JP5994623B2 - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

この発明は、例えば、鋼や鋳鉄等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性および耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Alで示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が良く知られている。
そして、上記の従来被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の構造についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1に示すように、超硬合金、サーメットからなる工具基体表面にAl層を被覆形成した被覆工具において、該Al層にクーリングクラックを発生させず、(110)結晶成長配向を有する集合組織として形成することにより、耐フレーキング性を高めることが提案されている。
また、特許文献2、3に示すように、超硬合金、サーメットからなる工具基体表面にAlとTiの複合窒化物層またはAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を形成するとともに、該層についてEBSDによる結晶方位解析を行った場合、表面研磨面の法線方向から0〜15度の範囲内に結晶方位<100>を有する結晶粒の面積割合が50%以上、また、表面研磨面の法線と直交する任意の方位に対して0〜54度の範囲内に存在する最高ピークを中心とした15度の範囲内に結晶方位<100>を有する結晶粒の面積割合が50%以上であるような2軸結晶配向性を形成することによって、重切削加工における硬質被覆層の耐欠損性を改善することが提案されている。
特開平7−216549号公報 特開2008−100320号公報 特開2008−188734号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあるが、上記従来の被覆工具においては、特にこれを厳しい切削条件の高速断続切削、すなわち、高熱発生を伴うとともに、切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削で用いると、上部層のAl層は、高温強度、靭性が十分とはいえないため、切刃部にチッピングが発生しやすく、これが原因で、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、被覆工具の硬質被覆層の耐チッピング性向上をはかるとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮させるべく、上部層を構成するAl結晶粒の方位形態、方位割合等について着目し、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層として、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物TiCO)層および炭窒酸化(TiCNO)物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層を、また、上部層として、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(Al)層を蒸着形成するにあたり、Ti化合物層からなる下部層を形成した後、この上に、例えば、特定の初期被覆条件でAlの核を形成し、ついで、該Al核表面に通常条件でAl層を蒸着形成すると、蒸着形成された上部層のAl層には、特異な方位形態、方位割合を有するAl結晶粒が形成されることを見出したのである。
つまり、特定の初期被覆条件でAlの核を形成した後、通常条件でAlを蒸着形成したAl結晶粒について、表面研磨面(基体表面)の法線(以下、「Z」で示す。)に対して、(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定し、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最大ピークが存在するとともに、0〜10度の度数割合は全体の45%以上となること、さらに、表面研磨面(基体表面)の法線Zと直交する任意の方向(以下、「X」で示す。)、及び、上記ZとXの何れにも直交する方向(以下、「Y」で示す。)に対して、(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、それぞれの傾斜角度数分布グラフに最大ピークが存在し、かつ、最大ピークを中心とした±5度の範囲内に存在する度数割合は45%以上であり、さらに、XとYについて作成した傾斜角度数分布グラフの最大ピークが存在する傾斜角区分の角度差は±5度以内であることを見出したのである。
そして、このような方位形態を有する上部層、即ち、Al結晶粒の(0001)軸が、基体表面と平行な面内において恰もほぼ90度回転した方位形態を有する結晶粒組織からなる上部層、を備えた本発明の被覆工具は、高熱発生を伴い、切刃に断続的、衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合でも、上部層に発生したクラックが面内を伝播する際に、上記結晶粒組織の界面で停止させられ、その結果、クラックの伝播・進展が抑制され、すぐれた耐チッピング性を発揮するのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線(Z)に対して、前記結晶粒の結晶面である(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最大ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占め、
(d)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線(Z)に直交する任意の方向(X)に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、傾斜角度数分布グラフに最大ピークが存在し、さらに、該最大ピークの存在する傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占め、
(e)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線(Z)に直交し、かつ、表面研磨面の法線(Z)に直交する任意の方向(X)にも直交する方向(Y)に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、傾斜角度数分布グラフに最大ピークが存在し、さらに、該最大ピークの存在する傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占め、
(f)上記(d)における最大ピークが存在する傾斜角区分と、上記(e)における最大ピークが存在する傾斜角区分との角度差は、±5度以内であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について、より具体的に説明する。
Ti化合物層(下部層):
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl23層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
Al層(上部層):
Al層は、一般的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができない。一方、工具寿命の延命化を図るため、その平均層厚25μmまでの厚層化は可能であるが、平均層厚が25μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜25μmと定めた。
本発明による、特異な結晶方位形態、方位割合を示す結晶粒組織からなるAl層からなる上部層は、例えば、以下に示す蒸着形成方法によって蒸着形成することができる。
即ち、Ti化合物層からなる下部層を通常の化学蒸着法で形成した後、該下部層の上に、例えば、通常の化学蒸着装置を用いて、
≪第1段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 1.0〜3.0%、CO 1.0〜3.0%、HCl 1.0〜3.0%、残りH
反応雰囲気温度:870〜900℃、
反応雰囲気圧力:3〜7kPa、
の条件(Al核形成条件という)で、20〜40分間Al核を形成する。
≪第2段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 1.0〜3.0%、残りH
反応雰囲気温度:1000〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜7kPa、
の条件(アルミニウムエッチング条件という)で、10〜30分間アルミニウムエッチング処理を施す。
≪第3段階≫
反応ガス組成(容量%):AlCl 2〜4%、CO 5〜8%、HCl 2〜4%、HS 0.3〜1.0%、残りH
反応雰囲気温度:1000〜1050℃、
反応雰囲気圧力:5〜10kPa、
の条件(二次蒸着形成条件という)で、目標上部層厚になるまでAlを蒸着形成する。
上記の3段階で、Alを蒸着形成することによって、特異な方位形態、方位割合を有するAl層からなる上部層を形成することができる。
なお、上記3段階でのAlの蒸着形成によって、特異な方位形態、方位割合が形成される機構は未だ解明されていないが、第1段階におけるAl核形成と第2段階におけるアルミニウムエッチング処理によって、安定粒界形成のため結晶粒の相互回転が起こるものと考えられる。
そして、この上部層は、図1に示すように、表面研磨面の法線(図1に、「Z」で示す。)に対して、Al結晶粒の結晶面である(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定した場合、また、表面研磨面の法線Zと直交する任意の方向(図1に、「X」で示す。)に対して、Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定した場合、さらに、表面研磨面の法線Zに直交し、同時に、法線Xにも直交する法線(図1に、「Y」で示す。)に対して、Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定した場合のいずれの場合でも、特異な方位形態、方位割合を示す。
まず、Al層からなる上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線Z(図1のZ参照)に対して、前記結晶粒の結晶面である(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、図2に示すように、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最大ピーク(図2では、1.50〜1.75度)が存在すると共に、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合となる。
本発明では、表面研磨面の法線Zに対して、Al結晶粒の(11−20)面の法線なす傾斜角が0〜10度の範囲内にある度数割合が45%以上であるから、(11−20)面の具備する優れた高温靱性を発揮し、十分な耐チッピング性を具備する。
なお、この度数割合が45%未満である場合には、十分に高温靱性を発揮することができず、その結果優れた耐チッピング性を発揮することができない。
したがって、本発明では、表面研磨面の法線Zに対して、Al結晶粒の(11−20)面の法線なす傾斜角が0〜10度の範囲内にある度数割合を45%以上とした。
次に、同じく、Al層からなる上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、法線Zに直交する任意の方向X(図1のX参照)に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、図3に示すように、傾斜角度数分布グラフに最大ピーク(図3では、15.00〜15.25度)が形成される。
さらに、該最大ピークが形成される傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合となる。
上記度数割合が45%未満であると後述のY方向についての傾斜角度数分布グラフに現れる最大ピークを形成する結晶組織に対し、結晶方位が直交する結晶組織が十分な頻度で存在しないため、結晶粒組織間でのクラック伝播を抑止する効果が十分に発揮することができない。
したがって、本発明では、X方向についての傾斜角度数分布グラフにおいて形成される最大ピークを中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計を、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上と定めた。
さらに、同じく、Al層からなる上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線Zに直交すると同時に、法線Zに直交する任意の方向Xとも直交する方向Y(図1のY参照)に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、図4に示すように、傾斜角度数分布グラフに最大ピーク(図4では、17.00〜17.25度)が形成される。
さらに、該最大ピークが形成される傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合となる。
上記度数割合が45%未満であると前述のX方向についての傾斜角度数分布グラフに現れる最大ピークを形成する結晶組織に対し、結晶方位が直交する結晶組織が十分な頻度で存在しないため、結晶粒組織間でのクラック伝播を抑止する効果が十分に発揮することができない。
したがって、本発明では、Y方向についての傾斜角度数分布グラフにおいて形成される最大ピークを中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計を、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上と定めた。
また、方向Xについての傾斜角度数分布グラフにおける最大ピークの傾斜角区分(図3によれば、15.00〜15.25度)と、方向Yについての傾斜角度数分布グラフにおける最大ピークの傾斜角区分(図4によれば、17.00〜17.25度)との角度差は、±5度の範囲内とする。
これは、即ち、本発明の被覆工具のAl層からなる上部層の表面研磨面(基体表面)と平行な面内においては、Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線方向が恰もほぼ90度回転した方位形態を有する結晶粒組織から構成されるためである。
そして、本発明の被覆工具は、上部層がこのような方位形態を有する結晶粒組織からなっていることによって、すぐれた高温強度と靭性を備えるとともに、層内に発生したクラックの伝播・進展が抑制されるので、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するのである。
硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層とAl層からなる上部層を蒸着形成したこの発明の被覆工具は、上部層のAl層が、表面研磨面(基体表面)の法線Zに対して、Al結晶粒の(11−20)面の法線が特定の方位形態、方位割合を有し、また、表面研磨面の法線Zに直交する表面研磨面(基体表面)内の任意の方向Xに対して、Al結晶粒の(0001)面の法線が特定の方位形態、方位割合を有し、さらに、法線Zに直交すると同時に方向Xにも直交する方向する表面研磨面(基体表面)内の方向Yに対して、特定の方位形態、方位割合を有することから、上部層は、すぐれた高温硬さ、高温強度及び靭性を備えるとともに、クラックの伝播・進展を抑制することができるので、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、長期の使用に亘って、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するのである。
硬質被覆層の上部層を構成するAl結晶粒の(11−20)面の法線、(0001)面の法線の傾斜角を測定する際の基準方位(Z、X、Y)の概略説明図である。 本発明被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成するAl結晶粒について、表面研磨面(基体表面)の法線Zに対する、(11−20)面の法線の傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフの一例を示す。 本発明被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成するAl結晶粒について、表面研磨面(基体表面)の法線Zに直交する任意の方向Xに対する(0001)面の法線の傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフの一例を示す。 本発明被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成するAl結晶粒について、表面研磨面(基体表面)の法線Zに直交し、かつ、方向Xにも直交する方向Yに対する(0001)面の法線の傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフの一例を示す。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Dをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜dを形成した。
つぎに、これらの工具基体A〜Dおよび工具基体a〜dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、硬質被覆層の下部層として、表3に示される条件で、かつ、表5に示される組み合わせ及び目標層厚でTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、上部層としてのAl層を、表4に示される条件にて、かつ、表6に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、硬質被覆層の下部層として、表3に示される条件で、かつ、表5に示される組み合わせ及び目標層厚で、本発明被覆工具1〜13と同じTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、上部層としてのAl層を、表4に示される条件にて、かつ、表7に示される目標層厚で蒸着形成することにより、
比較例被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具と比較例被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成するAl層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用いて、傾斜角度数分布測定を行った。
まず、傾斜角度数分布測定は、上部層のAl層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線Zに対して、前記結晶粒の結晶面である(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する傾斜角度数分布グラフを作成した。
そして、この傾斜角度数分布グラフから、最大ピークが存在する傾斜角区分を求め、また、0〜10度の傾斜角区分に存在する度数割合(傾斜角度数分布グラフ全体の度数に対する0〜10度の傾斜角区分に存在する度数の合計の割合)を求めた。
表6、表7に、これらの値を示す。
また、図2に、本発明被覆工具1について作成した傾斜角度数分布グラフを示す。
ついで、前記同様、表面研磨面の法線Zに直交する方向Xに対して、Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する傾斜角度数分布グラフを作成した。
そして、この傾斜角度数分布グラフから、最大ピークが存在する傾斜角区分を求め、また、最大ピークが存在する傾斜角区分の±5度の範囲の傾斜角区分に存在する度数割合を求めた。
ここで、最大ピークが存在する傾斜角区分の±5度の範囲とは、例えば、最大ピークが15.00−15.25度の傾斜角区分に存在した場合、10.00−20.00度の傾斜角区分範囲を最大ピークが存在する傾斜角区分の±5度の範囲とした。
また、Xにおける最大ピークと、Yにおける最大ピークの角度差は、例えば、Xにおける最大ピークが15.00−15.25度の傾斜角区分に存在し、Yにおける最大ピークが17.00−17.25度の傾斜角区分に存在した場合、高角側のピークが存在する傾斜角区分の下限である17.00度から低角側のピークが存在する傾斜角区分の下限である15.00度を減算し、得られた数値2.00度をXにおける最大ピークと、Yにおける最大ピークの角度差とした。
表6、表7に、これらの値を示す。
また、図3に、本発明被覆工具1について作成した傾斜角度数分布グラフを示す。
さらに、前記同様、表面研磨面の法線Zに直交し、かつ、方向Xに直交する方向Xに対して、Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する傾斜角度数分布グラフを作成した。
表6、表7に、これらの値を示す。
また、図4に、本発明被覆工具1について作成した傾斜角度数分布グラフを示す。
表6、表7にそれぞれ示される通り、本発明被覆工具のAl層は、表面研磨面の法線(Z)に対する(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフ(例えば、図2参照)において、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最大ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占める。
また、表面研磨面の法線(Z)に直交する任意の方向(X)に対する(0001)面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフ(例えば、図3参照)において、傾斜角度数分布グラフに最大ピークが存在し、該最大ピークの存在する傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占める。
また、表面研磨面の法線(Z)に直交し、かつ、表面研磨面の法線(Z)に直交する任意の方向(X)にも直交する方向(Y)に対する(0001)面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフ(例えば、図4参照)において、傾斜角度数分布グラフに最大ピークが存在し、該最大ピークの存在する傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占める。
さらに、上記方向Xについての傾斜角度数分布グラフにおける最大ピークの存在する傾斜角区分と、上記方向Yについての傾斜角度数分布グラフにおける最大ピークの存在する傾斜角区分とは、その角度差が±5度の範囲内となっている。
これに対して、比較例被覆工具においては、方向Xについての傾斜角度数分布グラフの最大ピークの存在する傾斜角区分と方向Yについての傾斜角度数分布グラフの最大ピークの存在する傾斜角区分との角度差が±5度を超えている(比較例被覆工具1〜5、11、13)か、方向Xおよび方向Yについての傾斜角度数分布グラフの最大ピークの存在する傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%未満である(比較例被覆工具3、6〜13)か、表面研磨面の法線(Z)に対する(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最大ピークが存在しない(比較例被覆工具11〜13)か、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%未満である(比較例被覆工具6〜13)ため、本発明で規定した定めた要件から外れている。
さらに、上記の本発明被覆工具1〜13および比較例被覆工具1〜13の各層の層厚を、走査型電子顕微鏡を用いて縦断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。







つぎに、上記の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具1〜13および比較例被覆工具1〜13について、
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:470 m/min、
切り込み:1.1 mm、
送り:0.15 mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、
300m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:430m/min、
切り込み:2.2mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:440m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件C)での普通鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は、
300m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表8に示した。

表6〜8に示される結果から、本発明被覆工具の上部層のAl層は、表面研磨面の法線Zに対する(11−20)面の法線についての傾斜角度数分布測定において、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最大ピークが存在し、該傾斜角区分の度数割合が45%以上であり、また、方向Xに対する(0001)面の法線についての傾斜角度数分布測定において、最大ピークが存在し、該最大ピークの±5度の傾斜角区分の範囲内の度数割合が45%以上であり、また、方向Yに対する(0001)面の法線についての傾斜角度数分布測定において、最大ピークが存在し、該最大ピークの±5度の傾斜角区分の範囲内の度数割合が45%以上であり、さらに、方向Xについての傾斜角度数分布グラフにおける最大ピークの存在する傾斜角区分と、方向Yについての傾斜角度数分布グラフにおける最大ピークの存在する傾斜角区分とは、その角度差が±5度の範囲内となっていることから、本発明被覆工具は、すぐれた高温硬さ、高温強度及び靭性を備え、高熱発生を伴い、切れ刃に衝撃的・断続的負荷が作用する高速断続切削加工において、長期の使用に亘って、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。
しかるに、本発明で規定する要件から外れる比較例被覆工具は、チッピング等の異常損傷発生を原因として短時間で寿命に至るため、何れの比較例被覆工具も、高速断続切削加工において、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮することはできない。
上述のように、この発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に高熱発生を伴い、切刃部に断続的、衝撃的負荷が作用する合金鋼等の高速断続切削に用いた場合でも、すぐれた耐チッピング性を示し、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。






Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
    (b)上部層は、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
    以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
    (c)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線(Z)に対して、前記結晶粒の結晶面である(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最大ピークが存在すると共に、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占め、
    (d)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線(Z)に直交する任意の方向(X)に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、傾斜角度数分布グラフに最大ピークが存在し、さらに、該最大ピークの存在する傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占め、
    (e)上記(b)の酸化アルミニウム層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線(Z)に直交し、かつ、表面研磨面の法線(Z)に直交する任意の方向(X)にも直交する方向(Y)に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、傾斜角度数分布グラフに最大ピークが存在し、さらに、該最大ピークの存在する傾斜角区分を中心とした±5度の傾斜角区分の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上を占め、
    (f)上記(d)における最大ピークが存在する傾斜角区分と、上記(e)における最大ピークが存在する傾斜角区分との角度差は、±5度以内であることを特徴とする表面被覆切削工具。


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