以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。以下では、車両用高さ調整装置として、路面が平坦なときに台車に対する車体の高さを自動的に調整する作用としてのレベル調整制御作用を説明するが、例えば車両が左右方向に傾斜している場合であっても同様にレベル調整制御作用が働くことは言うまでもない。また、このように、車両用高さ調整装置をレベル調整制御に用いられるものとして説明するが、これは車体傾斜システムにも利用することができ、その意味では、広義の車体傾斜制御装置に相当するものである。
なお、以下では、空気バネに加圧空気が供給されるものとして説明するが、ここでの空気は、外気の他に、乾燥空気、あるいは窒素と酸素の成分比を適当に変更した気体、適当な不活性ガス等を添加した気体等であってもよい。
また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、車両用高さ調整装置40,41が用いられる車両10の構成を説明する図である。なお、図1には、直交するXYZ方向が示されている。X方向が車両10の幅方向である左右方向、Y方向が車体の長手方向であり、Z方向が車両10の高さ方向である。
車両10は、路面12の上に敷設されるレール14,15の上を回転する車輪16,17を備える台車18と、乗客等が利用する車体20と、台車18と車体20の間に設けられる空気バネ22,23と、台車18と車体20との間に設けられるリンク機構24,25と、車両用高さ調整装置40,41を含んで構成される。1両の車両について、その前後左右に空気バネとそれに対応するリンク機構と車両用高さ調整装置がそれぞれ設けられるが、図1では、そのうちの左右の2つの空気バネ22,23とリンク機構24,25と車両用高さ調整装置40,41についてのみ図示されている。
図1では、3つの図が並べられている。真ん中の図が、台車18に対し車体20の高さである車高値hが予め定めた一定値h0となっている状態を示し、左の図は、車高値h1が一定値h0よりも低い状態、右の図は、車高値h2が一定値h0よりも高い状態を示す。このように、台車18に対し車体20の高さがあらかじめ定めた高さより全体的に高くなったり低くなったりする場合に、予め定めた高さに戻すようにする調整がレベル調整制御である。図1の例では、低い車高値h1に対応して空気バネ22,23が伸長され、高い車高値h2に対応して空気バネ22,23が縮小され、いずれもが車高値がh0となるように、レベル調整制御が行なわれる。レベル調整制御は、リンク機構24,25と、車両用高さ調整装置40,41の機能によって行なわれる。
なお、図1に示されるように、空気バネ22,23とリンク機構24,25と車両用高さ調整装置40,41は、車両10の幅方向である左右方向に対称に設けられるので、以下では、空気バネ22、リンク機構24、車両用高さ調整装置40に代表させて説明を続けるものとする。
リンク機構24は、台車18に対し回動可能に一方端が支持される台車側アームと、車体20に対し回転可能に他方端が支持される車体側アームであるレバーと、台車側アームの他方端と車体側アームの一方端が相互に回動可能に接続される機構で、台車18に対する車体20の高さ位置が変わると、リンク機構24のリンク形状が変化し、その形状変化は、台車18に対する車体20の高さによって一意に定まる。そこで、例えば、予め定められた車体20の基準面に対する車体側アームの傾斜角度を、台車に対する車体の高さに対応する高さ対応値として用いることができる。その意味から、リンク機構24は、高さ対応値を車高値として提供することができる車高検出器である。
車両用高さ調整装置40は、リンク機構24の傾斜角度に基いて機械的に駆動され、空気バネ22に接続される負荷ポートと、気体供給源26に接続される給気ポートと、大気に開放される排気ポートを有する一種の三方弁で、後述するように、スプール・スリーブ型弁と給気開閉弁とを一体化した構造を有する。気体供給源26は加圧気体供給装置で、例えばコンプレッサで構成できる。
操作部70は、リンク機構24の傾斜角度の変化をスプールの直進運動に変換して、スプールを機械的に駆動する機構である。給排気路28は、車両用高さ調整装置40の負荷ポートと空気バネ22とを接続する流路部材である。大気開放口30は、車両用高さ調整装置40の排気ポートに接続される開口部である。なお、これらに対応し、車両用高さ調整装置41には、操作部71、給排気路29、大気開放口31が備えられる。
本発明が解決しようとする課題を明確にするために、まず、図2から図8を用いて、従来技術における車両用高さ調整装置140の構成と作用を説明する。その後に、図1に用いられている車両用高さ調整装置40の構成と作用を説明する。
図2は、従来技術における車両用高さ調整装置140の構成を示す断面図である。この車両用高さ調整装置140は、X方向に沿って、+X方向から−X方向に向かって、給気開閉弁60、スリーブ44とスプール50を含むスプール・スリーブ機構、操作部70が設けられ、これらが外側ケース42に納められる複合弁である。
外側ケース42には、供給圧力PSを有する気体を供給する気体供給源26に接続される給気接続口と、制御圧力PAを有する気体で満たされる空気バネ22に連通する給排気路28に接続される負荷接続口と、図2でEXとして示され、大気開放口30に接続される排気接続口が設けられる。
給気開閉弁60は、気体供給源26に接続される給気接続口とスプール・スリーブ機構との間に配置され、給気接続口とスプール・スリーブ機構との間の連通を開閉する機能を有する弁である。給気開閉弁60は、車両用高さ調整装置40の外側ケース42の一部を構成する筒状の開閉弁本体と、その内部空間に収納されるようにして配置される弁体機構を含んで構成される。
弁体機構は、両側に円板を有し、その円板の間に弱いバネ定数のコイルバネ66が取り付けられるバネ付双方向弁体である。具体的には、弁体機構は、給気接続口側の円板である給気側弁体62と、スプール・スリーブ機構側の円板である開閉弁弁体64と、給気側弁体62と開閉弁弁体64とを接続する付勢手段であるコイルバネ66を含んで構成される。コイルバネ66は、給気側弁体62と開閉弁弁体64に対し、互いに引き離す方向に付勢力を与える。
給気側弁体62は、開閉弁本体の内部空間の圧力が供給圧力PSよりも高くなった場合に、逆流を防止する逆止弁の機能を有し、開閉弁本体の一方端側の開口部である供給ポートを塞げる大きさの外形を有する円板である。
開閉弁弁体64は、中立状態では、後述するスリーブ44の開閉弁端側に設けられる円環状の突出部によって囲まれる開口部である開閉弁側開口部を塞げる大きさの外形を有する円板である。開閉弁弁体64は、コイルバネ66によって開閉弁本体の他方端側に向かうように付勢されるので、中立状態では、開閉弁弁体64は、スリーブ44の開閉弁端側の突出部に押し付けられる。
また、スプール50とスリーブ44が中立状態のときは、スプール50の開閉弁端側に設けられる円環状の突出部もちょうどスリーブ44の円環状の突出部とX方向の位置が同じとなるように設定されるので、中立状態では、開閉弁弁体64は、スプール50の開閉弁端側の突出部にも同時に押し付けられる。スプール50には、大気開放口30に連通する中心穴52が軸方向に沿って設けられその一端はスプール50の開閉弁側の突出部に開口するので、中立状態では、この中心穴も開閉弁弁体64によって塞がれる。つまり、中立状態では、開閉弁弁体64によって、スリーブ44の内部空間に供給圧力PSを有する気体が入り込まないようになっており、また、スリーブ44の内部空間が大気に開放されないようになっている。
スプール・スリーブ機構は、軸方向であるX方向に沿って移動可能なスプール50と、スプール50を摺動可能に支持するスリーブ44とを含んで構成される。スリーブ44は外側ケース42に固定して支持される。ここでは、大気開放口30に連通する中心穴52がスプール50に設けられ、空気バネ22に接続される給排気路28に連通する負荷ポート56がスリーブ44に設けられる様子が示されている。
操作部70は、車両用高さ調整装置40の外側ケース42に回転可能に取り付けられた略円筒状の部材72と、スプール50に取り付けられる移動板部76と、略円筒状の部材72に設けられる偏心ピン74と、移動板部76に設けられる案内溝78を含んで構成される。図2では、操作部70の正面図が示されているが、図3には、その斜視図が、図4には、その平面図が、それぞれ示されている。
略円筒状の部材72の外側ケース42に対する回転中心80の位置に、リンク機構24の車体側アームであるレバーの一方端が固定して取り付けられる。つまり、この操作部70の回転中心80の位置がレバーの車体側取付部である。したがって、車高値hが変化して、レバーの傾斜角度θが変化すると、操作部70は、その回転中心80の周りに傾斜角度θの変化分だけ回転することになる。
操作部70は、レバーの車体側取付部としての機能と共に、レバーの傾斜角度θの変化に対応する回転角度の変化を、スプール・スリーブ機構のスプール50の軸方向であるX方向に沿った直進運動に変換する回転・直進変換機能を有する。
回転・直進変換機能は、略円筒状の部材72に設けられた偏心ピン74と、スプール50の移動板部76に設けられた案内溝78とによって行なわれる。ここで、スプール・スリーブ機構の軸方向であるX方向に垂直で、図2の紙面の上下方向をZ軸、図2の紙面に垂直方向をY方向とすると、操作部70の回転中心80の軸方向は、Y方向に平行な方向である。そして、回転中心80のZ方向の位置は、スプール・スリーブ機構の中心軸上に設定される。偏心ピン74の軸方向もY方向に平行な方向であるが、回転中心80から予め定められた距離だけ偏心して配置される。
このように偏心ピン74が配置されることで、操作部70が回転中心80の周りに回転すると、偏心ピン74がスプール・スリーブ機構の軸方向にほぼ沿って円弧状に移動することになる。スプール50の移動板部76に設けられる案内溝78は偏心ピン74を案内する機能を有するので、偏心ピン74の移動に対応して、移動板部76が移動し、これによって、スプール50は、その軸方向であるX方向に沿って移動することになる。以上が、偏心ピン74と案内溝78を有した移動板部76による回転・直進変換機能の内容である。
このように、操作部70の回転・直進機構を用いて、車高値hの変化に応じて、スプール50がX軸方向に移動することになるが、偏心ピン74と案内溝78の間には適当な遊び隙間が設けられる。この遊び隙間によって、車高値が一定値h0にある中立状態、すなわちニュートラル状態から、車高値hが変化してリンク機構24のレバーが回転しても、すぐにはスプール50が移動を始めない。このように、偏心ピン74と案内溝78との間の遊び隙間は、ニュートラル状態から車高値hが変化したときのスプール50の移動について、不感帯を生成する機能を有する。
上記構成の従来技術の車両用高さ調整装置140の作用、特に、不感帯について、図5から図8を用いて説明する。図5から図7は、開閉弁弁体64、スプール50、スリーブ44、操作部70の部分を抜き出した図である。これらの3つの図は、車高値hが変化して操作部70が動作し、スプール50がスリーブ44に対して移動することで、スリーブ44に設けられた負荷ポート56にどのような流れが生じるかを説明する図である。図8は、車高値hと負荷ポート56における流量Qの関係を示す流量特性の図である。
図5は、ニュートラル状態を示す図である。ニュートラル状態とは、車高値が予め定めた一定値h0のときの中立状態である。この状態では、スリーブ44の円環状の突出部の先端位置と、スプール50の円環状の突出部の先端位置が揃って、双方とも開閉弁弁体64に押し付けられている。したがって、ニュートラル状態では、開閉弁弁体64によって、スリーブ44の内部空間に供給圧力PSを有する気体が入り込まないようになっており、また、スリーブ44の内部空間が大気に開放されないようになっている。
図6は、車高値が一定値h0から沈んだ状態を示す図である。このとき、リンク機構24の形状がニュートラル状態の形状から変化し、レバーの傾斜角度が変化するので、操作部70の略円筒状の部材72が回転する。図6では、車高値の沈んだ量を−Δhとして示され、略円筒状の部材72の回転を時計方向回りの矢印で示されている。略円筒状の部材72は、回転中心80の周りに回転するので、回転中心80から偏心して配置される偏心ピン74は、回転中心80の回りに回転する。その回転で、移動板部76の案内溝78を+X方向に移動させる。これによって、移動板部76と一体化しているスプール50は、スリーブ44に対し、+X方向に移動する。スプール50の+X方向移動によって、開閉弁弁体64がスリーブ44の円環状の突出部から離れる。
これによって、スリーブ44と開閉弁弁体64との間に隙間が生じ、その隙間を通って、供給圧力PSを有する加圧空気が、スリーブ44の内周壁とスプール50の外周壁との間に流れる。流れ込んだ加圧空気は、スリーブ44に設けられた負荷ポート56に流れ込み、給排気路28を介して、空気バネ22に供給される。空気バネ22は、これによって伸長し、車体を持ち上げる。このようにして、沈んだ車体が持ち上げられ、車高値が高くなる。車高値が一定値h0になるまで、加圧空気の供給が続くが、車高値がh0に近づくにつれ、スプール50の+X方向の移動量が少なくなる。そして、車高値がh0となると、図5のニュートラル状態に戻り、加圧空気の供給が止まる。
図7は、車高値が一定値h0から持ち上がった状態を示す図である。このとき、リンク機構24の形状がニュートラル状態の形状から変化し、レバーの傾斜角度が変化するので、操作部70の略円筒状の部材72が回転する。図7では、車高値の上昇量を+Δhとして示され、略円筒状の部材72の回転を反時計方向回りの矢印で示されている。略円筒状の部材72は、回転中心80の周りに回転するので、回転中心80から偏心して配置される偏心ピン74は、回転中心80の回りに回転する。その回転で、移動板部76の案内溝78を−X方向に移動させる。これによって、移動板部76と一体化しているスプール50は、スリーブ44及びスリーブ44に押し付けられている開閉弁弁体64に対し、−X方向に移動して離れる。
これによって、スプール50の中心穴52の開閉弁弁体64の側が開口する。中心穴52は、大気開放口30を介して大気に開放されている。そこで、空気バネ22の内部の空気は、給排気路28を介して、負荷ポート56と、スリーブ44の内周壁とスプール50の外周壁との間と、スプール50の中心穴52を通って、大気に開放される。空気バネ22は、これによって縮小し、車体が沈む。このようにして、持ち上がった車体が沈み出し、車高値が低くなる。車高値が一定値h0になるまで、空気バネ22からの排気が続くが、車高値がh0に近づくにつれ、スプール50の−X方向の移動量が少なくなる。そして、車高値がh0となると、図5のニュートラル状態に戻り、空気バネ22からの排気が止まる。
このように、操作部70は、車高値の変化に応じて、スリーブ44に対しスプール50を相対的に軸方向に移動させる移動機構である。移動機構の機能としては、車高値が予め定めた一定値h0と一致しているニュートラル状態では、開閉弁弁体64がスリーブ44の開閉弁側開口部とスプール50の開閉弁端側とをともに遮蔽しているが、ニュートラル状態からスリーブ44に対しスプール50を開閉弁端側に移動させることで、開閉弁弁体64がコイルバネ66の付勢力に抗しながら給気側弁体62の側に移動させて、気体供給源26と空気バネ22とを連通させる給気モードとする。また、ニュートラル状態からスプール50に対しスリーブ44を相対的に開閉弁端側に移動させる状態とすることで、コイルバネ66の付勢力によって開閉弁弁体64がスリーブ44の開閉弁側開口部を遮蔽すると共に、スプール50の開閉弁端側の排気用開口部と開閉弁弁体64との間に隙間を生じさせて大気開放口30と空気バネ22とを連通させて排気モードとする。
以上が、従来技術の車両用高さ調整装置140の作用である。ここで、図5のニュートラル状態の様子に戻ると、ニュートラル状態において、空気バネ22に加圧空気が供給されないように開閉弁弁体64がスプール50の中心穴52を塞ぎ、空気バネ22が大気に開放されないように、スプール50が開閉弁弁体64に押し付けられていなければならない。このように、ニュートラル状態でスプール50が開閉弁弁体64に押し付けられるようにするには、操作部70において、偏心ピン74を案内溝78に片当たりするようにしておくことになる。図5では、偏心ピン74が案内溝78の+X方向に片当たりしている様子が示されている。このようにすると、ニュートラル状態で偏心ピン74が案内溝78に既に片当たりしているので、ニュートラル状態から偏心ピン74が+X方向に移動すると、直ちに空気バネ22に加圧空気が供給されることになる。
その様子を図8の流量特性において破線で示した。図8の横軸は車高値の変化量Δhで、Δh=0がニュートラル状態である。縦軸は、負荷ポート56を流れる流量Qである。車高値の変化量が+Δhとは、車体が沈んだ状態から持ち上がるときで、このときの流量Qは、供給圧力PSの供給ポート側から制御圧力PAの負荷ポート56に向かって流れる。つまり、空気バネ22に対する給気流量である。車高値の変化量が−Δhとは、車体が持ち上がった状態から沈むときで、このときの流量Qは、制御圧力PAの負荷ポート56から大気開放口30に向かって排気される流れである。つまり、空気バネ22からの排気流量である。
破線は、車高値=0のときから、空気バネに対する給気流量が増加を始めることが示されている。すなわち、従来技術の車両用高さ調整装置140では、車高値と流量との間の特性である流量特性において、車高値についての不感帯がないことになり、誤動作を起こしやすい。
そこで、従来技術では、開閉弁弁体64と、スプール50の先端との間に弾性体142を設けることが行われる。図5から図7には、それぞれ、弾性体142が配置される様子が示されている。このように弾性体142を配置すると、ニュートラル状態で偏心ピン74が案内溝78に既に片当たりしていても、ニュートラル状態から偏心ピン74が+X方向に移動しても、弾性体142の弾性変形分だけ、空気バネ22に加圧空気が供給されるのが遅れることになる。こうして、弾性体142を用いることで、流量特性において、車高値についての不感帯を設けることができる。図8において、実線は、弾性体142を用いたときの流量特性である。
従来技術では、弾性体142を用いて流量特性における車高値についての不感帯を設けているが、その不感帯の量は、弾性体142の弾性変形で定まるので、あまり大きな値とすることが困難で、誤動作を防ぐためには、細心の注意が必要である。これが、本発明の解決しようとする課題である。
図9は、図1における車両用高さ調整装置40の構成を示す断面図である。この車両用高さ調整装置40は、基本構成が図2で説明した従来技術の車両用高さ調整装置140と同じであるが、操作部70に、不感帯生成付勢部100が設けられる点が相違する。この不感帯生成付勢部100は、流量特性における車高値についての不感帯を適切に設ける機能を有する。
不感帯生成付勢部100は、付勢力受部104を有する取付部102と、押付部108を先端に有する押付バネ106を含んで構成される。取付部102は、スプール50と一体化された部材で、押付バネ106の付勢力をスプール50に伝達する機能を有する。押付バネ106は、根元側が外側ケース42に固定され、先端側が押付部108となるコイルバネで、押付部108が根元側に圧縮されることで付勢力を発生する圧縮バネである。
押付バネ106は、ニュートラル状態において、弁体付勢手段であるコイルバネ66の付勢力に釣り合う付勢力で、スプール50を給気開閉弁60の開閉弁弁体64側に押し付ける機能を有する。押付バネ106の付勢力がコイルバネ66の付勢力と釣り合うようにするのは、ニュートラル状態において、押付部108がストッパ110によって+X方向の移動が規制されることで実現される。すなわち、ニュートラル状態では、押付バネ106は、ストッパ110によって定められた長さに圧縮されて、その長さに応じた付勢力を発生する。ここで、ニュートラル状態において押付バネ106が発生する付勢力の大きさが、ニュートラル状態において開閉弁弁体64をスプール50の先端に向かって押し付けるコイルバネ66の付勢力と釣り合うように、ストッパ110の位置、あるいはニュートラル状態における押付バネ106の長さが設定される。
このように、押付バネ106によって、ニュートラル状態でスプール50が開閉弁弁体64に押し付けられるので、従来技術のように、弾性体142を用いる必要がない。また、弾性体142を用いないときの従来技術のように、操作部70において、偏心ピン74を案内溝78に片当たりさせる必要がない。すなわち、押付バネ106を用いることで、ニュートラル状態において、偏心ピン74は、案内溝78の中の任意の位置とすることができ、また、偏心ピン74と案内溝78との間の遊び隙間の大きさをある程度自由に設定できる。例えば、適当な大きさの遊び隙間として、ニュートラル状態において、案内溝78のちょうど中間の位置に偏心ピン74が来るように、スプール50の長さ、リンク機構24の形状等を設定すれば、流量特性における車高値についての不感帯を適切な大きさにすることができる。その意味で、押付バネ106は、適切な不感帯を生成するのに用いられる不感帯付勢手段と呼ぶことができる。
上記構成の車両用高さ調整装置40の作用、特に、不感帯について、図10から図13を用いて説明する。図10から図12は、開閉弁弁体64、スプール50、スリーブ44、操作部70、不感帯生成付勢部100の部分を抜き出した図である。これらの3つの図は、車高値hが変化して操作部70が動作し、スプール50がスリーブ44に対して移動することで、スリーブ44に設けられた負荷ポート56にどのような流れが生じるかを説明する図である。図13は、車高値hと負荷ポート56における流量Qの関係を示す流量特性の図である。
図10から図12において、不感帯生成付勢部100以外の作用は、図5から図7で説明した内容と同様であるので、以下では、不感帯生成付勢部100の作用を中心に説明を進める。
図10は、ニュートラル状態を示す図である。ニュートラル状態において、不感帯生成付勢部100は、コイルバネ66の付勢力に釣り合う付勢力で、スプール50を開閉弁弁体64の側に押し付けている。このとき、操作部70において、偏心ピン74は、案内溝78のちょうど中間の位置に来るように、スプール50の長さ、リンク機構24の形状等が設定されている。これによって、偏心ピン74と案内溝78の間の+X方向の遊び隙間の大きさが、−X方向の遊び隙間の大きさと同じとなっている。
図11は、車高値が一定値h0から沈んだ状態を示す図である。このとき、リンク機構24の形状がニュートラル状態の形状から変化し、レバーの傾斜角度が変化するので、操作部70の略円筒状の部材72が回転する。略円筒状の部材72は、回転中心80の周りに時計方向に回転するので、回転中心80から偏心して配置される偏心ピン74は、回転中心80の回りに回転し、案内溝78の中を+X方向に移動する。
ここで、ニュートラル状態において、偏心ピン74と案内溝78との間には+X方向に予め定めた大きさの遊び隙間が生じるようになっているので、偏心ピン74が移動しても、その移動量がこの遊び隙間の大きさの分に達するまで、移動板部76は動かない状態を維持する。移動板部76が動かなければ、スプール50も動かない。このようにして、車高値の変化に対するスプール50の移動について、+X方向の不感帯が生じる。
図12は、車高値が一定値h0から持ち上がった状態を示す図である。このとき、リンク機構24の形状がニュートラル状態の形状から変化し、レバーの傾斜角度が変化するので、操作部70の略円筒状の部材72が回転する。略円筒状の部材72は、回転中心80の周りに反時計方向に回転するので、回転中心80から偏心して配置される偏心ピン74は、回転中心80の回りに回転し、案内溝78の中を−X方向に移動する。
ここで、ニュートラル状態において、偏心ピン74と案内溝78との間には−X方向に予め定めた大きさの遊び隙間が生じるようになっているので、偏心ピン74が移動しても、その移動量がこの遊び隙間の大きさの分に達するまで、移動板部76は動かない状態を維持する。移動板部76が動かなければ、スプール50も動かない。このようにして、車高値の変化に対するスプール50の移動について、−X方向の不感帯が生じる。
このように、車高値の変化に対するスプール50の移動について、−X方向と+X方向の両方に不感帯が生じる。そして、その不感帯の大きさは、偏心ピン74と案内溝78との間の遊び隙間の大きさの設定で適切に設定できるので、流量特性において、車高値に対する不感帯を適切に設定することができる。図13は、その様子を説明する図である。
図13は、図9の車両用高さ調整装置40の流量特性を示す図である。横軸、縦軸の意味は、図8で説明したものと同様である。横軸において、Δh=0がニュートラル状態である。横軸が+Δhのときの給気流量は、ニュートラル状態から、図8に比較して十分大きな大きさの不感帯をおいてから増加を始める。同様に、横軸が−Δhのときの排気流量は、ニュートラル状態から、図8に比較して十分大きな大きさの不感帯をおいてから増加を始める。また、+Δhにおける不感帯の大きさと−Δhにおける不感帯の大きさを同じとできる。このように、操作部70に不感帯生成付勢部100を設けることで、流量特性における車高値についての不感帯を適切に設定することができる。
上記では、スリーブ44が固定で、スプール50がスリーブ44に対して移動するものとして説明した。これを、スリーブがスプールに対して移動するものとしてもよい。さらには、スリーブとスプールの双方が外側ケース42に対して移動するものとしてもよい。
また、上記では、スプール50がステムとランドの区別を有しない中空管として説明したが、スプールがランドを有し、スプールがスリーブに対し相対的に移動するときのランドと負荷ポートとの間の位置関係を適切に設定するものとしてもよい。
図14に示す車両用高さ調整装置150は、図9で説明した車両用高さ調整装置40の構成に加え、以下の2つの構成を有する。
1つ目は、スリーブ152が、固定スリーブ154と制御スリーブ156の二重構造を有し、さらに、固定スリーブ154に対しスプール158を軸方向に移動駆動するスプールアクチュエータ170を備え、移動機構である操作部70は、スプール158に対し制御スリーブ156を移動駆動する構成である。
2つ目は、スプール158は、小径のステムと大径のランド160とを有し、スリーブの負荷ポート56は、ニュートラル状態のときにスプール158のランド160によって塞がれる位置に配置される。そして、軸方向に沿って負荷ポート56の前後に配置され負荷ポート56を越えて連通部166によって相互に連通する2つの開口部162,164を有する構成である。
図15,16は、1つ目の構成、すなわち、スリーブ152が固定スリーブ154と制御スリーブ156の二重構造である構成の作用を説明する図である。なお、図15、図16では、2つ目の構成を盛り込まずに、1つ目の構成の作用のみが分かるようにした。ここでは、まず、スプールアクチュエータ170を作動させず、スプール158を被移動対象として固定位置をとるものとし、制御スリーブ156を移動対象として、操作部70によって車高値に応じて移動駆動されるものとして説明する。
図15は、車高値が一定値h0から沈んだ状態を示す図である。このとき、リンク機構24の形状がニュートラル状態の形状から変化し、レバーの傾斜角度が変化して、操作部70の略円筒状の部材72が回転し、これによって制御スリーブ156がスプール158に対し、−X方向に移動する。図11に対応する図6と比較すると、操作部70によって移動駆動される対象が異なるので、その移動方向が異なっていることを除くと、制御スリーブ156とスプール158の相対的位置関係の変化は同じである。
したがって、図6で説明したと同様に、制御スリーブ156と開閉弁弁体64との間に隙間が生じ、その隙間を通って、供給圧力PSを有する加圧空気が、制御スリーブ156の内周壁とスプール158の外周壁との間に流れる。流れ込んだ加圧空気は、制御スリーブ156に設けられた負荷ポート56に流れ込み、給排気路28を介して、空気バネ22に供給される。空気バネ22は、これによって伸長し、車体を持ち上げることになる。
図16は、車高値が一定値h0から持ち上がった状態を示す図である。このとき、リンク機構24の形状がニュートラル状態の形状から変化し、レバーの傾斜角度が変化して、操作部70の略円筒状の部材72が回転し、これによって制御スリーブ156がスプール158に対し、+X方向に移動する。図12に対応する図7と比較すると、操作部70によって移動駆動される対象が異なるので、その移動方向が異なっていることを除くと、制御スリーブ156とスプール158の相対的位置関係の変化は同じである。
したがって、図7で説明したと同様に、スプール158の中心穴52の開閉弁弁体64の側が開口し、空気バネ22の内部の空気は、給排気路28を介し、負荷ポート56、スリーブ44の内周壁とスプール158の外周壁との間、スプール158の中心穴52を通って、大気に開放される。空気バネ22は、これによって縮小し、車体が沈む。このようにして、持ち上がった車体が沈み出し、車高値が低くなる。
このように、スプール158の位置を固定とすれば、図6、図7と同様の作用を奏することができる。ここで、スプールアクチュエータ170によってスプール158を固定スリーブ154に対し任意の位置に移動させて、そこで固定すると、スプール158と制御スリーブ156の初期的な相対位置関係であるニュートラル位置を、スプール158の移動量に対応して変更することができる。例えば、スプール158を、+X方向にAmm移動させてそこで固定すると、図15と同様な状態となって、車体を持ち上げるように、空気バネ22に加圧空気が供給される。そして、車高値が高くなって、これによりリンク機構24の形状が変化し、操作部70が回転し、制御スリーブ156を移動させて、加圧空気の供給を減らす。これを繰り返して、最後には、スプール158のAmm移動量に対応する車高値に落ち着いて、加圧空気の供給が止まる。
こうして、スプール158を任意量だけ移動させることで、空気バネ22を任意量だけ持ち上がることができる。逆に、スプール158を−X方向に任意量だけ移動させれば、空気バネ22を任意量だけ沈ませることができる。このように、制御スリーブ156とスプール158の双方を移動可能とすることで、車高値を任意の高さに自動的に昇降させることができる。この機能を用いて、複数の空気バネの高さを個々に制御して、車両の傾斜制御を行うことができる。
図17,18は、2つ目の構成、すなわち、スプール158にランド160を設け、スリーブに負荷ポート56を挟んで互いに連通する2つの開口部162,164を設ける構成の作用を説明する図である。ここでは、制御スリーブ156は固定スリーブ154に固定されるものとして、1つ目の構成の作用が生じないものとして、2つ目の構成の作用を説明する。
図17は、車高値が一定値h0から沈んだ状態を示す図である。ここでは、図15と同様に、スプール158が制御スリーブ156に対して相対的に+X方向に移動するので、制御スリーブ156と開閉弁弁体64との間に隙間が生じ、その隙間を通って、供給圧力PSを有する加圧空気が、制御スリーブ156の内周壁とスプール158の外周壁との間に流れる。一方で、スプール158が制御スリーブ156に対して相対的に+X方向に移動することで、ランド160は、負荷ポート56の+X方向側を塞ぐ。したがって、図15と相違して、加圧空気は開閉弁弁体64の側から直接的には負荷ポート56に流れ込むことができない。図17に示されるように、加圧空気は、開閉弁弁体64の側から、開口部162、連通部166、開口部164を経て、スプール158が制御スリーブ156の間の隙間を通り、負荷ポート56の−X方向側でランド160によって塞がれていない部分から、給排気路28に流れ込む。
図18は、車高値が一定値h0から持ち上がった状態を示す図である。ここでは、図16と同様に、スプール158が制御スリーブ156に対して相対的に−X方向に移動するので、開閉弁弁体64からスプール158が離れ、スプール158の中心穴52が開口する。一方で、スプール158が制御スリーブ156に対して相対的に−X方向に移動することで、ランド160は、負荷ポート56の−X方向側を塞ぐ。したがって、空気バネ22からの排気は、負荷ポート56の+X方向側でランド160によって塞がれていない部分から、制御スリーブ156の内周壁とスプール158の外周壁との間を通り、スプール158の中心穴52に流れる。
このように、2つ目の構成においては、負荷ポート56を流れる加圧空気、排気は、ランド160と負荷ポート56との間の位置関係で決まる開口部を通ることになる。したがって、負荷ポート56の流量Qは、負荷ポート56とランド160の重なりで定まる気体連通面積に比例する。したがって、負荷ポート56の開口部の形状と、ランド160の負荷ポート56に向かい合う遮蔽部の形状との設定によって、Q/Δhを任意に設計することができる。例えば、ランド160と負荷ポート56との間の相対的な位置関係に対し、気体連通面積が線形的に変化するように設計することもでき、気体連通面積が非線形的に変化するように設計することもできる。
図19に、2つ目の構成を用いたときの流量特性を示す。負荷ポート56の開口部の形状と、ランド160の負荷ポート56に向かい合う遮蔽部の形状との設定によって、実線、破線、一点鎖線のように様々なQ/Δh特性を選択することができる。これにより、Q/Δh特性の設計自由度が高まるので、例えば、レベル調整制御、傾斜制御を車両の仕様に合わせきめ細かく設定することが可能となる。