本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、圧迫時に肋骨を撓ませて押し込むようなリアルな感触を再現することができる心臓マッサージ訓練用器具を提供するものである。
すなわち、請求項1の発明は、圧迫部材上面からの十分な圧迫力により音を発する発音部材を備えた心臓マッサージ訓練用器具において、前記圧迫部材は、下部の両端部から上部の押圧部に至る可撓性板部材によって形成されており、前記押圧部への圧迫力により前記両端部が外方へ滑動して下方へ撓むように構成されているとともに、該可撓性板部材が下方へ所定量を撓んだ際に前記押圧部が前記発音部材を押圧して発音させるようにしたことを特徴とする心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項2の発明は、前記可撓性板部材が部分管状体よりなる請求項1に記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項3の発明は、前記可撓性板部材の前記両端部が上方へ湾曲した円弧状であるとともに、前記押圧部が平坦面である請求項1に記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項4の発明は、前記発音部材が幅方向に湾曲した板ばね部材よりなる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項5の発明は、前記板ばね部材の上部に前記可撓性板部材の裏面と弾性的に当接する弾性当接部材が配設されている請求項4に記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項6の発明は、前記弾性当接部材が板ばね部材の上部にその長さ方向と直行して帯状に配設されている請求項5に記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項7の発明は、前記発音部材を収容可能な溝部を有しその上方に前記可撓性板部材が配置される台座部が形成された基盤部材を備え、前記台座部側方に前記可撓性板部材が撓んだ際にその両端部が滑動可能な滑動底部が形成されている請求項1ないし6のいずれか1項に記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項8の発明は、前記圧迫部材の上部に人体の胸部を模した模擬胸部材が配置される請求項1ないし7のいずれか1項に記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項9の発明は、前記模擬胸部材が人体の胸部に相当する模擬胸部材本体を有し、前記模擬胸部材本体の裏面側の四隅に、該模擬胸部材本体を弾性的に水平状態に支持する弾性支持体がそれぞれ配設されている請求項8記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項10の発明は、少なくとも前記圧迫部材と前記発音部材と前記模擬胸部材とを収納する箱体を有し、前記箱体の内壁部に前記圧迫部材による前記模擬胸部材本体の上下動状態を視認可能な圧迫状態表示部が形成されている請求項9に記載の心臓マッサージ訓練用器具に係る。
請求項1の発明に係る心臓マッサージ訓練用器具は、圧迫部材上面からの十分な圧迫力により音を発する発音部材を備えた心臓マッサージ訓練用器具において、前記圧迫部材は、下部の両端部から上部の押圧部に至る可撓性板部材によって形成されており、前記押圧部への圧迫力により前記両端部が外方へ滑動して下方へ撓むように構成されているとともに、該可撓性板部材が下方へ所定量を撓んだ際に前記押圧部が前記発音部材を押圧して発音させるようにしたため、圧迫時に肋骨を撓ませて押し込むようなリアルな感触を再現することができる。
請求項2の発明は、請求項1において、前記可撓性板部材が部分管状体よりなるため、成形が容易である。
請求項3の発明は、請求項1において、前記可撓性板部材の前記両端部が上方へ湾曲した円弧状であるとともに、前記押圧部が平坦面であるため、訓練者が押圧部を圧迫しやすくなるとともに、均等に力を加えやすくなる。
請求項4の発明は、請求項1ないし3において、前記発音部材が幅方向に湾曲した板ばね部材よりなるため、複雑で高価な装置を用いることなく安価かつ簡易な構成で発音させることができ、繰り返し圧迫されても破損する恐れがない。
請求項5の発明は、請求項4において、前記板ばね部材の上部に前記可撓性板部材の裏面と弾性的に当接する弾性当接部材が配設されているため、可撓性板部材が発音部材を確実に押圧することを補助することができる。
請求項6の発明は、請求項5において、前記弾性当接部材が板ばね部材の上部にその長さ方向と直行して帯状に配設されているため、発音部材の位置ずれを防止することができる。
請求項7の発明は、請求項1ないし6において、前記発音部材を収容可能な溝部を有しその上方に前記可撓性板部材が配置される台座部が形成された基盤部材を備え、前記台座部側方に前記可撓性板部材が撓んだ際にその両端部が滑動可能な滑動底部が形成されているため、発音部材の位置ずれを防止することができるとともに、可撓性板部材の両端部が位置ずれすることなく円滑に滑動可能となる。
請求項8の発明は、請求項1ないし7において、前記圧迫部材の上部に人体の胸部を模した模擬胸部材が配置されるため、各部材の露出を防止するとともに、よりリアルな感覚で訓練を行うことが可能となる。
請求項9の発明は、請求項8において、前記模擬胸部材が人体の胸部に相当する模擬胸部材本体を有し、前記模擬胸部材本体の裏面側の四隅に、該模擬胸部材本体を弾性的に水平状態に支持する弾性支持体がそれぞれ配設されているため、模擬胸部材本体の極端な傾きを抑制することができ、訓練者が常時安定して圧迫を繰り返すことが可能となる。
請求項10の発明は、請求項9において、少なくとも前記圧迫部材と前記発音部材と前記模擬胸部材とを収納する箱体を有し、前記箱体の内壁部に前記圧迫部材による前記模擬胸部材本体の上下動状態を視認可能な圧迫状態表示部が形成されているため、正常な圧迫作業が行われているか否かを視覚的に確認しながら訓練を実施することができる。
図1〜3に示す本発明の一実施例に係る心臓マッサージ訓練用器具10は、小型化及び実寸での心臓マッサージ訓練を可能とするものであって、等身大の人体の胸部を含む上半身に相当する大きさからなり、圧迫部材20上面からの十分な圧迫力により音を発する発音部材40を備える。図において、符号11は各部材20,40等を収納するための箱体、12は箱体11に開閉可能に一体に設けられた蓋体、Tは当該訓練用器具10を用いて心臓マッサージ訓練を行う訓練者を表す。
圧迫部材20は、図3〜5に示すように、訓練者Tが心臓マッサージの訓練を行う際に圧迫する部分であって、下部の両端部23,24から上部の押圧部22に至る可撓性板部材21によって形成されている。この可撓性板部材21にあっては、押圧部22への圧迫力により両端部23,24が外方へ滑動して下方へ撓むように構成することによって、圧迫時に肋骨を撓ませる感触を再現可能とするものである。この可撓性板部材21は、十分な圧迫力を加えることによって撓ませることが可能であるとともに繰り返しの圧迫に耐え得る十分な強度を備えた適宜の素材が用いられる。例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等の熱硬化性樹脂が好適に使用され、公知の押出成形や射出成形等によって形成される。また、ステンレス鋼等の金属からなる板ばね材も使用することができる。これにより、安価で十分な強度及び可撓性を備えた可撓性板部材21を得ることができる。
可撓性板部材21の形状は、両端部23,24が外方へ滑動して押圧部22が下方へ撓むことによって肋骨を撓ませる感触が再現可能であれば特に限定されるものではない。図4は可撓性板部材21のバリエーションを表したものである。図4(a)に示す可撓性板部材21Aは、下部の両端部23A,24Aから上方へ湾曲した円弧状の押圧部22Aを有する部分管状体よりなる。この可撓性板部材21Aは成形が容易である。図4(b)に示す可撓性板部材21Bは、両端部23B,24Bから上方へ円弧状に湾曲するとともに、押圧部22Bが平坦面に形成されている。この可撓性板部材21Bは、押圧部22Bが平坦面であることにより、訓練者Tが押圧部22Bを圧迫しやすくなるとともに、均等に力を加えやすくなる。図4(c)に示す可撓性板部材21Cは、両端部23C,24Cがカール状に折り返して形成されている。この可撓性板部材21Cは、両端部23C,24Cの接地部分が湾曲しているため、押圧部22が下方へ撓んだ際に両端部23C,24Cが滑動しやすくなる。特に、可撓性板部材21Cが板ばね材等の滑動しにくい素材で形成された場合に有効である。
また、可撓性板部材21は、下方へ所定量を撓んだ際に押圧部22が後述する発音部材40を押圧して発音させる。ここで、可撓性板部材21が下方へ撓む所定量とは、訓練者Tからの圧迫により心臓マッサージが有効となる沈下量であって、例えば5センチ以上である。実施例では、図3〜5に示すように、可撓性板部材21の押圧部22裏面側に、後述する発音部材40を直接又は間接的に作動させる作動部25が形成されている。この作動部25は、押圧部22裏面側から下方に突出した突部26を有しており、必要に応じて可撓性板部材21の裏面側に圧縮可能な弾性部材30が配設される。弾性部材30の材質としては、繰り返し圧迫を行った場合でも破損しにくい適宜の材料よりなり、例えばウレタンやポリエチレン等の合成樹脂発泡体が好適に使用される。また、弾性部材30は、可撓性板部材21の両端部23,24内周面に両側部が当接する適宜の形状からなり、例えば略直方体状や可撓性板部材21の内周面に内接する略半円状等が挙げられる。図示の例では、略直方体状である。作動部25によって直接的に発音部材40を押圧する場合は、可撓性板部材21が下方へ撓んだ際に突部26を発音部材40に当接させて行われる。一方、間接的に押圧する場合は、可撓性板部材21が下方へ撓んだ際に突部26が弾性部材30を介して発音部材40を押圧する。この可撓性板部材21では、裏面側に弾性部材30を介在させることにより、圧迫時に可撓性板部材21が横ずれしにくくなり、安定性が向上する。
発音部材40は、図3,5に示すように、圧迫部材20上面からの十分な圧迫力により音を発するものである。発音部材40としては、訓練者Tが圧迫部材20を介して圧迫した際に発音するとともに、繰り返し圧迫を行った場合でも破損しにくい構成であれば特に限定されるものではない。実施例では、図6に示すように、幅方向に湾曲した板ばね部材41が使用される。この板ばね部材41は、湾曲部42を上側として配置され、圧迫部材20の圧縮力が作用することにより湾曲部42が押圧変形されて発音し、圧縮力が作用しなくなるとばねの復元作用により元に戻るものである。このように、発音部材40として板ばね部材41を用いることにより、複雑で高価な装置を用いることなく、安価かつ簡易な構成で発音させることができ、圧迫により繰り返し押圧変形されても破損する恐れがない。
また、この訓練用器具10は、図3,5,7に示すように、可撓性板部材21及び発音部材40を配置するための基盤部材50を備える。基盤部材50には、台座部51と、滑動底部55とが形成されている。台座部51は、発音部材40を収容可能な溝部52を有しその上方に可撓性板部材21が配置される。台座部51の溝部52に発音部材40が収容されることにより、発音部材40の位置ずれを防止することができる。一方、可撓性板部材21は、両端部23,24が台座部51の外周部に近接または当接するように配置されることによって位置決め可能であるとともに、両端部23,24が台座部51の左右方向に滑動するように配置されることにより、肋骨を撓ませる感触がよりリアルに再現される。
滑動底部55は、台座部51側方に可撓性板部材21が撓んだ際にその両端部23,24を滑動可能とするものであり、可撓性板部材21の両端部23,24の滑動方向を規制する規制部56と、可撓性板部材21の両端部23,24の滑動方向に開放された滑動面57とを有する。実施例の滑動底部55は、台座部51の左右方向に形成されている。これにより、可撓性板部材21の両端部23,24が位置ずれすることなく円滑に滑動可能となる。なお、図中の符号58は滑動する可撓性板部材21の両端部23,24との摩擦を軽減するために並列に形成された複数の凹部である。
さらに、この訓練用器具10では、図1〜3,5に示すように、各部材20,40,50等の露出を防止するとともに、リアルな感覚で訓練を行うことを可能とするために、各部材20,40,50等の上部に布状、板状、蓋状等の適宜の形状からなる人体の胸部を模した模擬胸部材60が配置される。実施例の模擬胸部材60は、人体の胸部に相当する蓋状の模擬胸部材本体61を有する。模擬胸部材本体61は、合成樹脂材料からなり、特にポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)等の熱可塑性樹脂が好適に使用される。
模擬胸部材本体61では、図1,8に示すように、人体の左右の乳頭部に相当する各位置にそれぞれ模擬乳頭部62,62が形成されているとともに、人体の中心線L上の剣状突起に相当する位置に模擬剣状突起部63が形成されている。また、各模擬乳頭部62,62を結ぶ線Mと中心線Lとの交点に相当する位置、すなわち模擬胸部材本体61の心臓に相当する位置には、訓練者Tが訓練を実施する際に押圧する目安となる押圧凹部65が形成されている。押圧凹部65は、基盤部材50の台座部51の直上位置に配置され、訓練者Tが当該押圧凹部65を介して台座部51上に配置された圧迫部材20を間接的に圧迫可能とする。特に、図5に示すように、凹部底面66が平面状であり、上部の押圧部22が平坦面22Bである可撓性板部材21Bを用いた場合には、凹部底面66が平坦面22B上に載置されるため、模擬胸部材60のぐらつきが抑制されて圧迫時の安定性が向上する。
模擬胸部材60では、よりリアルな感覚で訓練を行うことを可能とするために、図1,2に示すように、顔の絵や模型等の人体の頭部に相当する模擬頭部材70が取り付けられる。実施例の模擬頭部材70は、顔等が描かれた頭部本体71と、ヒンジ部73を介して頭部本体71と連接されて模擬胸部材本体61に固定される取付部72とを有する。また、模擬頭部材70は、箱体11への収納時には、模擬胸部材本体61に固定された状態でヒンジ部73を介して模擬胸部材本体61側へ折り重ねられている。
次に、当該心臓マッサージ訓練用器具10の使用方法について説明する。まず、各部材20,40,50,60が収納された箱体11を床等に載置し、図1,2に示すように、蓋体12を開放した後、模擬頭部材70を模擬胸部材本体61に折り重なった状態からヒンジ部73を介して開放された蓋体12側へ倒す。ここで、図5(a)に示すように、基盤部材50の台座部51に形成された溝部52には発音部材40である板ばね部材41が収容され、台座部51上部に圧迫部材20である可撓性板部材21が弾性部材30を介して配置されている。
ここで、訓練者Tは、図2,8に示すように、当該訓練用器具10の左右いずれかの側方の位置に着き、模擬胸部材60の押圧凹部65上面に両手を乗せて、該模擬胸部材60の押圧凹部65を介して可撓性板部材21の圧迫を行い、可撓性板部材21を下方へ撓ませる。その際、可撓性板部材21へ心臓マッサージが有効となる程度の十分な圧迫が加わると、図5(b)に示すように、可撓性板部材21の両端部23,24が外方へ滑動するとともに押圧部22が下方へ所定量(例えば5センチ以上)撓む。その際、押圧部22裏面側の作動部25(突部26)が弾性部材30を圧縮し、該弾性部材30を介して板ばね部材41を押圧変形させることで、板ばね部材41が1回音を発する。また、可撓性板部材21を撓ませながら押し込むことで、訓練者Tは、可撓性板部材21の弾力により肋骨を撓ませて押し込むようなリアルな感触を得ることができる。
続いて、訓練者Tが圧迫をやめると、図5(a)に示すように、可撓性板部材21が復元して押圧部22が上方へ後退するとともに、板ばね部材41への押圧状態が解除され、板ばね部材41が復元作用により元に戻される。以後、訓練者Tにより圧迫が繰り返し行われて十分な圧迫が加えられるたびに、板ばね部材41が音を発して正常に心臓マッサージが行われていることを確認することができる。なお、訓練を終了する際には、模擬頭部材70を模擬胸部材本体61側へ折り重ねた後、蓋体12を閉じるだけでよい。
次に、図9,10に示す他の実施例に係る心臓マッサージ訓練用器具10Aについて説明する。この訓練用器具10Aは、圧迫部材20Aと、発音部材40と、基盤部材50Aと、模擬胸部材60Aとを備える。なお、以下の説明において、前述の実施例と同一の符号は同一の構成を表すものとして、その説明を省略する。
圧迫部材20Aは、図9,10に示すように、下部の両端部23D,24Dから上方へ楕円状に湾曲した円弧状の押圧部22Dを有する部分管状体よりなる可撓性板部材21Dによって形成される。この圧迫部材20Aでは、可撓性板部材21Dが下方へ所定量を撓んだ際に押圧部22Dが発音部材40を直接又は間接的に押圧して発音させる。
発音部材40は、図9〜図11に示すように、幅方向に湾曲した板ばね部材41からなり、該板ばね部材41の上部に可撓性板部材21Dの裏面と弾性的に当接する弾性当接部材45が配設されていて、該弾性当接部材45を介して可撓性板部材21Dに押圧されて発音する。この発音部材40は、図示のように、可撓性板部材21Dの滑動方向に直交する方向に配置される。弾性当接部材45は、可撓性板部材21Dが下方へ所定量を撓んだ際に可撓性板部材21Dの裏面と当接することによって、押圧時の可撓性板部材21Dと発音部材40とのずれを防止して発音部材40を確実に押圧することを補助するものである。弾性当接部材45の材質としては、繰り返し圧迫を行った場合でも破損しにくい適宜の材料よりなり、例えばウレタンやポリエチレン等の合成樹脂発泡体が好適に使用される。実施例の弾性当接部材45は、板ばね部材41の上部にその長さ方向と直行して帯状に配設され、発音部材40の位置ずれを防止している。
基盤部材50Aは、図9,10に示すように、可撓性板部材21及び発音部材40を配置するものであって、発音部材40が載置される台座部51Aと、台座部51A側方に可撓性板部材21Dが撓んだ際にその両端部23D,24Dを滑動可能とする滑動底部55Aとを有する。図において、符号52Aは台座部51Aに載置された発音部材40を保持する発音部材保持部、53Aは台座部51Aの略中心位置に形成され圧迫された板ばね部材41の変形を妨げることなく十分に押圧変形させて確実に発音させるための心臓部凹部、56Aは可撓性板部材21Dの両端部23D,24Dの滑動方向を規制する規制部、57Aは可撓性板部材21Dの両端部23D,24Dの滑動方向に開放された滑動面、58Aは滑動する可撓性板部材21Dの両端部23D,24Dとの摩擦を軽減するための複数の凹部、59Aは基盤部材50Aの四隅に形成され後述する弾性支持体80を保持する弾性支持体保持部である。
模擬胸部材60Aは、図9,11に示すように、人体の胸部に相当する模擬胸部材本体61Aを有し、該模擬胸部材本体61Aの心臓に相当する位置に形成された押圧凹部65Aに弾性押圧部67Aが設けられ、訓練者Tが当該弾性押圧部67Aを介して圧迫部材20Aを間接的に圧迫可能とされる。弾性押圧部67Aの材質としては、繰り返し圧迫を行った場合でも破損しにくい適宜の材料よりなり、例えばウレタンやポリエチレン等の合成樹脂発泡体が好適に使用される。
模擬胸部材60Aでは、模擬胸部材本体61Aの裏面側の四隅に、該模擬胸部材本体61Aを弾性的に水平状態に支持する弾性支持体80がそれぞれ配設されている。弾性支持体80の材質としては、模擬胸部材60Aの押圧時に容易に収縮可能であるとともに、非押圧時に模擬胸部材60Aの水平状態を支持可能な適宜の材料よりなり、ポリウレタン等の合成樹脂発泡体が好適に使用される。このように、模擬胸部材本体61Aの四隅が弾性支持体80によって弾性的に支持されることにより、押圧時あるいは非押圧時のいずれであっても模擬胸部材本体61Aの極端な傾きを抑制することができ、訓練者Tが常時安定して圧迫を繰り返すことが可能となる。
また、この訓練用器具10Aは、図11に示すように、圧迫部材20A、発音部材40、基盤部材50A、模擬胸部材60A等の各部材を収納する箱体11Aを有する。箱体11Aでは、内壁部13に圧迫部材20Aによる模擬胸部材本体61Aの上下動状態を視認可能な圧迫状態表示部15が形成されている。模擬胸部材本体61Aの上下動状態とは、訓練者Tによる圧迫時あるいは非圧迫時における模擬胸部材本体61Aの沈下量である。
圧迫状態表示部15は、図11に示すように、訓練者Tが圧迫を行った際の可撓性板部材21Dの撓み具合を模擬胸部材本体61Aの沈下量から間接的に確認可能とするものであって、可撓性板部材21Dが下方へ所定量(例えば5センチ以上)撓んでいる状態や、圧迫後に可撓性板部材21Dが正常に復元したこと等、正常な圧迫作業が行われているか否かを視覚的に確認しながら訓練を実施することができる。この圧迫状態表示部15は、内壁部13の一部あるいは全周に亘って形成され、模擬胸部材本体61Aの上下動状態が視認可能な構成であれば形態等は特に限定されない。圧迫状態表示部15の形態としては、例えば、模擬胸部材本体61Aの通常位置から所定量沈下した位置等を表す線、模擬胸部材本体61Aの通常位置から所定間隔で沈下量を表した目盛り、内壁部13の高さ方向に異なる形状で描かれた模様、模擬胸部材本体61Aの通常位置から所定量沈下した位置で内壁部13を上下方向に色分けしたり内壁部13の高さ方向に色の濃淡や複数色のグラデーションをつける等の内壁部13の色彩等が挙げられる。
ここで、当該訓練用器具10Aの使用方法を説明すると、まず、図11(a)に示すように、箱体11Aには、基盤部材50Aの台座部51Aに上部に帯状の弾性当接部材45が配設された発音部材40である板ばね部材41が載置され、台座部51A上部に圧迫部材20Aである可撓性板部材21Aが配置されている。また、基盤部材50Aの四隅の弾性支持体保持部59Aにはそれぞれ弾性支持体80が配置されて、その上部に模擬胸部材60Aが水平状態で支持されている。なお、箱体11Aの内壁部13には、その全周に亘って、圧迫状態表示部15として、模擬胸部材本体61Aの所定量の沈下位置を表す境界線15aと、模擬胸部材本体61Aの正常な復元位置を表す境界線15bが設けられている。
訓練者Tは、模擬胸部材60Aの弾性押圧部67A上面に両手を乗せて、該模擬胸部材60Aの弾性押圧部67Aを介して可撓性板部材21の圧迫を行い、可撓性板部材21Dを下方へ撓ませる。その際、その際、可撓性板部材21Dへ心臓マッサージが有効となる程度の十分な圧迫が加わると、図11(b)に示すように、可撓性板部材21Dの両端部23D,24Dが外方へ滑動するとともに押圧部22Dが下方へ所定量(例えば5センチ以上)撓む。この時、模擬胸部材本体61Aが可撓性板部材21Dとともに下方へ沈下して視認可能となった所定量の沈下位置を表す境界線15aより下方に位置するとともに、押圧部22D裏面側が弾性当接部材45を介して板ばね部材41を押圧変形させて発音させて、正常な圧迫が実行される。
一方、可撓性板部材21Dへの圧迫が不十分であると、可撓性板部材21Dの下方への撓みが足りず、模擬胸部材本体61Aが下方へ沈下した状態となっても境界線15aが視認不能あるいは境界線15aより上方に位置するとともに、板ばね部材41が押圧変形されず発音しない。
続いて、訓練者Tが圧迫をやめると、可撓性板部材21Dが復元して押圧部22Dが上方へ後退する。その際、訓練者Tが圧迫状態を十分に解除していなかった場合、正常な復元位置を表す境界線15bが視認可能な状態となっていることにより、訓練者Tは圧迫解除が不十分であることを認識することができる。これに対し、訓練者Tが圧迫状態を十分に解除していた場合は、境界線15bが視認不能となる。
以後、訓練者Tにより同様の圧迫及び圧迫解除が行われ、境界線15a,15bや板ばね部材41の発音に基づいて、正常に心臓マッサージが行われていることを確認することができる。なお、模擬胸部材本体61Aが弾性支持体80によって四隅を弾性的に支持されることにより、繰り返しの圧迫を実施した場合でも模擬胸部材本体61Aが極端に傾くことがなく、略水平状態が保持されて安定して上下動が繰り返される。
なお、本発明の心臓マッサージ訓練用器具は、前述の実施例のみに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の一部を適宜に変更して実施することができる。例えば、実施例の基盤部材では、滑動底部を台座部の左右方向に形成し、可撓性板部材をその両端部が台座部の左右方向に滑動するように配置したが、図12の符号50Bに示すように、滑動底部を台座部の上下方向に形成し、可撓性板部材をその両端部が台座部の上下方向に滑動するように配置してもよい。このように構成すれば、訓練者に対して可撓性板部材の滑動方向が略直角方向となり、可撓性板部材を圧迫しやすくなるため、心臓マッサージに不慣れな初心者等の訓練に最適である。
また、実施例では、発音部材を台座部に形成された単一の溝部に収容したが、深さが異なる2つの溝部(浅溝部と深溝部)に選択的に収容されるようにしてもよい。2つの溝部(浅溝部と深溝部)を設ける場合、模擬胸部材の各模擬乳頭部を結ぶ線と中心線との交点に相当する位置で各溝部を互いに直交状に形成するとともに、各溝部を中心線に対して斜め方向に配置することが好ましい。模擬胸部材の各模擬乳頭部を結ぶ線と中心線との交点位置で各溝部を直交させることにより、発音部材を実際の心臓に相当する位置に正確に配置することができ、各溝部を中心線に対して斜め方向に配置することにより、訓練者による圧迫位置がずれることがなく均等に圧迫することが可能となる。このように、深さが異なる2つの溝部(浅溝部と深溝部)を形成すれば、いずれの溝部に発音部材を収容するかによって圧迫部材の作動部と発音部材との距離を変動させることが可能となる。すなわち、浅溝部に発音部材を収容した場合は、圧迫部材の作動部と発音部材との距離が近くなって比較的小さな力で発音させることができる。一方、深溝部に発音部材を収容した場合は、圧迫部材の作動部と発音部材との距離が遠くなって、発音させるために比較的大きな力が必要となる。これにより、発音部材を発音させるのに必要な圧迫力を容易に変化させることが可能となり、想定される心臓マッサージの対象(成人や子供等)に合わせた訓練を容易に実施することができる。
さらに、可撓性板部材の裏面側に配設される弾性部材として硬度が異なる複数の弾性部材を用い、該弾性部材の硬度の相違により必要な圧迫力を変化させるようにしてもよい。また、弾性部材の硬度の相違と発音部材の浅溝部または深溝部への配置の相違とを適宜組み合わせるようにすれば、圧迫力をより多様に変化させることができる。
加えて、可撓性板部材の両端部をカール状に折り返して形成する場合、可撓性板部材の形状は図示の実施例のみに限定されるものではなく、部分管状体の両端部をカール状にする等、適宜の形状の可撓性板部材に形成することができる。
また、実施例では、発音部材を発音させて心臓マッサージが有効に行われていることを認識するように構成したが、それに加えてLED等の適宜の発光部材を併用しても構わない。この発光部材は、例えば、可撓性板部材の押圧部裏面側と発音部材(弾性当接部材)上面側にそれぞれ電極を設け、可撓性板部材が下方へ所定量を撓んだ際に双方の電極が互いに接触することで発光するように構成される。このように、発光部材を併用することで、聴覚(音)だけでなく視覚(光)でも心臓マッサージが有効であるか否かを認識可能となり、より効果的に訓練を実施することができる。