以下、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、圧着端子にワイヤケーブルを接続する状態を示す斜視図、図2は、圧着端子の平面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る製造方法で製造された圧着端子10は、雌方圧着端子であり、ボックス部20および圧着部30を備えている。圧着端子10の圧着部30は、被覆電線50の導体部分であるアルミニウム芯線51に対する圧着接続を許容しており、圧着部30には、被覆電線50が圧着される。
圧着端子10における圧着部30には被覆電線50が接続されている。被覆電線50は、アルミニウム芯線51を備えており、アルミニウム芯線51が絶縁被覆52で被覆されて構成されている。アルミニウム芯線51は、アルミニウム素線を束ねて構成されている。さらに、被覆電線50の被覆先端50aよりも前方は、絶縁被覆52からアルミニウム芯線51が露出した電線露出部51aとされている。アルミニウム芯線51は、断面が0.75mm2となるように、アルミニウム合金線を撚って構成されている。
圧着端子10におけるボックス部20は、倒位の中空四角柱体の箱状に構成されている。ボックス部20の内部には、弾性接触片21が設けられている。弾性接触片21は、長手方向Xの後方に向かって折り曲げられ、ボックス部20に挿入される図示しない雄型端子の挿入タブに接触する。また、ボックス部20は、底面部22の長手方向Xと直交する幅方向Yの両側部に連設された側面部23を重なり合うように折り曲げて、長手方向Xの先端側から見て略矩形状に構成している。
なお、本実施形態において、長手方向Xとは、図1に示すように、圧着部30を圧着して接続する被覆電線50の長手方向と一致する方向であり、幅方向Yは長手方向Xに対して略水平な平面上で交差する方向である。また、圧着部30に対するボックス部20の側を前方とし、逆に、ボックス部20に対する圧着部30の側を後方としている。さらに、ボックス部20と圧着部30とを連結する連結部40には、後方に行くにしたがって上昇する傾斜からなる裏面側傾斜部41が形成されている。
また、圧着端子10における圧着前の圧着部30は、圧着面31および圧着面31の幅方向Yの両側に延出したバレル構成片32を丸めた端部32a同士を突き合せし、図2に示すように、端部32a同士を溶接して筒体として形成されている。さらに、圧着部30の後方視形状は略O型とされている。なお、バレル構成片32の長手方向Xの長さは、絶縁被覆50の長手方向X前方側の先端である被覆先端52aから、長手方向Xの前方で露出する電線露出部51aの長手方向Xの露出長さより長く形成されている。
さらに、圧着部30は、図1に示す絶縁被覆50を圧着する被覆圧着筒状部30aと、その前方に配置されたアルミニウム芯線51の電線露出部51aを圧着する電線圧着筒状部30bとを備えている。また、電線圧着筒状部30bのさらに前方には、封止部30cが形成されている。封止部30cは、前方端部を略平板状に押しつぶすように変形され、図2に示すように、その幅方向Yに溶接されて形成されている。さらに、電線圧着筒状封止部30bと封止部30cとの間には、前方に行くにしたがって低くなる傾斜部30dが形成されている。圧着端子10は、中空四角柱体のボックス部20と後方視略O型の圧着部30とを備えるクローズバレル形式の端子とされている。ここで、電線圧着筒状部30bと傾斜部30dとの間は、折曲されて形成されている。同様に、傾斜部30dと封止部30cとの間も、折曲されて形成されている。このため、電線圧着筒状部30bと傾斜部30dとの間および傾斜部30dと封止部30cは、いずれも角部として形成されている。
圧着部30における被覆圧着筒状部30aの内面には、幅方向Yの溝である被覆用係止溝33aが形成されている。被覆用係止溝33aは圧着面31の全周にわたって連続する環状の溝を形成している。被覆用係止溝33aは、このような形状で形成されることにより、圧着状態において、絶縁被覆50が食い込むようにされている。
また、電線圧着筒状部30bの内面には、幅方向Yの溝である電線用係止溝33bが、長手方向Xに所定間隔を隔てて3本形成されている。電線用係止溝33bは、断面矩形凹に構成されているとともに、圧着面31の周方向途中位置まで連続する環状の溝を形成している。電線用係止溝33bがこのような形状とされることにより、圧着状態において、電線用係止溝33bにアルミニウム芯線51が食い込むこととなる。こうして、圧着部30とアルミニウム芯線51との導通性を向上している。
次に、本実施形態に係る圧着端子の製造装置および製造方法について説明する。図3は、本実施形態に係る圧着端子の製造装置の構成を示す構成図である。
図3に示すように、本実施形態に係る圧着端子の製造装置Mは、図中左側の送り方向上流側から順に配設された、巻出しローラ1と、加工手段であるプレス機2と、レーザ溶接機3と、レーザ加工性検査機4と、巻取りローラ5と、を備えている。さらには、これらの動作を制御する制御系6を備えている。
なお、以上のことから、本実施形態において、レーザ加工性検査機4は、必須の構成ではない。また、本実施形態では、プレス機2とレーザ溶接機3とを別体として設けた例を示しているが、本発明においては、これらが一体、すなわち、プレス機2にレーザ溶接機3が組み込まれている実施態様も包含する。
本実施形態に係る圧着端子の製造方法の概要を説明すると、図4(a)に示す銅条Cについて、プレス機2によってプレス加工を施すプレス工程、およびレーザ溶接機3によってレーザ溶接を施す溶接工程を経て、図1および図2に示す圧着端子10を製造する。銅条Cは、表面が錫メッキ(Snメッキ)された黄銅等の銅合金条からなる金属製の加工前板材である。なお、金属製の加工前板材としては、銅条Cに代えて、鋼板やアルミニウム板など銅以外の金属を用いた板材や板条材を用いることもできる。
プレス工程では、図4(b)に示すように、銅条Cに対して打ち抜き加工を施して最終プレス加工前連鎖端子T1を形成する。最終プレス加工前連鎖端子T1は、加工後に圧着端子10となる複数の曲げ加工前圧着端子Ta、並びに複数の曲げ加工前圧着端子Taを接続し搬送時に支持される上キャリア部C1および下キャリア部C2によって構成されている。上キャリア部C1は、曲げ加工前圧着端子Taの上部に配置された帯状の保持部材となる。また、下キャリア部C2は、板材となる曲げ加工前圧着端子Taの下部に配置される。
さらに、プレス工程では、最終プレス加工前連鎖端子T1における曲げ加工前圧着端子Taについて、曲げ加工を施し、図4(c)に示すように、バレル部材となるバレル部Tvとコネクタ部Tcとを備える溶接前圧着端子Tbを形成する。バレル部Tvは、バレル部Tvの側辺同士が互いに並置されて形成された筒体、具体的には側辺同士が付き合わされた筒体となる。それから、バレル部Tvにおける長手方向の一端側であるコネクタ部Tc側の端部を押圧して押し潰し、バレル部Tvにおけるコネクタ部Tc側の開口部を閉塞して閉塞部とする。さらに、バレル部Tvの端部を押し潰すことにより、コネクタ部Tc側に傾斜部Tsを形成し、押し潰されずに残った筒状の部分を筒体部Tpとする。また、傾斜部Tsの先端部が封止部Tfとなる。このときのバレル部Tvの表面形状については、後に詳しく説明する。続いて、溶接工程において、レーザ溶接機3によって、筒体部Tpの突き合わせ部や封止部Tfを溶接する。こうして、図1および図2に示す圧着端子10を製造する。ここで、プレス工程について簡易的に説明しているが、通常のプレス機を用いてプレス加工、曲げ加工を組み合わせて製造を行ってもよい。
製造装置Mにおける巻出しローラ1は、ロール状に巻回された被加工対象物である銅条Cを所定の速度で巻き出して供給する機構である。巻出しローラ1は、プレス機2によって成型される図4(b)に示す曲げ加工前圧着端子Taの間隔Lに相当する一定のピッチと、主としてプレス機2におけるプレス加工タイミングを加味して、銅条Cを連続的に送り出す。ただし、後述のように、プレス機2において、銅条Cはプレス加工のタイミングに合わせて間欠的に搬送される。そのため、図3で示すように、巻出しローラ1とプレス機2との間では、銅条Cに一定のたるみを持たせている。
プレス機2は、巻出しローラ1から送られる銅条Cを、図示しない送り機構により間欠的に搬送しながら、打ち抜きや曲げ加工等のプレス成型を施して連鎖端子T2を形成する装置である。
具体的には、ロール状から巻き出された図4(a)に示す銅条Cに対して、一次プレスとして、打ち抜き加工を施すことによって、図4(b)に示す最終プレス加工前連鎖端子T1が形成される。最終プレス加工前連鎖端子T1における上下キャリア部C1,C2には、搬送時に位置決めを行うため図示しないピンを挿入する送り穴Hが所定ピッチで複数(ここでは連鎖端子T2の位置に合わせて一つずつ)設けられている。
続いて、二次プレスとして、曲げ加工を施すことによって、図4(c)に示す連鎖端子T2が形成される。この連鎖端子T2では、下キャリア部C2は溶接前圧着端子Tbから切断除去されており、上キャリア部C1のみを有する状態となる。また、バレル部Tvとコネクタ部Tcとは、曲げ加工により、図1に示すように、それぞれ筒状と箱状に形成された状態となる。この状態において、バレル部Tvには、筒状の曲げ加工した部分にできる突き合わせ界面Tdが形成される。
レーザ溶接機3は、連鎖端子T2における曲げ加工によって形成された突き合わせ界面Tdと封止部Tfとを、レーザ溶接により接合して図1および図2に示す圧着部30を密閉構造にする装置である。レーザ溶接機3の構成およびレーザ溶接機3によるレーザ溶接の方法については、後に詳しく説明する。
レーザ加工性検査機4は、レーザ溶接された圧着端子10の加工性の検査を行う装置である。具体的には、レーザ溶接機3においてレーザ溶接された突き合わせ界面Tdにおける溶接具合について、CCDカメラ等の撮像手段により、溶接位置の軸方向での位置ずれ量やビード幅が許容範囲内かを判定するものである。
巻取りローラ5は、巻出しローラ1と同様の速度で、連鎖端子T2の巻き取りを行う機構である。なお、巻取りローラ5においても、巻出しローラ1と同様に、前工程のレーザ溶接機3またはレーザ加工性検査機4において、連鎖端子T2がレーザ加工または検査処理のタイミングに合わせて間欠的に搬送されるため、図3で示すように、巻取りローラ5とレーザ加工性検査機4との間では、連鎖端子Tに一定のたるみを持たせて、間欠搬送と連続搬送との搬送タイミングの相違を吸収するようにしている。
なお、上述のように、説明の便宜上、レーザ溶接装置3とレーザ加工性検査機4とを別の装置として分けて構成する例を示しているが、レーザ溶接機3の中にレーザ加工性検査機4の機能を組み込むことも可能である。
制御系6は、プレス機2におけるプレス成型と、レーザ溶接機3におけるレーザ加工とを一連の工程として実施するために、主としてレーザ溶接機3の動作を制御するための構成である。
続いて、レーザ溶接機3の構成について説明する。図5は、レーザ溶接機の概略を示す正面図、図6は、クランプ装置の正面図である。図5および図6に示すように、レーザ溶接機3は、レーザ照射手段であるレーザ光源61と、レーザ照射光学装置62と、送り装置63と、クランプ装置64と、を有している。
レーザ光源61は、約1.08μmの波長のファイバーレーザ光を照射する。ファイバーレーザはビーム品質に優れ、集光性が高いため、従来のレーザよりも加工領域におけるエネルギー密度の高いレーザ溶接を実現することができる。このため、高速で材料を加工することが可能であり、熱影響が少なく、アスペクト比の高い深溶け込み溶接が可能であるから溶接前圧着端子Tbの強度低下や変形を抑制しつつ、突き合わせ界面Tdを適切に封止することができる。ファイバーレーザは、連続発振、パルス発振、QCW発振、又はパルス制御された連続発振によって照射されてもよい。ファイバーレーザはシングルモードまたはマルチモードファイバーレーザでも構わない。
なお、本発明では、ファイバーレーザ溶接に代えて、YAGレーザ、半導体レーザ、ディスクレーザ等のレーザビーム、および電子ビームを用いてもよい。
レーザ照射光学装置62は、レーザ光源61から出力されたレーザ光を溶接加工位置Pに導くための光学系である。レーザ照射光学装置62は、ガルバノスキャナ62Bおよび集光レンズ62Cを有している。
ガルバノスキャナ62Bは、いわゆる2Dガルバノスキャナであり、レーザ光源61からのレーザ光を互いに直交する軸周りに互いに同期して角度制御される2つのミラー62X,62Yで順次反射させることにより、溶接加工位置Pに停止している溶接前圧着端子Tbの突き合わせ界面Tdにレーザ光LBを掃引照射する。ガルバノスキャナ62Bは、ガルバノ制御系62Dにより駆動制御される。レーザ光LBの水平面内における照射位置は、ミラー62X,62Yの角度を制御することにより、レーザ光LBの掃引速度はミラー62X,62Yの回動速度を制御することにより、各々調節することができる。ガルバノスキャナ62はレーザ照射位置移動手段を構成する。
集光レンズ62Cは、ガルバノスキャナ62Bからのレーザ光を溶接前圧着端子Tbの突き合わせ界面Tdの位置に集光させる光結合装置である。集光レンズ62Cには、テレセントリックレンズまたはfθレンズが用いられる。
送り装置63は、連鎖端子T2を溶接前圧着端子Tbの並んでいる間隔Lに相当する一定のピッチで間欠的に送ることにより、溶接前圧着端子Tbを溶接加工位置Pに順次供給する装置である。送り装置63は、溶接加工位置Pよりも上流側に配置され連鎖端子T2を送り出す上流側ローラ63Aおよび溶接加工位置Pよりも下流側に配置され連鎖端子T2を引張する下流側ローラ63Bを備えている。
上流側ローラ63Aは、連鎖端子T2における上キャリア部C1の下面に接する送りローラ63Cと、上面に接する押さえローラ63Dとからなる。また、下流側ローラ63Bは、連鎖端子T2における上キャリア部C1の下面に接する引張ローラ63Eと、上面に接する押さえローラ63Fとからなる。このうち、送りローラ63Cおよび引張ローラ63Eは、図示しない回転駆動機構により所定の速度で回転駆動される。送りローラ63Cおよび引張ローラ63Eの外周面には、周方向に等間隔に送り爪63Gが突設されている。
送り爪63Gは、上キャリア部C1の送り孔Hに係合する。送りローラ63Cおよび引張ローラ63Eが同一の方向に一定角度回転する毎に、上キャリア部C1の送り孔Hに係合している送り爪63Fが連鎖端子T2を溶接前圧着端子Tbの並んでいる間隔L分だけ移動させる。ここで、連鎖端子T2が下流側に移動する際の送りローラ63Cおよび引張ローラ63Eの回転方向を正回転方向といい、連鎖端子T2が上流側に移動する際の送りローラ63Cおよび引張ローラ63Eの回転方向を逆回転方向という。送りローラ63Eおよび引張ローラ63Eを備える送り位置決め機構は送り装置となり、溶接前圧着端子Tbにおけるバレル部Tvの長手方向に交差、ここでは直交する方向に連鎖端子T2および溶接前圧着端子Tbを搬送する。
クランプ装置64は、溶接加工位置Pに供給された溶接前圧着端子Tbを精度良く位置決めするための装置である。クランプ装置64は、上クランプ治具64Aと下クランプ治具64Bとを有し、両クランプ治具64A、64Bで溶接前圧着端子Tbのバレル部Tvと最低3点で接触するように上下から挟み込む。このため、上クランプ治具64Aには、例えば、バレル部Tvと2点で当接して押さえ込む略ハ字型部64aが形成されている。一方、下クランプ治具64Bには、バレル部Tvと一点で当接する略平らな当接面64bが形成されている。両クランプ治具64A、64Bでバレル部Tvを上下から挟み込むことにより、バレル部Tvの突き合わせ界面Tdを、図6(b)に示すように、レーザ光LBを照射可能な位置に位置決めをすることができる。また、上クランプ治具64Aには、突き合わせ界面Tdへのレーザ光LBの照射の邪魔にならないようにスリット64cが形成されている。
次に、本実施形態に係る圧着端子の製造手順について説明する。図7は、圧着端子の製造工程の要部を説明する工程図である。
圧着端子を製造する際には、まず、図3に示すプレス機2によって、図4(c)に示す連鎖端子T2をプレス加工によって製造する。続いて、レーザ溶接機3によってレーザ溶接を行う。レーザ溶接を行う際には、連鎖端子T2における加工対象となる溶接前圧着端子Tbをレーザ加工位置まで搬送する。
加工対象となる溶接前圧着端子Tbでは、図1に示すように、溶接前圧着端子Tbの長手方向Xに対する溶接と、幅方向Yに対する溶接とを行う。いま、送り装置63では、溶接前圧着端子Tbの幅方向Yに溶接前圧着端子Tbを搬送している。幅方向Yに対する溶接は、レーザ溶接機3におけるガルバノスキャナ62Bによってレーザ照射位置を移動させて行うこともできるし、レーザ照射位置は固定したまま、送り装置63を用いて溶接前圧着端子Tbを移動させて行うこともできる。
幅方向Yに対する溶接が済んだら、長手方向Xに対する溶接を行う。長手方向Xに対する溶接を行う際には、レーザ光の照射位置が溶接前圧着端子Tbにおける幅方向中央に位置しているバレル部Tvにおける突き合わせ界面Tdの端部の位置となるようにガルバノスキャナ62Bを調整する。レーザ照射位置は固定したまま、送り装置63を用いて溶接前圧着端子Tbを移動させた場合は溶接前圧着端子Tbの位置も調整する。溶接前圧着端子Tbにおける幅方向中央位置は、溶接前圧着端子Tbにおける突き合わせ界面Tdに相当する位置である。
次に、クランプ装置64によって溶接前圧着端子Tbをクランプする。続いてガルバノスキャナ62Bによってレーザ照射位置を移動させて、溶接前圧着端子Tbにおける突き合わせ界面Tdを溶接する。突き合わせ界面Tdを溶接する際には、図7に示すように、レーザ光の照射位置Lpの移動軌跡(以下「レーザ軌跡」という)LLを、バレル部Tvにおける筒体部Tpに平行な直線である水平な直線となるようにレーザ光を掃引する。この場合、レーザ光は直線状に移動するので、レーザ照射位置の制御が困難となることを抑制するができる。
突き合わせ界面Tdの溶接が済んだら、クランプ装置64による溶接前圧着端子Tbのクランプを解放し、連鎖端子T2を搬送して次の溶接前圧着端子Tbの溶接を行う。以後、同様の手順によって、連鎖端子T2における溶接前圧着端子Tbを順次レーザ溶接加工していき、圧着端子10を形成する。こうして、圧着端子10の製造が終了する。
次に、バレル部の表面形状およびバレル部Tvの突き合わせ界面Tdの溶接について説明する。突き合わせ界面Tdの溶接が行われる溶接前圧着端子Tbにおけるバレル部Tvは、図7に示すように、封止部Tf、傾斜部Ts、および筒体部Tpを備えている。突き合わせ界面Tdの溶接は、上下方向Zに見て、封止部Tfの高さ位置と筒体部Tpの高さ位置との間における封止部Tfの先端点Tαと筒体部Tpの後端点TβのX座標に相当する点を結んだ直線状に移動させて行われる。
バレル部Tvの突き合わせ界面Tdの溶接を行うにあたり、レーザ光の照射位置がバレル部Tvの表面形状に合わせた軌跡で移動するように照射位置の制御を行うのが理想的である。しかしながら、水平部と傾斜部とを備えるバレル部Tvの表面形状に合わせてレーザ軌跡を生成すると、ガルバノスキャナ62Bの制御が複雑化することが考えられる。
そこで、段差を有するバレル部Tvの表面形状に沿わせるのではなく、バレル部Tvにおける封止部Tfの高さ位置と筒体部Tpの高さ位置との間における面を加工基準面として設定し、加工基準面上に直線状のレーザ軌跡LLを設定する。ここで、バレル部Tvの表面形状とレーザ軌跡LLとがずれると、溶接の精度が低下し、良好な溶接の妨げとなることが懸念される。
他方、レーザ溶接を行うにあたり、レーザ軌跡とバレル部Tvの表面形状とのギャップが加工しきい値を外れると、溶接の溶け込み不良による耐圧着性や密閉性の低下といった現象が生じる。逆に言うと、レーザ軌跡とバレル部Tvの表面形状とのギャップがレーザの加工しきい値内に収まると、良好な溶接を行うことができる。本実施形態においては、この点に着目し、バレル部Tvの表面形状を、加工しきい値内に収めることができる範囲としている。
レーザ光の照射による加工しきい値は、およそ2.2mmの範囲である。この加工しきい値内の範囲にバレル部Tvの表面形状を収めるためには、封止部Tfと筒体部Tpの上下方向Zの離間距離hが2.2mm以下であることが必要となる。また、傾斜部Tsが封止部Tfに対してなす角度θは0°以上75°以下とすることが好適である。こうして、溶接の精度の低下を抑制することができ、良好な溶接に寄与することができる。
ところで、レーザ照射を行うにあたり、レーザ光のジャストフォーカス位置と加工基準面との関係を調べるための実験を行った。実験では、所定の出力および掃引速度でレーザ光を掃引し、そのときのジャストフォーカス位置に対する離間距離の諸特性について調べた。ここで諸特性としては、表ビードおよび裏ビードのビード幅(μm)および貫通溶接状況について古河電気工業製の銅合金FAS−680(厚さ0.25mm、)を用いて調べた。その結果を表1に示す。なお、Z軸は、上下方向Zに沿った軸である。
表1に示すように、ジャストフォーカス位置の上方(ガルバノスキャナ62Bに近い方向)では、1200μm離れた位置まで溶接状態が良好であり、1400μm離れた位置離れた位置では、電線挿入口側のビードにおいて未貫通箇所が生じた。また、ジャストフォーカス位置の下方(ガルバノスキャナ62Bに遠い方向)では、1000μm離れた位置まで溶接状態が良好であり、1200μm離れた位置離れた位置では、電線挿入口側のビードにおいて未貫通箇所が生じた。
この結果から、ガルバノスキャナ62Bから見てジャストフォーカス位置よりも近い側(以下「インナー側」という)の方が、ジャストフォーカス位置よりも遠い側(以下「アウター側」という)よりも、溶接不良が生じることなく良好な溶接を実施できる範囲が広くなる。
そこで、加工基準面をレーザ光のジャストフォーカス位置よりもアウター側に設定することが好適である。この場合、溶接不良とならない範囲をインナー側に広げることができるので、溶接不良が生じない範囲をインナー側とアウター側とで、均一とすることができる。したがって、加工基準面とレーザ照射位置の深さ方向の距離関係を適切な関係とすることにより、溶接精度の低下を抑制することができる。
また、レーザ軌跡を直線状に形成するにあたり、上記のように水平面上の直線とされているが、水平面に対して傾いた平面状に設定することもできる。この場合、図8に示すように、レーザ軌跡LLは、たとえばバレル部Tvにおける筒体部Tpおよび傾斜部Tsを通過する軌跡となる。この場合、レーザ照射光学系62は、ガルバノスキャナ62Bから照射されるレーザ光の光軸が水平面および上下方向Zに対してそれぞれ傾くように傾斜して配設されている。
ここで、レーザしきい値とバレル部Tvの形状との関係について説明する。図9に模式的に示すように、レーザ軌跡LLとバレル部Tvの表面形状とのギャップは、封止部Tfと傾斜部Tsとの間の下折曲点B1とレーザ軌跡LLとの間で下方向への最大距離である下側最大距離Lmaxdとなる。また、筒状部Tpと傾斜部Tsとの間の上折曲点B2とレーザ軌跡LLとの間で上方向への最大距離である上側最大距離Lmaxuとなる。
バレル部Tvの表面形状がレーザの加工しきい値内に収まるようにするためには、下側最大距離Lmaxdと上側最大距離Lmaxuとの和がレーザの加工しきい値の範囲に収まるようにする。こうして、溶接の精度の低下を抑制することができ、良好な溶接に寄与することができる。
さらに、レーザ軌跡を直線状にするにあたり、図10に示すよう、レーザ軌跡LLは、封止部Tfの先端点Tαと筒体部Tpの後端点Tβとを結んだ直線と平行であり、下側最大距離Lmaxdを通る直線Ldと、上側最大距離Lmaxuを通る直線Luの中央位置を通る直線上とすることができる。この直線が加工基準面に含まれることとなる。このようなレーザ軌跡とすることにより、溶接前圧着端子Tbにおける段差が大きい場合でも、レーザ照射位置の制御が困難となることを抑制するとともに、良好な溶接を行うことができる。また、この場合も、加工基準面を、レーザ光のジャストフォーカス位置よりもアウター側に設定することが好適となる。
続いて、図11に示すように、ガルバノスキャナ62Bの傾き角θが下記(1)式で示されるようにしてレーザ光が照射される場合におけるバレル部Tvの表面形状を決定する例について説明する。
θ=tan−1{h/(a+b+c)} ・・・(1)
図12は、バレル部の表面形状を決定する際の説明図である。図12に示すように、バレル部Tvにおける封止部Tfの長さを封止部長a、傾斜部Tsの長さを傾斜部長b、筒体部Tpの長さを筒体部長c、バレル部Tvの高さをバレル部高hとする。このとき、ガルバノスキャナ62B(図5)の傾き角θは上記(1)のように表される。
このとき、上記の上側最大値Lmaxuおよび下側最大値Lmaxdは、それぞれ下記(2)(3)式で表される。
Lmaxu=csinθ=ch/{(a+b+c)2+h2}1/2 ・・・(2)
Lmaxd=asinθ=ah/{(a+b+c)2+h2}1/2 ・・・(3)
なお、sinθ=h/{(a+b+c)2+h2}1/2である。
Lmaxu+Lmaxdが加工しきい値内であることにより、加工品質は均一となる。したがって、封止部Tfの先端点Tαと筒体部Tpの後端点Tβを結んだ直線をレーザ軌跡とするにあたり、上記(2)(3)式を用いて、下記(4)式を求める。
Lmaxu+Lmaxd≦加工しきい値の範囲・・・(4)
次に、上記(4)式を変形して、下記(5)式を求めることができる。圧着端子Tbにおけるバレル部Tvの表面形状について、下記(5)を満たす形状に加工することにより、良好な溶接を行うことができる。
(a+c)h/{(a+b+c)2+h2}1/2≦加工しきい値の範囲・・・(5)
図13は、バレル部が段差形状である場合の表面形状を決定する際の説明図である。図13に示すように、バレル部Tvにおける封止部Tfの長さを封止部長a’、傾斜部Tsの長さを傾斜部長b’、筒体部Tpにおける第1の平坦部の長さを第1平坦部長c1、筒体部Tpにおける傾斜部の長さを傾斜部長c2、筒体部Tpにおける第2の平坦部の長さを第2平坦部長c3、バレル部Tvの高さをバレル部高hとする。このとき、ガルバノスキャナ62B(図5)の傾き角θは下記(6)式で表される。
θ=tan−1{h/(a’+b’+c1+c2+c3)} ・・・(6)
このとき、上側最大値Lmaxuおよび下側最大値Lmaxdは、それぞれ下記(7)(8)式で表される。
Lmaxu=c3sinθ=c3h/{(a’+b’+c1+c2+c3)2+h2}1/2 ・・・(7)
Lmaxd=a’sinθ=a’h/{(a’+b’+c1+c2+c3)2+h2}1/2 ・・・(8)
なお、sinθ=h/{(a’+b’+c1+c2+c3)2+h2}1/2である。
次に、上記(4)式を変形して、下記(9)式を求めることができる。圧着端子Tbにおけるバレル部Tvの表面形状について、下記(9)を満たす形状に加工することにより、良好な溶接を行うことができる。
(a’+c3)h/{(a’+b’+c1+c2+c3)2+h2}1/2≦加工しきい値の範囲・・・(9)
なお、図13では、上側最大値Lmaxuは、筒体部Tpにおける傾斜部と筒体部Tpにおける第2の平坦部との間の上折曲点と、レーザ軌跡LLとの間での最大距離であるが、筒体部Tpに形成されている各段差の高さおよび角度によっては、傾斜部Tsと筒体部Tpにおける第1の平坦部との間の上折曲点と、レーザ軌跡LLとの間での最大距離となる場合もある。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態においては、溶接前圧着端子Tbの封止部Tfの溶接を行った後に傾斜部Tsおよび筒体部Tpの溶接を行っている。これに対して、傾斜部Tsおよび筒体部Tpの溶接を行った後に封止部Tfの溶接を行うこともできる。要は、長手方向Xおよび幅方向Yへの溶接を行うにあたり、長手方向Xの溶接を先に行って後に幅方向Yの溶接を行ってもよく、逆に幅方向Yの溶接を先に行って後に長手方向Xの溶接を行ってもよい。
また、上記実施形態では、上述したように、ボックス部20と圧着部30で構成する圧着端子10で構成したが、圧着部30を有する圧着端子であれば、上述の圧着端子10におけるボックス部20に挿入接続する挿入タブと圧着部30とで構成する雄型圧着端子でもよく、また、圧着部30のみで構成し、複数本のアルミニウム芯線51を束ねて接続するための圧着端子であってもよい。
さらに、圧着端子10は、銅合金によって構成しているが、アルミニウムまたはアルミニウム合金など、その他の金属によって構成することもできる。また、上記実施形態では、側辺同士を互いに並置する態様を突き合わせとしているが、突き合わせに限らず、たとえば重ね合わせなどとすることもできる。この場合、突き合わせ溶接ではなく、重ね合わせ溶接が施される。
他方、上記実施形態では、封止部Tfと傾斜部Tsとの接続部分および傾斜部Tsと筒体部Tpとの接続部分はいずれも角形状とされている。これに対して、封止部Tfと傾斜部Tsとの接続部分および傾斜部Tsと筒体部Tpとの接続部分の一方または両方を曲線形状(R形状)とすることもできる。
さらに、上記実施形態では、加工基準面を平面として、レーザ軌跡を直線状としているが、加工基準面を曲面や折曲面などとして、レーザ軌跡を曲線状、折曲形状などとすることもできる。
さらに、上記実施形態では、ガルバノスキャナ62Bとして、2Dガルバノスキャナを用いているが、ガルバノスキャナとしては、上下方向Zに対するレーザ照射位置の調整を行うことができるいわゆる3Dガルバノスキャナを用いることもできる。
さらに、本発明は、防水や止水処理が必要な銅電線などのアルミニウム以外の金属製の電線にも適用することができる。また、電線径は0.75mm2に限定されることなく、それ以上それ以下の電線径にも対応可能である。さらに、材料の表面メッキはSn以外の金属メッキでもよく、また下地メッキを施していてもよい。さらに、係止溝はなくてもよく、あるいは複数本あってもよい。この係止溝は、凹(溝)状であるが、凹状の係止溝に代えて凸状の突起を形成することもできる。これらの係止溝や突起の断面形状は菱形や平行四辺形、三角形、丸型などとすることもできる。
さらに、上記実施形態では、封止部と傾斜部と筒体部とを備えたバレル部材における側辺を溶接する例を示したが、溶接対象は筒状に限定されない。図14に示すように、段差を有する板材であれば、筒状でなくても、同様の溶接方法を適用することができる。まず、板材の表面形状がレーザ光の加工しきい値の範囲内に含まれるように加工基準面を設定した後、加工基準面に対してレーザ照射手段によるレーザ光の照射位置を設定し、レーザ照射手段から板材の側辺同士が並置された位置に対してレーザ照射して、板材における側辺を溶接する。具体的に、板材の先端点T1の高さ位置と板材の後端点T2の高さ位置との間における面を加工基準面として設定してもよい。また、板材の先端点T1と板材の後端点T2とを結んだ直線と平行な直線であって、段差を構成する下折曲点T3を通る直線と、段差を構成する上折曲点T4を通る直線との間の直線を含む面を加工基準面として設定してもよい。