以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
(第1実施形態)
まず、分光測定装置(測色器、分光分析器、分光スペクトラムアナライザー等)の全体構成について説明する。
(分光測定装置の全体構成の例)
図1は、分光測定装置の構成の一例を示す図である。分光測定装置の例としては、測色器、分光分析器、分光スペクトラムアナライザー等が挙げられる。例えば、サンプル200の測色を行う場合には光源100が用いられ、また、サンプル200の分光分析を行う場合には、光源100’が用いられる。
分光測定装置は、光源100(あるいは100’)と、光バンドパスフィルター部(BPF)300と、フォトダイオード等を用いた受光部(PD)400と、受光部400から得られる受光信号(光量データ)を補正するための補正演算(補正処理)を行う補正演算部500と、補正後の光量データ(受光データ)に基づいて分光光度分布等を求める信号処理部600と、を有する。なお、光源100(100’)としては、例えば、白熱電球、蛍光灯、放電管、LED等の固体発光素子を用いた光源(固体発光素子光源)等を使用することができる。
光バンドパスフィルター部(BPF)300は分光器として機能し、分光帯域として、所定波長幅の第1波長域〜第n波長域(nは2以上の整数であり、図1の例ではn=16)を有する。以下の説明では、第1波長域〜第n波長域のうちの、第m波長域(1≦m≦n)を関心波長域とし、第m波長域以外の第k波長域(k≠mかつ1≦k≦n)を非関心波長域という場合がある。
光バンドパスフィルター部(BPF)300は、第m波長域に対応する第mバンドパスフィルターとして機能し、かつ、第k波長域に対応する第kバンドパスフィルターとして機能する。具体的には、光バンドパスフィルター部300は、透過型の光バンドパスフィルターであってもよく、反射型の光バンドパスフィルターであってもよい。透過型の光バンドパスフィルターとしては、例えば、可変ギャップエタロンフィルターを用いることができ、また、反射型の光バンドパスフィルターとしては、例えばダイクロイックミラー(あるいはダイクロイックプリズム)や回折格子等を用いることができる。なお、ダイクロイックミラーは、特殊な光学素材を用いて作成された鏡の一種で、特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過する特性をもつ光学フィルターである。
本実施形態の光バンドパスフィルター(BPF)300は、n個(nは2以上の整数であり、図1の場合はn=16)の分光帯域を有しており、各分光帯域の波長幅は、例えば20nmに設定されている。図1では、説明の便宜上、16個の分光帯域の各々に対応した、16個のバンドバスフィルタを記載している。これら16個のバンドパスフィルターは、第1バンドパスフィルターBPF(1)〜第16バンドパスフィルターBPF(16))として記載している。各バンドパスフィルターBPF(1)〜BPF(16)は、少なくとも特定波長域の光を透過する(あるいは反射する)特性を有している。
複数の波長帯域の各々に対応する第1光バンドパスフィルターBPF(1)〜第16バンドパスフィルターBPF(16)の各々は、1個ないし複数の可変波長フィルターを用いて実現してもよく、また、波長帯域が異なる16個の固定波長フィルターを配置(並置)して実現することもできる。
また、第1光バンドパスフィルターBPF(1)〜第16バンドパスフィルターBPF(16)の各々が担当する分光帯域の中心波長をλ1〜λ16とする。例えば、λ1=400nm、λ2=420nm、λ3=440nm、λ4=460nm、λ5=480nm、λ6=500nm、λ7=520nm、λ8=540nm、λ9=560nm、λ10=580nm、λ11=600nm、λ12=620nm、λ13=640nm、λ14=660nm、λ15=680nm、λ16=700nmに設定されている。
また、光バンドパスフィルター部300からの光を受光する受光部(PD)400は、16個のフォトダイオードが設けられている。すなわち、これら16個のフォトダイオードは、第1フォトダイオードPD(1)〜第16フォトダイオードPD(16)である。各フォトダイオードPD(1)〜PD(16)は、上記の各波長域に受光感度を有している。なお、受光感度を有する波長域が広い光センサー等を使用できる場合には、1ないし複数の光センサーを使用してもよい。
補正演算部500は、受光信号の分光分布(分光分布曲線という場合もある)の2次微分値の極性に基づいて補正値を生成し、補正値によって受光信号を補正する。
上述のとおり、分光スペクトル(波長毎の受光強度分布)を示す分光分布曲線の曲率(曲がり方)が急峻に変化する場合に、特に、分光帯域の波長毎の受光強度の積分値と、その分光帯域の中心波長における実際の受光強度値との間の誤差が大きくなる。そこで、受光信号(受光データ)を信号処理によって補正し、測定誤差(積分誤差)を抑制する。
分光スペクトルを示す曲線が上に凸の曲線であるか下に凸の曲線であるかによって、誤差の極性が異なる。つまり、積分により得られる受光強度値が実際の受光強度値よりも大きくなる場合は誤差の極性は正、小さくなる場合は誤差の極性は負となる。この誤差の極性(正負)に対応させて補正値の極性(正負)を切り換える必要がある。分光分布曲線が上に凸の曲線であるか下に凸の曲線であるかは、受光信号の分光分布の2次微分値の極性によって判別可能である。そこで、補正演算部500は、受光信号の分光分布の2次微分値の極性に基づいて補正値を生成し、生成した補正値によって受光信号(受光データ、受光強度データ)を補正する(上述のとおり、この補正を積分誤差補正という場合がある)。
例えば、受光信号に補正値を重畳することによって、つまり受光信号に補正値を加算するあるいは受光信号から補正値を減算することによって、受光信号の補正が可能である。また、受光信号に補正値(補正係数)を乗算することによっても受光信号の補正が可能である。補正演算によって測定誤差が低減される。よって、例えば、使い勝手がよく、比較的安価で小型の光学フィルター(可変波長フィルター等)を利用して、高精度の分光測定を行うことが可能となる。
なお、補正演算部500は、積分誤差補正に加えて、ベース浮き補正を併せて実行することもできる。ベース浮き補正を併用する例は、第2実施形態において説明する。
(光バンドパスフィルター部の構成の具体例)
図2(A)および図2(B)は、可変ギャップエタロンの構成例と、バンドパスフィルター特性の例を示す図である。図2(A)に示すように、可変ギャップエタロンフィルターは、対向して配置される第1基板11および第2基板12と、第1基板11の主面(表面)に設けられる第1反射膜13と、第2基板12の主面(表面)に設けられる第2反射膜14と、各基板によって挟持された、各基板間のギャップ(距離)を調整するための第1アクチュエーター(例えば圧電素子等)15aおよび第2アクチュエーター15bと、を有する。
第1アクチュエーター15aおよび第2アクチュエーター15bは各々、第1駆動回路16aおよび第2駆動回路16bの各々によって駆動される。また、第1駆動回路16aおよび第2駆動回路16bの動作は、ギャップ制御回路17によって制御される。
所定角度θで外部から入射する光Linは、ほとんど散乱されることなく第1反射膜13を通過する。第1基板11に設けられた第1反射膜13と第2基板12に設けられた第2反射膜14との間で、光の反射が繰り返され、これによって、光の干渉が生じ、入射光の一部は、第2基板12上の第2反射膜14を通過し、出射光Loutは、受光部400(フォトダイオードPD)に到達する。干渉によってどの波長の光が強め合うかは、第1基板11と第2基板12との間のギャップdに依存する。よって、ギャップdを可変に制御することによって、通過する光の波長帯域(分光帯域)を変化させることができる。例えば、ギャップdを、d1〜d16にわたって制御することによって、16個の分光帯域を実現することができる。
図2(B)は、可変ギャップエタロンフィルターの分光特性(20nm幅の16の波長帯域毎の相対分光強度)を示している。光バンドパスフィルター部(光学フィルター部)300として、可変ギャップエタロンフィルターを使用すると、一つのフィルターで複数の透過波長帯域を実現することができることから、簡易、小型かつ安価な分光部を得ることができるという利点がある。
図3は、光バンドパスフィルターとしての、回転式バンドパスフィルターの構成の一例を示す図である。回転式バンドパスフィルターは、光学系(レンズ)87と、それぞれの透過帯域が異なる複数のバンドパスフィルター85a〜85fが組み込まれている、回転可能な円盤85と、を有する。例えば、サンプル200の反射光を分光する場合、通過させる光の波長に応じて、バンドパスフィルター85a〜85fのうちのいずれか一つが選択される。
図4は、図1の分光測定装置によって実測された補正前の16ポイントデータに基づいて生成される分光分布曲線(ここでは分光反射率分布曲線)と、サンプルの実際の分光分布(分光反射率分布)とを比較して示す図である。分光反射率分布曲線は、例えば、以下の手順で生成される。使用するサンプルの表面色は赤である。図1に示される分光測定装置を測色計(測色器)として使用し、サンプルからの反射光を受光部400で受光し、16ポイントの受光データが取得され、その受光データに基づいて分光反射率分布曲線が生成される。なお、図4において、横軸は波長を示し、縦軸は相対受光強度を示す。また、補正前の16ポイントデータは黒塗りの正方形で示され、実際のサンプルの分光分布(分光反射率分布)は、実線で示されている。
図4の例では、波長400nm〜560nmの波長域において、実測値が、実際の受光強度よりも高くなる現象(いわゆるベース浮き)が生じている。また、580nm〜700nmの波長域では、サンプル200の分光反射率の変化に伴う誤差(積分誤差)が生じている。
サンプル200の分光反射率の変化に伴う誤差(積分誤差)に関しては、波長580nmおよび600nmに対応する波長域(波長域A1)では、実測値が、実際の受光強度よりも高くなる現象が生じており、波長640nm〜700nmの波長域(波長域A2)では、逆に、実測値が、実際の受光強度よりも低くなる現象が生じている。なお、波長620nmにおける実測データは、分光分布曲線の変曲点(2次微分値がゼロの点)に相当することから、誤差はほとんど生じていない。
本実施形態では、波長域A1およびA2における、サンプルの分光反射率の変化に伴う誤差(積分誤差)を補正値によって補正し、より正確な分光反射率の生成を可能とする。以下、具体的に説明する。
(サンプルの分光反射率の変化に伴う誤差(積分誤差)が生じる理由)
図5(A)および図5(B)は、サンプルの分光反射率の変化に伴う誤差(積分誤差)が生じる理由を説明するための図である。図5(A)に示される分光分布曲線は、2次微分が正の曲線(下に凸の曲線)である。図5(B)に示される分光分布曲線は、2次微分が負である曲線(上に凸の曲線)である。
図5(A)において、太い実線は、サンプル200の実際の分光反射率を示す分光反射率曲線を示す。この分光反射率曲線は、下に凸の曲線(2次微分値が正)である。また、黒塗りの丸で示されるA点、B点、C点の各々は、20nm幅の3つの分光波長域(550nm〜570nm,570nm〜590nm,590nm〜610nm)の各々の中心波長(560nm,580nm,600nm)における、誤差がない場合の受光強度(理想的な受光強度)を示す。また、A’点、B’点、C’点の各々は、誤差を含む実測値(つまり、20nm幅の各波長域における受光強度の積分値)を示している。図5(A)では、各波長域における積分値(平滑化された面積)に斜線が施されている。
ここで、例えば、570nm〜590nmの波長域に注目する。この分光波長域の受光強度は、570nm〜590nmの各波長に対応する受光強度(分光強度)を積分(平滑化)して得られる。各波長の受光強度の積分値を、この分光波長域の中心波長580nmに対応する受光強度とする。ここで、領域aと領域bに着目する。
領域aの面積と領域bの面積が同じあれば、積分後(平滑化後)の受光強度レベルB’は、理想的な受光強度Bに一致する。しかし、図5(A)において、570nm〜590nmの波長域の分光分布を示す曲線(分光分布曲線)は、下に凸の曲線であり、かつ、分光分布曲線の曲率が急峻に変化していることから、a部分の面積よりも、b部分の面積の方が大きくなり、その面積の差の部分だけ誤差が生じ、実際の積分値のレベルB’は、理想的な受光強度Bよりも高くなる。このようにして、積分誤差(サンプルの分光反射率の変化に伴う誤差)が生じる。
サンプル200の分光反射率の変化が少ないA点付近では、A点とA’点のレベルには、ほとんど差がない(領域aと領域bの面積がほぼ同じであるため)。これに対して、サンプル200の分光反射率の変化が大きなB点付近では、領域aと領域bの面積に差が生じ(a<bが顕在化し)、よって、B’点のレベルがB点のレベルよりも高くなる。同様に、C点付近でも、C’点のレベルがC点のレベルよりも高くなる。
一方、図5(B)では、サンプル200の分光反射率を示す分光分布曲線は、2次微分値が負である曲線(上に凸の曲線)で示される。D点、E点、F点は、各波長域の中心波長における理想的な受光強度を示している。また、D’点、E’点、F’点は、誤差を含む実測値を示す。
図5(B)の例において、波長570nm〜590nmの波長域に着目する。この波長域における領域aと領域bの各面積に関して、a>bが成立する。よって、その面積の差の部分だけ誤差が生じ、実際の積分値のレベルE’は、理想的な受光強度Eよりも低くなる。このようにして、積分誤差(サンプルの分光反射率の変化に伴う誤差)が生じる。
サンプル200の分光反射率の変化が少ないD点付近では、D点とD’点のレベルには、ほとんど差がない(領域aと領域bの面積がほぼ同じであるため)。一方、サンプル20の分光反射率の変化が大きなE点付近では、E’点のレベルがE点のレベルよりも低くなり、同様に、F’点のレベルが、F点のレベルよりも低くなる。
このように、実測値のレベルが、理想値のレベルよりも高くなるか低くなるかは、分光分布曲線の形状(つまり、分光分布曲線の2次微分値が正であるか負であるか)によって異なる。よって、補正値の算出に際しては、分光分布曲線の2次微分値の極性(正/負)に対応させて、補正値の極性(正/負)を切り換えるのが好ましい。また、誤差の程度(誤差量)は、分光分布の変化が急峻であるときに拡大することから、分光分布の変化の程度に応じて補正値の大きさを可変に制御し、状況に適応した補正を実行することが好ましい。
図6は、コンピューターシミュレーションによって求められた、分光分布曲線の1次微分値の変化および2次微分値の変化を示す図である。図6において、実線は、サンプル200の分光反射率を示す分光分布曲線(分光受光強度曲線)を示し、一点鎖線は1次微分値の変化を示し、太い点線は2次微分値の変化を示す。図示されるように、570nm〜590nmの波長域において、2次微分値が急激に変化している。よって、図5(A)を用いて説明したように、570nm〜590nmの波長域において、積分誤差(サンプルの分光反射率の変化に伴う誤差)が最も顕在化する。
図7(A)および図7(B)は、光バンドパスフィルターを通過した光をフォトダイオードで受光して得られる受光強度分布(分光受光強度分布)が、サンプルの分光反射率を示す特性線の形状に応じて、どのように変化するかをコンピューターシミュレーションによって調べた結果を示す図である。
図7(A)において、光バンドパスフィルターの分光特性(分光透過特性)は、太い実線で示されている。また、このコンピューターシミュレーションにおいては、4種類の、サンプルの分光反射率を示す特性線が用いられている。その一つは、粗い点線で示される分光反射率曲線(曲率>0:下に凸の曲線)であり、他の一つは、実線で示される分光反射率直線(曲率=0:単調増加する直線)であり、他の一つは、一点鎖線で示される分光反射率曲線(曲率<0:上に凸の曲線)であり、他の一つは、細かい点線で示される、分光反射率が一定である直線(傾き0の直線)である。
図7(B)は、各サンプルに対応する受光強度分布(分光受光強度分布)を示している。光バンドパスフィルターを通過した光をフォトダイオードで受光して得られる分光受光強度は、サンプルの分光反射率に、光バンドパスフィルターの分光透過率を掛け合わせて求めることができる。
図7(B)において、点線で示される分光受光強度特性は、分光反射率が一定であるサンプルに対応する。この点線で示される分光受光強度特性を示す曲線の形状は、光バンドパスフィルターの分光透過率曲線の形状に一致する。
これに対して、他の3つのサンプルに対応する分光受光強度特性を示す曲線(粗い点線は曲率>0の曲線で示されるサンプルに対応し、実線は曲率0の、分光受光強度が単調増加する直線で示されるサンプルに対応し、一点鎖線は曲率<0の曲線で示されるサンプルに対応する)は、高波長域でサンプルの分光反射率が高まることから、分光受光強度特性を示す曲線も、高波長側(右側)にシフトする。
但し、曲率>0のサンプルに対応する分光受光強度分布は、曲率0のサンプルの分光受光強度分布よりも、各波長域にて高いレベルとなり、曲率<0のサンプルに対応する分光受光強度分布は、曲率0のサンプルの分光受光強度分布よりも、各波長域にて低いレベルとなっている。
このように、サンプルの分光反射率が曲線によって示されるとき、分光反射率曲線の曲率が0よりも大きいとき(下に凸の曲線であるとき)は、実測値が高レベル側にシフトし、分光反射率曲線の曲率が0よりも小さいとき(上に凸の曲線であるとき)は、実測値が低レベル側にシフトすることが、コンピューターシミュレーションによって明確化された。この結果は、先に図5(A)および図5(B)を用いて説明した現象を裏付けている。
本実施形態では、このような考察に基づいて、補正演算部500(図1)が、受光信号の分光分布(分光分布曲線)の2次微分値の極性に基づいて補正値を生成し、その補正値によって受光信号を補正する。
具体的には、例えば、補正演算部500は、2次微分値が正(分光受光強度を示す曲線の曲率>0)のときは、補正によって受光信号(受光データ)の値を減少させ、2次微分値が負(分光受光強度を示す曲線の曲率<0)のときは、補正値を用いた補正によって、受光信号(受光データ)の値を増大させる。このような補正を行うために、本実施形態の分光測定装置には、図8に示されるような構成をもつ補正演算部500が設けられる。
(分光測定装置の具体的な構成例)
図8は、分光測定装置に設けられる補正演算部の構成例と補正演算の概要を説明するための図である。
図8において、光バンドパスフィルター部300に含まれる第1バンドパスフィルターBPF(1)〜第16バンドパスフィルターBPF(16)の各々からは、分光された光w(1)〜w(16)の各々が出力される。受光部400に含まれる、第1フォトダイオードPD(1)〜第16フォトダイオードPD(16)の各々は、分光された光w(1)〜w(16)の各々を受光し、光電変換によって受光強度に対応した電気信号(アナログ受光信号)S1a〜S16a(添字のaはアナログ信号であることを表す)を出力する。
また、補正演算部500は、例えば、受光部400から出力される受光信号を増幅する初段アンプ502と、初段アンプ502の出力信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器504と、各種データを蓄積するために使用可能なメモリー506と、積分誤差補正部521と、を有する。
積分誤差補正部521は、メモリー506から受光データを読み出す読み出し回路523と、受光データに基づいて、分光受光強度分布(広義の分光分布あるいは分光分布曲線)の2次微分値を算出する2次微分値算出部525と、補正係数(k1:実数)の乗算部527と、乗算部527から出力される補正値を、読み出された受光データ(受光信号)に重畳(加算あるいは減算)する補正値重畳部(補正値加減算部)529と、を有する。
メモリー506には、A/D変換器504から出力される受光データ(あるいは受光光量データ)S1〜S16が、一時的に蓄積される。
読み出し回路523は、メモリー506から受光データS1〜S16を読み出す。2次微分値算出部525は、読み出された受光データS1〜S16に基づいて、分光分布(分光分布曲線)の2次微分値Q1を算出する。算出方法は、図9を用いて後述する。
補正係数の乗算部527は、算出された2次微分値Q1に補正係数k1を乗算する。補正係数k1は固定値でもよく、また、状況に応じて適応的に生成してもよい。2次微分値および補正係数k1に基づく演算によって、補正対象の分光帯域についての補正値Cxが求められる。
上述のとおり、2次微分値Q1の極性が正の場合は、分光分布曲線は下に凸の曲線であり、2次微分値Q1の極性が負の場合は、分光分布曲線は上に凸の曲線である。また、分光分布曲線の曲率が大きい(分光強度の変化が急峻である)場合には、2次微分値Q1の絶対値が増大する。つまり、2次微分値Q1(正または負)は、分光分布曲線の形状に関する情報(上凸、下凸の判別情報)と、分光分布の変化の急峻性(変化が急であるか緩やかであるか)を示す情報を兼ね備えている。
この点に着目し、本実施形態では、この2次微分値Q1を、補正値算出の基礎データとして使用する。つまり、上述のとおり、求められた2次微分値Q1および補正係数k1(k1は実数)に基づく演算(具体的には、2次微分値Q1に対する補正係数k1の乗算)によって、補正対象の分光帯域についての補正値Cxが算出される。この補正値Cxは、分光分布曲線の上凸/下凸に対応した極性(正負)を有し、かつ、その絶対値の大きさが、分光分布曲線の変化の急峻性に比例して増大するという特性を有する。よって、分光分布曲線の形状および急峻性に対応した適切な値をもつ補正値Cxが、簡便な手法で得られたことになる。
なお、k1=1の場合は2次微分値Q1がそのまま補正値となる。また、補正係数k1は、原則的には、0を除く正の実数であるが、例外的にk1を0に設定する場合もあり得る(補正を実行しない場合等)。この方法によれば、簡易な方法(簡易な構成)によって、大きさが可変に制御された補正値を、迅速に(例えばリアルタイムで)生成することができる。
乗算部527から出力される補正値Cxは、補正値重畳部529にて、読み出し回路523によって読み出された受光データ(受光信号)に重畳(加減算)される(具体的には、例えば、受光データ(受光信号)から補正値Cxが減算される)。これによって、積分誤差補正が実行され、積分誤差補正後の受光データ(受光信号)Sm(m=1〜16)が得られる。
信号処理部600は、分光反射率曲線や分光吸収率曲線等の算出部602を有する。信号処理部600は、補正演算部500によって補正された補正受光信号(補正受光データ)に基づいて、所定の信号処理を実行し、例えば、分光光度分布を求める。信号処理部600からは、求められた、波長毎の分光光度を示す信号(つまり分光光度分布情報)Soutが出力される。
なお、以上の例は一例であり、他の補正方法を使用することもできる。上述の例では、受光データに補正値を重畳する(加算あるいは減算する)ことによって受光データを補正しているが、受光データに補正値(補正係数)を乗算することによって受光データを補正してもよい。また、補正値としては、予め用意されている固定値を用いることができ、また、分光分布曲線の変化の程度に応じて、値が変化する補正値(可変補正値)を使用することもできる。また、可変補正値を用いる場合において、補正値の値を、分光分布の変化の程度に対応させて連続的に変化させてもよく、また、閾値等を用いて分光分布の変化の程度を複数段階に区分し、各区分に対応させて、補正値の値を段階的に変化させる(切り替える)というような方法を使用することもできる。
次に、2次微分値の算出方法の一例について説明する。図9(A)〜図9(C)は、2次微分値の算出方法の一例について説明するための図である。図9(A)〜図9(C)に示される例では、第1の分光帯域の受光強度をp1とし、第1の分光帯域に隣接する第2の分光帯域の受光強度をp2とし、第2の分光帯域に隣接する第3の分光帯域の受光強度をp3としたとき、Q1=(p1+p3−2・p2)による演算によって2次微分値Q1が求められる。
図9(A)は2次微分値が0である例を示し、図9(B)は2次微分値が正(>0)である例を示し、図9(C)は2次微分値が負(<0)である例を示す。
図9(A)の例では、分光分布は直線状に変化(増大)する。第1の分光帯域の受光強度をp1とし、第1の分光帯域に隣接する第2の分光帯域の受光強度p2とし、第2の分光帯域に隣接する第3の分光帯域の受光強度をp3としたとき、三角形(図中、点線で示す)における中点連結定理によって、p1+p3=2・p2が成立する。2次微分値Q1は、Q1=p1+p3−2・p2なる演算によって求めることができる。図9(A)の例では、Q1=0(2次微分値がゼロ)である。この場合には、積分誤差が生じないことから、積分誤差補正は不要である。
図9(B)の例では、Q1=p1+p3−2・p2>0が成立する。つまり、分光分布曲線が下に凸のときは、2次微分値Q1は正である。先に説明したように、分光分布曲線が下に凸のときは、実測値は、実際の値(理想的な値)よりも大きくなる傾向がある。よって、図9(B)の例では、第2分光帯域(補正対象の分光帯域)の受光強度p2を、補正値(=k1・Q1)によって補正する。すなわち、補正演算部521における積分誤差補正部521は、p2’=p2−k1・Q1なる補正演算を実行して、第2分光帯域についての、補正された受光強度データp2’を算出する。
図9(C)の例では、Q1=p1+p3−2・p2<0が成立する。つまり、分光分布曲線が上に凸のときは、2次微分値Q1は負である。分光分布曲線が上に凸のときは、実測値は、実際の値(理想的な値)よりも小さくなる傾向がある。よって、図9(C)の例では、第2分光帯域(補正対象の分光帯域)の受光強度p2を、補正値(=k1・Q1)によって補正する。すなわち、補正演算部521における積分誤差補正部521は、p2’=p2+k1・Q1なる補正演算を実行して、第2分光帯域についての、補正された受光強度データP2’を算出する。
なお、上述の例は一例であり、他の方法によって2次微分値を算出することもできる。上述の例では、隣接する3つの波長域の測定データを利用した簡易な演算によって2次微分値を求めている。但し、より正確な分光分布曲線の曲率の変化を検出するために、例えば、実測値(離散値)に基づいて平面曲線(近似曲線)を推定し、その平面曲線の2次微分値を求めるというような方法を採用してもよい。
図10は、積分誤差補正後の16ポイントデータに基づいて生成される分光分布曲線(ここでは分光反射率分布曲線)と、サンプルの実際の分光分布(ここでは分光反射率分布)とを比較して示す図である。分光反射率曲線は、以下の手順で生成される。使用するサンプルの表面色は赤である。図1に示される分光測定装置を測色計(測色器)として使用し、サンプルからの反射光を受光部400で受光し、16ポイントの受光データが取得される。その受光データに上述の積分誤差補正が実行され、補正後の受光信号(受光データ)に基づいて分光反射率分布曲線が生成される。なお、図10において、補正後の測定データ(16ポイントデータ)に基づく分光反射率値は白丸で示される。また、補正後の測定データに基づく補正後の分光特性は点線で示される。
図10から明らかなように、580nm〜700nm付近の波長域(サンプルの分光反射率が変化する波長領域)における実測データに基づく分光反射率値は、サンプルの実際の分光反射率値とほとんど一致している。ここで、図10に示される補正後の分光特性と、図4に示される補正前の分光特性とを比較する。図10に示される補正後の分光特性においては、分光反射率変化領域における誤差(積分誤差)が十分に低減されていることがわある。
(第2実施形態)
図10に示される補正後の分光特性においては、400nm〜560nmの波長域におけるベース浮き誤差が残存している。ベース浮き誤差を低減できれば、分光測定装置の測定精度をさらに向上させることができる。そこで、本実施形態では、積分誤差補正に加えて、ベース浮き誤差補正も実行する。
ベース浮き誤差は、例えば、光バンドパスフィルター300の半値幅が広い場合(波長分離特性がそれほど高くない場合)に発生する。つまり、所定の波長域を担当する光バンドパスフィルターは、その波長域の光のみを通過させるのが理想であるが、実際には、所望の波長域以外の波長の光が混入する。よって、各波長域の受光信号にノイズ成分(所望の波長域以外の波長に対応する受光成分)が重畳されることになり、その分だけ受光信号レベルが上昇し、ベース浮き誤差が生じる。
そこで、本実施形態では、第mバンドパスフィルターからの光を受光して得られる全受光信号(すなわち関心受光信号)に含まれる、各帯域毎のノイズ成分の総量を求め、全受光信号から、求められたノイズ成分の総量を減算してノイズの影響を抑制する補正(ベース浮き補正)が実行される。このベース浮き補正は、積分誤差補正よりも先に実行するのが好ましい。つまり、ベース浮き補正によって各分光帯域(分光波長域)の分光データからノイズを除去し、そのノイズが除去された分光データに基づいて積分誤差補正を実行した方が、補正の精度がより向上する。
(補正演算部の構成例)
図11は、第2実施形態における補正演算部の構成例と補正演算の概要を説明するための図である。図11に示される構成では、図8に示される構成における読み出し回路523を除去し、その代わりに、ノイズ推定部508およびノイズ除去補正部510が設けられている。ノイズ推定部508およびノイズ除去補正部510は、ベース浮き誤差(ベース浮きの原因となるノイズ)を低減するための補正(ベース浮き誤差補正)を実行する。
すなわち、ノイズ推定部508は、メモリー506に蓄積されている受光データS1〜S16を読み出し、受光データS1〜S16に基づいて、関心受光信号(関心受光データ)Smに含まれるノイズ成分(波長域w(≠m)の波長をもつ成分)を推定する。
また、ノイズ除去補正部510は、関心受光信号(関心受光データ)Smから、各波長域毎のノイズ成分の総和を減算して、補正された補正受光信号(補正受光データあるいは補正受光光量データ)を算出する。信号処理部600は、補正演算部500によって補正された補正受光信号(補正受光データ)に基づいて、所定の信号処理を実行し、例えば、分光光度分布を求める。信号処理部600からは、求められた、波長毎の分光光度を示す信号(つまり分光光度分布情報)Soutが出力される。
(ノイズ成分の推定について)
複数の波長域(第1波長域〜第n波長域:例えばn=16)のうちの、第m波長域(1≦m≦n)を関心波長域とする。関心波長域とは、受光データの補正処理上、注目する波長域という意味である。また、第m波長域以外の第k波長域(k≠mかつ1≦k≦n)を非関心波長域とする。
図11に示される受光部400は、第mバンドパスフィルター(PDm)の透過光または反射光を受光して、関心受光信号Sm(S1a〜S16aのうちのいずれか)を出力する。同様に、受光部400は、第kバンドパスフィルターの透過光または反射光を受光して、非関心受光信号Sk(S1a〜S16aのうちの関心受光信号Smを除いた信号)を出力する。
また、第mバンドパスフィルターの、第k波長域における光透過率または光反射率をP(m,k)とし、第kバンドパスフィルターの、第k波長域における光透過率または光反射率をP(k,k)とする。また、関心受光信号Smに含まれる、第k波長域の各波長域毎のノイズ成分をN(m,k)とする。
ここで、ノイズ推定部508は、下記(1)式による演算を行って、関心受光信号Smに含まれる、第k波長域の、各々の波長域毎のノイズ成分の量を推定する。
N(m,k)=Sk・{P(m,k)/P(k,k)}・・・(1)
また、ノイズ除去補正部510は、推定された各波長域毎のノイズ成分N(m,k)の総和ΣN(m、k)を算出する。そして、下記(2)式による演算によって、補正受光信号(補正受光データ)Smcを得る。
Smc=Sm−ΣN(m、k)・・・(2)
上記(1)式(つまり、N(m,k)=Sk・{P(m,k)/P(k,k)})において、Skは、第kバンドパスフィルターの透過光または反射光を、受光部によって受光して得られる非関心受光信号(全受光信号:フォトダイオード等の全出力であり、実測されていることから既知)である。ここで、理想的には、非関心受光信号のうちの、第k波長域の光に対応する受光信号値のみを用いるのがよいが、第k波長域の光に対応する受光成分のみを分離することはできないため、第kバンドパスフィルターの全受光信号で代用する。
また、P(m,k)は、第mバンドパスフィルターの、第k波長域における光透過率または光反射率である。P(m,k)という表記は、第「m」バンドパスフィルター(関心波長である第「m」波長域を担当する光学フィルター)の、非関心波長域である第「k」波長域における透過率(または反射率)Pという意味である。また、第mバンドパスフィルターの全波長帯域における分光特性(各波長の相対分光強度)は既知である。
そして、例えば、第k波長域に含まれる、各波長の透過率(反射率)を積分すること(つまり、波長と透過率(反射率)との関係を示すグラフにおける、第k波長域の全面積を求めること)によって、P(m,k)を知ることができる。よって、P(m,k)は既知である。
また、P(k,k)は、第kバンドパスフィルターの、第k波長域における光透過率または光反射率である。P(k,k)という表記は、第「k」バンドパスフィルター(非関心波長である第「k」波長域を担当する光学フィルター)の、非関心波長域である第「k」波長域における透過率(または反射率)Pという意味である。第kバンドパスフィルターは、本来、第k波長域を担当するフィルターであることから、第k波長域における透過率は既知である。
これらの既知の値を使用して、関心受光信号Sm(関心波長域を担当するフィルターである第mバンドパスフィルターからの光を受光部で受光して得られる全受光信号)に含まれる、第k波長域の各波長域毎のノイズ成分N(m,k)を求める。なお、「第k波長域の各波長域毎のノイズ成分」と表現するのは、以下の理由による。すなわち、上述のとおり、第1〜第nの波長域は各々、所定の波長幅をもつ帯域であり、n≧3の場合、非関心波長域である第kの波長帯域は2帯域以上、存在することになる。このことを考慮し、非関心波長域として複数の波長域が存在する場合には、各波長域毎にノイズ成分を求めることを明確に表現したものである。
ここで、第kバンドパスフィルターの第k波長域の透過率(反射率)P(k,k)に対応して、受光信号Sk(全受光信号を、第k波長域に対応する受光信号とみなして代用)が得られる。仮に、上記P(k、k)が、P(m,k)に変更されたとすると、受光信号量は、P(k、k)とP(m,k)の比に応じて変化することになるから、受光信号量は、Sk・{P(m,k)/P(k、k)}に変化するはずである。この受光信号量を、すなわち、関心受光信号Smに含まれる、第k波長域の各波長域毎のノイズ成分N(m,k)とみなす。上記(1)式は、このことを意味している。
このようにして、非関心波長域毎にノイズ成分が求められると、ノイズ除去補正部510は、推定された各波長域毎のノイズ成分N(m,k)の総和ΣN(m、k)を算出する。このΣN(m、k)という表記は、関心波長域を担当するフィルターである第「m」バンドパスフィルターからの光を受光部で受光して得られる全受光信号に含まれる、非関心波長域である第「k」波長域の全信号成分(すなわち、全ノイズ成分NΣ)であることを表している。
そして、ノイズ除去補正部は、(2)式(つまり、Smc=Sm−ΣN(m、k))による演算を実行して、補正受光信号Smcを得る。この補正受光信号Smcは、ノイズが除去された結果、ほぼ、関心波長域の光に対応した受光信号(受光データ)であるとみなすことが可能であり、よって、分光スペクトルデータの測定精度が向上したことになる。
また、より好ましくは、ノイズ推定部508は、下記(3)式による演算を行って、関心受光信号Smに含まれる、第k波長域の、各々の波長域毎のノイズ成分の量を推定するのがよい。
N(m,k)=Sk・{P(m,k)/P(k,k)}・R・・・(3)
この(3)式において、ΣQm(1〜n)は、第mバンドパフフィルターの、全波長域の光透過率または光反射率の総和であり、ΣQk(1〜n)は、第kバンドパフフィルターの、全波長域の光透過率または光反射率の総和であり、R(=ΣQm(1〜n)/ΣQk(1〜n))は、各バンドパスフィルター間の透過率特性または反射率特性の差(あるいは全光量の差ということもできる)を補正するための補正係数である。ノイズ成分の算出に際して、先に説明した(1)式に代えて、(3)式を使用することによって、ノイズ推定の精度をさらに高めることができる。
先に説明した上記(1)式による演算では、「P(k、k)が、P(m,k)に変更されたとすると、受光信号量は、P(k、k)とP(m,k)の比に応じて変化することになるから、受光信号量は、Sk・{P(m,k)/P(k、k)}に変化するはずである」という考え方に基づいて、ノイズを算出していた。但し、実際には、使用する光学フィルターを、第kバンドパスフィルターから第mバンドパスフィルターに切り換えたとき、各フィルターの特性(例えば相対透過率分布あるいは相対反射率分布)が異なることに起因して、各フィルターから受光部に到達する光の総量(全光量)に差が生じる。
上述のとおり、上記(1)式で使用しているSkは、第kバンドパスフィルターを使用したときの受光部の全受光信号である。求めようとするノイズ成分は、第mバンドパスフィルターを使用したときの受光部の全受光信号に含まれるノイズ成分である。つまり、第kバンドパスフィルター(つまり、補正に係る第mバンドパスフィルターとは異なるフィルター)を使用したときの実測値を用いて、第mバンドパスフィルターを使用したときの全受光信号に含まれるノイズを推定している。このとき、各フィルターの特性(例えば相対透過率分布あるいは相対反射率分布)の差に起因して、各フィルターから受光部に到達する光の総量(全光量)に差が生じる。ノイズ推定の際に、各フィルターの特性の差に起因する全光量の差を補償する信号処理を追加すれば、分光スペクトルデータの測定精度を、さらに向上することができる。
そこで、上記(3)式による演算では、上記(1)式の演算式において、さらに、フィルター間の透過率特性または反射率特性の差を補正するための補正係数Rを乗算することとした。
ここで、第mバンドパスフィルターの全波長域の光透過率または光反射率の総和をΣQm(1〜n)とし、第kバンドパフフィルターの、全波長域の光透過率または光反射率の総和をΣQk(1〜n)とする。第kバンドパスフィルターから第mバンドパスフィルターへ切り換えられたとき、受光部に到達する光の総量は、ΣQm(1〜n)/ΣQk(1〜n)に従って変化するはずである。したがって、第kバンドパスフィルターを使用したときの受光部から得られる全受光信号Skは、第mバンドパスフィルターを使用した場合には、Sk・{ΣQm(1〜n)/ΣQk(1〜n)}に修正されるものと考えられる。
各フィルター間の透過率特性あるいは反射率特性の総和の比(ΣQm(1〜n)/ΣQk(1〜n))を、各フィルター間の透過率特性あるいは反射率特性の差を補正する(補償する)ための補正係数Rとする。上記(1)式の演算式において、さらに、補正係数Rを乗算することによって、各フィルター間の透過率特性あるいは反射率特性の差が補償され、よって、分光スペクトルデータの測定精度がさらに向上する。
図11の下側に、ノイズ成分の推定の具体例が示される。この例では、光バンドパスフィルター部300として、光透過型のバンドパスフィルターが使用されることを前提としている。そして、第3フォトダイオードPD(3)から出力されるアナログの受光信号S3aを、デジタル値に変換して得られる受光データS3を、関心受光信号(関心受光データ)とする。この受光データS3には、非関心波長域であるw(1),w(2)ならびにw(4)〜w(16)の各々の波長帯域毎にノイズ成分が重畳している。図11の例では、第13波長域(w(13))におけるノイズ成分の量を、先に説明した(3)式に従って推定するものとする。
関心受光信号(関心受光データ)S3における、第13波長域(w(13))におけるノイズ成分は、非関心受光信号(非関心受光データ)S13に、第3バンドパスフィルターBPF(3)と第13バンドパスフィルターBPF13との間の透過率(全光量)補正係数Rを乗算し、さらに、各フィルターにおける第13波長域(w(13))の透過率の比(P(3,13)/P(13,13))を乗算することによって得られる。
補正係数Rは、Fbps3(λ=380〜780)/Fbps13(λ=380〜780)によって求められる。ここで、Fbps3(λ=380〜780)は、第3バンドパスフィルターBPF(3)における、16個の各波長帯域の透過率の積分値である。また、Fbps13(λ=380〜780)は、第13バンドパスフィルターBPF(13)における、16個の各波長帯域の透過率の積分値である。
また、Fbps3(λ=640)(=P(m,k)=P(3,13))は、第3バンドパスフィルターBPF(3)の、第13波長域w(13)(中心波長640nm)における透過率である。また、Fbps13(λ=640)(=P(k,k)=P(13,13))は、第13バンドパスフィルターBPF(13)の、第13波長域w(13)(中心波長640nm)における透過率である。
このような補正演算によって、受光データ(受光光量データ)に重畳している、不要な波長帯域の成分(ノイズ成分)が除去されることから、受光データ(受光光量データ)の精度が向上する。よって、例えば、高価で、大型かつハイコストな光バンドパスフィルターを使用せずに、分光測定装置の測定精度を向上させることができる。
補正後の、ベース浮き誤差が低減された受光データは、メモリー506に蓄積される。積分誤差補正を行う際には、2次微分値の算出の基礎データとしては、ベース浮き誤差が低減された受光データを使用するのが好ましい。ノイズが低減された実測データを基礎として2次微分値を算出した方が、より正確な2次微分値を得ることができる(つまり、分光反射率の変化をより正確に検出することができる)からである。
図12(A)および図12(B)は、ベース浮き補正の効果を説明するための図である。図12(A)は、ベース浮き誤差補正のみを実行した例における分光分布特性を示し、図12(B)は、ベース浮き誤差補正と積分誤差補正(反射率変化領域誤差補正)とを併用した例における分光特性を示す。図12(A),図12(B)では、補正後の16ポイントデータに基づいて生成される分光分布曲線ならびにサンプルの分光分布(ここでは分光反射率分布)とが示されている(使用するサンプルの表面色は赤である)。補正後の測定データ(16ポイントデータ)に基づいて求められた分光反射率は白丸で示されている。サンプル(赤色)の実際の分光反射率分布は実線で示されている。
図12(A)に示されるように、400nm〜560nmの波長域における測定データは、サンプル(赤色)の実際の分光反射率分布にほぼ一致している(但し、先に図4を用いて説明したように、580nm〜700nm付近において分光反射率変化領域の誤差(積分誤差)が生じている)。
図12(B)の例では、ベース浮き誤差補正に加えて、積分誤差補正も併せて実行されることから、580nm〜700nm付近においても、実測された分光反射率値は、サンプル(赤色)の実際の分光反射率値とほぼ一致する。このように、本実施形態によれば、ベース浮き誤差ならびに積分誤差の双方が低減されることから、より高精度な分光測定が可能となる。
(ベース浮き誤差補正の具体例)
以下、ベース浮き誤差補正について具体的に説明する。図13(A)および図13(B)は、受光部を構成する各フォトダイオードの受光信号強度(相対受光信号強度)の分布において、第3波長域(中心波長が440nmの波長域)の受光信号の分光スペクトルを抽出して拡大して示す図である。第1フォトダイオードPD(1)〜第16フォトダイオードPD(16)の各々の受光信号を、1’2’・・・16’とする。サンプルの表面色が赤であることから、第1波長域〜第10長域における受光信号強度は、第11波長域〜第16波長域における受光信号強度に比べて高くない。第1波長域〜第10波長域に大きなノイズが重畳されてベース浮きが生じると、これらの各波長域の受光信号におけるS/Nの低下が顕著になる。
図13(B)は、第3波長域における受光信号3’における分光スペクトル抽出し、拡大して示す図である。第3バンドパスフィルターBPF(3)の半値幅が広いため、受光信号3’には、本来の波長域である第3波長域の波長成分の他、第1,第2,第4〜第16の各波長域の成分が重畳されている。サンプル200の物体色(表面色)が赤であることから、特に、波長600nm〜波長720nm付近で、大きなノイズ(不要成分)が生じている。
そこで、ベース浮き誤差補正が実行される。これによって、第3波長域における受光信号3’に重畳されるノイズ成分の大部分は除去され、第3波長域における測定信号の精度が向上する。他の波長域(特に、ベース浮きが発生し易い波長600nm以下の波長域)においても、同様の補正処理が実行される。
以下、図14〜図19を用いて、測色計(測色器)におけるデータ補正について、具体的に説明する。図14(A)および図14(B)は、第3バンドパスフィルターを経由した第3波長域の光に含まれる、第13波長域におけるノイズ成分の推定方法の概要を説明するための図である。
例えば第3バンドパスフィルターBPF(3)は、中心波長440nmの、20nm幅の帯域を担当する光学フィルターであるが、先に説明したように、実際の第3フォトダイオード(第3受光器)PD(3)の受光信号には、他の波長域(第1,第2,第4〜第16の波長域)の成分(ノイズ成分)も含まれている。受光データの補正を行うためには、各波長域におけるノイズ成分の信号量を推定する必要がある。
図14(A)において、網模様を付して示される中心波長440nmの波長域が、第3バンドパスフィルターBPF(3)が担当する本来の波長域である。ここでは、一例として、第13波長域のノイズ成分(図14(A)中、斜線が施されているノイズ成分の量を推定する場合を想定する。
第13波長域のノイズ成分の量の推定には、何らかの基礎データが必要である。この基礎データとして、第13バンドパスフィルターBPF(13)を経由した光を第13フォトダイオードPD(13)で受光して得られる受光データを使用する。理想的には、図14(B)において、点々模様が付されている第13波長域の受光データのみを基礎データとして用いるのがよい。しかし、第13フォトダイオードPD(3)の全受光信号の内の、第13波長域の受光信号量だけを知ることはできないため、第13フォトダイオードPD(3)から得られる全受光信号(図14(B)において斜線が施されている部分の受光データ)を、第13波長域の受光データの代わりに使用(つまり代用)する
図14(A)に示される、第3フォトダイオードPD(3)に対応した第13波長域の受光信号強度は、図14(B)に示される、第13波長フォトダイオードPD(13)に対応した第13波長域の受光信号強度に比べて低下しているが、これは、第13波長域における、第3バンドパスフィルターBPF(3)の透過率と第13バンドパスフィルターBPF(13)の透過率との間に差があるからである。各フィルター間の透過率の差が既知であるならば、第13波長フォトダイオードPD(13)に対応した第13波長域の受光信号強度(全受光データで代用)に、第13波長域における各フィルター間の透過率の比を乗算すれば、ノイズ成分の量(第3フォトダイオードPD(3)に対応した第13波長域の受光信号強度)を推定することができる。
図15(A)〜図15(D)は、ノイズ成分の量の推定の第1の具体例(演算式(1)を用いる補正)を示す図である。図15(A)において、点々を付して示されている信号成分は、第13バンドパスフィルターBPF(13)(640nm帯を担当するバンドパスフィルター)の、640nm帯(第13波長域w(13))における受光信号成分(不明)である。この受光信号成分の代わりに、図15(C)に示される、第13フォトダイオードPD(13)の全受光信号Ix(λ=640nm)を代用する。第13フォトダイオードPD(13)の全受光信号Ix(λ=640nm)は、第13フォトダイオードPD(13)の各波長毎の検出電流の積算値である(実測されていることから、既知である)。
また、第13バンドパスフィルターBPF(13)の、640nm帯(第13波長域w(13))における透過率(Fbps13(λ=640))は既知である(第13バンドパスフィルターBPF(13)の本来の帯域の透過率であるため、透過率特性は予めわかっている)。
また、図15(B)において、斜線を付して示されている信号成分が、推定対象のノイズ成分である。このノイズ成分は、すなわち、第3バンドパスフィルターBPF(3)(440nm帯を担当するバンドパスフィルター)の、440nm帯(第13波長域w(13))における受光信号成分(未知)である。図中、このノイズ成分は、c1x1(440,640)と表記されている。この表記は、440nm帯域を担当するバンドパスフィルターの、640nm帯域におけるノイズ成分c1x1であることを表している。
但し、第3バンドパスフィルターBPF(3)の、640nm帯(第13波長域w(13))における透過率(Fbps3(λ=640))は既知である。つまり、第3バンドパスフィルターBPF(3)の、630nm〜650nmの各々の波長域における透過率をFbps(λ=630)〜Fbps(λ=650)を積算して平均をとることによって、Fbps3(λ=640)を求めることができる。
図15(D)には、先に説明した補正演算式((1)式)の具体的な内容が示されている。すなわち、(1)式は、具体的には、以下のように表すことができる。
ノイズ成分c1x1(440,640)≒Ix(λ=640nm)・Fbps(λ=640)/Fbps13(λ=640)・・・・(1)
図16(A)〜図16(C)は、ノイズ成分の量の推定の第2の具体例(演算式(3)を用いる補正)を示す図である。上述の(1)式では、フィルター間の透過率の差(全光量の差)が考慮されていない。そこで、図16に示される例では、フィルター間の透過率の差(全光量の差)を補正するための補正係数(透過率補正係数)Rを用いて、ノイズ推定の基礎となる基礎データの値を補正する。
図16(A)に示される「Fbps3(λ=380〜780)」は、第3バンドパスフィルターBPF(3)の、16個の波長域w(1)〜w(16)の各々における透過率の積算値である。同様に、図16(B)に示される「Fbps13(λ=380〜780)」は、第3バンドパスフィルターBPF(3)の、16個の波長域w(1)〜w(16)の各々における透過率の積算値である。
「Fbps3(λ=380〜780)」は、第3フォトダイオードPD(3)の各波長の検出電流の積算値(分光スペクトル分布曲線で定まる、閉じた図形の全面積)に相当する。また、Fbps13(λ=380〜780)」は、第13フォトダイオードPD(13)の各波長の検出電流の積算値(分光分布曲線で定まる、閉じた図形の全面積)に相当する。図12(A)に示される閉じた図形の面積と、図16(B)に示される閉じた図形の面積とを比べると、両者に差があるのがわかる(分光スペクトル特性が異なることに起因して差が生じる)。つまり、各バンドパスフィルターの通過後の総光量に差が生じることになる。
そこで、(3)式による演算では、フィルター間の透過率の差(総光量の差)を考慮して、ノイズ推定の基礎となる基礎データIx(λ=640nm)を補正する。つまり、図12(C)に示されるように、Ix(λ=640nm)に、各フィルターの全帯域の透過率の比を示す補正係数R(透過率補正係数)を乗算し、第13フォトダイオードPD(13)の全受光信号Ix(λ=640nm)を、第3バンドパスフィルターBPF(3)の特性に対応させて補正する。補正後のデータをノイズ推定の基礎データとし、この補正後の基礎データに、各フィルターの第13波長域における透過率の比(Fbps(λ=640)/Fbps13(λ=640))を乗算して、第3フォトダイオードPD(3)の受光信号(第3受光データ)に含まれる、第13波長域のノイズ成分c1x1(440,640)を求める。これが、図16(C)に示される(3)式の内容である。(2)式によれば、フィルター間の光学特性の差(透過率や反射率)を考慮して基礎データが補正されることから、測定精度がさらに向上する。
以下、同様の手法(つまり、(1)式あるいは(3)式による補正演算)によって、第3フォトダイオードPD(3)から得られる受光信号(第3受光データ)に含まれる、第1,第2、第4〜第12,第14〜第16の各波長域におけるノイズ成分の量を推定する。推定された各波長域のノイズデータは、メモリー506に、一時的に蓄積される。
図17(A)〜図17(C)は、ノイズ除去補正部510によるノイズ除去補正の内容を説明するための図である。ノイズ除去補正部510は、図17(A)に示されるように、第3バンドパスフィルターBPF(3)に対応する第3受光データ(第3フォトダイオードPD(3)から得られる受光データ)に含まれる、ノイズ成分の総和(c1x1(440):440nm帯の受光データに含まれる全ノイズ成分c1x1という意味)を求める。
図17(B)には、第13フォトダイオードの全受光信号(各波長毎の検出電流の積算値)Ix(λ=640nm)が示される。このIx(λ=640nm)は、数式によって正確に求めることができる。すなわち、λ1を光の波長を示すパラメーターとしたとき、実光源(λ1)と、フィルター類透過率(λ1)と、PD分光感度(λ1)と、サンプル分光反射率(λ1)と、BPF3(3)内のλ1の透過率との積をとり、λ1を380〜700まで変化させて、積の総和を計算した値がIx(λ=640nm)となる。
ノイズ除去補正部506は、第13フォトダイオードの全受光信号(各波長毎の検出電流の積算値)Ix(λ=640nm)から、求められたノイズ成分の総和(c1x1(440)を減算する(上記(2)式による演算)。これによって、図17(C)に示すように、ノイズが大幅に抑制された440nm帯域の検出信号(補正後の第3受光データ)が得られる。他の波長帯域の受光データについても、同様の補正処理が実行される。
図18(A)〜図18(C)は、ノイズ成分の総和の算出方法の例を示す図である。分光帯域として、所定波長幅(ここでは20nm幅)の第1波長域〜第n波長域(nは2以上の整数,ここではn=16)があるとき、関心受光データである第m受光データに含まれるノイズ成分の総和(非関心波長である第k波長域(k≠mかつ1≦k≦n)におけるノイズ成分の総和)を算出する態様としては、図18(A)〜図18(C)の3つの態様が考えられる。
図18(A)の場合は、関心波長域が第1波長域であり、非関心波長域は第2〜第16波長域である。よって、ノイズ成分の総和c1x1(λ=400)は、第2波長域〜第16波長域の各々におけるノイズ成分を合算することによって求めることができる。
図18(B)の場合は、関心波長域が、例えば第3波長域であり、非関心波長域は第1,第2、第4〜第16の各波長域である。よって、ノイズ成分の総和c1x1(λ=440)は、第1〜第2の各波長域のノイズ成分の和に、第4〜第16の波長域の各々におけるノイズ成分の和を加算することによって求めることができる。
図18(C)の場合は、関心波長域が第16波長域であり、非関心波長域は第1〜第15波長域である。よって、ノイズ成分の総和c1x1(λ=700)は、第1波長域〜第15波長域の各々におけるノイズ成分を合算することによって求めることができる。
図19(A)および図19(B)は、補正処理の有無による、バンドパスフィルター特性の相違を示す図である。図19(B)に示すように、実際の光バンドパスフィルター部300の分光特性Ftrは、広い裾野の部分を有する特性であるとする。しかし、受光データを補正してノイズを抑制することによって、光バンドパスフィルター部300の分光特性Ftcは、実質的に、図19(A)に示すような、急峻なバンドパス特性に変化したことになる。よって、多様な光学フィルターの適用を可能としつつ、分光測定装置の測定精度を向上させることができる。例えば、可変ギャップエタロン等の簡易かつ安価な波長バンドパスフィルターを用いて、高精度の分光測定をすることができる。
このように、本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、例えば、高価な光バンドパスフィルターを使用せずに、分光測定装置の測定精度を向上させることができる。
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。例えば、光バンドパスフィルターに代えて、2以上の光ローパスフィルターや2以上の光ハイパスフィルター等を使用した場合に、透過光(反射光)の波長の重複が生じるような場合には、本発明を適用することができる。
また、上述の実施形態では、サンプルの分光反射率を用いる例について説明したが、サンプルの透過率や吸収率等を求める場合でも、例えば、半値幅の広い光学フィルターを用いて分光測定を実行する場合、同様な問題が生じる。よって、サンプルの分光透過率や分光吸収率等求める場合でも、本発明を適用することができる。例えば、(反射率)+(吸収率)=1という関係があり、また、例えば、(透過率)+(吸収率)=1という関係が成立する。よって、吸収率=1−(反射率)となり、透過率=1−吸収率となる。よって、サンプルの分光反射率がわかれば、上記の式に従い、サンプルの分光吸収率や分光透過率を測定することができる。
本発明は、測色器、分光分析器、分光スペクトラムアナライザー等の分光測定装置に広く適用することができる。