以下、火災を感知して警報音を鳴動するとともに電波を媒体とし且つ火災感知メッセージを含む無線信号を送信する火災警報器を無線局とした無線通信システム(火災警報システム)に本発明の技術思想を適用した実施形態について説明する。
図1は本実施形態のシステム構成図であり、複数台(図示は2台のみ)の火災警報器TRで火災警報システムが構成されている。なお、以下の説明では、火災警報器TRを個別に示す場合は火災警報器TR1,TR2,…,TRn(nは3以上の整数)と表記し、総括して示す場合は火災警報器TRと表記する。
火災警報器TRは、制御部1、無線通信部2、アンテナ3、火災感知部4、報知部5、発振器6、操作入力受付部7、電池電源部8などを備えている。
無線通信部2は、電波法施行規則第6条第4項第3号に規定される「小電力セキュリティシステムの無線局」に準拠し、アンテナ3を介して電波を媒体とする無線信号を送受信するものであって、例えば市販の小電力無線通信用LSIなどで構成される。
火災感知部4は、例えば火災に伴って発生する煙や熱、炎などを検出することで火災を感知すると、火災感知信号を制御部1に出力する。但し、このような火災感知部4の詳細な構成については、従来周知であるから詳細な説明は省略する。
報知部5は、ブザー音や音声メッセージなどの音を鳴動するスピーカからなる。火災感知時には制御部1が、ブザー音や音声メッセージなどの音による火災警報を報知部5から出力させることによって、火災の発生を居住者に報知している。
操作入力受付部7は1乃至複数のスイッチ(例えば押釦スイッチからなる)を有し、スイッチが操作されることで各スイッチに対応した操作入力(操作信号)を制御部1に出力する。
電池電源部8は乾電池等の電池を電源として各部に動作電源を供給する。
制御部1は、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと略す。)や、書換可能な不揮発性の半導体メモリなどからなるメモリ部1aを主構成要素とする。制御部1は、火災感知部4から火災感知信号が入力されると、報知部5から警報音を鳴動させるとともに、他の火災警報器TRに火災発生を通知するための火災通知信号を含む無線信号を無線通信部2から送信させる。また、他の火災警報器TRから無線送信された火災通知信号が無線通信部2によって受信され、無線通信部2から制御部1に火災通知信号が入力されると、制御部1は報知部5を制御して警報音を鳴動させる。なお、各火災警報器TR1,TR2,…には固有の識別符号が割り当てられてメモリ部1aに格納されており、この識別符号によって無線信号の宛先並びに送信元の火災警報器TR1,TR2,…が特定できる。
発振器6は、例えば音叉型水晶振動子を用いて所定周波数のクロック信号を発振し、制御部1を構成するマイコンに動作用クロックとして出力する。但し、このような発振器6の具体的な構成は従来周知であるから、詳細な説明は省略する。
ここで、電波法施行規則の無線設備規則第49条の17「小電力セキュリティシステムの無線局の無線設備」では、無線信号を連続して送信してもよい期間(送信期間)を3秒以下とし、送信期間と送信期間の間に設けられた休止期間(無線信号を送信してはいけない期間)を2秒以上とすることが規定されている(同条第5号参照)。このため、制御部1では、上記無線設備規則に適合する送信期間に無線通信部2から無線信号を送信させるとともに、休止期間に無線通信部2からの送信を停止させ且つ無線通信部2を受信可能な状態としている。
また制御部1は、電池電源部8の電池寿命をできるだけ長くするために間欠受信を行っている。つまり、制御部1はタイマ(図示せず)で所定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするとともに、間欠受信間隔のカウントが完了する毎に無線通信部2を起動して所望の電波(他の火災警報器TRが送信した無線信号)が受信できるか否かをチェックする。そして、当該電波が捉えられなければ、制御部1は直ちに無線通信部2を停止して待機状態に移行させることで平均消費電力を大幅に低減している。なお、電波の受信チェックは、無線通信部2から出力される、受信信号強度の大小に比例した直流電圧信号である受信信号強度表示信号(RSSI信号)に基づいて制御部1が行っており、詳細な説明は後述する。
さらに、特定の火災警報器TR1(以下、親器と呼ぶ。)の制御部1は、定期的(例えば24時間毎)に無線通信部2を起動し、他の火災警報器TR2,TR3,…(以下、子器と呼ぶ。)に対して定期監視メッセージ(応答要求メッセージ)を含む無線信号を送信させる。尚、以下の説明で、各火災警報器TRの親器としての動作や子器としての動作を説明する場合は親器TR1或いは子器TRi(i=2,3,…)と表記する。
子器TRiにおいては、制御部1が火災感知部4の故障の有無及び電池電源部8の残容量を一定周期で(例えば1時間毎に)監視するとともに、その監視結果(故障の有無や残容量不足の有無)をメモリ部1aに記憶している。そして、親器TR1から定期監視メッセージを受け取ったときに、メモリ部1aに記憶している監視結果を通知するための通知メッセージ(応答メッセージ)を含む無線信号を親器TR1に返信する。親器TR1の制御部1は、通知メッセージを含む無線信号を送信した後、無線通信部2を受信状態に切り換えて各子器TRiから送信される無線信号を受信する。そして親器TR1の制御部1は、定期監視メッセージの送信から所定時間内に通知メッセージを送信してこない子器TRiがある場合、或いは通知メッセージの監視結果が故障有り又は残容量不足(電池切れ)である場合、異常を知らせる報知音を報知部5から鳴動させる。これにより、何れかの子器TRiで異常(通信不可や故障有り、残容量不足など)が発生したことを居住者に知らせることができる。なお、親器TR1及び子器TRiの制御部1は、自器で故障若しくは残容量不足が発生していると判断した場合、直ちに報知部5から異常発生を知らせるための警告音(ブザー音や音声メッセージなど)を鳴動させる。
また親器TR1の制御部1は、報知部5から警報音を鳴動させるとともに各子器TRiに火災通知信号を含む無線信号を送信した後、或いは何れかの子器TRiから火災通知信号を含む無線信号を受信した後は、無線通信部2に一定周期で同期ビーコンを送信させる。この同期ビーコンは、複数の火災警報器TR同士でTDMA(時分割多元接続)方式の無線通信(以下、「同期通信」と呼ぶ。)を行うために必要なタイムスロットを規定する信号である。つまり、同期ビーコンの1周期(サイクル)が複数のタイムスロットに分割され、全ての子器TRiにそれぞれ互いに異なるタイムスロットが1つずつ割り当てられる。そして、親器TR1から子器TRiへのメッセージは同期ビーコンに含めて送信され、子器TRiから親器TR1への応答メッセージは、各子器TRiに割り当てられたタイムスロットに格納されて送信される。故に、複数台の火災警報器TR(親器TR1並びに子器TRi)から送信される無線信号の衝突を確実に回避することができる。なお、各火災警報器TRに対するタイムスロットの割当は固定であってもよいが、親器TR1から送信する同期ビーコンによってタイムスロットの割当情報を各子器TRiに通知しても構わない。
図5は火災警報器TRが送受信する無線信号のフレームフォーマットを示している。この無線信号は、同期ビット(プリアンブル:PA)と、フレーム同期パターン(ユニークワード:UW)と、宛先アドレスDAと、送信元アドレスSAと、メッセージMと、巡回冗長符号CRC(Cyclic Redundancy Check)とで1フレームが構成される。ここで、宛先アドレスDAとして各火災警報器TRの識別符号を設定すれば、この識別符号の火災警報器TRのみが無線信号を受信してメッセージを取得することになる。一方、宛先アドレスDAとして何れの火災警報器TRにも割り当てられていない特殊なビット列(例えば全てのビットを1としたビット列)を設定すれば、無線信号を同報(マルチキャスト)して全ての火災警報器TRにメッセージを取得させることができる。例えば親器TR1から全ての子器TRiに火災通知信号を含む無線信号を同報する場合は、宛先アドレスを上記のマルチキャストアドレス(例えば全てのビットを1としたビット列)に設定すればよい。
次に、図6のタイムチャートを参照して、火災感知の前後における本実施形態の送受信動作を説明する。
ここで、各火災警報器TRが動作を開始する(タイマが間欠受信間隔のカウントを開始する)タイミングは通常一致しないので、制御部1が無線通信部2を起動して電波を受信するタイミング(図6における下向きの矢印参照)も不揃いとなる。これに対して本実施形態では、各火災警報器TRの無線通信部2で同期信号が受信されると、制御部1がタイマによる間欠受信間隔Txのカウントを中止させるとともに同期信号の終了時点(t=t0)から一定の待機時間Twが経過した時点でタイマによる間欠受信間隔Txのカウントを再開させる。したがって、同期信号を受信した後は、各火災警報器TRにおいてタイマが間欠受信間隔Txのカウントを完了するタイミングが揃うことになる。なお、同期信号は、後述するように特定の火災警報器である親器TR1から送信する。
例えば子器TR2において火災感知部4が火災を感知すると、子器TR2の制御部1は報知部5より警報音を鳴動させるとともにタイマによる間欠受信間隔Txのカウント完了前に無線通信部2を起動する。そして、子器TR2の制御部1はカウント完了時点を含む送信期間内に火災通知信号を含む無線信号を他の全ての火災警報器TR(親器TR1及び他の子器TR3,…)に宛てて送信する。この際、送信元の子器TR2の制御部1は、送信期間内で送信可能なフレーム数だけ無線信号を連続して送信し、送信期間後の休止期間(受信期間)には無線通信部2を受信状態に切り換える。なお、各火災警報器TRにおいて間欠受信間隔Txのカウントが完了するタイミングが揃っているので、1回の送信期間で火災通知信号を含む無線信号を受信することができる。
ここで、特定小電力無線通信を利用すれば、その通信範囲は一般的な住宅1戸分のエリアであれば十分カバーできるので、火災元の子器TR2が、他の火災警報器TR(親器TR1や他の子器TR3,…)に対しメッセージを送信することは通常は十分可能である。また親器TR1は上述のように各子器TRiの定期監視を行っており、親器TR1と各子器TRiとの間では通信パスの正常性が確認されているので、子器TR2から無線送信されたメッセージは親器TR1によって確実に受信されていると考えられる。
一方、子器TR2〜TR4間の通信パスは確認されていないため、例えば障害物などの影響によって、子器TR2から無線送信されたメッセージが一部の子器に届いていない可能性もある。
そこで、火元の子器TR2からの火災通知信号を確実に受信できる親器TR1が、子器TRiに火災通知信号を含む無線信号を送信することによって、子器TR2からの無線信号を受信できていない子器にも火災通知信号が届くようにしている。すなわち、火災通知信号を受信した親器TR1の制御部1は、送信元の子器TR2を除く他の子器TR3,TR4に対して火災通知信号を含む無線信号を、タイマによる間欠受信間隔Txのカウント完了時点を含む送信期間に送信する。他の子器TR3,TR4の制御部1は、子器TR2又は親器TR1から送信された火災通知信号を受け取ると、報知部5より警報音を鳴動させるとともに、火災通知信号の受信を確認する応答メッセージ(ACK)を無線通信部2から無線信号で返送させる。なお、このように少なくとも1台の火災警報器TRで火災が感知されることで全ての火災警報器TRが火災警報を報知(警報音を鳴動)することを、以下では「火災連動」と呼ぶ。
親器TR1の制御部1は、火元の子器TR2を除く全ての子器TR3,TR4からACKを受け取れば、タイムスロットを規定するための同期ビーコンを一定の周期で無線通信部2から送信させる。なお、本実施形態では先頭のタイムスロットTS1が子器TR2に、2番目のタイムスロットTS2が子器TR3に、3番目のタイムスロットTS3が子器TR4にそれぞれ割り当てられている。
ここで、親器TR1は各子器TR2〜TR4に対して定期監視を行っており、親器TR1と各子器TR2〜TR4との間では通信パスの正常性が確認されているが、子器TR2〜TR4間の通信パスは確認されていない。子器TRiが多数配置された場合、子器TRi間の通信パスの数は非常に多くなる為、子器TRi間の通信パスが正常か否かを確認すると電池消耗が激しくなる。したがって、上述のように特定の火災警報器TR1を親器とし、その他の火災警報器TRiを子器として、親器TR1から各子器TRiに火災通知信号やその他のメッセージ(後述する)を通知する。これにより相互に通信パスが確立できない子器が存在する場合でも、親器TR1と各子器TRiとの間の通信パスが確立されていれば、確実に火災連動させることができる。
また、全ての火災警報器TRが警報音を鳴動することにより連動が開始されると、上述のように親器TR1から一定周期で同期ビーコンが送信されてTDMA方式の同期通信に移行する。同期通信において、親器TR1の制御部1は同期ビーコンに含めることで火災通知信号を一定周期で全ての子器TRiに繰り返し送信している。そして、各子器TRiの制御部1では、親器TR1から送信される火災通知信号を受け取る度に報知部5の状態を確認し、仮に報知部5が停止していたとしたら報知部5に警報音を再び鳴動させる。したがって、全ての火災警報器TRで火災警報が報知され始めてからは特定の火災警報器(親器)TR1が送信する同期ビーコンによって規定される複数のタイムスロットに他の全ての火災警報器(子器)TRiを割り当てて時分割多元接続(TDMA)による無線通信を行うことで衝突を回避することができる。さらに、特定の火災警報器(親器)TR1から他の全ての火災警報器(子器)TRiに対して火災通知信号を同期ビーコンに含めて周期的に送信することで火災警報を確実に報知することができる。その結果、無線信号の衝突を回避しつつ複数の火災警報器TRを効果的に連動させることができる。
上述のように本実施形態によれば、火災発生時には全ての火災警報器TRで火災警報が報知されるので、利用者が火災警報を知覚する(警報音を聞く)機会を増やすことができ、安全性を向上させることができる。
ところで、本実施形態の火災警報システムは、待機状態、連動鳴動状態、連動停止状態の3つの動作状態を遷移する。待機状態とは、何れの火災警報器TRにおいても火災が検出されていない状態である。また連動鳴動状態とは、全ての火災警報器TRが警報音を鳴動している状態である。さらに連動停止状態とは、後述するように火災を検出している(火元の)火災警報器TRのみが警報音を鳴動し、火元以外の火災警報器TRが警報音を停止している状態である。すなわち、待機状態において少なくとも何れか1台の火災警報器TR(例えば子器TR2)で火災が検出されると、火元の子器TR2並びに親器TR1から他の全ての子器TR3…へ火災通知信号が送信されるから、全ての火災警報器TRで警報音が鳴動されて連動鳴動状態に遷移する。
そして、連動鳴動状態において何れかの火災警報器TRで警報音の鳴動を停止させる操作が行われた場合、その火災警報器TRが親器TR1であれば、親器TR1から各子器TRiに警報音の停止を要求する警報停止メッセージを送信する。また、警報音の鳴動を停止する操作が行われた火災警報器TRが子器TRiであれば、この子器TRiから警報停止メッセージを受け取った親器TR1が他の子器TRiに対して警報停止メッセージを送信する。そして、火元以外の火災警報器TRで無線通信部2が警報停止メッセージを受信すると、この警報停止メッセージに基づいて制御部1が報知部5の警報音を停止して連動停止状態に移行する。ただし、火元の火災警報器TRの操作入力受付部7で警報音停止の操作入力が受け付けられた場合、火元の火災警報器TRにおいても警報音を停止する。ここで、親器TR1の制御部1はメモリ部1aに親器TR1並びに各子器TRiの火災検出状況を随時更新しながら保持しており、後述するように全ての火災警報器TRで火災が検出されなくなったときに火災連動状態から待機状態に遷移する。
また、連動鳴動状態から連動停止状態に遷移した場合、親器TR1の制御部1では所定の警報音停止時間(例えば5分間)の限時を開始する。そして、警報音停止時間が経過した後、親器TR1の制御部1はメモリ部1aに保持された火災検出状況を参照し、全ての火災警報器TRで火災を検出していなければ、同期ビーコンによって復旧通知のメッセージを送信する。これにより、全ての火災警報器TRが火災連動状態から待機状態に遷移する。一方、警報音停止時間の経過後に1台でも火災警報器TRが火災を検出していれば、親器TR1の制御部1は、同期ビーコンにより火災通知信号を送信することによって連動停止状態から連動鳴動状態へ遷移させる。なお、連動停止状態において何れかの火災警報器TRが新たに火災を検出した場合にも、親器TR1の制御部1が同期ビーコンによって火災通知信号を送信することで連動停止状態から連動鳴動状態へ遷移させる。
また、子器TR4を火元とする連動鳴動状態において、火元の火災が鎮火して子器TR4の火災感知部4が火災を検出しなくなれば、子器TR4から親器TR1に宛てて復旧通知メッセージが送信される。この復旧通知メッセージを受け取った親器TR1の制御部1はメモリ部1aに保持している火災検出状況を参照し、全ての火災警報器TRで火災を検出していなければ同期ビーコンによって復旧通知メッセージを各子器TRiに送信する。そして、全ての子器TRiから返信されるACKを親器TR1の制御部1が受け取れば、連動停止状態から待機状態に遷移し、同期ビーコンの送信を停止することでTDMA方式による無線通信から間欠送信・間欠受信による無線通信に戻る。
一方、新たに別の火災警報器(例えば子器TR3)で火災が検出された場合、初めの火元である子器TR4から復旧通知メッセージを受け取った親器TR1の制御部1は、メモリ部1aに保持している火災検出状況を参照する。このとき、親器TR1の制御部1は、子器TR3が火災検出中であることから復旧通知メッセージを送信せず、引き続き火災通知信号を送信することで火災連動状態を維持する。
本実施形態の無線通信システムでは、親器TR1及び子器TRiの間で上述したような無線通信が行われるのであるが、各子器TRiは少なくとも親器TR1との間で無線信号を送受信可能な場所に設置される必要がある。そこで、本実施形態の無線通信システムでは、親器TR1及び子器TRiを設置する際に、以下のようにして無線信号を送受信可能なことを確認した後で、親器TR1及び子器TRiを設置している。
先ず施工者は、親器TR1及び子器TRiにそれぞれの識別符号を登録する作業を行う(この作業を「親子登録」と呼ぶ。)。すなわち、施工者が、登録対象の1台の子器TRiを親器TR1に近付けて、親器TR1及び子器TRiにそれぞれ設けられた登録ボタン(図示せず)を同時に押すと、親器TR1と子器TRiとの間で識別符号が無線信号により授受される。これにより、親器TR1の制御部1は子器TRiから受信した識別符号をメモリ部1aに記憶させ、子器TRiの制御部1は親器TR1から受信した識別符号をメモリ部1aに記憶させる。子器TRiが複数台ある場合、施工者は、全ての子器TRiについて親子登録の作業を行い、親器TR1のメモリ部1aに各子器TRiの識別符号を記憶させるとともに、各子器TRiのメモリ部1aに親器TR1の識別符号を記憶させる。
親子登録が終了すると、施工者は親器TR1と全ての子器TRiを実際に設置する場所(例えば天井や壁面)の下側(床面など)に置き、親器TR1と子器TRiとの間で安定的に送受信が可能な電波環境であることを確認するために電波チェック試験を行う。
施工者が親器TR1に設けられた電波確認ボタンを押すと、電波確認ボタンの操作入力が操作入力受付部7を介して制御部1に入力され、判定部たる制御部1が電波確認動作を開始する。親器TR1の制御部1は、電波確認動作を開始すると、無線通信部2から子器TRiに対して、電波チェック命令を含む無線信号を複数回送信させる。子器TRiの無線通信部2は、親器TR1から送信された無線信号を受信すると、この無線信号に含まれる電波チェック命令を制御部1に出力する。子器TRiの制御部1は、この電波チェック命令に基づいて、受信した無線信号のRSSI値を無線通信部2から取得し、このRSSI値を自器に割り当てられた識別符号とともに無線通信部2から親器TR1へ無線信号により送信させる。親器TR1は、電波確認ボタンが操作されてから所定時間が経過するまでの間、例えば一定の時間間隔で電波チェック命令を含む無線信号を送信する。したがって、この間に、図2に示すように施工者が例えば子器TR2の位置を実際に設置したい位置の周辺で複数箇所(例えば位置P1,P2,P3)に置くと、それぞれの場所でRSSI値を測定した結果が識別符号とともに親器TR1に送信される。
ここで、親器TR1の制御部1は、各子器TRiから返送されたRSSI値と識別符号をもとに、各々の子器TRiについてRSSI値の平均値を算出する。また親器TR1の制御部1が備えるメモリ部1aには、受信機器が移動する場合の受信レベル(RSSI値)の確率分布をモデル化した分布モデル(例えばsuzuki分布)と、通信失敗が発生するか否かの境界値となるRSSI値の閾値R2とが登録されている。親器TR1の制御部1は、図3に示すように各子器TRiについて求めたRSSI値の平均値R1で確率がピークとなるように分布特性A1を当てはめた後、RSSI値が閾値R2以下となる領域(図3中の斜線部B1)から、運用時における通信失敗確率を推測する。そして、親器TR1の制御部1は、運用時における通信失敗確率の推定値と所定の第1しきい値との高低を比較し、推定値が第1しきい値以下であれば電波環境が良好であると判定し、推定値が第1しきい値よりも高ければ電波環境が不良であると判定する。尚、suzuki分布は対数正規分布とレイリー分布との重畳分布であり、suzuki分布やレイリー分布は従来周知の確率分布モデルであるので、その説明は省略する。
上述のように電波環境の良否を判定した結果、電波環境が良好であれば、親器TR1の制御部1は、無線通信が可能なことを示す報知音(ブザー音又は音声メッセージ)をスピーカから出力させる。施工者は、親器TR1からの報知音により電波環境が良好であることを確認すると、親器TR1及び子器TRiを実際の施工場所(すなわち、電波チェック時に仮置きされた場所の上側の天井や壁面)に取り付けて、運用を開始する。
一方、電波環境の良否を判定した結果、電波環境が不良であれば、親器TR1の制御部1は、電波環境が不良であることを示す報知音(ブザー音又は音声メッセージ)をスピーカから出力させる。施工者は、親器TR1からの報知音により電波環境が良くないことを確認すると、電波環境が改善されるように親器TR1、子器TRiなどの配置を変更する。例えば施工者は、親器TR1が全ての子器TRiの中央になるように配置を変えたり、電波ノイズの発生源となる他の電気機器の配置を変更したり、親器TR1と子器TRiの距離を近付けたりすることによって、電波環境を改善する。このようにして親器TR1、子器TRiなどの配置を変更した後、施工者は、再度、親器TR1の電波確認ボタンを押して、上述の電波チェック試験を行わせる。そして、電波環境が良好なことを確認できれば、施工者は、親器TR1及び子器TRiを実際の施工場所(天井又は壁面)に取り付けて、運用を開始する。
以上説明したように、本実施形態の無線通信システムは、複数の無線局(親器TR1及び子器TRi)を備え、複数の無線局間で電波を媒体とする無線信号を送受信する。そして、送信側の無線局から無線信号を送信させ、受信側の無線局で受信した無線信号の受信信号強度(すなわちRSSI値)をもとに受信状態の良否を判定する判定部(制御部1)と、判定部の判定結果を報知する報知部5とを備えている。判定部は、受信側の無線局によって複数回受信された無線信号の受信信号強度をそれぞれ取得し、複数回分の受信信号強度を統計処理することによって、電波状態の良否を判定する。
これにより、受信側の無線局で1回のみ受信された受信信号強度に基づいて電波状態の良否を判定する場合に比べて、電波状態の判定結果の信頼性が高くなる。よって、電波チェック時に電波状態が良好であると判定されれば、実際の通常運用時に通信不良が発生する可能性は低く、良好な電波環境で無線通信を行うことができる。
また本実施形態で説明したように、各々の無線局が無線通信部を備えた火災警報器であり、火災警報器間で火災感知信号を無線送信することによって、火元以外の火災警報器からも警報信号を鳴動できるようにした無線通信システムがある。このような無線通信システムでは、無線局である火災警報器を実際の設置場所(例えば天井や壁面)の下側(床面)に仮置きした状態で電波の受信状態を検査する。このような場合でも、複数回受信された無線信号の受信信号強度を統計処理した結果から電波状態の良否を判定しているので、1回のみの受信信号強度に基づいて受信状態の良否を判定する場合に比べて、受信状態の判定結果の信頼性が高くなる。よって、受信状態が良好と判定された位置の上方(実際の設置位置)に火災警報器が設置された場合に、通信不良が発生する可能性が低くなり、安定した無線通信を行うことができる。
また本実施形態の無線通信システムでは、判定部たる制御部1のメモリ部1aに、受信側の無線局が移動する場合の受信信号強度の確率分布をモデル化した分布モデル(例えばsuzuki分布)が予め設定されている。制御部1は、受信側の無線局(例えば子器TRi)の位置を異ならせた状態でそれぞれ測定された複数回分の受信信号強度から平均値を求める。そして、判定部(制御部1)は、受信信号強度の平均値で確率がピークとなるように平均値を分布モデルに当てはめた結果から運用時の通信失敗確率を求め、運用時の通信失敗確率と所定の第1しきい値との高低を比較することによって電波状態の良否を判定する。
これにより、電波状態が良好であると判定されれば、受信側の無線局が受信信号強度を測定した複数箇所のうち何れの場所に設置されたとしても、良好な電波環境で無線通信を行うことができる。したがって、電波の受信状態が場所によって変動する場合でも、電波の受信状態をより正確に検出することができる。また、伝搬の理論に基づいて電波の受信状態を評価しているので、電波の受信状態をより正確に検出することができる。
尚、分布モデルとしてsuzuki分布が用いられているが、分布モデルはsuzuki分布に限定されるものではなく、レイリー分布を用いてもよい。また、無線局が屋内に設置される場合は分布モデルとして仲上−ライス分布を用い、無線局が屋外に設置される場合は奥村−秦モデルを用いるというように、無線局の設置場所に適した分布モデルを用いることも好ましく、無線局の使用環境に合わせた分布モデルを用いることによって、電波の受信状態をより正確に評価することができる。尚、仲上−ライス分布や奥村−秦モデルといった分布モデルも従来周知の分布モデルであるので、その説明は省略する。
また本実施形態の無線通信システムにおいて、電波の受信状態を検査する場合に、親器TR1の制御部1が、受信側の無線局(例えば子器TRi)の位置を異ならせた状態でそれぞれ測定された複数回分の受信信号強度から平均値及び標準偏差を求める。そして、親器TR1の制御部1は、複数回分の受信信号強度の平均値が第2しきい値よりも大きく、且つ、標準偏差が第3しきい値以下であれば、電波の受信状態が良好であると判定してもよい。
この場合、RSSI値の平均値R1が第2しきい値以下であれば、親器TR1の制御部1は、受信信号強度が低く受信状態が不良であると判定する。
また、図4(a)(b)は複数回分の測定値から求めたRSSI値の確率分布をそれぞれ示し、何れの結果でも平均値R1は第2しきい値R3より大きくなっているが、図4(a)の結果では標準偏差σ1が第3しきい値以下であり、図4(b)の結果では標準偏差σ1が第3しきい値より大きくなっている。図4(b)に示すようにRSSI値の平均値R1が第2しきい値R3より大きい場合でも、標準偏差σ1が第3しきい値より大きくなると、標準偏差σ1が第3しきい値より小さい場合(図4(a)参照)に比べてRSSI値の分布の広がりが大きくなる。そして、図4(b)に示すRSSI値の分布では、図4(a)に示すRSSI値の分布に比べて、RSSI値が閾値R2(例えば第2しきい値R3と同じ値)以下となる領域の面積、すなわち運用時における通信失敗確率が所定の第1しきい値よりも高くなるので、制御部1は受信状態が不良であると判定する。
一方、RSSI値の平均値R1が第2しきい値R3より大きく、且つ、標準偏差σ1が第3しきい値σ3以下になると、運用時における通信失敗確率が第1しきい値以下となるので、制御部1は受信状態が良好であると判断する。
以上のように、親器TR1の制御部1は、RSSI値の平均値及び標準偏差を求め、平均値が第3しきい値よりも大きく、且つ、標準偏差が第3しきい値以下であれば、電波の受信状態が良好であると判定しており、1回のみのRSSI値から受信状態の良否を判定する場合に比べて電波の受信状態をより正確に判定することができる。
尚、上記の実施形態では、受信側の無線局の位置を異ならせた状態でそれぞれ測定された複数回分の受信信号強度を統計処理した結果に基づいて、電波の受信状態の良否を判定しているが、受信側の無線局の位置を同じ位置としてもよい。すなわち、受信側の無線局が同じ位置にある状態で、異なる時刻にそれぞれ測定された複数回分の受信信号強度を判定部が取得し、これら複数回分の受信信号強度を統計処理した結果に基づいて電波の受信状態の良否を判定するようにしてもよい。これにより、電波の受信状態が時間的に変動する場合でもその変動による影響を低減して、電波の受信状態をより正確に検出することができる。
また、上記の実施形態では親器TR1の制御部1が、複数回の受信信号強度に基づいて電波の受信状態の良否を判定しているが、子器TRi側の制御部1で、複数回の受信信号強度を統計処理した結果に基づいて、電波の受信状態の良否を判定してもよい。
尚、本発明の無線通信システムを構成する複数の無線局は、日本国でいうところの住宅用火災警報器をはじめ、煙感知式、熱感知式、炎感知式の各種火災警報器だけに限られるものではない。
例えば複数の無線局が、火災の発生を感知する火災警報器、周囲の空気質を測る空気質センサ、人の存否を検知する人センサのうちの少なくとも一種を含んでもよい。
空気質センサは、上述した火災警報器と同様の無線通信方式で無線通信を行う無線通信機能を備え、周囲の空気質を測定した結果を無線送信するものである。この種の空気質センサには、空気質として空気中の湿度を測定するセンサや、空気中を浮遊する塵の量を検出するセンサや、空気中の所望のガス成分を測定するガスセンサなどがある。測定対象のガス成分には、例えば空気の汚れ度合いを評価する指標となるCOx系の気体成分(例えば二酸化炭素や一酸化炭素など)や、メタンなどの可燃性ガスがあり、可燃性ガスを検出する空気質センサはガス漏れ警報器として使用される。
人センサは、上述した火災警報器と同様の無線通信方式で無線通信を行う無線通信機能を備え、人の検知結果を無線送信するものである。この種の人センサには、人体から放射される熱線(赤外線)を検出することによって人の存否を検出する赤外線感知式のセンサや、検知エリアを撮像素子で撮像して得た画像から人の存否を検出する画像解析式のセンサなどがある。
これら、空気質センサや人センサを上述の無線式火災警報器と併用することで、火災感知のみならず人検知や空気質検知の目的を兼ね備えた無線通信システムを構成することができる。
また、上記の無線局としては、図2に示すように、アンテナを目立たないように本体に内蔵したデザインのものでもよいが、アンテナが本体から突出したデザインのものであってもよい。