JP5953575B2 - 全固体アルカリ燃料電池用電解質膜 - Google Patents

全固体アルカリ燃料電池用電解質膜 Download PDF

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Description

本発明は、層状複水酸化物からなる全固体アルカリ燃料電池用電解質膜及びそれを用いた全固体アルカリ燃料電池に関する。
二酸化炭素の効率的な排出抑制・削減にむけて、高性能で低コストの革新的な燃料電池の開発が望まれている。その中で、実用化にむけて最も精力的に検討されている固体高分子形燃料電池(PEFC)には、Pt触媒、パーフルオロスルホン酸系のプロトン伝導体が用いられている。燃料電池の普及を進めていくためには、高効率化、低コスト化が大きな課題であり、例えばPt触媒の使用量の低減、あるいは高活性化、また、非Pt系触媒の開発が盛んに行われている。このような中で、PEFCには長期間運転におけるPt触媒の溶解の問題があり、白金に代わる触媒を開発する上でも、電解質が酸性であることは大きな障害となっている。したがって、塩基性の電解質を用いた燃料電池の開発に期待が寄せられている。
一方、KOHなどのアルカリ水溶液を電解液に用いるアルカリ燃料電池(AFC)は、アルカリ性の電解質を用いることによって、安価なニッケルや銀をアノード触媒に用いることができることや、Pt触媒を用いたカソードでの酸素の還元反応が容易に起こること、多様な燃料を使用可能であること、という点でPEFCよりも優れた性質を有する。しかし、アルカリ金属水酸化物の電解液を用いたAFCでは、燃料ガスや空気中のCO2と水酸化物イオンの反応により炭酸イオンが生成し、電解質中のアルカリ金属イオンと金属炭酸塩を形成することによる性能の劣化が大きな問題である。
そこで近年、アニオン交換膜を用いたアルカリ燃料電池(図9)の検討が進められている。アニオン交換膜はアルカリ金属イオンを有しないことから金属炭酸塩は形成されず、この膜を電解質に用いた燃料電池は、燃料や空気中の炭酸ガスの影響を受けずに作動することが期待できる。しかし、有機高分子をベースとする膜の場合には、塩基による加水分解などによる劣化の問題が生じることが考えられ、化学的耐久性、耐熱性、機械的特性の改善などが盛んに検討されている。
本発明者らは、これまでに、水酸化物イオン伝導性無機固体材料(「層状複水酸化物」(Layered Double Hydroxide;以下、「LDH」ともいう)を創製し、これを用いた全固体アルカリ燃料電池を提案している(特許文献1)。粉末として得られるMg-Al系LDHをペッレット成形した試料(直径約1cm、厚さ約0.3mm)は、室温、相対湿度80%で約1×10-3Scm-1を示し、水蒸気濃淡電池の起電力の測定結果から、導電種が水酸化物イオン(OH-)であることを見出した。また、この電解質の両面に触媒層を形成したところ、アルカリの燃料電池として動作することを確認した。
国際公開第WO2010/109670号
しかしながら、この無機固体電解質は長寿命・高耐久性が期待できるが、燃料電池の電解質膜として実用化するためには、十分な出力を安定して得るために、電解質膜の緻密化、薄膜化あるいは大面積化が必須である。しかし、現状では大面積化しようとした場合に機械的強度が不十分である。また、薄膜化した場合には燃料ガスが透過する結果、電池の発電能力及び効率が低下するといった問題がある。
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、層状複水酸化物からなる薄膜化固体電解質膜及びそれを用いた全固体アルカリ燃料電池を提供するものである。
本発明は、層状複水酸化物:[M2+ 1-x3+ x(OH)2]x+ [An- x/n・mH2O]x- (式中、M2+は二価金属イオンであり;M3+は三価金属イオンであり;An-は陰イオン(nは1又は2)であり;0.1≦x≦0.8;m>0である)からなる膜であって、該膜の少なくとも一方の主表面において前記層状複水酸化物が配向していることを特徴とする全固体アルカリ燃料電池用電解質膜を提供する。
本発明によれば、高出力の全固体アルカリ燃料電池の製造に有用な薄膜化された固体電解質膜が提供される。
本発明の電解質膜の一形態(実施例1)の表面の走査型電子顕微鏡写真である。 本発明の電解質膜の別の一形態(実施例2)の表面の走査型電子顕微鏡写真である。 従来の電解質膜(比較例)の表面の走査型電子顕微鏡写真である。 本発明の電解質膜の一形態(実施例1)の表面についてのCuKαを線源とするX線回折パターンを示すグラフである。 従来の電解質膜(比較例)の表面についてのCuKαを線源とするX線回折パターンを示すグラフである。 本発明の電解質膜の一形態(実施例1)の発電特性を示すグラフである。 本発明の電解質膜の別の一形態(実施例2)の発電特性を示すグラフである。 従来の電解質膜(比較例)の発電特性を示すグラフである。 アルカリ燃料電池の模式図(燃料ガスを水素とする場合)である。
<電解質膜>
本発明の全固体アルカリ燃料電池用電解質膜(以下、単に「電解質膜」ともいう)は、層状複水酸化物:[M2+ 1-x3+ x(OH)2]x+ [An- x/n・mH2O]x- (式中、M2+は二価金属イオンであり;M3+は三価金属イオンであり;An-は陰イオン(nは1又は2)であり;0.1≦x≦0.8;m>0である)からなる膜であって、該膜の少なくとも一方の主表面において前記層状複水酸化物が配向していることを特徴とする。
本発明において、「層状複水酸化物」(「LDH」)とは、一般式:[M2+ 1-x3+ x(OH)2]x+ [An- x/n・mH2O]x- (1)で表され、[M2+ 1-x3+ x(OH)2]の部分が、正に帯電した金属水酸化物層を構成し、層間スペースに水分子及び陰イオンAn-が存在する層状構造を有する水酸化物である。
本発明に使用するLDHは層間に存在する水分子を介して水酸化物イオン(OH-)が容易に移動できることから、本発明の電解質膜は、OH-を有し、全固体アルカリ燃料電池用電解質膜として有用である。加えて、少なくとも一方の主表面においてLDHが配向しているので、該配向表面(層)が良好なガスバリアとして機能し得、薄膜化しても燃料ガスの透過が抑えられ、燃料電池に組み込んだ際に十分な出力を実現できる。
上記式(1)中、
2+は二価金属イオンであり、好ましくはMg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+及びZn2+からなる群より選択され、より好ましくはMg2+、Ni2+、Fe2+、Co2+又はZn2+である。なかでも、取り扱いの容易さからMg2+が最も好ましい。
3+は三価金属イオンであり、好ましくはAl3+、Fe3+、Mn3+、Co3+及びCr3+からなる群より選択され、より好ましくはAl3+、Fe3+又はCr3+である。なかでも、取り扱いの容易さからAl3+が最も好ましい。
n-は陰イオン(nは1又は2)であり、好ましくはOH-、Cl-、F-、NO3 -、SO4 2-及びCO3 2-からなる群より選択され、より好ましくはCl-、NO3 -又はCO3 2-であり、最も好ましくはCO3 2-である。
xは、0.1以上0.8以下であり、好ましくは0.1以上0.5以下である。
mは、0より大きい実数であり、好ましくは0.1以上1.0以下である。
LDHの具体例として、[Mg2+ 1-xAl3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Mg2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Mg2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Mg2+ 1-xFe3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Mg2+ 1-xFe3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Mg2+ 1-xFe3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Mg2+ 1-xCr3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Mg2+ 1-xCr3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Mg2+ 1-xCr3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Ni2+ 1-xAl3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Ni2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Ni2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Ni2+ 1-xCr3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Ni2+ 1-xCr3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Ni2+ 1-xCr3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Fe2+ 1-xAl3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Fe2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Fe2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Fe2+ 1-xCr3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Fe2+ 1-xCr3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Fe2+ 1-xCr3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Co2+ 1-xAl3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Co2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Co2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Co2+ 1-xCr3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Co2+ 1-xCr3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Co2+ 1-xCr3+ x(OH)2][CO3 2-)x/2・mH2O]、[Zn2+ 1-xAl3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Zn2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Zn2+ 1-xAl3+ x(OH)2][(CO3 2-)x/2・mH2O]、[Zn2+ 1-xFe3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Zn2+ 1-xFe3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Zn2+ 1-xFe3+ x(OH)2][CO3 2-)x/2・mH2O]、[Zn2+ 1-xCr3+ x(OH)2][Cl- x・mH2O]、[Zn2+ 1-xCr3+ x(OH)2][(NO3 -)x・mH2O]、[Zn2+ 1-xCr3+ x(OH)2][CO3 2-)x/2・mH2O](前記各式中、0.1≦x≦0.8、m>0;好ましくは0.1≦x≦0.5、0.1≦m≦1.0;特にx=0.25、m=0.5)が挙げられる。
使用するLDHは、水酸化物イオン(OH-)伝導率(30℃、80%RH)が、1×10-5S/cm以上であることが好ましい。下記の表に種々のLDH(x=0.25)についてOH-伝導率を示す。
本発明において、LDHが「配向」しているとは、LDH板状粒子の板面が主表面に対して平行である状態をいう。「配向」は、例えば、CuKαを線源とするX線回折法(粉末法)において、下記の条件で測定した主表面の最表面からの(003)回折線の積分強度I(003)に対する(110)回折線の積分強度I(110)の強度比:I(110)/I(003)×100 (%) が10%以下であることとすることができる。強度比は好ましくは5%以下である。
回折線の測定は次のように行う:試料ホルダーの表面と電解質膜の主表面が一致するように固定する。X線管球への印加電圧及び電流は40kV及び30mAとし、発散スリットを1°、散乱スリットを1°、受光スリットを0.3mmに設定し、走査速度を2°/分に設定する。Mg3-Al CO3 2- LDH(上記式(1)中、M2+=Mg2+、M3+=Al3+、An-=CO3 2-、x=0.25)の場合、回折角2θ=10.5°〜12.5°で測定される回折線の積分強度(バックグランド信号分を除去後のもの)をI(003)、2θ=60.0°〜61.0°で測定される回折線の積分強度(同)をI(110)とする。
なお、「主表面」は、当該電解質膜が、電極接合体又は電池に組み込まれたとき、アノード又はカソード触媒層に対向することになる面である。
1つの実施形態において、LDHは、両方の主表面において配向している。
別の実施形態において、LDHは、全層で配向している。
本発明の電解質膜において、膜厚は例えば5〜300μmであり、好ましくは5〜250μm、より好ましくは10〜200μm、更に好ましくは10〜150μmである。膜厚が5μm未満であると、燃料ガスが透過し易くなり、燃料電池に組み立てたとき電池性能(開回路電位;OCV)が著しく低下する。
本発明の電解質膜は、非導電性多孔質薄膜を支持体として含んでいてもよい。支持体を用いる場合、形成された電解質膜全体に占める支持体の割合は、例えば2〜50体積%であり得る。
非導電性多孔質薄膜は、空隙率が例えば50〜98体積%であり、好ましくは60〜98体積%、より好ましくは80〜98体積%、より好ましくは85〜95体積%、より好ましくは90〜95体積%であり得る。非導電性多孔質薄膜は、例えば、非導電性材料の繊維の織布又は不織布であり得る。非導電性材料は例えばガラス、セルロース混合エステルである。ガラスの組成は特に制限なく、例えば、Eガラス組成、Sガラス組成、Cガラス組成(以上の組成については、特許第4833087号明細書を参照)又はその他の組成であり得る。具体例は、ガラスペーパー(シート)、メンブレンフィルターである。非導電性多孔質薄膜の膜厚は、例えば、5〜300μmであり得る。
1つの実施形態において、本発明の電解質膜は、水性溶媒中の層状複水酸化物分散液を乾燥させてなる。LDH分散液を、例えば支持体表面に塗布した後、乾燥させることにより形成される膜において、LDHは該膜の主表面に対して平行に配向する。水性溶媒中の層状複水酸化物分散液については下記で詳述する。
1つの具体的実施形態において、本発明の電解質膜は、例えば(アノード又はカソード)触媒層上に、塗膜として形成されてなる。
本発明の電解質膜は好ましくは10Ωcm2以下、より好ましくは5Ωcm2以下、より好ましくは1Ωcm2以下の抵抗値を有する。
なお、本発明において、「電解質膜」は、触媒層として用いられる、触媒と電解質とを含んでなる膜を含まない。換言すれば、本発明の「電解質膜」は、アノード又はカソード触媒層に使用され得る触媒を含まない。
<電極接合体>
本発明の電解質膜−電極接合体(以下、単に「電極接合体」又は「膜・電極複合体」ともいう)は、上記で詳述した本発明に係る電解質膜と、該電解質膜を挟んで両側に配置された一対の触媒層(カソード触媒層及びアノード触媒層)とを備えることを特徴とする。
触媒層としては、公知の構成を採用できる。
例えば、触媒として、金、銀、白金、イリジウム、オスミウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウムの貴金属触媒を用いることができる。また、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、マンガン、銅、アルミニウム、クロム、バナジウム、モリブデン、タングステン、ガリウム、鉛又はこれらの合金、前記金属又は合金の酸化物などの非貴金属触媒も使用することができる。本発明においては、コストの面から、非貴金属触媒を用いることが好ましい。
触媒は、微粒子であることが好ましい。平均一次粒径(体積平均粒径)は、例えば、1〜100nmである。
触媒はそのまま単独で使用してもよいが、導電性担体に担持させて用いることが好ましい。導電性担体としては、アセチレンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤなどのような導電性炭素粒子である。担体の平均粒径は、例えば、5〜200nm、好ましくは10〜100nmであり得る。
触媒層は、水酸化物イオン伝導性物質を更に含んでいてもよい。水酸化物イオン伝導性物質としては、公知のもの(例えば、電池用固体電解質に使用される水酸化物イオン伝導性電解質、例えば高分子電解質)を使用できる。水酸化物イオン伝導性物質は電子伝導性(例えば、≧1×10-5Scm-1)を有するものが好ましい。このような電子伝導性を有する水酸化物イオン伝導性物質の例は、層状複水酸化物である。層状複水酸化物は、電解質膜に用いられるものと同じであっても異なっていてもよい。触媒層に用いる層状複水酸化物は、好ましくは、M2+が遷移金属の二価イオン(例えばNi2+、Fe2+又はCo2+)であり、M3+が遷移金属の三価イオン(例えば、Fe3+又はTi3+)であり、An-がCO3 2-又はCl-であるものである。
本発明の電極接合体は、ガス拡散層を更に備えていてもよい。この場合、ガス拡散層は、触媒層(アノード触媒層又は両触媒層)の電解質と反対の側に設けられる。
ガス拡散層としては、公知の構成を採用できる。
ガス拡散層を構成する多孔質基材としては公知のものを使用できるが、導電性多孔質膜が好ましく、例えばカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトのような導電性炭素多孔質体又は金属多孔質体であり得る。ガス拡散層(特に、アノードガス拡散層)は、撥水性が付与されていてもよい。撥水処理は、例えば、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン)を用いて行うことができる。
<全固体アルカリ燃料電池>
本発明の全固体アルカリ燃料電池(以下、単に「燃料電池」ともいう)は、上記で詳述した電極接合体と、該電極接合体を挟持する一対のセパレータとを備えることを特徴とする。
セパレータの材料としては、公知のものを使用できる。本発明において、セパレータは、絶縁材料から作製されてもよいし、導電性材料から作製されてもよい。セパレータが導電性材料からなる場合、該セパレータは集電体として機能してもよい。セパレータが絶縁材料からなる場合には、電極接合体が集電体を備える。この場合、ガス拡散層に使用する導電性多孔質体が集電体として機能してもよいし、別途に集電体を備えていてもよい。
セパレータには、燃料ガス、空気(酸素)、排気ガス、水蒸気を供給/排気するための流路が形成されていてもよい。
本発明の燃料電池は、1つの電極接合体と一対のセパレータとからなるいわゆる単一セル構造であってもよいし、複数の単セルを直列に連結/積層したセルスタック構造であってもよい。
燃料としては、水素ガス、又は水素若しくは水素イオンを取り出すことができる液体燃料、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール、ギ酸などを用いることができる。液体燃料には、KOH、NaOHを添加してもよい。
本発明の燃料電池は、室温(約20℃)〜90℃という比較的低温で作動し得る。
本発明の燃料電池はまた、60℃、湿度80%に加湿した水素及び空気をそれぞれアノード(燃料極)及びカソード(空気極又は酸素極)に25mL/min及び50mL/minで供給したとき、0.9V以上の開回路電圧(OCV)を達成し得る。
或いは、本発明の燃料電池は、上記条件で、15mWcm-2以上、好ましくは20mWcm-2以上、より好ましくは30mWcm-2以上、更に好ましくは50mWcm-2以上の発電能力を示し得る。
<電解質膜の製造方法>
本発明の電解質膜は、水性溶媒中の層状複水酸化物(板状粒子)の分散液を乾燥させることにより製造することができる。
LDHは、公知の方法、例えば共沈法、水熱法、再構築法により製造することができる。例えば、共沈法では、M2+及びM3+を含む金属塩水溶液と、An-を含む水溶液を適切な条件(例えば、pH6〜10)下に混合・撹拌することでLDHの結晶が生成する。生成した結晶を熟成させ、濾過して、水洗後乾燥させることによって、LDHの板状粉体が得られる。LDHとして市販品のような既成のものを使用してもよい。
LDHの板状粒子(粉体)は、板面のサイズが例えば0.1〜5μmであり、厚みが例えば10nm〜1μmであり得る。
LDHを分散させる水性溶液は、水、C1〜C4の一価若しくは多価アルコール又はこれら2種以上の混合溶媒である。アルコールの具体例は、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンである。
分散液中LDHの濃度は、例えば1〜80重量%、好ましくは20〜60重量%、より好ましくは30〜50重量%であり得る。
分散液は、例えば、層状複水酸化物を水性溶媒に加え、公知の分散手段を用いて、分散させることにより調製することができる。
このLDH分散液を、例えば支持体に含浸させ及び/又は塗布した後、室温で又は加熱(例えば、40〜80℃)により溶媒を蒸発させて乾燥させる。塗布は、スプレー法、ディップコーティング法などの公知の技法を用いて行うことができる。塗布は、水平に配置した支持体表面にLDH分散液を滴下することによっても行うことができる。所望の膜厚が得られるまで、塗布/滴下・乾燥を繰り返してもよい。
より具体的には、電解質膜は、例えば触媒層上に直接形成することができる。この場合、触媒層上にLDH分散液を直接塗布(又は滴下)した後に乾燥させることにより作製してもよいし、該触媒層上に非導電性多孔質膜を配置してその上から塗布又は滴下し、該多孔質膜中に分散液を含浸させた後に乾燥させることによって作製してもよい。
或いは、非導電性多孔質支持体をLDH分散液中に浸漬するか又は該支持体上に分散液を塗布若しくは滴下することにより、該支持体の内部に分散液を含浸させた後に、乾燥させることによって支持体を含む電解質膜を作製することができる。浸漬による場合、得られた支持体を含む電解質膜の主表面に、更に、LDH分散液を塗布又は滴下してもよい。
塗布又は滴下は、支持体の両面で行なってもよい。
また、電解質膜は、例えば、仮の支持体(例えば、離型性の良い平滑な樹脂フィルム(例えばPTFE、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン))上にLDH分散液を塗布した後に乾燥させることにより製造することもできる。この場合、使用に際しては支持体を膜から剥離する。
LDH膜を上記のように成膜することで、膜の少なくとも一方の主表面において、LDHの板状粒子(粉体)が該主表面に平行に配向する。
支持体として触媒層を用いることで、電解質膜をカソード触媒層又はアノード触媒層上に直接形成することができる(電解質膜−触媒層接合体)。
層状複水酸化物の合成
Mg3-Al CO3 2- LDH(上記式(1)中、M2+=Mg2+、M3+=Al3+、An-=CO3 2-、x=0.25)を共沈法により下記のとおり合成した。
出発原料には硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O、和光純薬、特級)と、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O、和光純薬、特級)を用いた。先ず、蒸留水200gにMg(NO3)2・6H2O 7.7g、Al(NO3)3・9H2O 3.8gを溶解し、室温で1時間攪拌した。この混合溶液を、6.4gの炭酸ナトリウム(Na2CO3、和光純薬、特級)を溶解した200gの水の中に滴下し、白色の沈殿物を得た。滴下し終えたのち、得られた沈殿物を80℃において18時間保持した。そして、沈殿物を濾過、洗浄し、80℃で24時間乾燥させることにより、平均一次粒径約0.3〜5.0μmであるMg3-Al CO3 2- LDHを得た。
得られたLDHを蒸留水中に50重量%の割合で添加し、分散させて、固体電解質膜作製用の塗液又は含浸液を調製した。
[実施例1]
LDH分散液を、ガラス基板上に置いたガラスペーパー(約1μm(70wt%)と約5μm(30wt%)のガラス繊維の不織布;大きさ1×1cm、厚み50μm)上に滴下し、室温にて乾燥させた。ガラスペーパーを裏返し、再びLDH分散液をガラスペーパー上に滴下し、同様に乾燥させた。得られた電解質膜は、面積が約0.64cm2であり、厚さが約150μmであった。
この膜を2枚の白金触媒担持カーボンシート(エレクトロケム社、EC20−10−7)で挟み込み、プレスすることによって、膜・電極接合体を形成した。
[実施例2]
白金触媒担持カーボンシート上にLDH分散液を適宜滴下し、室温にて乾燥させた。この操作を数回繰り返すことによって、シート表面にLDHを堆積させて固体電解質膜を作製した。
もう一枚の白金触媒担持カーボンシートを上から重ね、プレスすることによって、膜・電極複合体を形成した。電解質部分は、面積が約5cm2であり、厚みが約100μmであった。
[比較例1]
約0.5gのLDHを、錠剤成型機を用いて360MPaの圧力でコールドプレスして成形した。このとき、成形性をよくするためにPTFEを5%(0.025g)添加した。大きさ直径約12mm、厚さ約350μmの電解質膜が得られた。
ペレットを2枚の白金触媒担持カーボンシートで挟み込み、プレスすることによって、膜電極接合体を形成した。
走査型電子顕微鏡(SEM)観察
膜電極接合体を作製する前に、得られた各電解質膜の主表面を走査型電子顕微鏡で観察した。
実施例1及び2で作製した固体電解質膜では、LDHの板状粒子が配向して堆積(積層)していることが確認された。実施例1の固体電解質膜において、LDHはガラスペーパー(膜の主表面)に平行に配向している(図1)。観察されるLDHは、粒子径が大きく、粒子同士が接合しているように見える。実施例2の電解質膜上で、LDHは、実施例1のものと同様の形態を有していた(図2)。
一方、比較例1で作製した電解質膜では、LDH粒子がプレスの際に破壊されたためか、粒子径は小さく、また粒子の配向は確認できず、むしろ微粒子の凝集体に見える(図3)。さらに、空隙も一部に観察される。
X線回折パターン測定
実施例1及び比較例の電解質膜の主表面について、上記の方法で、CuKαを線源とするX線回折パターンを測定した(図4及び5)。回折パターンから明らかなように、実施例1の電解質膜では、試料面と平行な面(面(003)及び(006))の回折強度が強く、その他の方向の面(面(012)、(015)、(018)、(110)及び(113))の回折強度は弱いことが理解できる。一方、比較例の電解質膜では、その他の方向の面の回折強度が相対的に大きくなっていることが理解できる。
定量化のため、強度比I(110)/I(003)×100 (%)を求めた。得られた各面についてのX線強度からバックグランド信号分を減じて得られる補正値に基づいて強度比を算出したところ、実施例1については4.4%であり、比較例については12.5%であった。
燃料電池評価
上記で作製した膜・電極接合体をグラファイト製のセパレータ(エレクトロケム社、FC-05−02-MP)2枚で挟み込み、燃料電池を構築した。60℃、湿度80%に加湿した水素25mL/minと、60℃、湿度80%に加湿した空気50mL/minを燃料として燃料電池の発電特性評価を行った。
評価結果を図6〜8に示す。図において、横軸は電流密度であり、縦軸は電圧(左軸)及び電力密度(右軸)である。
実施例1、2の電解質膜を用いた燃料電池では、それぞれ0.92V及び0.91Vの開回路電圧(OCV)が得られた。一方、比較例の電解質膜を用いた燃料電池では、OCVは0.75Vであった。このことから、本発明の電解質膜は、圧縮成形によるペレット化LDH膜に比べて、水素ガスについてバリア性が高い(ガス透過性が低い)と理解できる。
また、実施例1の電解質膜を用いた燃料電池は、65mWcm-2の発電能力(電力密度)を示し、実施例2の電解質膜を用いた燃料電池は、18mWcm-2の発電能力を示した。一方、比較例の電解質膜を用いた燃料電池の発電能力は、9.7mWcm-2であった。本発明の電解質膜を用いた燃料電池は、比較例のペレット化LDH電解質膜を用いた燃料電池より、発電能力に優れる(約2倍以上)ことが理解できる。特に、実施例1の電解質膜を用いた燃料電池の発電能力は、比較例の電解質膜を用いた燃料電池の能力の約6倍であることが確認できた。
以上の結果から、本発明の電解質膜により、発電性能に優れる全固体アルカリ燃料電池を実現できる。
上記の実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書又は添付図面に記載された具体的な構成及び配置のみに限定されるものではない。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法及び装置は、本発明の要旨を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能である。

Claims (12)

  1. 層状複水酸化物:[M2+ 1-x3+ x(OH)2]x+ [An- x/n・mH2O]x- (式中、M2+は二価金属イオンであり;M3+は三価金属イオンであり;An-は陰イオン(nは1又は2)であり;0.1≦x≦0.8;m>0である)からなる膜であって、該膜の少なくとも一方の主表面において前記層状複水酸化物の板面前記主表面に対して平行な方向に配向していることを特徴とする全固体アルカリ燃料電池用電解質膜。
  2. 膜厚が10〜200μmである請求項1に記載の電解質膜。
  3. 水性溶媒中の層状複水酸化物分散液を乾燥させてなる請求項1又は2に記載の電解質膜。
  4. 非導電性多孔質薄膜を支持体として含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解質膜。
  5. 塗膜として形成されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解質膜。
  6. 2+が、Mg2+、Ni2+、Fe2+、Co2+又はZn2+であり、M3+がAl3+、Fe3+又はCr3+であり、An-がCl-、NO3 -又はCO3 2-である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解質膜。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解質膜と、該電解質膜を挟んで両側に配置された一対の触媒層とを備えることを特徴とする全固体アルカリ燃料電池用電極接合体。
  8. 請求項7に記載の電極接合体と、該電極接合体を挟持する一対のセパレータとを備えることを特徴とする全固体アルカリ燃料電池。
  9. 層状複水酸化物:[M2+ 1-x3+ x(OH)2]x+ [An- x/n・mH2O]x- (式中、M2+は二価金属イオンであり;M3+は三価金属イオンであり;An-は一価又は二価の陰イオンであり;0.1≦x≦0.8;m>0である)の分散液を用いることを特徴とする、全固体アルカリ燃料電池用電解質膜の製造方法。
  10. 分散液を非導電性多孔質薄膜に含浸させた後に乾燥させる請求項9に記載の方法。
  11. 分散液をカソード触媒層又はアノード触媒層上に塗布した後に乾燥させることにより、電解質膜を該カソード触媒層又はアノード触媒層上に直接形成する請求項9に記載の方法。
  12. 水性溶媒中の層状複水酸化物:[M2+ 1-x3+ x(OH)2]x+ [An- x/n・mH2O]x- (式中、M2+は二価金属イオンであり;M3+は三価金属イオンであり;An-は一価又は二価の陰イオンであり;0.1≦x≦0.8;m>0である)の分散液からなることを特徴とする、固体電解質膜作製用の塗液又は含浸液。
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