上述のように、本発明のタイヤは、少なくとも樹脂材料で形成され且つ積層構造を有する環状のタイヤ骨格体を有し、ポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーとからなる樹脂組成物を含む80℃におけるガス透過係数(以下、単に「ガス透過係数」と称する。)が2.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)以下であり、海相が前記ポリアミド系熱可塑性樹脂であり、島相が前記エラストマーであり、かつ、前記エラストマーの島相中に前記ポリアミド系熱可塑性樹脂が散点状に分散されて構成されているガス保持層を少なくとも一層含むように構成される。
以下、前記ガス保持層の態様及びこれを構成する材料、並びに、本発明におけるタイヤ骨格体を構成する樹脂材料について説明し、続いて本発明のタイヤの具体的な実施形態について図を用いて説明する。
[ガス保持層]
前記少なくともガス透過係数が2.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)以下のガス保持層は、ポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーとからなる樹脂組成物を有する。前記ガス保持層は、ポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーとを含むため、ポリアミド系熱可塑性樹脂を単一で用いてガス保持層を形成した場合に比して、ガス保持層の柔軟性を高めることができる。前記ガス保持層のガス透過係数が、2.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)より大きいと、タイヤ骨格体のガス保持特性を十分に向上させることができない。
また、前記ガス保持層のガス透過係数(前記樹脂組成物のガス透過係数)は、1.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)以下の層であることが好ましい。前記ガス等価係数が1.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)以下であると、タイヤ骨格体のガス保持特性を十分に向上させることができる。また、ガス保持層のガス保持特性が高いと、水分に対するバリア性も高くなるという利点がある。
前記ガス透過係数は、例えば、JIS K7126−1:2006(A法:差圧法)によって測定することができる。具体的には、GTEテック社製のガス透過度測定装置「GTR−30X」を用い、セル温度:80℃、絶対差圧:0.30Paの条件で、ガス透過係数を測定することができる。
本発明において、前記タイヤ骨格体は径方向に対して少なくとも2以上の層が積層された積層構造を有する。前記ガス保持層は、前記タイヤ骨格体の積層構造の一層又は複数層を構成していればよい。この際、ガス保持特性の観点から、前記ガス保持層は、タイヤ骨格体のクラウン部及びサイド部の全域、即ち、タイヤ骨格体の周方向及び幅方向の全域に渡って連続的に形成されることが好ましい。前記ガス保持層は、前記タイヤ骨格体の積層構造において径方向の最外側、中間、最内側のいずれに位置していてもよいが、設計の容易性やガス保持特性を効果的に向上させる観点からは、タイヤ骨格体の径方向内側に位置することが好ましく、径方向最内側又は径方向最内側から2層目に位置することが更に好ましい。また、本発明において、タイヤ骨格体を補強するための補強コードは必須の構成要素ではないが、後述の実施形態のようにタイヤ骨格体に補強コードを巻回した場合においては、該補強コードと接しないように、コード被覆層よりも径方向内側に前記ガス保持層を設けるのが好ましい。
前記ガス保持層はある程度の柔軟性を有することが好ましい。前記ガス保持層の柔軟性は、一軸引張伸張試験(JIS K 7161− 1994 プラスチック-引張特性の試験方法)4%引張伸張時における応力を基準とすることができる。前記ガス保持層の4%引張伸張時における応力は、前記タイヤ骨格体の弾性率との関係においてタイヤ骨格体及びガス保持層の耐久性を向上させる観点から、通常、50MPa以下が好ましく、40MPa以下が更に好ましく、30MPが特に好ましい。また、前記ガス保持層の4%引張り伸張時における応力の下限は特に限定はない。
前記ガス保持層の厚みは、ガス保持特性の観点からは厚いほど好ましいが、ガス保持層の柔軟性(弾性率)を考慮にいれて決定されるのが好ましい。これらガス保持特性と柔軟性との両立の観点からは、前記ガス保持層の厚みは、20μm〜300μmが好ましく、20μm〜100μmが更に好ましい。
前記ガス保持層の形成方法は、特に限定されるものではなく、タイヤ骨格体と一体に成型してもよいし、タイヤ骨格体の形状を成型した後にガス保持層となる材料をタイヤ骨格体の内側に設置してもよい。前記形成方法としては、共押出し、インジェクション成型、ブロー成型等の公知の方法を適宜利用することが出来る。また、ガス保持層をタイヤ骨格体に後付する場合には、例えば、ガス保持層とタイヤ骨格体との接着のために接着層を別に設けてもよい。
前記ガス保持層を構成する材料としては、ポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーとからなる樹脂組成物が含まれる。
−ポリアミド系熱可塑性樹脂−
前記ポリアミド系熱可塑性樹脂としては、ガスバリア性の観点から、ε-カプロラクタムを開環重縮合したポリアミド(ポリアミド6)又はメタキシレンジアミンを構成単位として有するポリアミド(ポリアミドMX)が好ましく、更に耐熱性を考慮すると、ポリアミド6が好ましい。
前記ポリアミド系熱可塑性樹脂のガス透過係数は、ガスバリア性の観点から、ガス透過係数が2.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)以下が好ましく、1×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)以下が更に好ましい。
前記ポリアミド6は、例えば、{CO−(CH2)5−NH}nで表すことができる。また、また、メタキシレンジアミンを構成単位として有するポリアミドMXは、例えば、下記構造式(A−1)で表わすことができる〔(A−1)中、nは繰り返し単位数を表す〕。前記ポリアミド6としては、例えば、市販品の宇部興産社製「UBEナイロン」1022B、1011FB等を用いることができる。また、前記ポリアミドMXとしては、例えば、市販品の三菱ガス化学社製のMXナイロン−S S6011、S6021、S6001等を用いることができる。
前記ポリアミド系熱可塑性樹脂は、上述の構成単位のみで構成されるホモポリマーであってもよく、上述の構成単位と他のモノマーとのコポリマーであってもよい。コポリマーの場合、各ポリアミド系熱可塑性樹脂において、前記構成単位の含有率が60質量%以上であることが好ましい。
−エラストマー−
前記ガス保持層に用いることのできるエラストマーとしては、特に限定はないが、例えば、熱可塑性エラストマーを用いることができる。前記熱可塑性エラストマーとしては、JIS K6418に規定されるポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられ、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
前記エラストマーの柔軟性は、JIS K7161-1994プラスチックの引張特性試験方法による4%引張伸張時における応力を基準とすることができる。前記エラストマーの4%引張伸張時における応力は、前記タイヤ骨格体の弾性率との関係においてタイヤ骨格体及びガス保持層の耐久性を向上させる観点から、通常、4%引張伸張時における応力10MPa以下が好ましく、5MPa以下が更に好ましい。
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α−オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体、エチレン−アクリル酸変性体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びその酸変性物、及びそれらを主成分とする混合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
前記エラストマーとしては、変性エラストマー、又は、変性エラストマーと未変性エラストマーとの混合物を用いることができる。特に、無水マレイン酸などの酸無水物、グリシジルメタクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル、エポキシ及びその変性体などで変性したものが、前記ポリアミド系熱可塑性樹脂をベースポリマーとする微細なアロイ構造を得ることができ、好ましい。
前記ガス保持層において、ポリアミド系熱可塑性樹脂に対する前記エラストマーの含有量は、少な過ぎるとポリオレフィンを配合したことによる柔軟性、耐久性の改善効果を十分に得ることができず、多過ぎると後述の海島構造において海相と島相とが逆転しガスバリア性が低下することがある。このため、前記ポリアミド系熱可塑性樹脂に対する前記エラストマーの含有率は、10〜48体積%が好ましく、20〜45体積%であることが更に好ましい。
なお、エラストマーとして酸変性エラストマー等の変性エラストマーを用いた場合、混練り(分散)時に少ない比エネルギー及び高い混練り技術を必要としないという効果が得られるが、その配合量が多いと樹脂のゲル化を引き起こし、押出し時、肌荒れ等の外観不良(フィッシュアイ)を引き起こすこともある。かかる観点から、エラストマーとして変性エラストマーを用いる場合、ポリアミド系熱可塑性樹脂中の変性エラストマーの含有量は20体積%以下、例えば5〜20体積%とすることが好ましい。特に、本発明では、ポリアミド系熱可塑性樹脂中のエラストマーのうちの40〜100体積%を酸変性エラストマーとしたものが好ましい。
一般にポリアミド系熱可塑性樹脂と前述のポリオレフィン系エラストマー等の各種エラストマーとは相溶しない。本発明では、このような非相溶系において相溶状態、即ち、良好な分散状態を形成することにより、本発明の目的を達成する。しかし、この相溶状態の形成には、エラストマーの少なくとも一部が無水マレイン酸等により変性されていることが重要であり、良好な分散形態を得るために用いるエラストマーの全体の平均の酸価(酸変性率)は3.0mg−CH3ONa/g以上であることが好ましい。
エラストマーの酸価は高いほど、分散形態は良好となるが、酸価の増大に伴って得られるポリアミド系熱可塑性樹脂の粘度が増大し、成形加工性が損なわれる。このため、この酸価の増大による粘度増加を低減するために、エラストマーの酸価は、良好な分散状態が得られる範囲において低い方が好ましく、用いるエラストマーの全体での平均酸価は7.5mg−CH3ONa/g以下であることが好ましい。
また、同じ平均酸価であっても、用いるエラストマー中に含まれる変性エラストマーの酸価が高い場合、このような変性エラストマーを未変性エラストマーと混合することにより、平均酸価を下げても、押し出し時に局部的な過反応によると思われるゲル状の異物が発生してしまう。従って、用いる変性エラストマーの酸価は、15.0mg−CH3ONa/g以下であることが好ましい。
即ち、例えば、酸価30mg−CH3ONa/gの酸変性エラストマーと未変性エラストマーを17:83の重量比で混合して、エラストマー全体の平均酸価を約5(=30×17÷100)とした混合エラストマーAと、酸価10の酸変性エラストマーと未変性エラストマーを50:50の重量比で混合してエラストマー全体の平均酸価を5とした混合エラストマーBとでは、これを用いて得られるポリアミド系熱可塑性樹脂の見掛けの粘度と分散粒径は同等でも加工安定性が大きく異なるものとなり、混合エラストマーAでは押出し時にゲル状の異物が散見されるが、混合エラストマーBでは良好な安定性を得ることができる。従って、用いる変性エラストマーの酸価は15.0mg−CH3ONa/g以下であることが好ましい。なお、変性エラストマーの酸価の下限は前述のエラストマーの平均酸価の下限である3mg−CH3ONa/gとなる。
前記未変性エラストマーとしては、例えば、市販品の三井化学(株)製のαオレフィンエラストマー「タフマーA」シリーズ等を用いることができる。前記酸変性エラストマーとしては、例えば、市販品の三井化学(株)製のαオレフィンエラストマー「タフマーM」シリーズ等を用いることができる。
−サラミ構造−
このようにポリアミド系熱可塑性樹脂にエラストマーを配合することにより、柔軟性、耐久性は改善されるものの、ガスバリア性の低下は避けられない。しかしながら、ポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーとの微細なアロイ構造をとることにより、特に、ポリアミド系熱可塑性樹脂の海相内にエラストマーの島相が分散すると共に、このエラストマーの島相内にポリアミド系熱可塑性樹脂が散点状に(池相となって)分散した所謂サラミ構造であることにより、エラストマーを配合したことによるガスバリア性の低下を抑制することができる。
ポリアミド系熱可塑性樹脂の総量(海相を構成するポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーの島相内に散点状に存在するポリアミド系熱可塑性樹脂相(池相)との合計)に対するエラストマーの島相内に散点状に存在するポリアミド系熱可塑性樹脂相(池相)の割合(以下、その割合を「散点状分散率」と称す。)が2.5〜30体積%程度であることが好ましく、3〜20体積%が更に好ましい。この割合が2.5〜30体積%の範囲にあると、エラストマーの島相内にポリアミド系熱可塑性樹脂相を散点状に存在させることによる効果を十分に得ることができ、海相としてのポリアミド系熱可塑性樹脂相が少なくなり過ぎてガスバリア性が低下するのを抑制することができる。
また、エラストマーの島相の大きさ及びこのエラストマー島相内のポリアミド系熱可塑性樹脂相の大きさは、エラストマー島相の大きさがほぼ0.4〜4.0μm程度であることが好ましい。また、エラストマーの島相内に散点状に存在するポリアミド系熱可塑性樹脂相(池相)の大きさは、0.05〜1.0μm程度が好ましく、0.1〜0.5が更に好ましい。これら各相の大きさは例えば、走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
なお、前記ポリアミド系熱可塑性樹脂は、樹脂成分としてポリアミド系熱可塑性樹脂以外の樹脂成分を含んでいても良いが、その場合において、ポリアミド系熱可塑性樹脂中の全樹脂成分のうちの70体積%以上がポリアミド系熱可塑性樹脂であることが、ガスバリア性の確保のために好ましい。
前記ポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物、特に前述のような海島構造のモルフォロジーを有するポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物は、例えば、次の(1)又は(2)の方法で製造することができる。
(1)ポリアミド系熱可塑性樹脂とポリオレフィンとを所定の配合比にして混練りし、マスターバッチを作った後、そのマスターバッチとポリアミド系熱可塑性樹脂を混練りする方法。
(2)ポリアミド系熱可塑性樹脂及びポリオレフィンブレンド物を高剪断により溶融混練りする方法。
前記サラミ構造を形成する前記ポリアミド系熱可塑性樹脂とエラストマーとの組み合わせとしては、例えば、市販品の宇部興産(株)「6ナイロン 1022B」と、三井化学(株)製の「タフマーMH7010」との組み合わせ(配合比:65:45)が挙げられる。
前記ガス保持層は、上述の樹脂材料などガス保持層のガス透過係数を達成するための材料(ガスバリア成分)のみで構成されていることが好ましいが、必要に応じて、老化防止層、酸化劣化剤等の添加剤を含んでいてもよい。この場合、前記ガス保持層中のガスバリア成分の含有量は、ガス保持層のガス保持特性の観点から、全固形分に対して51体積%以上が好ましく、55体積%以上がさらに好ましい。また、前記添加剤の含有量は、全固形分に対して5質量%以下が好ましく、通常0.2〜3.0質量%程度である。
[樹脂材料]
次に、タイヤ骨格体を形成する樹脂材料について説明する。ここで、「樹脂」材料とは、熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)及び熱硬化性樹脂を含む概念であり、加硫ゴムは含まない。
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、エステル樹脂等が挙げられる。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、エステル樹脂等が挙げられる。
前記熱可塑性エラストマーは、一般に、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料を意味する。前記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418:2007に規定されるポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。なお、走行時に必要とされる弾性と製造時の成形性等を考慮すると前記タイヤ骨格体は、前記樹脂材料として、熱可塑性樹脂を用いるのが好ましく、熱可塑性エラストマーを用いることが更に好ましい。更に、前記ガス保持層としてアミド系熱可塑性樹脂又はEVOHを用いる場合には、特にポリアミド系熱可塑性エラストマーを用いるのが好ましい。
また、以下樹脂材料において同種とは、エステル系同士、スチレン系同士などの形態を指す。
−ポリアミド系熱可塑性エラストマー−
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーとは、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料であって、ハードセグメントを構成するポリマーの主鎖にアミド結合(−CONH−)を有するものを意味する。ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418:2007に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)等や、特開2004−346273号公報に記載のポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリアミドが結晶性で融点の高いハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、ポリエステルまたはポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーはハードセグメントおよびソフトセグメントの他に、ジカルボン酸等の鎖長延長剤を用いてもよい。前記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、例えば、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるモノマーによって生成されるポリアミドを挙げることができる。
一般式(1)
[一般式(1)中、R1は、炭素数2〜20の炭化水素の分子鎖、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表す。]
一般式(2)
[一般式(2)中、R2は、炭素数3〜20の炭化水素の分子鎖、または、炭素数3〜20のアルキレン基を表す。]
一般式(1)中、R1としては、炭素数3〜18の炭化水素の分子鎖または炭素数3〜18のアルキレン基が好ましく、炭素数4〜15の炭化水素の分子鎖または炭素数4〜15のアルキレン基が更に好ましく、炭素数10〜15の炭化水素の分子鎖または炭素数10〜15のアルキレン基が特に好ましい。また、一般式(2)中、R2としては、炭素数3〜18の炭化水素の分子鎖または炭素数3〜18のアルキレン基が好ましく、炭素数4〜15の炭化水素の分子鎖または炭素数4〜15のアルキレン基が更に好ましく、炭素数10〜15の炭化水素の分子鎖または炭素数10〜15のアルキレン基が特に好ましい。
前記一般式(1)または一般式(2)で表されるモノマーとしては、ω−アミノカルボン酸やラクタムが挙げられる。また、前記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、これらω−アミノカルボン酸やラクタムの重縮合体や、ジアミンとジカルボン酸との共縮重合体等が挙げられる。
前記ω−アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、10−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などの炭素数5〜20の脂肪族ω−アミノカルボン酸等を挙げることができる。また、ラクタムとしては、ラウリルラクタム、ε−カプロラクタム、ウデカンラクタム、ω−エナントラクタム、2−ピロリドンなどの炭素数5〜20の脂肪族ラクタムなどを挙げることができる。
前記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、3−メチルペンタメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどの炭素数2〜20の脂肪族ジアミンなどのジアミン化合物を挙げることができる。また、ジカルボン酸は、HOOC−(R3)m−COOH(R3:炭素数3〜20の炭化水素の分子鎖、m:0または1)で表すことができ、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
前記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、ラウリルラクタム、ε−カプロラクタムまたはウデカンラクタムを開環重縮合したポリアミドを好ましく用いることができる。
また、前記ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテルが挙げられ、例えば、ポリエチレングリコール、プリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアニモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等を用いることができる。
ここで、「ABA型トリブロックポリエーテル」とは、下記一般式(3)に示されるポリエーテルを意味する。
一般式(3)
[一般式(3)中、xおよびzは、1〜20の整数を表す。yは、4〜50の整数を表す。]
前記一般式(3)において、xおよびzとしては、それぞれ、1〜18の整数が好ましく、1〜16の整数が更に好ましく、1〜14の整数が特に好ましく、1〜12の整数が最も好ましい。また、前記一般式(3)において、yとしては、それぞれ、5〜45の整数が好ましく、6〜40の整数が更に好ましく、7〜35の整数が特に好ましく、8〜30の整数が最も好ましい。
前記ハードセグメントと前記ソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でも、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せ、が好ましく、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが特に好ましい。
前記ハードセグメントを構成するポリマー(ポリアミド)の数平均分子量としては、溶融成形性の観点から、300〜15000が好ましい。また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性および低温柔軟性の観点から、200〜6000が好ましい。更に、前記ハードセグメント(x)およびソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50〜90:10が好ましく、50:50〜80:20が更に好ましい。
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマーおよびソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品の宇部興産(株)の「UBESTA XPA」シリーズ(例えば、XPA9063X1、XPA9055X1、XPA9048X2、XPA9048X1、XPA9040X1、XPA9040X2等)、ダイセル・エポニック(株)の「スタミド」シリーズ(例えば、E40−S3、E47−S1、E47−S3、E55−S1、E55−S3、EX9200、E50−R2)等を用いることができる。
−ポリスチレン系熱可塑性エラストマー
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリスチレンがハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエチレン、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。前記ハードセグメントを形成するポリスチレンとしては、例えば、公知のラジカル重合法、イオン性重合法で得られるものが好適に使用でき、例えば、アニオンリビング重合を持つポリスチレンが挙げられる。
また、前記ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(2,3−ジメチル−ブタジエン)等が挙げられる。
上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でもポリスチレン/ポリブタジエンの組合せ、ポリスチレン/ポリイソプレンの組合せが好ましい。また、熱可塑性エラストマーの意図しない架橋反応を抑制するため、ソフトセグメントは水素添加されていることが好ましい。
前記ハードセグメントを構成するポリマー(ポリスチレン)の数平均分子量としては、5000〜500000が好ましく、10000〜200000が好ましい。
また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、5000〜1000000が好ましく、10000〜800000が更に好ましく、30000〜500000が特に好ましい。更に、前記ハードセグメント(x)およびソフトセグメント(y)との体積比(x:y)は、成形性の観点から、5:95〜80:20が好ましく、10:90〜70:30が更に好ましい。
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマーおよびソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン系共重合体[SBS(ポリスチレン−ポリ(ブチレン)ブロック−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン)]、スチレン−イソプレン共重合体[ポリスチレン−ポリイソプレンブロック−ポリスチレン)、スチレン−プロピレン系共重合体[SEP(ポリスチレン−(エチレン/プロピレン)ブロック)、SEPS(ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、SEEPS(ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、SEB(ポリスチレン(エチレン/ブチレン)ブロック)等が挙げられる。
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品の旭化成社製の「タフテック」シリーズ(例えば、H1031、H1041、H1043、H1051、H1052、H1053、タフテックH1062、H1082、H1141、H1221、H1272)、(株)クラレ製のSEBS(8007、8076等)、SEPS(2002、2063等)等を用いることができる。
−ポリウレタン系熱可塑性エラストマー−
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリウレタンが物理的な凝集によって疑似架橋を形成しているハードセグメントを構成し、他のポリマーが非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられ、例えば、下記式Aで表される単位構造を含むソフトセグメントと、下記式Bで表される単位構造を含むハードセグメントとを含む共重合体として表すことができる。
[前記式中、Pは、長鎖脂肪族ポリエーテルまたは長鎖脂肪族ポリエステルを表す。Rは、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素を表す。P’は、短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、または、芳香族炭化水素を表す。]
前記式A中、Pで表される長鎖脂肪族ポリエーテルおよび長鎖脂肪族ポリエステルとしては、例えば、分子量500〜5000のものを使用することができる。前記Pは、前記Pで表される長鎖脂肪族ポリエーテルおよび長鎖脂肪族ポリエステルを含むジオール化合物に由来する。このようなジオール化合物としては、例えば、分子量が前記範囲内にある、ポリエチレングリコール、プリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ(ブチレンアジベート)ジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール、前記ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
前記式Aおよび式B中、前記Rは、前記Rで表される脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素または芳香族炭化水素を含むジイソシアネート化合物に由来する。前記Rで表される脂肪族炭化水素を含む脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,2−エチレンジイソシアネート、1,3−プロピレンジイソシアネート、1,4−ブタンジイソシアネート、および1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
また、前記Rで表される脂環族炭化水素を含むジイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネートおよび4,4−シクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。更に、前記Rで表される芳香族炭化水素を含む芳香族ジイソシアネート化合物としては例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートが挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
前記式B中、P’ で表される短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、または、芳香族炭化水素としては、例えば、分子量500未満のものを使用することができる。また、前記P’は、前記P’ で表される短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素または芳香族炭化水素を含むジオール化合物に由来する。前記P’で表される短鎖脂肪族炭化水素を含む脂肪族ジオール化合物としては、グリコールおよびポリアルキレングリコールが挙げられ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールおよび1,10−デカンジオールが挙げられる。
また、前記P’で表される脂環族炭化水素を含む脂環族ジオール化合物としては、例えば、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,3−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、およびシクロヘキサン−1,4−ジメタノール等が挙げられる。
更に、前記P’で表される芳香族炭化水素を含む芳香族ジオール化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、クロロヒドロキノン、ブロモヒドロキノン、メチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、フェノキシヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルサルファイド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビスフェノールA、1,1−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、1,4−ジヒドロキシナフタリン、および2,6−ジヒドロキシナフタリン等が挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
前記ハードセグメントを構成するポリマー(ポリウレタン)の数平均分子量としては、溶融成形性の観点から、300〜1500が好ましい。また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの柔軟性および熱安定性の観点から、500〜20000が好ましく、500〜5000が更に好ましく、特に好ましくは500〜3000である。また、前記ハードセグメント(x)およびソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、15:85〜90:10が好ましく、30:70〜90:10が更に好ましい。
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、特開平5−331256に記載の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとして、具体的には、芳香族ジオールと芳香族ジイソシアネートとからなるハードセグメントと、ポリ炭酸エステルからなるソフトセグメントの組合せが好ましく、トリレンジイソシアネート(TDI)/ポリエステル系ポリオール共重合体、TDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、TDI/カプロラクトン系ポリオール共重合体、TDI/ポリカーボネート系ポリオール共重合体、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)/ポリエステル系ポリオール共重合体、MDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、MDI/カプロラクトン系ポリオール共重合体、MDI/ポリカーボネート系ポリオール共重合体、MDI+ヒドロキノン/ポリヘキサメチレンカーボネート共重合体が好ましく、TDI/ポリエステル系ポリオール共重合体、TDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、MDI/ポリエステルポリオール共重合体、MDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、MDI+ヒドロキノン/ポリヘキサメチレンカーボネート共重合体が更に好ましい。
また、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品のBASF社製の「エラストラン」シリーズ(例えば、ET680、ET880、ET690、ET890等)、(株)クラレ社製「クラミロンU」シリーズ(例えば、2000番台、3000番台、8000番台、9000番台)、日本ミラクトラン(株)製の「ミラクトラン」シリーズ(例えば、XN−2001、XN−2004、P390RSUP、P480RSUI、P26MRNAT、E490、E590、P890)等を用いることができる。
−ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー−
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリオレフィンが結晶性で融点の高いハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、前記ポリオレフィン、他のポリオレフィン、ポリビニル化合物)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。前記ハードセグメントを形成するポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン−α−オレフィンランダム共重合体、オレフィンブロック共重合体等が挙げられ、例えば、プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−4−メチル−1ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、1−ブテン−4−メチル−ペンテン、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、プロピレン−メタクリル酸共重合体、プロピレン−メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン−メチルアクリレート共重合体、プロピレン−エチルアクリレート共重合体、プロピレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−4−メチル−1ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、プロピレン−メタクリル酸共重合体、プロピレン−メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン−メチルアクリレート共重合体、プロピレン−エチルアクリレート共重合体、プロピレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体が更に好ましい。
また、エチレンとプロピレンといったように2種以上のポリオレフィン樹脂を組み合わせて使用してもよい。また、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー中のポリオレフィン含率は、50質量%以上100質量%以下が好ましい。
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量としては、5,000〜10,000,000であることが好ましい。ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量が5,000〜10,000,000にあると、熱可塑性樹脂材料の機械的物性が十分であり、加工性にも優れる。同様の観点から、7,000〜1,000,000であることが更に好ましく、10,000〜1,000,000が特に好ましい。これにより、熱可塑性樹脂材料の機械的物性及び加工性を更に向上させることができる。また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、200〜6000が好ましい。更に、前記ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50〜95:15が好ましく、50:50〜90:10が更に好ましい。
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、公知の方法によって共重合することで合成することができる。
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品の三井化学社製の「タフマー」シリーズ(例えば、A0550S、A1050S、A4050S、A1070S、A4070S,A35070S、A1085S、A4085S、A7090、A70090、MH7007、MH7010、XM−7070、XM−7080、BL4000、BL2481、BL3110、BL3450、P−0275、P−0375、P−0775、P−0180、P−0280、P−0480、P−0680)、三井・デュポンポリケミカル(株)「ニュクレル」シリーズ(例えば、AN4214C、AN4225C、AN42115C、N0903HC、N0908C、AN42012C、N410、N1050H、N1108C、N1110H、N1207C、N1214、AN4221C、N1525、N1560、N0200H、AN4228C、AN4213C、N035C、「エルバロイAC」シリーズ(例えば、1125AC、1209AC、1218AC、1609AC、1820AC、1913AC、2112AC、2116AC、2615AC、2715AC、3117AC、3427AC、3717AC)、住友化学(株)「アクリフト」シリーズ、「エバテート」シリーズ、東ソー(株)「ウルトラセン」シリーズ等を用いることができる。
更に、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品のプライムポリマー製の「プライムTPO」シリーズ(例えば、E−2900H、F−3900H、E−2900、F−3900、J−5900、E−2910、F−3910、J−5910、E−2710、F−3710、J−5910、E−2740、F−3740、R110MP、R110E、T310E、M142E等)等も用いることができる。
−ポリエステル系熱可塑性エラストマー−
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリエステルが結晶性で融点の高いハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、ポリエステルまたはポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。
前記ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、芳香族ポリエステルを用いることができる。芳香族ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールとから形成することができる。前記芳香族ポリエステルとしては、好ましくは、テレフタル酸およびまたはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートであり、更に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールなどから誘導されるポリエステル、あるいはこれらのジカルボン酸成分およびジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであってもよい。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分および多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
前記ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、プリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
また、前記ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエーテルが挙げられる。
前記脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体等が挙げられる。
前記脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。
これらの脂肪族ポリエーテルおよび脂肪族ポリエステルのなかでも、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性の観点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましい。
また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性および低温柔軟性の観点から、300〜6000が好ましい。更に、前記ハードセグメント(x)およびソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、99:1〜20:80が好ましく、98:2〜30:70が更に好ましい。
上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でもハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメント脂肪族ポリエーテルの組み合わせが好ましく、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントがポリ(エチレンオキシド)グリコールが更に好ましい。
また、前記熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性エラストマーを酸変性してなるものを用いてもよい。
前記「熱可塑性エラストマーを酸変性してなるもの」とは、熱可塑性エラストマーに、カルボン酸基、硫酸基、燐酸基等の酸性基を有する不飽和化合物を結合させることをいう。例えば、酸性基を有する不飽和化合物として、不飽和カルボン酸(一般的には、無水マレイン酸)を用いるとき、オレフィン系熱可塑性エラストマーに、不飽和カルボン酸の不飽和結合部位を結合(例えば、グラフト重合)させることが挙げられる。
酸性基を有する化合物は、ポリアミド系熱可塑性エラストマーおよびポリアミド系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーの劣化抑制の観点からは、弱酸基であるカルボン酸基を有する化合物が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等が挙げられる。
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品の東レ・デュポン製の「ハイトレル」シリーズ(例えば、3046、5557、6347、4047、4767等)、東洋紡社製「ベルプレン」シリーズ(P30B、P40B、P40H、P55B、P70B、P150B、P280B、P450B、P150M、S1001、S2001、S5001、S6001、S9001等))を用いることができる。
上述の熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマーおよびソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
前記樹脂材料の融点としては、通常100℃〜350℃程度であるが、タイヤの生産性の観点から100〜250℃程度が好ましく、100℃〜200℃が更に好ましい。
また、タイヤの耐久性や生産性を向上させることができる。前記樹脂材料には、所望に応じて、ゴム、エラストマー、熱可塑性樹脂、各種充填剤(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、クレイ)、老化防止剤、オイル、可塑剤、発色剤、耐候剤等の各種添加剤を含有(ブレンド)させてもよい。
前記樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張弾性率(以下、特に特定しない限り本明細書で「弾性率」とは引張弾性率を意味する。)としては、100〜1000MPaが好ましく、100〜800MPaがさらに好ましく、100〜700MPaが特に好ましい。前記樹脂材料の引張弾性率が、100〜1000MPaであると、タイヤ骨格の形状を保持しつつリム組みを効率的におこなうことができる。
前記樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張降伏強さは、5MPa以上が好ましく、5〜20MPaが好ましく、5〜17MPaがさらに好ましい。前記樹脂材料の引張降伏強さが、5MPa以上であると、走行時などにタイヤにかかる荷重に対する変形に耐えることができる。
前記樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張降伏伸びは、10%以上が好ましく、10〜70%が好ましく、15〜60%がさらに好ましい。前記樹脂材料の引張降伏伸びが、10%以上であると、弾性領域が大きく、リム組み性をよくすることができる。
前記樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張破壊伸び(JIS K7113:1995)としては、50%以上が好ましく、100%以上が好ましく、150%以上がさらに好ましく、200%以上が特に好ましい。前記樹脂材料の引張破壊伸びが、50%以上であると、リム組み性がよく、衝突に対して破壊しにくくすることができる。
前記樹脂材料のISO75−2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)としては、50℃以上が好ましく、50〜150℃が好ましく、50〜130℃がさらに好ましい。前記樹脂材料の荷重たわみ温度が、50℃以上であると、タイヤの製造において加硫を行う場合であってもタイヤ骨格体の変形を抑制することができる。
[第1の実施形態]
以下に、図面に従って本発明のタイヤの第1の実施形態に係るタイヤを説明する。
本実施形態のタイヤ10について説明する。本実施形態においては、タイヤケース10の径方向最内側にポリアミド系熱可塑性樹脂(ポリアミド6)及び2種のポリオレフィン系エラストマー(エチレン・ブテン共重合体)からなる樹脂組成物によって構成されたガス保持層(2.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa))が設けられている。図1(A)は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。図1(B)は、リムに装着したビード部の断面図である。図1に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
図1(A)に示すように、タイヤ10は、図1(B)に示すリム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する1対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14と、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)と、からなるタイヤケース17を備えている。また、タイヤケースの内周部一面には、図1(A)におけるM領域の拡大図(図2)に示されるように、ガス保持層2Aが設けられている。図2は、本実施形態のガス保持層を説明するための拡大図である。
本実施形態のタイヤケース17は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(宇部興産(株)製「UBESTA XPA9055X1」、融点162℃)で形成されている。本実施形態においてタイヤケース17は、単一の熱可塑性樹脂材料(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(サイド部14、クラウン部16、ビード部12など)に異なる特徴を有する熱可塑性樹脂材料を用いてもよい。また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
本実施形態のタイヤケース17は、ポリアミド系熱可塑性エラストマーで形成された一対のタイヤケース半体(タイヤ骨格片)17A同士を接合させたものである。タイヤケース半体17Aは、一つのビード部12と一つのサイド部14と半幅のクラウン部16とを一体として射出成形等で成形された同一形状の円環状のタイヤケース半体17Aを互いに向かい合わせてタイヤ赤道面部分で接合することで形成されている。なお、タイヤケース17は、2つの部材を接合して形成するものに限らず、3以上の部材を接合して形成してもよい。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーで形成されるタイヤケース半体17Aは、例えば、真空成形、圧空成形、インジェクション成形、メルトキャスティング等で成形することができる。このため、従来のようにゴムでタイヤケースを成形する場合に比較して、加硫を行う必要がなく、製造工程を大幅に簡略化でき、成形時間を省略することができる。
また、本実施形態では、タイヤケース半体17Aは左右対称形状、即ち、一方のタイヤケース半体17Aと他方のタイヤケース半体17Aとが同一形状とされているので、タイヤケース半体17Aを成形する金型が1種類で済むメリットもある。
本実施形態において、図1(B)に示すようにビード部12には、従来一般の空気入りタイヤと同様の、スチールコードからなる円環状のビードコア18が埋設されている。しかし、本発明はこの構成に限定されず、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題なければ、ビードコア18を省略することもできる。なお、スチールコード以外に、有機繊維コード、樹脂被覆した有機繊維コード、または硬質樹脂などで形成されていてもよい。
本実施形態では、ビード部12のリム20と接触する部分や、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分に、タイヤケース17を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーよりもシール性に優れた材料、例えば、ゴムからなる円環状のシール層24が形成されている。このシール層24はタイヤケース17(ビード部12)とビードシート21とが接触する部分にも形成されていてもよい。タイヤケース17を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーよりもシール性に優れた材料としては、タイヤケース17を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーに比して軟質な材料を用いることができる。シール層24に用いることのできるゴムとしては、従来一般のゴム製の空気入りタイヤのビード部外面に用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーのみでリム20との間のシール性が確保できれば、ゴムのシール層24は省略してもよく、ポリアミド系熱可塑性エラストマーよりもシール性に優れる他の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)を用いてもよい。このような他の熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等の樹脂やこれら樹脂とゴム若しくはエラストマーとのブレンド物等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーを用いることもでき、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、或いは、これらエラストマー同士の組み合わせや、ゴムとのブレンド物等が挙げられる。
図1に示すように、クラウン部16には、タイヤケース17を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーよりも剛性が高い補強コード26がタイヤケース17の周方向に巻回されている。補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、コード被覆層28を形成している。コード被覆層28のタイヤ径方向外周側には、タイヤケース17を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーよりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるトレッド30が配置されている。
図2を用いて、ガス保持層2Aについて説明する。本実施形態においてガス保持層2Aは、ポリアミド6(宇部興産(株)製、「6ナイロン 1022B」)、並びに、酸変性のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学(株)製の「タフマーMH7010」)及び未変性のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学(株)製の「タフマーA1050」)からなる樹脂組成物によって構成されている(体積比率(1022B:MH7010:A1050)=90:5:5)。また、ポリアミド6とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとは、一般的な二軸混練機(例えば、日本製鋼所(株)製の「TEX−30」で混合することができる。
本実施形態において、ガス保持層2Aの膜厚は約100μmであり、ガス透過係数は2.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)であり、4%引張伸張時における応力が、30MPaである。また、図2においてガス保持層2Aはクラウン部16の径方向内側に位置しているが、本実施形態においてガス保持層はサイド部14を含めタイヤケース17の径方向内側全域に設けられている。
また、図3に示すように、ガス保持層2Aはポリアミド6及びポリオレフィン系熱可塑性エラストマーから構成されるサラミ構造を有している。図3は、ガス保持層のサラミ構造を説明するための模式図である。ガス保持層2Aは、図3に示すように、ポリアミド系熱可塑性樹脂(ポリアミド6)によって形成される海相3と、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(エチレン・ブテン共重合体)によって形成される島相4と、ポリアミド系熱可塑性樹脂(ポリアミド6)によって形成される池相5と、を含むサラミ構造を有している。図4に示すように、島相4には池相5が散点状に存在している。
図4を用いて補強コード26によって形成されるコード被覆層28について説明する。図4は、第1実施形態のタイヤのタイヤケースのクラウン部に補強コードが埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。図4に示されるように、補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、タイヤケース17の外周部の一部と共に図4において破線部で示されるコード被覆層28を形成している。補強コード26のクラウン部16に埋設された部分は、クラウン部16(タイヤケース17)を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーと密着した状態となっている。補強コード26としては、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又は、スチール繊維を撚ったスチールコードなどこれら繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態において補強コード26には、スチールコードが用いられている。
また、図4において埋設量Lは、タイヤケース17(クラウン部16)に対する補強コード26のタイヤ回転軸方向への埋設量を示す。補強コード26のクラウン部16に対する埋設量Lは、補強コード26の直径Dの1/5以上であれば好ましく、1/2を超えることがさらに好ましい。そして、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されることが最も好ましい。補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/2を超えると、補強コード26の寸法上、埋設部から飛び出し難くなる。また、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されると、表面(外周面)がフラットになり、補強コード26が埋設されたクラウン部16上に部材が載置されても補強コード周辺部に空気が入るのを抑制することができる。なお、コード被覆層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。
上述のようにコード被覆層28のタイヤ径方向外周側にはトレッド30が配置されている。このトレッド30に用いるゴムは、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。なお、トレッド30の代わりに、タイヤケース17を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーよりも耐摩耗性に優れる他の種類の熱可塑性樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターンが形成されている。
以下、本発明のタイヤの製造方法について説明する。
(タイヤケース成形工程)
まず、薄い金属の支持リングに支持されたタイヤケース半体同士を互いに向かい合わせる。次いで、タイヤケース半体の突き当て部分の外周面と接するように図を省略する接合金型を設置する。ここで、前記接合金型はタイヤケース半体Aの接合部(突き当て部分)周辺を所定の圧力で押圧するように構成されている。次いで、タイヤケース半体の接合部周辺を、タイヤケースを構成する熱可塑性樹脂材料の融点以上で押圧する。タイヤケース半体の接合部が接合金型によって加熱・加圧されると、前記接合部が溶融しタイヤケース半体同士が融着しこれら部材が一体となってタイヤケース17が形成される。尚、本実施形態においては接合金型を用いてタイヤケース半体の接合部を加熱したが、本発明はこれに限定されず、例えば、別に設けた高周波加熱機等によって前記接合部を加熱したり、予め熱風、赤外線の照射等によって軟化または溶融させ、接合金型によって加圧してタイヤケース半体を接合させてもよい。
(補強コード部材巻回工程)
次に、補強コード巻回工程について図5を用いて説明する。図5は、コード加熱装置、およびローラ類を用いてタイヤケースのクラウン部に補強コードを埋設する動作を説明するための説明図である。図5において、コード供給装置56は、補強コード26を巻き付けたリール58と、リール58のコード搬送方向下流側に配置されたコード加熱装置59と、補強コード26の搬送方向下流側に配置された第1のローラ60と、第1のローラ60をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第1のシリンダ装置62と、第1のローラ60の補強コード26の搬送方向下流側に配置される第2のローラ64と、および第2のローラ64をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第2のシリンダ装置66と、を備えている。第2のローラ64は、金属製の冷却用ローラとして利用することができる。また、本実施形態において、第1のローラ60または第2のローラ64の表面は、溶融または軟化したポリアミド系熱可塑性エラストマーの付着を抑制するためにフッ素樹脂(本実施形態では、テフロン(登録商標))でコーティングされている。なお、本実施形態では、コード供給装置56は、第1のローラ60または第2のローラ64の2つのローラを有する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、何れか一方のローラのみ(即ち、ローラ1個)を有している構成でもよい。
また、コード加熱装置59は、熱風を生じさせるヒーター70およびファン72を備えている。また、コード加熱装置59は、内部に熱風が供給される、内部空間を補強コード26が通過する加熱ボックス74と、加熱された補強コード26を排出する排出口76とを備えている。
本工程においては、まず、コード加熱装置59のヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。次に、リール58から巻き出した補強コード26を、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱(例えば、補強コード26の温度を100〜200℃程度に加熱)する。加熱された補強コード26は、排出口76を通り、図5の矢印R方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻きつけられる。ここで、加熱された補強コード26がクラウン部16の外周面に接触すると、接触部分のポリアミド系熱可塑性エラストマーが溶融または軟化し、加熱された補強コード26の少なくとも一部がクラウン部16の外周面に埋設される。このとき、溶融または軟化したポリアミド系熱可塑性エラストマーに加熱された補強コード26が埋設されるため、ポリアミド系熱可塑性エラストマーと補強コード26とが隙間がない状態、つまり密着した状態となる。これにより、補強コード26を埋設した部分へのエア入りが抑制される。なお、補強コード26をタイヤケース17のポリアミド系熱可塑性エラストマーの融点よりも高温に加熱することで、補強コード26が接触した部分のポリアミド系熱可塑性エラストマーの溶融または軟化が促進される。このようにすることで、クラウン部16の外周面に補強コード26を埋設しやすくなると共に、効果的にエア入りを抑制することができる。
また、補強コード26の埋設量Lは、補強コード26の加熱温度、補強コード26に作用させるテンション、および第1のローラ60による押圧力等によって調整することができる。そして、本実施形態では、補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/5以上となるように設定されている。なお、補強コード26の埋設量Lとしては、直径Dの1/2を超えることがさらに好ましく、補強コード26全体が埋設されることが最も好ましい。
このようにして、加熱した補強コード26をクラウン部16の外周面に埋設しながら巻き付けることで、タイヤケース17のクラウン部16の外周側に補強コード層28が形成される。
(ガス保持層形成工程)
次に、タイヤケース17を、図示を省略するブロー成型装置に設置する。次いで、溶融したポリアミド6とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(2種)との混合物をダイスから押出し、タイヤケース17の径方向内側の全面にポリアミド6とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとの層が形成されるようにブロー成形を行う。この際、溶融したポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとの混合物の押出量は、上述のガス保持層2Aの膜厚100μmとなるように決定される。これによってタイヤケース17の径方向内側にガス保持層2Aが形成される。尚、前記ブロー成形は公知の方法に準じて行うことができる。
次に、タイヤケース17の外周面に加硫済みの帯状のトレッド30を1周分巻き付けてタイヤケース17の外周面にトレッド30を、接着剤などを用いて接着する。なお、トレッド30は、例えば、従来知られている更生タイヤに用いられるプレキュアトレッドを用いることができる。本工程は、更生タイヤの台タイヤの外周面にプレキュアトレッドを接着する工程と同様の工程である。
そして、タイヤケース17のビード部12に、加硫済みのゴムからなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ10の完成となる。
(作用)
本実施形態のタイヤ10は、タイヤケース17Aの径方向内側にガス透過係数ポリアミド系熱可塑性樹脂(ポリアミド6)とポリオレフィン系エラストマー(エチレン・ブテン共重合体(2種))との樹脂組成物を有する2.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)のガス保持層2Aが形成されているため、ガス保持層2Aの柔軟性を高めつつタイヤ10のガス保持特性を向上させることができる。このため、本実施形態のタイヤ10はリム20に組み込んだ際にタイヤ10内部に充填されるガスの保持特性が高い。
本実施形態では、ガス保持層2Aがポリアミド系熱可塑性樹脂であるポリアミド6を含んで形成されているため、ガス保持層2Aの形成によってもタイヤ10の重量の増加が抑制されており、また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーで形成されているタイヤケース17との接着性(熱融着性)も高い。更に、ガス保持層2Aの4%引張伸張時における応力が、30MPaであるため、タイヤ10への衝撃等に対するガス保持層2Aの耐久性が高い。
また、本実施形態のタイヤ10では、タイヤケース17がポリアミド系熱可塑性エラストマーによって形成されているため、耐熱性、引張弾性率、引張強度及び破断ひずみに優れ、さらに従来のゴムに比して構造が簡易であるため重量が軽い。このため、本実施形態のタイヤ10は、耐摩擦性および耐久性が高い。さらに、タイヤケース17を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーは、融点が162℃であるためタイヤケース片17Aの接合を例えば、210℃程度で十分に行うことができるため、エネルギー消費を抑制でき加熱にかかるコストを抑制することができる。
また、ポリアミドラストマーは補強コード26に対する密着性が高く、さらに溶着強度等の固定性能に優れている。このため、補強コード巻回工程において補強コード26の周囲に空気が残る現象(エア入り)を抑制することができる。補強コード26への密着性及び溶着性が高く、さらに補強コード部材周辺へのエア入りが抑制されていると、走行時の入力などによって補強コード26が動くのを効果的に抑制することができる。これにより、例えば、タイヤ骨格体の外周部に補強コード部材全体を覆うようにタイヤ構成部材が設けられた場合であっても、補強コード部材は動きが抑制されているため、これらの部材間(タイヤ骨格体含む)の剥離などが生じるのが抑制されタイヤ10の耐久性が向上する。
また、本実施形態のタイヤ10では、熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面にポリアミド系熱可塑性エラストマーよりも剛性が高い補強コード26が周方向へ螺旋状に巻回されていることから耐パンク性、耐カット性、及びタイヤ10の周方向剛性が向上する。なお、タイヤ10の周方向剛性が向上することで、熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクリープが防止される。
また、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視(図1に示される断面)で、ポリアミド系熱可塑性エラストマーで形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に補強コード26の少なくとも一部が埋設され且つポリアミド系熱可塑性エラストマーに密着していることから、製造時のエア入りが抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのが抑制される。これにより、補強コード26、タイヤケース17、及びトレッド30に剥離などが生じるのが抑制され、タイヤ10の耐久性が向上する。
そして、図4に示すように、補強コード26の埋設量Lが直径Dの1/5以上となっていることから、製造時のエア入りが効果的に抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのがさらに抑制される。
このように補強コード層28が、ポリアミド系熱可塑性エラストマーを含んで構成されていると、補強コード26をクッションゴムで固定する場合と比してタイヤケース17と補強コード層28との硬さの差を小さくできるため、更に補強コード26をタイヤケース17に密着・固定することができる。これにより、上述のエア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。
更に、補強コード26がスチールコードの場合に、タイヤ処分時に補強コード26を加熱によってポリアミド系熱可塑性エラストマーから容易に分離・回収が可能であるため、タイヤ10のリサイクル性の点で有利である。また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは加硫ゴムに比して損失係数(Tanδ)が低いため、補強コード層28がポリアミド系熱可塑性エラストマーを多く含んでいると、タイヤの転がり性を向上させることができる。更には、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは加硫ゴムに比して、面内せん断剛性が大きく、タイヤ走行時の操安性や耐摩耗性にも優れるといった利点がある。
また、路面と接触するトレッド30をポリアミド系熱可塑性エラストマーよりも耐摩耗性のあるゴム材で構成していることから、タイヤ10の耐摩耗性が向上する。
さらに、ビード部12には、金属材料からなる環状のビードコア18が埋設されていることから、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、リム20に対してタイヤケース17、すなわちタイヤ10が強固に保持される。
またさらに、ビード部12のリム20と接触する部分に、ポリアミド系熱可塑性エラストマーよりもシール性のあるゴム材からなるシール層24が設けられていることから、タイヤ10とリム20との間のシール性が向上する。このため、リム20とポリアミド系熱可塑性エラストマーとでシールする場合と比較して、タイヤ内の空気漏れがより一層抑制される。また、シール層24を設けることでリムフィット性も向上する。
上述の実施形態では、補強コード26を加熱し、加熱した補強コード26が接触する部分のポリアミド系熱可塑性エラストマーを溶融又は軟化させる構成としたが、本発明はこの構成に限定されず、補強コード26を加熱せずに熱風生成装置を用い、補強コード26が埋設されるクラウン部16の外周面を加熱した後、補強コード26をクラウン部16に埋設するようにしてもよい。
また、第1実施形態では、コード加熱装置59の熱源をヒーター及びファンとしているが、本発明はこの構成に限定されず、補強コード26を輻射熱(例えば、赤外線など)で直接加熱する構成としてもよい。
さらに、第1実施形態では、補強コード26を埋設した熱可塑性樹脂材料が溶融又は軟化した部分を金属製の第2のローラ64で強制的に冷却する構成としたが、本発明はこの構成に限定されず、熱可塑性樹脂材料が溶融又は軟化した部分に冷風を直接吹きかけて、熱可塑性樹脂材料の溶融又は軟化した部分を強制的に冷却固化する構成としてもよい。
また、第1実施形態では、補強コード26を加熱する構成としたが、例えば、補強コード26の外周をタイヤケース17と同じ熱可塑性樹脂材料で被覆する構成としてもよく、この場合には、被覆補強コードをタイヤケース17のクラウン部16に巻き付ける際に、補強コード26と共に被覆した熱可塑性樹脂材料も加熱することで、クラウン部16への埋設時におけるエア入りを効果的に抑制することができる。
第1実施形態のタイヤ10は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ10とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、完全なチューブ形状であってもよい。
また、補強コード26は螺旋巻きするのが製造上は容易だが、幅方向で補強コード26を不連続とする方法等も考えられる。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
[第2の実施形態]
次に、図面に従って本発明のタイヤの製造方法及びタイヤの第2実施形態について説明する。本実施形態においては、タイヤケース10の径方向最内側から2番目の層に、ポリアミド系熱可塑性樹脂(ポリアミドMX)及びポリオレフィン系エラストマー(エチレン・ブテン共重合体)からなる樹脂組成物によって構成されたガス保持層(ガス透過率1.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa))が設けられている。本実施形態のタイヤは、上述の第1実施形態と同様に、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。このため、以下の図において、前記第1実施形態と同様の構成については同様の番号が付される。また、図6(A)におけるM領域の拡大図(図7)に示されるように、ガス保持層2Aが設けられている。図7は、本実施形態のガス保持層を説明するための拡大図である。
また、図6(A)は、第2実施形態のタイヤのタイヤ幅方向に沿った断面図であり、図6(B)は第2実施形態のタイヤにリムを嵌合させた状態のビード部のタイヤ幅方向に沿った断面の拡大図である。また、図8は、第2実施形態のタイヤの補強層の周囲を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
第2実施形態のタイヤは、上述の第1実施形態と同様に、タイヤケース17がポリアミド系熱可塑性エラストマー(宇部興産(株)製「UBESTA XPA9055X1」、融点162℃)で形成されている。本実施形態においてタイヤ200は、図6及び図8に示すように、クラウン部16に、被覆コード部材26Bが周方向に巻回されて構成されたコード被覆層28(図8では破線で示されている)が積層されている。このコード被覆層28は、タイヤケース17の外周部を構成し、クラウン部16の周方向剛性を補強している。なお、コード被覆層28の外周面は、タイヤケース17の外周面17Sに含まれる。
図7を用いて、ガス保持層2Bについて説明する。本実施形態においてガス保持層2Bは、ポリアミドMX(三菱ガス化学社製「MX06−DA S6011」)、及び、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学(株)製の「タフマーMH7010」)からなる樹脂組成物によって構成されている(体積比率:55:45)。また、ポリアミド6とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとは、一般的な二軸混練機(例えば、日本製鋼所(株)製の「TEX−30」で混合することができる。
本実施形態において、ガス保持層2Bの膜厚は約100μmであり、ガス透過係数は1.0×10−14 cm3・cm/(cm2・s・Pa))であり、4%引張伸張時における応力が、38MPaである。また、図7においてガス保持層2Bはクラウン部16の径方向内側(2番目の層)に位置しているが、本実施形態においてガス保持層はサイド部14を含めタイヤケース17の径方向内側全域に設けられている。また、ガス保持層2Bは、図3に示されるようなサラミ構造を有している。
この被覆コード部材26Bは、タイヤケース17を形成するポリアミド系熱可塑性エラストマーよりも剛性が高いコード部材26Aにタイヤケース17を形成するポリアミド系熱可塑性エラストマーとは別体の被覆用樹脂材料27を被覆して形成されている。また、被覆コード部材26Bはクラウン部16との接触部分において、被覆コード部材26Bとクラウン部16とが接合(例えば、溶接、又は接着剤で接着)されている。
また、被覆用樹脂材料27の弾性率は、タイヤケース17を形成する樹脂材料の弾性率の0.1倍から10倍の範囲内に設定することが好ましい。被覆用樹脂材料27の弾性率がタイヤケース17を形成する熱可塑性樹脂材料の弾性率の10倍以下の場合は、クラウン部が硬くなり過ぎずリム組み性が容易になる。また、被覆用樹脂材料27の弾性率がタイヤケース17を形成する熱可塑性樹脂材料の弾性率の0.1倍以上の場合には、コード被覆層28を構成する樹脂が柔らかすぎず、ベルト面内せん断剛性に優れコーナリング力が向上する。なお、本実施形態では、被覆用樹脂材料27として熱可塑性樹脂材料と同様の材料(本実施形態では宇部興産(株)製「UBESTA XPA9055X1」)が用いられている。
また、図8に示すように、被覆コード部材26Bは、断面形状が略台形状とされている。なお、以下では、被覆コード部材26Bの上面(タイヤ径方向外側の面)を符号26Uで示し、下面(タイヤ径方向内側の面)を符号26Dで示す。また、本実施形態では、被覆コード部材26Bの断面形状を略台形状とする構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、断面形状が下面26D側(タイヤ径方向内側)から上面26U側(タイヤ径方向外側)へ向かって幅広となる形状を除いた形状であれば、いずれの形状でもよい。
図8に示すように、被覆コード部材26Bは、周方向に間隔をあけて配置されていることから、隣接する被覆コード部材26Bの間に隙間28Aが形成されている。このため、コード被覆層28の外周面は、凹凸とされ、このコード被覆層28が外周部を構成するタイヤケース17の外周面17Sも凹凸となっている。
タイヤケース17の外周面17S(凹凸含む)には、微細な粗化凹凸96が均一に形成され、その上に接合剤を介して、クッションゴム29が接合されている。このクッションゴム29は、径方向内側のゴム部分が粗化凹凸96に流れ込んでいる。
また、クッションゴム29の上(外周面)にはタイヤケース17を形成している樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるトレッド30が接合されている。
なお、トレッド30に用いるゴム(トレッドゴム30A)は、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、トレッド30の代わりに、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターン(図示省略)が形成されている。
次に本実施形態のタイヤの製造方法について説明する。
(骨格形成工程)
まず、上述の第1実施形態と同様にして、タイヤケース半体17Aを形成し、これを接合金型によって加熱・押圧し、タイヤケース17を形成する。
本実施形態におけるタイヤの製造装置は、上述の第1実施形態と同様であり、上述の第1実施形態の図5に示すコード供給装置56において、リール58にコード部材26Aを被覆用樹脂材料27(本実施形態では熱可塑性材料)で被覆した断面形状が略台形状の被覆コード部材26Bを巻き付けたものが用いられる。
まず、ヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。リール58から巻き出した被覆コード部材26Bを、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱(例えば、被覆コード部材26Bの外周面の温度を、被覆用樹脂材料27の融点以上)とする。ここで、被覆コード部材26Bが加熱されることにより、被覆用樹脂材料27が溶融または軟化した状態となる。
そして被覆コード部材26Bは、排出口76を通り、紙面手前方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻回される。このとき、クラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bの下面26Dが接触する。そして、接触した部分の溶融または軟化状態の被覆用樹脂材料27はクラウン部16の外周面上に広がり、クラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bが溶着される。これにより、クラウン部16と被覆コード部材26Bとの接合強度が向上する。
(粗化処理工程)
次に、図示を省略するブラスト装置にて、タイヤケース17の外周面17Sに向け、タイヤケース17側を回転させながら、外周面17Sへ投射材を高速度で射出する。射出された投射材は、外周面17Sに衝突し、この外周面17Sに算術平均粗さRaが0.05mm以上となる微細な粗化凹凸96を形成する。
このようにして、タイヤケース17の外周面17Sに微細な粗化凹凸96が形成されることで、外周面17Sが親水性となり、後述する接合剤の濡れ性が向上する。
(積層工程)
次に、粗化処理を行なったタイヤケース17の外周面17Sに接合剤を塗布する。
なお、接合剤としては、トリアジンチオール系接着剤、塩化ゴム系接着剤、フェノール系樹脂接着剤、イソシアネート系接着剤、ハロゲン化ゴム系接着剤、ゴム系接着剤など、特に制限はないが、クッションゴム29が加硫できる温度(90℃〜140℃)で反応することが好ましい。
次に、接合剤が塗布された外周面17Sに未加硫状態のクッションゴム29を1周分巻き付け、そのクッションゴム29の上に例えば、ゴムセメント組成物などの接合剤を塗布し、その上に加硫済みまたは半加硫状態のトレッドゴム30Aを1周分巻き付けて、生タイヤケース状態とする。
(加硫工程)
次に生タイヤケースを加硫缶やモールドに収容して加硫する。このとき、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸96に未加硫のクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸96に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が向上する。
(ガス保持層形成工程)
次に、タイヤケース17を、図示を省略するブロー成型装置に設置する。次いで、溶融したポリアミドMXとポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとの樹脂組成物をダイスから押出し、タイヤケース17の径方向内側の全面にポリアミドMXとポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとの層が形成されるようにブロー成形を行う。この際、溶融したポリアミドMXとポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとの混合物の押出量は、上述のガス保持層2Bの膜厚100μmとなるように決定される。ガス保持層2Bを形成した後、更に、溶融したポリアミド系熱可塑性エラストマー(上述の宇部興産(株)製「UBESTA XPA9055X1」)を押出し、ブロー成型によってポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとの層表面にポリアミド系熱可塑性エラストマーからなる層を形成する。これによってタイヤケース17の径方向内側から2層目にポリアミドMXとポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとの樹脂組成物からなるガス保持層2Bが形成されたタイヤケース17が形成される。尚、前記ブロー成形は公知の方法に準じて行うことができる。
そして、タイヤケース17のビード部12に、樹脂材料よりも軟質である軟質材料からなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ200の完成となる。
(作用)
本実施形態のタイヤ200は、タイヤケース17Aの径方向内側から2層目にポリアミド系熱可塑性樹脂(ポリアミドMX)とポリオレフィン系エラストマー(エチレン・ブテン共重合体)との樹脂組成物によって形成されたガス透過係数は1.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa))のガス保持層2Bを有するため、ガス保持層2Bの柔軟性を高めつつタイヤ200のガス保持特性を向上させることができる。このため、本実施形態のタイヤ200はリム20に組み込んだ際、タイヤ200内部に充填されるガスの保持特性が高い。
また、本実施形態では、ガス保持層2Bがポリアミド系熱可塑性樹脂であるポリアミド系熱可塑性樹脂とポリオレフィン系エラストマーとで形成されているため、ガス保持層2Bの形成によってもタイヤ200の重量の増加が抑制されており、ポリアミド系熱可塑性エラストマーで形成されているタイヤケース17との接着性(熱融着性)も高い。また、ガス保持層2Bの4%引張伸張時における応力が、38MPaであるため、タイヤ200への衝撃等に対するガス保持層2Bの耐久性が高い。
更に、本実施形態のタイヤ200では、タイヤケース17がポリアミド系熱可塑性エラストマーによって形成されているため、耐熱性、引張弾性率、引張強度及び破断ひずみに優れ、さらに従来のゴムに比して構造が簡易であるため重量が軽い。このため、本実施形態のタイヤ200は、耐摩擦性および耐久性が高い。さらに、タイヤケース17を構成するポリアミド系熱可塑性エラストマーは、融点が162℃であるためタイヤケース片17Aの接合を例えば、210℃程度で十分に行うことができるため、エネルギー消費を抑制でき加熱にかかるコストを抑制することができる。また、ポリアミドラストマーは被覆コード部材26Bに対する接着性が高い。
このように補強コード層28が、被覆コード部材26Bを含んで構成されていると、補強コード26Aを単にクッションゴム29で固定する場合と比してタイヤケース17と補強コード層28との硬さの差を小さくできるため、更に被覆コード部材26Bをタイヤケース17に密着・固定することができる。これにより、上述のエア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。
更に、補強コード26Aがスチールコードの場合に、タイヤ処分時に被覆コード部材26Bからコード部材26Aを加熱によって容易に分離・回収が可能であるため、タイヤ200のリサイクル性の点で有利である。また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは加硫ゴムに比して損失係数(Tanδ)が低いため、補強コード層28がポリアミド系熱可塑性エラストマーを多く含んでいると、タイヤの転がり性を向上させることができる。更には、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは加硫ゴムに比して、面内せん断剛性が大きく、タイヤ走行時の操安性や耐摩耗性にも優れるといった利点がある。
本実施形態のタイヤの製造方法では、タイヤケース17とクッションゴム29及びトレッドゴム30Aとを一体化するにあたり、タイヤケース17の外周面17Sが粗化処理されていることから、アンカー効果により接合性(接着性)が向上する。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料が投射材の衝突により掘り起こされることから、接合剤の濡れ性が向上する。これにより、タイヤケース17の外周面17Sに接合剤が均一な塗布状態で保持され、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。
特に、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸が構成されていても、凹部(隙間28A)に投射材を衝突させることで凹部周囲(凹壁、凹底)の粗化処理がなされ、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。
一方、クッションゴム29がタイヤケース17の外周面17Sの粗化処理された領域内に積層されることから、タイヤケース17とクッションゴムとの接合強度を効果的に確保することができる。
加硫工程において、クッションゴム29を加硫した場合、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸96にクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸96に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。
このような、タイヤの製造方法にて製造されたタイヤ200は、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が確保される、すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が確保される。これにより、走行時などにおいて、タイヤ200のタイヤケース17の外周面17Sとクッションゴム29との間の剥離が抑制される。
また、タイヤケース17の外周部にコード被覆層28が構成されていることから、外周部をコード被覆層28以外のもので構成しているものと比べて、耐パンク性及び耐カット性が向上する。
また、被覆コード部材26Bを巻回してコード被覆層28が形成されていることから、タイヤ200の周方向剛性が向上する。周方向剛性が向上することで、タイヤケース17のクリープ(一定の応力下でタイヤケース17の塑性変形が時間とともに増加する現象)が抑制され、且つ、タイヤ径方向内側からの空気圧に対する耐圧性が向上する。
本実施形態では、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸を構成したが、本発明はこれに限らず、外周面17Sを平らに形成する構成としてもよい。
また、タイヤケース17は、タイヤケースのクラウン部に巻回され且つ接合された被覆コード部材を被覆用熱可塑性材料で覆うようにして補強コード層を形成してもよい。この場合、溶融または軟化状態の被覆用熱可塑性材料を補強コード層28の上に吐出して被覆層を形成することができる。また、押出機を用いずに、溶着シートを加熱し溶融または軟化状態にして、補強コード層28の表面(外周面)に貼り付けて被覆層を形成してもよい。
上述の第2実施形態では、ケース分割体(タイヤケース半体17A)を接合してタイヤケース17を形成する構成としたが、本発明はこの構成に限らず、金型などを用いてタイヤケース17を一体的に形成してもよい。
第2実施形態のタイヤ200は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ200とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、タイヤ200は、完全なチューブ形状であってもよい。
第2実施形態では、タイヤケース17とトレッド30との間にクッションゴム29を配置したが、本発明はこれに限らず、クッションゴム29を配置しない構成としてもよい。
また、第2実施形態では、被覆コード部材26Bをクラウン部16へ螺旋状に巻回する構成としたが、本発明はこれに限らず、被覆コード部材26Bが幅方向で不連続となるように巻回する構成としてもよい。
第2実施形態では、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱可塑性材料とし、この被覆用樹脂材料27を加熱することにより溶融又は軟化状態にしてクラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bを溶着する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、被覆用樹脂材料27を加熱せずに接着剤などを用いてクラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bを接着する構成としてもよい。
また、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱硬化性樹脂とし、被覆コード部材26Bを加熱せずに接着剤などを用いてクラウン部16の外周面に接着する構成としてもよい。
さらに、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱硬化性樹脂とし、タイヤケース17を熱可塑性材料で形成する構成としてもよい。この場合には、被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に接着剤などを用いて接着してもよく、タイヤケース17の被覆コード部材26Bが配設される部位を加熱して溶融又は軟化状態にして被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に溶着してもよい。
またさらに、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱可塑性材料とし、タイヤケース17を熱可塑性材料で形成する構成としてもよい。この場合には、被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に接着剤などを用いて接着してもよく、タイヤケース17の被覆コード部材26Bが配設される部位を加熱して溶融又は軟化状態としつつ、被覆用樹脂材料27を加熱し溶融又は軟化状態にして被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に溶着してもよい。なお、タイヤケース17及び被覆コード部材26Bの両者を加熱して溶融又は軟化状態にした場合、両者が良く混ざり合うため接合強度が向上する。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料、及び被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27をともに熱可塑性材料とする場合には、同種の熱可塑性材料、特に同一の熱可塑性材料とすることが好ましい。
また、さらに粗化処理を行ったタイヤケース17の外周面17Sにコロナ処理やプラズマ処理等を用い、外周面17Sの表面を活性化し、親水性を高めた後に接着剤を塗布してもよい。
またさらに、タイヤ200を製造するための順序は、第2実施形態の順序に限らず、適宜変更してもよい。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
更に、第1実施形態及び第2実施形態ではタイヤケースに補強コードが巻回されている態様を説明したが、本発明において補強コードは必須の構成要素ではなく、補強コードをタイヤケースに巻回しない構成であってもよい。
以上、本発明の具体的な態様について第1実施形態及び第2実施形態を用いて説明したが本発明は上述の態様に限定されるものではない。
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、上述の第1実施形態に従って、下記表1に示すガス保持層を最内層に有する実施例及び比較例のタイヤを作製した。得られた各タイヤについて内圧保持特性(ガス保持特性)を下記に従って測定した。
また、ガス保持層のガス透過係数は、各材料につき、GTEテック社製のガス透過度測定装置「GTR−30X」を用い、セル温度:80℃、絶対差圧力:0.30Paの条件で測定した。更に、ガス保持層の引張弾性率は、JIS K 6404−3に準拠した引張試験を行い、歪0〜4%の線形弾性範囲の応力歪曲線の傾きから弾性率を測定した。この際、樹脂サンプルとして、膜厚300μmを用いた。
[内圧保持特性]
成型タイヤをリム組みし、内圧0.3MPaとなるようにタイヤ内に空気を充満させた。得られたタイヤを、40℃/50%RHの環境下に保持した状態で恒温恒湿槽に3ヶ月放置した。1ヶ月経過毎に内圧を測定して、月単位の圧力低下率を測定した。得られた結果から、月平均の圧力低下率を算出し、下記の基準に従ってタイヤの内圧保持特性を評価した。
(基準)
◎:圧力低下率が、0.002MPa/月以下であった。
○:圧力低下率が、0.002MPa/月より大きく、0.005以下MPa/月以下であった。
△:圧力低下率が、0.005MPa/月より大きく、0.009MPa/月以下であった。
×:圧力低下率が、0.009MPa/月より大きかった。
[耐久性]
成型タイヤをリム組みし、標準内圧、標準荷重とし、ドラム試験機にて10万km走行後、ガス保持層の状態を目視で確認し、下記基準に従って評価した。
(基準)
◎:ガス保持層のヒビ割れも骨格体からの欠落も全く認められなかった。
○:完全なヒビ割れ及び欠落は認められなかったが、ガス保持層のヒビ割れ及び骨格体からの欠落になりそうな箇所が認められた。
△:ガス保持層のヒビ割れ、骨格体からの欠落が一部認められた。
×:ガス保持層のヒビ割れ、骨格体からの欠落が複数認められた。
・ポリアミド6:宇部興産社製「UBEナイロン 1022B」
(融点220℃、ガラス転移点48℃)
・MXポリアミド:三菱ガス化学社製「MXナイロン−S S6011」
(融点237℃、ガラス転移点85℃)
・タフマーA:三井化学社製「タフマー A1050」
(未変性αオレフィンエラストマー、ガラス転移点−70℃)
・タフマーM:三井化学社製「タフマー MH7010」
(未変性αオレフィンエラストマー、ガラス転移点−65℃)
・PA1:ポリアミド系熱可塑性エラストマー(宇部興産(株)製「UBESTA XPA9055X1」、融点162℃)
・ガス透過係数(単位):cm
3・cm/(cm
2・s・Pa)
・引張弾性率(単位):MPa
また、実施例1のガス保持層についてSEM(走査型電子顕微鏡:装置名 日立製作所(株)製「S−3000M」)を用いて構造を確認したところ、サラミ構造を有することが確認された。実施例1のガス保持層のSEM画像を図9に示す。
表1から分かるようにガス保持層に2.0×10−14cm3・cm/(cm2・s・Pa)以下のポリアミド系熱可塑性樹脂にエラストマーを併用した実施例1〜6では、内圧保持性及び耐久性の双方において優れていることが分かった。これに対し、ポリアミド系熱可塑性樹脂を単独で用いた比較例では、内圧保持性は十分であるものの、実施例に比して耐久性が劣っていることがわかった。このため、実施例のタイヤは空気保持特性に優れることが分かる。