従来より、光受信器、無線受信器において、入力信号の強度の検出や、自動利得制御を行うために必要となる信号の振幅検出の際に、ピーク検出回路が広く用いられている。
図18に従来のピーク検出回路の回路図を示す。このピーク検出回路200は、トランジスタTrhと、電圧保持用コンデンサCHと、バッファBFと、リセット回路RSとで構成されている。
このピーク検出回路200において、トランジスタTrhは、ベースが入力端子P1に接続され、コレクタが電源端子P2に接続され、エミッタがホールド端子P3に接続されている。電圧保持用コンデンサCHはトランジスタTrhのエミッタと接地端子P4との間に接続されている。リセット回路RSはホールド端子P3と接地端子P4との間に接続されている。バッファBFはホールド端子P3と出力端子P5との間に接続されている。
トランジスタTrhは、入力端子P1からの入力信号Vinに応じて電流ITrを流し、電圧保持用コンデンサCHを充電する。電圧保持用コンデンサCHは、トランジスタTrhを流れる電流ITrによって蓄えられた電荷Qを保持し、入力信号Vinのピーク値に応じた電圧を記憶する。
バッファBFでは、電圧保持用コンデンサCHによって保持されている電圧をモニタして出力端子P5に出力する一方、出力端子P5側からの影響がホールド端子P3の電位に及ばないようにする。バッファBFは、通常、図19に示すようなボルテージフォロワ回路や、図20に示すようなエミッタフォロワ回路などが用いられる。
リセット回路RSは、微小な電流を流すことにより、電圧保持用コンデンサCHに蓄えられた電荷Qを一定時間かけて逃がし、電圧保持用コンデンサCHが記憶する入力信号Vinのピーク値が時間とともに更新されることを可能とする。電圧保持用コンデンサCHが電圧を保持する時定数は、電圧保持用コンデンサCHの保持容量と、リセット電流Irによって決まる。この時定数は、入力信号Vinの周波数や回路の用途などに応じて適切に設定される。
理想的なバッファは、入力端子に電流が流れないが、現実のバッファは入力端子に微小な電流が流れる。したがって、リセット電流Irは、バッファBFの入力端子への入力電流とリセット回路RSを流れる電流の和になる。ピーク検出回路によっては、リセット回路RSを省略し、バッファBFの入力電流のみによって、電圧保持用コンデンサCHが電圧を保持する時定数を決めている場合もある。
次に、このピーク検出回路200の基本動作を説明する。入力信号Vinに応じて、トランジスタTrhに流れる電流ITrは下記(1)式で表される(Is:飽和電流、VT:熱電圧、VBE:ベースエミッタ間電圧)。
ITr=Is*exp(VBE/VT) ・・・・(1)
(1)式をVBEについて解くと、
VBE=VTIn(ITr/Is) ・・・・(2)
となる。
まず、入力信号Vinがない状態を考える。この時、電圧保持用コンデンサCHに電流は流れないので、ITrはIrに等しい。このときのVBEをVBE0とすると、(2)式より、
VBE0=VTIn(Ir/Is) ・・・・(3)
となる。
この状態では、入力信号Vinの電圧(入力電圧Vin)も、ホールド端子P3の電圧(ホールド端子電圧VH)も一定であり、その値をそれぞれVin0、VH0とする。VBE0とVin0、VH0との間には、
VH0=Vin0−VBE0 ・・・・(4)
の関係がある。
(4)式は、ホールド端子電圧VHのバイアス電圧は、入力電圧Vinのバイアス電圧よりもVBE0だけ低いという、電気回路として当然の事実を示している。
〔VBE>VBE0の時〕
入力電圧Vinが入力により増加する場合には、ホールド端子電圧VHは電圧保持用コンデンサCHにより、その電圧値を保とうとするため、VBE>VBE0となる。それに伴い、(1)式よりITrは指数関数的に増加し、ITr>Irとなる。
電圧保持用コンデンサCHは、「ITr−Ir」により充電され、電荷Qが増加し、VH=Q/Cにより、ホールド端子電圧VHは増加する。ホールド端子電圧VHの増加は、VBE=VBE0となり、ITr=Irとなって、電圧保持用コンデンサCHの充電が終わるまで続く。
〔VBE<VBE0の時〕
入力電圧Vinが入力により減少する場合には、ホールド端子電圧VHは電圧保持用コンデンサCHにより、その電圧値を保とうとするため、VBE<VBE0となる。(1)式よりITrは指数関数的に減少し、ITr<Irとなる。
電圧保持用コンデンサCHは、「Ir−ITr」により放電し、電荷Qは減少する。しかし、「Ir−ITr」の値は非常に小さいので、ホールド端子電圧VHの減少は非常に緩やかである。このホールド端子電圧VHの減少は、再び入力電圧Vinが増加に転じ、VBE=VBE0となるまで続く。
図21に動作波形を示す。図21(a)は入力信号Vinの動作波形(入力電圧Vinの動作波形)、図21(b)はホールド端子電圧VHの動作波形である。
図21(a)に示されるような入力信号Vinを与えた場合、前述の説明のとおり、入力電圧Vinが増加する過程では、VBE>VBE0となり、ITrが指数関数的に増加して、電圧保持用コンデンサCHが「ITr−Ir」により充電される(動作領域I)。
ホールド端子電圧VHは「Vin−VBE0」まで増加していくので、入力電圧Vinのピーク値をxとすると、ホールド端子電圧VHのピーク値yは、
x−y=VBE0 ・・・・(5)
となる。
一方、入力電圧Vinが減少する過程では、VBE<VBE0となり、ITrは指数関数的に減少し、電圧保持用コンデンサCHは、「Ir−ITr」により放電する。しかし、「Ir−ITr」の値は非常に小さいので、ホールド端子電圧VHの減少は非常に緩やかであり、ホールド端子電圧VHはyに近い値を保つ(動作領域II)。
再び入力電圧Vinが増加に転じ、VBE>VBE0となると、再び電圧保持用コンデンサCHは充電される(動作領域III)。
このような過程の繰り返しにより、従来のピーク検出回路200は、ある一定時間内での入力信号Vinのピーク値に対応する電圧を出力することができるようになっている。なお、このピーク検出回路200と同様の回路は、例えば非特許文献1などにも示されている。
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明では、本発明の権利範囲に含まれないものも実施の形態として記載されているが、ここでは全て実施の形態として説明する。
〔実施の形態1〕
図1に本発明に係るピーク検出回路の第1の実施の形態(実施の形態1)の回路図を示す。この実施の形態1のピーク検出回路101は、トランジスタTrhと、電圧保持用コンデンサCHとで構成されている。また、本実施の形態においては、バッファBFと、リセット回路RSとが設けられている。
このピーク検出回路101において、トランジスタTrhは、ベースが入力端子P1に接続され、コレクタが電源端子P2に接続され、エミッタがホールド端子P3に接続されている。電圧保持用コンデンサCHは電源端子P2とホールド端子P3との間に接続されている。バッファBFはホールド端子P3と出力端子P5との間に接続されている。また、リセット回路RSは電源端子P2とホールド端子P3との間に接続されている。なお、リセット回路RSは、後述するように、ホールド端子P3と接地端子P4との間に設けてもよい。
このピーク検出回路101では、入力電圧Vinが入力により増加する場合に、前記(1)式よりITrが指数関数的に増加し、電圧保持用コンデンサCHが充電される。しかし、このとき流れる電流ITrは、電圧保持用コンデンサCHの正負電極間のみを流れ、電源端子P2や接地端子P4を介して回路外部に流れ出ることはない。
このため、接地配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lg)や、電源配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lc)の影響により、電源端子P2の電圧(VCC)や接地端子P4の電圧(GND)が揺らぐことはなくなる。
なお、このピーク検出回路101では、図18に示した従来のピーク検出回路200とは異なり、電圧保持用コンデンサCHに蓄えられている電荷Qは減少する方向に充電される。しかし、電源端子P2の電圧VCCとホールド端子P3の電圧VHとの差が減少するように電荷Qが変化するので、ホールド端子P3の電圧VHは、図18に示した従来のピーク検出回路200と同様に増加する。
また、バッファBFのバイアス電流やリセット回路RSを流れる電流よりなるリセット電流Irは、大きさが小さく、変動も緩やかであるため、電源端子P2の電圧(VCC)や接地端子P4の電圧(GND)の揺らぎの原因とはならない。このため、前述したように、リセット回路RSは、ホールド端子P3と接地端子P4との間に設けてもよい。
以上説明したように、このピーク検出回路101では、入力端子P1に入力信号Vinが入力された場合に、入力電圧Vinが増加する過程において、電圧保持用コンデンサCHを充電し、ホールド端子電圧VHを上昇させるために流れる過渡的な電流ITrは、電圧保持用コンデンサCHの正負電極間のみを流れ、電源端子P2や接地端子P4を介して回路外部に流れ出ることはない。このため、接地配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lg)や、電源配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lc)の影響により、電源端子P2の電圧(VCC)や接地端子P4の電圧(GND)が入力信号Vinの大きさに依存して揺らぐ現象を抑制することが出来る。
〔実施の形態2〕
図2に本発明に係るピーク検出回路の第2の実施の形態(実施の形態2)の回路図を示す。この実施の形態2のピーク検出回路102は、トランジスタTrhと、電圧保持用コンデンサCHとで構成されている。また、本実施の形態においては、バッファBFが設けられている。
このピーク検出回路102において、トランジスタTrhは、ベースが入力端子P1に接続され、コレクタが電源端子P2に接続され、エミッタがホールド端子P3に接続されている。電圧保持用コンデンサCHは電源端子P2とホールド端子P3との間に接続されている。バッファBFはホールド端子P3と出力端子P5との間に接続されている。
なお、このピーク検出回路102において、リセット回路は明示的には示されていないが、ホールド端子P3はバッファBFの入力端子に接続されており、この入力端子はバッファBFの内部のトランジスタのベース端子等に接続されている。このため、バッファBFの入力端子には、わずかではあるが、バイアス電流が流れるので、電圧保持用コンデンサCHに溜まった電荷はバッファBFのバイアス電流として漏えいして、実効的にリセット回路があるのと同等の動作となる。
このピーク検出回路102においても、入力電圧Vinが入力により増加する場合に、前記(1)式よりITrは指数関数的に増加し、電圧保持用コンデンサCHが充電される。しかし、このとき流れる電流ITrは、電圧保持用コンデンサCHの正負電極間のみを流れ、電源端子P2や接地端子P4を介して回路外部に流れ出ることはない。このため、接地配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lg)や、電源配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lc)の影響により、電源端子P2の電圧(VCC)や接地端子P4の電圧(GND)が揺らぐことはなくなる。
図3にピーク検出回路を備えた受信増幅器のブロック図(受信増幅器の内部構成を単純化したブロック図)を示す。この受信増幅器10において、プリアンプ11は受信信号Vsiをある一定の利得で線形に増幅して出力する。後段アンプ12は、プリアンプ11の出力Vinを更に増幅し、出力信号Vsoとして出力する。この後段アンプ12は、一定利得の線形増幅器でもよいし、利得が可変の可変利得増幅器、出力振幅を一定に保つ機能を有する自動利得制御増幅器、出力振幅飽和特性を利用したリミッタ増幅器でもよい。
ピーク検出回路13は、プリアンプ11の出力Vinを入力とし、ピーク検出信号Voutを出力する。プリアンプ11は一定の利得で線形増幅しているので、ピーク検出信号Voutは、受信信号Vsiの入力振幅の大きさを反映した電圧値となっている。この受信増幅器10では、ピーク検出回路13として、本発明のピーク検出回路(例えば、実施の形態2のピーク検出回路102)が用いられている。
図4は、図3に示した受信増幅器10を動作させた場合の電源端子電圧(VCC)の時間変動を示したものである。点線が従来のピーク検出回路を用いた場合であり、実線が本発明のピーク検出回路を用いた場合である。本発明のピーク検出回路を用いると、電源端子電圧(VCC)の振動が大幅に低減されていることがわかる。
図5は、図3に示した受信増幅器10の出力信号Vsoの動作波形である。点線が従来例のピーク検出回路を用いた場合の出力信号Vsoの動作波形であり、実線が本発明のピーク検出回路を用いた場合の出力信号Vsoの動作波形である。従来例のピーク検出回路を用いた場合の出力信号Vsoの動作波形は、電源端子電圧(VCC)が時間変動することにより歪んでしまうが、本発明のピーク検出回路を用いた場合の出力信号Vsoの動作波形は、電源端子電圧(VCC)の時間変動が極めて小さいため、歪がほとんど生じていないことがわかる。
〔実施の形態3〕
図6に本発明に係るピーク検出回路の第3の実施の形態(実施の形態3)の回路図を示す。この実施の形態3のピーク検出回路103は、第1のトランジスタTrh1と、第2のトランジスタTrh2と、電圧保持用コンデンサCHとで構成されている。また、本実施の形態においては、バッファBFが設けられている。また、入力端子は、第1の入力端子P11と第2の入力端子P12とに分かれている。
このピーク検出回路103において、第1のトランジスタTrh1はベースが入力端子P11に接続され、コレクタが電源端子P2に接続され、エミッタがホールド端子P3に接続されている。第2のトランジスタTrh2はベースが入力端子P12に接続され、コレクタが電源端子P2に接続され、エミッタがホールド端子P3に接続されている。電圧保持用コンデンサCHは電源端子P2とホールド端子P3との間に接続されている。バッファBFはホールド端子P3と出力端子P5との間に接続されている。
このピーク検出回路103では、ピーク検出回路102(図2)とは異なり、入力信号として差動信号が入力される。この例では、第1の入力端子P11に差動信号の非反転信号Vtが入力され、第2の入力端子P12に差動信号の反転信号Vcが入力される。
このピーク検出回路103においては、非反転信号Vtが増加する場合に、ITr1は指数関数的に増加し、電圧保持用コンデンサCHが充電される。逆に、非反転信号Vtが減少する場合には、反転信号Vcが増加して、ITr2が指数関数的に増加し、電圧保持用コンデンサCHが充電される。
電流ITr1、電流ITr2のいずれも、電圧保持用コンデンサCHの正負電極間のみを流れ、電源端子P2や接地端子P4を介して回路外部に流れ出ることはない。このため、接地配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lg)や、電源配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lc)の影響により、電源端子P2の電圧(VCC)や接地端子P4の電圧(GND)が揺らぐことはない。
図7に動作波形を示す。図7(a)は差動信号(非反転信号Vtおよび反転信号Vc)の動作波形(差動入力電圧(非反転信号電圧Vt,反転信号電圧Vc)の動作波形)、図7(b)はホールド端子電圧VHの動作波形である。
図7(a)に示されるような差動信号(非反転信号Vtおよび反転信号Vc)を与えた場合、非反転信号電圧Vtが増加する過程では、トランジスタTrh1のVBEはVBE>VBE0となり、ITr1は指数関数的に増加する。他方、反転信号電圧Vcは減少するので、トランジスタTrh2のVBEはVBE<VBE0となり、ITr2は指数関数的に減少する。電圧保持用コンデンサCHは 「ITr1+ITr2−Ir」により充電されるが、主たる電流の寄与はITr1による。ホールド端子電圧VHは「Vt−VBE0」まで増加していくので、非反転信号電圧Vtがピーク値xに達すると、ホールド端子電圧VHはそのピーク値xに応じた値yとなる(動作領域I)。この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は減少する。
ホールド端子電圧VHがいったんピーク値xに対応した値yに達し、非反転信号電圧Vtがピーク値xから減少していくと、トランジスタTrh1、Trh2のいずれのVBEに対しても、VBE<VBE0となる状態となる。この状態では、電圧保持用コンデンサCHは、「Ir−ITr1−ITr2」により放電する。しかし、「Ir−ITr1−ITr2」の値は非常に小さいので、ホールド端子電圧VHの減少は非常に緩やかであり、ホールド端子電圧VHはほぼyに近い値を保つ(動作領域II)。この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は増加する。
更に非反転信号電圧Vtが減少していくと、ITr1は指数関数的に減少していくが、逆に反転信号電圧Vcは増加し、ITr2は指数関数的に増加していく。その結果、トランジスタTrh2のVBEがVBE>VBE0となると、電圧保持用コンデンサCHは「ITr1+ITr2−Ir」により再び充電される(動作領域III)。なお、この状態での主たる電流の寄与はITr2である。また、この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は減少する。
このような過程の繰り返しにより、ある一定時間内での入力信号(差動信号(Vt,Vc))のピーク値に対応する電圧を出力することができる。このピーク検出回路103では、上述したように非反転信号電圧Vtと反転信号電圧Vcのピーク値に応じたホールド端子電圧VHを出力する為、単相入力信号に比べ、2倍の頻度でピークホールド動作を行うことができ、ホールド端子電圧VHの収束が早いという利点がある。
〔実施の形態4〕
図8に本発明に係るピーク検出回路の第4の実施の形態(実施の形態4)の回路図を示す。この実施の形態4のピーク検出回路104は、トランジスタTrhと、トランジスタTraと、抵抗Rと、電圧保持用コンデンサCHと、コンデンサCAと、差動増幅器OPとで構成されている。
このピーク検出回路104において、トランジスタTrhは、ベースが入力端子P1に接続され、コレクタが電源端子P2に接続され、エミッタがホールド端子P3に接続されている。電圧保持用コンデンサCHは電源端子P2とホールド端子P3との間に接続されている。抵抗Rは入力端子P1と平均値端子P6との間に接続されている。コンデンサCAは電源端子P2と平均値端子P6との間に接続されている。すなわち、入力端子P1に抵抗Rの一端が接続され、抵抗Rの他端と電源端子P2との間にコンデンサCAが接続されている。この抵抗RとコンデンサCAとによってローパスフィルタが構成されている。
トランジスタTraはベースが平均値端子P6に接続され、コレクタが電源端子P2に接続されている。差動増幅器OPは、非反転入力端子P7と反転入力端子P8とを備え、非反転入力端子P7がホールド端子P3に接続され、反転入力端子P8がトランジスタTraのエミッタに接続されている。
トランジスタTrhは、入力信号Vinに応じて電流ITrを流し、電圧保持用コンデンサCHを充電する。電圧保持用コンデンサCHは、トランジスタTrhを流れる電流ITrによって蓄えられた電荷Qを保持し、入力信号Vinのピーク値に応じた電圧を記憶する。抵抗RとコンデンサCAはローパスフィルタを構成し、入力信号Vinの平均値、すなわちDC成分を検出する。
トランジスタTraは平均値端子P6の電圧(平均値端子電圧)VAからVBE0だけ低い電圧をエミッタに出力する。差動増幅器OPは、ホールド端子電圧VHを非反転入力端子P7への電圧(非反転入力電圧)Vdtとし、トランジスタTraのエミッタの電圧とを反転入力端子P8への電圧(反転入力電圧)Vdcとし、非反転入力電圧Vdtと反転入力電圧Vdcとの差をモニタして増幅し、出力端子P5に出力電圧Voutとして出力する。更に、出力端子P5側からの影響がホールド端子電圧VH、およびトランジスタTraのエミッタの電圧に及ばないようにする。差動増幅器OPとしては、通常、図9、図10に示すような差動バッファ回路などが用いられる。
このピーク検出回路104においても、入力電圧Vinが入力により増加する場合に、前記(1)式よりITrは指数関数的に増加し、電圧保持用コンデンサCHが充電される。しかし、このとき流れる電流ITrは、電圧保持用コンデンサCHの正負電極間のみを流れ、電源端子P2や接地端子P4を介して回路外部に流れ出ることはない。このため、接地配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lg)や、電源配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lc)の影響により、電源端子P2の電圧(VCC)や接地端子P4の電圧(GND)が揺らぐことはなくなる。
図11に動作波形を示す。図11(a)は入力信号Vinの動作波形(入力電圧Vinの動作波形)、図11(b)はホールド端子電圧VH(非反転入力電圧Vdt)の動作波形、図11(c)は平均値端子電圧VAおよび反転入力電圧Vdcの動作波形、図11(d)は出力電圧Voutの動作波形である。
図11(a)に示されるような入力信号Vinを与えた場合、入力電圧Vinが増加する過程では、トランジスタTrhのVBEが、VBE>VBE0となり、ITrが指数関数的に増加して、電圧保持用コンデンサCHが「ITr−Ir」により充電される。ホールド端子電圧VHは「Vin−VBE0」まで増加していくので、入力電圧Vinのピーク値をxとすると、ホールド端子電圧VHはそのピーク値xに応じた値y(y=x−VBE0)となる(動作領域I)。この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は減少する。
ホールド端子電圧VHがいったんピーク値xに対応した値yに達し、入力電圧Vinがピーク値xから減少していくと、VBE<VBE0となり、ITrは指数関数的に減少し、電圧保持用コンデンサCHは、「Ir−ITr」により放電する。この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は増加する。しかし、「Ir−ITr」の値は非常に小さいので、ホールド端子電圧VHの減少は非常に緩やかであり、ホールド端子電圧VHはほぼyに近い値を保つ(動作領域II)。
再び入力電圧Vinが増加に転じ、VBE>VBE0となると、再び電圧保持用コンデンサCHは充電される(動作領域III)。この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は減少する。
このような過程の繰り返しにより、ホールド端子電圧VHは、ある一定時間内での入力信号Vinのピーク値に対応する電圧に到達する。
一方、平均値端子P6にはコンデンサCAと抵抗Rとからなるローパスフィルタにより、入力電圧Vinの平均値Vin0が出力されている。差動増幅器OPの反転入力端子P8には、トランジスタTraにより、入力電圧Vinの平均値Vin0からVBE0だけ低い電圧が反転入力電圧Vdcとして入力される。
従って、差動増幅器OPは、非反転入力電圧Vdt(ホールド端子電圧VH)と反転入力電圧Vdcとの差として「x−Vin0」を増幅して出力することになる。これにより、入力信号Vinの振幅値に応じた電圧として、出力電圧Voutが出力端子P5より出力されるものとなる。
また、このピーク検出回路104の回路構成では以下の効果も奏する。このピーク検出回路104を用いれば、入力信号Vinの大きさに依存して電源端子電圧(VCC)が変動することを抑圧することができるが、同一集積回路内の他の回路ブロックの影響により電源端子電圧(VCC)が変動する場合もある。このピーク検出回路104の構成では、電圧保持用コンデンサCHに蓄積されている電荷Qにより、電源端子電圧VCCとホールド端子電圧VHとの電圧の差が保持されるので、この場合、ホールド端子電圧VHの電圧は、電源端子電圧VCCと同様に一定の電圧の差をもって変動する。しかし、平均値端子電圧VAも、同様の機構により、電源端子電圧VCCと同様に一定の電圧の差をもって変動するので、差動増幅器OPの出力は電源端子電圧VCCの変動分が相殺される。このため、出力電圧Voutに、もはや電源端子電圧VCCの変動の影響は生じない、という利点が生じる。
〔実施の形態5〕
図12に本発明に係るピーク検出回路の第5の実施の形態(実施の形態5)の回路図を示す。この実施の形態5のピーク検出回路105は、第1のトランジスタTrh1と、第2のトランジスタTrh2、トランジスタTraと、第1の抵抗R1と、第2の抵抗R2と、電圧保持用コンデンサCHと、コンデンサCAと、差動増幅器OPとで構成されている。また、入力端子は、第1の入力端子P11と第2の入力端子P12とに分かれている。
このピーク検出回路105において、第1のトランジスタTrh1は、ベースが入力端子P11に接続され、コレクタが電源端子P2に接続され、エミッタがホールド端子P3に接続されている。第2のトランジスタTrh2は、ベースが入力端子P12に接続され、コレクタが電源端子P2に接続され、エミッタがホールド端子P3に接続されている。電圧保持用コンデンサCHは電源端子P2とホールド端子P3との間に接続されている。
第1の抵抗R1は入力端子P11と平均値端子P6との間に、第2の抵抗R2は入力端子P12と平均値端子P6との間に接続されており、抵抗R1とR2との抵抗値は等しくされている。コンデンサCAは電源端子P2と平均値端子P6との間に接続されている。すなわち、入力端子P11に抵抗R1の一端が接続され、入力端子P12に抵抗R2の一端が接続され、抵抗R1の他端と対向R2の他端との接続点と電源端子P2との間にコンデンサCAが接続されている。この抵抗R1およびR2とコンデンサCAとによってローパスフィルタが構成されている。
トランジスタTraはベースが平均値端子P6に接続され、コレクタが電源端子P2に接続されている。差動増幅器OPは、非反転入力端子P7と反転入力端子P8とを備え、非反転入力端子P7がホールド端子P3に接続され、反転入力端子P8がトランジスタTraのエミッタに接続されている。
トランジスタTraは平均値端子P6の電圧(平均値端子電圧)VAからVBE0だけ低い電圧をエミッタに出力する。差動増幅器OPは、ホールド端子電圧VHを非反転入力端子P7への電圧(非反転入力電圧)Vd1とし、トランジスタTraのエミッタの電圧とを反転入力端子P8への電圧(反転入力電圧)Vd2とし、非反転入力電圧Vd1と反転入力電圧Vd2との差をモニタして増幅し、出力端子P5に出力電圧Voutとして出力する。更に、出力端子P5側からの影響がホールド端子電圧VH、およびトランジスタTraのエミッタの電圧に及ばないようにする。
このピーク検出回路105には、ピーク検出回路103(図6)と同様に、入力信号として差動信号が入力される。この例では、第1の入力端子P11に差動信号の非反転信号Vtが入力され、第2の入力端子P12に差動信号の反転信号Vcが入力される。
このピーク検出回路105でも、ピーク検出回路103と同様に、非反転信号Vtが増加する場合に、ITr1は指数関数的に増加し、電圧保持用コンデンサCHが充電される。逆に、非反転信号Vtが減少する場合には、反転信号Vcが増加して、ITr2が指数関数的に増加し、電圧保持用コンデンサCHが充電される。
電流ITr1、電流ITr2のいずれも、電圧保持用コンデンサCHの正負電極間のみを流れ、電源端子P2や接地端子P4を介して回路外部に流れ出ることはない。このため、接地配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lg)や、電源配線のインピーダンス(主にインダクタンス成分:Lc)の影響により、電源端子P2の電圧(VCC)や接地端子P4の電圧(GND)が揺らぐことはない。
図13に動作波形を示す。図13(a)は差動信号(非反転信号Vtおよび反転信号Vc)の動作波形(差動入力電圧(非反転信号電圧Vt,反転信号電圧Vc)の動作波形)、図13(b)はホールド端子電圧VH(非反転入力電圧Vd1)の動作波形、図13(c)は平均値端子電圧VAおよび反転入力電圧Vd2の動作波形、図13(d)は出力電圧Voutの動作波形である。
図13(a)に示されるような差動信号(非反転信号Vtおよび反転信号Vc)を与えた場合、非反転信号電圧Vtが増加する過程では、トランジスタTrh1のVBEはVBE>VBE0となり、ITr1は指数関数的に増加する。他方、反転信号電圧Vcは減少するので、トランジスタTrh2のVBEはVBE<VBE0となり、ITr2は指数関数的に減少する。電圧保持用コンデンサCHは 「ITr1+ITr2−Ir」により充電されるが、主たる電流の寄与はITr1による。ホールド端子電圧VHは「Vt−VBE0」まで増加していくので、非反転信号電圧Vtがピーク値xに達すると、ホールド端子電圧VHはそのピーク値xに応じた値yとなる(動作領域I)。この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は減少する。
ホールド端子電圧VHがいったんピーク値xに対応した値yに達し、非反転信号電圧Vtがピーク値xから減少していくと、トランジスタTrh1、Trh2のいずれのVBEに対しても、VBE<VBE0となる状態となる。この状態では、電圧保持用コンデンサCHは、「Ir−ITr1−ITr2」により放電する。しかし、「Ir−ITr1−ITr2」の値は非常に小さいので、ホールド端子電圧VHの減少は非常に緩やかであり、ホールド端子電圧VHはほぼyに近い値を保つ(動作領域II)。この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は増加する。
更に非反転信号電圧Vtが減少していくと、ITr1は指数関数的に減少していくが、逆に反転信号電圧Vcは増加し、ITr2は指数関数的に増加していく。その結果、トランジスタTrh2のVBEがVBE>VBE0となると、電圧保持用コンデンサCHは「ITr1+ITr2−Ir」により再び充電される(動作領域III)。なお、この状態での主たる電流の寄与はITr2である。また、この場合、電圧保持用コンデンサCHの電荷Qの値は減少する。
このような過程の繰り返しにより、ホールド端子電圧VHは、ある一定時間内での入力信号(差動信号(Vt,Vc))のピーク値に対応する電圧に到達する。
一方、平均値端子P6にはコンデンサCAと抵抗R1およびR2とからなるローパスフィルタにより、非反転信号電圧Vtと反転信号電圧Vcの同相成分の平均値Vin0が出力されている。抵抗R1と抵抗R2の抵抗値を等しく選んでいるので、差動入力信号VtとVcの差動成分は平均値端子P6に影響を与えない。差動増幅器OPの反転入力端子P8には、トランジスタTraにより、非反転信号電圧Vtと反転信号電圧Vcの平均値Vin0からVBE0だけ低い電圧が反転入力電圧Vd2として入力される。
従って、差動増幅器OPは、非反転入力電圧Vd1(ホールド端子電圧VH)と反転入力電圧Vd2との差として「x−Vin0」を増幅して出力する。これにより、入力信号(差動信号(Vt,Vc))の振幅値に応じた電圧として、出力電圧Voutが出力端子P5より出力されるものとなる。
このピーク検出回路105では、ピーク検出回路103(図6)と同様に、非反転信号電圧Vtと反転信号電圧Vcの振幅値に応じたホールド端子電圧VHを出力する為、単相入力信号に比べ、2倍の頻度でピークホールド動作を行うことができ、ホールド端子電圧の収束が早いという利点がある。
また、このピーク検出回路105では、ピーク検出回路104(図8)と同様に、以下の効果も奏する。すなわち、このピーク検出回路105を用いれば、入力信号(差動信号(Vt,Vc))の大きさに依存して電源端子電圧(VCC)が変動することを抑圧することができるが、同一集積回路内の他の回路ブロックの影響により電源端子電圧(VCC)が変動する場合もある。このピーク検出回路105の構成では、電圧保持用コンデンサCHに蓄積されている電荷Qにより、電源端子電圧VCCとホールド端子電圧VHとの電圧の差が保持されるので、この場合、ホールド端子電圧VHの電圧は、電源端子電圧VCCと同様に一定の電圧の差をもって変動する。しかし、平均値端子電圧VAも、同様の機構により、電源端子電圧VCCと同様に一定の電圧の差をもって変動するので、差動増幅器OPの出力は電源端子電圧VCCの変動分が相殺される。このため、出力電圧Voutに、もはや電源端子電圧VCCの変動の影響は生じない、という利点が生じる。
以上の実施の形態の説明では、トランジスタTrhにNPNバイポーラトランジスタを用いた例を示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、Nチャネルのエンハンスメント型FETに置き換えても同様の効果を得ることができる。更に、NPNバイポーラトランジスタやNチャネルのエンハンスメント型FETを、PNPバイポーラトランジスタやPチャネルのエンハンスメント型FETに置き換え、電源端子の電圧の極性を正から負に置き換えても同様の効果を得ることができる。
また、トランジスタTrhの代わりに、バッファとダイオードの組み合わせを利用しても同様の効果を得ることができる。この場合、ダイオードは、ショットキー型ダイオード、PN接合型ダイオード、バイポーラトランジスタのいずれか2端子のPN接合を利用したダイオード、FETのゲートを利用したダイオード等を利用して実現することができる。また、ダイオードを利用することにより、NチャネルあるいはPチャンネルのディプリッション型FETを利用しても同様の効果が得られる回路を構成することができるようになる。
図14にPNPトランジスタを用いた場合の本発明に係るピーク検出回路の一例を示す。図15にダイオードを用いた場合の本発明に係るピーク検出回路の一例を示す。図16にNチャネルのディプリッション型FETを用いた場合の本発明に係るピーク検出回路の一例を示す。図17にNチャネルのディプリッション型FETを用いた場合の本発明に係るピーク検出回路の別の例を示す。図16のピーク検出回路ではダイオードD1を用いているが、図17のピーク検出回路では、ダイオードD1の代わりに、FETのゲートを利用したダイオードを使用している。
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。