以下、各実施形態の試料分析用基板及びその製造方法、一実施形態の基板分析装置について、添付図面を参照して説明する。
<第1実施形態の試料分析用基板>
図1において、第1実施形態の試料分析用基板100は、例えば円形の樹脂基板10を備える。図1は、試料分析用基板100を破断した状態の部分斜視図である。樹脂基板10は中心部に光ディスクと同様の貫通孔を有していてもよい。
樹脂基板10は、一般的な光ディスク用基板に用いられているポリカーボネート樹脂ではなく、疎水性を有する樹脂材料によって形成されていることが好ましい。樹脂基板10は、分子構造内に極性基を有さない炭化水素のみから構成される樹脂材料により形成されていることが好ましい。
樹脂基板10には、凸状のランド10Lと凹状のグルーブ10Gとが直径方向に交互に並んで形成されている。グルーブ10Gの深さは、20〜80nmである。樹脂基板10の表面は、略長丸穴状のピット12の部分を除き、抗体固定防止膜(抗体固定防止面)として機能する無機レジスト膜11によって覆われている。無機レジスト膜11の厚さは、30〜100nmであり、好ましくは40〜60nmである。
後述するように、グルーブ10Gの底面を覆っている無機レジスト膜11が部分的に除去されることによって、凹状のピット12が形成されている。ピット12の部分は、樹脂基板10が露出している。
なお、後述する試料分析用基板100の製造方法による製造工程で、グルーブ10Gの側面の底面近傍の部分も、無機レジスト膜11が除去される場合がある。グルーブ10Gの側面の部分についても、抗体の固定を防止することが好ましいが、側面であれば、抗体防止膜がなくてもエクソソームの検出精度を確保できる。
図2は、試料分析用基板100をグルーブ10Gの幅方向の中央で周方向に切断した状態を示す部分断面図である。図2に示すように、ピット12の底面には無機レジスト膜11が存在していない。試料分析用基板100を用いて、所定の生体試料を分析する際には、試料分析用基板100の表面に、エクソソーム内に存在している膜たんぱく質との抗原抗体反応によって結合する抗体60を含む液60Fを滴下させる。
すると、図3に示すように、抗体60はピット12の底面に疎水結合によって固着する。ランド10Lの上面は抗体固定防止膜として機能する無機レジスト膜11によって覆われているため、ランド10Lの上面には抗体60は結合しない。
なお、抗体固定防止膜は、抗体60の固定を完全に防止して、抗体60を全く結合させないことが好ましいが、必ずしも完全に防止する必要はなく、少なくとも、ピット12の部分よりも、抗体60を結合しづらくすればよい。ピット12の部分よりも、抗体60を結合しづらくすることも含めて「防止」と称することとする。
また、製造を簡易にする点から、抗体固定防止膜は無機レジスト膜11で形成することが好ましいが、これに限らず、他の方法で抗体固定防止膜を形成してもよい。例えば、表面形状の粗さを調整して撥水性を持たせることで抗体60を結合しづらくてもよい。
図4は、エクソソーム50の膜たんぱく質52が抗体60と結合して、エクソソーム50がピット12内に固定された状態を示している。図4も、試料分析用基板100をグルーブ10Gの幅方向の中央で周方向に切断した状態を示す部分断面図である。
ランド10Lの上面及びグルーブ10Gのピット12が形成されていない部分の底面は無機レジスト膜11によって覆われている。よって、ランド10Lの上面及びグルーブ10Gのピット12が形成されていない部分の底面には抗体60が結合していないため、ピット12以外の部分にエクソソーム50が固定されることはほとんどない。
エクソソーム50の直径は、数十〜100nm程度である。無機レジスト膜11の厚さを30〜100nmとすればピット12の深さが30〜100nmとなり、エクソソーム50が良好に捕捉される。
半径方向におけるピット12の最も狭い部分の幅は、エクソソーム50の平均粒径よりも大きく、平均粒径の4倍よりも小さいのが好ましい。第1実施形態の試料分析用基板100では、ピット12がグルーブ10Gの幅の全体に形成されているとすれば、ピット12の最も狭い部分の幅はグルーブ10Gの幅となる。ピット12の幅とエクソソーム50の平均粒径との大きさの関係をこのようにすれば、1つのピット12に1つのエクソソーム50が捕捉される可能性が高くなる。
ところで、エクソソーム50の平均粒径とは、エクソソーム50の粒径を任意の測定方法で測定した値の平均値を意味する。測定方法としては、例えば、ナノ粒子トラキング法を用いた、エクソソーム50が溶液中にある状態で観測する湿式の測定方法や、透過型電子顕微鏡でエクソソーム50の形態を保ったまま観測する乾式の測定方法がある。
後者の測定方法では、エクソソーム50の形態を保ったまま乾式で観測可能とするために、エクソソーム50を含む試料に対して細胞を観測する手法に準じた処理を施す。
具体的には、試料を基体上に固定し、低濃度のエタノールから純度100%のエタノールまで、ステップごとにエタノールの濃度を高くして数ステップをかけてエタノールの含浸を繰り返す。これによって、試料中の水分がエタノールへと置換されて脱水される。
次に、試料を、エタノールに可溶な合成樹脂を含む溶液で含浸することによって、エタノールを合成樹脂に置換する。そして、合成樹脂に置換された試料を薄片化して観測する。
また、エクソソーム50を含む試料を急速冷凍することにより、エクソソーム50の形態を保ったまま脱水して観測可能とすることもできる。
グルーブ10Gの側面の底面近傍の部分も樹脂基板10が露出している場合には、抗体60はグルーブ10Gの側面の底面近傍にも固着することがある。しかしながら、ほとんどの場合、エクソソーム50はピット12の底面に固着している抗体60と結合する。
図5は、エクソソーム50を定量的に測定する方法の一例を示している。図5も、試料分析用基板100をグルーブ10Gの幅方向の中央で周方向に切断した状態を示す部分断面図である。図5に示す左右のピット12のうち、右側のピット12にはエクソソーム50が捕捉されており、左側のピット12にはエクソソーム50が捕捉されていない。一点鎖線にて示すレーザ光を集光レンズ71によって集光させて、ピット12上にスポット72を形成させたとする。
図5では理解を容易にするため、2つのピット12それぞれの上方に集光レンズ71を配置しているが、実際には、1つの集光レンズ71をそれぞれのピット12に順次移動させていけばよい。
図6は、図5のようにレーザ光を照射したときの、レーザ光の反射光に基づく再生信号波形を示している。波形Wf0はエクソソーム50が捕捉されていないピット12からの再生信号波形であり、波形Wf1はエクソソーム50が捕捉されたピット12からの再生信号波形である。波形Wf0は閾値THを越えず、波形Wf1は閾値THを越える。
このように、エクソソーム50が捕捉されたピット12とエクソソーム50が捕捉されていないピット12とでは、レーザ光を照射したときの再生信号波形が異なるので、エクソソーム50の数を計測することができる。
後述するように、エクソソーム50の検出を容易とするために、エクソソーム50を、エクソソーム50の直径よりも大きい直径を有するビーズで修飾してもよい。エクソソーム50をビーズで修飾した場合も、再生信号波形は波形Wf1であるとする。
第1実施形態の試料分析用基板100によれば、ランド10Lの上面及びグルーブ10Gのピット12が形成されていない部分の底面にエクソソーム50が固定されることはほとんどないため、エクソソーム50を高精度に定量的に測定することが可能である。
<第2実施形態の試料分析用基板>
図7は、第2実施形態の試料分析用基板200を示す。図7において、図1と同一部分には同一符号を付し、共通部分の説明を適宜省略する。第2実施形態の試料分析用基板200は、例えば円形の樹脂基板20を備える。図7は、試料分析用基板200を破断した状態の部分斜視図である。樹脂基板20は中心部に光ディスクと同様の貫通孔を有していてもよい。
樹脂基板20は、樹脂基板10と同様、疎水性を有する樹脂材料であり、分子構造内に極性基を有さない炭化水素のみから構成される樹脂材料により形成されていることが好ましい。
樹脂基板20の表面は、ランド及びグルーブのような凹凸を有さず、一様に平坦な平坦面となっている。樹脂基板20の表面は、略長丸穴状のピット22の部分を除き、無機レジスト膜11によって覆われている。後述するように、樹脂基板20の表面を覆っている無機レジスト膜11が部分的に除去されることによって、凹状のピット22が形成されている。ピット22の部分は、樹脂基板20が露出している。
図8は、試料分析用基板200をピット22の幅方向の中央で周方向に切断した状態を示す部分断面図である。ピット22の底面には無機レジスト膜11が存在していない。試料分析用基板100を用いて、所定の生体試料を分析する際には、試料分析用基板200の表面に、抗体60を含む液60Fを滴下させる。
すると、図9に示すように、抗体60はピット22の底面に疎水結合によって固着する。ピット22以外の部分は無機レジスト膜11によって覆われているため、抗体60はピット22以外の部分には固着しない。よって、エクソソーム50はピット22のみによって捕捉される。
ピット22とエクソソーム50との大きさの関係は、第1実施形態の試料分析用基板100と同様である。
第2実施形態の試料分析用基板200においても、ピット22に捕捉されたエクソソーム50は、図5,図6と同様に、定量的に測定されることになる。
<第1実施形態の試料分析用基板の製造方法>
図10を用いて、図1に示す第1実施形態の試料分析用基板100の製造方法を説明する。図10の(a)〜(c)は、樹脂基板10を径方向に切断した状態を示している。まず、図10の(a)に示すように、ランド10L及びグルーブ10Gよりなる連続溝が形成された疎水性を有する樹脂基板10を用意する。
樹脂基板10の樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン,ポリスチレン等の芳香族炭化水素樹脂,脂環式ポリオレフィンを用いることができる。これらの中で、高い疎水性を有し、熱変形温度が比較的高く、透明性が高く、微細な凹凸の転写性に優れる脂環式ポリオレフィンが最も好ましい。
図10の(b)に示すように、樹脂基板10のランド10L及びグルーブ10Gが形成されている側の面に、無機レジスト膜11を例えば50nmの厚さとなるように、真空成膜法によって形成する。前述のように、無機レジスト膜11の厚さは30〜100nmでよく、好ましくは40〜60nmである。
図10の(b)は、樹脂基板10の表面に、検出対象のエクソソームに存在する抗原と結合する抗体の固定を防止する抗体固定防止膜を形成する抗体固定防止膜形成工程である。
次に、図10の(d)に示すように樹脂基板10を矢印方向に回転させ、図10の(c),(d)に示すように、グルーブ10Gまたはランド10Lにフォーカスサーボ及びトラッキングサーボをかけながら、グルーブ10Gに変調したレーザ光を照射する。レーザ光を集光レンズ73によって集光させることによって、グルーブ10Gにはレーザ光のスポット74が形成される。
図10の(c),(d)では、レーザ光がグルーブ10Gの幅を超えて照射されている。集光レンズ73で集光したレーザ光はガウス分布を有するので、スポット74の面積のうち、無機レジスト膜11が感光する温度以上に温度を上昇させる強度を有する中央部分で無機レジスト膜11が感光する。よって、ランド10L上の無機レジスト膜11は感光せず、グルーブ10Gの底面の無機レジスト膜11が感光する。
このとき、グルーブ10Gの側面の底面近傍の部分の無機レジスト膜11が感光することもある。
図10の(d)に示すように、グルーブ10Gには、レーザ光によって感光した部分である記録マーク120が形成される。スポット74の中央部分で無機レジスト膜11が感光しつつ樹脂基板10が矢印方向に回転するので、記録マーク120は周方向に長い略長丸穴状となる。
最後に、記録マーク120が形成された樹脂基板10をアルカリ現像溶液に短時間浸して、記録マーク120を除去する。すると、図10の(e)に示すように、記録マーク120が除去された部分がピット12となる。図10の(e)は、樹脂基板10をグルーブ10Gの幅方向の中央で周方向に切断した状態を示している。ピット12の底面は疎水性の樹脂基板10が露出し、ピット12以外の部分には無機レジスト膜11が残っている。
図10の(c)〜(e)は、抗体固定防止膜である無機レジスト膜11を部分的に除去して、抗体を固定させる凹状のピットを形成するピット形成工程である。
ピット形成工程は、具体的には、図10の(c),(d)に示す記録マーク形成工程と、図10の(e)に示す基板露出工程とよりなる。記録マーク形成工程では、レーザ光によって無機レジスト膜11を部分的に感光させて記録マーク120を形成する。基板露出工程では、記録マーク120を形成した樹脂基板10を溶液に浸して記録マーク120を除去し、樹脂基板10を露出させる。
図10の(e)は、図1に示す第1実施形態の試料分析用基板100となる。図10の(a)〜(e)に示す製造方法によって、エクソソーム50を高精度に検出することができる第1実施形態の試料分析用基板100を簡易に製造することができる。
ところで、無機レジスト膜11としては、露光に使用するレーザ光の波長での感光感度が高いタングステン(W)の酸化物を用いることが好ましい。タングステンの酸化物の1つであるWO2は室温で安定であり、加熱することによりWO3となる。
スパッタリング法で形成されたWO2はアモルファス構造であり、レーザ光を照射することにより加熱されて結晶構造のWO3となる。WO3はアルカリ現像溶液に可溶であるので、上記のように、記録マーク120を除去することができる。
<第2実施形態の試料分析用基板の製造方法>
図11を用いて、図7に示す第2実施形態の試料分析用基板200の製造方法を説明する。図11の(a)〜(c)は、樹脂基板20を径方向に切断した状態を示している。まず、図11の(a)に示すように、表面に凹凸のない平坦面を有する疎水性の樹脂基板20を用意する。樹脂基板20の樹脂材料は、樹脂基板10の樹脂材料と同様である。
図11の(b)に示すように、樹脂基板20の表面に、無機レジスト膜11を例えば50nmの厚さとなるように、真空成膜法によって形成する。
図11の(b)は、樹脂基板20の表面に、検出対象のエクソソームに存在する抗原と結合する抗体の固定を防止する抗体固定防止膜を形成する抗体固定防止膜形成工程である。
次に、図11の(c)に示すように、無機レジスト膜11が形成された樹脂基板20を可動ステージ30上に配置する。
無機レジスト膜11にフォーカスサーボをかけながら変調したレーザ光を照射する。レーザ光を集光レンズ73によって集光させることによって、無機レジスト膜11にはレーザ光のスポット74が形成される。スポット74によって無機レジスト膜11が感光すると、図11の(d)に示す記録マーク220が形成される。
図11の(d)に示すように、樹脂基板20を矢印方向に回転させることによって、無機レジスト膜11には周方向に配列した複数の記録マーク220が形成される。また、図11の(c)に示すように、可動ステージ30を矢印方向に、例えば樹脂基板20の1回転で320nm移動させることによって、記録マーク220は半径方向にも配列して形成される。
最後に、記録マーク220が形成された樹脂基板20をアルカリ現像溶液に短時間浸して、記録マーク220を除去する。すると、図11の(e)に示すように、記録マーク220が除去された部分がピット22となる。図11の(e)は、樹脂基板20をピット22の幅方向の中央で周方向に切断した状態を示している。ピット22の底面は、疎水性の樹脂基板20が露出し、ピット22以外の部分には無機レジスト膜11が残っている。
図11の(c)〜(e)は、抗体固定防止膜である無機レジスト膜11を部分的に除去して、抗体を固定させる凹状のピットを形成するピット形成工程である。
ピット形成工程は、具体的には、図11の(c),(d)に示す記録マーク形成工程と、図11の(e)に示す基板露出工程とよりなる。記録マーク形成工程では、レーザ光によって無機レジスト膜11を部分的に感光させて記録マーク220を形成する。基板露出工程では、記録マーク220を形成した樹脂基板20を溶液に浸して記録マーク220を除去し、樹脂基板10を露出させる。
図11の(e)は、図7に示す第2実施形態の試料分析用基板200となる。図11の(a)〜(e)に示す製造方法によって、エクソソーム50を高精度に検出することができる第2実施形態の試料分析用基板200を簡易に製造することができる。
<基板分析装置>
次に、試料分析用基板100,200を用いてエクソソームを検出する一実施形態の基板分析装置を説明する。
図12に示すように、一実施形態の基板分析装置300は、概略的に、光ディスクドライブ制御装置310と、光ディスクドライブ320とより構成される。光ディスクドライブ制御装置310は、パーソナルコンピュータによって構成することができる。光ディスクドライブ320は、ブルーレイディスク再生装置によって構成することができる。
光ディスクドライブ制御装置310は、光ディスクドライブ320を制御する。光ディスクドライブ制御装置310は、光ディスクドライブ320が試料分析用基板100,200を再生することによって生成される再生信号に基づいて、エクソソームの存在を検出する検出装置としても機能する。
光ディスクドライブ制御装置310は、制御部311,入力部312,記憶部313,表示部314,A/D変換器315を有する。制御部311は、機能的な内部構成として、カウンタ316と積算部317を有する。カウンタ316と積算部317を制御部311の外部に設けてもよい。A/D変換器315を制御部311の内部に設けてもよい。
光ディスクドライブ320は、スピンドルモータ321,光ピックアップ(光PU)322,RF再生信号生成部323,フォーカス・トラッキング信号生成部324を有する。光ディスクドライブ320は、光ピックアップ322を径方向に移動させるトラバース機構(図示せず)を有する。
光ディスクドライブ320には、試料分析用基板100,200がピット12,22側を下面にした状態で装着される。スピンドルモータ321は、試料分析用基板100,200を回転させる。光ピックアップ322は、試料分析用基板100,200に対してレーザ光を照射し、試料分析用基板100,200からの反射光を受光する。
RF再生信号生成部323は、反射光の受光信号に基づいてRF再生信号を生成する。受光信号の総和信号をRF再生信号とすることができる。フォーカス・トラッキング信号生成部324は、反射光の受光信号に基づき、公知の方法によりフォーカス信号及びトラッキング信号を生成する。
光ピックアップ322は、フォーカス信号に応じて、試料分析用基板100,200に対する距離が調整される。これによって、レーザ光は試料分析用基板100,200上にフォーカスされる。
光ピックアップ322は、トラッキング信号に応じて径方向の位置が調整される。これによって、レーザ光は試料分析用基板100,200のトラックにトラッキングされる。
図13及び図14を用いて、試料分析用基板100,200にエクソソーム50を固定させ、基板分析装置300によって試料分析用基板100,200を分析する前の準備の工程を説明する。
試料分析用基板100,200は、例えば直径8cmの円形であり、中心部に光ディスクと同様の貫通孔を有するとする。以下、試料分析用基板100を用いる場合について説明する。
図13は、試料分析用基板100にエクソソーム50を固定させるために用いるジグ400を示している。ベース401の中央部には円柱状の突出部が形成されている。突出部には、雌ねじが形成された円柱状の凹部が形成されている。ベース401の突出部に試料分析用基板100の貫通孔を通すことによって、試料分析用基板100はベース401上に位置決めされている。
円形のウェル形成カバー402も、中心部に貫通孔を有する。ベース401の突出部にウェル形成カバー402の貫通孔を通すことによって、ウェル形成カバー402は試料分析用基板100上に位置決めされている。ウェル形成カバー402上には、座金404が配置されている。
ウェル形成カバー402の径方向の端部近傍には、周方向に配列されたウェル402Wが形成されている。図13に示す例では、ウェル402Wは16個形成されている。ウェル402Wは、円柱状の貫通孔である。ウェル402Wの数は任意である。ウェル形成カバー402の内周側にさらにウェル402Wを形成してもよい。
ウェル形成カバー402の裏面、即ち、試料分析用基板100と対向させる側の面には、ウェル402Wの開口を囲むように弾性体よりなるリング状のパッキング403が装着されている。パッキング403は、一例として、シリコーンゴムにより形成されている。
ウェル形成カバー402の裏面に環状の突起を設け、パッキング403に環状の溝を設けて、突起を溝に嵌め込んでもよい。ウェル形成カバー402の裏面に環状の溝を設け、パッキング403に環状の突起を設けて、突起を溝に嵌め込んでもよい。
ウェル形成カバー402には、周方向の位置を判別するための一対の突出部4021が形成されている。突出部4021は、ウェル402Wの位置を特定するマーカとして機能する。例えば、突出部4021が形成された位置のウェル402Wを番号1として、時計方向に順に番号16まで番号付けすることができる。
ベース401,試料分析用基板100,ウェル形成カバー402,座金404が重ねられた状態で、突出部に形成された凹部に蝶ボルト405が締め込まれている。パッキング403は圧力によって変形し、ウェル形成カバー402は試料分析用基板100に密着している。
図14において、試料分析を行うオペレータは、ステップS1にて、図13に示すように、ベース401に、試料分析用基板100とウェル形成カバー402とを装着して固定する。オペレータは、ステップS2にて、抗体60を含む液60Fをウェル402Wに分注する。これによって、ピット12に抗体60が固着される。液60Fは緩衝溶液であるのがよい。
ステップS2にて用いる抗体60としては、抗原である膜たんぱく質52と反応する抗体を用いる。
オペレータは、ステップS3にて、液60Fを排出して、ウェル402Wを洗浄する。オペレータは、ステップS4にて、試料分析用基板100の表面を、スキムミルクを含む緩衝溶液を用いてブロッキング処理する。
スキムミルクはエクソソーム50に付着しないたんぱく質を含むので、ブロッキング処理に好適である。同様の効果を奏するものであれば、ブロッキング処理に用いる物質はスキムミルクに限定されない。
オペレータは、ステップS5にて、スキムミルクを含む緩衝溶液を排出して、ウェル402Wを洗浄する。オペレータは、ステップS6にて、検出対象のエクソソーム50を含む試料液をウェル402Wに分注する。これによって、ピット12にエクソソーム50が固定される。オペレータは、ステップS7にて、試料液を排出して、ウェル402Wを洗浄する。
図14に示す例では、エクソソーム50の検出を容易とするために、エクソソーム50を修飾するためのビーズ70(図15に図示)を用いる。ビーズ70は、例えば合成樹脂によって略球形に形成されている。ビーズ70の直径Dは例えば200nmである。ビーズ70には予め表面に抗体80(図15に図示)が固定されている。
オペレータは、ステップS8にて、ビーズ70を含む液をウェル402Wに分注する。ビーズ70を含む液は緩衝溶液であるのがよい。
ビーズ70の内部に、フェライト等の磁性物質を包含させてもよい。磁性物質を包含したビーズ70とすると、ステップS8で、ベース401の下面に磁石を配置することによってビーズ70をピット12の方向へと効率よく向かわせることができる。
オペレータは、ステップS9にて、ビーズ70を含む液を排出して、ウェル402Wを洗浄する。オペレータは、ステップS10にて、ベース401よりウェル形成カバー402を外し、試料分析用基板100を洗浄して乾燥させる。
以上の工程によって、図15に示すように、ピット12にエクソソーム50が固定され、エクソソーム50がビーズ70によって修飾された試料分析用基板100を得ることができる。
オペレータは、ステップS11にて、試料分析用基板100を基板分析装置300に装着し、基板分析装置300による試料分析用基板100の分析処理を実行させる。
図14は、試料分析用基板100のピット12に抗体60を固着させ、抗体60にエクソソーム50を固定させ、さらに、エクソソーム50をビーズ70で修飾する工程を簡略化して示している。
ウェル402Wに液が分注された状態の試料分析用基板100を保管して所定時間経過させたり、所定時間振盪させたりすることがあってもよい。試料分析用基板100を冷却して保管することがあってもよい。また、ウェル402Wや試料分析用基板100の洗浄を複数回行うことがあってもよい。図14では洗浄すると説明していない工程で洗浄を行うことがあってもよい。
図14で説明した準備の工程によって、試料分析用基板100には、図16に示すように、ウェル402Wと対応した位置に、複数のピット12にエクソソーム50が固定された円形のエクソソーム固定領域Arexが形成される。
なお、16個全てのウェル402Wを用いて試料分析用基板100上にエクソソーム50を固定させた場合には、エクソソーム固定領域Arexは図16に示すように16箇所となる。16個のウェル402Wのうちの一部のウェル402Wを用いて試料分析用基板100上にエクソソーム50を固定させてもよい。この場合、エクソソーム固定領域Arexの数は、使用したウェル402Wの数に対応した数となる。
試料分析用基板100には、試料分析用基板100の周方向の位置を特定するためのマーカを設けるのがよい。図16において、切り欠きCoは試料分析用基板100の周方向の位置を特定するためのマーカとなっている。切り欠きCoを基準として、エクソソーム固定領域Arexの周方向の位置を特定することができる。
例えば、ウェル形成カバー402の突出部4021と切り欠きCoとの位置を合わせた状態で、試料分析用基板100とウェル形成カバー402とを固定する。すると、図16において、切り欠きCoの右側に位置するエクソソーム固定領域Arexを番号1(#1)として、時計方向に順に番号16(#16)まで番号付けすることができる。
突出部4021と切り欠きCoとの周方向の位置関係を規定することにより、ウェル形成カバー402のウェル402Wと、試料分析用基板100のエクソソーム固定領域Arexとを対応付けることができる。
光ディスクドライブ320に、試料分析用基板100の上面側と下面側との一方に発光部を設け、他方に受光部を設ける。試料分析用基板100が回転して、発光部と受光部との間に切り欠きCoが位置するタイミングでは、受光部は発光部より発せられた光を受光する。これによって、エクソソーム固定領域Arexの周方向の位置を特定することができる。
図12に戻り、光ディスクドライブ320は、図16に示す試料分析用基板100を再生する。ここでの再生とは、通常の光ディスクと同様に、試料分析用基板100に対してレーザ光を照射し、試料分析用基板100からの反射光に基づいて、RF再生信号を得ることである。
図17を用いて、図14のステップS11の具体的な工程を説明する。図17において、オペレータは、ステップS111にて、入力部312によって制御部311に試料分析用基板100の測定条件を設定する。測定条件とは、番号1〜番号16の16個のエクソソーム固定領域Arexのうちのどれを測定対象とするかということである。
制御部311は、設定された測定条件に従って、光ディスクドライブ320を制御する。制御部311は、ステップS112にて、測定箇所に光ピックアップ322を移動させる。
図18は、試料分析用基板100上に形成されているエクソソーム固定領域Arexの状態を概念的に示している。ここでは理解を容易にするため、ランド10L及びグルーブ10Gの幅を拡大して示している。よって、エクソソーム固定領域Arexの大きさとランド10L及びグルーブ10Gの幅とのサイズ的な関係は実際の両者のサイズ的な関係を表していない。
図18に示すように、1つのエクソソーム固定領域Arex内には、グルーブ10Gよりなる複数のトラックが存在している。制御部311は、光ピックアップ322を、例えばエクソソーム固定領域Arex内の最内周側のトラックに移動させればよい。
光ディスクドライブ320は、ステップS113にて、フォーカス及びトラッキング制御しながら、試料分析用基板100を再生する。光ディスクドライブ320は、制御部311による制御に基づき、エクソソーム固定領域Arex内のそれぞれのトラックを再生する。
A/D変換器315は、ステップS114にて、RF再生信号生成部323によって生成されたRF再生信号を2値化処理する。
図19の(a)は、1トラックを再生したときの、それぞれのエクソソーム固定領域ArexからのRF再生信号を2値化処理した信号波形の例を示している。図19の(a)では、番号1〜番号3のエクソソーム固定領域Arexの信号波形が示されている。
図19の(b)は、番号1のエクソソーム固定領域Arexの信号波形を拡大した拡大図である。図19の(b)の信号波形をさらに拡大したものが図6に示す信号波形である。
カウンタ316は、ステップS115にて、図19の(b)における閾値THを越えた信号波形をカウントする。このとき、カウンタ316は、図19の(b)に示すように、エクソソーム固定領域Arexからの信号波形のみをカウントするように、ゲート信号Sgateによって信号波形をゲートするのがよい。
ゲート信号Sgateの時間長さは、図18に示すエクソソーム固定領域Arexの直径Darexに対応した長さである。
カウンタ316によるそれぞれのトラックのカウント値は、順次、積算部317に入力される。積算部317は、ステップS116にて、1つのエクソソーム固定領域Arexの全てのトラックで得られたカウント値を積算する。制御部311は、ステップS117にて、積算値を記憶部313に記憶させる。
制御部311は、ステップS117にて積算値を表示部314に表示させてもよい。また、制御部311は、ステップS117にて積算値を記憶部313に記憶させた後、積算値を表示させる指示があったとき、記憶部313より積算値を読み出して表示部314に表示させてもよい。
制御部311は、ステップS118にて、他のエクソソーム固定領域Arexがあるか否かを判定する。他のエクソソーム固定領域Arexがあれば(YES)、制御部311は処理をステップS112に戻し、ステップS112以降の処理を繰り返す。
他のエクソソーム固定領域Arexがなければ(NO)、制御部311は処理を終了させる。
図6に示す波形Wf1の幅は、トラック上にビーズ70が単独で存在しているか、複数のビーズ70が連結した状態で存在しているかによって異なる。図18は、トラック上にビーズ70が単独で存在している状態を示している。2つまたはそれ以上のビーズ70が連結する場合がある。
そこで、カウンタ316は閾値THを越えた信号波形の半値幅を複数に分類してカウントし、積算部317は半値幅ごとに積算値を求めるのがよい。
ところで、ブルーレイ規格では、Tをクロックの1周期として、2T〜8Tと称されるストラテジが用いられる。光ディスクドライブ320をブルーレイディスク再生装置で構成した場合、光ディスクドライブ320より出力されるRF再生信号の信号波形をストラテジと同様の幅ごとに分類するのが都合がよい。
図20は、信号波形を幅ごとに分類した積算値の例を示している。図20では、ブルーレイ規格では用いられない1Tの幅の積算値も示している。5T以上の幅の信号波形は極めて少ないため、図20では5Tまでを示している。
記憶部313には、測定対象とされた全てのエクソソーム固定領域Arexで得られた、図20に示すような積算値のデータが記憶される。オペレータは、それぞれのエクソソーム固定領域Arexの積算値のデータを確認することによって、エクソソーム50の数やエクソソーム50が試料分析用基板100上にどのように存在しているかを知ることができる。
以上のようにして、本実施形態の基板分析装置300によれば、エクソソーム50を高精度に検出することができる。
図12に示す本実施形態の基板分析装置300では、光ディスクドライブ制御装置310が、光ディスクドライブ320を制御する制御装置と、試料分析用基板100,200におけるエクソソーム50の存在を検出する検出装置とを兼用している。
光ディスクドライブ320を制御する制御装置とエクソソーム50の存在を検出する検出装置とを別々の構成としてもよい。
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。図17では、エクソソーム50をビーズ70で修飾した試料分析用基板100,200の分析工程を示しているが、エクソソーム50をビーズ70で修飾せず、エクソソーム50の存在を直接的に検出する場合でも同様である。また、各実施形態を、適宜、組み合わせてもよい。