以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
(1).トラクタの概略構造
まず、図1及び図2を参照しながら、作業車両の一例であるトラクタ141の概略構造について説明する。図1及び図2に示すように、トラクタ141の走行機体142は、左右一対の前車輪143と左右一対の後車輪144とで支持されている。走行機体142の前部に搭載したエンジン70にて後車輪144及び前車輪143を駆動することにより、トラクタ141は前後進走行するように構成される。エンジン70はボンネット146にて覆われる。また、走行機体142の上面にはキャビン147が設置されている。該キャビン147の内部には、操縦座席148と、かじ取りすることによって前車輪143の操向方向を左右に動かす操縦ハンドル149とが設置されている。キャビン147の外側部には、オペレータが乗降するステップ150が設けられ、該ステップ150より内側で且つキャビン147の底部より下側には、エンジン70に燃料を供給する燃料タンク151が設けられている。
図1及び図2に示すように、キャビン147内にある操縦ハンドル149は、操縦座席148の前方に位置する操縦コラム190上に設けられている。操縦コラム190の右方には、エンジン70の回転速度を設定保持するスロットルレバー197と、走行機体142を制動操作する左右一対のブレーキペダル191とが設けられている。操縦コラム190の左方には、走行機体142の進行方向を前進と後進とに切換操作するための前後進切換レバー198と、クラッチペダル192とが配置されている。操縦コラム190の背面側には、ブレーキペダル191を踏み込み位置に保持する駐車ブレーキレバー200が設けられている。
ブレーキペダル191の右方には、スロットルレバー197にて設定されたエンジン70の回転速度を下限回転速度として、これ以上の範囲にて回転速度を増減速させるアクセルペダル199が配置されている。操縦座席148の右側コラム上には、対地作業機としてのロータリ耕耘機164の高さ位置を手動で変更調節する作業機昇降レバー193、PTO変速レバー194、及び変速操作用の主変速レバー201等が配置されている。操縦座席148の左側コラム上には副変速レバー195が配置され、左側コラムの前方にはデフロックペダル196が配置されている。
図1及び図2に示すように、走行機体142は、前バンパ152及び前車軸ケース153を有するエンジンフレーム154と、エンジンフレーム154の後部にボルトにて着脱自在に固定する左右の機体フレーム156とにより構成される。機体フレーム156の後部には、エンジン70の駆動力を適宜変速して後車輪144及び前車輪143に伝達するためのミッションケース157が連結されている。後車輪144は、ミッションケース157の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース158を介して取り付けられている。ミッションケース157内には、エンジン70からの駆動力を変速する無段変速機159(図3及び図4参照)が設けられている。
ミッションケース157の後部上面には、ロータリ耕耘機164を昇降動する油圧式の作業機用昇降機構160が着脱可能に取り付けられている。ロータリ耕耘機164は、ミッションケース157の後部に、一対の左右ロワーリンク161及びトップリンク162からなる3点リンク機構を介して連結される。ミッションケース157の後側面には、ロータリ耕耘機164にPTO駆動力を伝達するためのPTO軸163が後ろ向きに突設されている。
図1及び図2に示すように、ロータリ耕耘機164の後部側には、散播用の播種機170が肥料散布機(図示省略)と交換可能に取り付けられている。播種機170は、種子を入れるタンク171と、タンク171内の種子を定量ずつ繰り出す繰出部172と、繰出部172の繰出ローラ(図示省略)を駆動する電動モータ173とを備えている。タンク171内の種子は、繰出部172からロータリ耕耘機164後方の既耕耘地面に散播される。なお、肥料散布機をロータリ耕耘機164に取り付けた場合は、肥料散布機の肥料(薬剤)がロータリ耕耘機164後方の既耕耘地面に散布されることになる。
(2).トラクタの油圧回路構造
次に、主に図3を参照しながら、トラクタ141の油圧回路210構造を説明する。トラクタ141の油圧回路210は、エンジン70の回転動力にて駆動する作業用油圧ポンプ204及び走行用油圧ポンプ205を備えている。作業用油圧ポンプ204及び走行用油圧ポンプ205は、ミッションケース157における前側壁部材222の前面側に設けられている(図4参照)。作業用油圧ポンプ204は、作業機用昇降機構160の昇降制御油圧シリンダ215に作動油を供給するための制御電磁弁211に接続されている。制御電磁弁211は、作業機昇降レバー193の操作にて切り換え作動可能に構成されている。作業機昇降レバー193にて制御電磁弁211を切り換え作動させると、昇降制御油圧シリンダ215が伸縮駆動して、作業機用昇降機構160と左右ロワーリンク161とをつなぐリフトアーム169(図1参照)を昇降回動させる。その結果、ロワーリンク161を介してロータリ耕耘機164が昇降動することになる。
走行用油圧ポンプ205は、ミッションケース157の無段変速機159及びパワーステアリング用の油圧シリンダ203に作動油を供給するものである。この場合、ミッションケース17は作動油タンクとしても利用されていて、ミッションケース157内部の作動油が各油圧ポンプ204,205に供給される。走行用油圧ポンプ205は、パワーステアリング用のコントロール弁212を介してパワーステアリング用の油圧シリンダ203に接続されている一方、左右一対のブレーキ作動機構245用のブレーキシリンダ247に対するオートブレーキ電磁弁246にも接続されている。
更に、走行用油圧ポンプ205は、PTO変速機構228のPTOクラッチ248を作動させるPTOクラッチ油圧電磁弁249と、無段変速機159に対する比例制御弁213及び始動用電磁弁217並びにこれらにて作動する切換弁214と、副変速機構227の副変速油圧シリンダ250を作動させる高速クラッチ電磁弁251と、前後進切換機構226の前進用油圧クラッチ252に対する前進用クラッチ電磁弁253と、後進用油圧クラッチ254に対する後進用クラッチ電磁弁255と、二駆四駆切換機構229の四駆用油圧クラッチ256に対する四駆油圧電磁弁257と、倍速用油圧クラッチ258に対する倍速油圧電磁弁259とに接続されている。
PTOクラッチ油圧電磁弁249、前進用クラッチ電磁弁253、後進用クラッチ電磁弁255、四駆油圧電磁弁257、及び倍速油圧電磁弁259は、これらを適宜制御して各々に対応するクラッチシリンダを作動させることによって、各油圧クラッチ248,252,254,256,258を切換駆動させるように構成されている。なお、油圧回路210は、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁、オイルクーラ、オイルフィルタ等も備えている。
(3).トラクタの動力伝達系統
次に、主に図4を参照しながら、トラクタ141の動力伝達系統を説明する。中空箱形に形成されたミッションケース157の前面には前側壁部材222が、後面には後側壁部材223が着脱自在に固定されている。ミッションケース157の内部は仕切壁221によって前室224と後室225とに分けられている。図示は省略するが、前室224と後室225とは内部の作動油が相互に移動し得るように連通している。ミッションケース157の前室224側には、無段変速機159からの回転動力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構226と、前後進切換機構226を経由した回転動力を変速する機械式の副変速機構227と、エンジン70からの回転動力を適宜変速してPTO軸163に伝達するPTO変速機構228と、前後車輪143,144の二駆と四駆とを切り換える二駆四駆切換機構229とが配置されている。また、後室225側には、無段変速機159と、副変速機構227を経由した回転動力を左右の後車輪144に伝達する差動ギヤ機構230とが配置されている。
エンジン70から後ろ向きに突出するエンジン出力軸74には、フライホイール231が直結するように取り付けられている。フライホイール231とこれから後ろ向きに延びる主動軸232とは、動力継断用のメインクラッチ233を介して連結されている。主動軸232とミッションケース157から前向きに突出する主変速入力軸234とは、両端に自在軸継手を備えた動力伝達軸235を介して連結されている。エンジン70の回転動力は、エンジン出力軸74から主動軸232及び動力伝達軸235を介して主変速入力軸234に伝達され、次いで、無段変速機159及び副変速機構227によって適宜変速される。該変速動力が差動ギヤ機構230を介して左右の後車輪144に伝達される。無段変速機159及び副変速機構227による変速動力は、二駆四駆切換機構229及び前車軸ケース153内の差動ギヤ機構236を介して、左右の前車輪153にも伝達される。
後室225の内部にある無段変速機159は、主変速入力軸234に主変速出力軸237を同心状に配置したインライン方式のものであり、可変容量形の油圧ポンプ部240と、該油圧ポンプ部240から吐出される高圧の作動油にて作動する定容量形の変速用油圧モータ部241とを備えている。油圧ポンプ部240には、主変速入力軸234の軸線に対して傾斜角を変更可能してその作動油供給量を調節するポンプ斜板242が設けられている。ポンプ斜板242には、主変速入力軸234の軸線に対するポンプ斜板242の傾斜角を変更調節する主変速油圧シリンダ243を関連させている。主変速油圧シリンダ243の駆動にてポンプ斜板242の傾斜角を変更することによって、油圧ポンプ部240から油圧モータ部241に供給される作動油量が変更調節され、無段変速機159の主変速動作が行われる。
すなわち、主変速レバー201の操作量に比例して作動する比例制御弁213からの作動油にて切換弁214が作動すると、主変速油圧シリンダ190が駆動し、これに伴い主変速入力軸234の軸線に対するポンプ斜板242の傾斜角が変更される。実施形態のポンプ斜板242は、傾斜略零(零を含むその前後)の中立角度を挟んで一方(正)の最大傾斜角度と他方(負)の最大傾斜角度との間の範囲で角度調節可能であり、且つ、走行機体142の車速が最低のときにいずれか一方に傾斜した角度(この場合は負で且つ最大付近の傾斜角度)になるように設定されている(図5参照)。
ポンプ斜板242の傾斜角が略零(中立角度)のときは、油圧ポンプ部240にて油圧モータ部241が駆動されず、主変速入力軸234と略同一回転速度にて主変速出力軸237が回転する。主変速入力軸234の軸線に対してポンプ斜板242を一方向(正の傾斜角)側に傾斜させたときは、油圧ポンプ部240が油圧モータ部241を増速作動させ、主変速入力軸234より速い回転速度で主変速出力軸237が回転する。その結果、主変速入力軸234の回転速度に油圧モータ部241の回転速度が加算されて、主変速出力軸237に伝達される。このため、主変速入力軸234の回転速度より高い回転速度の範囲で、ポンプ斜板242の傾斜角(正の傾斜角)に比例して、主変速出力軸237からの変速動力(車速)が変更される。ポンプ斜板242が正で且つ最大付近の傾斜角度のときに、走行機体142は最高車速になる(図5の白抜き四角箇所参照)。
主変速入力軸234の軸線に対してポンプ斜板242を他方向(負の傾斜角)側に傾斜させたときは、油圧ポンプ部240が油圧モータ部241を減速(逆転)作動させ、主変速入力軸234より低い回転速度で主変速出力軸237が回転する。その結果、主変速入力軸234の回転速度から油圧モータ部241の回転速度が減算されて、主変速出力軸237に伝達される。このため、主変速入力軸234の回転速度より低い回転速度の範囲で、ポンプ斜板242の傾斜角(負の傾斜角)に比例して、主変速出力軸237からの変速動力が変更される。ポンプ斜板242が負で且つ最大付近の傾斜角度のときに、走行機体142は最低車速になる(図5の白抜き丸箇所参照)。
なお、実施形態では、後述する作業機(変速)コントローラ271の指令にて作動する始動用電磁弁217からの作動油にて切換弁214を作動させると、主変速レバー201の操作位置に拘らず、主変速油圧シリンダ243が駆動し、これに伴い主変速入力軸234の軸線に対するポンプ斜板242の傾斜角が変更される。
(4).エンジン及びその周辺の構造
次に、図6及び図7を参照して、エンジン70及びその周辺の構造を説明する。図6に示すように、エンジン70は4気筒型のディーゼルエンジンであり、上面にシリンダヘッド72が締結されたシリンダブロック75を備えている。シリンダヘッド72の一側面には吸気マニホールド73が接続されており、他側面には排気マニホールド71が接続されている。シリンダブロック75の側面のうち吸気マニホールド73の下方には、エンジン70の各気筒に燃料を供給するコモンレール装置117が設けられている。吸気マニホールド73の吸気上流側に接続された吸気管76には、エンジン70の吸気圧(吸気量)を調節するための吸気絞り装置81とエアクリーナ(図示省略)とが接続される。
図7に示すように、エンジン70における4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレール装置117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118が接続される。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレール装置117は円筒状のコモンレール120を備えている。燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続されている。燃料タンク118内の燃料が燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料供給ポンプ116に吸い込まれる。実施形態の燃料供給ポンプ116は吸気マニホールド73の近傍に配置されている。一方、燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続されている。コモンレール120には、4本の燃料噴射管126を介して、4気筒分のインジェクタ115が接続されている。
上記の構成において、燃料タンク118の燃料は燃料供給ポンプ116によってコモンレール120に圧送され、高圧の燃料がコモンレール120に蓄えられる。各燃料噴射バルブ119がそれぞれ開閉制御されることによって、コモンレール120内の高圧の燃料が各インジェクタ115からエンジン70の各気筒に噴射される。すなわち、各燃料噴射バルブ119を電子制御することによって、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。従って、エンジン70からの窒素酸化物(NOx)を低減できると共に、エンジン70の騒音振動を低減できる。
図9に示すように、コモンレール装置117は、上死点(TDC)を挟む付近でメイン噴射Aを実行するように構成されている。また、コモンレール装置117は、メイン噴射A以外に、上死点より約60°以前のクランク角度θ1の時期に、NOx及び騒音の低減を目的として少量のパイロット噴射Bを実行したり、上死点直前のクランク角度θ2の時期に、騒音低減を目的としてプレ噴射Cを実行したり、上死点後のクランク角度θ3及びθ4の時期に、粒子状物質(以下、PMという)の低減や排気ガスの浄化促進を目的としてアフタ噴射D及びポスト噴射Eを実行したりするように構成されている。
パイロット噴射Bは、メイン噴射Aに対して大きく進角した時期に噴射することによって、燃料と空気との混合を促進させるものである。プレ噴射Cは、メイン噴射Aに先立って噴射することによって、メイン噴射Aでの着火時期の遅れを短縮するものである。アフタ噴射Dは、メイン噴射Aに対して近接した時期に噴射することによって、拡散燃焼を活性化させPMを再燃焼させる(PMを低減する)ものである。ポスト噴射Eは、メイン噴射Aに対して大きく遅角した時期に噴射することによって、実際の燃焼過程に寄与せずに未燃焼の燃料として後述するDPF50に供給するものである。DPF50に供給された未燃焼の燃料は後述するディーゼル酸化触媒53上で反応し、その反応熱によってDPF50内の排気ガス温度が上昇することになる。図9におけるグラフの山の高低は、大まかに言って各噴射段階A〜Eでの燃料噴射量の差異を表現している。
なお、図7に示すように、燃料タンク118には、燃料戻り管129を介して燃料供給ポンプ116が接続されている。円筒状のコモンレール120の長手方向の端部に、コモンレール120内の燃料の圧力を制限する戻り管コネクタ130を介して、コモンレール戻り管131が接続されている。すなわち、燃料供給ポンプ116の余剰燃料とコモンレール120の余剰燃料とが、燃料戻り管129及びコモンレール戻り管131を介して燃料タンク118に回収されることになる。
排気マニホールド71の排気下流側に接続された排気管77には、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82と、排気ガス浄化装置の一例であるDPF50(ディーゼルパティキュレートフィルタ)とが接続される。各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、排気管77、排気絞り装置82及びDPF50を経由して浄化処理をされてから外部に放出される。
図6に示すように、DPF50は、排気ガス中のPM等を捕集するためのものである。実施形態のDPF50は、耐熱金属材料製のケーシング51内にある略筒型のフィルタケース52に、例えば白金等のディーゼル酸化触媒53とスートフィルタ54とを直列に並べて収容したものである。フィルタケース52の排気上流側にディーゼル酸化触媒53が配置され、排気下流側にスートフィルタ54が配置される。スートフィルタ54は、排気ガスをろ過可能な多孔質隔壁にて区画された多数のセルを有するハニカム構造に構成されている。
ケーシング51の一側部には、排気管77のうち排気絞り装置82の排気下流側に連通する排気導入口55が設けられている。前記ケーシング51の一側部と、フィルタケース52の一側部は第1側壁板56及び第2側壁板57にて塞がれている。ケーシング51の他側部は第1蓋板59及び第2蓋板60にて塞がれている。両蓋板59,60の間は、フィルタケース52内に複数の連通管62を介して連通する排気音減衰室63に構成されている。また、第2蓋板60を略筒型の排気出口管61が貫通している。排気出口管61の外周面には、排気音減衰室63に向けて開口する複数の連通穴58が形成されている。排気出口管61及び排気音減衰室63等によって消音器64を構成している。
ケーシング51の一側部に形成された排気導入口55には排気ガス導入管65が挿入されている。排気ガス導入管65の先端は、ケーシング51を横断して排気導入口55と反対側の側面に突出している。排気ガス導入管65の外周面には、フィルタケース52に向けて開口する複数の連通穴66が形成されている。排気ガス導入管65のうち排気導入口55と反対側の側面に突出する部分は、これに着脱可能に螺着された蓋体67にて塞がれている。
DPF50には、検出手段の一例として、スートフィルタ54の詰まり状態を検出するDPF差圧センサ68が設けられている。DPF差圧センサ68は、DPF50内におけるスートフィルタ54の上流側と下流側との各排気圧の圧力差(入口側と出口側との排気ガス差圧)を検出するものである。この場合、排気ガス導入管65の蓋体67に、DPF差圧センサ68を構成する上流側排気圧センサ68aが装着され、スートフィルタ54と排気音減衰室63との間に、下流側排気圧センサ68bが装着されている。
なお、DPF50の上下流間の圧力差と、スートフィルタ54(DPF50)内のPM堆積量との間に特定の関連性があるから、DPF差圧センサ68にて検出される圧力差に基づき、DPF50内のPM堆積量が演算にて求められる。そして、PM堆積量の演算結果に基づき、吸気絞り装置81、排気絞り装置82、又はコモンレール120を作動制御することにより、スートフィルタ54(DPF50)の再生制御が実行される。
上記の構成において、エンジン70からの排気ガスは、排気導入口55を介して排気ガス導入管65に入って、排気ガス導入管65に形成された各連通穴66からフィルタケース52内に噴出し、ディーゼル酸化触媒53からスートフィルタ54の順に通過して浄化処理される。排気ガス中のPMは、スートフィルタ54(各セル間の多孔質隔壁)に捕集される。ディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過した排気ガスは、消音器64を介して排気出口管61から機外に放出される。
排気ガスがディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過するに際して、排気ガス温度が再生可能温度(例えば約250〜300℃)を超えていれば、ディーゼル酸化触媒53の作用によって、排気ガス中のNO(一酸化窒素)が不安定なNO2(二酸化窒素)に酸化される。そして、NO2がNOに戻る際に放出するO(酸素)にて、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去することにより、スートフィルタ54のPM捕集能力が回復する。すなわち、スートフィルタ54(DPF50)が再生する。
(5).エンジンの制御関連の構成
次に、図7及び図8等を参照しながら、エンジン70の制御関連の構成を説明する。図7及び図8に示すように、トラクタ141は、制御手段として、エンジン70における各気筒の燃料噴射バルブ119を作動させるECU11と、作業機(変速)コントローラ271とを備えている。ECU11は、各種演算処理や制御を実行するCPU31、各種データを予め固定的に記憶させたROM32、制御プログラムや各種データを書換可能に記憶するEEPROM33、制御プログラムや各種データを一時的に記憶するRAM34、時間計測用のタイマ35、及び入出力インターフェイス等を有している。作業機コントローラ271もECU11と同様に、CPU281、ROM282、EEPROM283、RAM284、タイマ285及び入出力インターフェイス等を有している。
制御手段であるECU11及び作業機コントローラ271は、目安として、入出力系機器のハーネスの長さがなるべく短くなるように組み合せてそれらを制御するようにしており、それぞれの配置箇所でコントローラボックス(図示省略)内に格納されている。ECU11と作業機コントローラ271とは互いにCAN通信バス272を介して電気的に接続されている。実施形態のECU11は、エンジン70又はその近傍に配置される(図2参照)。作業機コントローラ271は、例えばキャビン147内における操縦座席148の下方に配置される(図2参照)。なお、制御手段は3つ以上を通信バスを介して接続する構成でもよい。後述する各入出力系機器はいずれの制御手段に接続されてもよい。
ECU11の入力側には、少なくともコモンレール120内の燃料圧力を検出するレール圧センサ12、燃料ポンプ116を回転又は停止させる電磁クラッチ13、エンジン70の回転速度(エンジン出力軸74のカムシャフト位置)を検出する回転速度検出手段としてのエンジン速度センサ14、インジェクタ115の燃料噴射回数(1行程の燃料噴射期間中の回数)を検出及び設定する噴射設定器15、吸気系の吸気ガス温度を検出する吸気温度センサ17、排気系の排気ガス温度を検出する排気温度センサ18、エンジン70の冷却水温度を検出する冷却水温度センサ19、コモンレール120内の燃料温度を検出する燃料温度センサ20、並びに、DPF差圧センサ68(上流側排気圧センサ68a及び下流側排気圧センサ68b)等が接続されている。
ECU11の出力側には、エンジン4気筒分の各燃料噴射バルブ119の電磁ソレノイドがそれぞれ接続されている。すなわち、コモンレール120に蓄えた高圧燃料が燃料噴射圧力、噴射時期及び噴射期間等を制御しながら、1行程中に複数回に分けて燃料噴射バルブ119から噴射されることによって、窒素酸化物(NOx)の発生を抑えると共に、すすや二酸化炭素等の発生も低減した完全燃焼を実行し、燃費を向上させるように構成されている。また、ECU11の出力側には、エンジン70の吸気圧(吸気量)を調節するための吸気絞り装置81、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82、ECU11の故障を警告報知するECU故障ランプ22、DPF50内における排気ガス温度の異常高温を報知する排気温度警告ランプ23、及び、DPF50再生動作に伴い点灯する再生ランプ24等が接続されている。
図8に示すように、作業機コントローラ271には、出力関連の各種電磁弁、すなわち前進用油圧クラッチ252に対する前進用クラッチ電磁弁253、後進用油圧クラッチ254に対する後進用クラッチ電磁弁255、副変速油圧シリンダ250に対する高速クラッチ電磁弁251、主変速レバー201の操作量に比例して主変速油圧シリンダ243を作動させる比例制御弁213と、四駆用油圧クラッチ256に対する四駆油圧電磁弁257、倍速用油圧クラッチ258に対する倍速油圧電磁弁259、左右のオートブレーキ電磁弁246、PTOクラッチ248に対するPTOクラッチ油圧電磁弁249、及び、作業機用昇降機構160の昇降制御油圧シリンダ215に作動油を供給する制御電磁弁211等が接続されている。
更に、作業機コントローラ271には、入力関連の各種センサ及びスイッチ類、すなわち操縦ハンドル149の回動操作量(操舵角度)を検出する操舵ポテンショ290、前後進切換レバー198の操作位置から前進用及び後進用油圧クラッチ252,254の入り切り状態を検出する前後進ポテンショ291、主変速出力軸237の出力回転速度を検出する主変速出力軸回転センサ292、スロットルレバー197の操作位置を検出するスロットル位置センサ16、前後四輪143,144の回転速度(車速)を検出する車速センサ25、四駆油圧電磁弁257を切換操作する四駆モードスイッチ293、倍速油圧電磁弁259を切換操作する倍速モードスイッチ294、ブレーキペダル191の踏み込みの有無を検出するブレーキペダルスイッチ295、オートブレーキ電磁弁246を切換操作するオートブレーキスイッチ296、主変速レバー201の操作位置を検出する主変速ポテンショ297、副変速レバー195の操作位置を検出する副変速レバーセンサ298、並びに、エンジン70の最低回転速度Naを設定する最低回転速度ダイヤル27等が電気的に接続されている。
ここで、最低回転速度ダイヤル27は、その摘みの位置を連続的(アナログ的)又は段階的(デジタル的)に変更調節して、最低回転速度Naがエンジン70固有のローアイドル回転速度Nlowよりも大きくなる範囲において任意に調節し得るように構成されている。スロットルレバー197を最低速側に操作した場合の回転速度Nは、最低回転速度ダイヤル27にて設定された最低回転速度Naとなる。
以上の説明から分かるように、走行機体142に搭載されたエンジン70と、該エンジン70に燃料を噴射するコモンレール式の燃料噴射装置117とを備えている作業車両141において、前記エンジン70の最低回転速度Naが、前記エンジン70固有のローアイドル回転速度Nlowよりも大きくなる範囲において変更可能になっているから、前記エンジン70と同排気量のものに比べて高い出力馬力を簡単に確保できる。逆の見方をすれば、前記エンジン70と同出力馬力のものに比べて低排気量のエンジンにできる。従って、前記エンジン70のダウンサイジングを簡単に実現できるという効果を奏する。その上、出力馬力確保のために過給機を必要としないから、部品コストも抑制できるという効果を奏する。
ECU11のEEPROM33若しくは作業機コントローラ271のEEPROM283には、エンジン70の回転速度NとトルクTとの関係を示す出力特性マップM(図10参照)が予め記憶されている。出力特性マップMは実験等にて求められる。図10に示す出力特性マップMでは、回転速度Nを横軸に、トルクTを縦軸に採っている。出力特性マップMは、上向き凸に描かれた実線Tmxで囲まれた領域である。実線Tmxは、各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大トルク線である。
ECU11は基本的に、エンジン速度センサ14にて検出される回転速度と各インジェクタ115の噴射圧・噴射期間とからエンジン70のトルクTを求め、トルクTと出力特性マップMとを用いて目標燃料噴射量を演算し、該演算結果に基づきコモンレール装置117を作動させる燃料噴射制御を実行するように構成されている。なお、コモンレール装置117の燃料噴射量は、各燃料噴射バルブ119の開弁期間を調節して、各インジェクタ115の噴射期間を変更することによって調節される。
(6).燃料噴射制御の第1実施例
次に、図10及び図11を参照しながら、ECU11による燃料噴射制御の第1実施例について説明する。第1実施例では、エンジン70の回転速度Nを2種類N#1,N#2のみに限定していて、回転速度Nを前記2種類N#1,N#2のいずれに変更しても、変更前後で走行機体142の車速Vを変更しないように、無段変速機159の変速比を変更調節する回転速度限定制御を、ECU11が実行する構成になっている。
回転速度限定制御は例えば図11のフローチャートに示すように実行される。すなわち、エンジン速度センサ14の検出値を読み込んで、現時点の回転速度Nが低速側N#1か否かを判別する(S201)。低速側N#1でなければ(S201:NO)、エンジン70の回転速度Nが低速側N#1となるようにコモンレール装置117の燃料噴射量を調節し(S202)、その後ステップS201に戻る。
ステップS201において低速側N#1であれば(S201:YES)、スロットル位置センサ16の検出値(現時点のトルクTx)を読み込んで、回転速度N#1、トルクTx及び出力特性マップMとから、現時点のエンジン負荷率LFxを算出し(S203)、該現時点のエンジン負荷率LFxが所定値Xを超えるか否かを判別する(S204)。ここで、エンジン負荷率とは、任意の回転速度Nでの最大トルクT(最大エンジン負荷)に対する比率のことを言う。
現時点のエンジン負荷率LFxが所定値X以下であれば(S204:NO)、ステップS201に戻る。所定値Xを超えている場合は(S204:YES)、エンジン70の回転速度Nが高速側N#2となるようにコモンレール装置117の燃料噴射量を調節する(S205)。次いで、車速センサ25の検出値Vx(車速)を読み込んで、車速Vxが回転速度変更前のままか否かを判別する(S206)。車速Vxが変わっていれば(S206:NO)、走行機体142の車速を回転速度変更前に戻すべく、ミッションケース157における無段変速機159の変速比を変更調節し(S207)、ステップS206に戻る。
ステップS206において車速Vxが回転速度変更前のままで維持されていれば(S206:YES)、次いで、エンジン速度センサ14の検出値を読み込んで、現時点の回転速度Nが高速側N#2か否かを判別する(S208)。高速側N#2でなければ(S208:NO)、エンジン70の回転速度Nが高速側N#2となるようにコモンレール装置117の燃料噴射量を調節し(S209)、その後ステップS208に戻る。
ステップS208において高速側N#2であれば(S208:YES)、スロットル位置センサ16の検出値(現時点のトルクTy)を読み込んで、回転速度N#2、トルクTy及び出力特性マップMとから、現時点のエンジン負荷率LFyを算出し(S210)、該現時点のエンジン負荷率LFyが所定値Y未満か否かを判別する(S211)。現時点のエンジン負荷率LFyが所定値Y以上であれば(S211:NO)、ステップS206に戻る。所定値Y未満の場合は(S211:YES)、エンジン70の回転速度Nが低速側N#1となるようにコモンレール装置117の燃料噴射量を調節し(S212)、ステップS201に戻る。
上記の制御によると、走行機体142に搭載されたエンジン70と、該エンジン70に燃料を噴射するコモンレール式の燃料噴射装置117とを備えている作業車両141において、前記エンジン70の回転速度Nを2種類N#1,N#2のみに限定しているから、出力トルクの小さい低回転域を使用しない前記エンジン70にでき、前記エンジン70と同排気量のものに比べて高い出力馬力を簡単に確保できる。逆の見方をすれば、前記エンジン70と同出力馬力のものに比べて低排気量のエンジン70にできる。従って、前記エンジン70のダウンサイジングを簡単に実現できるという効果を奏する。
特に、前記エンジン70の回転速度Nを前記2種類N#1,N#2のいずれに変更しても、変更前後で前記走行機体142の車速を変更しないように、前記無段変速機159の変速比を変更調節するから、例えば前記回転速度Nを低速側N#1にしたり高速側N#2にしたりしても、前記走行機体の車速を回転速度変更前のままで維持できる。このため、前記エンジン70の回転速度変更による違和感をなくせるという効果を奏する。
(7).燃料噴射制御の第2実施例
次に、図12〜図16を参照しながら、ECU11による燃料噴射制御の第2実施例について説明する。走行機体142を停止させた状態では原則として、ECU11は、エンジン速度センサ14にて検出された回転速度Nが最低回転速度ダイヤル27にて予め設定された最低回転速度Naと一致するように、コモンレール装置117の燃料噴射量をフィードバック制御している。また、停止状態以外では、ECU11は、エンジン70の回転速度Nがスロットルレバー197の操作位置に対応した回転速度と一致するように、コモンレール装置117の燃料噴射量をフィードバック制御している。
図12の出力特性マップMには一連の等燃費率曲線FLが表されている。等燃費率曲線FLは等しい燃費率の点を結んだ等高線のような曲線であり、内周側ほど燃費の少ない、いわゆる燃費のよい状態を表している。この場合の等燃費率曲線FLによると、エンジン70の高速高トルク側に最良燃費領域が存在することになる。図12の出力特性マップM中には等燃費率曲線FLを破線で示している。出力特性マップMには、エンジン70の燃費率が最も良好な点を結んだ最適燃費線FSも表されている。エンジン70の回転速度N及びトルクTに関するエンジン運転点Qを最適燃費線FSに沿わせるように燃料噴射量を変更調節することによって、エンジン70の低燃費運転を実現できる。図12の出力特性マップM中には最適燃費線FSを一点鎖線で示している。
出力特性マップMには一連の等出力線PLも表されている。等出力線PLは、エンジン70の出力馬力を一定とした場合の回転速度NとトルクTとの関係を示す線である。回転速度NとトルクTとの積は出力馬力と比例関係にあることから、図12の出力特性マップMには、等出力線PLが反比例曲線として表れている。図12の出力特性マップM中には等出力線PLを二点鎖線で示している。
ECU11は、燃料噴射制御の一例として、ローアイドル回転速度Nlowよりも大きい最低回転速度Naを設定した場合に、走行機体142の最低車速Vlow(クリープ速度)をローアイドル回転速度Nlowのときのままで変更しないように、無段変速機159の変速比を変更調節する最低車速制御を実行可能に構成されている。また、ECU11は、エンジン運転点Qが予め設定された最適燃費線FS上から外れている場合は、エンジン運転点Qを最適燃費線FS上に移行させると共に、走行機体142の車速Vを変更しないように、無段変速機159の変速比を変更調節する最適燃費制御も実行可能に構成されている。図13〜図16のフローチャートにて示すアルゴリズムはEEPROM33に記憶されている。該アルゴリズムをRAM34に呼び出してからCPU31にて処理することによって、最低車速制御及び最適燃費制御が実行されることになる。
最低車速制御は例えば次のように実行される(図13参照)。ここで、最低回転速度ダイヤル27の設定値は、ローアイドル回転速度Nlowよりも大きい最低回転速度Naであり、スロットルレバー197を最低速側に操作した場合におけるエンジン70の最低回転速度が設定値Naであるものとする。まず始めにブレーキペダル191が作動中か否かを判別し(S01)、作動中でなければ(S01:NO)、エンジン速度センサ14の検出値と、ROM32又はEEPROM33に予め記憶させたローアイドル回転速度Nlowのときの最低車速Vlowとを読み込む(S02)。次いで、スロットル位置センサ16がオフで(S03:オフ)、且つ、エンジン速度センサ14の検出値が最低回転速度ダイヤル27の設定値Naになっていれば(S04:YES)、次いで、走行機体142の最低車速をローアイドル回転速度Nlowのときの最低車速Vlowのままで変更しないように、ミッションケース157における無段変速機159の変速比を変更調節する(S05、変速比制御)。
最低車速制御中の変速比制御(ステップS05の変速比制御)は、例えば図14のフローチャートに示すように実行される。すなわち、現時点における車速センサ25の検出値V1(車速)を読み込み(S101)、ステップS02で読み込んだ最低車速Vlowより現時点の車速V1の方が大きい場合は(S102:YES)、無段変速機159の変速比を減少させ(S103)、ステップS102に戻る。最低車速Vlowより現時点の車速V1の方が小さい場合は(S104:YES)、無段変速機159の変速比を増加させ(S105)、ステップS102に戻る。最低車速Vlowと現時点の車速V1とが同じならば(S104:NO)、その状態を維持してリターンする。
以上の説明から分かるように、前記エンジン70からの動力を変速する無段変速機159を備えており、前記最低回転速度Naを前記ローアイドル回転速度Nlowよりも大きい値に設定した場合は、前記走行機体142の最低車速を前記ローアイドル回転速度Nlowのときのまま(Vlow)で変更しないように、前記無段変速機159の変速比を変更調節するから、前記最低回転速度Naを前記ローアイドル回転速度Nlowより高くしたとしても、前記走行機体142の最低車速(クリープ速度)が速くならずに、前記ローアイドル回転速度Nlowのときのまま(Vlow)で維持できることになる。このため、低速走行時において、前記エンジン70と同排気量のものを搭載した作業車両141と変わらない走行性能(違和感のない車速)が得られるという効果を奏する。
図15に示す最適燃費制御は例えば次のように実行される。すなわち、エンジン速度センサ14の検出値(現時点の回転速度N1)と、スロットル位置センサ16の検出値(現時点のトルクT1)とを読み込み(S11)、出力特性マップMを用いて現時点のエンジン運転点Q1を求め(S12)、現時点のエンジン運転点Q1が最適燃費線FS上にあるか否かを判別する(S13)。現時点のエンジン運転点Q1が最適燃費線FS上から外れていれば(S13:NO)、現時点のエンジン運転点Q1と、出力特性マップMの最適燃費線FS及び等出力線PLとの関係から、現時点のエンジン運転点Q1と出力馬力が同じで且つ最適燃費線FS上にある目標エンジン運転点Q2が存在するか否かを求める(S14)。現時点のエンジン運転点Q1と目標エンジン運転点Q2とは出力馬力が同じであるから、共通の等出力線PL上に位置することになる。
目標エンジン運転点Q2があれば(S14:YES)、現時点における車速センサ25の検出値(車速V1)と、主変速出力軸237の回転速度R1とを読み込んだのち(S15)、コモンレール装置117の燃料噴射量を調節して、エンジン運転点を現時点のQ1から目標エンジン運転点Q2に移行させる(S16)。そして、作業機コントローラ271からの指令にて比例制御弁213の印加電圧を補正することにより、主変速油圧シリンダ243を作動させて油圧ポンプ部240におけるポンプ斜板242の傾斜角を変更調節し、油圧モータ部241への作動油供給量を制御して、主変速出力軸237の回転速度RをステップS06での検出値R1のままに維持するように無段変速機159の変速比を変更調節する(変速比制御、S17)。ここで、変速比とは、エンジン70の回転速度Nに対する主変速出力軸237の回転速度Rの比率(R/N)をいう。
最適燃費制御中の変速比制御(ステップS17の変速比制御)は、基本的に最低車速制御中の変速比制御と同じ態様であり、例えば図16のフローチャートに示すように実行される。すなわち、エンジン運転点Q2に移行した後の車速V2を読み込み(S111)、ステップS15で読み込んだ移行前車速V1より移行後車速V2の方が大きい場合は(S112:YES)、主変速出力軸237の回転速度RがステップS06での検出値R1となるように無段変速機159の変速比を減少させ(S113)、ステップS112に戻る。移行前車速V1より移行後車速V2の方が小さい場合は(S114:YES)、主変速出力軸237の回転速度RがステップS15での検出値R1となるように無段変速機159の変速比を増加させ(S115)、ステップS112に戻る。移行前車速V1と移行後車速V2とが同じならば(S114:NO)、その状態を維持してリターンするのである。
以上の説明から分かるように、前記エンジン70の回転速度N及びトルクTに関するエンジン運転点Qが予め設定された最適燃費線FS上から外れている場合は、前記エンジン運転点Qを前記最適燃費線FS上に移行させると共に、前記走行機体142の車速Vを変更しないように、前記無段変速機159の変速比を変更調節するから、低燃費運転を実行するものでありながら、前記回転速度Nの変化に伴う前記車速V変動を確実に防止できる。従って、前記作業車両141において、安定した走行性能が得られるという効果を奏する。
図17及び図18は燃料噴射制御の別例を示している。該別例は、エンジン70が過負荷又はそれに近い状態にある場合に、出力馬力が同じ高速低トルク側の目標エンジン運転点Q2′に移行させることによって、エンジン負荷率LFを低下させてエンジン70を効率よく駆動させ、将来の排気ガス規制強化にも的確に対処するものである。
燃料噴射制御の別例は例えば次のように実行される(図18参照)。ここで、エンジン70は、負荷変動に拘らず回転速度Nを一定に維持するアイソクロナス制御をなされており、その回転速度Nはスロットルレバー197にて回転速度N1′(図17参照)に固定されているものとする。なお、アイソクロナス制御時は、スロットルレバー197にてエンジン70の回転速度N1′が決められると、これに対応して高速側の回転速度N2′が自動的に設定される。
まず始めに、エンジン速度センサ14の検出値(現時点の回転速度N1′)と、スロットル位置センサ16の検出値(現時点のトルクT1′)とを読み込み(S21)、これら検出値N1,T1と出力特性マップMとを用いて現時点のエンジン負荷率LF1′を算出し(S22)、該現時点のエンジン負荷率LF1′が所定値X以上か否かを判別する(S23)。
現時点のエンジン負荷率LF1′が所定値X以上であれば(S23:YES)、現時点のエンジン運転点Q1′と、出力特性マップMの等出力線PLと、高速側の回転速度N2′との関係から、現時点のエンジン運転点Q1′と出力馬力が同じで且つエンジン負荷率LFが所定値Xより小さい高速低トルク側の目標エンジン運転点Q2′を求める(S24)。その後、現時点における車速センサ25の検出値(車速V1′)と、主変速出力軸237の回転速度R1′とを読み込み(S25)、コモンレール装置117の燃料噴射量を調節して、エンジン運転点を現時点のQ1′から目標エンジン運転点Q2′に移行させ、回転速度を上昇させる(N1′→N2′、S26)。そして、作業機コントローラ271からの指令にて比例制御弁213の印加電圧を補正することにより、主変速油圧シリンダ243を作動させて油圧ポンプ部240におけるポンプ斜板242の傾斜角を変更調節し、油圧モータ部241への作動油供給量を制御して、主変速出力軸237の回転速度RをステップS25での検出値R1のままに維持するように無段変速機159の変速比を変更調節する(変速比制御、S27)。
次いで、変更後の回転速度N2′及びトルクT2′とから、変更後のエンジン負荷率LF2′を算出したのち(S28)、該エンジン負荷率LF2′が所定値Y以下か否かを判別する(S29)。変更後のエンジン負荷率LF2′が所定値Y以下であれば(S29:YES)、コモンレール装置117の燃料噴射量を調節して、エンジン運転点を目標エンジン運転点Q2′から元のエンジン運転点Q1′に移行させる(S30)。そして、作業機コントローラ271からの指令にて比例制御弁213の印加電圧を補正することにより、主変速油圧シリンダ243を作動させて油圧ポンプ部240におけるポンプ斜板242の傾斜角を変更調節し、油圧モータ部241への作動油供給量を制御して、主変速出力軸237の回転速度RをステップS25での検出値R1のままに維持するように無段変速機159の変速比を変更調節する(S31)。なお、ステップS27及びS31の変速比制御は、図16のフローチャートの場合と同様なので、詳細な説明を割愛する。
上記のように制御すれば、エンジン70が過負荷又はそれに近い状態で継続的に駆動することがなく、エンジン70を効率よく駆動できる(エンジン70を余裕のある状態で駆動できる)。このため、例えば次期EPA規制といった将来の排気ガス規制強化に対して、的確な対処が可能になるのである。
(8).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。