JP5920109B2 - 歪補償装置、歪補償方法、歪補償プログラム、送信機、及び1bitオーディオ装置 - Google Patents
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Description
したがって、ΔΣ変調器から出力された1bitのパルス列についても、隣接チャネル漏洩電力が小さいこと、換言すると、ACLRが高いことが望ましい。
本発明者は、パルスの波形がACLRに影響しているとの仮説を立て、数値シミュレーションを行った。その結果、その仮説が正しいこと、つまり、パルスの波形がACLRに影響していることを確認した。
しかし、本発明者は、アナログ信号としての性質も有するパルスの場合、パルスの立ち上がり及び立ち下がりの波形も信号特性に影響を与える重要な要因ではないかと考えた。
そこで、本発明者は、パルス波形と性能劣化との関係性に着目し、その関係性を、シミュレーションによって解明した。その結果、立ち上がり波形と立ち下り波形の非対称性が、アナログ信号としての信号特性劣化の原因であることを発見した。
そして、前記第1の歪成分及び前記第2の歪成分に基づいて、信号の周波数帯に影響を与えている成分を抑圧するとともに、時間軸に対して、実質的に線対称に漸近させることで、信号特性劣化を防止できることを見出した。
本発明者は、上記知見に基づいて本発明を完成させた。
この場合、歪補償信号を、非対称成分の抑圧が可能な信号とすることで効果的に歪補償を行うことができる。
この場合、歪補償信号をデジタル処理によって生成することができるので、歪補償を精度良く行うことが可能な精度の高い歪補償信号を生成することができ、信号特性劣化を効果的に抑制することができる。
この場合、供給部が非対称成分をデジタル信号として信号生成部に供給するとともに、変調器がデジタル信号の非対称成分に対してΔΣ変調を行って歪補償信号を生成するので、歪補償装置は、1bitパルス列で表現された信号に応じた精度の高い歪補償信号を、デジタル処理によって生成することができる。
この場合、1bitパルス列とする前の非対称成分を増幅器によって増幅し、変調器によって非対称成分を1bitパルス列に変換した後に、当該1bitパルス列で表現された非対称成分を減衰器によって減衰するので、1bitパルス列に変換する際に非対称成分に付加される歪成分を、相対的に抑制することができる。この結果、不要な歪成分が抑制された非対称成分を得ることができ、より精度の高い歪補償信号を生成することができる。
この場合、非対称成分に対して歪補償に必要な帯域幅となるように帯域制限を行うことで、非対称成分と、歪補償の対象となる信号とを同程度の帯域幅の信号とすることができる。これにより、歪補償の対象となる信号とほぼ同一の条件で非対称成分の変調を行うことができ、歪補償を行うために十分な精度を確保することができる。
この場合、歪補償後の1bitパルス列で表現された信号に含まれている非対称成分を、信号生成部に供給すべき非対称成分に反映させることができるので、現状の1bitパルス列で表現された信号に応じた高い精度の歪補償信号を生成することができる。
その一方、歪補償信号を生成するための期間が必要となるため、前記1bitパルス列で表現された信号に対して遅延が生じるおそれがある。
このため、前記1bitパルス列で表現された信号に加算される前記歪補償信号に生じる遅延を解消するための遅延処理部をさらに備えていることが好ましい。
また、本発明の1bitオーディオ装置は、1bitパルス列で表現された音声信号を出力する信号出力部と、上記(1)〜(11)のいずれかの歪補償装置と、を備えていることを特徴としている。
本実施形態に係る歪補償装置は、1bitパルス列で表現された信号に対して歪補償を行う。そこでまず、1bitパルス列で表現された信号を出力するシステム、及び1bitパルス列で表現された信号に含まれる非対称成分について説明する。
[1.1 システムの全体構成について]
図1は、1bitパルス列で表現されたRF信号を出力するシステムのブロック図である。このシステム1は、信号変換装置70を備えたデジタル信号処理部21と、アナログフィルタ32と、を有している。
1bitパルス列は、アナログフィルタ32を通過するだけで、純粋なアナログ信号となる。
なお、信号変換装置70が、バンドパス型ΔΣ変調によって信号変換を行う場合には、アナログフィルタ32としてバンドパスフィルタが用いられ、ローパス型ΔΣ変調によって信号変換を行う場合には、アナログフィルタ32としてローパスフィルタが用いられる。
また、システム1全体が送信機1であってもよい。例えば、送信機1は、デジタル信号処理部21から出力された信号を増幅器にて増幅し、アンテナから出力するよう構成されていてもよい。この場合、アナログフィルタ32は、デジタル信号処理部21からアンテナの間に設けてもよいし、アンテナがアナログフィルタ32として機能してもよい。
変調器24aは、IQベースバンド信号を、中間周波数の信号に変換する。変調器24aは、デジタル信号処理で直交変調を行うデジタル直交変調器として構成されている。したがって、直交変調器24aからは、多ビットのデジタルデータ(離散値)によって表現されたデジタル信号形式の信号(デジタルIF信号)が出力される。
なお、変調波を生成する変調器24aとしては、直交変調器に限らず、変調波を生成するための他の方式の変調器であってもよい。
ΔΣ変調器25から出力された1bitパルス列は、デジタル信号処理部21の出力信号として、デジタル信号処理部21から信号伝送路4へ出力される。
図2に示すように、ΔΣ変調器25は、ループフィルタ27と、量子化器28と、を備えている(非特許文献1参照)。
図2に示すΔΣ変調器25は、入力(本実施形態では、RF信号)Uが、ループフィルタ27に与えられる。ループフィルタ27の出力Yは、量子化器(1bit量子化器)28に与えられる。量子化器28の出力(量子化信号)Vは、ループフィルタ27への他の入力として与えられる。
つまり、ΔΣ変調器25の入力をUとし、ΔΣ変調器25の出力をVとし、量子化雑音をEとしたときに、ΔΣ変調器25の特性を、z領域において表すと、次のとおりである。
V(z)=U(z)+(1−z−1)E(z)
ここで、
θ0=2π×(f0/fs) fsはΔΣ変調器のサンプリング周波数。
なお、図3から図4への変換では、表記の便宜上、式(3)において、a=cosθ0とおいた下記の変換式を用いた。
図5は、ΔΣ変調器(変換器)25から出力された1bitパルス列が表現するRF信号の信号特性と、その1ビットパルス列のアナログ波形と、の関係を検討するために用いた装置構成を示している。
図1に示す実際のバンドパス型ΔΣ変調器25は、量子化信号をパルスとして出力するため、フリップフロップなどのハードウェアを、少なくとも一部に有することになる。
上記のように、理想的な(パルスの)波形とは、完全な矩形波を構成する際の波形であり、理想的なパルス立ち上がり波形とは、完全な矩形波を構成する際の立ち上がり波形と実質的に同一の波形を指し、理想的なパルス立ち下がり波形とは、完全な矩形波を構成する際の立ち下がり波形と実質的に同一の波形を指す。
(C−2)は、ある量子化信号の値dkと時間的に一つ前の量子化信号の値dk−1との差分を示す値の符号がマイナスである場合、すなわち、量子化信号dkが、パルスの立ち下がりとなる場合である。
(C−3)は、ある量子化信号の値dkと時間的に一つ前の量子化信号の値dk−1との差分を示す値がゼロである場合、すなわち、パルスの値に変化がない場合である。
非対称成分fAsym(t)は、式(D)より、下記式(E)によって求めることができる。
また、図6(b)は、対称波形Sout(t)の時間軸波形を示し、図6(c)は、対称波形についての理想的な波形SIdeal(t)を示し、図6(d)は、対称波形における立ち上がり波形frise(t)と立ち下がり波形ffall(t)における対称成分fsym(t)を示し、図6(e)は、対称波形における立ち上がり波形frise(t)と立ち下がり波形ffall(t)における非対称成分fAsym(t)を示している。
換言すると、立ち上がり波形frise(t)における歪成分(第1歪成分)と、立ち下がり波形ffall(t)における歪成分(第2歪成分)とは、時間軸に対して線対称となっており、非対称成分fAsym(t)はゼロとなる。
パルスの波形が、アナログ信号としての信号特性(ACLR)へ与える影響を調べるため、シミュレーションを行った。その結果を、以下に示す。
このシミュレーションでは、ΔΣ変調器25として、6次のCRFB構造のバンドパス型ΔΣ変調器を用いた。バンドパス型ΔΣ変調器25に入力される試験信号は、LTE(Long Term Evolution)のRF信号であり、搬送波周波数800MHz、帯域5MHz、4キャリアである。つまり、RF信号としての全帯域は、20MHzである。
非線対称である波形については、立ち上がり時間α及び立ち下り時間βを異ならせ(α≠β)、α=0.2,β=0.4の場合、及び、α=0.4,β=0.2の場合の2つのケースについてシミュレーションを行った。
遷移時間α,βは、単位区間(UI;unit interval)に対する割合で表される。単位区間は、一つの量子化信号に対応する1パルスの区間であり、その長さは、1/fsである。
立ち上がり時間は、パルスのLowレベル(−1)からHighレベル(+1)に至るまでの時間であり、立ち下り時間は、パルスのHighレベル(+1)からLowレベル(−1)に至るまでの時間である。
したがって、遷移時間α,βの長短は、信号特性ACLR1,2)にとって重要ではないと考えられる。すなわち、パルス波形が理想波形から歪んでいても、対称波形である限りは、ACLR1,ACRL2は低下しないため、パルス波形に歪成分が含まれること自体は、信号特性に悪影響を与えないと考えられる。
したがって、ACLR1,ACLR2の劣化は、非対称成分fAsym(t)が原因であることがわかる。
また、exp(x)及びtahn(x)以外の他の波形についても確認したところ、同様の結果が得られた。
したがって、実際の信号変換部70(ΔΣ変調器25)としては、完全な矩形波である理想波形ではなく、歪成分を有するパルス波形を出力するものとして構成できれば、好適である。
したがって、信号変換部70(ΔΣ変調器25)としては、歪成分を有するパルス波形を出力するものとして構成できる。この場合、信号変換部70(ΔΣ変調器25)の出力するパルス波形が、歪成分を有していても、立ち上がり波形及び立ち下がり波形の歪成分が、時間軸に対して実質的に線対称であれば、つまり、実質的に非対称成分がなければ、信号特性の劣化を抑えることができる。
実測したパルス波形から、算出した非対称成分fAsym(t)を取り除いて、ACLRを再計算すると、ACLRは、52.3[dB]に改善した。
本発明者は、上述の非対称成分fAsym(t)を抑圧するための方法について研究し検討を重ねた。その中で、上述の非対称成分が、アナログ波形の符号間干渉に起因する相互変調歪ではないという知見を得た。
図において、横軸は、ΔΣ変調器25の入力電力、縦軸は、ΔΣ変調器25からの出力電力を示している。
図に示すように、ΔΣ変調器25から出力される出力信号の電力は、入力信号の電力が増加するに従って増加しているのに対し、隣接チャネル漏洩電力は、入力信号の電力の増加に対してほとんど増加が見られない。
このことから、ΔΣ変調により生じる非対称成分fAsym(t)は、相互変調歪ではないことが言える。
しかし、ΔΣ変調によって生じる非対称成分fAsym(t)は、入力信号の電力との間で相関がなく、フィードバックによる手法では、好適に歪補償を行うことができない。
そこで、本発明者は、ΔΣ変調によって生じる非対称成分fAsym(t)を好適に補償するための手法として、フィードフォーワードによる手法に着目した。
図中、非対称成分供給部40は、ΔΣ変調器25から出力された1bitパルス列に含まれる非対称成分fAsym(t)を相殺し除去するための歪補償用非対称成分fdist(t)をアナログ信号として供給する機能を有している。歪補償用非対称成分fdist(t)には、1bitパルス列に含まれる非対称成分fAsym(t)を予め上記計算によって求めた計算結果が用いられる。
このように、1bitパルス列に含まれる非対称成分fAsym(t)は、フィードフォーワード型の歪補償によって好適に除去することができ、信号特性劣化を抑制することができる。
仮に、デジタル信号処理部21に、非常に高精度なデジタルチップを用いれば、1bitパルス列に含まれる歪成分の線対称性を維持し、RF信号のアナログ特性を適切に維持することができる可能性はある。
歪補償用非対称成分fdist(t)をアナログ信号で出力しようとすると、歪補償用非対称成分fdist(t)をアナログ信号として送信するための搬送波を発生させるための高周波発振器や搬送波を変調するための変調器等、多くのアナログ機器が必要となり、コストの上昇や、高精度化が困難であるといった問題が生じる。
図14は、第1の実施形態に係る歪補償装置を示すブロック図である。図14では、歪補償装置50をシステム1のΔΣ変調器25(図1)の後段に設けた場合を示している。
なお、ΔΣ変調器25は、量子化雑音阻止帯域(バンドパス型ΔΣ変調器25の中心周波数)を、入力されるRF信号の周波数帯域に応じて、変更可能に構成することもできる。
信号生成部52は、立ち上がり波形frise(t)の歪成分と、立ち下がり波形ffall(t)の歪成分との間の時間軸に対する線対称性を低下させる非対称成分fAsym(t)に基づいて、歪補償信号を生成する機能を有している。
歪補償信号は、ΔΣ変調器25から出力される1bitパルス列に含まれる非対称成分fAsym(t)を抑圧することが可能な信号である。より具体的に、歪補償信号は、前記1bitパルス列に含まれる非対称成分fAsym(t)を抽出することで得られる歪補償用非対称成分fdist(t)を反転し、さらにこの反転した歪補償用非対称成分fdist(t)を1bitパルス列に変換したものである。
これによって、歪補償信号は、1bitパルス列で表現されたアナログ信号に加算される。このように、本実施形態の歪補償装置50は、フィードフォーワード型の歪補償を実行するように構成されている。
この結果、1bitパルス列で表現されたRF信号は、立ち上がり波形frise(t)の歪成分と、立ち下がり波形ffall(t)の歪成分とを時間軸に対して、実質的に線対称に漸近させることができる。
また、立ち上がり波形frise(t)の歪成分と、立ち下がり波形ffall(t)の歪成分とを時間軸に対して、実質的に線対称に漸近させることで、1bitパルス列が表現するRF信号の周波数帯に影響を与えている成分を抑圧でき、アナログ信号としての信号特性劣化が抑制される。
非対称成分供給部51は、歪補償用非対称成分fdist(t)をデジタル信号として信号生成部52に供給する。非対称成分供給部51が供給する歪補償用非対称成分fdist(t)は、LUT記憶部53に記憶されているLUT(Lock Up Table)に格納されている。LUTは、歪補償用非対称成分fdist(t)がデジタル信号として示された情報を格納している。
非対称成分供給部51は、必要に応じて、LUT記憶部53のLUTを参照し、信号生成部52に供給すべき歪補償用非対称成分fdist(t)を取得する。
非対称成分供給部51は、取得した歪補償用非対称成分fdist(t)をデジタル信号として信号生成部52に供給する。
非対称成分fAsym(t)は、予め測定したΔΣ変調器25による1bitパルス列のアイパターンに基づいて、上述した式(E)を適用することで抽出することができる。
1bitパルス列から抽出された非対称成分fAsym(t)は、デジタルデータに変換された後、歪補償用非対称成分fdist(t)としてLUT記憶部53のLUTに格納される。
つまり、歪補償用非対称成分fdist(t)は、測定されたアイパターンから抽出された非対称成分fAsym(t)をデジタルデータに変換したものである。
図15(a)及び(b)に示すパルス波形は、パルスの立ち上がり時間よりも立ち下がり時間の方が長い波形となっており、立ち上がり波形と立ち下がり波形とは、時間軸方向に非対称となっている。
上記アイパターンに基づいて平均化されたパルスの立ち上がり波形と立ち下がり波形とが取得され、取得された波形に対して、上記式(E)を適用することで、図15(d)に示す非対称成分fAsym(t)を抽出することができる。
非対称成分供給部51は、ΔΣ変調器25が出力する1bitパルス列のパルスの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングに合わせて、歪補償用非対称成分fdist(t)を信号生成部52に供給する。信号生成部52は、歪補償用非対称成分fdist(t)の供給に応じて歪補償信号を生成する。
上記歪補償信号は、非対称成分fAsym(t)を抑圧するための信号である。よって、精度よく歪補償を行うために、歪補償信号は、1bitパルス列におけるパルスの立ち上がり波形及び立ち下がり波形に含まれる非対称成分に加算する必要がある。
信号生成部52は、上述したように、1bitパルス列で表現された歪補償用非対称成分fdist(t)の反転信号を歪補償信号として生成する機能を有している。
バンドパスフィルタ56は、反転された歪補償用非対称成分fdist(t)の内、歪補償に必要な帯域幅の成分を通過させ、通過成分を後段の増幅器57に与える。
ΔΣ変調器25から出力された1bitパルス列で表現されたアナログ信号において、歪補償を行う必要があるのは、RF信号の帯域幅のみである。
この点、本実施形態では、バンドパスフィルタ56を設けることで、歪補償用非対称成分fdist(t)の内、歪補償にとって必要がない帯域の成分を除去でき、後段の処理量を減少させることができる。
ΔΣ変調器58は、デジタル信号である反転信号にΔΣ変調を行うことで、アナログの反転信号を1bitパルス列で表現した信号(量子化信号)に変換し、減衰器59に与える。
すなわち、信号生成部52は、減衰器59により減衰された後の1bitパルス列で表現されたアナログの反転信号を、歪補償信号として加算器65に出力する。
ここで、ΔΣ変調後の(1bitパルス列で表現された)反転信号Er1は、上述したように、ΔΣ変調によって生じる非対称成分f´Asym(t)を含んでいる。
図16(b)に示すように、ΔΣ変調後の反転信号Er1に含まれる非対称成分f´Asym(t)を示す信号Er2の電力は、量子化誤差Q2よりも大きく、反転信号Er1よりも小さく現れる。
Er1 < Q1 < Er2 < Q2 ・・・(4)
この結果、信号生成部52は、減衰器59から出力される1bitパルス列で表現された反転信号に含まれる、ΔΣ変調による非対称成分f´Asym(t)等の誤差成分を抑圧でき、精度の高い歪補償信号を得ることができる。
信号生成部52が出力する歪補償信号は加算器65に与えられる。これにより、歪補償信号は、ΔΣ変調器25からの1bitパルス列で表現されたRF信号に加算される。
これによって、歪補償信号を生成するために要する期間により生じる遅延を解消することができ、精度よく歪補償を行うことができる。
この結果、ΔΣ変調器25からの1bitパルス列で表現されたRF信号に含まれる非対称成分fAsym(t)は、歪補償信号によって相殺される。1bitパルス列で表現されたRF信号は、立ち上がり波形frise(t)の歪成分と、立ち下がり波形ffall(t)の歪成分との間の線対称性が高められ、アナログ信号としての信号特性劣化が抑制される。
D´out = Dout + W × fdist(G) ・・・(5)
Dout = fideal + fsym + fAsym ・・・(6)
D´out = fideal + fsym + fAsym + W × fdist(G)
= fideal + fsym + (fAsym + W × fdist(G))
・・・(7)
非対称成分fAsymが抑圧された後に残るfidealと、fsymとの和は、理想的な矩形波に歪成分である対称成分を含んでいるが、非対称成分fAsymを含んでいないので、アナログ信号としたときの信号特性の劣化は抑制される。つまり、非対称成分fAsymを含んでいなければ、理想的な矩形波としなくても、信号特性の劣化を抑制することができる。
このため、理想的な矩形波が得られるように歪補償する場合と比較して、より容易に歪補償を行うことができる。
この場合、減衰器59(図14)を例えば所定の抵抗値を有する抵抗器で構成し、この抵抗器の抵抗値を一定に固定した上で増幅器57の増幅率を調整することができる。
減衰器59はアナログ信号を処理する機器であり、調整に対する精度が低い。よって、抵抗値を一定として減衰率Wを固定し、デジタル信号を処理する増幅器57の増幅率Gを調整することで、前記かっこ内の部分が「0」に近づくようにより詳細に調整を行うことができる。この結果、互いに線形ではない増幅率G及び減衰率Wの最適値を得ることができる。
図17(b)には、減衰器59による減衰前の歪補償信号の信号波形と、減衰後の歪補償信号の信号波形を示している。
図17(c)をみると、歪補償後のRF信号の信号波形には、歪補償信号の信号波形に変位がみられる部分に対応して、わずかに変化がみられる。しかし、歪補償後のRF信号の信号波形には、顕著な変化はみられない。
図18に示すように、歪補償後のRF信号は、信号部分については、歪補償前のRF信号とよく一致している。
一方、帯域外の隣接チャネルにおいては、歪補償後のRF信号の方が、電力比に大きな低下がみられる。このことから、ACLRが改善され、信号特性の劣化が抑制されていることが確認できる。
上記のように構成された歪補償装置50は、フィードフォーワード型の歪補償を行うように構成されており、1bitパルス列で表現されたアナログ信号に、歪補償信号を加算する。これにより、立ち上がり波形frise(t)の歪成分、及び立ち下がり波形ffall(t)の歪成分を、時間軸に対して、実質的に線対称に漸近させることができ、好適に歪補償を行うことができる。
また、本実施形態では、立ち上がり波形frise(t)の歪成分、及び立ち下がり波形ffall(t)の歪成分を、時間軸に対して、実質的に線対称に漸近させて歪補償を行うことで、1bitパルス列が表現するRF信号の周波数帯に影響を与えている成分を抑圧できる。
この結果、低コストで精度よく信号特性劣化を抑制することができる歪補償装置を得ることができる。
その理由は、歪補償用非対称成分fdist(t)の内、歪補償にとって必要がない帯域の成分は、ΔΣ変調器25からの1bitパルス列で表現されたアナログ信号の量子化雑音阻止帯域の量子化雑音成分であるため、歪補償にとって必要な帯域の電力よりも、必要がない帯域の電力の方が相対的に大きい場合があるからである。
図19は、第2の実施形態に係る歪補償装置を示すブロック図である。本実施形態は、加算器65の後段に接続されたオシロスコープ部66と、このオシロスコープ部66に接続された抽出部67とを備えている点において、第1の実施形態と相違している。
オシロスコープ部66は、上記機能によって、システム1による歪補償後の1bitパルス列を取得し、取得した歪補償後の1bitパルス列のアイパターンを測定する。
オシロスコープ部66は、測定結果である歪補償後の1bitパルス列で表現されたアナログ信号のアイパターンを抽出部67に与える。
抽出部67は、抽出した非対称成分fAsym(t)を非対称成分供給部51に与える。
非対称成分供給部51は、抽出部67から与えられた非対称成分fAsym(t)と、歪補償用非対称成分fdist(t)とを加算することで、歪補償用非対称成分fdist(t)を更新してもよいし、抽出部67から与えられた非対称成分fAsym(t)と、歪補償用非対称成分fdist(t)との差分に基づいて、歪補償用非対称成分fdist(t)を更新してもよい。
1bitオーディオ装置80は、デジタル音声信号供給部81と、ΔΣ変調器82と、本実施形態の歪補償装置50と、切替部83とを備えており、1bitパルス列で表現されたアナログの音声信号を出力装置に対して出力する機能を有している。
歪補償装置50は、上述したように、PCM信号がΔΣ変調器82によって1bitパルス列へ変換されることによって当該1bitパルス列に付加される非対称成分fAsym(t)を抑圧する機能を有している。
この結果、1bitオーディオ装置80は、1bitパルス列で表現されたアナログ音声信号を高い品質で出力することができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
25 ΔΣ変調器
50 歪補償装置
51 非対称成分供給部(供給部)
52 信号生成部
53 LUT記憶部(記憶部)
56 バンドパスフィルタ
57 増幅器
58 ΔΣ変調器
59 減衰器
61 遅延処理部
67 抽出部
Claims (15)
- 1bitパルス列で表現されたRF信号の歪補償を行う歪補償装置であって、
前記RF信号を表現する前記1bitパルス列は、パルスの立ち上がり波形が理想的なパルス立ち上がり波形に対して第1の歪成分を有し、かつ、パルスの立ち下がり波形が理想的なパルス立ち下がり波形に対して第2の歪成分を有し、
前記第1の歪成分及び前記第2の歪成分を時間軸に対して実質的な線対称としうる歪補償信号を前記1bitパルス列で表現された前記RF信号に加算し、前記1bitパルス列で表現された前記RF信号の隣接漏洩電力を低下させる加算器を備えている歪補償装置。 - 前記第1の歪成分及び前記第2の歪成分は、前記第1の歪成分と前記第2の歪成分との間の時間軸に対する線対称性を低下させる非対称成分を含んでおり、
前記非対称成分に基づいて前記歪補償信号を生成する信号生成部を備えている請求項1に記載の歪補償装置。 - 前記歪補償信号は、1bitパルス列である請求項1又は2に記載の歪補償装置。
- 前記非対称成分をデジタル信号として前記信号生成部に供給する供給部をさらに備えており、
前記信号生成部は、供給された前記非対称成分にΔΣ変調を行い、1bitパルス列で表現された前記非対称成分を前記歪補償信号として生成する変調器を備えている請求項3に記載の歪補償装置。 - 前記非対称成分をデジタル信号として示した情報を記憶している記憶部をさらに備え、
前記供給部は、前記記憶部に記憶された前記情報を参照することで、前記信号生成部に供給すべき非対称成分を取得する請求項4に記載の歪補償装置。 - 前記信号生成部は、
前記変調器の前段に設けられ、前記非対称成分を増幅して前記変調器に出力する増幅器と、
前記変調器によって1bitパルス列で表現された前記非対称成分を前記増幅器による増幅率に応じた減衰率によって減衰させる減衰器と、を備えている請求項4又は5に記載の歪補償装置。 - 前記変調器の前段に設けられ、前記非対称成分の中から、歪補償に必要な帯域幅の成分を前記変調器に出力するフィルタをさらに備えている請求項4〜6のいずれか一項に記載の歪補償装置。
- 前記1bitパルス列で表現された前記RF信号に加算される前記歪補償信号に生じる遅延を解消するための遅延処理部をさらに備えている請求項1〜7のいずれか一項に記載の歪補償装置。
- 前記1bitパルス列で表現された前記RF信号は、バンドパス型ΔΣ変調器による出力である請求項1〜8のいずれか一項に記載の歪補償装置。
- 1bitパルス列で表現されたRF信号の歪補償を行う歪補償方法であって、
前記RF信号を表現する前記1bitパルス列は、パルスの立ち上がり波形が理想的なパルス立ち上がり波形に対して第1の歪成分を有し、かつ、パルスの立ち下がり波形が理想的なパルス立ち下がり波形に対して第2の歪成分を有し、
前記第1の歪成分及び前記第2の歪成分を時間軸に対して実質的な線対称としうる歪補償信号を1bitパルス列として前記1bitパルス列で表現された前記RF信号に加算し、前記1bitパルス列で表現された前記RF信号の隣接漏洩電力を低下させる加算ステップを含むことを特徴とする歪補償方法。 - 1bitパルス列で表現されたRF信号の歪補償を行う歪補償プログラムであって、
前記RF信号を表現する前記1bitパルス列は、パルスの立ち上がり波形が理想的なパルス立ち上がり波形に対して第1の歪成分を有し、かつ、パルスの立ち下がり波形が理想的なパルス立ち下がり波形に対して第2の歪成分を有し、
コンピュータに、前記第1の歪成分及び前記第2の歪成分を時間軸に対して実質的な線対称としうる歪補償信号を1bitパルス列として前記1bitパルス列で表現された前記RF信号に加算し、前記1bitパルス列で表現された前記RF信号の隣接漏洩電力を低下させる加算ステップを実行させる歪補償プログラム。 - 1bitパルス列で表現されたRF信号を送信する送信部と、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の歪補償装置と、を備えていることを特徴とする送信機。 - 1bitパルス列で表現された信号の歪補償を行う歪補償装置であって、
前記1bitパルス列で表現された信号は、パルスの立ち上がり波形が理想的なパルス立ち上がり波形に対して第1の歪成分を有し、かつ、パルスの立ち下がり波形が理想的なパルス立ち下がり波形に対して第2の歪成分を有し、
前記1bitパルス列で表現された信号に加算することで前記第1の歪成分及び前記第2の歪成分を時間軸に対して実質的な線対称としうる歪補償信号を出力し、
前記歪補償信号は、1bitパルス列であり、
前記非対称成分をデジタル信号として前記信号生成部に供給する供給部をさらに備えており、
前記信号生成部は、供給された前記非対称成分にΔΣ変調を行い、1bitパルス列で表現された前記非対称成分を前記歪補償信号として生成する変調器を備え、
前記歪補償信号が加算された前記1bitパルス列で表現された信号から非対称成分を抽出する抽出部をさらに備え、
前記供給部は、前記抽出部が抽出した非対称成分に基づいて、前記信号生成部に供給すべき前記非対称成分を更新する歪補償装置。 - 1bitパルス列で表現された信号の歪補償を行う歪補償装置であって、
前記1bitパルス列で表現された信号は、パルスの立ち上がり波形が理想的なパルス立ち上がり波形に対して第1の歪成分を有し、かつ、パルスの立ち下がり波形が理想的なパルス立ち下がり波形に対して第2の歪成分を有し、
前記1bitパルス列で表現された信号に加算することで前記第1の歪成分及び前記第2の歪成分を時間軸に対して実質的な線対称としうる歪補償信号を出力し、
前記歪補償信号は、1bitパルス列であり、
前記非対称成分をデジタル信号として前記信号生成部に供給する供給部をさらに備えており、
前記信号生成部は、供給された前記非対称成分にΔΣ変調を行い、1bitパルス列で表現された前記非対称成分を前記歪補償信号として生成する変調器を備え、
前記供給部は、前記1bitパルス列で表現された信号のパルス波形の変化に応じて前記非対称成分を供給する歪補償装置。 - 1bitパルス列で表現された音声信号を出力する信号出力部と、
請求項13又は14に記載の歪補償装置と、を備えていることを特徴とする1bitオーディオ装置。
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