本発明のリパーゼは、Candida antarcticaを起源とするリパーゼ(CALB、Genebank ACCESSION No. P41365)を意味する。本発明のCALBは、好ましくは成熟CALBを意味し、そのアミノ酸配列を配列番号1に示す。以後、配列番号1のアミノ酸配列を有するリパーゼを、野生型リパーゼと称する。
本発明の改変型リパーゼは、野生型リパーゼよりも高いカルバメート化活性またはエステル交換活性を示す、配列番号1における193位のグルタミンが他のアミノ酸残基に置換された単独改変型リパーゼ(以下、193改変型リパーゼと称する)を意味する。また、104位のトリプトファンがフェニルアラニンに置換(W104F)された単独改変型リパーゼ(以下、W104F改変型リパーゼ(配列番号3))を含んでもよい。
好適には、前記193位のグルタミンがグルタミン酸またはアスパラギン酸に置換(Q193EまたはQ193D)された単独改変型リパーゼ(以下、Q193E改変型リパーゼ(配列番号2)またはQ193D改変型リパーゼ(配列番号19)と称する)である。
より好適には、前記193位のグルタミンがグルタミン酸またはアスパラギン酸に置換され、更に104位のトリプトファンがフェニルアラニンに置換された二重改変型リパーゼ(以下、Q193E/W104F改変型リパーゼ(配列番号4)またはQ193D/W104F改変型リパーゼ(配列番号20)と称する)である。
本発明の改変型リパーゼは、野生型リパーゼよりも高いカルバメート化活性およびエステル交換活性を示す、配列番号1における278位のロイシンが他のアミノ酸残基に置換された単独改変型リパーゼ(以下、278改変型リパーゼと称する)を意味する。
好適には、前記278位のロイシンがアルギニンまたはリジンに置換(L278RまたはL278K)された単独改変型リパーゼ(以下、L278R改変型リパーゼ(配列番号21)またはL278K改変型リパーゼ(配列番号22)と称する)である。
より好適には、前記193位のグルタミンがグルタミン酸またはアスパラギン酸に置換され、更に278位のロイシンがアルギニンまたはリジンに置換された二重改変型リパーゼ(以下、Q193E/L278K改変型リパーゼ(配列番号23)、Q193E/L278R改変型リパーゼ(配列番号24)、Q193D/L278K改変型リパーゼ(配列番号25)またはQ193D/L278R改変型リパーゼ(配列番号26)と称する)である。
より好適には、前記193位のグルタミンがグルタミン酸またはアスパラギン酸に置換され、104位のトリプトファンがフェニルアラニンに置換され、278位のロイシンがアルギニンまたはリジンに置換された三重改変型リパーゼ(以下、Q193E/W104F/L278K改変型リパーゼ(配列番号27)、Q193E/W104F/L278R改変型リパーゼ(配列番号28)、Q193D/W104F/L278K改変型リパーゼ(配列番号29)またはQ193D/W104F/L278R改変型リパーゼ(配列番号30)と称する)である。
より好適には、前記193位のグルタミンがグルタミン酸またはアスパラギン酸に置換され、104位のトリプトファンがフェニルアラニンに置換され、278位のロイシンがアルギニンまたはリジンに置換され、283位のアラニンがバリンに置換された四重改変型リパーゼ(以下、Q193E/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼ(配列番号31)、Q193E/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼ(配列番号32)、Q193D/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼ(配列番号33)またはQ193D/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼ(配列番号34)と称する)である。
本発明の改変型リパーゼは、上記193位、104位、278位および/または283位でアミノ酸置換が行われたアミノ酸配列を有することを特徴とするが、上記193位、104位、278位および/または283位以外の位置に、さらにアミノ酸変異を含んでもよい。よって、本発明は、上記193位、104位、278位および/または283位のアミノ酸置換を有する改変型リパーゼと比較した場合にその機能は同等であるが、上記193位、104位、278位および/または283位のアミノ酸置換を有する改変型リパーゼと一部においてアミノ酸配列が相違する変異体も提供する。
一部においてアミノ酸配列が相違するとは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加、挿入、逆位、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異が生じていることをいう。
よって、本発明は、193位のグルタミンの他のアミノ酸残基への置換に加え、さらに1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、193改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体を含む。
また、本発明は、W104F置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、W104F改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体を含む。
また、本発明は、Q193E置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193E改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体を含む。
本発明は、Q193D置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193D改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体を含む。
また、本発明は、Q193E/W104F置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193E/W104F改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193D/W104F置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193D/W104F改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193E/L278K置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193E/L278K改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193E/L278R置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193E/L278R改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193D/L278K置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193D/L278K改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193D/L278R置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193D/L278R改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193E/W104F/L278K置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193E/W104F/L278K改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193E/W104F/L278R置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193E/W104F/L278R改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193D/W104F/L278K置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193D/W104F/L278K改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193D/W104F/L278R置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193D/W104F/L278R改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193E/W104F/L278K/A283V置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193E/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193E/W104F/L278R/A283V置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193E/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193D/W104F/L278K/A283V置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193D/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、Q193D/W104F/L278R/A283V置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、Q193D/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体も含む。
本発明は、278位のロイシンの他のアミノ酸残基への置換に加え、さらに1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、278改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体を含む。
本発明は、278位のロイシンの他のアミノ酸残基への置換に加え、さらに1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、278改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体を含む。
本発明は、L278R置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、L278R改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体を含む。
本発明は、L278K置換に加え、さらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、L278K改変型リパーゼと同じカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すその変異体を含む。
アミノ酸配列の相違は、カルバメート化反応およびエステル交換活性に関わる特性が大幅に低下しない限度において(好ましくは実質的に保持される限度において)許容される。したがって、この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特に限定されなくともよい。また、複数の位置で相違が生じていてもよい。ここで複数とは、例えば全アミノ酸の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。
したがって、一部においてアミノ酸配列が相違するタンパク質は、上記改変型リパーゼのアミノ酸配列のいずれかと例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上のアミノ酸配列同一性を有する相同タンパク質であってもよい。アミノ酸配列同一性は、当業者に周知のBLASTを用い初期設定値で計算してもよい。BLASTは、ウェブサイト(例えば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&BLAST_PROGRAMS=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&BLAST_SPEC=blast2seq&LINK_LOC=blasttab&LAST_PAGE=blastn&BLAST_INIT=blast2seq)で公開されている。
上記の相同タンパク質は、好ましくは、保存的アミノ酸置換をカルバメート化反応およびエステル交換活性に関与しないアミノ酸残基に生じさせることによって得ることができる。ここで保存的アミノ酸置換とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパルギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばアスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は、好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
よって、193改変型リパーゼの変異体は、193改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、193改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
また、W104F改変型リパーゼの変異体は、W104F改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、W104F改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性を示すものであってもよい。
また、Q193E改変型リパーゼの変異体は、Q193E改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193E改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193D改変型リパーゼの変異体は、Q193D改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193D改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
また、Q193E/W104F改変型リパーゼの変異体は、Q193E/W104F改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193E/W104F改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193D/W104F改変型リパーゼの変異体は、Q193D/W104F改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193D/W104F改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193E/L278K改変型リパーゼの変異体は、Q193E/L278K改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193E/L278K改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193D/L278K改変型リパーゼの変異体は、Q193D/L278K改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193D/L278K改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193E/L278R改変型リパーゼの変異体は、Q193E/L278R改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193E/L278R改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193D/L278R改変型リパーゼの変異体は、Q193D/L278R改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193D/L278R改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193E/W104F/L278K改変型リパーゼの変異体は、Q193E/W104F/L278K改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193E/W104F/L278K改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193D/W104F/L278K改変型リパーゼの変異体は、Q193D/W104F/L278K改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193D/W104F/L278K改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193E/W104F/L278R改変型リパーゼの変異体は、Q193E/W104F/L278R改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193E/W104F/L278R改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193D/W104F/L278R改変型リパーゼの変異体は、Q193D/W104F/L278R改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193D/W104F/L278R改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193E/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼの変異体は、Q193E/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193E/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193D/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼの変異体は、Q193D/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193D/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193E/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼの変異体は、Q193E/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193E/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
Q193D/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼの変異体は、Q193D/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、Q193D/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性を示すものであってもよい。
278改変型リパーゼの変異体は、278改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、278改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
L278R改変型リパーゼの変異体は、L278R改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、L278R改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
L278K改変型リパーゼの変異体は、L278K改変型リパーゼと約70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、L278K改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
改変型リパーゼまたはその変異体をコードするDNAは、改変型リパーゼまたはその変異体のアミノ酸配列をコードする核酸配列を有するDNAを意味し、核酸配列は当業者に周知の遺伝コードに基づいてアミノ酸配列から決定することができる。
1以上のコドンが同じアミノ酸をコードできる(コドンの縮重)ので、1つのアミノ酸配列を1以上の核酸配列がコードできる。よって、改変型リパーゼまたはその変異体をコードする核酸配列であれば、改変型リパーゼまたはその変異体をコードするDNAは限定されない。
Q193E改変型リパーゼ(配列番号2)またはQ193D改変型リパーゼ(配列番号19)のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、たとえば配列番号14または35の配列が挙げられる。W104F改変型リパーゼ(配列番号3)のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、たとえば配列番号17の配列が挙げられる。
Q193E/W104F改変型リパーゼ(配列番号4)またはQ193D/W104F改変型リパーゼ(配列番号20)のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、例えば配列番号18または36の配列が挙げられる。
Q193E/L278R改変型リパーゼ(配列番号23)、Q193E/L278K改変型リパーゼ(配列番号24)、Q193D/L278R改変型リパーゼ(配列番号25)またはQ193D/L278K改変型リパーゼ(配列番号26)のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、例えば配列番号39、40、41または42の配列が挙げられる。
Q193E/W104F/L278R改変型リパーゼ(配列番号27)、Q193E/W104F/L278K改変型リパーゼ(配列番号28)、Q193D/W104F/L278R改変型リパーゼ(配列番号29)またはQ193D/W104F/L278K改変型リパーゼ(配列番号30)のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、例えば配列番号43、44、45または46の配列が挙げられる。
Q193E/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼ(配列番号31)、Q193E/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼ(配列番号32)、Q193D/W104F/L278R/A283V改変型リパーゼ(配列番号33)またはQ193D/W104F/L278K/A283V改変型リパーゼ(配列番号34)のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、例えば配列番号47、48、49または50の配列が挙げられる。
L278R改変型リパーゼ(配列番号21)またはL278K改変型リパーゼ(配列番号22)のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、たとえば配列番号37または38の配列が挙げられる。
改変型リパーゼの変異体は、改変型リパーゼ遺伝子とハイブリダイズし、改変型リパーゼと同等のカルバメート化活性およびエステル交換活性を示すものであってもよい。
ハイブリダイズとは、好ましくは、ストリンジェントな条件下のハイブリダイゼーションを意味する。特に好ましくは、下記:ハイブリダイゼーション緩衝液:2×SSC;10×Denhardt溶液(フィコール400+PEG+BSA;比率=1:1:1);0.1%SDS;5mMEDTA;50mMNa2HPO4;250μg/mlニシン精子DNA;50μg/ml tRNA;または25Mリン酸ナトリウム緩衝液pH7.2;1mM EDTA;7%SDS)、ハイブリダイゼーション温度:T=65〜68℃、洗浄緩衝液:0.1×SSC;0.1%SDS、洗浄温度:T=65〜68℃、の条件下のハイブリダイゼーションを意味する。
改変型リパーゼまたはその変異体をコードするDNAを含む形質転換微生物とは、改変型リパーゼまたはその変異体をコードするDNAを微生物に導入して、改変型リパーゼまたはその変異体を生産するように形質転換された微生物を意味する。改変型リパーゼまたはその変異体をコードするDNAは、微生物中でプラスミドで存在しても染色体に組み込まれても良い。
微生物は、限定されないが、例えば、細菌、酵母、糸状菌などが挙げられる。好ましくは、大腸菌(Escherichia)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、バチルス(Bacillus)、乳酸菌(Lactobacillus、Bifidobacterium)、酵母(Saccharomyces、Pichia、Schizosaccharomyces、Kluyveromyces、Hansenula、Yarrowia)、糸状菌(Aspergillus)等が挙げられる。これらの中でも大腸菌(Escherichia coli)、酵母(Saccharomyces、Pichia、Schizosaccharomyces、Kluyveromyces、Hansenula、Yarrowia)、糸状菌(Aspergillus)がより好ましい。これらの微生物は、市場より入手できる。
微生物に形質転換される改変型リパーゼまたはその変異体をコードするDNAは、ベクターにあることが好ましい。ベクターは、ファージ、プラスミドなどが挙げられるが、プラスミドが好ましい。プラスミドは、発現のためのプロモーター、開始コドン、停止コドン、ポリアデニィレーションシグナル配列、マルチクローニングサイト、複製オリジン、選択マーカー等を有する発現用プラスミドが、より好ましい。
大腸菌由来のプラスミドとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC18、pUC118が挙げられる。酵母由来プラスミドとしては、例えば、pSH19、pSH15、pYES2、糸状菌由来プラスミドとしては、例えば、pAUR316が挙げられる。これらのプラスミドは、市場より入手できる。
微生物に形質転換される改変型リパーゼまたはその変異体をコードするDNAは、微生物での発現を可能とするプロモーターと作動可能的に連結していることが好ましい。
プロモーターは、微生物において、連結している改変型リパーゼまたはその変異体を発現させるものであれば限定されない。微生物が大腸菌である場合には、trpプロモーター、lacプロモーター、rec Aプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなど、微生物が酵母である場合には、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、GAL1プロモーターなどが好ましい。微生物が糸状菌である場合には、グルコアミラーゼ遺伝子のプロモーター、α-アミラーゼ遺伝子のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼI遺伝子のプロモーターなどが好ましい。
プロモーターに作動的に連結するとは、プロモーターの制御下で改変型リパーゼまたはその変異体を生産するようにプロモーターの下流に改変型リパーゼまたはその変異体を連結することを意味する。
微生物の形質転換は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことが出来る。例えば、エレクトロポレーション法やコンピテントセルとした微生物にカルシウム法によってDNAを導入する方法などがある。
本発明の改変型リパーゼまたはその変異体の製造は、好ましくは上記形質転換体を培地中で培養し、培地中および/又は形質転換体中に前記改変型リパーゼを蓄積させる方法によって行われる。
形質転換体を培養するための培地は、該微生物が生育する培地であれば特に制限はなく、当該技術分野で公知の方法に従って培養することが出来る。例えば、グルコース、シュークロースなどの糖類を炭素源として、アンモニウム塩や硝酸塩などの無機窒素源、あるいは酵母エキスなどの有機窒素源、さらに各種無機塩やビタミン類などを含有した培養液で、場合により、誘導剤(IPTG等)や選択剤(アンピシリン、クロラムフェニコール、カルベニシリンなど抗生物質等)などを含んでもよい。培養条件(温度、時間、振とう、好気または嫌気)は、微生物が生育する条件であれば特に限定されない。
培地中に改変型リパーゼまたはその変異体を分泌する場合、改変型リパーゼまたはその変異体をコードするDNAは、分泌のためのシグナル配列と連結してもよい。シグナル配列は、例えばアルカリホスファターゼ、インベルターゼ等のシグナル配列を使用することができる。また、精製を容易にするためのタグ配列、例えばヒスチジンタグ配列、フラッグタグ配列等と連結しても良い。また、タグ配列、シグナル配列と改変型リパーゼまたはその変異体の間に切断配列、たとえばエンドペプチダーゼの認識配列を連結してもよい。
形質転換体により生産された改変型リパーゼまたはその変異体は、培養培地および/または培養形質転換体から精製されることが好ましい。培養培地および/または培養形質転換体からの精製は、従来のタンパク質の精製方法に従って、例えばクロマトグラフィー(ゲルろ過グロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等)等を用いて行うことができる。
本発明の改変型リパーゼまたはその変異体は、不溶性の担体に結合させた固定化改変型リパーゼまたはその変異体が好ましい。
担体は、担体結合法(物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法、生化学的特異結合法)のためには、例えば、多糖(セルロース、アガロース等)、無機物質(多孔質ガラス、金属酸化物等)、合成高分子(ポリアクリルアミド化合物、ポリスチレン樹脂、イオン交換樹脂等)が挙げられる。架橋法のためには、例えば、OHC−(CH2)3−CHO(グルタルアルデヒド)、O=N=C−(CH2)3−C=N=Oが挙げられる。包括法のためには、例えば、多糖(アルギン酸、カラギーナン等)、ポリアクリルアミド化合物、ENT、PU、ナイロンが挙げられる。
担体への改変型リパーゼまたはその変異体の固定化は、タンパク質のための従来の固定化方法に従って行うことができる。
本発明で使用する、微生物、組換えDNA、変異体作製、PCR、発現、培養、精製、固定化等の実験技術は、当業者に周知であり、一般的な教科書(例えば、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, second edition (Sambrook et al., 1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press; CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel et al., eds., 1987 and annual updates); PCR PROTOCOLS: A GUIDE TO METHODS AND APPLICATIONS (Innis et al., 1990, Academic Press, San Diego, CA); PCR: THE POLYMERASE CHAIN REACTION(Mullis et al., eds. , 1994); MANUAL OF INDUSTRIAL MICROBIOLOGY AND BIOTECHNOLOGY, Second Edition (A. L. Demain, et al., eds. 1999); 及び BIOTECHNOLOGY: A TEXTBOOK OF INDUSTRIAL MICROBIOLOGY, (Thomas D. Brock) Second Edition (1989)Sinauer Associates, Inc., Sunderland, Massなど)に詳細に記載されている。
カルバメート化反応またはエステル交換反応における、本発明の改変型リパーゼまたはその変異体の使用は、本発明の改変型リパーゼまたはその変異体によってカルバメート化反応またはエステル交換反応が行われることを意味する。改変型リパーゼまたはその変異体は、固定化されているものが好ましい。
カルバメート化反応は、下記反応式(A):
(式中、Rは、水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す)
で示されるとおり、アミン化合物とカーボネート化合物をカルバメート結合を形成させる反応を意味する。
アミン化合物は、カーボネート化合物と反応させることによってカルバメート化合物を合成するものであれば特に限定されないが、本発明においては、モノアミン化合物又はジアミン化合物が好適に使用される。脂肪族モノアミン化合物又は脂肪族ジアミン化合物がより好適に使用される。脂肪族アミンとは、直鎖状炭化水素の水素原子が、アミノ基、-NH2と置換した化合物を意味する。
モノアミン化合物は、一般式(I):
(式中、R1は、置換基を有していてもよい、C1〜20直鎖又は分岐鎖アルキル基、C2〜20直鎖又は分岐鎖アルケニル基、C2〜20直鎖又は分岐鎖アルキニル基、C4〜24シクロアルキルアルキル基、C7〜21アラルキル基、又はC3〜20シクロアルキル基であり、nは、0又は1である)
で示される化合物が好適に使用される。
R1における、置換基を有していてもよいC1〜20直鎖又は分岐鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、またはt−ブチル基等が挙げられる。C1〜12直鎖又は分岐鎖アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ドデシル基、イソプロピル基またはt−ブチル基がより好ましい。
R1における、置換基を有していてもよいC2〜20直鎖又は分岐鎖アルケニル基は、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、またはイソプロパニル基等が挙げられる。C2〜12直鎖又は分岐鎖アルケニル基が好ましく、アリル基がより好ましい。
R1における、置換基を有していてもよいC2〜20直鎖又は分岐鎖アルキニル基は、エチニル基、プロパルギル基、ブテニル基、または1−メチル−2−プロピニル基等が挙げられる。C2〜12直鎖又は分岐鎖アルキニル基が好ましく、エチニル基またはプロパルギル基がより好ましい。
R1における、置換基を有していてもよいC3〜20シクロアルキル基は、C1〜4直鎖アルキル基で置換されていても良い単環又は多環の脂環式炭化水素基であり、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、またはエチルシクロヘキシル基等が挙げられる。C3〜12シクロアルキル基が好ましく、シクロヘキシル基またはビシクロ[2.2.1]ヘプチル基がより好ましい。ここで、C1〜4の直鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、またはn−ブチル基等が挙げられる。
R1における、置換基を有していてもよいC4〜24シクロアルキルアルキル基は、上記で定義されたC3〜20シクロアルキル基で置換されたC1〜4直鎖アルキル基であり、例えばシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、トリメチルシクロヘキシルメチル基、またはノルボルニルメチル基等が挙げられる。C3〜10シクロアルキル基で置換されたC1〜4直鎖アルキル基であるC4〜14シクロアルキルアルキル基が好ましく、シクロヘキシルメチル基がより好ましい。
R1における、置換基を有していてもよいC7〜21アラルキル基は、C6〜20アリール基で置換されたアルキル基が挙げられる。C6〜20アリール基は、単環又は多環の芳香環を有する基であり、フェニル基、ナフチル基、ビフェニルイル基、またはターフェニルイル基(例えば、p−ターフェニル−4−イル基、m−ターフェニル−3−イル基)等が挙げられる。また、アルキル基の炭素原子数は、アラルキル基の炭素原子数から、アリール基の炭素原子数を減じた数である。よって、C7〜21アラルキル基は、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、またはm−ターフェニル−3−イル−メチル基等が挙げられ、C7〜13アラルキル基が好ましく、ベンジル基がより好ましい。なお、R1として挙げられた基は各種異性体を含む。
前記R1として挙げられた基は、さらなる置換基を有していても良い。R1におけるさらなる置換基は、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子);メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基等のC1〜4のアルコキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、またはジプロピルアミノ基等のC1〜6のアルキル基で二置換されたジアルキルアミノ基;シアノ基;ニトロ基;アセチル基;及びR1がアラルキル基である場合のベンゼン環に直接結合するアミノ基等が挙げられる。
上記より、R1は、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ドデシル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、シアノメチル基、ニトロメチル基、フルオロエチル基、トリフルオロエチル基、トリクロロエチル基、シアノエチル基、ニトロエチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、またはt−ブトキシエチル基等の置換基を有していても良い、C1〜12直鎖又は分岐鎖アルキル基、C3〜12シクロアルキル基、C4〜14シクロアルキルアルキル基、ベンジル基、フルオロベンジル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基、ヨードベンジル基、メトキシベンジル基、ジメトキシベンジル基、ニトロベンジル基、ジニトロベンジル基、またはシアノベンジル基;及びアミノベンジル基等の置換基を有していても良いC7〜13のアラルキル基であり;特に好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、またはベンジル基である。
以上より、一般式(I)で示されるモノアミン化合物は、n−ヘキシルアミン化合物、n−ドデシルアミン化合物、シクロヘキシルメチルアミン化合物、またはベンジルアミン化合物が特に好ましい。
ジアミン化合物は、一般式(II):
(式中、R3は、置換基を有していてもよい、C1〜20直鎖又は分岐鎖アルキレン基、C1〜4直鎖アルキレン−C3〜20シクロアルキレン−C1〜4直鎖アルキレン基、C1〜4直鎖アルキレン−C6〜20アリーレン−C1〜4直鎖アルキレン基、C3〜20シクロアルキレン基、又はC1〜4直鎖アルキレン−C3〜20シクロアルキレン基であり、m及びpは、互いに独立して、0又は1である)
で示される化合物が好適に使用される。
R3における、置換基を有していてもよいC1〜20直鎖又は分岐鎖アルキレン基は、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−へキシレン基、n−ヘプチレン基、n−オクチレン基、n−ノニレン基、n−デシレン基、またはn−ドデシレン基等の直鎖アルキレン基;または2−メチルプロピレン基、2−メチルへキシレン基、テトラメチルエチレン基等の分岐鎖アルキレン基が挙げられる。C1〜20直鎖アルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、またはドデシレン基がより好ましい。
R3における、置換基を有していてもよいC3〜20シクロアルキレン基は、単環又は多環の炭化水素基であり、C1〜4直鎖アルキル基で置換されていてもよい、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、またはビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,6−ジイル基が挙げられる。C3〜12シクロアルキレン基が好ましく、シクロへキシレン基またはビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,6−ジイル基がより好ましい。
R3における、置換基を有していてもよいC1〜4直鎖アルキレン−C3〜20シクロアルキレン−C1〜4直鎖アルキレン基のC1〜4直鎖アルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、またはブチレン基が挙げられる。C1〜4直鎖アルキレン−C3〜20シクロアルキレン−C1〜4直鎖アルキレン基は、メチレン−シクロペンチレン−メチレン基、エチレン−シクロペンチレン−エチレン基、またはメチレン−シクロへキシレン−メチレン基等が挙げられる。C1〜4直鎖アルキレン−C3〜12シクロヘキシレン−C1〜4直鎖アルキレン基が好ましく、メチレン−シクロヘキシレン−メチレン基がより好ましい。
R3における、置換基を有していてもよいC1〜4直鎖アルキレン−C3〜20シクロアルキレン基は、C1〜4直鎖アルキレン−C1〜4直鎖アルキル基で置換されているC3〜12シクロアルキレン基が好ましく、メチレン−トリメチルシクロヘキシレン基がより好ましい。
R3における、置換基を有していてもよいC1〜4直鎖アルキレン−C6〜20アリーレン−C1〜4直鎖アルキレン基は、C1〜4直鎖アルキレン−フェニレン−C1〜4直鎖アルキレン基が好ましく、キシリレン基がより好ましい。なお、これらの基は各種異性体を含む。
R3における炭化水素基は、さらなる置換基を有していても良い。R3におけるさらなる置換基は、R1における炭化水素基の置換基と同義の基が挙げられる。また、R3が、C1〜4直鎖アルキレン−C6〜20アリーレン−C1〜4直鎖アルキレン基である場合、R3における置換基は、アリーレン基の芳香族炭素原子に直接結合する第1級アミノ基が挙げられる。
以上より、R3は、好ましくはC1〜20直鎖又は分岐鎖アルキレン基、C1〜4直鎖アルキレン−C3〜20シクロアルキレン−C1〜4直鎖アルキレン基、C1〜4直鎖アルキレン−C6〜20アリーレン−C1〜4直鎖アルキレン基、C3〜20シクロアルキレン基、又はC1〜4直鎖アルキレン−C3〜20シクロアルキレン基であり;より好ましくは、C1〜12直鎖アルキレン基、C1〜4直鎖アルキレン−C3〜12シクロアルキレン−C1〜4直鎖アルキレン基、C1〜4直鎖アルキレン−フェニレン−C1〜4直鎖アルキレン基、C3〜12シクロアルキレン基、またはC1〜4直鎖アルキレン−C1〜4直鎖アルキル基で置換されているC3〜12シクロアルキレン基であり;特に好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、シクロヘキシレン基、メチレン−トリメチルシクロヘキシレン基、シクロヘキシレンジメチレン基、またはキシリレン基である。
本発明のジアミン化合物は、ジイソシアネートの原料となるビスカルバメート化合物が得られる化合物が好ましい。本発明において、1,6−ヘキサメチレンジアミン化合物、1,12−ドデカメチレンジアミン化合物、イソホロンジアミン化合物、1,3−ビス(アミノメチルシクロヘキサン)、1,4−ビス(アミノメチルシクロヘキサン)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキサンアミン化合物)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、1,3−ビス(アミノメチル)ベンゼン、1,4−ビス(アミノメチル)ベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
本発明のカーボネート化合物は、一般式(III):
(式中、R2は、置換基を有していても良い炭化水素基を示し、R2は互いに独立して環を形成していても良い。)
で示される化合物が好適に使用される。
一般式(III)において、R2の置換基を有していても良い一価の炭化水素基は、一般式(I)で定義されたR1と同義の基が挙げられる。R2における炭化水素基として、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、またはn−ブチル基等のC1〜20、好ましくはC1〜6直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、特に好ましい基は、メチル基又はエチル基である。
前記R2における炭化水素基は、さらなる置換基を有していても良い。さらなる置換基は、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子);メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、またはブトキシル基等のC1〜4アルコキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、またはジプロピルアミノ基等のC1〜4のアルキル基で二置換されたジアルキルアミノ基;シアノ基;またはニトロ基が挙げられる。
以上より、一般式(III)で示されるカーボネート化合物は、好ましくはジメチルカーボネート化合物又はジエチルカーボネート化合物である。
本発明の反応は、有機溶媒を使用して、又は無溶媒で行なうことができる。有機溶媒は、アミン化合物およびカーボネート化合物を溶解でき、かつ、改変型リパーゼまたはその変異体を失活させない溶媒であれば特に限定されないが、飽和環状炭化水素、不飽和環状炭化水素類、非環状エーテル類またはそれらの混合溶媒が好適である。
飽和環状炭化水素類の溶媒は、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、またはイソプロピルシクロヘキサン等のC5〜10非置換シクロアルカン類;クロロシクロペンタンまたはクロロシクロヘキサン等のハロゲンで置換されたC5〜10シクロアルカン類等が挙げられる。好ましくは、C5〜10非置換シクロアルカン類であり、より好ましくは、シクロヘキサンである。
不飽和環状炭化水素類の溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレンまたはメシチレン等の芳香族炭化水素類;シクロペンテンまたはシクロヘキセン等のC5〜10シクロアルケン類等が挙げられる。好ましくは、芳香族系炭化水素類であり、より好ましくは、トルエンまたはキシレンである。
非環状エーテルは、脂肪族エーテル類、例えばジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、またはジイソプロピルエーテル等のC2〜8ジアルキルエーテル類;シクロペンチルメチルエーテルまたはシクロペンチルエチルエーテル等のC5〜18シクロアルキルアルキルエーテル類;ベンジルフェニルエーテル、ベンジルメチルエーテル、アルキルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、ジ(p−トリル)エーテル、またはジベンジルエーテル等のC7〜18芳香族エーテル類等が挙げられる。好ましくは、脂肪族エーテル類、あるいは芳香族エーテル類であり、より好ましくはジイソプロピルエーテルまたはアニソールである。これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
前記有機溶媒の使用量は、モノアミン化合物又はジアミン化合物1gに対して、好ましくは1〜200mL、より好ましくは1〜50mL、特に好ましくは1〜20mLである。
本発明のカルバメート化反応は、下記反応式(B)および(C)で示されるように、例えば、モノアミン化合物又はジアミン化合物、カーボネート化合物、有機溶媒及び改変型リパーゼまたはその変異体(好ましくは、固定化改変型リパーゼまたはその変異体)を混合して、攪拌しながら反応させる。あるいは固定化改変型リパーゼまたはその変異体を充填したカラムに、モノアミン化合物又はジアミン化合物およびカーボネート化合物を含む有機溶媒を通過させる流通連続式等の方法によって行われる。
流通連続式にて反応を行う場合、反応溶液中のモノアミン化合物又はジアミン化合物の濃度は、反応系の全質量に対して10〜50質量%とすることが好ましい。また、反応液の通液線速度は、好ましくは0.5〜400mm/分、更に1〜200mm/分であるのが好ましい。この通液線速度(mm/分)は、1分間当りの送液量(mm3/分)(又は送液速度(10-3mL/分)ともいう)を充填層断面積(mm2)で除した商で表わされる値をいう。通液線速度を上げることによる充填塔内圧力の増大に伴い、通液が困難となり、耐圧性の高い酵素充填塔が必要となる他に、固定化酵素が塔内圧力増加により破砕される場合が生じることもあるため、通液線速度は400mm/分以下とすることが好ましい。また、生産性の点から通液線速度は1mm/分以上とすることが好ましい。固定化酵素の発現活性は、通液線速度により変化するため、最適な通液線速度を選定して反応条件を決定することで、所望の生産能力、製造コストに見合った反応を行うことができる。反応容器中の反応溶液の流通時間は、30秒〜6時間の範囲とすることができる。
反応式(B):
(式中、R1、R2、m、nは前記と同義である。)
反応式(C):
(式中、R2、R3、m、n、pは前記と同義である。)
本発明の反応における温度は、改変型リパーゼまたはその変異体が失活しない温度であれば特に制限されないが、収率良く、所望のカルバメート化合物を得るために、30℃〜120℃が好ましく、60℃〜90℃がより好ましく、65℃〜90℃が特に好ましい。また、バッチ式反応における反応圧力は、特に制限されないが、常圧下又は減圧下で行なうことが好ましい。バッチ式反応における反応時間は、特に限定されないが0.5時間〜120時間が好ましく、0.5時間〜72時間がより好ましい。
本発明の反応は、使用するそれぞれの改変型リパーゼまたはその変異体の特性に合わせ、これが失活しない範囲にて行うことが望ましい。
本発明は、反応が一般に不均一系であり、触媒再利用が可能かつ後処理が簡便であるが可能であるという点で有利である。即ち、反応終了時にろ過により触媒を取り除き、得られた濾液を濃縮することにより生成物を取得できる。また得られた濾液からの晶析操作によって生成物を得ることもできる。
本発明の反応のために用いられる製造装置は、特に制限されず、例えば、反応容器、加熱(冷却)装置等、一般的な製造装置が挙げられる。本発明の改変型リパーゼまたはその変異体が担体に固定化され、固定床として反応容器に内装されている装置が好ましい。よって、本発明の反応は、モノアミン化合物又はジアミン化合物と、カーボネート化合物とを、該反応容器に通す工程を含む反応であるのが好ましい。
更に、本発明の製造方法によって得られた、一般式(IV):
(式中、R1、R2、nは前記と同義である。)
で示されるモノカルバメート化合物、又は、一般式(V):
(式中、R2、R3、m、pは前記と同義である。)
で示されるビスカルバメート化合物
は、蒸留、分液、抽出、晶析、再結晶及びカラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって、更に精製することも出来る。
エステル交換反応は、下記反応式(D):
(式中、R4、R5、R6は、それぞれ、置換基を有していてもよい、C1〜20直鎖又は分岐鎖アルキル基、C2〜20直鎖又は分岐鎖アルケニル基、C2〜20直鎖又は分岐鎖アルキニル基、C4〜24シクロアルキルアルキル基、C7〜21アラルキル基、又はC3〜20シクロアルキル基である。)
で示されるとおり、アルコール化合物とエステル化合物を反応させた際に、それぞれの主鎖部分が入れ替わる反応を意味する。
エステル交換産物とは、反応前と主鎖部分が入れ替わった、反応後のアルコール化合物とエステル化合物を意味する。好ましくは、反応前と主鎖部分が入れ替わった反応後のエステル化合物を意味する。
アルコール化合物は、一般式(VI):
(式中、R4は、置換基を有していてもよい、C1〜20直鎖又は分岐鎖アルキル基、C2〜20直鎖又は分岐鎖アルケニル基、C2〜20直鎖又は分岐鎖アルキニル基、C4〜24シクロアルキルアルキル基、C7〜21アラルキル基、又はC3〜20シクロアルキル基である)
で示される化合物が好適に使用される。
R4における、置換基を有していてもよいC1〜20直鎖又は分岐鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、またはt−ブチル基等が挙げられる。C1〜12直鎖又は分岐鎖アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ドデシル基、イソプロピル基またはt−ブチル基がより好ましい。
R4における、置換基を有していてもよいC2〜20直鎖又は分岐鎖アルケニル基は、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、またはイソプロパニル基等が挙げられる。C2〜12直鎖又は分岐鎖アルケニル基が好ましく、アリル基がより好ましい。
R4における、置換基を有していてもよいC2〜20直鎖又は分岐鎖アルキニル基は、エチニル基、プロパルギル基、ブテニル基、または1−メチル−2−プロピニル基等が挙げられる。C2〜12直鎖又は分岐鎖アルキニル基が好ましく、エチニル基またはプロパルギル基がより好ましい。
R4における、置換基を有していてもよいC3〜20シクロアルキル基は、C1〜4直鎖アルキル基で置換されていても良い単環又は多環の脂環式炭化水素基であり、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、またはエチルシクロヘキシル基等が挙げられる。C3〜12シクロアルキル基が好ましく、シクロヘキシル基またはビシクロ[2.2.1]ヘプチル基がより好ましい。ここで、C1〜4の直鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、またはn−ブチル基等が挙げられる。
R4における、置換基を有していてもよいC4〜24シクロアルキルアルキル基は、上記で定義されたC3〜20シクロアルキル基で置換されたC1〜4直鎖アルキル基であり、例えばシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、トリメチルシクロヘキシルメチル基、またはノルボルニルメチル基等が挙げられる。C3〜10シクロアルキル基で置換されたC1〜4直鎖アルキル基であるC4〜14シクロアルキルアルキル基が好ましく、シクロヘキシルメチル基がより好ましい。
R4における、置換基を有していてもよいC7〜21アラルキル基は、C6〜20アリール基で置換されたアルキル基が挙げられる。C6〜20アリール基は、単環又は多環の芳香環を有する基であり、フェニル基、ナフチル基、ビフェニルイル基、またはターフェニルイル基(例えば、p−ターフェニル−4−イル基、m−ターフェニル−3−イル基)等が挙げられる。また、アルキル基の炭素原子数は、アラルキル基の炭素原子数から、アリール基の炭素原子数を減じた数である。よって、C7〜21アラルキル基は、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、またはm−ターフェニル−3−イル−メチル基等が挙げられ、C7〜13アラルキル基が好ましく、ベンジル基がより好ましい。なお、R4として挙げられた基は各種異性体を含む。
前記R4として挙げられた基は、さらなる置換基を有していても良い。R4におけるさらなる置換基は、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子);メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基等のC1〜4のアルコキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、またはジプロピルアミノ基等のC1〜6のアルキル基で二置換されたジアルキルアミノ基;シアノ基;ニトロ基;アセチル基;及びR4がアラルキル基である場合のベンゼン環に直接結合するアミノ基等が挙げられる。
上記より、R4は、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ドデシル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、シアノメチル基、ニトロメチル基、フルオロエチル基、トリフルオロエチル基、トリクロロエチル基、シアノエチル基、ニトロエチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、またはt−ブトキシエチル基等の置換基を有していても良い、C1〜12直鎖又は分岐鎖アルキル基、C3〜12シクロアルキル基、C4〜14シクロアルキルアルキル基、ベンジル基、フルオロベンジル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基、ヨードベンジル基、メトキシベンジル基、ジメトキシベンジル基、ニトロベンジル基、ジニトロベンジル基、またはシアノベンジル基;及びアミノベンジル基等の置換基を有していても良いC7〜13のアラルキル基であり;特に好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、またはベンジル基である。
エステル化合物は、一般式(VII):
一般式(VII)において、R6の置換基を有していても良い一価の炭化水素基は、一般式(I)で定義されたR1と同義の基が挙げられる。
好ましくは、R6における炭化水素基として、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、ビニル基、またはn−ブチル基等のC1〜20、好ましくはC1〜6直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、特に好ましい基は、メチル基、エチル基又はビニル基である。
前記R6における炭化水素基は、さらなる置換基を有していても良い。さらなる置換基は、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子);メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、またはブトキシル基等のC1〜4アルコキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、またはジプロピルアミノ基等のC1〜4のアルキル基で二置換されたジアルキルアミノ基;シアノ基;またはニトロ基が挙げられる。
一般式(VII)において、R5の置換基を有していても良い一価の炭化水素基は、一般式(I)で定義されたR1と同義の基が挙げられる。
好ましくは、R5における炭化水素基として、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、ビニル基、またはn−ブチル基等のC1〜20、好ましくはC1〜6直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、特に好ましい基は、メチル基、エチル基又はビニル基である。
前記R5における炭化水素基は、さらなる置換基を有していても良い。さらなる置換基は、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子);メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、またはブトキシル基等のC1〜4アルコキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、またはジプロピルアミノ基等のC1〜4のアルキル基で二置換されたジアルキルアミノ基;シアノ基;またはニトロ基が挙げられる。
以上より、一般式(VII)で示されるエステル化合物は、アクリル酸ビニルや、アクリル酸イソプロペニル等のアクリル酸アルケニルエステルや、メタクリル酸ビニルや、メタクリル酸イソプロペニル等のメタクリル酸アルケニルエステル等が挙げられる。中でも、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニルが好ましい。
本発明の反応は、有機溶媒を使用して、又は無溶媒で行なうことができる。有機溶媒は、アルコール化合物およびエステル化合物を溶解でき、かつ、改変型リパーゼまたはその変異体を失活させない溶媒であれば特に限定されないが、飽和環状炭化水素、不飽和環状炭化水素類、非環状エーテル類またはそれらの混合溶媒が好適である。
飽和環状炭化水素類の溶媒は、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、またはイソプロピルシクロヘキサン等のC5〜10非置換シクロアルカン類;クロロシクロペンタンまたはクロロシクロヘキサン等のハロゲンで置換されたC5〜10シクロアルカン類等が挙げられる。好ましくは、C5〜10非置換シクロアルカン類であり、より好ましくは、シクロヘキサンである。
不飽和環状炭化水素類の溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレンまたはメシチレン等の芳香族炭化水素類;シクロペンテンまたはシクロヘキセン等のC5〜10シクロアルケン類等が挙げられる。好ましくは、芳香族系炭化水素類であり、より好ましくは、トルエンまたはキシレンである。
非環状エーテルは、脂肪族エーテル類、例えばジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、またはジイソプロピルエーテル等のC2〜8ジアルキルエーテル類;シクロペンチルメチルエーテルまたはシクロペンチルエチルエーテル等のC5〜18シクロアルキルアルキルエーテル類;ベンジルフェニルエーテル、ベンジルメチルエーテル、アルキルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、ジ(p−トリル)エーテル、またはジベンジルエーテル等のC7〜18芳香族エーテル類等が挙げられる。好ましくは、脂肪族エーテル類、あるいは芳香族エーテル類であり、より好ましくはジイソプロピルエーテルまたはアニソールである。これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
前記有機溶媒の使用量は、アルコール化合物1gに対して、好ましくは1〜200mL、より好ましくは1〜50mL、特に好ましくは1〜20mLである。
本発明のエステル交換反応は、反応式(D)で示されるように、アルコール化合物、エステル化合物、有機溶媒及び改変型リパーゼまたはその変異体(好ましくは、固定化改変型リパーゼまたはその変異体)を混合して、攪拌しながら反応させる。あるいは固定化改変型リパーゼまたはその変異体を充填したカラムに、アルコール化合物およびエステル化合物を含む有機溶媒を通過させる流通連続式等の方法によって行われる。
流通連続式にて反応を行う場合、反応溶液中のアルコール化合物の濃度は、反応系の全質量に対して10〜50質量%とすることが好ましい。また、反応液の通液線速度は、好ましくは0.5〜400mm/分、更に1〜200mm/分であるのが好ましい。この通液線速度(mm/分)は、1分間当りの送液量(mm3/分)(又は送液速度(10-3mL/分)ともいう)を充填層断面積(mm2)で除した商で表わされる値をいう。通液線速度を上げることによる充填塔内圧力の増大に伴い、通液が困難となり、耐圧性の高い酵素充填塔が必要となる他に、固定化酵素が塔内圧力増加により破砕される場合が生じることもあるため、通液線速度は400mm/分以下とすることが好ましい。また、生産性の点から通液線速度は1mm/分以上とすることが好ましい。固定化酵素の発現活性は、通液線速度により変化するため、最適な通液線速度を選定して反応条件を決定することで、所望の生産能力、製造コストに見合った反応を行うことができる。反応容器中の反応溶液の流通時間は、30秒〜6時間の範囲とすることができる。
本発明の反応における温度は、改変型リパーゼまたはその変異体が失活しない温度であれば特に制限されないが、収率良く、所望のエステル交換産物を得るために、30℃〜120℃が好ましく、60℃〜90℃がより好ましく、65℃〜90℃が特に好ましい。また、バッチ式反応における反応圧力は、特に制限されないが、常圧下又は減圧下で行なうことが好ましい。バッチ式反応における反応時間は、特に限定されないが0.5時間〜120時間が好ましく、0.5時間〜72時間がより好ましい。
本発明の反応は、使用するそれぞれの改変型リパーゼまたはその変異体の特性に合わせ、これが失活しない範囲にて行うことが望ましい。
本発明は、反応が一般に不均一系であり、触媒再利用が可能かつ後処理が簡便であるが可能であるという点で有利である。即ち、反応終了時にろ過により触媒を取り除き、得られた濾液を濃縮することにより生成物を取得できる。また得られた濾液からの晶析操作によって生成物を得ることもできる。
本発明の反応のために用いられる製造装置は、特に制限されず、例えば、反応容器、加熱(冷却)装置等、一般的な製造装置が挙げられる。本発明の改変型リパーゼまたはその変異体が担体に固定化され、固定床として反応容器に内装されている装置が好ましい。よって、本発明の反応は、アルコール化合物とエステル化合物とを、該反応容器に通す工程を含む反応であるのが好ましい。
更に、本発明の製造方法によって得られたエステル交換産物は、蒸留、分液、抽出、晶析、再結晶及びカラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって、更に精製することも出来る。
本発明の製造方法にて得られるモノカルバメート化合物、ビスカルバメート化合物またはエステル交換産物は、本発明の改変型リパーゼまたはその変異体を使用して製造される。このため、従来のカルバメート化合物またはエステル交換産物の製造方法において起こりうる、製品への金属塩又はハロゲン化物等の不純物混入の可能性は極めて低く、化学的により安全な製品が得られる。
カルバメート化反応またはエステル交換反応における、本発明の改変型リパーゼまたはその変異体の使用は、本発明の改変型リパーゼまたはその変異体によってカルバメート化反応またはエステル交換反応が行われることを意味する。改変型リパーゼまたはその変異体は、固定化されているものが好ましい。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
Candida antarctica由来リパーゼB(野生型、配列番号1)の酵母による発現
1)酵母インベルターゼ(SUC2)由来シグナル配列(配列番号6)をコードするDNA断片の増幅
SUC2由来シグナル配列(配列番号6の核酸配列および配列番号7のアミノ酸配列)を酵母発現用ベクターにクローニングするために、以下の二種類のプライマー、すなわちSUC2-F(配列番号8):5'-gggaatattaagcttggtaccatgcttttgcaagctttccttttc-3'(下線なし部はpYES2/CTベクターに相同な配列、下線部はSUC2シグナル配列のN末端側をコードする塩基配列)およびSUC2-R(配列番号9:5'-tgctggatatctgcagaattctgcagatattttggctgcaaaac-3'(下線なし部はpYES2/CTベクターに相同な配列、下線部はSUC2シグナル配列のC末端側をコードする塩基配列)を用いてPCRにてDNA断片の増幅を行った。Saccharomyces serevisiae S288C株(Open Biosystems社製)の染色体DNAを鋳型として、KOD Plus(東洋紡社製)を用いて94℃ 5分加熱した後、94℃ 15秒、54℃ 30秒、68℃ 18秒のサイクルを30回行った。プライマーなどオリゴヌクレオチドは、株式会社ファスマックから入手した。
2)pYES2/CTベクターの制限酵素による線状化
pYES2/CTベクター(Invitrogen社製)をGAL1プロモーター下流の位置で制限酵素Kpn I(東洋紡社製)で切断した(37℃、5時間)。切断されたDNA断片はQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。KpnI切断後のDNA断片をさらに制限酵素EcoR I(東洋紡社製)で切断し(37℃、16時間)、DNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。これにより線状化されたpYES2/CTベクターを得た。
3)SUC2由来シグナル配列をコードするDNA断片のベクターへのクローニング
1)で得られたPCR産物5μLに、相同配列を利用したクローニング法であるIn-Fusion Advantage PCR Cloning Kit w/Cloning Enhancer(クロンテック社製)に添付のCloning Enhancerを2μL加え、37℃、15分の処理後、80℃、15分の処理を行い、Cloning Enhancer処理PCR産物を得た。得られたCloning Enhancer処理PCR産物と2)で得られた線状化されたpYES2/CTベクターをキットに添付の方法に従って反応した(37℃、15分の反応後、50℃、15分の反応)。反応後、TE緩衝液を40μL加えて希釈後、液の一部(2.5μL)を用いてECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列(配列番号6)であることを確認した。得られたSUC2由来シグナル配列が導入されたベクターをpYES2/CT-SUC2sigと称す。
4)Candida antarctica由来リパーゼB遺伝子(配列番号5)をコードするDNA断片の増幅
Candida antarctica由来リパーゼB(CALB)遺伝子(配列番号5)をコードするDNA断片を発現ベクターであるpYES2/CT-SUC2sigにクローニングするために、以下の二種類のプライマー、SUC2-mCALBf(配列番号10):5'-gccaaaatatctgcactaccttccggttcggac-3'(下線なし部はSUC2シグナル配列のC末端側をコードする塩基配列に相同な配列、下線部は成熟型CALBのN末端側をコードする塩基配列)およびCalBterminal-r(配列番号11):5'-cttaccttcgaagggccctctagactcgagtcagggggtgacgatg-3'(下線なし部はpYES2/CT-SUC2sigに相同な配列、下線部は成熟型CALBのC末端側をコードする塩基配列)を用いてPCRにてDNA断片の増幅を行った。CALB遺伝子((株)タカラバイオにおいて配列番号5の配列のDNAをオーダーメイドにて合成し、クローニングされたプラスミドを購入した)がクローニングされたベクターを鋳型として、KOD Plus(東洋紡社製)を用いて94℃ 2分加熱した後、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 60秒のサイクルを30回行った。
5)pYES2/CT-SUC2sigベクターの制限酵素による線状化
pYES2/CT-SUC2sigベクターを制限酵素EcoR I(東洋紡社製)で切断した(37℃、15時間)。切断されたDNA断片はQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。EcoR I切断後のDNA断片をさらに制限酵素Xba I(東洋紡社製)で切断し(37℃、16時間)、DNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。これにより線状化されたpYES2/CT-SUC2sigベクターを得た。
6)Candida antarctica由来リパーゼB遺伝子のpYES2/CT-SUC2sigベクターへのクローニング
4)で得られたPCR産物5μLに、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit w/Cloning Enhancer(クロンテック社製)に添付のCloning Enhancerを2μL加え、37℃、15分の処理後、80℃、15分の処理を行い、Cloning Enhancer処理PCR産物を得た。得られたCloning Enhancer処理PCR産物と5)で得られた線状化されたpYES2/CT-SUC2sigベクターをキットに添付の方法に従って反応した(37℃、15分の反応後、50℃、15分の反応)。反応後、TE緩衝液を40μL加えて希釈後、液の一部(2.5μL)を用いてECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列(配列番号5)であることを確認した。得られたSUC2由来シグナル配列が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALBと称す(図1)。
7)pYES2CT/SUC2sig/mCALBベクターによる酵母の形質転換及び野生型CALB発現
酵母への形質転換は、S. cerevisiae Direct Transformation Kit Wako(和光純薬社製)を用いて、キット説明書に従って行った。酵母S. cerevisiae BY4742株(Open Biosystems,Inc.より購入)を、OD600=0.01になるようにYPD液体培地(1% yeast extract, 2% peptone, 2% glucose)で懸濁し、1mLを30℃、180rpmで27.5時間培養した。形質転換液(キット付属のSc Transformation Reagent 20μlにキット付属Carrier DNA 2μlと、プラスミドDNA 1μgを加えたもの)を調製し、42℃で2時間保温した。pYES2CT/SUC2sig/mCALBベクターと酵母培養液を含む混合液を調製し、形質転換を行った。形質転換液をSC-Ura寒天培地(0.67% yeast nitrogen base (アミノ酸不含)、2% グルコース、0.01% (adenine, arginine, cysteine, leucine, lysine, threonine, tryptophan)、0.005% (aspartic acid, histidine, isoleucine, methionine, phenylalanine, proline, serine, tyrosine, valine)、2% agar、pH 5.6)に塗布後、30℃で3日間培養し、形質転換された酵母コロニーを取得した。
pYES2CT/SUC2sig/mCALBベクターを保有する形質転換酵母を5mLのSC-Ura液体培地に接種し、30℃、200rpmで16時間培養した。得られた前培養液を100mLの発現用YPD液体培地(1% yeast extract, 4% peptone, 2% glucose)に加え、500mLの坂口フラスコを用いて20℃、130rpmで3日間培養した。YG溶液(20% yeast extract, 40% galactose)を2mL加え、そのまま20℃、130rpmで3日間培養した。培養液を遠心分離後、上清を回収し、培養上清中の酵素活性(エステル化合物分解活性)を下記に示す方法にて測定した。
560μLの基質溶液(50mM Tris-HCl, 1% DMSO, 2.1mM p-nitrophenyl butyrate, pH7.0)をセルに入れて25℃で3分間プレインキュベーションした。次に培養上清を140μLを加えて撹拌し、405nmの吸光度を経時的に分光光度計で測定し、反応の初速を算出した。その結果、pYES2CT/SUC2sig/mCALBベクターを保有する形質転換酵母に高いエステル化合物分解活性が確認された(図2)。
8)リパーゼの精製
10mLのSC-Ura液体培地に菌を接種し、30℃、180rpmで一晩(16時間)振とう培養した。2Lのバッフルフラスコに準備したYPD培地(1% yeast extract, 4% tryptone, 2% glucose)500mLに前培養液10mLを加え、30℃、95rpmで8時間振とう培養した。20% yeast extract 25mL及び40% galactose 25mLを添加し、20℃、95rpmで3日間(約72時間)振とう培養し、発現を誘導した。遠心分離(8000g、10分間)により培養上清を回収後、20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で平衡化したButyl-TOYOPEARL 650M(東ソー製)に培養上清を通し、リパーゼを担体に吸着させた。同緩衝液で洗浄後、50%(v/v) EtOHを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)でリパーゼを溶出した。溶出液を20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で平衡化したSuperQ-650S(東ソー製)に通し、素通りした溶液を回収した。
リパーゼを含む溶液を遠心式限外ろ過フィルター(Amicon(登録商標) Ultra-15 Centrifugal Filter Devices、10000MWCO、Millipore製)を用いて1.0mLまで濃縮後、20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)を10mL加えて混合し、さらに1.0mLまで濃縮した。この操作を計3回実施し、溶媒を緩衝液に置換したリパーゼ濃縮液を得た。20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で平衡化したSuperQ-650S(東ソー製)にリパーゼ濃縮液を通し、素通りした溶液を精製リパーゼ溶液とした。
9)リパーゼ固定化酵素の調製
担体としてイオン交換樹脂のLewatitt VPOC 1600(LANXESS社製)0.60gを試験管に準備し、3mLのエタノールを加えて撹はん後、ピペットを用いてエタノールを除去した。蒸留水を3mL加えて撹はん後、同様に水を除去した。水洗浄をさらに2回行い、1.5mg/mLの精製リパーゼ溶液6mL(20mM Tris-HCl緩衝液、pH7.0)に加え、10℃、180rpmで19時間撹はんした。溶液と担体を分離後、回収した担体を3mLの蒸留水で洗浄後、16時間の減圧乾燥を行い、担体重量比担持酵素量3wt%の固定化酵素を取得した。
固定化処理前後で、リパーゼ溶液中のタンパク質濃度をBCA法(基準タンパクBSA)により測定し、固定化処理により減少したタンパク量を担体への固定化タンパク量として、取得固定化酵素重量で除したものを酵素担持量とした。
Q193E改変型リパーゼ(配列番号2)の作製
1)Q193E変異の導入
Q193E改変型リパーゼを構築するために、pYES2CT/SUC2sig/mCALBベクターに対して部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、CalB-Q193E-F(配列番号12):5'-CCTGAGGTGTCCAACTCGCCACTCGACTCATCCTAC-3'(下線部はQ193E変異に相当する配列)およびCalB-Q193E-R(配列番号13):5'-CTGAACGATCTCGTCGGTCGC-3'と鋳型としてpYES2CT/SUC2sig/mCALBベクターを用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについて塩基配列を分析し、目的の配列(配列番号14)であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193Eと称す。
2)酵母形質転換、Q193E改変型リパーゼの発現、精製及び固定化酵素の調製
実施例1の7)〜9)に記載の方法と同様に行った。
W104F改変型リパーゼ(配列番号3)の作製
1)W104F変異の導入
W104F改変型リパーゼを構築するために、pYES2CT/SUC2sig/mCALBベクターに対して部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、CalB-W104F-F(配列番号15):5'-ACCTTTTCCCAGGGTGGTCTGGTTGCACAG-3'下線部はW104F変異に相当する配列)およびCalB-W104F-R(配列番号16):5'-GAGCACGGGAAGCTTGTTGTTG-3'と鋳型としてpYES2CT/SUC2sig/mCALBベクターを用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについて塩基配列を分析し、目的の配列(配列番号17)であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-W104Fと称す。
2)酵母形質転換、W104F改変型リパーゼの発現、精製及び固定化酵素の調製
実施例1の7)〜9)に記載の方法と同様に行った。
W104F/Q193E改変型リパーゼ(配列番号4)の作製
1)W104F/Q193E変異の導入
W104F/Q193E改変型リパーゼを構築するために、pYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193Eベクターに対して部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、CalB-W104F-F(配列番号15)およびCalB-W104F-R(配列番号16)と鋳型としてpYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193Eベクターを用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについて塩基配列を分析し、目的の配列(配列番号18)であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-W104F/Q193Eと称す。
2)酵母形質転換、W104F/Q193E改変型リパーゼの発現、精製及び固定化酵素の調製
実施例1の7)〜9)に記載の方法と同様に行った。
改変型リパーゼ(W104F、Q193E、W104F/Q193E)を用い、カーボネート化合物とモノアミン化合物であるn−ヘキシルアミンからのカルバメート化合物合成活性を評価した。
攪拌装置、温度調節及び上部冷却装置を備えた内容積約19mlのガラス製容器に、n−ヘキシルアミン200mg(1.97mmol)、炭酸ジメチル0.536g(5.95mmol)、内部標準物質として、テトラエチレングリコールジメチルエーテル20.0mgを加えた後トルエンを加えて2.0mlに定容した反応液に、実施例1〜4で調製した固定化リパーゼ(担持酵素量3wt%)10.0mgを混合し、攪拌しながら70℃にて24時間反応させた。反応中、経時的に反応液50μlを採取し、150μlメタノールを加えたものをろ過し、1.0μlをガスクロマト分析に供した(図3A)。反応収率は、生成物標準品と内標比の検量線から、生成物量を定量して算出した。
ガスクロマト分析条件
カラム:DB-5 30m×0.25mmID 0.25μm
カラム温度:80℃(2min)→10℃/min→250℃(2min)
INJ:200℃ DET:FID at 250℃
Carrier Gas :He、線速度30cm/sec
Sprit ratio 50:1、注入量: 1.0μ
保持時間:テトラエチレングリコールジメチルエーテル:12.3min,
n-ヘキシルアミン:3.15min
n-ヘキシルカーバメート:8.84min
上記表1および図3Bに示すとおり、Q193E改変型リパーゼは、野生型リパーゼと比較して、カルバメート化合物の合成活性が約1.5倍向上した(反応時間3、6、8h)。一方、W104F改変型リパーゼは、野生型リパーゼとほぼ同等の活性であった。驚くべきことに、W104F/Q193E改変型リパーゼでは、野生型リパーゼと比較して、カルバメート化合物の合成活性が約2.0倍向上した(反応時間3、6、8h)。
改変型リパーゼ(W104F、Q193E、W104F/Q193E)を用い、カーボネート化合物とジアミン化合物である1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3−BAC)からのカルバメート化合物合成活性を評価した。
攪拌装置、温度調節及び上部冷却装置を備えた内容積約19mlのガラス製容器に、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3−BAC)200mg(1.41mmol)、炭酸ジメチル760mg(8.43mmol)、内部標準物質として、テトラデカン20.0mgを加えた後トルエンを加えて2.0mlに定容した反応液に実施例1〜4で調製した固定化リパーゼ(担持酵素量3wt%)10.0mgを混合し、攪拌しながら70℃にて48時間反応させた。反応中、経時的に反応液50μlを採取し、150μlDMFを加えたものをろ過し、1.0μlをガスクロマト分析に供した。反応収率は、生成物標準品と内標比の検量線から、生成物量を定量して算出した。
ガスクロマト分析条件
カラム:DB-5 30m×0.25mmID 0.25μm
カラム温度:80℃(2min)→10℃/min→250℃(2min)
INJ:200℃ DET:FID at 250℃
Carrier Gas:He、線速度30cm/sec
Sprit ratio 50:1、注入量:1.0μ
保持時間:テトラデカン:11.0min,
1,3BAC-モノカルバメート(異性体混合物):14.9min,
1,3BAC-ジカルバメート(異性体混合物):18.9,19.2min,
上記表2および図4に示すとおり、Q193E改変型リパーゼは、野生型リパーゼと比較して、カルバメート化合物の合成活性が約1.5倍向上した(反応時間24、48h)。一方、W104F改変型リパーゼは、本基質に対しては、野生型リパーゼと比べて合成活性がやや低下した。驚くべきことに、W104F/Q193E改変型リパーゼでは、野生型リパーゼと比較して、カルバメート化合物の合成活性が約2.0倍向上した(反応時間24、48h)。
改変型リパーゼ(W104F、Q193E、W104F/Q193E)を用い、カーボネート化合物とジアミン化合物である1,12−ジアミノドデカンからのカルバメート化合物合成活性を評価した。
攪拌装置、温度調節及び上部冷却装置を備えた内容積約19mlのガラス製容器に、1,12−ジアミノドデカン200mg(1.0mmol)、炭酸ジメチル540mg(6.0mmol)を加えた後トルエンを加えて2.0mlに定容した反応液に実施例1〜4で調製した固定化リパーゼ(担持酵素量3wt%)10mgを混合し、攪拌しながら70℃にて44時間反応させた。反応中、経時的に反応液50μlを採取し、反応停止のために150μlメタノールを加えた。次いで、遠心濃縮器にて減圧濃縮した後、メタノール1.0mlを加え溶解させたのち、0.45μmフィルターでろ過してHPLC分析に供した。反応収率は、あらかじめ生成物標準品のピーク面積から作製した検量線より、生成物量を定量して算出した。
HPLC分析条件
Column:Inertsil ODS-3V 4.6mm×250 mm(GLScienceInc)
Mobile Phase:MeOH/H2O(20mM KH2PO4, pH7.0) =70/30
Flow Rate:1.0ml/min
Detecter:RI
Column Temp:40℃
Injection Vol. 10μl
保持時間:DMD-ジカルバメート:17.4min,
上記表3および図5に示すとおり、Q193E改変型リパーゼは、野生型リパーゼと比較して、ジカルバメート化合物の合成活性が約2倍向上した(反応時間20、44h)。一方、W104F改変型リパーゼは、本基質に対しては、野生型リパーゼと比べて合成活性がやや低下した。驚くべきことに、W104F/Q193E改変型リパーゼでは、Q193E改変型リパーゼと比較して、ジカルバメート化合物の合成活性が上回った。
改変型リパーゼ(W104F、Q193E、W104F/Q193E)を用い、カーボネート化合物とジアミン化合物であるキシリレンジアミン(XDA)からのカルバメート化合物合成活性を評価した。
攪拌装置、温度調節及び上部冷却装置を備えた内容積約19mlのガラス製容器に、キシリレンジアミン化合物200mg(1.46mmol)、炭酸ジメチル0.79g(8.81mmol)、内部標準物質として、テトラデカン20.0mgを加えた後トルエンを加えて2.0mlに定容した反応液に、実施例1〜4で調製した固定化リパーゼ(担持酵素量3wt%)10mgを混合し、攪拌しながら70℃にて24時間反応させた。反応中、経時的に反応液50μlを採取し、150μlDMFを加えたものをろ過し、1.0μlをガスクロマト分析に供した。反応収率は、生成物標準品と内標比の検量線から、生成物量を定量して算出した。
ガスクロマト分析条件
カラム:DB-5 30m×0.25mmID 0.25μm
カラム温度:80℃(2min)→10℃/min→250℃(2min)
INJ:200℃ DET:FID at 250℃
Carrier Gas :He、線速度30cm/sec
Sprit ratio 50:1、注入量: 1.0μ
保持時間:テトラデカン:11.0min,
XDA-モノカルバメート:15.5min,
XDA-ジカルバメート:19.6min,
上記表4および図6に示すとおり、ジアミン化合物としてキシリレンジアミン化合物を基質とした場合、野生型と比較して、Q193E改変型リパーゼとW104F改変型リパーゼのジカルバメート化合物の合成活性は、3倍程度向上し、さらに2重改変体であるW104F/Q193E改変型リパーゼでは、野生型リパーゼと比較して5倍以上の活性の向上が認められた。
Q193D(配列番号19および35)、L278R(配列番号21および37)、L278K(配列番号22および38)及びA283V(配列番号60および61)改変型リパーゼの合成
1)改変の導入
各改変型リパーゼを構築するために、実施例1で作成したpYES2CT/SUC2sig/mCALBベクター(図1)に対して部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
下表5に記載のプライマー(下線部は変異に相当する配列)を用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。
反応液20 μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard(R) Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列であることを確認した。改変が導入されたベクターをそれぞれpYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193D、pYES2CT/SUC2sig/mCALB-L278R、pYES2CT/SUC2sig/mCALB-L278K及びpYES2CT/SUC2sig/mCALB-A283Vと称す。
2)酵母形質転換、Q193D、L278R、L278K及びA283V改変型リパーゼの発現、精製及び固定化酵素の調製
実施例1に記載の方法と同様に行った。
Q193E/L278R改変型リパーゼ(配列番号23および39)の合成
1)変異の導入
Q193E/L278R改変型リパーゼを構築するために、実施例2で作成したpYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193Eベクターに対して部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、すなわちCalB-L278Rf(配列番号53):5'-CTCAGGGCGCCGGCGGCTGCAGCCATCGTG-3’(下線部はL278R変異に相当する配列)およびCalB-L278r(配列番号54):5'-CGCAGCCGCGGCGACCTTTTGCTC-3’を用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard(R) Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193E/L278Rと称す。
2)酵母形質転換、Q193E/L278R改変型リパーゼの発現、精製及び固定化酵素の調製
実施例1に記載の方法と同様に行った。
Q193E/W104F/L278K改変型リパーゼ(配列番号28および44)の合成
1)改変の導入
改変型リパーゼを構築するために、まず実施例9で作成したpYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193Eベクターに対してL278K部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、すなわちCalB-L278Kf(配列番号55):5'- CTCAAGGCGCCGGCGGCTGCAGCCATCGTG-3'(下線部はL278K変異に相当する配列)およびCalB-L278r(配列番号56):5'-CGCAGCCGCGGCGACCTTTTGCTC-3'を用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。
反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50 μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50 μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard(R) Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193E/L278Kと称す。
次に、W104F変異を導入するために、pYES2CT/SUC2sig/mCALB-Q193E/L278Kベクターに対して部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、すなわちCalB-W104Ff(配列番号15):5'-ACCTTTTCCCAGGGTGGTCTGGTTGCACAG-3’(下線部はW104F変異に相当する配列)およびCalB-W104r(配列番号16):5'-GAGCACGGGAAGCTTGTTGTTG-3’を用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。
反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard(R) Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-W104F/Q193E/L278Kと称す。
2)酵母形質転換、W104F/Q193E/L278K改変型リパーゼの発現、精製及び固定化酵素の調製
実施例1に記載の方法と同様に行った。
Q193D/W104F/L278K改変型リパーゼ(配列番号30および46)の合成
1)改変の導入
改変型リパーゼを構築するために、まず実施例9で作成したpYES2CT/SUC2sig/mCALB-L278Kベクターに対してW104F部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、すなわちCalB-W104Ff(配列番号15):5'-ACCTTTTCCCAGGGTGGTCTGGTTGCACAG-3’(下線部はW104F変異に相当する配列)およびCalB-W104r(配列番号16):5'-GAGCACGGGAAGCTTGTTGTTG-3’を用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。
反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8 μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard(R) Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-W104F/L278Kと称す。
次に、Q193D変異を導入するために、pYES2CT/SUC2sig/mCALB-W104F/L278Kベクターに対して部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、すなわちCalB-Q193Df(配列番号51):5'- CCTGACGTGTCCAACTCGCCACTCGACTCATCCTAC-3’(下線部はQ193D変異に相当する配列)およびCalB-Q193r(配列番号52):5'-CTGAACGATCTCGTCGGTCGC-3’を用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。
反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50 μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard(R) Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-W104F/Q193D/L278Kと称す。
2)酵母形質転換、W104F/Q193D/L278K改変型リパーゼの発現、精製及び固定化酵素の調製
実施例1に記載の方法と同様に行った。
Q193E/W104F/L278R/A283V変異型リパーゼ(配列番号31および47)の合成
1)改変の導入
各改変型リパーゼを構築するために、実施例4で作成したpYES2CT/SUC2sig/mCALB-W104F/Q193Eベクターに対して部位変異導入を行った。部位変異導入はKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用い、添付マニュアル記載の方法に従って変異導入操作を行った。
以下の二種類のプライマー、すなわちCalB-L278R/A283Vf(配列番号59):5'-CTCAGGGCGCCGGCGGCTGTAGCCATCGTG-3'(下線部はそれぞれL278R変異およびA283V変異に相当する配列)およびCalB-L278r(配列番号54):5'-CGCAGCCGCGGCGACCTTTTGCTC-3'を用いて変異導入反応(94℃ 2分加熱した後、98℃ 10秒、68℃ 7分のサイクルを10回)を行った。反応液20μLに制限酵素Dpn Iを0.8μL加え、37℃で4時間反応した。この操作で得られた反応液の一部(5μL)を用い、ECOS E. coli DH5αコンピテントセル(ニッポンジーン社製)50μLを形質転換した。形質転換液全量を50μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーから菌を単離し、50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地にて16時間培養後、プラスミドをWizard(R) Plus Minipreps DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて抽出した。
得られたプラスミドについては塩基配列を分析し、目的の配列であることを確認した。変異が導入されたベクターをpYES2CT/SUC2sig/mCALB-W104F/Q193E/L278R/A283Vと称す。
2)酵母形質転換、W104F/Q193E/L278R/A283V改変型リパーゼの発現、精製及び固定化酵素の調製
実施例1に記載の方法と同様に行った。
実施例9から13で調製した改変型リパーゼ(W104F/Q193E/L278R/A283V、W104F/Q193D/L278K、W104F/Q193E/L278K、Q193E/L278R、L278R、L278K、Q193D、A283V)を用い、実施例5と同様にカーボネート化合物(炭酸ジメチル)とモノアミン化合物(n−ヘキシルアミン化合物)からのカルバメート化合物合成活性を評価した。
結果
野生型〜W104F/Q193Eは、比較のために実施例5の表1のデータを記載した。
上記表6および図7に示すとおり、W104F/Q193E/L278R/A283V、W104F/Q193D/L278K、W104F/Q193E/L278K、Q193E/L278R改変型リパーゼは、Q193E改変型リパーゼより、反応3、6、8時間における収率が有意に高く、さらなる反応速度の向上が認められた。
W104F/Q193E/L278R/A283V改変型リパーゼの反応3時間における収率は、野生型リパーゼと比較して、約4倍高い。
実施例9から13で調製した改変型リパーゼ(W104F/Q193E/L278R/A283V、W104F/Q193D/L278K、W104F/Q193E/L278K、Q193E/L278R、L278R、L278K、Q193D、A283V)を用い、実施例6と同様にカーボネート化合物とジアミン化合物である1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3−BAC)のカルバメート化合物合成活性を評価した。但し、実験条件が、以下の点で異なる。
実施例6では、2.0重量%の水分を含む1,3−BACを用いたのに対して、実施例14では、0.03重量%の水分を含む1,3−BACを用いた。なお、水分の測定はカールフィッシャー水分計による。
上記表7に示すとおり、W104F/Q193E/L278R/A283V、W104F/Q193D/L278K、W104F/Q193E/L278K、Q193E/L278R改変型リパーゼは、Q193E改変型リパーゼより、収率が有意に高く、さらなる反応速度の向上が認められた。特に、Q193E/L278R改変型リパーゼにおける収率および反応速度の向上は著しい。
実施例9から13で調製した改変型リパーゼ(W104F/Q193E/L278R/A283V、W104F/Q193D/L278K、W104F/Q193E/L278K、Q193E/L278R、L278R、L278K、Q193D、A283V)を用い、実施例8と同様にカーボネート化合物とジアミン化合物であるキシリレンジアミン(XDA)からのカルバメート化合物合成活性を評価した。
結果
野生型〜W104F/Q193Eは、比較のために実施例8の表4のデータを記載した。
上記表8に示すとおり、W104F/Q193E/L278R/A283V、W104F/Q193D/L278K、W104F/Q193E/L278K、Q193E/L278R改変型リパーゼは、Q193E改変型リパーゼより、活性の向上が認められた。しかし、W104F/Q193E/L278R/A283V とW104F/Q193E 改変型リパーゼが最も高かった。基質によって、最適な改変型リパーゼは異なることが示された。
実施例9から13で調製した改変型リパーゼ(W104F/Q193E/L278R/A283V、W104F/Q193D/L278K、W104F/Q193E/L278K、Q193E/L278R、L278R、L278K、Q193D、A283V)を用い、エステル化合物とアルコール化合物からのエステル交換活性を評価した。
攪拌装置、温度調節及び上部冷却装置を備えた内容積約19mlのガラス製容器に、n−ブタノール200mg(2.69mmol)、酢酸ビニル0.463g(5.38mmol)、内部標準物質として、テトラエチレングリコールジメチルエーテル20.0mgを加えた後トルエンを加えて2.0mlに定容した反応液に実施例1および実施例9から13で調製した固定化リパーゼ(担持酵素量3wt%)10.0mgを混合し、攪拌しながら30℃にて3時間反応させた。反応中、経時的に反応液50μlを採取し、150μlアセトンを加えたものをろ過し、1.0μlをガスクロマト分析に供した。
反応収率は、生成物標準品と内標比の検量線から、生成物量を定量して算出した。
ガスクロマト分析条件
GC Analysis(GC-1700)
カラム:DB-1701 30m×0.25mmID 0.25μm
Oven:40℃(2min)→10℃/min→250℃(2min)
INJ:Sprit at 250℃ DET:FID 250℃
Carrier Gas:He
線速度30cm/sec
Sprit ratio 50:1
注入量 : 1.0μ
保持時間:テトラエチレングリコールジメチルエーテル:17.3min,
n-ブチルアミン:3.2min
プロピオン酸ブチル:5.6min
上記表9に示すとおり、Q193E/L278R、L278R、L278K改変型リパーゼは、野生型リパーゼより、顕著な反応速度の向上が認められた。