[第1実施形態]
本開示の自動制動制御装置をバスやトラック等の備える自動制動制御装置として具体化した第1実施形態について、図1から図6を参照して説明する。まず、自動制動制御装置の制御の対象であるブレーキ装置の全体構成について、図1を参照して説明する。
[ブレーキ装置の全体構成]
図1に示されるように、車両Vにおける左右の後輪RR,RLと、車両Vにおける左右の前輪FR,FLとには、運転者によるブレーキペダル11の操作に応じた制動力を各車輪FR,FL,RR,RLに与えるブレーキ装置10が接続されている。ブレーキ装置10は、ブレーキオイルを作動流体とする油圧式のブレーキ装置である。
ブレーキ装置10は、ブレーキペダル11と、油圧発生部12と、油圧ユニット13と、各車輪FR,FL,RR,RLに取り付けられたブレーキ14FR,14FL,14RR,14RLとから構成されている。このうち、油圧発生部12は、マスターシリンダーやブースターから構成されている。また、油圧ユニット13は、電磁弁や加圧ポンプから構成されている。
運転者によってブレーキペダル11が踏み込まれると、油圧発生部12は、ブレーキペダル11の踏み込み量に応じてブレーキオイルを加圧する。そして、油圧ユニット13は、油圧発生部12にて加圧されたブレーキオイルを各ブレーキ14FR,14FL,14RR,14RLに供給し、各ブレーキ14FR,14FL,14RR,14RLに制動力を生じさせる。これにより、各車輪FR,FL,RR,RLが制動され、ひいては、車両Vが制動される。
[油圧ユニットの構成]
次に、ブレーキ装置10における油圧ユニット13のより詳しい構成について、図2を参照して説明する。なお、油圧ユニット13は、前輪FR,FL側のブレーキ14FR,14FLにブレーキオイルを供給する前輪用ユニットと、後輪RR,RL側のブレーキ14RR,14RLにブレーキオイルを供給する後輪用ユニットとから構成される。前輪用ユニットと後輪用ユニットとは、ブレーキオイルを供給する対象が異なっているものの、ブレーキオイルの供給に関わる構成は同様である。そのため、以下では、前輪FR,FLのブレーキ14FR,14FLに対してブレーキオイルを供給する前輪用ユニットについて主に説明する。
図2に示されるように、油圧発生部12には、油圧ユニット13の備える油圧回路20が、連絡通路31によって接続されている。連絡通路31の途中には、供給される電流値によって開度が変わる常開型の比例電磁弁32が取り付けられている。比例電磁弁32は、各ブレーキ14FR,14FLに供給されるブレーキオイルの圧力を開度に応じて変更する。
連絡通路31の途中には、比例電磁弁32と並列に並列通路33が接続されている。並列通路33の途中には、油圧発生部12側から各ブレーキ14FR,14FL側へのみブレーキオイルを流すチェック弁34が取り付けられている。チェック弁34は、油圧発生部12側の油圧がブレーキ14FR,14FL側の油圧よりも高くなったときに、ブレーキオイルを油圧発生部12側からブレーキ14FR,14FL側に流す。
油圧回路20では、左輪FLのブレーキ14FLが備えるホイールシリンダーWCaに接続される左輪用通路21と、右輪FRのブレーキ14FRが備えるホイールシリンダーWCbに接続される右輪用通路22とが、連絡通路31に並列に接続されている。
左輪用通路21の途中には、インレット弁23とアウトレット弁24とが、油圧発生部12側から順に取り付けられている。インレット弁23は、常開型の電磁弁であって、電流が供給されることにより、開位置と閉位置との間で切り替わる切り替え弁である。アウトレット弁24は、常閉型の電磁弁であって、電流が供給されることにより、閉位置と開位置との間で切り替わる切り替え弁である。左輪用通路21におけるインレット弁23とアウトレット弁24との間には、ホイールシリンダーWCaに接続される左輪用分岐通路21aが接続されている。
右輪用通路22の途中には、左輪用通路21と同様、インレット弁25とアウトレット弁26とが、油圧発生部12側から順に取り付けられている。インレット弁25は、左輪用通路21のインレット弁23と同様の構成であり、また、アウトレット弁26は、左輪用通路21のアウトレット弁24と同様の構成である。右輪用通路22におけるインレット弁25とアウトレット弁26との間には、ホイールシリンダーWCbに接続される右輪用分岐通路22aが接続されている。
油圧回路20における各アウトレット弁24,26の出口側には、各アウトレット弁24,26から流れ出たブレーキオイルを一時的に溜めるリザーバー27が接続されている。リザーバー27には、各ホイールシリンダーWCa,WCbが減圧されるときに、各ホイールシリンダーWCa,WCbからのブレーキオイルが、各アウトレット弁24,26を介して流れ込む。
リザーバー27には、各インレット弁23,25の入口側の通路に接続される吸入通路28が接続されている。吸入通路28の途中には、モーターMによって駆動される加圧ポンプ29が取り付けられている。また、リザーバー27には、油圧発生部12と、連絡通路31における比例電磁弁32の入口側とに接続されるリターン通路35が接続されている。
上記油圧ユニット13が通常状態であるとき、運転者によってブレーキペダル11が操作されると、油圧発生部12にて加圧されたブレーキオイルが、連絡通路31を通じて油圧回路20に流れ込む。このとき、比例電磁弁32は、ブレーキペダル11の操作量や車両の走行状態等に応じて所定の開度で開く。そして、加圧されたブレーキオイルが、左輪用通路21、インレット弁23、及び左輪用分岐通路21aを通じてホイールシリンダーWCaに供給される。また、同時に、加圧されたブレーキオイルが、右輪用通路22、インレット弁25、及び右輪用分岐通路22aを通じてホイールシリンダーWCbに供給される。これにより、各ブレーキ14FR,14FLにおいて所定の制動力が生じる。
続いて、運転者によるブレーキペダル11の操作量が次第に小さくなる、あるいは、操作が終了すると、例えば、各インレット弁23,25が閉じられ、且つ、各アウトレット弁24,26が開かれることで、各ホイールシリンダーWCa,WCbのブレーキオイルがリザーバー27に流れ込む。これにより、各ホイールシリンダーWCa,WCbが減圧されることで、制動力が生じなくなる。
これに対し、上記油圧ユニット13が通常状態から自動制動状態に遷移すると、まず、比例電磁弁32が閉じられる。そして、モーターMが駆動されることによって、加圧ポンプ29が、リザーバー27のブレーキオイルと、リターン通路35を通じた油圧発生部12側からのブレーキオイルとを吸引する。加圧ポンプ29は、吸引したブレーキオイルを吸引前よりも加圧された状態であって、且つ、運転者のブレーキペダル11の操作によって得られる圧力よりも高い圧力に加圧した状態とする。そして、加圧ポンプ29は、加圧されたブレーキオイルを各インレット弁23,25の入口側に吐出する。これにより、各ホイールシリンダーWCa,WCbには、ブレーキペダル11の操作時に比べて高い圧力のブレーキオイルが供給され、ひいては、各ブレーキ14FR,14FLにて、より高い制動力が生じる。
[自動制動制御装置の電気的構成]
車両Vに搭載された自動制動制御装置の電気的構成について、図3を参照して説明する。図3に示されるように、自動制動制御装置は、制動制御装置40とブレーキ制御装置60とから構成されている。
制動制御装置40には、制動用入出力部41と制動制御部42と制動用記憶部43とが含まれている。制動用入出力部41は、制動制御装置40に入力される入力信号の入力処理と、制動制御装置40から出力される出力信号の出力処理とを実行する。制動制御部42は、制動制御装置40が実行する各種の処理を制御し、制動用記憶部43は、制動制御部42の用いる各種の制御プログラムや各種のデータを記憶する。制動制御装置40には、ミリ波レーダー51と外気温センサー52とが接続されている。ミリ波レーダー51は、自車両の進行方向を走行する他車両や自車両の進行方向における障害物等の対象物と自車両との相対距離を計測し、また、対象物に対する自車両の相対速度を計測する。
ブレーキ制御装置60には、ブレーキ用入出力部61とブレーキ制御部62とブレーキ用記憶部63と電磁弁駆動部64とモーター駆動部65とが含まれている。ブレーキ用入出力部61は、ブレーキ制御装置60に入力される入力信号の入力処理と、ブレーキ制御装置60から出力される出力信号の出力処理とを実行する。ブレーキ制御部62は、ブレーキ制御装置60が実行する各種の処理を制御し、ブレーキ用記憶部63は、ブレーキ制御部62の用いる各種の制御プログラムや各種のデータを記憶する。ブレーキ制御装置60には、上述の各電磁弁23〜26,32と、モーターMとが接続されている。
制動用入出力部41は、例えば、ミリ波レーダー51から入力される相対速度、ミリ波レーダー51から入力される相対距離、及び、外気温センサー52から入力される外気温の入力処理を実行する。
制動用記憶部43には、車両と対象物との衝突を予測するためのプログラムが格納されている。制動用記憶部43には、補正係数の算出に用いられる補正係数算出マップが格納されている。
上記衝突予測時間は、相対距離に対する相対速度の比である。
上記補正係数は、ブレーキオイルの温度と負の相関関係を有する係数であって、基準開始時間を補正するための係数である。補正係数算出マップは、ブレーキオイルの温度と正の相関関係を有する外気温に対して補正係数が関連付けられた2次元マップである。補正係数算出マップは、例えば、外気温とブレーキオイルの温度との比較実験により得られたデータに基づくものであり、測定された外気温に対応する各ブレーキオイルの温度において、減速量の減少を抑えるために必要とされる補正の度合いがマップ化されたものである。
図4に示されるように、例えば、補正係数算出マップでは、外気温が低い、すなわちブレーキオイルの温度が低いときほど、補正係数が大きく、また、ブレーキオイルの温度が低いときほど、補正係数の増加度合いが大きくなる。また、補正係数算出マップでは、ブレーキオイルの動粘度の上昇度合いが顕著になる0℃付近よりも小さいときに、補正係数が1以上の値とされる。
上記衝突予測時間の経過時点を基準としてブレーキオイルの加圧が開始される時間が開始時間として設定される場合に、上記基準開始時間は、外気温、すなわちブレーキオイルの温度が所定の基準温度であるときの開始時間として設定される。この基準開始時間は、衝突の回避や衝撃の緩和を目的として、上述の開始時間のうち、望まれる減速量が所定の相対距離で得られる時間として設定される。なお、基準開始時間は、予め設定された固定値であってもよく、もしくは、衝突予測時間に対して基準開始時間が関連付けられた2次元マップから算出される算出値であってもよく、あるいは、相対速度と相対距離とに対して基準開始時間が関連づけられた3次元マップから算出される算出値でもよい。
制動制御部42は、制動用入出力部41の入力する相対距離と、同じく制動用入出力部41の入力する相対速度とを用いて衝突予測時間を算出する。すなわち、制動制御部42は、衝突予測時間を算出するための算出式に従い、相対距離の入力値と相対速度の入力値とを算出式に適用して衝突予測時間を算出する。また、制動制御部42は、衝突予測時間の算出値と上記閾値とを比較し、衝突予測時間の算出値が上記閾値以上か否かを判断する。
制動制御部42は、制動用入出力部41の入力する外気温を用いて補正係数を算出する。すなわち、制動制御部42は、補正係数を算出するための補正係数算出マップを制動用記憶部43から読み出し、読み出された補正係数算出マップにブレーキオイルの温度の推定値を適用して補正係数を算出する。
制動制御部42は、補正係数と基準開始時間とを用いて補正開始時間を算出する。すなわち、制動制御部42は、補正開始時間を算出する算出式に従い、基準開始時間に補正係数を乗算して補正開始時間を算出する。制動制御部42は、衝突予測時間の算出値が上記閾値以下である場合に、各電磁弁23〜26,32とモーターMとを通常状態から自動制動状態へ遷移させるための制御指令を生成する。この際に、制動制御部42は、開始時間が上記補正開始時間になるタイミングで制御指令の出力処理を制動用入出力部41に実行させる。
なお、本実施形態では、温度取得部、衝突予測時間算出部、衝突判断部、及び圧力制御部が、制動制御部42によって構成される。
ブレーキ用入出力部61は、例えば、制動制御装置40の出力する制御指令の入力処理を実行する。また、ブレーキ用入出力部61は、例えば、各電磁弁23〜26を開弁あるいは閉弁させる開閉指令や比例電磁弁32を所定の開度で開弁させる開度指令を電磁弁駆動部64に出力する。また、ブレーキ用入出力部61は、モーターMを所定の回転速度で駆動させる速度指令をモーター駆動部65に出力する。
ブレーキ用記憶部63には、通常の制動時に各電磁弁23〜26,32を開弁及び閉弁するためのプログラムと、自動制動時に割り込み処理を実行するためのプログラムとが格納されている。
ブレーキ制御部62は、通常の制動時には、車両Vの走行状態やブレーキペダル11の操作量等から、比例電磁弁32の開度を算出し、その算出値で比例電磁弁32を開弁するための開度指令を生成する。また、ブレーキ制御部62は、同じく車両Vの走行状態やブレーキペダル11の操作量等から、各インレット弁23,25及び各アウトレット弁24,26の開弁指令や閉弁指令を生成する。
ブレーキ制御部62は、ブレーキ用入出力部61の入力する制御指令に応じて割り込み処理である制動処理を実行する。すなわち、ブレーキ制御部62は、ブレーキ用入出力部61の入力する制御指令に応じて、比例電磁弁32を閉状態とする閉弁指令と、各インレット弁23,25を開状態とする開弁指令と、各アウトレット弁24,26を閉状態とする閉弁指令を生成する。また、ブレーキ制御部62は、モーターMを所定の回転速度で駆動するための速度指令を生成する。
電磁弁駆動部64は、ブレーキ用入出力部61の入力する開弁指令に基づいて、比例電磁弁32を所定の開度で開弁させるための駆動信号、あるいは、比例電磁弁32を閉弁させるための駆動信号を生成する。また、電磁弁駆動部64は、ブレーキ用入出力部61の入力する開弁指令や閉弁指令に基づいて、各インレット弁23,25及び各アウトレット弁24,26を開弁させるための駆動信号、あるいは、閉弁させるための駆動信号を生成する。
モーター駆動部65は、ブレーキ用入出力部61の入力する速度指令に基づいて、モーターMを所定の回転数で駆動させるための駆動信号、あるいは、モーターMの駆動を停止させるための駆動停止信号を生成する。
ところで、上述のブレーキ装置10にて作動流体として用いられるブレーキオイルの動粘度は、ブレーキオイルの温度に対して負の相関を有している。そのため、ブレーキオイルの温度が低いときほど、加圧ポンプ29ではブレーキオイルを吸入する際の負荷が大きくなり、各電磁弁23〜26,32では開弁動作や閉弁動作を行うときの負荷が大きくなる。結果として、ブレーキオイルを同一の圧力に昇圧する場合、相対的にブレーキオイルの温度が低いときには、相対的にブレーキオイルの温度が高いときに比べて、昇圧に必要な時間が長くなってしまう。
この点で、本実施形態では、補正係数算出マップに基づいて、まず、補正係数が算出される。次いで、補正係数が基準開始時間に乗算されることで補正開始時間が算出される。こうした補正開始時間であれば、ブレーキオイルの温度が相対的に低いときには、基準開始時間よりも開始時間が長くなるため、ブレーキオイルの加圧の開始タイミングが基準開始時間よりも早められる。反対に、ブレーキオイルの温度が相対的に高いときには、基準開始時間よりも開始時間が短くなるため、ブレーキオイルの加圧の開始タイミングが基準開始時間よりも遅らせられる。これにより、ブレーキオイルの温度が相対的に低い場合には、ブレーキオイルの加圧が早められるため、車両Vと対象物との間の距離が所定値に達するまでに、減速量が不足することが抑えられる。また、ブレーキオイルの温度が相対的に高い場合には、ブレーキオイルの加圧が遅らせられるため、車両Vと対象物との間の距離が所定値に達するまでに、減速量が過大になることが抑えられる。
しかも、上述の補正開始時間は、基準開始時間に対して補正係数を乗算することのみによって算出されるため、簡易な方法でありながら、減速量が小さくなることを抑えられる。また、補正係数は、ブレーキオイルの動粘度の上昇度合いが顕著になる0℃付近よりも小さいときに、1以上の値とされる。そのため、ブレーキオイルの動粘度が大きい範囲で衝突予測時間がより長い時点でブレーキオイルの加圧が開始されるため、開始時間を早めることの効果が顕著になる。
ここで、ブレーキオイルの温度が低くなることに伴って、ブレーキオイルの動粘度が高くなると、加圧ポンプ29の負荷や各電磁弁23〜26,32の負荷が大きくなる。このように、ブレーキオイルにおいて動粘度が大きくなることは、ブレーキオイルの加圧に関わる複数の部材に対して影響する。そのため、動粘度が大きいときほど、動粘度が大きくなる度合い以上にブレーキオイルは加圧されにくくなる。この点、上記の補正係数は、ブレーキオイルの温度が低いときほど、大きい値に設定されることに加え、ブレーキオイルの温度が低いときほど、温度の低下に対する補正係数の増加度合いが大きくされる。それゆえに、ブレーキオイルがより低い温度であっても減速量が小さくなることを抑えられることから、ブレーキオイルの温度にかかわらず、自動制動によって得られる減速量が小さくなることを抑えられる。
[自動制動制御装置の作用]
自動制動制御装置で行われる動作の一つである自動制動処理について、図5及び図6を参照して説明する。このうち、図5には、自動制動処理を構成する補正係数算出処理の手順が示され、他方、図6には、同じく自動制動処理を構成する補正開始時間算出処理の手順が示されている。なお、これらの処理は、制動制御装置40によって行われる。また、これら処理のうち、補正係数算出処理は、ディーゼルエンジンの始動時に実行され、他方、補正開始時間算出処理は、所定期間毎に実行される。
図5に示されるように、補正係数算出処理では、まず、制動制御部42が、外気温を制動用入出力部41から取得する(ステップS11)。そして、制動制御部42は、外気温を補正係数算出マップに適用することによって、補正係数を算出する(ステップS12)。制動制御部42は、算出した補正係数を制動用記憶部43に記憶させる(ステップS13)。
バスやトラック等の大型自動車では、走行時に熱を発するエンジンと、ブレーキ装置10とが、ブレーキ装置10に対してエンジンの熱が伝わりにくい程度に離れて配置されている。そのため、エンジンとブレーキ装置との距離がより小さい普通自動車と比べて、エンジンの始動時と、始動時から所定時間が経過した後とでは、ブレーキ装置10中を流れるブレーキオイルの温度の上昇度合いが小さい。しかも、大型自動車のブレーキ装置10は、外気にさらされるため、ブレーキオイルの温度は、エンジンの始動時と、始動から所定時間が経過した後とで略同じ温度になりやすい。それゆえに、ブレーキオイルの温度の推定をエンジンの始動時に行ったとしても、自動制動が行われるときのブレーキオイルの温度との差が、普通自動車と比べて小さくなる。結果として、エンジンの始動時におけるブレーキオイルの温度に基づいて自動制動を行ったとしても、自動制動時におけるブレーキオイルの温度に大凡基づいた処理を行うことができる。
また、補正開始時間算出処理では、図6に示されるように、制動制御部42が、相対速度と相対距離とを制動用入出力部41から取得した後(ステップS21)、相対速度と相対距離とを衝突予測時間の算出式に適用することによって、衝突予測時間を算出する(ステップS22)。そして、制動制御部42は、衝突予測時間と閾値とを比べ、衝突予想時間が閾値以下であるか否かを判断する(ステップS23)。衝突予測時間が閾値よりも大きいときには(ステップS23:NO)、制動制御部42は、補正開始時間算出処理を一旦終了する。
一方、衝突予測時間が閾値以下であるときには(ステップS23:YES)、制動制御部42は、経過時間の測定を開始する(ステップS24)。次いで、制動制御部42は、上述の補正係数と基準開始時間とを制動用記憶部43から取得した後、補正開始時間を算出するための算出式に補正係数と基準開始時間とを適用して補正開始時間を算出する(ステップS25)。そして、制動制御部42は、ステップS22にて算出した衝突予測時間から経過時間を引いた残り時間と補正開始時間とを比べる(ステップS26)。残り時間が補正開始時間よりも長いときには(ステップS26:NO)、制動制御部42は、残り時間が補正開始時間以下になるまで待機する。一方、残り時間が補正開始時間以下になると(ステップS26:YES)、制動制御部42は、制御指令を生成し、制動用入出力部41を介して制御指令をブレーキ制御装置60に出力する(ステップS27)。そして、制動制御部42は、経過時間をリセットした後(ステップS28)、補正開始時間算出処理を一旦終了する。
なお、ブレーキ制御装置60に制御指令が入力されると、ブレーキ制御装置60では、電磁弁駆動部64が、閉弁指令に基づく駆動信号を生成して比例電磁弁32を閉弁させ、開弁指令に基づく駆動信号を生成して各インレット弁23,25を開弁させ、閉弁指令に基づく駆動信号を生成して各アウトレット弁24,26を閉弁させる。また、モーター駆動部65が、速度指令に基づく駆動信号を生成し、モーターMに出力する。これにより、モーターMが駆動されることによって、加圧ポンプ29によるブレーキオイルの加圧が開始される。そして、加圧されたブレーキオイルが、各ホイールシリンダーWCa,WCbに供給されることによって、各ブレーキ14FR,14FLによる車輪FR,FLの制動が行われる。
以上説明したように、本開示の自動制動制御装置における第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)ブレーキオイルの温度が相対的に低い場合には、ブレーキオイルの加圧が早められ、また、ブレーキオイルの温度が相対的に高い場合には、ブレーキオイルの加圧が遅らせられる。それゆえに、車両Vと対象物との間の距離が自動制動の開始から所定値に達するまでの減速量が望まれる値に対してばらつくことが抑えられる。
(2)補正係数算出マップに適用可能な温度範囲において、ブレーキオイルの温度が低いときほど加圧の開始が早められるから、上記の温度範囲の全てにおいて上記(1)に記載の効果が得られる。
(3)ブレーキオイルの温度が相互に異なる加圧の状態では、上述の減速量も少なからず相互に異なることになる。上記の実施形態であれば、所定の温度範囲における各温度では、その温度に応じた相互に異なるタイミングで加圧が開始されるため、上記減速量のばらつきの抑制は、より高い精度で実現される。
(4)ブレーキオイルの温度を直接測定することなく、外気温を用いて補正係数を算出しているため、ブレーキオイルの温度を直接測定する構成を省くことが可能にもなる。あるいは、ブレーキオイルの温度を直接測定する構成が含まれる場合には、ブレーキオイルの温度の精度や信頼性を高めることが可能にもなる。
(5)ブレーキオイルの温度が、オイルの温度以外の他の温度に基づき推定されるため、オイルの動粘度等の温度以外の情報から推定される構成と比べて、推定されるブレーキオイルの温度が温度以外の要因によって影響されにくくなる。
(6)補正係数は、ブレーキオイルの温度が低いときほど、大きい値に設定されることに加え、ブレーキオイルの温度が低いときほど、温度の低下に対する補正係数の増加度合いが大きくされる。それゆえに、ブレーキオイルがより低い温度であっても減速量が小さくなることを抑えられることから、ブレーキオイルの温度にかかわらず、自動制動によって得られる減速量が小さくなることを抑えられる。
(7)補正開始時間は、基準開始時間に対して補正係数を乗算することのみによって算出されるため、簡易な方法でありながら、減速量が小さくなることを抑えられる。
[第2実施形態]
本開示の自動制動制御装置を大型自動車の備える自動制動制御装置として具体化した第2実施形態について、図7から図10を参照して説明する。なお、第2実施形態は、上述の第1実施形態と比べて、ブレーキオイルの温度を推定するための構成を備える点が異なっている。そのため、以下では、この相違点について詳しく述べることとし、その他の構成については、第1実施形態での説明で代えることとする。
[自動制動制御装置の電気的構成]
車両Vに搭載されている自動制動制御装置の電気的構成について、図7を参照して説明する。
図7に示されるように、第1実施形態と同様、制動制御装置40には、ミリ波レーダー51と、ブレーキ制御装置60とが接続されている。ブレーキ制御装置60には、各電磁弁23〜26,32と、モーターMとに加えて、モーターMの回転数を検出するエンコーダーEが接続されている。
制動用入出力部41は、第1実施形態と同様、ミリ波レーダー51から入力される相対速度やミリ波レーダー51から入力される相対距離の入力処理を実行する。また、制動用入出力部41は、ブレーキ制御装置60から出力されるブレーキオイルの温度における推定値の入力処理を実行する。なお、ブレーキオイルの温度における推定値とは、加圧ポンプ29を駆動するモーターMの空転時間から推定される。また、空転時間とは、所定回転数だけ回転したモーターMへの駆動電流の供給が停止された後に、モーターMの回転速度が「0」になるまでの時間である。
制動用記憶部43には、上記第1実施形態と同様、補正係数の算出に用いられる補正係数算出マップが格納されている。なお、補正係数算出マップは、ブレーキオイルの温度の推定値に対して補正係数が関連付けされた2次元マップである。この補正係数算出マップは、第1実施形態における補正係数算出マップと比べて、補正係数に関連付けられたパラメータが異なってはいる。しかしながら、図4に示される補正係数マップと同様の傾向を有している。つまり、ブレーキオイルの温度が低いときほど、補正係数が大きい値に設定され、ブレーキオイルの温度が低いときほど、補正係数の増加度合いが大きくなる。また、補正係数算出マップでは、ブレーキオイルの動粘度の上昇度合いが顕著になる0℃付近よりも小さいときに、補正係数が1以上の値とされる。
制動制御部42は、第1実施形態と同様、衝突予測時間と補正開始時間とを算出する。加えて、制動制御部42は、制動用入出力部41の入力するブレーキオイルの温度における推定値を用いて補正係数を算出する。すなわち、制動制御部42は、補正係数を算出するための補正係数算出マップを制動用記憶部43から読み出し、読み出された補正係数算出マップにブレーキオイルの温度の推定値を適用して補正係数を算出する。
ブレーキ制御装置60には、ブレーキ用入出力部61、ブレーキ制御部62、ブレーキ用記憶部63、電磁弁駆動部64、及びモーター駆動部65に加えて、空転時間計測部66が含まれている。
ブレーキ用入出力部61は、第1実施形態と同様、制御指令の入力処理、開度指令、開弁指令、閉弁指令、速度指令等の出力処理を実行する。加えて、ブレーキ用入出力部61が、エンコーダーEの出力するモーターMの回転数の入力処理を実行する。また、ブレーキ用入出力部61は、ブレーキオイルの温度における推定値の制動制御装置40に対する出力処理を行う。
ブレーキ用記憶部63には、第1実施形態と同様、通常の制動時に各電磁弁23〜26,32を開弁及び閉弁するためのプログラムと、自動制動時に割り込み処理を実行するためのプログラムとが格納されている。加えて、ブレーキ用記憶部63には、ブレーキオイルの温度を推定するためにモーターMを回転させるためのプログラムが格納されている。
ブレーキ用記憶部63には、モーターMの空転時間からのブレーキオイルの温度の推定に用いられるオイル温度推定マップが格納されている。オイル温度推定マップは、上記空転時間に対してブレーキオイルの温度が関連付けられた2次元マップである。
なお、モーターMの空転時間は、例えば以下のようにして測定される。つまり、モーターMが駆動電流の供給によって所定の回転数、例えば数百回転だけ回転された後、モーターMへの駆動電流の供給が停止される。そして、駆動電流の供給が停止されてから、モーターMの回転が停止、すなわち回転速度が「0」になるまでの時間が空転時間として測定される。
ここで、上述のように、ブレーキオイルの動粘度は、ブレーキオイルの温度が低いときほど大きくなるため、ブレーキオイルの温度が低いときほど、モーターMが回転するときの負荷が大きくなる。それゆえに、ブレーキオイルの温度が低いときほど、モーターMに対する駆動電流の出力が停止されてから、モーターMの回転が停止するまでの時間が短くなる。他方、ブレーキオイルの温度が高いときほど、モーターMに対する駆動電流の出力が停止されてから、モーターMの回転が停止するまでの時間が長くなる。しかも、ブレーキオイルの温度に対する動粘度の変化度合いは一定であるため、ブレーキオイルの温度に対するモーターMの空転時間の変化度合いも一定になる。
そこで、図8に示されるように、例えば、オイル温度推定マップでは、モーターMの空転時間が短いときほど、ブレーキオイルの温度が低く推定され、また、空転時間に対するブレーキオイルの温度の変化の度合いは、一定である。なお、オイル温度推定マップは、例えば、モーターMの空転時間とブレーキオイルの温度との比較実験により得られたデータから作成されたものである。
ブレーキ制御部62は、通常の制動時と自動制動時との両方において、第1実施形態と同様の処理を実行する。また、ブレーキ制御部62は、ブレーキオイルの温度を推定するときには、モーターMを駆動するための駆動指令と、モーターMの駆動を停止させるための駆動停止指令とを生成する。また、ブレーキ制御部62は、モーターMに対する駆動停止指令に基づく駆動電流の出力停止時から、空転時間計測部66に計時を開始させるための計時指令を生成する。また、ブレーキ制御部62は、モーターMの回転速度が「0」になったときに、空転時間計測部66に計時を停止させるための計時停止指令を生成する。空転時間計測部66は、計時指令と計時停止指令とに応じて、モーターMの回転速度が所定値から「0」になるまでの時間を計測する。
加えて、ブレーキ制御部62は、ブレーキ用入出力部61の入力するモーターMの回転数を用いて、モーターMの回転速度を算出する。
さらに、ブレーキ制御部62は、ブレーキ用入出力部61の入力する空転時間を用いてブレーキオイルの温度を推定する。この際に、ブレーキ制御部62は、ブレーキ用記憶部63からオイル温度推定マップを読み出し、ブレーキ用入出力部61の入力するモーターMの空転時間をオイル温度推定マップに適用してオイル温度を推定する。
上述のように、ブレーキ装置10にて作動流体として用いられるブレーキオイルの動粘度は、ブレーキオイルの温度に対して負の相関を有している。そのため、ブレーキオイルの温度が低いときほど、油圧ユニット13を構成している加圧ポンプ29がブレーキオイルを吸入する際の抵抗が大きくなる。これにより、加圧ポンプ29を駆動するモーターMでは、駆動電流の供給が停止されてから回転速度が「0」になるまでの時間が、ブレーキオイルの温度が低いときほど短くなる。そこで、本実施形態では、モーターMを所定回転数だけ回転させた後、モーターMに対する駆動電流の出力停止時からモーターMの回転速度が「0」に達するまでの時間である空転時間を計測し、この空転時間からブレーキオイルの温度を推定する。
なお、ブレーキオイルの温度を推定するためにモーターMが回転するときには、比例電磁弁32と、各インレット弁23,25が開かれ、且つ、各アウトレット弁24,26が閉じられた状態とされる。つまり、加圧ポンプ29から吐出されるブレーキオイルが、吸入通路28、連絡通路31、リターン通路35、及びリザーバー27を通って加圧ポンプ29の吸入側に環流され、加圧されたブレーキオイルが各ホイールシリンダーWCa,WCbに流れ込まない経路が形成される。
こうした経路であれば、加圧されたブレーキオイルは、ホイールシリンダーWCa,WCbに流れ込まないため、上記空転時間の計測直後に行われる車両Vの走行に対して、加圧されたブレーキオイルが影響することを抑えられる。
そして、空転時間計測部66によって計時された空転時間がオイル温度推定マップに適用されることで、ブレーキオイルの温度が推定される。これにより、空転時間が長いときほど、ブレーキオイルの温度が高く推定され、他方、空転時間が短いときほど、ブレーキオイルの温度が低く推定される。
このように、本実施形態では、モーターMの空転時間を用いてブレーキオイルの温度を推定している。そのため、ブレーキオイルの温度の推定に用いる温度情報を検出するためのセンサーが不要になるため、ブレーキオイルの温度の推定に関わる構成を簡単にすることができる。また、センサーが不要であるために、センサーの故障によってブレーキオイルの温度が推定できないことや、センサーの取り付け位置による検出温度の差により、推定されるブレーキ温度に差が生じることをなくすことができる。
そして、推定されたブレーキオイルの温度が、第1実施形態と同様の補正係数算出マップに適用されることによって補正係数が算出され、基準開始時間が補正係数によって補正されることで補正開始時間が算出される。
なお、本実施形態では、衝突判断部、及び圧力制御部が、制動制御部42によって構成される。また、温度取得部が、制動制御部42によって構成されている。そして、温度推定部が、ブレーキ制御部62によって構成される。
[自動制動制御装置の作用]
自動制動制御装置の作用として、自動制動制御装置で行われる動作の一つである自動制動処理について、図9及び図10を参照して説明する。このうち、図9には、自動制動処理を構成する温度推定処理の手順が示され、図10には、同じく自動制動処置を構成する補正係数算出処理の手順が示されている。なお、温度推定処理は、ブレーキ制御装置60のブレーキ制御部62によって行われ、他方、補正係数算出処理は、制動制御装置40の制動制御部42によって行われる。また、温度推定処理と補正係数算出処理は、第1実施形態と同様、ディーゼルエンジンの始動時に実行される。
図9に示されるように、温度推定処理では、まず、ブレーキ制御部62が、モーターMを駆動させるための駆動指令を生成し、ブレーキ用入出力部61を介してモーター駆動部65に駆動指令を出力する。これにより、モーター駆動部65が駆動指令に基づく駆動電流を生成して出力することで、モーターMの駆動が開始される。そして、モーターMが所定の回転数、例えば、数百回転だけ回転されると、ブレーキ制御部62が、モーターMの駆動を停止させるための駆動停止指令を生成し、ブレーキ用入出力部61を介してモーター駆動部65に駆動停止指令を出力する。これにより、モーター駆動部65が駆動停止指令に基づき駆動電流の出力を停止することで、モーターMの駆動が停止される(ステップS31)。この際、油圧ユニット13では、比例電磁弁32、及び各インレット弁23,25が開かれ、且つ、各アウトレット弁24,26が閉じられている。
そして、ブレーキ制御部62が、空転時間の計時を開始させるための計時指令を生成し、ブレーキ用入出力部61を介して空転時間計測部66に計時指令を出力する。これにより、モーターMへの駆動電流の供給が停止されたときからの時間の計測が開始される。ついで、ブレーキ制御部62は、エンコーダーEの検出する回転数から算出されるモーターMの回転速度が「0」になると、空転時間の計測を停止させるための計時停止指令を生成し、ブレーキ用入出力部61を介して空転時間計測部66に計時停止指令を出力する。これにより、モーターMの空転時間の計時が停止される。このようにして、空転時間計測部66が、モーターMの空転時間を計測する(ステップS32)。
次いで、空転時間計測部66が、モーターMの空転時間をブレーキ用入出力部61に出力し、ブレーキ制御部62が、空転時間計測部66の出力した空転時間をブレーキ用入出力部61から取得する。そして、ブレーキ制御部62は、空転時間をオイル温度推定マップに適用することによって、ブレーキオイルの温度を推定する(ステップS33)。次いで、ブレーキ制御部62は、ブレーキオイルの温度の推定値をブレーキ用入出力部61に出力した後、ブレーキ用入出力部61が制動制御装置40に対してブレーキオイルの温度の推定値を出力する(ステップS34)。
そして、補正係数算出処理では、図10に示されるように、制動制御部42が、ブレーキ制御装置60の出力したブレーキオイルの温度の推定値を制動用入出力部41から取得する(ステップS41)。制動制御部42は、ブレーキオイルの温度の推定値を補正係数算出マップに適用することによって、補正係数を算出する(ステップS42)。制動制御部42は、算出した補正係数を制動用入出力部41に出力した後、制動用入出力部41が制動用記憶部43に対して補正係数を出力する。これにより、補正係数が、制動用記憶部43に記憶される(ステップS43)。
その後、制動制御部42では、第1実施形態と同様の補正開始時間算出処理が実行されることによって補正開始時間が算出される。そして、補正開始時間にブレーキ装置10が駆動されることによって、車両Vの制動が行われる。
以上説明したように、本開示の自動制動制御装置における第2実施形態によれば、上述の第1実施形態によって得られる効果に加えて、以下に列挙する効果を得ることができる。
(8)モーターMの空転時間を用いてブレーキオイルの温度を推定しているため、ブレーキオイルの温度の推定に用いる温度情報を検出するためのセンサーが不要になる。そのため、ブレーキオイルの温度の推定に関わる構成を簡単にすることができる。
(9)温度情報を得るためのセンサーが不要であることから、センサーの故障によってブレーキオイルの温度が推定できないことや、センサーの取り付け位置による検出温度の差により、推定されるブレーキ温度に差が生じることをなくすことができる。
なお、上述の第1実施形態及び第2実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・第1実施形態における自動制動制御装置では、エンジンの吸気量を推定する温度センサーから外気温が取得されてもよいし、車々間通信によって他の車両から外気温が取得されてもよい。
・第1実施形態における自動制動制御装置では、ブレーキオイルの温度として外気温が用いられるが、ブレーキオイルの温度の推定には、外気温以外の温度が用いられてもよい。例えば、油圧発生部12や油圧ユニット13に取り付けられた油温センサーの計測値がブレーキオイルの温度として用いられてもよい。要は、ブレーキオイルの温度と対応付けることの可能な温度であって、ブレーキオイルの温度特性と同等の温度特性を有していることが好ましい。なお、ブレーキオイルの温度と、ブレーキオイルの温度として用いられる他の温度とにおける相関関係を加味して上記補正係数算出マップが予め作成される以上、ブレーキオイルと他の温度との温度特性は異なってもよい。例えば、ブレーキオイルの温度と他の温度との間には、ブレーキオイルの温度が低いときほど、他の温度が高くなるような関係が成り立っていてもよい。
・第1実施形態では、外気温が適用される補正係数算出マップが用いられるが、外気温からブレーキオイルの温度を推定した後、この推定値が適用される補正係数算出マップを用いて補正係数を算出する構成でもよい。なお、こうした構成では、外気温以外の他の温度を用いて補正係数を算出する場合であっても適用することができる。
・第1実施形態における自動制動制御装置では、ブレーキオイルの温度の推定がエンジンの始動時に実行されるが、ブレーキオイルの温度の推定は、車両Vの停止時、あるいは、自動制動処理時に実行されてもよい。このうち、ブレーキオイルの温度の推定が自動制動処理時に実行される場合には、例えば、上記ステップS23で用いられる閾値が第1閾値として設定され、第1閾値よりも大きい閾値が第2閾値として設定される。そして、ステップS21に先立って、別途、衝突予測時間が算出され、その衝突予測時間が第2閾値以下になるときに、補正係数の算出処理が実行される構成が好ましい。このように、自動制動処理時に補正係数を算出する構成によれば、補正係数には、その時々のブレーキオイルの温度に相関を有した外気温の温度が反映されやすくなる。それゆえに、他のタイミングで補正係数を算出する構成と比べて、推定されたブレーキオイルの温度と、実際のブレーキオイルの温度との差を小さくすることができる。
・第2実施形態における自動制動制御装置では、モーターMの空転時間に限らず、モーターMが駆動された状態から駆動が停止された状態に変更されたときに発生する回生電圧がブレーキオイルの温度の推定に用いられてもよい。
・第2実施形態における自動制動制御装置では、モーターMの駆動によってブレーキオイルの温度の推定が行われるが、各電磁弁23〜26,32の開動作や閉動作に必要な時間からブレーキオイルの温度が推定されてもよい。
・第2実施形態における自動制動制御装置では、ブレーキオイルの温度の推定がエンジンの始動時に実行されるが、ブレーキオイルの温度の推定は、車両Vの停止時、あるいは、自動制動処理時に実行されてもよい。このうち、ブレーキオイルの温度が自動制動処理時に実行される場合には、その時々のブレーキオイルの温度が補正係数に反映されやすくなる。それゆえに、他のタイミングでブレーキオイルの温度を推定する構成と比べて、推定されたブレーキオイルの温度と、実際のブレーキオイルの温度との差を小さくすることができる。
なお、ブレーキオイルの温度の推定が自動制動処理時に実行される場合には、例えば、上記ステップS23で用いられる閾値が第1閾値として設定され、第1閾値よりも大きい閾値が第2閾値として設定される。そして、ステップS21に先立って、別途、衝突予測時間が算出され、その衝突予測時間が第2閾値以下になるときに、補正係数の算出処理が実行される構成が好ましい。
このとき、衝突予測時間が第2閾値よりも大きいときには、比例電磁弁32、及び各インレット弁23,25は開かれた状態であり、且つ、各アウトレット弁24,26は閉じられた状態である。そして、衝突予測時間が第2閾値以下になると、各電磁弁23〜26,32は同一の状態に維持され、モーターMの駆動が行われる。なお、モーターMを回転させる時間は、数百ミリ秒であるため、モーターMの駆動によるブレーキオイルの温度の推定が行われたとしても、自動制動が顕著に遅れることはない。次いで、自動制動による制動、あるいは、運転者によるブレーキペダル11の操作に応じた制動によって、各電磁弁の状態が制御される。
このように、ブレーキオイルの温度の推定が自動制動処理時に行われたとしても、モーターMの駆動には各電磁弁23〜26,32の開動作及び閉動作が伴わないため、各電磁弁23〜26,32の動作が伴う構成と比べて、自動制動処理にかかる時間が長くなることを抑えられる。
・外気温に基づいてブレーキオイルの温度を推定する構成と、モーターMや電磁弁23〜26,32等の駆動における負荷から温度を推定する構成との両方を備えてもよい。こうした構成によれば、一方の構成にて温度が推定されない場合であっても、他方の構成にて温度を推定することが可能であるから、温度の推定そのものの信頼性を高めることが可能でもある。
・補正係数は、ブレーキオイルの温度に対して変動する変動値であるが、ブレーキオイルの温度が所定範囲の一部分であるときに、補正係数は一定値であってもよい。例えば、図4において、ブレーキオイルの温度が0℃以上であるときに、補正係数は一定値であってもよい。こうした構成であれば、ブレーキオイルの温度が0℃以上であるときに、補正係数算出マップが読み出される処理、補正係数算出マップから補正係数が算出される処理、これらを省略することが可能である。
・ブレーキオイルの温度範囲が複数の温度範囲に分割され、分割された温度範囲では共通の補正係数が用いられてもよい。こうした補正係数であっても、分割された温度範囲の単位では、ブレーキオイルの温度が低いときほど、補正開始時間を長くすることは可能である。
・補正開始時間は、基準開始時間に補正係数の加算された加算値でもよいし、基準開始時間から補正係数の減算された減算値でもよいし、基準開始時間が補正係数で除算された除算値でもよい。さらには、補正開始時間は、これらの組み合わせであってもよい。
要は、衝突予測時間が閾値以下であるか否かの判断が判断時に実行され、ブレーキオイルの温度が第1温度であるときに第1タイミングで加圧が開始される第1状態と、ブレーキオイルの温度が第2温度であるときに第2タイミングで加圧を開始する第2状態とを自動制動制御装置が備える。そして、第1温度は第2温度より低く、第1タイミングは第2タイミングより判断時に近くなるように、自動制動制御装置では補正係数が算出されればよい。
・ブレーキオイルの温度に対して補正開始時間が関連付けられた補正開始時間マップが用いられ、基準開始時間や補正係数が用いられることなく、ブレーキオイルの温度が補正開始時間マップに適用されることによって補正開始時間が算出されてもよい。
要は、衝突予測時間が閾値以下であるか否かの判断が判断時に実行され、ブレーキオイルの温度が第1温度であるときに第1タイミングで加圧が開始される第1状態と、ブレーキオイルの温度が第2温度であるときに第2タイミングで加圧を開始する第2状態とを自動制動制御装置が備える。そして、第1温度は第2温度より低く、第1タイミングは第2タイミングより判断時に近くなるように、自動制動制御装置では補正開始時間が算出されればよい。
・衝突予測時間が閾値以下である旨の判断のなされた時点が判断時として設定され、補正開始時間は、判断時からの経過時間として設定されてもよい。なお、この際に、補正開始時間算出処理では、残り時間が算出されるのではなく、判断時からの経過時間と補正開始時間とが比べられ、経過時間が補正開始時間に達するときに制御指令が出力されることが好ましい。
・油圧ユニット13は、インレット弁23,25、アウトレット弁24,26、比例電磁弁32、及び加圧ポンプ29を備える構成としたが、例えば、油圧回路20よりも油圧発生部12側に2つの比例電磁弁を備える構成等、適宜変更可能である。
・自動制動時には、加圧ポンプ29によって加圧されたブレーキオイルと、油圧発生部12にて加圧されたブレーキオイルとの両方がブレーキに供給される構成でもよい。
・第1実施形態における自動制動制御装置では、オイル温度推定マップが用いられることなく、ブレーキオイルの温度が外気温から一義的に導出される算出式が用いられ、外気温がその算出式に適用されることによってブレーキオイルの温度が推定されてもよい。
・第2実施形態における自動制動制御装置では、オイル温度推定マップが用いられることなく、ブレーキオイルの温度が空転時間から一義的に導出される算出式が用いられ、空転時間がその算出式に適用されることによってブレーキオイルの温度が推定されてもよい。
・第2実施形態における自動制動制御装置では、エンコーダーE以外の回転検出センサー等によって、モーターMの回転数を測定してもよい。あるいは、回転速度を直接検出することのできる回転検出センサーを用いてもよい。
・第2実施形態における自動制動制御装置では、モーターMの回転が開始されてから、モーターMの回転数が所定の回数になるまでの時間が、ブレーキオイルの温度を推定するためのモーターMの回転時間として設定されてもよい。
・第2実施形態における自動制動制御装置では、ブレーキオイルが所定の圧力だけ高められるまでの時間が、ブレーキオイルの温度を推定するためのモーターMの回転時間として設定されてもよい。この場合、例えば、吸入通路28におけるインレット弁23の出口に接続された通路との合流点よりも加圧ポンプ29側に、ブレーキオイルの圧力を検出する油圧センサーを取り付ければよい。
・第2実施形態における自動制動制御装置では、空転時間が計時されるときに、比例電磁弁32、及び、各インレット弁23,25が開かれ、且つ、アウトレット弁24,26が閉じられる。これに限らず、例えば、空転時間が計時されるときに、比例電磁弁32、インレット弁25、及びアウトレット弁26が閉じられ、且つ、インレット弁23及びアウトレット弁24が開かれてもよい。あるいは、空転時間が計時されるときに、比例電磁弁32、インレット弁23、及びアウトレット弁24が閉じられ、且つ、インレット弁25及びアウトレット弁26が開かれてもよい。なお、ブレーキオイルの温度ごとの空転時間の差異は、空転時間が長くなるほど明確になる。それゆえに、ブレーキオイルの温度の推定に際し、その推定値の精度を高めるうえでは、これら2つの形態を比べた場合、循環経路を長くするべく、インレット弁25とアウトレット弁26とが開かれ、且つ、それ以外の電磁弁が閉じられることが好ましい。
・相対速度と相対距離とが検出されるセンサーであれば、ミリ波レーダー51に限らず、他のレーダーやセンサー等が用いられてもよい。要するに、自動制動制御装置における衝突予測時間算出部には、衝突予測時間を推定するための対象物の情報が入力され、当該情報を取得するためのセンサーや通信部等が車両に搭載される構成であればよい。
・第2実施形態の自動制動制御装置は、温度推定処理をブレーキ制御装置60で実行し、補正係数算出処理を制動制御装置40で実行する。これを変更して、例えば、モーターMの空転時間を計測する処理のみをブレーキ制御装置60にて実行し、空転時間を用いたブレーキオイルの温度の推定、及び補正係数算出処理を制動制御装置40で実行してもよい。この場合、温度推定処理のうち、ステップS31とステップS32との処理がブレーキ制御装置60で実行され、ステップS33とステップS34との処理が制動制御装置40で実行される。
・本開示の自動制動制御装置は、補正係数算出処理と補正開始時間算出処理とを制動制御装置40で実行する。これを変更して、例えば、補正係数算出処理は制動制御装置40で実行され、また、補正開始時間算出処理のうち、ステップ21からステップ23までの処理は制動制御装置40で実行される。そして、衝突予測時間が閾値以下である旨を示す信号が、制動制御装置40からブレーキ制御装置60に出力され、補正開始時間算出処理のうち、ステップ24以降の処理はブレーキ制御装置60で実行されてもよい。
・あるいは、補正係数算出処理は、ブレーキ制御装置60で実行されてもよい。この場合、第1実施形態におけるステップS11からステップS13までの処理がブレーキ制御装置60で実行される。また、第2実施形態におけるステップS41からステップS43までの処理がブレーキ制御装置60で実行される。
・またあるいは、自動制動制御装置は、制動制御部42の機能とブレーキ制御部62の機能とを有する1つの制御部を含み、補正係数算出処理と補正開始時間算出処理とはその制御部で実行されてもよい。
・本開示の自動制動制御装置は、大型自動車に限らず、普通自動車等に搭載されてもよい。