以上である。
また、土壌栽培の場合には、液状物もしくは固形物の青枯病抵抗性誘導剤を、対象植物の根から吸収させる場合、例えば、対象植物トマトの場合には、十分な青枯病防除効果を得るためのL体のアミノ酸の濃度は1mM以上であり、好適には5mM以上である。
浸漬時間は、対象植物が青枯病抵抗性誘導剤を十分に吸収する時間であればよく、通常、48時間以上である。なお、防除効果を確実に持続させるために、この間に、上記青枯病抵抗性誘導剤を含む液を適宜交換することがより好ましい。水耕栽培の場合には水耕液に有効濃度の青枯病抵抗性誘導剤を含有させて循環させてもよい。
対象となる植物としては、上述の青枯病が感染する植物が挙げられる。例えば、クコ、ハシリドコロ、ホオズキ、ナス、ジャガイモ、トマト、トウガラシ、タバコ、チョウセンアサガオ、ツクバネアサガオ等のナス科、シロイヌナズナ、アブラナ、キャベツ、ブロッコリー、白菜、ワサビ等のアブラナ科、バナナ、バショウ、ヘリコニア等のバショウ科、シソ、バジル、サルビア等のシソ科、ショウガ、ミョウガ、クルクマ等のショウガ科、キク、ダリア、スイゼンジナ、ヒマワリ等のキク科、イチゴ等のバラ科、ラッカセイ、インゲンマメ等のマメ科、クローブ等のフトモモ科、ゴマ等のゴマ科、クワ等のクワ科、ストレリチア等のゴクラクチョウカ科、キャッサバ等のトウダイグサ科、スターチス等のイソマツ科、トルコギキョウ等のリンドウ科、キュウリ等のウリ科の植物が挙げられる。
なお、本発明の青枯病防除方法は、ナス科及びアブラナ科の植物に対してより効果的であり、トマト及びシロイヌナズナに対して特に効果的である。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、使用した全てのアミノ酸は、和光純薬工業株式会社より入手した。
<青枯病の抑制効果の評価>
L体のアミノ酸の青枯病抑制効果を確認するため、以下の実施例1〜4及び参考例1の実験を行った。
実施例1
適量のL−ヒスチジンを、蒸留水に添加して均一になるまで攪拌することにより、最終濃度5mMのL−ヒスチジン溶液を得た。
次いで、プラスチック製育成ポット中で土壌栽培した4〜5葉期のトマト(品種:ポンデローザ)の根部を5mMのL−ヒスチジン溶液に48時間浸漬(24時間目で一度液を交換)し該溶液を吸収させた後、青枯病菌8107S株の菌液(1×107cfu/mL)を断根後直ちに10分間根が完全に浸るまで浸漬することにより接種し、30℃に制御された人工気象室(約5、000ルクス白色蛍光灯下を12時間照射)で引き続き栽培して、植物体地上部に現れた病徴を接種後1日目から14日間にわたり観察し、病徴の程度を数値化して算出した。
また、対照として、L−ヒスチジンを未添加の蒸留水によって、同様に処理したトマトに対して青枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図1に青枯病菌接種後経時的に地上部の病徴を数値化した結果を示す。
病微の程度(指数)は、植物体に現れた病徴を下記の5段階評価に従って数値化し、算出した。5段階評価は[非特許文献2]J Gen Plant Pathol70:115−119(2004)に記載の評価基準に従って実施した。

0:無発病
1:1葉が萎凋
2:2葉以上が萎凋
3:頂葉を除き萎凋
4:全身萎凋・枯死

病徴指数=(4×N1+3×N2+2×N3+1×N4+0×N5)/4×(N1+N2+N3+N4+N5
(式中、N1〜N5は当該数値を示した個体の数である)。
すなわち、病微指数は、病気によって引き起こされる被害の程度を意味し、病徴指数の値が大きいほど病気が進行していることを意味する。
図1において、対照として蒸留水を吸収させたトマトと比較すると、L−ヒスチジンを吸収させたトマトは明らかに病徴指数が低下していることが分かる。
また、図2にL−ヒスチジン処理及び対照それぞれの青枯病菌接種後7日目のトマトの様子を示す。対照区では激しい病徴が現れているのに対し、L−ヒスチジン処理区ではそのような病徴が現れていないことが分かる。これらの結果より、L−ヒスチジンはトマト青枯病防除効果を有することが示される。
実施例2
実施例1と同様の手法で、最終濃度5mMのL−ヒスチジン溶液を得た。また、同様の方法で、最終濃度5mMのD−ヒスチジン溶液を得た。
次いで、土壌栽培した4〜5葉期のトマト(品種:ポンデローザ)の根部を5mMのL−ヒスチジン溶液、または5mMのD−ヒスチジン溶液に48時間浸漬(24時間目で一度液を交換)した後、青枯病菌8107S株の菌液(1×107cfu/mL)を断根後浸漬することにより接種し、30℃で培養した。
また、対照として、蒸留水によって、同様に処理したトマトに対して青枯病菌を接種し、30℃で培養した。
図3に青枯病菌接種後14日目の地上部の病徴を数値化した結果を示す。
対照と比較することにより、L−ヒスチジンは明らかに病徴指数が低下していることが分かる。一方、D−ヒスチジンでは、病徴指数の低下は限定的であり、L−ヒスチジンと比較すると非常に小さいものであった。
この結果から、L−ヒスチジン酸単独で青枯病菌によって引き起こされる青枯病に対する防除効果を示すこと、その効果はL体でのみで発現することが分かった。
実施例3
青枯病防除効果がある農薬「バリダシン液剤5」(住友化学株式会社)とL−ヒスチジンとの対比を行った。
実施例1と同様の方法で作製した5mMのL−ヒスチジン溶液、もしくはバリダシン液剤5溶液(500倍希釈液(推奨使用濃度))を、4〜5葉期のトマト(品種:ポンデローザ)の葉に散布した結果と、同L−ヒスチジン溶液もしくはバリダシン液剤5溶液を根部に48時間浸漬(24時間目で一度液を交換)した後、青枯病菌8107S株の菌液(1×107cfu/mL)を断根後浸漬することにより接種し、30℃で培養した。また、対照として、蒸留水を用いて同様の処理を行った。
図4に青枯病菌接種後経時的に地上部の病徴を数値化した結果を示す。
トマト葉に対して、バリダシン液剤5は中程度の青枯病防除効果を示したが、L−ヒスチジンはそのような防除効果を示さなかった。
トマト根に対しては、バリダシン液剤5は中〜高程度の青枯病防除効果を示したが、L−ヒスチジンはバリダシン液剤5を上回る防除効果を示した。これらの結果は、バリダシン液剤5はある程度のトマト青枯病防除効果を示すものの、その効果はL−ヒスチジンよりも低いことがわかった。また、L−ヒスチジンによるトマト青枯病防除効果は根に処理して初めて発揮されることから、特に水耕栽培に対して有効である。
参考例1
L−ヒスチジンの青枯病菌の増殖抑制効果を評価した。
CPG液体培地3mL(ストレプトマイシン100ppmを含む)に最終濃度5mMになるようL−ヒスチジンを添加した後、青枯病菌8107S株を最終濃度1×107cfu/mLになるように接種し、希釈平板法により培養0時間及び培養24時間後の青枯病菌濃度を定量した。また、対照として、蒸留水を用いて同様の評価を行った。結果を図5に示す。
図5から、L−ヒスチジンを添加した場合においても、24時間後の青枯病菌の増加を抑制できていないことが確認された。このことから、上記実施例1〜3で確認されたL−ヒスチジンの青枯病防除効果は、青枯病菌に対する抗菌活性によるものではないことが確認された。
実施例4
L−ヒスチジン以外のL体のアミノ酸を使用して、青枯病の抑制効果の評価を行った。
適量のL−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−グリシン、L−フェニルアラニン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−プロリン、L−アラニン、L−グルタミン及びL−メチオニンをそれぞれ蒸留水に添加して均一になるまで攪拌することにより、それぞれ最終濃度5mMのL体のアミノ酸の溶液を得た。
次いで、土壌栽培した4〜5葉期のトマト(品種:ポンデローザ)の根部を、それぞれのL体のアミノ酸の溶液に48時間浸漬(24時間目で一度液を交換)した後、青枯病菌8107S株の菌液(1×107cfu/mL)を断根処理にて接種し、30℃で培養した。また、対照として、蒸留水によって、同様に処理したトマトに対して青枯病菌を接種し、30℃で培養した。図6に青枯病菌接種後14日目の地上部の病徴を数値化した結果を示す。図6から、塩基性アミノ酸であるL−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、酸性アミノ酸であるL−アスパラギン酸、非電荷アミノ酸であるL−グリシン、L−フェニルアラニン、L−システイン、L−グルタミン、疎水性アミノ酸であるL−プロリン、L−アラニン、L−メチオニンのすべてのL体のアミノ酸に青枯病の抑制効果があることが確認された。これらすべてのアミノ酸に共通する化学構造が、R−CH(NH2)COOH(Rは置換基)であること、および、該化学構造のキラリティー(L体かD体か)が青枯病抵抗性誘導活性に対して大きな影響を有することを考慮すると、前記化学構造を共有するすべてのL体アミノ酸が青枯病抵抗性誘導活性を有すると考えられる。
実施例5
実施例1と同様の手法で、最終濃度5mMのL−ヒスチジン溶液及び最終濃度5mMのD−ヒスチジン溶液を得た。
次いで、土壌栽培した5週齢のシロイヌナズナ(環境型:コロンビア−0)の根部をL−ヒスチジン溶液、D−ヒスチジン溶液のそれぞれに48時間浸漬(24時間目で一度液を交換)した後、青枯病菌RS1000株の菌液(1×107cfu/mL)を断根後後直ちに20分間根が完全に浸るまで浸漬することにより接種し、28℃に制御された人工気象室(約5、000ルクス白色蛍光灯下を12時間照射)で培養して、植物体地上部に現れた病徴を接種後1日目から19日間にわたり観察し、実施例1と同様に病徴の程度を数値化して算出した。
また、対照として、ヒスチジンを未添加の蒸留水によって、同様に処理したシロイヌナズナに対して青枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図7に青枯病菌接種後経時的に地上部の病徴を数値化した結果を示す。対照及びD−ヒスチジン溶液と比較することにより、L−ヒスチジンは明らかに病徴指数が低下していることが分かる。このように、L−ヒスチジンにはシロイヌナズナの青枯病に対する優れた抑制効果があることが確認された。
本発明によれば、L体のアミノ酸を有効成分とした安全性の高く、環境への負荷が小さい青枯病抵抗性誘導剤及び青枯病防除方法が提供される。
現在、食品加工によって生じた産業廃棄物の処理が大きな問題となっているが、食品はL体のアミノ酸を多く含んでおり、そのような食品の加工後に生じる廃棄物は青枯病防除に活用できる可能性があり、その活用が達成できた場合、L体のアミノ酸を新たに生産するコストが省け、また、産業廃棄物処理の問題も解決できるなど、大きな経済的・社会的効果が望める。

Claims (6)

  1. L体のアミノ酸を有効成分として含有し、前記L体のアミノ酸が、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−アラニン、及びL−グルタミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする青枯病抵抗性誘導剤(但し、対象植物からウリ科を除く)
  2. 対象植物が、ナス科及びアブラナ科である請求項1に記載の青枯病抵抗性誘導剤。
  3. 対象植物(但し、ウリ科を除く)にL体のアミノ酸を吸収させる青枯病防除方法であって、
    前記L体のアミノ酸が、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−アラニン及び、L−グルタミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である青枯病防除方法。
  4. 対象植物が、ナス科及びアブラナ科である請求項3に記載の青枯病防除方法。
  5. L体のアミノ酸を有効成分として含有し、前記L体のアミノ酸が、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−フェニルアラニン及びL−アラニンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする青枯病抵抗性誘導剤。
  6. 対象植物にL体のアミノ酸を吸収させる青枯病防除方法であって、前記L体のアミノ酸が、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リシン、L−アスパラギン酸、L−グリシン、L−フェニルアラニン及びL−アラニンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする青枯病防除方法。
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