電子写真方式を使用した画像形成装置で記録媒体(記録紙ともいう)に転写したトナー画像を定着する定着装置には加熱加圧方式の定着装置が多く用いられている。このような定着装置としては、内部に熱源を有し、表面をトナーに対して離型性を有する材料、例えばシリコーンゴムやフッ素樹脂で形成した定着ベルトに加圧ローラを圧接して回転させ、定着ベルトと加圧ローラの圧接部をなすニップを通過する記録紙上の未定着トナー像を加熱加圧して定着する構成のものが知られている。
図14に、従来の定着装置の構成例を示す。定着装置90は、離型性を有する材料で表面を覆われた無端状の定着ベルト1と、この定着ベルト1に当接して表面を弾性材料で覆われることで所定領域にてニップ部Nを形成する加圧ローラ2と、定着ベルト1の内部に配置され、ニップ部Nで定着ベルト1を介して加圧ローラ2を押圧する押圧部材4と、定着ベルト1の内部に配置され、定着ベルト1を加熱するヒータ3と、を備え、ニップ部Nに記録紙Pを通過させて記録紙P上のトナーTを溶かし、圧力をかけて記録紙P上に定着させる。
このとき、定着ベルト1は内部に配置した熱源(ヒータ3)からの輻射熱により直接加熱されるとともに、前記熱源からの輻射熱により押圧部材3も加熱され、押圧部材3からの熱伝達により定着ベルト1が加熱される。そのため、定着ベルト1内面を黒色等に着色して熱吸収を向上させたり、押圧部材4の表面の少なくとも熱源側表面も黒色等に着色して熱吸収を向上させる提案がなされている(特許文献1)。
加熱加圧方式の定着装置は、定着ベルト表面と記録紙上のトナー像とが加圧下で接触するので、トナー像を記録紙上に融着する際の熱効率が極めて良好であり、迅速に定着を行うことができる。
ここで、定着ベルトの幅(ベルト移動方向に直交する方向の長さ)に対して小さなサイズの記録紙を連続して定着装置に通過させる場合、温度検知部材が定着ベルト幅方向中央部に配置された定着装置では、記録紙の通過しない定着ベルト端部が過度に加熱されるため、当該端部の定着ベルト部分やこれに対応する領域の加圧ローラ表層の早期劣化が発生する。また、加熱源から発せられる熱エネルギーは記録紙が通過しない部分の温度上昇にも使われるため、エネルギー効率が非常に悪くなる。さらに温度検知部材を定着ベルトに接触させて使用する場合、接触により定着ベルト中央部(記録紙通過範囲)の表層が磨耗し、定着不良や、画像光沢むら等の不具合が発生し、定着ベルト早期交換が必要となる(定着ベルトの寿命が短くなる)。
一方、温度検知部材が定着ベルト幅方向端部に配置された定着装置では、定着ベルト中央部(記録紙通過範囲)の定着ベルト温度が低下することにより、定着性が悪化する現象が発生する。また、定着ベルト中央部が温度検知部材により磨耗しないので、温度検知部材が定着ベルト幅方向中央部に配置される構成よりも長寿命化を図ることができるが、定着ベルト中央部の温度に対して、温度検知部材の応答性が劣る不具合がある。
このような問題に対して、熱源として、定着ベルト内に小サイズ紙用配光のヒータと大サイズ紙用配光のヒータからなる複数のヒータを設けた定着装置が知られている(特許文献2)。小サイズとは例えば最小通紙幅(例えばA5縦送り)であり、大サイズとは例えば最大通紙幅(例えば、A4横送り)である。この場合、小サイズと大サイズの間の中間サイズ(例えば、B5横送りやA4縦送り等)には対応することが困難である。また、使用サイズに合わせて配光幅を変えることも困難である。
また、ヒータの上に半反射膜を設けて定着ベルトの加熱を抑制する構成も提案されている(特許文献3)が、定着ベルトの加熱抑制幅を使用すべき記録紙サイズに合わせて変えることができない。
そこで、本発明者は、使用する記録紙のサイズに応じて定着ベルトの加熱幅を調整することができる定着装置を提案した(特許文献4)。これは、周方向に回動可能な無端状の定着ベルトと、定着ベルトと当接して、記録紙を通過させるニップ部を形成する加圧ローラと、定着ベルトの内部に配置され、ニップ部で定着ベルトを介して加圧ローラを押圧する押圧部材と、定着ベルトの内部に配置され、定着ベルトを加熱するヒータと、定着ベルトの内部であってヒータと定着ベルトの間に配置され、ヒータから定着ベルトへの輻射熱の供給量を記録紙のサイズにより変更する熱量調整部材と、を備えている。
より詳細には、熱量調整部材は複数の板材が組み合わされてなるもので、定着ベルトの幅に相当する長さの第1板材と、この第1板材に重複し、定着ベルトの幅の半分以下の長さで定着ベルトの幅方向にスライド可能に配置された2枚の第2板材とからなっている(図11参照)。このとき、3枚の板材それぞれには、ヒータの輻射熱が通過する複数の矩形開口部を同じピッチで定着ベルトの幅方向に並んで設けられており、第1板材の開口部と第2板材の開口部は同じ位置になるように配置されることで、熱量調整部材として全幅にわたって開口部が設けられた状態となっていて、このような配置状態では、ヒータからの輻射熱は熱量調整部材の全ての開口部を通して定着ベルトの全幅を加熱する。一方、第2板材を定着ベルトの幅方向にスライドさせて、例えば第1板材の真ん中の開口部以外の開口部を第2板材で遮蔽して(図12参照)、ヒータからの輻射熱が熱量調整部材の中央の開口部のみを通過して、その限られた領域で定着ベルトを加熱して、小サイズの記録紙の通紙に対応して、非通紙範囲を加熱しないようにできる。
ただ、このような熱量調整部材は、定着ベルトの内部に配置されるものであることもあって、薄板若しくは箔材として形成されるので、ヒータからの輻射熱を受け続けることで、変形や溶解の発生が懸念される。
以下に、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。図1は、画像形成装置の一例としてのプリンタ構成を示す断面図である。プリンタ全体の機構としては、従来と基本的に同じであり、以下の説明で述べられていなくとも、当業者であれば、基本的な構成と動作については直ちに理解できるものである。また複写機として、セットされた原稿を読み取る読取装置や、そこへ原稿を送る自動原稿送り装置等が付加されていても、構成と動作については特に説明を要さずに理解できるものである。
プリンタ100はカラーレーザプリンタであり、装置本体の下部に給紙部200が設けられ、その上方に作像部140を配置した構成となっている。装置本体上面には排紙トレイ40が形成されている。図1において記録媒体としての記録紙の搬送経路を破線で示すように、給紙部200から記録紙を給送し、作像部140にて形成された画像を記録紙上に転写し、定着装置10で定着して排紙トレイ40に排紙する。なお、装置本体側面からは手差し給紙(符号:h)が可能である。また、装置本体の図面左側面には両面装置が装着され、定着後に記録紙を表裏反転させ、両面搬送部41を経て再給紙することも可能である。また、両面装置から、装置側面方向の排紙トレイ(図示せず)に記録紙を排出することが可能である。
作像部140には、給紙側を下に、排紙側を上となるように傾斜して配置された転写搬送ベルト装置42が配設されている。この転写搬送ベルト装置42の上部走行辺に沿って、下から順にマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、黒(Bk)用の4つの作像ユニット43M,43C,43Y,43Bkが並んで配置されている。各作像ユニット43M,43C,43Y,43Bkの構成は同じであるので、ここでは各色を示すアルファベット(M,C,Y,Bk)を省いて説明する。各作像ユニット43は、像担持体としての感光体ドラム44を備えており、感光体ドラム44は駆動手段(図示せず)によって図中時計方向へ回転駆動される。感光体ドラム44の周りには帯電ロール、現像装置、クリーニング装置等が設けられている。光書込み装置45からのレーザ光は、帯電ロールと現像装置の間から感光体ドラム44に照射される。
無端ループ状の転写搬送ベルト47は、駆動ローラ48、従動ローラ49及び2つのテンションローラ50,50に巻回張架されている。転写搬送ベルト47の上部走行辺の内側で、各色作像ユニット43の感光体ドラム44に夫々対向する位置に、転写ブラシ51がベルト47に接触するように配置されている。そして、従動ローラ49の上にはベルト47を挟んで紙吸着ローラ52が設けられている。記録紙は従動ローラ49と吸着ローラ52の間からベルト47上に送り出され、吸着ローラ52に印加されたバイアス電圧によって静電的に転写搬送ベルト47上に吸着された状態で搬送される。転写搬送ベルト装置42は、不図示の機構により、カラープリントの場合はベルト47が4色の作像ユニット43M,43C,43Y,43Bk(の感光体ドラム)に接触する状態に保持され、黒単色プリントの場合は作像ユニット43Bk(の感光体ドラム)のみにベルト47が接触する状態を保持するようになっている。
次に、プリント動作について説明する。マゼンタ用の作像ユニット43Mにおいて、感光体ドラム44の表面は帯電ロールによって所定の電位に均一に帯電される。露光装置45においては、パソコン等のホストマシンより送られた画像データに基づいて不図示のLD(レーザダイオード)を駆動してレーザ光をポリゴンミラー46に照射し、シリンダーレンズ等を介して反射光を感光体ドラム44M上に導き、感光体ドラム44M上にマゼンタトナーで現像すべき静電潜像を形成する。この潜像に現像装置からトナーが付与され、マゼンタトナーの可視像となる。
一方、給紙部200からは記録媒体として指定された所定サイズの記録紙が給紙され、給紙された記録紙は転写搬送ベルト装置42の搬送方向上流側に設けられたタイミング合わせローラたるレジストローラ対53に一旦突き当てられる。カラープリント時、転写搬送ベルト装置42では、上述したように転写搬送ベルト47が押し上げられ、ベルト47が4色の作像ユニット43M,43C,43Y,43Bk(の感光体ドラム)に接触している。そして、記録紙は上記可視像に同期するようにしてベルト47上に給送され、ベルトの走行により感光体ドラム44Mに対向する転写位置に至る。この転写位置では、転写搬送ベルト47の裏面側に配置された転写ブラシ51の作用によりマゼンタトナーの可視像が記録紙に転写される。
マゼンタ色の場合と同様にして、他の作像ユニット43C,43Y,43Bkにおいてもそれぞれの感光体ドラム44の表面に各トナーによる可視像が形成され、これら可視像は転写搬送ベルト47によって搬送される記録紙が各転写位置に到来するごとに重ね転写される。したがって、本実施形態のカラープリンタはフルカラーの画像がモノクロとほぼ同様な短時間で記録紙に重ね転写される。
一方、モノクロプリントの場合は、転写搬送ベルト装置42では、上述したように転写搬送ベルト47が下降され、作像ユニット43Bk(の感光体ドラム)のみにベルト47が接触している。そして、黒用の作像ユニット43Bkのみにおいて感光体ドラム44の表面にブラックトナーの可視像が形成され、このBkの可視像に同期するようにしてベルト47上に給送された記録紙に対してBkトナー像が転写される。
トナー像転写後の記録紙は、転写搬送ベルト47から分離されて、定着装置10により定着される。定着を終えた記録紙は、装置本体の上面に設けられた排紙トレイ40に排紙されるか、両面装置へ受け渡される。
図2は、本発明の第1実施形態に係る定着装置の構成を示す概略断面図である。この定着装置10は、周方向に回動可能な無端状の定着ベルト1と、この定着ベルト1の外周側に当接して記録紙を通過させるニップ部Nを形成する加圧ローラ2と、定着ベルト1の内部に配置され、ニップ部Nで定着ベルト1を介して加圧ローラ2を押圧する断面U字形状の押圧部材4と、定着ベルト1の内部、特にU字形状の押圧部材4の内部空間に配置され、定着ベルト1を加熱するヒータ3と、定着ベルト1の内部であって断面U字形状の押圧部材4の開放面に面する位置に配置され、ヒータ1から定着ベルト1への輻射熱の供給量を記録紙のサイズに応じて変更するためのベルト周方向に移動可能な第1の熱量調整部材71(B5横対応)、第2の熱量調整部材72(A5横対応)と、を備えている。熱量調整部材を3個以上存在させて対応可能な記録紙サイズを増やすことも可能である。
図2においては、定着ベルト1内でヒータ3に対し押圧部材4とは反対側(図中上側)であって、定着ベルト1の内周面に直接届き得るヒータ3の輻射熱を遮る位置に、第1の熱量調整部材71を配置し、断面U字形状の押圧部材4によってヒータ3から隠れる位置(以下、退避位置という)に、第2の熱量調節部材72を配置している。一方、図3においては、第2の熱量調整部材72が図中上側に位置し、第1の熱量調整部材71が退避位置に配置されている。これら熱量調整部材71,72は別体として別々に動作可能であり、図4では、第1の熱量調整部材71、第2の熱量調整部材72ともに退避位置に配置されている。これら熱量調整部材71,72が連結して一体的に移動可能であってもよく、その場合には、熱量調整部材71,72は図5に示す位置で退避位置となる。一体型は構成を簡略化でき、他方、別体型は熱量調整部材の数を増やすことが可能で、対応紙幅を増やすことができる。定着ベルト1、加圧ローラ2、押圧部材4、ヒータ3、熱量調整部材71,72はいずれも通紙方向に直交する方向(定着ベルト幅方向、紙面に垂直な方向)に延在しており、押圧部材4やヒータ3も最大通紙幅をカバーするようにサイズ決めされている。
このような定着装置において、B5横(小サイズ)通紙時には、第1の熱量調整部材71が断面U字形状の押圧部材4の開放面である図2上側に移動し、非通紙範囲を遮光することで、定着ベルト1の通紙範囲に限定して、押圧部材4の開放面からの輻射熱によるベルト加熱を実行する。その際、第2の熱量調整部材72は押圧部材4によってヒータ3から隠れている。また例えばA5横(小サイズ)通紙時には、第2の熱量調整部材72が断面U字形状の押圧部材4の開放面である図3上側に移動し、非通紙範囲を遮光することで、定着ベルト1の通紙範囲に限定して、押圧部材4の開放面からの輻射熱によるベルト加熱を実行する。その際、第1の熱量調整部材71は押圧部材4によってヒータ3から隠れている。最大サイズ通紙時には、両方の熱量調整部材71,72が退避位置を占める(図4、図5)。これら熱量調整部材の停止位置は、それぞれに結合された不図示のフィラーとフォトセンサの位置関係で状態検知される。駆動にステッピングモータを使用する場合には、フィラーとフォトセンサの位置関係検知とモータ回転のステップ数で制御することもできる。
ここで、定着ベルト1は、断面構造として、例えばニッケル、ステンレス、ポリイミド等の基材にシリコーンゴム層等の離型性を有する材料からなる弾性層を形成した2層構造となっている。加圧ローラ2は、芯金にゴム等の弾性層を被せて形成されてなるもので、定着ベルト1よりも熱容量が大きくなっている。この加圧ローラ2が定着ベルト1を挟んで押圧部材4と圧接してニップ部Nを形成し、このニップ部Nに未定着トナー像を載置した記録紙Pを通紙して熱と圧力によりトナー像を記録紙P上に定着させる。なお、ここでは回転する加圧ローラ2を例に示したが、2つのローラに掛け回された加圧ベルトとし、この2つのローラのうち一方を加圧ベルト及び定着ベルト1を挟んで押圧部材4と圧接してニップ部Nを形成するようにしてもよい。
ヒータ3は、ACヒータ、あるいはDCヒータからなる発熱体であり、例えばハロゲンヒータが用いられる。また、ヒータ3は、外部から電力が投入されて発熱し、その輻射熱により定着ベルト1を直接に、及び押圧部材4を介して間接的に加熱するものであり、不図示の温度検知手段によって検知される定着ベルト1の温度が所定の温度となるように、投入電力が制御され、あるいは点灯・消灯制御される。
断面U字形状の押圧部材4は、鉄やアルミ等の耐久性、耐熱性の良い材料からなり、ニップ部Nの幅(通紙方向/ベルト周方向での長さ)に相当する底部分の下辺は略平坦又は加圧ローラ2の外周に沿った曲面をなし、さらに、その前後(ニップ部入口側、出口側)で定着ベルト1の内周の曲面より曲率の大きい部分と、そこから加圧ローラと反対側へ延びる直線部とで断面形状を構成しており、ヒータ3とともに固定されて配置されている。なお、押圧部材4をアルミ系材料(熱伝導率236W/m・K)等の熱伝導率が高い材質のものとすれば、小サイズ通紙時に生じ易い定着ベルト1の通紙部と非通紙部の温度差を、押圧部材4の熱伝導により改善できるので好ましい。
図6a,bに第1の熱量調整部材71の詳細な構成を定着ベルト幅方向において示す。また図7a,bに第2の熱量調整部材72の詳細な構成を示す。第1の熱量調整部材71には、B5横通紙対応の開口部81が開いており、B5横通紙外の部分を遮光する。また第2の熱量調整部材72には、A5横通紙対応の開口部82が開いており、A5横通紙外の部分を遮光する。熱量調整部材の数(図示の例では2つ)を変えるだけでなく、開口部の開口幅、形状、種類を変えて対応可能な記録紙サイズ(縦・横)を増やすことが可能である。例えば図8a,bのように、複数の記録紙サイズに対応する開口部83を備えた一体的な熱量調整部材73が考えられる。開口部83はB5横対応開口とA5横対応開口と最大サイズ(例えばA4横)対応開口が重なっている状態で、熱量調整部材73がベルト周方向に変位することによって、遮光領域を変更することができる。
開口部81,82,83を通ってヒータ3の輻射熱が定着ベルト1の内周面に伝播するものであり、熱量調整部材71,72,73は熱遮蔽部材である。熱を遮蔽する観点から、熱量調整部材71,72,73の少なくともヒータ3に対向する側の表面はアルミ系材料、あるいは銀系材料、金系材料からなることが好ましく、さらに熱反射率が95%以上の表面であることが好ましい。また、熱量調整部材71,72,73のヒータ3に対向する側の表面は光沢面であることが好適である。また、熱量調整部材71,72,73のヒータ3とは反対側表面(定着ベルト内周面側)を耐熱樹脂層や耐熱ゴム層とすれば、定着ベルト1に対する断熱効果を高めることができ、好適である。
なお、図6〜8のaの例に比して、図6〜8のbの熱量調整部材71,72,73は、その開口部81,82,83が定着ベルト幅方向において開き具合を微調整可能であることを示している。電源投入時に単純に定着ベルトを昇温させる場合(定着昇温)には、図4、図5のように両方の熱量調整部材71,72を退避位置に移動させ、あるいは一体的な熱量調整部材73の最大サイズ対応開口域をヒータ3に対し押圧部材4とは反対側(図4等における上側)に位置させ、若しくは熱量調整部材73を退避位置に移動させて、ウォームアップ時間を短縮させればよいが、待機時に印刷指示する際にサイズ指定(小サイズ)も行う場合には、図6〜8のbのような構成であれば、対応サイズ幅に限定して素早い昇温を図るべく、対応する開口部81,82,83を幾らか広げて熱量調整することができる。定着ベルト幅方向における変位は、以下に説明するベルト周方向変位機構と同じように、ソレノイドやギヤを利用した周知の構成によって実現可能である。開口幅を幾らか広げることで給紙の横レジストずれに起因する定着ニップを通過する記録紙幅と熱量調整部材の開口幅(位置)のずれを補償することもできる。更に、このように開き具合を可変とすることで、唯一の熱量調整部材で紙種や紙メーカーによる紙幅のばらつき(大小)や、設定の近い紙幅記録紙(B5横:257mmに対するLT横:279mm等)に対応させることも可能である。
次に、熱量調整部材を定着ベルト内でベルト周方向に移動させる変位機構と、ヒータから熱量調整部材に加えられた熱量を押圧部材へ移す構成について、説明する。変位機構としては、例えば熱量調整部材の端部に配されたギヤを介してモータやソレノイド等のアクチュエータを用いて熱量調整部材を移動する構成が考えられる。また、断面U字形状の押圧部材4の開放面から供給されるヒータ3の輻射熱は、これを遮る位置にある熱量調整部材の開口部を通過して定着ベルト1を加温する外に熱量調整部材で反射されるが、一部は反射されず熱量調整部材自体の温度を上昇させる。熱量調整部材の耐熱温度以上まで温度上昇すると、変形や溶解の発生が懸念される。そのため、熱量調整部材に加えられた熱量は適度に移されるべきであるが、定着のための加温効率を考慮すると、このような熱量を単に外部へ排出することは適切でない。
図9に、変位機構と熱量移動構成を概念的に示す。図には定着ベルトを省略しているが、熱の外部排出を避ける観点から、例えばモータを除いて変位機構と熱量移動構成は可能な限り定着ベルトの範囲内に収まっているのがよい。図9aでは、熱量調整部材71,72,73の一方の端部が押圧部材4の端部に直接結合しているとともに、他方の端部にはギヤ91(描写の都合上、1個のものとして示すが、動力伝動機構として複数の歯車から構成され得るものである)が取り付けられ、このギヤ91がモータ92によって回転駆動されることで、熱量調整部材71,72,73がベルト周方向に移動する。熱量移動は、熱量調整部材71,72,73から押圧部材4へ直接実現される。ギヤ91が熱伝導性に優れたものであれば、熱量調整部材71,72,73の熱は、固定された押圧部材4と可動のギヤ91の摺擦端面間を介して移動し得る。ギヤ91のサイズによっては、その表面からの放熱や、噛み合うギヤへの熱伝導により加熱効率が低下することも考えられるので、そのような場合には断熱性を考慮して樹脂製ギヤとして、このギヤを介した熱量移動を省いてもよい。図9bでも、熱量調整部材71,72,73のベルト周方向移動については同じであるが、熱量移動は、熱量調整部材71,72,73と押圧部材4の各端部に繋がれた熱量移動部材90を介して、更には図9aと同じように、ギヤ91を介して、実現する。熱量移動部材90は、熱伝導率の高い材料が適している。例えば銅、アルミ、ニッケル、鉄等の金属材が適している。そして、可動の熱量調整部材71,72,73と固定された押圧部材4を繋ぐ熱量移動部材90は容易に変形する必要がある。例えば、ワイヤーハーネス、変形容易な薄板、箔材が適している。ギヤ91が樹脂のような熱断熱性の低い材料で構成される場合、図9cのように、ギヤ91の内部に熱量移動部材90を配置する構成としてもよい。
図10に本発明の範囲外の参考形態に係る定着装置の構成を示す。この定着装置10’は、周方向に回動可能な無端状の定着ベルト1と、定着ベルト1と当接して記録紙を通過させるニップ部Nを形成する加圧ローラ2と、定着ベルト1の内部に配置され、ニップ部Nで定着ベルト1を介して加圧ローラ2を押圧する押圧部材4と、定着ベルト1の内部に配置され、定着ベルト1を加熱するヒータ3と、定着ベルト1の内部であってヒータ3を挟んで押圧部材4と反対側の位置に配置され、ヒータ3から定着ベルト1への輻射熱の供給量を記録紙のサイズにより変更する熱量調整部材74と、を備えている。熱量調整部材74は、定着ベルト1に直接届き得るヒータ3の輻射熱を遮る位置に、配置されている。定着ベルト1、加圧ローラ2、ヒータ3、押圧部材4の具体的材質については、第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
図11に、熱量調整部材74の詳細な構成を定着ベルト幅方向において示す。なお熱量調整部材74の材料構成は、、第1実施形態の熱量調整部材71,72,73と同じである。熱量調整部材74は、ヒータ3の輻射熱が通過する複数の開口部84が定着ベルト1の幅方向に並んで設けられた熱遮蔽部材であり(図11a)、複数の板材が組み合わされて成るものである。一例として、図11bに、熱量調整部材74として、定着ベルト1の幅に相当する長さの第1板材74aが1枚と、定着ベルト1の幅の半分以下の長さで定着ベルト1の幅方向にスライド可能に第1板材74aと重複するように配置された第2板材74bが2枚とから成るものを示す。このとき、3枚の板材それぞれには、複数で同形(矩形)の開口部84a,84bが同じピッチ(隣接する開口部84の間が開口部84の幅と同じ)で設けられており(第1板材74aには5個の開口部84a、第2板材74bには2個の開口部84b)、第1板材74aの開口部84aと第2板材74bの開口部84bが同じ位置となるように配置され、熱量調整部材74として全幅で開口部84が等間隔に分布して設けられた状態となっている。すなわち、熱量調整部材74の開口量は幅方向全幅で一定となり、ヒータ3からの輻射熱は熱量調整部材74の全幅で通過して定着ベルト1の全幅を加熱する。これにより、定着装置10’に最大サイズの記録紙を通紙するときは定着ベルト1の全幅の温度が均一になる。熱量調整部材74a,74bと押圧部材4の各端部は熱量移動部材90によって繋がれている。熱量移動部材90は、熱伝導率の高い材料が適しており、例えば銅、アルミ、ニッケル、鉄等の金属材であり、ワイヤーハーネス、変形容易な薄板、箔材として構成されている。
熱量調整部材74は、第2板材74bを定着ベルト幅方向にスライドすることにより開口部84の数を変化させて、ヒータ3から定着ベルト1への輻射熱の供給量を調整する。図12にそれを示す。ちなみに、第2板材のスライドは第1実施形態における熱量調整部材71,72,73における開口部81,82,83の開き具合(定着ベルト幅方向)を微調整する機構と同様に、ソレノイドやギヤを利用した周知の構成によって実現可能である。2枚の第2板材74bそれぞれを、図11の状態から定着ベルト1の幅方向外側へスライドさせることにより、第1板材74a中央の開口部84a以外の開口部84aは第2板材74bで遮蔽され、第2板材74bの開口部84bはすべて第1板材74aで遮蔽されることとなり、熱量調整部材74としては中央に1つの開口部84のみを有する状態となる。すなわち、ヒータ3からの輻射熱は熱量調整部材74の中央部のみを通過するようになる。これにより、定着装置10’に小サイズの記録紙を通紙するときは、熱量調整部材74の輻射熱の供給量を非通紙範囲では減らすことができ、定着ベルト1の通紙範囲を加熱し、非通紙範囲を加熱しないようにできる。
なお、図12では、開口部84a,84bが完全に板材74a,74bにより遮蔽された状態を示したが、開口部84a,84bの一部が板材74a,74bにより遮蔽される状態としてもよい。これによってもヒータ3からの輻射熱の供給量の調整が可能である。また、第1板材74aと第2板材74bの間で開口部の大きさを変えたり、異なるピッチとすることで、第2板材74bのスライドにより複数サイズの記録紙に対応させるようにしてもよい。板材の数を3枚以上として、ヒータ3から定着ベルト1への輻射熱の供給量を調整して、複数サイズの記録紙に対応させてもよい。
また、熱量調整部材75の開口部85の形状は、定着ベルト1における記録紙搬送方向に対し斜めに交差する矩形であることも想定される。図13にその例を示す。ヒータ3の輻射熱は開口部85を通過して定着ベルト1に到達する。そのため、開口部85に対応する位置の定着ベルト1の部分は加熱されるが、開口部85以外の部分は輻射熱は遮断されるため加熱され難い。定着ベルト1の材質は一般的に熱伝導率は低いため、熱量調整部材75の開口部ピッチ状に温度むらになり易い傾向がある。ここで図11のように、開口部85が定着ベルト1の幅方向を一辺、記録紙搬送方向を一辺とする長方形の場合には、定着ベルト1の幅方向で温度むらが発生し、定着不良が発生する可能性もある。そこで、図13のように、定着ベルト1におけるシート搬送方向に対し斜めに交差する矩形とすることで温度むらの発生を抑制することができる。