JP5920578B2 - 耐摩耗性と耐欠損性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents

耐摩耗性と耐欠損性にすぐれた表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

本発明は、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性と耐欠損性を備え、したがって、軟鋼、ステンレス鋼、合金鋼などの高硬度鋼の高速断続旋削加工に用いた場合においても、長期に亘ってすぐれた工具特性を示す表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、表面被覆切削工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサート、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記インサートを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うインサート式エンドミルなどが知られている。
従来、被覆工具の一つとして、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層が蒸着形成され、下部層は、(Ti,Al)系複合窒化物あるいは複合炭窒化物層からなり、上部層は、(Cr,Al)系複合窒化物層であって、かつ、上部層は、立方晶構造からなる薄層Aと、立方晶構造と六方晶構造の混在する薄層Bの交互積層構造として構成されていることによって、高速断続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた潤滑性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具が知られている(特許文献1参照)。
また、他の被覆工具としては、超硬合金、サーメット、立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体からなる切削工具基体表面に、組成式(Al1−xTi )N(ただし、原子比で、xは0.40〜0.60)を満足するAlとTiの複合窒化物層からなり、かつ、複合窒化物層についてEBSDによる結晶方位解析を行った場合、表面研磨面の法線方向から0〜15度の範囲内に結晶方位(100)を有する結晶粒の面積割合が50%以上、また、表面研磨面の法線と直交する任意の方位に対して0〜45度の範囲内に存在する最高ピークを中心とした15度の範囲内に結晶方位(100)を有する結晶粒の面積割合が50%以上であるような、2軸結晶配向性を示す改質(Al,Ti)N層からなる硬質被覆層を形成することによって、重切削加工ですぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆切削工具が知られている(特許文献2参照)。
特開2009−101491号公報 特開2008−100320号公報
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向にあるが、例えば、硬質被覆層として、(Ti,Al)N層等を蒸着形成した従来被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄の通常条件での切削に用いた場合には格別問題はないが、特に、切削時に高熱発生を伴う軟鋼、ステンレス鋼、合金鋼などの高硬度鋼の高速断続旋削加工に用いた場合には、硬質被覆層の高温強度および潤滑性が不足するために、硬質被覆層には欠損、偏摩耗、チッピング等が発生しやすく、また、硬質被覆層として、(Ti,Al)系炭窒化物層を蒸着形成した従来被覆工具においては、ステンレス鋼、合金鋼などの高速断続旋削加工では、耐摩耗性が満足できるものではないため、いずれの従来被覆工具においても、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、前述のような観点から、特にステンレス鋼、合金鋼などの断続旋削加工で、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、高温強度、高温耐酸化性を備えるとともに、すぐれた潤滑性、耐摩耗性および耐欠損性を発揮する被覆工具を開発すべく、前記従来被覆工具の硬質被覆層に着目し、研究を行った結果、以下の知見を得た。
(a)硬質被覆層が、(Ti,Al)N層で構成された従来被覆工具において、硬質被覆層の構成成分であるAlは高温硬さと耐熱性を向上させ、Tiは高温強度を向上させると共に、TiとAlが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させる作用がある。
(b)成膜時に工具基体に印加するバイアス電圧のデューティサイクルを変化させると、DCで得られた岩塩型(NaCl型)結晶構造は得られなかったものの、配向性が異なるウルツ鉱型結晶構造が得られる。
また、エネルギー印加、基板温度のほか、時間的操作により配向性を制御することができる。
(c)岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層は、高硬度であり工具基体上に形成することで耐摩耗性を向上させることができるが、硬さゆえに欠損やチッピングが起こりやすい。
(d)そこで、岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層の上に化学的に安定で潤滑性にすぐれたウルツ鉱型結晶構造の(Ti,Al)N層を形成することで、耐欠損性および耐チッピング性を向上させることができる。
(e)しかし、岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層の上に直接、ウルツ鉱型結晶構造の(Ti,Al)N層を形成したのでは、結晶構造の違いから両層の界面において、剥離が発生しやすく、工具寿命が短くなる。
(f)そこで、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、成膜時に工具基体に印加するバイアス電圧をパルス制御することによって、岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層とウルツ鉱型結晶構造の(Ti,Al)N層との間に、岩塩型結晶構造からウルツ鉱型結晶構造に徐々に変化する傾斜結晶構造を持つ(Ti,Al)N層を形成することにより、岩塩型結晶構造の(Ti,Al)N層とウルツ鉱型結晶構造の(Ti,Al)N層との密着性が向上し、各層が有する特性が相俟ってすぐれた膜特性が発揮されることを見出した。
本発明は、前記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金焼結体または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、平均層厚0.9〜5.0μmの(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層が、岩塩型結晶構造を示す平均層厚0.3〜2.5μmの下部層と、ウルツ鉱型結晶構造を示す平均層厚0.3〜1.5μmの上部層を有し、かつ、前記下部層と上部層との間に、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する平均層厚0.3〜1.0μmの中間層が形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強となり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅が1度未満であることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記中間層のうち、前記下部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合が、前記上部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合よりも小さいことを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、本発明の表面被覆切削工具の硬質被覆層に関し、より詳細に説明する。
本発明の表面被覆切削工具の硬質被覆層は、炭化タングステン基超硬合金焼結体または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に蒸着形成された平均層厚0.9〜5.0μmの(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化膜からなる。
ここで、(Ti1−xAl)NにおけるTiとの合量に対するAlの含有割合xを0.6〜0.8とした理由は、(Ti1−xAl)Nの結晶構造は、x=0.6〜0.8を境界領域として、岩塩型結晶構造からウルツ鉱型結晶構造へと変化する。本発明は、後述する直流バイアスとパルスバイアスとを所定のデューティ比で切り替えることにより、(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化膜の結晶構造を岩塩型結晶構造、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造とが共存する構造、および、ウルツ鉱型結晶構造と言った具合に再現性よく制御することが可能であることを見出した。
その上で、硬質被覆層が、次のような構造をとるとき、きわめてすぐれた切削性能を示すことを見出した。
(a)下部層
下部層を構成する岩塩型結晶構造を示す平均層厚0.3〜2.5μmの(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化物層は、高熱発生を伴う高速断続旋削加工において、硬質被覆層の耐摩耗性を担保する層として作用する。
ここで、下部層の平均層厚が0.3μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って十分発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が2.5μmを越えると皮膜内部の応力が高まり、チッピングが発生し易くなる。そのため、その平均層厚を0.3〜2.5μmとすることが必要である。
(b)上部層
上部層を構成するウルツ鉱型結晶構造を示す平均層厚0.3〜1.5μmの(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化物層は、高熱発生を伴う高速断続旋削加工において、すぐれた潤滑性を備え、かつすぐれた化学的安定性すなわち耐酸化性を備えた層であるが、岩塩型結晶構造の下部層表面に直接ウルツ鉱型結晶構造の上部層を蒸着形成した被覆工具は、切刃部に大きな負荷が加わる高硬度鋼の高速断続旋削加工という厳しい条件の切削加工では、特に下部層と上部層との界面における密着強度が十分でないために、上部層の剥離が生じやすいという欠点がある。そこで、本発明においては上部層と下部層の間に次のような中間層を設けた。
ここで、上部層の平均層厚が0.3μm未満では、自身のもつすぐれた潤滑性を長期に亘って十分発揮することができず、工具寿命短命の原因となり、一方、その平均層厚が1.5μmを越えると皮膜内部の応力が高まり、チッピングが発生し易くなる。そのため、その平均層厚を0.3〜1.5μmとすることが必要である。
(c)中間層
中間層を構成する岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する平均層厚0.3〜1.0μmの(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化物層は、下部層と上部層のいずれに対してもすぐれた高密着力を有するため、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる複合窒化物層を下部層と上部層との間に蒸着形成した硬質被覆層を備える被覆工具は、高熱発生を伴うと共に、大きな負荷がかかる高硬度鋼の高速断続旋削加工に用いた場合でも、硬質被覆層全体として、Al成分が多く含有されていることからすぐれた耐摩耗性を有し、また、すぐれた潤滑性、耐酸化性を示し、剥離、欠損、チッピングを発生することなくすぐれた工具特性を長期に亘って発揮するようになる。また、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存することにより、結晶粒の微細化が生じ、硬さが向上するとともに、クラックが進展しづらくなるため、耐欠損性も一段と向上する。
ここで、中間層の平均層厚が0.3μm未満では、下部層と上部層との結晶構造の違いを埋める傾斜構造を作るのに十分でなく、密着性向上効果が発揮されない。一方、その平均層厚が1.0μmを越えると、相対的に上部層および下部層の割合が小さくなり、層全体が持つ耐摩耗性の効果を発揮することができない。そのため、その平均層厚を0.3〜1.0μmとする必要がある。
本発明の硬質被覆層は、前述の構成を備えるが、さらに、次のような構成を兼ね備えるとき、前記の効果が一層発揮される。
(d)硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強であり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅を1度未満とする。
すなわち、(10−10)面の回折強度は、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークであるが、このピークの半価幅を1度未満にすることにより、結晶性が優れ上部層の維持に必要な強度が強固に確保できる。
したがって、(10−10)面の回折強度は1度未満とすることが好ましい。
(e)中間層のうち、下部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域(中間層下部領域)におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合を、上部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域(中間層上部領域)におけるウルツ鉱型構造を有する結晶粒の割合よりも小さくする。
すなわち、中間層は、下部層の岩塩型結晶構造と上部層のウルツ鉱型結晶構造との結晶構造の違いから生じる密着性の低下などを抑制する目的で、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造との共存層を設けるものであるが、中間層下部領域を下部層の結晶構造である岩塩型結晶構造を主とし、中間層上部領域を上部層の結晶構造であるウルツ鉱型結晶構造を主とすることにより、下部層と中間層との結晶構造の違いが徐々に緩和されるため、一層、両者の密着性が向上する。
本発明の被覆工具は、工具基体上に(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具であって、硬質被覆層が、岩塩型結晶構造を示す下部層と、ウルツ鉱型結晶構造を示す上部層を有し、かつ、下部層と上部層との間に、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する中間層が形成されていることによって、硬質被覆層全体として、Al成分が多く含有されていることからすぐれた耐摩耗性を有し、また、すぐれた潤滑性、耐酸化性を示し、剥離、欠損、チッピングを発生することなくすぐれた工具特性を長期に亘って発揮するようになる。また、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存することにより、結晶粒の微細化が生じ、硬さが向上するとともに、クラックが進展しづらくなるため、耐欠損性も一段と向上する。
また、硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強となり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅が1度未満とすることによって、上部層の結晶性が良くなり上部層の強度が向上する。
さらに、中間層のうち、下部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合を、上部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合よりも小さくすることにより、下部層から上部層に亘って連続的に結晶構造を変化させることができるため上部層と下部層との密着性が一層向上する。
本発明の表面被覆工具の硬質被覆層(粒径組成制御層)を蒸着形成するための圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置の概略図を示す。 本発明の表面被覆工具の硬質被覆層の断面模式図を示す。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Eを形成した。
ついで、前記工具基体A〜Eのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1の概略図に示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置に工具基体を装着し、工具基体温度を380〜420℃とした状態で、
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:9〜10kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:8〜9kW、
反応ガス導入口1および2の反応ガス流量割合:窒素(N)ガス それぞれ70〜vol%
プラズマガン用放電ガスの流量割合:アルゴン(Ar)ガス 30vol%、
工具基体に印加するバイアス電圧:直流とパルスを次の(1)〜(4)のように使い分ける、
(1)下部層(岩塩型結晶構造層):直流 −90V
(2)中間下部領域 :+5V/−90V 5μsec/95μsec
(3)中間上部領域 :+5V/−90V 10μsec/90μsec
(4)上部層((10−10)配向ウルツ鉱型結晶構造層):+5V/−90V 90μsec/10μsec
という表2に示される形成条件のもと表3に示される所定の目標層厚を有する硬質被覆層の形成を行い、本発明表面被覆切削工具としての本発明インサート1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、工具基体A〜Eを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、本発明と同様、図1の概略図に示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置に工具基体を装着し、工具基体温度を380〜420℃とした状態で、
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:9〜10kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:8〜9kW、
反応ガス導入口1および2の反応ガス流量割合:窒素(N)ガス それぞれ70vol%
プラズマガン用放電ガスの流量割合:アルゴン(Ar)ガス 30vol%、
工具基体に印加するバイアス電圧:直流−90V、
という表4に示される形成条件のもと表5に示される所定の目標層厚を有する硬質被覆層の形成を行い、比較表面被覆切削工具としての比較インサート1〜8をそれぞれ製造した。
つぎに、前記の各種のインサートを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明インサート1〜8および比較インサート1〜8について、
被削材:JIS・SUS316の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 4分、
の条件(切削条件A)でのステンレス鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、150m/min.)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.15mm/rev.、
切削時間: 6分、
の条件(切削条件B)での炭素鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、220m/min.)、
被削材:JIS・SCMnH2の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 250m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.25mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件(切削条件C)での高マンガン鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、200m/min.)を行い、いずれの断続旋削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
この結果得られた本発明インサート1〜8および比較インサート1〜8の硬質被覆層を構成する下部層、中間層および上部層のそれぞれの組成を透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散型X線分析法により測定したところ、いずれも表3および表5に示した目標組成と実質的に同じ組成を示した。
さらに、本発明インサート1〜8の下部層、中間層(下部領域および上部領域)、上部層を構成する(Ti,Al)N層および比較インサート1〜8の硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層について、集束イオンビーム加工により、工具逃げ面から、工具基体および硬質被覆層を含む、幅100μm×高さ300μm×厚さ0.2μmの薄片を切り出し、該薄片のうち、上部層の厚み領域が全て含まれるよう設定された、幅が10μmであり、高さが上部層の層厚の2倍である視野を、透過型電子顕微鏡にて観察するとともに、各結晶領域における電子線回折図形から該結晶領域の結晶構造を決定し、岩塩型の結晶構造を有する結晶領域と、ウルツ鉱型の結晶構造を有する領域の面積を測定し、各層の面積に対する割合をそれぞれ計算した。同様に、中間層の上部半分の面積領域、中間層の下部半分の面積領域、下部層についても、岩塩型の結晶構造を有する結晶領域と、ウルツ鉱型の結晶構造を有する領域の面積を測定し、各層の面積に対する割合をそれぞれ計算した。その結果を表3および表5に示した。なお、ここでいう中間層の上部または下部半分の領域とは、得られた像の両端辺のそれぞれにおいて、下部層と中間層の界面を示す点と、中間層と上部層の界面を示す点の2点間の中間点を、中間層の半分を示す点とし、両端辺の中間点同士を結んだ線を境界として、中間層の上部および下部を分割する境界線と定義し、中間層の上部または下部半分の領域を定義した。
また、前記硬質被覆層の各構成層の平均層厚を透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも表3および表5に示した目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5ヶ所の平均値)を示した。
なお、観察する視野は、測定しようとする層の厚み領域が全て含まれていれば十分であるが、過剰に広い視野および低い倍率による観察を行うと、像観察時の分解能の低下へとつながることから、層厚の1.5倍から2.0倍くらいに留めておき、倍率は少なくとも5万倍以上であることが好ましい。なお、より高い倍率を用いた観察を、複数の視野に分割して行い、得られた像を結合して、結晶組織の観察および結晶構造の同定を行っても良い。
本発明インサート1〜8および比較インサート1〜8の硬質被覆層をX線回折により測定した際のウルツ鉱型結晶構造の(10−10)面からの回折ピークの半値幅を求め、その結果についても、表3および表5に示した。
表3および表6に示される結果から、本発明インサートは、硬質被覆層が、(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなるとともに、岩塩型結晶構造を示す平均層厚0.3〜2.5μmの下部層と、ウルツ鉱型結晶構造を示す平均層厚0.3〜1.5μmの上部層を有し、かつ、下部層と上部層との間に、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する平均層厚0.3〜1.0μmの中間層が形成されていることによって、硬質被覆層全体として、すぐれた耐摩耗性を有し、また、すぐれた潤滑性、耐酸化性を示し、剥離、欠損、チッピングを発生することなくすぐれた工具特性を長期に亘って発揮することが明らかである。
また、硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強となり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅が1度未満とすることによって、上部層の結晶性が高まり上部層の強度が向上するため、さらにすぐれた工具特性が発揮されることが確認された。
さらに、中間層のうち、下部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合を、上部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合よりも小さくすることにより、下部層から上部層に亘って連続的に結晶構造を変化させることができるため上部層と下部層との密着性が一層向上し、その結果、工具特性が一層向上することが明らかである。
一方、表5および表6に示される結果から、比較インサートは、硬質被覆層が、(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなるものの、岩塩型結晶構造を示す平均層厚0.3〜2.5μmの下部層と、ウルツ鉱型結晶構造を示す平均層厚0.3〜1.5μmの上部層を有し、かつ、下部層と上部層との間に、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する平均層厚0.3〜1.0μmの中間層が形成されているという本発明インサートの硬質被覆層の構成要件のいずれかを満たしていないために、硬質被覆層全体として、耐摩耗性、潤滑性、耐酸化性の面で劣り、剥離、欠損、チッピングを発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
なお、前記実施例では、工具基体として炭化タングステン基超硬合金焼結体を用いた例について説明しているが、工具基体はこれに限られることなく、炭窒化チタン基サーメットを用いた場合であっても同様の効果が奏されることは言うまでもない。
前述のように、本発明の表面被覆切削工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高熱発生を伴うとともに、切刃部に対して大きな負荷がかかるステンレス鋼、合金鋼などの高硬度鋼の高速断続旋削加工においても、すぐれた耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (3)

  1. 炭化タングステン基超硬合金焼結体または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、平均層厚0.9〜5.0μmの(Ti1−xAl)N(x=0.6〜0.8)の成分系からなる硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
    (a)前記硬質被覆層が、岩塩型結晶構造を示す平均層厚0.3〜2.5μmの下部層と、ウルツ鉱型結晶構造を示す平均層厚0.3〜1.5μmの上部層を有し、かつ、前記下部層と上部層との間に、岩塩型結晶構造とウルツ鉱型結晶構造が共存する平均層厚0.3〜1.0μmの中間層が形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記硬質被覆層をX線回折にて測定した際に、ウルツ鉱型結晶構造に由来するピークのうち、(10−10)面の回折強度が最強となり、かつ、(10−10)面の回折ピークの半値幅が1度未満であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記中間層のうち、前記下部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合が、前記上部層と中間層との界面から中間層の平均層厚の半分までの領域におけるウルツ鉱型結晶構造を有する結晶粒の割合よりも小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面被覆切削工具。
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