JP5991254B2 - 軸受鋼の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、軸受鋼なかでも高炭素クロム軸受鋼の製造方法に関し、特に軟化焼鈍工程における処理時間の短縮化と同時に、鋸切性の向上を図ろうとするものである。
ここに、鋸切性とは、鋸切作業に要する作業工数の低さのことを意味し、また作業工数とは、鋸切に要する時間および鋸刃の劣化に伴う鋸刃交換作業時間を意味する。この鋸切性は、鋼材の硬度と強い相関があり、鋼材のビッカース硬度Hvが270以下であれば十分な鋸切性を有していると言える。
従来、軸受鋼の軟化のための球状化焼鈍に際しては、例えば特許文献1に記載されているように、12時間近くもの高温保持が必要であった。そのため、処理時間の短縮化が望まれていた。
特許文献1では、圧延温度を制御することによって処理時間の短縮化を図っている。
また、特許文献2には、Mo含有量が0.08質量%以下の高炭素クロム軸受鋼に対し、第一次球状化処理に引き続いて三回以上の第二次球状化処理を比較的速い加熱速度と冷却速度で実施することにより、合計の処理時間を短縮する方法が提案されている。
さらに、特許文献3には、軸受鋼線材コイルを球状化焼鈍するに当たり、炉内雰囲気を強制的に対流可能な炉を使用し、炭化物の粗大化を均一に行わせることによって加工時間のばらつきを低減する方法が提案されている。
特開平11−286724号公報 特公平6−2898号公報 特開平6−73437号公報
しかしながら、前述した従来技術には、以下に述べるような問題を残していた。
すなわち、特許文献1では、圧延温度が低温になるため圧延機に大きな負荷がかかり、また既存の圧延機の能力が不足している場合には、巨額の設備費用が必要になるため、事実上実現することが困難であった。加えて、熱追従性の観点から直径が60mmまでの比較的細径の棒鋼のみが適用対象となっており、さらなる適用範囲の拡大が望まれていた。
一方、特許文献2では、合計四回以上の加熱保持が必要であり、直径が90mmを上回るような比較的太径の棒鋼では、材料表層部と内部との温度差が著しく、熱の追従を待つ必要が生じるため、結果として非効率的な製造方法となってしまう。
さらに、例えばJIS G 4805に規定されるSUJ4やSUJ5の場合、0.1〜0.25質量%のMoを含有していることから、特許文献2で記載されているような比較的速い加熱速度と冷却速度では、正常な球状化組織が得られず、結果として硬度が軟化しないという問題があった。
また、特許文献3は、790℃で4時間保持後、660℃まで20℃/h(0.006℃/s)で冷却していることから、軟化焼鈍処理に長時間を要しており、そのため製造可能量に限りがあり、大量生産に不向きである、といった問題があった。
近年では、風力発電用の大型軸受部品の需要が高まっており、そのような部品は大型であるため、冷間鍛造ではなく熱間鍛造で製造されるのが一般的であり、この熱間鍛造前には、丸棒の長さを調節するための鋸切断が行われる。この鋸切断の如き加工を行う場合は、上記の特許文献1〜3に記載のような冷間鍛造性を担保するために厳密な条件下で行う、球状化焼鈍を必ずしも必要としていない。むしろ、高まる鋼材需要に対応するために大量生産性が要求され、かような要求と鋸切断性とを両立させることの方が重要になっている。
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、簡便で短時間の軟化焼鈍処理により、十分な鋸切性を発現させることができる高炭素クロム軸受鋼の製造方法を提案することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、高炭素クロム軸受鋼の軟化焼鈍処理について鋭意研究を重ねた結果、二段加熱処理および制御冷却処理を実施することによって、所期した目的が有利に達成されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)C:0.7〜1.3質量%、
Si:0.2〜1.0質量%、
Mn:0.1〜1.5質量%、
Al:0.01〜0.2質量%および
Cr:0.5〜2.5質量%
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる軸受鋼の圧延材に対して、700℃以上の温度域での加熱速度を10〜100℃/hとして720〜850℃の温度域まで加熱し、ついでパーライト変態点以下の温度まで0.05〜0.2℃/sの速度で冷却する、軟化焼鈍を施すことを特徴とする熱間鍛造用軸受鋼の製造方法。
(2)前記圧延材が、直径:90〜450mmの棒鋼であることを特徴とする前記(1)に記載
熱間鍛造用軸受鋼の製造方法。
(3)前記軸受鋼が、さらに
Cu:0.5質量%以下、
Ni:0.5質量%以下および
Mo:0.5質量%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2
)に記載の熱間鍛造用軸受鋼の製造方法。
(4)前記軸受鋼が、さらに
Sb:0.005質量%以下
を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱間鍛造用軸受鋼の製造方法。
本発明に従い、高炭素クロム軸受鋼の軟化焼鈍処理を、適正な条件下での二段加熱処理および制御冷却処理とすることにより、短時間の軟化焼鈍時間で、良好な鋸切性を得るのに必要な硬度を確保することができ、その結果、軸受鋼の生産効率を格段に向上させることができる。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、高炭素クロム軸受鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.7〜1.3%
軸受鋼として必要な十分な強度を確保するためには、0.7%以上のCが必要である。一方1.3%を超えてCを添加した場合には、焼入れ後の残留オーステナイト量が増加して強度の低下を招く。そこで、C量は0.7〜1.3%の範囲とする。
Si:0.2〜1.0%
Siは、脱酸剤として、また固溶強化により鋼の強度を高め、鋼の耐転動疲労特性を向上させるために添加される元素であり、本発明では0.2%以上含有させる。しかし、1.0%を超える添加は、鋼の被削性や鍛造性を劣化させる。また、Siは鋼中の酸素と結合し、酸化物として鋼中に存在することにより転造疲労寿命特性の劣化を招く。さらに、Siが偏析部に濃化した場合には、共晶炭化物を生成し易くする。以上のことから、本発明ではSiの上限は1.0%とする。好ましくは0.3〜0.9%の範囲、さらに好ましくは0.4〜0.8%の範囲である。
Mn:0.1〜1.5%
Mnは、焼入れ性を向上させ、鋼の靱性を高め、鋼の耐転動疲労特性を向上させるために添加される元素であり、本発明では0.1%以上含有させる。しかし、1.5%を超える添加は、被削性を低下させるだけでなく、焼入れ性が高くなりすぎて冷延後の空冷において硬質のマルテンサイト組織が生成する場合があり、軟化焼鈍を実施しても高度が下がらなくなるおそれがある。以上のことから、本発明ではMnの上限は1.5%とする。好ましくは0.15〜1.4%の範囲、さらに好ましくは0.2〜1.3%の範囲である。
Al:0.01〜0.2%
Alは、脱酸に有効な元素であり、本発明では0.01%以上含有させる。しかし、0.2%を超えて添加すると、粗大な酸化物系介在物が鋼中に存在するようになり、鋼の転動疲労寿命の低下を招く。以上のことから、本発明ではAlの上限は0.2%とする。好ましくは0.012〜0.1%の範囲、さらに好ましくは0.015〜0.05%の範囲である。
Cr:0.5〜2.5%
Crは、焼入れ性を高めると共に、軟化焼鈍時には炭化物の球状化を促進するので、本発明では少なくとも0.5%含有させるものとした。しかしながら、2.5%を超えて過剰に添加すると焼入性が高くなり過ぎ、圧延後の空冷において硬質のマルテンサイト組織が生成し、軟化焼鈍を実施しても硬度が下がらなくなる。この観点から、Cr量は0.5〜2.5%の範囲とする。好ましくは0.6〜2.4%の範囲である。
以上、基本成分について説明したが、本発明では、必要に応じて、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下およびMo:0.5%以下のうちから選んだ1種または2種以上
Cu、NiおよびMoはいずれも、焼入れ性や焼戻し後の強度を高め、鋼の転動疲労寿命を向上させる元素であり、必要とする強度に応じて適宜選択して添加することができる。このような効果を得るためには、CuおよびNiは0.005%以上、またMoは0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、Cu、NiおよびMoはそれぞれ0.5%を超えて添加すると、却って鋼の鍛造性が劣化するため、含有量の上限値はいずれも0.5%とする。より好ましい上限値は0.4%である。
Sb:0.005%以下
Sbは、熱処理時の表層脱炭を抑制するために、必要に応じて添加することができる。この効果を得るためには、0.0001%以上含有させることが好ましい。しかし、0.005%を超えて添加しても表層脱炭の抑制効果は飽和するので、Sbは0.005%以下で含有させることが好ましい。より好ましくは0.0004〜0.004%の範囲、さらに好ましくは0.001〜0.0035%の範囲である。
上記以外の残部組成は、Feおよび不可避的不純物である。
次に、本発明の熱処理条件の限定理由について説明する。
700℃までの加熱速度
高炭素クロム軸受鋼を加熱する際、材料表層部と内部との温度差が大きいと円周方向にわたって熱応力が発生し、割れの懸念が発生する。特に熱応力が高くなる温度は変態温度付近であるため、当該温度付近では徐加熱により、表面温度と内部温度との差を小さくしなければならない。この点、700℃までの温度域は大きな熱応力は発生せず割れのおそれはない。従って、700℃までの加熱速度は特に制限されることはなく、急速加熱を実施することもできる。ここに、700℃までは20〜150℃/hの速度で昇熱することが好ましい。より好ましくは50〜150℃/hの速度範囲である。なお、加熱速度は、平均の加熱速度である。
700℃以上の温度域を10〜100℃/hの速度で徐熱し、720〜850℃の温度域まで加熱
高炭素クロム軸受鋼を軟化するには、層状パーライトラメラーを崩して球状化を促進させる必要があり、そのための好適温度範囲は720〜850℃である。また、700℃から当該温度範囲は変態温度域でもあるため、熱応力が高くなる 。そこで、700℃以上の温度域での加熱速度を10〜100℃/hとし、720〜850℃の温度域まで徐熱を行う。球状化促進および熱応力の観点から、より好ましくは10〜80℃/hの加熱速度で720〜830℃まで徐熱する処理である。なお、加熱速度は、平均の加熱速度である。
720〜850℃の温度域での保持
上述したように、層状パーライトラメラーを崩して球状化を促進させるために、720〜850℃の温度域まで10〜100℃/hの徐加熱を行い、かかる徐加熱により所望の球状化は達成される。より球状化を促進させるためには、この温度域で保持処理を行っても良い。
パーライト変態点以下の温度まで0.02〜0.2℃/sの速度で徐冷
上記の徐熱処理または保持処理によって、パーライトラメラーは崩れて球状化が促進されるが、その後の冷却速度が速くなり過ぎると、新たなパーライトラメラーが再び生成し、硬度を高めてしまう。一方、冷却速度が過度に遅いと冷却処理に膨大な時間を要し、非効率的な操業となってしまう。そこで、徐冷速度は0.02〜0.2℃/sの範囲に限定する。より好ましくは0.05〜0.15℃/sの速度範囲である。なお、冷却速度は、平均の冷却速度である。
また、変態が終了した後は組織変化がないため、硬度も変化しない。従って、徐冷停止温度はパーライト変態点以下とする。好ましくは700℃以下である。さらに好ましくは680℃以下である。
上記の制御冷却によってパーライト変態点以下まで徐冷したのち冷却処理については、特に制限はなく、そのままの速度で冷却してもよいが、処理時間の短縮化のためには高速で冷却することが好ましい。但し、あまりに高速だと鋼材に反りや曲がりが生じるおそれがあるので、冷却速度の上限は100℃/sとすることが好ましい。なお、冷却速度は、平均の冷却速度である。
以下、実施例に従って、本発明の構成および作用効果をより具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)からなる鋼片を、加熱(鋼片加熱)して90〜450mm丸断面の棒鋼に熱間圧延して、軟化焼鈍用の試料とした。ついで、得られた試料に対し、表2に示す条件で軟化焼鈍を実施したのち、ビッカース硬度を測定した。軟化焼鈍の際の加熱は、常温の試料を第1の加熱温度まで第1の加熱速度で加熱する第1の加熱処理を行い、ついで第1の加熱温度から第2の加熱温度まで第2の加熱速度で加熱する第2の加熱処理を行った。硬度の測定は9.8N(10kgf)の荷重にて20点実施し、その平均値をビッカース硬度Hvとした。
なお、表2中のいずれの実験例についてもパーライト変態温度は700〜650℃の範囲である。
得られた結果を表2に併せて示す。
Figure 0005991254
Figure 0005991254
表2に示したとおり、本発明に従う発明例はいずれも、簡便な方法で軟化焼鈍後のビッカース硬度Hvが270以下まで低減しており、鋸切性に優れていることが分かる。

Claims (4)

  1. C:0.7〜1.3質量%、
    Si:0.2〜1.0質量%、
    Mn:0.1〜1.5質量%、
    Al:0.01〜0.2質量%および
    Cr:0.5〜2.5質量%
    を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる軸受鋼の圧延材に対して、700℃以上の温度域での加熱速度を10〜100℃/hとして720〜850℃の温度域まで加熱し、ついでパーライト変態点以下の温度まで0.05〜0.2℃/sの速度で冷却する、軟化焼鈍を施すことを特徴とする熱間鍛造用軸受鋼の製造方法。
  2. 前記圧延材が、直径:90〜450mmの棒鋼であることを特徴とする請求項1に記載の熱間鍛造用軸受鋼の製造方法。
  3. 前記軸受鋼が、さらに
    Cu:0.5質量%以下、
    Ni:0.5質量%以下および
    Mo:0.5質量%以下
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱間鍛造用軸受鋼の製造方法。
  4. 前記軸受鋼が、さらに
    Sb:0.005質量%以下
    を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱間鍛造用軸受鋼の製造方法。
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