以下、本発明の実施形態に係る非水電解質電池を詳細に説明する。
実施形態に係る非水電解質電池は、外装容器と、この外装容器内に収納された正極、セパレータおよびリチウムチタン酸化物を活物質として含む負極と、前記外装容器内に収容された非水電解質とを具備する。セパレータは、セルロース、ポリオレフィンまたはポリアミドからなる多孔質層とこの多孔質層に分散された無機酸化物フィラーとを含む複合材で、60%〜80%の多孔度を有する。
次に、外装容器、負極、正極、セパレータおよび非水電解質について説明する。
1)外装容器
正極、負極、セパレータおよび非水電解質を収納する外装容器は、金属製容器またはラミネートフィルム製容器を使用することができる。
金属製容器は、有底角筒形または有底円筒形の金属缶と、この金属缶の開口部に気密に固定された蓋体とを備える。金属製容器は、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレス等から作られる。外装容器(特に金属缶)は、厚が0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下にすることが望ましい。
アルミニウム合金からなる金属缶は、マンガン、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含むアルミニウム純度99.8%以下の合金が好ましい。このような組成のアルミニウム合金からなる金属缶は、強度が飛躍的に増大するため、金属缶の肉厚をより薄くすることができる。その結果、薄型で軽量かつ高出力で放熱性に優れたな非水電解質電池を実現することができる。
ラミネートフィルムは、例えば樹脂フィルム間にアルミニウム箔を介在した多層フィルム等を用いることができる。樹脂は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子を用いることができる。アルミニウム箔は、純度が99.5%以上であることが好ましい。ラミネートフィルムは、厚さが0.2mm以下であることが好ましい。
2)正極
正極は、正極集電体と、この集電体の片面もしくは両面に担持され、活物質、導電剤および結着剤を含む正極層とを有する。
正極の活物質は、オリビン構造を有するリチウムリン金属化合物またはリチウムマンガン複合酸化物が好ましい。リチウムリン金属化合物は、リチウムリン酸鉄(LixFePO4;0≦x≦1.1)、リチウムリン酸マンガン(LixMnPO4;0≦x≦1.1)、リチウムリン酸マンガン鉄(LixFe1-yMnyPO4;0≦x≦1.1、0<y<1)、リチウムリン酸ニッケル(LxiNiPO4;0≦x≦1.1)、リチウムリン酸コバルト(LixCoPO4;0≦x≦1.1)等を挙げることができる。リチウムマンガン複合酸化物は、例えばスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物(LixMn2O4、0≦x≦1.1)、リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn1.5Ni0.5O4、0≦x≦1.1)を挙げることができる。このような正極活物質を用いることによって、高温環境下での正極の酸化力を抑制し、セパレータの酸化劣化を抑制できるために高温耐久性を向上できる。特に、LixFePO4の正極活物質は電解質に対する高温寿命性能が大幅に向上させることが可能になる。これは、高温貯蔵時の正極表面に生成する皮膜の成長を抑制し、貯蔵時の正極の抵抗上昇を小さくして、高温環境下での貯蔵性能が大幅に向上するためである。
正極活物質は、一次粒子の粒子径が1μm以下、より好ましくは0.01〜0.5μmにすることが望ましい。このような一次粒子の粒子径を持つ正極活物質は、その中の電子伝導抵抗とリチウムイオンの拡散抵抗の影響を小さくして出力性能を改善することが可能になる。なお、一次粒子は凝集して10μm以下の二次粒子を形成してもよい。
正極活物質は、表面に平均粒子0.5μm以下のカーボンの微粒子が付着する形態を有することが好ましい。カーボン粒子は、正極活物質に対して0.001〜3重量%でその表面に付着させることが好ましい。この範囲でカーボン粒子が付着された活物質を含む正極は、それ自身の抵抗および電解液との界面抵抗を下げて出力性能をより向上させることが可能になる。
導電剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維等を用いることができる。特に、繊維径が1μm以下の気相成長の炭素繊維が好ましい。この炭素繊維を用いることにより、正極内部の電子伝導のネットワーウが向上して正極の出力性能を大幅に向上させることが可能になる。
結着剤は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、フッ素系ゴム等を用いることができる。
正極の活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、正極活物質80〜95重量%、導電剤3〜19重量%、結着剤1〜7重量%の範囲にすることが好ましい。
正極は、例えば正極活物質、導電剤および結着剤を適当な溶媒に懸濁し、この懸濁物を集電体に塗布し、乾燥し、プレスを施して正極層を形成することにより作製される。正極層は、N2吸着によるBET法による比表面積が0.1〜2m2/gであることが好ましい。
集電体は、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔であることが好ましい。アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔は、20μm以下、より好ましくは15μm以下の厚さを有することが好ましい。
3)負極
負極は、集電体と、この集電体の片面もしくは両面に担持され、活物質、導電剤および結着剤を含む負極層とを有する。
負極活物質は、リチウムチタン酸化物が用いられる。リチウムチタン酸化物は、LixTiO2のようなリチウムチタン酸化物、スピネル構造のLi4+xTi5O12(xは-1≦x≦3)、ラムスデライド構造のLi2+xTi3O7、Li1+xTi2O4、Li1.1+xTi1.8O4、Li1.07+xTi1.86O4、LixTiO2(xは0≦x)、より好ましくはLi2+xTi3O7またはLi1.1+xTi1.8O4を挙げることができる。他の結晶構造を有するリチウムチタン酸化物は、例えばTiO2を挙げることができる。TiO2の結晶構造は、アナターゼ型またはブロンズ型が好ましく、300〜600℃で熱処理された低結晶性のものが好ましい。リチウムチタン酸化物は、他にTiとP、V、Sn、Cu、Ni、MnおよびFeからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有するチタン含有金属複合酸化物、例えばTiO2−P2O5、TiO2−V2O5、TiO2−P2O5−SnO2、TiO2−P2O5−MeO(MeはCu、NiおよびFeからなる群から選択される少なくとも1つの元素)等を挙げることができる。チタン含有金属複合酸化物は、結晶性が低く、結晶相とアモルファス相が共存、もしくはアモルファス相単独で存在したミクロ構造を有することが好ましい。このようなミクロ構造のリチウムチタン酸化物を活物質として含む負極を備えた非水電解質電池は、サイクル性能を大幅に向上することが可能になる。
負極活物質は、一次粒子の平均粒径が0.001〜1μmであることが好ましい。平均粒径が1μmを超える一次粒子を使用して負極層の比表面積を3〜50m2/gと大きくすると、負極の多孔度の低下を避けられないからである。平均粒径を0.001μm未満にすると、粒子の凝集が起こりやすくなり、外装容器内の非水電解質の分布が負極に偏って正極での電解質の枯渇を招く虞がある。
負極活物質の粒子形状は、粒状、繊維状のいずれの形態でも良好な性能が得られる。繊維状の場合は、0.1μm以下の繊維径を有することが好ましい。
負極活物質は、その平均粒径が1μm以下で、かつこの活物質を含む負極層はN2吸着によるBET法での比表面積が3〜200m2/gであることが好ましい。このような平均粒径の負極活物質および比表面積を有する負極層を備える負極は、非水電解質との親和性をさらに高くすることが可能になる。
負極層の比表面積を3m2/g未満にする、粒子の凝集が顕在化し、負極と非水電解質との親和性が低くなって負極の界面抵抗が増加するため、出力特性と充放電サイクル特性が低下する虞がある。一方、負極層の比表面積が200m2/gを超えると、外装容器内の非水電解質の分布が負極に偏り、正極での非水電解質不足を生じて出力特性と充放電サイクル特性の改善を図れなくなる虞がある。より好ましい負極層の比表面積は、5〜50m2/gである。
負極層の多孔度は、20〜50%であることが好ましい。このような多孔度を持つ負極層を備えた負極は、非水電解質との親和性に優れ、かつ高密度化が可能になる。より好ましい負極層の多孔度は、25〜40%である。
負極集電体は、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔であることが望ましい。アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔からなる負極集電体を使用することによって、高温下での過放電による貯蔵劣化を防ぐことが可能になる。
アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99.99%以上であることが好ましい。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属を含むアルミニウム合金はこれらの遷移金属量を100ppm以下にすることが好ましい。
導電剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛、金属化合物粉末、金属粉末等を挙げることができる。より好ましい導電剤は、800〜2000℃で熱処理された平均粒子径10μm以下のコークス、黒鉛、TiO、TiC、TiN、またはAl,Ni,Cu、Feなど金属粉末を挙げることができる。
結着剤は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム、コアシェルバインダーなどを挙げることができる。
負極の活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、負極活物質80〜95重量%、導電剤1〜18重量%、結着剤2〜7重量%にすることが好ましい。
負極は、前述した負極活物質、導電剤および結着剤を適当な溶媒に懸濁させ、この懸濁物を集電体に塗布し、乾燥し、加温プレスを施して集電体に負極層を形成することにより作製される。この負極の作製において、少ない結着剤の添加量の状態で負極活物質の粒子を均一分散させることが好ましい。結着剤の添加量は、多い程、負極活物質の粒子の分散性が高くなる傾向があるものの、負極活物質の粒子の表面が結着剤で覆われやすく、負極(負極層)の比表面積が小さくなる虞がある。結着剤の添加量が少ないと、負極活物質の粒子が凝集しやすくなるため、攪拌条件(ボールミルの回転数、攪拌時間及び攪拌温度)を調整して負極活物質の粒子の凝集を抑えることによって、負極活物質の粒子を均一分散させることが可能になる。
負極の作製において、結着剤添加量と攪拌条件が適正範囲内でも、導電剤の添加量が多いと、負極活物質の表面が導電剤で被覆され易く、かつ負極(負極層)表面のポアも減少する傾向があることために、負極(負極層)の比表面積が小さくなる傾向がある。一方、導電剤の添加量が少ないと、負極活物質が粉砕されやすくなって負極(負極層)の比表面積が大きくなったり、または負極活物質の分散性が低下したりして負極層の比表面積が小さくなる傾向がある。作製される負極の負極層の比表面積は、導電剤の添加量のみならず、導電剤の平均粒径および比表面積により影響を受ける。導電剤は、平均粒径が負極活物質の平均粒子径以下で、比表面積が負極活物質の比表面積よりも大きいことが好ましい。
前述した正極および負極において、特に高温下で満充電する場合、正極層は対向する負極層を覆う(はみ出す)ことが好ましい。このような形態によれば、エッジ部に位置する正極層の電位が中心部で負極層と対向する正極層の電位と同等にすることが可能になり、エッジ部の正極活物質の過充電による非水電解質との反応を抑制することが可能になる。逆に、負極層が正極層を覆う場合は、エッジ部に位置する正極層の電位が正極からはみ出す負極活物質の未反応部の負極電位の影響を受け、満充電時にはエッジ部に位置する正極層の電位が過充電となって寿命性能は大幅に低下する虞がある。したがって、正極層の面積は負極層の面積より大きく、対向した状態で正極は負極からはみ出した状態で捲回、もしくは積層して電極群を構成することが好ましい。
具体的には、前記正極層の面積をSp、負極層の面積Snとした場合、それらの面積比(Sn/Sp)は0.85〜0.999であることが好ましい。Sn/Spが0.999を超えると、高温充電貯蔵時や高温フロート充電に負極からガス発生が多くなって貯蔵性能が低下する虞がある。一方、Sn/Spを0.85未満にすると、電池容量が低下する虞がある。より好ましいSn/Spは、0.95〜0.99である。また、このような面積比において正極の幅をLp、負極の幅をLnとした場合、幅比(Ln/Lp)は0.9〜0.99であることが好ましい。ここで、正極、負極の幅は例えば渦巻状の電極群においてその捲回方向に対して垂直方向の長さである。
4)セパレータ
セパレータは、正極および負極の間に介在され、セルロース、ポリオレフィンまたはポリアミドからなる多孔質層とこの多孔質層に分散して担持された無機酸化物フィラーとを含む複合材で、60%〜80%の多孔度を有する。このようなセパレータは、80℃から190℃の高温環境下でその中の樹脂成分が熱収縮から融解状態になっても正極と負極の短絡現象を抑制し高い信頼を維持することが可能になる。
ここで、セパレータの多孔度(気孔率)は例えば以下の方法で測定することができる。
25×77cmに切断したセパレータを乾燥(80℃、真空、12時間)後、重量と厚さを測定してかさ密度を求め、真密度との比率から多孔度を求めることができる。また、水銀圧注入法による細孔分布の測定からも多孔度を求めることができる。例えば、前記サイズのセパレータを自動ポロシメータオートポアIV9500(島津製作所社製)にセットし、細孔分布を計測し、得られた細孔総体積から多孔度を求めることができる。
多孔質層の樹脂成分であるポリオレフィンは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの混合物等を挙げることができる。
無機酸化物フィラーは、例えばアルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、チタニアおよびジルコニアからなる群から選ばれる1つの粒子を用いることができる。この粒子状無機酸化物フィラーは、平均粒子径が1μm以下、より好ましくは0.1〜1μmであることが好ましい。このような粒子状無機酸化物フィラーを使用することによって、多孔質層と無機酸化物フィラーの複合化が容易になり、かつ高い絶縁性をセパレータに付与することが可能になる。粒子状無機酸化物フィラーの平均粒子径が1μmを超えると、多孔度が60%未満になる虞がある。
無機酸化物フィラーは、多孔質層中に10〜90重量%配合することが好ましい。このような無機酸化物フィラー量の配合において、多孔質層の厚さ(実質的にセパレータの厚さ)を例えば20〜50μmにすることによって、60〜80%の高い多孔度を有し、かつ十分な強度を持つセパレータを得ることが可能になる。無機酸化物フィラーの配合割合を10重量%未満にすると、無機酸化物フィラーの配合効果、すなわち高温環境下での正極と負極間の電子的絶縁性を確保する効果を十分に達成することが困難になる虞がある。一方、無機酸化物フィラーの配合割合が90重量%を超えると、多孔質層(実質的にセパレータ)の柔軟性および強度が低下して多孔度を60〜80%の範囲の維持することが困難になる虞がある。より好ましい無機酸化物フィラーの多孔質層への配合割合は、30〜60重量%である。
セパレータの多孔度を60〜80%の範囲にすることにより、十分な量の非水電解質を保持できるため、内部抵抗の低い非水電解質電池を実現できる。より好ましい多孔度は70〜80%である。
このようなセパレータは、例えば次のような方法で作製することができる。
(1)多孔質層がセルロースであるセパレータの作製
セルロースおよび無機酸化物フィラーを水に分散させた後、抄紙技術で漉くことによりセルロースからなる多孔質層とこの多孔質層に分散された無機酸化物フィラーとを含む複合材で、60%〜80%の多孔度を有するセパレータを作製する。
(2)多孔質層がポリオレフィンまたはポリアミドであるセパレータの作製
ポリオレフィンまたはポリアミドと無機酸化物フィラーを溶媒に溶解した後、この溶解物を所望の厚さにフィルム化する。このフィルムをその中の溶媒を蒸発(揮散)させながら延伸することにより、主に溶媒が分散した箇所に気孔を形成してポリオレフィンまたはポリアミドからなる多孔質層(多数の開放気孔を持つ微孔性樹脂フィルム)とこの多孔質層に分散された無機酸化物フィラーとを含む複合材で、60%〜80%の多孔度を有するセパレータを作製する。
5)非水電解質
非水電解質は、電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される液状の有機電解質、液状の有機溶媒と高分子材料を複合化したゲル状の有機電解質、またはリチウム塩電解質と高分子材料を複合化した固体非水電解質が挙げられる。また、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)を非水電解質として使用してもよい。高分子材料は、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。
液状の有機電解質は、電解質を0.5〜2.5mol/Lの濃度で有機溶媒に溶解される。
電解質は、例えばLiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、Li(CF3SO2)3C、LiB[(OCO)2]2などを挙げることができる。これらの電解質は、単独または2種類以上の混合物の形態で用いることができる。中でも電解質は、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を含むことが好ましい。このような四フッ化ホウ酸リチウムは、有機溶媒との化学的安定性が高く、負極上の皮膜抵抗を小さくすることができるため、低温性能とサイクル寿命性能を大幅に向上することが可能になる。
有機溶媒は、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などの環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)またはメチルエチルカーボネート(MEC)などの鎖状カーボネート;ジメトキシエタン(DME)、ジエトエタン(DEE)などの鎖状エーテル;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン(DOX)などの環状エーテル;その他にγ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)などを挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。これらの中で、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)またはγ―ブチロラクント(GBL)を含む有機溶媒は、沸点が200℃以上なって熱安定性が高くなるため好ましい。特に、γ―ブチロラクント(GBL)を含む有機溶媒は、低温環境下での出力性能も高くなるため好ましい。また、同有機溶媒は高濃度のリチウム塩を溶解して使用することが可能になる。
電解質は、有機溶媒に対して、1.5〜2.5mol/Lの範囲で溶解させることが好ましい。このような濃度の液状の有機電解質は、低温環境下においても高出力を取り出すことが可能になる。電解質濃度を1.5mol/L未満にすると、大電流で放電中に正極と有機電解質界面のリチウムイオン濃度が急激に低下し、出力が低下する虞がある。一方、電解質濃度が2.5mol/Lを超えると、電解液の粘度が高くなってリチウムイオンの移動速度が低下し、出力が低下する虞がある。
常温溶融塩(イオン性融体)は、リチウムイオン、有機物カチオンおよび有機物アニオンから構成されることが好ましい。また、常温溶融塩は、室温以下で液体状であることが望ましい。
以下、常温溶融塩を含む電解質について説明する。
常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電源が通常作動すると想定される温度範囲をいう。電源が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限は−40℃程度、場合によっては−20℃程度である。中でも、−20℃以上、60℃以下の範囲が適している。
リチウムイオンを含有した常温溶融塩には、リチウムイオンと有機物カチオンとアニオンから構成されるイオン性融体を使用することが望ましい。また、このイオン性融体は、室温以下でも液状であることが好ましい。
前記有機物カチオンは、−N+−の骨格を有するアルキルイミダゾリウムイオン、四級アンモニウムイオンを挙げることができる。
アルキルイミダソリウムイオンは、例えばジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオン、テトラアルキルイミダゾリウムイオン等が好ましい。ジアルキルイミダゾリウムは、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン(MEI+)、トリアルキルイミダゾリウムイオンとしては1,2−ジエチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン(DMPI+)、テトラアルキルイミダゾリウムイオンとして1,2−ジエチル−3,4(5)−ジメチルイミダゾリウムイオン等が好ましい。
四級アンモニムイオンは、例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、環状アンモニウムイオンなどが好ましい。テトラアルキルアモニウムイオンは、ジメチルエチルメトキシエチルアンモニウムイオン、ジメチルエチルメトキシメチルアンモニウムイオン、ジメチルエチルエトキシエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオンが好ましい。
アルキルイミダゾリウムイオンまたは四級アンモニウムイオン(特にテトラアルキルアンモニウムイオン)を用いることにより、融点を100℃以下、より好ましくは20℃以下にすることができる。さらに負極との反応性を低くすることができる。
リチウムイオンの濃度は、20mol%以下、より好ましくは1〜10mol%であることが望ましい。このような濃度範囲にすることにより、20℃以下の低温においても液状の常温溶融塩を容易に形成できる。また常温以下でも粘度を低くすることができ、イオン伝導度を高くすることができる。
アニオンは、例えばBF4 -、PF6 -、AsF6 -、ClO4 -、CF3SO3 -、CF3COO-、CH3COO-、CO3 2-、(FSO2)2N−、N(CF3SO2)2 -、N(C2F5SO2)2 -、(CF3SO2)3C-などから選ばれる1つ以上が好ましい。複数のアニオンを共存させることにより、融点が20℃以下の常温溶融塩を容易に形成できる。より好ましいアニオンは、BF4 -、(FSO2)2N−、CF3SO3 -、CF3COO-、CH3COO-、CO3 2-、N(CF3SO2)2 -、N(C2F5SO2)2 -、(CF3SO2)3C-が挙げられる。これらアニオンによって0℃以下の常温溶融塩の形成がより容易になる。
次に、実施形態に係る薄型、矩形の非水電解質電池の一例を図1を参照して具体的に説明する。図1は、実施形態に係る非水電解質電池を示す部分切欠正面図である。
矩形外装容器1は、例えば正極端子を兼ねる矩形(角形)金属缶(例えばアルミニウム缶)2と、この金属缶2の開口部に例えば溶接により気密に取り付けられた例えばアルミニウムからなる矩形の蓋体3とから構成されている。ガス抜き穴4は、蓋体3の中心に開口されている。図示しない金属薄膜(例えばアルミニウム薄膜)は、ガス抜き穴4およびその近傍の蓋体3下面に溶接等により取付けられ、外装容器1内のガス圧が一定の値を超えると、破断してガスを外装容器1の外部に逃散させる。矩形正極端子5は、ガス抜き穴4から例えば左側に位置する蓋体3外面に一体的に突出されている。断面T形の負極端子6は、ガス抜き穴4から例えば右側に位置する蓋体3の矩形絶縁リング7に嵌入して気密に固定されている。
扁平渦巻状の電極群8は、金属缶2内に収納されている。電極群8は、正極9および負極10をセパレータ11を挟んでかつ外周面にセパレータ11が位置するように渦巻状に捲回し、プレス成型することにより作製される。正極9は、例えばアルミニウムからなる集電体と、この集電体の両面に形成された正極層とから構成されている。負極10は、例えばアルミニウムからなる集電体と、この集電体の両面に形成された負極層とから構成されている。セパレータ7は、セルロース、ポリオレフィンまたはポリアミドからなる多孔質層とこの多孔質層に分散された無機酸化物フィラーとを含む複合材で、60%〜80%の多孔度を有する。非水電解液は、金属缶2内に収容されている。
例えばアルミニウムからなる帯状の正極リード12は、一端が正極9の集電体に電気的に接続され、他端が正極端子5直下の蓋体3下面に溶接等によりにより電気的に接続されている。例えばアルミニウムからなる帯状の負極リード13は、一端が負極10の集電体に電気的に接続され、他端が蓋体3下面に露出した負極端子6の下端面に溶接等により電気的に接続されている。
以上説明した実施形態によれば、セルロース、ポリオレフィンまたはポリアミドからなる多孔質層とこの多孔質層に分散された無機酸化物フィラーとを含む複合材で、60%〜80%の多孔度を有するセパレータを備えることによって、80℃から190℃の高温環境下でセパレータ中の多孔質層が熱収縮から融解状態になっても、多孔質層に複合化された無機酸化物フィラーが高温環境下においても正極と負極間の電子的絶縁性を確保できるため、正極と負極の短絡現象を抑制し高い信頼を維持した非水電解質電池を得ることができる。
また、セパレータはセルロース、ポリオレフィンまたはポリアミドからなる多孔質層と無機酸化物フィラーとの複合材からなるため、60〜80%の高い多孔度であっても、高い強度を維持することができる。このような高い多孔度のセパレータは十分な量の非水電解質を保持でき、内部抵抗は低減できるため、高出力性能を有する非水電解質電池を得ることができる。
さらに、リチウムチタン酸化物を活物質として含む負極と多孔質層に複合化した無機酸化物フィラーを含有するセパレータとを組み合わせることによって、高温環境下での負極での電解液分解が抑制されて、分解生成物によるセパレータの目詰まりを防止できる。その結果、高温環境下でのセパレータの高い多孔度(60〜80%)を維持して、十分な量の非水電解質を保持でき、内部抵抗は低減できるため、高出力性能を有する非水電解質電池を得ることができる。
また、負極の活物質としてリチウムチタン酸化物を用いることによって、リチウムの吸蔵時にセパレータ中の無機酸化物フィラーがその活物質と反応するのを防止できる。その結果、高温長期貯蔵においても性能劣化の少ない非水電解質電池を得ることができる。
したがって、従来、高温の環境下では信頼性、安全性、出力、寿命性能の問題からリチウムイオン電池のような非水電解質電池の使用は困難であったったが、実施形態のように特定の複合材および高多孔度のセパレータとリチウムチタン酸化物を活物質として含む負極との組み合わせによって、高温環境での貯蔵耐久性と出力性能に優れた非水電解質電池を提供できる。
さらに、特定の複合材および高多孔度のセパレータとリチウムチタン酸化物を活物質として含む負極とに加えて、オリビン構造を有するリチウムリン金属化合物またはスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、特にリチウムリン酸鉄(LixFePO4、0≦x≦1.1)を活物質として含む正極を組み合わせることによって、高温環境下での正・負極と電解液の反応が抑制され、高温貯蔵時の正・負極界面の抵抗上昇を抑えることができる。
さらに、前記非電解質として沸点が200℃以上の有機電解質または常温溶融塩は80℃以上の高温環境下でも電解液の蒸気圧が低くガス発生の少ないため、車などの電源として使用する場合、高温環境下での耐久性寿命性能を向上することができる。
以下、本発明の実施例を前述した図1を参照して詳細に説明するが、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
(実施例1)
炭素微粒子(平均粒子径0.005μm)が表面に付着(付着量0.1重量%)した一次粒子の平均粒子径0.1μmのオリビン構造のリチウムリン酸鉄(LiFePO4)を正極活物質として用い、この正極活物質87重量部と導電剤である繊維径0.1μmの気相成長の炭素繊維3重量部および黒鉛粉末5重量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン5重量部とをn−メチルピロリドン(NMP)溶媒に分散してスラリーを調製した。得られたスラリーを集電体である厚さ15μmのアルミニウム合金箔(純度99%)の両面に塗布し、乾燥し、プレス工程を経て、片面の正極層の厚さが43μm、極密度が2.2g/cm3の正極を作製した。正極層の比表面積は、5m2/gであった。その後、アルミニウムからなる帯状の正極リードをアルミニウム合金箔に溶接して電気的に接続した。
また、一次粒子の平均粒子径が0.3μm、BET比表面積が15m2/g、Li吸蔵電位が1.55V(vs.Li/Li+)のスピネル型のリチウムチタン酸化物(Li4/3Ti5/3O4)粉末を活物質として用い、この活物質と、導電剤である平均粒子径6μmの黒鉛粉末と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを重量比で95:3:2となるように配合してn−メチルピロリドン(NMP)溶媒に分散させ、ボールミルを用いて回転数1000rpmで、かつ攪拌時間が2時間の条件で攪拌を用い、スラリーを調製した。得られたスラリーを集電体である厚さ15μmのアルミニウム合金箔(純度99.3%)に塗布し、乾燥し、加熱プレス工程を経ることにより、片面の負極層の厚さが59μm、密度2.2g/cm3の負極を作製した。集電体を除く負極多孔度は、35%であった。また、負極層のBET比表面積(負極層1g当りの表面積)は10m2/gであった。その後、アルミニウムからなる帯状の負極リードをアルミニウム合金箔に溶接して電気的に接続した。
負極活物質の粒子の測定方法を以下に説明する。
負極活物質の粒子測定は、レーザ回折式分布測定装置(島津製作所社製;SALD−300)を用い、まず、ビーカーに試料を約0.1gと界面活性剤と1〜2mLの蒸留水を添加して十分に攪拌した後、攪拌水槽に注入し、2秒間隔で64回光度分布を測定し、粒度分布データを解析する方法にて測定した。
負極活物質および負極のN2吸着によるBET比表面積は、以下の条件で測定した。
粉末の負極活物質1gまたは2×2cm2の負極を2枚切り取り、これをサンプルとした。BET比表面積測定装置はユアサ・アイオニクス社の製品を使用し、窒素ガスを吸着ガスとした。
なお、負極の多孔度は負極層の体積を多孔度が0%の時の負極層体積と比較し、多孔度が0%の時の負極層体積からの増加分を空孔体積とみなして算出したものである。負極層の体積は、集電体の両面に負極層が形成されている場合、両面の負極層の体積を合計したものとする。
一方、厚さ30μmのポリエチレンからなる多孔質層の微細なネットワークに平均粒子径0.3μmのアルミナ粒子を40重量%担持した複合材で、気孔率(多孔度)が70%のセパレータを用意した。セパレータを正極に密着して覆い、これに負極を正極に対向するように重ねて渦巻状に捲回して電極群を作製した。このとき、正極の正極層の面積(Sp)と負極の負極層の面積(Sn)の比率(Sn/Sp)は0.98にして、正極層は負極層を覆う配置にした。つづいて、電極群を80℃、25kg/cm2で高温プレスを行って、扁平渦巻状の電極群を作製した。この時、正極層の幅(Lp)は51mm、前記負極層の幅(Ln)は50mmで、Ln/Lpは、0.98であった。
次いで、電極群をさらにプレスし扁平状に成形し、厚さ0.5mmのアルミニウム合金(Al純度99%)からなる矩形金属缶に収納した。非水電解液を矩形金属缶に注液して収容した。非水電解液は、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(BL)、エチレンカーボネート(EC)の混合溶媒(体積比率30:40:30)に四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を2.0mol/L溶解した組成を有し、沸点は220℃であった。ひきつづき、アルミニウム製の矩形の蓋体を金属缶の開口にその蓋体の突出した正極端子が金属缶に対して外側の位置するように配置し、金属缶内の電極群の正極に接続した正極リードを正極端子直下の蓋体に超音波溶接すると共に、電極群の負極に接続した負極リードを蓋体下面から露出した負極端子に超音波溶接した。その後、蓋体を金属缶の開口部に嵌合させ、蓋体の外周縁と金属缶の開口部とをレーザ溶接することにより前述した図1示す構造を有し、厚さ16mm、幅40mm、高さ60mmの薄型の非水電解質電池を組み立てた。
(実施例2〜11および比較例1〜5)
下記表1に示すセパレータ、正極活物質、負極活物質を用いた以外、前述した実施例1と同様な方法で15種の薄型の非水電解質電池を組み立てた。なお、セパレータの多孔質層に複合化される無機物フィラーは、いずれも平均粒子径0.3μmの粒子である。
得られた実施例1〜11および比較例1〜5の非水電解質電池を25℃で6Aの定電流で2.8Vまで6分間で充電した後、1.5Vまで3Aで放電した時の放電容量を測定した。また、これらの電池について充電率50%の状態での10秒間の最大出力を測定した。その後、満充電後、5℃/分の速度で200℃までの昇温し、電池の表面温度と電池電圧を測定する高温耐久試験を行った。
前記表1および表2から明らかなように実施例1〜11の非水電解質電池は、比較例1〜5の非水電解質電池に比べ、高温環境下での短絡が起き難く発熱が少ない。さらに出力性能に優れることがわかる。特に、実施例5,6,9,10,11の非水電解質電池は出力性能が優れていることがわかる。
なお、本発明は前述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。