以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は理解し易くするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる薬液移注装置20の要部の概略構成図である。図2は、本発明の実施の形態1にかかる薬液移注装置20の薬液移注方法のフローチャートである。
図1に示すように、本実施の形態1の薬液移注装置20は、薬液容器21を保持する容器保持部22と、針23の付いたシリンジ24を保持するシリンジ保持部25bと、容器保持部22を上下方向に移動させる移動機構26と、気泡誤差補正部31と、を備えている。シリンジ保持部25bは、容器保持部22の下部に配置されている。シリンジ保持部25bと容器保持部22とを、この関係で配置することで、容器保持部22に保持された薬液容器21のゴム栓30近傍に薬液27が移動し、シリンジ保持部25bに保持されたシリンジ24の針23から薬液容器21を容易に吸引できる。
本実施の形態1の薬液移注装置20は、まず、入力された薬液27の混合量およびシリンジ24の個別データと、移注時に薬液容器21内部に発生する陰圧値とに基づいて、薬液容器21の内部の気体29の陰圧調整の設定を行う。薬液27の混合量およびシリンジ24の個別データは、処方箋に記載された処方情報における薬液27の混合量に基づいて、自動又は手動で入力される。
気泡誤差補正部31は、薬液27に含まれる界面活性剤の種類、移注速度および混合量を基に、予め実験により測定したデータから算出した泡立ち補正量テーブルを用いて、気泡誤差補正量を決定する。気泡誤差補正量を決定することで、シリンジ24で移注する条件が異なることで薬液27内の泡立ちの状態が異なったとしても、高精度に薬液27の移注を行うことができる。
そして、本実施の形態1の薬液移注装置20は、シリンジ24の個別データと陰圧調整の設定に基づいて、シリンジ24に薬液27を吸引する吸引目標量を算出する。薬液移注装置20は、このようにして算出した吸引目標量に基づいて、薬液容器21からシリンジ24への薬液27の吸引を行った後、シリンジ24のガスケット24dを先端まで移動させて薬液27を吐出することで、移注を行う。
続いて、本実施の形態1の薬液移注装置20の各部の基本的な動作について、説明する。ここでは、図1に示すように、上部に薬液容器21が配置され、下部にシリンジ24が配置された場合を例として説明する。
シリンジ24は、先端に針23を付けて針先をほぼ鉛直上方に向けた状態でシリンジ保持部25bに保持されている。シリンジ24のプランジャ24bは、移動部25cにより、矢印33の方向に沿って上下に移動させられる。プランジャ24bを移動させることにより、シリンジ24の内部24aに薬液27を吸引する、または、内部24aから薬液27を吐出する。なお、シリンジ保持部25bおよびプランジャ24bの移動部25cは、シリンジベース25aに固定および移動可能な状態で固定されている。
薬液容器21としてはバイアル瓶や輸液バッグなどが用いられるが、本実施の形態では、図1に示すように、バイアル瓶が用いている。薬液容器21は、薬液27を移注する経路の一部になるゴム栓30を下側にした倒立状態で容器保持部22に保持され、移動機構26に固定されている。
薬液容器21からシリンジ24に薬液27を吸引するときには、まず、薬液容器21を移動機構26と共に矢印34に沿って鉛直下方に移動させて、薬液容器21のゴム栓30を下方からシリンジ24の針23で貫通させ、針23の採液口23aを薬液容器21内の薬液27が入った領域に到達させた状態で、移動機構26を停止させる。この状態で、シリンジ24のプランジャ24bを移動部25cにより押し下げて、薬液容器21内の薬液27を、針23を介してシリンジ24の内部24aに所定量だけ吸引する。なお、吸引目標量が多い場合には、ポンピング動作を行わせながら吸引する。ポンピング動作とは、シリンジ24のプランジャ24bを移動部25cにより押し下げて薬液27の吸引を行う動作と、移動部25cによりプランジャ24bを押し上げて薬液容器21へシリンジ24の内部24aに含まれる空気の注入を行う動作とを繰り返して、薬液27とシリンジ24内の空気との交換を行う動作である。
シリンジ24への薬液27の吸引が終了すると、薬液容器21は、移動機構26により矢印35に沿って上方に移動させられる。この移動により、シリンジ24の先端の針23は、薬液容器21のゴム栓30から引き抜かれる。
続いて、図2を用いて、本実施の形態1の薬液移注装置20の制御方法について説明する。
図2に示すように、本実施の形態1の薬液移注装置20の制御方法は、入力ステップS10、陰圧処理判断ステップS11と、陰圧設定ステップS12と、過剰吸引補正量算出ステップS13と、吐出有無判断ステップS14と、吐出残液補正量算出ステップS15と、気泡誤差補正量算出ステップS16と、動作パラメータ算出ステップS17と、移注実行ステップS18と、ガタ相殺動作ステップS19とにより、移注を行う方法である。
まず、入力ステップS10が行われる。入力ステップS10は、処方箋等の処方情報に記載された薬液27の混合量、シリンジ24の個別データ、薬液容器21の容量、混合先の情報、陰圧処理の有無、吐出の有無、吸引又は吐出の速度などを入力するステップである。なお、吐出が無いということは、シリンジ24への薬液27の吸引のみ行う場合を意味する。シリンジ24の個別データとしては、移注に使用するシリンジ24のメーカー、サイズ、使用する針23のサイズが入力される。
ここで、本実施の形態1では、入力ステップS10として、例えば、処方情報に記載された薬液の混合量2mlを入力する。さらに、シリンジ24のメーカーはテルモ製、シリンジ24のサイズは20mlサイズ、および針23のサイズは18Gという内容を入力する。また、薬液27としては、例えば、混合元の薬液としてリツキサンが入力され、薬液のデータベースを用いて、リツキサンの粘度、比重等の物性データに加え、含有する界面活性剤の種類と濃度が読み込まれる。リツキサンは界面活性剤であるポリソルベート80を含むが、対象とする界面活性剤はポリソルベート80には限定されない。続いて、薬液容器21の容量として、例えば、4mlを入力する。混合先の情報としては、例えば、生理食塩水500mlバッグを入力する。また、吸引速度、吐出速度としては、例えばポンピング吸引速度1ml/secを入力し、ポンピング吐出速度2ml/sec、バッグ吐出速度2ml/secを入力する。
続いて、入力ステップS10の後に、陰圧処理判断ステップS11が行われる。陰圧処理判断ステップS11は、入力ステップS10の入力に基づいて、陰圧調整を行うか否かを判断するステップである。
ここで、陰圧処理判断ステップS11で陰圧処理を行うと判断した場合(ステップS11のYES)は、陰圧設定ステップS12が行われる。陰圧設定ステップS12は、陰圧処理を行う場合(移注時に薬液容器21内部に陰圧を発生させる場合)に、薬液容器21内の気体と外部の気体との圧力差を入力し、陰圧調整動作の設定を行うステップである。具体的には、薬液容器21から薬液27を吸引するときに、内部の薬液27がスピルなどにより薬液容器21外部へ漏洩しない圧力差が、薬液容器21の内部21aの気体29と外部の気体(以下、「外気」とする。)との間で形成されるように、圧力差を入力して、陰圧調整動作の設定を行う。例えば、陰圧設定ステップS12において、薬液容器21の内部21aの気体29と外気との圧力差を、内部21aの気体29の圧力が外気の圧力よりも低い場合を負として、−0.3気圧以上かつ−0.05気圧以下の範囲で設定する。これにより、スピルなどにより薬液27の漏洩を防ぐことができ、安全性を維持して、高精度に薬液27の移注を行うことができる。なお、薬液27の移注効率の点から、圧力差を−0.1気圧程度とすることにより、大半の薬液27の漏洩を防ぐと共に、効率的な動作が可能となる。なお、陰圧設定ステップS12における陰圧調整動作の動作速度は、2ml/sec程度が望ましい。
続いて、陰圧設定ステップS12の後、又は陰圧処理を行わないと判断した場合(陰圧処理判断ステップS11のNO)に、過剰吸引補正量算出ステップS13が行われる。過剰吸引補正量算出ステップS13は、シリンジ24の個別データと陰圧設定ステップS12の内容とに基づいて、予め作成された補正量テーブルを用いて、シリンジ24内部の圧力負荷又はシリンジ24の変形による吸引量の誤差を推定し、この誤差による過剰吸引補正量を算出するステップである。なお、吸引量の誤差は、ほとんどの場合で過剰側にあらわれるが、陰圧設定が低圧の場合は不足側にあらわれることもある。
続いて、過剰吸引補正量算出ステップS13の後に、吐出有無判断ステップS14が行われる。吐出有無判断ステップS14は、入力ステップS10の入力に基づいて、吐出の有無を判断するステップである。
続いて、吐出も行われる場合(ステップS14のNO)は、吐出残液補正量算出ステップS15が行われる。吐出残液補正量算出ステップS15は、吐出を行う場合の吐出残液補正量を算出するステップである。吐出残液補正量算出ステップS15は、シリンジ24の個別データの内容に基づいて、吐出時の残液量を予め推定し、吐出残液補正量として算出するステップである。つまり、本実施の形態1において、シリンジ24のガスケット24dを先端まで移動させて吐出を行うが、実際には針23の内部等に残液が発生する。この残液による誤差を推定し、吐出残液補正量を算出するステップである。過剰吸引補正量算出ステップS13と同様にシリンジ24のメーカーやサイズおよび薬液27の種類などの情報並びに薬液27の吐出速度も考慮して、吐出残液補正量算出ステップS15は、吐出残液補正量を算出する。
続いて、吸引のみの場合(ステップS14のYES)、又は吐出残液補正量算出ステップS15の後は、気泡誤差補正量算出ステップS16が行われる。気泡誤差補正量算出ステップS16は、気泡の混入による薬液27の吸引量の減少分を推定し、気泡誤差補正量を算出するステップである。気泡誤差補正量算出ステップS16で算出した気泡誤差補正量を加算して吸引目標量を算出することで、気泡が発生して薬液27に混入しても、気泡の混入による吸液量が減少する分を予め余剰に吸引して吐出を行うため、高精度に薬液27の移注を行うことができる。なお、気泡誤差補正量算出ステップS16は、薬液データのうち界面活性剤の種類や濃度、プランジャ24bの動作データおよび混合量を基に、予め実験により測定したデータから算出した気泡誤差補正量の算出テーブルを用いて、気泡誤差補正量を決定してもよい。気泡誤差補正量の算出テーブルを用いることで、シリンジ24により移注する条件により薬液27内の泡立ちの状態が異なったとしても、高精度に薬液27の移注を行うことができる。
続いて、気泡誤差補正量算出ステップS16の後に、動作パラメータ算出ステップS17が行われる。動作パラメータ算出ステップS17は、入力ステップS10で入力したデータと、陰圧設定ステップS12で設定した陰圧と、過剰吸引補正量算出ステップS13および吐出残液補正量算出ステップS15で算出した補正量とに基づいて、シリンジ24の動作パラメータを算出するステップである。具体的に、動作パラメータ算出ステップS17においては、入力ステップS10にて入力された混合量、過剰吸引補正量算出ステップS13及び吐出残液補正量算出ステップS15及び気泡誤差補正量算出ステップS17にて算出された補正量、入力ステップS10にて入力されたシリンジ24の個体データ、動作速度データ、陰圧設定ステップS12にて入力された圧力差、陰圧設定動作速度データに基づいて、移注動作におけるプランジャ24bの各移動量及び移動速度が算出される。すなわち、動作パラメータ算出ステップS17では、混合量に過剰吸引補正量、吐出残液補正量、気泡誤差補正量を加算して求めた吸引目標量に対し、シリンジ24内部の断面積を除算することで、吸引時のプランジャ24bの移動量が算出される。動作速度データに対しても同様に、吸引速度、吐出速度に対してシリンジ24内部の断面積を除算することで、プランジャ24bの移動速度が算出される。なお、シリンジ24内部の断面積は、推定断面積として求められ、この推定断面積の算出方法は、「1.シリンジ24の内径を実測して算出する」、「2.シリンジ24の外筒24e表面の目盛り幅から算出する」、「3.プランジャ24bを一定の距離だけ移動させて薬液27を吸引し、薬液27を吸引することによるシリンジ24の重量増加から算出する」などにより、得ることができる。しかしながら、シリンジ24のメーカーやサイズが異なれば、上述の推定断面積も異なるため、上述の推定断面積を高精度に把握しようとすると、シリンジ24のメーカー毎にデータを分類し、かつ、シリンジ24の容量のサイズ毎にデータを取り記憶しておく必要がある。また、陰圧設定の圧力差、混合量および薬瓶のサイズを用いて、薬液容器21への穿刺前にプランジャ24bを予め移動させる空引きの量が算出される。すなわち、吸引前の薬液容器21内の空気と空引きによるシリンジ24内の空気が、吸引後に所定の陰圧になるまで膨張するように算出を行う。
続いて、動作パラメータ算出ステップS17の後に、移注実行ステップS18が行われる。移注実行ステップS18は、算出された動作パラメータに応じて、シリンジ24の内部24aの薬液27の移注を実行するステップである。移動部25cによりプランジャ24bを動作させることでガスケット24dを移動させ、所定量の薬液27をシリンジ24に吸引または吐出するステップである。
ここで、移注実行ステップS18を行う際に、ガタ解消動作ステップS19を行うことが望ましい。ガタ解消動作ステップS19は、薬液容器21から薬液27をシリンジ24に吸引した後に、薬液容器21内に針23が存在している状態で微量の薬液27を吐出する動作を行わせることで、ガスケット24dの位置に関するガタを解消するステップである。このガタ解消動作ステップS19を行うことで、ガスケット24dを所定の位置(例えば図6(a)の3Bに示す位置)に再現性よく配置できるので、高精度に薬液27の移注を行うことができる。
次に、図3から図8を用いて、図2に示す薬液移注装置20の制御方法のフローチャートの各工程の動作を詳しく説明する。
まず、図3(a)、(b)を用いて、過剰吸引補正量算出ステップS13における過剰吸引補正量の算出について、説明する。
図3(a)は、薬液27を吸引目標量20mlとして吸引した際の吸液量の値を、陰圧設定ステップS12にて設定した設定陰圧(気圧)を横軸として比較した図である。また、図3(b)は、図3(a)を基に設定した、過剰吸引補正量の算出テーブルを表した図である。ここで、吸液量とは、実際に吸引を行った際にシリンジ24内に吸引した薬液27の量のことである。図3(a)は、設定陰圧以外の入力値を同一とした条件で20mlの容量のシリンジ24を用い、水を20ml吸引したときの実験結果であり、設定陰圧の変化に対する吸液量の変化を示す図である。図3(a)に示すように、設定陰圧が変化するにつれて、吸液量も変化している。本実施の形態では、この実験結果を基に、各条件における吸液量の吸引目標量20mlに対する誤差を算出し、過剰吸引補正量の算出テーブルに反映した。つまり、20mlのシリンジを使用して設定陰圧を0.01気圧としたときの吸液量と吸引目標量との誤差0.35mlを、20mlのシリンジを使用して設定陰圧を0.01気圧としたときの過剰吸引補正量として、過剰吸引補正量の算出テーブルに反映させた。ここで、過剰吸引補正量とは、吸引目標量に対し、吸液量が不足する場合は正の値をとり、吸引量が過剰となる場合は負の値をとる。このようにして算出された過剰吸引補正量の一例は、図3(b)に表した図となる。過剰吸引補正量算出ステップS13における過剰吸引補正量の算出は、入力ステップS10にて入力されたシリンジ24の個別データ、および陰圧設定ステップS12で入力された設定陰圧を用いて、過剰吸引補正量の算出テーブルを参照することにより行われる。
ここで、吸引量目標量20mlに基づいて吸引した際の吸液量と吸引目標量との誤差は、設定陰圧およびシリンジ24のサイズが同一であれば、吸引目標量によらず一定の値をとることが、発明者らの実験にて確認されている。そのため、例えば、シリンジ24の全容量の10%程度の吸引目標量での吸液量と吸引目標量との誤差を補正値として採用することにより、より高精度が要求される微量の移注について、高精度化を実現することができる。それと共に、シリンジ24の全容量の10%程度の吸引目標量での吸液量と吸引目標量との誤差を補正値として採用することにより、シリンジ24の全容量等の大量の移注においても、混合量に対する誤差の割合を低くできるため、わずかな過剰吸引補正量の算出テーブルのデータ量で、幅広い混合量の範囲において高精度化が実現できる。
なお、過剰吸引補正量の算出テーブル上のデータを、設定陰圧およびシリンジ24のサイズに対して関数近似し、近似した関数を用いて過剰吸引補正量の算出を行ってもよい。これにより、過剰吸引補正量の算出テーブル上で、データのないシリンジ24のサイズ、設定陰圧の混合においても、より高精度の移注が実現できる。
また、混合量を入力する時に、薬液27の種類、粘度および移注速度並びにシリンジ24の容量、サイズおよびプランジャの移動速度を含むデータを併せて入力し、これらのデータに基づいて過剰吸引補正量を算出して移注してもよい。これらのデータを用いることで、移注する薬液27やその薬液27の性質およびシリンジ24により移注する条件の影響を加味した条件で、高精度に薬液27の移注を行うことができる。
続いて、図4(a)、(b)、(c)を用いて、吐出残液補正量算出ステップS15における吐出残液補正量の算出について、説明する。
図4(a)、(b)は、シリンジ24のサイズ別の吐出試行回数毎の薬液27の残液量の値を、薬液27を吐出する吐出流速を変えて比較した図である。また、図4(c)は、図4(a)、(b)を基に設定した、吐出残液補正量の算出テーブルを表した図である。
図4(a)は、20mlの容量のシリンジを用いて20mlの水を2種類の吐出流速(2ml/s、6ml/s)で吐出した時の試行回数毎の、吐出後のシリンジ24に残った残液量の値を示している。図4(a)に示すように、使用したシリンジ24のサイズおよび吐出速度によって、吐出後のシリンジ24に残った残液量が変化している。これは、吐出速度の二乗に比例して吐出時のシリンジ24の内部圧力が変化するため、吐出速度に応じてシリンジ24の変形量が変化するためであると考えられる。本実施の形態では、各条件での吐出後のシリンジ24に残った残液量を、水に対する吐出残液補正量として算出テーブルに反映させた。つまり、20mlの容量のシリンジ24を用いる場合、吐出速度2ml/sで吐出したときの吐出残液補正量は0.35mlとなり、吐出速度6ml/sで吐出したときの吐出残液補正量は0.4mlとなった。
図4(b)は、同様に50mlの容量のシリンジ24を用いた場合の試行回数毎の吐出後のシリンジ24に残った残液量の値を、示している。50mlの容量のシリンジ24を用いる場合、吐出速度2ml/sで吐出したときの吐出残液補正量は0.75mlとなり、吐出速度6ml/sで吐出したときの吐出残液補正量は1.3mlとなった。本実施の形態では、各条件での吐出後のシリンジ24に残った残液量を、水に対する吐出残液補正量として吐出残液補正量の算出テーブルに反映させた。
図4(c)は、図4(a)、(b)の結果を反映させた吐出残液補正量の算出テーブルの一例を表した図である。吐出残液補正量算出ステップS15における吐出残液補正量の算出は、入力ステップS10にて入力されたシリンジ24の個別データおよび吐出速度を用いて、吐出残液補正量の算出テーブルを参照することにより行われる。
なお、吐出後のシリンジ24に残った残液量は、シリンジ24のサイズ、及び吐出速度が同条件である場合、吐き出した液量によらず、ほぼ同じ値をとる。そのため、シリンジ24の全容量の10%程度の吐出量での残液量を補正値として採用することにより、より高精度が要求される微量の移注について高精度化が可能になると共に、シリンジ24の全容量等の大量の移注においても混合量に対する誤差の割合を低くできるため、わずかな吐出残液補正量の算出テーブルのデータ量で幅広い混合量の範囲において高精度化が実現できる。
なお、吐出残液補正量の算出テーブル上のデータを、吐出速度およびシリンジ24のサイズに対して関数近似し、近似した関数を用いて吐出残液補正量を算出してもよい。これにより、吐出残液補正量の算出テーブル上で、データのないシリンジ24のサイズまたは吐出速度の混合においても、より高精度の移注が実現できる。
また、入力ステップS10において、シリンジ24の個別データに加えて薬液27の種類、粘度および含有する界面活性剤の種類や濃度を含む薬液データ並びに吸引速度を含むプランジャ24bの動作データを入力すると共に、過剰吸引補正量算出ステップS13において、シリンジ24の個別データおよび陰圧調整動作の設定の内容に加えて薬液データおよびプランジャ24bの動作データに基づいて過剰吸引補正量を算出した後に、吐出残液補正量算出ステップS15において、シリンジ24の個別データに加えて薬液データおよびプランジャ24bの動作データに基づいて吐出残液補正量を算出し、移注してもよい。このように移注することにより、移注する薬液27やその薬液27の性質およびシリンジ24の条件によらずに、高精度に薬液27の移注を行うことができる。
続いて、図5(a)、(b)を用いて、気泡誤差補正量算出ステップS16における補正量の算出について、説明する。
図5(a)は、20mlの薬液27の過剰吸引補正量を加味して吸引目標量を設定して吸引した際の実際の吸液量の値を、入力ステップS10にて設定した吸引速度を横軸として比較した図である。また、図5(b)は、図5(a)を基に設定した、気泡誤差補正量の算出テーブルを表した図である。
図5(a)は、20mlの容量のシリンジ24を用い、シリンジ24のメーカー、サイズ、針のサイズ、吸引速度および吸引量を同一の条件とし、界面活性剤であるポリソルベートの水溶液を混合量20mlとして、過剰吸引補正量を加味して吸引目標量を設定して吸引するときの吸引速度の変化に対する吸液量の変化を示す図である。図5(a)に示すように、吸引速度が変化するにつれて、吸液量も変化する。これは、薬液27内部での気泡の発生が、吸引途中において、シリンジ24内の内部24aにある吸引済の薬液27に対して新たに吸引した薬液27が衝突するエネルギー、つまり吸引速度に起因するためであると考えられる。すなわち、吸引速度が高いほど高速で薬液27が衝突するため、発生及び混入する気泡の量は増加すると考えられる。ここで、本実施の形態では、各条件における吸液量の混合量に対する誤差を算出し、気泡誤差補正量の算出テーブルに反映している。例えば、20mlのシリンジ24を使用して吸引速度を0.5ml/sとした時の吸液量と混合量との誤差0.08mlを、20mlのシリンジを使用して吸引速度を0.5ml/sとした時の気泡誤差補正量として、気泡誤差補正量の算出テーブルに反映させている。
図5(b)は、図5(a)の結果を反映させた、気泡誤差補正量の算出テーブルの一例を表した図である。気泡誤差補正量算出ステップS16における気泡誤差補正量の算出は、入力ステップS10にて入力された、シリンジ24の個別データおよび吸引速度を用いて、気泡誤差補正量の算出テーブルを参照することにより行われる。
続いて、図6(a)、(b)を用いて、ガタ解消ステップS19を含む移注動作について、説明する。
図6(a)、(b)は、本発明の実施の形態1にかかる薬液移注装置の要部の概略構成を示す側面図である。なお、図6(a)、(b)において、薬液容器21のみ断面図を示している。図6(a)、(b)は、20mlの容量のシリンジ24がシリンジ保持部25bに保持されて、バイアル瓶である薬液容器21から薬液27を混合量だけ吸引する場合を示す図である。
図6(a)は、シリンジ24が薬液容器21から薬液27を吸引する前の状態を示しており、ガスケット24dは、シリンジ24内部の最上部から、算出した空引き量分だけ下方に離れた位置に位置している。この時に、プランジャ24bの下端24gは、図6(a)の一点鎖線の位置3Aにある。図6(a)の状態から、シリンジ24のプランジャ24bを押し下げて、薬液容器21から薬液27を吸引して、シリンジ24内に移注目標量の薬液27を吸引する。すると、プランジャ24bの下端24gは、図6(b)に示すように距離d2だけ移動して、図6(b)の一点鎖線の位置3Cまで押し下げられる。その後、プランジャ24bを下端24gが位置3Aになるまで距離d2だけプランジャ24bを押し上げて、シリンジ24内部の空気を薬液容器21内に押し込み、薬液27と気体の置換を行う。本実施の形態では、このようにして薬液27と気体の置換を繰り返してシリンジ24内部が液体に満たされた後、再度プランジャ24bを下端24gが位置3Cになるまで押し下げてから、吸引目標量である位置3Bまで押し上げる。このように、本実施の形態では、シリンジ24内部の気体を除去した後に再度薬液27の吸引を行い、薬液27のみの押し出しによって吸引を終えるように制御している。
次に、図7(a)、(b)、(c)、図8を用いて、本実施の形態の移注動作時におけるシリンジ24の変形とその対策について、説明する。
図7(a)、(b)、(c)は、本発明の実施の形態1で用いるシリンジ24を示す側面図である。図8は、シリンジ24に用いられるガスケット24dとプランジャ24bの一部を拡大した断面図である。図7(a)は、シリンジ24の外筒24eが変形した例を示している。この場合には、プランジャ24bを押し引きする軸方向の矢印33の方向に沿って、シリンジ24の内部の断面積が変化するため、シリンジ24の内径により推定断面積を算出することが難しい。例えば、図7(a)に示すように、外筒24eの中央部の半径r1は、変形のために上部の半径r2よりも小さくなっている。図7(b)は、シリンジ24のフランジ24fが変形した例を示している。この場合には、フランジ24fの変形の程度により、プランジャ24bの下端24gの位置3Aが異なることとなる。図7(c)は、シリンジ24のガスケット24dにガタの発生した例を示す。この場合には、同じ移注目標量を吸引するために、プランジャ24bの下端24gを、例えば位置3Aから位置3Bまで押し下げても、ガスケット24dにガタがあるために、薬液27の混合量が移注目標量と微妙に異なる。また、図8に示すように、ガスケット24dとプランジャ24bの間のギャップ28aが大きいと、ガスケット24dがプランジャ24bの押し引きの軸に対して左右対称ではなく傾き、その結果、シリンジ24の内部に吸引する薬液27の量が異なることとなる。
したがって、入力ステップS10でシリンジ24の形状等の個別データを入力するときには、図7(a)から(c)に示す変形等のあるシリンジ24は用いずに、シリンジ24の個別データを取得する必要がある。
しかしながら、図6(a)、(b)を用いて前述したように、ガタ解消ステップS19を行うことで、シリンジ24内部の気体を除去した後に再度薬液27の吸引を行い、液体のみの押し出しによって吸引を終えることで、吸引動作終了直前にシリンジ24に加わる圧力負荷を、吐出時と同様の加わり方とすることができる。そのために、本実施の形態では、図7(a)から(c)及び図8に示すようなフランジの変形やシリンジ24のガスケット24dとプランジャ24bの接触関係が後の吐出動作終了後と同様になり、ガスケット24dとプランジャ24bとの間の隙間の影響を相殺し、より高精度な移注が可能となる。すなわち、所定量の薬液27をシリンジ24に吸引した後に、ガタ相殺動作ステップS19を行うことで、ガスケット24dの位置に関するガタを解消でき、ガスケット24dを所定の位置、例えば図6(a)の位置3Bに再現性よく配置できるので、高精度に薬液27の移注を行うことができる。
例えば、20mlの容量のシリンジ24により、ポリソルベート80を含む薬液27を2ml移注する、つまり混合量として2mlを設定した場合を想定する。この場合には、入力ステップS10として吸引速度0.6ml/sおよび吐出速度2ml/sを入力し、陰圧設定ステップS12として陰圧を−0.1気圧とし、過剰吸引補正量算出ステップS13での過剰吸引補正量、吐出残液補正量算出ステップS15での吐出残液補正量、気泡誤差補正量算出ステップS16での気泡誤差補正量が、それぞれの補正量の算出テーブルを参照して、―0.2ml、0.35ml、0.05mlと算出される。これらの情報により、動作パラメータ算出ステップS17において、2mlの混合量に上述の補正量の合計の0.2mlを加算した2.2mlが吸引目標量となり、この吸引目標量2.2mlに基づいて移注実行ステップS18において薬液容器21の薬液27がシリンジ24に吸引および吐出されることにより、実際に必要な2mlの混合量が高精度に混合される。
なお、本実施の形態では、薬液容器21にバイアル瓶を例として用いて説明したが、薬液容器21として輸液バッグなどのソフトバッグを用いてもよい。