本発明は、生体管腔内埋め込み部材および前記生体管腔内埋め込み部材の少なくとも体液と接触する表面の一部に形成される内皮細胞誘導層を有し、前記内皮細胞誘導層は分子内に複数のチオール基を有する化合物を含む生体管腔内埋め込み用デバイスを提供する。本発明の生体管腔内埋め込み用デバイス(以下、単に「本発明のデバイス」または「デバイス」とも称する)は、血液等の体液と接触する表面の少なくとも一部に、分子内に複数のチオール基を有する化合物(以下、単に「チオール基含有化合物」とも称する)を含む内皮細胞誘導層を形成する構造を有することを特徴とする。従来、金属製ステント等の生体内埋込用デバイスは、体内においては異物であるため、表面の細胞による被覆および生体内物質によるカプセル化などを惹起し、免疫反応等が発生しないようにすることが望まれている。しかしながら、薬物等の塗布によっては、より異物反応の惹起などが発生するため、内腔側は金属を露出させているのが現状である。一方、従来の金属製ステントでは、血管内に留置・拡張後の、血栓形成、平滑筋細胞過剰増殖、細胞外マトリックス増生などにより、再狭窄が起こることがあり、その場合、再度血行再建術をしなければならないことが問題となっている。このため、薬剤溶出ステント(drug-eluting stent:DES)により、ステント留置に伴う平滑筋細胞の過剰増殖による血管内再狭窄を抑制・防止することが報告される。しかしながら、薬剤溶出ステントでは、内皮細胞層の形成が阻害され、治癒期間が遅延するという問題がある。さらには、薬剤の溶出が終了した後も、後期ステント血栓症を発症させるといった臨床上の問題もある。このため、より積極的に血管内皮細胞の遊走・増殖を促進するデバイスの開発が求められている。
本発明は、上記構成をとることによって、生体管腔内埋め込み用デバイスを留置した後の内皮細胞の遊走・増殖を促進できる。このため、留置後、デバイス表面に速やかに内皮細胞層が形成されるため、再狭窄や後期ステント血栓症が有効に抑制・防止できる。上記に加えて、内皮細胞誘導層は、生体管腔内埋め込み部材、特にステント等の金属製の生体管腔内埋め込み部材の表面に強固に固定される。このため、本発明のデバイスをカテーテルなどで目的部位に導入する操作中、または本発明のデバイスを生体管腔内に留置した後であっても、内皮細胞誘導層がデバイスから脱落することがほとんどないまたは全くない。ここで、内皮細胞誘導層が内皮細胞の遊走・増殖を促進できる理由、および内皮細胞誘導層が生体管腔内埋め込み部材表面に強固に固定される理由は、明らかではないが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されるものではない。まず、内皮細胞誘導層が内皮細胞の遊走・増殖を促進できる理由については、以下で詳述するように、内皮細胞誘導層は、適度な編み目構造(架橋構造)を有するが、この編み目構造(架橋構造)がデバイス留置後の内皮細胞の増殖や内皮細胞の接着の足場となり、内皮細胞の遊走・増殖を促進する。このため、留置後、デバイス表面に速やかに内皮細胞層が形成するため、再狭窄が有効に抑制・防止できる。また、デバイス留置後、内皮細胞層が速やかにデバイス表面に形成されることによって、デバイスへの血小板の付着(粘着)を抑制・防止するため、後期ステント血栓症の発症も抑制・防止できる。ゆえに、本発明のデバイスを生体管腔内に埋め込む(留置する)ことにより、治癒プロセスを早く進行することが可能になる。
次に、内皮細胞誘導層が生体管腔内埋め込み部材表面に強固に固定される理由については、例えば、ステント等の生体管腔内埋め込み部材が金属からなる場合には、内皮細胞誘導層中のチオール基含有化合物由来のチオール基(−SH基:メルカプト基・スルフヒドリル基・水硫基と呼称することもある)やジスルフィド基(−S−S−基)と、金属部分とが相互作用により結合する。また、例えば、ステントグラフトの支持部材等の生体管腔内埋め込み部材が高分子材料からなる場合には、通常、ポリアミドやポリエチレンなどの高分子材料は、チオール基と反応する官能基を持たないため、内皮細胞誘導層を生体管腔内埋め込み部材表面に固定化することができない。しかし、イオン化ガスプラズマを照射することにより、内皮細胞誘導層を生体管腔内埋め込み部材表面に強固に結合(固定化)できる。詳細には、チオール基含有化合物を塗布する前の生体管腔内埋め込み部材表面にイオン化ガスプラズマ照射(特に、酸素を含有するイオン化ガスプラズマ照射)を行うことで、ポリアミドやポリエチレン等のチオール基と反応する官能基を持たない高分子材料表面にカルボキシル基、ヒドロキシル基、パーオキサイド等の官能基が導入される。これらの生体管腔内埋め込み部材表面の官能基とチオール基含有化合物のチオール基とが反応することによって、チオール基含有化合物の層(内皮細胞誘導層)が生体管腔内埋め込み部材表面に強固に固定化する。また、チオール基含有化合物を溶解した溶液に対する濡れ性が高まり、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物を均一に塗布することが可能になる。ここで、チオール基含有化合物は複数のチオール基を有するため、生体管腔内埋め込み部材表面への担持(固定化)に寄与しない残存チオール基が存在する。このため、イオン化ガスプラズマ照射(特に、酸素を含有するイオン化ガスプラズマ照射)により、チオール基同士の酸化反応もまた促進され、チオール基含有化合物同士がジスルフィド結合によって架橋した構造(編み目構造)を形成する。ゆえに、内皮細胞誘導層は高い強度を有する。さらに、イオン化ガスプラズマ照射を行った高分子材料の表面にはナノメートルオーダーの凹凸が生じる。これにより、単位面積あたりのチオール基含有化合物の担持量を増加させることができる。なお、ここでいう「担持」とは、チオール基含有化合物が生体管腔内埋め込み部材表面から容易に遊離しない状態に固定化されていればよく、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物が堆積した状態であってもよいし、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物が含浸した状態であってもよい。上記効果は、生体管腔内埋め込み部材表面に内皮細胞誘導層形成後再度イオン化ガスプラズマ照射を行うことによってさらに達成できる。
本発明の生体管腔内埋め込み用デバイスは、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物を含む内皮細胞誘導層を形成することを特徴とするものである。このため、生体管腔内埋め込み部材は、従来と同様の生体管腔内留置物が使用でき、特に制限されない。ここで、本発明の生体管腔内埋め込み用デバイスは、生体管腔内、特に、血管、胆管、気管、食道、尿道などに挿入・留置して使用される部材または器具を広く含む。中でも、血管に挿入・留置して使用される部材または器具であることが好ましい。すなわち、生体管腔内埋め込み用デバイスは、血管内埋め込み用デバイスであることが好ましい。また、本発明のデバイスは、生体管腔内に生じた狭窄部や閉塞部等を拡張するために当該部位に挿入し、拡張した上で、その状態を保持するために当該部位に留置する部材または器具であることが好ましい。このような生体管腔内の部材または器具の具体例としては、例えば、ステント、カバードステント、ステントグラフト、血管瘤治療デバイス、保持体にステントを使用した体内埋め込み医療器具などが好適に挙げられる。また、例えば、中空器官および/または管系(尿管、胆管、尿道、子宮、食道、気管支)内の内腔支持機能を有する部材;中空空間接続、管系のための閉鎖システムとしての閉鎖部材なども好適に挙げられる。これらのうち、本発明のデバイスはステント、ステントグラフトであることがより好ましい。病変部へのデリバリーや留置が容易に行えるためである。なお、本発明のデバイスがステントまたはステントグラフトである場合、バルーン拡張タイプ、自己拡張タイプの何れであってもよい。このステント本体の材料が超弾性体であれば、超弾性を利用した自己拡張手段を用いることができる。
以下、本発明の好ましい実施形態であるステントを図を参照しながら説明する。しかしながら、本発明は、下記形態によって限定されるものではない。
[ステント]
図1Aは、本発明の生体管腔内埋め込み用デバイスの好ましい一実施形態であるステントの形状の一例を示す模式図である。図1B〜図1Dは、図1AのA−A線に沿って切断したステントの拡大断面図である。本発明の生体管腔内埋め込み用デバイス(ステント)1は、生体管腔内埋め込み部材(ステント本体)13および内皮細胞誘導層12を有する。前記内皮細胞誘導層12は、生体管腔内埋め込み部材13の少なくとも体液(例えば、血液)と接触する表面の一部に形成され、分子内に複数のチオール基を有する化合物を含む。
また、図1Bでは、内皮細胞誘導層12が体液(例えば、血液)と接触する側(図1B中の上側)にのみ形成されているが、図1Cに示されるように、内皮細胞誘導層12’が反対側(血管壁と接触する面;図1C中の下側)にも形成されてもよい。これらのうち、内皮細胞層はデバイスと血液との間に形成されるため、図1Bに示されるように、内皮細胞誘導層12が生体管腔内埋め込み部材13の血液と接触する側にのみ形成されることが好ましい。これにより、血管内皮細胞が遊走・増殖を促進して、速やかにデバイスの体液(例えば、血液)と接触する面が内皮細胞層で被覆される。
または、図1Dに示されるように、生体管腔内埋め込み部材13の、内皮細胞誘導層12と接触する部分と反対側の部分(血管壁と接触する面)に、薬剤コート層14が設けられていてもよい。生体管腔内埋め込み部材の内皮細胞誘導層と接触する部分と反対側の部分は、生体組織(例えば、血管)に最も近く、少なくとも一部が生体組織と直接接触するため、薬剤コート層中に含まれる有効成分(例えば、薬剤など)は、例えば血液などの体液中を流れることなく直接生体組織から吸収させることができる。このため、有効成分を局所的に投与することが可能であり、より有効な薬理活性を達成することができる。
以下、本実施形態の生体管腔内埋め込み用デバイスを各構成部材ごとに詳しく説明する。
(内皮細胞誘導層)
分子内に複数のチオール基を有する化合物を含む内皮細胞誘導層(例えば、血管内皮細胞誘導層)12が、図1B〜図1Dに示されるように、少なくとも体液(例えば、血液)と接触する生体管腔内埋め込み部材13表面に形成される。内皮細胞誘導層12中のチオール基(−SH基)やジスルフィド基(−S−S−基)と生体管腔内埋め込み部材13を形成する金属や高分子材料部分(特に金属部分)との相互作用により、内皮細胞誘導層12を生体管腔内埋め込み部材13に強固に固定できる。このため、本発明のデバイスをカテーテルなどで目的部位に導入する操作中、または本発明のデバイスを生体管腔内に留置した後であっても、内皮細胞誘導層12は生体管腔内埋め込み部材13から脱離しにくいまたは脱離しないため、安全上非常に好ましい。ここで、内皮細胞誘導層12は、生体管腔内埋め込み部材13の少なくとも体液(例えば、血液)と接触する表面の一部に形成されればよいが、デバイスの挿入・留置後の内皮細胞の遊走・増殖促進性を考慮すると、体液(例えば、血液)と接触する生体管腔内埋め込み部材表面の表面積の少なくとも30%(上限:100%)に形成されることが好ましく、全面(100%)に形成されることがより好ましい。内皮細胞誘導層が生体管腔内埋め込み部材の体液接触面に対してこのような割合で形成されていれば、デバイスを血管等の生体管腔内に挿入・留置した後に、内皮細胞が速やかにデバイス表面に生育・被覆できる。また、内皮細胞誘導層中のチオール化合物由来のチオール基(−SH基)やジスルフィド基(−S−S−基)と生体管腔内埋め込み部材13を形成する金属や高分子材料部分(特に金属部分)とが相互作用して結合する。このため、上記したような割合で内皮細胞誘導層が生体管腔内埋め込み部材表面に形成されていれば、本発明のデバイスをカテーテルなどで目的部位に導入する操作中、または本発明のデバイスを生体管腔内に留置した後であっても、内皮細胞誘導層は生体管腔内埋め込み部材から脱離しにくいまたは脱離しないため、安全の観点からも好ましい。なお、内皮細胞誘導層が生体管腔内埋め込み部材の体液接触面の一部にのみ形成される場合には、内皮細胞誘導層が少なくとも生体管腔内埋め込み部材の末端部分に形成されることが好ましい。内皮細胞は生体管腔内埋め込み部材(デバイス)の端部から生育するため、上記構成をとることによって内皮細胞の遊走・増殖をより有効に促進できる。
上述したように、内皮細胞誘導層は、チオール基含有化合物同士がジスルフィド結合によって架橋した構造(編み目構造)を形成することが好ましい。すなわち、内皮細胞誘導層が、分子内に複数のチオール基を有する化合物の架橋物により形成されることが好ましい。これにより、内皮細胞誘導層が、デバイス留置後の内皮細胞の増殖や内皮細胞の接着の足場となり、内皮細胞の遊走・増殖をより促進することができる。また、デバイス留置後、内皮細胞層が速やかにデバイス表面に形成されるため、デバイスへの血小板の付着(粘着)を抑制・防止できる。ゆえに、本発明のデバイスを生体管腔内に留置した後、治癒プロセスを早く進行することが可能になる。
本発明のデバイス表面において内皮細胞増殖が促進される理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記推測に限定されるものではない。例えば、架橋物形成のための酸化過程における副産物としてチオール基から生成された硫酸基の存在により細胞接着性が向上していることなどが考えられる。すなわち、本来、細胞接着が生体内の硫酸基含有高分子を介して成されているところ、本発明のデバイスが有する内皮細胞誘導層は、これを模倣した構造を形成することにより、細胞接着性が向上していると予想される。しかしながら、本発明のデバイスが発揮し得る内皮細胞増殖促進の作用機序はこれに限られたものではない。なお、前記生体内の硫酸基含有高分子としては、例えばヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸などムコ多糖の存在が知られており、特にヘパラン硫酸は線維芽細胞増殖因子(FGF)との相互作用を介した増殖や分化の制御への関与、コンドロイチン硫酸は細胞接着などへの関与が報告されている。
本発明において、チオール基含有化合物の生体管腔内埋め込み部材表面への形成(被覆)方法は、特に制限されない。具体的には、チオール基含有化合物を含む溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に塗布・乾燥する方法、チオール基含有化合物をイオン化ガスプラズマ照射、紫外線照射、電子線照射、真空蒸着あるいは加熱処理等により生体管腔内埋め込み部材表面に担持する方法などが挙げられる。これらのうち、分子内に複数のチオール基を有する化合物にイオン化ガスプラズマ照射することにより架橋物を形成する方法(チオール基含有化合物をイオン化ガスプラズマ照射により生体管腔内埋め込み部材表面に固定(担持)する方法)が特に好ましい。これにより、ステント等の生体管腔内埋め込み部材が金属からなる場合には、内皮細胞誘導層中のチオール化合物由来のチオール基(−SH基:メルカプト基・スルフヒドリル基・水硫基と呼称することもある)やジスルフィド基(−S−S−基)と、金属部分とが相互作用による結合をより促進できる。
一方、ステントグラフトの支持部材等の生体管腔内埋め込み部材が高分子材料からなる場合には、一般的に、チオール基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、パーオキサイド等の反応性官能基(プラズマ処理により生成ないし導入された官能基やラジカルを含む)と反応可能である。しかしながら、こうした反応性官能基を持たない高分子材料(例えば、ポリアミドやポリエチレンなど)層表面に、単にチオール基含有化合物を塗布しただけでは、チオール基含有化合物と反応(結合)し得ない。ゆえに、高分子材料によっては、単にチオール基含有化合物を塗布しただけでは、生体管腔内埋め込み部材表面に固定化することは困難であるあるいは不可能である。これに対して、チオール基含有化合物をイオン化ガスプラズマ照射により生体管腔内埋め込み部材表面に担持する場合には、反応性官能基を持たない高分子材料であってもチオール基含有化合物を生体管腔内埋め込み部材表面に強固に結合(固定化)できる。
チオール基含有化合物としては、分子内にチオール基を複数個有する化合物であれば特に限定されないが、生体管腔内埋め込み部材表面へのイオン化ガスプラズマ処理及びその後の加熱処理等による生体管腔内埋め込み部材表面との相互作用を考慮すると、チオール基含有化合物の最表面にチオール基が露出しやすい構造を有していることが望ましい。かかる観点から、チオール基含有化合物としては、1分子内にチオール基を2個以上有する化合物であればよいが、分子内に存在するチオール基の数が多いと、形成される内皮細胞誘導層の架橋密度が上がり、生体管腔内埋め込み部材表面(特にステントの金属部分)とより強固に相互作用できる。このため、チオール基含有化合物は、1分子内にチオール基を、好ましくは2〜10個、より好ましくは3〜6個有する化合物である。
かかる観点から、上記チオール化合物としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば1,2−エタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、トルエン−3,4−ジチオール、1,5−ジメルカプトナフタレン、2,6−ジメルカプトプリン、4,4’−ビフェニルジチオール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)等の分子内にチオール基を2つ有する化合物、1,3,5−ベンゼントリチオール、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)、トリアジントリチオール、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(TMMP)等の分子内にチオール基を3つ有する化合物、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等の分子内にチオール基を4つ有する化合物、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)等の分子内にチオール基を6つ有する化合物、およびそれらの誘導体や重合体などを好適に例示できる。好ましくは、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基が結合した際に、最表面に残存チオール基が露出しやすい構造を有し、分子骨格が安定で、生体管腔内埋め込み部材表面との親和性がよく、チオール基を3〜6個有する化合物である、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)である。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ここで、異なる数のチオール基を有するチオール基含有化合物を併用することによって、内皮細胞誘導層の架橋密度を調節することができる。ここで、チオール基含有化合物の組み合わせとしては、特に制限されないが、例えば、分子内にチオール基を2つ有する化合物と分子内にチオール基を3つ有する化合物との組み合わせ、分子内にチオール基を2つ有する化合物と分子内にチオール基を4つ有する化合物との組み合わせ、分子内にチオール基を3つ有する化合物と分子内にチオール基を4つ有する化合物との組み合わせなどが好ましい。これにより、内皮細胞誘導層の架橋密度を適切に調節する(上げる)ことができ、生体管腔内埋め込み部材(特に金属製のステント)とより強固に相互作用(結合)できる。
また、本実施形態では、上記に例示したチオール基含有化合物に何ら制限されるものではなく、本発明の作用効果を有効に発現し得るものであれば、他のチオール基含有化合物も利用可能である。
また、チオール基含有化合物の塗布厚さ(乾燥後)は特に限定されるものではなく、生体管腔内埋め込み部材表面と相互作用し、摩擦による強い荷重による内皮細胞誘導層の生体管腔内埋め込み部材からの移動や脱落を抑制・防止できるだけの厚さを有していればよい。通常、厚さは10μm以下、好ましくは1μm以下である。また、いわゆる分子接着剤として有効に機能し得るものであれば、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物の一分子膜層が形成された状態(=厚さ方向はチオール基含有化合物1分子)であってもよい。さらに、チオール基含有化合物の厚さをより薄くすることによって本発明のデバイスをより細くできるという観点から、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物が含浸した状態であってもよい。
チオール基含有化合物をイオン化ガスプラズマ照射(プラズマ処理)により生体管腔内埋め込み部材表面に担持(固定化)する方法としては、(i)チオール基含有化合物を溶解した溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に塗布する前に、前記生体管腔内埋め込み部材表面にイオン化ガスプラズマを照射することによって、前記チオール基含有化合物を生体管腔内埋め込み部材表面に担持する形態が挙げられる。具体的には、チオール基含有化合物を溶解した溶液(チオール基含有化合物溶液)を生体管腔内埋め込み部材表面に塗布する前(チオール基含有化合物塗布前)に、予め生体管腔内埋め込み部材表面をプラズマ処理することによって、表面を改質、活性化した後、チオール基含有化合物溶液を塗布して、チオール基含有化合物と生体管腔内埋め込み部材表面とを反応(結合/固定化)させる形態である。当該形態では、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物を強固に固定化することができる。これにより、チオール基含有化合物溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に均一に塗布でき、また、内皮細胞誘導層(チオール基含有化合物の層)を生体管腔内埋め込み部材に強固に結合(固定化)できる。
また、上記(i)の形態において、チオール基含有化合物溶液を塗布した後、加熱処理等をしてもよい。チオール基含有化合物溶液を塗布した後、加熱処理等をすることによって、生体管腔内埋め込み部材表面とチオール基含有化合物の反応の促進、あるいはチオール基含有化合物同士を架橋・重合させることが可能である。このため、上記加熱処理等によって、内皮細胞誘導層(チオール基含有化合物の層)を生体管腔内埋め込み部材表面により強固に固定化することができる。加えて、内皮細胞誘導層による編み目構造(架橋構造)を導入できる。
また、(ii)チオール基含有化合物を溶解した溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に塗布し、その後イオン化ガスプラズマを照射することによって、前記チオール基含有化合物を生体管腔内埋め込み部材表面に担持する形態が挙げられる。具体的には、生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物溶液を塗布した後(チオール基含有化合物塗布後)に、プラズマ処理を行うことで、チオール基含有化合物と生体管腔内埋め込み部材表面とを反応(結合)させる形態である。当該形態でも、イオン化ガスプラズマ照射により、生体管腔内埋め込み部材表面に内皮細胞誘導層(チオール基含有化合物の層)を強固に固定化することができる。
また、上記(ii)の形態において、イオン化ガスプラズマを照射した後、加熱処理等をしてもよい。プラズマ処理を行った後、加熱処理等をすることによって、生体管腔内埋め込み部材表面とチオール基含有化合物の反応の促進、あるいはチオール基含有化合物同士を架橋・重合させることが可能である。このため、上記加熱処理等によって、内皮細胞誘導層(チオール基含有化合物の層)を生体管腔内埋め込み部材表面により強固に固定化することができる。加えて、内皮細胞誘導層による編み目構造(架橋構造)を導入できる。
さらに、上記(i)のチオール基含有化合物塗布前と(ii)のチオール基含有化合物塗布後のプラズマ処理を併用する形態、すなわち、(iii)生体管腔内埋め込み部材表面にイオン化ガスプラズマを照射し、前記チオール基含有化合物を溶解した溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に塗布し、再度イオン化ガスプラズマを照射することによって、前記チオール基含有化合物を生体管腔内埋め込み部材に担持する形態が挙げられる。具体的には、チオール基含有化合物塗布前に、生体管腔内埋め込み部材表面をプラズマ処理することによって、表面を改質、活性化した後、チオール基含有化合物溶液を塗布し、さらにその後再度プラズマ処理を行うことで、チオール基含有化合物と生体管腔内埋め込み部材表面とを反応(結合)させる形態である。当該形態は、生体管腔内埋め込み部材表面に内皮細胞誘導層(チオール基含有化合物の層)を非常に強固に固定化することができる点で優れている。
この際にも、それぞれのプラズマ処理を行った後、加熱処理等をしてもよい。このような加熱処理等によって、生体管腔内埋め込み部材表面とチオール基含有化合物の反応の促進、あるいはチオール基含有化合物同士を架橋・重合させることが可能である。このため、上記加熱処理等によって、内皮細胞誘導層(チオール基含有化合物の層)を生体管腔内埋め込み部材表面により強固に固定化することができる。加えて、内皮細胞誘導層による編み目構造(架橋構造)を導入できる。
上記(i)〜(iii)のいずれの形態におけるプラズマ処理の効果は、生体管腔内埋め込み部材表面に対するチオール基含有化合物の反応が促進されることにある。即ち、プラズマ照射により、電離したイオンや電子線が発生・放射され、チオール基と生体内埋め込み部材表面(特にステントの金属部分)との相互作用が向上する、あるいは被処理物である生体管腔内埋め込み部材表面の高分子材料の結合(例えば高分子の主鎖など)が切断されたり、ラジカルが生じたりして、そこにチオール基含有化合物(チオール基)が反応する。例えば、結合が切断されたり、ラジカルが発生した部位が酸化されるなどしてパーオキサイドなどの反応基が導入されて、そこにチオール基含有化合物が反応(結合)することができる。これにより生体管腔内埋め込み部材表面とチオール基含有化合物とを強固に固定化することができるものといえる。以下、上記(i)、(ii)の形態を併用する上記(iii)の形態につき、説明する。
(1)チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理
本形態では、生体管腔内埋め込み部材にチオール基含有化合物溶液を塗布する前(チオール基含有化合物塗布前)に、予め生体管腔内埋め込み部材表面にイオン化ガスプラズマを照射するものである。これにより、生体管腔内埋め込み部材表面を改質、活性化し、チオール基含有化合物溶液に対する生体管腔内埋め込み部材表面の濡れ性を向上させることができるため、チオール基含有化合物溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に均一に塗布することができる。
予め生体管腔内埋め込み部材表面にイオン化ガスプラズマ照射する前に、予め適当な方法で生体管腔内埋め込み部材表面を洗浄してもよい。即ち、イオン化ガスプラズマ照射により生体管腔内埋め込み部材表面の濡れ性を高める前に、生体管腔内埋め込み部材表面の金属あるいは高分子材料に付着した油脂や汚れなどを取り除いておくのが望ましい。なお、上記(ii)の形態のように、チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理を行わずに、チオール基含有化合物塗布を行う場合でも、当該洗浄処理は、チオール基含有化合物溶液を塗布する前に実施しておくのがよい。
チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理での圧力条件は、特に制限されるものではなく、減圧下、大気圧下のいずれでも可能であるが、自由な角度からプラズマガスの照射ができ、真空装置が必要ないので装置が小型化でき、省スペース、低コストでのシステム構成が実現でき、経済的にも優れることから、大気圧下で行うのがよい。また、プラズマ照射ノズルを被処理物(生体管腔内埋め込み部材)を中心にその周りを一回転させながらプラズマガスを照射することで、被処理物の全周をムラなく均一にプラズマ処理することもできる。
チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理に用いることのできるイオン化ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、二酸化炭素、一酸化炭素、過酸化水素、水蒸気、窒素、酸素および水素等が挙げられる。この際、上記イオン化ガスは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合ガスの形態で使用されてもよい。
チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理での照射時間は、10分以下、好ましくは0.1秒〜1分、さらに好ましくは1〜40秒の範囲である。該プラズマ照射時間が、0.1秒未満の場合、生体管腔内埋め込み部材との相互作用や生体管腔内埋め込み部材表面の濡れ性(改質、活性化)を十分に高めるだけの時間の確保が困難となるおそれがあり、チオール基含有化合物溶液の非常に薄い被膜(単分子被膜)の形成が困難となるおそれがある。一方、プラズマ照射時間が10分を超える場合、生体管腔内埋め込み部材表面の活性化が過度になるため、生体管腔内埋め込み部材との相互作用や生体管腔内埋め込み部材表面での反応(分子構造の組み換えや架橋)が過剰に生じる恐れがある。
チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理での被処理物(チオール基含有化合物塗布前の生体管腔内埋め込み部材)の温度は、生体管腔内埋め込み部材が変形しない温度範囲であれば特に制限されるものではなく、常温のほか、加熱または冷却により高温または低温にしてもよい。経済的な観点からは、加熱装置や冷却装置が不要な温度(5〜35℃)がよい。
チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理における印加電流やガス流量等は、被処理物の面積、さらには使用するプラズマ照射装置やイオン化ガス種に応じて適宜決定すればよく、特に制限されるものではない。
チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理に用いることのできるプラズマ照射装置(システム)としては、特に制限されるものではなく、例えば、ガス分子を導入し、これを励起してプラズマを発生するプラズマ発生管と、このプラズマ発生管の中のガス分子を励起する電極とを有し、プラズマ発生管の一端からプラズマを放出するような構成のプラズマ照射装置(システム)などが例示できるが、こうした構成(システム)に何ら制限されるものではない。例えば、既に市販されているものから、生体管腔内埋め込み部材への照射に適しているイオン化ガスプラズマ照射装置(システム)、特に大気圧でのプラズマ照射装置(システム)を用いることができる。具体的には、TRI−STAR TECHNOLOGIES製のプラズマ照射装置:DURADYNE(商品名又は商標名)、DIENER ELECTRONIC製のプラズマ照射装置:PLASMABEAMなどを利用できるが、これらに何ら制限されるものではない。
本発明において、プラズマ処理は、1回のみ行ってもあるいは2回以上繰り返し行ってもよい。後者の場合、各プラズマ処理工程におけるプラズマ処理条件は、同一であってもあるいは異なる条件であってもよい。
(2)チオール基含有化合物塗布
生体管腔内埋め込み部材表面にチオール基含有化合物溶液を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法(コーティング法)、浸漬法(ディッピング法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。
なお、チオール基含有化合物溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に塗布する前に、生体管腔内埋め込み部材への内皮細胞誘導層の固定をより強固なものとするための処理(以下、「固定強固化処理」とも称する)を生体管腔内埋め込み部材に施してもよい。ここで、固定強固化処理に使用される物質(以下、「固定強固化剤」とも称する)としては、特に制限されないが、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、レゾルシノールなどが挙げられる。このような固定強固化剤によって、内皮細胞誘導層の生体管腔内埋め込み部材への固定をより強固なものとすることができる。また、生体管腔内埋め込み部材の固定強固化処理方法は、特に制限されないが、例えば、生体管腔内埋め込み部材を、固定強固化剤を含む溶液中に浸漬する方法が好ましく使用できる。ここで、固定強固化剤を溶解するための溶媒は、固定強固化剤を溶解可能なものであれば特に制限されず、使用される固定強固化剤の種類によって適宜選択できる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。また、生体管腔内埋め込み部材の固定強固化剤による処理条件もまた、特に制限されない。例えば、生体管腔内埋め込み部材を、固定強固化剤を含む溶液中に、5〜50℃で0.5〜20分間、より好ましくは20〜40℃で1〜10分間、浸漬することが好ましい。このような処理によって、内皮細胞誘導層の生体管腔内埋め込み部材への固定をより強固なものとすることができる。このため、固定強固化剤による処理を行う場合には、上記チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理を省略することができる。
以下では、チオール基含有化合物溶液中に生体管腔内埋め込み部材を浸漬し、乾燥して、該チオール基含有化合物溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に塗布した後、プラズマ処理し、さらに加熱処理等によって、生体管腔内埋め込み部材表面に該チオール基含有化合物が固定化されてなる形態を例にとり詳しく説明する。但し、本発明がこれらの形態に何ら制限されるものでない。
チオール基含有化合物を塗布する際に用いられるチオール基含有化合物溶液の濃度は、特に限定されない。所望の厚さに均一に塗布する観点からは、チオール基含有化合物溶液中のチオール基含有化合物の濃度は、好ましくは0.001〜30重量%、より好ましくは0.01〜10重量%である。チオール基含有化合物の濃度が0.001重量%未満の場合、生体管腔内埋め込み部材表面に十分な量のチオール基含有化合物を固定化することができない場合がある。また、チオール基含有化合物の濃度が30重量%を超える場合、チオール基含有化合物溶液の粘度が高くなりすぎて、均一な厚さのチオール基含有化合物を固定化できないおそれ、あるいは生体管腔内埋め込み部材表面に素早く塗布するのが困難な場合がある。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
また、チオール基含有化合物溶液に用いられる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
チオール基含有化合物溶液中に生体管腔内埋め込み部材を浸漬した後の乾燥条件としては、特に制限されるものではない。即ち、本発明の対象となる生体管腔内埋め込み部材は非常に小さなものであり、乾燥にさほど時間がかからないことから、自然乾燥でも十分である。かかる観点から、チオール基含有化合物溶液の乾燥温度は、20〜150℃、好ましくは20〜130℃、乾燥時間は、1秒〜1時間、好ましくは1〜30分である。乾燥時間が1秒未満の場合、未乾燥状態のままチオール基含有化合物塗布後のプラズマ処理を行うことで、残存する溶媒等の蒸発にプラズマエネルギーが吸収され、生体管腔内埋め込み部材表面やチオール基含有化合物の活性化(例えば、生体管腔内埋め込み部材の表面エネルギーを高めたり、生体管腔内埋め込み部材表面やチオール基含有化合物の元素の励起・イオン化などにより官能基(活性点ないし活性部位)を創り出したりすることなど)を十分に図ることが難しくなるおそれがあり、生体管腔内埋め込み部材表面との結合部の確保が十分に図れないおそれがある。一方、乾燥時間が1時間を超える場合には、上記時間を超えて乾燥することによる更なる効果が得られず不経済である。
乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。
乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
本発明において、チオール基含有化合物溶液中に生体管腔内埋め込み部材を浸漬し、乾燥して、該チオール基含有化合物溶液を生体管腔内埋め込み部材表面に塗布した後、プラズマ処理し、さらに加熱処理する工程は、1回のみ行ってもあるいは2回以上繰り返し行ってもよい。後者の場合、各処理工程における各条件(チオール基含有化合物溶液におけるチオール基含有化合物濃度、浸漬条件、乾燥条件、塗布条件、プラズマ処理条件など)は、同一であってもあるいは異なる条件であってもよい。
なお、生体管腔内埋め込み部材表面の一部にのみチオール基含有化合物を固定化する場合には、生体管腔内埋め込み部材の一部のみにチオール基含有化合物溶液を塗布した(浸漬し、乾燥した)後、再度イオン化ガスプラズマ照射を行い、さらに、必要に応じて加熱処理等を行うことで、生体管腔内埋め込み部材の所望の表面部位に、チオール基含有化合物を固定化することができる。
生体管腔内埋め込み部材表面の一部のみをチオール基含有化合物溶液中に浸漬するのが困難な場合には、予めチオール基含有化合物を固定化しない生体管腔内埋め込み部材の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材(保護部材)や材料(保護材料)で予め保護(被覆等)してから、該生体管腔内埋め込み部材をチオール基含有化合物溶液中に浸漬し、乾燥させた後、再度イオン化ガスプラズマ照射を行い、さらに、必要に応じて加熱処理等を行った後、チオール基含有化合物を固定化しない生体管腔内埋め込み部材の表面部分の保護部材(保護材料)を取り外すことで、該生体管腔内埋め込み部材の所望の表面部位に、チオール基含有化合物を固定化することができる。但し、本発明では、これらの方法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、チオール基含有化合物を固定化することができる。例えば、生体管腔内埋め込み部材の一部のみをチオール基含有化合物溶液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、塗布法や噴霧法など)を適用してもよい。
(3)チオール基含有化合物塗布後のプラズマ処理
本形態では、生体管腔内埋め込み部材表面に上記チオール基含有化合物溶液を塗布後、再度イオン化ガスプラズマ照射するものである。かかるプラズマ処理によっても、チオール基含有化合物と生体管腔内埋め込み部材表面とを活性化して、チオール基含有化合物と生体管腔内埋め込み部材表面とを結合(反応)させ、チオール基含有化合物を強固に固定化することができる。また、プラズマ処理によってチオール基含有化合物同士を架橋・重合させることも可能である。または、酸素を含有するイオン化ガスプラズマ照射する場合には、チオール基含有化合物と生体管腔内埋め込み部材表面とを活性化して、チオール基含有化合物と生体管腔内埋め込み部材表面とを反応させ、チオール基含有化合物を生体管腔内埋め込み部材表面に強固に固定化することができると共に、チオール基含有化合物同士の酸化反応を促進し、生体管腔内埋め込み部材上の内皮細胞誘導層の強度(架橋密度)を向上させることができる。
本形態のチオール基含有化合物塗布後のプラズマ処理は、上述したチオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理と同じ条件で行うことができ、チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理と同じプラズマ照射装置を用いて行うことができる。なお、本形態のチオール基含有化合物塗布後のプラズマ処理条件は、チオール基含有化合物塗布前のプラズマ処理と必ずしも同一である必要はない。
本発明において、プラズマ処理は、1回のみ行ってもあるいは2回以上繰り返し行ってもよい。後者の場合、各プラズマ処理工程におけるプラズマ処理条件は、同一であってもあるいは異なる条件であってもよい。
なお、本形態のチオール基含有化合物塗布後のプラズマ処理の際に、チオール基含有化合物同士の架橋・重合を促進することができるように、光重合開始剤を、チオール基含有化合物溶液に適時適量添加して用いてもよい。これによって、プラズマ照射の際の発光により反応(重合)効率がさらに向上し、より強固な内皮細胞誘導層を形成することができる。ここで、光重合開始剤は、特に制限されないが、例えば、ケタール系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、α−ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等を用いることができる。上記光重合開始剤は、1種を単独で使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、上記光重合開始剤を2種以上組み合わせる場合、細胞毒性が認められない範囲で組み合わせるのが好ましい。ケタール系光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン[例えば、商品名「イルガキュア651」(チバ・ジャパン社製)]等が挙げられる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[例えば、商品名「イルガキュア184」(チバ・ジャパン社製)]、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−(t−ブチル)ジクロロアセトフェノン等が挙げられる。ベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば商品名「ルシリンTPO」(BASF社製)等を使用することができる。α−ケトール系光重合開始剤としては、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン等が挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤としては、2−ナフタレンスルホニルクロライド等が挙げられる。光活性オキシム系光重合開始剤としては、1−フェニル−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)−オキシム等が挙げられる。ベンゾイン系光重合開始剤としてはベンゾインが挙げられる。ベンジル系光重合開始剤としてはベンジルが挙げられる。ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。チオキサントン系光重合開始剤としては、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントン等が挙げられる。
(4)チオール基含有化合物を固定化する際の加熱処理
チオール基含有化合物を生体管腔内埋め込み部材表面に固定化する際、上記チオール基含有化合物塗布後のプラズマ処理を行った後、さらに加熱処理等によって、生体管腔内埋め込み部材表面とチオール基含有化合物との反応を促進、あるいはチオール基含有化合物同士の架橋・重合を促進させることも可能である。
かかる加熱処理の処理条件としては、チオール基含有化合物の反応(重合)が促進し得るものであればよく、生体管腔内埋め込み部材表面の金属あるいは高分子材料の温度特性(耐熱性)に応じて適宜決定すればよい。
したがって、加熱処理温度(加熱炉などの加熱装置の設定温度)の下限としては、チオール基含有化合物の反応(重合)が促進し得る温度以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上である。チオール基含有化合物の反応(重合)が促進し得る温度未満では、所望の反応が十分に促進せず、加熱処理に長持間を要し不経済であるか、あるいは加熱処理による反応(重合)が進まず、所望の効果が得られないおそれがある。
また、加熱処理温度の上限としては、生体管腔内埋め込み部材が金属で形成される場合には、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。また、生体管腔内埋め込み部材が高分子材料で形成される場合には、高分子材料の融点−5℃の温度以下、好ましくは融点−10℃以下である。生体管腔内埋め込み部材表面の高分子材料の融点−5℃の温度よりも高い温度の場合には、反応(重合)は十分促進される反面、加熱炉などの加熱装置内部の温度分布によっては設定温度以上となることもあり、生体管腔内埋め込み部材表面の一部が溶融したり、変形を受けるおそれがある。なお、生体管腔内埋め込み部材表面に用いる幾つかの高分子材料を例にとり、その加熱処理温度の範囲を以下に例示するが、本形態の加熱処理温度の範囲は、これらに何ら制限されるものではない。例えば、生体管腔内埋め込み部材表面の高分子材料が各種ポリアミド樹脂(ナイロン6、11、12、66等)の場合、加熱処理温度は、好ましくは40〜150℃、より好ましくは40〜140℃であり、各種ポリエチレン(LDPE、LLDPE、HDPE等)の場合、加熱処理温度は、好ましくは40〜85℃、より好ましくは50〜80℃であり、ポリグリコール酸の場合、加熱処理温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜160℃であり、ポリ乳酸の場合、加熱処理温度は、好ましくは50〜130℃、より好ましくは80〜100℃である。
加熱処理時間は、チオール基含有化合物の反応(重合)が促進し得るものであれば特に制限されるものではないが、好ましくは15分〜24時間、より好ましくは30分〜12時間である。上記条件であれば、反応(重合)が十分進行して、生体管腔内埋め込み部材表面との結合部が十分確保でき、チオール基含有化合物自体の架橋・重合による強度補填効果が十分に発現でき、内皮細胞の増殖や接着の足場を十分確保できる。
但し、上記加熱処理温度や時間に関しては、チオール基含有化合物塗布後のプラズマ処理中に加熱処理と同じ反応(重合)が成される場合もあることから、プラズマ処理条件も考慮して適宜決定するのが望ましいと言える。
加熱処理時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができる。
また、チオール基含有化合物同士を架橋・重合させる場合、該架橋・重合を促進することができるように、熱重合開始剤などの添加剤を、チオール基含有化合物溶液に適時適量を添加して用いてもよい。これにより、反応(重合)効率がさらに向上して、より強固な内皮細胞誘導層を形成することができる。ここで、熱重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリアン酸、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート等のアゾ系化合物(アゾ系開始剤);過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルペルマレエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物(過酸化物系開始剤);フェニル置換エタン等の置換エタン系開始剤;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの混合剤、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの混合剤等のレドックス系開始剤などが挙げられる。上記熱重合開始剤は、1種を単独で使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、上記熱重合開始剤を2種以上組み合わせる場合、細胞毒性が認められない範囲で組み合わせるのが好ましい。熱重合条件は、特に制限されず、内皮細胞誘導層の所望の強度などと考慮して適宜選択できる。
チオール基含有化合物の反応あるいは重合を促進させるための加熱処理以外の他の方法としては、例えば、UV照射、電子線照射などが例示できるが、これらに何ら制限されるものではない。
チオール基含有化合物を固定化後、余剰のチオール基含有化合物を、適用な溶剤で洗浄し、生体管腔内埋め込み部材表面に結合したチオール基含有化合物のみを残存させることも可能である。
(生体管腔内埋め込み部材(ステント))
本発明に係る生体管腔内埋め込み部材の形状は、生体管腔内に安定して留置するに足る強度を有するものであれば特に限定されず、従来と同様の生体管腔内留置物が使用できる。例えば、生体管腔内埋め込み部材は、管状、網状、繊維状、コイル状、不織布状、織布、またはフィラメント状であってもよい。すなわち、本発明に係る生体内留置物は、管状、網状、繊維状、コイル状、不織布状、織布、またはフィラメント状の生体内留置物本体から製造されうる。また、生体管腔内埋め込み部材が血管等で使用されるステント(ステント本体)である場合、ステント本体の形状は、生体内の管腔に安定して留置するに足る程度を有するものであれば特に限定されず、従来と同様の形状が適用できる。例えば、金属材料のワイヤーを編み上げて円筒状に形成したものや、金属材料からなる管状体に細孔を設けたものが好適に挙げられる。
ステントの好ましい例としては、図1Aに示されるようなものがある。図1Aにおいて、ステント本体3は、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体である。円筒体の側面は、その外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっており、血管、胆管等の生体管腔内に留置され、その形状を維持する。図1に示す態様において、ステント(本体)は、内部に切欠部を有する略菱形の要素Dを基本単位とする。複数の略菱形の要素Dが、略菱形の形状がその短軸方向に連続して配置され結合することで環状ユニットEをなしている。環状ユニットEは、隣接する環状ユニットと線状の連結部材Fを介して接続されている。これにより複数の環状ユニットEが一部結合した状態でその軸方向に連続して配置される。ステント(本体)は、このような構成により、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体をなしている。そして円筒体の側面は、略菱形の切欠部を有しており、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっている。ただし、本発明におけるステントの構造は、図示した態様に限定されず、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体であって、その側面上に、外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造を広く含む概念であり、コイル形状もまた本発明の概念に含まれる。ステント(本体)を構成する線材の断面形状についても、矩形、円形、楕円形、其の他の多角形等、他の形状であってもよい。上記に加えて、ステントの他の好ましい例としては、図2に示されるような格子状の構造のステントがある。
また、ステント(本体)の大きさは適用箇所に応じて適宜選択すればよい。拡張前におけるステントの外径は、1.0〜5.0mmが好ましく、1.50〜4.50mmがより好ましい。また、ステントの長さは、5〜100mmが好ましく、7〜50mmがより好ましい。また、ステントの肉厚は、狭窄部に留置するために必要なラジアルフォースを有し、血流を阻善しない程度であれば特に限定されないが、例えば1〜1000μmが好ましく、50〜300μmがより好ましい。
ステント本体3の形成材料としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、タンタル、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズ、ニッケル−チタン合金、コバルト−クロム合金、亜鉛−タングステン合金等の各種金属材料が挙げられる。また、ステント形状を作製した後に上記したような金属材料でメッキしてもよい。さらに、ステントの最終形状を作製したのち、焼なましを行うことが好ましい。焼きなましを行うことにより、ステント全体の柔軟性および可塑性が向上し、屈曲した血管内での留置性が良好となる。また、焼きなましを行わない場合に比べて、ステントを拡張した後の拡張前形状に復元しようとする力、特に、屈曲した血管部位で拡張したときに発現する直線状に復帰しようとする力が減少し、屈曲した血管内壁に与える物理的な刺激が減少し、再狭窄の要因を減少させることができる。焼きなましは、ステント表面に酸化皮膜が形成されないように、不活性ガス雰囲気下(例えば、アルゴンガス)にて、900〜1200℃に加熱したのち、ゆっくりと冷却することにより行うことが好ましい。また、ステント本体3に造影性を持たせることもできるが、この場合には、ステント本体3の構成材料は前記各種金属のようなX線造影性を有する材料であるのが好ましい。
本発明に係るステント本体(ステント)は、少なくとも血液と接触する表面の一部に前述の内皮細胞誘導層が形成されている。なお、内皮細胞誘導層は、ステント本体の血液と接触する表面の全面に形成されていてもよい。一方、ステント本体の内皮細胞誘導層と接触する部分と反対側の部分は、生体組織に最も近く、少なくとも一部が生体組織と直接接触する。このため、例えばこの部分に薬剤コート層を設けた場合、薬剤コート層中に含まれる有効成分(例えば、薬剤など)は、例えば血液などの体液中を流れることなく直接生体組織から吸収させることができるので、有効成分を局所的に投与することが可能であり、より有効な薬理活性を達成することができる。したがって、ステント本体の前記内皮細胞誘導層と接触する部分と反対側の部分(血管壁と接触する面)に、薬剤コート層が設けられていることが好ましい。
(薬剤コート層)
薬剤コート層は、いずれの材料で作製されてもよいが、生体内吸収性材料および薬剤から形成されることが好ましい。これにより、ステントが狭窄部に留置された後、生体内吸収性材料の生体分解吸収に伴い、薬剤の放出が経時的に行われ、再狭窄の抑制などの効果を発揮する一方、生体内吸収性材料が生体内で完全に分解されうる。ここで、薬剤コート層の厚さは、特に制限されないが、病変部への到達性(デリバリー性)や血管壁への刺激性などステントの性能を著しく損なわない程度であり、なおかつ薬剤(生理活性物質)の効果が確認される厚さで設定されることが好ましい。このような点を考慮すると、薬剤コート層の厚さは、好ましくは1〜100μm、より好ましく10〜60μmである。
本発明に係るステントの表面に薬剤コート層を設けるための方法は特に限定されないが、例えば、薬剤(生理活性物質)および生体内吸収性材料を融解させてステントの表面に被覆する方法、薬剤(生理活性物質)および生体内吸収性材料を溶媒に溶解させて溶液を作製し、この溶液にステントを浸漬し、その後引き上げて、溶媒を蒸散もしくは他の方法で除去する方法、あるいはスプレーを用いて前記溶液をステントに噴霧して、溶媒を蒸散もしくは他の方法で除去する方法などが挙げられる。
ここで、生体内吸収性材料は、徐々に生分解するポリマーであって、人間または動物の生体に悪影響を及ぼさないポリマーであれば特に限定されないが、生体安定性が高いものが好ましい。具体的には、生体内吸収性材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸との共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸とカプロラクトンとの共重合体、グリコール酸とカプロラクトンとの共重合体、ポリトリメチレンカーボネート、乳酸とトリメチレンカーボネートとの共重合体、グリコール酸とトリメチレンカーボネートとの共重合体、ポリジオキサノン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリヒドロキシ酪酸およびポリリンゴ酸等の、生体内吸収性脂肪族ポリエステル;ポリ−α−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、桂皮酸の重合体、および桂皮酸誘導体の重合体からなる群から選択される少なくとも1つの重合体、前記重合体を構成する単量体が任意に共重合されてなる共重合体、並びに前記重合体および/または前記共重合体の混合物などが好ましく挙げられる。なお、本明細書における「混合物」とは、ポリマーアロイなどの複合物なども含む広い概念である。また、生体内吸収性材料の重量平均分子量は、特に制限されないが、10,000〜1,000,000が好ましく、20,000〜500,000がより好ましく、50,000〜200,000が特に好ましい。なお、上記「重量平均分子量」の測定は、GPC、光散乱法、粘度測定法、質量分析法(TOFMASSなど)等、公知の方法によって実施できる。本明細書中の「重量平均分子量」は、GPCにより分子量が既知のポリスチレンを基準物質として測定された値を意味する。上記生体内吸収性材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。これらのうち、特に生体内吸収性脂肪族ポリエステルは、経時的に生体内で分解・吸収されるため、血管壁にメカニカルストレスを与えることに起因する慢性的な炎症が起こる可能性を回避することができる、即ち、生体への侵襲性を少なくするあるいはなくすことができる。上記生体内吸収性脂肪族ポリエステルのうち、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸との共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸とカプロラクトンとの共重合体、グリコール酸とカプロラクトンとの共重合体、ポリトリメチレンカーボネート、乳酸とトリメチレンカーボネートとの共重合体、グリコール酸とトリメチレンカーボネートとの共重合体、ポリジオキサノン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、およびポリブチレンサクシネート・アジペートが好ましく、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸との共重合体、乳酸とトリメチレンカーボネートとの共重合体、グリコール酸とトリメチレンカーボネートとの共重合体がより好ましい。これらは、生体内で分解しても、医学的な安全性が高い。なお、上記生体内吸収性脂肪族ポリエステルは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。上記生体内吸収性脂肪族ポリエステルを構成している脂肪族エステルのうち、乳酸は光学異性体が存在するがいずれの光学異性体であってもよく、ゆえにポリ乳酸は、L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、D,L−ポリ乳酸のすべてを包含する。また、生体内吸収性脂肪族ポリエステルが共重合体である場合には、生体内吸収性脂肪族ポリエステルの構造は、特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、および交互共重合体など、いずれの構造であってもよい。なお、上記生体内吸収性脂肪族ポリエステルは、市販のものを購入しても自ら合成してもよい。合成する場合には、その合成法は特に制限されず、公知の方法が適用できる。例えば、ポリ乳酸の場合には、L−乳酸、D−乳酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、ラクチド法や直接重合法などで脱水重縮合することにより得ることができる。
また、上記生体内吸収性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、生体内吸収性を示すものであれば特に制限されないが、10,000〜3,000,000が好ましく、20,000〜2,000,000がより好ましく、50,000〜1,000,000が特に好ましい。上記重量平均分子量であれば、生体内吸収性脂肪族ポリエステルは、十分な生分解性、生体内吸収性、成型性および機械的強度を発揮する。なお、上記「重量平均分子量」の測定は、GPC、光散乱法、粘度測定法、質量分析法(TOFMASSなど)等、公知の方法によって実施できる。本明細書中の「重量平均分子量」は、GPCにより分子量が既知のポリスチレンを基準物質として測定された値を意味する。
また、薬剤コート層に使用できる薬剤(生理活性物質)は、特に制限されず、所望の薬効に応じて適宜選択できるが、生体管腔内の狭窄部に留置した際に再狭窄を抑制する効果があることが好ましい。具体的には、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ薬、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、およびNO産生促進物質などが挙げられる。
前記抗癌剤としては、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル及びメトトレキサート等が好ましい。
前記免疫抑制剤としては、例えば、シロリムス、エベロリムス、バイオリムス、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス及びミゾリビン等が好ましい。
前記抗生物質としては、例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン及びジノスタチンスチマラマー等が好ましい。
前記抗リウマチ薬としては、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、サラゾスルファピリジン、アダリムマブ、トシリズマブ、インフリキシマブ、ペニシラミン及びロベンザリット等が好ましい。
前記抗血栓薬としては、例えば、へパリン、アスピリン、抗トロンビン製剤、チクロピジン及びヒルジン等が好ましい。
前記HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン及びプラバスタチン等が好ましい。
前記ACE阻害剤としては、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノプリル及びカプトプリル等が好ましい。
前記カルシウム拮抗剤としては、例えば、ニフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン及びニソルジピン等が好ましい。
前記抗高脂血症薬としては、例えば、プロブコールが好ましい。前記インテグリン阻害薬としては、例えば、AJM300が好ましい。前記抗アレルギー剤としては、例えば、トラニラストが好ましい。前記抗酸化剤としては、例えば、カテキン類、アントシアニン、プロアントシアニジン、リコピン、β−カロチン等が好ましく、当該カテキン類の中では、エピガロカテキンガレートが特に好ましい。前記GPIIbIIIa拮抗薬としては、例えば、アブシキシマブが好ましい。
前記レチノイドとしては、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。前記フラボノイドとしては、例えば、エピガロカテキン、アントシアニン、プロアントシアニジン等が好ましい。前記カロチノイドとしては、例えば、β―カロチン、リコピン等が好ましい。前記脂質改善薬としては、例えば、エイコサペンタエン酸が好ましい。
前記DNA合成阻害剤としては、例えば、5−FUが好ましい。前記チロシンキナーゼ阻害剤としては、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン等が好ましい。前記抗血小板薬としては、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレル等が好ましい。前記抗炎症薬としては、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドが好ましい。
前記生体由来材料としては、例えば、EGF(epidermal growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibrolast growth factor)等が好ましい。
前記インターフェロンとしては、例えば、インターフェロン−γ1aが好ましい。前記NO産生促進物質としては、例えば、L−アルギニンが好ましい。
上記薬剤(生理活性物質)は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。薬剤(生理活性物質)は、再狭窄を確実に抑制するという点を考慮すると、上記物質のうちの少なくとも一種類を含んでいることが好ましい。また、薬剤(生理活性物質)を、一種類の薬剤(生理活性物質)にするのか、もしくは二種類以上の異なる薬剤(生理活性物質)を組み合わせるのかについては、症例に合せて適宜選択されるべきである。また、ステントが上記薬剤(生理活性物質)を含む場合の、上記薬剤(生理活性物質)の含有量は特に制限されず、症例に合わせて適宜選択されるべきである。上記薬剤(生理活性物質)の含有(配合)量は、生体内吸収性材料との合計質量に対して、1〜80質量%が好ましく、5〜60質量%がより好ましい。このような範囲であれば、再狭窄を確実に抑制することができる。
また、本形態において、薬剤コート層は、ステント本体の血管壁と接触する面の表面積の1〜100%を覆うことが好ましく、50〜100%を覆うことがより好ましい。
次に、本発明の他の好ましい実施形態であるステントグラフトの形態を図を参照しながら説明する。しかしながら、本発明は、下記形態によって限定されるものではない。
[ステントグラフト]
本発明はまた、生体管腔内埋め込み用デバイスがステントグラフトである態様を包含する。すなわち、生体管腔内埋め込み部材は、生体管腔固定部材(例えば、ステント)および前記生体管腔固定部材に固定される支持部材(例えば、グラフト)を有し、この際、支持部材または生体管腔固定部材の表面に前記内皮細胞誘導層が形成される。
図3および図4は、本発明の生体管腔内埋め込み用デバイスの他の好ましい実施形態であるステントグラフトの形状の一例を示す斜視図である。また、図5は、図4に示すステントグラフトを血管内の動脈瘤付近に留置された状態を示す断面図である。なお、図5では、ステントグラフトのステントは、図示されていない。
図3及び図4に示されるように、本発明の生体管腔内埋め込み用デバイス(ステントグラフト)21は、生体管腔固定部材(ステント)25および管状の支持部材(グラフト)22から構成される。ここで、生体管腔固定部材(ステント)25は、ほぼ管状であり、支持部材(グラフト)22に対応する部位の骨格を構成する。また、管状の支持部材(グラフト)22が生体管腔固定部材(ステント)25に固定され、ステントグラフト21を血管内に保持し得る形状としている。
また、本発明の生体管腔内埋め込み用デバイス(ステントグラフト)は、図4に示されるように、例えば、動脈瘤の治療用の分枝(側枝)付きステントグラフト(血管内留置物)としても使用できる。すなわち、図5に示されるように、ステントグラフト21を、大動脈(動脈)等の血管300内の動脈瘤320付近に挿入・留置する。ここで、本発明のステントグラフト21は、骨格(例えば、金属骨格)である生体管腔固定部材(ステント)(図示せず)と、人工血管である管状の支持部材(グラフト)22とを有している。支持部材22は、本体グラフト23と、本体グラフト23の外側面(外周面)31から分枝した分枝グラフト24とを有しており、その本体グラフト23が生体管腔固定部材25に固定されている。生体管腔固定部材25は、本体グラフト23用の骨格であり、分枝グラフト24は、生体管腔固定部材25には固定されていない。
ここで、内皮細胞誘導層は、支持部材または生体管腔固定部材の少なくとも一方の体液と接触する表面の少なくとも一部に形成されればよいが、支持部材及び生体管腔固定部材双方の体液と接触する表面の少なくとも一部に形成されることが好ましい。
また、支持部材または生体管腔固定部材表面上に内皮細胞誘導層が形成される割合は、特に制限されない。デバイスの挿入・留置後の内皮細胞の遊走・増殖促進性を考慮すると、体液(例えば、血液)と接触する支持部材または生体管腔固定部材表面の表面積の少なくとも30%(上限:100%)に形成されることが好ましく、全面(100%)に形成されることがより好ましい。内皮細胞誘導層が支持部材または生体管腔固定部材の体液接触面に対してこのような割合で形成されていれば、デバイスを血管等の生体管腔内に挿入・留置した後に、内皮細胞が速やかにデバイス表面に生育・被覆できる。また、内皮細胞誘導層中のチオール化合物由来のチオール基(−SH基)やジスルフィド基(−S−S−基)と支持部材または生体管腔固定部材表面とが相互作用して結合する。このため、上記したような割合で内皮細胞誘導層が生体管腔内埋め込み部材表面に形成されていれば、本発明のデバイスをカテーテルなどで目的部位に導入する操作中、または本発明のデバイスを生体管腔内に留置した後であっても、内皮細胞誘導層は支持部材または生体管腔固定部材から脱離しにくいまたは脱離しないため、安全の観点からも好ましい。なお、内皮細胞誘導層が支持部材または生体管腔固定部材の体液接触面の一部にのみ形成される場合には、内皮細胞誘導層が少なくとも支持部材または生体管腔固定部材の末端部分に形成されることが好ましい。内皮細胞は支持部材または生体管腔固定部材(デバイス)の端部から生育するため、上記構成をとることによって内皮細胞の遊走・増殖をより有効に促進できる。
(生体管腔固定部材(ステント))
生体管腔固定部材25は、細長い部材の連なりとそれらが構成する複数の窓(開口)から構成されている。以下、詳細に説明する。生体管腔固定部材25は、リング状をなす(リング状のパターンを有する)複数のストランド(線状体)51を備えている。そして、生体管腔固定部材25の軸方向に沿って隣接する2つのストランド51の間に窓が形成される。
各ストランド51の側面視での形状は、波状であるが、これに限らず、例えば、直線状等であってもよい。また、図示の構成では、各ストランド51は、互いに、独立しているが、これに限らず、例えば、連結部材により連結されていてもよく、また、本体グラフト23の軸方向に沿って隣接するストランド51同士が接合されていてもよい。なお、ストランド51の形状、形態は、リング状のものに限らず、その他、例えば、螺旋状のものや、網状(格子状)のもの等でもよい。
ストランド51の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti系合金、Cu−Zn系合金、Ni−Al系合金等の擬弾性金属、タングステン、タングステン合金、チタン、チタン合金、タンタル等の各種金属が挙げられ、縮径した後、その形状が復元できること(自己拡張可能であること)が好ましい。また、ポリアミド、ポリイミド、超高分子量または高分子量のポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、フッ素系樹脂等の比較的高剛性の高分子材料を適宜組み合わせてもよい。また、ストランド51に造影性を持たせることもでき、この場合には、ストランド51の構成材料は、前記各種金属のようなX線造影性を有する材料であるのが好ましい。
また、ストランド51の線径は、特に限定されないが、好ましくは0.02〜2mm程度とすることができ、より好ましくは0.1〜1mm程度とすることができる。
生体管腔固定部材25は、弾性的に伸張性を有し、外力の除去によってその外径が変化、拡張するものであるのが好ましい。すなわち、生体管腔固定部材25は、自然状態(外力を作用させない状態)では、第1の外径である(以下、この状態を「拡径状態」とも称する)が、外力を作用させる(例えば、生体管腔固定部材25に対し、その長手方向に引張力を作用させたり、その径方向に圧縮力を作用させたりする)と、前記第1の外径より小さい第2の外径となる(以下、この状態を「縮径状態」とも称する)。
この場合、第1の外径は、生体管腔固定部材25が動脈瘤付近の血管の内壁に十分に密着できる程度のものである。また、第2の外径は、ステントグラフト21を目的部位に留置する際に用いられる装置の装填部に装填可能な程度のものである。
生体管腔固定部材25がこのような伸張性を有することにより、ステントグラフト21を目的部位へ容易に移送することができるとともに、目的部位に確実に留置、固定することができる。なお、生体管腔固定部材25は、バルーンエクスパンドタイプのものでもよいことは、言うまでもない。
生体管腔固定部材への内皮細胞誘導層の形成方法は、特に制限されないが、上記[ステント](内皮細胞誘導層)の項で説明したのと同様の方法が適用できる。このため、ここでは、説明を省略する。
(支持部材(グラフト))
支持部材(グラフト)22は、図3に示されるように本体グラフト23のみから構成されても、あるいは図4に示されるように本体グラフト23と本体グラフト23の外側面31から分枝した分枝グラフト24とを有していてもよい。
後者の場合には、分枝グラフト24は、生体管腔固定部材25のストランド51の間、すなわち、隣接する2つのストランド51の間に形成された窓において本体グラフト23から分枝している。本体グラフト23と分枝グラフト24とは、一体的に形成されていてもよく、また、別部材で構成され、それらが、例えば縫合等により固定されていてもよい。例えば、特開2011−147674号公報に記載されるステントグラフトが適用できる。
このうち、本体グラフト23は、筒状をなしている。また、本体グラフト23は、生体管腔固定部材25の外径の変化に伴い伸縮したり、または折り畳まれた状態から広がることができるようになっている。また、本体グラフト23は、生体管腔固定部材25の外面(外側)に固定されている。なお、本体グラフト23は、生体管腔固定部材25の内面(内側)に固定されていてもよく、また、本体グラフト23が2つあり、その一方が生体管腔固定部材25の内面に固定され、他方が外面に固定されていない。例えば、本体グラフト23の収縮力により生体管腔固定部材25に圧着させる他、例えば、生体管腔固定部材25に対し接着剤による接着、融着(熱融着、超音波融着等)、縫合、結紮等の方法により複数箇所で固定することができる。
支持部材22は、体液の流れ(例えば、血流)を透過しないもの(膜)であればよく、例えば、織物、編物、不織布、紙材のような繊維性多孔質膜、その他、非繊維性多孔質膜、高分子シートのような緻密膜等が挙げられる。また、支持部材22の素材(繊維)としては、例えば、セルロース繊維、綿、リンター、カポック、亜麻、大麻、ラミー、絹、羊毛等の天然繊維、ナイロン(ポリアミド)、テトロン、レーヨン、キュプラ、アセテート、ビニロン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)、ポリプロピレン等の化学繊維、またはこれら天然および化学繊維のうちの2以上の組み合わせ(混紡等)等が挙げられる。また、支持部材22の素材(高分子シート)の他の例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、天然ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ラテックスゴム等の各種ゴム、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系等の各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。なお、支持部材22は、同一または異なる材料による2層以上の積層体であってもよい。さらに、支持部材22に対し親水化処理または疎水化処理が施されていてもよい。なお、支持部材22が編物で形成されている場合、編物を構成する繊維の編み方や繊維径を調整することにより、その表面に親水性あるいは疎水性を付与させてもよい。
分枝グラフト24は、枝血管330内に導入される部位であり、本体グラフト23の外側面31から分枝し、伸縮可能なように、すなわち、本体グラフト23の外方に向って伸長し、内方に向って収縮し得るように構成されている。換言すれば、分枝グラフト24は、本体グラフト23の軸に対して非平行な方向(軸に交差する方向)に収縮し得るように構成されている。本実施形態では、分枝グラフト24は、本体グラフト23の軸に対して垂直な方向に沿って、伸縮可能なように、すなわち、外側面31から離間する方向に向って伸長し、外側面31に接近する方向に向って収縮し得るように構成されている。なお、分枝グラフト24の内部の流路は、本体グラフト23の内部の流路に連通しており、分枝グラフト24の本体グラフト23側の端部、すなわち基端部に、流入口が形成され、本体グラフト23と反対側の端部に、すなわち先端部に、流出口が形成されている。
この分枝グラフト24は、分枝グラフト24が収縮した収縮状態(以下、単に「収縮状態」とも称する)では、偏平状、すなわち、蛇腹状をなし、分枝グラフト24が伸長した伸長状態(以下、単に「伸長状態」とも称する)では、筒状をなしている。
また、分枝グラフト24には、折り目が形成されており、収縮状態では、その折り目に沿って折り畳まれた状態(折り畳み状態)にある。分枝グラフト24は、折り畳み状態では、分枝グラフト24の軸方向から見て正方形(四角形)をなしている。このため、分枝グラフト24の材質、厚さ、物性等は、本体グラフト23と、同じであってもあるいは異なっていてもよいが、折り目が付き易いものが好ましい。これにより、分枝グラフト24を容易かつ確実に折り畳むことができる。分枝グラフト24の折り目を付き易くするには、例えば、柔らかくすることである。このため、分枝グラフト24は、本体グラフト23よりも柔らかいことが好ましい。
支持部材への内皮細胞誘導層の形成方法は、特に制限されないが、上記[ステント](内皮細胞誘導層)の項で説明したのと同様の方法が適用できる。このため、ここでは、説明を省略する。
次に、本実施形態に係るステントグラフト21を血管内の動脈瘤付近に留置する際の手順の一例を、図5を参照しながら説明する。まず、ステントグラフト21を血管内の動脈瘤付近に留置する際に用いる装置(図示しない;以下、「ステントグラフト配置装置」と称する)の装着部に、ステントグラフト21を装着する。分枝グラフト24は、ステントグラフト配置装置の装着部で規制されて、折り畳み状態が保持される。次に、ステントグラフト配置装置により、ステントグラフト21を血管300の動脈瘤320がある部分まで移送する。そして、分枝グラフト24が、枝血管330の位置に位置するように、ステントグラフト21を位置決めした後、分枝グラフト24を枝血管330内に導入する。この際、分枝グラフト24は、筒状になる。これにより、ステントグラフト21は、血管300内の動脈瘤320付近に挿入・留置される。
なお、上記実施形態では、生体管腔固定部材が管状であったが、板状、棒状、球状、ゲル状等の、他の形態であってもよい。すなわち、生体管腔固定部材は、板状、管状、棒状、球状、またはゲル状でありうる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例および比較例において、特記しない限り、各操作を室温(20〜25℃)で行った。
実施例1
SUS316の平板(35mm×35mm)に、大気圧プラズマ処理装置(PT−2000P Duradyne Plasma Treatmet System、TRI−STAR TECHNOLOGIES製)を用いて、Arイオン化ガスプラズマ処理(Arガスフロー;15SCFH、電流;0.7A)を30秒間行った(チオール化合物塗布前のプラズマ処理)。
上記チオール化合物塗布前のプラズマ処理を施したSUS316の平板を、1重量%の濃度に調整したトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基3個)のメタノール溶液に、15mm/secにてディップコーティングし、乾燥した後、上記プラズマ処理装置を用いて、再度大気圧下でArイオン化ガスプラズマ処理を30秒間行った(チオール化合物塗布後のプラズマ処理)。その後、上記処理を施したSUS316の平板を、120℃で3時間加熱した後、EB線照射(40kGy)により滅菌して、サンプル(1)を得た。
実施例2
実施例1おいて、TEMPICのメタノール溶液の代わりに、1重量%の濃度に調整したペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート(PEMP)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基4個)のメタノール溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、サンプル(2)を得た。
比較例1
SUS316の平板(35mm×35mm)に、大気圧プラズマ処理装置(PT−2000P Duradyne Plasma Treatmet System、TRI−STAR TECHNOLOGIES製)を用いて、Arイオン化ガスプラズマ処理(Arガスフロー;15SCFH、電流;0.7A)を60秒間行い、比較サンプル(1)を得た。
上記実施例1及び2で得られたサンプル(1)及び(2)並びに比較例1で得られた比較サンプル(1)について、以下のようにして表面における細胞培養実験(内皮化試験)を行った。すなわち、予め培養したヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(住商ファーマインターナショナル株式会社製、商品名:HUV−EC−C)を、増殖用培地(Life Technologies社製、商品名:Medium200、LSGS)に添加して、細胞懸濁液を調製した。上記で調製した細胞懸濁液を、播種細胞数が2.1×104個となるように、各サンプルを入れた細胞培養用ディッシュに添加した。細胞を、37℃、5%CO2条件下で4日間培養した。培養後、各サンプルにトリプシン様タンパク質分解酵素(Sigma−Aldrich社製、商品名:トリプシン−EDTA溶液)を細胞解離剤として添加し、細胞を解離し、回収した。回収した細胞の一部を採取し、トリパンブルー染色法により生細胞数をカウントし、全生細胞数(回収細胞数)を算出した。播種細胞数及び回収細胞数から各サンプルにおける細胞の増殖率(%)を算出した。次に、比較例1の増殖率を100として、比較例に対する各サンプルでの増殖率を算出し、その結果を下記表1に示す。
表1に示される結果から明らかなように、実施例1及び2のチオール基含有化合物の内皮細胞誘導層を設けたSUS平板[サンプル(1)及び(2)]では、このような層を設けなかった比較サンプル(1)に比して、内皮細胞数が有意に増加しており、内皮細胞誘導層の存在による内皮細胞増殖の促進効果が確認された。この結果から、本発明の生体管腔内埋め込み用デバイスは、生体管腔内の狭窄部に挿入・留置後に、内皮細胞の増殖が促進されて、速やかに内皮細胞で被覆できることが期待される。