以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物は、
重合活性末端を持つ共役ジエン系共重合体の該重合活性末端に、下記式(1)で表される変性剤を反応させて得られ、ガラス転移温度が−120〜−60℃である(A)変性共役ジエン系重合体と、
ガラス転移温度が−50〜−5℃である(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体と、を含むゴム成分、及び、
(C)シリカ、を含有する。
(式(1)中、R
1〜R
4は、各々独立して、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表し、R
5は炭素数3〜10のアルキレン基を表し、R
6は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、mは1又は2の整数であり、nは2又は3の整数である。)
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物は、ガラス転移温度が−120〜−60℃である(A)成分と、ガラス転移温度が−50〜−5℃である(B)成分を含むゴム成分、及び(C)シリカを含有することで、加硫物とした際に低発熱性とウェットスキッド抵抗性のバランスに優れ、実用上十分な破壊強度を有し、かつ組成物の加工性にも優れている、変性共役ジエン系重合体組成物とすることができる。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物に用いられる、(A)変性共役ジエン系重合体は、好適には、共役ジエン化合物、又は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用いて、重合、又は、共重合することで共役ジエン系重合体を得て、その重合活性末端に下記式(1)で表される変性剤を反応させて得られる。以下、その原料について説明する。
(式(1)中、R
1〜R
4は、各々独立して、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表し、R
5は炭素数3〜10のアルキレン基を表し、R
6は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、mは1又は2の整数であり、nは2又は3の整数である。)
共役ジエン化合物としては、特に限定されず、重合可能な単量体であればよく、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、共役ジエン化合物と共重合可能な単量体であればよく、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、スチレンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態では、上記した共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物以外に、極性基を含有する化合物を共重合させることもできる。極性基を含有する化合物としては、極性基を含有する芳香族ビニル化合物などが挙げられる。極性基を含有する化合物としては、共役ジエン化合物及び/又は芳香族化合物と共重合可能な単量体であればよく、例えば、N,N−ジメチルビニルベンジルアミン、N,N−ジエチルビニルベンジルアミン、4−(2−ピロリジノエチル)スチレン、4−(2−ピペリジノエチル)スチレン、4−(2−ヘキサメチレンイミノエチル)スチレン、4−(2−モルホリノエチル)スチレン、4−(2−チアジノエチル)スチレン等が挙げられる。
重合開始剤として用いるアルカリ金属化合物は、特に限定されないが、有機リチウム化合物が好ましい。有機リチウム化合物としては、低分子の有機リチウム化合物、可溶化したオリゴマーの有機リチウム化合物、有機基とリチウムの結合様式において、炭素−リチウム結合を有する化合物、窒素−リチウム結合を有する化合物、錫−リチウム結合を有する化合物等が挙げられる。
炭素−リチウム結合を有する有機リチウム化合物としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等が挙げられる。
窒素−リチウム結合を有する化合物としては、例えば、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジ−n−ヘキシルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムモルホリド等が挙げられる。
本実施形態では、モノ有機リチウム化合物に加え、多官能有機リチウム化合物を併用して、重合を行うこともできる。多官能有機リチウム化合物としては、例えば、1,4−ジリチオブタン、sec−ブチルリチウムとジイソプロペニルベンゼンの反応物、1,3,5−トリリチオベンゼン、n−ブチルリチウムと1,3−ブタジエン及びジビニルベンゼンの反応物、n−ブチルリチウムとポリアセチレン化合物の反応物等が挙げられる。さらに、米国特許第5,708,092号明細書、英国特許第2,241,239号明細書、米国特許第5,527,753号明細書等に開示されている公知の有機アルカリ金属化合物も使用することができる。
有機リチウム化合物としては、工業的入手の容易さ及び重合反応のコントロールの容易さの観点から、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムが好ましい。これらの有機リチウム化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
他のアルカリ金属化合物としては、例えば、有機ナトリウム化合物、有機カリウム化合物、有機ルビジウム化合物、有機セシウム化合物等が挙げられる。具体的には、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。その他にも、リチウム、ナトリウム及びカリウム等のアルコキサイド、スルフォネート、カーボネート、アミド等が挙げられる。また、他の有機金属化合物と併用してもよい。
重合開始剤として用いるアルカリ土類金属化合物は、特に限定されないが、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機ストロンチウム化合物等が挙げられる。また、アルカリ土類金属のアルコキサイド、スルフォネート、カーボネート、アミド等の化合物等が挙げられる。これらの有機アルカリ土類金属化合物は、上記したアルカリ金属化合物や、その他有機金属化合物と併用してもよい。
共役ジエン系重合体は、上述したアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤とし、アニオン重合反応による成長反応によって得られる重合活性末端を有する重合体であることが好ましい。特に、共役ジエン系重合体は、リビングアニオン重合による成長反応によって得られる重合活性末端を有する重合体であることがより好ましい。これにより、高変性率の変性共役ジエン系重合体を得ることができる。
重合様式としては、特に限定されないが、回分式(「バッチ式」ともいう。)、連続式等の重合様式で行うことができる。連続式においては、1個又は2個以上の連結された反応器を用いることができる。反応器は、撹拌機付きの槽型、管型等のものが用いられる。
共役ジエン系重合体の重合反応においては、極性化合物を添加してもよい。芳香族ビニル化合物を共役ジエン化合物とランダムに共重合させることができ、共役ジエン部のミクロ構造を制御するためのビニル化剤としても用いることができる。また、重合反応の促進効果等もある。
極性化合物としては、特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシベンゼン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン等のエーテル類;N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジピペリジノエタン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジン等の第3級アミン化合物;カリウム−tert−アミラート、カリウム−tert−ブチラート、ナトリウム−tert−ブチラート、ナトリウムアミラート等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物等を用いることができる。これらの極性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
極性化合物の使用量は、特に限定されず、目的等に応じて選択することができる。通常、極性化合物の使用量は、重合開始剤1モルに対して0.01〜100モルであることが好ましい。このような極性化合物は、共役ジエン系重合体中の共役ジエン部分のミクロ構造の調節剤(ビニル化剤)として、所望のビニル結合量に応じて、適量用いることができる。多くの極性化合物は、同時に、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合において有効なランダム化効果を有し、芳香族ビニル化合物の分布の調整やスチレンブロック量といった芳香族ビニル化合物ブロック量の調整を行う調整剤として用いることができる。
共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とをランダム化する方法としては、例えば、特開昭59−140211号公報に記載されているような、芳香族ビニル化合物(スチレン等)の全量と共役ジエン化合物(1,3−ブタジエン等)の一部とで共重合反応を開始させ、共重合反応の途中に残りの共役ジエン化合物(1,3−ブタジエン等)を断続的に添加する方法を用いてもよい。
重合温度は重合反応が進行する温度であれば、特に限定されない。例えば、リビングアニオン重合の場合、通常、生産性の観点から、0℃以上であることが好ましく、重合終了後の重合活性末端に対する変性剤の反応量を充分に確保する観点から、120℃以下であることが好ましい。また、共役ジエン系重合体のコールドフローを防止する観点から、分岐度をコントロールするためにジビニルベンゼン等の多官能芳香族ビニル化合物を用いてもよい。
共役ジエン系重合体の重合反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素系溶媒が挙げられる。具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びそれらの混合物からなる炭化水素等が挙げられる。
以上のような方法で、重合活性末端を有する共役ジエン系重合体を得た後、その重合活性末端に、下記式(1)で表される化合物(以下、「変性剤」という場合がある。)を反応させる変性工程を行うことで、(A)変性共役ジエン系重合体を得ることができる。
(式(1)中、R
1〜R
4は、各々独立して、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表し、R
5は炭素数3〜10のアルキレン基を表し、R
6は炭素数1〜20のアルキレン基を表し、mは1又は2の整数であり、nは2又は3の整数である。)
なお、R1〜R4は、各々独立して、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、その炭素数は1〜10であることがより好ましい。R5、R6のアルキレン基の炭素数は、各々独立して、3〜5であることが好ましい。
上記式(1)で表される変性剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2,2−ジエトキシ−1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2,2−ジメトキシ−1−(4−トリメトキシシリルブチル)−1−アザ−2−シラシクロヘキサン、2,2−ジメトキシ−1−(5−トリメトキシシリルペンチル)−1−アザ−2−シラシクロヘプタン、2,2−ジメトキシ−1−(3−ジメトキシメチルシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2,2−ジエトキシ−1−(3−ジエトキシエチルシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2−メトキシ−2−メチル−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2−エトキシ−2−エチル−1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2−メトキシ−2−メチル−1−(3−ジメトキシメチルシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2−エトキシ−2−エチル−1−(3−ジエトキシエチルシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン等の環状アザシラン化合物が挙げられる。これらの中でも、変性剤の官能基とシリカとの反応性及び相互作用性の観点や、組成物の加工性の観点から、mが2であり、nが3であるものが好ましい。上記の中でも好ましい具体例としては、2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2,2−ジメトキシ−1−(4−トリメトキシシリルブチル)−1−アザ−2−シラシクロヘキサン、2,2−ジエトキシ−1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタンが挙げられる。
上記変性剤を、共役ジエン系重合重合体の重合活性末端に反応させる際の、反応温度、反応時間等については、特に限定されないが、通常、0〜120℃で、30秒以上反応させることが好ましい。
上記変性剤の添加量は、特に限定されないが、重合開始剤のモル数に対して、変性剤中のシリル基に結合したアルコキシ基の合計モル数が、0.6〜3倍となる範囲であることが好ましく、0.8〜2.5倍となる範囲であることがより好ましく、0.8〜2倍となる範囲であることが更に好ましい。得られる変性共役ジエン系重合体が十分な変性率を得る観点から、変性剤の上記割合を0.6倍以上とすることが好ましい。一方、組成物の加工性をより改良するために重合体の重合活性末端同士をカップリングさせ分岐状の変性共役ジエン系重合体を得ることが好ましいため、変性共役ジエン系重合体の分岐度を増大させる観点及び変性剤のコストの観点から、変性剤の上記割合を3倍以下とすることが好ましい。
(A)変性共役ジエン系重合体が共重合体である場合、その構成は特に限定されず、例えば、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
ランダム共重合体としては、例えば、ブタジエン−スチレンランダム共重合体、イソプレン−スチレンランダム共重合体、ブタジエン−イソプレン−スチレンランダム共重合体、ブタジエン−イソプレンランダム共重合体等が挙げられる。共重合体鎖中の各単量体の組成分布としては、特に限定されず、例えば、統計的ランダムな組成に近い完全ランダム共重合体、組成がテーパー状に分布しているテーパー(勾配)ランダム共重合体等が挙げられる。共役ジエンの結合様式、すなわち1,4−結合や1,2−結合等の組成は、均一であってもよいし、分布があってもよい。
ブロック共重合体としては、例えば、ブロックが2個からなる2型ブロック共重合体(ジブロック)、3個からなる3型ブロック共重合体(トリブロック)、4個からなる4型ブロック共重合体(テトラブロック)等が挙げられる。例えば、スチレン等の芳香族ビニル化合物からなるブロックを「S」で表し、ブタジエンやイソプレン等の共役ジエン化合物からなるブロック及び/又は芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体からなるブロックを「B」で表すと、S−Bで表される2型ブロック共重合体、S−B−Sで表される3型ブロック共重合体、S−B−S−Bで表される4型ブロック共重合体等が挙げられる。
上記において、各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はない。例えば、上記ブロックBが芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体である場合、ブロックB中の芳香族ビニル化合物は均一に分布していてもよいし、テーパー状に分布していてもよい。また、ブロックBに、芳香族ビニル化合物が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個共存していてもよい。さらには、ブロックBに、芳香族ビニル化合物含有量が異なるセグメントが複数個共存していてもよい。共重合体中にブロックS、ブロックBがそれぞれ複数存在する場合、それらの分子量や組成等の構造は、同一でもよいし、異なっていてもよい。
より低発熱性の変性共役ジエン系重合体組成物を得る観点からは、(A)変性共役ジエン系重合体は、芳香族ビニル単位が30以上連鎖しているブロックの数が、少ないか又は無いことが好ましい。具体的には、(A)変性共役ジエン系重合体がブタジエン−スチレン共重合体である場合、Kolthoffの方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)により共重合体を分解し、メタノールに不溶なポリスチレン量を分析する公知の方法において、芳香族ビニル単位(この場合はスチレン単位)が30以上連鎖しているブロックの含有量が、重合体の総量に対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
(A)変性共役ジエン系重合体は、不活性溶剤中で更に水素化することによって、二重結合の全部又は一部が飽和結合に変換されたものであってもよい。その場合、耐熱性、耐候性が一層向上し、高温で加工する場合の製品の劣化を防止することができる。
共役ジエン化合物に基づく不飽和二重結合の水素化率(以下、「水添率」という場合がある。)は、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。例えば、本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物を加硫ゴムとして用いる場合には、加硫性の観点から、(A)成分の共役ジエン部の二重結合が部分的に残存していることが好ましい。この場合、(A)変性共役ジエン系重合体が水素化されたものである場合、その重合体中の共役ジエン部の水添率は、3〜70%であることが好ましく、5〜65%であることがより好ましく、10〜60%であることが更に好ましい。なお、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体中の芳香族ビニル化合物に基づく芳香族二重結合の水添率については、特に限定されないが、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であるであることが更に好ましい。水素化率は、核磁気共鳴装置(NMR)により求めることができる。
(A)変性共役ジエン系重合体のガラス転移温度は、−120〜−60℃であり、好ましくは−110〜−70℃である。ガラス転移温度の測定は、ISO 22768:2006に従い、所定の温度範囲で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とする。ガラス転移温度が上記範囲であると、低発熱性とウェットスキッド抵抗性のバランスに優れる加硫物を得ることができる。
ガラス転移温度は、(A)変性共役ジエン系重合体中の結合共役ジエン量と結合芳香族ビニル量の比、及び、共役ジエン結合単位中のビニル結合単位の量を調節することで制御できる。かかる観点から、(A)変性共役ジエン系重合体中の結合共役ジエン量は、75〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることがより好ましい。また、結合芳香族ビニル量は、特に限定されないが、0〜25質量%であることが好ましく、0〜20質量%であることがより好ましい。ここで、結合芳香族ビニル量は、フェニル基の紫外吸光によって測定でき、この値より結合共役ジエン量も求めることができる。具体的には、後述する実施例に従った方法により測定することができる。
また、共役ジエン結合単位中のビニル結合量は、0〜50モル%であることが好ましく、0〜25モル%であることがより好ましい。ここで、変性共役ジエン系重合体がブタジエンとスチレンの共重合体である場合には、ハンプトンの方法(R.R.Hampton,Analytical Chemistry,21,923(1949))により、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)を求めることができる。
本実施形態の効果をより優れたものにする観点から、シリカ粒子充填カラムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定のカラムへの吸着量によって求められる、(A)変性共役ジエン系重合体の変性率(以下、単に「変性率」という場合がある。)、すなわち官能基成分を有する重合体の割合が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上含有する重合体となるように、変性共役ジエン系重合体を製造することが好ましい。官能基成分を有する重合体の定量方法としては、官能基含有の変性成分と非変性成分を分離できるクロマトグラフィーによって測定することができる。このクロマトグラフィーを用いた方法としては、官能基成分を吸着するシリカ等の極性物質を充填剤としたGPCカラムを使用し、非吸着成分の内部標準を比較に用いて定量する方法が挙げられる。
(A)変性共役ジエン系重合体の、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって得られるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、好ましくは20,000〜2,000,000、より好ましくは100,000〜1,000,000、更に好ましくは150,000〜800,000であり、より更に好ましくは200,000〜600,000である。上記下限値以上の分子量とすることで、加硫物としたときの強度を一層向上させることができ、上記上限値以下の分子量とすることで、加工性を一層向上させることができる。また、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、加硫物の物性の観点から、好ましくは1.00〜3.50であり、より好ましくは1.10〜3.00である。
(A)変性共役ジエン系重合体の製造方法においては、変性反応を行った後、重合体溶液に、必要に応じて、失活剤、中和剤等を添加してもよい。失活剤としては、特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等が挙げられる。中和剤としては、特に限定されず、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、バーサチック酸(炭素数9〜11個で、10個を中心とする、分岐の多いカルボン酸混合物)等のカルボン酸;無機酸の水溶液、炭酸ガス等が挙げられる。
また、(A)変性共役ジエン系重合体は、重合後のゲル生成を防止する観点や、加工時の安定性を向上させる観点から、ゴム用安定剤を添加することが好ましい。ゴム用安定剤は、特に限定されず、公知のものを用いることができるが、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェノール)プロピネート、2−メチル−4,6−ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール等の酸化防止剤が好ましい。
さらに、必要に応じて、伸展油を(A)変性共役ジエン系重合体に添加することができる。伸展油を変性共役ジエン系重合体に添加する方法としては、特に限定されないが、伸展油を重合体溶液に加え、混合して、油展重合体溶液としたものを脱溶媒する方法が好ましい。伸展油としては、例えば、アロマ油、ナフテン油、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、環境安全上の観点や、オイルブリード防止及びウェットグリップ特性の観点から、IP346法による多環芳香族(PCA)成分が3質量%以下であるアロマ代替油が好ましい。アロマ代替油としては、Kautschuk Gummi Kunststoffe 52(12)799(1999)に示されるTDAE(Treated Distillate Aromatic Extracts)、MES(Mild Extraction Solvate)等の他、RAE(Residual Aromatic Extracts)等が挙げられる。伸展油の添加量は、特に限定されないが、通常は、(A)変性共役ジエン系重合体100質量部に対し、10〜60質量部であり、20〜37.5質量部が好ましい。
(A)変性共役ジエン系重合体を重合体溶液から取得する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、スチームストリッピング等で溶媒を分離した後、重合体を濾別し、さらにそれを脱水及び乾燥して重合体を取得する方法、フラッシングタンクで濃縮し、さらにベント押出し機等で脱揮する方法、ドラムドライヤー等で直接脱揮する方法等が挙げられる。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物に用いられる、(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体は、ガラス転移温度が−50〜−5℃である。
(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体は、例えば、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体に、極性官能基を導入することで得られる。
共役ジエン化合物としては、特に限定されず、重合可能な単量体であればよく、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、共役ジエン化合物と共重合可能な単量体であればよく、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、スチレンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態では、上記した共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物以外に、極性基を含有する化合物を共重合させることもできる。極性基を含有する化合物としては、極性基を含有する芳香族ビニル化合物などが挙げられる。極性基を含有する化合物としては、共役ジエン化合物及び/又は芳香族化合物と共重合可能な単量体であればよく、例えば、N,N−ジメチルビニルベンジルアミン、N,N−ジエチルビニルベンジルアミン、4−(2−ピロリジノエチル)スチレン、4−(2−ピペリジノエチル)スチレン、4−(2−ヘキサメチレンイミノエチル)スチレン、4−(2−モルホリノエチル)スチレン、4−(2−チアジノエチル)スチレン等が挙げられる。
(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体のガラス転移温度は−50〜−5℃であり、好ましくは−40〜−10℃である。ガラス転移温度は、変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体中の結合共役ジエン量と結合芳香族ビニル量の比、及び、共役ジエン結合単位中のビニル結合単位の量を調節することで制御できる。かかる観点から、(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体中の結合共役ジエン量は、50〜95質量%であることが好ましく、55〜80質量%であることがより好ましい。また、結合芳香族ビニル量は、特に限定されないが、5〜50質量%であることが好ましく、20〜45質量%であることがより好ましい。さらに、共役ジエン結合単位中のビニル結合量は、10〜75モル%であることが好ましく、25〜65モル%であることがより好ましい。
破壊強度の高い組成物が得る観点から、結合芳香族ビニル量が25〜45質量%で、共役ジエン結合単位中のビニル結合量は25〜60モル%であることが好ましい。
(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体の、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって得られるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、好ましくは20,000〜2,000,000、より好ましくは100,000〜1,000,000であり、更に好ましくは200,000〜600,000である。上記下限値以上の分子量とすることで、加硫物としたときの強度を一層向上させることができ、上記上限値以下の分子量とすることで、組成物の加工性を一層向上させることができる。また、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、加硫物の物性の観点から、好ましくは1.00〜3.50であり、より好ましくは1.10〜3.00である。
共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体に極性官能基を導入し、(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体を得る方法としては、例えば、共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体の重合活性末端に、極性官能基を含む変性剤を反応させる方法;極性官能基を含む重合開始剤を用いて共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を共重合させることで、共重合体の末端に極性官能基を導入する方法;共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物の共重合時に、極性官能基を含有する単量体も共重合させることにより、重合体鎖中に極性官能基を導入する方法;共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体にラジカル反応などの後処理を施すことで、極性官能基を重合体鎖にグラフトさせる方法;または、これらの2つあるいはそれ以上の方法の組み合わせ等が挙げられる。これらの中でも、共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体の重合活性末端に極性官能基を含む変性剤を反応させる方法により得られる(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体が、加硫物とした際に低発熱性とウェットスキッド抵抗性のバランスに優れた組成物を得る上で好ましい。
上記の、共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体の重合活性末端に極性官能基を含む変性剤を反応させて得られる(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体について、重合活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体を得る方法としては、例えば、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用いて、重合又は共重合することで、重合活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体を得る方法が挙げられる。
この方法において、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用いて共重合することで、重合活性末端を有する共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体を得る工程は、上述の(A)変性共役ジエン系重合体の製造方法において共役ジエン系重合体を得る工程に準じて行うことができる。
共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体の重合活性末端に反応させる変性剤としては、特に限定されないが、低発熱性とウェットスキッド抵抗性の観点から、シリカとの反応性及び/又は親和性を有する官能基を含む変性剤であることが好ましく、例えば、窒素原子及び/又は酸素原子を有する官能基を含有する変性剤であることが好ましい。さらに、窒素原子及び/又は酸素原子を有する官能基を含有し、かつ、アルコキシシリル基を含有する変性剤であることがより好ましい。
窒素原子及び/又は酸素原子を有する官能基を含有し、かつ、アルコキシシリル基を含有する変性剤としては、例えば、上記式(1)で表される化合物;2つ以上の窒素原子を含む環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシラン;その他の環状アミノ基、非環状アミノ基、イミノ基、イソシアネート基、カルボン酸エステル基、エポキシ基等の官能基を含有するヒドロカルビルオキシシラン;環状アザシランが挙げられる。
上記式(1)で表される化合物の具体例は前述の通りである。
2つ以上の窒素原子を含む環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、例えば、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−3−メチルイミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−メチルヘキサヒドロピリミジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)イミダゾリジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−3−(トリメチルシリル)ヘキサヒドロピリミジン、2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,3−ジメチルイミダゾリジン、2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,3−(ビストリメチルシリル)イミダゾリジン、1,4−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ピペラジン、1,4−ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]等が挙げられる。
その他の環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、例えば、[3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[2−(1−ヘキサメチレンイミノ)エチル]トリエトキシシラン、[2−(1−ヘキサメチレンイミノ)エチル]トリメトキシシラン、[3−(1−ピロリジニル)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(1−ピロリジニル)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(1−ヘプタメチレンイミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(1−ドデカメチレンイミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル]ジエトキシメチルシラン、[3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル]ジエトキシエチルシラン等が挙げられる。
非環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、例えば、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[2−(ジメチルアミノ)エチル]トリエトキシシラン、[2−(ジメチルアミノ)エチル]トリメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]ジエトキシメチルシラン,[3−ジブチルアミノプロピル]トリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジメトキシシラン及びN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
イミノ基を含有するヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、例えば、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルエチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−エチリデン−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルプロピリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(4−N,N−ジメチルアミノベンジリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(シクロヘキシリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4,5−ジヒドロイミダゾール、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−イソプロポキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール,N−(3−メチルジエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール等が挙げられる。
イソシアネート基を有するヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、例えば、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリイソプロポキシシラン、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。
カルボン酸エステル基を含有するヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、例えば、N-(2-メトキシカルボニル)メチル-N-メチル-3-アミノメチルトリメトキシシラン、N-(2-メトキシカルボニル)メチル-N-メチル-3-アミノエチルトリメトキシシラン、N-(2-メトキシカルボニル)メチル-N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-エトキシカルボニル)メチル-N-メチル-3-アミノメチルトリエトキシシラン、N-(2-エトキシカルボニル)メチル-N-メチル-3-アミノエチルトリエキシシラン、N-(2-エトキシカルボニル)メチル-N-メチル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-エトキシカルボニル)エチル-N-トリメチルシリル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
エポキシ基を含有するヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
環状アザシラン化合物の具体例としては、例えば、N−n−ブチル−アザ−2,2−ジメトキシシラシクロペンタン、N−エチル−アザ−2,2−ジエトキシ−4−メチルシラシクロペンタン、N−アリル−アザ−2,2−ジメトキシシラシクロペンタン、1−トリメチルシリル−2,2−ジメトキシ−1−アザ−2−シラシクロペンタン等が挙げられる。
これらの変性剤の中でも、上記式(1)で表される化合物、2つ以上の窒素原子を含む環状アミノ基を有するヒドロカルビルオキシシランが好ましい。これらの中でも好ましい具体例としては、2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、2,2−ジエトキシ−1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン、1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−(トリメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ピペラジン、1,4−ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ピペラジンが挙げられる。
上記変性剤を、重合活性末端に反応させる際の、反応温度、反応時間等については、特に限定されないが、通常、0〜120℃で、30秒以上反応させることが好ましい。
上記変性剤の添加量は、特に限定されないが、重合開始剤のモル数に対して、変性剤中のシリル基に結合したアルコキシ基の合計モル数が、0.6〜5倍となる範囲であることが好ましく、0.8〜3倍となる範囲であることがより好ましく、0.8〜2.5倍となる範囲であることが更に好ましい。得られる変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体が十分な変性率を得る観点から0.6倍以上とすることが好ましく、変性剤のコストの観点から5倍以下とすることが好ましい。
また、コールドフローを抑制するとともに、加工性を改良するため、上記変性剤を反応させる前又は後に、共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体の重合活性末端と上記変性剤以外の多官能性変性剤を反応させることもできる。
多官能性変性剤としては、好適には、エポキシ基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、酸無水物基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、エピチオ基、チオカルボニル基、チオカルボン酸エステル基、ジチオカルボン酸エステル基、チオカルボン酸アミド基、イミノ基、エチレンイミノ基、ハロゲン基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、共役ジエン基、アリールビニル基から選択される1種以上の官能基を有する化合物が用いられる。
なお、官能基のモル数の計算において、エポキシ基、カルボニル基、エピチオ基、チオカルボニル基、イミノ基、エチレンイミノ基、ハロゲン基、共役ジエン基、アリールビニル基、アルコキシシリル基の1個当たりのアルコキシ基は1官能として、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、酸無水物基、チオカルボン酸エステル基、ジチオカルボン酸エステル基、チオカルボン酸アミド基、イソシアネート基、チオイソシアネート基は2官能として、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基は3官能として計算される。ここでいう多官能性変性剤は、1分子中の上記の官能基の官能数の和が2以上のものである。より好ましくは官能数の和が3以上の多官能性変性剤である。
多官能性変性剤としては、具体的には、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル;ジグリシジル化ビスフェノールA等の2個以上のフェニル基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル;1,4−ジグリシジルベンゼン、1,3,5−トリグリシジルベンゼン、ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物;4,4’−ジグリシジル−ジフェニルメチルアミン、4,4’−ジグリシジル−ジベンジルメチルアミン等のエポキシ基含有3級アミン;ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−p−フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミノ化合物;エポキシ変性シリコーン、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ基と他の官能基を有する化合物が挙げられる。
また、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、アルキルトリフェノキシシラン等のアルコキシシラン化合物が挙げられる。
また、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルエタンジイソシアネート、1,3,5−ベンゼントリイソシアネート等のイソシアネート化合物が挙げられる。
また、例えば、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素、モノメチルトリクロロケイ素、モノエチルトリクロロケイ素、モノブチルトリクロロケイ素、モノヘキシルトリクロロケイ素、モノメチルトリブロモケイ素、ビストリクロロシリルエタン等のハロゲン化シラン化合物;モノクロロトリメトキシシラン、モノブロモトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジブロモジメトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリブロモメトキシシラン等のアルコキシハロゲン化シラン化合物等が挙げられる。
また、例えば、四塩化錫、四臭化錫、モノメチルトリクロロ錫、モノエチルトリクロロ錫、モノブチルトリクロロ錫、モノフェニルトリクロロ錫、ビストリクロロスタニルエタン等のハロゲン化錫化合物;トリクロルフォスフィン、トリブロモフォスフィン等のポリハロゲン化リン化合物;トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の亜リン酸エステル化合物;トリメチルフォスフェイト、トリエチルフォスフェイト等のリン酸エステル化合物が挙げられる。
また、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル等のカルボン酸エステル化合物;無水ピロメリット酸、スチレン−無水マレイン酸共重合体等の酸無水物基含有化合物;アジピン酸ビスジメチルアミド、ポリメタクリル酸ジメチルアミド等のアミド基含有化合物;4,4’−ジアセチルベンゾフェノン等のカルボニル基含有化合物;ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルベンゼンオリゴマー等のアリールビニル基含有化合物;トリクロロプロパン、トリブロモプロパン、テトラクロロブタン、3−クロロプロポキシトリメトキシシラン等のハロゲン化炭化水素基含有化合物が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、より好ましい多官能性変性剤としては、シリカとの親和性の大きい官能基を有するものが挙げられ、またカップリングによる分子量の向上効果の大きい4〜6官能のポリエポキシ化合物が挙げられる。更に好ましくは、分子中にアミノ基を含むグリシジル化合物、より更に好ましくは、1分子中にジグリシジルアミノ基を2個又は3個有する化合物である。そのような化合物としては、例えば、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−p−フェニレンジアミン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの多官能性変性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物には、(A)成分及び(B)成分以外のゴム状重合体を併用することができる。すなわち、本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物に用いられるゴム成分には、(A)成分、(B)成分以外のゴム状重合体を配合してもよい。このようなゴム状重合体としては、特に限定されず、例えば、共役ジエン系重合体又はその水素添加物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体又はその水素添加物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのブロック共重合体又はその水素添加物、その他の共役ジエン系共重合体又はその水素添加物、非ジエン系重合体、天然ゴム等が挙げられる。
共役ジエン系重合体又はその水素添加物の具体例としては、ブタジエンゴム又はその水素添加物、イソプレンゴム又はその水素添加物等が挙げられる。共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体又はその水素添加物の具体例としては、スチレン−ブタジエンゴム又はその水素添加物等が挙げられる。共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのブロック共重合体又はその水素添加物の具体例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物、スチレン−イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物等のスチレン系エラストマー等が挙げられる。その他の共役ジエン系共重合体又はその水素添加物の具体例としては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム又はその水素添加物等が挙げられる。
また、非ジエン系重合体としては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテン−ジエンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−ヘキセンゴム、エチレン−オクテンゴム等のオレフィン系エラストマー、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α、β−不飽和ニトリル−アクリル酸エステル−共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
上述した各種ゴム状重合体の重量平均分子量は、性能と加工性のバランスの観点から、2,000〜2,000,000であることが好ましく、5,000〜1,500,000であることがより好ましい。また、低分子量のいわゆる液状ゴムを用いることもできる。これらのゴム状重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物中に含まれるゴム成分100質量部中の(A)変性共役ジエン系重合体と(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体の含有量の総量は、50〜100質量部であることが好ましく、70〜100質量部であることがより好ましい。低発熱性に一層優れた加硫物を得るため、(A)成分と(B)成分の総量は50質量部以上であることが好ましい。また、(B)成分に対する(A)成分の質量比((A)/(B))は、5/95〜70/30であることが好ましく、10/90〜50/50であることがより好ましい。耐摩耗性や強度の観点から、(B)成分に対する(A)成分の質量比((A)/(B))は、5/95以上であることが好ましい。一方、ウェットスキッド抵抗性の観点から、(B)成分に対する(A)成分の質量比((A)/(B))は、50/50以下であることが好ましい。なお、これらのゴム成分に伸展油が添加されている場合には、伸展油分の質量を除いた質量をゴム成分の質量として計算する。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物に用いられる(C)シリカとしては、特に限定されず、乾式シリカ、湿式シリカ、合成ケイ酸塩シリカ等が使用できる。これらの中でも、加硫物とした際の破壊特性果並びにウェットスキッド抵抗性のバランスの観点から、湿式シリカが好ましい。
実用上良好な耐摩耗性や破壊特性を得る観点から、(C)シリカのBET吸着法で求められる窒素吸着比表面積は、100〜300m2/gであることが好ましく、170〜250m2/gであることがより好ましい。また必要に応じて、比較的比表面積が小さい(例えば、比表面積が200m2/g未満のシリカ)と、比較的比表面積の大きい(例えば、200m2/g以上のシリカ)と、を組み合わせて用いることができる。これにより、良好な耐摩耗性、破壊特性及び低発熱性を高度にバランスさせることができる。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物における(C)シリカの含有量は、(A)成分と(B)成分を含むゴム成分100質量部に対し、20〜150質量部であることが好ましく、30〜120質量部がより好ましい。シリカの含有量は、補強効果の発現の観点から、20質量部以上とすることが好ましく、低発熱性の観点から、150質量部以下とすることが好ましい。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物には、カーボンブラックを含有させてもよい。カーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、SRF、FEF、HAF、ISAF、SAF等の各クラスのカーボンブラックが使用できる。これらの中でも、窒素吸着比表面積が50m2/g以上、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が80mL/100g以上のカーボンブラックが好ましい。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物におけるカーボンブラックの含有量は、(A)成分と(B)成分を含むゴム成分100質量部に対し、3〜100質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましい。カーボンブラックの配合量は、ドライグリップ性能や導電性等のタイヤ等の用途に求められる性能を発現する観点から、3質量部以上とすることが好ましく、低発熱性の観点から、100質量部以下とすることが好ましい。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物には、(C)シリカやカーボンブラック以外に、金属酸化物や金属水酸化物を含有させてもよい。金属酸化物としては、例えば、式MxOy(Mは金属原子を表し、x及びyは各々独立して1〜6の整数を表す。)を構成単位の主成分とする固体粒子が挙げられ、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。また、金属酸化物と、金属酸化物以外の他の無機充填剤との混合物を用いることもできる。金属水酸化物としては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物には、シランカップリング剤を含有させてもよい。シランカップリング剤は、(A)成分と(B)成分を含むゴム成分と、(C)シリカとの相互作用を緊密にする機能を有しており、ゴム成分及び(C)シリカのそれぞれに対する親和性及び/又は結合性を有する基を有している。このようなシランカップリング剤としては、一般的には、硫黄結合部分とアルコキシシリル基、シラノール基部分を一分子中に有する化合物が用いられる。具体的には、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−ジスルフィド、ビス−[2−(トリエトキシシリル)−エチル]−テトラスルフィド等が挙げられる。
シランカップリング剤の配合量は、(C)シリカ100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましく、1〜15質量部であることが更に好ましい。シランカップリング剤の配合量が上記範囲であると、シランカップリング剤による上記添加効果を一層顕著なものにできる。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物には、加工性の改良を図るために、ゴム用軟化剤を含有させてもよい。ゴム用軟化剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。ゴム用軟化剤としては、鉱物油、又は液状若しくは低分子量の合成軟化剤が好適である。ゴム成分の軟化、増容、加工性の向上を図るために使用されているプロセスオイル又はエクステンダーオイルと呼ばれる鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環、及びパラフィン鎖の混合物であり、パラフィン鎖の炭素数が全炭素中50%以上を占めるものがパラフィン系と呼ばれ、ナフテン環炭素数が30〜45%のものがナフテン系、芳香族炭素数が30%を超えるものが芳香族系と呼ばれている。ゴム用軟化剤としては、適度な芳香族含量を有するものが、(A)成分や(B)成分との馴染みがよい傾向にあるため好ましい。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物におけるゴム用軟化剤の含有量は、(A)成分と(B)成分を含むゴム成分100質量部に対して、0〜100質量部であることが好ましく、10〜90質量部であることがより好ましく、20〜60質量部であることが更に好ましい。ゴム用軟化剤の含有量がゴム成分100質量部に対して100質量部以下とすることで、ブリードアウトを抑制でき、組成物表面のベタツキを抑制することができる。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物には、本実施形態の目的を損なわない範囲内で、上述した以外のその他の軟化剤及び充填剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、滑剤等の各種添加剤を用いてもよい。
その他の軟化剤としては、公知の軟化剤を用いることができる。
その他の充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、滑剤としては、それぞれ公知の材料を用いることができる。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物に配合する(A)変性共役ジエン系重合体、(B)変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体、その他のゴム状重合体;(C)シリカ、カーボンブラック、その他の充填剤;シランカップリング剤、ゴム用軟化剤等の添加剤等を混合する方法については、特に限定されるものではない。例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解混合後、溶剤を加熱除去する方法等が挙げられる。これらのうち、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機による溶融混練法が、生産性及び良混練性の観点から、好ましい。また、変性共役ジエン系重合体と各種配合剤とを一度に混練する方法、複数の回数に分けて混合する方法のいずれも適用可能である。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体組成物は、加硫剤により加硫処理を施した加硫組成物としてもよい。加硫剤としては、例えば有機過酸化物及びアゾ化合物等のラジカル発生剤、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物、硫黄、硫黄化合物が使用できる。硫黄化合物には、一塩化硫黄、二塩化硫黄、ジスルフィド化合物、高分子多硫化合物等が含まれる。加硫剤の使用量は、通常は、本実施形態の変性共役ジエン系重合体を含むゴム成分100質量部に対して0.01〜20質量部であり、0.1〜15質量部が好ましい。加硫方法としては、従来公知の方法を適用でき、加硫温度は、通常120〜200℃であり、好ましくは140〜180℃である。
また、加硫に際しては、必要に応じて加硫促進剤を用いてもよい。加硫促進剤としては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系等の加硫促進剤が挙げられる。また、加硫助剤としては、亜鉛華、ステアリン酸等を使用できる。加硫促進剤の使用量は、通常、本実施形態の変性共役ジエン系重合体を含有するゴム成分100質量部に対して0.01〜20質量部であり、0.1〜15質量部が好ましい。
以下の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、試料の分析は下記に示す方法により行った。
(1)結合スチレン量
試料100mgをクロロホルムで100mLにメスアップし、クロロホルムに溶解させて測定サンプルとした。測定サンプルについて、スチレンのフェニル基によるUV254nmの吸収により結合スチレン量(質量%)を測定した(島津製作所社製、紫外可視分光光度計「UV−2450」)。
(2)ブタジエン部分のミクロ構造(1,2−ビニル結合量、シス−1,4−結合量)
試料50mgを10mLの二硫化炭素に溶解して測定サンプルとした。溶液セルを用いて、赤外線スペクトルを600〜1000cm-1の範囲で測定して所定の波数における吸光度によりハンプトンの方法の計算式に従いブタジエン部分のミクロ構造を求めた(日本分光社製、フーリエ変換赤外分光光度計「FT−IR230」)。
(3)ムーニー粘度
ムーニー粘度計(上島製作所社製、「VR1132」)を用い、JIS K6300に準拠しL形ロータを用いて、ムーニー粘度を測定した。測定温度は100℃で、まず、試料を1分間予熱した後、2rpmでローターを回転させ、4分後のトルクを測定してムーニー粘度(ML1+4)とした。
(4)ガラス転移温度(Tg)
ISO 22768:2006に準拠して、マックサイエンス社製、示差走査熱量計「DSC3200S」を用い、ヘリウム50mL/分の流通下、−100℃、あるいはガラス転移温度よりも30℃以上低い温度のいずれかの、より低い温度から、20℃/分で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とした。
(5)分子量
ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結したGPC測定装置を使用して、クロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用した検量線に基づいて重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。溶離液はテトラヒドロフラン(THF)を使用した。カラムは、ガードカラム:東ソー社製 TSKguardcolumn HHR−H、カラム:東ソー社製 TSKgel G6000HHR、TSKgel G5000HHR、TSKgel G4000HHRを使用した。オーブン温度40℃、THF流量1.0mL/分の条件で、RI検出器(東ソー社製、「HLC8020」)を用いた。測定用の試料10mgを20mLのTHFに溶解して測定溶液とし、測定溶液200μLをGPC測定装置に注入して測定した。
(6)変性率
シリカ系ゲルを充填剤としたGPCカラムに変性した成分が吸着する特性を応用することにより測定した。試料及び低分子量内部標準ポリスチレンを含む試料溶液を、ポリスチレン系ゲルカラムで測定したクロマトグラムと、シリカ系カラムで測定したクロマトグラムの差分よりシリカカラムへの吸着量を測定し変性率を求めた。
・試料溶液の調製:
試料10mg及び標準ポリスチレン5mgを20mLのTHFに溶解させて、試料溶液とした。
・ポリスチレン系カラムを用いたGPC測定条件:
THFを溶離液として用い、試料溶液200μLを装置に注入して測定した。カラムは、ガードカラム:東ソー社製 TSKguardcolumn HHR−H、カラム:東ソー TSKgel G6000HHR、TSKgel G5000HHR、TSKgel G4000HHRを使用した。カラムオーブン温度40℃、THF流量1.0mL/分の条件で、RI検出器(東ソー社製 「HLC8020」)を用いて測定し、クロマトグラムを得た。
・シリカ系カラムを用いたGPC測定条件:
THFを溶離液として用い、試料溶液200μLを装置に注入して測定した。カラムは、ガードカラム:DIOL 4.6×12.5mm 5micron、カラム:Zorbax PSM−1000S、PSM−300S、PSM−60Sを使用した。カラムオーブン温度40℃、THF流量0.5mL/分で、東ソー社製 「CCP8020シリーズ」 ビルドアップ型GPCシステム:AS−8020、SD−8022、CCPS、CO−8020、RI−8021で、RI検出器を用いて測定し、クロマトグラムを得た。
・変性率の計算方法:
ポリスチレン系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、試料のピーク面積をP1、標準ポリスチレンのピーク面積をP2、シリカ系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、試料のピーク面積をP3、標準ポリスチレンのピーク面積をP4として、下記式より変性率(%)を求めた。
変性率(%)=[1−(P2×P3)/(P1×P4)]×100
(ただし、P1+P2=P3+P4=100)
(製造例1)
内容積10Lで、撹拌機及びジャケットを具備する温度制御が可能なオートクレーブを反応器として使用し、予め不純物を除去した、1,3−ブタジエン1050g、シクロヘキサン4800g、極性物質として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン0.09gを反応器へ入れ、反応器内温を47℃に保持した。重合開始剤として、n−ブチルリチウム16.15mmolを含むシクロヘキサン溶液を反応器に供給した。重合反応開始後、重合による発熱で反応器内の温度は上昇を始め、最終的な反応器内の温度は82℃に達した。反応温度のピーク到達2分後、反応器に変性剤として2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタンを3.23mmol添加し、80℃で5分間変性反応を実施して、変性重合体溶液を得た。
この変性重合体溶液に、酸化防止剤(2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン;BHT)2.1gを添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施して、変性共役ジエン系重合体(試料a)を得た。
試料aを分析した結果、100℃でのムーニー粘度は65、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)は18モル%、ガラス転移温度は−90℃、変性率は88%であった。試料aの分析結果を表1に示した。
(製造例2)
モノマーとして1,3−ブタジエンの添加量を945gとし、スチレンを105g用いて重合を行い、変性剤として2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタンに替えて、2,2−ジメトキシ−1−(4−トリメトキシシリルブチル)−1−アザ−2−シラシクロヘキサンを使用した以外は製造例1と同様にして、変性共役ジエン系重合体(試料b)を得た。
試料bを分析した結果、100℃でのムーニー粘度は60、結合スチレン量は10質量%、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)は17モル%、ガラス転移温度は−75℃、変性率は86%であった。試料bの分析結果を表1に示した。
(製造例3)
内容積10Lで、内部の高さと直径の比(L/D)が4であり、底部に入り口、頂部に出口を有し、撹拌機及び温度調整用のジャケットを有するオートクレーブを2基直列に連結し、1基目を重合反応器として、2基目を変性反応器とした。
予め、水分等の不純物を除去した、1,3−ブタジエンを32.5g/分、n−ヘキサンを138.6g/分、及び重合開始剤としてn−ブチルリチウムを0.964mmol/分の速度で、1基目反応器の底部へ供給し、反応器頂部での反応器内の重合体溶液の温度が100℃となるように重合反応を継続させた。
1基目の反応器頂部より連続的に流出する重合体溶液を2基目の反応器底部に供給し、更に、変性剤として2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタンを0.24mmol/分の速度で2基目反応器の底部から添加し、2基目の反応器内部の重合体溶液の温度を90℃に保ちながら変性反応を実施した。2基目反応器の頂部から流出した変性重合体溶液に酸化防止剤(BHT)のn−ヘキサン溶液を、変性重合体100gあたり酸化防止剤0.2gとなるように連続的に添加し、変性反応を終了させ、その後溶媒を除去し、変性共役ジエン系重合体(試料c)を得た。
試料cを分析した結果、100℃のムーニー粘度は61であった。ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)は13モル%、ガラス転移温度は−94℃、変性率は82%であった。試料cの分析結果を表1に示す。
(製造例4)
n−ブチルリチウムの添加量を6.52mmol、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンの添加量を0.03gとし、変性剤として2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタンに替えて、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシランを4.35mmol添加した以外は製造例1と同様にして、変性共役ジエン系重合体(試料d)を得た。
試料dを分析した結果、100℃でのムーニー粘度は61、ブタジエン結合単位中のビニル結合量は18モル%、ガラス転移温度は−90℃、変性率は89%であった。試料dの分析結果を表2に示した。
(市販品、試料e)
市販の非変性高シスポリブタジエンゴム(宇部興産社製、「UBEPOL BR150」)(試料e)を用意した。試料eの分析結果を表2に示した。
(製造例5)
内容積10Lで、撹拌機及びジャケットを具備する温度制御が可能なオートクレーブを反応器として使用し、予め不純物を除去した、1,3−ブタジエン777g、スチレン273g、シクロヘキサン4800g、極性物質として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン0.63gを反応器へ入れ、反応器内温を42℃に保持した。重合開始剤として、n−ブチルリチウム6.52mmolを含むシクロヘキサン溶液を反応器に供給した。重合反応開始後、重合による発熱で反応器内の温度は上昇を始め、最終的な反応器内の温度は77℃に達した。反応温度のピーク到達2分後、反応器に変性剤として1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジンを3.91mmol添加し、75℃で5分間変性反応を実施して、変性共重合体溶液を得た。
この変性共重合体溶液に、酸化防止剤(2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン;BHT)2.1gを添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、乾燥機により乾燥処理を施して、変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体(試料f)を得た。
試料fを分析した結果、100℃でのムーニー粘度は59、結合スチレン量は26質量%、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)は56モル%、ガラス転移温度は−25℃、変性率は89%であった。試料fの分析結果を表3に示した。
(製造例6)
1,3-ブタジエンの添加量を756g、スチレンの添加量を294g、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンの添加量を1.85g、n−ブチルリチウムの添加量を15.1mmolとし、変性剤として1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジンに替えて2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタンを2.72mmol使用した以外は製造例5と同様にして、変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体(試料g)を得た。
試料gを分析した結果、100℃でのムーニー粘度は62、結合スチレン量は28質量%、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)は60モル%、ガラス転移温度は−19℃、変性率は88%であった。試料gの分析結果を表3に示した。
(製造例7)
1,3-ブタジエンの添加量を892g、スチレンの添加量を158g、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンの添加量を0.52g、とし、変性剤として1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジンに替えて[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシランを3.91mmol使用した以外は製造例5と同様にして、変性共役ジエン−芳香族ビニル系共重合体(試料h)を得た。
試料hを分析した結果、100℃でのムーニー粘度は57、結合スチレン量は15質量%、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−結合量)は52モル%、ガラス転移温度は−42℃、変性率は88%であった。試料hの分析結果を表3に示した。
*1
MSPASP:2,2−ジメトキシ−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−1−アザ−2−シラシクロペンタン
MSBASH:2,2−ジメトキシ−1−(4−トリメトキシシリルブチル)−1−アザ−2−シラシクロヘキサン
DMATMS:[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン
TESMP:1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4−メチルピペラジン
*2
宇部興産社製の非変性高シスポリブタジエンゴム 「UBEPOL BR150」
[実施例1〜5、比較例1,2]
表1〜3に示す試料(試料a〜h)を原料ゴムとして、以下に示す配合に従い、それぞれの原料ゴムを含有するゴム組成物を得た。
変性共役ジエン系重合体(A成分)、変性共役ジエンジエン−芳香族ビニル系共重合体(B成分)の合計:100.0質量部
シリカ(エボニック デグサ社製、Ultrasil 7000GR、窒素吸着比表面積:175m2/g):75.0質量部
カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストKH(N339)):5.0質量部
シランカップリング剤(エボニック デグサ社製、Si75):6.0質量部
S−RAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製、JOMOプロセスNC140):30.0質量部
亜鉛華:2.5質量部
ステアリン酸:2.0質量部
老化防止剤(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン):2.0質量部
硫黄:1.7質量部
加硫促進剤(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフィンアミド):1.7質量部
加硫促進剤(ジフェニルグアニジン):2.0質量部
合計:227.9質量部
上記した材料を下記の方法により混練してゴム組成物を得た。
温度制御装置を具備する密閉混練機(内容量0.3L)を使用し、第一段の混練として、充填率65%、ローター回転数50/57rpmの条件で、原料ゴム(試料a〜h)、充填剤(シリカ、カーボンブラック)、有機シランカップリング剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸を混練した。このとき、密閉混合機の温度を制御し、排出温度は155〜160℃でゴム組成物(配合物)を得た。
次に、第二段の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、老化防止剤を加え、シリカの分散を向上させるため再度混練した。この場合も、混合機の温度制御により、配合物の排出温度を155〜160℃に調整した。冷却後、第三段の混練として、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、加硫促進剤を加えて混練した。その後、成型し、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫した。加硫後、ゴム組成物の物性を測定した。物性測定結果を表4、5に示した。
ゴム組成物の物性は、下記の方法により測定した。
(1)配合物ムーニー粘度
ムーニー粘度計を使用し、JIS K6300−1に準拠してL形ロータを用い、130℃、1分間の予熱を行った後に、ローターを毎分2回転で4分間回転させた後の粘度を測定した。値が小さいほど加工性に優れることを示す。
(2)引張強さ、引張伸び
JIS K6251の引張試験法に準拠して測定し、比較例1の結果を100として指数化した。
(3)粘弾性パラメータ
レオメトリックス・サイエンティフィック社製の粘弾性試験機「ARES」を使用し、ねじりモードで粘弾性パラメータを測定した。各々の測定値は比較例1を100として指数化した。0℃において周波数10Hz、ひずみ1%で測定したtanδをウェットスキッド抵抗性の指標とした。値が大きいほどウェットスキッド抵抗性が良好であることを示す。また、50℃において周波数10Hz、ひずみ3%で測定したtanδを低発熱性の指標とした。値が小さいほど低発熱で、省燃費性能が良好であることを示す。
まず、ガラス転移温度の低い(A)成分として非変性の試料eを用い、ガラス転移温度の高いB成分として、試料fを用いた、比較例1の組成物と比較する。表4に示す通り、(A)成分として式(1)で表される変性剤を用いて変性された試料aを用いた実施例1の変性共役ジエン系重合体組成物は、50℃のtanδが低く低発熱性が実現されているとともに、0℃のtanδが高くウェットスキッド抵抗性に優れており、引張強さ・引張伸び共に優れていることが確認された。また、(B)成分として試料g、hを用いた実施例2、3の変性共役ジエン系重合体組成物においても、50℃のtanδが低く低発熱性が実現されているとともに、ウェットスキッド抵抗性とのバランスに優れており、引張強さ・引張伸び共に優れていることが確認された。また、表4、5に示す通り、(A)成分、(B)成分として異なる試料を用い、配合比率を変えた実施例4及び5においても、優れた低発熱性が実現されているとともに、ウェットスキッド抵抗性とのバランスにも優れ、十分な引張強さ・引張伸びを発現していることが分かる。
次に、ガラス転移温度の低いA成分として式(1)以外の窒素原子とアルコキシシリル基を有する変性剤で変性した試料dを用いた、比較例2の組成物と比較した場合、A成分の種類のみ異なる実施例1と比較例1を比べると、低発熱性、ウェットスキッド抵抗性、引張強さ、引張伸びは同程度であることが分かる。しかしながら、比較例2ではA成分として実施例1の試料aよりも低粘度の試料dを用いているにもかかわらず、配合物粘度は著しく高い。このことから、実施例の組成物が優れた加工性を示すことが分かる。
以上より、各実施例は、いずれも、低発熱性とウェットスキッド抵抗性のバランスに優れ、実用上十分な破壊強度を有し、かつ組成物の加工性にも優れていることが確認された。