JP5950389B2 - リチウムシリケート系化合物、正極活物質、正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池およびそれを搭載した車両 - Google Patents

リチウムシリケート系化合物、正極活物質、正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池およびそれを搭載した車両 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池に好適に使用される正極活物質に関する。
リチウムイオン二次電池は、小型でエネルギー密度が高く、ポータブル電子機器の電源として広く用いられている。その正極活物質としては、主としてLiCoOなどの層状化合物が使われている。しかしながら、これらの化合物は満充電状態において、150℃前後で酸素が脱離しやすく、これが非水電解液の酸化発熱反応を引き起こしやすいという問題点がある。
近年、正極活物質としては、リン酸オリビン系化合物LiMPO(LiMnPO、LiFePO、LiCoPOなど)が提案されている。これらの化合物は、LiCoOのような酸化物を正極活物質とする三価/四価の酸化還元反応の代わりに、二価/三価の酸化還元反応を用いることにより熱安定性を向上させ、さらに中心金属の周りに電気陰性度の大きい元素を含むポリアニオンを配置することにより高放電電圧の得られる化合物として注目されている。
しかしながら、リン酸オリビン系化合物からなる正極材料は、リン酸ポリアニオンの大きな分子量のため、その理論容量が170mAh/g程度に制限される。さらに、LiCoPOやLiNiPOは、動作電圧が高すぎて、その充電電圧に耐え得る電解液が無いという問題がある。
そこで、安価で、資源量が多く、環境負荷が低く、高いリチウムイオンの理論充放電容量を有し、かつ高温時に酸素を放出しない正極活物質として、LiFeSiO(理論容量331.3mAh/g)、LiMnSiO(理論容量333.2mAh/g)等のリチウムシリケート系材料が注目されている。これらのシリケート系材料は、より高容量のリチウムイオン二次電池の正極活物質として期待されている。さらに、シリケート系材料は、Siの電気陰性度がPより小さいことを反映して、その放電電圧がリン酸系材料より約0.6V程度低く、CoやNiなどの異種金属元素をドープ元素として使える可能性もある。
これらのシリケート材料のうちで、現在報告されている最も高い充放電特性を示す材料は、LiFeSiOであり、160mAh/g程度の容量を示すが、現行材料のLiFePOの理論容量169.9mAh/gを超えるまでの充放電特性を得るに至っていない。
また、上記したシリケート系化合物の合成法としては、水熱合成法と固相反応法が知られている。水熱合成法によれば、粒径1〜10nm程度の微粒子を得ることが可能である。しかし、水熱合成法では、異種金属元素が固溶し難く、不純物相が混在し易いという問題がある。一方、固相反応法では、1000℃以上という高温で長時間反応させることが必要である。固相反応法であれば、異種金属元素を固溶させることは可能であるが、結晶粒が10μm以上と大きくなり、イオンの拡散が遅いという問題につながる。しかも、高温で反応させるため、冷却過程において固溶しきれない異種金属元素が析出して不純物が生成し、抵抗が高くなるという問題がある。さらに、高温まで加熱するため、リチウム欠損や酸素欠損のシリケート系化合物ができ、容量の増加やサイクル特性の向上が難しいという問題もある(下記特許文献1〜4参照)。
そこで、本発明者等は、リチウムイオン二次電池用正極材料等として有用なリチウムシリケート系材料について、サイクル特性、容量等が改善された、優れた性能を有する材料を比較的簡単な手段によって製造できる方法を見出した(下記特許文献5参照)。
特開2008−218303号公報 特開2007−335325号公報 特開2001−266882号公報 特開2008−293661号公報 国際公開第2010/089931号パンフレット
特許文献5において、たとえば実施例1に記載の鉄含有リチウムシリケート系化合物(LiFeSiO)は、60℃において充放電させた5サイクル目の放電容量が250mAh/gである。しかし、室温(30℃)で同様の充放電を行った場合、60℃と同等の電池容量が得られないことがわかった。
本発明は、上記の問題点に鑑み、室温での使用であっても高い放電容量を発現する正極活物質を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、リチウム(Li)、鉄(Fe)、珪素(Si)および酸素(O)を含み、非水電解質二次電池の正極活物質として用いられるリチウムシリケート系化合物であって、
組成式:Li 1+2y Fe 1+z SiO 4+w (0.25<y<0.6、0<z<0.2かつ0<w<1.2)で表され、
57Feメスバウアー分光法によって得られる解析結果は、初回充電前および充電後の前記リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき3価の電子状態で存在する鉄が90原子%以上であり、
放電後の前記リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価および2価の電子状態で存在し、該リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき2価の電子状態で存在する鉄が80原子%を越えることを示すことを特徴とする。
第二の本発明は、本発明のリチウムシリケート系化合物を含む非水電解質二次電池用の正極活物質であって、
Liの酸化還元電位を基準電位とし、初回(1サイクル目)1.5〜4.8V、その後1.5〜4.5Vの電圧範囲で、常温にて測定した1〜5サイクル目までの充放電容量が200mAh/g以上であるのが好ましい。
なお、本明細書において「常温」とは、日本工業規格で規定する「20℃±15℃(5〜35℃)」の範囲とする。充放電容量は、後述の実施例等と同様に、30℃における値であるのが望ましい。しかし、常温の範囲内であれば30℃における充放電容量と同等の充放電容量を示すため、30℃に限定されない。
本発明の正極活物質に含まれる本発明のリチウムシリケート系化合物は、単斜晶であり、空間群P2/nに帰属するとよい。本発明のリチウムシリケート系化合物は、LiFeSiOを基本組成とし、望ましくは、組成式:Li1+2yFe1+zSiO4+w(0.25<y<0.6、0<z<0.2かつ0<w<1.2)で表される。
また、本発明の正極活物質において、57Feメスバウアー分光法によって得られる少なくとも初回充電前、初回充電後および二回目充電後のリチウムシリケート系化合物にそれぞれ含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、異性体シフト値δ(mm/s)が+0.15〜+0.65の範囲にあることを示すのが好ましい。特に、初回充電前のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、異性体シフト値δ(mm/s)が+0.20〜+0.30の範囲にあることを示すのが好ましい。
本発明の正極活物質において、57Feメスバウアー分光法によって得られる少なくとも初回放電後および二回目放電後のリチウムシリケート系化合物にそれぞれ含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、異性体シフト値δ(mm/s)が3価の電子状態で存在する鉄に帰属される+0.05〜+0.50の範囲および2価の電子状態で存在する鉄に帰属される+0.95〜+1.20の範囲にあり、該リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき2価の電子状態で存在する鉄が80原子%を越えることを示すのが好ましい。
また、本発明の正極活物質において、57Feメスバウアー分光法によって得られる解析結果は、初回充電前および充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価の電子状態で存在し、該リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき3価の電子状態で存在する鉄が90原子%以上であることを示すのが好ましい。57Feメスバウアー分光法によって得られるさらに好ましい解析結果は、初回充電前および充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価の電子状態で存在し他の電子状態で存在しないことを示す。
また、本発明の正極活物質は、リチウムシリケート系化合物として捉えることもできる。すなわち、リチウム(Li)、鉄(Fe)、珪素(Si)および酸素(O)を含み、非水電解質二次電池の正極活物質として用いられるリチウムシリケート系化合物であって、
57Feメスバウアー分光法によって得られる解析結果は、初回充電前および充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき3価の電子状態で存在する鉄が90原子%以上であり、
放電後の前記リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価および2価の電子状態で存在し、該リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき2価の電子状態で存在する鉄が80原子%を越えることを示すことを特徴とする。なお、このリチウムシリケート系化合物は、本発明の正極活物質に含まれるリチウムシリケート系化合物の一形態であるため、このリチウムシリケート系化合物についても本明細書の正極活物質に関する記載によって説明されていることは言うまでもない。
また、上記本発明の正極活物質の製造方法は、
アルカリ金属塩から選ばれた少なくとも一種を含む溶融塩中で、二酸化炭素および還元性ガスを含む混合ガス雰囲気下において、LiSiOで表される珪酸リチウム化合物と、鉄を含む金属元素含有物質と、を300℃以上600℃以下で反応させて前駆体としてのリチウムシリケート系化合物を合成する合成工程と、
前記合成工程にて得られたリチウムシリケート系化合物に機械的エネルギーを付与するエネルギー付与工程と、
機械的エネルギーが付与された前記リチウムシリケート系化合物を熱処理する熱処理工程と、
を含み、前記エネルギー付与工程および前記熱処理工程を経て、CuKα線によるX線回折パターンにおけるLiFeSiOの(10−3)面に対応する回折ピークが(111)面に対応する回折ピークよりも高いリチウムシリケート系化合物を得ることを特徴とする。
なお、上記の製造方法で得られるリチウムシリケート系化合物は、3価の電子状態で存在する鉄を含むことが好ましい。したがって、得られるリチウムシリケート系化合物は、鉄が2価の電子状態で存在するLiFeSiOとは必ずしも一致するわけではないが、構造変化がわかるように便宜的に、LiFeSiO(単斜晶、空間群:P2/n)の回折図形に基づき、指数付けを行った。
本発明の正極活物質は、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池用正極を構成要素として含む非水電解質二次電池、非水電解質二次電池を搭載した車両の用途として適している。
本発明の正極活物質は、非水電解質二次電池の正極に用いられることで、従来よりも高容量を示す非水電解質二次電池が得られる。
実施例1、比較例1〜3および参考例1に係る正極活物質の特性X線回折パターンを示す。 実施例1に係る正極活物質の放射光X線回折パターンを示す。 実施例1に係る正極活物質を含む正極を用いたリチウム二次電池の充放電曲線を示す。 比較例1に係る正極活物質を含む正極を用いたリチウム二次電池の充放電曲線を示す。 比較例2に係る正極活物質を含む正極を用いたリチウム二次電池の充放電曲線を示す。 比較例3に係る正極活物質を含む正極を用いたリチウム二次電池の充放電曲線を示す。 実施例1に係る正極活物質を含む正極を用いたリチウム二次電池のサイクル特性を示す。 実施例1に係る正極活物質を含む正極を用いたリチウム二次電池のレート特性を示す。 実施例1に係る正極活物質について、ミリング前、ミリング後、熱処理後、初回充電後および初回放電後のそれぞれの状態における放射光X線回折パターンを示す。 実施例1に係る正極活物質について、ミリング前、ミリング後および熱処理後のそれぞれの状態における室温での57Feメスバウアー分光測定結果を示す。 実施例1に係る正極活物質について、初回充電後および初回放電後のそれぞれの状態における室温での57Feメスバウアー分光測定結果を示す。 実施例1に係る正極活物質について、二回目充電後および二回目放電後のそれぞれの状態における室温での57Feメスバウアー分光測定結果を示す。 実施例1に係る正極活物質について、十回目充電後および十回目放電後のそれぞれの状態における室温での57Feメスバウアー分光測定結果を示す。 比較例2に係る正極活物質について、ミリング前、ミリング後および熱処理後のそれぞれの状態における室温での57Feメスバウアー分光測定結果を示す。 比較例2に係る正極活物質について、初回充電後および初回放電後のそれぞれの状態における室温での57Feメスバウアー分光測定結果を示す。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、本明細書に記載した数値を任意に組み合わせることで、任意に数値範囲を構成し得る。また、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。
<正極活物質>
本発明の正極活物質は、非水電解質二次電池用の正極活物質であって、Li、Fe、SiおよびOを含むリチウムシリケート系化合物を含む。本発明の正極活物質が、Liの酸化還元電位(Li/Li)を基準電位とし、初回(すなわち1サイクル目)1.5〜4.8V、その後1.5〜4.5Vの電圧範囲で、常温にて測定した1〜5サイクル目までの充放電容量が200mAh/g以上の高い容量を示す理由は、以下のように考えられる。
リチウムシリケート系化合物を含む正極活物質を用いた非水電解質二次電池では、充放電に伴うLiイオンの吸蔵および放出により、充電状態と放電状態とで異なる結晶構造をとることが知られている(特許文献5参照)。本発明の正極活物質に含まれるリチウムシリケート系化合物は、初回充電の前に、既に初回放電後の結晶構造に近い結晶構造を有すると推測される。そのため、初回充電時および次いで行われる初回放電時にLiイオンが移動しやすく、Liの移動量が増加し、室温であっても充放電容量の向上に繋がると考えられる。
本発明の正極活物質は、Liの酸化還元電位を基準電位とし、初回(1サイクル目)1.5〜4.8V、その後1.5〜4.5Vの電圧範囲で、常温にて測定した1〜5サイクル目までの充放電容量が200mAh/g以上の高い容量を示す。少なくとも1〜5サイクル目の充放電容量が200mAh/g以上を示すことで、本発明の正極活物質は高容量を発揮すると言えるが、サイクル特性にも優れることから、同様の充放電条件にて、好ましくは1〜25サイクルさらには1〜50サイクル目であっても、200mAh/g以上の高い容量を示す。このとき、初回充電容量(満充電容量)が250mAh/g以上さらには280mAh/g以上であるのが好ましい。なお、本発明の正極活物質に含まれるリチウムシリケート系化合物の基本組成であるLiFeSiOの理論容量は、331mAh/gである。
なお、本明細書に記載の「容量(mAh/g)」は、正極活物質の質量当たりの容量である。正極活物質の質量は、主としてリチウムシリケート系化合物の質量である。製造工程においてリチウムシリケート系化合物が炭素材料と混合されても、炭素材料の質量を除外したリチウムシリケート系化合物のみの質量である。
本発明の正極活物質に含まれるリチウムシリケート系化合物は、LiFeSiOを基本組成とするが、Li、FeおよびSiの一部が他の元素で置換されていてもよい。なお、他の元素による置換は、容量に悪影響が無い範囲で行われるのが好ましい。また、言うまでもなく、不可避的に生じるLi、Fe、SiまたはOの欠損や化合物の酸化により、上記組成式からわずかにずれたリチウムシリケート系化合物をも含む。好ましいリチウムシリケート系化合物は、組成式:Li1+2yFe1+zSiO4+w(0.25<y<0.6、0<z<0.2かつ0<w<1.2)を基本組成とする。
リチウムシリケート系化合物は、単斜晶であり、空間群P2/nに帰属するのが好ましい。リチウムシリケート系化合物の構造については、実施例の欄で詳説する。
本発明者らは、57Feメスバウアー分光法を用いて、本発明の正極活物質の種々の状態におけるリチウムシリケート系化合物の鉄の価数を調べた。本発明の正極活物質は、初回充電前および充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価の電子状態で存在するのが好ましい。57Feメスバウアー分光法によって得られる解析結果は、初回充電前のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき3価の電子状態で存在する鉄が好ましくは90原子%以上さらに好ましくは95原子%以上であることを示す。また、57Feメスバウアー分光法によって得られる解析結果は、充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき3価の電子状態で存在する鉄が好ましくは90原子%以上さらに好ましくは95原子%以上であることを示す。特に好ましくは、初回充電前および充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価の電子状態で存在し、さらには他の電子状態で存在しない。
本発明の正極活物質は、充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価および2価の電子状態で存在するのが好ましい。57Feメスバウアー分光法によって得られる解析結果は、放電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき2価の電子状態で存在する鉄が好ましくは80原子%を越えさらに好ましくは85原子%以上98原子%以下であることを示す。
なお、「充電後」および「放電後」とは、その回数(サイクル数)を問わないが、前述の充放電条件において2〜20サイクル程度が望ましい。
鉄の電子状態は、57Feメスバウアー分光法によって得られるリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果から、純鉄を基準とした異性体シフト値δ(mm/s)が+0.05〜+0.7の範囲にある場合は3価に、+0.8〜+1.5の範囲にある場合は2価に、帰属される。また、その解析結果から、吸収強度(吸収ピークの面積)を用い、それぞれの電子状態で存在する鉄の存在比を算出することができる。
具体的には、57Feメスバウアー分光法によって得られる少なくとも初回充電前、初回充電後および二回目充電後のリチウムシリケート系化合物にそれぞれ含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、異性体シフト値δ(mm/s)が好ましくは+0.15〜+0.65さらに好ましくは+0.20〜+0.40の範囲にあることを示す。
充電後の状態に関しては、57Feメスバウアー分光測定により、二回目充電後および十回目充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が全て3価であること、およびリチウムシリケート系化合物のδ値が上記範囲にあること、が確認できている。本発明の正極活物質を用いることでサイクル数に対する容量低下が抑制されることから、前述と同様の充放電条件にて、三〜九回目はもちろん、十一回目以降の充電後であってもδ値が上記範囲にあり、リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄に3価の鉄が90原子%以上含まれると推察される。リチウムシリケート系化合物において3価の鉄は、2価の鉄に比べて安定に存在している。したがって本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、充放電を繰り返しても安定したサイクル特性を示す。
特に、57Feメスバウアー分光法によって得られる初回充電前のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、好ましくは、δ(mm/s)が+0.20〜+0.30の範囲にあることを示す。
また、本発明の正極活物質は、57Feメスバウアー分光法によって得られる少なくとも初回放電後および二回目放電後のリチウムシリケート系化合物にそれぞれ含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、δ(mm/s)が3価の電子状態で存在する鉄に帰属される+0.05〜+0.50さらには+0.1〜+0.4の範囲および2価の電子状態で存在する鉄に帰属される+0.95〜+1.20さらには+1.0〜+1.15の範囲にあるのが好ましい。
放電後の状態に関しては、57Feメスバウアー分光測定により、初回放電後、二回目放電後および十回目放電後のリチウムシリケート系化合物に含まれる鉄に、2価の電子状態で存在する鉄が多いこと、およびリチウムシリケート系化合物のδ値が上記範囲にあること、が確認できている。したがって、前述と同様の充放電条件にて、三〜九回目はもちろん、十一回目以降の放電後であってもδ値が上記範囲にあり、リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄に2価の鉄が80原子%以上含まれると推察される。上述の通り、充電後のリチウムシリケート系化合物に含まれるFeが主として3価の電子状態で存在することから、本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池を充放電させると、リチウムシリケート系化合物に含まれるFeは2価と3価を繰り返す。高容量を示す本発明の正極活物質は、還元されやすい性質があるため、放電後に2価のFeが多く存在すると推察される。
さらに、本発明の正極活物質は、リチウムシリケート系化合物とともに炭素材料を含んでもよい。炭素材料は、本発明の正極活物質の導電性を高める。特に、炭素材料が、リチウムシリケート系化合物と互いに混合された状態が好ましく、導電性の向上効果が高まる。
<正極活物質の製造方法>
本発明の正極活物質の製造方法は、上記のリチウムシリケート系化合物を含む正極活物質に好適な製造方法である。本発明の製造方法は、合成工程、エネルギー付与工程および熱処理工程を含む。以下にそれぞれの工程を説明する。
<合成工程>
合成工程は、アルカリ金属塩から選ばれた少なくとも一種を含む溶融塩中で、特定の混合ガス雰囲気下において、LiSiOで表される珪酸リチウム化合物と、鉄を含む金属元素含有物質と、を反応させて、前駆体としてのリチウムシリケート系化合物(以下「リチウムシリケート系化合物前駆体」と略記)を合成する工程である。
合成工程において、ケイ酸リチウム化合物(LiSiO)はSi源、鉄を含む金属元素含有物質はFe源、として用いられる。金属元素含有物質としては、純鉄、酸化物、水酸化鉄、シュウ酸鉄、塩化鉄、硝酸鉄などの他、鉄含有水溶液をアルカリ性にして形成される鉄含有沈殿物も用いることができる。鉄含有沈殿物を用いる製造方法によれば、シュウ酸鉄などを用いた製造方法とは化学組成ひいては性質の異なるリチウムシリケート系化合物前駆体が得られる。その結果、特に、電池材料としての特性がより一層優れたリチウムシリケート系化合物前駆体の合成が可能となる。
本発明の製造方法によれば、基本組成をLiFeSiOとし、Feが他の金属元素で置換された、他の金属元素を含むリチウムシリケート系化合物を含む正極活物質を製造することもできる。その場合には、上記の純鉄、鉄化合物または鉄含有沈殿物に加え、さらに他の金属元素を含む第二の金属元素含有物質を使用すればよい。他の金属元素としては、Mg、Ca、Co、Al、Ni、Nb、Ti、Cr、Mn、Cu、Zn、Zr、V、MoおよびWからなる群から選ばれた少なくとも一種を例示できる。第二の金属元素含有物質の具体例としては、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、硝酸コバルト(II)、シュウ酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、酢酸コバルト(II)、塩化アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)、シュウ酸アルミニウム(III)、硫酸アルミニウム(III)、酢酸アルミニウム(III)、塩化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、塩化ニオブ、塩化チタン、硫酸チタン、塩化クロム(III)、硝酸クロム(III)、硫酸クロム(III)、酢酸クロム(III)、塩化マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、シュウ酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(III)、酸化マンガン(II,III)、塩化銅(II)、硝酸銅(II)、シュウ酸銅(II)、硫酸銅(II)、酢酸銅(II)、塩化亜鉛(II)、硝酸亜鉛(II)、シュウ酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛(II)、酢酸亜鉛(II)、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化バナジウム、硫酸バナジウム、酢酸モリブデン、塩化タングステンおよびこれらの水和物などが挙げられる。これらのうちの一種あるいは二種以上を第二の金属化合物として用いればよい。
また、Feおよび上記他の金属元素のうちの二種以上を含む金属元素含有沈殿物を金属元素含有物質として使用してもよい。すなわち、水溶性の無機塩、具体的には金属元素の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩などを水に溶解し、アルカリ金属水酸化物、アンモニア水などで水溶液をアルカリ性にすると、少なくとも二種の金属元素を含む沈殿物が得られる。
ケイ酸リチウムと金属元素含有物質との混合割合については、通常、珪酸リチウム1モルに対して、金属元素含有物質に含まれる金属元素が0.9〜1.2モルとなる量とすることが好ましく、0.95〜1.1モルとなる量とすることがより好ましい。
溶融塩は、アルカリ金属塩から選ばれた少なくとも一種を含む。アルカリ金属塩は、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、ルビジウム塩およびセシウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。なかでも望ましいのは、リチウム塩である。リチウム塩を必須として含む溶融塩を用いることで、リチウムシリケート系化合物前駆体へのリチウム以外のアルカリ金属元素の固溶が抑制される。
また、アルカリ金属塩の種類に特に限定はないが、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属硝酸塩およびアルカリ金属水酸化物のうちの少なくとも一種を含むことが望ましい。具体的には、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸ルビジウム(RbCO)、炭酸セシウム(CSCO)、塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビシウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸ルビジウム(RbNO)、硝酸セシウム(CsNO)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)および水酸化セシウム(CsOH)が挙げられ、これらのうちの一種を単独または二種以上を混合して使用するとよい。
たとえば、炭酸リチウム単独では、溶融温度は700℃程度であるが、炭酸リチウムとその他のアルカリ金属塩との混合物の溶融塩とする場合には、溶融温度を600℃以下とすることができ、300〜600℃という比較的低い反応温度において、目的とするリチウムシリケート系化合物を合成することが可能となる。その結果、合成反応時に粒成長が抑制されて微細なリチウムシリケート系化合物が形成される。
溶融塩は、溶融温度が600℃以下となるように上記のアルカリ金属塩から選択し、アルカリ金属塩を混合して用いるのであれば混合物の溶融温度が600℃以下となるように混合比を調節して混合溶融塩を得ればよい。混合比は、塩の種類に応じて異なるため、一概に規定することは困難である。
たとえば、炭酸リチウムを必須とし他の炭酸塩を含む炭酸塩混合物を溶融塩として使用するのであれば、通常、炭酸塩混合物全体を100モル%としたとき、炭酸リチウムを30モル%以上さらには30〜70モル%含むことが好ましい。炭酸塩混合物の具体例として、炭酸リチウム30〜70モル%、炭酸ナトリウム0〜60モル%および炭酸カリウム0〜50モル%からなる混合物を挙げることができる。このような炭酸塩混合物のさらに好ましい具体例として、炭酸リチウム40〜45モル%、炭酸ナトリウム30〜35モル%および炭酸カリウム20〜30モル%からなる混合物を挙げることができる。
なお、アルカリ金属硝酸塩およびアルカリ金属水酸化物の溶融温度(融点)は高くても450℃程度(水酸化リチウム)であるため、硝酸塩または水酸化物のうち一種を単独で含む溶融塩でも、低い反応温度を実現することができる。
合成工程では、上記の溶融塩中で、二酸化炭素および還元性ガスを含む混合ガス雰囲気下において、上記の原料混合物を300℃以上600℃以下で反応させることが必要である。
具体的な反応方法については特に限定的ではないが、通常は、上記したアルカリ金属塩から選ばれた少なくとも一種を含む溶融塩原料、珪酸リチウム、金属元素含有物質を秤量し、必要に応じてボールミル等を用いて均一に混合した後、溶融塩原料の融点以上に加熱して溶融塩原料を溶融させればよい。これにより、溶融塩中において、リチウム、珪素および鉄の反応が進行して、目的とするリチウムシリケート系化合物前駆体を得ることができる。
この際、珪酸リチウムおよび金属元素含有物質と、溶融塩原料と、の混合割合については特に限定的ではなく、溶融塩中において、原料を均一に分散できる量であればよく、たとえば、珪酸リチウム化合物と鉄源の合計量100質量部に対して、溶融塩原料の合計量が20〜300質量部の範囲となる量であることが好ましく、50〜200質量部さらには60〜100質量部の範囲となる量であることがより好ましい。
溶融塩中における珪酸リチウムと金属元素含有物質との反応温度は、300〜600℃さらには400〜560℃であればよい。300℃未満では、溶融塩中に酸化物イオン(O2−)が放出されにくく、リチウムシリケート系化合物が合成されるまでに長時間を要するため、実用的ではない。また、600℃を超えると、得られるリチウムシリケート系化合物の粒子が粗大化し易くなるため好ましくない。
上記した反応は、反応時において、鉄元素を二価イオンとして溶融塩中に安定に存在させるために、二酸化炭素および還元性ガスを含む混合ガス雰囲気下で行う。この雰囲気下では、反応前の酸化数が二価以外の鉄元素であっても二価の状態で安定に維持することが可能となる。二酸化炭素と還元性ガスの比率に特に限定はないが、還元性ガスを多く用いると、酸化雰囲気を制御する二酸化炭素が減少するため、溶融塩原料の分解が促進されて反応速度が速くなる。しかし、還元性ガスが過多では、高過ぎる還元性によりリチウムシリケート系化合物前駆体の二価の鉄元素が還元されて、反応生成物が破壊するおそれがある。そのため、好ましい混合ガスの混合比率は、体積比で、二酸化炭素100モルに対して還元性ガスを1〜40モルさらには3〜20モルとすることが好ましい。還元性ガスとしては、たとえば、水素、一酸化炭素などを用いることができ、水素が特に好ましい。
二酸化炭素と還元性ガスの混合ガスの圧力については、特に限定はなく、通常、大気圧とすればよいが、加圧下、あるいは減圧下のいずれであってもよい。
珪酸リチウム化合物と金属元素含有物質との反応時間は、通常、10分〜70時間とすればよく、好ましくは5〜25時間さらには10〜20時間とすればよい。
上記の反応終了後、冷却し、フラックスとして用いたアルカリ金属塩を除去することで、前駆体としてのリチウムシリケート系化合物が得られる。アルカリ金属塩を除去する方法としては、反応後の冷却により固化したアルカリ金属塩を溶解できる溶媒を用いて、生成物を洗浄することによって、アルカリ金属塩を溶解除去すればよい。たとえば、溶媒として、水を用いるとよい。
<リチウムシリケート系化合物前駆体>
上記した合成工程を経て得られるリチウムシリケート系化合物前駆体は、LiFeSiOを基本組成とする。溶融塩中において、600℃以下という低温で反応を行うことによって、結晶粒の成長が抑制され、平均粒径が数μm以下の微細な粒子となり、さらに、不純物相の量が大きく減少する。
また、比較的低温で合成されたリチウムシリケート系化合物前駆体は、微粒子状であることから比表面積がきわめて大きい。具体的には、比表面積が15m/g以上、30m/g以上さらには35〜50m/gであるのが好ましい。なお比表面積は、BET吸着等温式を用いた窒素物理吸着法により測定することができる。
さらに、57Feメスバウアー分光法を用いて、このリチウムシリケート系化合物前駆体のFeの価数を調べたところ、ほとんどのFeは2価の電子状態で存在し、3価の状態で存在するFeが少ないことがわかっている。
<エネルギー付与工程>
エネルギー付与工程は、合成工程にて得られたリチウムシリケート系化合物前駆体に機械的エネルギーを付与する工程である。リチウムシリケート系化合物前駆体に機械的エネルギーを付与することにより、後述の熱処理工程後、CuKα線によるX線回折(XRD)パターンにおけるLiFeSiOの(10−3)面に対応する回折ピークが(111)面に対応する回折ピークよりも高いリチウムシリケート系化合物が得られる。なお、(10−3)面に対応する回折ピークは回折角2θ=33°付近(具体的には32.6°〜34.4°)に見られ、(111)面に対応する回折ピークは2θ=24°付近(具体的には23.8°〜25.4°)に見られる。したがって、エネルギー付与工程は、所望のX線回折パターンが得られる条件の下で行われるのが望ましい。
なお、エネルギー付与工程後のリチウムシリケート系化合物前駆体は、微細化し、アモルファスに近い形態をとる。そのため、エネルギー付与工程後のリチウムシリケート系化合物前駆体のXRDパターンは、エネルギー付与工程前のリチウムシリケート系化合物前駆体のXRDパターンよりも半値幅が広く、非晶質構造に近い。しかし、エネルギー付与工程後のリチウムシリケート系化合物前駆体は、熱処理工程後のXRDパターンに由来する構造を既に有すると推測される。
特に、エネルギー付与工程は、ミリングにより機械的エネルギーを付与する工程であるのが好ましい。ミリング方法に特に限定はないが、硬質のボールを試料とともに容器に収容した状態で外力によって容器を運動させることにより試料に機械的エネルギーを導入するボールミリングが好適である。ボールミリング装置としては、自転および公転により試料にエネルギーを与える遊星型、水平方向または垂直方向などへの振動により試料にエネルギーを与える振動型、のいずれも採用できる。後述の実施例において、本発明として望ましいミリング条件を示すが、前述のXRDパターンが得られさえすれば、容器の回転数、容器の振動数、ボールの種類および量、などは実施例の条件に限定されるものではない。
ミリング条件を敢えて規定するのであれば、CuKα線を光源とするX線回折測定において、ミリング前の結晶性を有するリチウムシリケート系化合物前駆体を含む試料についての(111)面由来の回折ピーク(2θ=23°〜26°に検出)の半値幅をB(111)crystal、ミリング後の試料の同ピークの半値幅をB(111)mill、とした場合にB(111)crystal/B(111)millの比が0.7〜1.1さらには0.8〜1.0の範囲であるのが望ましい。
また、ミリング中の雰囲気に特に限定はなく、大気中で行ってもよい。前述の合成工程と同様の二酸化炭素と還元性ガスの混合ガス雰囲気中でミリングを行うことで、リチウムシリケート系化合物前駆体に含まれる鉄イオンが金属状態にまで還元されることを抑制することができる。
エネルギー付与工程は、リチウムシリケート系化合物前駆体と炭素材料とをミリングする工程であってもよい。炭素材料としては、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、各種黒鉛などを用いることができる。リチウムシリケート系化合物前駆体と炭素材料との混合割合については、リチウムシリケート系化合物前駆体の質量を1として、炭素材料を0.01以上さらには0.5以上とすればよい。炭素材料は、電極において導電助材として機能するため、エネルギー付与工程において多量の炭素材料を用いてもよいが、リチウムシリケート系化合物前駆体の質量を1として、炭素材料を10以下、5以下さらには1以下とするのが実用的である。
<熱処理工程>
熱処理工程は、機械的エネルギーが付与されたリチウムシリケート系化合物を熱処理する工程である。リチウムシリケート系化合物を熱処理して得られた正極活物質は、上記のXRDパターンを示す。また、57Feメスバウアー分光法を用いて、このリチウムシリケート系化合物前駆体のFeの価数を調べたところ、リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が主として3価の電子状態で存在し、好ましくは2価の状態で存在しないことがわかっている。
熱処理工程の熱処理雰囲気に特に限定はないが、リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄イオンが金属状態にまで還元されることを抑制するために、二酸化炭素および還元性ガスを含む混合ガス雰囲気の下で行われるのが望ましい。二酸化炭素と還元性ガスの混合割合は、前述の合成工程と同様とすればよい。
熱処理温度は、400℃以上800℃以下で行うのが望ましい。熱処理により、微細化した結晶が成長すると考えられる。熱処理温度が低すぎると、結晶成長が不十分となり、非水電解質二次電池として用いた場合の充放電容量低下するため望ましくない。また、エネルギー付与工程でリチウムシリケート系化合物前駆体に炭素材料を添加する場合には、熱処理温度を500℃以上とすることで、リチウムシリケート系化合物の周りにカーボンが均一に析出しやすくなるため好ましい。一方、熱処理温度が高すぎると、リチウムシリケート系化合物の分解やリチウム欠損が生じることがあり、充放電容量が低下するので望ましくない。また、熱処理時間は、通常、30分〜10時間とすればよい。
<非水電解質二次電池用正極>
本発明の正極活物質は、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池用正極用活物質として有効に使用できる。本発明の正極活物質を用いる正極は、通常の非水電解質二次電池用正極と同様の構造とすることができる。
たとえば、本発明の正極活物質に、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(VaporGrownCarbonFiber:VGCF)等の導電材、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidineFluoride:PVdF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等のバインダー、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶媒を加えてペースト状として、これを集電体に塗布することによって正極を作製できる。導電材の使用量については、特に限定的ではないが、たとえば、正極活物質100質量部に対して、5〜30質量部とすることができる。また、バインダーの使用量についても、特に限定的ではないが、たとえば、正極活物質100質量部に対して、5〜20質量部とすることができる。また、その他の方法として、正極活物質と、上記の導電材およびバインダーを混合したものを、乳鉢やプレス機を用いて混練してフィルム状とし、これを集電体へプレス機で圧着する方法によっても正極を製造することが出来る。
集電体としては、特に限定はなく、従来から非水電解質二次電池用正極として使用されている材料、たとえば、アルミ箔、アルミメッシュ、ステンレスメッシュなどを用いることができる。さらに、カーボン不織布、カーボン織布なども集電体として使用できる。
本発明に係る非水電解質二次電池用正極は、その形状、厚さなどについては特に限定的ではないが、たとえば、活物質を充填した後、圧縮することによって、厚さを10〜200μm、より好ましくは20〜100μmとすることが好ましい。したがって、使用する集電体の種類、構造等に応じて、圧縮後に上記した厚さとなるように、活物質の充填量を適宜決めればよい。
<非水電解質二次電池>
上記した非水電解質二次電池用正極を用いる非水電解質二次電池は、公知の手法により製造することができる。すなわち、上記した非水電解質二次電池用正極と、公知の負極と、公知の電解質と、さらにその他公知の電池構成要素とを使用して、常法にしたがって、二次電池を組立てればよい。
負極材料としては、公知の金属リチウムを用いることで、リチウム二次電池が構成される。また、黒鉛などの炭素系材料の他、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化可能な元素又は/及びリチウムと合金化可能な元素を含む材料も、負極材料として使用可能である。リチウムと合金化反応可能な元素として、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが挙げられる。中でも、珪素(Si)または錫(Sn)がよい。具体的には、珪素化合物(SiO、0.5≦x≦1.5)、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などが挙げられる。特に、Siは理論容量が大きいため好ましく、SiO(0.5≦x≦1.5)とすることで、Siの充放電時の体積変化を低減することができる。
電解質としては、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非水系溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5〜1.7mol/Lの濃度で溶解させた溶液などを使用可能である。
上記の非水電解質二次電池は、車両に搭載することができる。車両は、電気車両またはハイブリッド車両などであるとよい。非水電解質二次電池は、たとえば、車両に搭載された走行用モータに連結されていて、駆動源として用いられているとよい。この場合には、長時間高い駆動トルクを出力させることができる。また、非水電解質二次電池は、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器などの、車両以外のものにも搭載してもよい。
以上、本発明の正極活物質池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
<参考例1:リチウムシリケート系化合物前駆体の合成>
(合成工程)
珪酸リチウム(LiSiO:キシダ化学株式会社製、純度99.5%)0.03モルと、鉄(高純度化学株式会社製、純度99.9%)0.03モルとの混合物に、アセトン20mLを加えてジルコニア製ボールミルにて500rpmで60分間混合し、乾燥した。これを炭酸塩混合物と混合した。炭酸塩混合物は、炭酸リチウム(キシダ化学株式会社製、純度99.9%)と、炭酸ナトリウム(キシダ化学株式会社製、純度99.5%)と、炭酸カリウム(キシダ化学株式会社製、純度99.5%)とを、0.435モル:0.315モル:0.25モルのモル比で混合して得た。混合割合は、珪酸リチウムと鉄との合計量100質量部に対して炭酸塩混合物が90質量部とした。
上記混合物にアセトン20mLを加えてジルコニア製ボールミルにて500rpmで60分間混合し、乾燥した。その後、得られた粉体を金坩堝に入れ、二酸化炭素(流量100mL/分)と水素(流量3mL/分)の混合ガス雰囲気下にて電気炉で500℃に加熱し、炭酸塩混合物が溶融した状態で13時間反応させた。
反応後、溶融塩の温度が400℃になった時点で、反応系である炉心全体を電気炉から取り出し、混合ガスを通じた状態で室温まで急冷した。
次いで、得られた反応物に水20mLを加えて乳鉢ですりつぶし、水を用いて洗浄と濾過を繰り返して、塩が除去された粉体を得た。この粉体を100℃の乾燥機に入れて1時間程度乾燥し、リチウムシリケート系化合物前駆体を得た。
<実施例1>
以下の手順に従って、リチウムシリケート系化合物を含む正極活物質を製造した。
(エネルギー付与工程)
上記の手順で得られた粉体(リチウムシリケート系化合物前駆体)とアセチレンブラック(AB)とを質量比5:4で混合し、メカニカルミリング装置(フリッチュ・ジャパン株式会社製、遊星型ボールミルP−7)を用い、大気雰囲気下において800rpmで5時間のメカニカルミリング処理を行い、混合物に対して機械的エネルギーを付与した。本工程は、ジルコニア製で容積45ccのボールミル用粉砕容器に、φ4mmジルコニア製ボールを50gおよび混合物を360mg入れて行った。
(熱処理工程)
次いで処理後の粉体を、体積比で二酸化炭素と水素が100:3の混合ガス雰囲気下、700℃で2時間加熱する熱処理を行い、正極活物質を得た。
<比較例1>
エネルギー付与工程におけるメカニカルミリング処理を700rpmで行った他は、実施例1と同様の手順で正極活物質を製造した。
<比較例2>
エネルギー付与工程におけるメカニカルミリング処理を450rpmで行った他は、実施例1と同様の手順で正極活物質を製造した。
<比較例3>
エネルギー付与工程におけるメカニカルミリング処理を200rpmで行った他は、実施例1と同様の手順で正極活物質を製造した。
<評価>
(粉体のX線回折測定)
実施例、比較例および参考例の粉体について、CuKα線を用いたXRD測定を行った。結果を図1に示した。参考例1の粉体のXRDパターンには、(111)面に相当する2θ=24.42°(面間隔d=3.64Å)に最も強度の高いピークが検出された。また、次に強度が高いピークが、(10−3)面に相当する2θ=33.23°(面間隔d=2.69Å)に検出された。このXRDパターンは、単斜晶であり空間群P2/nに帰属するLiFeSiOの結晶構造に由来する回折パターンに一致した。比較例1〜3の粉体のXRDパターンは、参考例1の粉体のXRDパターンとほぼ一致していた。つまり、エネルギー付与工程および熱処理工程を経ても、結晶構造に変化はなかった。
一方、実施例1の粉体のXRDパターンには、(10−3)面に相当する2θ=33.18°(d=2.70Å)に最も強度の高いピーク(▽で示した)が検出された。また、(111)面に相当する2θ=24.21°(d=3.67Å)に検出されたピーク(▼で示した)は、▽で示した回折ピークよりも強度が低かった。つまり、エネルギー付与工程において粉体に十分なエネルギーが付与されると、ミリング前後で結晶構造が変化することがわかった。また、実施例1の粉体のXRDパターンでは、他の粉体のXRDパターンと比較して、回折ピークの半値幅が広かった。つまり、実施例1の粉体は微細であることがわかった。
また、図1に示した種々の粉体は、それぞれ、Fe、LiSiOおよびカーボンに対応する回折ピークを含んでいることがわかった。すなわち、得られた粉体には、Fe、LiSiOまたはカーボンを含む相が微量に含まれることがわかった。
さらに、実施例1の粉体に対しては、放射光(SPring8:ビームラインBL19B2、波長=0.7Å)を用いたXRD測定を行った。この結果について、LiFeSiOのモデルを基に、リートベルト解析を行った。解析結果を図2に示した。実測値は、リチウム鉄シリケート相(●で示す)、シリケート(LiSiO)相(■で示す)、酸化鉄(Fe)相(◆で示す)に対応する回折ピークが検出された。リチウム鉄シリケート相は、単斜晶であり空間群P2/nに帰属し、その格子パラメータはa=8.203(2)Å、b=5.015(1)Å、c=8.280(4)Å、β=98.66(5)°であった。なお、括弧内の数字は標準偏差を表す。
なお、さらに詳しい解析によれば、実施例1の粉体に含まれるリチウムシリケート系化合物は、Si原子とO原子とが四面体構造を形成していることがわかった。また、少なくとも一部のLiイオンとFeイオンとが同じサイトを占有することも明らかになった。実施例1の粉体に含まれるリチウムシリケート系化合物では、LiイオンおよびFeイオンのサイトの合計を1としたとき、Liイオン:Feイオン=0.6:0.4の割合で存在することがわかった。同じサイトを占有するLiイオンとFeイオンとの割合は、Liイオン:Feイオン=0.8:0.2から0.3:0.7さらには0.8:0.2から0.7:0.3の範囲であるのが好ましいと言える。
(元素分析)
参考例1、比較例2および実施例1の粉体に対して、ICP発光分光分析装置(Rigaku and SPECTRO社製のCIROS−120EOP)を用いて元素分析を行った。酸素含有量は、差分法により算出した。結果を表1に示した。実施例1の粉体の主成分は、LiFeSiOを基本組成とし、Liサイトに炭酸塩由来の微量のNaおよびKを含み、酸素が過剰のリチウムシリケート系化合物であった。
(二次電池特性)
実施例および比較例の粉体を正極活物質として用いてリチウム電池を作製し、充放電試験を行った。
正極活物質:アセチレンブラック(AB):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)=17:5:1(質量比)の混合物約8mgを混練した後シート状にして、アルミニウム製でメッシュ状の集電体(株式会社ニラコ製、アルミニウム100mesh金網)に圧着して約1cmの正極活物質層をもつ電極を製作し、140℃で3時間真空乾燥したものを正極として用いた。その後、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=3:7(体積比)にLiPFを溶解して1mol/Lとした溶液を電解液として用い、セパレータとしてポリプロピレン膜(セルガード製、Celgard2400)、負極としてリチウム金属箔(φ12mm、厚さ500μm)を用いたコイン電池を試作した。
このコイン電池について、30℃にて充放電試験を行った。試験条件は、初回充電:4.8Vにて10時間の定電圧充電、初回放電:0.1C(0.05mA/cm)にて4.8〜1.5Vの定電流放電、それに続く2サイクル目以降の充放電:0.1C(0.05mA/cm)にて1.5〜4.5Vの定電流充放電、とした。実施例および比較例の粉体を正極活物質として用いて作製した電池の充放電曲線を、図3〜図6に示した。また、初回および2サイクル目の充放電容量を表2に示した。なお、容量は、正極活物質として使用した粉体の質量からエネルギー付与工程にて添加したABの質量を除いたリチウムシリケート系化合物の質量当たりの容量である。コイン電池に使用した正極に含まれる正極活物質の質量(ABを含まないリチウムシリケート化合物の質量)は、約3.3mg/cmであった。
また、上記の試験条件で充電を行うことで、いずれの電池もほぼ満充電となるため、表2に示した初回の充電容量は、満充電容量と考えて差し支えない。
電池1(実施例1の粉体を用いて作製したコイン電池)は、1〜5サイクル目までの充放電容量が230mAh/g以上であった。また、電池1の初回充放電容量は、300mAh/g以上であった。すなわち、実施例1の粉体を正極活物質として用いることで、高容量の二次電池が得られることがわかった。
一方、電池C3は、初回の充電により200mAh/g以上まで充電しても、その後の初回放電の容量は非常に小さくなり、不可逆容量が大きかった。電池C2は、電池C3よりは高容量を示すものの、初回放電以降の充放電容量が200mAh/gに達することはなかった。電池C1は、不可逆容量がかなり減少したが、十分に充電しても容量が稼げず、3サイクル目以降の充放電容量は200mAh/g未満であった。
また、上記の電池1を、上記の充放電試験と同様の条件で42サイクル目まで充放電させたときの充放電容量を測定した。測定結果を図7に示した。図7に示したように、電池1は、42サイクル目までの容量がほぼ低下していなかった。このことから、電池1は、サイクル特性に優れていることがわかった。
さらに、電池1のレート試験を行った。試験の条件は、放電レートを1〜5サイクル目で0.1C、6〜10サイクル目で0.2C、11〜15サイクル目で0.5C、16〜20サイクル目で1C、21〜25サイクル目で2C、26〜30サイクル目で5C、31〜55サイクル目で0.1Cとし、充電時のレートは0.1Cと一定にした。試験は30℃で行った。試験の結果を図8に示した。図8に示したように、1Cのときの放電容量は200mAh/g、5Cのときの放電容量は170mAh/gであり、優れたレート特性を発揮した。
(初回充放電後の正極活物質のX線回折測定)
充放電後のリチウムシリケート系化合物の結晶構造を評価するために、初回充電後の電池1、初回放電後の別の電池1、初回充電後の電池C2および初回放電後の別の電池C2からそれぞれ正極活物質層を取り出し、放射光(SPring8:ビームラインBL19B2、波長=0.7Å)を用いたXRD測定を行った。また、参考例1の粉体、実施例1の粉体(つまり初回充電前)、および実施例1の粉体を熱処理する前の状態であって参考例1の粉体を800rpmでミリング処理して得られた粉体、についても同様のXRD測定を行った。結果を図9に示した。
図9からも、参考例1の粉体と実施例1の粉体とでXRDパターンが異なることから、両者は結晶構造が異なることがわかった。そして、実施例1の粉体は、充放電により結晶構造が変化することもわかった。こうした結晶構造の変化は、充放電により繰り返されると推測される。
実施例1の粉体のXRDパターンと、これを正極活物質として用いた場合の初回放電後のXRDパターンと、を比較すると、両者はほぼ一致した。すなわち、実施例1の粉体に含まれるリチウムシリケート系化合物は、初回充電の前に、既に初回放電後の結晶構造に近い結晶構造を有すると言える。このようなリチウムシリケート系化合物は、初回充電時にLiイオンが移動しやすい結晶構造をもち、Liの移動量が増加し、充放電容量の向上に繋がったと考えられる。
さらに、実施例1の粉体およびこれを正極活物質として用いた場合の初回放電後のXRDパターンと、比較例2の粉体を正極活物質として用いた場合の初回放電後のXRDパターンと、を比較すると、前者と後者とは、たとえば最大強度を示す回折ピークの位置が異なり、完全に一致しなかった。つまり、実施例1の粉体に含まれるリチウムシリケート系化合物は、従来のリチウムシリケート系化合物と配向性が異なり、両者の結晶構造も異なる可能性がある。
(メスバウアー分光測定)
参考例1の粉体、実施例1の粉体、および実施例1の粉体を熱処理する前の状態であってミリング処理された状態の参考例1の粉体について、57Feメスバウアー分光測定を行った。結果を図10に示した。また、電池1を10サイクル目まで充放電させ、初回、二回目および十回目の充放電終了後のそれぞれの電池1について、57Feメスバウアー分光測定のIn−Situ測定(その場測定)を行った。結果を図11〜図13に示した。さらに、参考例1の粉体、比較例2の粉体、および比較例2の粉体を熱処理する前の状態であってミリング処理された状態の参考例1の粉体について、57Feメスバウアー分光測定を行った。結果を図14に示した。また、初回充電終了後および初回放電終了後のそれぞれの電池C2について、57Feメスバウアー分光測定のIn−Situ測定を行った。結果を図15に示した。
57Feメスバウアー分光測定には、トポロジックシステムズ製「FGX−100」を用い、57CoをRhマトリックスに分散したγ線源を使用した。測定は、常温、常圧、大気中にて行い、速度範囲:±3mm/秒、速度基準:α−Feとした。
測定データの解析は、常磁性体の典型的な形状である対称なローレンツ吸収線2本一組をダブレット成分の一成分として実施した。2本の吸収線の中心位置の0速度からのずれを異性体シフト値として算出した。鉄の価数はその異性体シフト値δ(mm/s)に基づき帰属した。成分量は各ダブレット成分の面積割合より算出した。これらの解析は、MossWinn3.0を用いて行った。結果を表3に示した。
図10および図14では、いずれも参考例1の粉体について57Feメスバウアー分光測定を行った結果を示しているが、いずれも、全Feのうち原子比で8割以上のFeは2価のFeであった。図10および図14より、メカニカルミリングを施されることにより全Feのうち3価のFeの占める割合が増加することがわかった。機械的エネルギーが十分に付与された粉体に含まれるリチウムシリケート系化合物のFeは、図10(中央の図)に示したように、全Feのうち原子比で9割以上のFeが3価になることがわかった。そのような粉体を熱処理することで、全てのFeが3価に変化することがわかった。
一方、機械的エネルギーが十分に付与されなかった粉体に含まれるリチウムシリケート系化合物のFeは、図14(中央の図)に示したように、全Feのうち原子比で7割程度のFeしか3価に変化しなかった。そのような粉体を熱処理しても、全てのFeが3価に変化せず、比較例2の粉体に含まれるリチウムシリケート系化合物のFeは、2価のFeと3価のFeとの比が概ね1:1(原子比)であった。
また、図10(最下図)に示したように、実施例1の粉体に含まれるリチウムシリケート系化合物には、3価のFeが一種類検出されただけであった。一方、図11および図12に示したように、充電後のリチウムシリケート系化合物には、異性体シフトの値の異なる二種類のFe3+が認められた。
さらに、図11〜図13および図15に示したように、放電後のリチウムシリケート系化合物には、3価のFeおよび2価のFeがともに含まれることがわかった。図11〜図13に示した通り、実施例1の粉体を用いた電池1の初回放電後および二回目放電後には、リチウムシリケート系化合物に含まれるFeのうち約90原子%、十回目放電後には97.5原子%が2価のFeであった。これに対し、図15に示した通り、比較例2の粉体を用いた電池C2の初回放電後には、リチウムシリケート系化合物に含まれるFeのうち60.3原子%が2価のFeであった。このことから、高容量のリチウムシリケート系化合物は、放電状態において2価のFeの割合が高くなる傾向にあることがわかった。

Claims (17)

  1. リチウム(Li)、鉄(Fe)、珪素(Si)および酸素(O)を含み、非水電解質二次電池の正極活物質として用いられるリチウムシリケート系化合物であって、
    組成式:Li 1+2y Fe 1+z SiO 4+w (0.25<y<0.6、0<z<0.2かつ0<w<1.2)で表され、
    57Feメスバウアー分光法によって得られる解析結果は、初回充電前および充電後の前記リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき3価の電子状態で存在する鉄が90原子%以上であり、
    放電後の前記リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価および2価の電子状態で存在し、該リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき2価の電子状態で存在する鉄が80原子%を越えることを示すことを特徴とするリチウムシリケート系化合物。
  2. 単斜晶であり、空間群P2/nに帰属する請求項1に記載のリチウムシリケート系化合物。
  3. 57Feメスバウアー分光法によって得られる少なくとも初回充電前、初回充電後および二回目充電後の前記リチウムシリケート系化合物にそれぞれ含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、異性体シフト値δ(mm/s)が+0.15〜+0.65の範囲にあることを示す請求項1または2に記載のリチウムシリケート系化合物。
  4. 57Feメスバウアー分光法によって得られる初回充電前の前記リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、異性体シフト値δ(mm/s)が+0.20〜+0.30の範囲にあることを示す請求項1〜のいずれかに記載のリチウムシリケート系化合物。
  5. 57Feメスバウアー分光法によって得られる少なくとも初回放電後および二回目放電後の前記リチウムシリケート系化合物にそれぞれ含まれる鉄原子核の全ての状態に関する解析結果は、異性体シフト値δ(mm/s)が3価の電子状態で存在する鉄に帰属される+0.05〜+0.50の範囲および2価の電子状態で存在する鉄に帰属される+0.95〜+1.20の範囲にあり、該リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄を100原子%としたとき2価の電子状態で存在する鉄が80原子%を越えることを示す請求項1〜のいずれかに記載のリチウムシリケート系化合物。
  6. 57Feメスバウアー分光法によって得られる解析結果は、初回充電前および充電後の前記リチウムシリケート系化合物に含まれる鉄が3価の電子状態で存在し他の電子状態で存在しないことを示す請求項1〜のいずれかに記載のリチウムシリケート系化合物。
  7. 請求項1〜のいずれかに記載のリチウムシリケート系化合物を含む非水電解質二次電池用の正極活物質。
  8. Liの酸化還元電位を基準電位とし、初回(1サイクル目)1.5〜4.8V、その後1.5〜4.5Vの電圧範囲で、常温にて測定した1〜5サイクル目までの充放電容量が200mAh/g以上である請求項に記載の正極活物質。
  9. Liの酸化還元電位を基準電位とし、初回1.5〜4.8Vの電圧範囲で、常温にて測定した初回充電容量が250mAh/g以上である請求項またはに記載の正極活物質。
  10. さらに、前記リチウムシリケート系化合物と互いに混合された炭素材料を含む請求項のいずれかに記載の正極活物質。
  11. 請求項10のいずれかに記載の正極活物質の製造方法であって、
    アルカリ金属塩から選ばれた少なくとも一種を含む溶融塩中で、二酸化炭素および還元性ガスを含む混合ガス雰囲気下において、LiSiOで表される珪酸リチウム化合物と、鉄を含む金属元素含有物質と、を300℃以上600℃以下で反応させて前駆体としてのリチウムシリケート系化合物を合成する合成工程と、
    前記合成工程にて得られたリチウムシリケート系化合物に機械的エネルギーを付与するエネルギー付与工程と、
    機械的エネルギーが付与された前記リチウムシリケート系化合物を熱処理する熱処理工程と、
    を含み、前記エネルギー付与工程および前記熱処理工程を経て、CuKα線によるX線回折パターンにおけるLiFeSiOの(10−3)面に対応する回折ピークが(111)面に対応する回折ピークよりも高いリチウムシリケート系化合物を得ることを特徴とする正極活物質の製造方法。
  12. 前記エネルギー付与工程は、ミリングにより機械的エネルギーを付与する工程である請求項11に記載の正極活物質の製造方法。
  13. 前記エネルギー付与工程は、前記合成工程で得られた前記リチウムシリケート系化合物と炭素材料とをミリングする工程である請求項12に記載の正極活物質の製造方法。
  14. 前記熱処理工程は、二酸化炭素および還元性ガスを含む混合ガス雰囲気の下、400℃以上800℃以下で行う工程である請求項1113のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
  15. 請求項10のいずれかに記載の正極活物質を含む非水電解質二次電池用正極。
  16. 請求項15に記載の非水電解質二次電池用正極を構成要素として含む非水電解質二次電池。
  17. 請求項16に記載の非水電解質二次電池を搭載した車両。
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