JP5957961B2 - 固定用樹脂組成物、ロータおよび自動車 - Google Patents

固定用樹脂組成物、ロータおよび自動車 Download PDF

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Description

本発明は、固定用樹脂組成物、ロータおよび自動車に関する。
自動車等に搭載されるモータに関し、その強度等を向上させるための様々な技術が検討されている。特許文献1に記載の技術は、モータの封止に用いるモータ封止用樹脂成形材料に関するものである。すなわち、特許文献1に記載の成形材料は、モータを封止するハウジングに用いられるものであると考えられる。
特許文献2〜6には、モータを構成するロータに関する技術が記載されている。ロータは、孔部を有するロータコアと、孔部に挿入された永久磁石と、を有する。
例えば特許文献2に記載の技術は、永久磁石を収容するための収容孔に連通して設けられたスリットに、樹脂を充填するものである。なお、当該スリットは、ステータに伝わる磁束量を増やすために、永久磁石を収容するための収容孔の周方向に関する両端部分に形成されるものであると記載されている。
また、特許文献3〜5には、磁石をロータコアに接着する技術が記載されている。
特許文献3に記載の技術は、永久磁石に直接コーティングされた接着剤により、永久磁石とロータコアとの接着を行うものである。特許文献4に記載の技術は、接着剤を入れたロータコアのスロット内に永久磁石を挿入した後、上下を逆転させた状態において接着剤の熱硬化を行うものである。特許文献5に記載の技術は、マグネットおよび接着剤を挿入するスロットの内壁またはマグネットの表面に形成された凹条部または凸条部に、硬化した接着剤を係合させるものである。
さらに、特許文献6には、磁石を挿入するための穴部に注入された樹脂部により磁石をロータコアに固定する技術が記載されている。特許文献6に記載の技術は、穴部に埋設された磁石と穴部との間に形成される充填部を、穴部の開口における磁石の幅方向の中央部に面する部分から穴部に注入して形成するものである。
なお、樹脂に関する技術としては、例えば特許文献7に記載のものがある。特許文献7に記載の技術は、顆粒状の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関し、その粒度分布を制御するものである。
特開2009−13213号公報 特開2002−359942号公報 特開2003−199303号公報 特開2005−304247号公報 特開平11−98735号公報 特開2007−236020号公報 特開2010−159400号公報
モータを構成するロータには、モータを高速回転させる際の耐久性を向上させることが強く求められる。ロータの耐久性を向上させるためには、例えばロータコア内部に挿入される磁石の位置ずれや変形が起こらない構造が求められる。このため、磁石を挿入するための孔部と磁石との間隙には、磁石をロータコアに固定するための固定部材が設けられる場合がある。
固定部材の形成に用いられる固定用樹脂組成物について、磁石を挿入するための孔部と磁石との間隙への充填性等のロータ成形性を向上させることが求められる。このため、固定用樹脂組成物としては、良好なロータ成形性を実現することが可能な流動特性を有するものを用いることが望ましい。一方で、モータの回転特性を向上させるために固定部材に求められる諸特性を維持することが必要となる。
本発明者らが検討した結果、固定用樹脂組成物の製造方法や組成等を適切に選択することで、固定部材に求められる諸特性を維持しつつ、固定用樹脂組成物を良好な流動特性を持って孔部と磁石との間隙に充填することができることを見出した。
本発明によれば、孔部が設けられたロータコアと、
前記孔部内に挿入された磁石と、
前記孔部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、
を備えるロータのうち前記固定部材の形成に用いられる固定用樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
を含み、
幅5mm、高さ0.2mmの略長方形である断面形状を有する螺旋状の流路が形成された流動特性測定用金型の前記流路に、金型温度175℃、注入圧力1MPa、硬化時間120秒の条件で前記固定用樹脂組成物を注入した際の、前記流路における前記固定用樹脂組成物の流動距離を流動長とした場合に、流動長が10cm以上60cm以下である固定用樹脂組成物が提供される。
本発明によれば、上述した固定用樹脂組成物を用いて形成されるロータが提供される。
本発明によれば、上述したロータを備える自動車が提供される。
本発明によれば、固定部材の諸特性を維持しつつ、良好なロータ成形性を実現することが可能となる。
本実施形態に係るロータを示す平面図である。 図1に示すロータを示す断面図である。 図1に示すロータを示す断面拡大図である。 図1に示すロータを構成するロータコアの第1変形例を示す平面図である。 図1に示すロータを構成するロータコアの第2変形例を示す平面図である。 図1に示すロータを構成するロータコアの第3変形例を示す平面図である。 図1に示すロータの一部を示す平面面拡大図である。 図1に示すロータを示す断面図である。 図1に示すロータの一部を示す平面拡大図である。 本実施形態に係るフラットフロー測定に用いられる流動特性測定用金型の一例について、下型キャビティを示した図である。 インサート成形に用いるインサート成形装置の上型を示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
図1は、本実施形態に係るロータ100を示す平面図である。図2は、図1に示すロータ100を示す断面図である。なお、図1および図2はロータ100を示す模式図であり、本実施形態に係るロータ100の構成は図1および図2に示すものに限られない。
ロータ100は、ロータコア110と、磁石120と、固定部材130と、を備える。ロータコア110には、孔部150が設けられている。磁石120は、孔部150内に挿入されている。固定部材130は、孔部150と磁石120との離間部140に設けられている。
固定部材130は、固定用樹脂組成物を用いて形成される。固定用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含む。また、固定用樹脂組成物は、幅5mm、高さ0.2mmの略長方形である断面形状を有する螺旋状の流路が形成された流動特性測定用金型の前記流路に、金型温度175℃、注入圧力1MPa、硬化時間120秒の条件で前記固定用樹脂組成物を注入した際の、前記流路における前記固定用樹脂組成物の流動距離を流動長とした場合に、流動長が10cm以上60cm以下である。
以下、本実施形態に係るロータ100の構成について、詳細に説明する。
本実施形態に係るロータ100は、例えば自動車等に搭載されるモータを構成する。モータは、ロータ100およびロータ100の周囲に設けられたステータ(図示せず)を含む。ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻回されたコイルにより構成される。
図2に示すように、ロータ100は回転シャフト170に取り付けられている。ロータ100により発生した回転は、回転シャフト170を介して外部に伝達されることとなる。
ロータコア110には、回転シャフト170を挿入するための貫通孔が設けられている。ロータコア110は、貫通孔に挿入された回転シャフト170に固設される。ロータコア110の形状は、特に限定されないが、例えば平面視で円形または多角形等である。
図2に示すように、ロータコア110は、薄板状の磁性体である電磁鋼板112を複数積層してなる。電磁鋼板112は、例えば鉄または鉄合金等により構成される。
また、図2に示すように、ロータコア110の軸方向における両端には、エンドプレート118aおよびエンドプレート118bが設けられている。すなわち、積層された電磁鋼板112上には、エンドプレート118aが設けられている。また、積層された電磁鋼板112下にはエンドプレート118bが設けられている。エンドプレート118aおよびエンドプレート118bは、例えば溶接等により回転シャフト170に固定される。
図3は、図1に示すロータ100を示す断面拡大図である。図3に示すように、複数の電磁鋼板112には、カシメ部160が形成されている。カシメ部160は、例えば電磁鋼板112に形成された突起部により構成される。各電磁鋼板112は、互いにカシメ部160により結合されている。
また、エンドプレート118aには、例えば電磁鋼板112から突出したカシメ部160や、電磁鋼板112上に突出した固定部材130との干渉を避けるための溝部116が設けられている。なお、電磁鋼板112上に突出した固定部材130とは、固定用樹脂組成物を離間部140へ注入する際に電磁鋼板112上に残存した固定用樹脂組成物が硬化することにより形成される部分である。
図1に示すように、ロータコア110には、複数の孔部150が設けられている。複数の孔部150は、回転シャフト170の軸心を中心として点対称となるようにロータコア110に配置されている。
図1に示すように、本実施形態のロータ100では、例えば隣接する二つの孔部150からなる複数の孔部群が、回転シャフト170の周縁部に沿って配置されている。複数の孔部群は、例えば互いに離間するように設けられている。一の孔部群を構成する二つの孔部150は、例えば平面視でVの字状に配置される。この場合、一の孔部群を構成する二つの孔部150は、例えば互いに対向するそれぞれの端部が回転シャフト170側に位置するように設けられる。また、一の孔部群を構成する二つの孔部150は、例えば互いに離間するように設けられている。
図4は、図1に示すロータ100を構成するロータコア110の第1変形例を示す平面図である。図4に示すように、三つの孔部150からなる複数の孔部群が、回転シャフト170の周縁部に沿って配置されていてもよい。この場合、三つの孔部150は、例えば平面視でVの字状に配置された孔部154aおよび孔部154bと、これらの間に位置する孔部156と、により構成される。孔部154a、孔部154b、および孔部156は、互いに離間している。
図5は、図1に示すロータ100を構成するロータコア110の第2変形例を示す平面図である。図5に示すように、平面視でVの字状の形状を有する複数の孔部150が、回転シャフト170の周縁部に沿って配置されていてもよい。この場合、孔部150は、例えば孔部150の中心部が回転シャフト170側に位置し、かつ孔部150の両端部がロータコア110の外周縁側に位置するように設けられる。
図6は、図1に示すロータ100を構成するロータコア110の第3変形例を示す平面図である。図6に示すように、平面視でロータコア110の径方向に対して垂直な長方形の形状を有する複数の孔部150が、回転シャフト170の周縁部に沿って配置されていてもよい。
なお、孔部150の配置レイアウトは上述したものに限定されない。
図7は、図1に示すロータ100の一部を示す平面拡大図である。
図7に示すように、孔部150は、例えば平面視で矩形である。孔部150は、ロータコア110の外周縁側に位置する側壁151と、ロータコア110の内周縁側に位置する側壁153と、ロータコア110の周方向において互いに対向する側壁155および側壁157と、を有する。側壁151と側壁153は、ロータコア110の径方向において互いに対向している。本実施形態において、一の孔部群を構成し、かつ互いに隣接する二つの孔部150は、それぞれの側壁155が互いに対向するように配置される。
なお、孔部150の形状は、磁石120の形状に対応していれば特に限定されず、例えば楕円形等であってもよい。
図7に示すように、磁石120は、例えば平面視で矩形である。磁石120は、側壁151と対向する側壁121、側壁153と対向する側壁123、側壁155と対向する側壁125、および側壁157と対向する側壁127と、を有する。すなわち、側壁121は、ロータコア110の外周縁側に位置する。また、側壁123は、ロータコアの内周縁側に位置する。磁石120は、例えばネオジム磁石等の永久磁石である。なお、磁石120の形状は、上述したものに限定されず、例えば楕円形等であってもよい。
固定部材130は、孔部150と磁石120との間隙(以下、離間部140とも称呼する)に充填された固定用樹脂組成物を硬化することにより形成される。これにより、磁石120がロータコア110に固定されることとなる。なお、本実施形態に係るロータ100において、離間部140の幅D1は、例えば20μm以上500μm以下である。
固定部材130は、少なくともロータコア110の径方向における孔部150と磁石120との離間部140に設けられている。すなわち、固定部材130は、少なくとも側壁121と側壁151の間または側壁123と側壁153の間のいずれか一方に設けられることとなる。
また、固定部材130は、例えば平面視で矩形である磁石120の少なくとも3辺を覆うように設けられている。すなわち、側壁121、側壁123、側壁125、および側壁127のうちの少なくとも3つが、固定部材130により覆われることとなる。
図7に示すように、離間部140は、例えば側壁121と側壁151との間、側壁123と側壁153との間、側壁125と側壁155との間、および側壁127と側壁157との間に形成される。この場合、磁石120のうち、側壁121、側壁123、側壁125、および側壁127が、固定部材130により覆われることとなる。
本実施形態では、側壁121と側壁151との間隙、および側壁123と側壁153との間隙に、固定部材130が形成される。このため、ロータコア110の径方向において、磁石120の位置が固定されることとなる。これにより、モータの高速回転時に働く遠心力によって磁石120の位置がずれてしまうことを抑制することができる。
また、図2に示すように、固定部材130は、例えば磁石120の上面を覆うように形成されている。これにより、ロータコア110の軸方向において、磁石120の位置が固定される。従って、モータの駆動時等に磁石120の位置がロータコア110の軸方向へずれてしまうことを抑制することができる。
図8は、図1に示すロータ100を示す断面図であり、図2とは異なる例を示す。
図8に示すように、磁石120は、例えば側壁121が側壁151に当接するように固定されてもよい。この場合、離間部140は、側壁123と側壁153との間、側壁125と側壁155との間、および側壁127と側壁157との間に形成されることとなる。従って、磁石120のうち、側壁123、側壁125および側壁127が、固定部材130により覆われることとなる。この場合においても、ロータコア110の径方向において、磁石120の位置を固定することができる。
また、磁石120は、例えば側壁123が側壁153に当接するように固定されてもよい。この場合、離間部140は、側壁121と側壁151との間、側壁125と側壁155との間、および側壁127と側壁157との間に形成されることとなる。従って、磁石120のうち、側壁121、側壁125および側壁127が、固定部材130により覆われることとなる。この場合においても、ロータコア110の径方向において、磁石120の位置を固定することができる。
図9は、図1に示すロータ100の一部を示す平面拡大図であり、図7とは異なる例を示している。図9に示すように、本実施形態に係るロータ100において、孔部150の両端部には、スリット152が設けられていてもよい。スリット152は、ロータコア110の周方向における、孔部150の両端部に位置している。また、スリット152は、孔部150と連通して設けられている。
孔部150の両端にスリット152を設けることで、磁石120から発生される磁束の磁路を狭くすることができる。すなわち、磁石120の両端部からロータコア110の周方向へ生じる磁束がロータコア110内において短絡することを抑制することができる。これにより、ロータコア110内における短絡を減少させ、ステータに伝わる磁束量を増大させることが可能となる。
図9に示すように、スリット152内には、スリット充填用樹脂部材132が形成されている。スリット充填用樹脂部材132は、例えば離間部140およびスリット152内に充填された固定用樹脂組成物を硬化することにより形成される。すなわち、スリット充填用樹脂部材132は、例えば固定部材130と同一工程により形成される。このため、スリット充填用樹脂部材132は、固定部材130と一体として設けられる。
スリット152を形成する場合、側壁155および側壁157と、スリット152と、の境界部には、角部が形成される。この場合、モータを駆動する際に磁石120にかかる応力は、当該角部と当接する部分に集中してしまう。
本変形例によれば、スリット152内にスリット充填用樹脂部材132を形成することで、モータを駆動する際に磁石120にかかる応力の集中を緩和することができる。このため、モータ駆動時に磁石120に対して大きな応力が働くことを抑制できる。従って、磁石120の破損等が発生することを防止することが可能となる。
次に、本実施形態に係る固定用樹脂組成物について、詳細に説明する。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物は、例えば粉末状、顆粒状、またはタブレット状等である。このため、後述するように、例えば溶融させた固定用樹脂組成物を離間部140内に注入することにより、離間部140内に固定用樹脂組成物が充填される。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機充填材(C)と、を含む。以下、各成分について説明する。
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)は、特に制限されるものではないが、例えばエポキシ樹脂(A1)、フェノール樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、またはマレイミド樹脂等が用いられる。中でも、硬化性、保存性、硬化物の耐熱性、耐湿性、および耐薬品性に優れるエポキシ樹脂(A1)が好適に用いられる。
本実施形態に係る熱硬化性樹脂(A)は、好ましくはエポキシ樹脂(A1)を含む。エポキシ樹脂(A1)としては、特に分子量や構造は限定されるものではない。
エポキシ樹脂(A1)としては、特に限定されないが、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンのような芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリフェノールプロパン型エポキシ樹脂;アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂;ナフトール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂;フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、またはビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシ−アジペイド等の脂環式エポキシ等の脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは単独でも2種以上混合して使用しても良い。
熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂(A1)を含む場合、芳香族環にグリシジルエーテル構造あるいはグリシジルアミン構造が結合した構造を含むものが、耐熱性、機械特性、および耐湿性の観点から好ましい。
また、フェノール樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
本実施形態に係る熱硬化性樹脂(A)の含有量は、特に限定されないが、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂(A1)を含む好ましい態様において、該エポキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂(A)100質量%に対して、好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
[硬化剤(B)]
硬化剤(B)は、熱硬化性樹脂(A)に好ましい態様として含まれるエポキシ樹脂(A1)を三次元架橋させるために用いられるものである。硬化剤(B)としては、特に限定されないが、例えばフェノール樹脂等を用いることができる。フェノール樹脂系硬化剤は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではない。
フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。このようなフェノール樹脂系硬化剤を用いることにより、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、および保存安定性等のバランスが良好となる。特に、硬化性の点から、フェノール樹脂系硬化剤の水酸基当量は、例えば90g/eq以上250g/eq以下とすることができる。
さらに、併用できる硬化剤としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤等を挙げることができる。
重付加型の硬化剤としては、例えばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレンジアミン(MXDA)等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等の芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジド等を含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマー等のポリフェノール化合物;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテル等のポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネート等のイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂等の有機酸類等が挙げられる。
触媒型の硬化剤としては、例えばベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP−30)等の3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(EMI24)等のイミダゾール化合物;BF3錯体等のルイス酸等が挙げられる。
縮合型の硬化剤としては、例えばレゾール樹脂、メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂等が挙げられる。
このような他の硬化剤を併用する場合において、フェノール樹脂系硬化剤の含有量は、全硬化剤(B)に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、耐燃性を保持しつつ、良好な流動性を発現させることができる。また、フェノール樹脂系硬化剤の含有量は、特に限定されないが、全硬化剤(B)に対して、100質量%以下であることが好ましい。
固定用樹脂組成物に対する硬化剤(B)の含有量は、特に限定されるものではないが、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.8質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合を上記範囲内とすることにより、良好な硬化性を得ることができる。また、固定用樹脂組成物に対する硬化剤(B)の含有量は、特に限定されるものではないが、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、12質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
なお、硬化剤(B)としてのフェノール樹脂と熱硬化性樹脂(A)としてのエポキシ樹脂(A1)は、全熱硬化性樹脂(A)中のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が、0.8以上1.3以下となるように配合されることが好ましい。当量比が上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物を成形する際、十分な硬化特性を得ることができる。ただし、エポキシ樹脂と反応し得るフェノール樹脂以外の樹脂を併用する場合は、適宜当量比を調整すればよい。
[無機充填材(C)]
無機充填剤(C)としては、固定用樹脂組成物の技術分野で一般的に用いられる無機充填剤を使用することができる。
無機充填材(C)としては、例えば溶融破砕シリカ及び溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、クレイ、マイカ、ロックウール、ウォラストナイト、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスファイバー、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、セルロース、アラミド、木材、フェノール樹脂成形材料やエポキシ樹脂成形材料の硬化物を粉砕した粉砕粉等が挙げられる。この中でも、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカが好ましく、溶融球状シリカがより好ましい。また、この中でも、炭酸カルシウムがコストの面で好ましい。無機充填剤(C)としては、一種で使用しても良いし、または二種以上を併用してもよい。
無機充填剤(C)の平均粒径D50は、好ましくは0.01μm以上75μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上50μm以下である。無機充填剤(C)の平均粒径を上記範囲内にすることにより、孔部150と磁石120との離間部140への充填性が向上する。平均粒径D50は、レーザー回折型測定装置RODOS SR型(SYMPATEC HEROS&RODOS)での体積換算平均粒径とした。
また、本実施形態に係る固定用樹脂組成物において、無機充填剤(C)は、平均粒径D50が異なる2種以上の球状シリカを含むことができる。これにより、流動性及び充填性の向上とバリ抑制の両立が可能となる。
無機充填剤(C)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上であり、特に好ましくは75質量%以上である。上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下が低減できる。また、無機充填剤(C)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物は良好な流動性を有するとともに、良好な成形性を備える。したがって、ロータの製造安定性が高まり、歩留まり及び耐久性のバランスに優れたロータが得られる。
また、本発明者らが検討した結果、無機充填剤(C)の含有量を50質量%以上とすることにより、固定部材130と電磁鋼板112との熱膨張率の差を小さくすることができることが判明した。これにより、温度変化に応じて電磁鋼板112が変形し、ロータ100の回転特性が低下することを抑制することができる。従って、耐久性の中でも、とくに回転特性の持続性に優れたロータが実現される。
また、無機充填剤(C)として溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカを用いる場合、シリカの含有量が、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。上記範囲内であると、流動性と熱膨張率のバランスが良好となる。
また、無機充填剤(C)と、後述するような水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤とを併用する場合には、これらの無機系難燃剤と上記無機充填剤の合計量は、上記無機充填剤(C)の含有量の範囲内とすることが望ましい。
無機充填材(C)には、予めシランカップリング剤等のカップリング剤(F)(第1カップリング剤とも呼ぶ)による表面処理が行われていてもよい。これにより、無機充填材の凝集を抑制し、良好流動性を得ることができる。従って、離間部140への固定用樹脂組成物の充填性を向上させることが可能となる。また、樹脂成分との親和性が高まるため、固定用樹脂組成物を用いて形成される固定部材の強度を向上させることができる。
無機充填材(C)の表面処理に用いられる第1カップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノシランを用いることができる。このような無機充填材(C)の表面処理に使用する第1カップリング剤の種類を適宜選択し、またはカップリング剤の配合量を適宜調整することにより、固定用樹脂組成物の流動性および固定部材の強度等を制御することができる。第1カップリング剤は、例えば水等の溶媒に溶解させず、原液のまま用いられる。
無機充填材(C)へのカップリング処理は、例えば次のように行うことができる。まず、ミキサーに無機充填材(C)を投入する。このとき、無機充填材(C)の表面に付着した水分を予め除去しておくことが好ましい。次いで、無機充填材(C)に第1カップリング剤を噴霧しながら、ミキサーを用いて混合攪拌する。このとき、ミキサー内を湿度50%以下に設定しておくのが好ましい。このような噴霧環境に調整することにより、シリカ粒子の表面に水分が再付着するのを抑制することができる。さらに、噴霧中のカップリング剤に水分が混入し、カップリング剤同士が反応してしまうのを抑制することができる。また、ミキサーとしては、例えばリボンブレンダー等を用いることができる。次いで、得られた混合物をミキサーから取り出し、エージング処理を行う。エージング処理は、例えば20±5℃の条件下で7日間以上放置することにより行われる。このような条件でエージング処理を行うことにより、無機充填材(C)の表面に第1カップリング剤を均一に結合させることができる。その後、ふるいにかけ、粗大粒子を除去することにより、カップリング処理が施された無機充填材(C)が得られる。
このような条件下において第1カップリング剤による表面処理を行うことで、無機充填材の表面にカップリング剤を均一に結合させることができる。また、このような表面処理を行った無機充填材(C)を使用することにより、無機充填材(C)と樹脂成分との界面接着強度の向上や、固定部材中のマイクロクラックの発生の抑制を図ることができる。
[その他の成分]
本実施形態に係る固定用樹脂組成物は、硬化促進剤(D)を含んでもよい。硬化促進剤(D)は、エポキシ樹脂のエポキシ基とフェノール樹脂系硬化剤(B)の水酸基との反応を促進するものであればよく、一般に使用される硬化促進剤(D)を用いることができる。
硬化促進剤(D)の具体例としては、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、イミダゾールなどのアミジン系化合物、ベンジルジメチルアミンなどの3級アミンや前記化合物の4級オニウム塩であるアミジニウム塩、アンモニウム塩などに代表される窒素原子含有化合物が挙げられる。
これらのうち、硬化性の観点からはリン原子含有化合物が好ましく、流動性と硬化性のバランスの観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有する硬化促進剤がより好ましい。流動性という点を考慮するとテトラ置換ホスホニウム化合物が特に好ましく、また耐半田性の観点では、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物が特に好ましく、また潜伏的硬化性という点を考慮すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。また、連続成形性の観点では、テトラ置換ホスホニウム化合物が好ましい。また、コスト面を考えると、有機ホスフィン、窒素原子含有化合物も好適に用いられる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物で用いることができる有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物で用いることができるテトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。
Figure 0005957961
一般式(1)において、Pはリン原子を表し、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して芳香族基又はアルキル基を表し、Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表し、AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表し、x及びyは1〜3の整数であり、zは0〜3の整数であり、かつx=yである。
一般式(1)で表される化合物は、例えば次のようにして得られるが、これに限定されるものではない。まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで、水を加えると、一般式(1)で表される化合物を沈殿させることができる。
一般式(1)で表される化合物において、合成時の収得率と硬化促進効果のバランスに優れるという観点では、リン原子に結合するR1、R2、R3及びR4がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール化合物であり、かつAは該フェノール化合物のアニオンであるのが好ましい。なお、フェノール化合物とは、単環のフェノール、クレゾール、カテコール、レゾルシンや縮合多環式のナフトール、ジヒドロキシナフタレン、複数の芳香環を備える(多環式の)ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、フェニルフェノール、フェノールノボラック等を概念に含むものであり、中でも水酸基を2個有するフェノール化合物が好ましく用いられる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物で用いることができるホスホベタイン化合物としては、例えば下記一般式(2)で表される化合物等が挙げられる。
Figure 0005957961
一般式(2)において、X1は炭素数1〜3のアルキル基を表し、Y1はヒドロキシル基を表し、aは0〜5の整数であり、bは0〜4の整数である。
一般式(2)で表される化合物は、例えば第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。しかしこれに限定されるものではない。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物で用いることができるホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(3)で表される化合物等が挙げられる。
Figure 0005957961
一般式(3)において、Pはリン原子を表し、R5、R6及びR7は、互いに独立して、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を表し、R8、R9及びR10は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基を表す。R8とR9は、互いに結合して環を形成していてもよい。
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換又はアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましい。アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1〜6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
またホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、o−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられる。これらの中でもp−ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物は、例えば有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
一般式(3)で表される化合物において、リン原子に結合するR5、R6及びR7がフェニル基であり、かつR8、R9及びR10が水素原子である化合物、すなわち1,4−ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が、固定用樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物で用いることができるホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(4)で表される化合物等が挙げられる。
Figure 0005957961
一般式(4)において、Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。R11、R12、R13及びR14は、互いに独立して、芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、X2は、基Y2及びY3と結合する有機基である。X3は、基Y4及びY5と結合する有機基である。Y2及びY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2及びY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y4及びY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4及びY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。X2、及びX3は互いに同一であっても異なっていてもよい。Y2、Y3、Y4、及びY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z1は芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
一般式(4)において、R11、R12、R13及びR14としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等の置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基が好ましい。
また、一般式(4)において、X2は、Y2及びY3と結合する有機基である。同様に、X3は、基Y4及びY5と結合する有機基である。Y2及びY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2及びY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4及びY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4及びY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基X2及びX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、及びY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(4)中の−Y2−X2−Y3−、及び−Y4−X3−Y5−で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものである。このため、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、芳香環を構成する炭素上にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、芳香環を構成する隣接する炭素上に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がさらに好ましい。
プロトン供与体としては、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,2'−ビフェノール、1,1'−ビ−2−ナフトール、サリチル酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2−ヒドロキシベンジルアルコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−プロパンジオール及びグリセリン等が挙げられる。これらの中でも、原料入手の容易さと硬化促進効果のバランスという観点では、カテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
また、一般式(4)中のZ1は、芳香環又は複素環を有する有機基又は脂肪族基を表す。これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基またはオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基またはビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基またはビニル基等の反応性置換基などが挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基、またはビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物は、例えば次のようにして得られる。まず、メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3−ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かす。次いで、上記フラスコに室温攪拌下でナトリウムメトキシド−メタノール溶液を滴下する。次いで、予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を、上記フラスコに室温攪拌下で滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。しかし、これに限定されるものではない。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物に用いることができる硬化促進剤(D)の含有量は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.1質量%以上であることが好ましい。硬化促進剤(D)の含有量が上記範囲内であると、充分な硬化性を得ることができる。また、硬化促進剤(D)の含有量は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下である。硬化促進剤(D)の含有量が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物には、さらに芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)(以下、単に「化合物(E)」と称することもある)が含まれていてもよい。化合物(E)を用いることにより、硬化促進剤(D)として潜伏性を有しないリン原子含有硬化促進剤を用いた場合であっても、固定用樹脂組成物の溶融混練中における反応を抑えることができ、安定して固定用樹脂組成物を得ることができる。また、化合物(E)は、固定用樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させる効果も有するものである。化合物(E)としては、下記一般式(5)で表される単環式化合物、又は下記一般式(6)で表される多環式化合物等を用いることができる。これらの化合物は水酸基以外の置換基を有していてもよい。
Figure 0005957961
一般式(5)において、R15及びR19のいずれか一方は水酸基であり、他方は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。また、R16、R17及びR18は、水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。
Figure 0005957961
一般式(6)において、R20及びR26のいずれか一方は水酸基であり、他方は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。また、R21、R22、R23、R24及びR25は、水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。
一般式(5)で表される単環式化合物の具体例としては、例えばカテコール、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル又はこれらの誘導体が挙げられる。また、一般式(6)で表される多環式化合物の具体例としては、例えば1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、流動性と硬化性の制御のしやすさから、芳香環を構成する2個の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物が好ましい。また、混練工程での揮発を考慮した場合、母核は低揮発性で秤量安定性の高いナフタレン環である化合物とすることがより好ましい。この場合、化合物(E)を、具体的には、例えば1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン及びその誘導体等のナフタレン環を有する化合物とすることができる。これらの化合物(E)は1種類を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
化合物(E)の含有量は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。化合物(E)の含有量が上記範囲内であると、固定用樹脂組成物の充分な低粘度化と流動性向上効果を得ることができる。また、化合物(E)の含有量は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、2質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。化合物(E)の含有量が上記範囲内であると、固定用樹脂組成物の硬化性の低下や硬化物の物性の低下を引き起こす恐れが少ない。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物においては、エポキシ樹脂(A1)と、無機充填剤(C)との密着性を向上させるため、上述した第1カップリング剤とは別に、カップリング剤(F)(第2カップリング剤とも呼ぶ)を添加することができる。第2カップリング剤としては、エポキシ樹脂(A1)と無機充填剤(C)との間で反応し、エポキシ樹脂(A1)と無機充填剤(C)の界面強度を向上させるものであればよい。
第2カップリング剤(F)としては、特に限定されるものではないが、例えばエポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン等が挙げられる。また、カップリング剤(F)は、前述の化合物(E)と併用することで、固定用樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させるという化合物(E)の効果を高めることもできるものである。
エポキシシランとしては、例えばγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、アミノシランとしては、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−6−(アミノヘキシル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−(トリメトキシシリルプロピル)−1,3−ベンゼンジメタナン等の2級アミノシランが挙げられる。また、ウレイドシランとしては、例えばγ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。アミノシランの1級アミノ部位をケトン又はアルデヒドを反応させて保護した潜在性アミノシランカップリング剤として用いてもよい。また、アミノシランとしては、2級アミノ基を有してもよい。また、メルカプトシランとしては、例えばγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランのほか、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドのような熱分解することによってメルカプトシランカップリング剤と同様の機能を発現するシランカップリング剤等、が挙げられる。また、これらのシランカップリング剤は予め加水分解反応させたものを配合してもよい。これらのシランカップリング剤は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
連続成形性という観点では、メルカプトシランが好ましい。密着性という観点ではエポキシシランが好ましい。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物に用いることができるシランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量(第1カップリング剤および第2カップリング剤の合計量)は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂(A1)と無機充填剤(C)との界面強度が低下することがなく、良好な耐振動性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましい。シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂(A1)と無機充填剤(C)との界面強度が低下することがなく、良好な耐振動性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量が上記範囲内であれば、固定用樹脂組成物の硬化物の吸水性が増大することがなく、良好な防錆性を得ることができる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物においては、難燃性を向上させるために無機難燃剤(G)を添加することができる。無機難燃剤(G)としては、燃焼時に脱水、吸熱することによって燃焼反応を阻害する金属水酸化物、又は複合金属水酸化物が、燃焼時間を短縮することができる点で好ましい。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニアを挙げることができる。複合金属水酸化物としては、2種以上の金属元素を含むハイドロタルサイト化合物であって、少なくとも一つの金属元素がマグネシウムであり、かつ、その他の金属元素がカルシウム、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、又は亜鉛から選ばれる金属元素であればよい。このような複合金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が市販品で入手が容易である。なかでも、連続成形性の観点からは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が好ましい。無機難燃剤(G)は、単独で用いても、2種以上用いてもよい。また、連続成形性への影響を低減する目的から、シランカップリング剤などの珪素化合物やワックスなどの脂肪族系化合物などで表面処理を行って用いてもよい。
また、本実施形態に係る無機難燃剤(G)の含有量は、少ない方が好ましく、とくに0.2質量%以下が好ましい。通常、半導体封止材用途は、UL規格を満たすために難燃剤の添加は必須であるが、難燃剤の添加量が高すぎると、熱硬化性樹脂の硬化反応を阻害してしまい、固定部材の強度が低下する場合がある。そのため、本実施形態では、無機難燃剤(G)はなるべく添加しない方が好ましい。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物においては、イオン性不純物の濃度は、固定用樹脂組成物に対して、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは300ppm以下であり、さらに好ましくは200ppm以下である。また、イオン性不純物の濃度は、特に限定されないが、例えば、本発明に係る固定用樹脂組成物に対して、0ppb以上であり、より好ましくは10ppb以上であり、さらに好ましくは100ppb以上である。これにより、本実施形態に係る固定用樹脂組成物の硬化物を固定部材に用いた際、高温、多湿下で処理しても高い防錆性を保持することができる。
本実施形態に係るイオン性不純物としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲンイオン等、より具体的にはナトリウムイオン、塩素イオン等が挙げられる。ナトリウムイオンの濃度は、本実施形態に係る固定用樹脂組成物に対して、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは70ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。また、塩素イオンの濃度は、本実施形態に係る固定用樹脂組成物に対して、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは50ppm以下であり、さらに好ましくは30ppm以下である。上記の範囲とすることにより、電磁鋼板や磁石の腐食を抑制することができる。
本実施形態においては、例えば純度の高いエポキシ樹脂を使用することにより、イオン性不純物を低減することができる。以上により、耐久性に優れたロータが得られる。
イオン性不純物の濃度は、下記のようにして求めることができる。まず、本実施形態に係る固定用樹脂組成物を175℃180秒で成形硬化後、粉砕機で粉砕し硬化物の粉末を得る。得られた硬化物粉末を純水中で120℃、24時間処理し、純水中にイオンを抽出した後、ICP−MS(誘導結合プラズマイオン源質量分析装置)を用い測定できる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物においては、アルミナの含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。アルミナの含有量は、特に限定されないが、例えば、本実施形態に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは0質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。アルミナの含有量を上記上限値以下とすることにより、本実施形態に係る固定用樹脂組成物の流動性を向上させること、および軽量化を図ることができる。なお、本実施形態において、0質量%は検出限界の値を許容する。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物では、前述した成分以外に、ハイドロタルサイト類またはマグネシウム、アルミニウム、ビスマス、チタン、ジルコニウムから選ばれる元素の含水酸化物等のイオン捕捉剤;カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等の着色剤;カルナバワックス等の天然ワックス;ポリエチレンワックス等の合成ワックス;ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩類若しくはパラフィン等の離型剤;ポリブタジエン化合物、アクリロニトリルブタジエン共重合化合物、シリコーンオイル、シリコーンゴム等のシリコーン化合物等の低応力剤;チアゾリン、ジアゾール、トリアゾール、トリアジン、ピリミジン等の密着付与剤を適宜配合してもよい。
本実施形態に係る着色剤の含有量は、本実施形態に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上1質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上0.8質量%以下である。着色剤の含有量を上記範囲内とすることにより、色が付いた不純物を除去する工程が不要となり、作業性が向上する。したがって、歩留まりに優れたロータが実現される。
本実施形態に係る離型剤の含有量は、特に限定されないが、本実施形態に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、例えば好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上である。また、離型剤の含有量は、特に限定されないが、例えば好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。通常、半導体チップをトランスファー形成する際には、固定部材が金型から離間する離型性を確保するために、離型剤を一定量添加することが知られている。しかしながら、離型剤の添加量が高すぎると、固定部材と電磁鋼板との密着性が低下するおそれがある。このため、本実施形態においては、離型剤の含有量は少ない方が好ましく、とくに0.1質量%以下が好ましい。これにより、固定部材と電磁鋼板との密着性を高めることができるので、耐久性に優れたロータが実現される。
本実施形態に係る低応力剤の含有量は、本実施形態に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下である。低応力剤の含有量が上記範囲内であると、得られる固定部材の応力緩和能を向上させることができる。そうすると、電磁鋼板および磁石との熱膨張係数の差に起因する剥がれやクラックの発生を抑制することができる。
本実施形態に係るイオン捕捉剤の含有量は、本実施形態に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下である。イオン捕捉剤の含有量が上記範囲内であると、電磁鋼板および磁石の表面に錆が生じるのを抑制することができる。そうすると、高温高湿度下でも、電磁鋼板および磁石と、固定部材との界面の密着力を長期間にわたって維持することができる。
本実施形態に係る密着付与剤の含有量は、本実施形態に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下である。密着付与剤の含有量が上記範囲内であると、電磁鋼板および磁石と固定部材との密着性を向上させることができる。そうすると、高温で長時間にわたって高速回転させる環境下でも、電磁鋼板および磁石と固定部材との密着を維持することができる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物の流動特性は、フラットフロー測定を用いて定量的に評価することができる。
フラットフロー測定は、次のように行われる。まず、流動特性測定用金型に設けられた流路に被測定物である樹脂組成物を注入し、流路における樹脂組成物の流動長を得る。次いで、得られた流動長から、樹脂組成物の流動特性および充填性を評価する。本実施形態に係るフラットフロー測定によれば、磁石120と孔部150との離間部140における流動特性を、安価かつ簡便な方法により評価することが可能となる。
ANSI/ASTM D 3123−72に準じたスパイラルフロー測定は、次のように行われる。まず、成形機(コータキ精機(株)製、KTS−15)を用いて、ANSI/ASTM D 3123−72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で固定用樹脂組成物を注入する。このとき、流動特性測定用金型の流路における、固定用樹脂組成物の流動の始点から終点までの流動距離を、流動長として測定する。この流動長から、樹脂組成物の流動特性を評価する。ANSI/ASTM D 3123−72に準じたスパイラルフロー測定用金型において、流路は、断面重心から外郭線までの最小距離が約0.7mmであり、かつ螺旋状に形成されている。当該流路の断面形状は、R1.6mm(R0.63インチ)の半円形である。
このような測定条件下で行われるスパイラルフロー測定では、樹脂組成物の高せん断領域における流動特性が評価される。しかしながら、スパイラルフロー測定により評価された高せん断領域における流動特性と、離間部140における流動特性との間において、整合性がとれていなかった。このため、スパイラルフロー測定を用いて離間部140における固定用樹脂組成物の充填性を適切に評価することは難しかった。
一方で、本実施形態におけるフラットフロー測定は、例えば次のように行われる。まず、成型機((株)山城精機製作所製、AV−600−50−TF)を用いて、流動特性評価用金型の流路に、金型温度175℃、注入圧力1MPa、硬化時間120秒の条件で固定用樹脂組成物を注入する。このとき、流動特性測定用金型の流路における、固定用樹脂組成物の流動の始点から終点までの流動距離を、流動長として求める。この流動長から、離間部140における固定用樹脂組成物の流動特性を評価する。本実施形態に係るフラットフロー測定では、幅5mm、高さ0.2mmの略長方形である断面形状を有する螺旋状の流路が形成された金型を用いる。
このような測定条件下で行われるフラットフロー測定によれば、離間部140における固定用樹脂組成物の充填性を、適切に評価することが可能となる。これは、フラットフロー測定を用いることで、固定用樹脂組成物の低せん断領域における流動特性を評価することが可能となることに起因する。フラットフロー測定により評価された低せん断領域における流動特性と離間部140における流動特性との整合性が良好であるため、離間部140における流動特性を適切に評価することが可能となる。
従って、フラットフロー測定を用いて充填性を評価することにより、ロータ100を構成する固定部材130の形成に用いられる樹脂組成物として適切な流動特性を有する固定用樹脂組成物を選択することが可能となる。
本実施形態に係る流動特性測定用金型における流路の長さについては、被測定物である樹脂組成物の流動特性によって適宜設定することが可能である。流路の長さは、特に限定するものではないが、10cm以上60cm以下が好ましく、30cm以上60cm以下がより好ましい。本実施形態に係る流動特性測定用金型における流路の長さが、80cm以上あれば、スパイラルフロー測定用金型を用いた流動特性評価において流動長が102インチ(260cm)を超えるような高流動性の樹脂組成物であっても、その流動特性を定量的に評価することができる。
図10は、本実施形態に係るフラットフロー測定に用いられる流動特性測定用金型の一例について、下型キャビティを示した図である。図10に示した流動特性測定用金型は、図10中の「矢視図」に示すような、断面形状が長方形の流路を有する。同図に示すように、流路の断面形状は、幅5mm、高さ0.2mmの長方形であり、断面重心から外郭線までの最小距離は0.1mmである。また、流路長113cmの螺旋状である。
本実施形態に係るフラットフロー測定により測定された流動長は、例えば10cm以上60cm以下である。流動長が上記下限値以上であることにより、固定用樹脂組成物の離間部140への充填性が良好となる。従って、離間部140中へ固定用樹脂組成物が十分に充填されず、離間部140中に未充填部分が発生することを抑制することができる。また、流動長が上記上限値以下であることにより、ロータ100外部への固定用樹脂組成物の漏れ等が発生することを抑制することができる。
このように、フラットフロー測定により測定された流動長が上記範囲であることにより、ロータの成形において特に優れた流動特性を有する固定用樹脂組成物が得られる。
ロータの成形においては、後述するように低圧条件下において離間部140へ固定用樹脂組成物を充填することがロータの変形を抑制する観点から望ましい。このため、本発明者らは、ロータの成形に際した固定用樹脂組成物の流動特性を評価するため、低圧条件下における固定用樹脂組成物の流動特性を適切に評価する手法を検討した。
本実施形態に係るフラットフロー測定では、注入圧力1MPaの低圧条件下において固定用樹脂組成物を注入する。このため、フラットフロー測定を用いることで、低圧条件下で固定用樹脂組成物を充填するロータの成形に際した固定用樹脂組成物の流動特性を、適切に評価することが可能となる。従って、本実施形態によれば、良好なロータ成形性を実現することが可能な流動特性を有する固定用樹脂組成物を得ることが可能となる。
本実施形態においては、固定用樹脂組成物の流動特性を、フラットフロー測定に加えてスパイラルフロー測定を用いることにより定量的に測定することも可能である。
スパイラルフロー測定を用いることにより、固定用樹脂組成物の高せん断領域における流動特性を測定することができる。このため、フラットフロー測定に加えてスパイラルフロー測定を行うことにより、広いせん断領域における固定用樹脂組成物の流動特性を評価することが可能となる。固定部材130を形成するための樹脂組成物としては、広いせん断領域における流動特性を最適化することが求められる。従って、本実施形態によれば、固定部材130に用いられる固定用樹脂組成物において、最適な流動特性を実現できる。
ロータの形成においては、例えば樹脂漏れを抑制するために高せん断領域における流動特性を制御することが好ましい。この観点から、上記測定条件下のスパイラルフローにより測定された流動長は、160cm以下であることが好ましい。このように、スパイラルフロー測定により得られた流動長が上記範囲内である固定用樹脂組成物を用いることで、ロータに用いられる固定部材として最適な流動特性を実現することが可能となる。
なお、本実施形態においては、熱硬化性樹脂や硬化剤の種類、配合量もしくは軟化点、硬化促進剤の含有量、無機充填材の粒径分布もしくは含有量等を制御することにより、固定用樹脂組成物の流動長を制御することができる。また、無機充填材に対しシランカップリング処理を施すことで、固定用樹脂組成物の流動長を調整することもできる。さらに、固定用樹脂組成物の製造方法を調整することにより、流動長を制御することも可能である。すなわち、これらの因子を適切に選択することにより、低せん断領域および高せん断領域における固定用樹脂組成物の流動長を制御することが可能となる。従って、ロータの成形において特に優れた流動特性を有する固定用樹脂組成物を得ることができる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物の放熱性は、例えばトランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で直径40mm、厚さ30mmの成形品を成形し、175℃、4時間で後硬化し、得られた成形品の熱伝導率を熱伝導率計で測定することにより評価できる。当該条件下にて測定された固定用樹脂組成物の熱伝導率は、0.5W/m・K以上であることが好ましい。これにより、固定部材により固定される磁石の放熱性を高め、磁力が低下することを抑制することが可能となる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物の透磁性は、例えばRF impedance/material analyzerと磁性体測定用電極を用いて、外径20mmφ、内径10mmφ、厚さ2.6mmtのリング状試験片の透磁率を室温環境下、測定周波数30Hzで測定することにより評価できる。当該条件下にて測定された固定用樹脂組成物の透磁率は、0.6μ'以上であることが好ましい。これにより、磁石から生じる磁束の透過を容易とし、効率的にモータを回転させることが可能となる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物の絶縁性は、絶縁耐力試験装置を用いてASTM−D149規格試験法に準拠し、100mmφ、厚さ2mmの材料試験片を、絶縁油(JIS−C2320 絶縁油適合品)を入れた油槽中に置き、試験片を25mmφ×20mm エッジ3.2mmRの上下電極で挟み、昇圧速度2kV/secで電圧を上昇させ、絶縁破壊電圧を測定することにより評価できる。当該条件下にて測定された固定用樹脂組成物の絶縁破壊電圧は、15kV/mm以上であることが好ましい。これにより、モータ駆動時に固定部材にクラック等が発生することが抑制される。従って、モータの長期信頼性を向上させることが可能となる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、例えば次のように行われる。まず、熱硬化性樹脂(A)、フェノール樹脂系硬化剤(B)及び無機充填剤(C)、ならびに好ましくはその他の添加剤等を、所定量配合する。次いで、配合したものを、たとえばミキサー、ジェットミル、ボールミル等を用いて常温で均一に粉砕、混合する。次いで、加熱ロール、ニーダー又は押出機等の混練機を用いて、90〜120℃程度まで固定用樹脂組成物を加温しながら溶融し混練を行う。次いで、混練後の固定用樹脂組成物を冷却、粉砕し、顆粒又は粉末状の固形の固定用樹脂組成物を得る。これらの製造工程における条件を適宜調整することにより、所望の分散度や流動性等を有する固定用樹脂組成物を得ることができる。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物の粉末又は顆粒の粒度は、例えば5mm以下が好ましい。5mm以下とすることにより、打錠時に充填不良をおこし、タブレットの質量のバラツキが大きくなることを抑制することができる。
さらに、得られた固定用樹脂組成物の粉末又は顆粒を打錠成型することによりタブレットを得ることができる。打錠成型に用いる装置としては、単発式、又は多連ロータリー式の打錠機を用いることができる。タブレットの形状は、特に限定されないが、円柱状であることが好ましい。打錠機のオス型、メス型及び環境の温度に特に制限はないが、35℃以下が好ましい。35℃を超えると固定用樹脂組成物が反応により粘度上昇し、流動性が損なわれる恐れがある。打錠圧力は400×10Pa以上3000×10Pa以下の範囲が好ましい。打錠圧力を上記上限値以下とすることにより、タブレット打錠直後に破壊が生じることを抑制できる。一方、打錠圧力を上記下限値以上とすることにより、十分な凝集力が得られないために輸送中にタブレットの破壊が生じることを抑制することができる。打錠機のオス型、メス型の金型の材質、表面処理に特に限定はなく、公知の材質のものを使用することができる。表面処理の例としては、たとえば放電加工、離型剤のコーティング、メッキ処理、研磨などを挙げることができる。
(ロータの製造方法)
本実施形態に係るロータ100の製造方法は、例えば次のように行われる。まず、回転シャフト170が貫通する貫通孔の周縁部に沿って配置されている複数の孔部150が設けられたロータコア110を準備する。次いで、孔部150に磁石120を挿入する。次いで、孔部150と磁石120との離間部140に固定用樹脂組成物を充填する。次いで、固定用樹脂組成物を硬化して、固定部材130を得る。次いで、ロータコア110が有する貫通孔に回転シャフト170を挿入するとともに、ロータコアに回転シャフト170を固設する。これにより、本実施形態に係るロータ100が得られる。
本実施形態では、離間部140に固定用樹脂組成物を充填する手法として、インサート成形を用いることが好ましい。以下、詳述する。
まず、インサート成型装置について説明する。図11は、インサート成形に用いるインサート成形装置の上型200を示す断面図である。
固定部材130の形成方法の一例としては、タブレット状の固定用樹脂組成物を用い、インサート成形を行う方法を用いることができる。このインサート成形には、インサート成形装置を用いる。この成形装置は、タブレット状の固定用樹脂組成物が供給されるポット210および溶融状態の固定用樹脂組成物を移動させる流路220を有する上型200と、下型(図示せず)と、これらの上型200及び下型を加熱する加熱手段と、溶融状態の固定用樹脂組成物を押し出す押出機構と、を備える。インサート成形装置は、例えば、ロータコア等を搬送する搬送機能を備えてもよい。
上型200および下型は、インサート成形時において、ロータコア110の上面および下面にそれぞれ密着することが好ましい。このため、上型200および下型は、例えば板状である。本実施形態の上型200および下型は、インサート成型時においてロータコア110の全体を覆わない点で、半導体装置の製造方法に用いる通常のトランスファー形成の金型とは異なる。すなわち、本実施形態に係る上型200および下型は、インサート成型時において、ロータコア110の側面を覆わない。一方で、トランスファー成形用の金型は、上型及び下型で構成されるキャビティ内に半導体チップ全体が配置されるように構成される。
また、図11に示すように、ポット210は、二つの別々の流路220を有してもよい。この場合、一のポット210に接続する二つの流路220は、Y字状に配置される。これにより、一つのポット210から、二つの孔部150に、本実施形態に係る固定用樹脂組成物を充填できる。なお、一つのポット210は、一つの孔部150に固定用樹脂組成物を充填する一つの流路のみを有してもよく、三つ以上の孔部150に固定用樹脂組成物を充填する三つ以上の流路を有してもよい。一つのポット210が複数の流路220を有する場合、複数の流路220は互いに独立してもよく、互いに連続していてもよい。
続いて、本実施形態に係るインサート成形について説明する。
まず、ロータコア110をオーブン又は熱盤上などで予熱後、不図示の成形装置の下型に固定する。続いて、ロータコア110の孔部150中に、磁石120を挿入する。続いて、下型を上昇させ、ロータコア110の上面に上型200を押しつける。これにより、上型200と下型とで、ローターア110の上面および下面を挟み込む。このとき、上型200中の流路220の先端部が、孔部150と磁石120との離間部140上に配置される。また、ロータコア110は、成形装置の下型と上型200からの熱伝導により加熱されることとなる。成形装置の下型および上型200は、ロータコア110が固定用樹脂組成物の成形、硬化に適した温度となるよう、例えば150℃〜200℃程度に温調されている。この状態でタブレット状の固定用樹脂組成物を上型200のポット210内に供給する。上型200のポット210内に供給されたタブレット状の固定用樹脂組成物は、ポット210内で加熱され溶融状態となる。
続いて、プランジャ(押出機構)により、溶融状態の固定用樹脂組成物をポット210から押し出す。これにより、固定用樹脂組成物は、流路220を移動して孔部150と磁石120との離間部140に充填される。このとき、固定用樹脂組成物の充填は、例えば注入圧力1MPa程度の低圧条件下において行われる。注入圧力を1MPa程度の低圧条件とすることで、固定用樹脂組成物を充填する際の充填圧によってロータが変形してしまうことを抑制することができる。固定用樹脂組成物が離間部140に充填される間、ロータコア110は金型(下型と上型200)からの熱伝導により加熱される。ロータコア110が加熱されることで、離間部140に充填された固定用樹脂組成物が硬化される。これにより、固定部材130が形成されることとなる。
このとき、固定用樹脂組成物を硬化する際の温度条件は、例えば150℃〜200℃とすることができる。また、硬化時間は、例えば30秒〜180秒とすることができる。これにより、孔部150の内部に挿入された磁石120が固定部材130により固定される。この後、ロータコア110の上面から上型200を離間する。次いで、ロータコア110の貫通孔に回転シャフト170を挿入するとともに、ロータコア110にシャフト170を固設する。
以上により、本実施形態に係るロータ100が得られる。
本実施形態に係るインサート成形方法は、脱型する必要がない点で、半導体装置の製造に用いるトランスファー成形方法と異なる。
インサート成形方法では、ロータコア110の上面と上型200とが密着された状態で、上型200の流路220を通って、ロータコア110の孔部150に固定用樹脂組成物が充填される。このため、ロータコア110の上面と上型200との間に樹脂が充填されず、上型200と上面との着脱が容易となる。
一方、トランスファー成形方法では、半導体チップと金型との間のキャビティに樹脂が充填されるので、成形品から金型をうまく脱型する必要がある。このため、半導体チップを封止する樹脂には、金型と成形品との離型性が特に要求されることになる。
本実施の形態のロータ100は、ハイブリッド車、燃料電池車および電気自動車等の電動車両、列車ならびに船舶等の、乗り物に搭載することができる。
以下、本実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。特に記載しない限り、以下に記載の「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を示す。
各実施例および各比較例で用いた原料成分を下記に示した。
(熱硬化性樹脂(A))
エポキシ樹脂1:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN−1020−55、エポキシ当量196、軟化点55℃、150℃におけるICI粘度1.2dPa・s)
エポキシ樹脂2:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製、EPICLON N−670、エポキシ当量210、軟化点70℃、150℃におけるICI粘度4.3dPa・s)
エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、YX4000K、エポキシ当量185、融点107℃、150℃におけるICI粘度0.1dPa・s)
エポキシ樹脂4:後述の方法により合成した
以下に、エポキシ樹脂4の合成方法を説明する。
まず、次の方法により、前駆体フェノール樹脂(P1)を合成する。
出発フェノール樹脂(P0)としてフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成株式会社製、MEH−7800SS、水酸基当量175g/eq、軟化点67℃)525質量部、1−クロロメチルナフタレン(東京化成工業株式会社製試薬、融点20℃、分子量176.6、純度99.1%)53質量部、メチルイソブチルケトン580質量部、テトラエチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製試薬、融点39℃、分子量176.6、純度99.1%)6質量部をセパラブルフラスコに秤量し、撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、室温で窒素バブリングしながら撹拌して成分を溶解させたのち、加温を開始し、系内の温度を65℃〜75℃の範囲に維持しながら1時間かけて49%水酸化ナトリウム水溶液27質量部(0.33モル)を徐々に添加し、さらに昇温して95℃〜105℃の範囲に維持しながら3時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却した後、第一リン酸ソーダ10質量部を加えて中和した後、蒸留水300質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った。次に、125℃、2mmHgの減圧条件でメチルイソブチルケトンを留去し、下記式(7)で表される前駆体フェノール樹脂(P1)を得た。
下記式(7)で表される前駆体フェノール樹脂(P1)において、cは1〜20の整数であり、dは0〜20の整数であり、構造式の両末端は水素原子である。d=0である重合体においては、cは2〜20の整数であり、ヒドロキシフェニレン基であるc個の繰り返し単位の間には必ずフェニルアラルキル基である(c−1)個の繰り返し単位を有する。また、d≧1である重合体においては、(c+d)は2〜20の整数であり、ヒドロキシフェニレン基であるc個の繰り返し単位と、ナフチルメトキシフェニレン基であるd個の繰り返し単位とは、 それぞれが連続で並んでいても、互いが交互もしくはランダムに並んでいてもよいが、それぞれの間には必ずフェニルアラルキル基である(c+d−1)個の繰り返し単位を有する。前駆体フェノール樹脂(P1)において、水酸基当量210である。
Figure 0005957961
次に、セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、前駆体フェノール樹脂(P1)を500質量部、エピクロルヒドリン1320質量部、ジメチルスルホキシド260質量部を加えた。45℃に加熱して溶解させた後、水酸化ナトリウム(固形細粒状、純度99%試薬)97質量部を2時間かけて添加し、50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間反応させた。反応後、蒸留水300質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃、2mmHgの減圧条件でエピクロルヒドリン及びジメチルスルホキシドを留去した。得られた固形物にメチルイソブチルケトン1100質量部を加えて溶解し、70℃に加熱し、30質量%水酸化ナトリウム水溶液31質量部を1時間かけて添加し、さらに1時間反応した後、静置し、水層を棄却した。油層に蒸留水150質量部を加えて水洗操作を行い、洗浄水が中性になるまで同様の水洗操作を繰り返し行った後、加熱減圧によってメチルイソブチルケトンを留去し、下記一般式(8)で表わされるエポキシ樹脂4を得た。
下記一般式(8)で表されるエポキシ樹脂4において、cは1〜20の整数であり、dは0〜20の整数であり、構造式の両末端は水素原子である。d=0である重合体においては、cは2〜20の整数であり、置換もしくは無置換のグリシドキシフェニレン基であるc個の繰り返し単位の間には必ずフェニルアラルキル基である(c−1)個の繰り返し単位を有する。また、d≧1である重合体においては、(c+d)は2〜20の整数であり、置換もしくは無置換のグリシドキシフェニレン基であるc個の繰り返し単位と、ナフチルメトキシフェニレン基であるd個の繰り返し単位とは、それぞれが連続で並んでいても、互いが交互もしくはランダムに並んでいてもよいが、それぞれの間には必ずフェニルアラルキル基である(c+d−1)個の繰り返し単位を有する。エポキシ樹脂4において、エポキシ当量281、軟化点56℃、150℃におけるICI粘度1.0dPa・sである。
Figure 0005957961
(硬化剤(B))
フェノール樹脂系硬化剤1:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、PR−HF−3、水酸基当量102g/eq、軟化点80℃、150℃におけるICI粘度は1.1dPa・s)
フェノール樹脂系硬化剤2:フェノールアラルキル型フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS、水酸基当量203g/eq、軟化点67℃、150℃におけるICI粘度は0.7dPa・s)
(無機充填材(C))
球状シリカ1((株)マイクロン製、S430、平均粒径D5017.5μm、75μmカット)
球状シリカ2(電気化学工業(株)製、FB950FC、平均粒径D5017μm、53μmカット)
球状シリカ3((株)アドマテックス製、SO−C2、平均粒径D500.5μm)
(硬化促進剤(D))
トリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成(株)製、PP−360)
(カップリング剤(F))
カップリング剤1:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE−903)
カップリング剤2:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製、CF4083)
カップリング剤3:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ(株)製、GPS−M)
カップリング剤4:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
(その他の添加剤)
離型剤:カルナバワックス (日興ファイン(株)製、ニッコウカルナバ)
イオン捕捉剤:ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製、商品名DHT−4H)
着色剤:カーボンブラック(三菱化学(株)製、MA600)
トリアゾール:3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−チオール
低応力剤1:シリコーンレジン(東レ・ダウコーニング(株)製、CF−2156)
低応力剤2:エラストマーレジン(ピイ・ティ・アイジャパン(株)製、CTBN−1008SP)
難燃剤(住友化学(株)製、CL−303、平均粒径D503.5μm)
実施例1では、予めシランカップリング処理を施した無機充填材(C)を用いた。無機充填材(C)のシランカップリング処理は、次のように行った。
まず、球状シリカ1および球状シリカ2を105℃で12時間それぞれ乾燥した。次いで、球状シリカ1を20重量部と、球状シリカ2を60重量部と、をミキサーに投入し、10分間攪拌した。次いで、球状シリカ1と球状シリカ2の混合物にシランカップリング剤1を0.3重量部噴霧しながら、当該混合物を20分間攪拌した。この際、シランカップリング剤1を噴霧した時間は、10分間程度であった。また、ミキサー内の湿度は50%以下であった。その後、60分間攪拌を続けることで、シリカとシランカップリング剤1とを混合した。
次いで、ミキサーから取り出し、20±5℃の条件下で7日間エージングを行った。次いで、200meshのふるいにかけ、粗大粒子を除去した。これにより、シランカップリング処理が施された無機充填材(C)が得られた。なお。ミキサーには、リボンブレンダーを用いた。また、リボンブレンダーの回転数は、30rpmであった。
実施例2〜5においても、実施例1と同様にシランカップリング処理を施した無機充填材(C)を用いた。なお、無機充填材(C)は、実施例ごとに、表1に示す種類および配合量に従ってそれぞれ配合された。
比較例1〜3においても、実施例1と同様にシランカップリング処理を施した無機充填材(C)を用いた。
比較例4では、エージング時間を5日間とした以外は、実施例1と同様に無機充填材(C)のシランカップリング処理を行った。
比較例5では、シランカップリング処理を施していない無機充填材(C)を用いた。
なお、無機充填材(C)は、比較例ごとに、表1に示す種類および配合量に従ってそれぞれ配合された。
各実施例および各比較例について、表1に示す配合量に従って各成分を配合したものを、ミキサーを用いて常温で混合し、粉末状の中間体を得た。得られた粉末状の中間体を自動供給装置(ホッパー)に装填して、80℃〜100℃の加熱ロールへ定量供給し、溶融混練を行った。その後冷却し、粉砕することにより、固定用樹脂組成物を得た。成形装置を用いて、得られた固定用樹脂組成物を打錠成形することにより、タブレットを得た。
得られた固定用樹脂組成物について、以下に示す測定および評価を行った。評価結果については、表1に示す。
(フラットフロー測定)
成型機((株)山城精機製作所製、AV−600−50−TF)を用いて、流動特性評価用金型の流路に、金型温度175℃、注入圧力1MPa、硬化時間120秒の条件で固定用樹脂組成物を注入した。このとき、流動特性測定用金型の流路における、固定用樹脂組成物の流動の始点から終点までの流動距離を、流動長として求めた。表1における単位はcmである。
なお、流動特性評価用金型としては、断面重心から外郭線までの最小距離が0.1mmである断面形状を有する流路が形成されており、かつ当該流路が螺旋状である金型を用いた。当該流路の断面形状は、幅5mm、高さ0.2mmの長方形である。
(ロータ成形性)
電磁鋼板に見立てた金型(孔部の幅が30mm、厚みが4mm、深さが75mm)にマグネットに見立てた金属片(幅28mm、厚み3.8mm、長さ74mm)を挿入したものを成形機にセットした後、金型が170℃に達したところで固定用樹脂組成物を注入成形し、硬化時間120秒後に金型を成形機から取り出した。
充填性については、金型に設けられた孔部と金属片との隙間が樹脂で充填されていれば○、金型に設けられた孔部と金属片との隙間が樹脂で充填されていなければ×とした。
また、樹脂漏れについては、金型から樹脂が漏れ出さなければ○、金型から樹脂が漏れ出せば×とした。
(絶縁性)
絶縁耐力試験装置(東京変圧器(株)製、PCT−5K)を用いてASTM−D149規格試験法に準拠して、100mmφ、厚さ2mmの材料試験片を、絶縁油(JIS−C2320 絶縁油適合品)を入れた油槽中に置き、試験片を25mmφ×20mm、エッジ3.2mmRの上下電極で挟み、昇圧速度2kV/secで電圧を上昇させ、絶縁破壊電圧を測定した。表1における単位はkV/mmである。
(放熱性)
トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で直径40mm、厚さ30mmの成形品を成形し、175℃、4時間で後硬化し、得られた成形品の熱伝導率を熱伝導率計(京都電子工業社製QTM−500)で測定した。表1における単位はW/m・Kである。
(透磁性)
RF impedance/material analyzer(アジレント・テクノロジー(株)製、HP4291B)と磁性体測定用電極(アジレント・テクノロジー(株)製、HP16454A、Large size)を用いて外径20mmφ、内径10mmφ、厚さ2.6mmtのリング状試験片の透磁率を室温環境下、測定周波数30Hzで測定した。表1における単位はμ'である。
Figure 0005957961
表1に示すように、実施例1〜5では、フラットフロー測定において、良好な結果が得られた。この場合において、充填性および樹脂漏れについての評価結果はいずれも○であった。また、実施例1〜5では、放熱性、絶縁性、透磁性のいずれにおいても、良好な結果が得られた。
このように、実施例1〜5では、固定部材の諸特性を維持しつつ、良好なロータ成形性を実現することができたことが分かる。
表1に示すように、比較例1〜5では、フラットフロー測定においては良好な結果が得られなかった。比較例1〜3、5では、フラットフロー測定において得られた流動長の値が低かった。この場合、充填性の結果はいずれも×であった。また、比較例4では、フラットフロー測定において得られた流動長の値が高かった。この場合、ロータ成形性測定において、樹脂漏れが発生した。
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
100 ロータ
110 ロータコア
112 電磁鋼板
116 溝部
118a エンドプレート
118b エンドプレート
120 磁石
121 側壁
123 側壁
125 側壁
127 側壁
130 固定部材
132 スリット充填用樹脂部材
140 離間部
150 孔部
151 側壁
152 スリット
153 側壁
154a 孔部
154b 孔部
155 側壁
156 孔部
157 側壁
160 カシメ部
170 回転シャフト
200 上型
210 ポット
220 流路

Claims (16)

  1. 孔部が設けられたロータコアと、
    前記孔部内に挿入された磁石と、
    前記孔部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、
    を備えるロータのうち前記固定部材の形成に用いられる固定用樹脂組成物であって、
    エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
    硬化剤と、
    無機充填材と、
    を含み、
    幅5mm、高さ0.2mmの略長方形である断面形状を有する螺旋状の流路が形成された流動特性測定用金型の前記流路に、金型温度175℃、注入圧力1MPa、硬化時間120秒の条件で前記固定用樹脂組成物を注入した際の、前記流路における前記固定用樹脂組成物の流動距離を流動長とした場合に、前記流動長が10cm以上60cm以下である固定用樹脂組成物。
  2. 請求項1に記載の固定用樹脂組成物において、
    前記固定部材は、前記磁石の側壁のうちの少なくとも前記ロータコアの内周縁側に位置する側壁上に設けられて前記磁石を固定する、固定用樹脂組成物。
  3. 請求項1または2に記載の固定用樹脂組成物において、
    前記無機充填材の平均粒径D50は、0.01μm以上75μm以下である固定用樹脂組成物。
  4. 請求項1ないし3いずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    前記無機充填材の含有量は、前記固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対し50質量%以上である固定用樹脂組成物。
  5. 請求項1ないし4いずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    低応力剤をさらに含む、固定用樹脂組成物。
  6. 請求項5に記載の固定用樹脂組成物において、
    前記低応力剤の含有量が、当該固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.01質量%以上3質量%以下である、固定用樹脂組成物。
  7. 請求項1ないしいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    前記無機充填材は、第1カップリング剤による表面処理が施されている固定用樹脂組成物。
  8. 請求項に記載の固定用樹脂組成物において、
    前記第1カップリング剤は、1級アミノシランを含む固定用樹脂組成物。
  9. 請求項1ないしいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    2級アミノシランまたはメルカプトシランを含む第2カップリング剤を含む固定用樹脂組成物。
  10. 請求項1ないしいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    熱伝導率計を用いて測定された熱伝導率が、0.5W/m・k以上である固定用樹脂組成物。
  11. 請求項1ないし10いずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    測定周波数30Hzにおいて測定した透磁率が、0.6μ'以上である固定用樹脂組成物。
  12. 請求項1ないし11いずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    ASTM−D149規格試験法に準拠して測定された絶縁破壊電圧は、15kV/mm以上である固定用樹脂組成物。
  13. 請求項1ないし12いずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    前記孔部と前記磁石との前記離間部の幅は、20μm以上500μm以下である固定用樹脂組成物。
  14. 請求項1ないし13いずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
    粉末状、顆粒状またはタブレット状である固定用樹脂組成物。
  15. 請求項1ないし14いずれか1項に記載の固定用樹脂組成物の硬化物を含むロータ。
  16. 請求項15に記載のロータを備える自動車。
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