JP2011092491A - 埋め込み部材 - Google Patents

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武久 松田
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正和 山岸
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Abstract

【課題】血流下で血管内皮前駆細胞(EPC)を選択的に捕捉して、内皮化された表面を形成し得る埋め込み部材を提供。
【解決手段】基材と基材の表面に設けられたコーティング層を有する、EPCを流血下で捕捉し、かつ内皮化するための埋め込み部材。前記コーティング層は、抗凝固能を有する成分を含み、かつ架橋性官能基で修飾した天然高分子であって前記架橋性官能基の少なく一部を架橋した材料からなり、EPCに特異的に相互作用をする蛋白質を固定化するための官能基を有するものである。
【選択図】なし

Description

本発明は、血管内皮前駆細胞(以下、EPCと呼ぶことがある)を流血中で特異的に捕捉し内皮化を促進するコーティング層を有する埋め込み部材に関する。
人工血管など、体内に埋め込まれ血液と接する部材においては、血栓形成による閉塞や再狭窄などを低減するために、従来から、様々な取り組みが行われてきている。
その一環として、本発明者らは血液接触面の基材表面に設けられた抗凝固能を有する成分を含む高分子材料層と、前記高分子材料層の表面に設けられた化学固定化された蛋白質とを備え、前記蛋白質はEPCのみに発現するレセプタと特異的に作用するリガンドあるいはサイトカインレセプタの抗体であり、この生物学的特異作用によって、血流下でEPCを選択的に捕捉することができる人体埋め込み部材を提案した(特許文献1)。
特開2008−125682号公報
特許文献1に記載の埋め込み部材が有する高分子材料層は、抗凝固能を有する成分を含むものであり、抗凝固能を有する成分は、埋め込み部材を体内に埋め込んだ後に、徐々に高分子材料層から放出され、抗凝固能を発揮して、血流下で高分子材料層表面に固定化した蛋白質がEPCを選択的に捕捉して高分子材料層表面を内皮化する間、血栓の生成を抑制する必要がある。抗凝固能を有する成分としてはヘパリンが例示されている。特許文献1に記載の埋め込み部材が有する高分子材料層は、具体的には、アルブミンまたはゼラチンを水溶性カルボジイミドで架橋したゲル層であり、ゲル層に含まれたヘパリンがゲル層から徐々に放出されて、高分子材料層表面が内皮化されるまでの間、血栓の生成を抑制する。
しかるに、ゲル層に含まれたヘパリンを血栓の生成を抑制するに適した割合でゲル層から徐々に放出させるには、ゲル層の構造やヘパリンの存在状態等を制御する必要があり、一方、ゲル層は、血液の流れに対して耐久性を有する必要がある。
さらに、発明者らは、高分子材料層表面を内皮化する成分として、流血中のEPCを選択的に捕捉すれば、内皮化(血管内皮細胞(以下、EC)に分化して単層充填組織)が誘導できると考えた。
そこで本発明の目的は、抗凝固能を有する成分の徐放性を有する高分子材料層を有する埋め込み部材であって、血流下でEPCを選択的に捕捉して、内皮化された表面を形成し得る埋め込み部材を提供することにある。
従来の方法(即ち、架橋剤を用いる)で架橋剤量を増大させてゲル層の架橋を強化すると、塗布時の粘度が高くなり、均一塗膜層の形成が困難であった。また、ヘパリンの徐放性は低下する傾向があり、適度なヘパリンの徐放性を有する埋め込み部材を得るのは必ずしも容易ではなかった。
本発明者らは、天然高分子であるゼラチン等に架橋性基を導入することで、架橋剤を用いることなくゲル層を形成でき、その結果、適度な強度と適度な抗凝固能を有する成分の徐放性を有する、高分子材料層を有する埋め込み部材を提供できることを見出して本発明を完成させた。
本発明は、以下のとおりである。
[1]
基材と、
基材の表面に設けられたコーティング層を有する埋め込み部材であって、
前記コーティング層は、抗凝固能を有する成分(以下、抗凝固能成分)を含み、かつ架橋性官能基で修飾した天然高分子であって前記架橋性官能基の少なく一部を架橋した材料からなり、前記コーティング層は血管内皮前駆細胞(以下、EPC)に特異的に相互作用をする蛋白質(以下、特異的蛋白質)を固定化するための官能基(以下、固定化用官能基)を有するものである、EPCを流血下で捕捉し、内皮化を促進する埋め込み部材。
[2]
架橋性官能基で修飾した天然高分子は、架橋性官能基がチオール基含有官能基またはビニル基含有官能基であり、天然高分子が、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、及びコラーゲンから成る群から選ばれる少なくとも1種である[1]に記載の埋め込み部材。
[3]
抗凝固能成分がヘパリンである[1]または[2]に記載の埋め込み部材。
[4]
前記コーティング層は、その表面に前記固定化用官能基の少なくとも一部を介して特異的蛋白質が固定化されている、[1]〜[3]のいずれかに記載の埋め込み部材。
[5]
特異的蛋白質が、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGFの細胞表層レセプタに対する抗体、アンジオポイエティン、およびアンジオポイエティンの細胞レセプタに対する抗体からなる群から選ばれる少なくとも1種である[4]に記載の埋め込み部材。
[6]
VEGFの細胞表層レセプタがVEGFR1またはVEGFR2であり、アンジオポイエティンの細胞レセプタがTie1またはTie2である[4]に記載の埋め込み部材。
[7]
前記コーティング層は、特異的蛋白質が固定化されていない表面にブロッキング剤が固定化されている[4]〜[6]のいずれかに記載の埋め込み部材。
[8]
ブロッキング剤がポリエチレングリコールである[7]に記載の埋め込み部材。
[9]
前記基材が、体内に埋め込まれ、血液と接触することになる人工的な埋め込み部材の構成部材である[1]〜[8]のいずれかに記載の埋め込み部材。
[10]
前記構成部材は、人工血管、ステント、または人工弁に用いられるものである[9]に記載の埋め込み部材。
本発明によれば、ヘパリンのような抗凝固能を有する成分の徐放性と高分子材料層の強度を両立できる埋め込み部材であって、血流下でEPCを選択的に捕捉して、内皮化を誘導して、内皮化された表面(EPCまたはEPCが分化した血管内皮細胞(EC)で被覆された表面)を形成し得る埋め込み部材を提供することができる。
ラジカル重合性ビニル基を側鎖に導入した天然高分子である光反応性ゼラチンとヘパリンの混合ゲル形成の模式図を示す。 ブロッキング剤が固定化された表面の模式図を示す。 実施例3の埋め込み部材において、蛍光標識蛋白質が光架橋ゼラチン表面局所に濃縮固定されていることを示す。 実施例3の埋め込み部材において、ゲル層内に均一に蛍光標識したヘパリンが分布していることを共焦点レーザー顕微鏡の深さ方向のプロファイル像が示す。 実施例3の埋め込み部材において、3つの異なるヘパリン含有量のゲル層からの緩衝液への徐放量(day base)および積算徐放量を示す。 実施例3の埋め込み部材においてヒト単核球をVEGF固定表面に播種した結果を示す。 ヒト血管内皮前駆細胞のVEGF固定化表面の接着挙動を示す。 光架橋ゼラチン・ヘパリン複合ゲル・コーティングとVEGF表面固定化による内皮前駆細胞の捕捉と内皮化の模式図を示す。 実施例4における、片末端アミノ基のポリエチレングリコールでブロッキングした表面の細胞接着の様子を示す写真(左図:フィブロネクチン固定化表面、右図ポリエチレングリコールブロッキング表面)を示す。 比較例1における、蛍光アルブミン固定表面の写真を示す。 基材表面の蛍光強度のタンパク質濃度の依存性とポリエチレングリコール(PEG)吸着時のタンパク質の固定量を示す。
本発明の埋め込み部材は、流血中のEPCをその表面で捕捉し、かつ内皮化することができる埋め込み部材である。本発明の埋め込み部材は、基材とこの基材の表面に設けられたコーティング層を有する。ここで、コーティング層を設ける基材の表面とは、血流と接触する側の面をいう。また、抗凝固能とは、血液の凝血作用を阻害し、血栓生成を抑制する機能をいう。
基材は、体内に埋め込まれ、血液と接触することになる人工的な埋め込み部材の構成部材であれば、特に制限はない。そのような構成部材は、例えば、人工血管、ステント、または人工弁等に用いられるものであることができる。人工血管の場合は、例えば、チューブ形状のポリエステル繊維やポリテトラフルオロエチレン樹脂などの生体適合性材料から構成されるものであることができる。人工血管は、その内径によって、10mm以上の大口径人工血管、8mm程度の中口径人工血管、6mm以下の小口径人工血管などの種類があり、臨床に使用されている。しかし、特に内径6mm以下の小口径人工血管は、冠状動脈疾患、末梢動脈疾患等の治療において希求されているが、血栓閉塞によって実用化されていない。ステントの場合は、例えば、金属または生体適合性の高分子材料から成るものを挙げることができる。人工弁の場合は、所謂、機械弁であり、一部又は全部のパーツが金属または生体適合性の高分子材料でできているものであることができる。
コーティング層は、抗凝固能を有する成分(以下、抗凝固能成分)を含み、かつ架橋性基で修飾した天然高分子であって、前記天然高分子は架橋性基の少なくとも一部が架橋されている材料からなる。また、天然高分子は、EPCに特異的に相互作用をする蛋白質(特異的蛋白質)を固定化するための官能基(固定化用官能基)を有するものであり、従ってコーティング層も固定化用官能基を有する。
架橋性基で修飾した天然高分子は、架橋性基が、例えば、チオール基またはラジカル重合性ビニル基であり、天然高分子が、例えば、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、及びコラーゲンから成る群から選ばれる少なくとも1種であることができる。これらの天然高分子は、蛋白質固定化用官能基としては、カルボキシル基、アミノ基等を有するものである。架橋性基がチオール基の場合、チオール基含有天然高分子に過酸化水素水(例えば、5〜30%H22)を作用させることで、2つのチオール基が縮合してS−S結合を形成して、架橋を形成する。この際、チオール基含有天然高分子と共存する抗凝固能成分(例えば、ヘパリン)は、天然高分子と反応することはない。また、架橋性基がビニル基の場合、ビニル基を含有する例えば、スチレン基を導入し、スチレン化された天然高分子をラジカル重合させると、スチレンを介して天然高分子は架橋を形成する。この際、スチレン化された天然高分子と共存する抗凝固能成分(例えば、ヘパリン)は、天然高分子と反応することはない。ラジカル重合は、ラジカル重合性ビニル基を側鎖に導入した天然高分子とヘパリンの混合物に、さらに水溶解性光ラジカル開始剤(例:カルボキシル化カンファキノン、ベンゾフェノン誘導体)を添加した混合水溶液を作製し、これに可視光あるいは紫外光照射することで、ビニル基の重合によりゲル化層が形成される。図1に、ラジカル重合性ビニル基を側鎖に導入した天然高分子である光反応性ゼラチンとヘパリンの混合ゲル形成の模式図を示す。
天然高分子に対する架橋性基の修飾量は、架橋性基の種類やコーティング層に求められる強度に応じて適宜決定できる。また、天然高分子に対する架橋性基の導入も公知の方法(例えば、Okino H, et al., J Biomed Mater Res 2002;59:233-245; Matsuda T, et al., Biomacromolecules, Vol.3, No.5, 2002, 942-950; Li C, Sajiki, J Biomed Mater Res 2003;66B(1):439-446参照)を用いて実施できる。
抗凝固能成分としては、ヘパリンを例示できる。抗凝固能成分のコーティング層における含有量は、架橋性基で修飾した天然高分子の種類や架橋の程度および徐放期間に応じて適宜決定できるが、例えば、抗凝固能成分がヘパリンの場合、架橋性基で修飾した天然高分子の質量の1〜20%の範囲とすることができる。
但し、抗凝固能を有する成分はヘパリンであることが好ましい。ヘパリンの抗凝固能作用機序は、ヘパリンがアンチトロンビンIIIを活性化し、抗凝血作用能の賦活を通して血液凝固系を抑制する、というものである。このヘパリンの徐放性によって、内皮単層充填組織の形成が完了するまでの間における血栓生成を抑制することができる。
前記天然高分子と抗凝固能成分を含有する塗布液の塗布は、基材がステントの場合には超音波噴霧装置を用い、基材が人工血管の場合には内腔に塗布液を注入して、それぞれ行うことができる。コーティング層の厚みは、特に制限はないが、例えば、1〜500μmの範囲とすることができる。コーティング層の厚みは、コーティング層が形成される基材の種類に応じて適宜決定できる。
前記コーティング層は、その表面に、前記天然高分子が有するカルボキシル基、アミノ基等の固定化用官能基の少なく一部を介して特異的蛋白質が固定化される。
コーティング層の表面には、前記固定化用官能基の少なく一部を介して特異的蛋白質が固定化される。特異的蛋白質とは、EPCに特異的に相互作用をする蛋白質を意味する。そのような特異的蛋白質としては、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGFの細胞表層レセプタ(例えば、VEGFR1あるいはVEGFR2)に対する抗体、アンジオポイエティン、およびアンジオポイエティンの細胞レセプタ(例えば、Tie1あるいはTie2)に対する抗体からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらの特異的蛋白質は、単独でも複数(2種以上)を組み合わせて使用することもできる。
特異的蛋白質は、コーティング層の表面に、特異的蛋白質および縮合剤を含有する水溶液を接触させることで、前記固定化用官能基を介して固定化することができる。縮合剤としては、例えば、水溶性縮合剤を挙げることができ、水溶性縮合剤としては、例えば、WSC;カルボジイミド;1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydroclorideを挙げることができる。
特異的蛋白質のコーティング層の表面での固定化量は、特異的蛋白質の種類等に応じて適宜決定でき、特異的蛋白質が固定化されたコーティング層の表面が、血液と接触した際に、特異的蛋白質を介して捕捉されたEPCでほぼ一様に被覆され得る程度にすることが適当である。特異的蛋白質の大きさに比べてEPCの大きさは格段に大きく、従って、特異的蛋白質のコーティング層表面への固定化密度が小さく、また不均一であっても、EPCが捕捉されれば、コーティング層表面はEPCおよびEPCから分化したECで被覆され得る。また、上記で例示した特異的蛋白質は、必ずしも安価なものではないため、より安価に埋め込み部材を提供するという観点からは、特異的蛋白質の固定化量を適正化することが好ましい。
また、特異的蛋白質の高密度表面固定を意図しても、原理的に未固定部分が存在し、この部分が目的としない細胞種の接着や血液凝固系の活性化の源となる可能性もある。特異的蛋白質が固定化されていないコーティング層表面が増大すると、コーティング層と、EPC以外の細胞やタンパク質成分との相互作用が生じ易くなる。そのような相互作用をより抑制するために、コーティング層は、特異的蛋白質が固定化されていない表面にブロッキング剤が固定化されていることが好ましい。ブロッキング剤が固定化された表面の模式図を図2に示す。ブロッキング剤としては、ポリエチレングリコールを挙げることができる。ポリエチレングリコールは分子量が例えば、200〜10000程度のものを用いることができる。但し、ポリエチレングリコールの分子量は、ブロッキング性能を考慮して適宜設定できる。複数種類のポリエチレングリコールを併用することもできる。
ポリエチレングリコールの固定化は、ポリエチレングリコールの片末端にアミノを導入した片末端アミノ化ポリエチレングリコールを用い、コーティング層の固定化用修飾基と反応させることで実施できる。ブロッキング剤を用いる場合、特異的蛋白質の固定化量とブロッキング剤の固定化量の比率は、例えば、5:100〜90:10の範囲であることができる。
本発明によれば、病変血管壁を再建する人工機器(ステントおよび小口径人工血管)の表面での血栓形成を抑止し、生体動脈血管と同等の恒久的な非血栓性を発現するコーティング層を有する埋め込み部材が提供される。本発明の埋め込み部材のコーティング層表面は、流血中に微量に含まれる血管内皮前駆細胞を選択的に捕捉・被覆(内皮化)することができる。高選択的捕捉は、コーティング層表面に固定したVEGFまたはそのレセプタ(例えば、VEGFR1若しくはVEGFR2)に対する抗体、アンジオポイエティンまたはそのレセプタ(例えば、Tie1若しくはTie2)に対する抗体等との生物学的特異相互作用によって実現される。
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1:チオール基を側鎖に有する天然高分子による蛋白質固定化
チオール化ゼラチンは、3,3-dithiopropionic acidでゼラチンのリジン残基のアミノ基と、WSCを縮合剤を用いて結合させ、ついで2−メルカプトエタノールでチオール化ゼラチンを作製し、透析・凍結乾燥により精製した。得られたチオール化ゼラチン(30 wt.%)とヘパリン(3 wt.%)をりん酸緩衝液に溶解させた。この溶液を米国Sono-Tek社 超音波噴霧装置によりステント上にコーティングし、空気乾燥によって均一な薄厚が形成された(厚み約3ミクロン)。ついで30% H2O2水溶液を注入することによりS‐S(ジチオ結合)形成によりゲル層(コーティング層)を形成した。ついで、VEGF(1μg〜100μg/ml)およびWSCを含有するりん酸緩衝液に浸漬した。24時間後に生理食塩水で洗浄し、本発明の埋め込み部材を得た。
実施例2:チオール基を側鎖に有する天然高分子による蛋白質固定化
チオール化ゼラチンは、3,3-dithiopropionic acidでゼラチンのリジン残基のアミノ基と、WSCを縮合剤を用いて結合させ、ついで2−メルカプトエタノールでチオール化ゼラチンを作製し、透析・凍結乾燥により精製した。得られたチオール化ゼラチン(30 wt.%)とヘパリン(3 wt.%)をりん酸緩衝液に溶解させた。この溶液をセグメント化ポリウレタン・メッシュ筒状体(内径3.5mm、長さ10cm;自作した高電界エレクトロスピニング装置で製造)の内腔に注入し、直ちに溶液を重力流出させて乾燥することにより均一薄膜層が筒状体内腔に形成できた(膜厚2ミクロン)。ついで30% H2O2水溶液を注入することによりS‐S(ジチオ結合)形成によりゲル層(コーティング層)を形成した。ついで、VEGF(1μg〜100μg/ml)およびWSCを含有するりん酸緩衝液に浸漬した。24時間後に生理食塩水で洗浄し、本発明の埋め込み部材を得た。
実施例3:ラジカル重合性ビニル基を側鎖に有する天然高分子による蛋白質固定化
スチレン化ゼラチン(ゼラチンとP−ビニル安息香酸をWSCで縮合したもので、ゼラチンのリジン残基約36.5個/分子に少なくとも10個以上導入;30〜40 wt.%)とカルボキシル化カンファキノン(0.5 wt.%)、ヘパリン(3 wt.%)をりん酸緩衝液に溶解した。この溶液を人工血管内腔に圧入して余分の混合液を除外した後に、ハロゲンランプ(80W、トクヤマ製、1.3×103lxで10分間照射してゲル層を形成した。ついで実施例1と同様にVEGF(りん酸緩衝液 0.1 mg/ml)およびWSCを含むりん酸緩衝液を用いて、VEGFを表面固定し、本発明の埋め込み部材を得た。
上記で得られた本発明の埋め込み部材について以下の試験を行った。
図3に蛍光標識蛋白質が光架橋ゼラチン表面局所に濃縮固定されていること、図4にゲル層内に均一に蛍光標識したヘパリンが分布していることを共焦点レーザー顕微鏡の深さ方向のプロファイル像が示している。図5に3つの異なるヘパリン含有量がゼラチンに対し、2.5 wt.%(A), 7.5 wt.%(B)および22.5 wt.%(C)のゲル層からの緩衝液への徐放量(day base)および積算徐放量を示した。ヘパリン含有量の増加に従って徐放量・徐放速度は大きくなった。ヒト単核球をVEGF固定表面に播種すると、細胞は紡錘状のコロニーを形成し始め(図6:A)、CD34(図6:B)、VEGFレセプタ(VEGFR2)(図6:C)、von Willbrand factor(図6:D)陽性細胞群が観察された。図7にヒト血管内皮前駆細胞のVEGF固定化表面の接着挙動を示した。培養2日で細胞は伸展し増殖した。図8に光架橋ゼラチン・ヘパリン複合ゲル・コーティングとVEGF表面固定化による内皮前駆細胞の捕捉と内皮化の模式図を示した。
実施例4:未固定部分のブロッキング
特異的蛋白質の未固定部分をブロッキングするために、細胞接着・蛋白質吸着を抑制するポリエチレングリコール(実施例4)またはアルブミン(比較例1)を固定化した表面を形成した。片末端アミノ基のポリエチレングリコール(分子量2,000) 0.1%溶液に実施例1のS‐S(ジチオ結合)形成によるゲル層(コーティング層)を有する材料を浸漬(24時間)した表面は細胞の接着がフィブロネクチン固定化表面に比べて大幅に抑制され、ブロッキング効果は顕著であった(図9)。一方、蛍光アルブミン溶液(1 mg/ml)に浸漬した後、りん酸緩衝液で洗浄すると、蛍光は殆ど観察されなかった(図10および11)。
本発明は、人工血管等の人体への埋め込み部材に関連する分野において有用である。

Claims (10)

  1. 基材と、
    基材の表面に設けられたコーティング層を有する埋め込み部材であって、
    前記コーティング層は、抗凝固能を有する成分(以下、抗凝固能成分)を含み、かつ架橋性官能基で修飾した天然高分子であって前記架橋性官能基の少なく一部を架橋した材料からなり、前記コーティング層は血管内皮前駆細胞(以下、EPC)に特異的に相互作用をする蛋白質(以下、特異的蛋白質)を固定化するための官能基(以下、固定化用官能基)を有するものである、EPCを流血下で捕捉し、内皮化を促進する埋め込み部材。
  2. 架橋性官能基で修飾した天然高分子は、架橋性官能基がチオール基含有官能基またはビニル基含有官能基であり、天然高分子が、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、及びコラーゲンから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の埋め込み部材。
  3. 抗凝固能成分がヘパリンである請求項1または2に記載の埋め込み部材。
  4. 前記コーティング層は、その表面に前記固定化用官能基の少なくとも一部を介して特異的蛋白質が固定化されている、請求項1〜3のいずれかに記載の埋め込み部材。
  5. 特異的蛋白質が、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGFの細胞表層レセプタに対する抗体、アンジオポイエティン、およびアンジオポイエティンの細胞レセプタに対する抗体からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の埋め込み部材。
  6. VEGFの細胞表層レセプタがVEGFR1またはVEGFR2であり、アンジオポイエティンの細胞レセプタがTie1またはTie2である請求項4に記載の埋め込み部材。
  7. 前記コーティング層は、特異的蛋白質が固定化されていない表面にブロッキング剤が固定化されている請求項4〜6のいずれかに記載の埋め込み部材。
  8. ブロッキング剤がポリエチレングリコールである請求項7に記載の埋め込み部材。
  9. 前記基材が、体内に埋め込まれ、血液と接触することになる人工的な埋め込み部材の構成部材である請求項1〜8のいずれかに記載の埋め込み部材。
  10. 前記構成部材は、人工血管、ステント、または人工弁に用いられるものである請求項9に記載の埋め込み部材。
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