図1は、本発明における試料分析用ディスク100を光学的に読み取り、抗体や抗原の検出を行う読み取り装置1の構成ブロック図である。
読み取り装置1の構成は、データやコンテンツ情報が記録された光ディスクを読み取る装置と同一の構成である。読み取り装置1は、スピンドルモータ2、対物レンズ3、アクチュエータ4、ビームスプリッタ5、レーザ発振器6、コリメータレンズ7、集光レンズ8、光検出部9、制御部10を備える。
制御部10は、回転制御部11、計測部12、フォーカス・トラッキング制御部13を備える。読み取り装置1の構成は、上記以外にも必要に応じて他の要素を備えてもよい。
スピンドルモータ2は、回転制御部11の制御によって試料分析用ディスク100を所定の回転速度で回転させる。対物レンズ3は、例えば開口数(NA)が0.85の対物レンズであり、レーザ発振器6から出力されたレーザ光を、試料分析用ディスク100の読み取り面に集光させる。
アクチュエータ4は、フォーカス・トラッキング制御部13の制御によって、レーザ発振器6から出力されたレーザ光を、試料分析用ディスク100の読み取り面に集光させるための調整を行う、例えば2軸のアクチュエータである。ビームスプリッタ5は、レーザ発振器6から出力されたレーザ光を対物レンズ3の方向に反射させるとともに、試料分析用ディスク100からの反射光を光検出部9に導く。
レーザ発振器6は、例えばBlu-ray(BD)ディスクの再生用と同一の波長405nmの半導体レーザ発振器である。コリメータレンズ7は、レーザ発振器6から出力されたレーザ光を並行な光束とする。
集光レンズ8は、ビームスプリッタ5より導かれた光を光検出部9に導く。光検出部9は、フォトダイオードであり、試料分析用ディスク100から反射された光の光量に対応する検出信号を計測部12およびフォーカス・トラッキング制御部13に出力する。
制御部10は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)により構成され、図示しない記憶部等を備える。制御部10は、図示しない操作部による操作に応じた各種制御、光検出部9により出力された検出信号に基づく各種制御等を行う。上記各種制御のうち、本発明の説明に必要な制御として、回転制御部11による制御、計測部12による制御、フォーカス・トラッキング制御部13による制御がある。回転制御部11、計測部12、フォーカス・トラッキング制御部13は、制御部10における処理やプログラム等によって実現される。
回転制御部11は、スピンドルモータ2を制御し、試料分析用ディスク100を所定の回転数で回転させる。計測部12は、光検出部9により出力された検出信号よりRF信号を生成し、生成したRF信号によりグルーブ107やピット109上に固定化された標識用ビーズ110を計数する。
フォーカス・トラッキング制御部13は、光検出部9により出力された検出信号よりFE(フォーカスエラー)信号やTE(トラッキングエラー)信号を生成し、生成した各信号の値によって、アクチュエータ4等を制御し、試料分析用ディスク100の読み取り面に集光させる制御や、トラックに追従させる制御を行う。
次に、本発明の試料分析用ディスク100の構造について、図2から図4を用いて説明する。図2は、本発明に係る試料分析用ディスク100の概念図である。
試料分析用ディスク100は、例えばCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等と同じ直径の円盤形状であり、素材もポリカーボネートなど同様な素材を用いる。
試料分析用ディスク100は、内周側に複数の注入孔101を、試料分析用ディスク100の中心Oに対して回転対象に備えられる。注入孔101は、分析対象となる試料を滴下させるための孔であり、その容積は検査に必要な試料を計量する大きさになっている。具体的には、試料は注入孔101の容積を注入可能となっており、注入された試料は、試料分析用ディスク101の回転により、後述する流路102を伝わり、検出領域104において標識用ビーズ110が検出されるために適切な量である。
また、注入孔101の各々からは滴下された試料が流れる流路102が、試料分析用ディスク100の中心Oから見て放射状に備えられる。さらに、流路102の各々に接続され、試料分析用ディスク100の外周部に位置する検出領域104が備えられる。また、流路102の一部には、試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ110が規定量充填されているビーズ充填部103が備えられる。
検出領域104の面積は、流路102を通過して流れてきた試料が、検出領域104において均等に広がり、確実に検出されるよう、接続されている流路102の面積より大きく構成されている。
試料分析用ディスク100は、ディスク上で抗原、抗体、標識用ビーズなどの試料の反応操作を施すエリアを設けるために、MEMS等のプロセスを利用し、流路22を設けた分析ディスクとすることも可能である。
さらに、試料分析用ディスク100の外周部には、検出領域を含むように、光ディスクの信号面と同様の構造である、スパイラル状のグルーブ107またはピット109が形成されるトラック領域105が備えられる。トラック領域105にグルーブ107が形成されていることにより、試料分析用ディスク100の読み取り面には、図3(a)に示すように、溝となるグルーブ107とランド108とが存在する。また、トラック領域105にピット109が形成されている場合は、図3(b)に示すように、スパイラル状にピット109が形成されている。
このため、図3(a)においては、グルーブ107が凹部120であり、ランド108が凸部121である。また、図3(b)においては、ピット109が凹部120であり、ピット109以外が凸部121となる。
図4は、試料分析用ディスク100の断面構造と標識用ビーズ110の読み取り状態を表した模式図である。試料分析用ディスク100の内周側には、注入孔101と、注入孔101に連続している深さ100μmから500μmの流路102が形成されており、分析対象の試料が通過する流路102の一部に特定の抗体が修飾された標識用ビーズ110が充填されているビーズ充填部103が備えられる。また、試料分析用ディスク100の読み取り面側は、保護層106が設けられている。保護層106は、流路102、ビーズ充填部103および検出領域104を覆うように設けられていてもよい。図4においては、検出領域104の上方にグルーブ107またはピット109が形成されている。
図4において、試料分析用ディスク100がBlu-rayディスクである場合は、厚さが0.1mmの保護層106を通して信号を読み取るように規格が定められている。一般的なBlu-ray用光ピックアップの対物レンズは、上記の保護層106の表面までの距離(作動距離)が0.3mmから0.4mm程度で設計されているものが多い。
Blu-rayディスクのように、集光したレーザ光でディスク表面を直接走査して標識用ビーズ110を検出することも可能であるが、可能な限り微小なゴミなどが検出領域104内に存在させないようにするためにも、図4に示すように流路102を設けた構造の試料分析用ディスク100にすることが適切である。
この場合、流路102の深さに対して検出領域104で試料が展開される厚さ方向のスペースは、対物レンズの作動距離以下に薄くすることが好ましい。一方、DVDの光学系を利用した場合は、厚さ0.6mmの基板を介してレーザ光を検出領域104の表面に集光させることが出来るため、ゴミなどの不必要因子は検出領域の上部に保護層106を設置することで安易に回避できる。
抗原−抗体反応は溶液中で抗原と抗体が接触することで反応し標識用ビーズ110と分析対象の抗原が結合する。一般にイムノアッセイで対象としている抗原の溶液中の濃度は非常に薄い。そのため流路102の大きさを小さくし、狭い領域に多くの標識用ビーズ110を充填し反応効率を上げることで短時間に標識用ビーズ110と結合するようにする。
ビーズ充填部103において試料と反応した標識用ビーズ110は試料分析用ディスク100の回転による遠心力でさらに外側の領域に流れ検出領域104に展開される。検出領域104は光ディスクと同様にグルーブ107やピット109が設けられている。BDの場合、厚さ0.1mmの保護層106を通して信号を読み取るように規格が定められている。一般的なBD用光ピックアップの対物レンズ3は、保護層106までの距離(作動距離)が0.3mmから0.4mm程度で設計されているものが多い。よって、装置の設計余裕を考慮すると流路102の深さに対して検出領域104で試料が展開される厚さ方向のスペースは薄くすることが好ましい。図4においては、流路102の深さと検出領域104の深さを階段的に異なる構成としているが、流路102において徐々に薄くしていってもよい。
また標識用ビーズ110を1個ずつ計数するために、流路102に充填されている標識用ビーズ110が厚さ方向に重ならない十分な面積となる必要がある。検出領域104の面積は、流路102に充填された標識用ビーズ110の個数と標識用ビーズ110の直径から決まる面積を掛けた面積よりも、グルーブ107もしくはピット109の面積が大きくなるように作られている。標識用ビーズ110に磁気ビーズを使用した場合には、磁気によりグルーブ107やピット109の形成された面に標識用ビーズ110を誘導することで反応時間を短縮することも出来る。
試料分析用ディスク100の構造がグルーブ構造またはピット構造の場合、検出領域104に捕捉されている標識用ビーズ110の位置を、対物レンズ3により集光されたスポット光が通過した場合、反射した反射光の位相が変化し、光検出部9で得られる検出信号の光量が変化する。標識用ビーズ110の直径がBDの最短ピット長とほぼ等しい場合、トラック上に標識用ビーズ110が1個から検出することが出来る。
標識用ビーズ110を検出する位置は試料分析用ディスク100の検出領域104、すなわちトラック領域105としてグルーブ107やピット109を有する部分で流路102と接続されている部分である。トラック領域105において、流路102と接続していない部分には、予めアドレス信号として記録しておくことで半径方向とトラック方向の情報を得ることが出来る。このため、記録されているアドレス情報に基づき、標識用ビーズ110が検出された位置を特定することができる。
その他の方法として、グルーブ構造の場合はグルーブ107をカッティングする際にディスクの半径方向にうねりを生じるように試料分析用ディスク100を製作し、その変動をTE信号から検出して、周波数からディスク上のアドレスを計算する方法であるウォブル検出を利用しても良い。
また、信号面にBD―RやBD−RWのような記録型または追記型のディスクと同様な相変化材料や色素材料を用いることで情報を追記することも可能である。例えば滴下した試料のIDナンバーを追記することで、装置から一旦試料分析用ディスク100を取り出し、再び分析のために装置で読み取る場合の試料の特定に利用する。また、すでに利用済みの試料分析用ディスク100の分析領域に誤って別の試料を滴下してしまうことを防止することが出来る。
次に、本発明の試料分析用ディスク100を用いた、分析用試料の分析について、図5および図6に基づき説明する。
注入孔101より試料が注入され、読み取り装置1によって試料分析用ディスク100を回転させると滴下された試料は遠心力により抗原−抗体反応のための流路102に導かれる。流路102につながるビーズ充填部103には試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ110が予め規定量充填されている。
標識用ビーズ110は直径が100nmから1μm程度の大きさのポリマー粒子、または内部にフェライト等の磁性材料を含む磁気ビーズ等を用いる。また、金コロイドなどの金属微粒子やシリカビーズ等を用いることも可能である。標識用ビーズ110の直径は、検出に利用する光学系により最適な大きさが決定する。光学的解像限界dは使用するレーザの波長λと、対物レンズの開口数NAから、次式のように表すことができる。
光学系を限定しなければこの範囲ではないが、現在一般に普及している光ディスクの中で、もっとも高解像度のものはBlu−ray Disc(BD)で波長405nmの半導体レーザの光を開口数(NA)0.85の対物レンズでディスク上にスポットを集光させることができる。BDの信号の最短ピット長は約150nmである。したがって、BDの光学系を利用する場合には、上記光学的解像限界dを表す式より、標識用ビーズ110の大きさは直径およそ120nm程度の大きさまで信号として検出することが出来る。既存の光ディスクのドライブ、特に光ピックアップに利用されている部品を利用することが出来れば、現在高額な分析装置と同等もしくはそれ以上の高精度な生体高分子が測定(検出)できる分析装置を非常に安価に製造することが出来るという利点がある。
また、標識用ビーズ110の表面には試料に含まれる抗原200と特異的に結合する抗体210をあらかじめ結合させておく。抗体210の種類には様々なものがあり、例えばB型肝炎の検査の場合には血液中に含まれるHBs抗原と特異的に結合するHBsAgモノクローナル抗体を標識用ビーズ110に修飾しておく。修飾する抗体210の種類は検出する抗原200の種類にあわせ特異的に結合するものを選択する。
流路102中のビーズ充填部103で抗体210が修飾された標識用ビーズ110と試料が混合されると、試料に含まれる抗原200が標識用ビーズ110の表面に修飾された抗体210と結合し、標識用ビーズ110、抗体210、抗原200の複合物が形成される。
この段階で溶液中には試料に含まれる抗原200の量に応じて、抗原200と抗体210が反応した複合物の標識用ビーズ110と、抗原200と反応していない標識用ビーズ110が一定の割合で存在している。さらに試料分析用ディスク100の回転に伴う遠心力により、流路102で反応した溶液を外周部の検出領域104に展開させる。
検出領域104上面には、流路102の底面が接する面が、光ディスクの信号面と同様に、スパイラル状のグルーブ構造またはピット構造となっている。グルーブ構造の場合、グルーブ107の幅は標識として使用する標識用ビーズ110の直径とほぼ同じ幅になっていることが好ましい。また、ピット構造の場合は、各ピット109の幅が標識用ビーズ110の直径とほぼ同じ幅になっていることが好ましい。
グルーブ107もしくはピット109の幅に対して、標識用ビーズ110の直径に小さく例えば半分以下の直径である場合、グルーブ107内に複数個の標識用ビーズ110が凝集して固定化され、試料を精度良く検出することが困難となってしまう。そのため、グルーブ107もしくはピット109の幅は、標識用ビーズ110の大きさと同じかそれ以下が好ましく、標識用ビーズ110が2個以上固定化しないためには、標識用ビーズ110の大きさは、グルーブ107もしくはピット109の幅に対して、最低でも半分以上である必要がある。好ましくは、標識用ビーズ110の直径(大きさ)Rと基板表面上の微細凹凸周期構造であるグルーブ107またはピット109の幅Wの比率R/Wが、以下の式に示される関係を満たす必要がある。
反対に標識用ビーズ110の直径が、グルーブ107またはピット109の幅よりも大きい場合、標識用ビーズ110がグルーブ107またはピット109からはみ出す形となるため、トラッキング信号を乱したり、隣接トラックでのクロストークが発生したりするなど、試料の定量性に問題を与えてしまう。
更には、例えばピペット等で試料を滴下させただけの場合、ランド108の部分にも標識用ビーズ110が固定化されてしまうため、クロストーク成分が発生して精度良く計測することが困難となってしまう。このため、ランド108に標識用ビーズ110が固定化されないような、ランド108とグルーブ107の幅の比率、もしくはピット109の幅についても配慮し、グルーブ107もしくはピット109の内部にのみ標識用ビーズ110が固定化される必要がある。
良好なTE信号を得るためには、一般的にランドグルーブ比(グルーブ107またはピット109の幅Wと、グルーブ107またはピット109の周期Tの比率W/T)は0.5程度が良いとされているが、トラッキング誤差信号を損ねない範囲内でランドグルーブ比が大きい方が好ましい。好ましくは、基板表面上の微細凹凸周期構造であるグルーブ107またはピット109の幅Wと、グルーブ107またはピット109の周期Tの比率W/Tが、以下の式の関係を満たす必要がある。
グルーブ107またはピット109の深さは、TE信号の出力に最適な深さ(一般的にはλ/8程度)とするのが好ましいが、用いる標識用ビーズ110の大きさと出力(検出)信号の関係や、試料分析用ディスク100の表面におけるキズやゴミとの信号を区別するなどの観点から、最適な信号レベルが得られる深さにすればよく、この限りではない。
これらの検出領域104には、標識用ビーズ110の表面に修飾したものと同じ種類の抗体210がシランカップリング等の方法で固定されている。検出領域104に展開された溶液に含まれている抗原200、すなわち流路102の中で抗体210が修飾された標識用ビーズ110と反応した複合物は、さらに検出領域104に固定されている抗体210と結合し、標識用ビーズ110、抗体210、抗原200、検出領域に固定された抗体210(固相化抗体とも言う)によるサンドイッチ型の複合物を形成し、検出領域104の基板上に固定化される。抗原200と反応していない標識用ビーズ110は、検出領域104にとどまらず、試料分析用ディスク100の回転に伴う遠心力によりさらにディスク外周に送られ、検出領域104の外、具体的には試料分析用ディスク100の外にに排出される。
グルーブ107のみに固定化された標識用ビーズ110の反応速度を早めたり、検出精度を向上させるために、標識用ビーズ110の内部にフェライトなどの磁性体材料を用いて、試料分析用ディスク100の外部または内部より磁気操作を行うことも可能である。
図5は試料分析用ディスク100上で、抗原200と抗体210が反応した後の複合物の構成を模式的に表した図である。図5(a)は、ウェルプレートで行われるのと同様の抗原−抗体反応を利用したサンドイッチ法による原理により、試料に含まれる抗原200に計測可能な標識である標識用ビーズ110が付けられた状態で、検出領域104に固定されていることになる。サンドイッチ法は検出対象の絶対量に対して出力がリニアに得られることから定量測定が行いやすい方法として多く用いられている。固定化の方法はこれに限らず、競合法など他の方法を用いることも出来る。
また、検出対象が抗原200ではなく抗体210の場合には、図5(b)に示すように、抗体210に特異的に結合する抗原200を検出領域104に固定化しておき、二次抗体213により標識用ビーズ110を結合させる方法によって、抗原200の検出と同様に抗体210に対してもサンドイッチ法による測定を行うことが出来る。
図6は、試料分析用ディスク100の半径方向に対して、所定範囲毎に各々異なる抗体をつけた場合の検出領域104の説明をするものである。分析対象の試料に含まれる複数種類の抗原200A〜200Cに対して特異的に結合するモノクローナル抗体211A〜211Cを試料分析用ディスク100おける複数の領域に分けられたトラックに固定してある。
標識用ビーズ110には、複数種類の抗原に結合するポリクローナル抗体212が修飾されている。検出領域104に展開された標識用ビーズ110は、試料分析用ディスク100の半径位置に応じて異なる種類の抗原と反応し、グルーブ107またはピット109に結合する。
図6においては、検出領域104の内周側より所定範囲は、抗原200Aに特異的に結合するモノクローナル抗体211Aが固定されている。また、次の所定範囲には、抗原200Bに特異的に結合するモノクローナル抗体211Bが固定されており、さらに次の所定範囲には抗原200Cに特異的に結合するモノクローナル抗体211Cが固定されている。
各々の種類のモノクローナル抗体211が固定されている範囲は、トラック領域105における流路102と接続されていない部分に記録されたアドレス信号により特定できる。
通常、蛍光や酵素反応により複数種類の抗原を同時に検出するためには、複数種類の標識を利用して、蛍光波長の違いや発色の違いを検出しているが、その場合は複数種類の波長の光源や波長フィルターと光検出器の組み合わせが必要となる。図6に示した手法は、試料分析用ディスク100の半径位置をアドレスから得ることにより、同じ検出方法で複数種類の抗原をほぼ同時に計測することが出来る。さらに、複数種類の抗原の含まれる比率から、統計的に疾病の可能性を判定するような分析方法の場合にも、同一試料を同じ条件で測定することが出来、別々に計測した場合の誤差に比べ測定ばらつきを小さくすることが可能となる。
次に、本発明の試料分析用ディスク100の製造方法について、図7を用いて説明する。本発明の試料分析用ディスク100は、CD、DVDなどと類似の方法で作製される。
先ず、図7(a)に示すように、光学研磨が施され、洗浄し十分に乾燥させた円盤状の基板501に対し、マグネトロンスパッタ等により膜厚が10nm〜100nm程度の無機レジスト膜502を成膜する。基板501としては、石英ガラス基板またはシリコンウエハー基板を使用することができる。特にシリコンウエハー基板は、半導体分野で使用されており、十分に研磨及び洗浄された状態で入手が可能であり、石英ガラスに比べ表面が平滑性と洗浄度とが高い。さらに、シリコンウエハー基板は導電性を有するため、スタンパを作製する際に別途導電膜を形成する必要が無いため好適である。
次に、図7(b)に示すように、基板501上に形成された無機レジスト膜502に対し、DVD等の既存の露光装置等で用いられるような波長400nm程度のレーザー光504を、開口数NAが0.9程度の対物レンズ505で集光させることによって入力情報信号に基づいて露光を行い、所望の潜像パターン503を形成する。
次に、図7(c)に示すように、基板501上の無機レジスト膜502に形成された潜像パターン503に対し現像を行い、潜像パターン503を除去しレジストパターン506を形成する。ここで、現像の際に用いられる現像液としては、主としてアルカリ性の現像液を用いる。
無機レジスト膜502としては、露光に使用するレーザ光波長での露光感度が高いタングステン(W)の酸化物が用いられる。タングステン(W)の酸化物の一種であるWO2は室温で安定であり、過熱することによりWO3となる。スパッタリング法で形成されたWO2はアモルファス構造であり、レーザ光で露光されることにより加熱され結晶構造のWO3となることで、現像液に用いられるアルカリ溶液に可溶となる。
次に、図7(d)に示すように、基板501上に形成されたレジストパターン506をマスクとして、基板501の露出部をドライエッチングすることにより基板501に直接エッチングパターン507を形成する。エッチングガスとして、CF4、CHF3、C3F8、C4F8等のフルオロカーボン系ガスを用いることにより、レジストパターン506に対して基板501のエッチングレートを高くすることができ、選択比の大きなエッチングかできる。
特に、基板に石英ガラスを用いて、フロロカーボン系ガスとしてCHF3を用いたエッチングは、図7(d)における下方向へのエッチングレートが、左右方向へのエッチングレート比べ大きな異方性エッチングを行うことができるため、円盤状の基板501のディスク半径方向におけるエッチングパターン507の断面形状は矩形に近い形となり、凹凸形状の側面は円盤状の基板501の板面に対して概ね直交した状態となる。更に、エッチングによって凹凸形状を形成するため、従来レジスト膜の膜厚で規定されていた凹凸形状の深さが、エッチング条件により制御可能であり、深い溝の形成も可能である。
次に、図7(e)に示すように、基板501上に形成されたレジストパターン506に対して、フロロカーボン系ガスを用いて、フロロカーボン系ガス雰囲気下で電圧を印加して等方的にレジストパターンのアッシングおよびトリミングを行い、レジストパターン506の除去、及び表面の粗度を低減し、入力情報信号に基づいたエッチングパターン507を有する円盤状の原盤508を得る。
ここで、フロロカーボン系ガスとしては、CF4、CHF3、C3F8、C4F8等を用いる。特に、CF4は、等方性エッチングを行いやすいため、エッチングガスとして好適である。
図7(f)に示すように、円盤状の光ディスクの原盤508の凹凸形状が形成された面に対してスパッタリング法により厚さ50〜200nmのNi膜を形成した後、電鋳法により、厚さ100〜500μmのNiメッキ膜を形成することにより、原盤508に形成されているエッチングパターン507を転写して凸凹形状を有する円盤状のスタンパ509を作製する。
スタンパ509に形成される凸凹形状は、原盤508に形成されているエッチングパターン507と凹凸が逆の関係になる。次に、図7(g)に示すように、凸凹形状を有する円盤状のスタンパ509を射出成型機(図示せず)に装着して、射出成型法により、内周から外周に向かって、或いは外周から内周に向かって入力情報信号に基づいたグルーブ107またはピット109が螺旋状に形成された凹凸形状を有する円盤状の試料分析用ディスク100を成形する。上記射出成形を繰り返すことにより、試料分析用ディスク100を大量に複製することができる。
次に、本発明における試料分析用ディスク100を、本発明の製造方法に基づいて製造し、試料を分析した実施例について説明する。
先ず、図7(a)に示すように、表面研磨を施し洗浄及び乾燥を行った石英ガラスからなる基板(以下、基板501)に対し、マグネトロンスパッ夕方式によりタングステン(W)の合金ターゲットを用いて、アルゴン44sccm、酸素6sccmを導入して反応性スパッタリングを行い、膜厚が50nmであるアモルファス無機レジスト膜502を形成した。
次に、図7(b)に示すように、基板501上に形成されたアモルファス構造の無機レジスト膜(以下、無機レジスト膜502)に対し、波長405nmの半導体レーザと、NA=0.90の対物レンズを有する回転一軸系の露光装置を用いて、線速度5.0m/sの速さで露光を行い、トラックピッチ320nmの等幅のグルーブ107とランド108が連続したパターンであるランドグルーブ形状の潜像パターン503を形成した。無機レジスト膜502の露光された潜像パターン503の領域は結晶状態に変化する。レーザの発光パターンを制御することにより、ピット形状やランダム変調信号などランドグルーブ形状以外の任意の潜像パターンを形成することができる。
次に、図7(c)に示すように、基板501上に形成された潜像パターン503に対し、現像をおこなった。現像は、アルカリ性であるテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド溶液(濃度2.38wt%)を現像液として用い、潜像パターン503が形成された基板501を室温で20分間液侵して、潜像パターン503を除去することによりレジストパターン506を形成した。
次に、図7(d)に示すように、基板501上に形成されたレジストパターン506をマスクとして、CHF3ガスを用いて、基板501の露出部に対してドライエッチングを行なった。
ドライエッチングは、異方性を高めるため4Paの雰囲気下で100Wの電力を6分間印加することにより行ない、基板501にラインアンドスペース形状のエッチングパターン507を形成した。エッチングパターン507は、深さ140nmであり、グルーブ半値幅は220nmであった。
次に、図7(d)に示すように、基板501上に形成されたエッチングパターン507に対し、CF4ガスを用いてアッシングをおこなった。アッシングは、CF4と02との混合比5:2のガスを用い15Paの雰囲気下で70Wの電力を印加することによって行い、レジストパターン506の除去を行うと同時に、基板501の表面の荒れの低減を行った。これによって、図7(e)に示すエッチングパターン507を有する試料分析用ディスク100の原盤508が形成された。
次に、図7(f)に示すように、原盤508上にスパッタリング法により厚さ150nmのNi膜を形成した後、電鋳法により、厚さ300μmのNiメッキ膜を形成することにより、原盤508に形成されているエッチングパターン507を転写してスタンパ509を作製した。
次に、図7(g)に示すように、スタンパ509を射出成型機(図示せず)に装着して、射出成型法により、内周から外周に向かって、螺旋状のランドグルーブ形状が形成された試料分析用ディスク100を成形した。成形された試料分析用ディスク100の形状は、厚さは1.1mmであり、トラックピッチが320nm、深さ140nmで、グルーブ半値幅は220nmであった。
このように形成された試料分析用ディスク100のトラック領域105に、試料となる抗原200と特異反応を起こす抗体210を予め固定しておくが、トラック領域105におけるグルーブ107とランド108またはピット109とその周辺部に、抗体210が固定される。本発明の試料分析用ディスク100においては、グルーブ107の内部のみ、またはピット109の内部のみに抗体210を固定させてもよい。
次に、上記実施例で作製された試料分析用ディスク100上に、抗体となるビオチンを10μLピペットで滴下させた。次に、濃度100μg/mLの直径140nmの標識用ビーズ表面にビオチンを修飾させ、さらにビオチンに特異的に反応するアビジンを修飾させた溶媒1μLを基板上の10μLビオチンを滴下した場所にピペットで滴下させ、基板上でサンドイッチ抗原−抗体反応を行った後、未反応の標識用ビーズを純水で洗い流し、その後基板表面を乾燥させた。
この試料分析用ディスク100を線速度4.92m/s一定で回転させながら、波長405nmの半導体レーザ光を0.35mWで発光し、NAが0.85の対物レンズ3で基板表面に集光させ、反射して戻ってきた光を光検出部9における4分割フォトダイオードで受光し、フォトダイオードの各成分の信号を制御してスパイラル状のグルーブ107にトラッキングをかけながら総和信号を観察した。
標識用ビーズ110の計測カウント数は、100トラック分の合計をカウントした。その結果、標識用ビーズ110のカウント数は45685個であった。検出信号の一部分が例えば図8のように計測することができ、標識用ビーズ110の1個に対応する信号が標識用ビーズ110の存在しない信号レベルに対し、十分低い信号レベルとして検出することができ、その周波数成分を解析した結果、確かに標識用ビーズ110の1個分の直径である140nmと一致した。
図8は、標識用ビーズ110を検出したときの検出電圧を表した図であり、例えば検出信号が平坦な部分Aは、標識用ビーズ110が検出されていない箇所であり、Bのように部分的に低い値をとる箇所は、標識用ビーズ110が検出された箇所である。このように、標識用ビーズ110を検出した信号を明確に特定することができる。
次に、高濃度から低濃度の標識用ビーズ110のカウント精度を確認するため、上記実施例で用いた標識用ビーズ110の表面にビオチンを修飾させ、さらにビオチンに特異的に反応するアビジンを修飾させた溶媒の濃度に対し、100倍、10倍、1倍、1/10倍、1/100倍、1/1000倍の6種類の濃度の溶媒を用いる以外は上記実施例と同様の方法で標識用ビーズ110の個数をカウントした結果を表1に示す。濃度に比例した計測結果が得られ、高濃度から低濃度まで非常に精度の高い計測結果が得られている。また、濃度1倍の結果が上記計測結果とほぼ一致し、再現性も高いことが確認できた。
次に、比較例として標識用ビーズ110の直径が、グルーブ107の幅よりも大きい場合の例として、用いる標識用ビーズ110の直径を300nmとした以外は上記実施例と同様の方法で、標識用ビーズ110のカウントを行った。標識用ビーズ110の直径が大きく、隣接するトラックへのクロストーク成分の増加による影響により安定したトラッキングを取ることが困難で、標識用ビーズ110の個数をカウントすることができなかった。
次に、他の比較例として、標識用ビーズ110の直径が、グルーブ107の幅よりも小さい場合の例として、用いる標識用ビーズ110の直径を100nmとした以外は上記実施例と同様の方法で、標識用ビーズ110のカウントを行った。この場合、トラッキング信号は安定しており、標識用ビーズ110の個数をカウントすることができた。その結果を表2に示す。また、検出信号の一部分について、図9に示す。
図9は、標識用ビーズ110を検出したときの検出電圧を表した図であり、例えば検出信号が平坦な部分Aは、標識用ビーズ110が検出されていない箇所であり、Bのように部分的に低い値をとる箇所は、標識用ビーズ110が検出された箇所であるが、Cのように不明瞭な信号も検出されている。これは、標識用ビーズ110が小さすぎるため、グルーブ107に対して複数の標識用ビーズ110が固定化されたり、グルーブ107の中心からオフセットした状態で標識用ビーズ110が固定化された結果によるもので、溶媒の濃度に比例した結果が得られず、高濃度から低濃度まで精度の高い結果を得ることはできなかった。
次に、本発明における試料分析用ディスク100の他の実施の形態について、図10から図13を用いて説明する。ここで用いられる試料分析用ディスク100の基本的な構成や試料分析用ディスク100を読み取る読み取り装置1の構成は同一である。特徴としては、標識用ビーズ110の直径を、対物レンズ3によって検出領域104に集光された光スポット120よりも小さい標識用ビーズ110を用いる。これによって、標識用ビーズ110による回折現象を用いた信号の検出を可能とする。さらに、標識用ビーズ110の表面における照射光の反射率を、試料分析用ディスク100を構成する基板の反射率よりも高いものを用いる。これによって標識用ビーズ110が生じさせる回折光成分を増強し、その結果として対物レンズ3の瞳面における回折光に起因する干渉の効果を増大させることで、標識用ビーズ110による信号振幅を増加させる。
本実施例においても、光ディスクの再生と同様にピット109またはグルーブ107からの回折光と、ピット109またはグルーブ107以外の部分からの回折光の干渉現象を用いて振幅の大きな信号を検出することにより、標識用ビーズ110を検出する。このような手法を用いる場合、標識用ビーズ110によって回折された照射光と標識用ビーズ110が固定化された基板表面からの反射光との位相差が、照射光の波長の半波長となる場合に、標識用ビーズ110の有無による反射光量の差に基づく信号の振幅を最大にすることができる。
標識用ビーズ110による回折光の反射位相は、標識用ビーズ110の形状や材質等さらには標識用ビーズ110の3次元的な複素屈折率分布により定まる。一例として、空気中において標識用ビーズ110を検出する場合では、標識用ビーズ110の直径は照射光の波長の1/4程度の大きさであれば良い。したがって、波長405nmのレーザ光を用いる場合は、標識用ビーズ110の直径は100nm前後、波長650nmのレーザ光を用いる場合は、標識用ビーズ110の直径は160nm前後であることが好ましい。
上述したような直径が100nmから200nm程度の標識用ビーズ110は、検出対象としてタンパク質を検出する場合、タンパク質との大きさに極端な差がないため、安定した検出を可能とすることができる。一方、標識用ビーズ110の直径が例えば数100nm以上である場合は、標識用ビーズ110の自重によって一旦補足したタンパク質から標識用ビーズ110が剥離するなどの不都合が生じる。
上述したような直径が100nmから200nm程度の標識用ビーズ110は、光ディスクを読み取るためのレーザ光における光スポット120より直径が小さい。このためピット109またはグルーブ107からの回折光と、ピット109またはグルーブ107以外の部分からの回折光の干渉現象を用いた信号の検出を行うことができる。例えば、光スポット120の直径をエアリーディスク直径と定義した場合、Blu−rayディスク用ピックアップ装置に用いるレーザ光は、波長が405nmでレンズの開口数が0.85であるため、光スポット120の直径は581nmとなる。また、DVD用ピックアップ装置に用いるレーザ光は、波長が650nmでレンズの開口数が0.6であるため、光スポット120の直径は1300nmとなる。
上述したような標識用ビーズ110を用いた場合の信号の検出においては、ピット109またはグルーブ107の反射率は次の2通りが好ましい。第1の構成としては、ピット109またはグルーブ107に標識用ビーズ110が存在しない状態で反射率が十分に高く、標識用ビーズ110が存在する場合には反射率が低下することである。この場合、反射率が低下したときの反射率がゼロとなると、フォーカスサーボ動作およびトラッキングサーボ動作が困難となるため、適切に低い反射率とすることが望ましい。
このような構成を実現するためには、グルーブ107またはピット109の反射回折光の位相がゼロまたはn波長(n:整数)に近くなるようなグルーブ107またはピット109の深さであればよい。なお、反射回折光の位相が完全に同相の場合は、グルーブ107またはピット109によりトラッキング信号を生成することができなくなる。このため、同相からは適切な位相差を付けることが望ましい。また、グルーブ107またはピット109の深さが変化する場合、周期的に位相が変化するため、深さには複数の選択肢がある。
第2の構成としては、ピット109またはグルーブ107に標識用ビーズ110が存在しない状態で反射率が十分に低く、標識用ビーズ110が存在することにより反射率が上昇することである。これら2つの構成の場合に、標識用ビーズ110による信号振幅が最大となる。
このような構成を実現するためには、グルーブ107またはピット109の反射回折光の位相が1/2波長に近くなるようにすることにより、標識用ビーズ110が存在することにより、反射率を上げる構成とする。この場合は標識用ビーズ110からの回折光の位相が同相に近づき、反射率が高いため、第1の構成とは逆極性の信号が得られる。
上述したようなピット109またはグルーブ107および標識用ビーズ110の構成によって、標識用ビーズ110に対して大きな信号振幅が得られる検出が可能となる。この場合、標識用ビーズ110の大きさが光スポット120より小さくなるため、読み取り装置1における空間周波数特性の低下による影響を受け、信号振幅が低下する。このような空間周波数特性による信号振幅の低下は、標識用ビーズ110による回折光成分の減少によって生じる。このため、本発明においては標識用ビーズ110の反射率を高めることによって、信号振幅を増幅させる。
図10は、上述した第1の構成としての、ピット109またはグルーブ107に標識用ビーズ110が存在しない状態で反射率が十分に高く、標識用ビーズ110が存在する場合には反射率が低下する場合を説明した図である。図10の左側はグルーブ107に標識用ビーズ110として低反射ビーズ111と高反射ビーズ112が固定化され、光スポット120のトレースによって反射光を読み取っている模式図である。図10の右側はピット109に標識用ビーズ110として低反射ビーズ111と高反射ビーズ112が固定化され、光スポット120のトレースによって反射光を読み取っている模式図である。
図10の構成の例としては、例えば標識用ビーズ110の直径が140nmであり、反射光の位相が約1/2波長の標識用ビーズ110をグルーブ107またはビット109に固定化し、ブルーレイディスクの読み取りと同等の光学定数を有する読み取り装置1で再生する。この場合のトラックピッチは、ブルーレイディスクと同等の320nmとし、グルーブ107またはピット109の深さは120nmとする。これにより、グルーブ107またはピット109の形状は読み取り装置1側からみて凹形状となり、標識用ビーズ110の直径がグルーブ107またはピット109の深さより大きいことから、標識用ビーズ110はトラック領域105の表面から突出した形で固定化されている。
また、図10に上述した構成において標識用ビーズ110を読み取った場合の信号を模式的に示す。図10に示すように、標識用ビーズ110がグルーブ107またはランド109内に存在することで、逆相成分の回折光が生じ、信号出力レベルが低下する(波形(a)、(b)、(d)、(e))。ここで標識用ビーズ110の反射率が高い場合は、信号出力の変化率を大きくすることができる(波形(b)、(e))。
このような、標識用ビーズ110の反射率と信号出力の変化率を解析した結果を図11に示す。図11の結果は、標識用ビーズ110の反射率による信号出力の変化率の依存性をスカラ解析理論に基づき計算した結果である。また、実験においてもほぼ同じ傾向の特性が得られることを確認している。
このように、標識用ビーズ110の反射率を上げることで、回折光の逆送成分を増加させることにより、信号振幅を増加させることができる。
図12は、上述した第2の構成としての、ピット109またはグルーブ107に標識用ビーズ110が存在しない状態で反射率が低く、標識用ビーズ110が存在する場合には反射率が高くなる場合を説明した図である。図12の左側はグルーブ107に標識用ビーズ110として低反射ビーズ111と高反射ビーズ112が固定化され、光スポット120のトレースによって反射光を読み取っている模式図である。図12の右側はピット109に標識用ビーズ110として低反射ビーズ111と高反射ビーズ112が固定化され、光スポット120のトレースによって反射光を読み取っている模式図である。
図12の構成の例としては、例えば直径が140nmの標識用ビーズ110をグルーブ107またはピット109に固定化し、ブルーレイディスクの読み取りと同等の光学定数を有する読み取り装置1で再生する。この場合のトラックピッチは、ブルーレイディスクと同等の320nmとし、グルーブ107またはピット109の深さは20nmとする。これにより、グルーブ107またはピット109の形状は読み取り装置1側からみて凹形状となり、標識用ビーズ110の直径がグルーブ107またはピット109の深さより大きいことから、標識用ビーズ110はトラック領域105の表面から突出した形で固定化されている。
また、図12に上述した構成において標識用ビーズ110を読み取った場合の信号を模式的に示す。図10に示すように、標識用ビーズ110がグルーブ107またはランド109内に存在することで反射率が上昇し、信号出力レベルを上昇させる(波形(a)、(b)、(d)、(e))。ここで標識用ビーズ110の反射率が高い場合は、信号出力の変化率を大きくすることができる(波形(b)、(e))。
このような、標識用ビーズ110の反射率と信号出力の変化率を解析した結果を図13に示す。図13の結果は、標識用ビーズ110の反射率による信号出力の変化率の依存性をスカラ解析理論に基づき計算した結果である。このように、標識用ビーズ110の反射率を上げることで、信号振幅を増加させることができる。
さらに、標識用ビーズ110の直径がグルーブ107またはピット109の幅より小さく、且つグルーブ107またはピット109の幅方向に2個の標識用ビーズ110が固定化されることのない直径とすることで、確実にグルーブ107またはピット109に標識用ビーズ110を捕捉させる。このため、グルーブ107またはピット109にトラッキングをかけて標識用ビーズ110を検出する際の信号振幅の変動、誤検出を抑制し、高S/Nの検出を実現する。
次に、本発明における第2の実施例について説明する。第2の実施形態においては、図7において説明した試料分析用ディスク100の製造方法を用いて、トラックピッチが320nm、深さ70μm、グルーブ半値幅220nmの試料分析用ディスク100を作成した。
次に、作製した試料分析用ディスク100の基板表面をアミノシラン剤による修飾方法でアミノ基化した後、抗体となるビオチン溶液を10μLピペットで滴下させた。次に、濃度10μg/mLの直径200nmの標識用ビーズ110の表面にビオチンを修飾させ、さらにビオチンに特異的に反応するアビジンを修飾させた溶媒5μLを基板上の10μLビオチンを滴下した場所にピペットで滴下させ、基板上でサンドイッチ反応を行った後、未反応の標識用ビーズを純水で洗い流し、その後基板表面を乾燥させた。
この試料分析用ディスク100を、線速度4.92m/s一定で回転させながら、波長405nmの半導体レーザ光を0.35mWで発光し、NAが0.85の対物レンズ3で基板表面に集光させ、反射して戻ってきた光を光検出部9における4分割フォトダイオードで受光し、フォトダイオードの各成分の信号を制御してスパイラル状のグルーブ107にトラッキングをかけながら総和信号を観察した。
標識用ビーズ110の計測カウント数は、1500トラック分の合計をカウントした。その結果、標識用ビーズ110のカウント数は225079個であった。検出信号の一部分が例えば図7のように計測することができ、標識用ビーズ110の1個に対応する信号が標識用ビーズ110の存在しない信号レベルに対し、十分低い信号レベルとして検出することができ、その周波数成分を解析した結果、確かに標識用ビーズ110の1個分の直径である200nmと一致した。
次に高濃度から低濃度の標識用ビーズ110のカウント精度を確認するため、標識用ビーズ110の表面にビオチンを修飾させ、さらにビオチンに特異的に反応するアビジンを修飾させた溶媒の濃度に対し、100倍、10倍、1倍、1/10倍、1/100倍、1/1000倍の6種類の濃度の溶媒を用いる以外は上記実施例と同様の方法で標識用ビーズ110の個数をカウントした結果を表3に示す。濃度に比例した計測結果が得られ、高濃度から低濃度まで非常に精度の高い計測結果が得られている。また、濃度1倍の結果が上記計測結果とほぼ一致し、再現性も高いことが確認できた。
次に、比較例として、標識用ビーズ110の直径が、グルーブ107の幅よりも大きい場合の例として、用いる標識用ビーズ110の直径を300nmとした以外は上記実施零と同様の方法で標識用ビーズ110のカウントを行った。標識用ビーズ110の直径が大きく、隣接するトラックへのクロストーク成分の増加による影響により安定したトラッキングを取ることが困難で、標識用ビーズ110の個数をカウントすることができなかった。
次に、他の比較例として、標識用ビーズ110の直径がグルーブ107の幅よりも小さい場合の例として、用いる標識用ビーズ110の直径を100nmとした以外は上記実施例と同様の方法で標識用ビーズ110のカウントを行った。この場合、トラッキング信号は安定しており、標識用ビーズ110の個数をカウントすることができた。その結果を表4に示す。しかしこの場合、検出信号レベルが不均一で、標識用ビーズ110が小さすぎるため、グルーブ107に対して複数の標識用ビーズ110が固定化されたり、グルーブ107の中心からオフセットした状態で標識用ビーズ110が固定化されたりするので、溶媒の濃度に比例した結果が得られず、高濃度から低濃度まで精度の高い結果を得ることはできなかった。
次に、図7(d)を用いて説明したドライエッチング工程の時間を調整した以外は同様の方法で、トラックピッチ320nm、グルーブ半値幅220nmであり、エッチングパターン深さが20nm、40nm、60nm、80nm、100nm、120nm、140nm、160nm、180nm、200nmのみで11種類の試料分析用ディスク100を作製した。
この試料分析用ディスク100の表面反射率が20%程度となるようにスパッタリング成膜法によりシリコン(Si)を約10nm形成した後、検出領域104においてアビジン−ビオチンサンドイッチ反応を行わせ、グルーブ107内に捕捉された標識用ビーズ110の検出信号と標識用ビーズ110の存在しない基板表面の信号レベルを計測した。
図14は、横軸をグルーブ107の深さ、縦軸を検出信号レベルでプロットしたグラフである。このときの標識用ビーズ110の反射率は10%程度で、基板の反射率に対して1/2となるように設定した。図14においては、グルーブ107の深さが20nm〜80nmのサンプルでは標識用ビーズ110の存在しない信号レベルと標識用ビーズ110の信号レベルに明瞭な差が生じた。また、グルーブ107の深さが100nm〜200nmのサンプルは、各々の信号レベルが似たような値となり、信号面のキズや欠陥との判別が非常に困難であった。このため、標識用ビーズ110の存在しない信号レベルと標識用ビーズ110が存在する信号レベルに明瞭な差を生じる範囲は、グルーブ107の深さが20nm〜80nmの範囲にあることがわかる。
この場合におけるレーザ光の波長λは、405nmであるため、標識用ビーズ110の存在しない信号レベルと標識用ビーズ110が存在する信号レベルに明瞭な差となる、グルーブ107の深さDは、λ/20≦D≦λ/5となる。
次に上記作製した、グルーブ107の深さが20nm、40nm、60nmの基板表面にスパッタリング成膜法で形成したシリコンの膜厚を変化させ、基板の反射率を50%〜5%とし、標識用ビーズ110の反射率10%に対して相対的な標識用ビーズ110の反射率比(基板表面の反射率RSと標識用ビーズ110の反射率RBの比率RB/RS)を0.2〜2.0まで変化させ、標識用ビーズ110の存在しない信号レベルと標識用ビーズ110が存在する信号レベルとの比率(変調度と呼ぶ)をプロットしたグラフを図15に示す。
一般的に、標識用ビーズ110を検出した際の実信号と信号面のキズや欠陥などの誤った信号との判別の精度を高くするためには、変調度が30%以上であることが望ましい。また、基板の反りやレーザ光の焦点深度などの余裕度を考慮すると、変調度は40%以上であることが望ましい。以上の点から、基板の反射率に対する標識用ビーズ110の相対的な反射率比(基板表面の反射率RSと標識用ビーズの反射率RBの比率RB/RS)は0.5以下であることが望ましい。