JP5917600B2 - 摺動部材の製造方法 - Google Patents

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本発明は、摺動部材の製造方法に関するものである。
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は優れたトライボロジー特性を示す。このため、従来から様々な分野で注目されている。DLC膜と鋼材の摺動では摩耗粉に起因する移着膜が低摩擦化に寄与することが示唆されている。また、低摩擦を示す移着膜では、最表面にDLC由来のグラファイト化されたカーボンが生成されており、低硬度カーボン移着物が低摩擦の要因と考えられている。
シリコンを添加したSi−DLC膜に酸素プラズマ処理を施すと、シリコン酸化物がカーボン移着物を固着させるバインダーの役割を果たし、低摩擦化することが報告されている。このように、低摩擦化を実現するためには低硬度カーボンの生成とともに移着膜の固着性が重要となる。
一方、サブミクロンの周期ピッチと溝深さをもつグレーティング状の周期構造を鋼材摺動面に付与すると、DLC膜と鋼材の微細な摩耗粉が生成される。その結果、マイルド摩耗面に似た滑らかで強固に固着したカーボン移着膜が鋼材側に形成され、摩擦低減効果の発現が期待できる。
DLC膜の摩擦特性を向上させるために、基材の摺動面に成膜されたDLC膜に、フェムト秒レーザ等を照射することで、照射領域をガラス状炭素に改質された改質領域を形成するようにした摺動材(摺動部材)が従来においては提案されている(特許文献1)。
また、従来には、基材の表面に、水素を含有した非晶質炭素被膜を成膜する工程と、非晶質炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程とで、摺動部材を製造するものもある(特許文献2)。
特開2011−168845号公報 特開2010−215950号公報
前記特許文献1に示すものでは、DLC層を形成した後、そのDLC層の表面にレーザ照射するものであり、特許文献2では、DLC層を形成した後、そのDLC層の表面に紫外線を照射するものである。このため、レーザ照射等によって、DLCをグラファイト化していることになり、DLC本来の物性が損なわれることになる。また、長期に渡る使用によって、改質層が消滅すれば、摺動部材としての機能を損なうことになっていた。
本発明は、上記課題に鑑みて、強固に固着された低硬度カーボン移着層を形成し、周期構造が消滅した後も長期に渡って摺動特性が向上する摺動部材の製造方法を提供する。
本発明の摺動部材の製造方法は、第1部材の摺動面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造を摺動方向に配向させて形成する周期構造形成工程と、第2部材の摺動面に、鏡面仕上げされた非晶質炭素膜を形成する膜形成工程と、第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とを相対的に摺動させて、第1部材の周期構造を犠牲層として摩滅させることにより、第1部材からの摩耗粉を含む第1層と、第2部材からのカーボン移着物からなる第2層とを有する2層構造の移着膜を形成する摩耗工程とを備えたものである。
本発明の摺動部材の製造方法によれば、連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造を第1部材に設けているため、摺動時に小さな曲率半径をもつ周期構造先端が摩耗し、なじみが進行する。この際、第1部材からマイルド摩耗粉のような微細な摩耗粉が発生する。また、周期構造は精密な加工ツールとして作用し、第2部材の非晶質炭素膜(DLC膜)から極微細な摩耗粉を生成しながらDLC膜のさらなる平滑化が進行する。DLC膜の極微細な摩耗粉はグラファイト化され、低摩擦化の実現に重要な低硬度カーボンが生成される。このとき、周期構造は摩耗粉をトラップすることで移着粒子の成長抑制に寄与する。この段階では顕著な摩擦低減効果は得られないが、周期構造を犠牲層として摩滅させる工程において、微細な摩耗粉がのしつぶされ、強固に固着された低硬度カーボン移着層が形成されるとともに第1部材と第2部材が平滑化する。
グレーティング状凹凸の周期構造を摺動方向に配向させるのが好ましい。摩耗粉を摺動面内に拘束する作用が大きくなり、摺動痕周囲に散逸する摩耗粉が大幅に減少する。
第1部材の少なくとも摺動面が、前記摩耗工程において酸化物の摩耗粉を生じる材質としているのが好ましい。第1部材は、周期構造を摩滅させる工程において酸化物の摩耗粉を生じる材質であることで、酸素に富んだ微細な摩耗粉がのしつぶされて、摩耗率がシビア摩耗の1/10〜1/1000となるマイルド摩耗面のような移着層を形成することができる。
前記第1部材の基材表面にあらかじめ形成する周期構造は、加工闘値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成されるが好ましい。
摺動部材は、前記摺動部材の製造方法を用いて製造された摺動部材であって、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造を有する周期構造の凹凸が50nm以上500nm以下かつ周期ピッチが10μm以下であるのが好ましい。
本発明では、周期構造を犠牲層として摩滅させる工程において、微細な摩耗粉がのしつぶされ、強固に固着された低硬度カーボン移着層が形成されるとともに第1部材と第2部材が平滑化することで、周期構造が消滅した後も長期に渡って摺動特性が向上する摺動部材が得られる。
グレーティング状凹凸の周期構造が摺動方向に配向したものでは、摺動痕周囲に散逸する摩耗粉が大幅に減少するので、摺動面に取り込まれた微細な摩耗粉がのしつぶされ、強固に固着された低硬度カーボン移着層が効率的に形成される。
第1部材の少なくとも摺動面が、前記摩耗工程において酸化物の摩耗粉を生じる材質であれば、摩耗率がシビア摩耗の1/10〜1/1000となるマイルド摩耗面のような移着層を形成することができる。マイルド摩耗面のような移着層は強固にカーボン移着物をピンに固着させるバインダーの働きをして、摺動特性向上に寄与する。
加工闘値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成するものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さをもつ周期構造を容易に得ることができる。
グレーティング状凹凸の周期構造を有する第1部材の凹凸が50nm以上500nm以下かつ周期ピッチが10μm以下とすることで、低硬度カーボンの生成促進と移着粒子の成長抑制により、マイルド摩耗面に似た移着層を形成することができる。
本発明の実施形態を示す摺動部材の製造方法の工程を示す簡略ブロック図である。 膜形成工程を示す簡略ブロックである。 本発明の実施形態を示す摺動部材の製造方法の斜視図である。 第1部材の摺動面を示し、(a)は周期構造の拡大平面図であり、(b)は周期構造の断面プロファイル図である。 前記周期構造形成方法に用いるレーザ表面加工装置の簡略図である。 算術平均粗さの定義を説明するためのグラフ図である。 第2部材の鏡面仕上げ非晶質炭素膜に対して第1部材の周期構造を往復動させた際の往復動回数と摩擦係数との関係を示すグラフ図である。 光学鏡面DLCに10000往復させたSUJ2ボールの摺動痕を示し、(a)は未加工SUJ2ボールの写真図であり、(b)は周期構造が形成されたSUJ2ボールを周期構造と平行方向に摺動させたときの写真図であり、(c)は周期構造が形成されたSUJ2ボールを周期構造と直交方向に摺動させたときの写真図である。 光学鏡面DLCにおける摺動痕周囲の摩耗粉を示し、(a)は未加工SUJ2ボールを摺動させたときの写真図であり、(b)は周期構造が形成されたSUJ2ボールを周期構造と平行方向に摺動させたときの写真図であり、(c)は周期構造が形成されたSUJ2ボールを周期構造と直交方向に摺動させたときの写真図である。 第1部材を10000往復させた状態の第2部材の摺動面を示し、(a)は未加工SUJ2ボーを摺動させたときの写真図、拡大写真図、及び断面プロファイル図であり、(b)は周期構造が形成されたSUJ2ボールを周期構造と平行方向に摺動させたときの写真図、拡大写真図、及び断面プロファイル図であり、(c)は周期構造が形成されたSUJ2ボールを周期構造と直交方向に摺動させたときの写真図、拡大写真図、及び断面プロファイル図である。
以下本発明の実施の形態を図1〜図10に基づいて説明する。
図1は本発明に係る摺動部材の製造方法を示すブロック図を示し、この製造方法は、周期構造形成工程P1と膜形成工程P2と摩耗工程P3とを備える。周期構造形成工程P1は、図3と図4に示すように、第1部材1の摺動面1aにグレーティング状凹凸の周期構造3を形成するものであり、膜形成工程P2は、図2に示すように、第2部材2の摺動面2a(図3参照)に対して鏡面仕上げする研磨工程P2aと、鏡面仕上げした面に対してダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜4を形成する成膜工程P2bとを備えるものである。摩耗工程P3は、第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとを相対的に摺動させて、周期構造3を犠牲層として摩滅させるものである。
図例における第1部材1は球体で構成し、第2部材2としては平板体で構成した。また、第1部材1は、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼鋼材)等の金属製であり、第2部材2は、SUS440C(マルテンサイト系ステンレス)等の金属製である。
周期構造形成工程P1は、図5に示すように、レーザ発生器11と光学系10とを備えたレーザ表面加工装置を使用して形成する。このレーザ表面加工装置では、レーザ発生器11は、ミラー12により加工材料Wに向けて折り返され、メカニカルシャッタ13に導かれる。レーザ照射時はメカニカルシャッタ13を開放し、レーザ照射強度は1/2波長板14と偏光ビームスプリッタ16によって調整可能とし、1/2波長板15によって偏光方向を調整し、集光レンズ17によって、XYθステージ19上の加工材料W表面に集光照射することになる。
周期構造形成工程P1では、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成している。すなわち、アブレーション閾値近傍のフルエンスで直線偏光のレーザをワーク(加工材料)Wに照射した場合、入射光と加工材料Wの表面に沿った散乱光またはプラズマ波の干渉により、レーザ波長と同程度の周期間隔で、エネルギー分布にわずかな粗密が生じる。一般的な加工方法ではレーザ照射面全体が加工されるが、加工閾値近傍のエネルギー密度でレーザ照射することで、高エネルギー部分を選択的に加工することができる。その結果、1光軸のレーザ照射でありながら、グレーティング状の周期構造が形成される。このとき、加工に用いるレーザのパルス幅が長くなるほど熱影響や加工蒸散物との相互作用によるレーザの散乱によって周期構造に乱れが生じることになる。
鏡面仕上げとしては、光に対して、表面の散乱、局部屈折のバラツキが少なく、光学的に機能する面に仕上げる研磨(光学研磨)を行うことになる。この場合、算術平均粗さRaが10nm以下となるのが好ましい。この研磨工程P2aは、公知公用の既存の研磨装置にて行うことができ、第2部材2の使用する材質、形状、及び目標とする算術平均粗さRaに応じて種々の研磨装置を選択することができる。
算術平均粗さRaは、図6に示すように、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線mの方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の数1の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
グレーティング状凹凸の周期構造3は、連続的に高さが変化するものである。周期構造3の凹凸の高低差(凹部5の底部から凸部6の頂点までの高さ)が50nm以上500nm以下とするのが好ましい。また、周期構造3の周期ピッチを10μm以下とするのが好ましい。
成膜工程P2bは、DLCコーティングであり、例えば、プラズマイオン注入法を採用することができる。プラズマイオン注入法は、高真空中でのプラズマプロセスであるイオン化蒸着により成膜する方法である。すなわち、真空チャンバ中にトルエンガスや他の炭化水素ガスが導入され直流アーク放電プラズマ中で炭化水素イオンが励起されたラジカルが生成される。このため、炭化水素イオンは直流の負電圧にバイアスされた基板(コーティングされる部材)にバイアス電圧に応じたエネルギーで衝突し固体化し成膜する。成膜工程P2bにて形成された非晶質炭素膜(DLC膜)4の厚さとしては、1μm程度とする。
摩耗工程P3において、第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとを相対的に摺動させれば、連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造3を第1部材1に設けているため、摺動時に小さな曲率半径をもつ周期構造3先端が摩耗し、なじみが進行する。この際、第1部材1からマイルド摩耗粉のような微細な摩耗粉が発生する。また、周期構造3は精密な加工ツールとして作用し、第2部材の非晶質炭素膜(DLC膜)4から極微細な摩耗粉を生成しながらDLC膜4のさらなる平滑化が進行する。DLC膜4の極微細な摩耗粉はグラファイト化され、低摩擦化の実現に重要な低硬度カーボンが生成される。このとき、周期構造3は摩耗粉をトラップすることで移着粒子の成長抑制に寄与する。この段階では顕著な摩擦低減効果は得られないが、周期構造3を犠牲層として摩滅させる工程において、微細な摩耗粉がのしつぶされ、強固に固着された低硬度カ−ボン移着層が形成されるとともに第1部材1と第2部材2が平滑化することで、周期構造3が消滅した後も長期に渡って摺動特性が向上する摺動部材が得られる。
グレーティング状凹凸の周期構造3が摺動方向に沿って配向していることで、摩耗粉を摺動面内に拘束する作用が大きくなり、摺動痕周囲に散逸する摩耗粉が大幅に減少する。その結果、摺動面に取り込まれた微細な摩耗粉がのしつぶされ、強固に固着された低硬度カーボン移着層が効率的に形成される。
第1部材1は、周期構造3を摩滅させる工程において酸化物の摩耗粉を生じる材質であることで、酸素に富んだ微細な摩耗粉がのしつぶされて、摩耗率がシビア摩耗の1/10〜1/1000となるマイルド摩耗面のような移着層を形成することができる。マイルド摩耗面のような移着層は強固にカ−ボン移着物をピンに固着させるバインダーの働きをして、摺動特性向上に寄与する。
加工関値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成することで、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さをもつ周期構造を容易に得ることができる。
グレーティング状凹凸の周期構造3を有する第1部材1の凹凸が50nm以上500nm以下かつ周期ピッチが10μm以下とすることで、低硬度カーボンの生成促進と移着粒子の成長抑制により、マイルド摩耗面に似た移着層を形成することができる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、第1部材1を球体にて構成し、第2部材2を平板体にて構成したが、第1部材1と第2部材2の形状としても、図例のものに限らず、他の種々の形状のものにて構成できる。
周期構造形成工程に使用するレーザとしては、フェムト秒レーザ、ピコ秒レーザ、及びナノ秒レーザといったパルスレーザを使用することができる。また、摩耗工程P3において、第1部材1側を固定して第2部材2を第1部材1に対して摺動させても、逆に、第2部材2側を固定して第1部材1を第2部材2に対して摺動させても、第1部材1と第2部材2とを摺動させてもよい。
また、摺動方向として、周期構造3の配向方向に対して、平行方向であっても、直交方
向であっても、さらには、所定角度(例えば、45度程度)に傾斜したものであってもよ
い。また、摺動方向として直線状ではなく、円形や楕円形状であってもよい。摺動時の荷重、摺動ストローク、往復周波数等も任意に設定できる。
ところで、DLCコーティングの処理には、化学蒸着(CVD、Chemical Vapor Deposition)法および物理蒸着(PVD、Physical Vapor Deposition)法によるプラズマ技術等がある。このため、本発明では、プラズマCVD法、イオン化蒸着法、スパッタ法、アークイオンプレーティング法の従来からある種々の方法で、非晶質炭素膜を形成することができる。
鋼材側に周期構造3を形成し、光学鏡面DLCの摩擦係数に及ぼす影響について検証した。この検証には、往復式ボールオンプレート試験機を用いた。光学研磨したSUS440c基板(Ra2nm)にプラズマイオン注入法でa−C:HのDLC膜を成膜したプレート試験片を形成し、このプレート試験片が本発明での第2部材2を構成する。この場合、DLCの膜厚は1μmとした。また、このプレート試験片を光学鏡面DLCと呼ぶ。第1部材1として、直径6.35mmのSUJ2ボール(Ra8nm)のボール試験片を用いた。ボール試験片にはフェムト秒レーザを加工しきい値近傍のエネルギー密度で照射し、グレーティング状の周期構造(ピッチ約700nm、深さ約200nm)を形成した。
摺動方向は、周期構造の配向方向に対して直交および平行の2方向とした。直交方向に沿って往復摺動したものを周期直交SUJ2と呼び、平行方向に沿って往復摺動したものを周期平行SUJ2と呼ぶ。また、この検証には、比較のため、未加工のボール試験片も用いた。この未加工のボール試験片を未加工SUJ2と呼ぶ。摺動条件は荷重5N、ストローク20mm、往復周波数0.5Hzとし、10000往復までの摺動抵抗をロードセルにより測定した。潤滑条件は無潤滑とした。
無潤滑下での各種SUJ2ボールの摩擦係数を図7に示す。3000往復以降では、周期平行SUJ2は未加工SUJ2に対して30%を超える顕著な摩擦低減効果が得られた。一方、周期直交SUJ2の摩擦係数は、3000往復までは周期平行SUJ2と極めてよく一致したが、5000往復以降は単調増加し、10000往復では未加工SUJ2の摩擦係数を上回った。
図8に光学鏡面DLCに10000往復させた各種SUJ2ボールの摺動痕写真を示す。摩擦低減効果が得られた周期平行SUJ2は摺動方向の中心線上に明瞭な移着膜が認められた。各種SUJ2ボールと摺動させたDLC膜摺動痕周囲の摩耗粉の様子を図9に示す。
未加工SUJ2では移着粒子が成長し、大量の摩耗粉が生じた。一方、周期構造3を形成したSUJ2ボール(周期平行SUJ2および周期直交SUJ2)では摩耗粉が微細化し、摩耗量が低減された。特に周期平行SUJ2では大幅に摩耗粉が減少した。周期構造は摩耗粉をトラップすることで移着粒子の成長を抑制し、摩耗粉の微細化に寄与したと推察される。周期平行SUJ2では摩耗粉を摺動面内に拘束する作用が大きいため、摺動痕周囲に散逸する摩耗粉が大幅に減少したと考えられる。すなわち、摩耗粉が摺動面内に拘束され、強固な移着膜形成に寄与する。また、EDX(エネルギー分散型X線分光法)分析の結果、摩耗粉はSUJ2ボール由来の金属酸化物が主体であった。また、微細な摩耗粉の方が高い酸素含有率を示した。
移着膜をSEM(走査型電子顕微鏡)観察したところ、移着膜は2層構造になっており、第1層は金属酸化物(SUJ2ボールの摩耗粉)とカーボンの混合物、第2層はDLC由来のカーボン移着物であった。また、強固に固着した移着膜の第1層は高い酸素含有事を示した。したがって、酸素含有率の高い第1層はカーボン移着物をSUJ2ボールに強固に固着させるバインダーの働きをしていると考えられる。周期平行SUJ2の低摩擦化は、酸素に富んだ微細な摩耗粉がのしつぶされ、マイルド摩耗面に似た滑らかで強固に固着したカーボン移着膜を形成することが主要因であると考えられる。周期直交SUJ2はバインダーの働きをする酸素に富んだ微細な摩耗粉が不足し、移着膜の密着性が弱かったため、5000往復以降に摩擦係数が増加したと考えられる。
図10は、光学鏡面DLCの摺動面を示す。未加工SUJ2では摩耗生成物が周囲に大量に生成され、周期平行SUJ2では摩耗生成物が周囲に少量に生成され、周期直交SUJ2では摩耗生成物が周囲に中量に生成されることが分かる。
このように、DLC膜の摩擦係数に及ぼす相手材テクスチャの影響を評価した結果、摺動方向に平行の周期構造は、無潤滑下で強固に固着した移着膜を形成し、摩擦低減効果が得られる。
1 第1部材
1a 摺動面
2 第2部材
2a 摺動面
3 周期構造
4 非晶質炭素膜
P1 周期構造形成工程
P2 膜形成工程
P3 摩耗工程

Claims (4)

  1. 第1部材の摺動面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造を摺動方向に配向させて形成する周期構造形成工程と、
    第2部材の摺動面に、鏡面仕上げされた非晶質炭素膜を形成する膜形成工程と、
    第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とを相対的に摺動させて、第1部材の周期構造を犠牲層として摩滅させることにより、第1部材からの摩耗粉を含む第1層と、第2部材からのカーボン移着物からなる第2層とを有する2層構造の移着膜を形成する摩耗工程とを備えたことを特徴とする摺動部材の製造方法。
  2. 第1部材の少なくとも摺動面が、前記摩耗工程において酸化物の摩耗粉を生じる材質としていることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
  3. 前記第1部材の基材表面にあらかじめ形成する周期構造は、加工闘値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摺動部材の製造方法。
  4. 前記周期構造の凹凸が50nm以上500nm以下かつ周期ピッチが10μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
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