JP5993643B2 - 偏向電磁石、それを用いた粒子線治療装置、シンクロトロン及びビーム輸送装置 - Google Patents

偏向電磁石、それを用いた粒子線治療装置、シンクロトロン及びビーム輸送装置 Download PDF

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Description

本発明は、荷電粒子ビームの加速器を構成する電磁石に関し、特に粒子線治療システム用シンクロトロンに用いる偏向電磁石に関する。
がん治療法の一つとして、陽子あるいは炭素イオン等のイオンビームを患部に照射する粒子線治療が知られている。この粒子線治療では、治療に適切なエネルギーを有したイオンビームを得るために、シンクロトロンやサイクロトロン等の円形加速器が利用される。
ところで、上記の様な円形加速器を利用する場合、イオンビームを偏向させて加速する必要がある。特に、シンクロトロンでは、イオンビームを偏向させるために偏向電磁石が設置される。シンクロトロンの偏向電磁石は、イオンビームを加速させるフェイズや取り出すフェイズがあって、それに対応する様に、時間的に励磁量が変化するという特徴をもつ。しかし、偏向電磁石の磁場が時間的に変化すると、真空ダクトや磁極を構成する磁性体に渦電流が励起される。
特許第4422057号公報
シンクロトロンの偏向電磁石は、時間的にその励磁量を変化させるため、磁場の時間変化に起因する渦電流が真空ダクトや磁極に誘導される。渦電流の影響で照射されるビームの位置が変化するため、磁極内に誘導される渦電流を小さくする必要がある。特に端部磁極では磁場が積層鋼板に対して垂直な方向に生じるため、誘導される渦電流が大きくなる。この問題について特許文献1に示されたような、ビーム軌道方向と垂直な偏向電磁石の面においてスリットを設けて渦電流を抑制するような方法が採られていた。しかし、この端部の磁極に生じる渦電流は従来の手法を用いても完全に消すことができず、治療に時間がかかる一因となっていた。
イオンビームが通過するためのギャップを設ける様に対向して配置された一対の磁極と、磁極から発生する磁場の磁路を定める一対のヨークと、磁極に巻き回されたコイルと、を備えた偏向電磁石において、ヨークは、電磁鋼板が前記イオンビームの軌道方向に向かって重ねられ、間に接続部を有する層状構造であり、磁極は、電磁鋼板が重ねられ、間に接続部を有する層状構造であり、電磁鋼板が前記イオンビームの軌道方向に向かって重ねられた中央部磁極と、電磁鋼板がイオンビームの軌道方向と交差する方向に向かって重ねられ、前記イオンビームの軌道方向において中央部磁極を挟むように設置された端部磁極とを有し、磁極は、前記ギャップを形成する磁極の表面と、イオンビームの軌道方向に対して垂直な磁極の表面とが、電磁鋼板を重ねた層状であり、ヨークと端部磁極が前記ヨークのコの字形状の内側で接続部を有することを特徴とする。
本発明は、端部磁極に誘導される渦電流を抑制し、それによって励磁電流に対する磁場の追従性が高い電磁石を提供できる。
実施例1の偏向電磁石の全体図である。 実施例1の偏向電磁石の断面図である。 実施例1の偏向電磁石の中央部を形成する電磁鋼板の形状を示す図である。 実施例1の偏向電磁石の端部ヨークを形成する電磁鋼板の形状を示す図である。 実施例1の偏向電磁石の端部磁極を形成する電磁鋼板の形状を示す図である。 実施例1の端部磁極の第一の固定方法を示す図である。 実施例1の端部磁極の第二の固定方法を示す図である。 実施例1のイオンビーム軌道方向に沿った端部断面図である。 図8の経路A及び経路Bに関する磁場分布を示す図である。 従来の偏向電磁石と本発明との磁場追従性に関する比較を示す図である。 実施例2の陽子線治療装置の全体構成の概要図である。 実施例2に利用される偏向電磁石の励磁パターンを示す図である。 実施例2に利用されるシンクロトロン及びビーム輸送装置の運転パターンを示す図である。
(実施例1)
以下、図面を参照しつつ本発明の第一の実施形態である偏向電磁石について説明する。
図1は、偏向電磁石100の全体図であって、図2は、この偏向電磁石100をイオンビームの進行方向軸上から見たときの断面図である。図1及び図2を用いて、偏向電磁石100の構成を説明する。
偏向電磁石100は、対向して配置された一対の磁極110、磁極110に巻かれたコイル140、磁極110と一体的に設けられ、磁極110と同様に対向して配置された一対のヨーク130から構成される。
ヨーク130は、図2に示すように、コの字を倒した様なアーチ形状をしており、アーチの足部分で互いに接合し、アーチの内側で磁極110と接合し、磁束が通過する経路を定める。対向して配置された磁極110に挟まれた領域は、全幅50mmのギャップ120となっている。磁極110にはコイル140が巻かれており、偏向電磁石100を励磁する時はこのコイル140に電流を流すことでギャップ120にほぼ一様な磁場を励起できる。なお、偏向電磁石100は、図2に示すように、ビームの進行方向軸上から見ると、H型の空間を有している筒状の電磁石となっており、磁束の通過領域として電磁鋼板で形成されたヨーク130を両側面に有するH型電磁石である。
ギャップ120には、図示していない真空ダクトが設置され、イオンビームがこの真空ダクト内を通過しているときに、ギャップ120内に励起された磁場によって偏向されながら通過する。この偏向電磁石100は、シンクロトロンなどに用いることができ、ビーム軌道の偏向角は60度、偏向半径は1.5mを想定している。
次に偏向電磁石100の磁極110及びヨーク130の構造について説明する。
偏向電磁石100の磁極110及びヨーク130は、電磁鋼板を用いて形成されている。本実施例においては、一枚の厚さが0.35mmのケイ素鋼板を電磁鋼板として用いている。この電磁鋼板を重ね合わせ、各電磁鋼板を互いに接着剤で接着することによって、偏向電磁石100のヨーク130と磁極110は形成される。
偏向電磁石100の磁極110及びヨーク130を形成する電磁鋼板には図3〜図5に示す3種類の形状がある。
図3に図示した第一の電磁鋼板210(以下、電磁鋼板210)は、偏向電磁石100の中央部200を形成している。電磁鋼板210は、図3に示すように、磁極110に相当する部分とヨーク130に相当する部分とが一体となっている。この電磁鋼板210をイオンビームの軌道方向に向かって重ね合わせ、互いに接着剤を使って接着することによって、偏向電磁石100の中央部200における磁極110とヨーク130が形成される。なお、本実施例では、上述のようにある方向へ向けて電磁鋼板等の部材を順次並べることを、重ね合わせる又は積層するという意味で用いている。
図4に示した第二の電磁鋼板310(以下、電磁鋼板310)は、偏向電磁石100の端部300におけるヨーク130(以下、端部ヨーク340)、に対応する形状をしている。この電磁鋼板310を、イオンビームの軌道方向に向かって、すなわち前述の電磁鋼板310と同様に重ね合わせて、接着剤で接着することによって、端部ヨーク340が形成される。
図5に示した第三の電磁鋼板320(以下、電磁鋼板320)は、偏向電磁石100の端部300における磁極110(以下、端部磁極330)、を形成する。この電磁鋼板320について、より詳細に説明する。
まず、電磁鋼板320を重ね合わせる向きについて説明する。端部磁極330を形成する電磁鋼板320を重ね合わせる向きは、中央部200におけるヨーク130及び磁極110を形成する電磁鋼板210、及び端部ヨーク340を形成する電磁鋼板310を重ね合わせる向きであるビーム軌道方向と直交する。また、電磁鋼板320を重ね合わせる向きは、ギャップ120に発生する磁場の向き、すなわち対向して配置された磁極110を互いに結ぶ直線とも直交する。
また、端部磁極330は、ビームの軌道方向に300mm程度の奥行きを持っている。これはギャップ幅に対して6倍の長さであり、端部300での漏れ磁場が奥行方向に対しギャップ幅の2倍程度の領域で生じていることに起因する。端部磁極330を形成する電磁鋼板310は、上記の大きさ及び奥行きの条件を達成できるものであればよく、奥行き方向やギャップ120に向かう方向に関して、複数枚の電磁鋼板を利用して形成してよい。また、本実施形態においては、偏向電磁石100について、端部磁極330が形成される領域を端部300とし、それ以外の部分を中央部200としている。
以上述べたように3種類の電磁鋼板を、それぞれの方向に向けて順次並べていき、接着すると、本実施例の磁極110は、図1にも示すように、ギャップ120に面する磁極110の表面と、イオンビームの軌道方向における磁極110の外部に面する磁極110の表面とが、電磁鋼板を重ねることで形成される層状となる。これは、上述したように、中央部磁極である中央部200における磁極110が、イオンビームの軌道方向に向かって電磁鋼板210を重ねたものであり、端部磁極330が、イオンビームの軌道方向と直交し、かつギャップ120の中央面に平行な方向に向かって、図1のように電磁鋼板320を重ねたものであり、イオンビームの軌道方向において磁極中央部を端部磁極で挟むようにして全体の磁極110を形成しているためである。
なお、本実施例では、中央部200と端部300とで、積層する電磁鋼板の種類を変えているが、全体を電磁鋼板320及び電磁鋼板310とで作ってもよい。その場合、ヨーク130は電磁鋼板310をイオンビームの軌道方向に向かって重ねることで形成され、磁極110は、上述の端部磁極330をイオンビームの軌道方向に沿って、複数接合して形成される。そうすると3種類の電磁鋼板を用意せずともよくなるため、製作コストが下がるとともに、実施例1と同様の効果を得ることができる。
電磁鋼板210・310・320は接着剤で互いに接着された後に機械的強度を確保するため側板400で固定されている。側板400には固定用ネジ用貫通穴401が数か所開けられており対応する位置のヨーク130にもネジ穴131が開けられている。また、端部磁極330の固定には上下に配置された側板400に開けられた固定用ネジ用貫通穴401を通し、端部ヨーク340を貫通し端部磁極330まで到達するネジ2本が使われている。これによって偏向電磁石100の機械的強度を確保し、励磁時の磁極間引力によるギャップ120の変形を抑制している。
端部磁極330の固定方法はここに示した端部ヨーク340ごと側板400にネジ止めする方法の他、図6、図7に示すような支持部材による方法がある。
図6では端部磁極330の側面に貫通穴331が開けられており、貫通穴331に支持棒332が差し入れられ、その支持棒332を外部に取り付けた支持部材333によって固定することで端部磁極330を支持している。好ましくはこの支持棒332は渦電流を誘起しないように絶縁体の物質が用いられる必要がある。
図7は端部ヨーク340に端部磁極330を支持部材334にて固定する形態を示している。端部磁極330の側面を形成する電磁鋼板320の角を切り落とし、そこに支持部材334をはめ込む形で端部ヨーク340に固定している。以上の端部磁極330の支持方法はお互いに組み合わせることも可能であり、偏向電磁石100の最大励磁磁場から求まる最大応力に耐えつつ、ネジ穴加工や切削加工による製作コストの増加を最小限に抑えるような組み合わせを選択すればよい。
偏向電磁石100のコイル140に電流を印加した場合、ギャップ120において、ギャップ中央面に対してほぼ垂直な一様磁場が励起される。また、端部300においては、端部磁極330の二つの磁極面から、それぞれの方向に向かって磁場が生じる。これは強磁性体の表面では、作用する磁場の方向が強磁性体表面に対してほぼ垂直になることに起因する。この強磁性体表面における磁場のふるまいを踏まえて、偏向電磁石100が発生させる磁場について詳細に説明する。なお、上述のギャップ中央面とは、ギャップ120において、対向する磁極110から等距離となる平面とする。
中央部200において、磁極110はギャップ120に面した磁極面を有する。したがって、偏向電磁石100の励磁時には、この磁極面に対して垂直に磁場が作用する。すなわち、ギャップ120を挟んで、一方の磁極面から垂直に磁場が生じ、その磁場は、他方の磁極面に対して垂直に入る。この様な磁場の寄与が大きいため、ギャップ120内の磁場はほぼ一様で、磁場の方向成分は、ギャップ中央面に対しても略垂直となる。
一方、端部300では、端部磁極330が、ギャップ120に面した磁極面と、偏向電磁石100の外部に面した磁極面とを有する。ギャップ120に面した磁極面に関する磁場は、中央部200における磁極面間に発生する磁場と同様だが、偏向電磁石100の外部に面した磁極面に関する磁場は、中央部200とは異なる。偏向電磁石100の外部に面した磁極面に関する磁場は、磁極面上にてビーム軌道と平行な成分から成る磁場である。この磁場は、端部磁極330の偏向電磁石100の外部に面した磁極面から垂直に発生し、ビーム軌道方向において偏向電磁石100の外側を通り、対向する他方の端部磁極330の外部に面した磁極面に垂直に入る。
偏向電磁石100を励磁したときに発生する磁場と、その磁場によって誘起される渦電流について説明する。
磁極110の磁極面から生じ、ギャップ120を通過して対向する磁極110の磁極面に入る磁場は、ほとんど渦電流を磁極110の磁極面に励起しない。なぜならば、ギャップ中央面に対して垂直な磁場が作用する磁極面は、中央部200と端部300の両方において、電磁鋼板と接着剤が交互に積層されて形成された面であって、絶縁体である接着剤の存在によって磁極面に生じる渦電流を防いでいるためである。
偏向電磁石100の端部300においては、端部磁極330から生じて、偏向電磁石100の外部を通過する磁場があるが、これも端部磁極330において渦電流を励起しない。従来の偏向電磁石と異なり、本実施例の偏向電磁石100は、端部磁極300を形成する電磁鋼板320の重ね合わせの向きが、上述の向きとなっているためである。すなわち、偏向電磁石100の外部を経由する磁場が干渉する端部磁極300の磁極面が、電磁鋼板310と接着剤が交互に積層されて形成された面となっているため、この面においても、励磁時に発生する磁場による渦電流の発生が抑制される。また、このような磁極面が、ビーム軌道方向に関して、ギャップ幅の3倍以上の長さにわたって作れられているため、効果的に渦電流が抑制される。
従来の偏向電磁石では、ヨーク部分と磁極部分とが一体化した電磁鋼板210の様な部材を、偏向電磁石の端部まで積層していた。電磁鋼板210を端部まで積層して磁極110を形成すると、偏向電磁石100の端部300において、図2に示す経路211に沿って、電磁鋼板210の磁極部に渦電流が励起される。この様な従来の偏向電磁石においては、生じる渦電流の抑制策として、特許文献1に記載されているように、電磁鋼板にスリットを施すことがあり、これによって渦電流を2分の1から3分の1程度にできた。しかし、特許文献1に記載の偏向電磁石では、渦電流を抑制するためのスリットによって、電磁石全体の強度が低下し、より強固な構成が必要という課題もあった。
一方で本実施例の偏向電磁石100では、端部磁極330を形成する各電磁鋼板320間が接着剤によって絶縁されているため、従来の偏向電磁石で課題となった経路211に渦電流は励起しない。したがって、特許文献1に記載の偏向電磁石と比較しても渦電流の大きさをほぼ0にできる。
図8は、偏向電磁石100のギャップ120を、電磁鋼板320を積層した方向から見た概略を示す。この図8について、経路Aおよび、経路Bに沿って、それぞれの経路に対して垂直に作用する磁場分布を、二次元磁場計算によって評価した結果を図9(a)(b)に示す。図9(a)(b)には各経路A、Bに直交する磁場相対値がプロットされており、この積分値(磁場積分値)が偏向電磁石100のギャップ120内を通過するイオンビームに対する偏向角への寄与となる。なお、磁場相対値とは、ある磁場の強さの値を1としたときの、それぞれの磁場の強さを比率として示したものとする。
図9(a)は、横軸をイオンビームの軌道方向における距離とし、1500mm近傍が偏向電磁石100の末端である。また、縦軸は、偏向電磁石100の末端から内部に向かって1500mm程度奥における磁場の強さを基準とした相対磁場値を示している。なお、経路Aに沿った磁場はギャップ内に生じる磁場であって、上述したように、磁極110の磁極面において渦電流を発生させないため、偏向電磁石100の励磁電流に対する磁場応答性には関与しない。
図9(b)は、縦軸に関しては、ギャップ中央面近傍の磁場を基準とした相対磁場値を示し、横軸をギャップ中央面に対する垂直方向の距離としている。なお、横軸に関して、ヨーク部分と磁極部分の境界は300mm近傍である。
経路Bに沿った磁場のうち、ヨーク部分と磁極部分との境界よりもギャップ中央面に近い位置での磁場が端部磁極330から生じる磁場あり、当境界よりもギャップ中央面から遠い位置での磁場が端部ヨーク340から生じる磁場である。端部ヨーク340から生じる磁場は、端部磁極330から生じるギャップ面に平行な磁場に対して400分の1程度の大きさである。また、経路Aにおける磁場の強さと比較すると、端部ヨーク340から生じる磁場の強さは、約2万分の1程度である。
経路Bに関して、端部磁極330から発生する磁場は、上述したように作用する磁極面が、電磁鋼板210を積層して形成された面であるため、各電磁鋼板210を接着する接着剤の絶縁性によって、渦電流の経路が遮断されており、結果として渦電流は、ほぼ生じない。端部ヨーク340から磁場が生じるが、上述のとおり、端部磁極330から生じる磁場や、ギャップ内に発生する磁場と比較して非常に小さい。したがって、端部ヨーク340に発生する渦電流による磁場の遅れによって生じる磁場の偏差を従来から400分の1程度の大きさにできると考えられる。
以上の特性を踏まえ、時間的に変化する励磁電流を本実施例の偏向電磁石100に印加した時の磁場積分値の振る舞いについて述べる。図10に示すような励磁電流パターンを考える。すなわち、電流値が0の状態から一定の変化率で励磁電流を増加させ、最大電流に達したところで一定の電流で保持する。この時の電流値と磁場積分値の変化を図10に示す。従来の偏向電磁石では渦電流の影響で図10の細かい点線に示すように磁場積分値が細線で示した励磁電流に対して追従せず、渦電流の時定数だけ遅れる。一方で本実施例の偏向電磁石においては図10の点線に示すように磁場積分値が励磁電流に追従する。これは前述の通り渦電流が端部磁極に生じないことによってもたらされる効果である。この性質により高速かつ正確な磁場の制御が可能となる。
なお、以上にて各電磁鋼板の形状や重ねる方向について述べたが、これらは上述のものに限定されるものではなく、ギャップ120に面する磁極110の表面と、イオンビームの軌道方向における磁極110の外部に面する磁極110の表面とが、電磁鋼板を重ねることで形成される層状となるものであればよい。すなわち、偏向電磁石100を励磁した際に発生する磁場に対して、磁極110の表面が電磁鋼板を重ねて形成された面となっていれば、電磁鋼板の接着に利用する接着剤のはたらきによって、磁極110の強度を高めつつ発生する渦電流を抑制でき、励磁電流に対する磁場追従性を高める効果を奏する。また、偏向電磁石100の大きさや偏向角も、必要に応じて変更してよい。
(実施例2)
粒子線治療は、高エネルギーのイオンビームが物質に入射すると、飛程終端近くで多くの線量を周辺の物質に付与する性質を利用している。粒子線治療では、イオンビームのこの様な性質を利用し、がん細胞で多くのエネルギーを失うようにイオンビームを患者に照射する。この際に、イオンビームの照射位置・エネルギー・空間的な広がりを調整し、患部の形状に合わせた線量分布を形成することによって周囲の健康な組織への損傷を少なく抑えた上で、がん細胞を破壊できる。
粒子線治療に用いる粒子線治療システムは、主に、イオン源・イオン源で発生したイオンを加速する加速器・加速器から出射したイオンビームを輸送するビーム輸送装置・所望の形状で患部にビームを照射する照射装置からなる。粒子線治療システムでは加速器には、シンクロトロンやサイクロトロン等が用いられる。通常、主たる加速器の前段には予備加速用の加速器があり、そこでイオン源から出たビームは予備加速され入射時の磁場に合わせたエネルギーで入射される。どちらの加速器も入射したイオンを所定のエネルギーまで加速し、イオンビームとして出射する機能は共通である。
シンクロトロンは円形加速器の一種であり、加速に伴い偏向電磁石の磁場が時間的に変化する特徴がある。シンクロトロンの運転フェイズは時間的に入射・加速・出射・減速の4段階に分割される。入射時は最も磁場が低い値で一定となっており、予備加速器からのビームをシンクロトロン内に入射し周回させている。加速フェイズに移行すると偏向電磁石の磁場と加速用高周波電場の周波数が同期して増加させ、周回する粒子を加速する。そして、治療に供されるエネルギーまで加速されると偏向磁場と加速高周波周波数は一定に保たれ、共鳴を利用した取り出し方法などによってビームは出射される。ビームの出射が終わると今度は偏向磁場と加速高周波周波数を同期して小さくし、周回しているビームを減速する。入射時の値まで偏向磁場と加速高周波周波数が小さくなると次のサイクルに移行し、再度ビームの入射を始める。このサイクルを計画した線量が患部に照射されるまで続ける。
上述のようにシンクロトロンを運転させると、出射フェイズで偏向電磁石の励磁電流が一定となっていても、渦電流が減衰するまではビーム軌道上の磁場は時間変化する。このため、ビームの位置を安定させるには、出射フェイズ開始後に渦電流の減衰を待つ必要がある。従って、渦電流の減衰時間を短くするか、渦電流の大きさを減少させることで治療時間の短縮が可能となる。従来は特許文献1に示すように薄い磁性体の鋼板をビーム進行方向に積層し磁極を形成することで渦電流の誘導を抑え、さらに磁極にスリットを入れ渦電流の減衰時間を短くしていた。
以下、図面を参照しつつ第二の実施形態について説明する。第二の実施形態は、粒子線治療装置の一形態である、シンクロトロンを備える陽子線治療装置である。その構成を図11に示す。
陽子線治療装置500は主加速器としてシンクロトロン510を備える。陽子ビームはイオン源520で元となる水素イオンが生成され、前段加速器530によって予備加速される。その後にシンクロトロン510に入射される。シンクロトロン510で治療に利用する運動エネルギーまで加速された後にシンクロトロン510から取り出され、ビーム輸送装置540によって照射点550まで運ばれる。ビーム輸送装置540は建屋に対して固定された固定輸送装置541と回転ガントリー542に搭載され、回転軸560を中心として回転することで照射点550にある患部に対し任意の方向からビームを照射できるようになっている。
シンクロトロン510は第一の実施例で示した偏向電磁石100を6台用いたシンクロトロンである。このシンクロトロン510に設置された偏向電磁石100をシンクロトロン電磁石511とする。シンクロトロン510にはシンクロトロン偏向電磁石511の他に荷電粒子ビームの入射軌道を作る入射バンプ電磁石512と取り出し軌道を作る出射バンプ電磁石513、ビームに収束発散の作用を与え、ビームを安定に周回させる四極電磁石514、偏向電磁石511の個体差による軌道歪みを補正する補正電磁石(図示せず)、ビーム位置を測定するビーム位置モニタ(図示せず)、ビームを高周波電場によって加速する加速空胴515などが設置されている。
このシンクロトロン510に対し、一つの運転周期として図12で示す励磁パターン600で偏向電磁石511を励磁する。励磁パターン600は励磁電流を最小値で保持するフラットベース期間610と励磁電流を上昇させる加速期間620と励磁電流を最大値で保持するフラットトップ期間630と励磁電流を減少させる減速期間640からなる。
前段加速器530から輸送されたビームをフラットベース期間610に入射し、その後、偏向電磁石511の磁場を増加させつつ、加速空胴515に励起する高周波電場の周波数を増加させビームの周回周波数と高周波電場の周波数を一致させることでフラットトップ期間630に達するまでビームを加速する。加速が完了しフラットトップ期間630に達するとビームは取り出され、ビーム輸送装置540を通じて患者に照射される。本シンクロトロン510の偏向電磁石511のギャップに励磁される最大磁場は1.6Tであり、加速完了後のビームの運動エネルギーは最大235MeVである。
ビーム輸送装置540のビーム輸送装置用偏向電磁石543においても実施例1で示した端部磁極330を形成する電磁鋼板320を重ねる方向が、ヨーク130における電磁鋼板210及び電磁鋼板310の積層方向と異なる偏向電磁石100を用いている。ビーム輸送装置540には他にビームの収束発散の作用を与えビームサイズを調整する四極電磁石544とビームの位置を微調整する補正ステアリング電磁石(図示せず)、ビーム位置を測定するビーム位置モニタ(図示せず)等の機器が配置されている。
一連の治療でシンクロトロン偏向電磁石511の励磁パターンとビーム輸送装置用偏向電磁石543の励磁パターンの一例を図13に示した。図13には細線でシンクロトロン偏向電磁石511の励磁パターンを、太線でビーム輸送装置用偏向電磁石543の励磁パターンを示した。この例では全部で3種類のエネルギーのビームをそれぞれ3周期・2周期・1周期分のビームを患部に照射する。
治療時にはあらかじめ策定された治療計画に基づき、加速するビームのエネルギー毎に患部に照射するビームの電荷量が定められている。治療では高エネルギーのビームから患部に照射していき、所定の電荷量が照射し終わると次に高いエネルギーまで加速しビームの照射を続ける。このとき、照射するビームのエネルギーに合わせ、ビーム輸送装置540の各電磁石の励磁量は変化する。ここで、フラットトップ期間630に達した後のビーム輸送装置用偏向電磁石543の磁場積分値について考える。
シンクロトロン510及びビーム輸送装置540と、従来のシンクロトロン及びビーム輸送装置を比較すると、偏向電磁石100によって従来では励起されていた端部磁極における渦電流が抑制されているため、図10の点線で示したように電流に対して遅れることなく磁場積分値が追従し、フラットトップ期間630での磁場積分値変化が抑えられる。従来のシンクロトロンではフラットトップ期間に渦電流起因の磁場積分値の変化が周回するビームの位置と運動エネルギーの変化を引き起こすため、減衰するまで待ち時間を設けビーム位置と運動エネルギーが安定したのちにビームを取り出し、照射していた。シンクロトロン510では渦電流起因の磁場変動が小さくなるため、この待ち時間を短縮できる。これによって治療時間の短縮が実現可能となる。さらに、エネルギーの変更時もビーム輸送装置用偏向電磁石541によって渦電流による磁場積分値の遅れが小さくなっており、シンクロトロン510のエネルギー切り替え時間以内に磁場積分値の変更が完了する。よって、照射するビームのエネルギー切り替えの際も待ち時間を必要とせず治療を短時間で完了できる。
また、上記では、照射するビームのエネルギーを周期単位で変えているが、本実施例の偏向電磁石100は、一つのシンクロトロンの運転周期内で複数のエネルギーのイオンビームを取り出すような場合においても、励磁電流に対する磁場追従性が高いため、エネルギー変更に伴う待ち時間を短縮化でき、結果として治療時間を短縮することができる。
100 偏向電磁石
110 磁極
120 ギャップ
130 ヨーク
131 ネジ穴
140 コイル
200 中央部
210 第一の電磁鋼板
211 渦電流経路
300 端部
310 第二の電磁鋼板
320 第三の電磁鋼板
330 端部磁極
331 貫通穴
332 支持棒
333、334 支持部材
340 端部ヨーク
400 側板
401 固定用ネジ用貫通穴
500 陽子線治療装置
510 シンクロトロン
511 シンクロトロン偏向電磁石
512 入射バンプ電磁石
513 出射バンプ電磁石
514、544 四極電磁石
515 加速空胴
520 イオン源
530 前段加速器
540 ビーム輸送装置
541 固定輸送装置
542 回転ガントリー
543 ビーム輸送装置用偏向電磁石
550 照射点
560 回転軸
600 励磁パターン
610 フラットベース期間
620 加速期間
630 フラットトップ期間
640 減速期間

Claims (8)

  1. イオンビームが通過するためのギャップを設ける様に対向して配置された一対の磁極と、
    前記磁極から発生する磁場の磁路を定める一対のヨークと、
    前記磁極に巻き回されたコイルと、を備えた偏向電磁石において、
    前記ヨークは、電磁鋼板が前記イオンビームの軌道方向に向かって重ねられ、間に接続部を有する層状構造であり、
    前記磁極は、電磁鋼板重ねられ、間に接続部を有する層状構造であり電磁鋼板が前記イオンビームの軌道方向に向かって重ねられた中央部磁極と、電磁鋼板が前記イオンビームの軌道方向と交差する方向に向かって重ねられ、前記イオンビームの軌道方向において前記中央部磁極を挟むように設置された端部磁極とを有し、
    前記磁極は、前記ギャップを形成する前記磁極の表面と、前記イオンビームの軌道方向に対して垂直な前記磁極の表面とが、電磁鋼板を重ねた層状であり、
    前記ヨークと前記端部磁極が前記ヨークのコの字形状の内側で接続部を有することを特徴とする偏向電磁石。
  2. 前記端部磁極は、前記イオンビームの軌道方向において、
    前記ギャップの3倍以上の長さにわたって形成されることを特徴とする請求項に記載の偏向電磁石。
  3. 前記端部磁極と、前記端部磁極と一体的に設けられたヨークとはネジ穴を備え、前記ネジ穴を通る共通のネジによって互いに固定されることを特徴とする請求項に記載の偏向電磁石。
  4. 前記端部磁極には、支持棒が通過する穴が設けられ、
    前記支持棒は、前記端部磁極に接触する支持部材によって保持されることで、前記ギャップ幅を保持することを特徴とする請求項に記載の偏向電磁石。
  5. 前記端部磁極及び前記端部磁極と一体的に設けられたヨークに、それぞれ切り欠きが設けられ、前記それぞれの切り欠きに嵌めこまれる支持部材を備え、
    前記支持部材によって、前記ギャップ幅を保持することを特徴とする請求項に記載の偏向電磁石。
  6. 加速器と、
    前記加速器によって加速されたイオンビームを照射装置まで輸送するビーム輸送装置と、を備えた粒子線治療装置において、
    前記加速器又は前記ビーム輸送装置が、前記イオンビームを偏向させる位置において、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の偏向電磁石を備えることを特徴とする粒子線治療装置。
  7. 入射された荷電粒子ビームを加速し、取り出す機能を持ち、偏向電磁石を複数備えるシンクロトロンにおいて、前記偏向電磁石は請求項1から請求項のいずれか1項に記載の偏向電磁石であることを特徴とするシンクロトロン。
  8. ビーム軌道を偏向する偏向電磁石を備えるビーム輸送装置において、前記偏向電磁石は請求項1から請求項のいずれか1項に記載の偏向電磁石であることを特徴とするビーム輸送装置。
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