しかし,図11(B)の開放型シールド構造5は,外乱磁場が直流又は周波数が数Hz以下の低いときはほぼ設計どおりの磁気シールド性能が得られるものの,外乱磁場が高周波数域(例えば10Hz以上)になると磁気シールド性能が劣化する問題点がある。図12(A)のグラフは,幅30mm×長さ280mm×板厚1mmの4枚の帯状磁性板2(PCパーマロイ製)を平らな井桁状に接合して環帯状磁性板10とし,その環帯状磁性板10を板厚方向間隔d=30mmで20段重ねた開放型シールド構造5の周波数別の磁気シールド性能を確認した実験結果を示す。実験では,図11(C)に示す環状コイルLの中央部に開放型シールド構造5を設置し,0.7〜56.2μTの交流磁場M(周波数0.1Hz,直流磁場相当)を印加しながら内側中心の磁気センサ8で磁場強度を測定し,シールド係数SE(=印加磁場Mの強さ/測定磁場の強さ)を算出した。また,印加磁場Mの周波数を10Hz,100Hzに切り替えながら実験を繰り返し,印加磁場Mの周波数の相違による磁気シールド係数SEを比較した。同グラフから,PCパーマロイ製の開放型シールド構造5は,印加磁場Mの周波数が高くなるとシールド係数SEが小さくなること,すなわち磁気シールド性能が低下することが分かる。
開放型シールド構造5の磁気シールド性能が高周波数域において劣化する原因は,環帯状磁性板10の内部に電磁誘導によって渦電流(渦電流損)が生じるからと推測される。一般に周波数fの磁場到来時に板厚t,抵抗率ρの磁性板に生じる渦電流損(W)は(1)式で表される。(1)式において,Bmは磁性板の最大磁束密度,kは定数である。図12(B)のグラフは,上述した同図(A)の実験と同様の開放型シールド構造5(環帯状磁性板10の板厚t,板厚方向間隔d及び段数を,それぞれ0.5mm,60mm及び5段に変更)を図11(C)の環状コイルLの中央部に設置し,周波数を1Hz,10Hz,60Hz,200Hzに切り替えながら略一様磁場M(10μT)を印加して内側中心の磁気センサ8で磁場強度(実験値)を測定し,その実験値を磁場数値解析により求めた解析値と比較した結果を示す。同グラフは,周波数が高くなるに従って中心の磁場強度が大きくなること,つまり磁気シールド性能が低下することを示している。また,(1)式を考慮した解析値が実験値とよく一致することを表しており,磁気シールド性能の劣化原因が渦電流であることを裏付けている。すなわち,磁場の周波数が高くなると電磁誘導によって環帯状磁性板10の内部に磁束の変化を妨げる方向の渦電流が発生し,その渦電流が磁性体回路の内部磁束の変化を打ち消して磁束の流れを妨げ,磁気シールド性能を劣化させると考えられる。
W=k・t2・f2・Bm2/ρ ……………………………………(1)
上述した磁気シールド性能の劣化防止対策として,渦電流(渦電流損)の大きさが磁性板の板厚tの二乗に比例することから((1)式参照),板厚tの小さい磁性薄板(又は磁性箔材)を用いて渦電流の発生を抑えることが考えられる(特許文献4参照)。しかし,薄板(又は箔材)に加工できる特殊な磁性材料(例えばPCパーマロイと同等の磁気特性を有するコバルト系アモルファス等)は一般に高価であり,材料コストが嵩む問題点がある。また,施工時に複数の磁性薄板(又は磁性箔材)を積層して必要な厚さを確保する必要があるので,施工に非常に手間がかかる問題点もある。開放型シールド構造5は,シールド空間に開放性(透視性,透光性,放熱性)を与えると同時に,同じ量の磁性材料を用いた密閉型シールド構造よりも高い磁気シールド性能を得ることができ,様々なシールド空間への適用が期待されている。直流磁場又は数Hz以下の低周波数磁場だけでなく200Hz程度の高周波数域の交流磁場においても磁気シールド性能が劣化しない簡単で経済的な開放型シールド構造を提供することができれば,開放型シールド構造の普及を図ることができる。
そこで本発明の目的は,直流磁場から200Hz程度の高周波数域の交流磁場まで高い磁気シールド性能が維持できる開放型磁気シールド構造を提供することにある。
本発明者は,シールド対象空間1の周囲に磁性体回路と導体回路とを組み合わせて配置することに着目した。図13(A)に示すように,上述した環帯状磁性板10を用いた開放型シールド構造(図11(B)参照)と同様に,例えば銅製又はアルミニウム製の環状に閉じた帯状導体板(以下,環帯状導体板ということがある)20を用いて開放型シールド構造を形成できる。この開放型シールド構造は,中心軸方向の磁場Mが印加されると,電気的に閉じた環帯状導体板20からなる導体回路に電磁誘導によってループ電流(渦電流)が発生し(図中の矢印参照),その渦電流が反対向きの磁界を誘起して磁場Mを打ち消す磁気シールド効果が期待できる。
図13(B)のグラフは,外寸法280mm×280mm,幅30mm×板厚5mmの銅製及びアルミニウム製の環帯状導体板20を用い,複数の環帯状導体板20を板厚方向間隔d=60mmで5段重ねて開放型シールド構造を作成し,その開放型シールド構造を図11(C)の環状コイルLの中央部に中心軸方向が磁場方向と一致するように設置し,図12(B)の実験と同様に周波数を1Hz,10Hz,60Hz,200Hzに切り替えながら略一様磁場M(10μT)を印加して内側中心の磁気センサ8で磁場強度(実験値)を測定した結果を示す。同グラフから,印加磁場Mの周波数が高くなるに従って内側中心の磁場強度が小さくなること,つまり環帯状導体板20を用いた開放型シールド構造の磁気シールド性能が向上することが分かる。また同グラフは,アルミニウム製よりも導電率の大きい銅製の開放型シールド構造のシールド性能が高いことを示す。更に同グラフは,環帯状導体板20の渦電流を磁場数値解析により求めて内側中心の磁場強度を算出した解析値を併せて表しており,その解析値が実験値とよく一致していること,すなわち磁気シールド性能の向上原因が環帯状導体板20からなる導体回路に発生する渦電流であることを示している。
環帯状磁性板10を用いた開放型シールド構造の磁気シールド性能は印加磁場Mの周波数が高くなると低下するのに対し(図12(B)参照),環帯状導体板20を用いた開放型シールド構造の磁気シールド性能は印加磁場Mの周波数が高くなると向上するので(図13(B)参照),それらを組み合わせれば高周波数域における磁気シールド性能の低下を抑えることが期待できる。ただし,環帯状磁性板10は磁束を集中させてシールド効果を発揮するものであり,環帯状導体板20が近くに存在すると磁束の集中が乱され,両者の干渉によって磁気シールド性能が逆に劣化するおそれもある。本発明者は,環帯状磁性板10と環帯状導体板20とを組み合わせた開放型シールド構造の研究開発の結果,両者の干渉を避けうる構造を見出し,本発明の完成に至ったものである。
図1の実施例を参照するに,本発明による導体回路付き開放型磁気シールド構造は,磁気シールド対象空間1を貫く第1方向軸Axと所定間隔dxで交差する複数の平行な平面Px1,Px2,……上にそれぞれ所定帯幅Wmで空間1を囲む環帯状導体板20からなる導体回路21x1,21x2,……を設け,空間1を貫く第2方向軸Ayと所定間隔dyで交差する複数の平行な平面Py1,Py2,……上にそれぞれ所定帯幅Wcで空間1を囲む環帯状磁性板10からなる磁性体回路11y1,11y2,……を設け,空間1の周囲に環帯状導体回路群21x1,21x2,……と環帯状磁性体回路群11y1,11y2,……とを入れ子状に且つ環帯状導体板20の帯幅面と環帯状磁性板10の帯幅面とが対向しないように配置してなるものである。
好ましくは,図2に示すように,磁気シールド対象空間1を貫く第3方向軸Azと所定間隔dzで交差する複数の平行な平面Pz1,Pz2,……上にそれぞれ所定帯幅Wcで空間1を囲む環帯状磁性板10なる磁性体回路11z1,11z2,……を設け,空間1の周囲に1層の環帯状導体回路群21x1,21x2,……と2層の環帯状磁性体回路群11y1,11y2,……,及び11z1,11z2,……とを入れ子状に且つ環帯状導体板20の帯幅面と環帯状磁性板10の帯幅面とが対向しないように配置して開放型磁気シールド構造を構成する。環帯状導体回路21x1,21x2,……は,環帯状磁性体回路11y1,11y2,……,及び11z1,11z2,……より小径として内側に配置することが望ましい。
更に好ましくは,図5に示すように,第1方向軸Axと交差する環帯状導体板20の各間隔dxにそれぞれその環帯状導体板20と間隙s1,s2(図7(B)参照)を介して対向し且つ所定帯幅Wcで空間1を囲む環帯状磁性板10からなる磁性体回路11x1,11x2,……を設け,空間1の周囲に1層の環帯状導体回路群21x1,21x2,……と3層の環帯状磁性体回路群11x1,11x2,……,11y1,11y2,……,及び11z1,11z2,……とを入れ子状に且つ磁気シールド対象空間1を貫く第1方向軸Axに沿って設けた環帯状導体板20の帯幅面と第2方向軸Ay又は第3方向軸Azに沿って設けた環帯状磁性板10の帯幅面とが対向しないように配置して開放型磁気シールド構造を構成する。
望ましくは,図6(A)に示すように,第2方向軸Ayと交差する環帯状磁性板10の各間隙dyにそれぞれその環帯状磁性板10と間隙s1,s2(図7(B)参照)を介して対向し且つ所定帯幅Wmで空間1を囲む環帯状導体板20からなる導体回路21y1,21y2,……を設け,空間1の周囲に2層の環帯状導体回路群21x1,21x2,……,及び21y1,21y2,……と3層の環帯状磁性体回路群11x1,11x2,……,11y1,11y2,……,及び11z1,11z2,……とを入れ子状に且つ磁気シールド対象空間1を貫く第1方向軸Axに沿って設けた環帯状導体板20の帯幅面と第2方向軸Ay又は第3方向軸Azに沿って設けた環帯状磁性板10の帯幅面とが対向しないと共に第2方向軸Ayに沿って設けた環帯状導体板20の帯幅面と第1方向軸Ax又は第3方向軸Azに沿って設けた環帯状磁性板10の帯幅面とが対向しないように配置する。
更に望ましくは,図6(B)に示すように,第3方向軸Azと交差する環帯状磁性板10の各間隙dzにそれぞれその環帯状磁性板10と間隙s1,s2(図7(B)参照)を介して対向し且つ所定帯幅Wmで空間1を囲む環帯状導体板20からなる導体回路21z1,21z2,……を設け,空間1の周囲に3層の環帯状導体回路群21x1,21x2,……,21y1,21y2,……,及び21z1,21z2,……と3層の環帯状磁性体回路群11x1,11x2,……,11y1,11y2,……,及び11z1,11z2,……とを入れ子状に且つ磁気シールド対象空間1を異なる方向に貫く3方向軸の何れかの方向軸に沿って設けた環帯状導体板20の帯幅面と残りの方向軸10に沿って設けた環帯状磁性板の帯幅面とが対向しないように配置する。
好ましい実施例では,図7(B)に示すように,空間1を貫く同じ方向軸Ax(又はAy,Az)に沿って設けた環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の帯幅面とを平行に対向させ,その対向間隙s1,s2を環帯状磁性板10の帯幅Wcの0.64倍又は19mmの何れか小さい値以上とするか,或いは環帯状導体板20の帯幅Wmを環帯状磁性板10の所定帯幅Wc以下とする。更に好ましい実施例では,図7(C)に示すように,空間1を貫く同じ方向軸Ax(又はAy,Az)に沿って設けた環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の板厚面とを平行に対向させ,環帯状磁性板10の帯幅面に対して環帯状導体板20の帯幅面を垂直向きとする。
本発明による導体回路付き開放型磁気シールド構造は,磁気シールド対象空間1を貫く第1方向軸Axと所定間隔dxで交差する複数の平行な平面Px上にそれぞれ空間1を囲む所定帯幅Wmの環帯状導体板20を並べて開放型シールド構造(導体回路21x1,21x2,……)とし,同じ空間1を貫く第2方向軸Ayと所定間隔dyで交差する複数の平行な平面Py上にそれぞれ空間1を囲む所定帯幅Wcの環帯状磁性板10を並べて開放型シールド構造(磁性体回路11y1,11y2,……)とし,空間1の周囲に環帯状導体回路群21x1,21x2,……と環帯状磁性体回路群11y1,11y2,……とを入れ子状に且つ環帯状導体板20の帯幅面と環帯状磁性板10の帯幅面とが対向しないように配置するので,次の効果を奏する。
(イ)環帯状磁性板10による開放型シールド構造の高周波数領域における磁気シールド性能の低下を,環帯状導体板20による開放型シールド構造の高周波数領域における磁気シールド性能の向上によって補うことができ,例えば200Hz以下の微弱交流磁場に対しても高い磁気シールド性能を発揮することができる。
(ロ)環帯状磁性板10を並べる中心軸と環帯状導体板20を並べる中心軸とを異なる方向とし,両者10,20を入れ子状に配置して環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の帯幅面とが対向しない開放型シールド構造とするので,環帯状磁性板10と環帯状導体板20との干渉による磁気シールド性能の劣化を避けることができる。
(ハ)低周波数域の磁気シールド性能の高い環帯状磁性板10による開放型シールド構造と,高周波数域の磁気シールド性能の高い環帯状導体板20による開放型シールド構造とを,相互の干渉を避けながら組み合わせることにより,直流磁場から200Hz程度の高周波数域の交流磁場まで高い磁気シールド性能が維持できる開放型シールド構造を実現できる。
(ニ)環帯状磁性板10及び環帯状導体板20は何れも容易に調達可能な磁性板及び導体板を用いて簡単に作成することができ,施工性も従来の開放型シールド構造の技術がそのまま利用できるので,シンプルで簡単且つ経済的に構築できる開放型シールド構造である。
図1は,磁気シールド対象空間(例えば磁気シールドルーム)1の周囲に磁性体回路と導体回路とを組み合わせて配置する本発明の開放型磁気シールド構造の実施例を示す。図1(A)は,対象空間1の中心点Oを貫く第1方向軸Axと所定間隔dxで交差する複数の平行な平面Px1,Px2,……上にそれぞれ,所定帯幅Wmで空間1を囲む環帯状導体板20からなる環帯状導体回路21x1,21x2,……を配置し,図13(A)と同様に所定帯幅Wmの環帯状導体板20が板厚方向間隔dxで積み重なった開放型シールド構造を形成したものである。各環帯状導体板20の中心軸である第1方向軸Axの方向は,外来磁場Mの到来方向と一致するように選択する。図示例では環帯状導体板20を設ける各平面Pxを第1方向軸Axと直交させているが,交差角度を直交以外とすることも可能である。なお,第1方向軸Axを通す対象空間1内の中心点Oは,例えば対象空間1内の嫌磁気装置の設置位置とすることができる。
環帯状導体板20は,例えば図13(A)に示すように,第1方向軸Axと交差する平面Pxと対象空間1の内面との交差線に沿って,帯幅Wmで適当な長さの複数の帯状導体板を端縁の重ね合わせによって平らな多角形状(例えば井桁状)に接合することにより作成できる。ただし,接合部の接触抵抗により磁気シールド効果が大きく異なりうるため,複数の帯状導体板を接合する方法に代えて,1枚の大きな導体板から環帯状導体板20をリング状にくり抜いて作成することも可能である。環帯状導体板20の材質は,例えば銅,アルミニウム等の適当な導体板から対象空間1に必要なシールド性能に応じて適宜選択できるが,上述したように環帯状導体板20の導電率が大きいとシールド性能も高いことから,導電率の大きい材質とすることが望ましい。
望ましくは,環帯状導体板20を,複数の導体薄板と絶縁性薄帯材とを交互に重ね合わせて積層した環帯状積層導体板とする。図3(C)及び(D)は,異なる板厚tの環帯状導体板20(銅製及びアルミニウム製)を用いて図13(A)の開放型シールド構造を作成し,図11(C)の環状コイルLの中央部で周波数1Hz,10Hz,60Hz,200Hzの印加磁場Mに対する内側中心の磁場強度(実験値)を測定した結果を示す。図3(C)及び(D)は何れも,環帯状導体板20の板厚tが大きくなると磁気シールド効果が向上することを示している。しかし図3(C)では,板厚tを5mm以上としても周波数200Hzにおけるシールド効果はほとんど向上していない。
図3(C)において,周波数200Hzの磁気シールド効果が板厚t=5mmで頭打ちとなる原因は,表皮効果(周波数が高くなると導体板の表面に電流が集中する現象)によるものと考えられる。200Hzにおける銅の表皮深さは4.75mmであるから,導体板20の板厚tが9.5mm(=上下面を考えて4.75mm×2)以上であっても表皮効果により流れる渦電流は変わらず,その結果としてシールド効果が頭打ちになる。これに対し,図3(D)に示すように,200Hzにおけるアルミニウムの表皮深さが6.3mmであるから,アルミニウム製の環帯状導体板20の200Hzにおけるシールド効果は,板厚t=5mmで頭打ちとならない。表皮効果によるシールド効果の頭打ちの現象を回避するため,例えば板厚が200Hzにおける表皮深さの2倍以下の導体薄板を用い,複数の導体薄板と絶縁性薄帯材とを交互に積層して必要な板厚tの環帯状積層導体板20とすることができる。絶縁性薄帯材は,各導体薄板間を電気的に絶縁して独立させるものであり,例えばシート状又はフィルム状(厚さ30μm以下)の紙や樹脂とすることができる。
図1(B)は,対象空間1の中心点Oを貫く第2方向軸Ayと所定間隔dyで交差する複数の平行な平面Py1,Py2,……上にそれぞれ,所定帯幅Wcで空間1を囲む環帯状磁性板10からなる磁性体回路11y1,11y2,……を配置し,図11(B)と同様に所定帯幅Wcの環帯状磁性板10が板厚方向間隔dyで積み重なった開放型シールド構造を形成したものである。各環帯状磁性板10の中心軸である第2方向軸Ayの方向は,図1(A)の第1方向軸Axと異なる方向,例えば第1方向軸Axと垂直な方向に選択する。図示例では環帯状磁性板10を設ける各平面Pyを第2方向軸Ayと直交させているが,交差角度を直交以外とすることも可能である。
環帯状磁性板10は,透磁率μの高いPCパーマロイその他の磁性板を用いて作成することができ,例えば図11(B)に示すように,第2方向軸Ayと交差する平面Pyと対象空間1の内面との交差線に沿って,帯幅Wcで適当な長さの帯状磁性板2を端縁の重ね合わせによって平らな多角形状(例えば井桁状)に接合して作成する。望ましくは,環帯状磁性板10を,複数のPCパーマロイ製薄板と絶縁性薄帯材とを交互に重ね合わせて積層した環帯状積層磁性板とする。図3(A)は,異なる板厚t=0.5mm,1.0mm,1.5mm,2.0mmのPCパーマロイ製の環帯状磁性板10を用いて開放型シールド構造(図11(B)参照)を作成し,同図(C)の環状コイルLの中央部で周波数1Hz,10Hz,60Hz,200Hzの印加磁場Mに対する内側中心の磁場強度(実験値)を測定した結果を示す。同図のグラフから,低周波数域では板厚tが大きくなるとシールド効果も向上するが,高周波数域では板厚tを大きくしても渦電流(渦電流損)によりシールド効果は低下して変わらないことが分かる。
図3(B)は,板厚t=0.5mmのPCパーマロイ材を直接4枚積層した環帯状磁性板10の開放型シールド構造と,同じPCパーマロイ材4枚と絶縁性薄帯材とを交互に積層した環帯状積層磁性板10の開放型シールド構造とを用い,同図(A)と同様に内側中心の磁場強度(実験値)を測定した結果を示す。同図のグラフから,絶縁性薄帯材を介することで,高周波数域におけるシールド性能が向上していることが分かる。PCパーマロイの板厚tの磁気特性(透磁率等)は一般的に薄いほうが高いことが知られており,別途行った実験でも,PCパーマロイ材の透磁率は板厚t=1mmより板厚t=0.5mmのほうが2〜3割高いことが確認されている。ただし,磁気焼鈍時に生成される結晶粒の大きさの関係で,PCパーマロイ材の板厚tを薄くし過ぎると磁気特性が悪くなることが知られており,磁気焼鈍時に歪みや反りが生じやすくもなる。望ましくは,板厚t=0.5mm〜1mmのPCパーマロイ導体薄板の複数毎と絶縁性薄帯材の複数毎とを交互に積層して必要な板厚tの環帯状積層磁性板10とする。絶縁性薄帯材の一例は,シート状又はフィルム状(厚さ30μm以下)の紙や樹脂である。
図1(C)に示すように,上述した同図(A)の環帯状導体回路群21x1,21x2,……と,同図(B)の環帯状磁性体回路群11y1,11y2,……とを,シールド対象空間1の周囲に入れ子状に配置して開放型シールド構造を形成する。磁性体回路11yと導体回路21xとでは,印加磁場Mに対して磁気シールド効果を発揮する方向(面)が異なる。例えば,図示例において外来磁場Mの到来方向である第1方向軸AxをX方向とすると,磁場に対して効果を発揮する磁性体回路11yはX−Z平面と平行に設置されるのに対して,導体回路21xはY−Z平面と平行に設置されるので,磁性体回路11yと導体回路21xとは別の方向(面)に設置されることになる。入れ子状の磁性体回路11yと導体回路21xとは,何れを内側とすることも可能である。
図4(A)は,図1(C)の開放型シールド構造において導体回路21xを磁性体回路11yの内側に配置した場合の磁気シールド効果,及び導体回路21xを磁性体回路11yの外側に配置した場合の磁気シールド効果を,同図(B)の磁性体回路11yのみからなる開放型シールド構造の磁気シールド性能と比較したシミュレーション結果を示す。同図のグラフから,導体回路21xと磁性体回路11yとを入れ子状に配置した磁気シールド構造は,何れを内側・外側とした場合も高周波数域におけるシールド性能の劣化が改善されていることが分かる。すなわち,磁性体回路11yと導体回路21xとを入れ子状に配置することにより,磁性体回路11yのみの開放型シールド構造の高周波数領域における磁気シールド性能の低下を,導体回路21xのみの開放型シールド構造の高周波数領域における磁気シールド性能の向上によって補償し,200Hz以下の微弱交流磁場において直流磁場の場合と同程度の高い磁気シールド性能を維持することができる。
また図4(A)のグラフは,導体回路21xを磁性体回路11yの内側に配置したほうが外側に配置した場合よりもシールド効果の改善効果が大きく,両者21x,11yの干渉が小さいことを示している。すなわち,磁性体回路11yと導体回路21xとを入れ子状の開放型シールド構造とする場合は,導体回路21xを磁性体回路11yより小径として内側に配置することが望ましく,高周波数領域における磁性体回路11yの磁気シールド性能の低下を導体回路21xの磁気シールド性能の向上によって補償する効果を高めることができる。
好ましくは,図2(A)に示すように,磁気シールド対象空間1の中心点Oを貫く第3方向軸Azと所定間隔dzで交差する複数の平行な平面Pz1,Pz2,……上にそれぞれ,所定帯幅Wcで空間1を囲む環帯状磁性板10なる磁性体回路11z1,11z2,……を設け,所定帯幅Wcの環帯状磁性板10が板厚方向間隔dzで重なった開放型シールド構造を形成する。そして,図2(B)に示すように,シールド対象空間1の周囲に,図1(A)の環帯状導体回路群21x1,21x2,……と,図1(B)の環帯状磁性体回路群11y1,11y2,……と,図2(A)の環帯状磁性体回路群11z1,11z2,……とを入れ子状に配置して開放型シールド構造を形成する。第3方向軸Azは,図1の第1方向軸Ax及び第2方向軸Azの何れとも異なる方向,例えば方向軸Ax,Ayの何れとも垂直な方向に選択する。図示例では各平面Pzを第3方向軸Azと直交させているが,交差角度を直交以外とすることも可能である。図2(B)の開放型シールド構造によれば,例えばX方向である第1方向軸Axから到来する外来磁場Mに対し,磁性体回路11y,11zがX−Z平面だけでなくX−Y平面にも配置されているので,図1(C)の磁気シールド構造よりも高い磁気シールド効果が期待できる。
図4(B)は,図2(B)の開放型シールド構造と,図1(A)の導体回路21xのみの開放型シールド構造と,図1(B)及び図2(A)の磁性体回路11y,11zのみの開放型シールド構造とについて,1・10・60・200Hzの周波数別の磁気シールド係数SE(=印加磁場Mの強さ/内側中心の磁場の強さ)を比較した数値シミュレーション(三次元非線形磁場解析)の結果を示す。同図のグラフは,磁性体回路11y,11zのみでは高周波数域においてSE値が低下するが,導体シールド21xのSE値が高周波数域において上昇する結果,両者を組み合わせた開放型シールド構造では高周波数域においてSE値を若干ながら上昇させ,磁性体回路11y,11zの低周波数域(1Hz時)と同程度の高いSE値を高周波数域においても発揮することを示している。すなわち,図2(B)のように中心軸Ax,Ay,Azの異なる環帯状導体回路群21x,環帯状磁性体回路群11y及び11zを入れ子状に配置することにより,直流磁場から200Hz程度の高周波数域の交流磁場まで高い磁気シールド性能が維持できる開放型シールド構造とすることができる。
図2(A)及び(B)の開放型シールド構造が,磁性体回路11の磁気シールド性能の低下を導体回路21の磁気シールド性能の向上によって補い,低周波数域から高周波数域まで高い磁気シールド性能が維持できる理由は,図7(A)に示すように,導体回路21xとなる環帯状導体板20の帯幅面と磁性体回路群11y(及び11z)となる環帯状磁性板10の帯幅面とが対向しておらず,導体回路21と磁性体回路11との干渉が避けられているからと考えられる。環帯状導体板20の帯幅面と環帯状磁性板10の帯幅面とが対向していると,環帯状磁性板10への磁束の集中が乱されて磁気シールド性能を劣化させるおそれがある。
[比較例]
環帯状導体板20の帯幅面と環帯状磁性板10の帯幅面とを対向させると干渉が生じることを確認するため,図9に示すようなモデル実験を行った。本実験では,上述した磁気シールド対象空間1を貫く方向軸Aと交差する平面P上に配置した環帯状導体板20及び環帯状磁性板10に代えて,図9に示すように,方向軸Aを囲む空間1の内周面上に配置した帯状導体板22及び帯状磁性板12(以下,内周面帯状導体板22及び内周面帯状磁性板12ということがある)を用いて開放型シールド構造を形成した。
図9(A)は,幅50mm×長さ245mm×板厚5mmの4枚の帯状導体板(銅板製)を端縁の突き合わせにより矩形の箱型(縦245mm×横245mm×高さ50mm)に結合して内周面帯状導体板22とし,シールド対象空間1を貫く第1方向の中心軸Axに沿って4個の内周面帯状導体板22を軸方向間隔d=15mmで並べることにより,空間1の内周面上に4段の内周面帯状導体板22からなる導体回路21xが配置されたシールド構造を形成したものである。また図9(B)は,幅50mm×長さ250mm×板厚1mmの4枚の帯状磁性板(PCパーマロイ製)を端縁の突き合わせにより矩形の箱型(縦250mm×横250mm×高さ50mm)に結合して内周面帯状磁性板12とし,シールド対象空間1を貫く第2方向の中心軸Ayに沿って4個の内周面帯状磁性板12を軸方向間隔d=15mmで並べることにより,空間1の内周面上に4段の内周面帯状磁性板12からなる磁性体回路11yが配置されたシールド構造を形成したものである。図9(C)は,同図(A)及び同図(B)のシールド構造を,シールド対象空間1の周囲に入れ子状に配置したシールド構造である。
図10は,図9(A)〜(C)の各シールド構造について,1・10・60・200Hzの周波数別の磁気シールド係数SEを比較した実験結果を示す。図10のグラフも,上述した図4(B)の場合と同様に,磁性体回路11のみのシールド構造(図9(B))では高周波数域においてSE値が低下し,導体回路21のみのシールド構造(図9(A))では高周波数域においてSE値が上昇することを示している。しかし,図4(B)では磁性体回路11及び導体回路21の両者を組み合わせたシールド構造(図2(B))によって高周波数域のSE値を若干ながら上昇させることができているのに対し,図10では磁性体回路11及び導体回路21の両者を組み合わせたシールド構造(図9(C))によっても高周波数域のSE値の低減を抑えることができていない。
磁性体回路11及び導体回路21を組み合わせた図9(C)のシールド構造において高周波数域のSE値の低減を抑制できない原因は,帯状導体板22の帯幅面と帯状磁性板12の帯幅面とを僅かな間隙で対向しているため,磁性体回路11と導体回路12とが何らかの干渉を起こしていること等が考えられる。例えば,帯状導体板22により帯状磁性板12への磁束の集中が乱され,或いは帯状磁性板12によって帯状導体板22に印加される磁場の性状に変化が引き起こされることにより,磁性体回路11と導体回路12とが干渉して磁気シールド性能を劣化させると想定される。
本発明は,環帯状磁性板10と環帯状導体板20とを両者の帯幅面が対向しないように入れ子状に配置して開放型シールド構造とするので,環帯状磁性板10と環帯状導体板20との干渉による磁気シールド性能の劣化を避けることができる。また,干渉を避けながら,環帯状磁性板10による開放型シールド構造の高周波数領域におけるシールド性能の低下を,環帯状導体板20による開放型シールド構造の高周波数領域におけるシールド性能の向上によって補うことができる。従って,直流磁場において環帯状磁性板10により得られる高い磁気シールド性能が,200Hz程度の高周波数域の交流磁場においても維持されている開放型シールド構造とすることができる。
こうして本発明の目的である「直流磁場から200Hz程度の高周波数域の交流磁場まで高い磁気シールド性能が維持できる開放型磁気シールド構造」の提供が達成できる。
図1(C)及び図2(B)の磁性体回路11及び導体回路21を組み合わせた開放型シールド構造は主に一方向の外乱磁場Mの遮蔽を目的としているが,外乱磁場Mの方向が決まっていない対象空間1において二方向又は三方向の外乱磁場Mを遮蔽対象とする場合は,図1(C)又は図2(B)を基本ユニットとして複数ユニットを組み合わせた開放型シールド構造とすることができる。この場合において,磁性体回路11は一つの回路で二方向外乱磁場Mに対応できる。すなわち,第1方向軸AxをX方向とすると,図1(B)の磁性体回路11yはX方向だけでなくZ方向の磁場に対応でき,図2(A)の磁性体回路11zもX方向だけでなくY方向の磁場に対応できる。これに対して,導体回路21は一つの回路で一方向の外乱磁場Mのみしか対応できず,二方向又は三方向の磁場に対応するためには各方向にそれぞれ導体回路21を配置する必要がある。
図5(B)は,第1方向軸Ax(X方向)の外乱磁場Mの遮蔽を目的として磁気シールド空間1の周囲に磁性体回路11及び導体回路21を配置した図2(B)の開放型シールド構造において,図5(A)に示すように第1方向軸Axと交差する環帯状導体板20の各間隔dxにそれぞれ,その環帯状導体板20と間隙s1,s2(図7(B)参照)を介して対向しつつ所定帯幅Wcで空間1を囲む環帯状磁性板10からなる磁性体回路の群11xを設け,シールド空間1の周囲に1層の環帯状導体回路群21xと3層の環帯状磁性体回路群11x,11y,11zとを入れ子状に配置したものである。
図5(B)の開放型シールド構造は,対象空間1の床,壁,天井の何れの方向から到来する外乱磁場Mに対しても2層の磁性体回路11で対応することができる。ただし,導体回路21は一つしか配置されていないので,第1方向軸Ax(X方向)については直流磁場から高周波数領域まで高い磁気シールド性能(図4(B)参照)を有しているが,第2方向軸Ay及び第3方向Az(Y方向及びX方向)の磁気シールド性能は高周波領域において低下する可能性が残る。
望ましくは,図6(A)に示すように,第2方向軸Ayと交差する環帯状磁性板10の各間隙dyにそれぞれ,その環帯状磁性板10と間隙s1,s2(図7(B)参照)を介して対向しつつ所定帯幅Wmで空間1を囲む環帯状導体板20からなる導体回路の群21yを設け,空間1の周囲に2層の環帯状導体回路群21x1,21yと3層の環帯状磁性体回路群11x,11y,11zとを入れ子状に配置する。このような開放型シールド構造とすれば,第1方向軸Ax(X方向)だけでなく第2方向軸Ay(Y方向)についても直流磁場から高周波数領域まで高い磁気シールド性能(図4(B)参照)が得られる。
更に望ましくは,図6(B)に示すように,第3方向軸Azと交差する環帯状磁性板10の各間隙dzにそれぞれ,その環帯状磁性板10と間隙s1,s2(図7(B)参照)を介して対向し且つ所定帯幅Wmで空間1を囲む環帯状導体板20からなる導体回路の群21zを設け,空間1の周囲に3層の環帯状導体回路群21x,21y,21zと3層の環帯状磁性体回路群11x,11y,11zとを入れ子状に配置する。このような開放型シールド構造とすれば,あらゆる方向軸Ax,Ay,Azについて直流磁場から高周波数領域まで高い磁気シールド性能(図4(B)参照)が確保できる。
ただし,図5(A),図6(A),図6(B)のように環帯状磁性板10の各間隙dに環帯状導体板20を配置した開放型シールド構造では,環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の帯幅面とが対向する構造となるので,導体回路21と磁性体回路11との干渉が生じて磁気シールド性能を劣化させるおそれがある。そこで,図7(B)及び(C)のようなモデル実験を行った。本実験では,図5(A)のように第1方向軸Axと所定間隔dで交差する複数の平行な平面Px1,Px2,……Pxi,Px(i+1),……上にそれぞれ所定帯幅Wcの環帯状磁性板(PCパーマロイ製,帯幅Wc=30mm,板厚tc=1mm)10からなる磁性体回路11xを設け,その環帯状磁性板10の各間隙dにそれぞれ間隙s1,s2を介して対向させつつ所定帯幅Wmの環帯状導体板(銅板製,帯幅Wm=幅30mm,板厚tm=5mm)20からなる導体回路21xを設けた開放型シールド構造を想定し,その開放型シールド構造に周波数1Hz,10Hz,60Hz,200Hzの磁場Mを印加したときの内側中心の磁場強度を,図11(C)の環状コイルLを用いた実験及び数値シミュレーション(三次元非線形磁場解析)により求めた。
図8(A)は,図7(B)のように開放型シールド構造の環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の帯幅面とを平行に対向させ,両者の対向間隙s1を3mm,9mm,19mmに変えた場合(他方の対向間隙s2は常にs1以上(s2≧s1)とする)における開放型シールド構造の磁気シールド性能(内側中心における磁場強度)を,図11(C)の環状コイルLの中央部で求めた実験結果を示す。同図は,環帯状導体板20のない環帯状磁性板(PCパーマロイ製)10のみの開放型シールド構造(図1(B)参照)の磁気シールド性能も併せて示す。図8(A)のグラフは,対向間隙=3mmの場合に,周波数が高くなるに従って環帯状磁性板10のみのシールド性能より劣る傾向にあり,環帯状導体板20による補償効果が得られていないので,導体回路21と磁性体回路11との干渉が大きいことを示している。対向間隙=9mmではシールド性能が3mmの場合よりも多少改善され,対向間隙=19mmにおいて環帯状磁性板10のみのシールド性能と同等になる(高周波数域のシールド効果の低下率が10%以下となる)ことが確認された。
図8(A)の実験結果から,図7(B)のように環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の帯幅面とを平行に対向させた場合に,高周波数域における磁気シールド効果の低下率が10%以下になるまで導体回路21と磁性体回路11との干渉を抑えるためには,両者の帯幅面の対向間隙s1,s2を何れも19mm以上とすることが有効であることが確認できた。また,本発明者は更なる実験により,環帯状磁性板10及び環帯状導体板20の帯幅Wc,Wmを30mm以上(45mm)とした場合でも対向間隙=19mmとすれば高周波数域のシールド効果の低下率が10%以下となること,環帯状磁性板10及び環帯状導体板20の帯幅Wc,Wmを15mmとした場合は対向間隙s1=9mmにおいて高周波数域のシールド効果の低下率が10%以下となることを確認することができた。これらの実験結果から,導体回路21と磁性体回路11との干渉を抑えるためには,環帯状磁性板10及び環帯状導体板20の帯幅面の対向間隙s1,s2を何れも,環帯状磁性板10の帯幅Wcの0.64倍(≒19/30,9/15=0.6倍もカバーできる)又は19mmの何れか小さい値以上とすることが有効であると確認できた。なお,本発明者は,図8(A)の磁気シールド性能を数値シミュレーション(三次元非線形磁場解析)によって解析し,その解析値が実験値とよく一致することをも確認できた。
また図8(B)及び(C)は,図7(B)のように開放型シールド構造の環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の帯幅面とを平行に対向させ,環帯状磁性板10の帯幅Wc=30mmを一定としたうえで,環帯状導体板20の帯幅Wmを15mm又は45mmに変えた場合における開放型シールド構造の磁気シールド性能(内側中心における磁場強度)の数値シミュレーション結果を示す。図8(B)のグラフからは,帯幅Wm=15mmであると対向間隙=3mmであっても高周波数域のシールド効果の低下率が10%以下となり,導体回路21と磁性体回路11との干渉が小さく抑制されていることが分かる。これに対して図8(C)のグラフからは,帯幅Wm=45mmであると,対向間隙=19mmにおいて高周波数域のシールド効果の低下率が10%以下となるものの,導体回路21と磁性体回路11との干渉が明らかに大きくなっていることが分かる。これらの実験結果から,導体回路21と磁性体回路11との干渉を抑えるためには,環帯状導体板20の帯幅Wmを環帯状磁性板10の所定帯幅Wc以下とすることが有効であると確認できた。
更に,環帯状導体板20の帯幅Wmを環帯状磁性板10の所定帯幅Wcより小さくする観点から,図7(C)のように環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の板厚面とを平行に対向させ,環帯状磁性板10の帯幅面に対して環帯状導体板20の帯幅面を垂直向きとした開放型シールド構造の磁気シールド性能を確認した。図8(D)は,図7(C)のように環帯状磁性板10の帯幅面と環帯状導体板20の板厚面とを対向させ,両者の対向間隙s1を3mm,9mm,14.75mmに変えた場合(他方の対向間隙s2は常にs1以上(s2≧s1)とする)における開放型シールド構造の磁気シールド性能(内側中心における磁場強度)の数値シミュレーション結果を示す。図8(D)のグラフは,対向間隙=3mmにおいても高周波数域のシールド効果の低下率が2%以下に抑えられていることを示している。この実験結果から,導体回路21と磁性体回路11との干渉を抑えるためには,環帯状磁性板10の帯幅面に対して環帯状導体板20の帯幅面を垂直向きとすることが極めて有効であることが確認できた。