以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる駆動力配分装置を備えた四輪駆動車両の概略構成を示す図である。同図に示す四輪駆動車両1は、車両の前部に横置きに搭載したエンジン(駆動源)3と、エンジン3と一体に設置された自動変速機4と、エンジン3からの駆動力を前輪Wf,Wf及び後輪Wr,Wrに伝達するための駆動力伝達経路20とを備えている。自動変速機4は、詳細な図示は省略するが、駆動プーリと従動プーリとの間に金属製の無端状ベルトを巻き掛けた構成のベルト式無段変速機(CVT)である。
エンジン3の出力軸(図示せず)は、自動変速機4、図示しないトランスファ(TRF)、フロントディファレンシャル5、左右のフロントドライブシャフト6,6を介して、主駆動輪である左右の前輪Wf,Wfに連結されている。さらに、エンジン3の出力軸は、自動変速機4、トランスファ、フロントディファレンシャル5、プロペラシャフト7、リアディファレンシャルユニット(以下「リアデフユニット」という)8、左右のリアドライブシャフト9,9を介して副駆動輪である左右の後輪Wr,Wrに連結されている。
リアデフユニット8は、左右のリアドライブシャフト9,9に駆動力を配分するためのリアディファレンシャル21と、プロペラシャフト7からリアディファレンシャル21への駆動力伝達経路を接続・切断するための前後トルク配分用クラッチ10と、前後トルク配分用クラッチ10に作動油を供給するための油圧回路60とを備えている。前後トルク配分用クラッチ10は、油圧式のクラッチであり、駆動力伝達経路20において後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御するための駆動配分装置である。後述する4WD・ECU50は、油圧回路60による供給油圧を制御することで、前後トルク配分用クラッチ10で後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御する。これにより、前輪Wf,Wfを主駆動輪とし、後輪Wr,Wrを副駆動輪とする駆動制御を行うようになっている。
すなわち、前後トルク配分用クラッチ10が解除(切断)されているときには、プロペラシャフト7の回転がリアディファレンシャル21側に伝達されず、エンジン3のトルクがすべて前輪Wf,Wfに伝達されることで、前輪駆動(2WD)状態となる。一方、前後トルク配分用クラッチ10が接続されているときには、プロペラシャフト7の回転がリアディファレンシャル21側に伝達されることで、エンジン3のトルクが前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrの両方に配分されて四輪駆動(4WD)状態となる。
また、四輪駆動車両1には、車両の駆動を制御するための制御手段であるFI/AT・ECU30、VSA・ECU40、4WD・ECU50が設けられている。また、左のフロントドライブシャフト6の回転数に基いて左前輪Wfの車輪速を検出する左前輪速度センサS1と、右のフロントドライブシャフト6の回転数に基いて右前輪Wfの車輪速を検出する右前輪速度センサS2と、左のリアドライブシャフト9の回転数に基いて左後輪Wrの車輪速を検出する左後輪速度センサS3と、右のリアドライブシャフト9の回転数に基いて右後輪Wrの車輪速を検出する右後輪速度センサS4とが設けられている。これら4つの車輪速度センサS1〜S4は、4輪の車輪速度VW1〜VW4それぞれを検出する。車輪速度VW1〜VW4の検出信号は、VSA・ECU40に送られるようになっている。
また、この四輪駆動車両1には、ステアリングホイール25の操舵角を検出する操舵角センサS5と、車体のヨーレートを検出するヨーレートセンサS6と、車体の横加速度を検出する横加速度センサS7と、車両の車体速度(車速)を検出するための車速センサS8と、アクセルペダル26の開度を検出するためのアクセル開度センサS12などが設けられている。これら操舵角センサS5、ヨーレートセンサS6、横加速度センサS7、車速センサS8、アクセル開度センサS12による検出信号は、4WD・ECU50に送られるようになっている。
FI/AT・ECU30は、エンジン3及び自動変速機4を制御する制御手段であり、RAM、ROM、CPUおよびI/Oインターフェースなどからなるマイクロコンピュータ(いずれも図示せず)を備えて構成されている。このFI/AT・ECU30には、スロットル開度センサ(又はアクセル開度センサ)S9で検出されたスロットル開度(又はアクセル開度)Thの検出信号、エンジン回転数センサS10で検出されたエンジン回転数Neの検出信号、及びシフトポジションセンサS11で検出されたシフトポジションの検出信号などが送られるようになっている。また、FI/AT・ECU30には、エンジン回転数Neと吸入空気量とエンジントルク推定値Teとの関係を記したエンジントルクマップが格納されており、エアフロメータで検出された吸気流入量と、エンジン回転数センサS10で検出されたエンジン回転数Neなどに基いて、エンジントルクの推定値Teを算出するようになっている。
VSA・ECU40は、左右前後の車輪Wf,Wf及びWr,Wrのアンチロック制御を行うことでブレーキ時の車輪ロックを防ぐためのABS(Antilock Braking System)としての機能と、車両の加速時などの車輪空転を防ぐためのTCS(Traction Control System)としての機能と、旋回時の横すべり抑制システムとしての機能とを備えた制御手段であって、上記3つの機能をコントロールすることで車両挙動安定化制御を行うものである。このVSA・ECU40は、上記のFI/AT・ECU30と同様に、マイクロコンピュータで構成されている。
4WD・ECU(制御手段、駆動力算出手段)50は、FI/AT・ECU30及びVSA・ECU40と同様に、マイクロコンピュータで構成されている。4WD・ECU50とFI/AT・ECU30及びVSA・ECU40とは相互に接続されている。したがって、4WD・ECU50には、FI/AT・ECU30及びVSA・ECU40とのシリアル通信により、上記の車輪速度センサS1〜S4,シフトポジションセンサS11などの検出信号や、エンジントルク推定値Teの情報などが入力されるようになっている。4WD・ECU50は、これらの入力情報に応じて、ROMに記憶された制御プログラムおよびRAMに記憶された各フラグ値および演算値などに基いて、後述するように、後輪Wr,Wrに配分する駆動力(以下、これを「四輪駆動トルク」という。)、及びそれに対応する前後トルク配分用クラッチ10への油圧供給量を演算すると共に、当該演算結果に基づく制御量出力を前後トルク配分用クラッチ10に出力する。
図2は、油圧回路60の詳細構成を示す油圧回路図である。同図に示す油圧回路60は、ストレーナ33を介してオイルタンク31に貯留されている作動油を吸い込んで圧送するオイルポンプ35と、オイルポンプ35を駆動するモータ(電動モータ)37と、オイルポンプ35から前後トルク配分用クラッチ(以下、単に「クラッチ」という。)10のピストン室15に連通する油路49とを備えている。
クラッチ10は、シリンダハウジング11と、シリンダハウジング11内で進退移動することで積層された複数の摩擦材13を押圧するピストン12とを備えている。シリンダハウジング11内には、ピストン12との間に作動油が導入されるピストン室15が画成されている。ピストン12は、複数の摩擦材13における積層方向の一端に対向配置されている。したがって、ピストン室15に供給された作動油の油圧でピストン12が摩擦材13を積層方向に押圧することで、クラッチ10を所定の係合圧で係合させるようになっている。
オイルポンプ35からピストン室15に連通する油路49には、ワンウェイバルブ(一方向弁)39、リリーフ弁41、ソレノイド弁(開閉弁)43、油圧センサ45がこの順に設置されている。ワンウェイバルブ39は、オイルポンプ35側からピストン室15側に向かって作動油を流通させるが、その逆の向きには作動油の流通を阻止するように構成されている。これにより、オイルポンプ35の駆動でワンウェイバルブ39の下流側に送り込まれた作動油を、ワンウェイバルブ39とピストン室15との間の油路(以下では、「封入油路」ということがある。)49に封じ込めることができる。上記のワンウェイバルブ39とピストン室15との間の油路49によって、クラッチ10に供給する油圧が保持される油圧保持部が構成されている。
リリーフ弁41は、ワンウェイバルブ39とピストン室15との間の油路49の圧力が所定の閾値を超えて異常上昇したときに開くことで、油路49の油圧を解放するように構成された弁である。リリーフ弁41から排出された作動油は、オイルタンク31に戻されるようになっている。ソレノイド弁43は、オンオフ型の開閉弁で、4WD・ECU50の指令に基いてPWM制御(デューティ制御)されることで、油路49の開閉を制御することができる。これにより、ピストン室15の油圧を制御することができる。また、ソレノイド弁43は、ノーマルオープン型の電磁弁である。したがって、ソレノイド弁43を閉じる際には内部の可動金属部が別の金属部に打ち付けられることで動作音(金属接触音)が発生する。その一方で、ソレノイド弁43を開く際には動作音が発生しない。なお、ソレノイド弁43が開かれることで油路49から排出された作動油は、オイルタンク31に戻されるようになっている。また、油圧センサ45は、油路49及びピストン室15の油圧を検出するための油圧検出手段であり、その検出値は、4WD・ECU50に送られるようになっている。また、ピストン室15は、アキュムレータ18に連通している。アキュムレータ18は、ピストン室15及び油路49内の急激な油圧変化や油圧の脈動を抑制する作用を有している。また、オイルタンク31内には、作動油の温度を検出するための油温センサ47が設けられている。油温センサ47の検出値は、4WD・ECU50に送られるようになっている。
図3は、ピストン室15の油圧制御の手順を示すフローチャートであり、(a)は、加圧時の手順を示すフローチャート、(b)は、減圧時の手順を示すフローチャートである。また、図4は、ピストン室15の油圧制御におけるモータ37(オイルポンプ35)の運転/停止状態及びソレノイド弁43の開/閉状態と実油圧(封入油路49の油圧)の変化を示すタイミングチャートである。また、図5は、ピストン室15の油圧制御における油圧回路60内の作動油の状態を示す回路図で、(a)は、加圧時の作動油の状態、(b)は、油圧保持時の作動油の状態、(c)は、減圧時の作動油の状態を示す図である。
本実施形態の駆動力配分装置による油圧制御では、ピストン室15を加圧する際には、モータ37(オイルポンプ35)の駆動を制御(デューティ制御)することで、加圧側の油圧−トルク特性に基いてピストン室15が目標油圧となるように制御する。そして、ピストン室15が目標油圧となるまで加圧した後、減圧を開始するまでの間は、封入油路49に作動油を封じ込めた状態を維持することで、クラッチ10のトルクを略一定に保つことができる。一方、ピストン室15を減圧する場合には、オイルポンプ35の作動を禁止すると共にソレノイド弁43の開閉を制御(オンオフ制御)することで、減圧側の油圧−トルク特性に基いてピストン室15が目標油圧となるよう制御する。なお、上記の加圧側及び減圧側の油圧−トルク特性は、後輪Wr,Wrに配分すべき駆動力(リアトルク)に対応する封入油路49内の油圧値として、予めモデル化されているものである。
以下、図3のフローチャートに沿って、ピストン室15の加圧時と減圧時の油圧制御の手順について説明する。まず、同図(a)に示す加圧時の制御フローでは、4WD・ECU50は、ピストン室15に対する加圧指示(加圧指示トルク)が有るか否かを判断する(ステップST1−1)。ピストン室15に対する加圧指示の有無は、車両の走行状態に応じて前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrに配分する駆動力を判断した結果、クラッチ(駆動力配分装置)10の締結要求又は締結力の増加要求があるか否かによって決まる。その結果、ピストン室15に対する加圧指示が無ければ(NO)、そのまま処理を終了する。一方、加圧指示があれば(YES)、続けて、加圧側の油圧−トルク特性に基いて、オイルポンプ35(モータ37)の停止油圧(指示油圧)を算出し(ステップST1−2)、算出した指示油圧からモータ37を駆動するPWM制御のデューティ比を決定する(ステップST1−3)。その後、ソレノイド弁43が開いている場合には、ソレノイド弁43を閉じて油路49を封止状態とし(ステップST1−4)、決定したデューティ比でモータ37を駆動してオイルポンプ35を運転する(ステップST1−5)。これにより、ワンウェイバルブ39とピストン室15の間の油路49に作動油が送り込まれて、油路49及びピストン室15の油圧が上昇してゆく。その後、油圧センサ45で検出した油路49及びピストン室15の油圧(実油圧)がオイルポンプ35(モータ37)の停止油圧(指示油圧)以上になったか否かを判断する(ステップST1−6)。油路49及びピストン室15の油圧がオイルポンプ35の停止油圧に達したら(YES)、モータ37(オイルポンプ35)の運転を停止して(ステップST1−7)、加圧時の制御を終了する。なお、このピストン室15の加圧時には、油路49及びピストン室15の油圧が目標油圧に達するまでの間、オイルポンプ35が一定圧の作動油を吐出するようにモータ37の駆動を制御するとよい。
一方、図3(b)に示す減圧時の制御フローでは、4WD・ECU50は、ピストン室15に対する減圧指示(減圧指示トルク)が有るか否かを判断する(ステップST2−1)。ピストン室15に対する減圧指示は、車両の走行状態に応じて前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrに配分する駆動力を判断した結果、クラッチ(駆動力配分装置)10の締結解除要求又は締結力の低減要求があるか否かによって決まる。その結果、減圧指示が無ければ(NO)、そのまま処理を終了する。一方、減圧指示があれば(YES)、続けて、減圧側の油圧−トルク特性テーブルに基いて、ソレノイド弁43の閉止油圧(指示油圧)を算出する(ステップST2−2)。その後、ソレノイド弁43を開いて油路49の封止状態を解除し(ステップST2−3)、油路49及びピストン室15の油圧を制御する。これにより、ソレノイド弁43を介して油路49の作動油が排出されて油圧が下降してゆく。その後、油圧センサ45で検出した油路49及びピストン室15の油圧(実油圧)がソレノイド弁43の閉止油圧(指示油圧)以下になったか否かを判断する(ステップST2−4)。油路49及びピストン室15の油圧がソレノイド弁43の閉止油圧に達したら(YES)、ソレノイド弁43を閉じて(ステップST2−5)、減圧時の制御を終了する。
図4のタイミングチャートにおいて、時刻T1から時刻T2までの加圧時には、図3(a)のフローチャートに沿って加圧時の油圧制御が行われる。この加圧時の油圧制御では、既述のように、指示油圧に応じてオイルポンプ35の駆動を制御することで、ピストン室15の油圧を所望のトルクに応じた目標油圧になるように制御する。すなわち、油圧センサ45を用いて封入油路49内の作動油の油圧を計測し、当該油圧が後輪Wr,Wrに配分すべきトルクを出力可能な値(=目標油圧)となるまでモータ37の運転及びソレノイド弁43の閉状態を継続する。この加圧時の油圧回路60内の作動油は、図5(a)に示す状態になっている。
その後、時刻T2においてモータ37(オイルポンプ35)の運転を停止する。時刻T2から時刻T3までの油圧保持時には、油圧回路60内の作動油は、図5(b)に示すように、油路49に指示油圧の作動油が封じ込められた状態になっている。したがって、オイルポンプ35の運転を停止しても、暫くの間はクラッチ10のトルク(実トルク)は略一定に維持される。これにより、目標の四輪駆動(4WD)状態を必要な時間継続する。なお、図示は省略するが、この状態においてより高い目標油圧が設定された場合には、さらにモータ37を動作させ油路49の加圧を行うようにする。
時刻T3から、図3(b)のフローチャートに沿って減圧時の油圧制御が行われる。この減圧時の油圧制御では、既述のように、指示油圧に応じてソレノイド弁43の開閉を制御することで、ピストン室15の油圧が所望のトルクに応じた目標油圧まで下降するように制御される。この減圧時の油圧回路60内の作動油は、図5(c)に示す状態になっている。また、この状態において、より低い目標油圧(但し、加圧を開始する状態よりも高い油圧)が設定された場合、詳細には、今回設定(算出)された目標油圧が前回設定された目標油圧よりも所定値以上低い場合には、封入油路49内の油圧がその目標油圧に到達するまでソレノイド弁43を開状態とし、目標油圧に到達したらソレノイド弁43を閉状態とする。これにより、油路49及びピストン室15の指示油圧とクラッチ10の指示トルクが複数段で段階的に変化するように制御される。ピストン室15の油圧が低下すると、摩擦材13の押付力が減少して後輪Wr,Wrへのトルク配分量が減少する。最終的には、封入油路49内の油圧を加圧開始時点の油圧まで低下させることで前輪Wf,Wfにのみ駆動力が配分される二輪駆動(2WD)状態となる。
このように、4WD・ECU50は、油圧回路60による供給油圧を制御することで、クラッチ10で後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御する。これにより、前輪Wf,Wfを主駆動輪とし、後輪Wr,Wrを副駆動輪とする駆動制御を行うようになっている。すなわち、クラッチ10が解除(切断)されているときには、プロペラシャフト7の回転がリアディファレンシャル21側に伝達されず、エンジン3のトルクがすべて前輪Wf,Wfに伝達されることで、前輪駆動(2WD)状態となる。一方、クラッチ10が接続されているときには、プロペラシャフト7の回転がリアディファレンシャル21側に伝達されることで、エンジン3のトルクが前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrの両方に配分されて四輪駆動(4WD)状態となる。4WD・ECU50は、車両の走行状態を検出するための各種検出手段(図示せず)の検出に基いて、後輪Wr,Wrに配分する駆動力およびこれに対応するクラッチ10への油圧供給量を演算すると共に、当該演算結果に基づく駆動信号をクラッチ10に出力する。これにより、クラッチ10の締結力を制御し、後輪Wr,Wrに配分する駆動力を制御するようになっている。
また、本実施形態の駆動力配分装置では、ソレノイド弁43を閉じる制御として、油圧センサ45で検出した油路49又はピストン室15の油圧が所定値(後述する閾値油圧P1)以下、且つ車輪速センサS1〜S4で検出した車輪速に基づく車速が所定値(後述する閾値車速V1)以下になったときにソレノイド弁43を閉じる制御を行うようになっている。以下、この制御について詳細に説明する。
図6は、ソレノイド弁43を閉じる制御における各値の経時変化を示すタイミングチャートである。ソレノイド弁43を閉じる制御では、時刻t21にアクセルAPの開閉状態が開から閉になり、同時にソレノイド弁43の開閉状態が閉から開になる。これにより、油路49の油圧Pが低下する。また、その後、時刻t22に油路49の油圧Pが予め設定した閾値P1以下、かつ車速Vが予め設定した閾値V1以下となる。これにより、ソレノイド弁43の開閉状態が開から閉になる。このようにソレノイド弁43を閉じる制御では、車速Vが閾値V1以下となり、かつ油路49の油圧Pが閾値P1以下となったことを条件にソレノイド弁43が閉じられる。したがって、アクセルAPの開閉状態が閉から開になるタイミングとソレノイド弁43の開閉状態が開から閉になるタイミングとが同期せず、これらが互いに異なるタイミングとなる。その後、時刻t23にオイルポンプ35の運転が開始されて油圧Pが上昇する。時刻t24にオイルポンプ35の運転が停止して、それ以降、油路49の油圧が維持される。さらにその後、時刻t25にアクセルAPの開閉状態が開から閉になり、ソレノイド弁43の開閉状態が閉から開になる。これにより、油路49の油圧Pが低下する。そして、時刻t26に再び油路49の油圧Pが閾値P1以下となり、時刻t27に車速Vが閾値V1以下となることで、ソレノイド弁43の開閉状態が開から閉になる。
上記の制御における閾値車速V1は、車両の走行に伴うロードノイズなどの騒音の観点から設定される閾値である。すなわち、当該閾値車速V1以上の車速Vでは、車両の走行により発生するロードノイズなどの騒音によってソレノイド弁43を閉じる際に発生する動作音が車両の搭乗者に認識されないと判断される。この閾値車速V1は、一例として、略ゼロの車速に設定することができる。また、閾値油圧P1は、ソレノイド弁43を閉じることによる油圧クラッチ10の締結で後輪Wr,Wrへの意図しない駆動力の伝達が行われないようにする観点から決定することができる。
このように、本実施形態の駆動力配分装置では、油圧センサ45で検出した油圧Pが閾値油圧P1以下、且つ車輪速センサS1〜S4で検出した車輪速に基づく車速Vが閾値車速V1以下のときにソレノイド弁43を閉じる制御を行うようになっている。これにより、運転者のアクセル操作(アクセルペダルの踏込操作)とソレノイド弁43を閉じる動作とが同調することを防止できる。したがって、ソレノイド弁43を閉じる際に発生する動作音を車両の搭乗者に認識させ難くすることができる。
次に、4WD・ECU50による油圧クラッチ10を制御するための制御量出力の算出手順について説明する。図7は、制御量出力の算出手順を説明するためのブロック図である。また、図8は、算出した油圧クラッチ10の制御量出力に基づく駆動力の分布を示すマップである。図8のマップでは、横軸に推定車体速をとり、縦軸に推定駆動力をとっている。推定車体速は、車輪速センサS1〜S4で検出した四輪車輪速に基いて算出(推定)される。図7に示すように、油圧クラッチ10の制御量出力の算出では、まず、基本配分算出ブロック71で後輪Wr,Wrに配分する駆動力に対応する制御量出力の基本配分を算出する。この制御量出力の基本配分は、予め算出した車両の推定駆動力61、車輪速度センサS1〜S4で検出した左右前後輪の車輪速(4輪車輪速)62に基いて算出される。また、これら推定駆動力61や車輪速62のほか、シフト段63、アクセル開度64、推定勾配角65などに基いて算出してもよい。この制御量出力の基本配分は、車両の推定駆動力が大きくなる程大きな値となるように設定でき、かつ、車両の推定駆動力に応じて段階的に増加する値となるように設定することが可能である。なお、車両の推定駆動力(推定駆動トルク)61は、上記FI/AT・ECU30で算出したエンジントルクの推定値Teと、トランスミッションのシフトポジションから定まるギヤ比とに基いて算出される。この基本配分算出ブロック71で算出された制御量出力の基本配分による駆動力制御が行われる領域は、図8のマップにおける領域A1である。
その一方で、本実施形態の制御量出力の算出では、第1の制御量出力算出ブロック(第1の制御量出力算出手段)72でリアディファレンシャル21が備えるハイポイドギヤ(図示せず)で発生する異音(ギヤの歯打ち音)を抑制するための制御量出力の要求値(以下、「第1の制御量出力」という。)が算出され、第2の制御量出力算出ブロック(第2の制御量出力算出手段)73で自動変速機4が備えるCVTのベルト振動に伴いトランスファで発生する異音(ギヤの歯打ち音)を抑制するための制御量出力の要求値(以下、「第2の制御量出力」という。)が算出される。
第1の制御量出力は、横加速度センサ(横Gセンサ)で検出した横加速度の検出値66、又は推定(算出)した横加速度の推定値(算出値)67に基いてリアディファレンシャル21のハイポイドギヤ音を抑制することが可能な値として設定される。具体的には、車両の横加速度が旋回中ではないと判断できる所定値以下の場合(ハイポイドギヤ音の抑制が必要な場合)において、ハイポイドギヤ音の抑制のために、油圧クラッチ10への制御量出力を基本配分制御量に対して下げる制御が行われる。また、第2の制御量出力は、推定(算出)駆動力68と車輪速センサS1〜S4で検出した車輪速に応じた車速69とに基いて、CVTのベルト振動に伴うトランスファの歯打ち音を抑制することが可能な値として設定される。具体的には、CVTのベルト振動に伴うトランスファの歯打ち音が発生するおそれのある領域に対して、油圧クラッチ10への制御量出力を第1の制御量出力に対して増加させる制御が行われる。
そして、ハイセレクト部(第1制御量出力選択手段)74において、これら第1の制御量出力と第2の制御量出力とが比較されて、いずれか大きい方の制御量出力が選択される。このハイセレクト部74による選択によって、ハイポイドギヤ音の抑制のために油圧クラッチ10への制御量出力を下げる制御を行いながら、CVTのベルト振動に伴うトランスファの歯打ち音が発生するおそれのある領域に対しては、油圧クラッチ10への制御量出力を増加させる制御が行われる。ここでのハイポイドギヤ音の抑制のために油圧クラッチ10への制御量出力を基本配分制御量(図8のマップにおける領域A1の制御量)に対して下げる制御を行う領域は、図8のマップにおける領域A2〜A4の領域である。また、CVTのベルト振動に伴うトランスファの歯打ち音を抑制するために、油圧クラッチ10への制御量出力を第1の制御量出力(領域A2の制御量)に対して増加させる制御を行う領域は、図8のマップにおける領域A4である。なお、図8のマップにおける領域A3は、領域A2と領域A4との間の遷移領域であり、当該領域A3では、車両挙動の観点から領域A2と領域A4の間の制御量による制御が行われる。
また、ローセレクト部(第2制御量出力選択手段)75において、ハイセレクト部74で選択された制御量出力と、基本配分算出ブロック71で算出した制御量出力の基本配分とが比較されて、いずれか小さい方の要求トルクが選択される。このローセレクト部75による選択で、ハイポイドギヤ音の抑制と、CVTのベルト振動に伴うトランスファの歯打ち音の抑制という異なる二つの要求を満たした値に制御量出力を抑制することができる。こうして算出された最終的な制御量出力に基いて、油圧クラッチ10に対する制御量の指令値が出力される。
本実施形態のように、CVTからなる自動変速機4を備えた四輪駆動車両における駆動力配分装置では、CVTのベルト振動によるトランスファの歯打ち音が発生するおそれがあり、当該歯打ち音を低減することが課題であった。この対策として、フロントディファレンシャル5の制御量出力を上げることで振動を抑制することが効果的である。また、駆動力配分装置の他の問題として、リアディファレンシャル21のハイポイドギヤの負荷が増大することで、ハイポイドギヤの動作音が発生することが課題であった。この対策として、リアディファレンシャル21の制御量出力を下げることで振動を抑制することが効果的である。そこで本実施形態の制御では、これら二つの異なる制御量出力に対する要求を成立させるために、上記のような制御量出力の算出手順を採用している。これにより、車両の走行性能を維持しながらもフロントディファレンシャル5やリアディファレンシャル21から発生する動作音を車両の搭乗者に認識され難くするようにしている。
リアディファレンシャル21のハイポイドギヤ音を抑制するための制御では、ギヤ音が発生する可能性がある領域(図8の領域A2)において、制御量出力を下げる制御を行う。またここでは、第1の制御量出力算出ブロック72での制御量出力の算出には、横加速度センサS7の検出値66と、車速センサS8で検出した車速及び操舵角センサS5で検出した舵角から推定した推定横加速度の推定値67とのローセレクト値を用いる。これにより、万一、横加速度センサS7が故障した場合でも推定横加速度に基いてリアディファレンシャル21のハイポイドギヤ音を抑制するための制御量出力を設定することができる。
また、トランスファの歯打ち音を抑制するための制御では、ハイポイドギヤ音を抑制するために制御量出力を下げた領域(図8の領域A2)のうち、制御量出力を下げたことによってトランスファの歯打ち音が発生する可能性のある領域(図8の領域A4)において、トランスファの制御量出力を上げる制御を行う。この制御が行われる領域A4は、図8のマップに示すように、制御量出力が比較的に高い駆動力であり、かつ、車両が低速から中車速で走行している場合である。
また、上記のハイポイドギヤ音及びトランスファの歯打ち音を抑制するための制御は、車両が旋回中でないと判断した場合にのみ行う。したがって、車両が旋回中であると判断した場合には、車両の駆動力の変動を抑えるために、図7に示すハイセレクト部74及びローセレクト部75で選択された制御量出力に基づく油圧クラッチ10の油圧制御を行わないようにして、基本配分算出ブロック71で算出した制御量出力の基本配分をそのまま最終制御量の指令値として出力するようにしている。
図9は、本実施形態の駆動力配分装置における制御の手順を示すフローチャートである。本実施形態の駆動力配分装置における制御では、まず、油圧センサ45で検出した油圧Pが閉じ側の閾値(閾値油圧P1)以下、かつ車輪速センサS1〜S4で検出した車輪速に応じた車速Vが閉じ側の閾値(閾値車速V1)以下であるか否かを判断する(ステップST3−1)。その結果、検出した油圧Pが閉じ側の閾値(閾値P1)以下で無い場合、又は検出した車速Vが閉じ側の閾値(閾値V1)以下でない場合(NO)には、通常の油圧クラッチ10による駆動力配分制御におけるソレノイド弁43の開閉制御の一工程としてソレノイド弁43を開くことを許可する(ステップST3−2)。一方、検出した油圧Pが閉じ側の閾値(閾値P1)以下、かつ検出した車速Vが閉じ側の閾値(閾値V1)以下である場合(YES)には、ソレノイド弁43を閉じる(ステップST3−3)。その後、検出した油圧Pが開け側の閾値以上、又は車速センサS8で検出した車速Vが開け側の閾値以上であるか否かを判断する(ステップST3−4)。その結果、検出した油圧Pが開け側の閾値以上、又は検出した車速Vが開け側の閾値以上である場合(YES)には、通常の油圧クラッチ10による駆動力配分制御におけるソレノイド弁43の開閉制御の一工程としてソレノイド弁43を開くことを許可する(ステップST3−2)。一方、検出した油圧Pが開け側の閾値以上で無く、かつ検出した車速Vが開け側の閾値以上で無い場合(NO)には、車両が旋回中であるか否かを判断する(ステップST3−5)。車両が旋回中であるか否かは、横加速度センサS7の検出値又は横加速度の推定値が所定値以下であるか否かに基いて判断される。その結果、車両が旋回中であれば(YES)、そのまま処理を終了する。一方、車両が旋回中でなければ(NO)、リアディファレンシャル21のハイポイドギヤ音を抑制するために油圧クラッチ10への制御量出力を下げる制御(制御量抑制)を実施する(ステップST3−6)。その後、車両の推定駆動力が所定範囲外であるか否かを判断する(ステップST3−7)。ここでの所定範囲とは、トランスファの歯打ち音を抑制することが必要な推定駆動力の範囲を指している。その結果、推定駆動力が所定範囲外であれば(YES)、そのまま処理を終了し、所定範囲外で無ければ(NO)、CVTのベルト振動に伴うトランスファの歯打ち音を抑制するために油圧クラッチ10への制御量出力を増加させる制御(制御量増加)を行う(ステップST3−8)。なお、図7のブロック図における第1の制御量出力算出ブロック72での処理は、図9のフローチャートにおけるステップS3−6の処理に該当し、図7のブロック図におけるハイセレクト部74での処理は、図9のフローチャートにおけるステップS3−7の処理に該当し、図7のブロック図におけるローセレクト部75での処理は、図9のフローチャートにおけるステップS3−8の処理に該当する。
以上説明したように、本実施形態の駆動力配分装置では、油圧クラッチ10のピストン室15に通じる油路49に密封される作動油の油圧に基いて駆動力の配分を制御する駆動配分装置において、油圧クラッチ10へ供給される作動油の排出を制御するソレノイド弁43を油圧と車速に応じて閉じる制御を行うことで、運転者のアクセル操作とソレノイド弁43を閉じる動作とが同調することを防止できる。これにより、ソレノイド弁43を閉じる際に発生する動作音を車両の搭乗者に認識させ難くすることができ、運転者や同乗者に車両の装置に不具合が発生したとの誤解を与えるなど不都合な印象を与えることを防止できる。
また、本実施形態の駆動力配分装置では、油圧Pが予め定めた閾値油圧P1以下、且つ車速Vが予め定めた閾値車速V1以下になったときにソレノイド弁43を閉じるようにしたことで、車両の停止状態から発進するタイミングでソレノイド弁43を閉じることがない。そのため、風切音やロードノイズなど車両の走行に伴う騒音が小さい領域ではソレノイド弁43の動作音が発生しない。これにより、ソレノイド弁43の動作音を車両の搭乗者により認識され難くすることができる。
また、本実施形態の駆動力配分装置では、油圧Pが予め定めた閾値油圧P1以下、且つ車速Vが予め定めた閾値車速V1以下になったときにソレノイド弁43を閉じるようにしたことで、油圧クラッチ10による駆動力の配分が必要となる前にソレノイド弁43を閉じる(先閉じする)ことができる。したがって、油圧クラッチ10による駆動力の配分に伴う駆動力の応答性を向上させることができる。
また、本実施形態の駆動力配分装置では、ソレノイド弁43は、ノーマルオープン型の電磁弁である。この構成によれば、ソレノイド弁43を閉じる際には動作音が発生する一方、ソレノイド弁43を開く際には動作音が発生することを防止できる。
また、本実施形態の駆動力配分装置では、上記のソレノイド弁43を閉じるための閾値車速V1は、当該閾値車速V1より高い車速では、車両の走行により発生する騒音によってソレノイド弁43を閉じる際に発生する動作音が車両の搭乗者に認識されないと判断する車速に設定されている。これにより、車両の走行に伴い発生する騒音でソレノイド弁43を閉じる際に発生する動作音を掻き消すことができる。したがって、ソレノイド弁43を閉じる際に発生する動作音を車両の搭乗者により認識し難くすることができる。
また、本実施形態の駆動力配分装置では、油圧クラッチ10の目標油圧が前回算出された目標油圧よりも所定値以上低い場合には、ソレノイド弁43を開いて油路49を開放することで、算出された駆動力に応じて油圧クラッチ10に供給する油圧を段階的に変化させる制御を行うようにしている。このような制御を行うことで、駆動力配分の応答性を向上させることができる。
また、本実施形態の駆動力配分装置では、横加速度センサS7で検出した車両の横加速度に基いて設定される第1の制御量出力と、算出した駆動力と検出した車速とに基いて設定される第2の制御量出力とを比較して、大きい方の制御量出力を選択するハイセレクト部(第1制御量出力選択手段)74と、ハイセレクト部74で選択した制御量出力と基本配分算出ブロック71で算出した制御量出力の基本配分(通常の制御量出力)とを比較して、小さい方の制御量出力を選択するローセレクト部(第2制御量出力算出手段)75とを備えている。そして、車両の車速Vが閾値車速V1よりも高いときに、上記のローセレクト部75で選択した制御量出力に基いて油圧クラッチ10の制御油圧を算出するようにしている。
この構成によれば、ソレノイド弁43を閉じる際に発生する動作音以外の異音、具体的には、リアディファレンシャル21のハイポイドギヤ音と、CVTのベルト振動に伴うトランスファの歯打ち音とを効果的に抑制することができる。
その一方で、車両が旋回中であると判断した場合には、上記のハイセレクト部74及びローセレクト部75で選択された制御量出力に基づく油圧クラッチ10の油圧制御を行わないようにしている。このように、車両が旋回中であると判断した場合には、ローセレクト部75で選択された制御量出力に基づく油圧クラッチ10の油圧制御を行わないことで、車両が旋回しているときの駆動力の変動を抑えることができる。その一方で、車両の旋回中にはロードノイズなど走行に伴う騒音が比較的に大きい状態である。そのため、ハイセレクト部74及びローセレクト部75で選択された油圧による油圧クラッチ10の制御を停止しても、車両の搭乗者にとってリアディファレンシャル21のハイポイドギヤ音やCVTのベルト振動に伴うトランスファの歯打ち音などの異音が気にならずに済む。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、油路49及びピストン室15の油圧を検出する手段として油圧センサ45を例に挙げ、車両の車速を検出する手段として車輪速センサS1〜S4を例に挙げたが、油圧及び車速を検出する手段は、上記の油圧センサ45及び車輪速センサS1〜S4には限られない。したがって例えば、車輪速センサS1〜S4で検出した四輪車輪速に代えて、車速センサS8で検出した車速を用いるようにしてもよい。また、油圧や車速は、検出値に限らず推定値(算出値)を用いてもよい。