JP5721481B2 - 保護膜の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜、特にダイヤモンドライクカーボン(DLC)の保護膜、およびその製造方法に関する。
近年、機械部品等の保護膜として、長寿命で信頼性が高く、安心して使用できる材料表面の硬質膜被覆技術の開発が求められている。この硬質膜被覆技術の分野において、硬質炭素膜、特にダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、部品表面に形成することで、部品の摺動性を高める材料として高い評価を受けている。DLCは、炭素を主成分とし、炭素原子がグラファイトのsp結合、ダイヤモンドのsp結合を有しながら、全体として非晶質の材料で、グラファイトとダイヤモンドとの中間の物性を示す材料である。そして、その膜特性と表面平滑性から、摩擦係数が低く、耐摩耗性が高いことが知られており、摺動性を高める表面被膜として、各種機械、工具および内燃機関等の摺動面に対し、広く利用されている。
しかしながら、耐摩耗性向上のためにDLC等の硬質膜が堆積されている基材に外力が加えられると、基材自体が変形して硬質膜に大きなひずみが加わり、硬質膜が基材から剥離することがある。これを解決するものとして、基材上に、セグメントに分割して形成された膜を堆積してなる、セグメント形態の保護膜が提案されている(特許文献1)。
そのようなセグメント形態の保護膜を得るには、基材をタングステン線等の金網を用いてマスキングした後に、保護膜の堆積を行うことが知られている(特許文献1)。より具体的には、タングステン線等の金網を用いてマスキングすることにより金網の目に相当する部分がセグメントを構成し、格子状のセグメント膜が得られ、金網部分、すなわち金網の網線に相当する部分が隣接するセグメント間の間隔を構成する。
特許第4117388号
金網を用いたマスキングによるセグメント形状は、金網の加工性(自由度)に制限される。例えば、通常の金網の網線は太さが均一であるので、金網の目に堆積する膜の厚みは一定のものしかできない。また、通常の金網のメッシュは均一であるので、セグメントの形状を成膜する箇所ごとに変化させることが難しい。また、マスキングをする基材が平面状の場合金網のマスクでも比較的容易に適用可能であるが、基材が3次元形状の場合は、金網のマスクは適用が困難である。例えば、3次元物体を覆うには、3次元物体を構成する面ごとに平面状の金網を細かく分割し、それらをつなぎ合わせることを要し、非常に手間暇がかかる上に、バッチごとのセグメント形状の同一性維持が困難となり、保護膜の品質管理が一層難しくなる。
本発明者は、国際特許出願番号 PCT/JP2010/066111号において、金網を用いたマスキングの代りに、描画材によるマスキングまたは機械的切削工具による溝加工後に堆積する保護膜およびその方法も提案している。この方法は、金網マスキングを用いるよりも、セグメント形態の保護膜の形成が容易であり、且つ自由度の高い(複雑な)セグメント形態を可能とする。しかしながら、一般的な印刷装置での線描画速度は20mm/秒程度であり、マイクロリューターでの切削速度は0.1mm/秒程度であり、さらに高速且つ自由度の高い生産技術が求められている。また、描画材でのマスキングにより作製されるセグメント構造の保護膜では、膜厚に相当する分の溝深さ、つまり数ナノメータから数百マイクロメートルの溝深さしか得られない。機械的切削工具を用いて基材に溝加工をする方法によれば、1mm程度の深さを有する溝を作製できるが、被加工面が凹面であると機械的切削工具がアクセスが困難な場合がある。
本発明の目的は、セグメント形態の保護膜の形成をさらに高速に行い、保護膜の品質管理をさらに向上させ、さらに自由度の高い(複雑な)セグメント形態を可能とし、二次元形状のみならず三次元形状にも適用可能な、DLC膜などの保護膜、およびそれを成膜する方法を提供することである。
本発明によると、以下が提供される。
(1) セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるようにレーザーを用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することにより得られる保護膜。
(2) 該レーザーを用いて該基材に溝加工をした後に、該溝加工をした部分に再度レーザーを照射することを特徴とする、(1)に記載の保護膜。
(3) 該レーザーを用いて該基材に溝加工をした後に、該溝加工をした部分に研磨、ブラスト、切削、エッチングまたは電解研磨のいずれかまたはそれらの組み合わせて行うことを特徴とする(1)または(2)のいずれか1つに記載の保護膜。
(4) 基材表面が3次元形状を形成することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の保護膜。
(5) 保護膜が気相堆積法により形成されることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の保護膜。
(6) セグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部の95%以上が、保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲していることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の保護膜。
(7) 保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、WC膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al膜、ZnO膜、SiO膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の保護膜。
(8) 多関節ロボットのアーム部に備えられたレーザーを用いて、基材表面に溝加工をすることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれか1つに記載の保護膜。
(9) セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるようにレーザーを用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することを特徴とする、保護膜の製造方法。
(10) 該レーザーを用いて該基材に溝加工をした後に、該溝加工をした部分に再度レーザーを照射することを特徴とする、(9)に記載の方法。
(11) 該レーザーを用いて該基材に溝加工をした後に、溝加工をした部分に研磨、ブラスト、切削、エッチングまたは電解研磨のいずれかまたはそれらの組み合わせて行うことを特徴とする(9)または(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12) 基材表面が3次元形状を形成することを特徴とする、(9)〜(11)のいずれか1つに記載の方法。
(13) 保護膜が気相堆積法により形成されることを特徴とする、(9)〜(12)のいずれか1つに記載の方法。
(14) セグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部の95%以上が、保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲していることを特徴とする、(9)〜(13)のいずれか1つに記載の方法。
(15) 保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、WC膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al膜、ZnO膜、SiO膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする、(9)〜(14)のいずれか1つに記載の方法。
(16) 多関節ロボットのアーム部に備えられたレーザーを用いて、基材表面に溝加工をすることを特徴とする、(9)〜(15)のいずれか1つに記載の方法。
本発明により、セグメント形態の保護膜のさらに高速な形成が容易であり、保護膜の品質管理をさらに向上させ、さらに自由度の高い(複雑な)セグメント形態を可能とし、二次元形状のみならず三次元形状にも適用可能な、DLC膜などの保護膜、およびそれを成膜する方法が提供される。
図1は、レーザー切削時に溝部に生じることのあるバリおよびバリ取り後の溝部の概略を示す。 図2は、保護膜を製造する装置の概要を示す。 図3は、図2の装置内で基材に保護膜を成膜する機構の概要を示す。 図4は、基材をレーザー切削する多関節ロボットの概要を示す。 図5は、レーザー切削機構の例(レーザーヘッド)を示す。 図6は、レーザー切削のプロセスフローを示す。 図7は、平面切削パターンの例および三次元切削パターンの例を示す。 図8は、微細粒子が保護膜中へ混入するのを防止する、微細粒子捕獲フィルタ捕獲フィルタを示す。 図9は、本発明により得たセグメント構造のDLC膜の写真を示す。
本発明の保護膜は、セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるようにレーザーを用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することにより得られる保護膜である。レーザーは、加工対象や使用状況に応じて、YAGレーザー(基本波,第二高調波,第三高調波),CO2レーザー,アルゴンレーザー,エキシマレーザー(ArF,KrF),ファイバーレーザー,フェムト秒レーザーなどを好適に利用できる。
以下に、本発明の保護膜について、詳細に説明する。本発明の保護膜は、セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態にあることを必要とする。セグメントの形状は特に制限されず、三角形、四角形、円形等を適宜選択しうる。例えば、五角形と六角形を組み合わせたサッカーボール状のセグメントにも適応可能である。また、三角形の中心部を(辺部よりも)張り出させたものを組み合わせた、球面状のセグメントにも適応可能である。また、場所により異なる幅や深さの溝によって仕切られたセグメントにも適用可能である。これらのセグメントの大きさは1辺または外径1μm〜3mmから選ばれるのが通常である。隣接するセグメントの間隔は通常0.1μm〜1mmである。またセグメントの膜厚は1nm〜200μmであるのが通常である。
本発明においては、所定の形態のセグメントを得られるようにレーザーを用いて該基材に溝加工をする。すなわち、この溝はセグメント間隔部分に対応する大きさ、形状を有するように、加工される。レーザーのパワー、ビーム径、フォーカス等の調整により、溝部の幅(大きさ)や深さ等を容易に制御できる。また、レーザーの加工速度は、300mm/秒程度を容易に達成することができる。一般的な機械的切削工具であるマイクロリューターでの切削速度は0.1mm/秒程度であり、レーザーの加工速度はその3000倍である。また、レーザーによる溝の幅の下限は、25μm程度であるが、一般的な機械的切削工具であるマイクロリューターでの溝の幅の下限は70μm程度である。すなわち、レーザーは、より微細な溝加工が可能である。なお、溝の幅の上限は、レーザーをずらして溝加工を繰り返すことにより、無限に広げることができる。また溝部の深さは、1μm程度以上であれば任意に調整が可能である。溝部は、溝加工を繰り返すことで深さを調整可能である。溝加工はメッシュ(溝どうしの間隔)を2μm程度以上であれば随意的に変えられ、細かなセグメント構造と大きなセグメント構造をグラデーション的に設定可能である。このことは保護膜における光の透過量を変化させることを可能とする。
レーザーを用いて該基材に溝加工をする場合、自由にパターン(図形)、溝幅、溝深さおよびグラデーションを組み合わせることも可能である。そして、溝加工パターンは自由に設定する事が可能であり、すなわち溝切りの曲線の曲率半径も任意に設定することができる。したがって、一つの基材に異なるセグメントパターンをつけることができるので、用途に応じた最適なセグメント構造の保護膜を得ることが可能である。溝加工パターンを自在に設定する事が可能と言う事は、セグメント構造保護膜を使ってマーキングやネーミングも可能である。さらに、セグメント構造の位置・大きさ・範囲を変化させることで、溝部の幅や曲がり方も自在に制御可能となり、溝を流路として使うことも容易に行える。
さらに、機械的接触を必要とする機械的切削工具では被加工品へのアクセスが困難な場合であっても、レーザーは被加工品と光学的に接触するためアクセスが容易である。レーザーは、鏡面反射や光ファイバーによる照射も可能であり、さらに自由度の高い加工が可能である。また、被加工品の形状による制限も受けにくい。
本発明では、レーザーを用いて基材に溝加工をした後に、保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成する。溝の幅は、前記の隣接するセグメントの間隔0.1μm〜1mmの範囲から選択される。溝の深さは、1μm〜2mm程度の範囲から選択される。これは、レーザーを用いた溝加工の精度で、1μm以下の溝を均一に導入するのは現状で困難であることから1μm程度が下限となり、2mm以上の溝深さになると、凸部(すなわちセグメント部)のせん断応力による変形が顕著になり、保護膜としての特性が低下するためである。溝の断面形状は任意であり、たとえばV字型、U字型、凵字型等が選ばれる。従来技術の描画材でのマスキングにより作製されるセグメント構造の保護膜では、膜厚に相当する分の溝深さ、つまり数ナノメータから数百マイクロメートルの溝深さしか得られないが、レーザーを用いて基材に溝加工をする本方法によれば、1mm程度の深さを有する溝を容易に作製できる。堆積される膜厚が通常1nmから200μmに対して、溝の深さが1μm〜2mm程度と十分に深いので、基材に溝加工をした後に堆積される保護膜は、溝により分断されてセグメント形態の保護膜が得られる。なお、膜を分断するための溝の深さとしては、所望の保護膜の厚さの2倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上である。
耐摩耗性向上のための保護膜として用いられる場合、基材に深さ1mmの溝を形成させたセグメント構造の保護膜は、描画材でのマスキングにより作製されたものに比べて耐摩耗性は1.5倍程度向上する。これは、溝加工をすることにより膜にかかる応力が減少するためである。溝加工の効果は1N以下の比較的低荷重の場合に大きく、φ6mmの球で垂直荷重が1N以上の場合には切込みのない方が有効となる。これは切込みを加えたことにより基材自身が変形するためである。
また、アブレッシブ摩耗(破壊された保護膜が摩擦剤となって残りの保護膜を攻撃して摩耗を促進させる)の抑制のためには溝に摩耗粉をトラップするのが有効であるので、本方法により作製した深溝を有する保護膜は、激しいアブレッシブ摩耗が生ずる場合に有効である。
レーザーを用いて基材を溝加工した際に、被加工物の蒸発や飛散によってできた残滓が、基材表面より突出した形状で生じることがある。すなわち、いわゆるバリが溝部の周縁に形成されることがある(図1参照)。必要に応じてこのバリは除去することが好ましい。バリの除去は、適当な物理的手法により、基材へのダメージを与えることなく実施することができる。
バリを除去する方法として、再度レーザーを用いることができる。デフォーカスまたは出力を調整したレーザーを溝加工部に照射することにより、バリ部が加熱溶融されて変形し、溝の肩部(基材の表面と溝側面との交接する辺およびその近傍)がなだらかになる。例えば溝の肩部を、保護膜の膜厚より大きな曲率半径で彎曲させることができる。溝の肩部の形状が所望の形状になるまで、レーザーの焦点(デフォーカス)、出力、オフセット量、往復回数等を適宜調整することができる。
また、バリを除去する方法として、基材の材質、所望の溝寸法・形状に応じて適当な従来型の工具を使用することができ、例えば、サンドペーパーなどによる研磨、サンドブラストなどによるブラスト、ダイサーなどによる切削、等方性ドライエッチングなどのエッチング、リン酸水溶液などの電解質液を用いた電解研磨等も使用可能である。これらのバリを除去する方法は、組み合わせて用いてもよい。特に、レーザーでバリ取りした後にレーザー以外の方法でさらにバリ取りをすることにより、さらに肩部の曲率半径を精度よく揃えることができ、品質管理上有利である。
本発明において用いられる基材としては、特に制限されず、たとえばアルミニウム、マグネシウム、これらの合金、鉄鋼等の金属;プラスチック;ゴム;セラミック;およびこれらの複合材料等が挙げられ、目的により適宜選択しうる。
保護膜を堆積させる基材表面が3次元形状を形成してもよい。3次元形状とは、機械加工やプレス加工など塑性加工、鋳造などで作られた面、特に曲面である。その面は機械加工・放電加工・手仕事・研磨などの加工も使われている。それらを此処で言う3次元形状と定義する。船のスクリューなどは真鍮鋳造品を機械加工で仕上げ、細部は手仕事がなされている。また、凸レンズ・凹レンズは研磨仕上げがなされ、非球面レンズは鋳物+研磨で作られる。産業分野ごとに、様々な面が存在し、広く使用されているが、本発明の保護膜はこのような様々で複雑な3次元形状に堆積することが可能である。機械的切削工具は、凸面の被加工物の加工は容易だが凹面の被加工物の加工は困難なことがある。レーザーであれば、被加工物が凸面であっても凹面であっても容易に溝加工が可能である。したがって、レーザーは、機械的切削よりもさらに容易に三次元基材へ適用することができる。
レーザーを用いて基材に溝加工した後に、膜の堆積を行う。溝加工されている箇所を含めて膜が堆積されるが、膜厚に対して溝の深さが十分に深いので、膜は溝部で凹みを持ち、この溝加工部分が隣接するセグメント間の間隔を形成したセグメント状の保護膜が得られる。
保護膜の堆積法としては気相堆積法が好適であり、たとえば直流、交流もしくは高周波等を電源とするプラズマCVDまたはマグネトロンスパッタもしくはイオンビームスパッタ等のスパッタ法が挙げられる。図2に、成膜装置の基本的構成を示す。チャンバー5、排気系10(ロータリーポンプ11、ターボ分子ポンプ12、真空計13、排気バルブ14等)、ガス導入系15(Ar、C、Si(CH)、H、O、N2、CH、CF等のガス導入バルブ)及び電源系20(主電源16、基材加熱電源17、微細粒子捕獲フィルタ電源18、余剰電子収集電源19等)を備えた装置の概要を示す。
図3に、図2の装置内で基材に保護膜を成膜する機構の概要を示す。本装置のチャンバー内の電極上に基材を設置し、基材には溝加工がされている。基材設置後に、真空排気機構によりチャンバー内を排気し、次いでプラズマガス源Ar、Si(CH、C等を供給し、パルス電源によりパルス電圧を印加して、前記プラズマガス源がプラズマ化される。プラズマ化されたガスが、基材上に堆積して膜を形成するが、膜厚に対して溝深さが十分に深いので、膜は溝部で分断され、セグメント形態の保護膜が得られる。
溝部での成膜速度を、レーザー溝加工時の雰囲気を適当に選択することにより、調整することができる。具体的には、レーザー溝加工時に、酸化性雰囲気ガス、例えば酸素、オゾン等を使用すると、被加工物を酸化させることが容易になる。酸化物は概して導電性が低く、成膜時に酸化した溝部への導電が抑制されることから、溝内での成膜が抑制される。このため、溝のない箇所に保護膜が形成されやすくなり、セグメント状保護膜となる。また、導電性が低いと電流が流れにくくなり、基材の温度上昇を抑制できる。これは、基材の選択の幅を広げる上でも有用である。
レーザー溝加工時の雰囲気は、不活性ガス、例えばアルゴン、窒素ガス等を選択してもよい。これにより、溝加工時に、溝部が酸化されることを抑制することも可能である。
堆積される保護膜は好適には耐摩耗性を付与しうるものであり、たとえば、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、WC膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al膜、ZnO膜、SiO膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでもよい。これらの膜厚は通常1nm〜200μmから選択される。
本発明によるセグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部(各セグメントの肩部)が、鋭利な角ではなく丸みを有する角が得られる。より具体的には、角部の95%以上が保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲している。本発明によりレーザーを用いて基材に溝加工した場合、基材を加熱溶融して溝加工しているので、溝の肩部(基材の表面と溝側面との交接する辺およびその近傍)がなだらかであり、例えば溝の肩部を保護膜の膜厚より大きな曲率半径で彎曲させることができる。このため、保護膜は肩部の曲率半径に膜厚を加えた大きな曲率半径を有する。したがって、セグメント状の保護膜の端部(溝の肩部)は鋭利な角ではなく丸みを有する角が得られるからである。このなだらかな丸みを有するセグメント形態の保護膜を、機械部品、特にその摺動面に用いる場合には、摺動方向の応力に対して膜の剥離・欠落等が生じにくく、摺動抵抗の安定性や長寿命の効用を示す。バリが生じた場合は、前記したとおり、再度レーザーを照射することや、研磨等の手段により、バリを除去し、所望の曲率半径を有する肩部を得ることができる。
本発明による保護膜は、レーザー照射部を把持し位置制御できる機構を備えた多関節ロボットを用いて、作製してもよい。多関節ロボットには、一般に軸数が4軸、5軸、6軸のものがある。軸数は回転する関節の数を示し、数が多いほど動く可動部が増え、作業部(一般的にアーム先端に備えられる)の姿勢の自由度が増す。この多関節ロボットの作業部に、把持・位置制御機構を備えつける。多関節ロボットのアームの動作と把持・位置制御機構による作業を連動または協働させて、基材へのレーザー切削を行う。図4に基材を切削する多関節ロボットの概要を示す。一般的に、ロボットの位置精度は±0.08mm(80μm)、レーザーによる切削の幅は25μm±10μmであるので、被加工物と切削機構(レーザーヘッド)の距離で線幅が変化するとしても、80+10≒100μm(0.01mm)が溝加工線の精度とみなせる。
レーザーヘッド部を固定させておき、被加工物を多関節ロボットの作業部に取り付けることによって、レーザー制御とロボット制御を協働させ、被加工物のレーザー切削を行ってもよい。レーザーによる切削速度に加えて、ロボットによる被加工物の移動速度を加えることにより、さらに高速な切削速度を実現することができる。
図5にレーザーヘッドの取り付け例を示す。レーザーヘッドは、レーザーの射出・停止を行わしめるドライバー(電源)、ドライバーに指示を与えるパターン切削ソフトウェア等を含んでなる切削機構を有する。
本発明の一態様では、レーザーヘッドがロボットアーム(三次元移動機構)の動作基準点に合うようにロボットアーム先端に取り付けられてもよい。レーザー射出部の並び方およびロボットアームの動きについて、X−Y方向が共通する座標を採用するように、調整することができる。レーザーが、ドライバーの指示に従い、レーザー射出部から射出され、対象物(基材)に照射され、所望のパターンで切削される。
本発明の別の態様では、レーザーヘッドに加えてまたはそのかわりに、バリ取り用の研磨工具、ブラスト装置、切削工具、エッチング装置、電解装置等を取り付けてもよい。
図6にレーザーを用いた切削のプロセスフローの例を示す。基材(被加工品)を治具にセットし、ロボットに指示を出し、ロボットがレーザーヘッドと協働して所望のパターンで切削し、次いで製膜を行うことにより、所望のセグメント形態の保護膜が得られる。レーザーを用いた切削後に、必要に応じてバリ取りの工程を行ってもよい。
図7に、平面切削パターンの例および三次元切削パターンの例を示す。これらのパターンは例示であって、本発明の切削パターンはこれらに限定されるものではない。
また、レーザー切削時やバリ取り時に基材から蒸発・飛散するヒュームやダスト等の微細粒子を捕獲する微細粒子捕獲フィルタ(22)を設け、この微細粒子捕獲フィルタにより静電気を用いて不純物となる微細粒子を捕獲することもできる。これにより、レーザー加工時に微細粒子が基材に再堆積することを防止できる。微細粒子捕獲フィルタ(図8に種々の形状を示す)は、微細粒子捕獲フィルタ電源(図2の18)に接続される。微細粒子捕獲フィルタは、図8の(1)に図示するように、メッシュまたは開口部を備える一枚の平板方式からなる陰極(−)を、2つの陽極(+)で挟む形で配した電極構造となっている。この電極構造は、2つの電極の両平板間の距離を適当に設定することによって、正に帯電した微粒子を陰極上に捕集する機構を有している。例えば、微細粒子捕獲フィルタの電極間距離は1〜5mmとして−500V〜−25kV望ましくは−5kV〜−10kVの直流電圧を電極間に印加する。陰極材料は、金属製の必要があってタングステン製またはステンレス製、金属製以外では黒鉛製が望ましい。陽極材料は、金属性であって主にステンレスが用いられる。さらに、別の方法として、レーザーのビームの周りにドーナツ状の陰極を設け、基板を陽極にして、該陰極と基板間に直流電圧を印加することによっても微細粒子を捕獲する効果を呈することができる。
本発明は、上述した本発明の保護膜の製造方法にも関する。
実施例1
6軸ロボットを用いて曲面を有する試料(パイプ)の表面に格子状に切削を行った。試料の基材の材質はCFRPである。Teaching機能(ロボット先端を実物(被加工物)の上に持って行き、座標を実物(被加工物)から読み取る機能)を用いてプログラム上で曲面上の軌跡を円弧補完、放物線補完及び自由曲線補完により連続的に形成し、常にロボットのアーム先端が面に垂直になるように切削をした。溝加工速度300mm/sとした。基材切削面をアセトンやアルコールにより超音波洗浄した後に、パルスプラズマCVD法によりDLC膜の合成を行った。合成条件は次に示す通りである。
合成条件
合成方法 パルスプラズマCVD法
圧力 3.0Pa
パルス電圧 −2.0kV
周波数 10kHz
パルス幅 20μs
中間層形成 Crスパッタリング
DLC層形成ガス アセチレン
合成後に、アセトンまたはアルコールにより基材表面を洗浄した。図9の写真に示すように、曲面上にセグメント構造のDLC膜が均一に合成されていることが確認された。
1 ダイヤモンド状炭素膜成膜装置
2 (被成膜)基体
3 マスク材
4 基体とマスク材からなる部材
5 チャンバー
6 直流単パルス電源
7 高周波電源
8 加熱ヒータ
9 クライオソープションポンプ
10 排気系
11 ロータリーポンプ
12 ターボ分子ポンプ
13 真空計
14 リークバルブ14
15 ガス導入系15
16 主電源
17 基体加熱電源
18 微細粒子捕獲フィルタ電源
19 余剰電子収集電源
20 電源系
21 ダイヤモンド状炭素膜成膜装置内の第2の電極
22 ダイヤモンド状炭素膜成膜装置内の微細粒子捕獲フィルタ
23 光学式モニター設置用フランジ
24 光学式モニター
25 直流単パルス電源又は高周波電源のいずれかを選択するスイッチ
26 重畳用直流電源

Claims (7)

  1. セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるようにレーザーを用いて該基材に溝加工をし、該溝加工をした部分に再度レーザーを照射した後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することを特徴とする、保護膜の製造方法。
  2. セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるようにレーザーを用いて該基材に溝加工をし、該溝加工をした部分に研磨、ブラスト、切削、エッチングまたは電解研磨のいずれかまたはそれらを組み合わせて行った後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することを特徴とする、保護膜の製造方法。
  3. 基材表面が3次元形状を形成することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
  4. 保護膜が気相堆積法により形成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. セグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部の95%以上が、保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、WC膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al膜、ZnO膜、SiO膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 多関節ロボットのアーム部に備えられたレーザーを用いて、基材表面に溝加工をすることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
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