以下、本発明を具体化した各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
(第1実施形態)
図1は、走行用のモータ10およびエンジン20(内燃機関)を走行駆動源としたハイブリッド車両を示す模式図である。エンジン20のクランク軸21(出力軸)とモータ10の出力軸11とは、クラッチ機構30を介して連結されている。クラッチ機構30は、クランク軸21と出力軸11との連結と切り離しを切り換えるとともに、トルクの伝達度合いを調整する機能をも有する。
モータ10による駆動トルク(モータトルク)、およびエンジン20による駆動トルク(エンジントルク)の少なくとも一方は、変速機40により変速されて駆動輪50へと伝達される。モータトルクだけで走行させる場合にはクラッチ機構30を切り離すよう、ECU60はクラッチ機構30の作動を制御する。モータトルクおよびエンジントルクの両方で走行させる場合、或いはエンジントルクだけで走行させる場合には、クラッチ機構30を連結作動させる。
さらにECU60(クラッチ機構制御手段)は、エンジン20を始動させる時には、モータトルクをクランク軸21に伝達させてエンジン20をクランキングさせるよう、クラッチ機構30の作動を制御する。このときのクラッチ制御量CL1,CL2(トルク伝達度合い)については後に詳述する。
エンジン20には、吸気バルブの閉弁時期を調整する閉弁時期調整機構(VCT22)が備えられている。クランク軸21により回転駆動するカム軸により、吸気バルブは開閉弁作動するよう構成されている。VCT22は、カム軸と共に回転する主動体と、クランク軸21と共に回転する従動体と、主動体および従動体の回転位相を調整する電動アクチュエータと、を備えて構成されている。ECU60は、VCT22の電動アクチュエータの作動を制御することで前記回転位相を調整し、ひいては吸気バルブの閉弁時期を制御する。
ECU60には、アクセルセンサ61、車速センサ62、水温センサ63、クランク角センサ64、バッテリ容量センサ65等、各種センサの検出値が入力される。アクセルセンサ61は、車両運転者により操作されたアクセルペダル51(アクセル操作部材)の踏込量(操作量)を検出する。車速センサ62は車両の走行速度を検出する。水温センサ63はエンジン冷却水の温度を検出する。クランク角センサ64はクランク軸21の回転角度を検出する。この検出値に基づきECU60はクランク軸21の回転速度(エンジン回転速度NE)を算出する。バッテリ容量センサ65はバッテリ70の蓄電容量を検出する。なお、バッテリ70はモータ10へ電力供給するとともに、モータ10を発電機として作動させたときの発電電力を充電する。
ECU60は、これらの各種検出値に基づき、先述したクラッチ機構30およびVCT22の作動を制御するとともに、エンジン20の各気筒に設けられた燃料噴射弁および点火装置の作動を制御して、燃料の噴射量、噴射開始時期、点火時期等を制御する。
図2は、エンジンを始動させるか否かを判定する処理の手順を示すフローチャートであり、この処理は、ECU60が有するマイクロコンピュータにより、車両運転時に常時繰り返し実行される。
先ず、図2に示すステップS5において、エンジン冷却水の温度が所定値より大きいか否かを判定し、冷却水温度≦所定値(S5:NO)と判定された場合には、エンジン20の暖機運転が必要であるとみなし、続くステップS11において、エンジン20を自動で始動させるよう要求する自動始動要求フラグをオンに設定する。これにより、冷却水温度が上昇してエンジン暖機が為される。
冷却水温度>所定値(S5:YES)と判定された場合には、次のステップS10において、バッテリ容量センサ65の検出値に基づき算出されたバッテリ70の蓄電残容量(バッテリ容量)が、所定値より大きいか否かを判定する。バッテリ容量≦所定値(S10:NO)と判定された場合、続くステップS11において、エンジン20を自動で始動させるよう要求する自動始動要求フラグをオンに設定する。これによりエンジントルクでモータ10を発電作動させることができ、バッテリ70への供給が為されるようになる。
但し、これらのような暖機目的や充電目的のエンジン始動では、迅速な始動が要求されないので、後述する加速モードに比べてエンジン20を緩慢に始動させる充電モードで始動させる。
バッテリ容量>所定値(S10:YES)と判定された場合には、続くステップS12において、アクセルセンサ61の検出値に基づき算出されたアクセル開度(アクセル踏込量)が所定値AO1より大きいか否かを判定する。アクセル開度≦所定値AO1(S12:NO)と判定された場合、車両の走行に要求される負荷が小さいためモータトルクだけで十分に走行要求を満たすことができ、かつ、バッテリ容量が十分残っているとみなし、続くステップS13において、エンジン20の停止状態を継続させる。
一方、アクセル開度>所定値AO1(S12:YES)と判定された場合には、次のステップS14においてアクセル開度>所定値AO2であるか否かを判定する。なお、AO2はAO1より大きい値である。アクセル開度>所定値AO2(S14:YES)と判定された場合には、車両を急加速運転させるようエンジン始動させることが要求されているとみなし、続くステップS15において自動始動要求フラグをオンに設定する。
この場合には、急加速が要求されているので、エンジン20が完爆した後においても、エンジン回転速度が所定値以上になるまではモータトルクでエンジン20のクランキングをアシストして、エンジン回転速度NEを迅速に上昇させる急加速モードで始動させる。なお、アシストに用いるモータトルクの大きさは、要求される加速度の大きさに応じて設定する。
アクセル開度>所定値AO1(S12:YES)、かつアクセル開度≦所定値AO2(S14:NO)と判定された場合には、続くステップS16において自動始動要求フラグをオンに設定する。この場合には、急加速は要求されていないもののモータトルクでは出力不足になるとみなして、続くステップS16において自動始動要求フラグをオンに設定する。
この場合には、急加速は要求されていないので、エンジン20が完爆した時点で、モータトルクによるクランキングのアシストを終了させ、完爆後はエンジン20が自力でエンジン回転速度NEを上昇させる緩加速モードで始動させる。
図3は、エンジン20を始動させる時の各種制御(始動時制御)、および始動前の準備として実施する各種制御(始動前準備制御)の手順を示すフローチャートであり、この処理は、ECU60が有するマイクロコンピュータにより、車両運転時に常時繰り返し実行される。
先ず、図3に示すステップS20において、先述した自動始動要求フラグの状態に基づき、エンジン自動始動要求の有無を判定する。自動始動要求がない場合(S20:NO)には、以降のステップS30〜S37の処理(始動前準備制御)によりエンジン20を始動させるに先立ち、エンジン始動時に最適な吸気バルブの閉弁時期(目標バルブタイミングVT1)、およびクラッチ機構30によるトルク伝達度合い(目標クラッチ制御量CL1)を算出する。さらに、エンジン20を始動させるに先立ちVCT22を目標バルブタイミングVT1に制御しておく。
以下、このような始動前準備制御の詳細について説明する。先ず、ステップS30では、エンジン20が有する複数気筒のうち、燃料を噴射してから爆発までに要する時間が最も短い気筒がいずれであるかを、現時点でのクランク角に基づき算出する。そして、算出した気筒を最初に爆発させる気筒(初爆気筒)として設定しておく。例えば、吸気ポートに燃料を噴射するエンジンの場合においては、現時点でのクランク角が吸気行程にある気筒を初爆気筒として設定する。また、燃焼室に燃料を直接噴射するエンジンの場合においては、現時点でのクランク角が圧縮行程にある気筒を初爆気筒として設定する。
続くステップS31〜S36では、水温センサ63の検出値(冷却水温度)に基づき、先述した目標バルブタイミングVT1および目標クラッチ制御量CL1を算出する。以下、これらの算出手法について図4を参照しつつ説明する。なお、図4中の符号B10〜B15に示すブロックは、マイコンによる各々の演算処理の内容を示す。
ステップS31(ブロックB10)では、エンジン20のフリクショントルクTfを冷却水温度に基づき算出する。冷却水温度が低いほど潤滑油の温度も低い筈であり、低温であるほど潤滑油の粘性が高くなりフリクショントルクTfも高くなる。なお、ステップS31の処理を実行している時のECU60は「フリクショントルク算出手段」に相当する。
ここで、エンジン20の圧縮比を低くするほど、燃焼時に得られるエンジントルクは小さくなる。そして、得られるエンジントルクがフリクショントルクTfよりも小さい場合には、エンジン20はフリクショントルクTfに抗して自力で回転することができない。この点を鑑み、次のステップS32(ブロックB11)では、自力回転できるエンジントルクを得るための最小限の圧縮比(要求圧縮比RC1)を、ステップS31で算出したフリクショントルクTfに基づき算出する。
なお、この要求圧縮比RC1は、「フリクショントルクTfに抗して、モータトルクを要することなく自力で回転可能となる燃焼を実現させる圧縮比」に相当し、ステップS32の処理を実行している時のECU60は「圧縮比算出手段」に相当する。
続くステップS33(ブロックB12)では、ステップS32で算出した要求圧縮比RC1を実現させる、吸気バルブの閉弁時期(目標バルブタイミングVT1)を算出する。なお、ピストン下死点のクランク角に対して吸気バルブの閉弁時期を遅角させるほど、圧縮比は小さくなる。
続くステップS34(ブロックB13)では、要求圧縮比RC1に相当する要求圧縮トルクTRC1を算出する。続くステップS35(ブロックB14)では、ステップS34で算出した要求圧縮トルクTRC1に、ステップS31で算出したフリクショントルクTfを加算して、要求クランキングトルクTcを算出する。要するに、初爆が為される前のクランキング初期において、要求圧縮比RC1となるようにピストンを上昇させるのに要するトルクが要求クランキングトルクTc(Tc=TRC1+Tf)である。
続くステップS36(ブロックB15)では、ステップS35で算出した要求クランキングトルクTcをモータ10からエンジン20へ伝達するための、トルク伝達度合い(目標クラッチ制御量CL1)を算出する。すなわち、モータ10で車両を走行させている時にクラッチ機構30によるトルク伝達度合いを最大にすると、要求クランキングトルクTcよりも大きいトルクがエンジン20へ伝達されることになるので、クランキング用にエンジン20へ伝達するモータトルクを必要最小限にするために、要求クランキングトルクTcに応じた目標クラッチ制御量CL1を算出する。
続くステップS37(圧縮比低減制御手段)では、ステップS33で算出した目標バルブタイミングVT1となるようVCT22の作動を制御する。これにより、モータ10による走行期間中において、エンジン自動始動が要求される前に目標バルブタイミングVT1に制御される。つまり、クランキング開始時点では吸気バルブの閉弁時期が所定時期よりも遅い時期となっているよう(圧縮比が所定値よりも低くなっているよう)制御される。
ちなみに、目標バルブタイミングVT1は最遅角位相に固定されている訳ではなく、自力回転できるエンジントルクを得るための最小限の圧縮比(要求圧縮比RC1)となるように設定された位相である。
自動始動要求が有る場合(S20:YES)には、以降のステップS40〜S50の処理(始動時制御)により、クラッチ機構30、VCT22、燃料噴射弁および点火装置の作動を制御して、エンジン20をクランキングさせて始動させる。
以下、このような始動時制御の詳細について説明する。先ず、ステップS40〜S43では、アクセル開度、車速、バッテリ容量に基づき、初爆後の目標バルブタイミングVT2、初爆後の目標クラッチ制御量CL2、およびクランキング開始時のVT1から初爆後のVT2へ変化させる時のVCT22の制御速度ΔVTを算出する。以下、これらの算出手法について図5を参照しつつ説明する。なお、図5中の符号B20〜B24に示すブロックは、マイコンによる各々の演算処理の内容を示す。
ステップS40(ブロックB20)では、アクセルセンサ61、車速センサ62、バッテリ容量センサ65の各々により検出された、アクセル開度、車速、バッテリ容量を取得する。そして、アクセル開度および車速に基づき、車両の走行に要求されるトルク(車両要求トルクTreq)を算出する。また、ブロックB20では、先述した急加速モード、緩加速モード、充電モードのいずれでエンジン始動させるかを、図2の処理手順に従って設定する。
続くステップS41(ブロックB21)では、ステップS40で算出した車両要求トルクTreqおよびバッテリ容量に基づき、完爆後のエンジン20に要求されるトルク(要求エンジントルクTE)を算出する。例えば、バッテリ容量が十分に残っていれば、エンジン始動前に出力していたモータトルクの、車両要求トルクTreqに対する不足分を、要求エンジントルクTEとして算出する。
さらにステップS41では、エンジン始動を開始してからエンジン回転速度NEが目標値に達するまでに要する時間(要求エンジン始動時間Ts)を算出する。例えばアクセル開度の変化量が大きいほど、運転者による加速要求が大きいとみなして、要求エンジン始動時間Tsを短く設定する。そして、要求エンジン始動時間Tsが短く設定されるほど、完爆してからNEが所定値NE2に達するまでの期間において、エンジン20に伝達するモータトルク(要求モータアシストトルクTM)を増大させるように算出する。
続くステップS42(ブロックB22)では、初爆後のエンジントルクが、要求エンジン始動時間Tsが経過した時点で要求エンジントルクTEに達することを実現できる圧縮比(目標圧縮比RC2)を算出する。さらにステップS42(ブロックB23)では、算出した目標圧縮比RC2を実現させる、吸気バルブの閉弁時期(目標バルブタイミングVT2)を算出する。
また、要求エンジン始動時間Tsが経過した時点でVT1をVT2まで進角させることを実現させる、VCT22の制御速度ΔVTを算出する。例えば、車両要求トルクTreqが大きいほど制御速度ΔVTを速い値に設定する。
続くステップS43(ブロックB24)では、ステップS41で算出した要求モータアシストトルクTMをモータ10からエンジン20へ伝達するための、トルク伝達度合い(目標クラッチ制御量CL2)を算出する。すなわち、NE上昇アシスト用にエンジン20へ伝達するモータトルクを必要最小限にするために、要求モータアシストトルクTMに応じた目標クラッチ制御量CL2を算出する。
続くステップS44(クラッチ機構制御手段)では、ステップS36で算出した目標クラッチ制御量CL1となるよう、クラッチ機構30の作動を制御する。これにより、エンジン20のクランキングが開始される。この制御では、CL1に対応する制御量でクラッチ機構30をオープン制御してもよいし、エンジン回転速度NEから算出される実トルクが要求クランキングトルクTcに一致するよう、クラッチ機構30をフィードバック制御してもよい。
続くステップS45では、ステップS30で設定した初爆気筒に設けられた燃料噴射弁を作動させて燃料噴射を開始し、その後、複数気筒に対して予め設定された順番で燃料を順次噴射していく。続くステップS46では、初爆気筒に設けられた点火装置を作動させて点火し、その後、複数気筒に対して予め設定された順番で順次点火していく。
その後、エンジン回転速度NEが所定値NE1に達してステップS47で肯定判定されるまでは、ステップS44,S45,S46による制御を継続させる。そして、NEがNE1にまで上昇すると、次のステップS48(圧縮比増大制御手段)に進み、ステップS42で算出した目標バルブタイミングVT2となるよう、ステップS42で算出した制御速度ΔVTで、VCT22の作動を制御する。
続くステップS49では、ステップS43で算出した目標クラッチ制御量CL2となるよう、クラッチ機構30の作動を制御する。これにより、要求モータアシストトルクTMがエンジン20に伝達され、NE上昇がアシストされる。この制御では、CL2に対応する制御量でクラッチ機構30をオープン制御してもよいし、NE上昇速度が目標値に一致するよう、クラッチ機構30をフィードバック制御してもよい。
その後、エンジン回転速度NEが所定値NE2に達してステップS50で肯定判定されるまでは、ステップS48,S49による制御を継続させる。なお、この時の燃料噴射および点火は、エンジン回転速度NEおよびエンジン負荷に応じた通常の制御により実施される。そして、NEがNE2にまで上昇すると、モータトルクによるNE上昇アシストを終了させて、始動時のエンジン制御から通常時のエンジン制御に切り換える。
以上により、図5(a)に示す如く急加速モードでエンジン始動させるよう要求された場合、図5(b)に示す如く要求エンジン始動時間Tsを短く設定するとともに、要求モータアシストトルクTMを大きく設定する。これにより、クランキングを開始してから完爆するまでの期間は、モータトルクの一部がクランキングに用いられ、その後、完爆してからNEが所定値NE2に達するまでの期間は、モータトルクの一部はNE上昇を促進させるよう、エンジン始動のアシストに用いられる。その後、エンジントルクおよびモータトルクの両方を走行トルクに用いる。
一方、緩加速モードでエンジン始動させるよう要求された場合、要求エンジン始動時間Tsを急加速モード時よりも長く設定するとともに、要求モータアシストトルクTMをゼロに設定する。これにより、クランキングを開始してから完爆するまでの期間は、モータトルクの一部がクランキングに用いられ、その後、完爆してからNEが所定値NE2に達するまでの期間は、モータトルクの一部を用いてNE上昇をアシストすることを実施せず、エンジントルクのみでNEを上昇させる。その後、エンジントルクおよびモータトルクの両方を走行トルクに用いる。
また、充電モードでエンジン始動させるよう要求された場合、要求エンジン始動時間Tsを緩加速モード時よりも長く設定するとともに、要求モータアシストトルクTMをゼロに設定する。これにより、クランキングを開始してから完爆するまでの期間は、モータトルクの一部がクランキングに用いられ、その後、完爆してからNEが所定値NE2に達するまでの期間、エンジントルクのみでNEを上昇させる。その後、エンジントルクを走行と充電に用いる。また、充電モードでは他のモード時に比べて制御速度ΔVTを遅く設定して、NE上昇速度を緩慢にさせる。これにより、NE急上昇により乗員がショックを感じさせないようにすることを確実にできる。
図6中の実線は、図3の処理を実施した場合の各種変化を示す一態様であり、図中の点線は従来装置による各種変化を示す。
先ず、運転者がアクセルペダル51を踏み込み始めたt1時点以降、走行トルクを上昇させるべくモータトルクが増大する。そして、モータトルクだけでは車両要求トルクTreqを満たさないと判定されたt2時点で、自動始動要求フラグがオンに設定される。
但し、自動始動要求フラグがオンに設定される前から、VCT22はVT1に制御されている。これにより、自力回転できるエンジントルクを得るための最小限の圧縮比(要求圧縮比RC1)でクランキングされるよう、クランキング開始に先立ち準備された状態になる。
そして、自動始動要求が発生したt2時点で、目標クラッチ制御量CL1となるようにクラッチ機構30の制御を開始する。これにより、t2時点でクランキングが開始されてエンジン回転速度NEが上昇していく。その後、クラッチ制御量がCL1に達したt3時点で燃料噴射を開始する。
その後、エンジン回転速度NEが所定値NE1に達したt4時点で、目標バルブタイミングをVT1からVT2に切り換えるとともに、目標クラッチ制御量をCL1からCL2に切り換える。図6の例では、完爆したt4時点でNEがNE1に達している。
完爆後、エンジン回転速度NEがさらに上昇して所定値NE2に達したt5時点で始動時制御を終了させる。つまり、目標バルブタイミングをVT2から通常運転時の値に切り換えるとともに、目標クラッチ制御量をCL2から通常運転時の値に切り換える。
以上により、図6中の実線に示す本実施形態によれば、点線に示す従来装置に比べて、クランキング開始時点t2でのバルブタイミングが遅角側に制御されて低圧縮比に設定されるようになる(矢印E1参照)。そのため、クランキングに要するトルク(要求クランキングトルクTc)が低減されるので、クランキング時の目標クラッチ制御量CL1を小さく設定でき、モータ10に要求されるクランキング用のトルクを低減できる(矢印e1参照)。
そして、完爆するt4時点の直後には、点線に示す従来装置に比べて、バルブタイミングが進角側に制御されて高圧縮比に設定されるようになる(矢印E2参照)。そのため、エンジン回転速度NEが迅速に上昇するようになるので、モータ10によるクランキングの終了時期t5を早くすることができる(矢印e2参照)。
さらに、点線に示す従来装置では、NEが十分に上昇するのを待って燃料噴射を開始させているのに対し、本実施形態ではクラッチ制御量がCL1に達したt3時点で燃料噴射を開始できるようになる(矢印E3参照)。すなわち、本実施形態によればt3時点では低圧縮比に制御されているので、初爆時にエンジン回転速度NEが急上昇することは抑制され、車両乗員にショックを感じさせる懸念は解消される。そのため、燃料噴射開始時期を従来よりも早くすることができる。これにより、完爆時期t4を早めることができるようになり、完爆によるNE上昇開始時期を早めることができる。よって、クランキング時における要求モータアシストトルクTMを低減できる(矢印e3参照)。
以上により、本実施形態によれば上記E1〜E3を実施することで、e1〜e3の効果が得られるようになるので、クランキング期間t2〜t5におけるモータ10の負担を軽減でき、モータ10の小型化を図ることができる。
また、燃料を噴射してから爆発までに要する時間が最も短い気筒(初爆気筒)を算出し、その気筒に対して燃料噴射を開始させるので、初爆および完爆時期を早めることができる。よって、クランキング時における要求モータアシストトルクTMの低減を促進できる。
(第2実施形態)
第2実施形態について、図7〜10を参照しつつ説明する。なお、第1実施形態と共通する部分については説明を省略する。
図7は、モータジェネレータ(モータ10)およびエンジン20を走行駆動源としたハイブリッド車両を示す模式図である。エンジン20のクランク軸21(出力軸)とモータ10の回転軸11(出力軸)とは、第1クラッチ機構30を介して連結されている。また、モータ10の回転軸11と、変速機40の入力軸31とは、第2クラッチ機構80を介して連結されている。さらに、変速機40(TM)の出力軸41は、二つの駆動輪50を連結する車軸に連結されている。
第1クラッチ機構30は、エンジン20のクランク軸21とモータ10の回転軸11との結合と切り離しを切り換えるとともに、クランク軸21へ伝達させるモータトルクの容量を調整する。また、第2クラッチ機構80は、モータ10の回転軸11と変速機40の入力軸31との結合と切り離しを切り換えるとともに、変速機40の入力軸31、ひいては駆動輪50へ伝達させるモータトルクの容量を調整する。なお、第2クラッチ機構80は、変速機40内に設けてもよいし、変速機40と駆動輪50との間に設けてもよい。
また、本車両は、第1クラッチ機構30及び第2クラッチ機構80の作動を制御するECU60(クラッチ機構制御手段)を備える。ECU60により、第1クラッチ機構30が解放されるとともに、第2クラッチ機構80が締結されると、モータトルクのみで走行する電気走行モードとなる。一方、ECU60により、第1クラッチ機構30及び第2クラッチ機構80が締結されると、エンジントルク及びモータトルクの両方、あるいはエンジントルクのみで走行するハイブリッド走行モードとなる。
さらに、ECU60は、電気走行モードでの走行中にエンジン20の始動要求があると、モータトルクをクランク軸21へ伝達させてエンジン20をクランキングさせる。この場合、伝達させるモータトルクの容量は運転状況に応じて設定する。また、ECU60は、電気走行モードでの走行中にエンジン20を始動させる場合、エンジン20のトルク変動等が駆動輪50に伝達されてショックとなることを抑制するため、第2クラッチ機構80をスリップ締結させる。詳しくは、駆動輪50へ伝達するモータトルクの容量を、運転状況に応じた車両要求トルクに相当する値に制限する(特開2007−69817号公報参照)。
ECU60には、アクセルセンサ61、車速センサ62、水温センサ63、クランク角センサ64、バッテリ容量センサ65、モータ回転角センサ66、TM入力回転角センサ67等、各種センサの検出値が入力される。モータ回転角センサ66は、モータ10の回転角度を検出する。この検出値に基づきECU60は、モータ回転速度NMを算出する。また、TM入力回転角センサ67は、変速機40の入力軸31の回転角度を検出する。この検出値に基づきECU60は、入力軸31の回転速度すなわちTM入力回転速度を算出する。
ECU60は、これらの各種検出値に基づき、第1クラッチ機構30、第2クラッチ機構80、及びエンジン20に備えられた閉弁時期調整機構(VCT22)の作動を制御する。また、エンジン20の各気筒に設けられた燃料噴射弁および点火装置の作動を制御して、燃料の噴射量、噴射開始時期、点火時期等を制御する。
次に、電気走行モードで走行中にエンジン20を始動する制御について説明する。図8は、エンジン20の始動時制御の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、ECU60により、電気走行モードで走行中に繰り返し実行される。
まずエンジン20の始動前準備制御を実行する。実行する始動前準備制御は、第1実施形態で実行した始動前準備制御と同じである。すなわち、図3のステップS30〜S36までを実行し、冷却水温度(油温)に応じた目標バルブタイミングVT1及び目標クラッチ制御量CL1を算出する。そして、ステップS51(圧縮比低減制御手段)において、バルブタイミングが目標バルブタイミングVT1となるようにVCT22の作動を遅角制御する。よって、電気走行モードでの走行中において、エンジン20の自動始動要求が発生した時点では、バルブタイミングは目標バルブタイミングVT1となっている。
次に、ステップS52〜S54では、エンジン20の自動始動要求の判定及び自動始動モードの判定を行う。ステップS52では、バッテリ容量センサ65の検出値に基づき算出されたバッテリ70の蓄電残容量(SOC)が、所定値より大きいか否かを判定する。SOC≦所定値(S52:NO)と判定された場合は、エンジン20を自動で始動させるよう要求する自動始動要求フラグをオンに設定する。エンジン20が自動始動されると、エンジントルクによりモータ10が発電機として機能するので、モータ10により発電された電力をバッテリ70に供給できる。
続いてステップS56で、エンジン20の始動を開始してから、エンジン回転速度NEがモータ回転速度NMとほぼ一致するまでに要する時間(要求エンジン始動時間Ts)を設定する。充電目的のエンジン始動では、迅速な始動が要求されないので、後述する加速モードに比べてエンジン20を緩やかに始動させる(充電モード)。よって、要求エンジン始動時間Tsを加速モードよりも長く設定する。その後ステップS57に進む。
一方、ステップS52において、SOC>所定値(S52:YES)と判定された場合は、ステップS53に進む。ステップS53では、車両走行速度が所定値より小さいか否かを判定する。車両走行速度≧所定値(S53:NO)と判定された場合は、エンジン20の自動始動要求フラグをオンに設定する。電気走行モードで走行中に車両走行速度が大きくなりすぎると、モータトルクに余裕がなくなり、エンジン20を円滑に始動させることができなくなる。よって、車両走行速度が所定値以上に上昇した時点で、エンジン20を自動始動させる(車速増加モード)。この場合も、迅速なエンジン20の始動は要求されない。よって、ステップS56において、エンジン20が充電モードと同様に始動されるように、要求エンジン始動時間Tsを設定する。その後ステップS57に進む。
また、ステップS53において、車両走行速度<所定値(S53:YES)と判定された場合は、ステップS54に進む。ステップS54では、アクセル開度(踏込量)が所定値より大きいか否かを判定する。アクセル開度≦所定値(S54:NO)と判定された場合は、エンジン20の停止状態を継続させる。車両走行速度が所定値より小さく、かつアクセル開度が所定値より小さい場合、車両要求トルクTreqが小さい。よって、モータトルクだけで車両要求トルクTreqを満たすことができるとみなし、エンジン20の停止状態を継続させる。
一方、ステップS54において、アクセル開度>所定値(S54:YES)と判定された場合は、モータトルクのみでは車両要求トルクTreqを満たすことができないとみなして、エンジン20の始動要求フラグをオンに設定する。この場合は、急加速が要求されているので、加速モードでエンジン20が始動されるように要求エンジン始動時間Tsを設定する。詳しくは、ステップS55において、運転者の加速要求に応じた加速応答性を得られるように、アクセル開度に応じた要求エンジン始動時間Tsを算出する。
続いてステップS57で、エンジン20の始動を開始してから要求エンジン始動時間Tsが経過時点で、エンジン20の始動が終了するように、要求エンジントルクTE及び要求モータアシストトルクTMを設定する。すなわち、エンジン20の始動を開始してから要求エンジン始動時間Tsが経過した時点で、エンジン回転速度NEとモータ回転速度NMとがほぼ一致するように、要求エンジントルクTE及び要求モータアシストトルクTMを設定する。
次にステップS58(クラッチ機構制御手段)において、第1クラッチ機構30のクラッチ制御量が、冷却水温度に応じた目標クラッチ制御量CL1となるように、第1クラッチ機構30の作動を制御する。これにより、クランキングに必要な最小限のモータトルクがエンジン20へ伝達されて、エンジン20のクランキングが開始される。なお、目標クラッチ制御量CL1は、始動前準備制御において算出されている。
続くステップS59において、第1実施形態と同様に、初爆気筒に設けられた燃料噴射弁を作動させて燃料噴射を開始し、その後、複数気筒に対して予め設定された順番で燃料を順次噴射していく。さらに、初爆気筒に設けられた点火装置を作動させて点火し、その後、複数気筒に対して予め設定された順番で順次点火していく。これにより、エンジン20の燃焼が開始される。
続くステップS60において、エンジン回転速度NEが所定値まで上昇したかどうか判定する。エンジン回転速度NEが所定値まで上昇していないと判定された場合は(S60:NO)、エンジン回転速度NEが所定値まで上昇したと判定されるまでそのまま待機する。一方、エンジン回転速度NEが所定値まで上昇したと判定された場合は(S60:YES)、次のステップS61に進む。なお、上記所定値は、エンジン20が完爆したことを判定することのできる値に設定されている。
ステップS61(圧縮比増大制御手段)では、VCT22の作動を進角制御して、バルブタイミングを目標バルブタイミングVT1から目標バルブタイミングVT2に変化させる。目標バルブタイミングVT2は、要求エンジントルクTEに応じて算出される。
続くステップS62において、第1クラッチ機構30の作動を制御して、第1クラッチ機構30のクラッチ制御量を、目標クラッチ制御量CL1から目標クラッチ制御量CL2に変化させる。目標クラッチ制御量CL2は、要求モータアシストトルクTMに応じて算出される。その後、要求モータアシストトルクTMとエンジントルクによって、エンジン回転速度NEを上昇させる。そして、エンジン回転速度NEとモータ回転速度NMがほぼ一致した状態となると、エンジン20の始動が終了する。
次に、VT1からVT2までの進角量δVT及び進角速度ΔVT、目標クラッチ制御量CL2の算出手法を、図9を参照しつつ説明する。図9中の符号B30〜B34に示すブロックは、ECU60のマイコンによる各々の演算処理の内容を示す。
ブロックB30では、アクセルセンサ61、車速センサ62、モータ回転角センサ66、バッテリ容量センサ65の各々により検出された、アクセル開度(踏込量)、車両走行速度、モータ回転速度NM、バッテリ容量を取得する。また、アクセル開度および車両速度から、車両要求トルクTreqを算出する。さらに、バッテリ容量、車両走行速度、アクセル開度、車両要求トルクTreqに基づき、自動始動要求の有無及び自動始動モードを判定する。
次にブロックB31では、まず、エンジン始動モードに応じて、要求エンジン始動時間Tsを設定する。加速モードによるエンジン始動が要求されている場合は、エンジン20の始動要求発生時のアクセル開度に応じて、要求エンジン始動時間Tsを設定する。具体的には、アクセル開度が大きいほど、運転者の加速要求が大きいとみなし、迅速にエンジン20が始動するように要求エンジン始動時間Tsを短く設定する。一方、充電モード又は車速増加モードによるエンジン始動が要求されている場合は、要求エンジン始動時間Tsをあらかじめ決められている始動時間に設定する。
さらに、要求エンジン始動時間Tsとモータ回転速度NMとに基づいて、要求エンジントルクTE及び要求モータアシストトルクTMを設定する。例えば、エンジン20の始動要求発生時にけるモータ回転速度NMが大きく、要求エンジン始動時間Tsが短い場合は、短い時間で、エンジン回転速度NEを大きく上昇させる必要がある。そのため、短い時間でエンジン20の出力を上げるようにTE大きく設定するとともに、完爆後のNE上昇を大きなモータトルクでアシストできるようにTMを大きく設定する。一方、エンジン20の始動要求発生時におけるモータ回転速度NMが小さく、要求エンジン始動時間Tsが長い場合は、長い時間でエンジン回転速度NEが緩やかに上昇するように、TE及びTMを小さく設定する。なお、充電モード又は車速増加モードでエンジン20を始動させる場合は、完爆後のNE上昇をモータトルクでアシストしなくてもよい。
続いてブロックB32では、クランキングの開始から要求エンジン始動時間Tsが経過した時点で、エンジントルクが要求エンジントルクTEまで上昇することを実現できる圧縮比(目標圧縮比RC2)を算出する。
さらにブロックB33では、エンジン20の圧縮比が目標圧縮比RC2となるように、吸気バルブの閉弁時期(目標バルブタイミングVT2)を算出する。そして、VT1からVT2までの進角量δVTを算出する。さらに、バルブタイミングをVT1からVT2まで進角させる際における進角速度ΔVTを設定する。具体的には、アクセル開度又はモータ回転速度NMが大きいほど、エンジン20の出力を迅速に上昇させるために、進角速度ΔVTを大きく設定する。
よって、加速モードでエンジン20を始動させる場合、エンジン20の始動要求発生時のアクセル開度が大きいほど、進角量δVT及び進角速度ΔVTは大きく設定される。また、エンジン20の始動要求発生時におけるモータ回転速度NMが大きいほど、進角量δVT及び進角速度ΔVTは大きく設定される。
また、ブロックB34では、目標クラッチ制御量CL2を要求モータアシストトルクTMに相当する値に設定する。これにより、エンジン回転速度NEの上昇をアシストするために必要最小限のモータトルクがエンジン20へ伝達される。
すなわち、加速モードでエンジン20を始動させる場合、エンジン20の始動要求発生時におけるアクセル開度が大きいほど、目標クラッチ制御量CL2は大きく設定される。また、エンジン20の始動要求発生時におけるモータ回転速度NMが大きいほど、目標クラッチ制御量CL2は大きく設定される。
なお、エンジン20の始動要求発生時におけるアクセル開度及びモータ回転速度NMに対応した、Ts、δVT、ΔVT、CL2のマップをあらかじめ用意しておき、マップを用いて種々の目標制御量を設定してもよい。
続いて、図10を参照して、図8の処理を実施した場合の態様を説明する。図10中の実線及び一点差線は、それぞれ加速モードでエンジン20を始動制御する場合及び充電モード(車速増加モード)でエンジン20を始動制御する場合の各種変化を示す。また、図10中の破線は従来装置(特開2007−69817号公報参照)による各種変化を示す。
まず、エンジン20の始動要求が発生するt11時点前に、VCT22がVT1に遅角制御される。そのため、自力回転できるエンジントルクを得るための最小限の圧縮比(要求圧縮比RC1)で、クランキング開始される状態に準備される。そして、t11時点でエンジン20の始動要求が発生すると、エンジン20の始動制御の準備を開始する。すなわち、第2クラッチ機構80のスリップ制御が開始される。
その後、t12時点で、第2クラッチ機構80のスリップ制御が終了される。この時点で、第2クラッチ機構80は、伝達トルク容量が車両要求トルクTreqに相当する容量に制限された状態で、スリップ締結されている。さらにt12時点で、第1クラッチ機構30のクラッチ制御量が目標クラッチ制御量CL1となるように、第1クラッチ機構30の制御が開始される。そのため、t12時点において、モータトルクの一部が用いられてエンジン20のクランキングが開始され、エンジン回転速度NEが上昇を始める。なお、この時点で、第2クラッチ機構80は、スリップ締結された状態となっているので、第1クラッチ機構30のクラッチ制御量の変動は、駆動輪50に伝達されない。
その後、第1クラッチ機構30のクラッチ制御量が目標クラッチ制御量CL1となったt13時点で、第1クラッチ機構30の制御を終了する。そしてt13時点以降に、燃料噴射を開始する。t12時点から初爆までは、エンジン20はモータトルクにより回転を与えられているので、エンジントルクは負となる。初爆以後は、エンジン20は自力で回転を始めるので、エンジントルクは正となる。
続いてエンジン回転速度NEが所定値まで上昇したt14時点で、目標バルブタイミングVT1から目標バルブタイミングVT2への切り換えが開始される。すなわち、バルブタイミングは、進角速度ΔVTで進角量δVTが進角制御される。図示されるように、加速モードでエンジン20を始動させる場合は、充電モードでエンジン20を始動せる場合と比較して、進角量δVT及び進角速度ΔVTが大きい。それゆえ、加速モードでエンジン20が始動されると、速やかに大きな加速度が得られる。
またt14時点において、第1クラッチ機構30の目標クラッチ制御量をCL1からCL2に切り換えられる。図示されるように、加速モードでエンジン20を始動させる場合は、モータトルクの一部をエンジン20へ伝達させる。すなわち、エンジン回転速度NEを速やかに上昇させるために、エンジントルクとモータトルクの一部を用いて、NEを所定値から上昇させる。それに対して、充電モードでエンジン20を始動させる場合は、モータトルクをエンジン20へ伝達させない。すなわち、エンジントルクのみでエンジン回転速度NEを所定値から上昇させる。なお、図10の例では、完爆したt14時点でエンジン回転速度NEが所定値に達している。
t14時点後、エンジン回転速度NEはさらに上昇し、エンジン回転速度NEはモータ回転速度NMに近い値になる。そこで、第1クラッチ機構30の目標クラッチ制御量を、CL2から通常運転時の目標クラッチ制御量、すなわち最大クラッチ制御量に切り換える制御が開始される。そして、t15時点において、第1クラッチ機構30の締結を完了させる。この時点で、第2クラッチ機構80は、スリップ締結された状態のままなので、第1クラッチ機構30のクラッチ制御量の変動は、駆動輪50に伝達されない。
第1クラッチ機構30の締結が完了すると、負のモータトルクによりエンジン20のオーバーシュートが抑制される。その結果、モータ回転速度NMとエンジン回転速度NEとは、ほぼ同じ値になる。
モータ回転速度NMとエンジン回転速度NEが所定時間にわたってほぼ一致した後、第2クラッチ機構80の再締結を開始する。すなわち、第2クラッチ機構80のスリップ制御を開始する。第2クラッチ機構80のクラッチ制御量を除除に増大させ、t16時点において、第2クラッチ機構80の再締結を完了させる。その結果、モータ回転速度NMと、エンジン回転速度NEと、TM入力回転速度とが一致する。
以上により、図10中の実線及び一点鎖線に示す本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
・破線に示す従来装置に比べて、クランキング開始時点t12でのバルブタイミングが遅角側に制御されて低圧縮比に設定されるようになる。そのため、クランキングに要するトルクが低減されるので、クランキング時の目標クラッチ制御量CL1を小さく設定できる(矢印f1参照)。よって、モータ10の負担を軽減できる。
・t14時点の直後には、破線に示す従来装置に比べて、バルブタイミングが進角側に制御されて高圧縮比に設定されるようになる。そのため、エンジン20の出力が迅速に上昇するので、要求モータアシストトルクTMを低減できる(矢印f2参照)。よって、モータ10の負担を更に軽減できる。
・エンジン20の始動要求発生時において要求される車両走行加速度が大きいほど、バルブタイミングの進角量δVTが大きく設定される。そのため、要求される車両走行加速度が大きいほど、内燃機関の出力を大きくすることができる。
・エンジン20の始動要求発生時において要求される車両走行加速度が大きいほど、バルブタイミングの進角速度ΔVTが大きく設定される。よって、要求される車両走行加速度が大きいほど、エンジン回転速度NEが急速に上昇するので、エンジン20を迅速に始動させることができる。また、要求される車両走行加速度が小さい場合は、エンジン回転速度NEが緩やかに上昇するので、エンジン回転速度NEがモータ回転速度NMに対してオーバーシュートすることを抑制できる。
・エンジン20の始動要求発生時におけるモータ回転速度NM、すなわちエンジン20の目標回転速度が大きいほど、バルブタイミングの進角量δVTが大きく設定される。そのため、エンジン20の目標回転速度が大きいほど、エンジン20の出力を大きくして、速やかに目標回転速度に到達させることができる。
・エンジン20の始動要求発生時におけるモータ回転速度NM、すなわちエンジン20の目標回転速度が大きいほど、バルブタイミングの進角速度ΔVTが大きく設定される。そのため、エンジン20の目標回転速度が大きいほど、エンジン20の回転速度を迅速に上昇させて、速やかに目標回転速度に到達させることができる。
・エンジン20の始動要求発生時におけるモータ回転速度NM、すなわちエンジン20の目標回転速度が大きいほど、完爆直後の目標クラッチ制御量CL2が大きく設定される。そのため、エンジン20の目標回転速度が大きいほど、大きなモータトルクによりエンジン回転速度NEの上昇がアシストされる。
(第3実施形態)
上記各実施形態では、電動のVCT22を採用しているのに対し、本実施形態では、エンジン20の駆動力により作動する閉弁時期調整機構(以下、MRF−VCTと記載)を採用している。このMRF−VCTは、クランク軸21とともに回転する駆動側回転体、従動側回転体、従動側回転体にブレーキトルクを付与する磁気粘性流体(Magneto Rheological Fluid)、磁気粘性流体に付与する磁気量を制御する磁気制御手段、等を有して構成されている(特開2008−31905号公報参照)。
磁気粘性流体は付与される磁気量に応じて見かけ上の粘性が変化する流体であるため、磁気量を制御することでブレーキトルクの大きさを制御できる。従動側回転体には、駆動側回転体から伝達される駆動トルクと、磁気粘性流体によるブレーキトルクが付与される。そのため、ブレーキトルクを制御することで、従動側回転体の回転トルクを制御することができ、ひいては駆動側回転体と従動側回転体との回転位相差を調整できる。
したがって、MRF−VCTは、クランク軸21が回転している時(エンジン運転時)でなければ吸気バルブの閉弁時期を調整することができない。そのため、上記各実施形態では、目標バルブタイミングVT1となるようVCT22の作動を制御(始動前準備制御)することを、エンジン停止時に実施していたが、MRF−VCTを採用する本実施形態では、前回のエンジン運転を自動停止させる時に始動前準備制御を実施する。
図11は、本実施形態にかかる始動前準備制御の手順を示すフローチャートであり、この処理は、ECU60が有するマイクロコンピュータにより、エンジン運転時に常時繰り返し実行される。
先ず、図11に示すステップS20Aにおいて、減速走行等によりエンジン自動停止要求が生じたと判定する。自動停止要求が生じた場合(S20A:YES)には、図3のステップS31〜S37と同様の処理を実施する。すなわち、図4のブロック図にしたがってフリクショントルクTf、要求圧縮比RC1、目標バルブタイミングVT1、要求圧縮トルクTRC1、要求クランキングトルクTc、目標クラッチ制御量CL1を算出する(S31〜S36)。そして、目標バルブタイミングVT1となるようMRF−VCTの作動を制御する(S37)。
続くステップS38Aでは、燃料噴射を停止させてエンジン20を停止させる。続くステップS39Aでは、エンジン停止時のクランク角に基づき、図3のステップS30と同様にして初爆気筒を設定する。
以上により、本実施形態によれば、エンジン20を自動停止させる直前に目標バルブタイミングVT1となるようMRF−VCTの作動を制御するので、エンジン停止時には吸気バルブの閉弁時期を調整することができない閉弁時期調整機構(MRF−VCT)を採用した場合であっても、クランキング開始時に低圧縮比に制御しておくことを実現できる。なお、始動時制御については、MRF−VCTを採用した本実施形態についても図3のステップS40〜S50又は図8のステップS51〜S62と同様の制御を実施する。
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
・図6に示す例では、クラッチ制御量がCL1に達したt3時点で燃料噴射を開始しているが、自動始動要求が発生したt2時点から、目標バルブタイミングVT2に向けてVCT22の進角作動を開始させるt4時点までの期間であれば、燃料噴射開始時期を変更してもよい。例えば、自動始動要求発生時点で噴射開始させてもよいし、クランキング開始時点で噴射開始させてもよい。
・図6又は図10に示す例では、エンジン回転速度NEが所定値NE1に達した時点(完爆のt4時点又はt14時点)から、圧縮比増大制御手段S48又はS61による進角制御(高圧縮化制御)を開始させているが、クランキング開始のt2時点又はt12時点から完爆のt4時点又はt14時点までの期間であれば、どのタイミングで高圧縮化制御を開始させてもよい(図6中の一点鎖線参照)。
・上記各実施形態では、図3または図11に示す始動前準備制御において、自動始動要求が発生する前の時点で目標バルブタイミングVT1および目標クラッチ制御量CL1を算出しているが、これらの算出を、エンジン始動要求が発生した時点で再度算出して再設定してもよいし、これらの算出を、自動始動要求発生の前に実施することを廃止して自動始動要求発生の時点で実施するようにしてもよい。
・上述した図2の制御では、ステップS12にてアクセル開度が所定値AO1より大きいと判定された場合に、そのアクセル開度が所定値AO2より大きいか否かに応じて2種類のモード(急加速モードと緩加速モード)から選択している。これに対し、ステップS14の判定および複数種類のモードから選択することを廃止して、アクセル開度が所定値AO1より大きいと判定された場合に、車両要求トルクTreqに応じてエンジントルクおよびモータトルクの出力を調整するようにしてもよい。
具体的には、図5のブロックB21において、車両要求トルクTreqが大きいほど、要求エンジントルクTEを大きく設定し、要求エンジン始動時間Tsを短く設定し、要求モータアシストトルクTMを大きく設定する。また、車両要求トルクTreqが大きいほど、初爆後の目標バルブタイミングVT2を進角側に設定し、VCT22の制御速度ΔVTを速くするように設定する。