以下に、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
先ず、第一の使用形態に用いられるコンクリート養生シートについて説明する。本発明に係るコンクリート養生シート1は、図1A、図1Bに示すように、外シート10と、内シート11と、タック12と、孔13と、を備える。内シート11は、前記外シート10に重ね合わされる。タック12は、前記外シート10に設けられる。孔13は、前記外シート10のタック12の位置に対応して、前記内シート11に設けられ、前記外シート10と前記内シート11との間と外部とを連通する。
コンクリート養生シート1が、直方体又は立方体のコンクリート躯体の周囲の全部を覆う場合、コンクリート養生シート1の外シート10及び内シート11の形状は、正方形(又は長方形)を中心にし、上下左右に4つの正方形(又は長方形)を配置した十字形状としている。内シート11は、外シート10に重ね合わされるため、内シート11のサイズは、外シート10のサイズに対応している。
タック12は、外シート10の立体的な形状を実現するために設けられる。例えば、図1Aに示すように、4つのタック12が、外シート10の十字形状のうち、コンクリート躯体の平面に対向する中央面10aの左端部周辺で、上下方向に所定間隔を空けて設けられている。タック12の折り目は、右方向に沿って設けられる。又、同様に、4つのタック12が、外シート10の中央面10aの右端部周辺にも設けられている。タック12の位置や数は、これらに限定する必要は無く、複数のタック12が、外シート10の中央面10aの上下端部周辺に設けられても良いし、コンクリート躯体の側面に対向する側面の端部周辺に設けられても良い。タック12は、箱状となった外シート10の角部に設けられると、後述するように、外シート10の全体が膨張し易くなる。
タック12の形成方法に特に限定は無く、例えば、図1Cに示すように、中央面10aの左端部10bの近傍にタック12を形成させる場合、中央面10aの左端部10bの一部を上下方向に沿ってV字状に折り畳み、折り畳まれたV字状部分10cの左端部10dの一部(V字状の折り目部分)又は全部を、中央面10aの左端部10bに接合(融着、融接、縫着)することで、V字状部分10cの折り目10eが右方向に沿ったタック12を形成することが出来る。このタック12は、外シート10の中央面10a上の外側(表面側)でヒダとして残る。タック12を形成する際には、タック12のV字状部分10cに対応する余分丈が必要となる。尚、タック12は、外シート10の膨張を促すために設けられるため、ヒダの位置に限定は無く、外シート10の中央面10a上の内側(裏面側)でヒダとして残るよう設けても良い。
孔13は、外シート10のタック12の位置に対向する位置の近傍に設けられ、例えば、図1Bに示すように、複数のタック12が外シート10の中央面10aの左右端部周辺にそれぞれ設けられている場合は、孔13は内シート11の中央面11aの中心近傍に設けられる。孔13の位置、サイズ、形状に特に限定は無い。又、孔13の全体にメッシュを覆って、孔13の形態を保つように構成しても良い。
十字形の外シート10及び内シート11の隣り合う端部をそれぞれ接合することで、箱状の形状に組み立てる。例えば、外シート10の右側面の下端部を外シート10の下側面の右端部に接合し、外シート10の下側面の左端部を外シート10の左側面の下端部に接合し、外シート10の左側面の上端部を外シート10の上側面の左端部に接合し、外シート10の上側面の右端部を外シート10の右側面の上端部に接合して、外シート10を組み立てる。すると、図1Dに示すように、底面が開口された箱状の形状となる。同様に、内シート11も組み立てて、箱状の形状とし、箱状の外シート10の内部に、箱状の内シート11を重ね合わせることで、本発明に係るコンクリート養生シート1が形成される。本発明に係るコンクリート養生シート1は、コンクリート躯体の周囲の全部を覆う程度の箱状の形状となる。
ここで、例えば、箱状の外シート10の開口の周端部10fを、箱状の内シート11の開口の周端部11bに予め接合しておくと好ましい。つまり、本発明では、原則、コンクリート製品Cに外シート10及び内シート11の二枚のシートを覆うことになる。特に、コンクリート製品Cの種類によっては、当該コンクリート製品Cが大面積(10m×10m等)になる場合があり、そのような場合に、作業の手間が掛かる。そこで、外シート10の周端部10fを内シート11の周端部11bに予め接合しておくことで、実質、コンクリート製品Cに一枚のシートを覆うことになるから、作業の手間が軽減される。尚、この接合方法に特に限定は無く、例えば、熱圧接、縫合、接着剤による接着、両面テープによる接着等を挙げることが出来る。
そして、コンクリートCを製品としてコンクリート躯体2に打設した後、図2Aに示すように、コンクリート躯体2の周囲の全部に、本発明に係るコンクリート養生シート1を外シート10と内シート11との二重で覆って、コンクリート養生シート1の開口の周端部1aを、ブロック、重石、金属棒等の固定部材3で、地面Gに固定する。これにより、コンクリート養生シート1でコンクリート製品Cを外気から遮断させる。
ここで、単に、外シート10と内シート11とを重ね合わせた状態のみで、外シート10の周端部10fを内シート11の周端部11bに接合していない場合は、外シート10の開口の周端部10fと内シート11の開口の周端部11bとに前記固定部材3を隙間無く配置して、地面Gに固定する。この固定部材3により、外シート10の周端部10fを内シート11の周端部11bに固定した状態を形成することが出来る。この状態であっても、コンクリート製品Cを外気から遮断することが出来る。
又、コンクリート養生シート1を覆う形態に特に限定は無く、例えば、紐、ベルト等の締結部材を用いて、コンクリート養生シート1の開口の周端部1aを、コンクリート躯体2の下方の周端部に巻き付けて固定して覆っても良い。
そして、内シート11で囲まれた空間Sに、温調システムの蒸気供給口4と温調システムのセンサー5とを挿通し、温調システムのボイラーからの蒸気の供給を開始する。すると、空間Sに蒸気がコンクリート製品Cの周囲に充満する。ボイラーからの蒸気は、センサー5による検知温度及び検知湿度が、目標温度及び目標湿度にそれぞれ到達するまで供給され続ける。
又、空間Sの空気が蒸気により周囲に押されて、図2Aに示すように、当該空気が、内シート11の孔13を通過して、外シート10と内シート11との間に供給される。ここで、外シート10のタック12は、孔13の位置に対応して設けられているから、孔13から入ってきた空気により立体的な形状になり易く、外シート10全体として膨らみ易くなる。
尚、単に、外シート10を内シート11で二重に重ねた状態である場合、両者がぴったり密着して、空気が両者間に適切に入り込まない可能性がある。タック12を予め設けることで、外シート10と内シート11との間に空気を入り込み易くしている。
更に、空間Sへの蒸気の供給が継続されると、タック12により外シート10が、図2Bに示すように、内シート11から離れて、大きく膨張し、外シート10と内シート11との間に空気層を確実に形成させる。ここで、外シート10には、タック12を設けているため、タック12が、外シート10をピラミッド状の立体的に膨出させ、外シート10は、全体としてドーム状の立体的な形状になり易くなる。一方、内シート11は、タック12が存在しないから、外シート10の立体的形状に追従されて立体的な形状になるものの、外シート10のドーム状よりも小さなドーム状になる。つまり、内シート11は外シート10にぴったり密着した状態にならない。この状態が、外シート10と内シート11とを別個独立にドーム状に形成させ、十分な空気層を形成させることが出来る。
このように、本発明に係るコンクリート養生シート1では、コンクリート製品Cの周囲の蒸気と外気との間に空気層を容易に形成させることが出来る。又、蒸気の供給により自然に本シート1を膨張させることが出来るため、作業者の手間を軽減出来る。そして、センサー5の検知温度及び検知湿度が、目標温度及び目標湿度にそれぞれ到達すると、ボイラーからの蒸気の供給が停止する。
ここで、形成される空気層は、外気と空間Sとの間で有効な断熱材として機能する。即ち、空気の熱伝達率は水等の熱伝達率と比較して極めて低い値であり、熱を吸収し難い。このような断熱性能に優れる空気層を、外気と空間Sとの間に設けることで、空間Sに対する外気の影響を受け難くする。一方、外気に対する空間S内の蒸気の放熱を確実に防止し、空間S内の蒸気の温度及び湿度を保つことが出来る。その結果、蒸気供給停止後であっても、空間Sの蒸気に囲まれるコンクリート製品Cの温度及び湿度の急激な低下を防止することが可能となり、コンクリート製品Cの強度を均一にし、十分な品質を確保することが可能となる。
特に、空気層は、冬場の寒冷の外気温度に対して抜群の断熱性能を有する。冬場において、本発明に係るコンクリート養生シート1をコンクリート躯体に覆った場合を実施例1とし、通常のブルーシートをコンクリート躯体に覆った場合を比較例1として、冬場において養生時間に対する空間Sの温度の変化の測定結果を以下に示す。
図3は、実施例1、比較例1における養生時間と空間温度との関係を示すグラフである。図3に示すように、比較例1では、空間温度が目標温度に到達すると、蒸気の供給が停止するため、そこから急激に温度低下し、後は、養生時間が経つにつれて、緩やかに外気温に近づいていくことが理解される。一方、実施例1では、空間温度が目標温度に到達し、蒸気の供給が停止した後でも、温度低下が緩やかになり、更に、養生時間が経つにつれて、緩やかに外気温に近づいていくことが理解される。実施例1の曲線は、比較例1の曲線よりも上方に位置することから、実施例1では、空間S内の蒸気の放熱を確実に防止し、空間温度を保っていることになる。又、グラフには、実施例1の写真、比較例1の写真も併せて示す。実施例1では、比較例1と比較して、本シート1の全体が大きく膨張していることが理解される。
ここで、特定の養生時間における実施例1の外シート10の表面温度は、44度であり、同一の養生時間における比較例1の外シート10の表面温度は、60度であった。表面温度が低い程、空間Sの蒸気の熱が遮断されていることを示す。又、実施例1の空間温度の最終温度(35度)と、比較例1の空間温度の最終温度(20度)との間の温度差は10度以上であった。このように、実施例1では、比較例1と比較して、空間温度を高く維持することが出来るため、例えば、冬場において、空間S内の蒸気の温度、湿度を維持する目的で、多量の蒸気を供給する必要が無くなり、エネルギーコストを低く抑えることが可能となる。概算であるが、実施例1では、比較例1の蒸気の生成に要するボイラー用の燃料(例えば、重油)に対して1割から3割程度低減させることが出来る。
更に、実施例1、比較例1において、コンクリート打設の際に、圧縮強度試験用のコンクリート供試体を製作し、脱型後、30分以内にコンクリート供試体の圧縮強度試験を実施したところ、比較例1では、コンクリート供試体の圧縮強度が14N/mm2であったのに対し、実施例1では、コンクリート供試体の圧縮強度が19N/mm2であった。これは、実施例1のコンクリート製品Cの品質が高いことを示している。
ここで、コンクリート製品Cの強度は、コンクリート養生における積算温度が大きい程、高くなる。積算温度は、コンクリートの養生時間の一定間隔毎のコンクリートの養生温度を積算することで算出される。図3において、例えば、実施例1の積算温度は、実施例1の曲線と外気温との間の面積で概算することが出来る。実施例1の積算温度(面積)は、比較例1の積算温度(面積)と比較して明らかに大きくなる。そのため、コンクリート供試体の圧縮強度試験結果は、正に、図3における実施例1及び比較例1の積算温度を反映していることが理解される。
従って、本発明に係るコンクリート養生シート1の断熱性能は抜群に良く、高品質のコンクリート製品Cを製造することが出来ることが理解される。又、本発明に係るコンクリート養生シート1では、単に、コンクリート躯体2に被せるだけで良く、特定の骨格主体や部材を必要としないため、コストパフォーマンスにも優れている。
又、コンクリート養生完了後に、本発明に係るコンクリート養生シート1をコンクリート躯体2から取り外して片付ける場合、外シート10と内シート11との間に空気が十分に入っているものの、内シート11に存在する孔13を設けていることから、内部の空気を外部に素早く抜くことが可能である。即ち、本発明に係るコンクリート養生シート1の片付け作業(折り畳み作業)が飛躍的に楽になる。
ところで、本発明に係るコンクリート養生シート1の構成は、作業者の取り扱い性、コンクリート躯体の構成、工場の設備等に応じて適宜設計変更することが可能である。例えば、図4Aに示すように、内シート11の左右側面の上下端部に、一方の面ファスナー11c(雄型面ファスナー)をそれぞれ設け、内シート11の上下側面の左右端部に、他方の面ファスナー11d(雌型面ファスナー)をそれぞれ設け、両方の面ファスナー11c、11dの装着により、内シート11を組立可能としても良い。更に、組立後の内シート11の開口の周端部11bに、外シート10と内シート11との間と外部とを連通する破線状のスリット11eを設け、コンクリート養生中に外シート10の内面に生じる結露水の水抜きにしても良い。
特に、コンクリート養生中では、外シート10を介して外気と空気層との間の温度差が大きくなることから、膨らんだ外シート10の内面に結露水が多量に生じる。生じた結露水は、ドーム状になった外シート10をつたって、外シート10の周端部10fに流れ落ちて、外シート10と内シート11との間に溜まる。溜まった結露水の熱伝達率は、乾燥空気の熱伝達率と比較して高いため、空気層の熱を奪う媒体として機能する。空気層の熱が奪われれば、蒸気の熱が空気層へ流れるため、結果として、空間Sの温度及び湿度を下げてしまう。又、溜まった結露水は、本シート1全体の重量を重くするため、折角膨らんだ外シート10と内シート11とを地面Gへ下降させて、空気層の厚みを薄くし、その断熱性能を低下させる可能性がある。
そこで、内シート11にスリット11eを設けておくことで、外シート10と内シート11との間に溜まった結露水を内側の地面Gへ排出させて、空気層の温度を保持し易くし、空気層の熱の逃げを防止する。又、結露水を、外シート10と内シート11との間に溜めないことで、本シート1全体の重量も軽いままにすることが出来るため、外シート10と内シート11とをそれぞれ膨らんだままの状態にし、空気層の断熱性能を維持することが出来る。又、本シート1の下降を防止して、本シート1とコンクリート躯体2との引っ掛かりを防止することが可能となる。
尚、スリット11e及び後述する水抜き孔11eは、内シート11に設けられることで、空気層と外気との接触を出来るだけ防止している。又、スリット11e及び水抜き孔11eは、外シート10と内シート11との間と空間Sとを連通するため、ここから、空気が外シート10と内シート11との間に入っても良い。一方、孔13も、外シート10と内シート11との間と空間Sとを連通するため、ここから、結露水が排出されても良い。
又、図4Bに示すように、内シート11のうち、コンクリート躯体2の上方の角部が当接する部分に補強シート11fを設けても良い。この補強シート11fは、例えば、四角枠状に設けられる。これにより、コンクリート養生シート1をコンクリート躯体2に被せた際に、コンクリート躯体2の角部が内シート11に当接しても、補強シート11fに当接することになるから、コンクリート躯体2との擦れによる内シート11の破れを防止し、長期使用を可能とする。
又、図5に示すように、タック12の位置、数、孔13の位置、数を適宜設計変更しても良い。図5Aに示すように、外シート10には、上下側面の上下端部に二つのタック12がそれぞれ設けられ、右側面の右端部と左側面の左端部とに二つのタック12がそれぞれ設けられている。これにより、外シート10と内シート11との間に空気が入り込んだ際に、外シート10が容易にドーム状に膨張して、分厚い空気層を形成し易くなる。又、外シート10には、コンクリート製品Cを吊り上げる際の吊り具を挿通可能な挿通孔10gが設けられている。
図5Bに示すように、内シート11には、中央面11aの周端部で、上下側面、左右側面に、長方形状の孔13がそれぞれ設けられ、組立後の内シート11の開口の周端部に、外シート10と内シート11との間と外部とを連通する複数の水抜き孔11eがそれぞれ設けられている。更に、内シート11の内面のコンクリート躯体2の角部が当接する部分に、四角枠状の第一の補強シート11fが設けられ、四角枠状の四角を結ぶ対角線状にX字状の第二の補強シート11gが設けられ、このX字状の第二の補強シート11gの中心(内シート11の中央面11aの中心)に、外シート10と同様の挿通孔11hが設けられている。この第一の補強シート11fを設けることで、コンクリート躯体2との擦れによる破れを確実に防止する。又、この第二の補強シート11gを設けることで、シート1全体の形状を、コンクリート躯体2の形状に対応させて保つことが出来る。
又、図5A、図5Bに示す外シート10及び内シート11をそれぞれ組み立てて、外シート10の内部に内シート11を重ね合わせることで、図5Cに示すように、本発明に係るコンクリート養生シート1が形成される。
ここで、外シート10の挿通孔10g及び内シート11の挿通孔11hを設けることで、例えば、コンクリート製品Cの上面の中心に設けられる吊り部を、外シート10の挿通孔10g及び内シート11の挿通孔11hから通して、外部に設けられた吊り具に吊って、本シート1及びコンクリート製品Cを吊り上げることが可能となる。
尚、外シート10の挿通孔10g及び内シート11の挿通孔11hを設けると、これらの挿通孔10g、11hを介して、外部と空間Sとが連通してしまうが、吊り具を利用出来る程度に、これらの挿通孔10g、11hのサイズを出来るだけ小さく設けて、空間Sの蒸気、空気層の空気が、これらの挿通孔10g、11hから殆ど抜け出ないようにすることで、本発明の作用効果を得ることが出来る。
又、図6に示すように、外シート10及び内シート11の構成を適宜設計変更しても良い。図6Aに示すように、外シート10の外面で、吊り具の四角枠体に対面する部分に、断面がコの字状で、四角枠体に装着可能な装着部10zが設けられる。装着部10zは、例えば、補強シートで構成される。装着部10zには、四角枠体に締結可能な紐10yが複数設けられる。又、装着部10zから離れた位置にタック12が設けられる。図6Bに示すように、内シート11には、外シート10の装着部10zから離れた周側面(上下側面、左右側面)に、長方形状の孔13がそれぞれ設けられる。これにより、外シート10及び内シート11が膨張した場合に、四角枠体に対面する部分を膨張し難くすることで、外シート10と四角枠体との接触を防止する。又、図6Cに示すように、外シート10の外面には、装着部10zが露出するため、そこに吊り具の四角枠体10xを載せて、複数の紐10yで四角枠体10xに装着部10zを巻き付ければ、当該四角枠体10xを装着部10zに装着出来る。これにより、吊り具の四角枠体10xを上下に移動させることで、本発明に係るコンクリート養生シート1をコンクリート製品Cに簡単に被せたり、外したりすることが出来る。被せた後のコンクリート養生シート1の周端部を固定部材で固定すれば、コンクリート製品Cを外気から遮断出来る。尚、紐10yの数は、シート1全体の面積に応じて適宜設計変更されるが、シート1全体が大面積になる程、重いシート1を吊り具に固定する必要があるため、多くなる。紐10yは、装着部10zを枠体10zに巻き付けるために設けられるが、その巻き付け形態に特に限定は無く、靴紐のように、シングルでも、パラレルでも良い。装着部10zの形状は、四角枠体10xの一部(例えば、上下の枠体、左右の枠体など)に対応すれば良く、装着部10zの断面は、Uの字状でもVの字状でも構わない。吊り具の形状は、種類に応じて異なることから、それに応じて、装着部10zの構成を適宜変更することが出来る。
又、図1に示すように、タック12の幅(V字状部分10cのサイズ)は、外シート10と内シート11との間に形成される空気層の厚さを厚くするために、比較的大きく設定される。又、外シート10と内シート11との種類に特に限定は無く、例えば、防水性のシート、防湿性のシート、断熱性のシート、フィルムと不織布(又はメッシュ)とを一体に積層して熱圧接させたシート等を挙げることが出来る。
一般に、シートの材質のうち、フィルムの材質には、安価なポリエチレンが採用されているが、ポリエチレンの融点は、70度から100度の範囲内である。一方、ボイラーから供給される蒸気は、100度以上である。例えば、不織布にポリエチレンシートを融着させたコンクリート養生シートをコンクリート躯体に覆って蒸気を供給すると、蒸気がシートに接触した際に、シートの一部が溶融して、不織布が剥離し、微細な開口(数μm等)を生じさせ、蒸気がシートから直接漏れ出る場合がある。一方、ポリプロピレンの融点は、100度から140度の範囲内であり、ポリプロピレンは、蒸気に対して十分な耐熱性を有する。又、ポリエチレンの比重は、約0.94であるのに対し、ポリプロピレンの比重は、約0.91と低く、外シート10と内シート11の軽量化に最適である。更に、ポリエチレンのヤング率は、約1GPaであるのに対し、ポリプロピレンのヤング率は、1.5〜2.0GPaであり、ポリプロピレンは、剛性(硬さ)を有し、ポリプロピレン製の外シート10とポリプロピレン製の内シート11がそれぞれ膨張してドーム状を形成した際に、立体的形状を確保し易く、空気層の形成を確実にする。又、不織布の材質は、同様に、ポリプロピレン樹脂繊維等の合成樹脂繊維を採用することが出来る。従って、外シート10と内シート11の材質(フィルム、不織布)は、ポリプロピレンが好ましい。又、コンクリート養生が外部で行われることがあるため、外シート10と内シート11の材質に紫外線吸収剤が含まれていると、本発明に係るコンクリート養生シート1の劣化を抑えて、長期使用を可能とする。又、外部使用の点で、例えば、外シート10の外面を黒色に着色すれば、太陽光の吸収を促進し、シート1内の温度及び湿度の維持に寄与する。又、内シート11の内面を銀色(鏡面)にすることで、内部の熱を反射させ、シート1内の温度及び湿度を保持出来る。
又、外シート10と内シート11の厚みは、薄い程、シート1全体の軽量化に寄与するが、強度が低下する場合がある。従って、外シート10と内シート11の厚みは、例えば、0.2mmから0.6mmの範囲内であると好ましい。又、外シート10と内シート11の構成に特に限定は無いが、例えば、クロス生地に表面処理を施して、破れ難く、仮に破れても、その破れが拡がり難い構成とすると好ましい。外シート10と内シート11の構成をUVカット仕様とすると、更に好ましい。
次に、第二の使用形態に用いられるコンクリート養生シートについて説明する。本発明に係るコンクリート養生シート1は、図7A、図7B、図7Cに示すように、外シート10と、内シート11と、タック12と、孔13と、を備えている。外シート10のサイズは、養生室の出入口のサイズに対応している。一方、内シート11のサイズは、養生室の出入口を覆い、養生室の内部を密封して、内部の蒸気が漏れ出ることを防止するために、養生室の出入口のサイズよりも大きいサイズを有している。そのため、内シート11の下端部(裾)は、地面Gに接した後に、十分な余裕丈11iが生じるよう構成し、養生室の出入口を覆った内シートの隙間から蒸気が漏れ出ることを防止する。又、内シート11の上端部にも余裕丈11jが生じるように構成し、この余裕丈11jを養生室の出入口の上端部に固定出来るようにしている。
外シート10の上下端部には、図7Aに示すように、4つのタック12が、左右方向に所定間隔を空けて設けられている。又、外シート10の左右端部は、長尺の紐11kを沿わせて、内シート11の左右端部にそれぞれ接合されている。この紐11kを養生室の出入口の左右端部に密着させて固定することで、本シート1を養生室の出入口に隙間無く覆設することが出来る。又、内シート11の上端部の近傍には、図7Bに示すように、2つの長方形状の孔13が、左右方向に所定間隔を空けて設けられているが、他の形態として、孔13は、例えば、内シート11の左右端部に、上下方向に沿って、長尺に設けられ、外シート10と内シート11との間と外部とを連通しても良い。外シート10の周端部10fは、内シート11に接合されている。
又、巻き上げ式の養生室には、出入口を上下動可能なスライド棒が設けられているため、内シート11のうち、養生室の出入口の下端部に対向する部分に、スライド棒を挿通可能な筒部11lが設けられている。本シート1の内シート11を養生室の出入口に覆い、内シート11の上端部の余裕丈11jを出入口の上端部に固定して、スライド棒を内シート11の筒部11lに挿通して、スライド棒を上下動させることで、本シート1を扉として出入口の開閉を実現する。
スライド棒は、例えば、回転しながら、上下動するため、後述するように、外シート10と内シート11との間に空気層が形成された後、コンクリート養生を完了して、コンクリート養生シート1を巻き上げる場合に、スライド棒を介して、内シート11の下端部から本シート1全体を上方に巻き上げると、外シート10の下端部と内シート11の下端部との間の空気が上方に押し出される。そのため、上方に押し出された空気が、内シート11の上端部近傍の孔13から丁度抜け出て、本シート1をコンパクトに巻くことが可能となり、都合が良い。
又、内シート11のうち、外シート10の下端部に接合された部分の上側(筒部11jの上側)に、4つの水抜き孔11eが設けられている。この水抜き孔11eにより、外シート10と内シート11との間に溜まる結露水を確実に排出することが出来る。
さて、このコンクリート養生シート1を養生室の出入口に設置し、養生室の内部に、コンクリート打設後のコンクリート製品C(例えば、コンクリート二次製品)を搬入し、図8Aに示すように、コンクリート製品Cの周囲の一部に対応する養生室6の出入口に、本発明に係るコンクリート養生シート1を覆って、外気からコンクリート製品Cを遮断させる。
そして、内シート11で囲まれた空間S(養生室内部)に配置された温調システムの蒸気供給口4から蒸気の供給を開始し、蒸気をコンクリート製品Cの周囲に充満させる。又、センサー5による検知温度及び検知湿度が、目標温度及び目標湿度にそれぞれ到達するまで供給され続ける。
蒸気により押し出される空間Sの空気が、図8Bに示すように、内シート11の孔13を介して、外シート10と内シート11との間に入り込み、外シート10と内シート11との間に空気層が容易に形成される。
このように、本発明に係るコンクリート養生シート1では、養生室6の出入口にも、コンクリート製品Cの周囲の蒸気と外気との間に空気層を形成させることが出来る。
又、実施例1と同様に、冬場において、本発明に係るコンクリート養生シート1を養生室の出入口に覆った場合を実施例2とし、単に、二枚のシートを特定の間隔を空けて養生室の出入口に覆った場合を比較例2として、冬場において養生時間に対する養生室内の空間Sの温度の変化の測定結果を以下に示す。
図9は、実施例2、比較例2における養生時間と養生室内の空間温度との関係を示すグラフである。養生室でのコンクリート養生では、空間温度が目標温度に到達すると、その目標温度を維持するために、特定の期間Tだけ、蒸気の供給が継続され、到達から特定の期間Tを過ぎると、蒸気の供給が停止する。図9に示すように、比較例2では、特定の期間Tを過ぎると、蒸気の供給が停止するため、そこから急激に温度低下し、最後に、養生室の出入口が開放されて、空間温度が外気温に近づいていくことが理解される。一方、実施例2では、特定の期間Tを過ぎて、蒸気の供給が停止した後でも、温度低下が殆ど生じず緩やかであり、最後に、養生室の出入口が開放されて、空間温度が外気温に近づいていくことが理解される。実施例2の曲線は、比較例2の曲線よりも上方に位置することから、実施例1と同様に、実施例2では、空間S内の蒸気の放熱を確実に防止し、空間温度を保っていることになる。又、グラフには、実施例2の写真、比較例2の写真も併せて示す。実施例2では、比較例2と比較して、本シート1の全体が大きく膨張し、分厚い空気層が形成されていることが理解される。
ここで、実施例2の空間温度の最終温度(養生室の出入口を開放する直前の温度)(50度)と、比較例2の空間温度の最終温度(35度)との間の温度差は10度以上であった。このように、実施例2では、比較例2と比較して、空間温度を高く維持することが出来るため、上述と同様に、エネルギーコストを低く抑えることが可能となる。
又、図9において、実施例2の積算温度(面積)は、上述と同様に、比較例2の積算温度(面積)と比較して大きくなる。そのため、実施例2のコンクリート製品Cの圧縮強度は、比較例2のコンクリート製品Cの圧縮強度と比較して高くなることが推定され、実施例2のコンクリート製品Cの品質を向上させることが可能となる。
又、コンクリート養生完了後は、スライド棒を上方へ移動させれば、本発明に係るコンクリート養生シート1を巻き上げることが可能であり、その巻き上げの際に、外シート10と内シート11との間の空気は前記孔13から抜け出るから、本シート1の片付けも極めて楽である。
尚、本発明の実施形態では、上述した第一の使用形態と第二の使用形態に適用したコンクリート養生シートを説明したが、これらに限定する必要は無い。例えば、コンクリート養生シートの単純な形態として、図10A、図10Bに示すように、長方形状の外シート10と長方形状の内シート11とを重ね合わせても良い。
タック12は、外シート10の上下端部に2つずつ設けられ、図11に示すように、外シート10をピラミッド状の立体的に膨出させる。又、孔13は、内シート11の左右端部に、上下方向に沿って長尺状にそれぞれ設けられ、図12に示すように、長尺の孔13に、長尺のメッシュ13aを覆って、メッシュ13aの周端部を内シート11に接合しても良い。又、外シート10の周端部10fを、内シート11の周端部11bとともに折り返して、両者を融着することで、外シート10の周端部10fを内シート11の周端部11bに接合することが出来る。又、水抜き孔11eは、内シート11の上下端部に、3つずつ設けられ、図12に示すように、外シート10と内シート11との間と外部とを連通するように、内シート11の端部より内側に、円状に開口される。水抜き孔11eの形状に特に限定は無く、円形でも楕円形でも多角形でも直線状又は破線状のスリットでも良い。
このような構成であっても、上述と同様の作用効果を得ることが出来る。即ち、コンクリート養生シート1の内シート11を、養生中のコンクリートの周囲に被せ、コンクリート養生シート1の周端部1aをコンクリートの周囲に固定して、コンクリート養生シート1でコンクリートを外気から遮断させる。そして、コンクリート養生シート1の内シート11で囲まれた空間に蒸気を供給すれば、孔13(又は水抜き孔11e)により、空間の空気が外シート10と内シート11との間に供給される。又、タック12により、外シート10及び内シート11が拡がって、外シート10と内シート11との間に空気層が形成させる。これにより、空間内の蒸気の温度及び湿度を保つことが出来て、コンクリートの品質を高めることが出来る。
そして、コンクリート養生を完了し、コンクリート養生シート1を片付ける場合、長尺の孔12(及び水抜き孔11e)の存在により、外シート10と内シート11との間に入った空気や結露水を簡単に抜くことが出来る。例えば、図13に示すように、コンクリート養生シート1を片付ける際に、コンクリート養生シート1を長手方向(上下方向)に沿って折り畳むと、孔13から内部の空気(又は結露水)が抜け出るため、簡単に折り曲げることが出来る。そして、次に、コンクリート養生シート1を短手方向(左右方向)に沿って折り畳むと、図14に示すように、孔13の存在により、コンクリート養生シート1全体が大きく嵩張らずに簡単に折り畳むことが出来る。そして、更に、コンクリート養生シート1を小さく折り畳み、作業者がコンクリート養生シート1の上に乗ったりすれば、孔13を介して、更に、内部の空気が抜けて、コンパクトに折り畳むことが出来る。この状態であれば、コンクリート養生シート1を簡単に搬送したり保管したりすることが出来る。尚、孔13に加えて水抜き孔11eも同様の機能を果たす。
図10に示すコンクリート養生シート1では、外シート10の周端部10f(四端部)を内シート11の周端部11bに予め接合していたが、コンクリート養生時に、外シート10の周端部10fを内シート11の周端部11bに固定することが出来れば、この構成に限定する必要は無く、例えば、外シート10の一端部のみを内シート11の一端部に接合しても、外シート10の二端部のみを内シート11の二端部に接合しても、外シート10の三端部のみを内シート11の三端部に接合しても構わない。