JP5920578B2 - 耐摩耗性と耐欠損性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(b)成膜時に工具基体に印加するバイアス電圧のデューティサイクルを変化させると、DCで得られた岩塩型(NaCl型)結晶構造は得られなかったものの、配向性が異なるウルツ鉱型結晶構造が得られる。
また、エネルギー印加、基板温度のほか、時間的操作により配向性を制御することができる。
(c)岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層は、高硬度であり工具基体上に形成することで耐摩耗性を向上させることができるが、硬さゆえに欠損やチッピングが起こりやすい。
(d)そこで、岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層の上に化学的に安定で潤滑性にすぐれたウルツ鉱型結晶構造の(Ti,Al)N層を形成することで、耐欠損性および耐チッピング性を向上させることができる。
(e)しかし、岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層の上に直接、ウルツ鉱型結晶構造の(Ti,Al)N層を形成したのでは、結晶構造の違いから両層の界面において、剥離が発生しやすく、工具寿命が短くなる。
(f)そこで、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、成膜時に工具基体に印加するバイアス電圧をパルス制御することによって、岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層とウルツ鉱型結晶構造の(Ti,Al)N層との間に、岩塩型結晶構造からウルツ鉱型結晶構造に徐々に変化する傾斜結晶構造を持つ(Ti,Al)N層を形成することにより、岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層とウルツ鉱型結晶構造の(Ti,Al)N層との密着性が向上し、各層が有する特性が相俟ってすぐれた膜特性が発揮されることを見出した。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金焼結体または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、平均層厚0.9〜5.0μmの(Ti1−xAlx)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層が、岩塩型結晶構造を示す平均層厚0.3〜2.5μmの下部層と、ウルツ鉱型結晶構造を示す平均層厚0.3〜1.5μmの上部層を有し、かつ、前記下部層と上部層との間に、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する平均層厚0.3〜1.0μmの中間層が形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強となり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅が1度未満であることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記中間層のうち、前記下部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合が、前記上部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合よりも小さいことを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
本発明の表面被覆切削工具の硬質被覆層は、炭化タングステン基超硬合金焼結体または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に蒸着形成された平均層厚0.9〜5.0μmの(Ti1−xAlx)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化膜からなる。
下部層を構成する岩塩型結晶構造を示す平均層厚0.3〜2.5μmの(Ti1−xAlx)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化物層は、高熱発生を伴う高速断続旋削加工において、硬質被覆層の耐摩耗性を担保する層として作用する。
ここで、下部層の平均層厚が0.3μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って十分発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が2.5μmを越えると皮膜内部の応力が高まり、チッピングが発生し易くなる。そのため、その平均層厚を0.3〜2.5μmとすることが必要である。
上部層を構成するウルツ鉱型結晶構造を示す平均層厚0.3〜1.5μmの(Ti1−xAlx)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化物層は、高熱発生を伴う高速断続旋削加工において、すぐれた潤滑性を備え、かつすぐれた化学的安定性すなわち耐酸化性を備えた層であるが、岩塩型結晶構造の下部層表面に直接ウルツ鉱型結晶構造の上部層を蒸着形成した被覆工具は、切刃部に大きな負荷が加わる高硬度鋼の高速断続旋削加工という厳しい条件の切削加工では、特に下部層と上部層との界面における密着強度が十分でないために、上部層の剥離が生じやすいという欠点がある。そこで、本発明においては上部層と下部層の間に次のような中間層を設けた。
ここで、上部層の平均層厚が0.3μm未満では、自身のもつすぐれた潤滑性を長期に亘って十分発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が1.5μmを越えると皮膜内部の応力が高まり、チッピングが発生し易くなる。そのため、その平均層厚を0.3〜1.5μmとすることが必要である。
中間層を構成する岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する平均層厚0.3〜1.0μmの(Ti1−xAlx)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化物層は、下部層と上部層のいずれに対してもすぐれた高密着力を有するため、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する(Ti1−xAlx)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化物層を下部層と上部層との間に蒸着形成した硬質被覆層を備える被覆工具は、高熱発生を伴うと共に、大きな負荷がかかる高硬度鋼の高速断続旋削加工に用いた場合でも、硬質被覆層全体として、Al成分が多く含有されていることからすぐれた耐摩耗性を有し、また、すぐれた潤滑性、耐酸化性を示し、剥離、欠損、チッピングを発生することなくすぐれた工具特性を長期に亘って発揮するようになる。また、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存することにより、結晶粒の微細化が生じ、硬さが向上するとともに、クラックが進展しづらくなるため、耐欠損性も一段と向上する。
ここで、中間層の平均層厚が0.3μm未満では、下部層と上部層との結晶構造の違いを埋める傾斜構造を作るのに十分でなく、密着性向上効果が発揮されない。一方、その平均層厚が1.0μmを越えると、相対的に上部層および下部層の割合が小さくなり、層全体が持つ耐摩耗性の効果を発揮することができない。そのため、その平均層厚を0.3〜1.0μmとする必要がある。
(d)硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強であり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅を1度未満とする。
すなわち、(10−10)面の回折強度は、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークであるが、このピークの半価幅を1度未満にすることにより、結晶性が優れ上部層の維持に必要な強度が強固に確保できる。
したがって、(10−10)面の回折強度は1度未満とすることが好ましい。
また、硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強となり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅が1度未満とすることによって、上部層の結晶性が良くなり上部層の強度が向上する。
さらに、中間層のうち、下部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合を、上部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合よりも小さくすることにより、下部層から上部層に亘って連続的に結晶構造を変化させることができるため上部層と下部層との密着性が一層向上する。
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:9〜10kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:8〜9kW、
反応ガス導入口1および2の反応ガス流量割合:窒素(N2)ガス それぞれ70〜vol%
プラズマガン用放電ガスの流量割合:アルゴン(Ar)ガス 30vol%、
工具基体に印加するバイアス電圧:直流とパルスを次の(1)〜(4)のように使い分ける、
(1)下部層(岩塩型結晶構造層):直流 −90V
(2)中間下部領域 :+5V/−90V 5μsec/95μsec
(3)中間上部領域 :+5V/−90V 10μsec/90μsec
(4)上部層((10−10)配向ウルツ鉱型結晶構造層):+5V/−90V 90μsec/10μsec
という表2に示される形成条件のもと表3に示される所定の目標層厚を有する硬質被覆層の形成を行い、本発明表面被覆切削工具としての本発明インサート1〜8をそれぞれ製造した。
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:9〜10kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:8〜9kW、
反応ガス導入口1および2の反応ガス流量割合:窒素(N2)ガス それぞれ70vol%
プラズマガン用放電ガスの流量割合:アルゴン(Ar)ガス 30vol%、
工具基体に印加するバイアス電圧:直流−90V、
という表4に示される形成条件のもと表5に示される所定の目標層厚を有する硬質被覆層の形成を行い、比較表面被覆切削工具としての比較インサート1〜8をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・SUS316の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 4分、
の条件(切削条件A)でのステンレス鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、150m/min.)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.15mm/rev.、
切削時間: 6分、
の条件(切削条件B)での炭素鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、220m/min.)、
被削材:JIS・SCMnH2の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 250m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.25mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件(切削条件C)での高マンガン鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、200m/min.)を行い、いずれの断続旋削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
また、前記硬質被覆層の各構成層の平均層厚を透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも表3および表5に示した目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5ヶ所の平均値)を示した。
なお、観察する視野は、測定しようとする層の厚み領域が全て含まれていれば十分であるが、過剰に広い視野および低い倍率による観察を行うと、像観察時の分解能の低下へとつながることから、層厚の1.5倍から2.0倍くらいに留めておき、倍率は少なくとも5万倍以上であることが好ましい。なお、より高い倍率を用いた観察を、複数の視野に分割して行い、得られた像を結合して、結晶組織の観察および結晶構造の同定を行っても良い。
本発明インサート1〜8および比較インサート1〜8の硬質被覆層をX線回折により測定した際のウルツ鉱型結晶構造の(10−10)面からの回折ピークの半値幅を求め、その結果についても、表3および表5に示した。
なお、前記実施例では、工具基体として炭化タングステン基超硬合金焼結体を用いた例について説明しているが、工具基体はこれに限られることなく、炭窒化チタン基サーメットを用いた場合であっても同様の効果が奏されることは言うまでもない。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金焼結体または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、平均層厚0.9〜5.0μmの(Ti1−xAlx)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層が、岩塩型結晶構造を示す平均層厚0.3〜2.5μmの下部層と、ウルツ鉱型結晶構造を示す平均層厚0.3〜1.5μmの上部層を有し、かつ、前記下部層と上部層との間に、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する平均層厚0.3〜1.0μmの中間層が形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強となり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅が1度未満であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記中間層のうち、前記下部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合が、前記上部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合よりも小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面被覆切削工具。
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