図を参照して、本発明の四節リンク機構型の無段変速機の実施形態を説明する。まず、図1から図7を参照して、本発明が適用される無段変速機の基本構成を説明する。本発明が適用される無段変速機は、変速比h(h=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂IVT(InfinityVariableTransmission)の一種である。
図1から図5を参照して、四節リンク機構型の無段変速機1は、内燃機関であるエンジンや電動機等の走行用駆動源からの回転駆動力を受けることで回転中心軸線P1を中心に回転すると共に、走行用駆動源に対して回転駆動力を伝達可能な入力軸2と、回転中心軸線P1に平行に配置され、図外のデファレンシャルギヤやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪に回転動力を伝達させる出力軸3と、入力軸2に設けられた6つの回転半径調節機構4とを備える。
各回転半径調節機構4は、カム部としてのカムディスク5と、回転部としての回転ディスク6とを備える。カムディスク5は、円盤状であり、回転中心軸線P1から偏心されると共に、1つの回転半径調節機構4に対して2個1組となるように、各回転半径調節機構4に設けられている。また、カムディスク5には、回転中心軸線P1の方向に貫通する貫通孔5aが設けられている。また、カムディスク5には、回転中心軸線P1に対して偏心する方向とは逆の方向に開口し、カムディスク5の外周面と貫通孔5aとを連通させる切欠孔5bが設けられている。
各1組のカムディスク5は、夫々位相を60度異ならせて、6組のカムディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。
カムディスク5は、隣接する回転半径調節機構4のカムディスク5と一体的に形成されて一体型カム部5cが構成されている。この一体型カム部5cは、一体成型で形成してもよく、または、2つのカム部を溶接して一体化してもよい。各回転半径調節機構4の2個1組のカムディスク5同士はボルト(図示省略)で固定されている。回転中心軸線P1上の最も走行用駆動源側に位置するカムディスク5は入力軸2と一体的に形成されている。このようにして、入力軸2とカムディスク5とでカムシャフト51が構成されることとなる。
カムシャフト51は、カムディスク5の貫通孔5aが連なることによって構成される挿通孔60を備える。これにより、カムシャフト51は、走行用駆動源とは反対側の一方端が開口した中空形状に構成される。走行用駆動源側の他方端に位置するカムディスク5は、入力軸2と一体的に形成されている。即ち、走行用駆動源側の端部に位置するカムディスク5は、入力軸2と一体的に形成されている。このカムディスク5と入力軸2とを一体的に形成する方法としては、一体成型を用いてもよく、また、カムディスク5と入力軸2とを溶接して一体化してもよい。
また、各1組のカムディスク5には、カムディスク5を受け入れる受入孔6a(図6(a)、(b)参照)を備える円盤状の回転ディスク6が偏心された状態で回転自在に外嵌されている。
図5に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5の中心点をP2、回転ディスク6の中心点をP3として、回転中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、カムディスク5に対して偏心している。
回転ディスク6の受入孔6aには、1組のカムディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。
カムシャフト51の挿通孔60には、回転中心軸線P1と同心に、且つ、回転ディスク6の内歯6bと対応する個所に位置させて、ピニオン70がカムシャフト51と相対回転自在となるように配置されている。ピニオン70は、ピニオンシャフト72と一体に形成されている。なお、ピニオン70は、ピニオンシャフト72とは別体に構成して、ピニオン70とピニオンシャフト72とをスプライン結合で連結させてもよい。本実施形態においては、単にピニオン70というときは、ピニオンシャフト72を含むものとして定義する。
ピニオン70は、カムディスク5の切欠孔5bを介して、回転ディスク6の内歯6bと噛合する。ピニオンシャフト72には、隣接するピニオン70の間に位置させて軸受74が設けられている。この軸受74を介して、ピニオンシャフト72は、カムシャフト51を支えている。ピニオンシャフト72には、差動機構8が接続されている。ピニオン70には、差動機構8を介して調節用駆動源14(図8参照)の駆動力が伝達される。即ち、本実施形態においては、ピニオン70が本発明の伝達部となる。
本発明の実施形態の無段変速機1の差動機構8は、図8に示すように、第1から第3の3つの遊星歯車機構PGS1〜PGS3で構成されている。第1遊星歯車機構PGS1は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSa及びリングギヤRaと噛合するプラネタリギヤPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとからなるシングルピニオン型で構成される。
図9の上段に第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa、キャリアCa、リングギヤRaの3つの要素の回転速度を直線で表すことができる共線図を示す。第1遊星歯車機構PGS1の3つの要素を共線図での並び順に一方から、本実施形態においては、図9の右側から順に、第1要素、第2要素、第3要素とすると、第1要素はサンギヤSa、第2要素はキャリアCa、第3要素はリングギヤRaとなる。
共線図において、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をiとして、サンギヤSa(第1要素)とキャリアCa(第2要素)との間の間隔と、キャリアCa(第2要素)とリングギヤRa(第3要素)との間の間隔との比は、i:1となるように設定される。本実施形態においては、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比iは、2.00に設定されている。なお、図9、図10及び図12の共線図において、下端の横線は回転速度が「0」であることを示し、破線は走行用駆動源90の動力が伝達されるカムシャフト51の回転速度と同一の「N1」であることを示している。
第2遊星歯車機構PGS2は、サンギヤSbと、リングギヤRbと、サンギヤSb及びリングギヤRbと噛合するプラネタリギヤPbを自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとからなるシングルピニオン型で構成される。
図9の中段に第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb、キャリアCb、リングギヤRbの3つの要素の回転速度を直線で表すことができる共線図を示す。第2遊星歯車機構PGS2の3つの要素を共線図での並び順に一方から、本実施形態においては、図9の右側から順に、第4要素、第5要素、第6要素とすると、第4要素はサンギヤSb、第5要素はキャリアCb、第6要素はリングギヤRbとなる。
共線図において、第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をjとして、サンギヤSb(第4要素)とキャリアCb(第5要素)との間の間隔と、キャリアCb(第5要素)とリングギヤRb(第6要素)との間の間隔との比は、j:1となるように設定される。本実施形態においては、第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比jは、2.00に設定されている。
第3遊星歯車機構PGS3は、サンギヤScと、リングギヤRcと、サンギヤScに大径部Pc1が噛合し、リングギヤRcに小径部Pc2が噛合する段付きプラネタリギヤPcを自転及び公転自在に軸支するキャリアCcとからなるシングルピニオン型で構成される。
図9の下段に第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc、キャリアCc、リングギヤRcの3つの要素の回転速度を直線で表すことができる共線図を示す。第3遊星歯車機構PGS3の3つの要素を共線図での並び順に一方から、本実施形態においては、図9の右側から順に、第7要素、第8要素、第9要素とすると、第7要素はサンギヤSc、第8要素はキャリアCc、第9要素はリングギヤRcとなる。
共線図において、第3遊星歯車機構PGS3のギヤ比((リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)×(段付きプラネタリギヤPcの大径部Pc1の歯数/小径部Pc2の歯数))をkとして、サンギヤSc(第7要素)とキャリアCc(第8要素)との間の間隔と、キャリアCc(第8要素)とリングギヤRc(第9要素)との間の間隔との比は、k:1となるように設定される。
第3遊星歯車機構PGS3のギヤ比kは、調節用駆動源14の駆動力を用いて第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)を回転させたときに、ピニオン70と連結する第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCc(第8要素)の回転速度が、サンギヤSa(第1要素)の回転速度に対して所望の回転速度となるように、適宜設定される。
キャリアCa(第2要素)はキャリアCb(第5要素)に連結され、キャリアCa(第2要素)とキャリアCb(第5要素)とで第1連結体Ca−Cbが構成される。リングギヤRa(第3要素)はリングギヤRc(第9要素)に連結され、リングギヤRa(第3要素)とリングギヤRc(第9要素)とで第2連結体Ra−Rcが構成される。リングギヤRb(第6要素)はサンギヤSc(第7要素)に連結され、リングギヤRb(第6要素)とサンギヤSc(第7要素)とで第3連結体Rb−Scが構成される。
第2連結体Ra−Rcは、入力軸2及びカムディスク5で構成されるカムシャフト51を介して走行用駆動源90(図9参照)との間で動力伝達が可能である。サンギヤSa(第1要素)には、調節用駆動源14の駆動力が、調節用駆動源14の回転軸に設けられた調節用ピニオン14aに噛合する第1中間ギヤG1aと、この第1中間ギヤG1aに噛合する第2中間ギヤG1bとからなる第1ギヤ列G1を介して伝達される。従って、サンギヤSa(第1要素)には、調節用駆動源14の駆動力が第1ギヤ列G1を介して伝達される。キャリアCc(第8要素)は、伝達部たるピニオン70に連結される。なお、第1ギヤ列G1を省略して、調節用駆動源14の駆動力を直接サンギヤSa(第1要素)に伝達させてもよい。
また、無段変速機1には、ピニオン70に調節用駆動源14の駆動力が伝達され且つ入力軸2への調節用駆動源14の駆動力の伝達を阻止する第1状態と、入力軸2に調節用駆動源14の駆動力が伝達される第2状態とを切換自在な切換機構81が設けられている(図8参照)。
詳細には、切換機構81は、無段変速機1、差動機構8、又は調節用駆動源14等のケース80に固定されたソレノイド82と、該ソレノイド82を介してケース80に連結されたシャフト83と、サンギヤSb(第4要素)及び第1連結体Ca−Cbのいずれかに係合して、当該係合したサンギヤSb(第4要素)及び第1連結体Ca−Cbのいずれかを、回転不能とする固定状態と、この固定を解除する解放状態とに切換自在な係合部84とを備える。
また、シャフト83は、その軸線方向が、回転中心軸線P1の軸線方向と平行となるように設けられている。そして、係合部84は、シャフト83に固定されている。ソレノイド82は、回転中心軸線P1の軸線方向に沿って、シャフト83を移動可能に構成されている。これにより、シャフト83に固定された係合部84も当該シャフト83の移動に伴って移動する。
係合部84は、回転中心軸線P1の軸線方向に沿って移動することで、サンギヤSb(第4要素)及び第1連結体Ca−Cbのいずれかに係合する。
詳細には、係合部84が第1連結体Ca−Cbに係合している状態(図11参照。以下、係合部84と第1連結体Ca−Cbとが係合している無段変速機1の状態を状態を「第2状態」という)において、当該係合部84が回転中心軸線P1の軸線方向に沿って図8又は図11の左方向に移動することで、当該係合部84がサンギヤSb(第4要素)に係合する(図8参照。以下、係合部84とサンギヤSbとが係合している無段変速機1の状態を「第1状態」という)。これにより、サンギヤSb(第4要素)が回転不能となり且つ第1連結体Ca−Cbが回転可能となる。
また、係合部84がサンギヤSbに係合している状態(すなわち、第1状態)において、当該係合部84が回転中心軸線P1の軸線方向に沿って図8又は図11の右方向に移動することで、当該係合部84が第1連結体Ca−Cbに係合する(すなわち、無段変速機1の状態が第2状態に移行する)。これにより、第1連結体Ca−Cbが回転不能となり且つサンギヤSb(第4要素)が回転可能となる。
また、係合部84の外周部には、サンギヤSb(第4要素)及び第1連結体Ca−Cbの内周部に設けられた内歯と噛み合う歯が設けられている。これらの互いに噛み合う歯は、係合部84の回転中心軸線P1の軸線方向への移動を妨げることがないように構成されていれば、既存の種々様々な構成を取り得る。
カムシャフト51に接続された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト72の回転速度とが同一である場合には、回転ディスク6はカムディスク5と共に一体に回転する。入力軸2の回転速度とピニオンシャフト72の回転速度とに差がある場合には、回転ディスク6はカムディスク5の中心点P2を中心にカムディスク5の周縁を回転する。
図5に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されているため、回転ディスク6の中心点P3を回転中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、回転中心軸線P1と中心点P3との距離、即ち偏心量R1を「0」とすることもできる。
回転ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の大径環状部15aを備え、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを備えるコネクティングロッド15の大径環状部15aが、ローラベアリングからなるコンロッド軸受16を介して回転自在に外嵌されている。なお、コンロッド軸受16は、ボールベアリングを軸方向に2個並べて2個一組で構成してもよい。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17は、揺動リンク18と出力軸3との間に設けられ、出力軸3に対して一方側に相対回転しようとするときに出力軸3に揺動リンク18を固定し、他方側に相対回転しようとするときに出力軸3に対して揺動リンク18を空転させる。
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の小径環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する差込孔18cが穿設されている。差込孔18c及び小径環状部15bには、連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
また、無段変速機1は、制御装置(本発明の「制御部」に相当する)92を備える(図8を参照)。制御装置92は、CPU及びメモリ等により構成された電子ユニットであり、メモリに保持された車両1の制御用プログラムをCPUで実行することによって、調節用駆動源14及び切換機構81の作動を制御する。また、制御装置92は、走行用駆動源90を始動するときにおいては、調節用駆動源14によって当該始動を支援するように制御する。
次に、上記構成の無段変速機1において、制御装置92が実行する変速比hの調節処理について説明する。なお、変速比hを調節する場合には、無段変速機1の状態は、第1状態となっている。
図7は、回転半径調節機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト72と回転ディスク6との位置関係を示す。図7(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、回転中心軸線P1と、カムディスク5の中心点P2と、回転ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト72と回転ディスク6とが位置する。このときの変速比hは最小となる。
図7(b)は偏心量R1を図7(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図7(c)は偏心量R1を図7(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比hは、図7(b)では図7(a)の変速比hよりも大きい「中」となり、図7(c)では図7(b)の変速比hよりも大きい「大」となる。図7(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、回転中心軸線P1と、回転ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比hは無限大(∞)となる。本実施形態の無段変速機1は、回転半径調節機構4で偏心量R1を変えることにより、入力軸2側の回転運動の半径を調節自在としている。なお、本実施形態では、偏心量R1と入力軸2側の回転運動の半径とは同一と定義する。
本実施形態においては、回転半径調節機構4と、コネクティングロッド15と、揺動リンク18とで、てこクランク機構20(四節リンク機構)が構成される。そして、てこクランク機構20によって、入力軸2の回転運動が揺動リンク18の揺動運動に変換される。本実施形態の無段変速機1は合計6個のてこクランク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト72を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が60度ずつ位相を変えながら、偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して揺動する。
コネクティングロッド15の小径環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各回転半径調節機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各回転半径調節機構4で順に回転させられる。
本実施形態の無段変速機1によれば、差動機構8を上述した如く構成することにより、第2連結体Ra−RcとキャリアCc(第8要素)とが同一方向に同一速度で回転するとき、サンギヤSa(第1要素)の回転速度が「0」となる。これにより、本実施形態の無段変速機1によれば、変速比hを一定に維持する場合には、調節用駆動源14は、サンギヤSa(第1要素)の回転速度が「0」となるように、駆動力を出力すればよい。また、変速比hを変更する場合であっても、調節用駆動源14は比較的低速の回転速度となるように制御するだけで足りる。
従って、本実施形態の無段変速機1によれば、調節用駆動源14に要求される回転速度を抑制することができる。
図10は、変速比hが一定に維持される状態の共線図を示したものである(上述したように、無段変速機1の状態は第1状態である)。図10から下段に示された第3遊星歯車機構PGS3の共線図において、カムシャフト51と連結された第2連結体Ra−Rcの回転速度が、ピニオン70が連結された第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCc(第8要素)の回転速度と同一の「N1」であるとき、即ち、変速比hが一定に維持されるとき、図10の上段に示された第1遊星歯車機構PGS1の共線図において、調節用駆動源14が連結された第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSaの回転速度が「0」となることが分かる。
これは、各遊星歯車機構のギヤ比を用いて計算で求めることもできる。例えば、N1が3000rpmであると仮定する。このとき、第2連結体Ra−Rcの回転速度は、3000rpmとなる。変速比hは一定に維持されているので、第2連結体Ra−Rcの回転速度と、第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCc(第8要素)の回転速度は、同一の3000rpmとなる。
第3遊星歯車機構PGS3のリングギヤRc(第9要素)とキャリアCc(第8要素)とが同一速度の3000rpmで回転するため、第3遊星歯車機構PGS3の各要素は相対回転不能なロック状態となり、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第7要素)の回転速度、即ち、第3連結体Rb−Scの回転速度も3000rpmとなる。
図10の中段に示す第2遊星歯車機構PGS2の共線図を参照して、リングギヤRb(第6要素)が3000rpmで回転し、サンギヤSb(第4要素)の回転速度が、ブレーキB1が固定状態であるため、0rpmとなる。第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比jは2.00に設定されているため、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5回転要素)、即ち、第1連結体Ca−Cbの回転速度は2000rpmとなる。
図10の上段に示す第1遊星歯車機構PGS1の共線図を参照して、第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRa(第3要素)の回転速度が3000rpm、第1連結体Ca−Cb、即ち、キャリアCa(第2要素)の回転速度が2000rpm、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比iが2.00に設定されているため、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度が0rpmになることが分かる。
従って、本実施形態の無段変速機1によれば、変速比hが一定であるときには、調節用駆動源14の駆動力が伝達されるサンギヤSa(第1要素)の回転速度をカムシャフト51と同一の回転速度に制御する必要はなく、サンギヤSa(第1要素)の回転速度が「0」となるように制御すればいいことが分かる。なお、図9の共線図は、変速比hを変速している状態を示したものである(図9においても、無段変速機1の状態は第1状態である)。
次に、制御装置92が実行する走行用駆動源90の始動処理について説明する。
図12は、走行用駆動源90を始動する際に、調節用駆動源14の駆動力を走行用駆動源90に伝達するときの(すなわち、図11に示されるように無段変速機1の状態が第2状態のときの)、共線図を示したものである。第2状態においては、第1連結体Ca−Cbが、係合部84に係合してケース80に固定されて回転不能となっている(図12において、第1連結体Ca−Cbの回転速度が「0」となっている)。また、サンギヤSb(第4要素)は、係合部84との係合が解除された状態であるので回転可能となっている。
このように、第2状態においては、第1連結体Ca−Cbが回転不能であるので、調節用駆動源14が、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)を回転させると、第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRa(第3要素)、即ち、第2連結体Ra−Rcが、サンギヤSa(第1要素)の回転に対して、反対方向に「1/i」の回転速度で回転する。
従って、制御装置92は、走行用駆動源90を始動するときにおいて、別途当該車両に備えられた走行用駆動源90を始動するためのスタータモータ等の始動用駆動源(図示省略)によって、走行用駆動源90に駆動力を伝達しているときの走行用駆動源90の出力回転速度が、当該走行用駆動源90を始動するために必要な始動回転速度未満のときには、調節用駆動源14により第2連結体Ra−Rcの回転に対して反対方向にサンギヤSa(第1要素)を回転させる。
これにより、当該調節用駆動源14の駆動力が第2連結体Ra−Rcに伝達される。そして、走行用駆動源90の回転速度が上昇して、当該回転速度が始動回転速度以上になることで、走行用駆動源90を始動できる。このように、調節用駆動源14によって、走行用駆動源90の始動を支援することができる。
また、走行用駆動源90を始動するときにおいて、走行用駆動源90の回転速度が「0」の場合においても、調節用駆動源14の駆動力によってサンギヤSa(第1要素)を回転させて、当該駆動力を走行用駆動源90に伝達することで、走行用駆動源90の回転速度が始動回転速度以上となれば、調節用駆動源14の駆動力のみによって、走行用駆動源90を始動することができる。このように、走行用駆動源90の始動を、調節用駆動源14の駆動力によって常に行う場合には、調節用駆動源14の他に、スタータモータ等の始動用の駆動源を備える必要がないので部品点数を削減できる。
ここで、走行用駆動源90が始動回転速度で回転しているときの、第2連結体Ra−Rcの回転速度を「Ni」として表すと、調節用駆動源14は、サンギヤSa(第1要素)を、「−Ni・i」の回転速度で回転させればよい。ここで、「−」とは反対方向の回転を表す。例えば、走行用駆動源90の始動回転速度に対応する第2連結体Ra−Rcの回転速度Niが900rpmの場合には、本実施形態の第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比は「2.00」であるので、調節用駆動源14は、第2連結体Ra−Rcの回転方向とは反対方向に、1800rpmの回転速度で、サンギヤSa(第1要素)を回転させればよい。
次に、走行用駆動源90を始動する際に行われる制御装置92の制御について、図13に示されたフローチャートを参照して説明する。本フローチャートが実行される時点においては、無段変速機1の状態は、第1状態になっている。
まず、最初のステップST1において、制御装置92は、走行用駆動源90の回転速度が、始動回転速度以上か否かを判定する。制御装置92は、走行用駆動源90の出力回転軸(図示省略)等に設けられた回転角度センサ(図示省略)の検知信号等に基づいて、走行用駆動源90の回転速度を検知している。
また、始動回転速度は、車両の状況(エアコン等の車載機器の作動状態等)に応じて変化する。従って、制御装置92は、当該車両の状況に応じて、始動回転速度を適宜設定する。
制御装置92は、ステップST1で、走行用駆動源90の回転速度が始動回転速度以上と判定した場合には、ステップST2に進み、通常の走行用駆動源90の始動処理を行う。ここで、通常の走行用駆動源90の始動処理とは、調節用駆動源14とは別の始動用駆動源(図示省略)によって、走行用駆動源90を始動する処理である。制御装置92は、ステップST2の処理が終了すると、本フローチャートの処理を終了する。
制御装置92は、ステップST1で、走行用駆動源90の回転速度が始動回転速度未満と判定した場合には、ステップST3に進み、調節用駆動源14によって始動用駆動源による走行用駆動源90の始動を支援するために、無段変速機1の状態を第2状態に移行する。
次に、制御装置92は、ステップST4に進み、調節用駆動源14から走行用駆動源90を始動するための駆動力を出力する。このとき、始動用駆動源の駆動力により第2連結体Ra−Rcの回転速度がNsで回転している場合には、制御装置92は、サンギヤSa(第1要素)が少なくとも「−(Ni−Ns)・i」以上の回転速度で回転するように、調節用駆動源14の駆動力を制御する。これにより、第2連結体Ra−Rcの回転速度が少なくともNi以上となり、走行用駆動源90の回転速度が少なくとも始動回転速度以上となる。
制御装置92は、ステップST4の処理が終了すると、ステップST5に進み、走行用駆動源90の回転速度が始動回転速度以上になっているか否かを判定する。このときの処理は、ステップST1と同様に行われる。
制御装置92は、ステップST5で、走行用駆動源90の回転速度が始動回転速度未満と判定した場合には、ステップST4に戻り、調節用駆動源14の駆動力を増加する。
制御装置92は、ステップST5で、走行用駆動源90の回転速度が始動回転速度以上と判定した場合には、ステップST6に進み、走行用駆動源90を始動する。そして、制御装置92は、ステップST7に進み、無段変速機1の状態を第1状態に移行する。
このとき、第1状態に移行した後に、制御装置92は、無段変速機1の変速比hが、車両が停止した状態における目標変速比hs(例えば、最も大きな変速比)になっているかを確認する。そして、当該目標変速比hsになっていない場合には、制御装置92は、無段変速機1の変速比hを目標変速比hsとなるように調節用駆動源14を制御する。
そして、制御装置92は、上記の処理が終了すると本フローチャートの処理を終了する。
以上のように、本実施形態の無段変速機1は、切換機構81によって無段変速機1の状態を第1状態にすることで、調節用駆動源14によって当該無段変速機1の変速比を調節することができる。また、切換機構81によって無段変速機1の状態を第2状態にすることで、調節用駆動源14によって走行用駆動源90の始動を支援することができる。
また、第1状態と第2状態との切り換えは、各サンギヤSb(第4要素)及び第1連結体Ca−Cbの回転速度が、0か又は低い状態で行われることが多い。従って、係合部84には、サンギヤSb(第4要素)及び第1連結体Ca−Cbの回転速度と、当該係合部84の回転速度とを合わせるための同期機構が備えられていなくてもよい。このため、係合部84ひいては切換機構81を簡単に構成できる。更に、制御装置92は、係合部84を回転中心軸線P1に沿って移動するように制御するだけでよい。このため、回転速度を合わせるための制御処理が不要となり制御処理を簡単にできる。
なお、本実施形態において、制御装置92は、走行用駆動源90を始動するときに、無段変速機1の状態を第2状態に移行したが、これ以外の場合に第2状態に移行してもよい。例えば、走行用駆動源90の作動を停止するときに、次に走行用駆動源90を始動するために最も効率のよいクランク角となるように、調節用駆動源14を作動させてもよい。これにより、調節用駆動源14によって走行用駆動源90の始動を支援することができる。
一般に、スタータモータのような始動用駆動源には、高精度に回転角度を制御することが必要とされないため、クランク角の調整を高精度に行うことは難しい。一方、調節用駆動源14には、変速比hを調節するために高精度に回転角度を制御できることが求められる。従って、このような調節用駆動源14を用いることで、クランク角を高精度に調整できる。
また、切換機構81の構成は、上記構成のものに限らない。例えば、シャフト83が直接ケース80に固定され、係合部84が、シャフト83の軸方向に摺動自在にスプライン結合されているように構成されていてもよい。この場合には、制御装置92は、係合部84をシャフト83の軸方向に摺動させることで、第1状態と第2状態との間で無段変速機1の状態を切り替えることができる。
また、切換機構81の構成は、第1状態において、伝達部に調節用駆動源の駆動力が伝達され且つ入力軸への調節用駆動源の駆動力の伝達が阻止され、第2状態において、入力軸に調節用駆動源の駆動力が伝達される構成であれば、本実施形態の構成に限らない。
なお、本実施形態においては、入力軸2とカムディスク5とでカムシャフト51を構成し、カムシャフト51が、カムディスク5の貫通孔5aが連なることによって構成される挿通孔60を備えるものを説明した。しかしながら、本発明のカムシャフトはこれに限らず、例えば、入力軸を一端が開口するように挿通孔を有する中空軸状に構成し、円盤状のカムディスクに入力軸を挿通できるように貫通孔を本実施形態のものよりも大きく形成して、カムディスクを中空軸状に構成された入力軸の外周面にスプライン結合させてもよい。
この場合、中空軸からなる入力軸には、カムディスクの切欠孔に対応させて切欠孔が設けられる。そして、入力軸内に挿入されるピニオンは、入力軸の切欠孔及びカムディスクの切欠孔を介して、回転ディスクの内歯と噛合する。
また、本実施形態においては、一方向回転阻止機構として、一方向クラッチ17を用いているが、本発明の一方向回転阻止機構は、これに限らず、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達可能な揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向を切換自在に構成される二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)で構成してもよい。
また、本実施形態においては、第1から第3の遊星歯車機構PGS1〜PGS3として、シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されたものを説明した。しかしながら、本発明の第1から第3の遊星歯車機構はこれに限らない。例えば、シングルピニオン型と比較して伝達効率が劣るものの、本発明の遊星歯車機構を、サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合すると共に一方がサンギヤに噛合し、他方がリングギヤに噛合する一対のプラネタリギヤを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型の遊星歯車機構で構成することもできる。
この場合、第1遊星歯車機構の共線図における並び順に、第1遊星歯車機構のサンギヤとキャリアとの一方が第1要素、第1遊星歯車機構のリングギヤが第2要素、第1遊星歯車機構のサンギヤとキャリアとの他方が第3要素となる。そして、第1遊星歯車機構のサンギヤが第1要素、キャリアが第3要素の場合には、第1遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとの間の間隔と、リングギヤとキャリアとの間の間隔との比が、本実施形態で説明したi:1となるように、第1遊星歯車機構のギヤ比を設定すればよい。第2遊星歯車機構及び第3遊星歯車機構についても同様である。