本発明の有機EL素子は、基板上に、対となる電極と有機発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、当該有機発光層中に、下記要件(a)〜(e)を満たす蛍光発光性化合物を含有していることを特徴とする。
(a)前記蛍光発光性化合物が、分子内に水素結合を有する蛍光発光性化合物であって、
(b)前記水素結合を含んで形成される環構造が5又は6員環であり、
(c)前記水素結合を形成する原子は、一方は炭素原子に結合した水素原子であり、他方は窒素原子、カルコゲン原子及びハロゲン原子から選ばれる一つの原子であり、かつ
(d)前記水素原子と結合している炭素原子は、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を形成する原子群の一部であって、
(e)前記芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を、無置換又はメチル基で置換された状態に置き換えて算出される、前記炭素原子に結合した水素原子の気相中の解離エネルギーの値が、350kcal/mol以上、400kcal/mol未満である。
この特徴は、請求項1から請求項9までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記水素結合を形成する前記窒素原子又は前記カルコゲン原子が、芳香族複素環を形成する原子群の一部であることが好ましい。芳香族複素環を形成することが、化合物の剛直性を改善し、ΔEstの低減に効果的である。また、π共役性化合物は一般に正孔や電子の輸送性が高く効率的にキャリアを輸送することができるため、正孔と電子が出会い励起子が生成する効率が向上する。さらに、耐熱性の点から化合物のガラス転移点(Tg)を向上させるという点においても効果的である。
また、前記蛍光発光性化合物について、汎関数としてB3LYP及び基底関数として6−31G(d)を用いた分子軌道計算によって得られるHOMOとLUMOの電子密度分布が、実質的に分離していることが好ましい。実質的に分離している、すなわちΔEstを小さくすることで、三重項励起子から一重項励起子への逆項間交差が期待でき、一重項励起子からの発光効率を向上が期待できるので好ましい。
また、前記蛍光発光性化合物の最低励起一重項状態と最低励起三重項状態のエネルギー差(ΔEst)が、0.3eV以下であることが好ましい。ΔEstを小さくすることにより、三重項励起子から一重項励起子への逆項間交差の確率が向上し、発光効率向上の点から好ましい。
また、前記蛍光発光性化合物が、遅延蛍光発光性を有することが好ましい。通常の一重項励起子生成確率は理論上25%が限界であるが、遅延蛍光を利用することによってより高い発光効率が可能となる。
前記有機発光層が、前記蛍光発光性化合物と、少なくとも一つのビアリール構造を有するホスト化合物とを含有していることが好ましい。π共役系の環から構成されることにより、キャリアの輸送性に優れ、かつラジカル状態での安定性の点でも好ましく、また高T1と高Tgを両立させる点からも好ましい。
本発明の蛍光発光性化合物は、分子内に水素結合を有する蛍光発光性化合物であって、下記要件(b)〜(e)を満たすことを特徴とする。
(b)前記水素結合を含んで形成される環構造が5又は6員環であり、
(c)前記水素結合を形成する原子は、一方は炭素原子に結合した水素原子であり、他方は窒素原子、カルコゲン原子及びハロゲン原子から選ばれる一つの原子であり、かつ
(d)前記水素原子と結合している炭素原子は、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を形成する原子群の一部であって、
(e)前記芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を、無置換又はメチル基で置換された状態に置き換えて算出される、前記炭素原子に結合した水素原子の気相中の解離エネルギーの値が、350kcal/mol以上、400kcal/mol未満である。これにより、発光効率が高く、かつ発光寿命が長く、さらに通電経時での薄膜の抵抗値変化が小さく安定性の優れた有機EL素子が得られる。
また、本発明の有機EL素子は、表示装置及び照明装置に好適に具備され得る。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、本願においては、1kcal/molは4.2kJ/molを表す意味で用いる。
本論に入る前に、本発明の技術思想と関連する、有機ELの発光方式及び発光材料について述べる。
<有機ELの発光方式>
有機ELの発光方式としては三重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「リン光発光」と、一重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「蛍光発光」の二通りがある。
有機ELのような電界で励起する場合には、三重項励起子が75%の確率で、一重項励起子が25%の確率で生成するため、リン光発光の方が蛍光発光に比べ発光効率を高くすることが可能で、低消費電力化を実現するには優れた方式である。
一方、蛍光発光においても、75%の確率で生成してしまう、通常では、励起子のエネルギーが、無輻射失活により、熱にしかならない三重項励起子を、高密度で存在させることによって、二つの三重項励起子から一つの一重項励起子を発生させて発光効率を向上させるTTA(Triplet−Triplet Annihilation、又はTriplet−Triplet Fusion:「TTF」と略記する。)機構を利用した方式が見つかっている。
さらに、近年では、安達らの発見により一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギーギャップを小さくすることで、発光中のジュール熱及び/又は発光素子が置かれる環境温度によりエネルギー準位の低い三重項励起状態から一重項励起状態に逆項間交差がおこり、結果としてほぼ100%に近い蛍光発光を可能とする現象(熱励起型遅延蛍光、又は熱励起型遅延蛍光ともいう:「TADF」)とそれを可能にする蛍光物質が見いだされている(例えば、前述の非特許文献1)。
<リン光発光性材料>
前記のように、リン光発光は発光効率的には蛍光発光よりも理論的には3倍有利であるが、三重項励起状態から一重項基底状態へのエネルギー失活(=リン光発光)は禁制遷移であり、また同様に一重項励起状態から三重項励起状態への項間交差も禁制遷移であるため、通常その速度定数は小さい。すなわち、遷移が起こりにくいため、励起子寿命はミリ秒から秒オーダーと長くなり、所望の発光を得ることは困難である。
ただし、イリジウムや白金などの重金属を用いた錯体が発光する場合には、中心金属の重原子効果によって、前記の禁制遷移の速度定数が3桁以上増大し、配位子の選択によっては、100%のリン光量子収率を得ることも可能となる。
しかしながら、このような理想的な発光を得るためには、希少金属であるイリジウムやパラジウム、白金などのいわゆる白金属と呼ばれる貴金属を用いる必要があり、大量に使用されることになるとその埋蔵量や金属自体の値段が産業上大きな問題となってくる。
<蛍光発光性材料>
蛍光発光性材料は、リン光発光性材料のような重金属錯体である必要性は特になく、炭素、酸素、窒素、水素などの一般的な元素の組合せから構成される、いわゆる有機化合物が適用でき、さらに、リンや硫黄、ケイ素などその他の非金属元素を用いることも可能で、また、アルミニウムや亜鉛などの典型金属の錯体も活用できるなど、その多様性はほぼ無限と言える。
ただし、従来の蛍光発光性材料では前記のように励起子の25%しか発光に適用できないために、リン光発光のような高効率発光は望めない。
<遅延蛍光発光性材料>
<励起三重項−三重項消滅(TTA)遅延蛍光発光性材料>
蛍光発光性材料の問題点を解決すべく登場したのが遅延蛍光発光を利用した発光方式である。三重項励起子同士の衝突を起源とするTTA方式は、下記のような一般式で記述できる。すなわち、従来、励起子のエネルギーが、無輻射失活により、熱にしか変換されなかった三重項励起子の一部が、発光に寄与しうる一重項励起子に逆項間交差できるメリットあり、実際の有機EL素子においても従来の蛍光発光素子の約2倍の外部取り出し量子効率を得ることができている。
一般式: T* + T* → S* + S
(式中、T* は三重項励起子、S*は一重項励起子、Sは基底状態分子を表す。)
しかしながら、上式からも分かるように、二つの三重項励起子から発光に利用できる一重項励起子は一つしか生成しないため、この方式で100%の内部量子効率を得ることは原理上できない。
<熱活性型遅延蛍光(TADF)材料>
もう一つの高効率蛍光発光であるTADF方式は、TTAの問題点を解決できる方式である。
蛍光発光性材料は前記のごとく無限に分子設計できる利点を持っている。すなわち、分子設計された化合物の中で、特異的に三重項励起状態と一重項励起状態のエネルギー準位差(以降、ΔEstと記載する。)が極めて近接する化合物が存在する(図1参照)。
このような化合物は、分子内に重原子を持っていないにもかかわらず、ΔEstが小さいために通常では起こりえない三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差が起こる。さらに、一重項励起状態から基底状態への失活(=蛍光発光)の速度定数が極めて大きいことから、三重項励起子はそれ自体が基底状態に熱的に失活(無輻射失活)するよりも、一重項励起状態経由で蛍光を発しながら基底状態に戻る方が速度論的に有利である。そのため、TADFでは理想的には100%の蛍光発光が可能となる。
<ΔEstに関する分子設計思想>
上記ΔEstを小さくするための分子設計について説明する。
ΔEstを小さくするためには、原理上分子内の最高被占軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;HOMO)と最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO)の空間的な重なりを小さくすることが最も効果的である。
一般に分子の電子軌道において、HOMOは電子供与性部位に、LUMOは電子吸引性部位に分布することが知られており、分子内に電子供与性と電子吸引性の骨格を導入することによって、HOMOとLUMOが存在する位置を遠ざけることが可能である。
例えば、前述の非特許文献2においては、シアノ基やスルホニル基、トリアジンなどの電子吸引性の骨格と、カルバゾールやジフェニルアミノ基等の電子供与性の骨格とを導入することで、LUMOとHOMOとをそれぞれ局在化させている。
しかしながら、このような分子はHOMO準位が深くなり、発光材料として有機EL素子に用いると、正孔注入が困難となる。また、LUMO準位も深くなってしまい、電子注入は容易になるが、発光材料に電子が入った後のアニオンラジカル状態が安定であるために、分子間での電子のホッピング移動がおきにくくなってしまい、電子が発光材料にトラップされた状態になりやすい。そのため、励起子が隣接層との界面付近で過剰に生成され、結果、発光効率が低くなりやすい。
また、化合物の基底状態と三重項励起状態との分子構造変化を小さくすることも効果的である。構造変化を小さくするための方法としては、例えば、化合物を剛直にすることなどが効果的である。ここで述べる剛直とは、例えば分子内の環と環との結合における自由回転を抑制したり、またπ共役面の大きい縮合環を導入するなど、分子内において自由に動ける部位が少ないことを意味する。特に、発光に関与する部位を剛直にすることによって、励起状態における構造変化を小さくすることが可能である。
<TADF材料が抱える一般的な問題>
TADF材料は、その発光機構及び分子構造の面から種々の問題を抱えている。
以下に、一般的にTADF材料が抱える問題の一部について記載する。
TADF材料においては、ΔEstを小さくするためにHOMOとLUMOの存在する部位をできるだけ離すことが必要であるが、このため、分子の電子状態はHOMO部位とLUMO部位が分離したドナー/アクセプター型の分子内CT(分子内電荷移動状態)に近い状態となってしまう。
このような分子は、複数存在すると一方の分子のドナー部分と他方の分子のアクセプター部分とを近接させると安定化が図られる。そのような安定化状態は2分子間での形成に限らず、3分子間若しくは5分子間であったりと、複数の分子間でも形成が可能であり、結果、広い分布を持った種々の安定化状態が存在することになり、吸収スペクトル及び発光スペクトルの形状はブロードとなる。また、2分子を超える多分子集合体を形成しない場合であっても、二つの分子の相互作用する方向や角度などの違いによって様々な存在状態を取り得るため、基本的にはやはり吸収スペクトル及び発光スペクトルの形状はブロードになる。
発光スペクトルがブロードになることは二つの大きな問題を発生する。
一つは、発光色の色純度が低くなってしまう問題である。照明用途に適用する場合にはそれほど大きな問題にはならないが、電子ディスプレイ用途に用いる場合には色再現域が小さくなり、また、純色の色再現性が低くなることから、実際に商品として適用するのは困難になる。
もう一つの問題は、発光スペクトルの短波長側の立ち上がり波長(「蛍光ゼロ−ゼロバンド」と呼ぶ。)が短波長化、すなわち高S1化(励起一重項エネルギーの高エネルギー化)してしまうことである。
当然、蛍光ゼロ−ゼロバンドが短波長化すると、S1よりもエネルギーの低いT1に由来するリン光ゼロ−ゼロバンドも短波長化(高T1化)してしまう。そのため、ホスト化合物に用いる化合物はドーパントからの逆エネルギー移動を起こさないようにするために、高S1化かつ高T1化する必要が生じてくる。
これは非常に大きな問題である。基本的に有機化合物からなるホスト化合物は、有機EL素子中で、カチオンラジカル状態、アニオンラジカル状態及び励起状態という、複数の活性かつ不安定な化学種の状態を取るが、それら化学種は分子内のπ共役系を拡大することで比較的安定に存在させることができる。
しかしながら、高S1化かつ高T1化を達成するには、分子内のπ共役系を縮小するか若しくは断ち切ることが必要となり、安定性と両立させることが困難になって、結果的には発光素子の寿命を短くしてしまうことになる。
また、重金属を含まないTADF発光材料においては、三重項励起状態から基底状態に失活する遷移は禁制遷移であるため、三重項励起状態での存在時間(励起子寿命)は数百μ秒からミリ秒オーダーと極めて長い。そのため、仮にホスト化合物のT1エネルギーが発光材料のそれよりも高いエネルギーレベルであったとしても、その存在時間の長さから発光材料の三重項励起状態からホスト化合物へと逆エネルギー移動を起こす確率が増大してしまう。その結果、本来意図するTADF発光材料の三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差が十分に起こらずに、ホスト化合物への好ましくない逆エネルギー移動が主流となって、十分な発光効率が得られないという不具合が生じてしまう。
上記のような問題を解決するためには、TADF材料の発光スペクトル形状をシャープ化し、発光極大波長と発光スペクトルの立ち上がり波長の差を小さくすることが必要となる。そのためには、基本的には一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化を小さくすることにより達成することが可能である。
また、ホスト化合物への逆エネルギー移動を抑制するためには、TADF発光材料の三重項励起状態の存在時間(励起子寿命)を短くすることが効果的である。それを実現するには、基底状態と三重項励起状態との分子構造変化を小さくすること、及び、禁制遷移をほどくのに好適な置換基や元素を導入することなどの対策を講じることで、問題点を解決することが可能である。
本発明は、上記のように励起状態の構造変化を抑えた発光材料、及び三重項励起状態の存在時間が短い発光材料も設計思想として含むものである。
次に、本発明の技術的特徴について述べる。
≪本発明の蛍光発光性化合物≫
本発明の蛍光発光性化合物は、分子内に水素結合を有する蛍光発光性化合物であって、前記水素結合を含んで形成される環構造が5又は6員環であり、前記水素結合を形成する原子は、一方は炭素原子に結合した水素原子であり、他方は窒素原子、カルコゲン原子及びハロゲン原子から選ばれる一つの原子であり、かつ前記水素原子と結合している炭素原子は、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を形成する原子群の一部であって、前記芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を、無置換又はメチル基で置換された状態に置き換えて算出される、前記炭素原子に結合した水素原子の気相中の解離エネルギーの値が、350kcal/mol以上、400kcal/mol未満であることを特徴としている。
次に、分子内水素結合について説明する。
<本発明のC−Hを用いた分子内水素結合性発光化合物の分子構造的特徴について>
下図に、水素原子の気相中の解離エネルギーの値を示した。解離エネルギーが大きいほど、酸性度が高く、すなわち水素結合供与性が高いといえる。
一般に、水素結合形成にはO−HやN−Hなどの解離性プロトン、すなわち酸性度の高い水素原子(上記1〜5)が必要とされる。しかし、これらの酸性度の高い水素原子を有する化合物を有機EL素子の材料として用いると、電流駆動中に容易にNアニオンやOアニオンが生成し、分子間で反応を起こしたり、分解を起こしたりして、薄膜の経時安定性が損なわれる。そのため、膜の抵抗値が通電経時で変動し、有機EL素子の駆動電圧が上がったり、発光効率が下がったり、いわゆる有機EL素子としては不都合な状況を招いてしまう。
一方で、アルカンの水素原子(上記11)やベンゼンの水素原子(上記10)には、水素結合性は存在しない。
これらの中間的な酸性度(すなわち水素結合供与性)を持つものが、ピロールやチオフェンなどの電子過剰芳香族複素環に置換した水素原子(上記6〜9)であり、これらの水素原子は適切な位置に水素結合受容性元素(例えば、N、O、S、Seなど)が存在すれば分子内で水素結合を形成して安定なコンフォメーションを維持できることを見いだしたことが、本発明の最大の特徴である。
<本願における炭素原子に結合した水素原子の解離エネルギーの測定方法について>
芳香族炭化水素環又は芳香族複素環に結合した水素原子の解離エネルギーは、該芳香族炭化水素環及び芳香族複素環が有する置換基の種類によって電子状態が変化するため、数値がある程度変動するが、本発明で意図する水素結合供与性については、無置換又は電子状態にほとんど影響を与えないメチル基で置換された芳香族炭化水素環又は芳香族複素環に結合した水素原子の解離エネルギーから見積もることができる。
そこで本発明における炭素原子に結合した水素原子の解離エネルギーについては、蛍光発光性化合物中の、該炭素原子を構成原子として含む芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を、無置換又はメチル基で置換した状態に置き換えて算出される値を用いるものとする。
なお、メチル基で置換する部位については芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の電子状態に大きな影響がない範囲であれば特に限定はないが、分子内水素結合に関与する水素原子よりも解離エネルギーの高い水素原子(例えばO−HやN−Hなどの反応活性の高いプロトン)部位をメチル基に置き換えることで、実際の蛍光発光性化合物中の水素結合を形成する水素原子の解離エネルギーに近い値が得られる。
例えば、例示化合物2−1の場合、下記のようにして解離エネルギーを算出した。
本発明では、適切な酸性度を持った水素結合供与部位にC−H結合由来の水素原子を用いる。すなわち、気相中の解離エネルギーの値が350kcal/mol以上、400未満kcal/molである炭素原子に結合した水素原子である。水素結合供与部分をC−Hとしているため、上記の解離性プロトンで生じるようなそのような不具合が起こらず、分子内水素結合の良い面だけが発現できるというのが、本発明の最大の特徴である。
下記に、代表例として、ジベンゾフラン環のOと、ピロール環Hで水素結合を形成した場合の構造を示す。
以下に、本発明に係る水素結合受容性ユニットの代表例、及び水素結合供与性ユニットの代表例を示すが、これらに限定されるものではない。
<水素結合受容性ユニットの代表例>
下記各ユニットにおいて、太字の元素は水素結合形成に関与するものを表す。また、★印は、水素結合供与性ユニットとの結合部位を表す。
<水素結合供与性ユニットの代表例>
太字の水素原子(H)は水素結合形成に関与するものを表す。*印は水素結合受容性ユニットとの結合部位を表す。
本発明の二つ目の特徴は、従来水素結合性の供与性基としては用いないC−Hを用いて、5又は6員環状の分子内水素結合を形成することにより、特異的に三重項励起状態と一重項励起状態のエネルギー準位差(ΔEst)が小さくなることを、その技術思想としていることである。
例えば、下記の化合物A及び化合物Bの太線で示した結合軸を回転させてエネルギーを計算してみると、ジベンゾフラン環とカルバゾール環が同一平面上に並ぶ位置(θ=0°)にきたとき、化合物Bではカルバゾールのペリ位水素がジベンゾフランの酸素原子と立体反発することが斥力となって回転障害が生じるのに対し、化合物Aは同じくθ=0°のとき(ジベンゾフラン環とピロール環が、同一平面上に並ぶ位置)、ピロールのα位水素がジベンゾフランの酸素原子と水素結合を形成することが引力となって回転障害が生じるという、全く似て非なる現象が起こることが分かった。
また、興味深いことに、化合物Bの場合θ=0°の時に、ペリ位水素とジベンゾフラン酸素が近接するが、その時、S1は変動せずにT1が低エネルギー化してΔEstが大きくなるのに対し、化合物Aの場合θ=0°の時に、α位水素とジベンゾフランが近接し水素結合を形成すると、S1が低エネルギー化してT1が変動せず、結果としてΔEstが小さくなることが分かった。
この現象はピロールとジベンゾフランのみで起こるものではなく、その他の酸性プロトン、すなわち水素結合供与性水素と、窒素、酸素、硫黄、セレンなどの水素結合受容性元素との間で5ないしは6員環状の分子内水素結合を形成することで、全く同じ現象が発現することを見いだした。
これは、安定かつ低ΔEstを実現する全く新しい技術思想であり、この技術思想は今後のTADFには欠くことのない技術として適用され、発展するものと推定される。
また、異なる観点から、この分子内水素結合形成を考えてみることにする。
後述のように、TADF分子はその発光スペクトルのブロードさが普遍的な問題であり、それを解決するためには分子を剛直にする必要がある。
一般的に分子を剛直にするには、π共役を拡張することが最も効果的であるが、その場合S1及びT1は小さくなり、すなわち、蛍光発光スペクトル及びリン光発光スペクトルは長波長化する。
発光色を緑又は赤にする場合にはこの手法は有効であるが、青さらには深い青を発光させるには適用できない技術手段と言える。
さらに、全ての分子が回転可能な結合軸(例えば上記の太線で示した結合軸)を持ち、これはガラス転移温度以下でも回転を起こす。有機EL素子は完全固体素子であり、薄膜は夾雑物を含まない緻密な膜であるために、製膜直後からこの結合軸にそった置換基の回転運動は抑えられていると考えられる。しかし、発光させるためには電界が必要であり、有機ELはその等価回路が抵抗とコンデンサーの二つで表されるといった原理原則上の観点から、必ず発光中(駆動中ともいう。)には熱が発生し、その局所的な熱により、分子は結合軸のまわりで置換基が回り出す。
このときに、回転する置換基が、例えばα−ナフチル基やo−トリル基のような線非対象形の置換基だった場合、その回転により分子の占有体積が増加し、薄膜は粗になり、抵抗が上がってしまって、駆動電圧の上昇や再結合確率の低下など、有機ELにとって不都合な現象を引き起こしてしまう。
このような二つの大きな問題点に関し、今回我々が見いだしたC−Hを用いた分子内水素結合形成は、分子を剛直化するとともに、熱による置換基の回転現象を抑え込む、非常に有効な方法であり、これまでに例を見ない画期的な分子設計技術であるとともに、普遍的な技術であると言って過言でない。
本発明に用いられる蛍光発光性化合物は、水素結合に関係する特定の化学構造を有するものである。
水素原子の、気相中の解離エネルギーは、K.Shen et.al.(Tetrahedron,63,1568,(2007))に示されるように、測定することによって、又は量子化学計算ソフトウェアGaussianによって計算で求めることもできるが、本発明においては後者の計算値を用いることにする。
本発明において、炭素原子に結合した水素原子の気相中の解離エネルギーの値は、350kcal/mol以上、400kcal/mol未満であるが、好ましくは360〜390kcal/molである。
本発明においては、炭素原子と、該炭素原子に結合した水素原子と、該水素原子と水素結合を形成した、窒素原子、カルコゲン原子、ハロゲン原子から選ばれる一つのヘテロ原子を含めて、5又は6員環構造を有することを特徴とする。この化学構造によって、本発明の蛍光発光性化合物を用いた有機EL素子は、優れた蛍光発光を有する。
さらに加えて、本発明に用いられる蛍光発光性化合物は、その一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギー差が0.3eV以下であることによって、熱活性化遅延蛍光特性(以下、TADFと呼ぶ。)という特徴を有するので好ましい。該一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギー差は、前記水素結合に関係する5又は6員環構造において、ヘテロ原子の選択や、周辺構造の設計によって調整することができる。
以下に、本発明に用いられる蛍光発光性化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
<合成例>
本発明に用いられる蛍光発光性化合物の合成は、公知の方法を利用して行うことができる。
下記に、化合物例(2−1)、(3−8)、(7−1)、(17−11)及び(18−3)の合成方法の例を挙げる。
各反応の詳細な条件については、J.Organomet.Chem.,653,1−303(2002).、J.Org.Chem.,42,1821(1977).などの既知の文献を参考にできる。
以下に、本発明の蛍光発光性化合物、特にΔEstの小さい材料に関する種々の測定方法について記載する。
[電子密度分布]
本発明の蛍光発光性化合物は、ΔEstを小さくするという観点から、分子内においてHOMOとLUMOが実質的に分離していることが好ましい。これらHOMO及びLUMOの分布状態については、分子軌道計算により得られる構造最適化した際の電子密度分布から求めることができる。
本発明における蛍光発光性化合物の分子軌道計算による構造最適化及び電子密度分布の算出は、計算手法として、汎関数としてB3LYP、基底関数として6−31G(d)を用いた分子軌道計算用ソフトウェアを用いて算出することができ、ソフトウェアに特に限定はなく、いずれを用いても同様に求めることができる。
本発明においては、分子軌道計算用ソフトウェアとして、米国Gaussian社製のGaussian09(Revision C.01,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,2010.)を用いた。
また、「HOMOとLUMOの電子密度分布が実質的に分離している」とは、上記分子計算により算出されたHOMO軌道の電子密度分布及びLUMO軌道の電子密度分布の中心部位が離れており、より好ましくはHOMO軌道の電子密度分布とLUMO軌道の電子密度分布がほぼ重なっていないことを意味する。
また、HOMOとLUMOの電子密度分布の分離状態については、前述の汎関数としてB3LYP、基底関数として6−31G(d)を用いた構造最適化計算から、さらに時間依存密度汎関数法(Time−Dependent DFT)による励起状態計算を実施してS1、T1のエネルギー(それぞれE(S1)、E(T1))を求めてΔEst=E(S1)−E(T1)として算出することも可能である。算出されたΔEstが小さいほど、HOMOとLUMOがより分離していることを示す。
本発明においては、ΔEstが、0.8eV以下である場合には、実質的に分離していると判断できる。本発明においては、前述と同様の計算手法を用いて算出されたΔEstが、0.5eV以下であることが好ましく、より好ましくは0.2eV以下であり、さらに好ましくは0.1eV以下である。
[最低励起一重項エネルギーS1]
本発明における蛍光発光性化合物の最低励起一重項エネルギーS1については、本発明においても通常の手法と同様にして算出されるもので定義される。すなわち、測定対象となる化合物を石英基板上に蒸着して試料を作製し、常温(300K)でこの試料の吸収スペクトル(縦軸:吸光度、横軸:波長とする。)を測定する。この吸収スペクトルの長波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値に基づいて、所定の換算式から算出される。
ただし、本発明において使用する蛍光発光性化合物の、分子自体の凝集性が比較的高い場合においては、薄膜の測定においては凝集による誤差を生じる可能性がある。本発明における蛍光発光性化合物はストークスシフトが比較的小さいこと、さらに励起状態と基底状態の構造変化が小さいことを考慮し、本発明における最低励起一重項エネルギーは、室温(約25℃)における発光材料の溶液状態の発光波長のピーク値を近似値として用いた。ここで、使用する溶媒は、発光材料の凝集状態に影響を与えない、すなわち溶媒効果の影響が小さい溶媒、例えばシクロヘキサンやトルエン等の非極性溶媒等を用いることができる。
[最低励起三重項エネルギーT1]
本発明における蛍光発光性化合物の最低励起三重項エネルギー(T1)については、溶液若しくは薄膜のフォトルミネッセンス(PL)特性により算出した。例えば薄膜における算出方法としては、希薄状態の発光材料の分散物を薄膜にした後に、ストリークカメラを用い、過渡PL特性を測定することで、蛍光成分とリン光成分の分離を行い、そのエネルギー差をΔEstとして最低励起一重項エネルギーから最低励起三重項エネルギーを求めることができる。
測定・評価にあたって、絶対PL量子収率の測定については、絶対PL量子収率測定装置C9920−02(浜松ホトニクス社製)を用いた。発光寿命は、ストリークカメラC4334(浜松ホトニクス社製)を用いて、サンプルをレーザー光で励起させながら測定した。
≪本発明の有機EL素子≫
本発明の有機EL素子は、基板上に、対となる電極と有機発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、当該有機発光層中に、下記要件(a)〜(e)を満たす蛍光発光性化合物を含有していることを特徴とする。
(a)前記蛍光発光性化合物が、分子内に水素結合を有する蛍光発光性化合物であって、(b)前記水素結合を含んで形成される環構造が5又は6員環であり、
(c)前記水素結合を形成する原子は、一方は炭素原子に結合した水素原子であり、他方は窒素原子、カルコゲン原子及びハロゲン原子から選ばれる一つの原子であり、かつ
(d)前記水素原子と結合している炭素原子は、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を形成する原子群の一部であって、
(e)前記芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を、無置換又はメチル基で置換された状態に置き換えて算出される、前記炭素原子に結合した水素原子の気相中の解離エネルギーの値が、350kcal/mol以上、400kcal/mol未満である。以下、有機EL素子の構成について順を追って説明する。
《有機EL素子の構成層》
本発明の有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を上げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)陽極/発光層//陰極
(2)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の中で(7)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
本発明に係る発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。
必要に応じて、発光層と陰極との間に正孔阻止層(正孔障壁層ともいう)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう)を設けてもよく、また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう)を設けてもよい。
本発明に係る電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
本発明に係る正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
上記の代表的な素子構成において、陽極と陰極を除いた層を「有機層」ともいう。
(タンデム構造)
また、本発明に係る有機EL素子は、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数積層した、いわゆるタンデム構造の素子であってもよい。
タンデム構造の代表的な素子構成としては、例えば以下の構成を挙げることができる。
陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/中間層/第3発光ユニット/陰極
ここで、上記第1発光ユニット、第2発光ユニット及び第3発光ユニットは全て同じであっても、異なっていてもよい。また二つの発光ユニットが同じであり、残る一つが異なっていてもよい。
複数の発光ユニットは直接積層されていても、中間層を介して積層されていてもよく、中間層は、一般的に中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層であれば、公知の材料構成を用いることができる。
中間層に用いられる材料としては、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO2、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、CuI、InN、GaN、CuAlO2、CuGaO2、SrCu2O2、LaB6、RuO2、Al等の導電性無機化合物層や、Au/Bi2O3等の2層膜や、SnO2/Ag/SnO2、ZnO/Ag/ZnO、Bi2O3/Au/Bi2O3、TiO2/TiN/TiO2、TiO2/ZrN/TiO2等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
発光ユニット内の好ましい構成としては、例えば上記の代表的な素子構成で挙げた(1)〜(7)の構成から、陽極と陰極を除いたもの等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
タンデム型有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号、米国特許第7420203号、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、国際公開第2005/009087号、特開2006−228712号公報、特開2006−24791号公報、特開2006−49393号公報、特開2006−49394号公報、特開2006−49396号公報、特開2011−96679号公報、特開2005−340187号公報、特許第4711424号公報、特許第3496681号公報、特許第3884564号公報、特許第4213169号公報、特開2010−192719号公報、特開2009−076929号公報、特開2008−078414号公報、特開2007−059848号公報、特開2003−272860号公報、特開2003−045676号公報、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
以下、本発明の有機EL素子を構成する各層について説明する。
《発光層》
本発明に係る発光層(有機発光層)は、電極又は隣接層から注入されてくる電子及び正孔が再結合し、励起子を経由して発光する場を提供する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても、発光層と隣接層との界面であってもよい。本発明に係る発光層は、本発明で規定する要件を満たしていれば、その構成に特に制限はない。
発光層の膜厚の総和は、特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm〜5μmの範囲に調整することが好ましく、より好ましくは2〜500nmの範囲に調整され、更に好ましくは5〜200nmの範囲に調整される。
また、本発明に係る個々の発光層の膜厚としては、2nm〜1μmの範囲に調整することが好ましく、より好ましくは2〜200nmの範囲に調整され、更に好ましくは3〜150nmの範囲に調整される。
本発明に係る発光層には、前述の蛍光発光性化合物を発光ドーパント(発光性ドーパント、単にドーパントともいう。)として含有し、さらに前述のホスト化合物(マトリックス材料、発光ホスト化合物、単にホストともいう。)とを含有することが好ましい。
(1)発光ドーパント
発光ドーパントとしては、蛍光発光性ドーパント(蛍光ドーパント、蛍光発光性化合物ともいう。)と、リン光発光性ドーパント(リン光ドーパント、リン光発光性化合物ともいう。)が好ましく用いられる。本発明においては、少なくとも1層の発光層が前述の蛍光発光性化合物を含有することが好ましい。
発光層中の発光ドーパントの濃度については、使用される特定のドーパント及びデバイスの必要条件に基づいて、任意に決定することができ、発光層の膜厚方向に対し、均一な濃度で含有されていてもよく、また任意の濃度分布を有していてもよい。
また、本発明に係る発光ドーパントは、複数種を併用して用いてもよく、構造の異なるドーパント同士の組み合わせや、蛍光発光性ドーパントとリン光発光性ドーパントとを組み合わせて用いてもよい。これにより、任意の発光色を得ることができる。
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタ社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
本発明においては、1層又は複数層の発光層が、発光色の異なる複数の発光ドーパントを含有し、白色発光を示すことも好ましい。
白色を示す発光ドーパントの組み合わせについては特に限定はないが、例えば青と橙や、青と緑と赤の組み合わせ等が挙げられる。
本発明の有機EL素子における白色とは、2度視野角正面輝度を前述の方法により測定した際に、1000cd/m2でのCIE1931表色系における色度がx=0.39±0.09、y=0.38±0.08の領域内にあることが好ましい。
(1.1)蛍光発光性ドーパント(蛍光発光性化合物)
本発明に係る蛍光発光性ドーパント(以下、「蛍光発光ドーパント」ともいう)としては、前述の蛍光発光性化合物が用いられる。
(1.2)リン光発光性ドーパント(リン光発光性化合物)
本発明に用いられるリン光発光性ドーパント(以下、「リン光ドーパント」又は「リン光発光性化合物」ともいう。)について説明する。
本発明に用いられるリン光発光性ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光発光性ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
リン光発光性ドーパントは、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。本発明に使用できる公知のリン光発光性ドーパントの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。
Nature 395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.78,1622(2001)、Adv.Mater.19,739(2007)、Chem.Mater.17,3532(2005)、Adv.Mater.17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許出願公開第2006/835469号明細書、米国特許出願公開第2006/0202194号明細書、米国特許出願公開第2007/0087321号明細書、米国特許出願公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.40,1704(2001)、Chem.Mater.16,2480(2004)、Adv.Mater.16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.86,153505(2005)、Chem.Lett.34,592(2005)、Chem.Commun.2906(2005)、Inorg.Chem.42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許出願公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号明細書、米国特許出願公開第2009/0108737号明細書、米国特許出願公開第2009/0039776号明細書、米国特許第6921915号明細書、米国特許第6687266号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2006/0008670号明細書、米国特許出願公開第2009/0165846号明細書、米国特許出願公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許出願公開第2006/0263635号明細書、米国特許出願公開第2003/0138657号明細書、米国特許出願公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号明細書、Angew.Chem.lnt.Ed.47,1(2008)、Chem.Mater.18,5119(2006)、Inorg.Chem.46,4308(2007)、Organometallics 23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許出願公開第2006/0251923号明細書、米国特許出願公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許第7445855号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許出願公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許出願公開第2006/098120号明細書、米国特許出願公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許出願公開第2012/228583号明細書、米国特許出願公開第2012/212126号明細書明細書、特開2012−069737号公報、特願2011−181303号公報、特開2009−114086号公報、特開2003−81988号公報、特開2002−302671号公報、特開2002−363552号公報等である。
中でも、好ましいリン光発光性ドーパントとしてはIrを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属−炭素結合、金属−窒素結合、金属−酸素結合、金属−硫黄結合の少なくとも一つの配位様式を含む錯体が好ましい。
(2)ホスト化合物
(特定ホスト化合物併用)
本発明の有機EL素子の有機発光層には、該蛍光発光性化合物の効果をより高めることができるホスト化合物を用いることが好ましい。
本発明に好ましいホスト化合物としては、少なくとも一つのビアリール構造を有し、ビアリール形成軸の2面角が15°以上70°以下である化学構造を有するホスト化合物である。
本発明においてビアリール構造とは、芳香族環、又は芳香族複素環同士が直接結合している構造である。
本発明に係るホスト化合物は、発光層において主に電荷の注入及び輸送を担う化合物であり、有機EL素子においてそれ自体の発光は実質的に観測されない。
ホスト化合物は、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
ホスト化合物は、単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。
以下に、本発明において好ましく用いられるホスト化合物について述べる。
本発明における蛍光発光性化合物とともに用いられるホスト化合物としては特に制限はないが、逆エネルギー移動の観点から、本発明の蛍光発光材料の励起一重項エネルギーより大きな励起エネルギーをもつものが好ましく、さらに本発明の蛍光発光性化合物の励起三重項エネルギーより大きな励起三重項エネルギーをもつものがより好ましい。
ホスト化合物は、発光層内においてキャリアの輸送及び励起子の生成を担う。そのため、カチオンラジカル状態、アニオンラジカル状態、及び励起状態の全ての活性種の状態において安定に存在でき、分解や付加反応などの化学変化を起こさないこと、さらに、層中において通電経時でホスト化合物分子がオングストロームレベルで移動しないことが好ましい。
また、特に併用する発光ドーパントがTADF発光を示す場合には、TADF発光材料の三重項励起状態の存在時間が長いことから、ホスト化合物自体のT1エネルギーが高いこと、さらにホスト化合物同士が会合した状態で低T1状態を作らないこと、TADF発光材料とホスト化合物とがエキサイプレックスを形成しないこと、ホスト化合物が電界によりエレクトロマーを形成しないことなど、ホスト化合物が低T1化しないような分子構造の適切な設計が必要となる。
このような用件を満たすためには、ホスト化合物自体が電子のホッピング移動性が高いこと、かつ、正孔のホッピング移動が高いこと、三重項励起状態となったときの構造変化が小さいことが必要である。このような要件を満たすホスト化合物の代表格としてカルバゾール骨格、アザカルバゾール骨格、ジベンゾフラン骨格、ジベンゾチオフェン骨格又はアザジベンゾフラン骨格などの、高T1エネルギーを有し、かつ14π電子系の拡張π共役骨格を部分構造として有するものが好ましく挙げられる。さらに、これらの環がビアリール及び/又はマルチアリール構造を取った化合物などが代表例として挙げられる。ここでいう「アリール」とは、芳香族炭化水素環だけでなく芳香族複素環も含む。
より好ましくは、カルバゾール骨格と、カルバゾール骨格とは異なる分子構造を持つ14π電子系の芳香族複素環化合物とが直接結合した化合物であり、さらに14π電子系の芳香族複素環化合物を分子内に二つ以上持つカルバゾール誘導体が好ましい。
また、本発明に係るホスト化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物も好ましい。これは、下記式(I)で表される化合物は、縮環構造を有するためにπ電子雲が広がっておりキャリア輸送性が高く、高いガラス転移温度(Tg)を有するためである。さらに、一般に縮合芳香族環は三重項エネルギー(T1)が小さい傾向があるが、一般式(I)で表される化合物は高いT1を有しており、発光波長の短い(すなわちT1及びS1の大きい)発光材料に対しても好適に用いることができる。
上記一般式(I)において、X101は、NR101、酸素原子、硫黄原子、CR102R103又はSiR102R103を表す。y1〜y8は、各々CR104又は窒素原子を表す。
R101〜R104は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。
Ar101及びAr102は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。
n101及びn102は各々0〜4の整数を表すが、R101が水素原子の場合は、n101は1〜4の整数を表す。
一般式(I)におけるR101〜R104は、水素又は置換基を表し、ここにいう置換基は本発明のホスト化合物の機能を阻害しない範囲で有しても良いものを指し、例えば合成スキーム上置換基が導入されてしまう場合で、本発明の効果を奏する化合物は本発明に包含される旨を規定するものである。
R101〜R104で各々表される置換基としては、例えば、
直鎖又は分岐アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、
アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、
アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、
芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいう。例えば、ベンゼン環、ビフェニル、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−ターフェニル環、m−ターフェニル環、p−ターフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、インデン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環、テトラリン等から導出される基)、
芳香族複素環基(例えば、フラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ジベンゾチオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の一つが更に窒素原子で置換されている環等から導出される基。また、カルボリン環とジアザカルバゾール環を合わせて「アザカルバゾール環」と呼ぶ場合もある。)、
非芳香族炭化水素環基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、
非芳香族複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、
アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、
シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、
アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、
シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、
アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、
アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、
アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、
スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、
アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、
アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、
アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、
カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、
ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、
スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、
アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、
アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、
フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、チオール基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)、重水素原子等が挙げられる。
これらの置換基は上記の置換基によって更に置換されていてもよい。また、これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成していてもよい。
一般式(I)におけるy1〜y8としては、好ましくは、y1〜y4の内の少なくとも三つ、又はy5〜y8の内の少なくとも三つがCR102で表され、より好ましくはy1〜y8が全てCR102である。このような骨格は、正孔輸送性又は電子輸送性に優れ、陽極・陰極から注入された正孔・電子を効率よく発光層内で再結合・発光させることができる。
中でも、LUMOのエネルギー準位が浅く、電子輸送性に優れる構造として、一般式(I)中でX101が、NR′、酸素原子又は硫黄原子である化合物が好ましい。より好ましくは、X101及びy1〜y8とともに形成される縮合環が、カルバゾール環、アザカルバゾール環、ジベンゾフラン環又はアザジベンゾフラン環である。
さらに、ホスト化合物を剛直にすることが好ましいという目的から考え、X101がNR101の場合においては、R101は前述で挙げられた置換基の内、π共役系骨格である芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基であることが好ましい。また、これらのR101は更に前述のR101〜R104で表される置換基で置換されていてもよい。
一般式(I)において、Ar101及びAr102により表される芳香環としては、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が挙げられる。該芳香環は単環でも縮合環でもよく、更に未置換でも、前述のR101〜R104で表される置換基と同様の置換基を有してもよい。
一般式(I)において、Ar101及びAr102により表される芳香族炭化水素環としては、例えば、前述のR101〜R104で表される置換基の例として挙げられた芳香族炭化水素環基と同様の環が挙げられる。
一般式(I)で表される部分構造において、Ar101及びAr102により表される芳香族複素環としては、例えば、前述のR101〜R104で表される置換基の例として挙げられた芳香族複素環基と同様の環が挙げられる。
一般式(I)で表されるホスト化合物が大きなT1を有するという目的を考えた場合には、Ar101及びAr102で表される芳香環自身のT1が高いことが好ましく、ベンゼン環(ベンゼン環が複数連結したポリフェニレン骨格(ビフェニル、テルフェニル、クォーターフェニル等)も含む)、フルオレン環、トリフェニレン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環、ジベンゾフラン環、アザジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、インドロインドール環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イミダゾール環又はトリアジン環等が好ましい。より好ましくはベンゼン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環、ジベンゾフラン環である。
Ar101及びAr102がカルバゾール環又はアザカルバゾール環の場合は、N位(又は9位ともいう。)又は3位で結合していることがより好ましい。
Ar101及びAr102がジベンゾフラン環の場合は、2位又は4位で結合していることがより好ましい。
また、上記の目的とは別に、有機EL素子を車内に積載して使用する用途などを考えた場合においては、車内の環境温度が高くなることが想定されるため、ホスト化合物のTgが高いことも好ましい。そこで、一般式(I)で表されるホスト化合物を高Tg化するという目的から、Ar1及びAr2により表される芳香環としては、各々3環以上の縮合環が好ましい一態様である。
3環以上が縮合した芳香族炭化水素縮合環としては、具体的には、ナフタセン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ヘキサセン環、フェナントレン環、ピレン環、ベンゾピレン環、ベンゾアズレン環、クリセン環、ベンゾクリセン環、アセナフテン環、アセナフチレン環、トリフェニレン環、コロネン環、ベンゾコロネン環、ヘキサベンゾコロネン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、フルオランテン環、ペリレン環、ナフトペリレン環、ペンタベンゾペリレン環、ベンゾペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピラントレン環、コロネン環、ナフトコロネン環、オバレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。なお、これらの環は、更に上記の置換基を有していてもよい。
また、3環以上が縮合した芳香族複素環としては、具体的には、アクリジン環、ベンゾキノリン環、カルバゾール環、カルボリン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、カルボリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭素原子の任意の一つが窒素原子で置き換わったものを表す)、フェナントロリン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、チオファントレン環(ナフトチオフェン環)等が挙げられる。なお、これらの環は更に置換基を有していてもよい。
一般式(I)において、n101及びn102は各々0〜2であることが好ましく、より好ましくはn101+n102が1〜3である。また、R101が水素原子の場合にn101及びn102が同時に0であると、一般式(I)で表されるホスト化合物の分子量が小さく低いTgしか達成できないため、R101が水素原子の場合にはn101は1〜4を表す。
本発明においては、特に、ジベンゾフラン環とカルバゾール環をともに有するホスト化合物が好ましい。
本発明に係るホスト化合物として、前記一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(II)で表される化合物であることが好ましい。このような化合物は、特にキャリア輸送性に優れる傾向があるためである。
一般式(II)において、X101、Ar101、Ar102、n102は、前記一般式(I)におけるX101、Ar101、Ar102、n102と同義である。
n102は好ましくは0〜2であり、より好ましくは0又は1である。
一般式(II)において、X101を含んで形成される縮合環は、Ar101及びAr102以外にも本発明のホスト化合物の機能を阻害しない範囲でさらに置換基を有しても良い。
さらに、一般式(II)で表される化合物が下記一般式(III−1)、(III−2)又は(III−3)で表されることが好ましい。
一般式(III−1)〜(III−3)において、X101、Ar102、n102は、前記一般式(II)におけるX101、Ar102、n102と同義である。
一般式(III−1)〜(III−3)において、X101を含んで形成される縮合環、カルバゾール環及びベンゼン環は、本発明のホスト化合物の機能を阻害しない範囲でさらに置換基を有しても良い。
以下に、本発明に係るホスト化合物として、一般式(I)、(II)、(III−1)、(III−2)及び(III−3)で表される化合物及びその他の構造からなる化合物例を示すが、これらに限定されるものではない。
本発明に用いられる好ましいホスト化合物は、昇華精製が可能な程度の分子量をもった低分子化合物であっても、繰り返し単位を有するポリマーであってもよい。
低分子化合物の場合、昇華精製が可能であるため精製が容易で、高純度の材料を得やすいという利点がある。分子量としては、昇華精製が可能な程度であれば特に制限はないが、好ましい分子量としては3000以下、より好ましくは2000以下である。
繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーの場合は、ウェットプロセスで成膜しやすいという利点があり、また一般にポリマーはTgが高いため耐熱性の点でも好ましい。本発明のホスト化合物として用いられるポリマーは、所望の素子性能が達成可能であれば特に制限はないが、好ましくは一般式(I)、(II)、(III−1)〜(III−3)の構造を主鎖若しくは側鎖に有するものが好ましい。分子量としては特に制限はないが、分子量5000以上が好ましく、若しくは繰り返し単位数が10以上のものが好ましい。
また、ホスト化合物は、正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、さらに、有機EL素子を高温駆動時や素子駆動中の発熱に対して安定して動作させる観点から、高いガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。好ましくはTgが90℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
また、本発明においては、併用するホスト化合物はビアリール以上のマルチアリール構造からなっていて、その任意のビアリール形成軸の2面角が15°以上、より好ましくは70°以下であることが好ましい。
これは、本発明の蛍光発光性化合物の微弱な分子内水素結合が、平面性の高いホスト化合物を用いると、平面性の高い部位同士で相互作用し、発光材料の水素結合が阻害される可能性があるためである。
また、本発明の蛍光発光性化合物は分子内水素結合を有する平面性の高い化合物であるため、平面性の高いホスト化合物を用いると、蛍光発光性化合物との間、若しくは同分子間で凝集が起こりやすくなると推測される。一般に発光層はキャリア輸送性などの点からアモルファス状、かつ発光ドーパントが均一に分散されていることが好ましいため、このような凝集はできるだけ抑制する必要がある。
また、平面性の高い部位同士で望ましくない強い相互作用が生じることによって、新しい低エネルギー成分が生じ、これらがキャリアや励起子のトラップサイトとして働き、望ましくない低エネルギーの発光や発光効率の低下を引き起こす可能性も高い。
そこで、ホスト化合物の任意のビアリール形成軸の2面角を15°以上、好ましくは70°以下にすることによって、ホスト化合物にねじれ構造を持たせ、ホスト化合物同士、若しくはホスト化合物とドーパント同士の凝集を抑え、ドーパントが均一に分散された望ましい発光層を得ることが可能となる。
《電子輸送層》
本発明において電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明の電子輸送層の総膜厚については特に制限はないが、通常は2nm〜5μmの範囲であり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。
また、有機EL素子においては発光層で生じた光を電極から取り出す際、発光層から直接取り出される光と、光を取り出す電極と対極に位置する電極によって反射されてから取り出される光とが干渉を起こすことが知られている。光が陰極で反射される場合は、電子輸送層の総膜厚を数nm〜数μmの間で適宜調整することにより、この干渉効果を効率的に利用することが可能である。
一方で、電子輸送層の膜厚を厚くすると電圧が上昇しやすくなるため、特に膜厚が厚い場合においては、電子輸送層の電子移動度は10−5cm2/Vs以上であることが好ましい。
電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という。)としては、電子の注入性又は輸送性、正孔の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、含窒素芳香族複素環誘導体(カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等)、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体、芳香族炭化水素環誘導体(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン等)等が挙げられる。
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
また、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
本発明に係る電子輸送層においては、電子輸送層にドープ材をゲスト材料としてドープして、n性の高い(電子リッチ)電子輸送層を形成してもよい。ドープ材としては、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントが挙げられる。このような構成の電子輸送層の具体例としては、例えば、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等の文献に記載されたものが挙げられる。
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい電子輸送材料の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
米国特許第6528187号明細書、米国特許第7230107号明細書、米国特許出願公開第2005/0025993号明細書、米国特許出願公開第2004/0036077号明細書、米国特許出願公開第2009/0115316号明細書、米国特許出願公開第2009/0101870号明細書、米国特許出願公開第2009/0179554号明細書、国際公開第2003/060956号、国際公開第2008/132085号、Appl.Phys.Lett.75,4(1999)、Appl.Phys.Lett.79,449(2001)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.79,156(2001)、米国特許第7964293号明細書、米国特許出願公開第2009/030202号明細書、国際公開第2004/080975号、国際公開第2004/063159号、国際公開第2005/085387号、国際公開第2006/067931号、国際公開第2007/086552号、国際公開第2008/114690号、国際公開第2009/069442号、国際公開第2009/066779号、国際公開第2009/054253号、国際公開第2011/086935号、国際公開第2010/150593号、国際公開第2010/047707号、欧州特許第2311826号明細書、特開2010−251675号公報、特開2009−209133号公報、特開2009−124114号公報、特開2008−277810号公報、特開2006−156445号公報、特開2005−340122号公報、特開2003−45662号公報、特開2003−31367号公報、特開2003−282270号公報、国際公開第2012/115034号等である。
本発明におけるよりより好ましい電子輸送材料としては、少なくとも一つの窒素原子を含む芳香族複素環化合物が挙げられ、例えばピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、アザジベンゾフラン誘導体、アザジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体などが挙げられる。
電子輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
《正孔阻止層》
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する層であり、好ましくは電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が小さい材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子に設ける正孔阻止層は、発光層の陰極側に隣接して設けられることが好ましい。
本発明に係る正孔阻止層の膜厚としては、好ましくは3〜100nmの範囲であり、更に好ましくは5〜30nmの範囲である。
正孔阻止層に用いられる材料としては、前述の電子輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も正孔阻止層に好ましく用いられる。
《電子注入層》
本発明に係る電子注入層(「陰極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されている。
本発明において電子注入層は必要に応じて設け、上記のように陰極と発光層との間、又は陰極と電子輸送層との間に存在させてもよい。
電子注入層はごく薄い膜であることが好ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1〜5nmの範囲が好ましい。また構成材料が断続的に存在する不均一な膜であってもよい。
電子注入層は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、電子注入層に好ましく用いられる材料の具体例としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等に代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等に代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される金属酸化物、リチウム8−ヒドロキシキノレート(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。また、前述の電子輸送材料を用いることも可能である。
また、上記の電子注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
《正孔輸送層》
本発明において正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する材料からなり、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明の正孔輸送層の総膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲であり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。
正孔輸送層に用いられる材料(以下、正孔輸送材料という)としては、正孔の注入性又は輸送性、電子の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、及びポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えばPEDOT:PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
トリアリールアミン誘導体としては、α−NPDに代表されるベンジジン型や、MTDATAに代表されるスターバースト型、トリアリールアミン連結コア部にフルオレンやアントラセンを有する化合物等が挙げられる。
また、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
さらに不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料やp型−Si、p型−SiC等の無機化合物を用いることもできる。さらにIr(ppy)3に代表されるような中心金属にIrやPtを有するオルトメタル化有機金属錯体も好ましく用いられる。
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、アザトリフェニレン誘導体、有機金属錯体、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー等が好ましく用いられる。
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい正孔輸送材料の具体例としては、上記で挙げた文献の他、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
例えば、Appl.Phys.Lett.69,2160(1996)、J.Lumin.72−74,985(1997)、Appl.Phys.Lett.78,673(2001)、Appl.Phys.Lett.90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.51,913(1987)、Synth.Met.87,171(1997)、Synth.Met.91,209(1997)、Synth.Met.111,421(2000)、SID Symposium Digest,37,923(2006)、J.Mater.Chem.3,319(1993)、Adv.Mater.6,677(1994)、Chem.Mater.15,3148(2003)、米国特許出願公開第2003/0162053号明細書、米国特許出願公開第2002/0158242号明細書、米国特許出願公開第2006/0240279号明細書、米国特許出願公開第2008/0220265号明細書、米国特許第5061569号明細書、国際公開第2007/002683号、国際公開第2009/018009号、欧州特許第650955号明細書、米国特許出願公開第2008/0124572号明細書、米国特許出願公開第2007/0278938号明細書、米国特許出願公開第2008/0106190号明細書、米国特許出願公開第2008/0018221号明細書、国際公開第2012/115034号、特表2003−519432号公報、特開2006−135145号公報、米国特許出願公開第2013/49576号等である。
正孔輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
《電子阻止層》
電子阻止層とは、広い意味では正孔輸送層の機能を有する層であり、好ましくは正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する正孔輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係る電子阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子に設ける電子阻止層は、発光層の陽極側に隣接して設けられることが好ましい。
本発明に係る電子阻止層の膜厚としては、好ましくは3〜100nmの範囲であり、更に好ましくは5〜30nmの範囲である。
電子阻止層に用いられる材料としては、前述の正孔輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も電子阻止層に好ましく用いられる。
《正孔注入層》
本発明に係る正孔注入層(「陽極バッファー層」ともいう。)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されている。
本発明において正孔注入層は必要に応じて設け、上記のように陽極と発光層又は陽極と正孔輸送層との間に存在させてもよい。
正孔注入層は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に用いられる材料としては、例えば前述の正孔輸送層に用いられる材料等が挙げられる。
中でも銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003−519432や特開2006−135145等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が好ましい。
前述の正孔注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
《添加物》
前述した本発明における有機層は、更に他の添加物が含まれていてもよい。
添加物としては、例えば臭素、ヨウ素及び塩素等のハロゲン元素やハロゲン化化合物、Pd、Ca、Na等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属の化合物や錯体、塩等が挙げられる。
添加物の含有量は、任意に決定することができるが、含有される層の全質量%に対して1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。
ただし、電子や正孔の輸送性を向上させる目的や、励起子のエネルギー移動を有利にするための目的などによってはこの範囲内ではない。
《有機層の形成方法》
本発明の有機層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等)の形成方法について説明する。
本発明の有機層の形成方法は、特に制限はなく、従来公知の例えば真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう)等による形成方法を用いることができる。
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)等があるが、均質な薄膜が得られやすく、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法などのロール・ツー・ロール方式適性の高い方法が好ましい。
本発明に係る有機EL材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
更に層ごとに異なる製膜法を適用してもよい。製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6〜10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚0.1nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
本発明における有機層の形成は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる製膜法を施しても構わない。その際は作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上、好ましくは4.5V以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウム・スズ酸化物(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。
陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
《陰極》
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
[支持基板]
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名 JSR社製)あるいはアペル(商品名 三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度90±2%RH)が0.01g/(m2・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10−3ml/m2・24h・atm以下、水蒸気透過度が、1×10−5g/m2・24h以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
バリア膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
本発明の有機EL素子の発光の室温(25℃)における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
ここで、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を、蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。
[封止]
本発明の有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に限定されない。
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムはJIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/m2・24h以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度90±2%)が、1×10−3g/m2・24h以下のものであることが好ましい。
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。
さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
[保護膜、保護板]
有機層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜あるいは前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために、保護膜あるいは保護板を設けてもよい。特に、封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
[光取り出し向上技術]
有機EL素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率1.6〜2.1程度の範囲内)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的にいわれている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として、光が素子側面方向に逃げるためである。
この光取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(例えば、米国特許第4774435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(例えば、特開昭63−314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(例えば、特開平1−220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(例えば、特開昭62−172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(例えば、特開2001−202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11−283751号公報)などが挙げられる。
本発明においては、これらの方法を本発明の有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、あるいは基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
本発明は、これらの手段を組み合わせることにより、更に高輝度あるいは耐久性に優れた素子を得ることができる。
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚さで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど、外部への取り出し効率が高くなる。
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマーなどが挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5〜1.7程度の範囲内であるので、低屈折率層は、屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。またさらに1.35以下であることが好ましい。
また、低屈折率媒質の厚さは、媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは、低屈折率媒質の厚さが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
全反射を起こす界面又は、いずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は、回折格子が1次の回折や、2次の回折といった、いわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち、層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間、若しくは媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
回折格子を導入する位置としては、いずれかの層間、若しくは媒質中(透明基板内や透明電極内)でも良いが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。このとき、回折格子の周期は、媒質中の光の波長の約1/2〜3倍程度の範囲内が好ましい。回折格子の配列は、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状など、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
[集光シート]
本発明の有機EL素子は、支持基板(基板)の光取出し側に、例えばマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工したり、あるいは、いわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10〜100μmの範囲内が好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
集光シートとしては、例えば液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)などを用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であっても良い。
また、有機EL素子からの光放射角を制御するために光拡散板・フィルムを、集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)などを用いることができる。
[用途]
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。
発光光源として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタ社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
また、本発明の有機EL素子が白色素子の場合には、白色とは、2度視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/m2でのCIE1931表色系における色度がX=0.33±0.07、Y=0.33±0.1の領域内にあることをいう。
<表示装置>
本発明の表示装置は、本発明の有機EL素子を具備したものである。本発明の表示装置は単色でも多色でもよいが、ここでは多色表示装置について説明する。
多色表示装置の場合は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法又は印刷法等で膜を形成できる。
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法及び印刷法である。
表示装置に具備される有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の有機EL素子の構成例の中から選択される。
また、有機EL素子の製造方法は、上記の本発明の有機EL素子の製造の一態様に示したとおりである。
このようにして得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ又は各種発光光源として用いることができる。表示デバイス又はディスプレイにおいて、青、赤及び緑発光の3種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
表示デバイス又はディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示及び自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
発光光源としては、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
以下、本発明の有機EL素子を有する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
図2は有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
ディスプレイ1は複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B、表示部Aと制御部Bとを電気的に接続する配線部C等を有する。
制御部Bは表示部Aと配線部Cを介して電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線ごとの画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
図3はアクティブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部Cと複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
図3においては、画素3の発光した光が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示していない)。
画素3は走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。
発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
次に、画素の発光プロセスを説明する。図4は画素の回路を示した概略図である。
画素は、有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサー13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色及び青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
図4において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサー13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
画像データ信号の伝達により、コンデンサー13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサー13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。
すなわち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
ここで、有機EL素子10の発光は複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサー13の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
図5は、パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。図5において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子が無く、製造コストの低減が計れる。
本発明の有機EL素子を用いることにより、発光効率が向上した表示装置が得られた。
<照明装置>
本発明の照明装置について説明する。本発明の照明装置は上記有機EL素子を有する。
本発明の有機EL素子は、共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよい。このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
また、本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、パッシブマトリクス方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。又は、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を2種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
また、本発明のTADF化合物及びリン光発光性金属錯体は、照明装置として、実質的に白色の発光を生じる有機EL素子に適用できる。複数の発光材料(TADF化合物及びリン光発光性金属錯体)により複数の発光色を同時に発光させて、混色することで白色発光を得ることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、赤色、緑色及び青色の3原色の三つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した二つの発光極大波長を含有したものでもよい。
また、本発明の有機EL素子の形成方法は、発光層、正孔輸送層あるいは電子輸送層等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分ける等単純に配置するだけでよい。他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法及び印刷法等で、例えば、電極膜を形成でき、生産性も向上する。
この方法によれば、複数色の発光素子をアレー状に並列配置した白色有機EL装置と異なり、素子自体が発光白色である。
[本発明の照明装置の一態様]
本発明の有機EL素子を具備した、本発明の照明装置の一態様について説明する。
本発明の有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、図6及び図7に示すような照明装置を形成することができる。
図6は、照明装置の概略図を示し、本発明の有機EL素子101はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
図7は、照明装置の断面図を示し、図7において、105は陰極、106は有機層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
本発明の有機EL素子を用いることにより、発光効率が向上した照明装置が得られた。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
また、各実施例における化合物の体積%は、作製する層厚を水晶発振子マイクロバランス法により測定し、質量を算出することで、比重から求めている。
[実施例1]
(有機EL素子1−1の作製)
50mm×50mm、厚さ0.7mmのガラス基板上に、陽極としてITO(インジウム・スズ酸化物)を150nmの厚さで製膜し、パターニングを行った後、このITO透明電極を付けた透明基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った後、この透明基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を、各々素子作製に最適の量を充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製又はタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
真空度1×10−4Paまで減圧した後、下記に示すα−NPDの入った蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒でITO透明電極上に蒸着し、層厚30nmの正孔注入輸送層を形成した。
次いで、ホスト化合物H−159の入った蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で正孔注入輸送層上に蒸着し、層厚10nmの中間層を形成した。
次いで、ホスト化合物H−159、蛍光発光性化合物として、下記に示す化合物D−1を、それぞれ95%、5%の体積%になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、層厚35nmの発光層を形成した。
その後、上記TPBiを蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、層厚50nmの電子輸送層を形成した。さらに、フッ化リチウムを膜厚0.8nmで蒸着した後に、アルミニウム100nmを蒸着して陰極を形成した。
上記素子の非発光面側を、純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下で、缶状ガラスケースで覆い、電極取り出し配線を設置して、有機EL素子1−1を作製した。
(有機EL素子1−2〜1−11の作製)
有機EL素子1−1の蛍光発光性化合物D−1の代わりに、上記D−2〜D−4、及び、本発明の蛍光発光性化合物に同質量で置き換えて、有機EL素子1−2〜1−11を作製した。
<評価>
作製した有機EL素子の評価は以下のように行った。
(発光輝度の測定)
上記で作製した各有機EL素子を、室温(約25℃)で、2.5mA/cm2の定電流条件下で発光させ、発光開始直後の発光輝度を、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。
次いで、有機EL素子1−1の発光輝度を100とした相対発光輝度を求め、これを発光効率(外部量子効率)の尺度とした。数値が大きいほど、発光効率に優れていることを表す。
(初期駆動電圧の測定)
各サンプルに対し、室温(約25℃)で、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタ社製)を用いて、各サンプルの発光輝度を測定し、発光輝度1000cd/m2における初期駆動電圧を求めた。求めた結果を表1に示す。
なお、表1では、有機EL素子1−1の初期駆動電圧を100として、有機EL素子1−2〜1−11の初期駆動電圧を相対値で示している。表中、数値が小さいほど、初期駆動電圧が低いことを表す。
(連続駆動安定性(半減寿命)の評価)
各サンプルを半径5cmの円柱に巻きつけ、その後各サンプルを折り曲げた状態で連続駆動させ、上記分光放射輝度計CS−2000を用いて輝度を測定し、測定した輝度が半減する時間(LT50)を求めた。駆動条件は、連続駆動開始時に4000cd/m2となる電流値とした。
有機EL素子1−1のLT50を100とした相対値を求め、これを連続駆動安定性の尺度とした。その評価結果を表1に示す。表中、数値が大きいほど、連続駆動安定性に優れている(長寿命である)ことを表す。
(有機EL素子駆動前後の抵抗値の変化率)
「薄膜の評価ハンドブック」テクノシステム社刊423ページ〜425ページに記載の測定方法を参考に、Solartron社製1260型インピーダンスアナライザ及び1296型誘電体インターフェースを使って、作製した有機EL素子の発光層のバイアス電圧1Vにおける抵抗値の測定を行った。
有機EL素子を室温(25℃)、2.5mA/cm2の定電流条件下により1000時間駆動した後の駆動前後の発光層の抵抗値を各々測定し、測定結果を下記に示した計算式により計算し抵抗値の変化率を求めた。表1には有機EL素子1−1の抵抗値の変化率を100としたときの相対比率を記載した。
駆動前後の抵抗値の変化率=|(駆動後の抵抗値/駆動前の抵抗値)−1|×100
値が0に近い方が駆動前後の変化率が小さいことを示す。
(効果)
表1に示した結果から有機EL素子1−5〜1−11の本発明の有機EL素子は、有機EL素子1−1〜1−4の比較例の素子に比べ、発光輝度が相対的に高い。TADF化合物についてその発光輝度を上げるには、一重項励起状態と三重項励起状態の差、ΔEstが小さくすることがAdachiらの論文「応用物理,82,458,(2013)」により指摘されている。同表の本発明素子と比較素子のΔEstを比較すると分かるように、本発明素子のΔEstが比較例の素子のそれに比べ、小さいことが分かる。したがって、このことが本発明素子において発光輝度が高くなる原因と考えられる。また、本発明素子は、比較例の素子に比べ、初期駆動電圧、及び、発光層抵抗値の変化率が低く、半減寿命は高い。この理由は、本発明の有機EL素子で使用しているドーパントが、その内部で水素結合を形成し、分子全体が剛直になることにより、内部置換基の回転運動が抑制され、結果、膜の体積増加が抑えられるためであると考えられる。
以上より、本発明の有機EL素子は、比較例の有機EL素子に比べて、発光強度、発光輝度、初期駆動電圧に優れ、通電経時での半減寿命及び薄膜の抵抗値変化において優れたものであることが確認できた。
[実施例2]
(有機EL素子2−1〜2−4の作製)
実施例1の有機EL素子1−1において、電子輸送層の化合物をBCPに変更し、表2に示すように、蛍光発光性化合物を8−1、ホスト化合物をH−3、H−231、H−211、H−209とする有機EL素子2−1〜2−4を作製した。また、蛍光発光性化合物をD−2、ホスト化合物をH−3とする比較の有機EL素子2−5を同様に作製した。
実施例1と同じ評価を行った結果を表2に示す。なお、表2では、有機EL素子2−1の発光輝度、初期駆動電圧、半減寿命、発光層の抵抗値の変化率のそれぞれを100としたときの相対値で示している。
(効果)
表2に示した結果から有機EL素子2−1〜2−4は、有機EL素子2−5に比べ、発光輝度が高い。この理由は表1の(効果)と同様、本発明素子のΔEstが比較例のそれに比べ、小さいためと考えられる。また、本発明素子は、比較例の素子に比べ、初期駆動電圧、及び発光層抵抗値の変化率が低く、半減寿命は高い。この理由も表1と同様、本発明の有機EL素子で使用しているドーパントが、その内部で水素結合を形成し、分子全体が剛直になることにより、内部置換基の回転運動が抑制され、結果、膜の体積増加が抑えられるためであると考えられる。
また、表2は、アリールやマルチアリール構造のみを有する化合物(H−3)の素子に比べ、内部にカルバゾールを有する化合物(H−231、H−211、H−209)の素子の方が、発光性能がよいことを示す。またこの表は、内部にカルバゾールを有する化合物の中でも、カルバゾールと14π電子系分子が直接結合した化合物や、カルバゾール誘導体の発光性能が特によいことも示す。これらのことにおいて、カルバゾールと14π電子系分子が直接結合した化合物や、カルバゾール誘導体の発光性能がよくなることの理由としては、これらの三重項励起エネルギーが、H−3、H−231、及び、ドーパントのそれに比べて高くなるために電子・正孔ホッピング移動性が高くなること、さらには三重項励起状態になるときの構造変化が小さくなることが挙げられる。
以上より、本発明の有機EL素子は、比較例の有機EL素子に比べて、発光強度、発光輝度、初期駆動電圧に優れ、通電経時での半減寿命及び薄膜の抵抗値変化において優れたものであることが確認できた。