(1)イオン注入装置全体について
図1は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略平面図である。以下の図において、イオンビーム50の進行方向を常にZ方向とし、このZ方向に実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向としている。例えば、X方向およびZ方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向である。またこの明細書において、イオンビーム50を構成するイオンは正イオンの場合を例に説明している。
このイオン注入装置は、基板60にリボン状のイオンビーム50を照射してイオン注入を行う装置であり、リボン状のイオンビーム50を発生させるイオン源100と、このイオン源100からのイオンビーム50をX方向に曲げて運動量分析を行う分析電磁石200と、この分析電磁石200を通過したイオンビーム50を基板60に入射させる注入位置で基板60をイオンビーム50の主面52(図2、図3参照)と交差する方向に移動させる(矢印C参照)基板駆動装置500とを備えている。下流側または上流側というのは、それぞれ、イオンビーム50の進行方向Zに見て下流側または上流側の意味である。
このイオン注入装置は、更に、上記注入位置のイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化するビーム均一化器300、分析電磁石200と協働してイオンビーム50の運動量分析を行う分析スリット290、イオンビーム50の偏向および加減速を行う加減速器400、Y方向におけるビーム電流密度分布を測定する第2ビーム測定器70、この第2ビーム測定器70からの測定情報D2 に基づいて後述するような均一化制御を行う均一化制御装置80等を備えている。ビーム均一化器300、分析スリット290および加減速器400は、分析電磁石200と上記注入位置との間に、例えば上記および図1に示すような順で設けられている。イオン源100から基板60までのイオンビーム50の経路は真空雰囲気に保たれる。
イオン源100から発生させて基板60まで輸送するイオンビーム50は、例えば図2に示すように、X方向の寸法WX よりもY方向の寸法WY が大きいリボン状をしている。イオンビーム50は、リボン状と言ってもX方向の寸法WX が紙や布のように薄いという意味ではない。例えば、イオンビーム50のX方向の寸法WX は30mm〜80mm程度、Y方向の寸法WY は、基板60の寸法にも依るが、300mm〜500mm程度である。このイオンビーム50の大きい方の面、即ちYZ面に沿う面が主面52である。
イオン源100は、図3に示す例のように、Y方向の寸法WY が基板60のY方向の寸法TY よりも大きいリボン状のイオンビーム50を発生させる。例えば、寸法TY が300mm〜400mmであれば、寸法WY は400mm〜500mm程度である。
基板60は、例えば、半導体基板、ガラス基板、その他の基板である。その平面形状は円形でも良いし四角形でも良い。
分析スリット290は、この例のように、分析電磁石200から出射したイオンビーム50のX方向における焦点56付近に設けておくのが、運動量分析の分解能を高める上から好ましい。
(2)分析電磁石200、分析電磁石装置260について
分析電磁石200の一実施形態を図4、図5等に示す。この分析電磁石200は、上記リボン状のイオンビーム50が入射され、当該イオンビーム50の通り道であるビーム経路202にY方向に沿う磁界を発生させて、イオンビーム50をX方向に曲げて運動量分析を行うものである。上記磁界を、図5等において磁力線204で模式的に表している。即ち、この分析電磁石200にイオンビーム50が入射すると、イオンビーム50は、進行中に上記磁界によって、その進行方向Zに見て右向きのローレンツ力FX を受けて右向きに偏向され、それによって運動量分析が行われる。このイオンビーム50の中心軌道54を図4中に一点鎖線で示す。その曲率半径をRとする。
分析電磁石200は、図6も参照して、第1主コイル206と、第2主コイル212と、1以上の(この実施形態では三つの)第1副コイル218と、1以上の(この実施形態では三つの)第2副コイル224と、ヨーク230と、一組の磁極232とを備えている。ビーム経路202は、非磁性材から成る真空容器236によって囲まれていて、真空雰囲気に保たれる。
なお、以下において、複数の第1副コイル218および複数の第2副コイル224をそれぞれ区別する必要がある場合は、図5、図8等に示すように、Y方向の上側から順に第1副コイル218a、218b、218cおよび第2副コイル224a、224b、224cとする。
第1主コイル206は、図7も参照して、ビーム経路202を挟んでX方向において相対向しておりかつイオンビーム50のY方向の一方側(この実施形態では上側)のほぼ半分以上(換言すれば実質的に半分以上)をカバーする一組の本体部208と、両本体部208の端部(分析電磁石200の入口238側の端部および出口240側の端部。他のコイルにおいても同様)間をビーム経路202を避けて接続している一組の渡り部210とを有している鞍型のコイルであって、第2主コイル212と協働して、イオンビーム50をX方向に曲げる主磁界を発生させるものである。主磁界というのは、主に当該磁界によって、イオンビーム50をほぼ所定の曲率半径Rで曲げる、そのような磁界のことである。鞍型と呼んでいるのは、当該第1主コイル206を全体として見れば、鞍の縁の形状に似た形をしているからである。他のコイル212、218および224も同様である。
この第1主コイル206は、図7では1本の線で模式的に示しているけれども、例えば、導体を図7に示すようなループ状に複数回巻いて、その両端に一組の端子242を接続した構造をしている。即ちこの第1主コイル206は、1回巻き(シングルターン)のコイルではなく、複数回(通常は多数回)巻き(マルチターン)のコイルである。他のコイルも同様である。このコイルに流れる電流を電流IM で示す。これによって所要の起磁力を確保して、上記主磁界を形成する磁力線204を発生させることができる。導体は、例えば、中に冷媒が流される中空導体(ホローコンダクター)であるが、それ以外でも良い。渡り部210は、イオンビーム50が当たるのを避けると共に、そこで発生する磁界がイオンビーム50に及ぼす影響を小さくするために、ビーム経路202から上側に離して設けている。この第1主コイル206は、全体として見ればループ状のコイルである。他のコイル212、218および224も同様である。
第2主コイル212は、ビーム経路202を挟んでX方向において相対向すると共にイオンビーム50のY方向の他方側(この実施形態では下側)のほぼ半分以上(換言すれば実質的に半分以上)をカバーしており、かつ第1主コイル206の本体部208とY方向において互いに重ねて配置されている一組の本体部214と、両本体部214の端部間をビーム経路202を避けて接続している一組の渡り部216とを有している鞍型のコイルであって、第1主コイル206と協働して、イオンビーム50をX方向に曲げる主磁界を発生させるものである。即ち、この第2主コイル212は、第1主コイル206と同方向の磁力線204を発生させる。
この第2主コイル212も、第1主コイル206と同様の寸法、構造をしている。導体の巻回数も通常は第1主コイル206と同数にする。但し、渡り部216は、渡り部210とはビーム経路202を挟んでY方向の反対側(即ち下側)に設けられている。図6において、第2主コイル212の本体部214は図に表れていない。
各第1副コイル218は、それぞれ、第1主コイル206の外側にあってビーム経路202を挟んでX方向において相対向している一組の本体部220と、両本体部220間をビーム経路202を避けて接続している一組の渡り部222とを有している鞍型のコイルであって、前記主磁界の補正を行う副磁界を発生させるものである。前記主磁界の補助を行うと共に補正を行う副磁界を発生させるものでも良い(これは、例えば、段落0068に記載の(b)の制御の仕方に相当している)。後述する第2副コイル224について同様である。
各第1副コイル218は、それぞれ、第1主コイル206とほぼ同様の構造をしている。但し、本体部220のY方向の寸法は、第1主コイル206の本体部208の寸法よりも小さい。また、導体の巻回数も通常は第1主コイル206よりも少ない。各第1副コイル218は、例えば、その本体部220のY方向の寸法および導体の巻回数を互いに同じにしている。
各第1副コイル218は、第1主コイル206および第2主コイル212と同方向の磁界を発生させるものでも良いし、逆方向の磁界を発生させるものでも良いし、磁界の向きを制御によって反転させるものでも良い。その制御方法の例は後述する。後述する各第2副コイル224においても同様である。この各第1副コイル218の本体部220で発生させる磁力線(磁界)の一部は、ビーム経路202側に広がる(換言すれば漏れ出す)ので、上記主磁界に影響を及ぼす。従って、各第1副コイル218は、上記主磁界の補正を行う副磁界を発生させることができる。その場合、各第1副コイル218は、それぞれ、主にその内側付近領域における主磁界を補正する作用を奏する。後述する各第2副コイル224においても同様である。
各第2副コイル224は、それぞれ、第2主コイル212とほぼ同様の構造をしている。但し、本体部226のY方向の寸法は、第2主コイル212の本体部214の寸法よりも小さい。また、導体の巻回数も通常は第2主コイル212よりも少ない。各第2副コイル224は、例えば、その本体部226のY方向の寸法および導体の巻回数を互いに同じにしている。
図5は、図4の線A−Aに沿う縦断面図であるので、図5には、上記各コイル206、212、218、224の本体部208、214、220、226が表されている。
ヨーク230は、強磁性材から成り、上記各コイル206、212、218および224の本体部208、214、220および226の外側を一括して取り囲んでいる。このようなヨーク230によって、外部への漏れ磁場を少なくすることができるという効果も奏する。このヨーク230の平面形状は、図4に示すようにいわゆる扇型をしている。
一組の磁極232は、それぞれ、強磁性材から成り、ビーム経路202を挟んでY方向において相対向するように、ヨーク230から内側に突出している。各磁極232の平面形状は、図4に示すイオンビーム50の中心軌道54に沿った円弧状をしている。これを扇型と呼ぶ場合もある。両磁極232間のギャップ長は、イオンビーム50のY方向の寸法WY よりもある程度(例えば100mm〜150mm程度)大きい。このような一組の磁極232を備えていると、両磁極232間のギャップに磁力線204が集中しやすくなるので、ビーム経路202に磁束密度の高い磁界を発生させることが容易になる。
この分析電磁石200によれば、上記のようにY方向に長くかつY方向において互いに重ねて配置されている本体部208、214をそれぞれ有する第1主コイル206と第2主コイル212とが協働して主磁界を発生させるので、従来の分析電磁石20のようにY方向寸法の小さい複数のコイル10、12を単に多段に配置したものと違って、Y方向における磁束密度分布の均一性の高い主磁界を発生することができる。また、Y方向寸法の小さいコイルを多段に重ねている場合に比べて、Y方向における磁束密度の脈動も小さくすることができる。即ち、第1主コイル206および第2主コイル212は、両者を合わせて考えると、断面形状がY方向に長い筒状をしているので、両コイル206、212だけでも、Y方向における磁束密度分布に脈動が少なく、かつ同分布の均一性が高い主磁界を発生させることができる。
しかも、第1副コイル218および第2副コイル224によって、主磁界の補正を行う副磁界を発生させることができる。即ち、この副磁界によって、上記のように元々均一性の高い主磁界を補正して、Y方向における磁束密度分布の均一性を更に高めることができる。この副磁界は、主磁界に比べて弱いもので良いので、制御も容易である。
上記のような主磁界および副磁界によって、ビーム経路202に、Y方向における磁束密度分布の均一性の高い磁界を発生させることができる。その結果、この分析電磁石200から出射する時のイオンビーム50の形態の乱れを小さく抑えることができる。この効果は、対象とするイオンビーム50のY方向の寸法WY が大きい場合により顕著になる。後述する他の効果の場合も同様である。
第1副コイル218および第2副コイル224がそれぞれ一つずつでも、上記主磁界を補正する効果を奏することはできるけれども、この実施形態のように複数の第1副コイル218および複数の第2副コイル224を備えている方が好ましい。その場合はこれらの副コイル218、224によって、ビーム経路202に発生させる磁界のY方向における磁束密度分布をよりきめ細かく補正することができるので、Y方向においてより均一性の高い磁界を発生させることができる。その結果、出射時のイオンビーム50の形態の乱れをより小さく抑えることができる。
その場合、第1副コイル218および第2副コイル224の数は、少ないと主磁界の補正が粗くなり、多いと同補正がきめ細かくなるが、あまり多いと渡り部222、228の配置が難しくなると共に各コイル用の電源の数も多く必要になるので、第1副コイル218および第2副コイル224の数は、2〜4が良いがそれ以上でも良い。主コイルの外側に副コイルを設けた二重のコイル配置であるため、主コイルによってある程度の磁束密度分布の均一性が確保できれば、全てのコイルを多段に設けた構成に比べて、副コイルとしてより小さなコイルの配置が可能となる。また、より多くのコイルを配置することも可能となる。
副磁界によって主磁界を制御する仕方としては、例えば、(a)第1主コイル206および第2主コイル212によって必要強度の主磁界を発生させて、そして第1副コイル218および第2副コイル224による副磁界の増減および方向反転によって上記主磁界を補正する場合と、(b)第1主コイル206および第2主コイル212による主磁界と、第1副コイル218および第2副コイル224による副磁界とを合わせて必要強度の磁界を発生させ、そして副磁界の増減のみ(方向反転は行わない)によって主磁界を補正する場合とが採り得る。上記(a)の場合は、第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流の方向を反転させる必要があり、これらのコイル用にバイポーラ電源(両極性電源)が必要になるのに対して、上記(b)の場合は、第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流は初期値から増減させるだけであって方向を反転させる必要はないので、バイポーラ電源は必要ない。従って、上記(b)の方が電源構成が簡単になる等の観点から好ましい。
上記(b)の方法を実施することができる電源構成の一例を図8に示す。この例では、第1主コイル206および第2主コイル212に直流の主コイル電源250がそれぞれ接続されており、この各主コイル電源250から第1主コイル206および第2主コイル212に、互いに実質的に同じ大きさの電流IM を流すことができる。なお、上記二つの主コイル電源250は、必ずしも別個のものである必要はなく、それらを一つにまとめた主コイル電源としても良い。
更にこの例では、各第1副コイル218(218a〜218c)および各第2副コイル224(224a〜224c)に直流の副コイル電源252がそれぞれ接続されており、この各副コイル電源252から各第1副コイル218および各第2副コイル224に電流IS を流すことができ、しかも各第1副コイル218および各第2副コイル224に流す電流IS をそれぞれ独立して制御することができる。なお、上記複数の副コイル電源252は、必ずしも別個のものである必要はなく、それらを一つにまとめて、各第1副コイル218および各第2副コイル224に流す電流IS をそれぞれ独立して制御することができる一つの副コイル電源としても良い。
上記(b)に示した制御の仕方を実施する場合は、各第1副コイル218および各第2副コイル224に流す電流IS は、その初期値(換言すれば中心値)をIS0、最大増減値を±ΔIS とすると、次式の関係を満たすように制御するのが好ましい。
[数1]
IS =(IS0±ΔIS )≧0
次に、上記分析電磁石200の制御方法の例を、具体的には各第1副コイル218および各第2副コイル224に流す電流の制御方法の例を説明する。
例えば図1に示す第1ビーム測定器254を分析電磁石200から出射するイオンビーム50の経路に移動させて、この第1ビーム測定器254を用いて、分析電磁石200から出射するリボン状のイオンビーム50のX,Y方向の2次元の形態(形状および姿勢)を測定する。そして、当該形態が所望のものになるように、各第1副コイル218および各第2副コイル224に流す電流を制御する。第1ビーム測定器254は、例えば、複数n1 個のファラデーカップを2次元に配置したものであり、n1 個の測定情報から成る測定情報D1 を出力する。
この制御方法によれば、分析電磁石200から出射するリボン状のイオンビーム50の2次元の形態を測定して当該形態が所望のものになるように第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を制御するので、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態をより確実に所望のものに近づけることができる。しかも、第1副コイル218および第2副コイル224によって発生させる副磁界は、第1主コイル206および第2主コイル212によって発生させる主磁界に比べて弱いもので良く、かつビーム形態の制御の際に主磁界は敢えて制御しなくても良いので、制御も容易である。
制御方法のより具体例を挙げると、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の内で、Y方向に実質的に平行な所定の中心軸(図9〜図15に示す中心軸262y)よりも曲率半径Rの内側に曲がり過ぎている部分に対応する第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を減らすことと、当該内側への曲がりが不足している部分に対応する第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を増やすことの少なくとも一方を行って、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態を上記中心軸に平行なものに近づける。これによって、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態を、傾きがなくかつ真っ直ぐなものに近づけることができる。
分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態の例を図9〜図15にそれぞれ示す。図9〜図15において、X方向に実質的に平行な所定の中心軸を262x、Y方向に実質的に平行な所定の中心軸を262y、イオンビーム50の中心軌道を54、その曲率半径をRとしている。図9〜図15の説明においては、複数の第1副コイル218および複数の第2副コイル224をそれぞれ区別する必要があるので、前述したように、Y方向の上側から順に第1副コイル218a、218b、218cおよび第2副コイル224a、224b、224cとする(図5、図8参照)。
上記各形態の場合に、各第1副コイル218a〜218cおよび各第2副コイル224a〜224cに流す電流をどのように制御するのかの更に具体的な例を表1にまとめて示し、かつ以下にその説明をする。
図9に示す形態の場合は、イオンビーム50の進行方向Zに見てイオンビーム50の形態に乱れはないので、各第1副コイル218a〜218cおよび各第2副コイル224a〜224cに流している電流(電流IS 。以下同様)の値を維持する(即ち、現状維持)。
図10に示す形態の場合は、イオンビーム50がその進行方向Zに見て右に傾いているので、即ちY方向の上側ほど曲率半径Rの内側に曲がり過ぎており、下側ほど内側への曲がりが不足しているので、第1副コイル218aに流す電流を大きく減らし、第1副コイル218bに流す電流を少し減らし、第1副コイル218cおよび第2副コイル224aに流す電流は現状維持し、第2副コイル224bに流す電流を少し増やし、第2副コイル224cに流す電流を大きく増やす。これによって、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の中心軌道54の位置を維持しつつ、その形態を中心軸262yに平行なものに近づけることができる。即ち、図9に示す形態に近づけることができる。
図11に示す形態の場合は、イオンビーム50がその進行方向Zに見て左に傾いていて、図10の場合と逆であるので、第1副コイル218a、218b、第2副コイル224b、224cに流す電流の増減を図10の場合と逆にする。これによって、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の中心軌道54の位置を維持しつつ、その形態を中心軸262yに平行なものに近づけることができる。即ち、図9に示す形態に近づけることができる。
図12に示す形態の場合は、イオンビーム50がその進行方向Zに見てく字状に近い円弧状に歪んで(曲がって)いるので、即ちY方向の上側ほど曲率半径Rの内側に曲がり過ぎており、かつ下側ほど内側に曲がり過ぎているので、第1副コイル218aに流す電流を大きく減らし、第1副コイル218bに流す電流を少し減らし、第1副コイル218cおよび第2副コイル224aに流す電流は現状維持し、第2副コイル224bに流す電流を少し減らし、第2副コイル224cに流す電流を大きく減らす。これによって、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の中心軌道54の位置を維持しつつ、その形態を中心軸262yに平行なものに近づけることができる。即ち、図9に示す形態に近づけることができる。
図13に示す形態の場合は、イオンビーム50がその進行方向Zに見て逆く字状に近い円弧状に歪んで(曲がって)いて、図12の場合と逆であるので、第1副コイル218a、218b、第2副コイル224b、224cに流す電流の増減を図12の場合と逆にする。これによって、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の中心軌道54の位置を維持しつつ、その形態を中心軸262yに平行なものに近づけることができる。即ち、図9に示す形態に近づけることができる。
図14に示す形態の場合は、イオンビーム50がその進行方向Zに見てく字状に近い円弧状に歪むと共に中心軌道54が曲率半径Rの外側にずれているので、即ちY方向の上下端付近が曲率半径Rの内側に少し曲がり過ぎており、かつ中央付近の曲がりが少し不足しているので、第1副コイル218aに流す電流を少し減らし、第1副コイル218bに流す電流は現状維持し、第1副コイル218cおよび第2副コイル224aに流す電流を少し増やし、第2副コイル224bに流す電流を現状維持し、第2副コイル224cに流す電流を少し減らす。これによって、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の中心軌道54の位置を正すと共に、その形態を中心軸262yに平行なものに近づけることができる。即ち、図9に示す形態に近づけることができる。
図15に示す形態の場合は、イオンビーム50がその進行方向Zに見て逆く字状に近い円弧状に歪むと共に中心軌道54が曲率半径Rの内側にずれていて、図14の場合と逆であるので、第1副コイル218a、218c、第2副コイル224a、224cに流す電流の増減を図14の場合と逆にする。これによって、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の中心軌道54の位置を正すと共に、その形態を中心軸262yに平行なものに近づけることができる。即ち、図9に示す形態に近づけることができる。
分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態が乱れた場合の主な問題を、図14の形態の場合を例に説明する。
分析電磁石200の下流側には、通常、図1に示した分析スリット290が設けられている。この分析スリット290の一例を図16に示す。分析スリット290のスリット292は直線であるので、図14に示したようにイオンビーム50が歪むと、分析スリット290によってカットされる部分50a、50b、50c(ハッチングを付した部分)が生じ、分析スリット290を通過する所望イオン種のイオンビーム50の量が減る。カットされる部分が生じるから、イオンビーム50の均一性も悪くなる。カットされるのを避けるためにスリット292のX方向の幅SX を広げると、分解能が低下する。
また、所望のイオン種(例えば11B+ )と運動量の近い不所望のイオン種(例えば10B+ )の軌道も同様に弓形に歪むので、本来はスリット292を通過できないものが通過するようになり、この観点からも分解能が低下する。
分析スリット290における上記のような問題以外にも、上記のように歪んだ形状のイオンビーム50を用いて基板60にイオン注入を行うと、注入の均一性が悪くなるという問題が生じる。
上記と同様の問題は、図10〜図13、図15に示す形態の場合にも生じる。このような問題の発生を、上記分析電磁石200またはその制御方法等によって防止することができる。
第1ビーム測定器254からの測定情報D1 に基づいて、例えば図8に示した各副コイル電源252を制御して、上述したような制御を行う磁石制御装置256(図1参照)を備えていても良い。この磁石制御装置256は、複数n2 個(n2 は副コイル電源252の数と同数)の制御信号S1 を出力してそれを各副コイル電源252にそれぞれ与えて各副コイル電源252をそれぞれ制御する。例えば、各副コイル電源252を制御して、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の内で、前記中心軸262yよりも曲率半径Rの内側に曲がり過ぎている部分に対応する第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を減らすことと、当該内側への曲がりが不足している部分に対応する第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を増やすことの少なくとも一方を行って、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態を前記中心軸262yに平行なものに近づける制御を行う。
図1中に示した分析電磁石装置260は、このような磁石制御装置256、上記分析電磁石200、主コイル電源250、副コイル電源252および第1ビーム測定器254を備えている。この分析電磁石装置260によれば、上記のような第1ビーム測定器254および磁石制御装置256を備えているので、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態を傾きがなくかつ真っ直ぐなものに近づける制御を、省力化して行うことができる。
上述したように分析電磁石200から出射するイオンビーム50のX,Y方向の2次元の形態を測定して、当該形態が所望のものになるように、第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を制御する代わりに、またはそれと共に、分析電磁石200内のビーム経路202またはその近傍におけるY方向の磁束密度分布を測定して、ビーム経路202におけるY方向の磁束密度分布が所望のものになるように、第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を制御しても良い。このような制御方法によっても、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態を所望のものに近づけることができる。
また、分析電磁石200内のビーム経路202におけるY方向の磁束密度分布の内で、相対的に磁束密度が大きい領域に対応する第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を減らすことと、相対的に磁束密度が小さい領域に対応する第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を増やすことの少なくとも一方を行って、ビーム経路202におけるY方向の磁束密度分布を均一化するようにしても良い。このような制御方法によっても、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態を、傾きがなくかつ真っ直ぐなものに近づけることができる。
分析電磁石200内のビーム経路202におけるY方向の磁束密度分布は、例えば、イオンビーム50を通していないときに、一つまたは複数の磁場測定器を、ビーム経路202を通るようにY方向に移動させて行っても良い。磁場測定器は、その場所での磁束密度を測定するものであり、例えば磁束計(ガウスメータ)、ホール素子等である。次に述べる磁場測定器258も同様である。
または、図17に示す例のように、分析電磁石200内の真空容器236の側面に(例えば当該側面の内側に、より好ましくは外側に)Y方向に沿って、複数個の磁場測定器258を並べておき、これによって、ビーム経路202またはその近傍におけるY方向の磁束密度分布を測定しても良い。この測定は、イオンビーム50を通しているときにも行うことができる。磁場測定器258をY方向に並べる数は、例えば、第1副コイル218および第2副コイル224の合計数と同数程度あるいはそれ以上にすれば良い。
この磁場測定器258は、厳密に言うと、ビーム経路202から少し離れているので、ビーム経路202そのもののY方向における磁束密度分布を測定するものではないけれども、これには対処方法がある。例えば、上述した移動式の他の磁場測定器で測定したビーム経路202のY方向における磁束密度分布と、この磁場測定器258で測定したY方向における磁束密度分布との相関関係を表す補正係数を予め求めておいて、磁場測定器258による測定結果にこの補正係数を掛けることによって、磁場測定器258を用いてビーム経路202のY方向における磁束密度分布を測定することができる。
更に、上記磁石制御装置256の代わりに、またはそれと共に、磁場測定器258による測定情報に基づいて、上記副コイル電源252を制御して、ビーム経路202におけるY方向の磁束密度分布の内で、相対的に磁束密度が大きい領域に対応する第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を減らすことと、相対的に磁束密度が小さい領域に対応する第1副コイル218および第2副コイル224に流す電流を増やすことの少なくとも一方を行って、ビーム経路202におけるY方向の磁束密度分布を均一化する制御を行う磁石制御装置を備えていても良い。
図1中に示した分析電磁石装置260は、このような磁石制御装置、上記分析電磁石200、主コイル電源250、副コイル電源252および磁場測定器258を備えているものでも良い。この分析電磁石装置260によれば、上記のような磁場測定器258および磁石制御装置を備えているので、分析電磁石200から出射するイオンビーム50の形態を傾きがなくかつ真っ直ぐなものに近づける制御を、省力化して行うことができる。
(3)イオン源100、第2ビーム測定器70、均一化制御装置80について
図1中に示したイオン源100は、その内部でのY方向におけるプラズマ密度分布を制御するプラズマ密度分布制御手段を有しているものが好ましい。そのような制御手段を有しているイオン源100の一例を図18に示す。
このイオン源100は、アノードを兼ねていて内部でプラズマ108を生成するための容器であって、Y方向に伸びたイオン引出し口106を有するプラズマ生成容器102を備えている。イオン引出し口106は、例えば、イオン引出しスリットである。プラズマ生成容器102は、例えば、直方体の箱状をしている。このプラズマ生成容器102内には、ガス導入口104から、プラズマ108生成用の原料ガス(蒸気の場合を含む)が導入される。
プラズマ生成容器102内であってイオン引出し口106に対向する側には、プラズマ生成容器102内へ熱電子を放出する複数のフィラメントカソード114が、Y方向に沿って並設されている。フィラメントカソード114の数は、図18に示す3個に限られるものではなく、プラズマ密度分布制御の精密度やイオンビーム50のY方向の寸法WY 等に応じて決めれば良い。このフィラメントカソード114は、プラズマ生成容器102内におけるプラズマ108の生成および当該プラズマ108の密度分布の制御に用いられる。この制御は、例えば、プラズマ108のY方向における密度分布を均一化することである。例えばこの複数のフィラメントカソード114が、更に言えばそれ用の電源116と共に、プラズマ密度分布制御手段を構成している。
各フィラメントカソード114には、フィラメント電流IF をそれぞれ供給して各フィラメントカソード114を加熱する出力可変のフィラメント電源116がそれぞれ接続されている。各フィラメント電源116は、図示例のように直流電源でも良いし、交流電源でも良い。
各フィラメントカソード114とプラズマ生成容器102との間には、フィラメントカソード114から放出された熱電子を加速して、プラズマ生成容器102内に導入された原料ガスを電離させると共にプラズマ生成容器102内でアーク放電を生じさせて、プラズマ108を生成する直流のアーク電源118が、フィラメントカソード114を負極側にして接続されている。アーク電源118は、この実施形態のように複数のフィラメントカソード114に共通のものでも良いし、各フィラメントカソード114とプラズマ生成容器102との間に個別に設けても良い。
各フィラメント電源116の出力を個別に制御(増減)することによって、即ち各フィラメントカソード114に流すフィラメント電流IF を個別に増減させることによって、プラズマ108の濃淡を制御してプラズマ108のY方向における密度分布を制御することができる。アーク電源118を各フィラメントカソード114に対して個別に設けている場合は、各アーク電源118の出力を個別に増減させることによっても、プラズマ108のY方向における密度分布を制御することができる。
イオン引出し口106の出口付近には、プラズマ生成容器102内のプラズマ108からリボン状のイオンビーム50を引き出す引出し電極系110が設けられている。引出し電極系110は、図示例のような1枚の電極に限られるものではない。引出し電極系110は、Y方向に伸びたスリット状の開口112を有している。
図1に示した第2ビーム測定器70は、上記注入位置の下流側近傍(図1の例の場合)または上流側近傍において、イオンビーム50を受けてそのY方向におけるビーム電流密度分布を測定するものである。
第2ビーム測定器70は、この例では、イオンビーム50のビーム電流を測定する多数の測定器(例えばファラデーカップ)をY方向に並設して成る多点ビーム測定器であるが、一つの測定器を移動機構によってY方向に移動させる構造のものでも良い。この第2ビーム測定器70から上記ビーム電流密度分布を表す測定情報D2 が出力され、それが均一化制御装置80に供給される。この測定情報D2 は、複数n3 個(n3 はファラデーカップの数と同数)の測定情報から成る。
均一化制御装置80は、上記測定情報D2 に基づいて、イオン源100のプラズマ密度分布制御手段を制御して、ビーム電流密度が相対的に大きい領域に対応するイオン源内領域におけるプラズマ密度を減少させることと、ビーム電流密度が相対的に小さい領域に対応するイオン源内領域におけるプラズマ密度を増大させることの少なくとも一方を行って、上記注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化する制御を行うことができる。
より具体的には、均一化制御装置80は、複数n4 個(n4 はフィラメントカソード114の数と同数)の制御信号S2 をイオン源100のフィラメント電源116に与えて各フィラメント電源116をそれぞれ制御して、ビーム電流密度が相対的に小さい位置に対応するフィラメントカソード114に流すフィラメント電流IF を相対的に大きくすることと、ビーム電流密度が相対的に大きい位置に対応するフィラメントカソード114に流すフィラメント電流IF を相対的に小さくすることの少なくとも一方を行って、上記注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化する制御を行うことができる。
図1に示すイオン注入装置は、イオン源100内の上記のようなプラズマ密度分布制御手段、第2ビーム測定器70および均一化制御装置80を備えているので、注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化して、基板60に対するイオン注入の均一性を高める制御を省力化して行うことができると共に、基板60に対するイオン注入の均一性をより高めることができる。この効果は、処理対象の基板60ひいてはイオンビーム50のY方向の寸法が大きい場合により顕著になる。即ち、出射するイオンビーム50の形態の乱れが少ない分析電磁石200を備えていることと相俟って、Y方向の寸法の大きい(例えば直径が300mm〜400mm程度の)大型の基板60に対しても、均一性の良いイオン注入を行うことができる。これは、後述するビーム均一化器300を設けた場合にも当てはまる。
均一化制御装置80に、上記のような制御機能の代わりに、他の制御内容によってイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化する制御機能を持たせても良い。例えば、特開2000−315473号公報に記載されているような、ビーム電流の平均値を設定値に近づける制御ルーチンおよびビーム電流を均一化する制御ルーチンを行うことによって、イオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化する制御機能を持たせても良い。
図18に示すイオン源100を改良した図19に示すようなイオン源100を用いても良い。両者の相違点を主体に説明すると、図19に示すイオン源100においては、プラズマ生成容器102の外側に、プラズマ生成容器内にY方向に沿う磁界122を発生させる磁石120が設けられている。磁石120は、例えば、Y方向においてプラズマ生成容器102を挟む両側に磁極を有する電磁石であるが、永久磁石でも良い。磁界122の向きは図示とは逆向きでも良い。
磁界122は、それによってプラズマ生成容器102内の電子を閉じ込めて当該電子がプラズマ生成容器102の壁面に衝突するのを防止して、原料ガスの電離効率を高めてプラズマ密度を高める働きをする。上記のような磁石122の代わりに、プラズマ生成容器102内にY方向に沿うカスプ磁界を発生させる磁石を設けても良い。
プラズマ生成容器102のY方向の両側には、プラズマ生成容器102内へ熱電子を放出する傍熱型カソード124がそれぞれ配置されている。即ち、傍熱型カソード124はこの例では2個設けられている。この傍熱型カソード124は、プラズマ生成容器102内におけるプラズマ108の生成および当該プラズマ108全体の密度の制御に用いられる。この制御は、具体的には、プラズマ108全体の密度を増減させることである。
各傍熱型カソード124は、加熱されることによって熱電子を放出するカソード部材126と、このカソード部材126を加熱するフィラメント128とを有している。このカソード部材126の厚さを大きくすることは容易である。なお、プラズマ生成容器102に対してカソード部材126およびフィラメント128を配置するより具体的な構造は、図19では簡略化して示しているが、例えば特許第3758667号公報等に記載されているような公知の構造を採用すれば良い。
各フィラメント128には、それを加熱するフィラメント電源130がそれぞれ接続されている。各フィラメント電源130は、図示例のように直流電源でも良いし、交流電源でも良い。
各フィラメント128とカソード部材126との間には、フィラメント128から放出された熱電子をカソード部材126に向けて加速して、当該熱電子の衝撃を利用してカソード部材126を加熱する直流のボンバード電源132が、カソード部材126を正極側にしてそれぞれ接続されている。
各カソード部材126とプラズマ生成容器102との間には、カソード部材126から放出された熱電子を加速して、プラズマ生成容器102内に導入された原料ガスを電離させると共にプラズマ生成容器102内でアーク放電を生じさせて、プラズマ108を生成する直流のアーク電源134が、カソード部材126を負極側にしてそれぞれ接続されている。
各電源130、132、134の出力の内の一つ以上を増減させることによって、プラズマ108全体の密度を増減させることができる。
この図19に示したイオン源100においては、傍熱型カソード124を用いてプラズマ108全体の密度を増減させることができる。例えば、アーク電源134の出力電圧は、目的とするイオン種の電離電圧以上(例えば20V〜200V程度)の比較的高い電圧で運転する。そして、例えば、ボンバード電源132の出力電圧を制御(増減)して、プラズマ108全体の密度を増減させる。
これによって、フィラメントカソード114を用いてプラズマ108全体の密度を増大させる必要がなくなるので、フィラメントカソード114にアーク電源118から印加する電圧や各フィラメントカソード114に流すフィラメント電流IF を小さくして、各フィラメントカソード114の消耗を抑えることができる。例えば、アーク電源118の出力電圧は、アーク電源134の出力電圧よりも低い電圧(例えば10V〜60V程度)で運転することができる。
しかも、図18に示したイオン源100の場合と同様に、複数のフィラメントカソード114を用いて、プラズマ108の濃淡を制御してプラズマ108のY方向における密度分布を制御することができる。
その結果、Y方向の寸法WY が大きく、ビーム電流も大きく、かつY方向におけるビーム電流密度分布の均一性の良いイオンビーム50を発生させることができる。しかも、各フィラメントカソード114の消耗を抑えてその寿命を長くすることができると共に、傍熱型カソード124も、それが本来有する特性として、そのカソード部材126の厚さを大きくして寿命を長くすることができるので、カソードの寿命を長くすることができる。
図19に示すイオン源100のようにプラズマ生成容器102のY方向の両側に傍熱型カソード124を配置する代わりに、Y方向の一方側に傍熱型カソード124を配置し、その反対側に、即ちY方向の他方側に、傍熱型カソード124に対向させてプラズマ生成容器102内の電子(主として傍熱型カソード124およびフィラメントカソード114からの熱電子)を反射させる(追い返す)働きをする反射電極を配置しても良い。このような反射電極を設けると、電子は、磁界122の方向を軸として磁界122中で旋回しながら傍熱型カソード124(より具体的にはそのカソード部材126)と反射電極との間を往復運動するようになり、その結果当該電子と原料ガス分子との衝突確率が高くなって原料ガスの電離効率が高まるので、プラズマ108の生成効率が高まる。従って、傍熱型カソード124を片側に設けても、両側に設けた場合に近い効果を奏することができる。
(4)ビーム均一化器300について
図1中に示したビーム均一化器300は、イオンビーム50のY方向における複数箇所の軌道を電界または磁界によってY方向に曲げて、上記注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化するものである。
このビーム均一化器300は、上記加減速器400が設けられている場合は、分析電磁石200と加減速器400との間に配置するのが好ましい。また、分析電磁石200と分析スリット290との間には比較的大きな距離(スペース)が存在している場合が多いので、その場合は、図1に示す例のように、分析電磁石200と分析スリット290との間に配置するのが好ましい。
このようなビーム均一化器300を備えていると、注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化して、基板60に対するイオン注入の均一性をより高めることができる。この効果は、基板60ひいてはイオンビーム50のY方向の寸法が大きい場合により顕著になる。均一化制御装置80を用いて均一化制御を行う場合や、ビーム均一化器300のより具体例として後述する電界レンズ300a、磁界レンズ300b、電磁制御体300cを用いる場合も同様である。
上記第2ビーム測定器70からの測定情報D2 に基づいて、例えば均一化制御装置80によって、ビーム均一化器300を制御して、ビーム電流密度が相対的に大きい領域に到達するイオンビーム50を減少させることと、ビーム電流密度が相対的に小さい領域に到達するイオンビーム50を増大させることの少なくとも一方を行って、上記注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化する制御を行うようにしても良い。そのようにすると、注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化して、基板60に対するイオン注入の均一性を高める制御を省力化して行うことができる。
なお、ビーム均一化器300を制御する均一化制御装置と、前述したイオン源100内のプラズマ密度分布制御手段を制御する均一化制御装置とは、それぞれ別の制御装置でも良いし、一つの均一化制御装置80内に両方の制御機能を持たせていても良い。
次に、ビーム均一化器300のより具体例およびその制御の例について説明する。
ビーム均一化器300として、図20に示すような電界レンズ300aを設けても良い。この電界レンズ300aは、イオンビーム50をX方向において挟んで相対向する電極302の対(電極対)であって、Y方向に多段に配置された複数の(例えば10対の)電極対を有している。各電極302は、図示例では先端付近が半円筒状または半円柱状をしているが、平板電極(平行平板電極)でも良い。相対向して対を成す二つの電極302間は、図20に示すように、電気的に並列接続されている。なお、図20ではこの並列接続のための線がイオンビーム50を横切っているように見えるかも知れないが、これは図示を簡略化したためであり、実際は上記線がイオンビーム50が横切ることはない。
上記各段の電極対と基準電位部(例えば接地電位部)との間に、互いに独立した直流電圧をそれぞれ印加する電界レンズ電源の一例として、この例では、各段の電極対ごとに独立した電圧可変の電界レンズ電源304を設けている。即ち、電極対の数だけ電界レンズ電源304を設けている。但し、そのようにせずに、複数の電源を一つにまとめる等して、一つの電界レンズ電源を用いて、各電極対に印加する直流電圧を互いに独立して制御することができるようにしても良い。
各段の電極対に印加する直流電圧は、正電圧よりも負電圧が好ましい。負電圧にすると、イオンビーム50と共にその周辺に存在するプラズマ中の電子が電極302に引き込まれるのを防止することができる。上記電子を引き込むと、空間電荷効果によるイオンビーム50の発散が大きくなるけれども、これを防止することができる。
各段の電極対に印加する直流電圧を調整することによって、イオンビーム50の経路にY方向に電界EY を生じさせて(図20中の電界EY はその一例を示す)、この電界EY の強さに応じて、イオンビーム50を構成するイオンをY方向に曲げることができる。
従って、上記電界レンズ300aによって、イオンビーム50の任意の領域にあるイオンをY方向に曲げて、イオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を調整してその均一性をより高めることができる。
均一化制御装置80によって、第2ビーム測定器70からの測定情報D2 に基づいて、複数n5 個(n5 は電極対の数と同数)の制御信号S3 を各電界レンズ電源304に与えて各電界レンズ電源304をそれぞれ制御することによって、上記ビーム電流密度分布の均一性向上制御を行うようにしても良い。より具体的には、均一化制御装置80は、ビーム電流密度が他よりも低い低電流密度領域がある場合は、当該低電流密度領域に対応する電界レンズ300a中の領域にその隣から電界EY が向くように、前記低電流密度領域に対応する前記電極対に印加する電圧を下げ、逆の場合は逆にして(即ち、電圧を上げて、上記電界EY が小さくなる、または逆向きになるようにして)、上記注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化する制御を行う。
ビーム均一化器300として、図21に示すような磁界レンズ300bを設けても良い。この磁界レンズ300bは、イオンビーム50をX方向において挟んで相対向する磁極306の対(磁極対)であって、Y方向に多段に配置された複数の(例えば10対の)磁極対および各磁極対をそれぞれ励磁する複数の励磁コイル308を有している。
各磁極306の背後は、ヨーク310で磁気的に接続されている。各磁極306の先端のイオンビーム50の経路は、非磁性材から成る真空容器312で囲まれている。
各磁極対用の励磁コイル308に直流電流をそれぞれ流す複数の磁界レンズ電源314を設けている。即ち、磁極対の数だけ磁界レンズ電源314を設けている。この各電源314は、少なくともその出力電流の大きさが可変である。更に各電源314は、両極性電源にして、出力電流の方向を反転可能にしておくのが好ましい。
図21では配線を簡略化して示しているけれども、対を成す二つの磁極306にそれぞれ巻かれた励磁コイル308は、互いに同一方向に磁界Bを発生させるように互いに直列接続されて磁界レンズ電源314に接続されている。
各段の磁極対の励磁コイル308に流す直流電流を調整して、各段の磁極対で発生させる磁界Bを調整して、イオンビーム50に対してY方向に働くローレンツ力FY (図21中の磁界Bおよびローレンツ力FY はその一例を示す)を調整して、イオンビーム50中のイオンをY方向に曲げることができる。
従って、上記磁界レンズ300bによって、イオンビーム50の任意の領域にあるイオンをY方向に曲げて、イオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を調整してその均一性をより高めることができる。
均一化制御装置80によって、第2ビーム測定器70からの測定情報D2 に基づいて、複数n6 個(n6 は磁極対の数と同数)の制御信号S4 を各磁界レンズ電源314に与えて各磁界レンズ電源314をそれぞれ制御することによって、上記ビーム電流密度分布の均一性向上制御を行うようにしても良い。より具体的には、均一化制御装置80は、ビーム電流密度が他よりも低い低電流密度領域がある場合は、当該低電流密度領域に対応する磁界レンズ300b中の領域にその隣から向かうローレンツ力FY が増大するように、前記低電流密度領域に対応する領域付近の前記磁極対の励磁コイル308に流す電流を調整し、逆の場合は逆にして(即ち、ローレンツ力FY が減少する、または逆向きになるようにして)、上記注入位置でのイオンビーム50のY方向におけるビーム電流密度分布を均一化する。
(5)加減速器400について
図1中に示した加減速器400は、静電界によって、イオンビーム50をX方向に偏向させ、かつ当該イオンビーム50の加速または減速を行うものである。この加減速器400は、後述するエネルギーコンタミネーションの抑制効果をより効果的に発揮させるためには、できるだけ下流側に設けるのが好ましい。図1に示す例では、分析スリット290と上記注入位置、換言すれば分析スリット290と基板駆動装置500との間に設けている。
このような加減速器400を備えていると、当該加減速器400において、イオンビーム50の加減速だけでなく、イオンビーム50をX方向に偏向させることができるので、所望エネルギーのイオンビーム50を選別して導出することができ、エネルギーコンタミネーション(不所望エネルギーイオンの混入)を抑制することができる。しかもこれらの作用を一つの加減速器400において実現することができるので、エネルギー分析器を別に設ける場合に比べて、イオンビーム50の輸送経路を短くすることができ、それによって、イオンビーム50の輸送効率を向上させることができる。特に、イオンビーム50が低エネルギーかつ大電流の場合は、イオンビーム50は輸送中に空間電荷効果によって発散しやすいので、輸送距離を短くする効果は顕著になる。
加減速器400のより具体例を図22に示す。この加減速器400は、イオンビーム50の進行方向に、上流側から第1の電極402、第2の電極404および第3の電極406の順で配列された第1ないし第3の電極402、404、406を有している。電極402および406は、この例では、Y方向に長く伸びていてイオンビーム50を通す開口412、416をそれぞれ有している。電極402はこの例では一つの電極であるが、イオンビーム50をX方向において挟む二つの互いに同電位の電極で構成しても良い。電極406についても同様である。電極404は、Y方向に長く伸びていて、イオンビーム50を通す隙間414を有している。
第1の電極21には、接地電位を基準にして電位V1が与えられる。この電位V1は、通常は正(加速モード時)または負(減速モード時)の高電位である。
なお、各電極402、404、406あるいは後述する各電極体404a、404bに電位を与える場合、それらの電位が0V以外の場合は、各電極等に対応する電圧印加手段(例えば直流電源や、直流電源からの電圧を分圧する分圧抵抗器等。図示省略。以下同じ)から当該電位がそれぞれ与えられる。電位が0Vの場合は、その電極は接地される。
第2の電極404は、通常は第1の電極402と第3の電極406との中間の電位にされる。この第2の電極404は、周知の静電加速管では一つの電極であるが、この例では、イオンビーム50の経路をX方向において挟んで相対向する二つの電極体404a、404bに分けて構成されている。しかも両電極体404a、404bには、互いに異なる電位V2a、V2b(V2a≠V2b)がそれぞれ与えられ、それによってイオンビーム50をX方向に偏向させるようにしている。より具体的には、イオンビーム50を偏向させる方向側の電極体404bに、相手側の電極体404aの電位V2aよりも低い電位V2bを与えるようにしている。即ちV2b<V2aとされる。このような電位を与える手段は前述のとおりである。
電極404を構成する二つの電極体404a、404b間には、イオンビーム50を通す上記隙間414が設けられている。この隙間414は、この例のように、イオンビーム50の偏向方向に曲げておくのが好ましい。より具体的には、偏向後の特定エネルギーを有する、具体的には所望エネルギーを有するイオン418の軌道に沿って曲げておくのが好ましい。そのようにすれば、所望エネルギーを有するイオン418から成るイオンビーム50を効率良く導出することができる。
第3の電極406には、通常は0Vの電位V3が与えられる。即ち接地される。
第2の電極404より下流側の電極406は、この例のように、電極404での偏向後であって特定エネルギー、具体的には所望エネルギーを有するイオン418の軌道に沿って配置しておくのが好ましい。そのようにすれば、所望のエネルギーを有するイオン418を効率良く導出することができると共に、それ以外のエネルギーを有するイオン420、422や中性粒子424を当該電極406で効率良く阻止することができるので、エネルギーコンタミネーションをより効果的に抑制することができる。
第2の電極404を構成する電極体404a、404bとに印加する電位V2aとV2bとの差をどの程度に設定するかは、所望の(目的の)エネルギーを有するイオン418が、当該加減速器400の中心軌道、具体的には偏向機能を有する第2の電極404以降の電極404、406の(より具体的にはそられの隙間414や開口416の)中心軌道を通るように設定すれば良い。
上記各電極および各電極体に与える各電位の例を表2にまとめて示す。例1および例2は、加減速器400でイオンビーム50を加速する加速モード時のものであり、例3はイオンビーム50を減速する減速モード時のものである。例1の場合は30keVの加速エネルギーを、例2の場合は130keVの加速エネルギーを、それぞれ実現することができる。例3の場合は、8keVの減速エネルギーを実現することができる。いずれの場合も、第2の電極404を構成する一方の電極体404bの電位V2bを、相手側の電極体404aの電位V2aよりも低く設定している。
上記加減速器400によれば、二つの電極体404a、404bに分けて構成され、それらに異なる電位V2a、V2bが与えられる第2の電極404の部分でイオンビーム50を偏向させることができる。このときの偏向量は、偏向時のイオンビーム50のエネルギーに依存するので、所望のエネルギーを有するイオン418とそうでないエネルギーを有するイオン420、422とを分離することができる。イオン420は所望エネルギーよりも低エネルギーのイオンであり、イオン418よりも偏向量は大きい。イオン422は所望エネルギーよりも高エネルギーのイオンであり、イオン418よりも偏向量は小さい。中性粒子424は偏向されずに直進するので、これも分離することができる。即ち、この加減速器400は、エネルギー分離作用を奏するので、所望エネルギーのイオン418から成るイオンビーム50を選別して導出することができ、エネルギーコンタミネーションを抑制することができる。所望エネルギーのイオン418以外のイオン420、422や中性粒子424は、この例では、第2の電極404よりも下流側にある電極406に衝突することによって阻止され除去される。
しかも、この加減速器400は、上記のようなエネルギー分離作用と共に、イオンビーム50を加速または減速する本来の作用をも奏し、これらの作用を一つの加減速器400において実現することができるので、エネルギー分離器を別に設けなくて済む。従って、エネルギー分離器を別に設ける場合に比べて、イオンビーム50の輸送距離を短くすることができ、それによってイオンビーム50の輸送効率を向上させることができる。
また、イオンビーム50を電極402と404との間と、電極404と406との間の2段階に分けて加速することができる。表2中の例2はその一例を示す。そして、後段での加速前に(即ちエネルギーの低いときに)イオンビーム50を電極404の部分で偏向させることができるので、全部加速した後に偏向させる場合に比べて、イオンビーム50の偏向が容易になる。より具体的には、電極404を構成する二つの電極体404a、404bに与える電位V2aとV2bとの差が小さくて済むので、当該電極404周りの電気絶縁が容易になる等の利点がある。
また、電極404の下流側の電極406によって、所望エネルギーのイオン418以外のイオンや中性粒子を阻止して除去することができるので、エネルギーコンタミネーションをより効果的に抑制することができる。特に、減速モード時には(表2中の例3参照)、電極402と404間におけるイオンビーム50の減速時に荷電変換によって中性粒子424が発生しやすいことが経験的に分かっているけれども、中性粒子424が多く発生してもこれは直進して電極406に衝突して阻止されるので、加減速器400内において中性粒子424を効果的に除去することができる。
通常、加速モード時において、所望エネルギー以外のエネルギーのイオンが電極に衝突した箇所から電子が高電位側へ放出かつ加速され、そのような加速電子が衝突した電極の部分から、加速電子のエネルギーに相当する高エネルギーのX線が発生する。周知の静電加速管は偏向機能を有していないので、上記加速電子は曲げられずに高電位電極(電極402に相当する電極)にまで到達することができ、当該高電位電極の電位に相当する大きなエネルギーで加速されて高電位電極に衝突し、そこから大きなエネルギーのX線が発生する。
これに対して、この加減速器400のように第2の電極404を二つの電極体404a、404bに分けて構成してそれらに別々の電位を与えて偏向機能を持たせておくと、不所望エネルギーのイオンが衝突した箇所から発生した電子は電極404において曲げられて高電位の電極402にまで到達することができなくなる。具体的には、上記電子は、電極404を構成する二つの電極体404a、404bの内の高電位側の電極体404a側に曲げられて当該電極体404aに衝突する。このときの電子の加速エネルギーは、当該電極体404aの電位に相当するエネルギーであり、高電位の電極402に衝突する場合に比べて小さい。例えば、表2中の例1の場合であれば、衝突電子のエネルギーはほぼ0eVであり、X線は殆ど発生しない。例2の場合は約100keVであり、電極402に衝突する場合の約130keVよりかは小さい。従っていずれの場合にも、周知の静電加速管よりも、それから発生するX線のエネルギーを低くすることができる。
なお、必要に応じて、電極402の上流側や電極406の下流側に更に他の電極を設けても良い。例えば、電極402の上流側に、イオンビーム50の加速または減速用の高電位の電極を設けても良い。電極406の下流側に、下流側からの逆流電子抑制用の負電位の電極を設けても良い。
(6)基板駆動装置500について
図1中に示す基板駆動装置500のより具体例を図23〜図25に示す。
この基板駆動装置500においては、基板60を保持するホルダ502を支持する支持体508が、円板状のターンテーブル512に支持されている。このとき、ターンテーブル512の中心O2 は、ホルダ502の基板保持面504の中心O1 を通過しかつY方向に実質的に平行な仮想の中心軸560上にある(図23参照)。なお、図示されている基板60は、便宜上、ホルダ502とほぼ同じ厚みとしているが、実際には、基板60は非常に薄いので、中心軸560は、実質的に基板60の表面62を通過していると言える。このターンテーブル512は、中心軸560を中心に回転する。
また、必須の構成ではないが、この基板駆動装置500では、オリフラ角制御モータ510が支持体508に内蔵されている。これにより、イオンビーム50に対してホルダ502ひいては基板60を1回走査する毎にオリフラ角を変えて注入を行うステップ注入等を実施できる。オリフラ角とは、基板60に形成されたオリエンテーションフラット(または切り欠き)が、所定方向に対して成す角度を言う。
更に、この基板駆動装置500は、可逆転式の入射角度設定用モータ514および可逆走式のX方向用リニアモータ520を備えている。
入射角度設定用モータ514は、ターンテーブル512に連結されている入射角度設定用回転子516と、この入射角度設定用回転子516に対向し、かつ後述するX方向用走行子528に固定されている入射角度設定用固定子518とを有している。
入射角度設定用回転子516は、ターンテーブル512の外周部の一部に設けられており、Y方向方向に見た場合における形状が、ターンテーブル512の外周面に沿って円弧状に形成されている。
入射角度設定用モータ514が中心軸560を中心にターンテーブル512を回転させると、支持体508を介してターンテーブル512に支持されたホルダ502は、中心軸560を中心に回転させられる。このようにして、ホルダ502の基板保持面504ひいては基板60の表面62に対するイオンビーム50の入射角度θを設定可能となっている。入射角度θは、基板60の表面に立てた垂線562とイオンビーム50の中心軌道54との成す角度である。
X方向用リニアモータ520は、X方向用固定子522と、このX方向用固定子522に対向するX方向用走行子528とを有している。
X方向用固定子522は、X方向に沿う方向に長い固定板524と、この固定板524に固定されていて、X方向に沿う方向に長いガイドレール526とを有している。
X方向用走行子528は、入射角度設定用モータ514を支持しており、ガイドレール526に沿って直線的に往復移動する。
従って、X方向用走行子528がX方向に沿う方向に往復移動すると、ホルダ502および入射角度設定用モータ514が、これに伴ってX方向に直線的に往復移動する。
更に、この基板駆動装置500は、可逆走式のZ方向用リニアモータ530を備えている。
このZ方向用リニアモータ530は、Z方向用固定子532と、このZ方向用固定子532に対向するZ方向用走行子538とを有している。ただし、X方向用固定子522とZ方向用走行子538とを、より具体的には、固定板524とZ方向用走行子538とを一つの部材とすることによって、これらの機能を兼用させるようにしても良い。
Z方向用固定子532は、Z方向に沿う方向に長い固定板534と、この固定板534に固定されていて、Z方向に沿う方向に長いガイドレール536とを有している。
なお、固定板534は、図23に示すように、この実施形態では真空容器570の底面に固定して支持されているが、例えば、固定板534を固定するための架台等を真空容器570内に設けても良い。
Z方向用走行子538は、X方向用リニアモータ520、より具体的には固定板524を支持しており、ガイドレール536に沿ってZ方向およびその逆方向に直線的に往復移動する。
従って、Z方向用走行子538がZ方向およびその逆方向に往復直線移動すると、ホルダ502、入射角度設定用モータ514およびX方向用リニアモータ520が、これに伴ってZ方向およびその逆方向に往復直線移動する。
なお、入射角度設定用モータ514、X方向用リニアモータ520およびZ方向用リニアモータ530は、真空状態に保密される真空容器570内に配置されている。
図24に示すように、真空容器570の外側には、モータ制御装置540が設けられている。このモータ制御装置540は、真空容器570の壁面を貫通するフィールドスルー564を介して、入射角度設定用モータ514を制御すると共に、X方向用リニアモータ520およびZ方向用リニアモータ530を互いに同期して動作させる制御(同期制御)を行うよう、これらと電気的に接続されている。
モータ制御装置540は、それに所望の入射角度θが設定されると、ホルダ502の基板保持面504に対するイオンビーム50の入射角度が当該設定された入射角度θとなるように、入射角度設定用モータ514によってターンテーブル512を回転させる。その後、ホルダ502に保持された基板60に対してイオンビーム50が照射される。これによって、基板60にイオン注入が行われる。
次に、X方向用リニアモータ520およびZ方向用リニアモータ530が、モータ制御装置540によって同期制御される動作を図25を参照しつつ説明する。
X方向用リニアモータ520をX方向に直線移動させる距離を±Δxとし、Z方向用リニアモータ530をZ方向またはその逆方向に直線移動させる距離を±Δzとしたとき、モータ制御装置540は、数2の関係式またはそれと数学的に等価の関係を満たすように、X方向用リニアモータ520およびZ方向用リニアモータ530を同期制御する。
[数2]
±Δz=±Δxtanθ [複号同順]
ここで、Δzは、イオンビーム50の進行方向Zを正、それと反対方向を負としている。Δxは、イオンビーム50の進行方向に見て左方向(図25の上方向)を正、右方向(図25の下方向)を負としている。
X方向用リニアモータ520をX方向に直線移動させる距離およびZ方向用リニアモータ530をZ方向またはそれと逆方向に直線移動させる距離についてより具体的に言えば、それぞれ、X方向用走行子528をX方向用固定子522に対してX方向に直線移動させる距離およびZ方向用走行子538をZ方向用固定子532に対してZ方向またはそれと逆方向に直線移動させる距離である。
モータ制御装置540が、X方向用リニアモータ520およびZ方向用リニアモータ530を上記のように同期制御すると(即ち、両者520、530を同期して動作させると)、ホルダ502は、任意の入射角度θを一定に保った状態で、イオンビーム50の主面52(図2、図3参照)に交差する方向でありかつ当該ホルダ502の基板保持面504に実質的に平行な方向(図1、図25中に矢印Cで示す方向)に、直線的に往復移動(走査)させられる。
従って、ホルダ502ひいては基板60を、任意の入射角度θで走査しても、イオンビーム50の経路上の任意の点(例えば、ある基準位置552)から基板60の表面62までの距離L1 は実質的に一定となる。その結果、イオンビーム50がX方向に幅や発散角αを持っていても、基板60の表面62に照射されるイオンビーム50の照射領域の面積が常に実質的に一定となるので、基板60の表面62に照射されるイオンビーム50のビーム電流密度が基板60の表面内において不均一になることを抑制することができる。その結果、基板60の表面62内におけるイオン注入の均一性をより向上させることができる。この効果は、イオンビーム50のX方向の発散角αが大きい場合や、入射角度θが大きい場合により顕著になる。
更に、ホルダ502を、X方向ならびにZ方向およびその逆方向に移動させることができると共に中心軸560を中心として回転させることができるので、基板60の搬送時における自由度が向上する。即ち、基板60を、搬送しやすい位置まで移動させることが可能となる。
また、ボールネジ等を用いることによって、ホルダ502を上記と同様に走査する装置も考えられるが、それに比べてこの基板駆動装置500のように、X方向用リニアモータ520およびZ方向用リニアモータ530を用いる方が、精度を確保しつつ構造を簡素化できる。また、ネジ部からのパーティクル(汚染粒子)の発生を防止することができる。
しかも、ホルダ502の基板保持面504の中心O1 およびターンテーブル512の中心O2 のいずれも中心軸560上にあるので、中心軸560を中心としてターンテーブル512を回転させるのみで入射角度θを設定できる。即ち、X方向用リニアモータ520またはZ方向用リニアモータ530を動作させる必要がないので、制御が簡単になると共に、構造の簡素化および低コスト化を図ることができる。
ただし、ターンテーブル512の中心O2 が中心軸560とずれている場合であっても、上記作用効果を奏することができる。即ち、ターンテーブル512の中心O2 が中心軸560とずれているとき、ターンテーブル512を回転させると、X方向およびZ方向に沿う方向におけるホルダ502の位置が変わることとなるが、これは、X方向用リニアモータ520およびZ方向用リニアモータ530によって補正可能だからである。
なお、上述の実施形態では、入射角度設定用モータ514をX方向用リニアモータ520が支持し、このX方向用リニアモータ520をZ方向用リニアモータ530が支持しているが、これに限られない。
例えば、X方向用リニアモータ520とZ方向用リニアモータ530とを入れ替えて、入射角度設定用モータ514をZ方向用リニアモータ530が支持し、このZ方向用リニアモータ530をX方向用リニアモータ520が支持していても良い。このとき、Z方向用リニアモータ530は、ホルダ502ならびに入射角度設定用モータ514をZ方向およびその逆方向に移動させることとなる。X方向用リニアモータ520は、真空容器570に固定されていて、ホルダ502、入射角度設定用モータ514およびZ方向用リニアモータ530を、X方向に移動させることとなる。