本発明を、液体噴射ヘッドをメンテナンスするメンテナンスユニットを備えた液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」ともいう)において具体化した一実施形態について、以下、図を参照して説明する。
図1に示すように、液体噴射装置としてのプリンター11における略矩形箱状をなすフレーム12内には、その長手方向に沿って媒体の一例である用紙Pを印刷時に支持するための支持部材13が延設されている。そして、この支持部材13上において、フレーム12に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づき、図示しない紙送り機構により、用紙Pが、支持部材13の短手方向に搬送されることによって支持部材13上から搬送され、印刷終了後にプリンター11から排出される。この排出される用紙Pが支持部材13上を搬送される際の搬送方向を副走査方向Yともいう。
また、フレーム12内には、この支持部材13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、該ガイド軸15の軸線方向に沿って往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。すなわち、キャリッジ16にはガイド軸15の軸線方向に貫通するように支持孔16aが形成されるとともに、該支持孔16aにガイド軸15が挿通される。従って、キャリッジ16はガイド軸15の軸線方向に沿って往復移動可能に支持される。
フレーム12にはガイド軸15に沿って壁面が設けられるとともに、この壁面には略ガイド軸15の両端部と対応する位置に、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されるとともに、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとの間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛け渡されている。従って、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介してガイド軸15の軸線方向に往復移動する。なお、このキャリッジ16の移動方向を主走査方向Xともいう。
キャリッジ16には支持部材13と所定の隙間を開けて対向するように液体噴射ヘッド19が備えられるとともに、この液体噴射ヘッド19の支持部材13と対向する面側には液体としてのインクを噴射する複数のノズル29(図5参照)の開口が設けられている。一方、キャリッジ16には液体噴射ヘッド19に対してインクを供給するためのインクカートリッジ20が着脱可能に装着されている。
インクカートリッジ20内のインクは、インクカートリッジ20から液体噴射ヘッド19へと供給され、液体噴射ヘッド19に備えられた不図示の加圧部(たとえば圧電素子)により、該液体噴射ヘッド19の各ノズル29から支持部材13上を搬送される用紙Pに噴射されて印刷が行われる。
さらに、フレーム12内には、キャリッジ16の主走査方向Xへの移動領域のうち、液体噴射ヘッド19が搬送される用紙Pと対峙しない非印刷領域(ホームポジション領域)において、非印刷時に液体噴射ヘッド19のノズル29から排出される廃液としての廃インクを回収するための廃液回収装置23が設けられている。
この廃液回収装置23には、液体噴射ヘッド19のノズルから強制的に噴射されることによって排出されるインクを受容する液体受容体としてのフラッシングボックス40(以降「FLボックス40」と記す)を有するメンテナンスユニット25(以降「MTユニット25」と記す)が備えられている。そして、MTユニット25においてFLボックス40が受容したインクは、廃液回収装置23に備えられる不図示の廃液タンクに貯留されて回収される。
また、廃液回収装置23には、液体噴射ヘッド19に対してノズル29を囲むように当接した状態で吸引動作することによってノズル29からインクを排出させるキャップ21や、液体噴射ヘッド19に付着した不要なインクを拭き取るワイパー22などを有するメンテナンス装置が備えられている。これらは、FLボックス40を有するMTユニット25とともに、液体噴射ヘッド19からのインクの噴射特性を回復させるヘッドメンテナンスを行う。
さて、プリンター11が備える本実施形態のMTユニット25は、キャップ21などを有するメンテナンス装置に対して、連結および離脱が可能なユニットで形成されている。そして、メンテナンス装置と連結された状態において、メンテナンス装置に用いられる駆動源の回転動力が伝達されて蓋部材31が移動動作する構成とされている。
すなわち、本実施形態のMTユニット25には、メンテナンス装置に用いられる駆動源の回転動力が伝達されて、FLボックス40を覆う蓋部材31が副走査方向Yに沿って往復移動可能に設けられている。そして、液体噴射ヘッド19からインクが強制的に噴射される場合、蓋部材31は、副走査方向Yと反対方向に移動して、FLボックス40を露出させる開蓋位置(図1に示した状態)に配置される。一方、液体噴射ヘッド19からインクが強制的に噴射されない場合、蓋部材31は、FLボックスが露出しないように副走査方向Yへ移動してFLボックス40を覆う閉蓋位置に配置される。
次に、MTユニット25における蓋部材31の移動構成について、図2および図3を参照して説明する。なお、図2は、廃液回収装置23から取り外されたMTユニット25を、図1と同じ方向から見た斜視図であって、蓋部材31が開蓋位置に配置された状態である。図3は、図1及び図2とは主走査方向Xにおける逆の方向から見たMTユニット25の全体の斜視図である。
図2に示すように、本実施形態のMTユニット25は、蓋部材31の主走査方向Xの両端部において副走査方向Yに沿って形成された溝部と係合しながら蓋部材31を摺動させるガイドレール部32AG,32BGがそれぞれ副走査方向Yに沿って設けられたユニットフレーム32を備えている。本実施形態では、蓋部材31に形成された溝部は、溝の形成方向(副走査方向Y)に沿う方向からのみガイドレール部32AG,32BGに挿入して係合可能であり、所謂アリ溝と同様な機能を有して形成されている。したがって換言すれば、蓋部材31は、ガイドレール部32AG,32BGと係合した状態において、副走査方向Yにのみ移動可能である。
本実施形態のユニットフレーム32は、ガイドレール部32AGが設けられたフレーム体32Aと、ガイドレール部32BGが設けられたフレーム体32Bとから構成され、フレーム体32Aとフレーム体32Bとは、同一の形状を有している。すなわち、ユニットフレーム32は、2つの同一形状を有するフレーム体32A,32Bが互いに向き合った状態で結合されることにより形成される。これにより、ユニットフレーム32が例えば樹脂成形で製造される場合は金型の種類を少なく抑制して製造コストの上昇を抑制している。
ユニットフレーム32内において、液体噴射ヘッド19と対峙する側となる反重力方向側、すなわち上方側の領域であって副走査方向Y側の位置には、FLボックス40が配設されている。FLボックス40は、液体噴射ヘッド19と対峙する側となる上側が液体噴射ヘッド19から噴射されるインクを受容するために開口した有底略箱体の形状に構成されたボックス体42と、そのボックス体42を保持する保持体43とを備えている。
ボックス体42には、受容したインクを吸収する図示しないインク吸収材が内装されるとともに、インク吸収材に吸収されたインクが排出される排出口42aが設けられている。排出口42aには可撓性のチューブ24が接続され、チューブ24を介してインクが吸引されることで、吸引されたインクがFLボックス40から廃液回収装置23へ排出される。
またボックス体42の開口部には、ステンレス等の金属からなる格子状の電極部材41が、ノズルからのインクの噴射の有無を電圧変化によって検出する検出用電極として設けられている。本実施形態では、液体噴射ヘッド19と電極部材41との間に所定の電位差を生じさせた状態とし、液体噴射ヘッド19からインクが噴射された場合に生じる液体噴射ヘッド19と電極部材41との間の電圧変化を検出することにより、実際に液体噴射ヘッド19からインクが噴射されたか否かの噴射検査を行う。
ボックス体42は、圧縮ばね46(図4参照)を介して保持体43によって保持されている。保持体43は、保持したボックス体42の開口部がインクを受容する状態において液体噴射ヘッド19に対して接近及び離間する離接方向に移動可能とされ、例えば、液体噴射ヘッド19から噴射されるインクを受容する際に、ボックス体42を移動して適切に噴射検査が行われる位置に配置させる。
この保持体43には、副走査方向Y側とは反対方向側の端部において上方に立設された後壁部位43aが設けられている。後壁部位43aの上端部には、ほぼ中央位置に蓋部材31の副走査方向Yとは反対方向の後端部に設けられた後側壁部位31d(図3参照)に当接するローラー45が取り付けられている。また、後壁部位43aの上端部において副走査方向Yと交差する方向へ略円柱形状で突出する突出部位43Jが、そのフレーム体32A側の端部に設けられている。この突出部位43Jが、蓋部材31に設けられたカムとして機能するカム溝33と係合するカムフォロアーとして機能することでカム機構が構成される。
すなわち、蓋部材31には、ガイドレール部32AGを主走査方向Xとなる左右方向の両側からそれぞれ挟む側壁部位31A,31Bが設けられている。そしてユニットフレーム32内に位置する側壁部位31Bには、その下方において、壁面よりユニットフレーム32の内側へ向かって突出する略三角形状の第1凸部31bと、その上方において、同じく壁面よりユニットフレーム32の内側へ向かって突出するとともに副走査方向Yに延設された第2凸部31cと、が形成されている。これらの第1凸部31bと第2凸部31cとの間に設けられた隙間によって、突出部位43Jが移動するカム溝33が形成されている。
蓋部材31は、ユニットフレーム32内に備えられた移動機構50によって、FLボックス40が液体噴射ヘッド19から噴射されるインクを受容する開蓋位置(図中実線)と、蓋部材31における上方の平面部位31aによってFLボックス40を覆う閉蓋位置(図中二点鎖線)との間を移動させられる。この蓋部材31の移動に伴って、突出部位43Jがカム溝33を移動することによってFLボックス40が液体噴射ヘッド19に対して接近及び離間する離接方向に移動する。
次に、この移動機構50について図2〜図4を参照して説明する。なお、図4は、MTユニット25内に組み込まれた各構成部材を示す斜視図であり、フレーム体32B(二点鎖線)が取り外された状態で図示されている。
移動機構50は、図4に示すように、クランクアームに相当するクランク部52とコネクティングロッドに相当するロッド部53とを備え、これらにより所謂クランク機構が形成されている。すなわち、ロッド部53の一方のロッド基端部53aが、クランク部52において備えられたクランクピンに相当するクランク軸52Jと回転自在に連結され、このロッド基端部53aがクランク回転軸51B(51A)を中心に公転するクランク軸52Jとともに回転する。このロッド基端部53aの回転移動に伴って、ロッド部53の他方のロッド先端部53bが往復移動する。
往復移動するロッド先端部53bにおけるフレーム体32A側の軸端部53dは、図3に示すようにフレーム体32Aに形成された副走査方向Yを長手方向とする長円形状の開口孔36Aに挿通される。一方、図2に示すようにロッド先端部53bにおけるフレーム体32B側の軸端部53cは、フレーム体32Bに形成された副走査方向Yを長手方向とする長円形状の開口孔36Bに挿通される。なお、本実施形態では、クランク部52とクランク軸52Jとクランク回転軸51A,51Bとは、一体化された一つの部材で形成されている。また、ロッド部53とロッド基端部53aとロッド先端部53bとは、一体化された一つの部材で形成されている。もとより、これらはそれぞれ別部材で形成されていてもよい。
クランク回転軸51A,51Bは、図2および図3に示すように、フレーム体32A,32Bにおいてそれぞれ回転自在に軸支され、廃液回収装置23内において例えばキャップ21の吸引動作などに利用される回転駆動力が伝達される。このクランク回転軸51A,51Bの回転によりクランク軸52Jがクランク回転軸51A,51Bを中心に公転する。このクランク軸52Jの公転に伴って、ロッド先端部53bに設けられた各軸端部53c,53dが、開口孔36A,36B内を往復移動する。
開口孔36Aに挿通されて往復移動する軸端部53dは、フレーム体32Aのフレーム面から外側に飛び出す飛出し部位を有し、この飛出し部位に対して、所定の大きさのピッチ円を有する小歯車61と、この小歯車61よりも大きなピッチ円を有し、小歯車61と一体で回転する大歯車62とが、軸端部53dを中心として回転自在に取り付けられている。
フレーム体32Aには、図3に示すように、開口孔36Aの下側において小歯車61と対向する上面側に、ほぼ開口孔36Aの形成範囲に渡ってラック歯35Gが設けられた凸条部35Aが形成され、小歯車61は、設けられたこのラック歯35Gと噛み合って回転しながら凸条部35A上を副走査方向Yに沿って前後に移動する。一方、蓋部材31には、ガイドレール部32AGを主走査方向Xに沿う側面方向において外側から挟む側壁部位31Aの下端に、副走査方向Yにおける全範囲に渡ってラック歯31Gが設けられ、このラック歯31Gに対して大歯車62の外周に設けられた平歯62Gが噛み合う構成とされている。
従って、軸端部53dが開口孔36Aを移動するのに伴って、小歯車61はラック歯35Gに対して噛み合うことによって回転しつつ開口孔36Aに沿ってその回転中心が移動する。従って、大歯車62も、回転する小歯車61と一緒に移動しながら回転する。この結果、大歯車62の平歯62Gと噛み合う蓋部材31のラック歯31Gは、大歯車62の移動と平歯62Gの回転分を加えた距離分、副走査方向Yに移動する。換言すれば、図3に示すように、蓋部材31は、ロッド先端部53b(軸端部53c,53d)の移動距離に対して、小歯車61のピッチ円半径と大歯車62のピッチ円半径とを加算した寸法H2を小歯車61のピッチ円半径の寸法H1で除した値の倍率分多く移動する。
従って、本実施形態の移動機構50では、開口孔36A内を移動するロッド先端部53bが移動部材に相当し、ロッド先端部53bが移動する移動距離よりも長い距離を移動する大歯車62の平歯62Gが増速部位に相当する。また、大歯車62と小歯車61および凸条部35A(ラック歯35G)が、増速部材に相当する。
また、本実施形態では、蓋部材31を、少なくともクランク回転軸51Aおよびクランク回転軸51Bのいずれかを回転させることにより開蓋位置と閉蓋位置との間で移動させる。ちなみに、本実施形態では、図2において矢印KT1,KT2(図3では矢印KT)で示すように、クランク回転軸51B(51A)を一方向に半周分(矢印KT1分)回転させると、図中矢印D1で示すように、蓋部材31は開蓋位置から閉蓋位置まで移動する。さらに、クランク回転軸51B(51A)を同じく一方向に残り半周分(矢印KT2分)回転させると、図中矢印D2で示すように、蓋部材31は閉蓋位置から開蓋位置まで移動する。このように、クランク回転軸51B(51A)を1回転させることで、蓋部材31を往復移動させることができる。
なお、蓋部材31の閉蓋位置(図中二点鎖線)は、蓋部材31における上方の平面部位31aによって、少なくともFLボックス40におけるボックス体42の開口部が全て覆われる位置である。また、フレーム体32Bには、フレーム体32Aと同じ形状であることから、フレーム体32Aにおいて形成された凸条部35Aに相当する凸条部35Bが形成されている。
また、本実施形態のMTユニット25では、蓋部材31が副走査方向Yに沿って移動する際に、突出部位43Jがカム溝33を相対的に移動する構成とされ、保持体43は、液体噴射ヘッド19に対して接近及び離間する離接方向に移動可能とされている。次に、この保持体43の液体噴射ヘッド19に対する離接方向への移動構造について、図4を参照して説明する。
図4に示すように、保持体43は、介在する圧縮ばね46によって保持体43から離れる上方向へボックス体42を付勢するとともに、保持体43から突出形成されたフック形状部位43cをボックス体42に設けられた凸部位42cと離接方向において係合させることによって、ボックス体42の上方への移動を規制する。この規制によって、ボックス体42は、保持体43に対して近づく方向となる下方へ所定量移動が可能な隙間が設定された状態で保持体43に保持される。
ボックス体42を保持した保持体43におけるボックス体42とは反対側の下側には、同じ長さを有する4つのリンク棒71を備えたリンク機構が設けられている。すなわち、各リンク棒71は、その一端が、保持体43の下側において回転可能に軸支された第1回転軸体72の端部に固定され、他端が、フレーム体32A,32Bに対して回転可能に軸支された第2回転軸体73の端部に固定されている。そして、第1回転軸体72は保持体43の下側において副走査方向Yに沿う前後方向に所定の距離を隔てて2本平行状態で備えられるとともに、第2回転軸体73はフレーム体32A,32Bにおいて、同じく前後方向に第1回転軸体72と同じ所定の距離を隔てて2本平行状態で備えられている。
従って、4つのリンク棒71は、全て平行状態を維持しながら、ユニットフレーム32に軸支された第2回転軸体73を回転中心として回転(揺動)する。この結果、4つのリンク棒71のそれぞれにおいて一端側に固定された2本の第1回転軸体72は、上下方向において互いに同じ位置を維持しながら回転しつつ、軸支されている保持体43を、平行状態を維持しながら上下移動させる。このように、4つのリンク棒71は回転軸体間の距離が変わらない所謂パンタグラフ構造を有して構成され、ボックス体42が傾かないようにして上下移動できる構成とされている。
更に、本実施形態では、リンク棒71の第2回転軸体73を中心とする回転範囲が規制される。すなわち、フレーム体32A(32B)には、第1回転軸体72が第2回転軸体73よりも上方視で所定の距離分だけ副走査方向Y側となる前側に位置した状態になったときにリンク棒71と当接することにより当該リンク棒71の更なる前方側への回転を規制する前側規制壁部32fが形成されている。また、第1回転軸体72が第2回転軸体73よりも上方視で所定の距離分だけ副走査方向Yとは逆方向側となる後側に位置した状態になったときにリンク棒71と当接することにより当該リンク棒71の更なる後方側への回転を規制する後側規制壁部32eが形成されている。
なお、保持体43は、一端がフレーム体32Aに設けられた引掛け部位32dに係止される一方、他端が保持体43に設けられた引掛け部位43d(図5参照)に係止された引張りばね81によって、液体噴射ヘッド19から離れる下方向に付勢されている。
次に、本実施形態のMTユニット25における作用について説明する。
本実施形態では、蓋部材31の移動に連動してFLボックス40の移動が行われる。すなわち、FLボックス40は、蓋部材31の開蓋位置から閉蓋位置側への移動に伴って、液体噴射ヘッド19に対して離れるように下方へ移動して蓋部材31の移動を妨げないようにする。その後、開蓋位置側から閉蓋位置に移動する際に、FLボックス40は再び上昇し、ボックス体42の開口部が蓋部材31に対して下方から当接して閉蓋される。この蓋部材31とFLボックス40との連動動作(作用)について、図5〜図9を参照して説明する。なお、図5〜図9において、フレーム体32Bは取り外されるとともにフレーム体32Aは透視状態として図示されている。また、一部の部材については断面で図示されている。
まず、以下の作用の説明に対する理解を容易にするため、カム溝33の形状について図5を参照して説明する。図5に示すように、本実施形態におけるカム溝33は、第1凸部31bと第2凸部31cとによって、第1溝部33a、第2溝部33b、第3溝部33c、第4溝部33dの4つの溝部に区分されて形成されている。
第1溝部33aは、蓋部材31が開蓋位置にあるときに突出部位43Jが位置する溝部であり、引張りばね81によって下方へ付勢されることによって突出部位43Jが下方側の第1凸部31bに当接して位置決めされる。この位置決めによって、保持体43は液体噴射ヘッド19とボックス体42との間を適切な距離に設定する。
第2溝部33bは、蓋部材31が開蓋位置から閉蓋位置側に移動する際、ボックス体42を覆う平面部位31aと鉛直方向における重なりが生じないように突出部位43Jを下方へ移動させる傾斜した溝形状を有する溝部である。従って、保持体43が引張りばね81によって下方へ付勢されることによって突出部位43Jが第1凸部31bに当接して位置決めされながら下方へ移動する。この位置決めによって、保持体43はボックス体42を液体噴射ヘッド19から離れるように移動させる。
第3溝部33cは、蓋部材31が閉蓋位置に移動する突出部位43Jが通過する溝部であり、第1凸部31bが形成されていない下側が開口した溝部である。従って、この第3溝部33cでは突出部位43Jは溝部によって位置決めされない状態になっている。
第4溝部33dは、蓋部材31が開蓋位置側から閉蓋位置側に移動した際、蓋部材31の平面部位31aにボックス体42の開口部を下方から当接させるように上方へ移動する保持体43において、後壁部位43a(突出部位43J)の上方への移動を許容する溝部である。なお、第4溝部33dは、蓋部材31の後側壁部位31dと第2凸部31cとによって形成される。
さて、図5に示したように、蓋部材31が開蓋位置に位置した状態では、クランク部52とロッド部53は、クランク軸52Jとクランク回転軸51A(51B)とロッド先端部53bとが、この順で一直線に並んだ状態になる。すなわち、ロッド先端部53bは、開口孔36A(36B)において最も後側に位置する状態である。この状態で、突出部位43Jは第1溝部33aにおいて位置めされる。この突出部位43Jの位置決めによって、液体噴射ヘッド19とボックス体42の開口部との間の距離が噴射検査に適した距離に設定される。
続いて、図6に示すように、液体噴射ヘッド19からのインクの噴射が終了すると、矢印KTで示すように、クランク回転軸51Aに回転駆動力が伝達されてクランク部52が回転し、蓋部材31が開蓋位置(図中二点鎖線)から図中矢印D1で示した閉蓋位置側に向かって移動を開始する。すると、突出部位43Jは、相対的に第1溝部33aから第2溝部33bに向かって移動する。そして、ここでは図示を省略するが、突出部位43Jが第2溝部33bを移動する間、保持体43は引張りばね81によって下方へ付勢されるために、突出部位43Jは第1凸部31bに当接して位置決めされながら第2溝部33bに沿って下方へ移動する。この結果、保持体43は、ボックス体42が平面部位31aと上下方向(鉛直方向)において重ならないように下方へ移動する。
続いて、図7に示すように、クランク回転軸51Aの回転に伴ってクランク部52が更に回転し、図中矢印KTで示したように半周の回転分よりも少ない所定の角度分回転したところで、蓋部材31の後側壁部位31dが保持体43の後壁部位43aに設けられたローラー45と当接する。蓋部材31は、開蓋位置(図中二点鎖線)からこの当接状態になる位置まで距離D1b移動する一方、ロッド先端部53bはクランク軸52Jの副走査方向における移動の距離D1aと略同じ距離移動する。
なお、本実施形態では、突出部位43Jが第2溝部33bの移動を終了する前に、第1凸部31bとの当接状態が解除される。すなわち、リンク棒71が後側規制壁部32eと当接することでその回転が規制され、保持体43の下方への移動が規制される。従って、保持体43は、このようにリンク棒71が後側規制壁部32eと当接した状態が維持された状態でローラー45が蓋部材31の後側壁部位31dに当接する。
もとより、このリンク棒71が後側規制壁部32eと当接した状態において、保持体43は、ボックス体42の上端面が蓋部材31の平面部位31aの上端面に対して距離Vh分下がった位置に移動することによって、ボックス体42の上端面と蓋部材31の平面部位31aの下端面との間に隙間を形成する。ちなみに、本実施形態では、ボックス体42の上端面は、蓋部材31の平面部位31aの上面とほぼ同じ位置に設定されている。
この状態から、続いて、図8に示すように、クランク回転軸51Aの回転に伴ってクランク部52が更に図中矢印KTで示したように回転して、ほぼ半周の回転分に近い角度まで回転したところで、蓋部材31の後側壁部位31dが、図中二点鎖線で示した位置から前方へ距離D1y移動する。この移動において、後側壁部位31dが保持体43の後壁部位43aに設けられたローラー45を当接しながら閉蓋位置側へ押す。従って蓋部材31の後側壁部位31dによってローラー45が押されることにより、保持体43は副走査方向Y側へ移動するとともに、第2回転軸体73を中心にリンク棒71を回転させて、リンク棒71の長手方向がほぼ鉛直方向になるまで、保持体43を上昇させる。
こうして蓋部材31(後側壁部位31d)の移動と連動する保持体43(ローラー45)の上昇に伴って、突出部位43Jは第4溝部33d内へ移動する。なお、突出部位43Jは第4溝部33d内において蓋部材31の平面部位31aとは当接することなく離れて位置する。また、ローラー45は、後側壁部位31dに沿って上昇する際に回転するように構成され、上昇に際して生ずる摩擦負荷が軽減される。従って、ここでは蓋部材31の後側壁部位31dがカムとして機能し、保持体43のローラー45がカムフォロアーとして機能する。
また、図8に示したように、蓋部材31の移動と連動して保持体43が上昇することによって、ボックス体42も上昇する。従って、ボックス体42(FLボックス40)は蓋部材31に近づけられ、この上昇途中において、ボックス体42の上端部は、蓋部材31の平面部位31aの下面に当接する。このボックス体42の当接によって、ボックス体42の上端部すなわち開口部が蓋部材31によって閉塞される。なお、この当接以降の保持体43の上昇によって、ボックス体42は圧縮ばね46を縮めて保持体43側に相対的に近づくが、設定された隙間によって保持体43とは当接しない。また、ボックス体42の上端部には、必要に応じて開口部を囲むように配設された弾性材料などからなるシール部材が備えられる。
この状態から、図9に示すように、クランク回転軸51Aの継続回転によりクランク部52が矢印KT1で示したように半周回転した状態になることによって、蓋部材31が開蓋位置から閉蓋位置に移動する。すなわち、この閉蓋位置では、クランク部52とロッド部53は、クランク回転軸51A(51B)とクランク軸52Jとロッド先端部53bとが、この順で一直線に並んだ状態になるとともに、ロッド先端部53bは、開口孔36A(36B)において最も前側に位置する状態になる。
この状態では、蓋部材31の後側壁部位31dが、保持体43の後壁部位43aに設けられたローラー45に当接しつつ、保持体43を図8に示した状態から更にすこし前方へ押すことになる。従って、後側壁部位31dによってローラー45が更に押されることにより、保持体43は副走査方向Y側へ移動するとともに、リンク棒71をさらに第2回転軸体73を中心に回転させる。するとリンク棒71は、鉛直方向から少し傾いた前側規制壁部32fと当接し、その回転が規制されるとともに、リンク棒71の回転方向が定まらない不安定な鉛直方向から傾いた状態となることによって、保持体43は、MTユニット25において安定した状態に保たれる。
なお、保持体43(突出部位43J)は、図8に比べて蓋部材31から離れるように下がるが、その下がり方は僅かであって、ボックス体42の上端部(開口部)は蓋部材31によって閉塞された状態が維持される。
このように、移動機構50は、図9において矢印KT1で示したように、クランク回転軸51A(51B)の半周の回転によりクランク軸52Jが副走査方向Yに沿って距離D1a移動するのに伴って、蓋部材31を閉蓋位置から開蓋位置まで距離D1b移動させる。ちなみに、本実施形態では、距離D1bは距離D1aに対して凡そ4倍の長さである。
ところで、詳細な説明は省略するが、本実施形態のMTユニット25では、上記の説明から明らかなように、クランク回転軸51A,51Bを、図9において破線矢印KT2で示したように更に半周回転させることにより、蓋部材31は閉蓋位置から開蓋位置へ移動する。すなわち、クランク回転軸51A(51B)の回転に伴って、図9に示した閉蓋位置から逆に図8、図7、図6、図5の順で蓋部材31が移動して開蓋位置に移動する。もとより、クランク回転軸51A,51Bを、図9において矢印KT1と反対方向に半周回転させることによっても、同様に蓋部材31は閉蓋位置から開蓋位置へ移動する。
なお、図9に示した閉蓋位置から破線矢印D2で示すように副走査方向Yとは反対方向へ蓋部材31が移動する際には、保持体43は、ローラー45ではなく、突出部位43Jまたはその近傍の部位が蓋部材31の第2凸部31cに当接して押される。そして、保持体43は、引張りばね81によって保持体43が下方へ移動される状態となるまで、第2凸部31cによって押される。その後、引張りばね81によって保持体43が下方へ移動される状態となった以降は、保持体43(ボックス体42)は、蓋部材31が開蓋位置から閉蓋位置へ移動する場合とは逆に移動する。すなわち、蓋部材31の閉蓋位置側から開蓋位置への移動に伴って、突出部位43Jが第2溝部33bから第1溝部33aへ移動してFLボックス40は液体噴射ヘッド19に接近するように上方へ移動する。この上方への移動によって、ボックス体42の開口部と液体噴射ヘッド19との間が、液体噴射ヘッド19から噴射されるインクを受容するのに最適な距離に再び設定される。
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)FLボックス40の液体噴射ヘッド19に対する離接方向への移動と蓋部材31の往復移動とを連動させるので、FLボックス40(ボックス体42)の開口部を蓋部材31によって素早く閉蓋することができる。
(2)蓋部材31を移動させる移動機構50を、FLボックス40(保持体43)を移動させる駆動部として機能させることができるので、駆動部を増やさずに済む。
(3)開蓋位置側から閉蓋位置に移動する蓋部材31に対して、FLボックス40を液体噴射ヘッド19に近づける方向へ連動して移動させることによって、FLボックス40を蓋部材31に近づけることができるので、FLボックス40は、その開口部が蓋部材31によって確実に覆われた状態になる。
(4)FLボックス40は、蓋部材31の開蓋位置から閉蓋位置側への移動に連動して液体噴射ヘッド19から離れる方向へ移動させられるので、蓋部材31が移動してFLボックス40の開口部を覆う際、蓋部材31をFLボックス40と干渉させることなく円滑に移動させることができる。
(5)蓋部材31は、増速部位となる大歯車62の平歯62Gによって往復移動させられるので、ロッド先端部53bの移動距離が短い場合であっても、蓋部材31を閉蓋位置と開蓋位置との間で移動させることができる。
(6)蓋部材31にはカム溝33が設けられ、FLボックス40の少なくとも一部をカムフォロアーとしてFLボックス40を前記離接方向へ移動させるので、カム機構によって蓋部材31の移動とFLボックス40の移動とを確実に連動させることができる。
(7)上記実施形態のMTユニット25を備えるプリンター11によれば、小型化されたMTユニット25を備えた液体噴射装置が得られる。
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、移動機構50は、増速部材として、必ずしも小歯車61と大歯車62とを用いた構成でなくてもよい。例えば、増速部材としてリンク部材を用いた構成としてもよい。本変形例について、図10を参照して説明する。なお、図10では、上記実施形態と同じ構成要素については同符号を付し、それらの説明は省略する。
本変形例の移動機構50は、長手方向の一方の端部がクランク部52のクランク軸91aを中心に回転自在に連結された略棒状の第1リンク部材91と、第1リンク部材91の他方の端部に設けられた軸部91bにおいて、第1リンク部材91に対して回転自在に連結された略棒状の第2リンク部材92と、を備えている。
第2リンク部材92は、長手方向の2つの端部のうちの一方の端部に設けられ、不図示のユニットフレーム32に固定された軸部92aを中心に回転(揺動)自在に備えられる。一方、第2リンク部材92の他方の端部には、第2リンク部材92の長手方向に沿って長円孔93が設けられている。この長円孔93には、蓋部材31に設けられた凸部31Jが挿通されている。
従って、第2リンク部材92が、軸部91bにおいて連結する第1リンク部材91の移動によって軸部92aを中心に回転(揺動)すると、この第2リンク部材92の揺動に伴って、長円孔93に挿通された凸部31Jは、長円孔93の移動とともに移動する。この結果、凸部31Jが設けられた蓋部材31は、第2リンク部材92の揺動に応じて副走査方向Yに沿って移動する。
本変形例では、クランク回転軸51A(またはクランク回転軸51B)が矢印KTで示したように回転することで、クランク軸91aが副走査方向Yにおいて距離D1a移動する。そして、このクランク軸91aの距離D1aの移動によって、蓋部材31は開蓋状態(図中実線)と閉蓋状態(図中二点鎖線)との間の距離D1bを移動する。すなわち、本変形例の移動機構50では、第1リンク部材91と第2リンク部材92とが増速部材として機能し、長円孔93が増速部位として機能する。
従って、本変形例では、長円孔93を増速部位として機能させるために、軸部91bと軸部92aとの間の距離をできるだけ短くすることが好ましい。なお、第2リンク部材92の揺動に伴って、蓋部材31に設けられた凸部31Jは長円孔93内を移動する。従って、長円孔93は蓋部材31が開蓋位置と閉蓋位置との間の移動において凸部31Jの移動が拘束されない大きさ(長さ)で形成される。
本変形例によれば、歯車に替えてリンク部材を用いるので、移動機構50は簡単な構成で済む。また、軸部91bと軸部92aとの間の距離を調節することで、蓋部材31の移動量を容易に調節することができる。
・上記実施形態では、蓋部材31にカム(カム溝33)を設けたが、必ずしもこれに限らず、カム形状を保持体43側に設けることとしてもよい。この場合は、蓋部材31の少なくとも一部をカムフォロアーとすればよい。
・上記実施形態において、移動機構50は、必ずしも増速部位(大歯車62)によって蓋部材31を往復移動しなくてもよい。例えば、FLボックス40の開蓋位置と閉蓋位置との間の距離が短い場合は、ロッド先端部53bによって蓋部材31を直接移動させるようにしてもよい。この構成によれば、増速部材(例えば小歯車61、大歯車62)が不要である。
・上記実施形態において、FLボックス40は、蓋部材31が開蓋位置から閉蓋位置側へ移動する際に、必ずしもボックス体42の開口部が液体噴射ヘッド19から離れる方向へ移動させられなくてもよい。例えば、移動する蓋部材31が当接しない位置にFLボックス40が予め配設されている場合は、FLボックス40を液体噴射ヘッド19から離れる方向へ移動させる必要がない。
・上記実施形態において、FLボックス40は、蓋部材31が開蓋位置側から閉蓋位置へ移動する際に、必ずしもボックス体42の開口部が液体噴射ヘッドに接近する方向へ移動させられなくてもよい。例えば、FLボックス40が蓋部材31の開蓋位置から閉蓋位置への移動に連動して下方へ移動し、蓋部材31が開口部を覆う状態においてインクの溶媒の蒸発を抑制できる場合は、FLボックス40を液体噴射ヘッド19に接近する方向へ移動させる必要はない。
・上記実施形態において、移動機構50は蓋部材31を往復移動させる構成としたが、移動機構50はFLボックス40を移動させる構成であってもよい。この場合、蓋部材31は、移動するFLボックス40によって開蓋位置と閉蓋位置との間を移動させられる。
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式のプリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状体、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。