JP5951169B2 - カメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物 - Google Patents

カメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物 Download PDF

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Description

本発明はカメラモジュール向け材料に関するものであり、さらに詳しく言うと、耐熱性が高く、ハンダリフローに耐えることができ、(ハンダペーストを印刷等で塗布した基板上に材料をのせ、リフロー炉でハンダを溶融させ基板と固定する)表面実装(Surface Mount Technology,略してSMT)加工が可能な「レンズバレル部」(レンズが乗る部分)及び「マウントホルダー部」(バレルを装着し、基板に固定する部分)、更には、「CMOS(イメージセンサー)の枠」、「シャッター及び、シャッターボビン部」などの、生産工程中、使用中に発塵し、その塵がCMOS(イメージセンサー)に乗っかる可能性がある全てのブラスチック部分に使用する液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
AV情報をデジタル形式で伝達する時、情報の入出力に用いる主要な装置としてカメラモジュールがある。携帯電話、ラップトップコンピューター、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等に搭載されており、撮影の機能として静的なスチール撮影機能のみでなく、動的なモニタリング機能(例えば自動車の後部モニター等)を有するものもある。
これまで携帯電話に搭載するカメラモジュールは、ハンダリフローに耐えられるプラスチックレンズがなかったため、(カメラモジュール全体として)表面実装することはできなかった。このため、これまでの基板(への)組立工程は、レンズ部分を除いたモジュール部品を表面実装し、その後レンズを装着するか、あるいは、カメラモジュール全体を組立てた後、他の方法により基板に装着することで対応していた。
近年、ハンダリフローに耐えられる安価なプラスチックレンズが開発され、カメラモジュール全体の表面実装対応が可能な環境になった。そこで、耐熱性が高く薄肉成形が可能な液晶ポリマーを「レンズバレル部」(レンズが乗る部分)及び「マウントホルダー部」(バレルを装着し、基板に固定する部分)、更には、「CMOS(イメージセンサー)の枠」、「シャッター及び、シャッターボビン部」に使用するようになってきた(特許文献1参照)。
一般的な固定焦点の光学系を搭載したカメラモジュールでは、CMOS(イメージセンサー)が信号処理チップ上に積層チップを搭載した構成となっており、その組立工程において、光学部品系の手動焦点調整(ネジでマウントホルダー部に螺合されたレンズバレル部を螺動し、レンズとイメージセンサー間距離を変化させ、焦点距離を最適化する調整)が必要となる(特許文献1参照)。ところが、従来の液晶ポリマー組成物では、この焦点調整工程において、レンズバレル部の螺動時にレンズバレル、マウントホルダー両部のネジ摩り合わせ部分、及び両成形品表面からの樹脂組成物からなる粉(パーティクル)が脱落し、それが、CMOS(イメージセンサー)上、あるいは(IRカット)フィルター上に乗り、画像不良を起こす大きな原因の1つとなっている。粉の脱落は該部材を組み込んだ製品の使用中にも生じるおそれがある。従って、カメラモジュールのレンズバレル部、マウントホルダー部、CMOS(イメージセンサー)の枠、シャッター及び、シャッターボビン部などに使用する材料として、粉(パーティクル)の脱落の少ない液晶ポリマー組成物の提供が求められていた。
上述したカメラモジュール部品に使用する材料として、液晶ポリマーを使用する例としては、上記特許文献1の他に数例挙げられるが(特許文献2及び3、参照)、上記組立工程中の粉(パーティクル)の発生を抑制する方法、あるいは発生の少ない樹脂組成物の開発等については、まったく触れられていない。
樹脂製の反射板用途に液晶ポリエステル樹脂に酸化チタンを白色顔料として使用し、その反射率、耐熱寸法安定性、色相安定性を改良することに言及した文献(例えば、特許文献4−6参照)はあるが、特許文献には(液晶ポリエステル樹脂への一般的フィラー例として、多く記述されているものの)実施例において、酸化チタンをフィラーとして評価、記述した例は意外に少ない。表面処理した酸化チタン少量配合することにより、成形時の金型の汚れ、成形品表面の光沢度低下を抑制する試みがなされている例(特許文献7参照)が目に付くぐらいである。強度や弾性率、異方性等をバランスよく維持改良するため、タルクとガラス繊維等が配合された液晶ポリエステル樹脂に更に酸化チタンを配合することにより、本用途のような厳しい成形体の表面転写性―表面(から)の脱落物発生を極力減少させる―を有する樹脂組成物作成に関する好ましいタルク等の板状物質、及びガラス繊維等の繊維状物質、酸化チタン、についての知見は得られていない。
特開2006−246461号公報 特開2008−028838号公報 特開2008−034453号公報 特公平06−38520号公報 特開2004−256673号公報 特開2007−182505号公報 特開平08−302172号公報
以上述べたように従来の液晶ポリマー樹脂組成物からなるカメラモジュールのレンズバレル部材、マウントホルダー部材等で、液晶ポリマー樹脂組成物の持つ良好な物性としての、剛性、耐熱性、薄肉加工性、機械強度を維持しながら、カメラモジュール組立工程中および使用中に、製品合格率および製品性能を低下させる原因となる粉(パーティクル)の発生を制御することは、現在のところ、できていない。
本発明は、このような現在未解決であるが、重要な問題を解決しようとするものであり、良好な剛性、耐熱性、薄肉加工性、機械強度をバランスよく有し、しかも、カメラモジュール組立工程中および使用中の粉(パーティクル)の発生量の少ない、カメラモジュール部材に適した液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形材料を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記問題を解決するため、種々検討した結果、特定の粘度範囲の液晶ポリエステルに特定粒径のタルクを特定量、特定のガラス繊維を特定量、更には特定量の酸化チタンを併せ配合することにより、射出成形品の表面転写性に優れ、モジュールの組立加工時、使用時において、表面の脱落物の発生が少ない材料を得ることができ、該組成物から形成されたカメラモジュール部材は、組立工程中の粉塵の発生が少なく、かつ、ウェルド部分においても充分な機械強度を持つこと、を見出し、本発明に至った。
本発明の第1は、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4´―ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸、イソフタル酸を配合した組成物を重縮合して得られる全芳香族液晶ポリエステル100質量部に対して、充填材として数平均粒径が23μmのタルク15〜60質量部、数平均繊維長が100μmのガラス繊維25〜50質量部、数平均粒径が0.25μmの酸化チタン6〜20質量部、樹脂着色用のカーボンブラック2〜10質量部配合してなり、それら以外の充填材、樹脂着色剤を含有せず、荷重たわみ温度が262℃以上、せん断速度100sec−1、370℃における溶融粘度が70〜100Pa・Sであることを特徴とするカメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
本発明の第2は、前記全芳香族ポリエステルが、その原料モノマーであるp−ヒドロキシ安息香酸、4,4´―ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸、イソフタル酸を、それぞれ、60:20:15:5のモル比で配合した組成物を重縮合して得たことを特徴とする、請求項1のカメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである
本発明の第3は、本発明の第1または第2の樹脂組成物を射出成形により成形した時、その成形品表面からの以下の定義による脱落物数が240個以下であることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
脱落物数:7mm(外径)×4mm(高さ)×6mm(内径)の内側に0.3mmピッチ、溝深さ0.2mmのねじ切り構造を有する、円筒状の射出成形体2個を、純水266mL中で40kHz、480Wの出力にて30秒間超音波洗浄後に、純水10mL中に含まれる最大径が2μm以上の範囲にある粒子の数
本発明の第4は、本発明の第1、第2または第3のいずれかの液晶ポリエステル樹脂組成物から射出成形により製造されたカメラモジュール部品に関するものである。
本発明に係る液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形体は、良好な剛性、耐熱性、薄肉加工性、機械強度を有し、かつ、表面転写性、表面脱落物特性にも優れるため、表面実装(SMT)可能な、しかも組立工程中および使用中の粉(パーティクル)の発生量の少ない最適なカメラモジュール用部材を提供できる。
本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂とは、異方性溶融体を形成するものであり、これらの中で、実質的に芳香族化合物のみの重縮合反応によって得られる全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を構成する液晶ポリエステル樹脂の構造単位としては、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との組み合わせからなるもの、異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるもの、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの等が挙げられ、具体的構造単位としては、例えば下記のものが挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:
Figure 0005951169
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:
Figure 0005951169
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:
Figure 0005951169
Figure 0005951169
耐熱性、機械的物性、加工性のバランスの観点から、好ましい液晶ポリエステル樹脂は、上記構造単位(A1)を30モル%以上有するもの、更に好ましくは(A1)と(B1)をあわせて60モル%以上有するものである。
特に好ましい液晶ポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を80〜100モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、および、(I)(II)(III)のいずれかと脱縮合反応可能な他の芳香族化合物0〜20モル%を重縮合してなる融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステル、または、p−ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を90〜99モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、および、(I)(II)(III)と脱縮合反応可能な他の芳香族化合物1〜10モル%(両者をあわせて100モル%とする。)を重縮合してなる融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステルである。
上記構造単位の組み合わせとしては、
(A1)
(A1)、(B1)、(C1)
(A1)、(B1)、(B2)、(C1)
(A1)、(B1)、(B2)、(C2)
(A1)、(B1)、(B3)、(C1)
(A1)、(B1)、(B3)、(C2)
(A1)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)
(A1)、(A2)、(B1)、(C1)
が好ましく、特に好ましいモノマー組成比としては、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(これらの誘導体を含む。)を80〜100モル%と、これら以外の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸からなる群から選択される芳香族化合物0〜20モル%(両者を合わせて100モル%とする。)であり、それらを重縮合してなる全芳香族液晶ポリエステル樹脂を生成する。p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルが80モル%未満になると、耐熱性が低下する傾向にあり、好ましくない。
本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂の製造方法としては、公知の方法を採用することができ、溶融重合のみによる製造方法、あるいは溶融重合と固相重合の2段重合による製造方法を用いることができる。具体的な例示としては、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族ヒドロキシカルボン酸化合物、及び芳香族ジカルボン酸化合物から選択されたモノマーを反応器に仕込み、無水酢酸を投入してモノマーの水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルを窒素雰囲気下の反応器に投入し、無水酢酸を加えて無水酢酸還流下にアセトキシ化を行い、その後昇温して150〜350℃の温度範囲で酢酸を留出しながら脱酢酸溶融重縮合を行うことにより、ポリエステル樹脂を製造する方法が挙げられる。重合時間は、1時間から数十時間の範囲で選択することができる。本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂の製造においては、製造前にモノマーの乾燥を行ってもよく、行わなくてもよい。
溶融重合により得られた重合体についてさらに固相重合を行う場合は、溶融重合により得られたポリマーを固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素などの不活性雰囲気下において200〜350℃の温度範囲で1〜30時間熱処理するなどの方法が好ましく選択される。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、また攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重縮合用触媒として従来公知のものを使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチアネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒等が挙げられる。
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置などが挙げられる。
本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂の形状は、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれでもよいが、充填材との混合時の分散性の観点から、粉末状あるいは顆粒状が好ましい。
<タルクについて>
本発明に用いるタルクは、樹脂組成物を構成する材料として使用されている公知のタルクであれば化学組成上、特別な制限は無い。
但し、理論上の化学構造は含水ケイ酸マグネシウムであるが、特に天然物である場合は、酸化鉄、酸化アルミニウム等の不純物を含むことがあり、タルクに含有される不純物の合計が、10質量%未満であるタルクが本発明に用いるタルクとしては、好ましい。
本発明においては、鱗片状でなめらかな物理的形状が剛性、低摩耗性に係る特性バランスに関与していると考えるが、これらのバランスが最も効果的に発揮できるのは、レーザー回折法による数平均粒径が10〜50μmの範囲の範囲にあるものである。10μm未満であるとコンパウンド時のハンドリングが難しく、かつ、成形品表面からの脱落物が多くなる。また、50μmを超えると、成形品中での分散性が悪くなると共に、その表面が粗くなり、成形品表面からの脱落物が多くなる。このため、平均粒径としては、10〜50μmであることが好ましい。
タルク、及びガラス繊維を必須材料として共に配合する本発明の場合、ガラス繊維配合量とのバランスにもよるが、タルクの配合量としては、液晶ポリエステル100質量部に対して15〜60質量部の範囲が好ましい。タルクの配合量が60質量部を超えると場合は、本発明組成物の強度及び耐衝撃性が低下する。また、タルクの配合量が、15質量部未満の場合は、配合効果が不十分であり、表面転写性の改善による成形品表面からの脱落物の低減という本発明の目的を達成することができない。
<ガラス繊維について>
本発明に用いるガラス繊維としては、その数平均繊維長は100〜200μmであることが好ましい。タルク配合量とのバランスにもよるが、数平均繊維長が100μm以上であれば、比較的少ない配合量で、強度や弾性率を向上させることができるため、タルク、及びガラス繊維を必須材料として共に配合する本発明の場合には、これらの成形品中での均一分散性のため好ましいが、200μmを超えると、その表面が粗くなり、表面転写性の改善による成形品表面からの脱落物低減という本発明の目的を達成することができないばかりか、流動性、耐熱性の改良効果が不十分となる。
タルク、及びガラス繊維を必須材料として共に配合する本発明の場合、タルク配合量とのバランスにもよるが、ガラス繊維の配合量としては、液晶ポリエステル100質量部に対して25〜50質量部の範囲が好ましい。ガラス繊維の配合量が25質量部未満の場合は、強度や耐熱性の改良効果が不十分であり、ガラス繊維の配合量が60質量部を超えると場合は、その表面が明らかに粗くなり、表面転写性の改善による成形品表面からの脱落物低減という本発明の目的を達成することができない。
<酸化チタンについて>
本発明に用いる酸化チタンは、TiO2のことで、白色顔料として広く使用されているものである。高温で安定なルチル型で、数平均粒径としては、0.1〜0.5μmのものが好ましい。また、Al、Siなどの含水酸化物等で表面処理したものも使用することができる。
タルク、ガラス繊維、酸化チタンを必須材料として共に配合する本発明の場合、タルク、ガラス繊維配合量とのバランスにもよるが、酸化チタンの配合量としては、液晶ポリエステル100質量部に対して6〜20質量部の範囲が好ましい。酸化チタンの配合量が6質量部未満の場合は、表面転写性の改善による成形品表面からの脱落物低減という改善効果が小さくなり、酸化チタンの配合量が60質量部を超えると場合は、流動性が低下する。
<カーボンブラックについて>
本発明に用いるカーボンブラックは、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能な特に限定されるものではないが、その一次粒子径が20nm未満の場合には、得られる成形品の表面にブツ(カーボンブラックが凝集した細かいブツブツ状突起物)が多く発生し、その表面が粗くなる傾向にあり、好ましくない。
カーボンブラックの配合量としては、液晶ポリエステル100質量部に対して2〜10質量部の範囲が好ましい。カーボンブラックの配合量が2質量部未満であると、得られる樹脂組成物の漆黒性が低下し、遮光性に不安が出てくることになり、10質量部を超えると不経済であり、またブツ発生の可能性が高くなる。
さらに、本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して、所定の特性を付与することができる。
本発明に係る液晶ポリエステル樹脂組成物は液晶ポリエステルを溶融して他の成分と混練して得られるが、溶融混練に用いる機器および運転方法は、一般に液晶ポリエステルの溶融混練に使用するものであれば特に制限はない。好ましくは、一対のスクリュをする混練機で、ポッパーから液晶ポリエステル、タルクおよび(ペレット状)カーボンブラックを投入し、溶融混練し押し出してペレット化する方法が好ましい。これらは、2軸混練機と呼ばれるもので、これらの中でも、切り替えし機構を有することで充填材の均一分散を可能とする異方向回転式であるもの、食い込みが容易となるバレル−スクリュウ間の空隙が大きい40mmφ以上のシリンダー径を有するもの、2条タイプのもの、および、スクリュウ間の噛合いが大きいもの、具体的には、噛合い率が1.45以上のものが好ましい。
<溶融粘度範囲について>
本発明においては、このようにして得られた液晶ポリエステル樹脂組成物の剪断速度100sec−1、370℃で測定される溶融粘度が10〜100(Pa・S)の範囲にあることが必要である。樹脂粘度がこの範囲を外れると、射出成形品の表面性状が悪くなり、脱落物が増えるためである。
溶融粘度は、インテスコ株式会社製キャピラリーレオメーター(Model2010)を用い、キャピラリーとして径1.00mm、長さ40mm、流入角90°のものを用い、せん断速度100sec−1で320℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見掛け粘度測定を行い、370℃における見かけ粘度を求める。
<荷重たわみ温度について>
また、本発明においては、このようにして得られた液晶ポリエステル樹脂組成物の射出成形品の荷重たわみ温度が220℃以上であることが必要である。ここで、荷重たわみ温度とは、ASTM D648に準拠して測定された荷重たわみ温度(DTUL)を意味する。荷重たわみ温度がこの範囲を外れると、表面実装におけるハンダリフロー時の耐熱性に問題が生じるおそれがあるためである。
本発明のカメラモジュール用部材は上記組成物から射出成形で得られるが、成形品に目的とする剛性、摺動性能を発揮させるにも、上記の溶融粘度範囲が必須である。
部材の最小厚みが0.2〜0.8mmのような薄肉の場合、上記範囲の溶融粘度範囲にある樹脂組成物を用いることにより、金型内の0.2〜0.8mmの厚みの空間に高速で射出充填されたときに、金型内で均一に流動して、組成の偏りがない成形品を得ることができる。このようにして得られたカメラモジュール用部材は、機械強度、剛性にすぐれ、成形品表面からの脱落物が抑制されたものである。また、成形品に目的とするハンダリフロー性能発揮させるためにも、上記の荷重たわみ温度範囲が必須である。
なお、本発明に用いる射出成形条件あるいは射出成形機は、液晶ポリエステルの成形に一般に使用されている公知のものであれば特に制限は無い。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(試験方法)
実施例及び比較例におけるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物及びそれから得られる成形体の性能の測定方法および評価方法を以下に示す。
(1)溶融粘度の測定
サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度は、キャピラリーレオメーター(インテスコ(株)社製2010)を用い、キャピラリーとして径1.00mm、長さ40mm、流入角90°のものを用い、せん断速度100sec−1で300℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見掛け粘度測定を行い、370℃における見掛け粘度を求め、試験値とした。なお、試験には、予めエアーオーブン中、150℃、4時間乾燥した樹脂組成物を用いた。
(2)ウェルド強度の測定
得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、UH−1000)を使用し、シリンダー最高温度370℃、射出速度300mm/sec、金型温度80℃にて射出成形し、13mm(幅)×80mm(長さ)×1.0mm(厚み)の中央部にウェルドのある射出成形体をウェルド部強度測定用の試験片とした。各試験片について、スパン間隔25mmでASTM D790に準拠してウェルド部の曲げ強度を測定した。
(3)荷重たわみ温度(DTUL)の測定
得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(住友重機械工業(株)製SG−25)を用いて、シリンダー最高温度370℃、射出速度100mm/sec、金型温度80℃で、13mm(幅)×130mm(長さ)×3mm(厚み)の射出成形体を得て、荷重たわみ温度測定の試験片とした。各試験片について、ASTM D648に準拠し、荷重たわみ温度を測定した。
4)脱落物数の測定
得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、UH−1000)を用いて、シリンダー最高温度370℃、射出速度300mm/sec、金型温度80℃で、7mm(外径)×4mm(高さ)×6mm(内径)の円筒の内側に0.3mmピッチ、溝深さ0.2mmのねじ切り構造を有する、円筒状の射出成形体(キャリアと称する)を得て、脱落物数測定の試験片とした。各試験片2個を純水中266mLに投入し、40kHz、480Wの出力にて30秒間超音波洗浄を実施した。超音波洗浄後の純水10mL中に含まれる試験片脱落物のうち、最大径2μm以上の範囲にあるものの数を、ソナック(株)社製SURFEX200を使用して測定し、3回の測定の平均値を測定結果とした。
液晶ポリエステル(LCP)の製造例を以下に示す。
(製造例 サーモトロピック液晶ポリエステルAの製造)
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する内容積1700Lの重合槽(神戸製鋼株式会社製)にp−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)298kg(2.16キロモル)、4,4‘−ジヒドロキシビフェニル(本州化学工業株式会社製)134kg(0.72キロモル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)90kg(0.54キロモル)、イソフタル酸(エイ・ジ・インターナショナルケミカル株式会社製)30kg(0.18キロモル)、触媒として酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.04kg、酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.10kgを仕込み、重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸386kg(3.78キロモル)を添加し、攪拌翼の回転速度45rpmで150℃まで1.5時間で昇温して還流状態で2時間アセチル化反応を行った。アセチル化終了後、酢酸留出状態にして0.5℃/分で昇温して、リアクター温度が305℃になったところで重合物をリアクター下部の抜き出し口から取り出し、冷却装置で冷却固化した。得られた重合物をホソカワミクロン株式会社製の粉砕機により目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用いて固相重合を行った。プレポリマーを該キルンに充填し、窒素を16Nm3/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で10時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が295℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。融点は360℃、溶融粘度は70Pa・Sであった。
(製造例 サーモトロピック液晶ポリエステルBの製造)
サーモトロピック液晶ポリエステルAと同様の方法にて、プレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用いて固相重合を行った。プレポリマーを該キルンに充填し、窒素を16Nm3/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で9時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が290℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。融点は350℃、溶融粘度は20Pa・Sであった。
(製造例 サーモトロピック液晶ポリエステルCの製造)
サーモトロピック液晶ポリエステルAと同様の方法にて、プレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用いて固相重合を行った。プレポリマーを該キルンに充填し、窒素を16Nm3/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で11時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が300℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。融点は370℃、溶融粘度は140Pa・Sであった。
以下の実施例で使用した無機充填材を示す。
(1)タルク:日本タルク(株)社製、「MS−KY」(数平均粒径23μm)
(2)ガラスファイバー(GF):日東紡績(株)社製、PF100E−001SC(数平均繊維長100μm、数平均繊維径10μm)
(3)酸化チタン:堺化学工業(株)社製、D−2378(数平均粒径0.25μm)
(4)カーボンブラック(CB):キャボット(株)社製、「REGAL 660」(1次粒子径24nm)
(実施例1)
前記製造例にて得た粉末状の液晶ポリエステルAを100質量部、タルクを26質量部、ガラスファイバーを34質量部、酸化チタンを9質量部、カーボンブラック3質量部をリボンブレンダーを用いて混合し、その混合物をエアーオーブン中で150℃にて2時間乾燥した。この乾燥した混合物を、シリンダーの最高温度380℃に設定したシリンダー径30mmの2軸押出機((株)池貝社製PCM−30)を用い、押出速度140kg/hrにて溶融混練して目的の液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを用い、前記の試験方法にて、各物性の測定を行った。結果を表1に示す。
(実施例2〜5及び比較例1〜5)
実施例1と同様に粉末状の液晶ポリエステル、タルク、ガラスファイバー、酸化チタン、カーボンブラックを、表1に記載した組成とした以外は、実施例1と同様の設備、操作方法により、それぞれの液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを製造した。また実施例1と同様に得られたペレットを用い、前記の試験方法にて、各物性の測定を行った。結果を表1に示す。
Figure 0005951169
*注)
1.全ての測定において、30μm以上のものは検出されなかった。
2.実施例組成物の脱落試験後のサンプルを再度同条件で超音波洗浄した場合、脱落物の発生はほとんど認められなかったのに対し、比較例組成物では、同様に再度同条件で超音波洗浄した時、更に脱落物の発生(多いものでは30個以上の発生)が認められた。
表1に示したように、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物(実施例1〜5)は、溶融粘度が本発明の規定範囲に入っており、その結果、良好な成形性を示し、また、脱落物数が少なく、荷重たわみ温度、ウェルド強度が高いという良好な結果が得られた。
それに対し、比較例1〜5のごとく本発明の規定範囲から外れる樹脂組成物の場合は、成形性、脱落物数、荷重たわみ温度、ウェルド強度、の少なくとも一つが劣っている結果となった。
本発明のカメラモジュール用樹脂組成物およびこの組成物から得られるカメラモジュール部品は、耐熱性が高く、ハンダリフローに耐えることができ、かつ該部品からの落下物が極めて少ないので、携帯電話、ラップトップコンピューター、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等における、表面実装加工が可能なレンズバレル部、マウントホルダー部、更には、「CMOS(イメージセンサー)の枠」、「シャッター及び、シャッターボビン部」などの各種用途に利用することができる。

Claims (4)

  1. p−ヒドロキシ安息香酸、4,4´―ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸、イソフタル酸からなる組成物を重縮合して得られる、融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステル100質量部に対して、充填材として数平均粒径が23μmのタルク15〜60質量部、数平均繊維長が100μmのガラス繊維25〜50質量部、数平均粒径が0.25μmの酸化チタン6〜20質量部、樹脂着色用のカーボンブラック2〜10質量部を配合してなり、それ以外の充填材、樹脂着色剤を含有せず、荷重たわみ温度が262℃以上、せん断速度100sec−1、370℃における溶融粘度が70〜100Pa・Sであることを特徴とするカメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物。
  2. 前記全芳香族ポリエステルが、その原料モノマーであるp−ヒドロキシ安息香酸、4,4´―ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸、イソフタル酸を、それぞれ、60:20:15:5のモル比で配合した組成物を重縮合して得たことを特徴とする、請求項1のカメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物。
  3. 射出成形により成形した成形品表面からの以下の定義による脱落物数が240個以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
    脱落物数:7mm(外径)×4mm(高さ)×6mm(内径)の内側に0.3mmピッチ、溝深さ0.2mmのねじ切り構造を有する、円筒状の射出成形体2個を、純水266
    mL中で40kHz、480Wの出力にて30秒間超音波洗浄後に、純水10mL中に含まれる最大径が2μm以上の範囲にある粒子の数
  4. 請求項1、2または3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から射出成形により製造されたカメラモジュール部品。
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