本発明のセルロース系樹脂組成物は、前述のように、下記セルロース系樹脂(X)と下記リン酸エステル(Y)とを含むことを特徴とする。
(X)下記(X1)、下記(X2)および/または(X3)が付加されたセルロース系樹脂
(X1)カルダノールおよび/またはその誘導体
(X2)R−CO−で表わされ、Rが炭素数12〜29の脂肪族炭化水素基であるアシル基
(X3)R−CO−で表わされ、Rが炭素数6〜12の芳香族炭化水素基であるアシル基
(Y)炭素数1〜12の炭化水素基が付加された芳香環を有するリン酸エステル
本発明のセルロース系樹脂組成物において、セルロース系樹脂(X)は、例えば、前記(X1)、(X2)および(X3)のいずれが付加された樹脂でもよい。具体的に、セルロース系樹脂(X)は、例えば、同じセルロース骨格において、前記(X1)、(X2)および(X3)のいずれか1種類が付加された樹脂、いずれか2種類が付加された樹脂、3種類全てが付加された樹脂でもよい。また、前記セルロース系樹脂は、例えば、同じセルロース骨格において、付加された前記(X1)が、カルダノールおよびその誘導体のいずれか一方でもよいし、両方であってもよく、付加された前記(X2)および前記(X3)が、それぞれ、1種類のアシル基でもよいし、2種類以上のアシル基でもよい。
本発明のセルロース系樹脂組成物において、セルロース系樹脂(X)は、1種類でもよいし、2種類以上の併用でもよい。具体的に、本発明のセルロース系樹脂組成物において、セルロース系樹脂(X)は、例えば、前記(X1)が付加された樹脂、前記(X2)が付加された樹脂および前記(X3)が付加された樹脂のいずれか1種類のみでもよいし、いずれか2種類の併用でもよいし、3種類全ての併用でもよい。本発明のセルロース系樹脂組成物における樹脂成分は、前記セルロール系樹脂のみでもよいし、さらにその他の樹脂を含んでもよい。
本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂は、例えば、前記(X1)カルダノールおよび/またはその誘導体のフェノール性ヒドロキシ基および/またはその置換基と、セルロースおよび/またはセルロース誘導体のヒドロキシ基および/またはその置換基との反応により、前記(X1)が付加された樹脂があげられる。前記反応は、例えば、前者のフェノール性ヒドロキシ基および/またはその置換基と、後者のヒドロキシ基および/またはその置換基との種類によって、適宜選択できる。前者が、フェノール性ヒドロキシ基(−OH)であり、後者がヒドロキシ基の場合、例えば、前記反応は、脱水結合反応である。前記フェノール性ヒドロキシ基(−OH)は、例えば、水素が、Cl、F、Br、I等のハロゲン(X)で置換されてもよく、その場合、例えば、カルダノールまたはその誘導体の−OXと、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基との間で、脱HOX結合が生じる。
前記(X1)のカルダノールは、例えば、式(2)で表わすことができ、Rにおける不飽和結合が異なる4種類が存在する。本発明において、前記カルダノールは、例えば、いずれか1種類でもよいし、2種類の混合物、3種類の混合物、4種類の混合物でもよい。
前記式(2)において、Rは、以下のR1、R2、R3またはR4であり、ヒドロキシ基(−OH)の水素は、置換されてもよい。前記式(2)において、ヒドロキシ基(−OH)水素が置換された基を、例えば、−OXで表わすことができ、Xは、Cl、F、Br、I等のハロゲンがあげられる。
前記カルダノールは、例えば、Rが、飽和脂肪族炭化水素基のR1であることが好ましい。前述のように、カルダノールが、R1以外の不飽和脂肪族炭化水素基(R2、R3、R4)を有するカルダノールとの混合物である場合、例えば、前記混合物に水素添加処理、すなわち、Rの不飽和結合に水素を添加し、不飽和を飽和に変換する処理を行うことが好ましい。これによって、前記式(2)において、不飽和結合を有するR2、R3およびR4は、飽和脂肪族炭化水素であるR1となる。以下、R1の飽和脂肪族炭化水素基を有するカルダノールを、水素添加カルダノール(水添カルダノール)ともいう。
前記セルロース系樹脂(X)において、付加された前記(X1)は、前記式(2)におけるRが、前記R1、R2、R3およびR4のうち、例えば、いずれか1種類でもよいし、いずれか2種類でもよいし、いずれか3種類でもよいし、4種類全てでもよく、また、その誘導体でもよい。
前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂(X)は、例えば、前記カルダノールおよび/またはその誘導体をグラフト化させたセルロース系樹脂であることが好ましい。
前記(X2)のアシル基は、前述のように、R−CO−で表わされ、Rは、炭素数12〜29の脂肪族炭化水素基である。前記アシル基は、アルカノイル基ともいう。前記Rの炭素数は、特に制限されず、例えば、13〜20がより好ましい。前記アシル基全体の炭素数は、13〜30であり、14〜21がより好ましい。
前記(X2)のアシル基において、前記脂肪族炭化水素基は、例えば、直鎖および/または分岐鎖の脂肪族炭化水素基があげられる。前記(X2)が付加されたセルロース系樹脂(X)は、前記(X2)として、例えば、直鎖脂肪族炭化水素基のみが付加されてもよいし、分岐鎖脂肪族炭化水素基のみが付加されてもよいし、両方が付加されてもよい。
前記(X2)のアシル基において、前記脂肪族炭化水素は、例えば、飽和および/または不飽和の脂肪族炭化水素基があげられる。前記(X2)が付加されたセルロース系樹脂(X)は、前記(X2)として、例えば、飽和脂肪族炭化水素基のみが付加されてもよいし、不飽和脂肪族炭化水素基のみが付加されてもよいし、両方が付加されてもよい。
前記(X2)のアシル基は、特に制限されず、例えば、トリデカノイル基(C13)、テトラデカノイル基(C14)、ペンタデカノイル基(C15)、ヘキサデカノイル基(C16)、パルミトレイル基(不飽和C16)、ヘプタデカノイル基(C17)、ステアロイル基(オクタデカノイル基、C18)、cis,cis−9,12−オクタデカジエノイル基(不飽和C18)、9,12,15−オクタデカントリエノイル基(不飽和C18)、6,9,12−オクタデカトリエノイル基(不飽和C18)、9,11,13−オクタデカトリエノイル基(不飽和C18)、オレオイル基(不飽和C18)、11−オクタデカノイル基(不飽和C18)、ノナデカロイル基(C19)、エイコサノイル基(C20)、8,11−エイコサジエノイル基(不飽和C20)、5,8,11−エイコサトリエノイル基(不飽和C20)、5,8,11−エイコサテトラエノイル基(不飽和C20)、ドコサノイル基(C22)、テトラコサノイル基(C24)、cis−15−テトラコサノイル基(不飽和C24)、ヘキサコサノイル基(C26)、オクタコサノイル基(C28)、トリアコンタノイル基(C30)等があげられる。
前記(X3)のアシル基は、前述のように、R−CO−で表わされ、Rが炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。前記アシル基は、アロイル基ともいう。前記Rの炭素数は、特に制限されず、例えば、6がより好ましい。
前記(X3)のアシル基において、前記芳香族炭化水素は、例えば、基本環が炭素数6のフェニル基(Ph−)であることが好ましい。フェニル基における炭素は、例えば、前記アシル基におけるケトン基(−CO−)と結合する炭素を除き、水素と結合してもよいし、前記水素が置換基で置換されてもよい。前記置換基は、例えば、ハロゲン、脂肪族炭化水素基等があげられる。
本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記リン酸エステル(Y)は、前述のように、炭素数1〜12の炭化水素基が付加された芳香環を有するリン酸エステルである。
前記リン酸エステル(Y)は、例えば、1分子中にリン酸原子を1つ有する、単核のリン酸エステルが好ましい。
前記リン酸エステル(Y)は、例えば、1個、2個または3個の芳香環を有し、具体的には、例えば、1分子のリン酸原子に、1個、2個または3個の芳香環が、それぞれ結合している。前記リン酸エステル(Y)が2個または3個の芳香環を有する場合、それぞれ異なる芳香環でもよいし、2個が同じ芳香環でもよいし、3個が同じ芳香環でもよい。そして、前記リン酸エステル(Y)は、少なくとも1つの芳香環が、前記炭化水素基が付加された芳香環である。
前記リン酸エステル(Y)における前記芳香環の数は、特に制限されないが、例えば、2個が好ましく、より好ましくは3個である。前記リン酸エステル(Y)において、前記芳香環が2個の場合、いずれか一方のみが、前記炭化水素基が付加された芳香環でもよいし、両方が、前記炭化水素基が付加された芳香環でもよい。前記リン酸エステル(Y)において、前記芳香環が3個の場合、いずれか一個のみが、前記炭化水素基が付加された芳香環でもよいし、いずれか2個が、前記炭化水素基が付加された芳香環でもよいし、全てが、前記炭化水素基が付加された芳香環でもよい。
前記リン酸エステル(Y)における前記芳香環は、例えば、単環式の芳香族炭化水素基であることが好ましい。前記芳香環は、例えば、フェニル、フラン、ピロール、イミダゾール、チオフェン、ホスホール、ピラゾール、オキサゾール、イソアオキサゾール、チアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジンおよびこれらの誘導体等があげられ、好ましくはフェニル環である。
前記リン酸エステル(Y)において、前記芳香環に付加された前記炭化水素基は、例えば、直鎖および/または分岐鎖の脂肪族炭化水素基があげられる。前記炭化水素基は、例えば、飽和および/または不飽和の脂肪族炭化水素基があげられる。
前記リン酸エステル(Y)における前記炭化水素基は、特に制限されず、例えば、メチル基(C1)、エチル基(C2)、プロピル基(C3)、イソプロピル基(C3)、ブチル基(C4)、t−ブチル基(C4)、ペンチル基(C5)、ヘキシル基(C6)、ヘプチル基(C7)、オクチル基(C8)、ノニル基(C9)、デシル基(C10)、ウンデシル基(C11)、ドデシル基(C12)、等があげられる。
前記リン酸エステル(Y)は、特に制限されないが、例えば、4−メチルフェニル・ジフェニルリン酸エステル、4−エチルフェニル・ジフェニルリン酸エステル、4−イソプロピルフェニル・ジフェニルリン酸エステル、および4−ブチルフェニル・ジフェニルリン酸エステルがあげられる。
本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記リン酸エステル(Y)は、例えば、1種類のみでもよいし、2種類以上の併用でもよい。
本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記セルロース系樹脂と前記リン酸エステルとの添加割合は、特に制限されない。前記セルロース系樹脂と前記リン酸エステルとの添加割合は、例えば、重量比が、100:1〜100:100であることが好ましく、より好ましくは100:5〜100:75であり、さらに好ましくは、100:10〜100:50である。
本発明のセルロース系樹脂組成物は、前記セルロース系樹脂と前記リン酸エステルのみからなってもよいし、さらにその他の添加剤を含んでもよい。前記添加剤については、後述する。
以下に、本発明について、具体的に説明する。
本発明における前記セルロース系樹脂(X)は、例えば、前記(X1)のカルダノールもしくはその誘導体、前記(X2)のアシル基を有する反応性炭化水素化合物、および/または、前記(X3)のアシル基を有する反応性炭化水素化合物を、セルロースまたはその誘導体に対して付加反応させることによって、作製できる。以下に、前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂(X)、前記(X2)が付加されたセルロース系樹脂(X)、および前記リン酸エステル(Y)等について例示する。なお、以下の説明は例示であって、本発明は、これらの例示には制限されない。
(1)セルロースまたはその誘導体
セルロースは、下記式(1)で示されるβ−グルコースの直鎖状重合物であり、各グルコース単位は、三つのヒドロキシ基を有している。前記セルロース系樹脂(X)は、例えば、これらのヒドロキシ基を利用して、前記(X1)のカルダノールまたはその誘導体を付加することで合成できる。具体的に、前記(X1)のカルダノールまたはその誘導体は、例えば、前記セルロースまたはその誘導体に、グラフト化することが好ましい。以下、特に示さない限り、セルロースという記載は、セルロース誘導体に置換可能である。
セルロースの誘導体は、特に制限されず、例えば、これらのヒドロキシ基の一部を、アシル化、エーテル化、またはグラフト化したもの等があげられる。具体的には、例えば、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セルロースプロピオネート等の有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、硝酸酢酸セルロース等の混成エステル;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のエーテル化セルロース等があげられる。また、セルロース誘導体として、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ε−カプロラクトン、ラクチド、グリコリド等をグラフト化させたセルロースがあげられる。これらのセルロース誘導体は、例えば、いずれか1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
前記セルロースまたはその誘導体は、中でも、例えば、そのヒドロキシ基の一部がアシル化された、セルロースアセテート、セルロースプロピオネートおよびセルロースブチレート等のアシル化セルロースが好ましい。
本明細書において、「セルロースの誘導体」の用語は、例えば、セルロース化合物、および、セルロースを原料として生物的あるいは化学的に官能基を導入して得られるセルロース骨格を有する化合物のいずれの意味も含む。
セルロースまたはその誘導体の重合度は、特に制限されず、例えば、グルコース重合度として、50〜5000の範囲が好ましく、100〜3000がより好ましい。前記重合度を前記下限値以上とすることによって、例えば、最終的に得られるセルロース系樹脂について、十分な強度および耐熱性を確保できる。また、前記重合度を前記上限値以下とすることによって、例えば、最終的に得られるセルロース系樹脂の溶融粘度の向上を十分に抑制し、成形性を十分に確保できる。
セルロースは、草木類の主成分であり、例えば、草木類から、リグニン等の他の成分を分離処理することによって得られる。本発明においては、例えば、このようして得たセルロースの他に、セルロース含有量の高い綿およびパルプ等を、精製して、またはそのまま使用できる。
セルロースまたはその誘導体は、例えば、類似の構造であるキチン、キトサンおよび/またはパラミロン等の類似物質が混合されていてもよい。前記類似物質が混合されている場合、例えば、混合物全体に対して、前記類似物質の割合は、30質量%以下が好ましく、より好ましくは、20質量%以下であり、さらに好ましくは、10質量%以下である。
(2)前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂(X)の合成
前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂(X)は、前述のように、例えば、セルロースまたはその誘導体に、前記(X1)のカルダノールまたはその誘導体を付加(結合)させることにより得られる。この付加を、例えば、「グラフト化」ともいう。以下、特に示さない限り、カルダノールという記載は、カルダノール誘導体に置換可能である。
カルダノールは、カシューナッツの殻に含まれる成分であり、前記式(2)で示すように、フェノール部分と直鎖状炭化水素部分Rからなる有機化合物である。カルダノールには、その直鎖状炭化水素部分Rにおいて不飽和結合数の異なる4種類が存在し、通常、これらの4成分の混合物である。すなわち、前記式(2)において、R1を有する化合物3−ペンタデシルフェノール、R2を有する化合物3−ペンタデシルフェノールモノエン、R3を有する化合物3−ペンタデシルフェノールジエン、およびR4を有する化合物3−ペンタデシルフェノールトリエンの混合物である。前記カルダノールは、例えば、カシューナッツ殻液から抽出および精製して得られたカルダノール成分を使用できる。
前記式(2)において、Rは、以下のR1、R2、R3またはR4であり、ヒドロキシ基(OH)の水素は、置換されてもよい。
カルダノールの直鎖状炭化水素部分(R)は、例えば、樹脂の柔軟性と疎水性の向上に寄与し、フェノール部分は、例えば、グラフト化に利用される反応性に富むフェノール性ヒドロキシ基を有する。前記カルダノールまたはその誘導体を、セルロースまたはその誘導体にグラフト化させると、例えば、前記カルダノールまたはその誘導体がブラシ状に付与されたセルロース系構造体が形成される結果、グラフト化したカルダノール同士の相互作用によって、例えば、機械的特性、特に靭性を改善できるとともに、熱可塑性を付与でき、さらに、カルダノールの疎水性によって、耐水性を改善できる。
前記カルダノールの誘導体として、例えば、前記式(2)におけるフェノール性ヒドロキシ基(−OH)の水素が置換された誘導体があげられる。具体的には、前記式(2)において、−OHの水素が、例えば、Cl、F、Br、I等のハロゲン(X)で置換された誘導体、−CH2−CO−Hまたは−CH2−CO−Xに置換された誘導体があげられる。−CH2−CO−Xにおいて、前記Xは、Cl、F、Br、I等のハロゲンがあげられ、好ましくはClである。前記誘導体は、中でも、例えば、前記フェノール性ヒドロキシ基が酸ハライド化した誘導体、具体的には、−OHが、−O−CH2−CO−Xに置換された誘導体が好ましく、より好ましくは、酸クロライド化した誘導体、具体的には、−OHが、−O−CH2−CO−Clに置換された誘導体である。このような誘導体は、例えば、カルダノールにおけるヒドロキシ基にモノクロロ酢酸を反応させ、カルボキシル基を付加し、カルボキシル基の末端ヒドロキシ基の水素をクロライド化(−Cl)することにより合成できる。前記反応に用いる前記カルダノールは、例えば、前記水添カルダノール、すなわち、Rが飽和脂肪族炭化水素基R1のカルダノール(3−ペンタデシルフェノール)が好ましい。
前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂(X)は、例えば、セルロースまたはその誘導体に、ジイソシアネート化合物を用いて、前記(X1)カルダノールまたはその誘導体を付加したものがあげられる。この付加反応に用いるカルダノールは、例えば、前記水添カルダノール、すなわち、Rが飽和脂肪族炭化水素基R1のカルダノール(3−ペンタデシルフェノール)が好ましい。
この場合、前記カルダノールのヒドロキシ基とジイソシアネート化合物の一方のイソシアネート基とが反応して結合し、他方のイソシアネート基とセルロース又はその誘導体のヒドロキシ基とが反応して、両者が結合する。
前記カルダノールでグラフト化することによって、例えば、機械的特性、特に靭性、耐水性および色の明度を改善できる。また、前記グラフト化によって、例えば、良好な熱可塑性が付与されるため、可塑剤の添加量を低減しあるいは可塑剤を無添加とすることも可能となる。その結果、前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂(X)は、例えば、可塑剤を加えたセルロース系樹脂に比べて、耐熱性および強度(特に剛性)の低下を抑制でき、また、樹脂の均質性を向上でき、ブリードアウトの問題も解消できる。さらに、石油原料からなる可塑剤の添加量を低減または無添加にできるため、結果として、植物性を向上できる。さらに、セルロースとカルダノールは、いずれも植物の非可食部であるため、例えば、非可食部の利用率を向上できる。
前記(X1)のカルダノールまたはその誘導体をグラフト化した前記セルロース系樹脂(X)において、グルコース単位あたりの残存するヒドロキシ基の個数(ヒドロキシ基残存度、DSOH)の平均値は、例えば、耐水性、耐熱分解性を十分に確保できることから、0.9以下が好ましく、より好ましくは、0.7以下である。
グラフト化は、例えば、カルダノールまたはその誘導体のフェノール性ヒドロキシ基と、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基との脱水結合反応によって行うことができる。その際、例えば、反応系に、脱水触媒を添加してもよい。前記脱水触媒は、例えば、硫酸、トルエンスルホン酸、塩化水素等があげられる。前記脱水結合反応の結果、例えば、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基が結合しているセルロース炭素原子と、カルダノールまたはその誘導体のフェノール性ヒドロキシ基が結合しているカルダノール炭素原子とが、酸素原子を介して連結される。
グラフト化は、例えば、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基およびカルダノールまたはその誘導体のフェノール性ヒドロキシ基の両方と反応できる多官能化合物を用いて行うことができる。これによって、例えば、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基が結合しているセルロース炭素原子と、カルダノールまたはその誘導体のフェノール性ヒドロキシ基が結合しているカルダノール炭素原子とが、有機連結基を介して連結される。このようなグラフト化によれば、例えば、グラフト反応効率を向上でき、また、副反応を抑制できる。
前記有機連結基は、前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂(X)において、例えば、第1の結合と、第2の結合とを含むことができる。前記第1の結合は、例えば、前記セルロース炭素原子に結合する、エステル結合、エーテル結合およびウレタン結合から選択される結合であり、前記第2の結合は、例えば、前記カルダノール炭素原子に結合する、エステル結合、エーテル結合およびウレタン結合から選択される結合である。
前記多官能化合物を使用することによって、例えば、まず、前記多官能化合物とカルダノールまたはその誘導体とを、前者の官能基と後者のフェノール性ヒドロキシ基とを利用して結合し、カルダノール誘導体を形成する。そして、さらに、前記カルダノール誘導体とセルロースまたはその誘導体とを、前者の官能基(前記多官能化合物由来の官能基)と後者のヒドロキシ基とを利用して結合する。これによって、前記多官能化合物における前記連結基を介して、カルダノールまたはその誘導体とセルロースまたはその誘導体とを結合できる。
このような前記多官能化合物を使用するグラフト化によれば、例えば、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基とカルダノールまたはその誘導体のヒドロキシ基とを、それぞれ消失させて、グラフト結合を形成し、且つ、セルロースまたはその誘導体に、カルダノールまたはその誘導体の疎水性構造を導入できる。これによって、例えば、さらに耐水性を改善できる。
カルダノールまたはその誘導体をセルロースまたはその誘導体にグラフト化させる場合、前述のように、例えば、前者のフェノール性ヒドロキシ基と後者のヒドロキシ基を利用することが、グラフト反応の効率、グラフト化により形成される分子構造、耐水性等の点から好ましい。前記グラフト化は、例えば、カルダノールの直鎖状炭化水素部分中の不飽和結合(二重結合)を利用するグラフト化に比べて、反応性の高いフェノール性ヒドロキシ基を利用するため、より効率的なグラフト化を実現できる。また、前記グラフト化によれば、例えば、カルダノールまたはその誘導体のフェノール部分が、セルロースまたはその誘導体と反応して固定化されるため、グラフト化されたカルダノールまたはその誘導体の直鎖状炭化水素部分同士の相互作用が高まり、機械的特性の所望の改善効果が得られる。さらに、このグラフト化は、カルダノールまたはその誘導体のフェノール性ヒドロキシ基を消失させてグラフト化するため、例えば、フェノール性ヒドロキシ基を利用しないグラフト化に比べて、耐水性の改善、例えば、吸水性の抑制等の耐水性の改善の観点から、好ましい。
前記多官能化合物および前記有機連結基は、炭化水素基を含むことが好ましい。前記炭化水素基の炭素数は、特に制限されず、下限が、例えば、1以上が好ましく、より好ましくは、2以上であり、上限が、例えば、炭素数20以下が好ましく、より好ましくは、14以下であり、さらに好ましくは、8以下である。前記炭素数を前記上限値以下とすることによって、例えば、反応性を十分に維持でき、グラフト化率をより向上できる。前記炭化水素基は、例えば、2価基が好ましく、具体例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基等の2価の直鎖状脂肪族炭化水素基(特に、直鎖状アルキレン基が好ましい);シクロヘプタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環、ビシクロペンタン環、トリシクロヘキサン環、ビシクロオクタン環、ビシクロノナン環、トリシクロデカン環等の2価の脂環式炭化水素基;ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニレン基等の2価の芳香族炭化水素基、これらの組み合わせからなる2価基等があげられる。
前記炭化水素基が、前記芳香族炭化水素基または前記脂環式炭化水素基の場合、例えば、それらの剛直性から、樹脂の剛性をより向上できる。また、前記炭化水素基が、直鎖状脂肪族炭化水素基の場合、例えば、その柔軟性から、樹脂の靭性をより向上できる。
前記多官能化合物の官能基は、特に制限されず、例えば、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、カルボン酸ハライド基(特にカルボン酸クロライド基)、エポキシ基、イソシアネート基、ハロゲン基等が好ましい。中でも、例えば、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、ハロゲン基(特にクロライド基)、イソシアネート基等が好ましい。カルダノールまたはその誘導体のフェノール性ヒドロキシ基と反応させる官能基は、特に、カルボン酸無水物基、ハロゲン基(特にクロライド基)およびイソシアネート基等が好ましい。セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基と反応させる官能基は、特に、カルボン酸ハライド基(特にカルボン酸クロライド基)およびイソシアネート基等が好ましい。カルボン酸ハライド基は、例えば、グラフト化前のカルボキシル基を、酸ハライド化して形成できる。
前記多官能化合物の具体例は、例えば、ジカルボン酸、カルボン酸無水物、ジカルボン酸ハライド、モノクロロカルボン酸、ジイソシアネート類等があげられる。ジカルボン酸は、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸等があげられる。カルボン酸無水物は、例えば、列挙した前記ジカルボン酸の無水物等があげられ、ジカルボン酸ハライドは、列挙した前記ジカルボン酸の酸ハライド等があげられる。モノクロロカルボン酸は、例えば、モノクロロ酢酸、3−クロロプロピオン酸、3−フルオロプロピオン酸、4−クロロ酪酸、4−フルオロ酪酸、5−クロロ吉草酸、5−フルオロ吉草酸、6−クロロヘキサン酸、6−フルオロヘキサン酸、8−クロロオクタン酸、8−フルオロオクタン酸、12−クロロドデカン酸、12−フルオロドデカン酸、18−クロロステアリン酸、18−フルオロステアリン酸等があげられる。ジイソシアネート類は、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネートメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI:水素添加MDI)等があげられる。これらの中でも、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)および1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等がより好ましい。
前記多官能化合物を使用する場合、例えば、まず、前記多官能化合物の官能基とカルダノールまたはその誘導体のフェノール性ヒドロキシ基とを反応させて、カルダノール誘導体を形成する。そして、前記カルダノール誘導体とセルロースまたはその誘導体を、前者の官能基(前記多官能化合物由来の官能基)と後者のヒドロキシ基とを利用して、結合する。これによって、前記多官能化合物の官能基を介して、カルダノールまたはその誘導体とセルロースまたはその誘導体とを結合できる。
前記多官能化合物として前記カルボン酸系の化合物(例えば、ジカルボン酸、カルボン酸無水物またはモノクロロカルボン酸)を使用することによって、例えば、まず、前記多官能化合物を、カルダノールまたはその誘導体と反応させ、前者の官能基(例えば、カルボキシル基、カルボン酸無水物基またはハロゲン基(特にクロライド基))と、後者のフェノール性ヒドロキシ基との結合により、カルダノール誘導体を形成する。そして、前記多官能化合物の残りの官能基(カルボキシル基)を、カルボン酸ハライド基(特にカルボン酸クロライド基)に変換する。そして、変換後のカルダノール誘導体を、セルロースまたは誘導体と反応させ、前者のカルボン酸ハライド基と後者のセルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基との結合により、グラフト化を行うことができる。この場合、例えば、極めて効率的にグラフト化を行うことができる。
前記多官能化合物を使用するグラフト化によれば、例えば、セルロースまたはその誘導体においてヒドロキシ基が結合しているセルロース炭素原子と、前記多官能化合物の炭化水素基とは、例えば、エステル結合、エーテル結合またはウレタン結合、好ましくはエステル結合を介して結合される。また、カルダノールまたはその誘導体においてフェノール性ヒドロキシ基が結合しているカルダノール炭素原子と、前記多官能化合物の炭化水素基とは、例えば、エステル結合、エーテル結合又はウレタン結合、好ましくはエステル結合またはエーテル結合を介して結合される。
カルダノールは、前述のように、カルダノールの直鎖状炭化水素(R)部分の不飽和結合(二重結合)が、水素添加により飽和結合に変換されることが好ましい。水素添加による不飽和結合の変換率(水添率)は、例えば、90モル%以上が好ましく、より好ましくは、95モル%以上である。水素添加後のカルダノール中の不飽和結合の残存率、すなわち、カルダノール1分子当たりの不飽和結合の数は、例えば、0.2個/分子以下が好ましく、より好ましくは、0.1個/分子以下である。
カルダノールとして、直鎖状炭化水素(R)が飽和炭化水素(R1)であるカルダノールを使用することによって、例えば、グラフト化における副反応を十分に防止し、より効率的なグラフト化が可能であり、グラフト化生成物の溶媒への溶解性も十分に維持できる。
前記直鎖状炭化水素(R)が不飽和であるカルダノールに水素添加する方法は、特に制限されず、通常の方法が採用できる。前記水素添加の反応に使用する触媒は、例えば、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等の貴金属、ニッケル等の金属があげられる。前記触媒は、例えば、前記各種金属を、活性炭素、活性アルミナ、珪藻土等の担体上に担持したものも使用できる。前記水素添加の反応方式は、例えば、粉末状の触媒を懸濁攪拌しながら反応を行うバッチ方式、成形した触媒を充填した反応塔を用いた連続方式等が採用できる。前記水素添加の際の溶媒は、特に制限されず、例えば、反応方式に応じて、使用してもよいし、使用しなくてもよい。前記溶媒を使用する場合、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、飽和炭化水素類等の溶媒があげられる。水素添加の反応温度は、特に限定されず、例えば、20〜250℃、好ましくは、50〜200℃に設定できる。前記反応温度を、前記下限値以上に設定することで、例えば、水素化速度を十分に維持でき、前記上限値以下に設定することで、例えば、分解生成物の発生を十分に抑制できる。水素添加の反応における水素圧は、例えば、10〜80kgf/cm2(9.8×105〜78.4×105Pa)、好ましくは、20〜50kgf/cm2(19.6×105〜49.0×105Pa)に設定できる。
カルダノールに対する水素添加は、例えば、カルダノール誘導体を形成する前、カルダノール誘導体を形成した後且つグラフト化前、カルダノール誘導体のグラフト化後のいずれにおいて行ってもよい。中でも、例えば、水素添加およびグラフト化の反応効率等の観点から、カルダノール誘導体のグラフト化前が好ましく、より好ましくは、カルダノール誘導体の形成前がさらに好ましい。
セルロースまたはその誘導体に対する、前記セルロースまたはその誘導体に結合したカルダノールまたはその誘導体の割合、すなわち、グラフト化率は、例えば、前記セルロースまたはその誘導体のグルコース単位当たりのカルダノールまたはその誘導体の付加数(平均値)、つまり、カルダノールまたはその誘導体と結合したヒドロキシ基の個数(ヒドロキシ基置換度、DSCD)の平均値で表わすことができる。前記DSCDは、例えば、0.1以上が好ましく、より好ましくは、0.2以上であり、例えば、0.4以上に設定することもできる。DSCDを前記下限値以上に設定することで、例えば、グラフト化の効果を十分に確保できる。
前記DSCDの最大値は、理論上、「3」であるが、製造(グラフト化)のし易さの観点から、例えば、2.5以下が好ましく、より好ましくは、2以下であり、さらに好ましくは、1.5以下である。また、前記DSCDは、例えば、1以下でもよく、この場合も、十分な改善効果を得ることができる。前記DSCDは、例えば、所望の特性に応じて適宜設定できる。前記DSCDは、例えば、前記上限値以下とすることによって、例えば、引張破断歪み(靱性)の向上を十分に抑制し、且つ、最大強度(引張強度、曲げ強度)の低下も十分に抑制できる。
前記カルダノールまたはその誘導体をセルロースまたはその誘導体にグラフト化する際、例えば、さらに、特定の反応性炭化水素化合物を、セルロースまたはその誘導体にグラフト化させてもよい。これにより、例えば、セルロース系樹脂を、さらに、所望の特性に改善できる。
前記反応性炭化水素化合物は、例えば、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物である。前記化合物は、例えば、カルボキシル基、カルボン酸ハライド基、またはカルボン酸無水物基を有する炭化水素化合物があげられる。具体的には、例えば、脂肪族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等のモノカルボン酸から選ばれる少なくとも一種の化合物、その酸ハロゲン化物またはその酸無水物があげられる。脂肪族モノカルボン酸は、例えば、直鎖状または分岐側鎖を有する脂肪酸があげられる。芳香族モノカルボン酸は、例えば、芳香環にカルボキシル基が直接結合したもの、芳香環にアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)を介してカルボキシル基が結合したもの(芳香環に脂肪族カルボン酸基が結合したもの)があげられる。脂環族モノカルボン酸は、例えば、脂環にカルボキシル基が直接結合したもの、脂環にアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)を介してカルボキシル基が結合したもの(脂環に脂肪族カルボン酸基が結合したもの)等があげられる。
前記反応性炭化水素化合物の炭素数は、例えば、1〜32の範囲が好ましく、より好ましくは、1〜20の範囲である。前記炭素数を、前記上限以下に設定することで、例えば、立体障害の発生を十分に抑制して反応効率の低下を十分に抑制し、その結果、グラフト化率をより向上できる。
前記反応性炭化水素化合物は、例えば、特に、グラフト化されたカルダノールまたはその誘導体からなる立体構造の隙間部分を埋めるように配置された場合に、特性改善により効果的である。
前記反応性炭化水素化合物の炭化水素基が、芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基の場合、例えば、特に、剛性および耐熱性の改善により有効であり、また、脂肪族炭化水素基の場合、例えば、特に靭性の改善により有効である。
前記反応性炭化水素化合物として使用される脂肪族モノカルボン酸は、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、オクテン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸;それらの誘導体があげられる。これらの化合物は、例えば、さらに置換基を有してもよい。
前記反応性炭化水素化合物として使用される芳香族モノカルボン酸は、例えば、安息香酸等のベンゼン環にカルボキシル基が導入されたもの;トルイル酸等のベンゼン環にアルキル基が導入された芳香族カルボン酸;フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸等のベンゼン環に脂肪族カルボン酸基が導入されたもの;ビフェニルカルボン酸、ビフェニル酢酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族カルボン酸;ナフタリン(ナフタレン)カルボン酸、テトラリンカルボン酸等の縮合環構造を有する芳香族カルボン酸;それらの誘導体があげられる。
前記反応性炭化水素化合物として使用される脂環族モノカルボン酸は、例えば、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸等の脂環にカルボキシル基が導入されたもの;シクロヘキシル酢酸等の脂環に脂肪族カルボン酸基が導入されたもの;それらの誘導体があげられる。
前記反応性炭化水素化合物は、例えば、その構造中に、有機シリコーン化合物または有機フッ素化合物が付加されてもよい。これらの構造が付加されることによって、例えば、耐水性等がさらに改善できる。
前記反応性炭化水素化合物の反応性官能基は、例えば、セルロースのヒドロキシ基と反応できる官能基である。前記反応性官能基は、例えば、カルボキシル基、カルボン酸ハライド基(特にカルボン酸クロライド基)、カルボン酸無水物基の他、エポキシ基、イソシアネート基、ハロゲン基(特にクロライド基)があげられる。これらの中でも、例えば、カルボキシル基およびカルボン酸ハライド基が好ましく、特に好ましくは、カルボン酸クロライド基である。前記カルボン酸ハライド基(特にカルボン酸クロライド基)は、例えば、前述の各種カルボン酸のカルボキシル基が酸ハロゲン化された酸ハライド基(特に酸クロライド基)があげられる。
前記反応性炭化水素化合物は、例えば、特に樹脂の剛性(曲げ強度等)の観点から、芳香族カルボン酸および脂環族カルボン酸から選ばれる少なくとも一種のモノカルボン酸、その酸ハロゲン化物またはその酸無水物が好ましい。前記反応性炭化水素化合物を、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基に付加することにより、例えば、芳香族カルボン酸および脂環族カルボン酸から選ばれる少なくとも一種のモノカルボン酸由来のアシル基が、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基に付加した構造、すなわち、セルロースヒドロキシ基の水素原子がアシル基に置換された構造が得られる。
セルロースまたはその誘導体のグルコース単位あたりの前記反応性炭化水素化合物の付加数(アシル基の付加数)の平均値、すなわち、前記反応性炭化水素化合物と結合したヒドロキシ基の個数(ヒドロキシ基置換度、DSXX)の平均値は、例えば、所望の効果を得る点から、0.1以上0.6以下が好ましく、より好ましくは、0.1以上0.5以下である。また、カルダノールまたはその誘導体と前記反応性炭化水素化合物のグラフト化後、セルロースまたはその誘導体のグルコース単位あたりの残存するヒドロキシ基の個数(ヒドロキシ基残存度、DSOH)の平均値は、例えば、耐水性を十分に確保する点から、0.9以下が好ましく、より好ましくは、0.7以下である。
前記反応性炭化水素化合物は、例えば、カルダノールまたはその誘導体のグラフト化工程において、グラフト化できる。これにより、例えば、より均質なグラフト化が可能になる。その際、前記反応性炭化水素化合物とカルダノールまたはその誘導体とを、反応系に、同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。中でも、例えば、グラフト化反応効率をより向上できることから、セルロースまたはその誘導体に、カルダノールまたはその誘導体をグラフト化させた後、前記反応性炭化水素化合物を添加して、グラフト化させることが好ましい。
グラフト化処理は、例えば、セルロースまたはその誘導体、カルダノールまたはその誘導体、任意で前記反応性炭化水素化合物を、セルロースまたはその誘導体を溶解可能な溶媒中で反応させることにより行える。前記グラフト化処理の反応温度は、特に制限されず、例えば、適切な温度で加熱することによって反応できる。セルロースまたはその誘導体を溶解する溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド−アミン系溶媒、ジメチルホルムアミド−クロラール−ピリジン系溶媒、ジメチルアセトアミド−リチウムクロライド系溶媒、イミダゾリウム系イオン液体等があげられ、これら以外の溶媒も使用できる。また、一般的な溶媒に対する溶解性を向上できることから、例えば、グラフト化反応を行う場合、予め、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基の一部に、カルボン酸またはアルコールを結合させ、分子間力の低下により溶解性を変化(向上)させたセルロース誘導体を用いてもよい。前記セルロース誘導体としては、例えば、セルロースのヒドロキシ基における水素原子が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基で置換されたアシル化セルロースが好ましく、特に、酢酸または酢酸クロライドを用いて、酢酸化(アセチル化)された酢酸セルロースが好ましい。前記アシル化に使用する化合物、すなわち、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、およびこれらの酸のハロゲン化物ならびに無水物は、前述の反応性炭化水素化合物に含まれるが、この例のように、例えば、所定の前記反応性炭化水素化合物の一部もしくは全部を、カルダノールまたはその誘導体のグラフト化前に、セルロースまたは誘導体のヒドロキシ基に、グラフトさせることもできる。
カルダノールまたはその誘導体のグラフト化に利用されない、セルロースまたはその誘導体における残りのヒドロキシ基は、例えば、ヒドロキシ基のままであるものと、前述のように、アセチル化等により変性されたもの、または、前記反応性炭化水素化合物が付加(グラフト)したものがある。前記ヒドロキシ基の変換率は、特に制限されず、適宜決定できる。
前記ヒドロキシ基の変換率は、特に制限されない。グラフト化後のセルロース系樹脂において、グルコース単位あたりの残存するヒドロキシ基の個数(ヒドロキシ基残存度、DSOH)の平均値は、例えば、耐水性を十分に確保する観点から、0.9以下が好ましく、より好ましくは、0.7以下である。
セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基は、例えば、吸水性、機械的強度、耐熱性の観点から、その一部が、前述の反応性炭化水素によりアシル化されていることが好ましく、さらに、例えば、カルダノールまたはその誘導体の前述のグラフト化処理の観点から、カルダノールまたはその誘導体のグラフト化前に、適度にアシル化(特にアセチル化)されていることが好ましい。セルロースまたはその誘導体のグルコース単位あたりのアシル基の付加数の平均値、すなわち、アシル化されたヒドロキシ基の個数(ヒドロキシ基置換度、DSAC)の平均値は、例えば、十分なアシル化効果を得る点から、0.5以上が好ましく、より好ましくは、1.0以上であり、さらに好ましくは、1.5以上である。また、例えば、カルダノールまたはその誘導体のグラフト化率(DSCD)を十分に確保する点から、前記アシル化によるヒドロキシ基置換度DSACは、例えば、2.7以下が好ましく、より好ましくは、2.5以下であり、さらに好ましくは、2.2以下である。このアシル化において、付加するアシル基は、例えば、アセチル基、プロピオニル基およびブチリル基から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。アセチル化の場合、その置換度をDSAce、プロピオニル化の場合、その置換度をDSPr、ブチリル化の場合、その置換度をDSBuと示す。
前記セルロース系樹脂は、例えば、十分な植物利用率を確保する観点から、グラフト化後のセルロース系樹脂の全体に対するセルロース成分とカルダノール成分との合計の質量比率(植物成分率)は、例えば、50%以上が好ましく、より好ましくは、60%以上である。ここで、前記セルロース成分は、例えば、ヒドロキシ基がアシル化またはグラフト化されていない前記式(1)で示される構造に対応し、カルダノール成分は、例えば、前記式(2)で示される構造に対応するものとして算出する。
(3)前記(X2)および/または前記(X3)が付加されたセルロース系樹脂(X)の合成
前記(X2)が付加されたセルロース系樹脂(X)は、前述のように、例えば、セルロースまたはその誘導体に、前記(X2)の炭素数13〜30のアシル基、すなわち、R−CO−で表わされ、Rが炭素数12〜29の脂肪族炭化水素基であるアシル基(アルカノイル基)を付加させることにより得られる。また、前記(X3)が付加されたセルロース系樹脂(X)は、前述のように、例えば、セルロースまたはその誘導体に、前記(X3)のアシル基、すなわち、R−CO−で表わされ、Rが炭素数6〜12の芳香族炭化水素基であるアシル基(アロイル基)を付加させることにより得られる。前記アシル基の付加は、例えば、セルロースまたはその誘導体に対する反応性炭化水素化合物のグラフト化により行うことができる。なお、特に示さない限り、本実施形態において、前記(2)における、前記(X1)が付加されたセルロース系樹脂(X)に関する説明を援用できる。
前記反応性炭化水素化合物は、例えば、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物である。前記反応性炭化水素化合物は、例えば、カルボキシル基、カルボン酸ハライド基またはカルボン酸無水物基、イソシアネート基、クロロホーメート基、またはアクリル基を有する炭化水素化合物があげられる。具体的には、例えば、脂肪族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、および脂環族モノカルボン酸等のモノカルボン酸から選ばれる少なくとも一種の化合物、その酸ハロゲン化物またはその酸無水物、脂肪族モノイソシアネート、芳香族モノイソシアネート、および脂環族モノイソシアネートから選ばれる少なくとも一種の化合物、脂肪族モノクロロホーメート、芳香族モノクロロホーメート、および脂環族モノクロロホーメートから選ばれる少なくとも一種の化合物、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等があげられる。
脂肪族モノカルボン酸は、例えば、直鎖状または分岐側鎖を有する脂肪酸があげられる。芳香族モノカルボン酸は、例えば、芳香環にカルボキシル基が直接結合したもの、芳香環にアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)を介してカルボキシル基が結合したもの(芳香環に脂肪族カルボン酸基が結合したもの)があげられる。脂環族モノカルボン酸は、例えば、脂環にカルボキシル基が直接結合したもの、脂環にアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)を介してカルボキシル基が結合したもの(脂環に脂肪族カルボン酸基が結合したもの)があげられる。
脂肪族モノイソシアネートは、例えば、直鎖状または分岐側鎖を有する脂肪族炭化水素に、イソシアネート基が結合したものがあげられる。芳香族モノイソシアネートは、例えば、芳香環にイソシアネート基が直接結合したもの、芳香環にアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)を介してイソシアネート基が結合したもの(芳香環に脂肪族イソシアネート基が結合したもの)があげられる。脂環族モノイソシアネートは、例えば、脂環にイソシアネート基が直接結合したもの、脂環にアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)を介してイソシアネート基が結合したもの(脂環に脂肪族イソシアネート基が結合したもの)があげられる。
脂肪族モノクロロホーメートは、例えば、直鎖状または分岐側鎖を有する脂肪族炭化水素に、クロロホーメート基が結合したものがあげられる。芳香族モノクロロホーメートは、例えば、芳香環にクロロホーメート基が直接結合したもの、芳香環にアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)を介してクロロホーメート基が結合したもの(芳香環に脂肪族クロロホーメート基が結合したもの)があげられる。脂環族モノクロロホーメートは、例えば、脂環にクロロホーメート基が直接結合したもの、脂環にアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)を介してクロロホーメート基が結合したもの(脂環に脂肪族クロロホーメート基が結合したもの)があげられる。
前記反応性炭化水素化合物は、炭素数が、例えば、1〜30の範囲であることが好ましく、より好ましくは、1〜20の範囲であり、さらに好ましくは、2〜20であり、特に好ましくは、14〜20である。前記反応性炭化水素化合物は、炭素数が30を超えると、例えば、分子が大きくなりすぎて立体障害によって反応効率が低下し、その結果、グラフト化率の向上が困難となる。
この反応性炭化水素化合物の炭化水素基が、芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基の場合、特に剛性や耐熱性の改善に有効であり、また、脂肪族炭化水素基の場合は特に靭性の改善に有効である。
反応性炭化水素化合物として用いられる脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、オクテン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸;それらの誘導体を挙げることができる。これらはさらに置換基を有してもよい。
反応性炭化水素化合物として用いられる芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸等のベンゼン環にカルボキシル基が導入されたもの;トルイル酸等のベンゼン環にアルキル基が導入された芳香族カルボン酸;フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸等のベンゼン環に脂肪族カルボン酸基が導入されたもの;ビフェニルカルボン酸、ビフェニル酢酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族カルボン酸;ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等の縮合環構造を有する芳香族カルボン酸;それらの誘導体を挙げることができる。
前記反応性炭化水素化合物として使用する脂環族モノカルボン酸は、例えば、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸等の脂環にカルボキシル基が導入されたもの;シクロヘキシル酢酸等の脂環に脂肪族カルボン酸基が導入されたもの;それらの誘導体があげられる。
前記反応性炭化水素化合物として使用する脂肪族モノイソシアネートは、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、ヘプチルイソシアネート、オクチルイソシアネート、ノニルイソシアネート、デシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート等の飽和脂肪族イソシアネート;ブテニルイソシアネート、ペンテニルイソシアネート、ヘキセニルイソシアネート、オクテニルイソシアネート、ドデセニルイソシアネート等の不飽和脂肪族イソシアネート;それらの誘導体があげられる。これらの反応性炭化水素化合物は、例えば、さらに置換基を有してもよい。
前記反応性炭化水素化合物として使用する芳香族モノイソシアネートは、例えば、フェニルイソシアネート等のベンゼン環にイソシアネート基が導入されたもの;トリルイソシアネート等のベンゼン環にアルキル基が導入された芳香族カルボン酸;フェニルメチルイソシアネート、フェニルエチルイソシアネート等のベンゼン環に脂肪族イソシアネート基が導入されたもの;ビフェニルイソシアネート、ビフェニルメチルイソシアネート等のベンゼン環を2個以上有する芳香族イソシアネート;ナフタリンイソシアネート、テトラリンイソシアネートの縮合環構造を有する芳香族イソシアネート;それらの誘導体があげられる。
前記反応性炭化水素化合物として使用する脂環族モノイソシアネートは、例えば、シクロペンチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、シクロオクチルイソシアネート等の脂環にイソシアネート基が導入されたもの;シクロヘキシルメチルイソシアネート等の脂環に脂肪族イソシアネート基が導入されたもの;それらの誘導体があげられる。
前記反応性炭化水素化合物として使用する脂肪族モノクロロホーメートは、例えば、メチルクロロホーメート、エチルクロロホーメート、プロピルクロロホーメート、イソプロピルクロロホーメート、ブチルクロロホーメート、ペンチルクロロホーメート、ヘキシルクロロホーメート、ヘプチルクロロホーメート、オクチルクロロホーメート、ノニルクロロホーメート、デシルクロロホーメート、ドデシルクロロホーメート、オクタデシルクロロホーメート等の飽和脂肪族クロロホーメート;ブテニルクロロホーメート、ペンテニルクロロホーメート、ヘキセニルクロロホーメート、オクテニルクロロホーメート、ドデセニルクロロホーメート等の不飽和脂肪族クロロホーメート;それらの誘導体があげられる。これらの反応性炭化水素化合物は、例えば、さらに置換基を有してもよい。
前記反応性炭化水素化合物として使用する芳香族モノクロロホーメートは、例えば、フェニルクロロホーメート等のベンゼン環にクロロホーメート基が導入されたもの;トリルクロロホーメート等のベンゼン環にアルキル基が導入された芳香族カルボン酸;フェニルメチルクロロホーメート、フェニルエチルクロロホーメート等のベンゼン環に脂肪族クロロホーメート基が導入されたもの;ビフェニルクロロホーメート、ビフェニルメチルクロロホーメート等のベンゼン環を2個以上有する芳香族クロロホーメート;ナフタリンクロロホーメート、テトラリンクロロホーメートの縮合環構造を有する芳香族クロロホーメート;それらの誘導体があげられる。
前記反応性炭化水素化合物として使用する脂環族モノクロロホーメートは、例えば、シクロペンチルクロロホーメート、シクロヘキシルクロロホーメート、シクロオクチルクロロホーメート等の脂環にクロロホーメート基が導入されたもの;シクロヘキシルメチルクロロホーメート等の脂環に脂肪族クロロホーメート基が導入されたもの;それらの誘導体があげられる。
前記反応性炭化水素化合物は、例えば、その構造中に、有機シリコーン化合物または有機フッ素化合物が付加されてもよい。これらの構造が付加されることによって、例えば、耐水性等がさらに改善できる。
前記反応性炭化水素化合物の反応性官能基は、例えば、セルロースのヒドロキシ基と反応できる官能基である。前記反応性官能基は、例えば、カルボキシル基、カルボン酸ハライド基(特にカルボン酸クロライド基)、カルボン酸無水物基、イソシアネート基、クロロホーメート基の他、エポキシ基、ハロゲン基(特にクロライド基)があげられる。これらの中でも、例えば、カルボキシル基、カルボン酸ハライド基、イソシアネート基、クロロホーメート基が好ましく、特に好ましくは、カルボン酸クロライド基、イソシアネート基、クロロホーメート基である。カルボン酸ハライド基(特にカルボン酸クロライド基)は、例えば、前述の各種カルボン酸のカルボキシル基が酸ハロゲン化された酸ハライド基(特に酸クロライド基)があげられる。
前記反応性炭化水素化合物は、例えば、特に樹脂の剛性(曲げ強度等)の観点から、芳香族カルボン酸および脂環族カルボン酸から選ばれる少なくとも一種のモノカルボン酸、その酸ハロゲン化物又はその酸無水物、芳香族モノイソシアネート、脂環族モノイソシアネート、芳香族モノクロロホーメート、脂環族モノクロロホーメートが好ましい。前記反応性炭化水素化合物を、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基に付加することにより、例えば、芳香族カルボン酸および脂環族カルボン酸から選ばれる少なくとも一種のモノカルボン酸由来のアシル基、芳香族モノイソシアネートおよび脂環族モノイソシアネートから選ばれる少なくとも一種のモノイソシアネート由来のカルバモイル基、芳香族モノクロロホーメート、脂環族モノクロロホーメートから選ばれる少なくとも一種のモノクロロホーメート由来のカーボネート基が、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基に付加した構造、すなわち、セルロースのヒドロキシ基の水素原子がアシル基、カルバモイル基またはカーボネート基に置換された構造が得られる。
セルロースまたはその誘導体のグルコース単位あたりの前記反応性炭化水素化合物の付加数(アシル基、カルバモイル基、カーボネート基の付加数、DSXX)の平均値、すなわち、前記反応性炭化水素化合物と結合したヒドロキシ基の個数(ヒドロキシ基置換度)の平均値は、例えば、所望の効果を得る点から、0.1以上0.6以下が好ましく、より好ましくは、0.1以上0.5以下である。
また、セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基に、例えば、アセチル基、プロピオニル基およびブチリル基から選ばれる少なくとも一種のアシル基を付加してもよい。セルロースまたはその誘導体のグルコース単位あたりの前記アシル基の付加数(DSAC)の平均値は、例えば、0.5以上に設定できる。
セルロースまたはその誘導体のヒドロキシ基に、例えば、アセチル基、プロピオニル基およびブチリル基から選ばれる少なくとも一種の第1のアシル基、芳香族カルボン酸、および脂環族カルボン酸から選ばれる少なくとも一種のモノカルボン酸由来の第2のアシル基を付加してもよい。セルロースまたはその誘導体のグルコース単位あたり、第1のアシル基の付加数(DSAC)の平均値は、例えば、0.5以上に設定でき、第2のアシル基の付加数(DSXX)の平均値は、例えば、0.1以上に設定できる。
(4)リン酸エステル(Y)
前記リン酸エステル(Y)は、前述のように、炭素数1〜12の炭化水素基が付加された芳香環を有するリン酸エステルである。前記セルロース系樹脂(X1)または前記セルロース系樹脂(X2)に、前記リン酸エステル(Y)を添加することで、本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、良好な熱可塑性(成形性)、難燃性および耐ブリード性を実現できる。具体的には、リン酸エステルとして、前記炭化水素基の炭素数が1以上12以下である前記リン酸エステル(Y)を使用することによって、本発明のセルロース系樹脂組成物は、優れた難燃性と耐ブリード性を両立できる。リン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数が1未満であると、前記セルロース系樹脂(X1)または前記セルロース系樹脂(X2)に対する相溶性に劣り、例えば、高温高湿下に長時間保管すると、セルロース系樹脂組成物を用いた成形体の表面にブリードしてしまい、塗装が剥離する原因となる。他方、前記炭化水素基の炭素数が12を超えると、セルロース系樹脂組成物は、例えば、長い炭化水素鎖の影響で難燃性が低下してしまう。
前記リン酸エステル(Y)は、前述のように、1分子中にリン原子を一つ有する、単核のリン酸エステルが好ましい。前記リン酸エステル(Y)は、具体例として、例えば、下記式(3)で表わされる単核のリン酸エステルが好ましい。単核リン酸エステルの具体例として、クレジルジフェニルホスフェート(メチルフェニル・ジフェニルリン酸エステル)、エチルフェニル−ジフェニルリン酸エステル、イソプロピルフェニル−ジフェニルリン酸エステル、ブチルフェニル−ジフェニルリン酸エステル等が例示できる。なお、本発明は、これらに限定されない。
前記式(3)において、R1、R2、およびR3は、それぞれ、同一でも異なってもよく、少なくとも1つが、炭素数1〜12の炭化水素基である。R1、R2およびR3は、いずれか2つが、それぞれ、同一または異なる、炭素数1〜12の炭化水素基でもよいし、3つが、それぞれ、同一または異なる、炭素数1〜12の炭化水素基でもよい。前記R1、R2およびR3のうち、1つまたは2つが、炭素数1〜12の炭化水素基の場合、その他は、例えば、水素、ハロゲン(X)等があげられる。
また、本発明においては、例えば、さらにその他のリン化合物を併用することもできる。前記リン化合物は、例えば、縮合型リン酸エステル、ハロゲン化リン酸エステルがあげられ、また、リン原子と窒素原子を同一構造中に含有する化合物、例えば、ホスファゼン類縁体、ピペラジンとリンの化合物、トリアジンとリンの化合物等も使用できる。
(5)その他の添加剤
本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、前記セルロース系樹脂(X)と前記リン酸エステル(Y)の他に、さらに、添加剤を含んでもよい。前記添加剤は、例えば、通常の熱可塑性樹脂に使用する各種の添加剤が適用できる。
前記添加剤は、例えば、熱可塑性や破断時の伸びを一層向上できることから、可塑剤があげられる。前記可塑剤は、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ−2−メトキシエチル、エチルフタリル・エチルグリコレート、メチルフタリル・エチルグリコレート等のフタル酸エステル;酒石酸ジブチル等の酒石酸エステル;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸エステル;トリアセチン、ジアセチルグリセリン、トリプロピオニトリルグリセリン、グリセリンモノステアレート等の多価アルコールエステル;リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレシル等のリン酸エステル;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルセバケート等の二塩基性脂肪酸エステル;クエン酸トリエチル、クエン酸アセチル・トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;ヒマシ油およびその誘導体;O−ペンゾイル安息香酸エチル等の安息香酸エステル;セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル等の脂肪族ジカルボン酸エステル;マレイン酸エステル等の不飽和ジカルボン酸エステル;その他に、N−エチルトルエンスルホンアミド、トリアセチン、p−トルエンスルホン酸O−クレジル、トリプロピオニン等があげられる。前記可塑剤は、中でも、例えば、熱可塑性および破断時の伸びの他、耐衝撃性もより効果的に向上できることから、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ベンジル−2ブトキシエトキシエチル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸ジフェニルオクチルが好ましい。
その他の可塑剤は、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸ジヘキシル、シクロヘキサンジカルボン酸ジオクチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジ−2−メチルオクチル等のシクロヘキサンジカルボン酸エステル;トリメリット酸ジヘキシル、トリメリット酸ジエチルヘキシル、トリメリット酸ジオクチル等のトリメリット酸エステル;ピロメリット酸ジヘキシル、ピロメリット酸ジエチルヘキシル、ピロメリット酸ジオクチル等のピロメリット酸エステルがあげられる。
前記可塑剤として、例えば、前記可塑剤における反応性官能基(カルボン酸基、カルボン酸基から誘導された基、またはその他の官能基)と、カルダノールまたはその誘導体のヒドロキシ基もしくは不飽和結合とを反応させ、カルダノールまたはその誘導体を付加させた改変可塑剤を用いてもよい。このような改変可塑剤を用いると、例えば、前記セルロース系樹脂(X1)および/または前記セルロース系樹脂(X2)と前記可塑剤の相溶性を向上できるため、前記可塑剤の添加効果を一層向上できる。
本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、必要に応じて、充填剤を添加してもよい。前記充填剤は、例えば、無機系もしくは有機系の粒状または繊維状の充填剤があげられる。前記充填剤の添加によって、本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、強度および剛性を一層向上できる。前記充填剤は、例えば、鉱物質粒子(タルク、マイカ、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレイ、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト(またはウォラストナイト)等)、ホウ素含有化合物(窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタン等)、金属炭酸塩(炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム等)、金属珪酸塩(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウム等)、金属酸化物(酸化マグネシウムなど)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等)、金属硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタン等)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン等)、ホワイトカーボン、各種金属箔があげられる。前記繊維状の充填剤は、例えば、有機繊維(天然繊維、紙類等)、無機繊維(ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ウォラストナイト、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維等)、金属繊維等があげられる。前記充填剤は、例えば、いずれか1種類を使用してもよいし、2種類以上を組合せて使用してもよい。
本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、必要に応じて、前記リン酸エステル(Y)の他に、リン化合物以外の難燃剤を添加してもよい。前記難燃剤の添加によって、本発明のセルロース系樹脂組成物に、さらなる難燃性を付与できる。前記難燃剤は、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水和物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、ゼオライト、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、メラミン系難燃剤等、一般的な難燃剤があげられる。これらの難燃剤は、例えば、いずれか1種類を使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、必要に応じて、耐衝撃性改良剤を添加してもよい。前記耐衝撃性改良剤の添加によって、本発明のセルロース系樹脂組成物は、さらに、耐衝撃性を向上できる。前記耐衝撃性改良剤は、例えば、ゴム成分、シリコーン化合物があげられる。前記ゴム成分は、例えば、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、合成ゴム等があげられる。前記シリコーン化合物は、例えば、アルキルシロキサン、アルキルフェニルシロキサン等の重合によって形成された有機ポリシロキサン、または前記有機ポリシロキサンの側鎖もしくは末端を、ポリエーテル、メチルスチリル、アルキル、高級脂肪酸エステル、アルコキシ、フッ素、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等で変性した変性シリコーン化合物等があげられる。前記耐衝撃性改良剤は、例えば、いずれか1種類を使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
前記シリコーン化合物は、例えば、変性シリコーン化合物(変性ポリシロキサン化合物)が好ましい。前記変性シリコーン化合物は、例えば、ジメチルシロキサンの繰り返し単位から構成される主鎖を有し、その側鎖または末端のメチル基の一部が、有機置換基で置換された構造を有する、変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。前記有機置換基は、例えば、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、フェノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メタクリル基、長鎖アルキル基、アラルキル基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェノキシ基、長鎖脂肪酸エステル基、長鎖脂肪酸アミド基、ポリエーテル基から選ばれる少なくとも1種類の基を含む有機置換基があげられる。
前記変性シリコーン化合物は、例えば、通常の方法に従って製造されるものを使用できる。
前記変性シリコーン化合物に含まれる前記有機置換基は、例えば、下記式(4)〜(22)で表されるものがあげられる。
前記各式(4)〜(22)において、aおよびbは、それぞれ1から50の正の整数を表す。
前記各式(4)〜(22)において、R1〜R10、R12〜R15、R19、R21は、それぞれ、2価の有機基を表す。前記2価の有機基は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基等のアルキルアリーレン基、−(CH2−CH2−O)c−(cは、1から50の正の整数を表す)、−〔CH2−CH(CH3)−O〕d−(dは、1から50の正の整数を表す)等のオキシアルキレン基、ポリオキシアルキレン基、−(CH2)e−NHCO−(eは、1から8の正の整数を表す)をあげることができる。これらのうち、前記有機基は、例えば、アルキレン基が好ましく、特に、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
前記各式(4)〜(22)において、R11、R16〜R18、R20、R22は、それぞれ、炭素数20以下のアルキル基を表す。アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等があげられる。また、前記アルキル基は、その構造中に、1つ以上の不飽和結合を有していてもよい。
前記変性シリコーン化合物において、前記有機置換基の合計平均含有量は、特に制限されない。前記セルロース系樹脂組成物の製造時において、例えば、前記変性シリコーンが、マトリックスの前記セルロース系樹脂中に、適度な粒径で分散可能な範囲とすることが好ましい。前記粒径は、例えば、例えば、0.1μm以上100μm以下である。前記セルロース系樹脂中において、前記変性シリコーン化合物が適度な粒径で分散すると、例えば、弾性率の低いシリコーン領域の周囲に対する応力集中が効果的に発生し、優れた耐衝撃性を有する成形品を得ることができる。前記有機置換基の合計平均含有量は、その下限が、例えば、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは、0.1質量%以上であり、また、その上限が、例えば、70質量%以下が好ましく、より好ましくは、50質量%以下である。前記変性シリコーン化合物は、前記有機置換基を前述のような範囲で含有することによって、前記セルロース系樹脂との親和性をより向上させ、前記セルロース系樹脂中において、適度な粒径で分散でき、さらに、成形品において、前記変性シリコーン化合物の分離によるブリードアウトをさらに抑制できる。
前記変性ポリジメチルシロキサン化合物における前記有機置換基が、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、フェノール基、メルカプト基、カルボキシル基、メタクリル基の場合、前記変性ポリジメチルシロキサン化合物中の前記有機置換基の平均含有量は、例えば、下記式(I)から算出できる。
有機置換基平均含有量(%)=
(有機置換基の式量/有機置換基当量)×100 (I)
式(I)中、有機置換基当量は、有機置換基1モルあたりの変性シリコーン化合物の質量の平均値である。
前記変性ポリジメチルシロキサン化合物における前記有機置換基が、フェノキシ基、アルキルフェノキシ基、長鎖アルキル基、アラルキル基、長鎖脂肪酸エステル基、長鎖脂肪酸アミド基の場合、前記変性ポリジメチルシロキサン化合物中の前記有機置換基の平均含有量は、例えば、下記式(II)から算出できる。
有機置換基平均含有量(%)=
x×w/[(1−x)×74+x×(59+w)]×100 (II)
式(II)中、xは、変性ポリジメチルシロキサン化合物中の全シロキサン繰り返し単位に対する有機置換基を含有するシロキサン繰り返し単位のモル分率の平均値であり、wは、有機置換基の式量(化学式量)である。
前記変性ポリジメチルシロキサン化合物における前記有機置換基が、フェニル基の場合、前記変性ポリジメチルシロキサン化合物中のフェニル基の平均含有量は、例えば、下記式(III)から算出できる。
フェニル基平均含有量(%)=
154×x/[74×(1−x)+198×x]×100 (III)
式(III)中、xは、変性ポリジメチルシロキサン化合物(A)中の全シロキサン繰り返し単位に対するフェニル基を含有するシロキサン繰り返し単位のモル分率の平均値である。
前記変性ポリジメチルシロキサン化合物における前記有機置換基が、ポリエーテル基の場合、前記変性ポリジメチルシロキサン化合物中のポリエーテル基の平均含有量は、例えば、下記式(IV)から算出できる。
ポリエーテル基平均含有量(%)=[HLB値/20]×100 (IV)
式(IV)中、HLB値は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であり、グリフィン法に基づいて、下記式(V)により定義される。
HLB値=20×(親水部の式量の総和/分子量) (V)
本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、さらに、前記(X1)および前記(X2)に対して親和性が異なる2種類以上の変性シリコーン化合物を添加してもよい。この場合、例えば、相対的に親和性の低い変性シリコーン化合物(A1)の分散性が、相対的に親和性の高い変性シリコーン化合物(A2)によって改善され、より一層優れた耐衝撃性を有するセルロース系樹脂組成物を得ることができる。前記変性シリコーン化合物(A1)の有機置換基の合計平均含有量は、下限が、例えば、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは、0.1質量%以上であり、上限が、例えば、15質量%以下が好ましく、より好ましくは、10質量%以下である。前記変性シリコーン化合物(A2)の有機置換基の合計平均含有量は、下限が、例えば、15質量%以上が好ましく、より好ましくは、20質量%以上であり、上限が、例えば、90質量%以下が好ましい。
前記変性シリコーン化合物(A1)と前記変性シリコーン化合物(A2)との配合比(質量比)は、例えば、10/90〜90/10の範囲で設定できる。
前記変性シリコーン化合物において、ジメチルシロキサン繰返し単位および有機置換基含有シロキサン繰り返し単位は、例えば、同種のものが連続して接続されても、交互に接続されても、また、ランダムに接続されていてもよい。前記変性シリコーン化合物は、例えば、分岐構造を有していてもよい。
前記変性シリコーン化合物の数平均分子量は、下限が、例えば、900以上が好ましく、より好ましくは、1000以上であり、上限が、例えば、1000000以下が好ましく、より好ましくは、300000以下であり、さらに好ましくは、100000以下である。前記変性シリコーン化合物の分子量が前記数値を満たす場合、例えば、前記セルロース系樹脂組成物の製造時において、溶融した前記セルロース系樹脂との混練時、揮発による喪失を十分に抑制できる。また、前記変性シリコーン化合物が前記数値範囲を満たす場合、例えば、より良い分散性で、より均一な成形品を得ることができる。
数平均分子量は、例えば、試料のクロロホルム0.1%溶液に関する、GPCによる測定値(ポリスチレン標準試料で較正)を採用できる。
本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記変性シリコーン化合物の添加量は、特に制限されず、例えば、十分な添加効果を得る点から、セルロース系樹脂組成物全体に対して、下限は、1質量%以上が好ましく、より好ましくは、2質量%以上である。また、例えば、セルロース系樹脂の強度等の特性を十分に確保し、また、ブリードアウトを十分に抑制する点から、上限は、20質量%以下が好ましく、より好ましくは、10質量%以下である。
本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、前記変性シリコーン化合物を前記セルロース系樹脂に添加することによって、前記セルロース系樹脂中に、前記変性シリコーンを、適度な粒径で分散できる。前記粒径は、例えば、0.1〜100μmである。これによって、例えば、本発明のセルロース系樹脂組成物の耐衝撃性をさらに向上できる。
本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、必要に応じて、さらに、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤等、通常の樹脂組成物に適用される添加剤を添加してもよい。
本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、必要に応じて、一般的な熱可塑性樹脂を添加してもよい。
前記熱可塑性樹脂は、特に制限されず、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)等の柔軟性に優れる熱可塑性樹脂があげられる。このような熱可塑性樹脂を添加することで、本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、さらに耐衝撃性を向上できる。本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記熱可塑性樹脂(特にTPU)の添加量は、特に制限されず、例えば、十分な添加効果を得る点から、前記セルロース系樹脂組成物全体に対して、下限が、1質量%以上が好ましく、より好ましくは、5質量%以上である。また、セルロース系樹脂の強度等の特性を十分に確保し、また、ブリードアウトを十分に抑制する点から、前記セルロース系樹脂組成物における前記熱可塑性樹脂の添加量は、例えば、前記セルロース系樹脂組成物全体に対して、上限が、20質量%以下が好ましく、より好ましくは、15質量%以下である。
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、特に制限されず、例えば、ポリオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤を用いて調製されるものが、使用できる。
前記ポリオールは、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールがあげられる。
前記ポリエステルポリオールは、例えば、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等)等の多価カルボン酸、またはこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の多価アルコールまたはこれらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等があげられる。
前記ポリエステルエーテルポリオールは、例えば、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、脂環族ジカルボン酸(ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等)等の多価カルボン酸、またはこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコールもしくはアルキレンオキサイド付加物(プロピレンオキサイド付加物等)等のグリコール等またはこれらの混合物との脱水縮合反応で得られる化合物があげられる。
前記ポリカーボネートポリオールは、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの1種または2種以上と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールがあげられる。また、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)とポリヘキサメチレンカーボネート(PHL)との共重合体であってもよい。
前記ポリエーテルポリオールは、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、およびこれらのコポリエーテルがあげられる。
前記TPUの形成に使用するジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネートメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI;HMDI)等があげられる。これらの中でも、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)または1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が好ましい。
前記TPUの形成に使用する鎖延長剤は、例えば、低分子量ポリオールがあげられる。前記低分子量ポリオールは、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン等の脂肪族ポリオール;1,4−ジメチロールベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等の芳香族グリコールがあげられる。
前記TPUは、さらに、シリコーン化合物が共重合されてもよい。これによって、さらに優れた耐衝撃性を得ることができる。
前記TPUは、例えば、いずれか1種類を使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明のセルロース系樹脂組成物の製造方法は、特に制限されない。本発明のセルロース系樹脂組成物は、例えば、前記セルロース系樹脂(X)と前記リン酸エステル(Y)とを混合することにより得られる。前記混合の方法は、特に制限されず、例えば、ハンドミキシング、公知の混合機等を用いて、溶融混合することが好ましい。前記混合機は、例えば、タンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸混合押出し機、多軸混合押出機、混練ニーダー、混練ロール等のコンパウンディング装置が使用できる。また、前記溶融混合した混合物は、例えば、さらに、必要に応じ、適当な形状に造粒等を行い、これを前記セルロース系樹脂組成物としてもよい。また、本発明のセルロース系樹脂組成物の別の製造方法は、例えば、有機溶媒等の溶剤に、前記セルロース系樹脂(X)と前記リン酸エステル(Y)とを分散させて混合する方法があげられる。また、混合した混合物は、例えば、さらに、必要に応じて、凝固用溶剤を添加し、その後、前記溶剤を蒸発させ、これを前記セルロース系樹脂組成物としてもよい。前記各種添加剤と樹脂の混合組成物を得て、その後、溶剤を蒸発させる製造方法がある。前記セルロース系樹脂(X)と前記リン酸エステル(Y)とを混合の際、例えば、必要に応じて、前述した添加剤、前記熱可塑性樹脂等を添加してもよい。
本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記セルロース系樹脂(X)の合計添加量は、例えば、前記セルロース系樹脂組成物全体に対して、下限は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは、60質量%以上であり、上限は、99質量%以下が好ましく、より好ましくは、95質量%以下である。また、本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記リン酸エステル(Y)の添加量は、例えば、前記セルロース系樹脂組成物全体に対して、下限は、1質量%以上が好ましく、より好ましくは、5質量%以上であり、上限は、50質量%以下が好ましく、より好ましくは、40質量%以下である。また、本発明のセルロース系樹脂組成物において、前記セルロース系樹脂(X)の合計添加量は、樹脂成分全体に対して、5質量%以上が好ましく、より好ましくは、10質量%以上であり、さらに好ましくは、25質量%以上である。
本発明のセルロース系樹脂組成物の形態は、特に制限されず、例えば、溶液、ペレット、粉末、粒子、ブロック等の固体でもよい。
つぎに、本発明の成形材料は、前記本発明のセルロース系樹脂組成物を含むことを特徴とする。本発明の成形材料は、例えば、前記セルロース系樹脂組成物をベース樹脂として含み、電子機器用外装等の筺体等、様々な成形品の原料として有用である。
前記ベース樹脂とは、例えば、成形材料中の主成分を意味し、前記主成分の機能を妨げない範囲で、他の成分を含有することを許容することを意味する。本発明の成形材料において、主成分である前記ベース樹脂(すなわち、本発明のセルロース系樹脂組成物)の含有割合は、特に制限されず、例えば、全体の50質量%以上が好ましく、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
本発明の成形材料は、例えば、前記本発明のセルロース系樹脂組成物の他に、バインダー、溶媒等を含んでもよい。
本発明の成形材料の形態は、特に制限されず、例えば、溶液、ペレット、粉末、粒子、ブロック等の固体でもよい。
つぎに、本発明の成形品は、前記本発明のセルロース系樹脂組成物を含むことを特徴とする。本発明の成形品は、前記本発明のセルロース系樹脂組成物を使用していればよく、その他の構成は、何ら制限されない。前記成形品は、例えば、電子機器用外装等の筺体、電子機器の内部部品、シート、フィルム、包装容器、等があげられる。
以下、具体例をあげて、本発明を更に詳しく説明する。ただし、本発明は、下記の実施例により制限されない。
[合成例A1]カルダノールをグラフト化したセルロース系樹脂1の合成
以下に示すように、カルダノールのクロライド化物を、セルロースアセテートに結合させ、グラフト化セルロースアセテートを合成した。このグラフト化セルロースアセテートを、セルロース系樹脂1とした。セルロース系樹脂1の合成工程を、図2に示す。
(1)クロライド化水添カルダノールの合成
原料として、カルダノールの直鎖状炭化水素(R)部分の不飽和結合が水素化された、水添カルダノール(ACROS Organics製、m−n−ペンタデシルフェノール)を使用した。この水添カルダノールのフェノール性ヒドロキシ基にモノクロロ酢酸を反応させて、カルボキシル基を付与し、カルボキシル化水添カルダノールを得た。次に、カルボキシル化水添カルダノールのカルボキシル基をオキサリルクロライドでクロライド化して、酸クロライド基へ変換し、モノクロロ酢酸変性カルダノールのクロライド化物(クロライド化水添カルダノール)を得た。前記クロライド化水添カルダノールは、前記式(1)において、RがR1であり、−OHが、−O−CH2−CO−Clに置換された誘導体である。以下に、具体的な方法を示す。
まず、水添カルダノール80g(0.26mol)をメタノール120mLに溶解させ、これに、水酸化ナトリウム64g(1.6mol)を蒸留水40mLに溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を添加した。その後、この混合液に、室温で、モノクロロ酢酸66g(0.70mol、関東化学(株)製)をメタノール50mLに溶解させたモノクロロ酢酸溶液を滴下した。滴下完了後、この混合液を、73℃で4時間還流させつつ攪拌を継続し、反応させた。この反応液を、室温まで冷却した後、希塩酸でpH=1となるまで酸性化し、メタノール250mLとジエチルエーテル500mLを添加し、さらに、蒸留水200mLを添加した。この混合液を、分液漏斗で水層とエーテル層とに分離し、前記水層は廃棄し、前記エーテル層を、蒸留水400mLで2回洗浄した。洗浄後のエーテル層に、無水マグネシウムを加え乾燥させた後、これを濾別した。得られた濾液(エーテル層)を、エバポレーター(90℃/3mmHg)で減圧濃縮し、残渣として黄茶色粉末状の粗生成物を得た。前記粗生成物をn−ヘキサンから再結晶し、真空乾燥させることにより、カルボキシル化水添カルダノールの白色粉末46g(0.12mol)を得た。
前記カルボキシル化水添カルダノール46g(0.12mol)を脱水クロロホルム250mLに溶解させ、さらに、オキサリルクロライド24g(0.19mol)とN,N−ジメチルホルムアミド0.25mL(3.2mmol)を加え、室温で72時間撹拌した。この混合液から、クロロホルム、過剰のオキサリルクロライドおよびN,N−ジメチルホルムアミドを減圧留去し、クロライド化水添カルダノール48g(0.13mol)を得た。
(2)カルダノールをグラフト化したセルロース系樹脂1の合成
前記(1)のクロライド化水添カルダノールを、セルロースアセテートに結合させ、グラフト化セルロースアセテート(セルロース系樹脂1)とした。以下に、具体的な方法を示す。
セルロースアセテートとして、ダイセル化学工業(株)製、商品名L−70、セルロースのグルコース単位当たりの酢酸の付加数(アセチル化の置換度:DSAce)=2.4を使用した。前記セルロースアセテート15.8g(ヒドロキシ基量0.036mol)を脱水ジオキサン200mLに溶解させ、反応触媒および酸捕捉剤としてトリエチルアミン5.0mL(0.036mol)を加えた。この混合液に、前記(1)で合成したクロライド化水添カルダノール41.2g(0.108mol)を溶解したジオキサン溶液100mLを加え、100℃で5時間加熱還流し、反応させた。この反応液を、メタノール3Lに撹拌しながらゆっくりと滴下して再沈殿し、固体を濾別した。濾別した固体を一晩空気乾燥し、さらに、105℃で5時間真空乾燥することで、グラフト化セルロースアセテート(セルロース系樹脂1)19gを得た。
得られた前記セルロース系樹脂1を、1H−NMR(Bruker社製、製品名AV−400、400MHz)によって測定した結果、DSCDは、0.50であった。
[合成例A2]ステアロイルクロライドをグラフト化したセルロース系樹脂2の合成
前記カルダノールのクロライド化物に代えて、ステアロイルステアロイルクロライド(東京化成工業(株))を使用した以外は、前記合成例A1と同様にしてグラフト化を行い、ステアロイル基が結合したグラフト化セルロースアセテートを合成した。このグラフト化セルロースアセテートを、セルロース系樹脂2とした。
具体的に、前記クロライド化水添カルダノールのジオキサン溶液に代えて、ステアロイルクロライド32.7g(0.108mol)を溶解したジオキサン溶液100mLを使用した以外は、同様の一連の処理を行った。そして、真空乾燥することで、グラフト化セルロースアセテート(セルロース系樹脂2)19gを得た。
得られたセルロース系樹脂2(グラフト化セルロースアセテート)を、1H−NMR(Bruker社製、製品名:AV−400、400MHz)によって測定した結果、ステアロイル基の置換度(DSSC)は、0.50であった。
[合成例B1]リン酸エステル1の合成
ラグビーボール型マグネティックスターラを仕込み、窒素置換した300mLの三口フラスコに、p−クレゾール(東京化成工業製、固体)5.41g(50mmol)を計り取り、脱水ジオキサン(関東化学製、液体)20mLで溶解した。このフラスコに、脱水ジオキサン20mLで希釈したトリエチルアミンC6H15N(関東化学製、液体)15.18g(150mmol)を添加し、均一になるまで常温でよく撹拌し、混合液を得た。次に、脱水ジオキサン60mLで希釈したクロロリン酸ジフェニル(東京化成工業製、液体)13.43g(50mmol)を、予めフラスコに接続しておいたガラスシリンジに充填し、前記フラスコ内の前記混合液に徐々に添加した。その後、常温で0.5時間撹拌した後、35−40℃に昇温し、さらに2時間反応させた。得られた反応物を吸引ろ過して、ろ液と沈殿物(トリエチルアミン塩酸塩)に分別し、前記ろ液を80℃で加熱しながらエバポレーションして脱溶媒化し、主成分が4−メチルフェニル・ジフェニルリン酸エステルであるリン酸エステル1を得た。前記リン酸エステル1において、芳香環に付加された置換基は、炭素数が1である。前記リン酸エステル1のpHをリトマス試験紙で測定した結果、pHは4−7であった。
[合成例B2]リン酸エステル2の合成
p−クレゾールに代えて、4−エチルフェノール(東京化成工業製、固体)6.11g(50mmol)を使用した以外は、前記合成例B2と同様に、リン酸エステルの合成を行った。これにより、主成分が4−エチルフェニル・ジフェニルリン酸エステルであるリン酸エステル2を得た。前記リン酸エステル2において、芳香環に付加された置換基は、炭素数が2である。前記リン酸エステル2のpHをリトマス試験紙で測定した結果、pHは4−7であった。
[合成例B3]リン酸エステル3の合成
p−クレゾールに代えて、4−イソプロピルフェノール(東京化成工業製、固体)6.81g(50mmol)使用した以外は、前記合成例B2と同様に、リン酸エステルの合成を行った。これにより、主成分が4−イソプロピルフェニル・ジフェニルリン酸エステルであるリン酸エステル3を得た。前記リン酸エステル3において、芳香環に付加された置換基は、炭素数が3である。前記リン酸エステル3のpHをリトマス試験紙で測定した結果、pHは4−7であった。
[合成例B4]リン酸エステル4の合成
p−クレゾールに代えて、3−n−ペンタデシルフェノール(ACROS ORGANICS製、固体、純度90%以上)16.92g(50mmol)を使用した以外は、前記合成例B2と同様に、リン酸エステルの合成を行った。これにより、主成分が3−ペンタデシルフェニル・ジフェニルリン酸エステルであるリン酸エステル4を得た。前記リン酸エステル4において、芳香環に付加された置換基は、炭素数が15である。前記リン酸エステル4のpHをリトマス試験紙で測定した結果、pHは4−7であった。
[成形品の製造]
前記セルロース系樹脂1、前記セルロース系樹脂2、市販のセルロース樹脂3(アセチルセルロース、ダイセル化学工業製、商品名L−40、DSAce=2.5)と、前記リン酸エステル1、前記リン酸エステル2、前記リン酸エステル3、前記リン酸エステル4、市販のリン酸エステル5(トリフェニルホスフェート、T.P、大八化学製)、市販のリン酸エステル6(芳香族縮合リン酸エステルCR−733S)とを、後述する表1の組合せで混練した後、成形品を作製した。
(1)混練方法
混練機(Thermo Electron Corporation製、商品名HAAKE MiniLab Rheomex CTW5)を使用して、セルロース系樹脂4.9gとリン酸エステル2.1gを混合した(合計7.0g)。前記混練機の混練室の設定温度は200℃、回転数は60rpmに設定し、前記セルロース系樹脂と前記リン酸エステルを前記混練機の供給口から投入した後、4分間混練し、混合物を回収した。
(2)成形方法
成形機(Thermo Electron Corporation製、HAAKE MiniJet II)を使用して、前記(1)で得られた混合物3.5gを用いて、2.5mm×13mm×130mmの金型に射出成形し、成形品を作製した。前記成形条件は、前記成形機のシリンダー温度を200℃に、金型温度を80℃とし、射出圧力800barで5秒間、保圧400barで5秒間とした。
[評価方法]
得られた成形品から試験片を切り出し、下記基準に従って評価を行った。これらの結果を表1〜表3に示す。
(1)難燃性の評価
厚さ2.5mm×幅12.8mm×長さ80mmの試験片に、UL94V試験に準拠したバーナーの炎を、各5秒間、計2回接炎した。そして、1回目の接炎後の残炎状態(評価指標1)と、2回目の接炎後の残炎状態(評価指標2)および燃焼状態(評価指標3)を観察し、難燃性の評価指標とした。3つの評価指標をすべて満足した場合、すなわち、すべてが○の場合、最も難燃性に優れると判断できる。
(評価指標1)
1回目の接炎で自己消火する:難燃性が良好○
1回目の接炎で自己消火しない(燃焼する):難燃性に劣る××
(評価指標2)
2回目の接炎で自己消火する:難燃性が良好○
2回目の接炎で自己消火しない:難燃性が不十分△
(評価指標3)
1回目と2回目の接炎後に液だれしない:難燃性が良好○
1回目と2回目の接炎後に液だれして消火する:難燃性が劣る△
(2)耐ブリード性の評価
厚み2.5mm×13mm×2cmの試験片を、60℃×湿度95%の条件下に、60時間保管した後、前記試験片の表面状態を顕微鏡で観察し、耐ブリード性を評価した。保管後の前記試験片の表面に、液滴や結晶等の異物が観察されない場合を、耐ブリード性を合格○と判定し、保管後の前記試験片の表面に、液滴や結晶等の異物が観察された場合を、耐ブリード性が不合格×と判定した。また、実施例1の試験片および比較例3の試験片について、60時間保管後の表面の顕微鏡写真を、図1に示す。図1において、(A)が実施例1、(B)が比較例3の結果である。
前記表1〜表3に示すように、比較例1〜5は、難燃性および耐ブリード性の両方または一方が十分な評価が得られていないのに対して、実施例1〜4は、いずれも優れた難燃性および耐ブリード性を示した。この結果から、前記セルロース系樹脂(X1)または前記セルロース系樹脂(X2)と前記リン酸エステル(Y)とを組合せることによって、優れた難燃性と耐ブリード性を両立できることがわかった。また、耐ブリード性は、実施例1と比較例3との間で、明確に異なる結果であることが、図1の写真からも容易に確認できた。なお、図1において、代表して実施例1および比較例3の試験片に関する写真のみを記載したが、その他の実施例2〜4は、実施例1と同様の結果であり、その他の比較例1、2および4も、比較例3と同様の結果を示した。