JP5906675B2 - 中空糸炭素膜、分離膜モジュールおよび中空糸炭素膜の製造方法 - Google Patents

中空糸炭素膜、分離膜モジュールおよび中空糸炭素膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、中空糸炭素膜、分離膜モジュールおよび中空糸炭素膜の製造方法に関する。
中空糸状に成形されたポリマーを炭化して得られる中空糸炭素膜は、耐熱性および耐薬品性に優れており、浸透気化分離法によって、水を含む有機溶媒から水を分離することができる分離膜モジュール等の装置に好適に用いることができる。
たとえば特許文献1には、スルホン化ポリフェニレンオキサイドを含む製膜原液を二重管環状構造の中空糸紡糸ノズルの外管から水凝固浴中に押し出して前駆体高分子膜を作製し、この前駆体高分子膜を不融化処理した後に炭化することによって得られた中空糸炭素膜が開示されている。
特許文献2には、中空糸状のスルホン化ポリフェニレンオキサイドを含む前駆体高分子膜に金属イオンを導入し、不融化処理した後に炭化することによって得られた、金属イオンを導入した中空糸炭素膜が開示されている。
特許文献3には、ポリフェニレンオキサイドを含む前駆体高分子膜を不融化処理した後に炭化することによって得られた中空糸炭素膜が開示されている。
また、支持体としてのアルミナ等の多孔質基材の表面に炭素膜を設けることによって形成された分離膜も知られている。
たとえば特許文献4には、円筒状多孔質アルミナ管をフェノール樹脂溶液に浸漬して乾燥させてフェノール樹脂皮膜を形成し、このフェノール樹脂皮膜を加熱することによって形成された炭素膜を含む分子ふるい炭素膜が開示されている。
特許文献5には、モノリス形状のアルミナ多孔質体からなる多孔質基材にポリイミド樹脂前駆体ワニスを含む下地層前駆体形成溶液をディップコートして下地層前駆体配設体を形成した後に、リグニンを含む分離層前駆体形成用溶液をディップコートして乾燥させ、炭化することによって形成された炭素膜積層体が開示されている。
特開2009−34614号公報 特開2010−269229号公報 特開2006−231095号公報 特許第3647985号公報 特表2010−510870号公報
浸透気化分離法によって、水を含む有機溶媒から水を分離する場合の中空糸炭素膜としては、中空糸炭素膜の水の分離性能と透過性能の双方が良好であることが求められている。
しかしながら、特許文献1にしたがって中空糸炭素膜を作製したところ、浸透気化分離法による水の分離性能は非常に優れるが、中空糸炭素膜全体が緻密化するため、中空部への水の透過性能が十分ではないという問題があった。
また、特許文献1の実施例に記載されているように、高いスルホン化度(たとえばスルホン化度DS=45%)のスルホン化ポリフェニレンオキサイドを含む製膜原液を中空糸紡糸ノズルから凝固浴中に押し出して中空糸状の前駆体高分子膜を作製した場合には、紡糸工程中で、前駆体高分子膜が多量に水分を含む結果、前駆体高分子膜の強度が低くなってしまい、前駆体高分子膜の大量生産時の取り扱いに困難を生じる。さらに、紡糸工程後の乾燥工程において前駆体高分子膜同士が接着しやすいため、中空糸炭素膜の大量生産時の取り扱いが困難となるという問題もあった。
特許文献2に記載の中空糸炭素膜においても、中空糸炭素膜の構造全体が緻密化することによる水の透過性能の低下を避けることができない。また、高いスルホン化度のスルホン化ポリフェニレンオキサイドを含む製膜原液を紡糸した際にも、特許文献1と同様に、紡糸工程後の乾燥工程において前駆体高分子膜同士が接着しやすい等の前駆体高分子膜および中空糸炭素膜の大量生産時の取り扱いが困難となるという問題が生じる。
特許文献3に記載の中空糸炭素膜は、細孔径が比較的大きく、かつ細孔内の疎水性が高いために、中空部へ水が容易に透過しやすい構造であると考えられる。しかしながら、実際に、浸透気化分離法によって、親水性の低い物質を溶媒とする水溶液から水を分離した場合には、親水性の低い溶媒が細孔内に容易に侵入し、細孔内に吸着されて、水が透過せず、結果的に水の透過性能が悪くなるという問題があった。
また、特許文献1〜3に記載の自立型の中空糸炭素膜を用いて分離膜モジュールを作製する際には、中空糸炭素膜の取り扱い性を優れたものとするために、中空糸炭素膜が破損しにくくなる程度の柔軟性を有することが要求される。
また、特許文献4に記載の分子ふるい炭素膜および特許文献5に記載の炭素膜積層体は、それぞれ、多孔質基材を支持体として用いる必要があるため、分離膜モジュール等の装置が大型化して、高コスト化するという問題があった。さらに、特許文献4に記載の分子ふるい炭素膜および特許文献5に記載の炭素膜積層体は、それぞれ、多孔質基材の表面に未硬化の樹脂ポリマーを塗布して炭化することによって作製されるため、多孔質基材から炭素膜が剥離したり、多孔質基材と炭素膜との熱膨張係数の違いに起因して炭素膜にクラックが生じたりするため、製造が困難であるという問題もあった。
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、製造が容易であり、装置の小型化が可能で、水の分離性能および透過性能に優れ、かつ破損しにくくなる程度の柔軟性を有する中空糸炭素膜、それを用いた分離膜モジュールおよびその中空糸炭素膜の製造方法を提供することにある。
本発明は、中空糸状の第1の炭素膜と、第1の炭素膜の外表面に設けられた第2の炭素膜と、を備えた中空糸炭素膜であって、中空糸炭素膜の破断伸度は1%以上4%以下であり、第2の炭素膜は、金属元素と、硫黄元素とを含む、中空糸炭素膜である。
ここで、本発明の中空糸炭素膜においては、第2の炭素膜の金属元素含有量は、第1の炭素膜の金属元素含有量よりも多く、第2の炭素膜の硫黄元素含有量は、第1の炭素膜の硫黄元素含有量よりも多いことが好ましい。
また、本発明の中空糸炭素膜においては、第2の炭素膜の前駆体ポリマーが、スルホン酸基を含有することが好ましい。
また、本発明の中空糸炭素膜において、スルホン酸基を含有するポリマーは、下記の式(I)で表わされる繰り返し単位Aと、下記の式(II)で表わされる繰り返し単位Bとの繰り返し構造を有しており、
式(I)および式(II)において、それぞれ、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数を示し、前記式(II)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、−SO3M、−SO3Hまたは水素原子を示し、Mは金属元素を示し、R1およびR2は同時に水素原子を示さず、繰り返し単位Aと繰り返し単位Bとの総数に対する繰り返し単位Bの数の百分率の割合が、15%よりも大きく、100%よりも小さいことが好ましい。
また、本発明の中空糸炭素膜において、第2の炭素膜の広角X線回折法によって測定されたX線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークが存在することが好ましい。
また、本発明の中空糸炭素膜において、第2の炭素膜の厚さは、500nm以上10μm以下であることが好ましい。
また、本発明の中空糸炭素膜において、中空糸炭素膜の引張弾性率は5GPa以上であることが好ましい。
また、本発明の中空糸炭素膜において、第2の炭素膜は、第1の炭素膜よりも高い親水性を有することが好ましい。
また、本発明は、上記のいずれかの中空糸炭素膜を含む分離膜モジュールである。
また、本発明は、上記のいずれかの中空糸炭素膜を製造する方法であって、第1の炭素膜の前駆体ポリマーである第1の前駆体ポリマーを準備する工程と、第2の炭素膜の前駆体ポリマーである第2の前駆体ポリマーを準備する工程と、第1の前駆体ポリマーを中空糸状に成形する工程と、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーの外表面に第2の前駆体ポリマーを設置することによって中空糸炭素膜前駆体を形成する工程と、中空糸炭素膜前駆体を炭素化処理する工程とを含む中空糸炭素膜の製造方法である。
ここで、本発明の中空糸炭素膜の製造方法において、第2の前駆体ポリマーは、スルホン酸基を含有することが好ましい。
また、本発明の中空糸炭素膜の製造方法において、スルホン酸基を含有するポリマーは、下記の式(I)で表わされる繰り返し単位Aと、下記の式(II)で表わされる繰り返し単位Bとの繰り返し構造を有しており、
式(I)および式(II)において、それぞれ、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数を示し、式(II)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、−SO3M、−SO3Hまたは水素原子を示し、Mは金属元素を示し、R1およびR2は同時に水素原子を示さず、繰り返し単位Aと繰り返し単位Bとの総数に対する繰り返し単位Bの数の百分率の割合が、15%よりも大きく、100%よりも小さいことが好ましい。
ここで、本発明の中空糸炭素膜の製造方法において、第1の前駆体ポリマーは、ポリフェニレンオキサイドであり、第2の前駆体ポリマーは、スルホン化ポリフェニレンオキサイドであることが好ましい。
また、本発明の中空糸炭素膜の製造方法は、炭素化処理する工程の前に、中空糸炭素膜前駆体を耐炎化処理する工程をさらに含むことが好ましい。
本発明によれば、製造が容易であり、装置の小型化が可能で、水の分離性能および透過性能に優れ、かつ破損しにくくなる程度の柔軟性を有する中空糸炭素膜、それを用いた分離膜モジュールおよびその中空糸炭素膜の製造方法を提供することができる。
本発明の中空糸炭素膜の一例の模式的な断面図である。 (a)は、図1のIIa−IIaに沿った模式的な断面図であり、(b)は、(a)に示す中空糸炭素膜の部分断面図の一例であり、(c)は、(b)に示す第1の炭素膜と第2の炭素膜とのそれぞれの膜厚方向における金属元素含有量(質量%)と硫黄元素含有量(質量%)との関係の一例を示す図である。 図1に示す中空糸炭素膜の製造方法の一例のフローチャートである。 本発明の分離膜モジュールの一例の模式的な断面図である。 実施例1の中空糸炭素膜のSEM(Scanning Electron Microscope)像である。 実施例1の中空糸炭素膜の他のSEM像である。 実施例1の中空糸炭素膜の他のSEM像である。 (a)は、実施例1の中空糸炭素膜の元素組成の分析が行なわれた領域を示す図であり、(b)は、実施例1の中空糸炭素膜のエネルギー分散型X線分光法による元素組成の分析結果を示す図であり、(c)は、実施例1の中空糸炭素膜の第1の炭素膜および第2の炭素膜のそれぞれの元素分析の結果を示す図である。 実施例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜および比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜のそれぞれの広角X線回折法により得られたX線回折強度分布を示すX線回折プロファイルを比較した例を示す。 (a)は、実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜の破断伸度および引張弾性率の測定方法を図解する模式的な断面図であり、(b)は、(a)の模式的な側面図である。 実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜の浸透気化分離法による水の分離性能および透過性能の評価に用いた浸透気化分離装置の模式的な構成図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
<中空糸炭素膜>
図1に、本発明の中空糸炭素膜の一例の模式的な断面図を示し、図2(a)に図1のIIa−IIaに沿った模式的な断面図を示す。図1および図2(a)に示すように、中空糸炭素膜10は、中空部3を有する中空糸状の第1の炭素膜1と、第1の炭素膜1の外表面に設けられた第2の炭素膜2とを備えており、中空糸炭素膜10の破断伸度は1%以上4%以下となっている。
第1の炭素膜1としては、炭素を主成分として含む多孔質膜を用いることができる。第1の炭素膜1は、炭素を主成分として含むものであれば、炭素以外の成分を含んでいてもよい。第1の炭素膜1中における炭素の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、「主成分」とは、膜の構成成分中において含有量(質量%)が最も大きい成分のことを意味する。
第2の炭素膜2としては、炭素を主成分として含むとともに、金属元素および硫黄元素をも含む多孔質膜を用いることができる。第2の炭素膜2も、炭素を主成分として含むとともに、金属元素および硫黄元素を含むものであれば、炭素、金属元素および硫黄元素以外の成分を含んでいてもよい。第2の炭素膜2中における炭素の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
中空糸炭素膜10においては、外側の第2の炭素膜2に、有機溶媒と水との混合液を接触させ、第2の炭素膜2で水が選択的に分離されて第2の炭素膜2中に取り込まれる。ここで、有機溶媒の種類は特に限定されないが、たとえば、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、アセトンまたはテトラヒドロフランなどである。第2の炭素膜2中に取り込まれた水は、第2の炭素膜2中を拡散し、内側の第1の炭素膜1に移行する。そして、第1の炭素膜1に取り込まれた水は、第1の炭素膜1中を拡散し、第1の炭素膜1から中空部3に移行する。このように中空糸炭素膜10においては、第2の炭素膜2では水を効率的に分離する性能が要求され、第1の炭素膜では水を効率的に中空部3に透過させる性能が要求されることになる。
本発明者らが、上記の課題を解決すべく、鋭意検討を行なった結果、内側の第1の炭素膜1と外側の第2の炭素膜2との複合構造からなる中空糸炭素膜10とし、炭素を主成分とする第2の炭素膜2に金属元素および硫黄元素を含有させることによって、中空糸炭素膜10の浸透気化分離法による有機溶媒と水との混合液からの水の分離性能および透過性能が優れることを見い出した。
さらに、本発明者らは、中空糸炭素膜10の破断伸度が1%以上4%以下である場合には、浸透気化分離性能に優れ、かつ柔軟性にも優れるため、破損しにくく、モジュール化が容易であり、実用性に優れた中空糸炭素膜を提供できることを見い出した。中空糸炭素膜10の破断伸度が1%未満である場合には、中空糸炭素膜として十分な柔軟性が得られず、破損しやすいため、モジュール作製時の取扱い性に困難を生じるという不具合があり、また、4%を超える場合には、炭素化が十分に進行していないために耐酸性、耐薬品性、浸透気化分離性能が十分でないという不具合がある。すなわち、中空糸炭素膜としての柔軟性を確保し、かつ炭素膜としての耐酸性、耐薬品性、浸透気化分離性能をも向上させるという理由からは、中空糸炭素膜10の破断伸度は、1〜4%の範囲内であることが好ましく、1.5%以上3.5%以下の範囲内であることがより好ましい。なお、中空糸炭素膜10の破断伸度は、日本工業規格「炭素繊維−単繊維の引張特性の試験法」(JIS R7606)に準拠して、たとえば引張試験機テクノグラフ(TGI−200NまたはTG−200NBミネベア株式会社製)を用いて引張試験を行なうことで測定することができる。
また、中空糸炭素膜10の引張弾性率は、5GPa以上であることが好ましく、10GPa以上であることがより好ましい。中空糸炭素膜10の引張弾性率が5GPa未満である場合には、破断伸度が高くとも、炭素化が十分に進行していないために耐酸性、耐薬品性、浸透気化分離性能が十分でない場合があるためである。また、炭素化が進行しすぎると、炭素膜としての弾性率は高くなるが、欠陥が多くなるため、伸度が低下する結果、柔軟性が失われ、さらには欠陥に起因する浸透気化分離性能の低下が起こりやすい。これらの理由からは、中空糸炭素膜10の引張弾性率は、50GPa以下であることが好ましく、30GPa以下であることがより好ましい。なお、中空糸炭素膜10の引張弾性率は、日本工業規格「炭素繊維−単繊維の引張特性の試験方法」(JIS R7606:2000)に準拠し、上述した破断伸度の測定に使用した引張試験機を用いて測定することができる。このとき引張弾性率を評価するための、中空糸炭素膜の断面積の測定は、日本工業規格「炭素繊維−単繊維の直径及び断面積の試験方法」(JIS R7607:2000)のC法に準拠し、樹脂片に包埋した中空糸炭素膜の繊維軸方向に垂直な面を研磨し、その横断面を走査型顕微鏡(Scanning Electron Microscopy;SEM)によって撮影し、20本の中空糸膜の断面の面積を測定し、平均値を求めることで可能である。
以上のような構成を有する中空糸炭素膜10は、多孔質基材を用いる必要がないために、製造が容易であり、かつ装置の小型化が可能な自立型の中空糸炭素膜10とすることができる。
なお、中空糸炭素膜10の構成成分およびその含有量は、たとえば、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray spectroscopy;EDS)により、それぞれ特定することができる。
また、中空糸炭素膜10の破断伸度および引張弾性率は、それぞれ、たとえば後述する方法によって測定することができる。
図2(b)に、図2(a)に示す中空糸炭素膜10の部分断面図の一例を示す。図2(b)に示すように、第1の炭素膜1は厚さT1を有し、第2の炭素膜2は厚さT2を有している。
第1の炭素膜1の厚さT1は、特に限定されないが、たとえば、支持体として機能する程度に機械的強度を有するとともに、水の透過性能が高くなる厚さとすることができる。第2の炭素膜2の厚さT2も、特に限定されないが、たとえば、水の透過性能が高くなる程度の薄さと、後述する第2の前駆体ポリマーの塗布ムラやダストの付着によって生じ得る欠陥が水の分離性能に影響しない程度の厚さとを兼ね備える厚さとすることができる。
第2の炭素膜2の厚さT2は、500nm以上10μm以下であることが好ましく、750nm以上7μm以下であることがより好ましく、1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。第2の炭素膜2の厚さT2が500nm以上10μm以下である場合、特に750nm以上7μm以下である場合には、さらに1μm以上5μm以下である場合には、中空糸炭素膜10の水の分離性能および透過性能が共に優れる傾向が大きくなる。
第1の炭素膜1と第2の炭素膜2との総膜厚(T1+T2)は、1μm以上50μm以下とすることが好ましい。中空糸炭素膜10の第1の炭素膜1と第2の炭素膜2との総膜厚(T1+T2)が1μm未満である場合には、自立型の中空糸炭素膜として十分な柔軟性が得られず、破損しやすいという傾向にあるためであり、また、50μmを超える場合には、透過分子の透過抵抗が大きくなりすぎるため、浸透気化分離膜として十分な透過流量が得られないという傾向にあるためである。すなわち中空糸炭素膜としての柔軟性を確保しつつ、しかも浸透気化分離の透過流量も確保するという理由からは、中空糸炭素膜10の第1の炭素膜1と第2の炭素膜2との総膜厚(T1+T2)は5μm以上20μm以下であることがより好ましい。
また、中空糸炭素膜10の外径は、特に制限されないが、50μm以上500μm以下とすることが好ましい。中空糸炭素膜10の外径が50μm未満である場合には、前駆体中空糸膜の紡糸工程において作製が難しくなり、また、中空糸炭素膜10の内径が小さくなりすぎるため異物による詰りなども起こりやすくなるという傾向にあるためである。また、中空糸炭素膜10の外径が500μmを超える場合には、中空糸炭素膜10の外径が大きくなるほど中空糸炭素膜10が破断する最小曲げ半径は大きくなり、取り扱い性が悪くなる傾向にあるためである。すなわち作製の容易さ、中空糸炭素膜10の中空部3に十分なスペースを与えること、さらに中空糸炭素膜10としての十分な柔軟性をも確保するという理由からは、中空糸炭素膜10の外径は100μm以上400μm以下であることがより好ましい。
なお、第1の炭素膜1の厚さT1、第2の炭素膜2の厚さT2、第1の炭素膜1と第2の炭素膜2との総膜厚(T1+T2)、および中空糸炭素膜10の外径は、それぞれ、たとえば、中空糸炭素膜の断面をSEMにより評価する方法を用いることができる。
図2(c)に、図2(b)に示す第1の炭素膜1と第2の炭素膜2とのそれぞれの膜厚方向における金属元素含有量(質量%)と硫黄元素含有量(質量%)との関係の一例を示す。図2(c)の横軸が第2の炭素膜2から第1の炭素膜1への膜厚方向を示しており、図2(c)の縦軸が金属元素および硫黄元素のそれぞれの含有量(質量%)を示している。なお、図2(c)において、実線が金属元素含有量(質量%)を示し、破線が硫黄元素含有量(質量%)を示している。
たとえば図2(c)に示すように、中空糸炭素膜10においては、第2の炭素膜2の金属元素含有量(質量%)が第1の炭素膜1の金属元素含有量(質量%)よりも多くなっているとともに、第2の炭素膜2の硫黄元素含有量(質量%)が第1の炭素膜1の硫黄元素含有量(質量%)よりも多くなっていることが好ましい。この場合には、中空糸炭素膜10の水の分離性能および透過性能をさらに優れたものとすることができる。なお、上記において、第1の炭素膜1の金属元素含有量(質量%)および硫黄元素含有量(質量%)は、それぞれ、0(質量%)であってもよい。
ここで、第1の炭素膜1および第2の炭素膜2に含まれ得る金属元素は、特に限定されず、たとえばナトリウム、カリウム、またはマグネシウムなどが挙げられる。第2の炭素膜2の金属元素含有量は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、第1の炭素膜1の金属元素含有量は、第2の炭素膜2の金属元素含有量よりも少なく、かつ0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。この場合には、中空糸炭素膜10の水の分離性能および透過性能が向上する傾向にある。
また、第2の炭素膜2の硫黄元素含有量は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、第1の炭素膜1の硫黄元素含有量は、第2の炭素膜2の硫黄元素含有量よりも少ないことが好ましい。この場合には、中空糸炭素膜10の水の分離性能および透過性能が向上する傾向にある。
なお、第1の炭素膜1の金属元素含有量、第2の炭素膜2の金属元素含有量、第2の炭素膜2の硫黄元素含有量および第2の炭素膜1の硫黄元素含有量は、それぞれ、たとえば、エネルギー分散型X線分光法により特定することができる。
また、後述するように、中空糸炭素膜10の第2の炭素膜2の広角X線回折法によって測定されたX線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークが存在することが好ましい。この場合には、中空糸炭素膜10の水の分離性能および透過性能をさらに優れたものとすることができる。
さらに、本発明者らが鋭意検討した結果、中空糸炭素膜10の第1の炭素膜1として疎水性かつ細孔径の大きい膜を用い、第2の炭素膜2として親水性かつ細孔径の小さい膜を用いることによって、水の分離性能および透過性能が共に、さらに優れた自立型の中空糸炭素膜が得られることを見い出した。すなわち、外側の第2の炭素膜2は、細孔径が小さく、かつ細孔内の親水性が高いため、親水性の低い溶媒を透過させず、水のみを効率的に透過させることができる。また、内側の第1の炭素膜1は、細孔径が大きく、かつ細孔内の疎水性が高いため、第2の炭素膜2から透過してきた水を、第1の炭素膜1の細孔内に吸着させず、速やかに中空部3に透過させることができる。これにより、中空糸炭素膜10の水の分離性能および透過性能をそれぞれ共に優れたものとすることができる。また、このような第1の炭素膜1と第2の炭素膜2とを複合させた中空糸炭素膜10は、多孔質基材からなる支持体を必要としないため、中空糸炭素膜10の製造が容易であり、中空糸炭素膜10を用いた分離膜モジュール等の装置の小型化が容易となる。
したがって、上記の観点から、中空糸炭素膜10の水の分離性能および透過性能をそれぞれ共に優れたものとするためには、第2の炭素膜2は、第1の炭素膜1よりも、細孔径が小さいことが好ましい。
なお、第1の炭素膜1の細孔径および第2の炭素膜2の細孔径は、たとえば、第1の炭素膜1あるいは第2の炭素膜2のそれぞれの単成分からなる中空糸炭素膜を作製し、有機溶媒と水との混合液の浸透気化分離法による分離性能の評価を行なって、水よりも分子径の大きい有機溶媒分子の透過量を比較することによって、すなわち後述する浸透気化分離法による分離係数を測定することにより、評価することができる。
また、上記の観点から、中空糸炭素膜10の水の分離性能および透過性能をそれぞれ共に優れたものとするためには、第2の炭素膜2は、第1の炭素膜1よりも高い親水性を有することが好ましい。
上記の構成を有する中空糸炭素膜10は、水の分離性能と透過性能の双方に優れているため、浸透気化分離法によって、有機溶媒と水との混合液から水を除去する用途に特に好適に用いることができる。また、中空糸炭素膜10は、破損しにくくなる程度の柔軟性を有しているため、分離膜モジュールを作製する際の取り扱い性に優れている。さらに、中空糸炭素膜10は、多孔質基材からなる支持体を必要としない自立型の中空糸炭素膜であるため、製造が容易であり、かつ装置の小型化が可能である実用的な分離膜モジュールを作製することができるものである。
<中空糸炭素膜の製造方法>
図3に、図1に示す中空糸炭素膜10の製造方法の一例のフローチャートを示す。以下、図3を参照して、図1に示す中空糸炭素膜10の製造方法の一例について説明する。
まず、ステップS1に示すように、第1の前駆体ポリマーを準備する工程を行なう。ここで、第1の前駆体ポリマーは、第1の炭素膜1の前駆体となる前駆体ポリマーであれば特に限定されないが、水を透過しやすくする観点からは、後述する炭素化処理工程を経た後に細孔径が大きく、かつ疎水性の高い第1の炭素膜1が形成される分子構造を有するポリマーであることが好ましい。また、第1の炭素膜1と第2の炭素膜2との剥離を防止する観点からは、第1の前駆体ポリマーとしては、後述する耐炎化処理する工程において第2の炭素膜2の前駆体となる後述の第2の前駆体ポリマーと架橋しやすい分子構造を有するポリマーを含むことが好ましい。
第1の前駆体ポリマーとしては、たとえば、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリアクリロニトリルなどの公知の炭素化可能なポリマーを用いることができ、なかでも、炭素化処理工程を経た後に細孔径が大きく、かつ疎水性の第1の炭素膜1を得る観点からは、ポリフェニレンオキサイドであることが好ましく、重量平均分子量5000以上100000以下のポリフェニレンオキサイドであることがより好ましい。ポリフェニレンオキサイドの重量平均分子量が5000以上100000以下である場合には、中空糸炭素膜前駆体の製造工程におけるポリフェニレンオキサイドの溶液粘度が適切なものとなり、紡糸における取扱い性が向上し、中空糸炭素膜の製造が容易となる傾向にある。なお、第1の炭素膜1の細孔径を制御するために、たとえば、第1の前駆体ポリマーに熱分解性ポリマーおよび/またはフィラーなどを混合してもよい。
次に、ステップS2に示すように、第2の前駆体ポリマーを準備する工程を行なう。ここで、第2の前駆体ポリマーは、第2の炭素膜2の前駆体となる前駆体ポリマーであれば特に限定されないが、細孔径が小さく、かつ親水性の高い第2の炭素膜2を得る観点からは、第2の前駆体ポリマーはスルホン酸基を含有するポリマーであることが好ましい。
スルホン酸基を含有するポリマーは特に限定されないが、たとえば、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリアリルエーテル、スルホン化ポリイミド、またはスルホン化ポリフェニレンオキサイドを用いることが好ましく、スルホン化ポリフェニレンオキサイドあるいはスルホン化ポリエーテルスルホンを用いることがより好ましく、スルホン化ポリフェニレンオキサイドを用いることがさらに好ましい。
スルホン化ポリフェニレンオキサイドは、下記の式(I)で表わされる繰り返し単位Aと下記の式(II)で表わされる繰り返し単位Bとの繰り返し構造を有するとともに繰り返し単位Aと繰り返し単位Bとの総数に対する繰り返し単位Bの数の百分率の割合DS(スルホン化度:100×(繰り返し単位Bの数)/(繰り返し単位Aと繰り返し単位Bとの総数))が、15<DS<100、好ましくは30<DS<100、より好ましくは40<DS<100の関係式を満たすスルホン酸基を含有するスルホン化ポリフェニレンオキサイドであることが好ましい。スルホン化ポリフェニレンオキサイドの繰り返し単位Aと繰り返し単位Bとの総数に対する繰り返し単位Bの数の百分率の割合DSが大きくなるにつれて、後述する炭素化処理工程を経て得られる第2の炭素膜2の親水性が大きくなるため、水の分離性能が高くなる傾向にある。
なお、上記の式(I)および式(II)において、それぞれ、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数であり、これらは特に制限されないが、mは好ましくは1〜2000の範囲内、より好ましくは5〜1000の範囲内であり、nは好ましくは1〜2000の範囲内、より好ましくは5〜1000の範囲内である。
上記の式(II)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、−SO3M、−SO3Hまたは水素原子を示し、Mは金属元素を示し、R1およびR2は同時に水素原子を示さない。ここで、Mは金属元素を示し、たとえばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの1価の金属元素、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄など2価以上の金属元素から選ばれる1種以上が挙げられる。なかでも、中空糸炭素膜を作製したとき、浸透気化分離法による分離に好適な第2の炭素膜2の細孔径が得られ、第2の炭素膜2の親水性がより高くなるという理由から、金属元素としてはナトリウムおよび/またはカリウムが好ましく、ナトリウムが特に好ましい。
また、スルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)の構造は、たとえば、下記の式(III)で表わされる繰り返し単位Cと下記の式(IV)で表わされる繰り返し単位Dとの繰り返し構造を有するとともに繰り返し単位Cと繰り返し単位Dとの総数に対する繰り返し単位Dの数の百分率の割合DS(スルホン化度:100×(繰り返し単位Dの数)/(繰り返し単位Cと繰り返し単位Dとの総数))が、15<DS<100、好ましくは30<DS<100、より好ましくは40<DS<100の関係式を満たすスルホン酸基を含有するスルホン化ポリエーテルスルホンであることが好ましい。スルホン化ポリエーテルスルホンの繰り返し単位Cと繰り返し単位Dとの総数に対する繰り返し単位Dの数の百分率の割合DSが大きくなるにつれて、後述する炭素化処理工程を経て得られる第2の炭素膜2の親水性が大きくなるため、水の分離性能が高くなる傾向にある。
なお、上記の式(III)および式(IV)において、それぞれ、kおよびlはそれぞれ1以上の自然数であり、これらは特に制限されないが、kは好ましくは1〜2000の範囲内、より好ましくは5〜1000の範囲内であり、lは好ましくは1〜2000の範囲内、より好ましくは5〜1000の範囲内である。
上記の式(IV)において、R3およびR4は、それぞれ独立に、−SO3M、または−SO3Hを示し、Mは金属元素を示す。ここで、金属元素を示すMは、たとえばリチウム、ナトリウム若しくはカリウムなどの1価の金属元素、またはカルシウム、マグネシウム、アルミニウム若しくは鉄など2価以上の金属元素から選ばれる1種以上を示す。なかでも、中空糸炭素膜を作製したとき、浸透気化分離法による分離に好適な第2の炭素膜2の細孔径が得られ、第2の炭素膜2の親水性がより高くなるという理由から、金属元素としてはナトリウムおよび/またはカリウムが好ましく、ナトリウムが特に好ましい。
上記のスルホン酸基を含有するポリマーは、上記のDSの値に応じて溶媒への溶解性が異なるが、上記のスルホン酸基を含有するポリマーを溶解するための溶媒としては公知の溶媒を用いることができる。このような溶媒としては、たとえば、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、エタノール、水などの溶媒またはこれらの少なくとも2種を混合して得られる混合溶媒などを用いることができる。
スルホン酸基を含有するポリマーのスルホン酸基は、その少なくとも一部が、金属イオンで中和されていることが好ましい。この場合には、第2の炭素膜2の水の分離性能が向上する傾向にある。
金属イオンは、たとえば、リチウム、ナトリウム若しくはカリウムなどの1価の金属イオン、またはカルシウム、マグネシウム、アルミニウム若しくは鉄などの2価以上の金属イオンとすることができるが、第2の炭素膜2の水の分離性能を向上する観点からは、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンであることが好ましく、ナトリウムイオンであることがより好ましい。また、上記のスルホン酸基を含有するポリマーには、上記の金属イオンの2種以上が含まれていてもよい。すなわち、スルホン化ポリフェニレンオキサイドの上記の式(II)で表わされる繰り返し単位Bのうち少なくとも1つの繰り返し単位BのR1およびR2の少なくとも一方が−SO3Mを示す場合には、Mは、上記の金属イオンを構成する金属を示すことになる。また、スルホン化ポリエーテルスルホンの上記の式(IV)で表される繰り返し単位Dのうち少なくとも1つの繰り返し単位DのR3およびR4の少なくとも一方が−SO3Mを示す場合には、Mは、上記の金属イオンを構成する金属を示すことになる。
なお、金属イオンは、後述する紡糸工程またはディップコート工程で用いられるポリマー溶液の原料ポリマーに導入されていてもよく、紡糸工程またはディップコート工程後の中空糸炭素膜前駆体を所望の金属イオンを含む溶液に浸漬させて導入してもよい。
また、第1の前駆体ポリマーを準備する工程(ステップS1)と第2の前駆体ポリマーを準備する工程(ステップS2)との順序は特に限定されず、ステップS1が先に行なわれてもよく、ステップS2が先に行なわれてもよく、ステップS1とステップS2とが並行して行なわれてもよい。
次に、ステップS3に示すように、第1の前駆体ポリマーを中空糸状に成形する工程を行なう。ここで、第1の前駆体ポリマーを中空糸状に成形する工程は、特に限定されないが、後述する炭素化処理する工程後の中空糸炭素膜の破断伸度が1%以上4%以下、好ましくは1.5%以上3.5%以下となるような方法で行なわれる。そのような方法としては、たとえば、〔1〕第1の前駆体ポリマーを非プロトン性溶媒に溶解させる工程(溶解工程)と、〔2〕第1の前駆体ポリマーを温度誘起相分離点以上の温度で紡糸ノズルより吐出し、中空糸状にする工程(吐出工程)と、〔3〕中空糸状の第1の前駆体ポリマーを水あるいは水と有機溶媒の混合溶液により凝固させる工程(凝固工程)と、〔4〕凝固した中空糸状の第1の前駆体ポリマーを、溶媒置換処理を行なうことなく、水を含んだ状態から乾燥させる工程(乾燥工程)とを含む方法を好適に用いることができる。以下、ステップS3の一例として、上記の〔1〕〜〔4〕の工程を含む方法について説明する。
〔1〕溶解工程
まず、第1の前駆体ポリマーとしてたとえばポリフェニレンオキサイド(PPO)を非プロトン性溶媒に溶解させる。PPOの溶媒は、たとえば公知文献(G. Chowdhury, B. Kruczek, T. Matsuura, Polyphenylene Oxide and Modified Polyphenylene Oxide Membranes Gas, Vapor and Liquid Separation, 2001, Springer)にまとめられているように、ベンゼン、トルエン、クロロホルムなど環境負荷が大きく、人体に有害なものが多い。一方、たとえば特開平3−65227号公報には、およそ100℃以上の温度では、比較的環境負荷の小さい非プロトン性の溶媒にPPOが溶解されることが開示されている。本発明において用いられる非プロトン性溶媒としては、たとえばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどが用いられ、中でもPPOの溶解性が特に優れることから、非プロトン性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いることが好ましい。
非プロトン性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いる場合、N−メチル−2−ピロリドンはおよそ100℃以上の温度でPPOを均一に溶解することができる。またN−メチル−2−ピロリドンに所望の貧溶媒(たとえばメタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)をポリマーの溶解性が確保される範囲で添加して、膜の細孔径や細孔径分布を変更することもできる。
〔2〕吐出工程
続く工程では、上述のようにして第1の前駆体ポリマーを非プロトン性溶媒に溶解させた溶液(紡糸原液)を、紡糸ノズルより吐出させて中空糸状にする。本発明における紡糸の形式は特に制限されるものではなく、従来公知の紡糸法を適用することができるが、第1の炭素膜1の構造制御を精密に行なう観点および、作製の容易さの観点からは、乾湿式紡糸法を適用することが好ましい。
吐出工程において、紡糸原液は、温度誘起相分離点以上の温度で吐出させる。ここで、「温度誘起相分離点」とは、温度により誘起された相分離により固化しない温度を指し、たとえばPPOをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させた紡糸原液の温度誘起相分離点は、紡糸原液濃度や溶媒組成により変動するが、概ね80℃(50〜120℃)である。したがって当該工程では、80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上の温度で、均一な液体状を保った状態で、二重円筒管ノズルより内液とともに紡糸する。なお、吐出工程の際の温度は、溶媒の沸点以下に設定することはいうまでもなく、かつ紡糸原液の粘度を低くしすぎて紡糸安定性を損なわないという観点から、200℃以下とすることが好ましく、180℃以下とすることがより好ましい。
上述のように内液とともに吐出された中空糸状の紡糸原液は、内液との非溶媒誘起相分離により凝固される。内液は、中空糸状に吐出された紡糸原液の内側に吐出され、非溶媒誘起相分離により、紡糸原液を凝固させ得るものが好適に用いられる。このような内液としては、紡糸原液を上述のように100℃以上で吐出させる場合には、水よりも沸点の高い溶媒が好適に用いられる。このような内液としては、たとえばグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。中でも、内液として後の水洗処理が容易となる理由から、エチレングリコールを用いることが好ましい。
〔3〕凝固工程
上述した吐出工程で吐出された紡糸原液は、続く凝固工程において、貧溶媒で満たされた凝固浴に浸漬される。なお、中空糸膜表面のポリマー濃度を高くして、表面を緻密にするなどの膜構造制御の観点から、吐出工程の後、中空糸状に形成された紡糸原液は、溶媒を部分的に乾燥処理した後に、当該凝固工程に供するようにすることが好ましい。凝固工程では、中空糸状に形成された紡糸原液は、非溶媒誘起相分離により、中空糸状物に凝固する。
当該凝固工程に用いられる貧溶媒としては、紡糸原液中の第1の前駆体ポリマーを速やかに凝固させることが可能で、かつ使用が容易であるという理由から、水あるいは水と有機溶媒の混合溶液が用いられる。有機溶媒を混合する場合、当該有機溶媒としては、たとえばメタノール、エタノール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、アセトン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられ、中でもN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
紡糸原液を浸漬する際の貧溶媒の温度は特に制限されないが、0〜50℃の範囲内であることが好ましく、0〜20℃の範囲内であることがより好ましい。貧溶媒の温度が0℃未満である場合には、凝固浴の液体が凍る、あるいは粘度が低下しすぎるため紡糸安定性が悪くなるという傾向があるためであり、また、貧溶媒の温度が50℃を超えると、凝固浴の粘度が低くなりすぎ、膜構造が不安定になったり、紡糸安定性が悪くなったりするという傾向があるためである。また、紡糸原液を貧溶媒に浸漬する時間についても特に制限されないが、十分凝固を進行させて、中空糸形状を保ち、かつ工程を無駄に長くしないという観点から、0.1〜100秒の範囲内であることが好ましく、1〜50秒の範囲内であることがより好ましい。
〔4〕乾燥工程
上述した凝固工程の後、凝固した中空糸状の第1の前駆体ポリマーを、溶媒置換処理を行なうことなく、水を含んだ状態から乾燥させる。なお、凝固工程で相分離を終えた中空糸状の第1の前駆体ポリマーは、十分に水洗して残存する溶媒を除去した後に、当該乾燥工程に供することが好ましい。
上記の乾燥工程で行なわない「溶媒置換処理」とは、たとえば水を含む中空糸状物を、アルコールなど表面張力が水よりも小さく、かつ水と混和する溶媒に、徐々に溶媒濃度を高くしながら、最終的に完全に上記溶媒に置換する手法である。また、アルコールに置換した中空糸状物は、シクロヘキサン、n−ヘキサンなど、さらに表面張力の小さい溶媒に置換される場合もある。表面張力の低い溶媒を含んだ状態から乾燥された中空糸状物は、初期の細孔構造が維持されやすいとされる。また、溶媒置換と類似の方法として、上記の吐出工程における凝固浴の貧溶媒をあらかじめ、表面張力の小さい、たとえばアルコールなどにする場合も同様の効果が得られる。
しかしながら、上記の乾燥工程においては、このような溶媒置換処理は不要である。本発明者らの知見によれば、このような溶媒置換処理を行なったとしても、吐出原液から形成した中空糸状物は、後述する耐炎化処理工程と炭素化処理工程において、その多孔構造は溶融し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合に、一見すると全体が緻密で一様な、いわゆる均質膜構造となってしまうためである。溶媒置換処理を行なって作製された中空糸炭素膜10は、このような均質膜構造であるにも関わらず、脆くなり、柔軟性が低くなってしまう。
これに対し、本発明者らは、水を含んだ膜を溶媒置換処理を行なわずに乾燥して中空糸炭素膜10を作製したところ、同様な均質膜構造が得られたにも関わらず、驚くべきことに柔軟性は、溶媒置換処理を行なった中空糸炭素膜と比較して、非常に優れることが明らかとなった。また両者の浸透気化分離性能および透過液量には、大きな差異は見られなかった。すなわち溶媒置換処理を行なわず、水を含んだ状態から直接乾燥処理を行なうことが、中空糸炭素膜10の優れた柔軟性と浸透気化分離性能を両立させるために好ましいことが分かった。
なお、二重円筒管ノズルの形状などを調節することによって、第1の炭素膜1の外径や厚さなどを適宜調節することができる。
次に、ステップS4に示すように、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーの外表面上に第2の前駆体ポリマーを設置する工程を行なう。中空糸状の第1の前駆体ポリマーの外表面上に第2の前駆体ポリマーを設置する工程は、特には限定されないが、たとえば、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーを第2の前駆体ポリマーを含有するディップ液に浸漬させた後、引き上げ、乾燥させることにより行なうことができる。
ディップ液中における第2の前駆体ポリマーの濃度は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。所定の引き上げ速度とすることにより、ディップ液がコートされた中空糸状の第1の前駆体ポリマーを引き上げながら乾燥させることによって、第2の前駆体ポリマーを所望の厚さで第1の前駆体ポリマーの外表面上に設置した中空糸炭素膜前駆体を作製することができる。
ディップコート工程中での、第2の前駆体ポリマーへのダストの付着は、第2の炭素膜2の欠陥となるため、中空糸炭素膜前駆体は、ダストを低減した雰囲気中で作製されることが好ましい。ディップコートされた第2の前駆体ポリマーの塗布ムラやダストの付着を低減するため、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーを溶媒に浸漬させる、またはディップコート工程を複数回行なう等の前処理工程を行なってもよい。
なお、上記においては、第1の前駆体ポリマーを中空糸状に成形する工程(ステップS3)を行なった後に、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーの外表面上に第2の前駆体ポリマーを設置する工程(ステップS4)を行なっているが、ステップS3とステップS4とを同時に行なってもよい。ステップS3とステップS4とを同時に行なう方法としては、三重円筒管ノズルを用いて、第1の前駆体ポリマーを含む紡糸原液と、第2の前駆体ポリマーを含む紡糸原液と、これらの紡糸原液を凝固するための内液とを同時に押し出して、乾式紡糸法、湿式紡糸法、または乾湿式紡糸法などを用いて、中空糸炭素膜前駆体を形成する方法などが挙げられる。
また、ステップS3がステップS1の後に行なわれるのであれば、ステップS3はステップS2の前に行なわれてもよい。
次に、ステップS5に示すように、中空糸炭素膜前駆体を耐炎化処理する工程を行なう。ここで、中空糸炭素膜前駆体を耐炎化処理する工程は、特に限定されず、従来から公知の方法を用いることができ、たとえば、上記のようにして作製した中空糸炭素膜前駆体を空気雰囲気中において、たとえば150℃〜350℃で、たとえば30分間〜4時間加熱することにより行なうことができる。
上記のようにして作製された中空糸炭素膜前駆体に対して直接、後述する炭素化処理工程を行なうことによって中空糸炭素膜10を形成してもよい。しかしながら、耐炎化処理工程を行なった後に炭素化処理工程を行なうことによって、第1の前駆体ポリマーおよび第2の前駆体ポリマーの架橋反応がそれぞれ促進して、炭素化処理工程後の中空糸炭素膜10が緻密化して機械的強度を向上させることができるため、炭素化処理工程後の中空糸炭素膜10による水の分離性能が向上する傾向にある。また、耐炎化処理工程において、第1の前駆体ポリマーと第2の前駆体ポリマーとが架橋することにより、第1の炭素膜1と第2の炭素膜2との間に剥離が生じにくい強固な中空糸炭素膜10を形成することができる。
次に、ステップS6に示すように、中空糸炭素膜前駆体を炭素化処理する工程を行なう。ここで、炭素化処理する工程は、特に限定されず、従来から公知の方法を用いることができ、たとえば、中空糸炭素膜前駆体を高温炉内に収容し、10-4atm以下の減圧の大気雰囲気中、または減圧していないヘリウム、アルゴンガスまたは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で、中空糸炭素膜前駆体を加熱することにより行なうことができる。また、炭素化処理する工程は、たとえば、連続炭素化炉において、中空糸炭素膜前駆体を連続的に搬送しながら、不活性ガス雰囲気中で高温で加熱処理することにより行なうこともできる。
炭素化処理する工程における中空糸炭素膜前駆体の加熱条件は、第1の前駆体ポリマーおよび第2の前駆体ポリマーを構成するポリマーの種類などにより適宜選択することができるが、10-4atmの減圧の大気雰囲気中または減圧していない不活性ガス雰囲気中で500℃〜850℃で30分間〜4時間加熱することが好ましく、10-4atmの減圧の大気雰囲気中または減圧していない不活性ガス雰囲気中で550℃〜650℃で30分間〜2時間加熱することがより好ましい。これらの好ましい加熱条件、特により好ましい加熱条件によれば、装置の小型化が可能で、水の分離性能および透過性能に優れた中空糸炭素膜10を効率的に製造することができる傾向にある。
上記のようにして作製された中空糸炭素膜10においては、エネルギー分散型X線分光法により、中空糸炭素膜10の第2の炭素膜2の断面および/または外表面の元素分析を行なった場合に、第2の炭素膜2に金属元素および硫黄元素が含有されていることが検出される。
たとえば、第2の前駆体ポリマーとして、スルホン酸基を含有するポリマーを用いた場合には、150℃〜450℃の温度範囲において、スルホン酸基が熱分解して脱離するため、十分に炭素化処理が進行した中空糸炭素膜10に硫黄は本来存在しないはずである。しかしながら、たとえば、少なくとも一部のスルホン酸基が金属イオンで中和された第2の前駆体ポリマーを用いて第2の炭素膜2を形成した場合には、第2の炭素膜2中に硫黄元素が存在することがわかった。
金属元素および硫黄元素を含む第2の炭素膜2の構造の詳細については不明であるが、本発明者らが、中空糸炭素膜10の第2の炭素膜2について広角X線回折法によってX線回折ピークを測定したところ、X線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークが観察された。本発明者らが、このX線回折ピークを同定したところ、このX線回折ピークは、金属の酸化物または硫酸塩に由来するものであることが確認された。
ここで、炭素構造に由来するX線回折ピークとは、炭素結晶の(002)面および(10)面に対応する2つのX線回折ピークおよびアモルファスハローを意味する。また、上記の炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークの出現位置および/または半値幅は、耐炎化処理工程および/または炭素化処理工程における加熱温度および/または加熱時間により変化する。特に金属イオンで中和されたスルホン酸基は、耐炎化処理工程および/または炭素化処理工程で熱分解する際に、親水性の高い金属酸化物あるいは硫酸塩の微結晶を生成し、これらが第2の炭素膜2内の炭素構造と複合化しているために、親水性がより高くなるものと考えられる。
このような炭素と金属の複合物については公知の知見があり、たとえば、Shujiang Ding et al., Colloid Polymer Science(2008), 286,1093-1096には、スルホン化ポリスチレンから作製した炭素中空粒子において、スルホン酸基が金属イオンを容易に取り込みやすく、炭素化を行なうと金属と炭素との複合物が形成され、分離選択性が高く、透過性も高い階層的な細孔チャンネル構造が作製され得ることが示されている。
特に、中空糸炭素膜10において、外側の第2の炭素膜2として親水性かつ細孔径の小さい膜を用い、内側の第1の炭素膜1として疎水性かつ細孔径の大きい膜を用いる場合には、浸透気化分離法において、有機溶媒と水との混合液から水を分離する分離性能に優れるとともに、水の透過性能にも優れるため、水の透過量を大きくすることができる自立型の中空糸炭素膜10が得られることが見い出された。
<分離膜モジュール>
図4に、本発明の分離膜モジュールの一例の模式的な断面図を示す。図4に示す分離膜モジュール20は、所定の長さに切断された複数本の中空糸炭素膜10が束ねられた状態でその両端がそれぞれ接着剤11および接着剤12で固められた構造を有している。中空糸炭素膜10の中空部3の接着剤11で固められている側の端部は開口しているが、接着剤12で固められている側の端部は接着剤12で開口せずに閉じられている。そして、中空糸炭素膜10の接着剤11側の端部にはキャップ14が取り付けられており、接着剤12側の端部にはキャップ15が取り付けられている。なお、中空糸炭素膜10の中空部3の一端が開口し、他端が閉口している構造であれば、上記の構造に限定されないことは言うまでもない。また、上記の構造に加えて、接着剤12で固められている側の端部をも開口させ、キャップ14と同様のものをキャップ15の代わりに取り付けることにより、両端を開口して、分離効率を向上させた分離膜モジュールとしてもよい。
上記の構成を有する分離膜モジュール20を有機溶媒と水との混合液中に浸漬して、中空糸炭素膜10を有機溶媒と水との混合液に接触させた状態で、キャップ14内から矢印13の方向にガスを抜いて、キャップ14内の雰囲気を減圧雰囲気とする。これにより、中空糸炭素膜10の第2の炭素膜2の外表面に接触した混合液から水が第2の炭素膜2で選択的に分離、気化されて第1の炭素膜1に透過し、第1の炭素膜1から中空部3に水が効率的に透過する。そして、中空部3に移動した水分子は、接着剤11側の端部からキャップ14内に流入して、キャップ14内から矢印13の方向に取り出される。
図4に示す分離膜モジュール20は、たとえば、以下のようにして作製することができる。まず、上記のようにして複数本の中空糸炭素膜10を作製し、それをそれぞれ所定の長さに切断した状態で束ね、束ねられた複数本の中空糸炭素膜10の一端を接着剤11で接着するとともに、他端を接着剤12で接着する。その後、接着剤11側の中空糸炭素膜10の一端を接着剤11とともに切断することによって、接着剤11側の中空糸炭素膜10の中空部3を開口させる。その後、中空糸炭素膜10の接着剤11側の端部にキャップ14を取り付けるとともに、接着剤12側の端部にキャップ15を取り付けることによって、図4に示す分離膜モジュール20を作製することができる。
分離膜モジュール20は、上記の中空糸炭素膜10を用いて作製されているため、中空糸炭素膜10の取り扱いが容易であり、製造が容易であって、小型化が可能であり、かつ水の分離性能および透過性能に優れた分離膜モジュールとすることができる。
<実施例1>
(第1の前駆体ポリマーを準備する工程)
第1の前駆体ポリマーとしては、アルドリッチ社製(No.181781)のポリフェニレンオキサイド(PPO)を準備した。
(第2の前駆体ポリマーを準備する工程)
また、第2の前駆体ポリマーとしてのスルホン化ポリフェニレンオキサイド(SPPO)は以下のようにして準備した。まず、アルドリッチ社製(No.181781)のPPOをクロロホルムに溶解した状態で、室温下、クロロ硫酸とクロロホルムとの混合溶液を滴下し、スルホン化反応を進行させて反応物を得た。そして、このようにして得られた反応物を再沈させ、水洗した後に、0.5Mの炭酸ナトリウム水溶液に浸漬し、スルホン酸基をナトリウムイオンで中和した。そして、炭酸ナトリウム水溶液への浸漬後の反応物を水洗することによって、反応物に残留した炭酸ナトリウム塩を完全に除去した。その後、反応物を乾燥させて、目的物である第2の前駆体ポリマーとしてのスルホン化度DS=45%のSPPOを得た。
(第1の前駆体ポリマーを中空糸状に成形する工程)
N−メチル−2−ピロリドンとエチレングリコールとを質量比9:1で混合して作製した混合溶媒に、第1の前駆体ポリマー濃度が27.5質量%となるように、第1の前駆体ポリマーとしてのPPOを加え、150℃で撹拌することによって、PPOを上記混合溶媒に溶解させ、均一な紡糸原液を得た。
続いて、130℃に保温した二重円筒管ノズルの内側から内液であるエチレングリコールを押し出すと同時に外側から上記の紡糸原液を押し出して、エアギャップで乾燥させた後、N−メチル−2−ピロリドン濃度が30質量%のN−メチル−2−ピロリドン水溶液で満たした凝固浴中で紡糸原液を固化することによって、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーを作製した。その後、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーを乾燥し、ワインダーで巻き取った。
(第1の前駆体ポリマーの外表面上に第2の前駆体ポリマーを設置する工程)
メタノールと、ジメチルアセトアミドとを質量比50:50で混合して混合溶媒を作製した。そして、SPPO濃度が10質量%となるように、第2の前駆体ポリマーとしてのSPPOを混合溶媒に溶解させてディップ液を作製し、ディップ液で浴槽を満たした。
そして、ディップ液で満たされた浴槽中に、上記のようにして作製した中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーを浸漬させた後、引き上げながら乾燥させることによって、中空糸炭素膜前駆体を作製した。
(耐炎化処理する工程)
上記のようにして作製した中空糸炭素膜前駆体をマッフル炉内に設置し、空気雰囲気中において、2℃/分の速度で260℃まで昇温させ、この温度で1時間加熱した後に放冷することによって、中空糸炭素膜前駆体の第1の前駆体ポリマーおよび第2の前駆体ポリマーの架橋を行なった。
(炭素化処理する工程)
耐炎化処理後の中空糸炭素膜前駆体を高温炉内に設置し、窒素雰囲気中において、10℃/分の速度で600℃まで昇温させ、この温度で2時間加熱した後に放冷することによって、中空糸状の内側の第1の炭素膜と、外側の第2の炭素膜とからなる実施例1の中空糸炭素膜を得た。後述するSEMを用いた測定によれば、実施例1の中空糸炭素膜の外径は300μmであり、第1の炭素膜および第2の炭素膜の総厚は10μmであった。
<実施例2>
0.5Mの炭酸ナトリウム水溶液に代えて、硝酸マグネシウム濃度が20質量%の硝酸マグネシウム水溶液を用いて第2の前駆体ポリマーとしてのスルホン化度DS=45%のSPPOを準備したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で、実施例2の中空糸炭素膜を得た。後述するSEMを用いた測定によれば、実施例2の中空糸炭素膜の外径は300μmであり、第1の炭素膜および第2の炭素膜の総厚は10μmであった。
<実施例3>
ディップ液中のSPPO濃度を10質量%から15質量%に変更したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で、実施例3の中空糸炭素膜を得た。後述するSEMを用いた測定によれば、実施例3の中空糸炭素膜の外径は300μmであり、第1の炭素膜および第2の炭素膜の総厚は14μmであった。
<比較例1>
以下のように、第1の前駆体ポリマーを中空糸状に成形する工程を行なったこと以外は実施例1と同様にしてと同一の方法および同一の条件で、比較例1の中空糸炭素膜を得た。後述するSEMを用いた測定によれば、比較例1の中空糸炭素膜の外径は300μmであり、第1の炭素膜および第2の炭素膜の総厚は10μmであった。
(第1の前駆体ポリマーを中空糸状に成形する工程)
第1の前駆体ポリマー濃度が27.5質量%となるように、第1の前駆体ポリマーとしてのPPOをクロロホルムに加え、常温で撹拌することによって、PPOをクロロホルムに溶解させ、均一な紡糸原液を得た。
続いて、二重円筒管ノズルの内側から内液であるエタノールを押し出すと同時に外側から上記の紡糸原液を押し出して、エアギャップで乾燥させた後、エタノールで満たした凝固浴中で紡糸原液を固化することによって、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーを作製した。その後、中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーを乾燥し、ワインダーで巻き取った。
<比較例2>
実施例1と同一の方法および同一の条件で中空糸状に成形された第1の前駆体ポリマーを作製し、その後、第1の前駆体ポリマーの外表面上に第2の前駆体ポリマーを設置する工程を行なわずに、実施例1と同一の方法および同一の条件で耐炎化処理する工程および炭素化処理する工程を行なうことによってPPOの第1の炭素膜からなる比較例2の中空糸炭素膜を作製した。比較例2の中空糸炭素膜の外径は300μmであり、膜厚は10μmであった。
<中空糸炭素膜の評価>
上記のようにして作製された実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜について以下の方法で、(i)中空糸炭素膜の外径、第1の炭素膜および第2の炭素膜の総厚、ならびに第2の炭素膜の厚さ、(ii)金属元素含有量および硫黄元素含有量、ならびに(iii)炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークの有無、(iv)破断伸度および引張弾性率の測定、(v)最小曲げ半径の測定、(vi)分離膜モジュール作製時の破損率の評価および(vii)浸透気化分離法による水の分離性能および透過性能の評価を行なった。
(外径、総厚および厚さの測定)
実施例1〜3および比較例1の中空糸炭素膜の外径、第1の炭素膜および第2の炭素膜の総厚、ならびに第2の炭素膜の厚さをそれぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した。表1に、実施例1〜3および比較例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜の厚さの測定結果を示す。なお、比較例2の中空糸炭素膜については、第2の炭素膜が存在しないため測定していない。
具体的には、実施例1〜3および比較例1の中空糸炭素膜をそれぞれ、その長手方向と直交する方向に切断し、その切断面にPtをスパッタリングしたものを、(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡S−4800を用いて、加速電圧5kVで観察した。実施例1〜3および比較例1の第2の炭素膜の厚さは、中空糸炭素膜のSEM像の内側の第1の炭素膜と第2の炭素膜との間に色のコントラストが生じることを利用して測定した。図5〜図7に、SEM像の一例として、実施例1の中空糸炭素膜のSEM像を示す。
表1に示すように、実施例1〜3および比較例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜の厚さは、それぞれ、1.7μm、1.4μm、4.6μm、および1.2μmであった。
(金属元素含有量および硫黄元素含有量の測定)
実施例1〜3および比較例1の中空糸炭素膜の第1の炭素膜および第2の炭素膜、ならびに比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜の元素組成をエネルギー分散型X線分光法により分析した。そして、その分析結果から金属元素含有量および硫黄元素含有量をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
具体的には、実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜をそれぞれ、その長手方向と直交する方向に切断し、エネルギー分散型X線分光法により、第1の炭素膜および第2の炭素膜のそれぞれの切断面の元素組成の分析を行なった。ここで、エネルギー分散型X線分光法による測定は、BRUKER製エネルギー分散型X線分析装置QUANTAXを備えた走査型電子顕微鏡S−4800を用い、加速電圧20kV、積算時間300秒の条件で行なった。
図8(a)に、実施例1の中空糸炭素膜の元素組成の分析が行なわれた領域を示す。図8(a)の破線で取り囲まれた領域が第2の炭素膜の元素組成の分析領域であり、実線で取り囲まれた領域が第1の炭素膜の元素組成の分析領域である。
図8(b)に、エネルギー分散型X線分光法による元素組成の分析結果の一例として、実施例1の中空糸炭素膜の第1の炭素膜および第2の炭素膜のそれぞれの元素組成の分析結果を示す。図8(b)に示すように、第1の炭素膜および第2の炭素膜のいずれにおいてもナトリウムの存在に対応するピークが現れており、そのピークは、第1の炭素膜よりも第2の炭素膜の方が大きくなっていた。また、第2の炭素膜については硫黄の存在に対応するピークが現れているが、第1の炭素膜については硫黄の存在に対応するピークは現れていなかった。
図8(c)に、実施例1の中空糸炭素膜の第1の炭素膜および第2の炭素膜のそれぞれの元素分析の結果を示す。図8(c)に示すように、実施例1の中空糸炭素膜の第1の炭素膜の炭素、窒素、酸素、ナトリウムおよび硫黄の含有量(質量%)は、それぞれ、91.62質量%、1.05質量%、6.97質量%、0.36質量%および0質量%であった。
また、実施例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜の炭素、窒素、酸素、ナトリウムおよび硫黄の含有量(質量%)は、それぞれ、82.41質量%、1.01質量%、11.69質量%、3.16質量%および1.73質量%であった。
(X線回折ピークの有無の測定)
実施例1〜3および比較例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜および比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜のそれぞれについて、広角X線回折法により、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークの有無を測定した。その結果を表1に示す。
具体的には、株式会社リガク製のSmartLabをX線回折装置として用い、X線としては、40kV、30mAによるCu−Kα線を使用した。広角X線回折測定は、集中法での2θ−θスキャン測定により行なった。検出器は、株式会社リガク製の高速1次元検出器D/tex Ultraを用いた。Cu−Kα線の単色化は、Kβフィルターを用いることにより行なった。広角X線回折測定の測定ステップは0.02°とし、スキャン速度は0.5deg/minとした。また、測定角度範囲は、散乱ベクトルqでの尺度において、q=5nm-1〜50nm-1の範囲とした。
散乱ベクトルqは、以下の式(V)により表わされる。なお、式(V)において、λは測定に用いられるX線の波長を示し、θはBragg回折角2θの1/2の値を示している。
q=(4π/λ)sinθ …(V)
また、広角X線回折法の測定サンプルは、以下のようにして作製した。まず、実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜をそれぞれ10cm程度の長さにカットしたものを純水に浸漬させ、スターラーバーで緩やかに撹拌しながら、2時間放置することによって水洗を行なった。そして、上記の水洗を純水を交換しながら4回繰り返し、中空糸炭素膜の表面に析出した金属塩および/または汚れを除去した。
次に、上記の中空糸炭素膜を80℃の雰囲気中に一晩放置することによって、中空糸炭素膜を乾燥させ、中空糸炭素膜から水分を除去した。乾燥することによって水分を除去した中空糸炭素膜を上記のX線回折装置用のガラス製サンプル台に収まる長さにカットし、平行かつ重ならないように20〜50本程度敷き詰めることによって、広角X線回折法の測定サンプルとした。このようにして作製した測定サンプルをX線回折装置のステージに取り付け、上記の測定条件にて広角X線回折測定を行ない、これをサンプルデータとした。
次に、中空糸炭素膜を敷き詰めていない状態での空気散乱およびガラス製サンプル台の散乱を同一条件で測定し、上記の測定条件と同一条件で測定し、これをバックグラウンドデータとした。
そして、サンプルデータのX線回折強度分布から、バックグラウンドデータのX線回折強度分布を除去することによって、実施例1〜3および比較例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜および比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜の広角X線回折測定によるX線回折強度分布とした。サンプルデータのX線回折強度分布から、バックグラウンドデータのX線回折強度分布を除去する操作においては、サンプルによるX線吸収の寄与を考慮してもよいが、考慮しなくても、データの大勢に影響しないと考えられる。
図9に、上記の広角X線回折法により得られたX線回折強度分布を示すX線回折プロファイルの一例として、実施例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜および比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜のそれぞれのX線回折プロファイルを比較した例を示す。図9に示すように、実施例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜のX線回折プロファイルにおいては、炭素結晶の(002)面および(10)面に対応する箇所ではない(A)および(B)の箇所にそれぞれ、X線回折ピークが見られるが、比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜のX線回折プロファイルではこのようなX線回折ピークは見られない。実施例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜のX線回折プロファイルにおける(A)および(B)の箇所のX線回折ピークは、炭素結晶の(002)面および(10)面に対応する2つのX線回折ピークおよびアモルファスハローのいずれにも相当しないため、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークである。
実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜についても上記と同様にしてX線回折プロファイルを取得し、上記と同様の判断基準で、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークの有無を判断した。
なお、中空糸炭素膜の第2の炭素膜の厚さが薄く、上記のような実験室装置で十分なX線回折強度が得られない場合には、たとえばSPring8のような大型放射光施設において、上記と同じ散乱ベクトルq=5nm-1〜50nm-1の範囲での広角X線回折測定(たとえば透過法による測定)が行なわれてもよい。
(破断伸度および引張弾性率の測定)
JIS R7606:2000に準拠して、引張試験機テクノグラフ(TG−200NB、ロードセル型式TT3D−10N、ミネベア株式会社製)を用いて、実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜の引張試験を行なうことによって、破断伸度および引張弾性率を評価した。中空糸炭素膜サンプルの断面積は、JIS R7607:2000のC法に準拠して、中空糸膜断面積を測定した。
具体的には、図10(a)および図10(b)に示す四角形の枠状の台紙51の両端に、実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜のサンプル52をそれぞれ載せて、サンプル52の両端部をそれぞれ二液性エポキシ樹脂53により接着して固定した。上記のようにしてサンプル52を接着した後の台紙51のそれぞれの端部55をそれぞれ引張試験機のチャックに把持して固定した。続いて、台紙51およびサンプル52の接続部54を切り離した後、中空糸炭素膜のサンプル52の引張試験を開始した。サンプル52の長さは25mmであって、引張速度は5mm/minとした。引張試験の測定本数は20本としてその平均値を算出した。その結果を表1に示す。
(最小曲げ半径の測定)
上記の破断伸度および引張弾性率の測定によって得られる破断伸度の値は、膜の外径に依存しない柔軟性の指標である。一方、中空糸炭素膜を手で曲げた際の破損しやすさは、膜断面の外径に依存して変化し、外径が大きいほど破損しやすくなる。そのため、実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜の柔軟性について、上記の破断伸度および引張弾性率の測定に加えて、中空糸炭素膜を曲げたときに破断するときの、最小曲げ半径についても評価を行った。具体的には、1mm刻みで異なる様々な直径の円柱に中空糸炭素膜を180°以上巻きつけて、中空糸炭素膜が破断するかどうかを確認し、最小曲げ半径は、中空糸炭素膜が破断しない円柱において、最小の半径を有する円柱を求め、その円柱の半径の値で示すことにより、膜の柔軟性を評価した。結果を表1に示す。
(中空糸炭素膜の破損率の評価)
実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜をそれぞれ用いて、中空糸炭素膜100本からなる分離膜モジュールをそれぞれ10個ずつ作製して、そのうち、浸透気化分離評価を行ったときに、モジュール作製時に中空糸炭素膜が破損した場合および、浸透気化分離試験時にリークが起こった場合の個数の、百分率での割合を破損率として評価した。結果を表1に示す。
(分離性能および透過性能の評価)
図11に、実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜の浸透気化分離法による水の分離性能および透過性能の評価に用いた浸透気化分離装置の模式的な構成図を示す。実施例1〜3および比較例1〜2の中空糸炭素膜10の複数をそれぞれ同数ずつ束ねて、束ねた中空糸炭素膜10の一端の開口部を接着剤で封止して閉口するとともに、他端の開口部を開口させて、その両端にそれぞれキャップを嵌め込んで分離膜モジュール20を作製した。そして、このようにして作製した分離膜モジュール20を、保温テープ39で被覆されたステンレスチューブ44の一端に気密状態が保たれるように取り付けた。また、ステンレスチューブ44の端部間にはストップバルブ40を取り付けた。
また、容器33に供給液としての水分率3質量%の酢酸エチル水溶液32を注入して、容器33の底部に攪拌子35を設置した。そして、容器33を恒温槽34に設置し、スターラー31上に恒温槽34を設置して、酢酸エチル水溶液32中に温度計38を挿入した。恒温槽34によって容器33中の酢酸エチル水溶液32を一定温度に保ちながら、スターラー31によって攪拌子35を回転させて酢酸エチル水溶液32を攪拌し、分離膜モジュール20を酢酸エチル水溶液32中に浸漬させた。今回は、酢酸エチルの沸点(77.1℃)以下である70℃に設定した。
また、ステンレスチューブ44の他端を、他のステンレスチューブ45の一端とともに液体窒素37(−196℃)で冷却された冷却トラップ36中に気密状態で挿入した。ステンレスチューブ45の他端を真空ポンプ43に取り付けるとともに、ステンレスチューブ45の端部間には圧力計41およびストップバルブ42を冷却トラップ36側からこの順に取り付けた。
そして、真空ポンプ43を作動させて、分離膜モジュール20の酢酸エチル水溶液32の供給液側の圧力を大気圧とし、透過液側の圧力を1Paとした。そして、評価を開始してから所定時間が経過した後、冷却トラップ36でトラップされた透過液の質量から以下の式(VI)により透過流束(kg・m-2・h-1)を求めた。その結果を表1に示す。
透過流束[kg・m-2・h-1]=(透過液の質量[kg])÷{中空糸炭素膜の面積[m2]×時間[h]} …(VI)
また、冷却トラップ36でトラップされた透過液をTCD(Thermal Conductivity Detector)ガスクロマトグラフにより分析し、透過液中の酢酸エチル濃度を求めるとともに以下の式(V)により分離係数を算出した。その結果を表1に示す。
分離係数={透過液の水濃度[質量%]/透過液の酢酸エチル濃度[質量%]}÷{供給液の水濃度[質量%]/供給液の酢酸エチル濃度[質量%]} …(VII)
<細孔径の相対比較>
また、実施例1〜3の中空糸炭素膜の第1の炭素膜および第2の炭素膜2の細孔径、ならびに比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜の細孔径が大きいか小さいかの相対比較は、上記の浸透気化分離法による分離性能試験における分離係数の値により評価した。すなわち、たとえば分離係数がより高い場合には、水分子よりも分子径の大きい酢酸エチル分子の炭素膜内への侵入を効率よく阻止できているということであり、細孔径が小さいことを意味する。
その結果、表1から明らかなように、実施例1〜3の中空糸炭素膜の分離係数は、それぞれ、330000、220000および540000であった。一方、比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜の分離係数は645であった。実施例1〜3の中空糸炭素膜の分離係数は、比較例2の中空糸炭素膜の第1の炭素膜の分離係数を大きく上回っており、実施例1〜3の第1の炭素膜の上に設置された第2の炭素膜の細孔径が、第1の炭素膜の細孔径よりも小さく、有機溶媒分子を阻止するに好ましい構造となっていることが確認された。
<評価結果>
(実施例1の中空糸炭素膜の評価)
実施例1の中空糸炭素膜においては、第2の炭素膜においてナトリウム元素および硫黄元素の存在が確認されており、第2の炭素膜におけるナトリウム元素含有量および硫黄元素含有量は、それぞれ、第1の炭素膜におけるナトリウム元素含有量および硫黄元素含有量よりも多かった。また、細孔径が小さく、SPPOから形成されて親水性が大きい第2の炭素膜により、酢酸エチルの透過が阻止されて、水が選択的に分離されて第2の炭素膜を透過し、細孔径が比較的大きいPPOから形成されて、親水性が小さい第1の炭素膜において、水が効率よく透過し、中空糸炭素膜の中空部へ速やかに放散させることができる結果、透過流量および分離係数がそれぞれ高くなり、透過液中の酢酸エチル濃度が低くなった。また、実施例1の中空糸炭素膜の第2の炭素膜においては、広角X線回折法によって測定されたX線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークが確認された。さらに、実施例1の中空糸炭素膜の破断伸度は1.9%であり、引張弾性率は12GPaであって、破損しにくくなる程度の柔軟性を有しており、中空糸炭素膜を曲げた際に、破損する最小曲げ半径は7.0mmと小さく、分離膜モジュールの作製が容易で破損率はゼロであった。
(実施例2の中空糸炭素膜の評価)
実施例2の中空糸炭素膜においては、第2の炭素膜においてマグネシウム元素および硫黄元素の存在が確認されており、第2の炭素膜におけるマグネシウム元素含有量および硫黄元素含有量は、それぞれ、第1の炭素膜におけるマグネシウム元素含有量および硫黄元素含有量よりも多かった。また、細孔径が小さく、SPPOから形成されて親水性が大きい第2の炭素膜により、酢酸エチルの透過が阻止されて、水が選択的に分離されて第2の炭素膜を透過し、細孔径が比較的大きいPPOから形成されて、親水性が小さい第1の炭素膜において、水が効率よく透過し、中空糸炭素膜の中空部へ速やかに放散させることができる結果、透過流量および分離係数がそれぞれ高くなり、透過液中の酢酸エチル濃度が低くなった。また、実施例2の中空糸炭素膜の第2の炭素膜においても、広角X線回折法によって測定されたX線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークが確認された。さらに、実施例2の中空糸炭素膜の破断伸度は1.8%であり、引張弾性率は11.8GPaであって、破損しにくくなる程度の柔軟性を有しており、中空糸炭素膜を曲げた際に、破損する最小曲げ半径は7.0mmと小さく、分離膜モジュールの作製が容易で破損率はゼロであった。
(実施例3の中空糸炭素膜の評価)
実施例3の中空糸炭素膜においては、第2の炭素膜においてナトリウム元素および硫黄元素の存在が確認されており、第2の炭素膜におけるナトリウム元素含有量および硫黄元素含有量は、それぞれ、第1の炭素膜におけるナトリウム元素含有量および硫黄元素含有量よりも多かった。また、細孔径が小さく、SPPOから形成されて親水性が大きい第2の炭素膜により、酢酸エチルの透過が阻止されて、水が選択的に分離されて第2の炭素膜を透過し、細孔径が比較的大きいPPOから形成されて、親水性が小さい第1の炭素膜において、水が効率よく透過し、中空糸炭素膜の中空部へ速やかに放散させることができる結果、透過流量および分離係数がそれぞれ高くなり、透過液中の酢酸エチル濃度が低くなった。また、実施例3の中空糸炭素膜の第2の炭素膜においても、広角X線回折法によって測定されたX線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークが確認された。さらに、実施例3の中空糸炭素膜の破断伸度は2%であり、引張弾性率は11.5GPaであって、破損しにくくなる程度の柔軟性を有しており、中空糸炭素膜を曲げた際に、破損する最小曲げ半径は7.0mmと小さく、分離膜モジュールの作製が容易で破損率はゼロであった。
(比較例1の中空糸炭素膜の評価)
比較例1の中空糸炭素膜は、第2の炭素膜においてナトリウム元素および硫黄元素の存在が確認されており、第2の炭素膜におけるナトリウム元素含有量および硫黄元素含有量は、それぞれ、第1の炭素膜におけるナトリウム元素含有量および硫黄元素含有量よりも多かった。また、細孔径が小さく、SPPOから形成されて親水性が大きい第2の炭素膜により、酢酸エチルの透過が阻止されて、水が選択的に分離されて第2の炭素膜を透過し、細孔径が比較的大きいPPOから形成されて、親水性が小さい第1の炭素膜において、水が効率よく透過し、中空糸炭素膜の中空部へ速やかに放散させることができる結果、透過流量および分離係数がそれぞれ高くなり、透過液中の酢酸エチル濃度が低くなった。また、実施例3の中空糸炭素膜の第2の炭素膜においても、広角X線回折法によって測定されたX線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークが確認された。しかしながら、比較例1の中空糸炭素膜の引張弾性率は12.2GPaであり、実施例1〜3と同程度であるが、破断伸度は0.4%であり、実施例1〜3における破断伸度よりも低い結果、破損しにくくなる程度の柔軟性を有していなかった。中空糸炭素膜を曲げた際に、破損する最小曲げ半径は30.0mmと大きく、分離膜モジュールの作製が困難であり、破損率は50%であった。
(比較例2の中空糸炭素膜の評価)
比較例2の中空糸炭素膜の破断伸度は1.8%であり、引張弾性率は11.6GPaであって、破損しにくくなる程度の柔軟性を有しており、中空糸炭素膜を曲げた際に、破損する最小曲げ半径は7.0mmと小さく、分離膜モジュールの作製が容易で破損率はゼロであった。しかしながら、比較例2の中空糸炭素膜は、実施例1〜3および比較例1の中空糸炭素膜と比較して、透過流量および分離係数が小さくなるとともに、透過液の酢酸エチル濃度が高くなっていた。また、浸透気化分離法による評価後の中空糸炭素膜は、酢酸エチルの吸着により、大きく膨潤していた。この吸着した酢酸エチルにより、水の透過が阻害されるため、透過流量が低い値を示したものと思われる。また、比較例2の中空糸炭素膜においては、金属元素および硫黄元素の存在は確認されなかった。さらに、広角X線回折法によって測定されたX線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークも確認されなかった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明は、中空糸炭素膜、分離膜モジュールおよび中空糸炭素膜の製造方法に利用することができる。
1 第1の炭素膜、2 第2の炭素膜、3 中空部、10 中空糸炭素膜、11,12 接着剤、13 矢印、14,15 キャップ、20 分離膜モジュール、31 スターラー、32 酢酸エチル水溶液、33 容器、34 恒温槽、35 攪拌子、36 冷却トラップ、37 液体窒素、38 温度計、39 保温テープ、40 ストップバルブ、41 圧力計、42 ストップバルブ、43 真空ポンプ、44,45 ステンレスチューブ、51 台紙、52 サンプル、53 二液性エポキシ樹脂、54 接続部、55 端部。

Claims (14)

  1. 中空糸状の第1の炭素膜と、
    前記第1の炭素膜の外表面に設けられた第2の炭素膜と、を備えた中空糸炭素膜であって、
    前記中空糸炭素膜の破断伸度は1%以上4%以下であり、
    前記第2の炭素膜は、金属元素と、硫黄元素とを含む、中空糸炭素膜。
  2. 前記第2の炭素膜の金属元素含有量は、前記第1の炭素膜の金属元素含有量よりも多く、
    前記第2の炭素膜の硫黄元素含有量は、前記第1の炭素膜の硫黄元素含有量よりも多い、請求項1に記載の中空糸炭素膜。
  3. 前記第2の炭素膜の前駆体ポリマーは、スルホン酸基を含有する、請求項1または2に記載の中空糸炭素膜。
  4. 前記スルホン酸基を含有するポリマーは、下記の式(I)で表わされる繰り返し単位Aと、下記の式(II)で表わされる繰り返し単位Bとの繰り返し構造を有しており、
    前記式(I)および前記式(II)において、それぞれ、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数を示し、前記式(II)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、−SO3M、−SO3Hまたは水素原子を示し、Mは金属元素を示し、R1およびR2は同時に水素原子を示さず、
    前記繰り返し単位Aと前記繰り返し単位Bとの総数に対する前記繰り返し単位Bの数の百分率の割合が、15%よりも大きく、100%よりも小さい、請求項3に記載の中空糸炭素膜。
  5. 前記第2の炭素膜の広角X線回折法によって測定されたX線回折ピークの散乱ベクトルqが5nm-1〜50nm-1となる範囲内に、炭素構造に由来するX線回折ピーク以外のX線回折ピークが存在する、請求項1から4のいずれかに記載の中空糸炭素膜。
  6. 前記第2の炭素膜の厚さは、500nm以上10μm以下である、請求項1から5のいずれかに記載の中空糸炭素膜。
  7. 前記中空糸炭素膜の引張弾性率が5GPa以上である、請求項1から6のいずれかに記載の中空糸炭素膜。
  8. 前記第2の炭素膜は、前記第1の炭素膜よりも高い親水性を有する、請求項1から7のいずれかに記載の中空糸炭素膜。
  9. 請求項1から8のいずれかに記載の中空糸炭素膜を含む、分離膜モジュール。
  10. 請求項1から8のいずれかに記載の中空糸炭素膜を製造する方法であって、
    前記第1の炭素膜の前駆体ポリマーである第1の前駆体ポリマーを準備する工程と、
    前記第2の炭素膜の前駆体ポリマーである第2の前駆体ポリマーを準備する工程と、
    前記第1の前駆体ポリマーを中空糸状に成形する工程と、
    中空糸状に成形された前記第1の前駆体ポリマーの外表面上に第2の前駆体ポリマーを設置することによって中空糸炭素膜前駆体を形成する工程と、
    前記中空糸炭素膜前駆体を炭素化処理する工程と、を含む、中空糸炭素膜の製造方法。
  11. 前記第2の前駆体ポリマーは、スルホン酸基を含有する、請求項10に記載の中空糸炭素膜の製造方法。
  12. 前記スルホン酸基を含有するポリマーは、下記の式(I)で表わされる繰り返し単位Aと、下記の式(II)で表わされる繰り返し単位Bとの繰り返し構造を有しており、
    前記式(I)および前記式(II)において、それぞれ、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数を示し、前記式(II)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、−SO3M、−SO3Hまたは水素原子を示し、Mは金属元素を示し、R1およびR2は同時に水素原子を示さず、
    前記繰り返し単位Aと前記繰り返し単位Bとの総数に対する前記繰り返し単位Bの数の百分率の割合が、15%よりも大きく、100%よりも小さい、請求項11に記載の中空糸炭素膜の製造方法。
  13. 前記第1の前駆体ポリマーは、ポリフェニレンオキサイドであり、
    前記第2の前駆体ポリマーは、スルホン化ポリフェニレンオキサイドである、請求項10から12のいずれかに記載の中空糸炭素膜の製造方法。
  14. 前記炭素化処理する工程の前に、前記中空糸炭素膜前駆体を耐炎化処理する工程をさらに含む、請求項10から13のいずれかに記載の中空糸炭素膜の製造方法。
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